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明細書 :HIV検出キット、及びHIV検出方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5553323号 (P5553323)
登録日 平成26年6月6日(2014.6.6)
発行日 平成26年7月16日(2014.7.16)
発明の名称または考案の名称 HIV検出キット、及びHIV検出方法
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
C12Q   1/68        (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAA
C12Q 1/68 A
請求項の数または発明の数 5
全頁数 14
出願番号 特願2013-532777 (P2013-532777)
出願日 平成25年1月24日(2013.1.24)
国際出願番号 PCT/JP2013/051389
国際公開番号 WO2013/111800
国際公開日 平成25年8月1日(2013.8.1)
優先権出願番号 2012013087
優先日 平成24年1月25日(2012.1.25)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成25年7月19日(2013.7.19)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】水谷 壮利
【氏名】石坂 彩
早期審査対象出願または早期審理対象出願 早期審査対象出願
個別代理人の代理人 【識別番号】100064908、【弁理士】、【氏名又は名称】志賀 正武
【識別番号】100094400、【弁理士】、【氏名又は名称】鈴木 三義
【識別番号】100147267、【弁理士】、【氏名又は名称】大槻 真紀子
審査官 【審査官】戸来 幸男
参考文献・文献 米国特許第06025124(US,A)
特表2010-535525(JP,A)
Proc. Natl. Acad. Sci. USA,1994年,vol.91, no.9,pp.3862-3866
J. Virol.,2009年,vol.83, no.22,pp.11569-11580
調査した分野 C12N 15/00-15/90
C12Q 1/68
CAplus/MEDLINE/BIOSIS/WPIDS/
REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
特許請求の範囲 【請求項1】
HIV感染細胞が産生する短鎖RNAを検出するためのHIV検出キットであって、
配列番号5で表される塩基配列と、95%以上の同一性を有するHIV検出用プライマーを含むことを特徴とするHIV検出キット。
【請求項2】
前記HIV検出用プライマーは、配列番号5で表される塩基配列を有する請求項1に記載のHIV検出キット。
【請求項3】
更に、配列番号2で表される塩基配列を有するプローブを含む請求項1又は2に記載のHIV検出キット。
【請求項4】
請求項1~のいずれか一項に記載のHIV検出キットを用いることを特徴とするHIV検出方法。
【請求項5】
HIV感染細胞が産生する短鎖RNAを検出するためのHIV検出方法あって、
(a)核酸試料中のmRNAの3’末端にpolyAを付加する工程と、
(b)polyTと、該polyTの5’側にアダプター配列に相補的な塩基配列を有するプライマーを用いて、逆転写反応により、前記mRNAから該mRNAに相補するcDNAを合成する工程と、
(c)配列番号5で表される塩基配列と、95%以上の同一性を有するHIV検出用プライマーと、前記アダプター配列に相補的な塩基配列を有するプライマーを用いて、前記cDNAから、HIVのcDNAの配列を有する標的塩基配列を増幅する工程と、
(d)前記標的塩基配列の増幅産物を検出する工程と、
を有することを特徴とするHIV検出方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト免疫不全ウイルス(human immunodeficiency virus;以下、HIVという。)検出用オリゴヌクレオチド、HIV検出キット、及びHIV検出方法に関する。
本願は、2012年1月25日に、日本に出願された特願2012-013087号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
後天性免疫不全症候群(Acquired Immune Deficiency Syndrome;以下、エイズという。)の原因であるHIV感染に対しては、HIV感染の根本的な予防をすることと共に、万一感染した疑いが生じた場合に、感染の有無を早期に診断できる技術を確立することが重要である。
また、治療により体内からHIVが消失したようにみえても、診断技術におけるウイルスの検出感度が低い場合には、体内でHIVが潜伏しているにもかかわらず、体内からHIVが「消失」したものと誤診されるおそれがあり、エイズ再発の禍根を残すことになる。
【0003】
HIV感染後の急性感染期において、HIVは宿主細胞内に侵入し、自己のウイルスRNAを逆転写して、DNAを合成し、該DNAを宿主細胞のDNAに挿入し、プロウイルス化する。宿主細胞内で、該プロウイルスがウイルス遺伝子を発現し、自己のウイルスタンパク質がウイルスRNAをパッケージングすることによりウイルス粒子が形成され、該ウイルス粒子は宿主細胞外へ出ていく。
現在、臨床における抗HIV治療方法としては、多剤併用療法(Highly Active Anti-Retroviral Therapy:以下、HAART療法という。)が一般的である。HAART療法は、上述した急性感染期におけるウイルスRNAの逆転写やウイルスDNAのゲノムDNAへの挿入等を阻害する複数種の阻害剤を投与する方法である。HAART療法により、抗HIV治療は著しい発展を遂げてきている。
一方、HAART療法による治療過程で、一部の感染細胞は、HAART療法に対する耐性を獲得する(以下、この感染細胞を潜伏感染細胞という。)。潜伏感染細胞においては、プロウイルスを有しているにもかかわらず、急性感染期で観察されたウイルスの生活環が休止し、ウイルスRNAが産生されない。HAART療法は、上述したようにウイルス増殖の各ステップを阻害するものであるため、HAART療法により潜伏感染細胞からウイルスを除くことは困難である。しかし、HAART療法を中断すると、潜伏感染細胞におけるウイルスの生活環が再始動する。
従って、潜伏感染細胞からウイルスを除去できないことが、HIV患者のQOL(Quality of Life)に悪影響を与えている。
【0004】
これに対して、本発明者らは、モデル細胞株を構築し、該モデル細胞株を用いて、潜伏感染細胞の表現型を解析したところ、潜伏感染細胞は、約60塩基の短鎖RNAを産出していることを見出した(非特許文献1参照。)。
【0005】
HIV感染の診断方法において、感染者の血液中のウイルス量を定量することは、病態の程度や治癒経過を把握する指標として重要である。
現在、リアルタイムPCR法を標的核酸の増幅・検出の原理とするHIVのRNA定量法は、HIV感染の迅速な診断方法の一つとして知られている。
【0006】
リアルタイムPCR法を用いたHIVのRNA定量法としては、例えば特許文献1に記載された方法が挙げられる。特許文献1に記載された方法は、HIV-1の各種サブタイプを認識できるように設計された縮重プライマーを用いて、ゲノムに挿入されたHIV-1プロウイルスを増幅・定量する方法である。かかる方法は、日本人感染者の主な感染源であるサブタイプBのみならず、それ以外の各種サブタイプにも対応できる点で優れている。
【先行技術文献】
【0007】

