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明細書 :細胞シート搬送用容器

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5545689号 (P5545689)
登録日 平成26年5月23日(2014.5.23)
発行日 平成26年7月9日(2014.7.9)
発明の名称または考案の名称 細胞シート搬送用容器
国際特許分類 C12M   1/00        (2006.01)
A61J   1/00        (2006.01)
B65D  81/22        (2006.01)
B65D  81/24        (2006.01)
FI C12M 1/00 A
C12M 1/00 Z
A61J 1/00 Z
B65D 81/22
B65D 81/24 Z
請求項の数または発明の数 4
全頁数 17
出願番号 特願2014-509534 (P2014-509534)
出願日 平成25年5月21日(2013.5.21)
国際出願番号 PCT/JP2013/064017
国際公開番号 WO2013/176106
国際公開日 平成25年11月28日(2013.11.28)
優先権出願番号 2012118326
優先日 平成24年5月24日(2012.5.24)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成26年2月24日(2014.2.24)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】511024399
【氏名又は名称】YSEC株式会社
【識別番号】304027279
【氏名又は名称】国立大学法人 新潟大学
発明者または考案者 【氏名】山内 慶次郎
【氏名】阿部 和幸
【氏名】川瀬 知之
【氏名】田中 孝明
早期審査対象出願または早期審理対象出願 早期審査対象出願
個別代理人の代理人 【識別番号】100140394、【弁理士】、【氏名又は名称】松浦 康次
審査官 【審査官】小暮 道明
参考文献・文献 特表2009-523417(JP,A)
特開平9-187271(JP,A)
特開2005-312317(JP,A)
調査した分野 C12M1/
A61J1/
B65D81/
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/WPIDS/BIOSIS(STN)

特許請求の範囲 【請求項1】
シャーレ下皿を載置可能な底部と開口部とを備えた容器本体と、
前記開口部に載置され、前記開口部と前記下皿とに蓋をする蓋体と、
前記蓋体を前記容器本体に着脱自在に接続可能な接続手段と、
を備え、かつ、
前記蓋体内側には前記下皿の上端にその全周に亘って接触するシール材が設けられ、
前記蓋体の基部には、培養液を注入又は排出するための入口とこの入口を閉鎖するための閉鎖具とがさらに設けられ、かつ、
前記下皿を載置した前記容器本体に前記蓋体を接続した際に、前記下皿の内面と前記蓋体の内面とによって区画され、かつ、前記培養液と細胞シートとを充填可能な内部空間が形成され、かつ、
前記蓋体の前記基部には、頂点付近が前記入口に接続した中空円錐形又は中空角錐形の隆起部が形成されていることを特徴とする細胞シート搬送用容器。
【請求項2】
前記容器本体と前記蓋体とが透明又は半透明の樹脂から作られていることを特徴とする請求項1に記載の細胞シート搬送用容器。
【請求項3】
前記接続手段は、軸と、該軸に一部が接続しかつ該軸を中心に旋回可能な第1本体と、が設けられた第1構造と、
接続時に該第1本体を受けて該第1本体の他部を把持する受容部が設けられた第2構造と、を備え、かつ、
前記第1構造と前記第2構造とは前記容器本体又は前記蓋体の一方と他方とに設けられることを特徴とする請求項1又は2に記載の細胞シート搬送用容器。
【請求項4】
前記第1本体の前記他部には、前記第1構造を前記第2構造に締結可能な締結具又は前記第1構造を前記第2構造に係合可能なフック部が設けられていることを特徴とする請求項に記載の細胞シート搬送用容器。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、骨組織などの細胞シートを安全に搬送可能な容器に関し、より具体的には、医療機関と他の医療機関との間を搬送し、かつ双方の医療連携の支援に適した細胞シート搬送用容器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、細胞や組織(特にシート状の細胞や組織)をin vitro(即ち、生体外)で培養して、再び生体に適用する再生治療が注目されている。例えば、歯周再生治療の分野では、患者自身の健康な歯槽骨から採取した骨膜から調製した自家培養骨膜シートを適用し、顕著な治療成績を収めている。
【0003】
ところで、我が国では病院の拠点化が進み、特定の疾患あるいは状況に対応できるような高度な診療機能を備え、地域の他の医療機関との連携の中心となる病院(「拠点病院」とも呼ぶ。)が設置されている。このような病院の拠点化は、種々の長所もあるが、再生治療の分野においては移植用の細胞シートを適切に加工・調製できる医療機関が限定されるという弊害もある。従って、拠点病院以外の医療施設は、患者に再生治療を施すために、当該医療施設で採取した患者の細胞組織(検体)を拠点病院に送り、拠点病院で培養・調製された細胞シートを拠点病院から当該医療施設に搬送(返送)してもらう必要がある。
