TOP > 国内特許検索 > オゾン水を用いたパターニング方法 > 明細書

明細書 :オゾン水を用いたパターニング方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5598829号 (P5598829)
登録日 平成26年8月22日(2014.8.22)
発行日 平成26年10月1日(2014.10.1)
発明の名称または考案の名称 オゾン水を用いたパターニング方法
国際特許分類 C23F   1/02        (2006.01)
C23F   1/16        (2006.01)
C23F   3/06        (2006.01)
H01L  21/308       (2006.01)
FI C23F 1/02
C23F 1/16
C23F 3/06
H01L 21/308 F
請求項の数または発明の数 3
全頁数 17
出願番号 特願2013-558830 (P2013-558830)
出願日 平成25年4月25日(2013.4.25)
国際出願番号 PCT/JP2013/062261
国際公開番号 WO2013/161959
国際公開日 平成25年10月31日(2013.10.31)
優先権出願番号 2012103285
優先日 平成24年4月27日(2012.4.27)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成25年12月26日(2013.12.26)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】山本 貴富喜
【氏名】羽月 竜治
早期審査対象出願または早期審理対象出願 早期審査対象出願
個別代理人の代理人 【識別番号】100098729、【弁理士】、【氏名又は名称】重信 和男
【識別番号】100173048、【弁理士】、【氏名又は名称】小椋 正幸
審査官 【審査官】深草 祐一
参考文献・文献 特開2007-212293(JP,A)
特開2000-188278(JP,A)
特開2001-326210(JP,A)
特開2007-220547(JP,A)
特開2003-326896(JP,A)
特開2001-271180(JP,A)
特開2009-131841(JP,A)
特開平05-291221(JP,A)
日本機械学会第3回マイクロ・ナノ工学シンポジウム講演論文集,2011年,97頁、MP-15
調査した分野 C23F 1/00-4/04
H01L 21/306-21/308,21/465-21/467
H05K 3/02-3/08
特許請求の範囲 【請求項1】
オゾンのみを水に溶解したオゾン水でエッチングできる金属又は金属酸化物上に、前記オゾン水に溶解しない金属をレジストとして設け、前記オゾン水でエッチングするパターニング方法。
【請求項2】
前記金属又は金属酸化物が、pHが4.3~4.4、酸化還元電位が+2.07で直接又は中間生成物を経てイオン化されるもので、前記レジストが、pHが4.3~4.4、酸化還元電位が+2.07でオゾン水に溶解しない金属である請求項に記載のパターニング方法。
【請求項3】
エッチングの際に、超音波振動及び/又は紫外線照射を行う請求項又はに記載のパターニング方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、オゾン水による金属又は金属酸化物のエッチング方法、オゾン水による金属又は金属酸化物表面の平滑化方法、及びオゾン水を用いたパターニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
印刷、半導体デバイス、プリント配線板などの幅広い分野においてパターニング等に用いられるエッチング技術は、微細加工の基盤技術の1つとして欠かせないものとなっている。金属のエッチングには、プラズマ化したガスを用いるドライエッチングと、液体中での化学反応を用いるウェットエッチングの2種類に大別することができる。
【0003】
ドライエッチングは微細加工に向いているものの大規模な設備投資が必要で、加工面積も限定されるため大面積プロセスには用いることが難しい。さらに、そもそも金属のドライエッチング自体が難しいプロセスであるため、最近の半導体素子の超微細配線では金属のドライエッチングを必要としないダマスクプロセスが台頭してきている。
【0004】
一方、ウェットエッチングはガスに較べて微細構造中への拡散が遅いことや乾燥時の表面張力などによる構造の変形・破壊など微細化には不向きで、廃液による環境負荷も大きいという問題があるものの、大面積のエッチングが可能という利点を持つため現在でも汎用的に使われており、特にプリンテッドエレクトロニクスにおける回路基板の配線パターニングや印刷版の作製では欠かせない技術となっている。
【0005】
ところで近年、有機物を除去する洗浄プロセスでは、環境負荷の小さいオゾン酸化を用いた洗浄技術が注目を集めている。オゾンは大気中において酸素に自己分解されるという特徴を持つため環境負荷が小さく、また強い酸化力を有するため、最近では有機物除去や殺菌効果を利用した下水道処理や医療用滅菌などに用いられており(非特許文献1、2参照)、半導体産業ではディスプレイパネルの洗浄やフォトレジストの除去のためのグリーンプロセス技術として注目を浴びている(非特許文献3、4参照)。
【0006】
オゾン水を用いたディスプレイパネルの洗浄やフォトレジストの除去については、エッチングを行う前にレジストパターンを設けた被エッチング材(金属材料、金属酸化物)にオゾン水で前処理することで被エッチング材面に付着する微細なレジスト残渣を除くこと(特許文献1参照)、高濃度のオゾン水を基板に供給することで基板の表面に付着した有機物や金属汚染物等を除去すること(特許文献2参照)が知られている。また、銅配線でロジック回路を形成した後、銅表面を研磨パッドで平滑化する際に研磨された銅をオゾン水でイオン化して除去することも知られている(特許文献3参照)。
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に記載されている発明は、オゾン水により除去されるのはレジスト材料である。また、上記特許文献2には、オゾン水で金属汚染物等の残渣を除去することができ、上記特許文献3には、オゾン水で銅をイオン化して除去できると記載されているが、当該技術分野においては、オゾン水を用いた金属の除去は、オゾン水単独ではなく、塩酸や弗酸を組み合わせることで行われており(特許文献4、非特許文献5)、上記特許文献2、3に記載されている発明においても、実施に際しては塩酸や弗酸の添加が必要であり、環境問題の完全な解決には至っていない。
【0008】
また、近年のナノテクノロジー技術の進歩にしたがい、金属を原子レベルでエッチングして配線等を形成したり、金属表面を原子レベルで平滑化する等、金属を原子レベルで操作する方法が益々重要となってきているが、環境に影響を与える試薬等を使用することなく、これらを達成できる方法は知られていない。
【先行技術文献】
【0009】