【特許文献1】特開2007-295896号公報
【0008】

【非特許文献1】水谷ら、J Virol.、第83巻、第11569~11580頁、2009年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、HIVは、フィデリティ(正確性)の低い逆転写酵素を有しているため、非常に変異しやすいウイルスである。特許文献1に記載のHIVを認識するオリゴヌクレオチドの配列は、転写開始点から約500塩基下流に位置する構造タンパク質GAGをコードするgag遺伝子領域に由来するものであり、当該配列を用いて、変異したすべてのウイルスを高精度に検出するには不十分である。
【0010】
また、感染細胞では感染暴露日から定量的にGAG領域を含む転写伸張されたウイルスRNAを検出可能にするまでにはウイルスの増殖に伴った12日間という日数を必要とする。そのため、より早期に高感度でウイルス検出をすることができる技術が望まれている。
【0011】
更に、特許文献1に記載のオリゴヌクレオチドを用いても、上述した潜伏感染細胞が産出する短鎖RNAを検出することができず、未だ改善の余地がある。
【0012】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、高精度かつ高感度に、HIVを早期検出することができるHIV検出用オリゴヌクレオチド、HIV検出キット、及びHIV検出方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、潜伏感染期間のHIV感染細胞において特定のRNAが転写されていること、及び、HIVのウイルスRNAにおいて逆転写の際に変異を受けにくい配列が存在することを見出し、本発明を完成させた。
【0014】
本発明は、下記の特徴を有するHIV検出キット、及びHIV検出方法を提供するものである。
(1)HIV感染細胞が産生する短鎖RNAを検出するためのHIV検出キットであって、配列番号5で表される塩基配列と、95%以上の同一性を有するHIV検出用プライマーを含むことを特徴とするHIV検出キット。
)前記HIV検出用プライマーは、配列番号5で表される塩基配列を有する(1)に記載のHIV検出キット。
)更に、配列番号2で表される塩基配列を有するプローブを含む(1)又は記載のHIV検出キット。
)(1)~()のいずれかに記載のHIV検出キットを用いることを特徴とするHIV検出方法。
)HIV感染細胞が産生する短鎖RNAを検出するためのHIV検出方法あって、(a)核酸試料中のmRNAの3’末端にpolyAを付加する工程と、(b)polyTと、該polyTの5’側にアダプター配列に相補的な塩基配列を有するプライマーを用いて、逆転写反応により、前記mRNAから該mRNAに相補するcDNAを合成する工程と、(c)配列番号5で表される塩基配列と、95%以上の同一性を有するHIV検出用プライマーと、前記アダプター配列に相補的な塩基配列を有するプライマーを用いて、前記cDNAから、HIVのcDNAの配列を有する標的塩基配列を増幅する工程と、(d)前記標的塩基配列の増幅産物を検出する工程と、を有することを特徴とするHIV検出方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、HIV感染細胞において、HIVに変異が生じたとしても、かかるウイルスを高精度に検出することができる。
また、本発明によれば、潜伏感染期間であっても、HIVを早期かつ高感度に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例1、実施例2、及び比較例1における、Real Time PCRを用いたHIV-1短鎖RNAの検出結果である。
【図2】実験例2における、約60塩基の短鎖RNAの塩基配列解析結果である。
【図3】実験例3における、定量PCRの結果である。
【図4】実験例3における、検量線である。
【図5】本発明の、HIV感染細胞において産生される短鎖RNAの検出系の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[HIV検出用オリゴヌクレオチド]
本発明のHIV検出用オリゴヌクレオチドは、配列番号1又は6で表される塩基配列中の10以上の連続した塩基からなる塩基配列と、80%以上の同一性を有する。本発明のHIV検出用オリゴヌクレオチドは、当該同一性の範囲内において、配列番号1又は6で表される塩基配列に対して、1乃至複数の塩基が欠失、挿入、又は置換されていてもよい。
更に、本発明のHIV検出用オリゴヌクレオチドは、配列番号1又は6で表される塩基配列中の10以上の連続した塩基からなる塩基配列と、90%以上の同一性を有することが好ましく、95%以上の同一性を有することがより好ましく、98%以上の同一性を有することが特に好ましい。また、配列番号1又は6で表される塩基配列中の10以上の連続した塩基からなる塩基配列を有することがより好ましい。
配列番号1(5’-GGTCTCTCTGGTTAGACCAGATCTGAGCCTGGGAGCTCTCTGGCTAGCTAGGGAACCCACTGCTT-3’:65mer)で表される塩基配列及び配列番号6(5’-GGTCTCTCTGGTTAGACCAGATCTGAGCCTGGGAGCTCTCTGGCTAGCTAGGGAACCCACTGCTTAAGCCT-3’:71mer)で表される塩基配列は、ウイルスゲノム中のHIV LTR(Long Terminal Repeat)内に存在するTAR(Trans Activation Responsive region)配列の一部である。

【0018】
HIVとしては、HIV-1及びHIV-2の2種類が挙げられる。本発明のHIV検出用オリゴヌクレオチドは、サブタイプに依存せずにHIV-1のみを特異的に検出することができる。

【0019】
HIVのTAR配列は、ウイルス遺伝子の転写制御に関与し、ウイルスゲノムの5’末端及び3’末端に位置するLTR内に存在する。TAR配列は、HIV-1のサブタイプ間で高く保存されており、転写活性因子tat(Trans AcTivator)が該TAR配列に結合することにより、ウイルス遺伝子の転写が促進される。
このように、TAR配列は、転写活性因子が結合する部位であり、ウイルス遺伝子の転写はかかる結合を介して厳密に制御されているという観点から、本発明者は、TAR配列が変異を受けにくい箇所であることを見出した。
従って、本発明のHIV検出用オリゴヌクレオチドは、TAR配列を認識する配列を含むことにより、変異したHIVをも認識することができるため、HIVを高精度に検出することができる。

【0020】
本発明のHIV検出用オリゴヌクレオチドは、DNAが好ましく、DNAと同様の機能を有するものであれば、天然、非天然に限られず、PNA(ペプチド核酸)やLNA(Locked Nucleic Acid)等の人工核酸を含むものであってもよい。

【0021】
本発明のHIV検出用オリゴヌクレオチドの長さは、プライマー又はプローブとして機能するために必要な長さであれば特に限定されないが、10~40塩基が好ましく、20~30塩基がより好ましい。

【0022】
上述したように、本発明者らは、モデル細胞株を構築し、該モデル細胞株を用いて、潜伏感染細胞の表現型を解析したところ、潜伏感染細胞は、約60塩基の短鎖RNAを産出していることを見出した。