【0004】
また、拠点病院においても、それぞれの病院で得意とする再生治療の専門分野(つまり、専門的に培養・調製する細胞シートの種類)は、通常異なる。従って、様々な再生治療やこれに関連した研究を行うために、拠点病院間でも上記治療や研究に最適な細胞シートを搬送し合う(つまり融通し合う)必要がある。
【0005】
しかしながら、拠点病院間や拠点病院とそれ以外の医療施設との間で細胞シートを安全に搬送できる搬送容器は現実には見当たらない。また、各病院や医療施設において、細胞シートを培養、調製、又は使用する際には、細胞シートを収容するために、市販されかつ汎用性のあるシャーレが使用されるのが通常である。
【0006】
加えて、我が国の再生治療の標準化に関する指針やガイドラインは整備されつつあり、運用レベルでは細胞シートの培養や調製のための器具については汎用シャーレの使用が推奨されている。つまり、搬送前後の培養手順や培養器具を大きく変更することはできない。
【0007】
このような事情の下、本発明者らは、搬送元や搬送先の医療現場で入手可能な汎用シャーレと組み合わせられる細胞シート搬送用容器を開発することが急務であり、このような搬送容器の潜在的需要が高いことに気が付いた。
【0008】
次に、細胞の培養や運搬に用いられる容器に関する従来技術について説明する。従来から、細胞の培養には、横に倒して培養可能なボトル形状のプラスチック製容器(「培養フラスコ」と呼ばれる。)が利用されてきた。これらの培養フラスコには、ボトル本体から突き出た入口に蓋(例えば、スクリューキャップ)が取り付けられたものが多い。これらの培養フラスコは、この入口から培養液をフラスコ内に注入し、細胞を培養液に満たし、スクリューキャップを硬く締めて、細胞の運搬に用いられていた。
【0009】
この通常の培養フラスコを利用した運搬方法は、分散細胞の運搬においては必要かつ十分な方法であるが、細胞シートの場合には、限られたスペースのボトルネック入口からセルスクレーパーやピンセットを挿入し、シートを剥離して取り出さなければならない。この入口から細胞シートを採取する際、この細胞シートが折り畳まれたり、塊状になったりする恐れが非常に高く、このような状態になってしまうと細胞シート(特に、細胞シートが移植用の角膜である場合)は、その所期の目的を達成できない。つまり、細胞シートは培養されたまま(即ち、フィルム状に広がったまま)の状態で取り出されることが望ましいが、上記ボトルネック構造を有する培養フラスコでは細胞シートの搬送は現実的には不可能である。
【0010】
このようなニーズに応えるために、ボトル一側面(横に倒した際には上側面)を、剥離可能なフィルム状のシールにより構成して(つまり、シールトップ構成)にして、このシールを剥がすことによって細胞シートに容易にアクセスできる構造の培養フラスコが商品化されている(例えば、特許文献1及び非特許文献1を参照)。
【0011】
しかしながら、このシールトップ形式の培養フラスコは、そのフィルム状の構造からフラスコ内を培養液で満たした場合にその水圧に耐えられないという欠点が考えられ、病院内の運搬などの短距離間の搬送はともかく、病院間での運搬などの長距離搬送に不向きであるといった別の欠点も考えられる。また、現行商品のサイズでは、大量(例えば、500mL以上)の培養液を必要とするという欠点も考えられる。
【0012】
また、上述の培養容器の他にも、例えば、特許文献2~4に細胞シートの培養や搬送に適した容器が提案されている。
【0013】
特許文献2には、液体培地中、シート状の支持体の存在下で細胞を培養するための平板状の培養器が開示されている。より具体的には、この培養器は、液体培地により満たされる培養面を有する底部と、底部上に配置して培養面を覆うと共に移動して培養面を外界に露出する覆い部と、シート状の支持体の一部を支持して、この支持体が液体培地の液面に浮き上がることを防止する浮き上がり防止手段と、液体培地を交換可能にする液体交換手段と、を備えたことを特徴とするものである。
【0014】
しかしながら、特許文献2の培養器では、搬送元又は搬送先の医療現場にて、細胞シートの搬送、保管、追加培養、或いは患者への適用の為に、細胞シートを汎用のシャーレに移し替えなければならないのが通常であり、余計な作業労働や細胞シート損傷の危険性が増加することが懸念される。
【0015】
また、このような従来の培養器を使用した場合、搬送元のクリーンルームやクリーンベンチ等から外界に一旦搬出された培養器自体は、通常、搬送先の医療現場では清潔なものでないと判断されるために、清潔性の維持や微生物汚染の防止の観点からも、このような培養器をそのまま使い続けることはできず、シャーレ等に移し替える必要がある。
【0016】
また、この培養器内は、液体培地で満たされるものの、特許文献2の図面2に示すように、培地液面の上に空気を含みやすいと考えられ、たとえ浮き上がり防止手段を設置したとしても、搬送中に空気が培地液面中に混ぜ合わされたり、移動したりすることによって、細胞シートを損傷させてしまう危険性が十分にあると考えられる。
【0017】
特許文献3又は特許文献4には、上方に開口部を有し、細胞シート及び培養液を収容可能な収容体と、この開口部を封止可能な蓋部と、を備えた培養容器が開示されている。