【特許文献1】特開2002-38282号公報
【特許文献2】特開2000-164552号公報
【特許文献3】特開2000-173957号公報
【特許文献4】特開2005-270830号公報
【0010】

【非特許文献1】A.Azarpazhooh and H.Limeback:“The application of ozone in density:A systematic review of literature”、DENTISTRY、Vol.36、No.2、pp.104-116(2008)
【非特許文献2】S.Martinez、J.Perez-Parra and R.Suay:“Use of ozone in Wastewater Treatment to Produce Water Suitable for Irrigation”、Water Resour Manage、Vol.25、No.9、pp.2109-2124(2011)
【非特許文献3】H.Yanagida、S.Yoshida、M.Esashi and S.Tanaka:“Simple removal technology using ozone solution for chemically-stable polymer used for MEMS”、MEMS、pp.324-327(2011)
【非特許文献4】Y.Goto、K.Kitano、T.Maruoka、M.Yamamoto、A.Kono、H.Horibe、S.Tagawa:“Removal of Polymers with Various Chemical Structures using Wet Ozone”、Journal of Photopolymer Science and Technology、Vol.23、No.3、pp.417-42(2010)
【非特許文献5】柳基典、他1名、“環境にやさしい機能水を用いた洗浄技術 第4回「オゾン水の用途事例と効果1」”〔online〕、〔平成24年4月3日検索〕、インターネット<URL: http://www.puriken.org/nms-04.htm>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者らは、鋭意研究を行ったところ、オゾンのみを水に溶解したオゾン水で、マイクロ・ナノデバイスで広く用いられる金属をエッチングしたり、金属表面を平滑化できること、更に、オゾン水に溶解する金属上に、オゾン水に溶解しない金属をレジストとして設け、次いでオゾン水でエッチングすることで、環境に影響を与えるエッチャントを用いずに、基板に金属配線を形成できることを見出した。
【0012】
すなわち、本発明の目的は、オゾン水による金属又は金属酸化物のエッチング方法、オゾン水による金属又は金属酸化物表面の平滑化方法、及びオゾン水を用いたパターニング方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、以下に示す、オゾン水による金属又は金属酸化物のエッチング方法、オゾン水による金属又は金属酸化物表面の平滑化方法、及びオゾン水を用いたパターニング方法に関する。
【0014】
)オゾンのみを水に溶解したオゾン水でエッチングできる金属又は金属酸化物上に、前記オゾン水に溶解しない金属をレジストとして設け、前記オゾン水でエッチングするパターニング方法。
)前記金属又は金属酸化物が、pHが4.3~4.4、酸化還元電位が+2.07で直接又は中間生成物を経てイオン化されるもので、前記レジストが、pHが4.3~4.4、酸化還元電位が+2.07でオゾン水に溶解しない金属である上記()に記載のパターニング方法。
)エッチングの際に、超音波振動及び/又は紫外線照射を行う上記()又は()に記載のパターニング方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、従来から用いられている塩酸や弗酸等のエッチャントを使用することなく、オゾン水のみで金属又は金属酸化物をエッチングできることから、半導体等の製造の際に発生する環境に負荷を与える廃液問題が全く生じない。また、従来のエッチャントは、エッチングする金属に応じてエッチャントを変えていた為、複数種類のエッチャント溶液を準備するとともに、エッチャントに応じた廃液処理システムが必要であったが、オゾン水は、半導体分野で用いられている多くの金属をエッチングできることから、金属種に応じてエッチャントを変える必要がなく、廃液処理装置も不要であることから、効率的にエッチングが可能である。
【0016】