【0023】
更に、この約60塩基の短鎖RNAが、HIV-1mRNAの転写開始点から、ヌクレオチド位置50から70塩基で転写が止まった転写産物の複合体であることを明らかにした。また、この約60塩基の短鎖RNAは、HIV-1mRNAの転写開始点から、ヌクレオチド位置50~71塩基で転写が止まった転写産物の複合体であることも明らかにした。即ち、短鎖RNAがウイルスRNAの5’末端に存在するTAR配列のヌクレオチド位置1(転写開始点)から、位置50から位置70、又は位置50から位置71までのmRNAに相当するものであることを明らかにした。

【0024】
従来、HIVを認識するオリゴヌクレオチドの配列は、転写開始点から約500塩基下流に位置する構造タンパク質GAGをコードするgag遺伝子領域に由来するものであった。かかるオリゴヌクレオチドは、潜伏感染細胞が産出する短鎖RNAを検出することができない。また、感染細胞では感染暴露日から定量的にGAG領域を含む転写伸張されたウイルスRNAを検出可能にするまでにはウイルスの増殖に伴った12日間という日数を必要とする。
一方、潜伏感染細胞におけるウイルスの生活環は、血清中でのウイルス産生が検出限界以下であるが、転写は完全に停止しておらず、転写は開始しているが、転写伸張が効率よく進んでいない状態にある。この状況は、ウイルス感染初期と似ており、ウイルス感染初期においても短鎖RNAが産出されているものと考えられる。従って、本発明のHIV検出用オリゴヌクレオチドによれば、感染暴露から12日経過を待たずとも、早期にウイルス検出をすることができる。
また、HIV-1は、ウイルスゲノムの5’末端にだけでなく、3’末端にもTAR配列を有している。従って、本発明のHIV検出用オリゴヌクレオチドによれば、短鎖RNAの検出だけでなく、HIV-1RNA全長の検出も可能であるため、ウイルスを高感度に検出することができる。

【0025】
[HIV検出方法]
≪第1実施形態≫
本実施形態のHIV検出方法は、
(a)核酸試料中のmRNAの3’末端にpolyAを付加する工程と、
(b)polyTと、該polyTの5’側にアダプター配列に相補的な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドを用いて、逆転写反応により、前記mRNAから該mRNAに相補するcDNAを合成する工程と、
(c)本発明のHIV検出用オリゴヌクレオチドと、前記アダプター配列に相補的な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドを用いて、前記cDNAから、HIVのcDNAの配列を有する標的塩基配列を増幅する工程と、
(d)前記標的塩基配列の増幅産物を検出する工程と、を有する。
以下、各工程について説明する。

【0026】
まず、工程(a)において、核酸試料中のmRNAの3’末端にpolyAを付加する。
核酸試料は、核酸を含有する試料であれば、特に限定されないが、HIV感染が確認されている感染者若しくはHIV感染が疑われている感染被疑者、又は抗HIV治療を受けている患者等の被験者の血液、リンパ液、髄液、精液等のサンプルから核酸を抽出することにより得られるものであることが好ましい。これらのサンプルからの核酸抽出は、トリゾルを用いる等、定法により行うことができるが、上述した約60塩基の短鎖RNAを検出対象とする場合には、マイクロRNA等の低分子RNAを抽出する方法を利用することが好ましい。
上述したように、潜伏感染細胞から産出される短鎖RNAは、転写が途中で止まったものであるため、3’末端にpolyA配列を有しない。本実施形態においては、polyAポリメラーゼを用いて短鎖RNAの3’末端にpolyAを付加することにより、短鎖RNAを所定の塩基数からなるものにすることができる。これにより、工程(b)における逆転写反応、及び工程(c)における標的塩基配列の増幅反応の効率を上げることができる。
polyAの長さとしては、特に限定されないが、10~40塩基が好ましく、20~30塩基がより好ましい。