【0018】
しかしながら、いずれの培養容器を使用した場合でも、その使用前に、搬送元の医療現場においては、先ず、汎用シャーレ或いは特許文献4の図面1に示すような培養フラスコから細胞シートを採取して、不織布等の包装体によって細胞シートを包む作業が必要となる。さらに、培養器内では、細胞シートを、これを包んだ包装体もろとも、スポンジあるいはネット等の支持体でさらに覆って、培養液中に浸漬する必要がある。
【0019】
また、特許文献3又は特許文献4に開示の培養器内は、特許文献2と同様、培養液の他に空気を含みやすく、長距離搬送中にたとえ支持体で覆ったとしても細胞シートは変形或いは損傷の恐れを払しょくできない。
【0020】
また、特許文献3又は特許文献4に開示の培養器内は、特許文献2と同様、清潔性の維持や微生物汚染の防止の観点からも、搬送先ではこのような培養器をそのまま使い続けることはできず、シャーレ等に移し返す必要がある。
【先行技術文献】
【0021】

【特許文献1】特表2001-507218号公報
【特許文献2】特開2001-299326号公報
【特許文献3】特開2002-335950号公報
【特許文献4】特開2004-187518号公報
【0022】

【非特許文献1】““Tissue Culture Flask with re-closable Lid or peel-off Foil”,TPP Techno Plastic Products AG社のホームページ、[平成24年5月24日検索],インターネット〈http://www.tpp.ch/page/produkte/02_zellkultur_flasche_spezial.php〉
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、病院から別の病院までの間といった遠距離間でも細胞シートを安全に搬送する搬送容器を提供することを目的とする。
【0024】
また、本発明の別の目的は、搬送元や搬送先の医療現場で入手及び利用可能な汎用シャーレと組み合わせられる細胞シート搬送用容器を提供することである。
【0025】
また、本発明のもう一つの目的は、再生治療の標準化に適合し易い細胞シート搬送用容器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明者らは、鋭意検討の末、搬送元で用意され、細胞シートが浸漬・付着した汎用シャーレ下皿をそのまま収容しながら遠距離間を運搬する搬送形式とこの搬送形式を実現可能な搬送容器の構造を想到し、この移動形式とこれに適した搬送容器を用いれば上記課題を見事に解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0027】
すなわち本発明は、例えば、以下の構成・特徴を備えるものである。
(態様1)
シャーレ下皿を載置可能な底部と開口部とを備えた容器本体と、
前記開口部に載置され、前記開口部と前記下皿とに蓋をする蓋体と、
前記蓋体を前記容器本体に着脱自在に接続可能な接続手段と、
を備え、かつ、
前記蓋体内側には前記下皿の上端にその全周に亘って接触するシール材が設けられ、
前記蓋体の基部には、培養液を注入又は排出するための入口とこの入口を閉鎖するための閉鎖具とがさらに設けられ、かつ、
前記下皿を載置した前記容器本体に前記蓋体を接続した際に、前記下皿の内面と前記蓋体の内面とによって区画され、かつ、前記培養液と細胞シートとを充填可能な内部空間が形成され、かつ、
前記蓋体の前記基部には、頂点付近が前記入口に接続した中空円錐形又は中空角錐形の隆起部が形成されていることを特徴とする細胞シート搬送用容器。
(態様2)
前記容器本体と前記蓋体とが透明又は半透明の樹脂から作られていることを特徴とする態様1に記載の細胞シート搬送用容器。
(態様3)
前記接続手段は、軸と、該軸に一部が接続しかつ該軸を中心に旋回可能な第1本体と、が設けられた第1構造と、
接続時に該第1本体を受けて該第1本体の他部を把持する受容部が設けられた第2構造と、を備え、かつ、
前記第1構造と前記第2構造とは前記容器本体又は前記蓋体の一方と他方とに設けられることを特徴とする態様1又は2に記載の細胞シート搬送用容器。
(態様4)
前記第1本体の前記他部には、前記第1構造を前記第2構造に締結可能な締結具又は前記第1構造を前記第2構造に係合可能なフック部が設けられていることを特徴とする態様に記載の細胞シート搬送用容器。
【0028】
ここで、本発明における「細胞シート」とは、細胞のみで培養することによって再構築された単層または複数層(重層化)のシート形状の培養組織だけでなく、コラーゲンやフィブリンなどの生体親和性材料で構成される担体(スキャフォールド)に細胞を播種し、培養することによって得られるシート形状の培養組織なども含まれる。また、細胞シートを構成する細胞には、例えば、歯槽骨等から採取した骨膜細胞、角膜上皮細胞、表皮角化細胞、口腔粘膜細胞、結膜上皮細胞、心筋細胞、線維芽細胞、血管内皮細胞、肝実質細胞のいずれか若しくはこれらの混合物が挙げられるが、その種類は、何ら制約されるものではない。また、その細胞の由来は、特に制約されるものではないが、例えばヒト、イヌ、ネコ、ウサギ、ラット、ブタ、ヒツジなどが挙げられるが、本発明の細胞シートをヒトの治療に用いる場合はヒト由来の細胞を用いる方が望ましい。
