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明細書 :人工角膜及び人工角膜の生産方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2014-030596 (P2014-030596A)
公開日 平成26年2月20日(2014.2.20)
発明の名称または考案の名称 人工角膜及び人工角膜の生産方法
国際特許分類 A61F   2/14        (2006.01)
A61L  27/00        (2006.01)
FI A61F 2/14
A61L 27/00 D
請求項の数または発明の数 9
出願形態 OL
全頁数 18
出願番号 特願2012-172918 (P2012-172918)
出願日 平成24年8月3日(2012.8.3)
発明者または考案者 【氏名】中山 泰秀
【氏名】上地 正実
【氏名】滝山 直昭
出願人 【識別番号】510094724
【氏名又は名称】独立行政法人国立循環器病研究センター
【識別番号】899000057
【氏名又は名称】学校法人日本大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100077780、【弁理士】、【氏名又は名称】大島 泰甫
【識別番号】100106024、【弁理士】、【氏名又は名称】稗苗 秀三
【識別番号】100167841、【弁理士】、【氏名又は名称】小羽根 孝康
【識別番号】100168376、【弁理士】、【氏名又は名称】藤原 清隆
審査請求 未請求
テーマコード 4C081
4C097
Fターム 4C081AB21
4C081BB09
4C081BC04
4C081CD08
4C081CD11
4C081CD12
4C081CD27
4C081CD34
4C081DC06
4C081EA02
4C097AA24
4C097BB01
4C097CC01
4C097CC02
4C097CC03
4C097CC14
4C097CC18
4C097DD15
4C097EE18
4C097EE19
4C097SA04
要約 【課題】所望の厚さの人工角膜を形成することができ、しかも、人工角膜の両面を所望の表面状態に形成することのできる人工角膜及び人工角膜の生産方法の提供。
【解決手段】人工角膜1を形成する二面の角膜形成面4を互いに対向させる。人工角膜形成用基材2を生体組織材料の存在する環境に配置する。角膜形成面4に人工角膜1を形成する。人工角膜1の両面が角膜形成面4に合って形成される。角膜形成面4の間隔を適宜設定する。所望の厚さの人工角膜1が形成される。角膜形成面4を平滑面に形成する。人工角膜1の両面が平滑面になどの所望の表面状態に形成される。
【選択図】 図1
特許請求の範囲 【請求項1】
生体組織材料の存在する環境において基材の表面に形成された人工角膜であって、当該人工角膜の両面が前記基材の表面に合わせて形成されたことを特徴とする人工角膜。
【請求項2】
中央部が膨らんだ球面状に形成され、当該人工角膜の周囲の余剰部分が除去されたことを特徴とする請求項1に記載の人工角膜。
【請求項3】
生体組織材料の存在する環境に配置して基材表面に人工角膜を形成可能な基材であって、前記人工角膜の両面を基材表面に合わせて形成するよう、人工角膜を形成する二面の角膜形成面が互いに対向して設けられたことを特徴とする人工角膜形成用基材。
【請求項4】
前記角膜形成面を有する複数枚の板状基材が互いに間隔をあけて設けられ、前記複数枚の板状基材が互いに分解可能とされたことを特徴とする請求項3に記載の人工角膜形成用基材。
【請求項5】
前記角膜形成面を有する一対の基材が設けられ、該一対の基材の角膜形成面は、中央部が膨らんだ球面状の凸面と中央部が窪んだ球面状の凹面とに形成されて互いに間隔をあけて設けられ、前記一対の基材が互いに分解可能とされたことを特徴とする請求項3に記載の人工角膜形成用基材。
【請求項6】
前記二面の角膜形成面の間隔が0.1mm~2mmに設定されたことを特徴とする請求項3、4又は5に記載の人工角膜形成用基材。
【請求項7】
前記角膜形成面の表面粗さが算術平均粗さで50μm以下に設定されたことを特徴とする請求項3~6のいずれかに人工角膜形成用基材。
【請求項8】