【0027】
次いで、工程(b)において、polyTと、該polyTの5’側にアダプター配列に相補的な塩基配列を有するオリゴヌクレオチド(以下、polyTオリゴヌクレオチドともいう。)を用いて、逆転写反応により、前記mRNAから該mRNAに相補するcDNAを合成する。
polyTオリゴヌクレオチドが有するpolyTは、工程(a)においてmRNAに付加されたpolyAにアニールする。polyTオリゴヌクレオチドは、3’末端に縮重配列を有していてもよく、かかる3’末端を合成起点とした逆転写反応により、前記mRNAに相補的なcDNAが合成される。逆転写に用いられる逆転写酵素としては、従来公知のものが用いられ、例えば、Moloney Murine Leukemia Virus由来の逆転写酵素等が挙げられる。
polyTオリゴヌクレオチドが有するアダプター配列に相補的な塩基配列は、逆転写反応を阻害しないものであれば特に限定されず、生体内の既知の遺伝子に相補しないものが好ましく、HIV遺伝子に相補しないものであることがより好ましい。
polyTオリゴヌクレオチドの長さは、通常用いられるプライマーの長さと同様、10~40塩基が好ましく、20~30塩基がより好ましい。
尚、工程(a)と工程(b)は同時に行われてもよい。
また、逆転写反応により合成されたcDNAは、鋳型となったmRNAとのハイブリッドを形成しているため、RNaseH等のRNaseを用いて、工程(c)の前に、予めmRNAを分解しておくことが好ましい。

【0028】
次いで、工程(c)において、本発明のHIV検出用オリゴヌクレオチドと、前記アダプター配列に相補的な塩基配列を有するオリゴヌクレオチド(以下、アダプター配列認識オリゴヌクレオチドともいう。)を用いて、前記cDNAから、HIVのcDNAの配列を有する標的塩基配列を増幅する。
本発明において、前記標的塩基配列とは、詳細には、TAR配列のcDNAの一部の塩基配列を有するものをいう。
アダプター配列認識オリゴヌクレオチドの長さは、通常のプライマーと同様、10~40塩基が好ましく、20~30塩基がより好ましい。
標的配列の増幅方法としては、PCR(Polymerase Chain Reaction)、LAMP(Loop-Mediated Isothermal Amplification)、NASBA(Nucleic Acid Sequence Based Amplification)、ICAN(Isothermal and Chimerical primer-initiated Amplificationof Nucleic acids)、TRC(Transcription Reverse-Transcription Concerted)、SDA(Strand Displacement Amplification)、TMA(Transcription Mediated Amplification)、SMAP(SMart Amplification Process)、RPA(Recombines polymerase amplification)、HDA(Helicase-dependent amplification)等、従来公知の方法が挙げられる。

【0029】
DNAポリメラーゼとはプライマーがアニールした鋳型DNAと相補的な塩基配列を持つDNA鎖を合成する酵素の総称である。
本発明に用いられるDNAポリメラーゼとしては、特に限定されないが、Taq DNAポリメラーゼ、Tth DNAポリメラーゼ、Vent DNAポリメラーゼ等の熱安定性DNAポリメラーゼを用いることが好ましく、試験開始前の伸長を防ぐためにホットスタート機能を持つDNAポリメラーゼを使用することがより好ましい。工程(c)において、後述するリアルタイムPCRを行う場合には、3’→5’エキソヌクレアーゼ活性を有するTaq DNAポリメラーゼを使用することが特に好ましい。

【0030】
標的塩基配列の増幅方法としてPCRを例に挙げると、工程(b)において合成されたcDNAの3’末端側に、本発明のHIV検出用オリゴヌクレオチドがアニールし、伸長反応が行われ、前記cDNAの相補鎖(以下、伸長産物Aという。)が合成される。
次いで、伸長産物Aの3’末端側に、アダプター配列認識オリゴヌクレオチドがアニールし、伸長反応が行われ、伸長産物Aの相補鎖(以下、伸長産物Bという。)が合成される。
次いで、伸長産物Bの3’末端側に、本発明のHIV検出用オリゴヌクレオチドがアニールし、伸長反応が行われ、伸長産物Bの相補鎖(以下、伸長産物Cという。)が合成される。
以後、伸長産物Bが合成される工程と、伸長産物Cが合成される工程と、を繰り返すことにより、標的塩基配列が増幅される。
尚、PCRにおける温度等の増幅プログラムの設定については定法により行うことができる。

【0031】
本発明のHIV検出用オリゴヌクレオチド又はアダプター配列認識オリゴヌクレオチドが、標的塩基配列にアニールする反応条件は、特に限定されるものではなく、各オリゴヌクレオチドのTm値等を考慮した上で、温度、pH、塩濃度、緩衝液等の通常の条件下で設定することができる。