また、オゾン水は金属又は金属酸化物をエッチングするのみではなく、表面を原子レベルで平滑化することができるので、高精度のナノデバイスの作製に有用である。
【0017】
更に、エッチングにより除去された金属はオゾン水にイオン化して溶解するため、オゾン水を単に蒸発し、乾燥するのみで溶解した金属が簡単に回収できるので、エッチングした貴金属やレアメタル等の資源の有効活用ができる。
【0018】
加えて、オゾン水でエッチングができる金属上に、Ti等のオゾン水に溶解しない金属をレジストとして蒸着させ、次いで、オゾン水でエッチングすることで、環境に負荷を与えることなく、また、原子レベルでパターニングをすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、各種金属におけるpH-酸化還元電位の関係を表す。
【図2】図2は、本発明で用いた実験装置の概要を表す図である。
【図3】図3は、Crのエッチング速度の測定結果のグラフであって、オゾン水の温度及び濃度とCrのエッチング速度の関係を示す。
【図4】図4は、Niのエッチング速度の測定結果のグラフであって、オゾン水の温度及び濃度とNiのエッチング速度の関係を示す。
【図5】図5は、Alのエッチング速度の測定結果のグラフであって、オゾン水の温度及び濃度とAlのエッチング速度の関係を示す。
【図6】図6は、Auのエッチング速度の測定結果のグラフであって、オゾン水の温度及び濃度とAuのエッチング速度の関係を示す。
【図7】図7は、Tiのエッチング速度の測定結果のグラフであって、オゾン水の温度及び濃度とTiのエッチング速度の関係を示す。
【図8】図8は、図3~7の最小二乗法にて直線近似した近似線の傾きの対数を縦軸、温度の逆数を横軸に取ることによって得られたアレニウスプロットを表す。
【図9】図9は、Crサンプルを、(a)エッチングする前、(b)従来のエッチャントでエッチングした後、(c)オゾン水でエッチングした後、のAMF画像である。
【図10】図10は、Niサンプルを、(a)エッチングする前、(b)従来のエッチャントでエッチングした後、(c)オゾン水でエッチングした後、のAMF画像である。
【図11】図11は、Alサンプルを、(a)エッチングする前、(b)従来のエッチャントでエッチングした後、(c)オゾン水でエッチングした後、のAMF画像である。
【図12】図12は、Auサンプルを、(a)エッチングする前、(b)従来のエッチャントでエッチングした後、(c)オゾン水でエッチングした後、のAMF画像である。
【図13】図13は、Tiサンプルを、(a)エッチングする前、(b)オゾン水でエッチングした後、のAMF画像である。
【図14】図14は、Crサンプルを、オゾン水で所定時間エッチングした後の表面粗さの変化を表すグラフである。
【図15】図15は、Crサンプルを、オゾン水で所定時間エッチングした後のAMF画像である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の、オゾン水による金属又は金属酸化物のエッチング方法、オゾン水による金属又は金属酸化物表面の平滑化方法、及びオゾン水を用いたパターニング方法について、更に具体的に説明をする。

【0021】
まず、本発明のオゾン水は、オゾンのみを水に溶解したものであることを特徴とする。従来から用いられている金属のエッチャントは、塩酸、硝酸、硫酸、弗酸、過塩素酸、リン酸、硝酸第2セリウムアンモニウム、ヨウ素、ヨウ化カリウム、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド(TMAH)、水酸化カリウム(KOH)、過酸化水素水、酢酸等を用いており、環境に与える影響から、廃液をそのまま投棄することができず、処理してから廃棄するためコストアップするという問題があった。また、半導体分野においては、上記特許文献や非特許文献に記載されているように、オゾン水を洗浄に用いることは行われているが、金属残渣を溶解する際には塩酸等が添加され、オゾン水は補助的な役割に過ぎなかった。更に、従来のオゾン水の使い方は、レジスト化合物や金属残渣等の不純物を除去することが特徴で、バルク金属そのものをエッチングするものではなかった。本発明のオゾン水は、従来のオゾン水の使用方法と違い、オゾン水のみで、バルク金属又は金属酸化物そのものをエッチング、又は、バルク金属の表面又は金属酸化物表面を平滑化(以下、エッチング及び平滑化を単に「エッチング」と記載することもある。)するために用いることが特徴である(以下、金属及び金属酸化物を単に「金属」と記載することもある。)。