請求項3~7のいずれかに記載の人工角膜形成用基材を生体組織材料の存在する環境下におく設置工程と、前記人工角膜形成用基材の周囲に結合組織を形成しつつ、互いに対向する角膜形成面の間に結合組織を形成する形成工程と、前記環境下から結合組織で被覆された前記人工角膜形成用基材を取り出す取り出し工程と、前記人工角膜形成用基材から前記角膜形成面の間の結合組織を剥離して人工角膜として取り出す分離工程と、を備え、
前記分離工程は、人工角膜形成用基材の周囲の結合組織を除去した後、人工角膜形成用基材を分解して人工角膜を取り出すことを特徴とする人工角膜の生産方法。
【請求項9】
前記設置工程において、互いに対向する角膜形成面の間に結合組織の形成を促進する生体組織材料を収容しておくことを特徴とする請求項8に記載の人工角膜の生産方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、生体内などの生体組織材料の存在する環境において形成される人工角膜及び人工角膜の生産方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、視覚障害を引き起こす重要な原因の一つとして、角膜に混濁をきたす疾患があり、この角膜疾患のうち、ウイルスや細菌などの感染や外傷、遺伝性角膜疾患などについては、その治療に角膜移植を必要とする。
【0003】
角膜移植には、アイバンクに登録、献眼されたドナー角膜が用いられるが、近年の日本においては、献眼人数が年間約1000人であるの対して角膜移植眼数が年間約1500眼で、待機患者数が2000~3000人とも言われており、一部の角膜移植には海外から輸入したドナー角膜が用いられている。さらに、輸入したドナー角膜を用いるにしても、アイバンクの整備されている国は先進国に限られており、後進国ではアイバンクが整備されておらず、また、感染により角膜が移植不適合になっていることも多いといった問題がある。
【0004】
このようにドナー角膜が不足している現状において、ドナー角膜の代わりに羊膜を移植することがあり、この羊膜移植は、感染や外傷、遺伝性角膜疾患による角膜混濁のうち、角膜上皮幹細胞や角膜内皮細胞の障害が限定的な疾患で、コラーゲン線維を中心とする角膜実質の障害の治療において、良好な結果が得られている。さらに、近年、再生医療技術を応用した培養角膜や、その他の人工角膜についての研究が行われており、これらの人工角膜は、特に、細胞増殖能が重要となる角膜上皮幹細胞や角膜内皮細胞の疾患についての治療における有効性が期待されている。
【0005】
ただ、羊膜移植は、その羊膜移植部分の透明性の回復が限定的であることから二次的な角膜移植を必要とし、しかも、拒絶反応が起こり難いという利点があるものの、他家移植であることから感染の危険性を排除することはできない。また、培養角膜を採用するには、細胞培養の設備とその知識及び技術を有する技術者とを必要とし、さらに、その他の人工角膜については、種々の素材からなるものが検討されているものの、現時点では、生産が容易で長期的に良好な結果が得られる人工角膜は開発されていない。
【0006】
これに対して、例えば生体内で結合組織からなる人工角膜を形成することにより、人工角膜の形成を容易にすることが考えられ、さらに、その人工角膜を自己の体内で形成することにより、移植後の感染症や拒絶反応の危険性を極めて低くすることが期待できる。
【0007】
人工角膜を生体内で形成するには、生体内に基材を埋入し、その周囲に結合組織を形成して、これを人工角膜とすればよく、再生医療によって人工血管や人工弁などを形成するのと同様の手法を用いることができる。この手法は、身体の自己防衛反応を利用して生細胞から人工血管や人工弁などの生体由来組織を形成するものであり、生体内に異物としての基材を埋入して結合組織体を形成する技術が複数報告されている(特許文献1~3参照)。なお、この手法で利用する自己防衛反応は、体内の深い位置にトゲ等の異物が侵入した場合に、その周りに繊維芽細胞が徐々に集まって、主に繊維芽細胞とコラーゲンからなる結合組織体のカプセルを形成して異物を覆うことにより、体内において異物を隔離しようとする反応である。
【0008】
このような手法で人工角膜を形成する場合、生体内に埋入する異物としての基材の形状や大きさを適宜設定することにより、所望の形状や大きさの人工角膜を形成することができる。
【先行技術文献】
【0009】

【特許文献1】特開2007-312821号公報
【特許文献2】特開2008-237896号公報