【0032】
本実施形態においては、本発明のHIV検出用オリゴヌクレオチドと、アダプター配列認識オリゴヌクレオチドとからなるプライマーセットが用いられる。上述したように、本発明のHIV検出用オリゴヌクレオチドは、変異を受けにくい箇所を認識するものである。更に、前記プライマーセットは、HIVの認識サイトを1箇所のみ有するため、ウイルスRNAの変異による影響を受けにくい。
従って、本実施形態によれば、変異したすべてのウイルスを高精度に検出することができる。

【0033】
次いで、工程(d)において、前記標的塩基配列の増幅産物を検出する。
工程(d)における代表的な検出方法としては、反応後に標的塩基配列が増幅したか否かを評価するエンドポイントアッセイと、標的塩基配列の増幅を経時的(リアルタイム)に測定するリアルタイムアッセイが挙げられる。

【0034】
エンドポイントアッセイとしては、標的塩基配列の増幅を電気泳動により評価する方法が挙げられる。この方法は、標的塩基配列の増幅産物及び核酸分子量マーカーに対して、電気泳動を行い、両者の泳動度を対比することにより、所定の分子量を有する標的塩基配列が増幅された否かを評価する方法である。
電気泳動による検出に用いる試薬としては、二本鎖DNAに結合して蛍光を発する臭化エチジウムやサイバーグリーンが好ましい。

【0035】
リアルタイムアッセイとしては、リアルタイムPCR装置を用いた評価方法が挙げられる。リアルタイムPCRは、段階希釈した既知量のDNAをスタンダードとして用い、PCRによるスタンダードDNA及び標的塩基配列の増幅を経時的に測定し、スタンダードDNAの増幅が指数関数的に起きる分子数の範囲内で、核酸試料中に存在する標的塩基配列の分子数を定量する方法である。
リアルタイムPCRは、HIV感染の有無だけではなく、HIV感染者又はHIV患者の血液中のウイルス量を定量することにより、病態の程度や治癒経過を把握することができる点で優れている。

【0036】
リアルタイムPCRにおける定量方法としては、蛍光色素を用いた方法が挙げられ、具体的には、二本鎖DNAに特異的にインターカレートして蛍光を発するサイバーグリーン等の色素を用いる方法と、増幅するDNAに特異的なオリゴヌクレオチドに蛍光色素を結合させたプローブを用いる方法が挙げられる。標的塩基配列の増幅をより特異的に検出する観点から、後者の方法が好ましく挙げられる。
後者の方法に用いられるプローブは、標的塩基配列の一部にハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチドの両端を、それぞれ蛍光物質及び消光物質で修飾したものである。かかるプローブにおいては、蛍光物質と消光物質は近接しているため、蛍光物質の有する蛍光シグナルを発する機能が、消光物質によって妨げられている。
前記工程(c)において、本発明のHIV検出用オリゴヌクレオチドが標的塩基配列にアニールする条件下で、プローブは標的塩基配列にハイブリダイズする。続いて、伸長反応の過程で、Taq DNAポリメラーゼの有する5’→3’エキソヌクレアーゼ活性によってプローブは分解される。その結果、プローブに修飾されていた蛍光物質及び消光物質は、相互に空間的に分離され、蛍光物質は蛍光シグナルを発することができる。かかる蛍光シグナルは、増幅された標的塩基配列の分子数に比例する。

【0037】
蛍光物質としては、FAM(カルボキシフルオレセイン)、JOE(6-カルボキシ-4’,5’-ジクロロ2’ ,7’-ジメトキシフルオレセイン)、FITC(フルオレセインイソチオシアネート)、TET(テトラクロロフルオレセイン)、HEX(5'-ヘキサクロロ-フルオレセイン-CEホスホロアミダイト)、Cy3、Cy5、Alexa568等が挙げられる。
また、消光物質としては、TAMRA(テトラメチル-ローダミン)、4-(4-ジメチルアミノフェニルアゾ)安息香酸(DABCYL)、BHQ等が挙げられる。

【0038】
プローブとして用いられるオリゴヌクレオチドの塩基配列としては、TAR配列を認識し得るもの、又はTAR配列に相補する配列にハイブリダイズし得るものであれば特に限定されないが、好ましい塩基配列として配列番号2(5’-CTAGCTAGCCAGAGAGCTCCCAGG-3’:24mer)で表される塩基配列が挙げられる。
かかるプローブを用いることにより、標的塩基配列の増幅をより特異的に検出することができる。

【0039】
工程(d)におけるその他の検出方法としては、特に限定されるものではなく、蛍光色素等によるオリゴヌクレオチドの標識、高速液体クロマトグラフィー、マススペクトル、融解曲線分析、増殖曲線分析等が挙げられる。