【0022】
本発明のオゾン水は、酸素から発生させたオゾンを水に溶解することで作製されるが、水としては、水道水、蒸留水、超純水の何れを用いてもよいが、不純物等を含まず、品質が安定することから超純水が好ましい。オゾン水の濃度は、溶解する金属の種類と温度にもよるが、約2ppm以上が好ましい。2ppmより低い濃度では、金属のエッチング速度が遅過ぎ実用的ではない。約2ppm以上であれば、オゾン水の濃度に比例してエッチング速度が向上する。

【0023】
エッチングの際のオゾン水の温度は、20~60℃が好ましく、40~60℃が特に好ましい。20℃以下では金属のエッチング速度が遅過ぎ実用的ではない。60℃より高い温度では、エッチング速度は早くなるものの、オゾンの分解も早くなり、好ましくない。エッチング速度は、オゾン濃度と温度により大きく依存することから、エッチングする金属の種類やエッチングすべき深さに応じて、適宜調節すればよい。また、実施の際には、オゾン濃度のモニター装置を設け、所望のオゾン濃度となるようにオゾンの供給量を調整してもよい。更に、ヒーター等を用いて、オゾン水の温度が一定になるように調整してもよい。

【0024】
エッチングは、金属をオゾン水に浸漬するか金属にオゾン水をスプレー又はシャワーすることにより行うことができる。また、エッチング効果を促進するため、エッチングの際に超音波振動を加えてもよい。更に、低圧水銀ランプから発せられる紫外線照射を併用してもよい。例えば、水中に波長172nm真空紫外光、あるいは水中で酸化チタンに紫外光を照射することで、水中の酸素をオゾンに戻してオゾン濃度を高くすることが可能である。

【0025】
金属をエッチングする時間は、エッチングする金属の種類及び深さ、オゾン水濃度、温度に応じて適宜調整すればよい。

【0026】
本発明によりエッチング又は表面が平滑化される金属は、オゾン水で直接イオン化されるもの、或いは、水酸化物又は酸化物等の中間生成物を経てイオン化されるもの等、オゾン水のみにより最終的にエッチングされるものであれば特に限定はされない。本発明者らは、10mg/L以上のオゾンを水に溶解すると、オゾン濃度に因らず、酸化還元電位は約+2.07で安定すること、そして、pHは温度により若干異なるものの、約4.3~4.4で安定することを新たに発見した。金属が溶液と反応した時の反応生成物は、図1の各種金属におけるpH-酸化還元電位図に示されるように、pHと酸化還元電位からある程度予測することが可能である。オゾン水の濃度は、水に溶解できる範囲であれば特に上限はなく、エッチングする金属の種類やエッチングすべき深さ等に応じて適宜調整すればよい。

【0027】
pH4.3~4.4付近、酸化還元電位+2.07V付近では、例えば、Crはオゾンで酸化されてCr272-となる反応が支配的と予想される。さらに酸性の溶液中ではCr272-はCr3+になるため、エッチング中はCr272-とCr3+の混合状態になっていると予想している。同様に、Niに関してはNi2+にイオン化する反応、AlはAl3+にイオン化する反応が支配的であると考えられる。AuはAu(OH)3になると考えられるが、Au(OH)3は水溶液中で、Au3+と3OHとなる反応もわずかながら進行する。後述するアレニウスプロットから明らかなように、Auは、他の金属と比較して2倍近く小さい活性化エネルギーを示すことから、他の金属が酸化されてイオン化するのに対し、Auでは水酸化物を経てイオン化されるため、エッチング機構の違いから活性化エネルギーがAuだけ異なっており、遅いながらもエッチングが進んでいると考えられる。これに対し、Tiは、図1及び後述する比較例から明らかなように、不動態であるTi23が形成されるため、エッチングが進行しないと考えられる。