【0029】
また、これらの細胞の培養を支援する培養液には、例えば、DMEM(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium)、αMEM(alpha Modified Eagle Minimum Essential Medium)、RPMI1640(Roswell Park Memorial Institute)などの細胞培養培地が使用可能であるが、これらに限定されず、種々の培養液が使用可能である。
【発明の効果】
【0030】
以上のような構成の本発明の細胞シート搬送用容器によれば、従来から多くの医療現場で用いられてきた通常の培養方法を変更することなく、細胞シートを搬送することができる。また、本発明の搬送用容器によれば、汎用シャーレに培養したまま細胞シートを搬送することができるため、搬送や培養に係る操作性やコストの点で大きなメリットがあるとともに、細胞シート調製方法の標準化にも適合し易いものである。従って、本発明の搬送容器は、従来までに提案された培養器に比べ、CPC(Cell Processing Center)などの医療現場へ導入し易いものと期待される。
【0031】
なお、細胞シートはシャーレ下皿で培養されると、一般に、下皿の底部内面に貼りついた状態になる。従って、細胞シートをシャーレ下皿に入れたまま搬送させようとした場合、搬送中の振動や培養液中を浮遊する気泡の攪拌から細胞シートを保護することを考える必要があるが、本発明の好適な構成によれば、搬送時の振動や気泡の発生を極力無くすことができるため、搬送時の細胞シートの損傷や剥離を未然に防ぐことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】実施例1の細胞シート搬送用容器を示した分解斜視図である。
【図2】実施例1の細胞シート搬送用容器を示した斜視図である。
【図3】実施例1の細胞シート搬送用容器を示した平面図である。
【図4】図4(a)は図3のA-A線で破断した断面図であり、図4(b)はシール材の変形例を示した断面図である。
【図5】実施例2の細胞シート搬送用容器を示した分解斜視図である。
【図6】実施例2の細胞シート搬送用容器を示した斜視図である。
【図7】実施例2の細胞シート搬送用容器を示した平面図である。
【図8】図7のB-B線で破断した断面図である。
【図9】培養細胞を用いた搬送模擬試験での結果(細胞の様子)を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、添付の図面を参照しながら下記の具体的な実施形態に基づき本発明を説明するが、本発明はこれらの実施形態に何等限定されるものではない。

【0034】
公知のシャーレ(特に、哺乳類等の細胞を培養するための公知のシャーレ)は、一般に、蓋と下皿とが密着しないような構造を有している。従って、シャーレの蓋と下皿とを密着させても、下皿内部に満たされた培養液を漏らさずにシャーレを搬送することは困難である。

【0035】
そこで、本発明では、通常の培養環境や培養手順に手を加えることなく、シャーレ下皿の上端に密着することができ、しかも下皿内部を培養液で満たす際に気泡が残らないような構造の蓋体を備えた搬送用容器を開発した。また、公知の培養用シャーレ下皿の部分は、上述の培養フラスコに比較してやや薄厚であることから、搬送時の衝撃にも耐え得るように下皿全体を包み込める構造の搬送用容器を作製することにした。次に、この構造を実現可能な実施例を詳述する。
【実施例1】
【0036】
(細胞シート搬送用容器の概略)
本発明の実施例1に係る細胞シート搬送用容器1(以下、単に「搬送用容器」、「搬送容器」、又は「容器」とも呼ぶ。)の概略とその構造について説明する。図1は、この搬送用容器1の構成要素を視認できるように示した分解斜視図である。容器1の主な構成要素は、図1に示すように、容器本体20と、この容器本体20を覆う蓋体30である。
【実施例1】
【0037】
(容器本体の構造)
この容器本体20は、開口部21と、細胞シート2を培養するためのシャーレ下皿40を開口部21を通して載置可能な底部22と、底部22の外縁から立設しかつシャーレ下皿40(以下、単に「下皿」と呼ぶこともある。)を囲繞可能な周壁部23と、が設けられる。なお、図1に示すシャーレ下皿40には、図示しないシャーレ蓋を支持するフランジ部41が周方向外側に(つまり周壁部42の外周面に沿って)突設されており、容器本体20の周壁部23には、このフランジ部41の形状に対応した形状を有した段差(つまり肩部)23が設けられている。
【実施例1】
【0038】
(蓋体の構造)
一方、蓋体30は、容器本体20に組み付けたシャーレ下皿40の開口部43を覆うことができる基部31と、この基部31の外縁から下側に延びた周壁部32と、を備える。この蓋体30の基部31及び周壁部32と、容器本体20の周壁部23と、によって、容器本体20の底部22に載置されたシャーレ下皿40(通常、薄厚の容器)は完全に内包されるとともに容器1の外側からの衝撃や振動から保護されることになる。
【実施例1】
【0039】
(シール材の構造)
また、基部31の内面31isにはその外周縁に亘って溝31trが形成されている(図4(a)を参照)。この溝31trにはその全長(全周)に亘ってシール材33(例えば、パッキン)が充填されている。シール材33は、シャーレ下皿40が本発明の容器1に格納された際には、シャーレ下皿40の周壁部42の上端面42に当接可能な形状(例えば、環状)や寸法(例えば、直径及び幅)を有している。