【0040】
蛍光色素等によるオリゴヌクレオチドの標識としては、例えば、HIV検出用オリゴヌクレオチド、又はアダプター配列認識オリゴヌクレオチドを、標識物質により標識しておく方法が挙げられる。かかる方法により、標識物質を指標として標的塩基配列の増幅を検出することができる。このような標識物質としては、例えば、蛍光色素、エネルギー吸収性物質、ラジオアイソトープ、化学発光体、酵素、抗体等が挙げられる。かかる標識物質を用いて、オリゴヌクレオチドを標識する位置については、特に限定するものではないが、伸長反応を阻害しないような位置が好ましい。

【0041】
本実施形態のHIV検出方法は、核酸試料中のHIV由来mRNAの3’末端にpolyAを付加する工程(a)を有しているが、HIVのRNA全長を検出対象とする場合には、既にその3’末端にpolyAが付加されているため、工程(a)を有しなくともよい。
また、HIVのRNA全長を検出対象とする場合には、工程(c)において、アダプター配列認識オリゴヌクレオチドに代えて、HIV由来の塩基配列に相補的な塩基配列を有するオリゴヌクレオチド、またはHIV由来の塩基配列にハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチドを用いてもよい。
かかる場合、増幅効率の観点から、本発明のHIV検出用オリゴヌクレオチドはウイルスゲノムの3’末端に位置するTAR配列を認識することが好ましい。

【0042】
[HIV検出キット]
本発明のHIV検出キットは、上述した本発明のHIV検出用オリゴヌクレオチドを含む。更に、本発明のHIV検出キットは、核酸試料前処理用の細胞破壊試薬や、上述した本発明のHIV検出方法の各工程において説明された試薬を含んでいてもよい。
このように、本発明のHIV検出方法に必要な試薬等をキット化することにより、より簡便にかつ短時間でHIVの検出をすることができる。