【0028】
上記に例示したCr、Ni、Al、Au以外で、オゾン水で直接イオン化、或いは、水酸化物又は酸化物等の中間生成物を経てイオン化されエッチングされる金属としては、Cu、Ag、Fe、Pt、Mn、Zn、Pd、Ir等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。

【0029】
本発明では、上記のようにオゾン水で金属を溶解し、エッチングすることができるが、金属の表面を、従来から用いられているエッチャントと比較して、原子レベルで平滑化できることも特徴である。なお、本発明でいう平滑化とは、基板上の有機物や金属残渣等をエッチャントで溶解除去すること、又は研磨剤で研磨して平滑化することを意味するのではなく、バルク金属の表面をオゾン水で溶解することにより、金属の表面を原子レベルで平滑化することを意味する。

【0030】
オゾン水による平滑化は、従来から用いられているエッチャントと比較して、オゾンイオンが水分子と同じ程度の大きさで分子としては非常に小さく、且つオゾンは拡散係数が高いことから、金属原子間により進入し易いためと考えられる。また、表面から突出した金属原子は、欠陥が大きいので反応性が高いこと、表面積/体積比が大きいことから、より早く削ることができる。更に、オゾンは、結晶方位に依存しない傾向があると考えられており、エッチングした後の金属表面に結晶面が出ないことも平滑化できる理由の一つと考えられる。また、従来のエッチャントは、金属を溶解する一方で、当該金属と化合物を形成するものもあり、金属表面に形成された化合物が蓄積して凹凸を形成することがある。しかしながら、オゾンはそのような化合物を形成しないため、表面に凹凸を形成することはない。

【0031】
半導体分野等においては精度を上げる為に、表面を原子レベルで平滑化することが求められている。オゾン水による金属のエッチング又は平滑化速度は、オゾン水の濃度及び温度にもよるが、従来のエッチャントによる速度より緩慢であるが、求められるエッチングの深さ、平滑化の程度、処理時間等の条件において、高精度の平滑化方法、更には原子レベルでの平滑化方法として有効である。また、平滑化の速度が求められる場合には、従来から用いられている研磨法等によりある程度表面を平滑化しておき、最後の仕上げとして、本発明の平滑化方法により平滑処理すればよい。

【0032】
しかしながら、近年のナノテクノロジーの進歩により、半導体は更に小型高密度化され、原子レベルまで微細な回路を形成する様になると予想される。本発明の、オゾン水による原子レベルのエッチング又は平滑化処理は十分実用化可能な速度であり、且つ、オゾン水の温度や濃度を調整することで、非常に微細なエッチングの制御ができることから、ナノデバイスの作製には、非常に有用である。

【0033】
また、従来は、エッチング又は平滑化すべき金属に応じてエッチャントの組成を変える必要があり、エッチャントに応じた廃液処理が必要であったが、オゾン水は半導体分野でよく用いられている多くの金属を溶解できることから、金属種に応じてエッチャントを変える必要はなく、また、廃液処理装置も不要であることから、効率的なエッチング又は平滑化処理が可能である。

【0034】
更に、従来のエッチャントで金属をエッチングすると、エッチャントと金属が反応して化合物を形成し、金属を再利用する場合には金属の単離化処理が必要な場合がある。しかしながら、オゾン水は放置しておけば水になることから、単に乾燥するだけで金属が回収できるので、金等の貴金属やレアメタル等が容易に回収でき、資源の再利用が可能となる。

【0035】
加えて、オゾン水は、放置しておけば酸素と水に分解されることから、エッチング又は平滑化処理の後のリンスは水のみで十分であり、半導体等の製造工程が簡略化できるとともに、廃液の問題もなくなる。

【0036】
本発明では、オゾン水のみで金属をエッチング又は金属表面を平滑化できるが、オゾン水のpHを調整することで、金属を不溶化或いはイオン化させることができる。したがって、本発明の環境に影響を与えないという目的を逸脱しない範囲内であれば、オゾン水にpH調整剤等を加え、オゾン水のみのpH及び酸化還元電位ではイオン化できない金属をイオン化したり、例えば、Auのように2段階でイオン化する金属を直接イオン化できるようにしてもよい。環境に影響を与えないpH調整剤としては、例えば、炭酸水素ナトリウム、炭酸ガス、炭酸アンモニウム等が挙げられる。pHをアルカリ側に持って行くと、オゾンの寿命は短くなるものの、エッチング速度を10倍以上高くすることができる。