【実施例1】
【0040】
また、シール材33の変形例として、図4(b)に示すような、周方向に段差が付いたシール材33を使用してもよい。なお、図4(b)は、説明の便宜上、容器1の構成要素のうち、シール材33とシャーレ下皿40の断面のみを示している。この図4(b)の好適な例示には、周方向の内側部分33より大きな厚みを備えた外側部分33がシール材33の全周に亘って形成されている。言い換えれば、シール材33の外側部分33は、内側部分33よりもシャーレ下皿40に向かって延びるため、段差が形成されることになる。
【実施例1】
【0041】
シール材33の段差は、図4(b)に示すように、シャーレ下皿40の周壁部42の上端42に当接するだけでなくこの上端42を含めた周壁部42の上側部分をすっぽりと囲繞するため、図1及び図4(a)に示したシール材33を使用した場合よりも容器1の密封性をさらに向上できるだけでなく、このシール材33が形成された蓋体30のシャーレ下皿40への嵌合を容易にすることもできる。
【実施例1】
【0042】
(培養液注入用入口及び閉鎖具の構造)
また、蓋体30(好ましくは、その基部31の中央部)には、基部31を貫通する培養液注入用入口34(以下、単に「入口」とも呼ぶ。)が設けられている。さらに、蓋体30には、入口34の形状に対応し、かつ入口34に着脱自在な閉鎖具35が設けられる。これにより、蓋体30は、容器1内に格納した後でも、入口34を通して下皿40内に培養液3を満たすことが可能になる。入口34や閉鎖具35には種々の構成が採用可能であるが、図面を参照しながら好適な例を以下に述べる。
【実施例1】
【0043】
入口34は、図1及び図4(a)に示すように、基部31から外側に突き出た中空円筒形を成し、その外周面にネジ34(具体的にはネジ山とネジ溝)が設けられることが好ましい。一方、閉鎖具35は、図4(a)に示すように、入口34のネジ34に対応したネジ35(具体的にはネジ山とネジ溝)が内周面に設けられたスクリューキャップが好ましい。
【実施例1】
【0044】
以上の構成を備えた蓋体30では、シール材33が上述の通り下皿40の周壁部42の上端面42を液密に封止するため、下皿40の最大容量を超えて入口34の上端面(閉鎖具35の内面35is)までの容器1の内部空間全てを培養液3で完全に満たすことが可能である。これにより、搬送中に細胞シート2の損傷の一因となっていた空気を完全に容器1の内部空間から排除することが可能となる。
【実施例1】
【0045】
また、この実施例1の入口34と閉鎖具35とは、上述のように互いに対応したネジ34,35を有しているため、入口34に対して閉鎖具35を回動することで、入口34を閉鎖具35で堅固に締め付けることができる。従って、細胞シート2の搬送中に、閉鎖具35がふとした拍子で外れ、入口34から培養液3が漏れだす懸念や心配を無くすことができる。
【実施例1】
【0046】
なお、閉鎖具35を回転させるときのグリップ性を向上させるために、把持部35(例えば、図1~図3に示した多数の縦溝)を閉鎖具35の外周面に形成してもよい。
【実施例1】
【0047】
また、蓋体30の基部31には、頂点付近が入口34に接続した中空円錐形(図4(a)参照)又は中空角錐形(図示せず)の隆起部31upが形成されていることがさらに好ましい。これにより、下皿40に培養液3を満たす際に混入する恐れのある気泡が容器1の内部空間に留まりにくくなり、培養液3内で気泡に生ずる浮力により入口34の上面に誘導され易くなる。従って、空気層のみならず培養液3中の気泡までも容器1の内部空間から効率良く排出可能となる。
【実施例1】
【0048】
(接続手段の構造)
次に、容器本体20と蓋体30とを接続及び一体化する接続手段の一例(実施例では、第1・第2構造51,61)について説明する。図1に示すように、容器本体20の周壁部23の外周面上には4つの第1構造51が設けられている。第1構造51は、図3に示すように、周壁部23の外周の長さを均等に分けるように周壁部23上に配設されていることが好ましく、これにより、第1構造51は、蓋体30を容器本体20の周壁部23の外周に沿ってより均等に固定することができる。
【実施例1】
【0049】
第1構造51の各々には、互いに所定距離だけ離間しかつ周壁部23から外側へ突出した一対の旋回支持部52,52と、これらの旋回支持部52,52の間に収容された第1本体53と、が設けられている。なお、実施例1の第1本体53は棒状を成す。第1本体53の一端には軸54が第1本体53に対して垂直に接続されており、この軸54の端部がそれぞれ、旋回支持部52,52内に設けられた孔52に回転自在に嵌め込まれている。このような構造により、旋回支持部52,52間の第1本体53は軸54を基点として回転可能となる。なお、第1構造51には、孔52の位置よりさらに外側下方位置に第1本体53の回転を規制する規制手段55が設けられてもよい。図示の例では、規制手段55は旋回支持部52,52の間に延びた部材である。この規制手段55により、第1本体53の回転は容器本体20の上方位置から水平位置までに規制され、容器本体20の底部22の裏面(図示せず)に接近することは無くなり、容器本体20のより安定した着座が保証される。