【特許文献3】特開2010-094476号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところが、生体内に埋入した基材の周囲に人工角膜を形成する場合、基材の形状や大きさを適宜設定して、その周囲に所望の形状や大きさの人工角膜を形成することはできるものの、人工角膜を所望の厚さに形成することはできない。また、基材の平滑性などの表面状態を適宜設定することにより、人工角膜のうちの基材側の面を所望の表面状態に形成することはできるものの、基材と反対側の面を所望の表面状態に形成することはできない。
【0011】
本発明は、所望の厚さの人工角膜を形成することができ、しかも、人工角膜の両面を所望の表面状態に形成することのできる人工角膜及び人工角膜の生産方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明に係る人工角膜は、生体組織材料の存在する環境において基材の表面に形成したものであり、この人工角膜の両面を基材の表面に合わせて形成したものである。
【0013】
上記構成によれば、人工角膜の両面を基材表面に合わせて形成しているので、基材表面を平滑面に形成して人工角膜の両面を平滑面に形成するなど、人工角膜の両面を所望の表面状態に設定することができ、しかも、人工角膜の両面を形成する基材表面の間隔を適宜設定して、人工角膜を所望の厚さに設定することができる。さらに、人工角膜の両面を基材表面に合わせて形成することにより、一面を基材表面に合わせて人工角膜を形成する場合よりも、人工角膜のうちの基材表面から最も離れた部位までの距離を短くすることができ、人工角膜を厚くかつ密度を均一にすることができる。
【0014】
ここで、「生体組織材料」とは、所望の生体由来組織を形成するうえで必要な物質のことであり、例えば、線維芽細胞、平滑筋細胞、内皮細胞、幹細胞、ES細胞、iPS細胞等の動物細胞、各種たんぱく質類(コラーゲン、エラスチン)、ヒアルロン酸等の糖類、その他、細胞成長因子、サイトカイン等の生体内に存在する各種の生理活性物質が挙げられる。この「生体組織材料」には、ヒト、イヌ、ウシ、ブタ、ヤギ、ヒツジ等の哺乳類動物、鳥類、魚類、その他の動物に由来するもの、又はこれと同等の人工材料が含まれる。
【0015】
また、「生体組織材料の存在する環境下」とは、動物(ヒト、イヌ、ウシ、ブタ、ヤギ、ヒツジ等の哺乳類動物、鳥類、魚類、その他の動物)の生体内(例えば、四肢部、腰部、背部又は腹部などの皮下、もしくは腹腔内への埋入)、又は、動物の生体外において、生体組織材料を含有する人工環境のことをいう。
【0016】
また、人工角膜を中央部が膨らんだ球面状に形成し、この人工角膜の周囲の余剰部分を除去するようにしてもよい。
【0017】
この構成によれば、人工角膜の周囲の余剰部分を除去するので、人工角膜を移植対象の眼球の球面形状に合わせるよう、基材に、人工角膜の両面を形成する一対の球面部分を設けると共に、この球面部分に加えて、その周囲に一対の球面部分を所定の間隔に保持する部位を設けることができ、球面状の人工角膜を形成するための基材の構造を簡単にすることができる。
【0018】
また、本発明は、生体組織材料の存在する環境に配置して基材表面に人工角膜を形成可能な基材であって、人工角膜の両面を基材表面に合わせて形成するよう、人工角膜を形成する二面の角膜形成面を互いに対向して設けた人工角膜形成用基材を提供する。
【0019】
この構成によれば、二面の角膜形成面を互いに対向させるので、その間隔を適宜設定して、所望の厚さの人工角膜を形成することができる。しかも、人工角膜の両面を基材表面に合わせて形成するので、角膜形成面を平滑面に形成して人工角膜の両面を平滑面に形成するなど、人工角膜の両面を所望の表面状態に形成することができる。さらに、対向する二面の角膜形成面の間に人工角膜を形成するので、一面の角膜形成面の外側に人工角膜を形成する場合よりも、人工角膜のうちの角膜形成面から最も離れた部位までの距離を短くすることができ、厚くかつ密度の均一な人工角膜を形成することができる。すなわち、所望の十分な厚さで均一な密度、かつ、両面が所望の表面状態である上記の人工角膜と同様の人工角膜を形成することができる。
【0020】
本発明の人工角膜形成用基材は、二面の角膜形成面を互いに対向させて設けたものであれば、その角膜形成面の形状や基材全体の構造などは特に限定されるものではなく、形成しようとする人工角膜の形状に応じて種々のものを採用することができる。