【0037】
上記のとおり、オゾン水によりエッチングされる金属がある一方、Ti等、オゾン水により不動態の酸化被膜が形成される金属もある。不動態の酸化被膜が形成された後は、オゾン水によりイオン化して溶解しないことから、この特性を利用して、例えば、オゾン水でエッチングができる金属上に、Ti等のオゾン水でエッチングされない金属をレジストとして設け、次いで、オゾン水でエッチングすることで、環境に負荷を与えることなく、また、原子レベルでパターニングをすることもできる。

【0038】
以下に実施例を掲げ、本発明を具体的に説明するが、この実施例は単に本発明の説明のため、その具体的な態様の参考のために提供されているものである。これらの例示は本発明の特定の具体的な態様を説明するためのものであるが、本願で開示する発明の範囲を限定したり、あるいは制限することを表すものではない。
【実施例】
【0039】
〔実験装置〕
図2は、本発明で用いた実験装置の概要を表す図である。オゾンは、原料となる酸素ガス1からオゾン発生装置2(ED-OG-R4、エコデザイン(株))で生成し、ガスバブラ-3を通じて、ビーカー4内の超純水中に供給することでオゾン水5を作製した。エッチング実験は、サンプル基板6をオゾン水5に所定の時間浸清することで行った。オゾン水中のオゾン濃度を均一にするため、エッチング中はスターラー7で常にオゾン水の撹拌を行いつつ、溶存オゾン濃度を、図示しない吸光式の溶存オゾン濃度計(O3-3F、笠原理化工業(株)製)でモニターした。さらにエッチングの温度依存性の評価に当たっては、外部ヒーター8によって液温も一定に保った。
【実施例】
【0040】
〔サンプル基板6の作製〕
エッチング評価用のサンプル基板6は、光学研磨(表面粗さ1nm以下)したガラス基板上に、真空蒸着で各種金属膜を着膜させ、フォトリソグラフィで金属面とガラス面が交互に現れるようなパターニングを行うことで作製した。
【実施例】
【0041】
〔エッチング速度の評価〕
エッチング速度は、エッチング前後におけるガラス面から金属面までの高さを測定することで評価した。測定には、光干渉型表面形状測定装置(WYKO NT 9100A、Bruker AXS)を使用した。各条件において、基板上の5部位を測定した平均を測定値とした。
【実施例】
【0042】
〔エッチング後の表面粗さ評価〕
各金属のオゾン水エッチング後の表面粗さ、及び各金属を従来の代表的なエッチング液によるエッチング後の表面粗さを比較して評価した。従来のエッチング法とオゾン水エッチングのいずれの場合でも、約30nmエッチング後に表面粗さを評価した。エッチング後の表面粗さは、原子間力顕微鏡(AMF)(VN-8010、KEYENCE)を用いて、基板上の任意の5μm×5μmの領域15箇所における二乗平均平方根粗さ(Rq:JIS 1994)で評価した。
【実施例】
【0043】
〔各種金属のエッチング速度〕
(実施例1)
上記〔サンプル基板6の作製〕手順により、Crを蒸着したサンプル基板を作製した。溶存オゾン濃度および温度を変化させ(25℃、40℃、55℃)、エッチングを行った。エッチング後は、サンプル基板6を超純水で十分リンスを行った後に乾燥させ、その後の評価に使用した。エッチング速度は、上記〔エッチング速度の評価〕の手順により測定した。図3は、測定結果を表すグラフである。なお、グラフの縦軸はエッチング速度、横軸はオゾン濃度、エラーバーは各標準偏差を示す。また、実線は最小二乗法にて直線近似した近似線を示す。以下の図4~7も同様である。
【実施例】
【0044】
(実施例2)
金属としてNiを用いた以外は、実施例1と同様の手順でエッチング速度を測定した。図4は、測定結果を表すグラフである。
【実施例】
【0045】
(実施例3)
金属としてAlを用いた以外は、実施例1と同様の手順でエッチング速度を測定した。図5は、測定結果を表すグラフである。
【実施例】
【0046】
(実施例4)
金属としてAuを用いた以外は、実施例1と同様の手順でエッチング速度を測定した。図6は、測定結果を表すグラフである。
【実施例】
【0047】
(比較例1)
金属としてTiを用いた以外は、実施例1と同様の手順でエッチング速度を測定した。図7は、測定結果を表すグラフである。
【実施例】
【0048】