【実施例1】
【0050】
一方、蓋体30には、その周壁部32の外周面上に受容部62を備えた第2構造61が設けられている。第2構造61は、蓋体30を容器本体20に固定する際には、図2及び3に示すように、上記第1構造51に対応した位置に配置されることになる。
【実施例1】
【0051】
この受容部62は、軸54を中心に第1本体53をその垂直位置に旋回させた際に第1本体53を受け入れ可能な形状を成しており、例えば、外側に開口したU字形(図示)やC字形(図示せず)の断面を有した凹部を成してもよい。
【実施例1】
【0052】
また、第1本体53の他端(軸54が形成された一端とは異なる端部)付近の外周面にはネジ部53s(ネジ山とネジ溝)を設け、このネジ部53に沿って第1本体53の長手方向に移動する締結具56を他端に設けることがさらに好ましい。図示の締結具56は、中空円筒形状を成しかつこの内周面に第1本体53のネジ部53に対応したネジ部56を備えている。このような構成の第1・第2構造51,61によれば、図2及び図3に示すように、締結具56が軸54から離れるように締結具56を移動させておけば、第1本体53を受容部62に収容できる。さらに第1本体53が受容部62内に受容された後に、軸54に近づくように締結具56を回転(移動)させていけば、締結具56は、図2~図4(a)に示すように最終的には、その下面が受容部62の上面62を押し付けた状態で固定される。従って、以上の構成の接続手段51,61により、蓋体30を容器本体20に堅固に固定することができる。
【実施例1】
【0053】
また、締結具56を回転させるときのグリップ性を向上させるために、把持部56(例えば、多数の縦溝)を締結具56の外周面に形成してもよい。なお、第1構造51や第2構造61は、容器本体20や蓋体30に一体的に形成されていてもよいし、これらの構成要素20,30に別部材として取り付けられていてもよい。
【実施例1】
【0054】
なお、容器1の各構成部材の材質はチタンやステンレス等の金属や樹脂が考えられるが、量産性や軽量な点から樹脂(例えば、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、アクリル)が好ましく、容器1の内部状態の視認性向上の観点から透明又は半透明の樹脂がさらに好ましい。なお、医療分野においては、業務の効率化、感染防止の安全面、製造コスト等の観点から、医療器具等のディスポーザブル化(一回きりの使い捨て)が進んでおり、上記樹脂材料を採用することで本発明の容器1をディスポーザブル化に対応させることができる。
【実施例1】
【0055】
(搬送容器を用いた搬送方法)
次に、本発明の容器1を用いた搬送方法の一例を示す。搬送元の病院等の医療施設では、国等で認可を受けた培養手順に従いながらクリーンベンチ等の清潔な空間内で汎用シャーレを用いて細胞シート2を培養する。シャーレ下皿40の底部内面44isに付着した細胞シート2が所望の状態まで培養された後、シャーレの蓋(図示せず)を取り外し、下皿40のみを容器本体20の底部22に載置する。次いで、容器本体20の上側から蓋体30を被せ、第1本体53を軸54回りに旋回して蓋体30外周面の受容部62に収容し、第1本体53の他端にある締結具56を回転させることによって蓋体30を容器本体20に固定させる。そして、蓋体30の基部31の中央に位置した入口34から培養液3をさらに注入して、容器1内の内部空間を培養液3で完全に満たすことで、この内部空間から空気層や気泡を排除する。その後、閉鎖具35(スクリューキャップ)で入口34を閉栓する。これで、搬送元の施設での搬送準備が完了し、搬送元から搬送先まで公知の移動手段で容器1を移動する。なお、公知の移動手段として車や飛行機が挙げられ、本発明の容器1を宅配便等により国内外へ送ることも可能である。
【実施例1】
【0056】
搬送先で容器1を受け取ったオペレータは、閉鎖具35を取り外し、入口34等に図示しないスポイド等を挿入して大半の培養液3を容器の外へ排出(廃棄)する。また、締結具56を緩めて、蓋体30を容器本体20から取り外して、露出したシャーレ下皿40を容器本体20から取り出す。本発明の容器1がディスポーザブルの場合、搬送中に外部環境に接触していた容器本体20や蓋体30をこの時点で廃棄する。容器1の再利用を望む場合には、容器1の各構成部材20,30に滅菌処理等を行う必要がある。
【実施例1】
【0057】
一方、シャーレ下皿40は、搬送前はクリーンベンチ内の清潔空間に通常保管され、搬送中も本発明の容器1内に格納されているので、容器1の上記構成部材20,30に比べ清潔である。従って、搬送先で新たに用意した清潔なシャーレ蓋(図示せず)をシャーレ下皿40に取り付ければ培養を再開することができる。あるいは、培養液3を上述のように廃棄して生理的食塩水などで細胞シート2を数回洗浄すれば、これを直ちに移植治療に適用できる。このように、搬送元のシャーレ下皿40をそのまま有効に利用できるため、搬送先での簡便かつ迅速な細胞シート2の利用が可能となる。
【実施例1】
【0058】
(実施例1の変形例)