【0043】
以上、本発明において、HIVのウイルスRNA中に、逆転写の際に変異を受けにくい配列が存在することが見出された。かかる配列をHIV診断に用いることにより、HIV感染細胞において、HIVに変異が生じたとしても、HIVを高精度に検出することができる。
また、本発明において、潜伏感染期間のHIV感染細胞において特定のRNAが転写されていることが見出され、HIVが発現する初期転写産物の検出方法が確立された。これにより、HIV検出期日を短縮し、高感度の検出を可能なものとし、HIV感染の早期診断に貢献することができる。更に、早期診断により、エイズ発症に対する病態発症時期及び治療開始時期を遅らせることができる。
本発明において抗ウイルス薬投与下のエイズ治療中の患者体内からのウイルスの再活性化を早期に判断することが可能となる。
また、本発明のHIV検出方法の原理を、他の潜伏感染することが知られているウイルス等の検出に応用することが可能である。
【実施例】
【0044】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0045】
[実験例1]
(短鎖RNAの検出)
HIV感染細胞において産生される短鎖RNAの検出系を、定量PCRを用いて構築した(図5)。定量PCR試薬として、premix Extaq kit(Takara社製)を用いた。
Forward Primerとして配列番号3(5’-GGGTCTCTCTGGTTAGACCAG-3’ :21mer)で示されるオリゴヌクレオチドを用い、Reverse PrimerとしてmiScript Primer Assay Kitに添付のアダプター配列認識オリゴヌクレオチドを用いた。Taqman Probeとして配列番号2(5’-CTAGCTAGCCAGAGAGCTCCCAGG-3’:24mer)で示されるオリゴヌクレオチドの5’末端にFAMを、3’末端にTAMRAを修飾したものを用いた。これらのオリゴヌクレオチドの合成をオリゴハウス社に受託した。
上記定量PCR試薬と、上記オリゴヌクレオチドと、1ウェル当たり75ngのcDNAと、の混合溶液10μlを、96プレートの各ウェルに分注した。
定量PCR装置として、ABI7300(Life Technology社製)を使用し、95℃30秒の反応後、95℃5秒、60℃34秒の2ステップ反応を40サイクル行った。
スタンダードDNAとして、GAPDHを用い、定量PCRを行い、標準曲線を作製した。
【実施例】
【0046】
〈実施例1〉
J Virol.、第83巻、第11569~11580頁、2009年に記載された方法に従って、HIV-1のRNAの転写開始点から、位置61のウラシルで転写が止まった転写産物を発現するベクターをJ Virol.、第72巻、第1666~1670頁、1998年に公表されている、HIV-1の潜伏感染細胞のモデル細胞、U1細胞株に導入し、安定株U1-mU6-TARを作製した。mirVana microRNA isolation kit(Ambion社製)を用いて、この細胞からTotal RNAを抽出し、miScript Primer Assay Kit(Qiagen社製)を用いて、Total RNA中の短鎖RNAから、cDNAを合成した。
このcDNAを用いて、定量PCRを行い、安定株U1-mU6-TAR中の標的塩基配列のコピー数を定量した。
【実施例】
【0047】
〈実施例2〉
J Virol.、第72巻、第1666~1670頁、1998年に公表されている潜伏感染細胞のモデル細胞として、野生型のHIV-1を有するU1細胞株から、実施例1と同様の方法にてcDNAを合成し、U1細胞株中の標的塩基配列のコピー数を定量した。
【実施例】
【0048】
〈比較例1〉
cDNAの溶解液に代えて、滅菌水を用いた以外は、実施例1と同様の方法で定量PCRを行った。