実施例1~4及び比較例1の結果より、Cr、Ni、Al、Auは、オゾン水のオゾン濃度が高くなるにつれ、金属のエッチング速度が速くなることが明らかとなった。また、オゾン水の温度が高くなるにつれ、エッチング速度が速くなることが判明した。ただし、オゾン水の温度が上昇するに伴いオゾンの寿命が短くなるため、溶存オゾン濃度自体は減少している。すなわち、オゾン水による金属のエッチングにおいては、オゾン濃度と温度のバランスが重要で、溶存オゾン濃度よりも温度の影響が支配的ということが判明した。
【実施例】
【0049】
一方、Tiについては、オゾン水ではエッチングされず、逆に酸化被膜が形成された。酸化被膜は、オゾン水のオゾン濃度が高くなるにつれ、酸化皮膜形成速度が速くなり、また、オゾン水の温度が高くなるにつれ、酸化被膜形成速度が速くなることが判明した。
【実施例】
【0050】
図8は、図3~7の最小二乗法にて直線近似した近似線の傾きの対数を縦軸、温度の逆数を横軸に取ることによって得られたアレニウスプロットを表す。アレニウスプロットの直線性から、エッチング反応はアレニウスの式に従うことが確認された。また活性化エネルギー(プロットの傾き)に関しては、Al、Cr、Niに関してはほぼ同じであり、これに対しAuは2倍以上も小さい活性化エネルギーを示すことから、Al、Cr、Niのエッチング機構は類似しており、Auとは異なるエッチング機構であること考えられる。なお、図8のTiの活性化エネルギーはエッチングされた物ではなく、増加した膜厚分から求めた活性化エネルギーである。
【実施例】
【0051】
〔各種金属のエッチング後の表面粗さ〕
(実施例5)
上記〔サンプル基板6の作製〕の手順により作製したCrサンプルを、温度25℃、オゾン濃度10.81mg/Lのオゾン水で約4時間浸漬し、約30nmエッチングした。エッチング後は、サンプル基板6を超純水で十分リンスを行った後に乾燥させ、その後の評価に使用した。表面粗さは、上記〔エッチング後の表面粗さ評価〕の手順で測定した。図9(a)はエッチング前のサンプルの中の任意の1箇所のAMF画像、図9(c)は実施例5によりエッチングした後のサンプルの中の任意の1箇所のAMF画像を表す。なお、図9~13、15の各画像左下のRq(nm)は、サンプルの中の任意の1箇所の二乗平均平方根粗さを表す。
【実施例】
【0052】
(比較例2)
エッチャントに、硝酸第2セリウムアンモニウム+過塩素酸+水=165g+43mL+水(合計液量1L)の混酸を用い、浸漬時間を30秒とした以外は、実施例5と同様の手順で表面粗さを測定した。なお、比較例2~6の薬品類は、全て関東化学社製のものを用いた。図9(b)は、比較例2によりエッチングした後のサンプルの中の任意の1箇所のAMF画像を表す。
【実施例】
【0053】
(実施例6)
サンプルをNiとし、浸漬時間を約6時間とした以外は、実施例5と同様に表面粗さを測定した。図10(a)はエッチング前のサンプルの中の任意の1箇所のAMF画像、図10(c)は実施例6によりエッチングした後のサンプルの中の任意の1箇所のAMF画像を表す。
【実施例】
【0054】
(比較例3)
エッチャントに、塩酸85%+15%硝酸の混酸を用い、浸漬時間を15秒とした以外は、実施例6と同様の手順で表面粗さを測定した。図10(b)は、比較例3によりエッチングした後のサンプルの中の任意の1箇所のAMF画像を表す。
【実施例】
【0055】
(実施例7)
サンプルをAlとし、浸漬時間を約2.5時間とした以外は、実施例5と同様に表面粗さを測定した。図11(a)はエッチング前のサンプルの中の任意の1箇所のAMF画像、図11(c)は実施例7によりエッチングした後のサンプルの中の任意の1箇所のAMF画像を表す。
【実施例】
【0056】
(比較例4)
エッチャントに、リン酸80%+硝酸5%+酢酸10%+水5%の混酸を用い、浸漬時間を10秒とした以外は、実施例7と同様の手順で表面粗さを測定した。図11(b)は、比較例4によりエッチングした後のサンプルの中の任意の1箇所のAMF画像を表す。
【実施例】
【0057】
(実施例8)
サンプルをAuとし、浸漬時間を約60時間とした以外は、実施例5と同様に表面粗さを測定した。図12(a)はエッチング前のサンプルの中の任意の1箇所のAMF画像、図12(c)は実施例8によりエッチングした後のサンプルの中の任意の1箇所のAMF画像を表す。
【実施例】
【0058】
(比較例5)