また、本発明の接続手段の構造も上記の好適な実施例1に限定されず、様々な接続構造が考えられる。例えば、上記実施例1の第1構造51及び第2構造61の対は4対に限定されない。例えば、少なくとも2対だけでも容器本体20への蓋体30の固定は可能である。もちろん、この対の数が多くなる程、堅固かつ周方向に均一な蓋体30の固定が保証される。また、上記実施例1の第1構造51及び第2構造61の対を1対のみ容器1に設けた場合でも、容器本体20と蓋体30とを接続しつつ蓋体30を開閉可能なヒンジ(図示せず)を容器1にさらに配設すれば、実施例1と同様に、シャーレ下皿40を容器1内に格納して蓋体30を容器本体20に接続することができる。
【実施例1】
【0059】
また、これらの例に限らず、接続手段には、公知のクランプ構造や、蓋体30を容器本体20内にスライドしてロック可能な構造など様々な変形例が考えられる。
【実施例1】
【0060】
なお、上記実施例1では容器1に適用するシャーレとして丸形シャーレを前提とし、容器本体20や蓋体30は円形や円筒形を成していたが、この形状に限定されない。例えば、汎用性のあるシャーレには、角形シャーレやその他の形状のシャーレの使用も想定され、このような場合には、容器本体20や蓋体30は使用するシャーレに対応した形状(例えば、矩形や立方体)を有してもよい。
【実施例1】
【0061】
加えて、市販シャーレが丸形であっても、製造元が変わればその外形寸法が多少異なる場合があるため、容器本体20の周壁部23内側にあてがうことが可能なアダプター部材(図示せず)を用意してもよい。
【実施例1】
【0062】
また、容器本体20の底部22の一部に貫通穴(図示せず)を設け、貫通穴を覆うようにフィルム(図示せず)を当該貫通穴のいずれかの端面の外周に接着(例えば、ヒートシール)するようにしてもよい。このような構成により、搬送先で容器本体20から蓋体30をはずした際に、このフィルムを剥がして貫通穴から指等でシャーレ下皿40を押し出すことができるようになるため、さらに、容器本体20からのシャーレ下皿40の取外しが容易になる。
【実施例2】
【0063】
次に、図5~図8を参照しながら、実施例2の細胞シート搬送用容器1を例示する。実施例2の容器1は、実施例1で示した容器1の基本的な構成要素である容器本体20と蓋体30と備えている。しかしながら、実施例2の容器1では、後述するように、容器本体20と蓋体30とを接続及び一体化するための接続手段51,61や蓋体30上の閉鎖具35に関する具体的な構造が実施例1の構造と異なる。なお、図5~図8に表記され、かつ、上述の実施例1と同様の符号を付されている構成要素は、実施例1において対応する構成要素と同様の役目を果たすため、ここではこれらの説明を省略する。
【実施例2】
【0064】
(実施例2の接続手段)
実施例2の容器1も、実施例1の容器1と同様に、容器本体20の周壁部23の外周面上には4つの第1構造51が設けられている。実施例2の第1構造51も、図5~図7に示すように、周壁部23の外周の長さを均等に分けるように配設されていることが好ましい。実施例2の第1構造51は、一端に軸(図示せず)が設けられた第1本体53を有する。なお、実施例2の第1本体53は、全体的に板状を成す。実施例2の場合も、第1構造51の各々には、互いに所定距離だけ離間しかつ周壁部23から外側へ突出した一対の旋回支持部52,52が設けられる。第1本体53の軸の端部はそれぞれ、旋回支持部52,52内に設けられた孔52に回転自在に嵌め込まれる。これにより、旋回支持部52,52は、第1本体53を回転自在に収容できるようになる。
【実施例2】
【0065】
一方、蓋体30には、その周壁部32の外周面上に受容部62,62を備えた第2構造61が設けられている。第2構造61は、実施例1のそれと同様に、蓋体30を容器本体20に固定しようとする際には、第1構造51に対応した設置数と設置位置に配置されることになる。なお、実施例2の受容部62,62は、旋回支持部52,52の離間距離とほぼ同じ距離だけ互いに離れた2つの部材で構成されてもよい。
【実施例2】
【0066】
第1構造51の第1本体53の他端にはハンドル57が設けられてもよい。操作者は自身の指でこのハンドル57を摘まみながら、第1本体53を軸回りに容易に旋回させることができるようになる。さらに、ハンドル57の両側には凸部(例えば、円筒状凸部)58,58を設置し、一方、それぞれの受容部62には、凸部58,58を収容するための切欠き部63,63と、一旦、切欠き部63,63に収容された凸部58,58が逃げないようにするための外れ止め部64,64が形成されてもよい。このような切欠き部63,63及び外れ止め部64,64を受容部62,62に設置することによって、これらの凸部58,58は、第1構造51(つまり容器本体20)を第2構造61(つまり蓋体30)に係合するためのフック部の役目を発揮することになる。
【実施例2】
【0067】
なお、上述の接続手段51,61の各構成部品は、軽量や成形性の観点から樹脂製であることが好ましいが、別の原材料で作られてもよい。
【実施例2】
【0068】
(実施例2の閉鎖具)
実施例2の閉鎖具35は、図5に示すように、入口34の内径に対応した寸法の外径を有しかつ円筒状を成す延長部35と、延長部35の外径より大きな外径を有した鍔部35とを備える。このような構造により、閉鎖具35は、延長部35が蓋体30の入口34に内挿された状態で入口34を閉鎖できる。つまり、容器1の搬送に必要な培養液3の量をさらに削減できる。
【実施例2】
【0069】