【実施例】
【0049】
実施例1~2、及び比較例1における、定量PCR装置を用いた測定結果を図1に示す。図1に示されるように、実施例1~2における反応は、サイクル数の増加とともにシグナルが増強していることが確認された。一方、反応系中にcDNAを有しない比較例1においては、サイクル数を増加してもシグナルの増強が確認されなかった。
標準曲線を用いた算出結果から、実施例1で用いられた安定株U1-mU6-TARでは、実施例2で用いられた潜伏感染細胞株U1と比較し、およそ8倍のコピー数のshort transcriptが確認された。
以上、実施例1及び2の結果から、本発明によれば、感染細胞中に産生される短鎖RNAを定量できることが確認された。このことから、感染初期のHIVを早期に発見できることが分かった。
【実施例】
【0050】
[実験例2]
(短鎖RNAの同定)
実施例2のPCR産物を用いてIllumina GAIIx(Illumina社製)によるDeep Sequence解析を行い、約60塩基の短鎖RNAの塩基配列を解析した。結果を図2に示す。
図2に示されるように、この約60塩基の短鎖RNAは、HIV-1のRNAの転写開始点から、位置50から70塩基で転写が止まった転写産物であることが明らかになった。また、この約60塩基の短鎖RNAは、HIV-1のRNAの転写開始点から、位置50から71塩基で転写が止まった転写産物であることも明らかになった。
【実施例】
【0051】
[実験例3]
(短鎖RNAのコピー数の定量)
スタンダードRNAとして、in vitro合成した配列番号4(5’-GGTCTCTCTGGTTAGACCAGATCTGAGCCTGGGAGCTCTCTGGCTAGCTAGGGAACCC-3’:58mer)を用い、実施例1と同様の方法にてcDNAを10コピー~10コピーまで10倍希釈の希釈系列を作製し、以下の通りに定量PCRを行い、検量線を作製した。
Forward Primerとして配列番号5(5’-CTGGTTAGACCAGATCTGAGCC-3’:22mer)で示されるオリゴヌクレオチドを用い、Reverse PrimerとしてmiScript Primer Assay Kitに添付のアダプター配列認識オリゴヌクレオチドを用いた。Taqman Probeとして配列番号2(5’-CTAGCTAGCCAGAGAGCTCCCAGG-3’:24mer)で示されるオリゴヌクレオチドの5’末端にFAMを、3’末端にBHQ-1を修飾したものを用いた。これらのオリゴヌクレオチドの合成をオリゴハウス社に受託した。
上記定量PCR試薬と、上記オリゴヌクレオチドと、1ウェル当り75ngのcDNAと、の混合溶液20μlを、96プレートの各ウェルに分注した。
定量PCR装置として、CFX-96(BIO RAD社製)を使用し、95℃30秒の反応後、95℃5秒、60℃10秒の2ステップ反応を50サイクル行った。
定量PCRの結果を図3、検量線を図4に示す。10コピー~100コピーのRNAから定量性をもってシグナルを検出することができる。
以上の結果から、本発明によれば、高精度かつ高感度に、HIVを早期検出することができることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明によれば、HIV感染細胞において、HIVに変異が生じたとしても、かかるウイルスを高精度に検出することができ、また、潜伏感染期間であっても、HIVを早期かつ高感度に検出することができるので、産業上有用である。
図面
【図1】
0
【図2】
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【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4