エッチャントに、ヨウ素5%+ヨウ化カリウム10%水溶液を用い、浸漬時間を15秒とした以外は、実施例8と同様の手順で表面粗さを測定した。図12(b)は、比較例5によりエッチングした後のサンプルの中の任意の1箇所のAMF画像を表す。
【実施例】
【0059】
(比較例6)
上記のとおり、サンプルがTiの場合は、オゾン水でエッチングされないことから、従来エッチャントとの表面粗さを比較はせずに、浸漬時間を約24時間とした以外は、実施例5と同様に表面粗さを測定した。図13(a)はエッチング前のサンプルの中の任意の1箇所のAMF画像、図13(b)は比較例6によりエッチングした後のサンプルの中の任意の1箇所のAMF画像を表す。
【実施例】
【0060】
上記実施例5~8及び比較例2~6の任意の15箇所のAFM画像から求められたRq(nm)をまとめたものを表1に示す。
【実施例】
【0061】
【表1】
JP0005598829B2_000002t.gif
【実施例】
【0062】
表1から明らかなように、Cr、Ni、Al、Auにおいては、オゾン水を用いると従来のエッチャントよりも平坦なエッチング面を得られることが分かった。特にCrやAu等ではRq=1nmと、原子レベルの平滑性が得られており、エッチング手法としてだけでなく、原子的平滑面を作製する手法としても優れた手法であることが明らかとなった。また、局所的な結晶面などが現れてないことから、オゾン水エッチングは結晶方位に依存しない等方性エッチングになっていると考えられる。
【実施例】
【0063】
なお、Niについては、従来法によるエッチング後と比較して、オゾン水によるエッチング後の方が表面は平滑になっているものの、エッチング前と比較すると、表面が粗くなっている。これは、オゾン水のpH4.3、酸化還元電位+2.07V付近の条件では、オゾン水に接触したNiが、Ni2+とNiO(OH)になる境界近くにあるため、水酸化物が部分的に形成したためと考えられる。しかしながら、上記のとおり、環境に影響を与えない範囲内でオゾン水にpH調整剤を添加してオゾン水のpHを調整できることから、Niを溶解する場合は、Niが直接Ni2+になるよう、pHを下げる調整剤をオゾン水に添加すればよい。
【実施例】
【0064】
一方、Tiについては、多孔質のTiと思われる皮膜の成長により、オゾン水に浸漬後は、表面が粗くなることが確認された。
【実施例】
【0065】
〔表面粗さの時間依存性〕
(実施例9)
次に、表面平滑化効果を調べる為、Crをサンプルとして表面粗さのエッチング時間依存性を調べた。まず、比較例2のエッチャントを用いてエッチングを行い、Rq=約5.4nmの表面が粗いCrサンプルを準備した。その後、温度55℃、溶存オゾン濃度1.62mg/Lのオゾン水によるエッチングを行い、エッチング時間の経過に伴う表面の平滑化過程をAFMで評価した。図14は、所定時間経過後のエッチングによる表面粗さの変化を表すグラフで、グラフの各点はサンプル数5の平均値である。図15は、所定時間経過後の各サンプル中の任意の一箇所のAFM画像を表す。
【実施例】
【0066】
初期状態で表面粗さRqが平均5.4nm程度のCr膜は、12.5時間後には平均1.5nm程度になっていることが分かる。図15で示すAFM像を見ても、表面凸部の高さが小さくなり、時間経過ごとに表面が平滑化されていることが明らかである。これは、金属表面の尖った曲率半径が小さい部分、すなわち表面積/体積比が高い部分が、より早くエッチングされているためだと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
環境に負荷を与えるエッチャントを用いることなく、オゾン水のみで、金属をエッチング又は平滑化できることから、環境に負荷を与えず、半導体デバイス等の製造に応用することが期待される。また、原子レベルで金属をエッチング又は平滑化できるので、原子レベルのデバイスの作製に有用であり、自動車分野、医療機器分野、電気電子分野、太陽電池分野、燃料電池分野、人体用部材分野(人工関節等)、半導体分野等の各種金属部品・材料の製造に使用が期待される。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図14】
8
【図9】
9
【図10】
10
【図11】
11
【図12】
12
【図13】
13
【図15】
14