また、延長部35は、図5及び図8に示すように、好ましくは、入口34の深さに対応した長さを有する。また、この入口34の内周面と延長部35の外周面とには、互いに対応した構造を成す螺旋溝34,35が形成されることが好ましい。なお、鍔部35の外周には、グリップ性向上のための把持部35が形成されることが好ましい。また、閉鎖具35の内側には孔35が形成されてもよく、これにより、原材料コストを抑制することができる。なお、上述の閉鎖具35は、軽量や成形性の観点から樹脂製であることが好ましいが、ゴムその他の原材料で作られてもよい。
【実施例2】
【0070】
なお、実施例2の容器本体20の周壁部23は、肩部23を境として上側部分23と下側部分23とを備え、かつ、下側部分23は上側部分23の外径よりやや小さな外径を有するように構成されていてもよい。これにより、下側部分23の肉厚、ひいては容器本体20の原材料コストを削減することが可能となる。
【実施例2】
【0071】
(性能確認試験)
本発明の実施例1に係る容器1の搬送性能を確認するために、次に述べる水漏れ確認試験と培養細胞を用いた搬送模擬試験とを行った。なお、今回の確認試験では、3Dプリンターによって作製された樹脂製の容器1を使用した。
【実施例2】
【0072】
(水漏れ確認試験)
シャーレ下皿40を格納する容器本体20の底部22にティッシュペーパーを薄く敷き、その上にシャーレ下皿40を置いた。さらに蓋体30を置き、接続手段により蓋体30を容器本体20に固定して下皿40を容器1内に格納した。次に、赤い色素(ケルンエヒト液)を含んだ蒸留水を容器1内(つまり、下皿40の内面44is,42isと蓋体30の内面31isで区画された内部空間内、図4(a)を参照)に満たし、この空間から気泡を可及的に排出し、閉鎖具35(スクリューキャップ)でこの内部空間を硬く締めた。
【実施例2】
【0073】
そして、容器1を垂直に立て懸け、その状態を48時間ほど保持し、下皿40内部からの水漏れの有無を観察した。具体的には、容器1内の色素を含んだ蒸留水を吸い出した後、底部22に敷いたティッシュペーパーに色素付着の有無を確認した。その結果、ティッシュペーパーに色の付着は確認されず、下皿40からの蒸留水の漏れは認められなかった。従って、蓋体30の内面31isに設けられたシール材33と下皿40との密封性が確保されており、この容器1は水漏れ試験をパスしたものと判断できる。
【実施例2】
【0074】
(培養細胞を用いた搬送模擬試験)
ヒト骨膜シートの使用は倫理審査規定に抵触する恐れがあるため、市販のヒト骨肉腫細胞(Saos-2)を分散状態でシャーレ内に培養した。このシャーレの下皿40を上述のように搬送容器1内に格納し、室温(16~18℃)で48時間、振とう器にかけ、細胞の剥離や形態的変異に及ぼす影響を検討した。
【実施例2】
【0075】
図9(a)は、搬送容器1にシャーレ下皿40を格納する前の細胞の様子を示したものである。細胞はラグビーボールようにその長径が比較的短い紡錘形を成し、細胞密度は30~40%程度のコンフルエント状態であった。
【実施例2】
【0076】
48時間後にシャーレ下皿40を取り出して、細胞の様子を観察した。その様子を図9(b)に示す。細胞密度は若干上がっていたが、48時間の振とう後においても、細胞の基本的形態に変化は無いことが確認できた。また、剥離した細胞の数を比較しても、有意な増加は認められなかった。
【実施例2】
【0077】
蓋体30を下皿40から外し、通常のシャーレの蓋に付け替え、COインキュベータ内に戻して、さらに24時間培養した。この状態の観察結果を図9(c)に示す。細胞は通常の増殖速度を取り戻しつつあり、細胞密度も上がる傾向にあった。
【実施例2】
【0078】
この試験結果と、容器1からの蒸留水の水漏れは認めなかった上記結果と、を考え合わせると、細胞への有害な影響は認められず、本発明の容器1は本発明の目的に合致した性能を実現していると評価できる。
【産業上の利用可能性】
【0079】
上述したように、再生医療分野、特に歯周科、口腔外科、眼科、心臓外科などの分野で、細胞シートを適用した治療が注目されているが、医療施設から他の医療施設まで等の遠距離を安全かつ搬送準備の手間が掛らない搬送器具は存在していない。
【0080】
これに対して、本発明の細胞シート搬送用容器は、上述の通り、搬送元のシャーレ下皿を有効に利用しながら清潔な状態で細胞シートを密封・格納できるものである。従って、本発明は、上記医療分野での細胞シートを利用した病院間連携の後押し、並びに、医療レベル格差の是正に寄与するものであり、産業上の利用価値は非常に高い。
【符号の説明】
【0081】
1 細胞シート搬送用容器
2 細胞シート
3 培養液
20 容器本体
21 容器本体の開口部
22 容器本体の底部
30 蓋体
31 蓋体の基部
31is 蓋体(の基部)の内面
31up 蓋体(の基部)の隆起部
33 シール材
34 入口
35 閉鎖具
40 シャーレの下皿
42 下皿の周壁部
42is 下皿の周壁部内面
42 下皿の上端
43 下皿の開口部
44 下皿の底部
44is 下皿の底部内面
51 接続手段(の第1構造)
52 旋回支持部
53 第1本体
54 軸
55 規制手段
56 締結具
57 ハンドル
58 凸部
61 接続手段(の第2構造)
62 受容部
63 切欠き部
64 外れ止め部
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8