【0021】
例えば、人工角膜形成用基材として、角膜形成面を有する複数枚の板状基材を互いに間隔をあけて設け、複数枚の板状基材を互いに分解可能としたものを例示できる。
【0022】
この構成によれば、角膜形成面を有する複数枚の板状基材を互いに間隔をあけて設けるので、板状基材の間の隙間に人工角膜を形成することができ、しかも、複数枚の板状基材を分解して、板状基材の間に形成した人工角膜を容易に取り出すことができる。
【0023】
また、別の構成の人工角膜形成用基材として、角膜形成面を有する一対の基材を設け、この一対の基材の角膜形成面を、中央部が膨らんだ球面状の凸面と中央部が窪んだ球面状の凹面とに形成して、互いに間隔をあけて設け、一対の基材を互いに分解可能としたものを採用することもできる。
【0024】
この構成によれば、球面状の凸面と凹面とを角膜形成面として、互いに間隔をあけて設けるので、角膜形成面の間の隙間に球面状の人工角膜を形成することができ、しかも、一対の基材を分解して、その角膜形成面の間に形成した人工角膜を容易に取り出すことができる。
【0025】
また、二面の角膜形成面の間隔は特に限定されるものではないが、角膜形成面の間隔を0.1mm~2mmに設定するのが好適である。
【0026】
この構成によれば、角膜として十分な厚さの人工角膜を形成することができ、しかも、二面の角膜形成面の間を結合組織が侵入するのに十分な間隔に設定しつつ、その隙間における任意の位置から角膜形成面までの距離を十分に小さくして均一な密度の人工角膜を形成することができる。
【0027】
また、角膜形成面の表面粗さは特に限定されるものではないが、角膜形成面の表面粗さを算術平均粗さで50μm以下に設定するのが好適である。
【0028】
この構成によれば、角膜形成面の表面を平滑に設定する分、結合組織の侵入を容易にして結合組織の形成状態を良好にすると共に、人工角膜の両面を角膜として十分に平滑に設定することができ、しかも、人工角膜を形成した後には、この人工角膜を角膜形成面から容易に剥離して取り出すことができる。
【0029】
また、本発明は、上記の人工角膜形成用基材を用いて、人工角膜を生産する方法を提供する。すなわち、本発明に係る人工角膜の生産方法は、人工角膜形成用基材を生体組織材料の存在する環境下におく設置工程と、人工角膜形成用基材の周囲に結合組織を形成しつつ、互いに対向する角膜形成面の間に結合組織を形成する形成工程と、環境下から結合組織で被覆された人工角膜形成用基材を取り出す取り出し工程と、人工角膜形成用基材から角膜形成面の間の結合組織を剥離して人工角膜として取り出す分離工程と、を備える。さらに、分離工程においては、人工角膜形成用基材の周囲の結合組織を除去した後、人工角膜形成用基材を分解して人工角膜を取り出す。
【0030】
この構成によれば、上記の人工角膜形成用基材の構成を採用することによる効果と同じ効果を得ることができる。なお、本発明において、移植対象者に対して、自家移植、同種移植、異種移植のいずれでもよいが、拒絶反応を避ける観点からなるべく自家移植か同種移植が好ましい。また、異種移植の場合には、拒絶反応を避けるため公知の脱細胞化処理などの免疫源除去処理を施すのが好ましい。
【0031】
さらに、設置工程において、互いに対向する角膜形成面の間に結合組織の形成を促進する生体組織材料を収容しておくようにしてもよい。ここで、結合組織の形成を促進する生体組織材料は、例えば、血液、脂肪、コラーゲン、ゼラチン、及びこれらに増殖因子などを含ませたものなどである。
【0032】
この構成によれば、角膜形成面の間に結合組織の形成を促進する生体組織材料を収容しておくので、結合組織が成長しながら角膜形成面の間の空間に徐々に侵入していくのを待つよりも、組織形成に要する時間を短くすると共に、組織形成をより確実にすることができる。
【0033】
また、人工角膜形成用基材に結合組織の形成を促進する手段を設けることにより、人工角膜の力学的性質や成分を良好にし、比較的に短時間で良質の人工角膜を形成するようにしてもよい。具体的には、人工角膜形成用基材に、結合組織の形成を促進可能なLEDを設けた構成や、結合組織の形成を促進可能な薬剤を収容して徐々に放出する薬剤収容部を形成した構成を例示できる。
【発明の効果】
【0034】
上記のとおり、本発明によると、二面の角膜形成面を互いに対向させ、人工角膜をその両面を基材表面に合わせて形成するので、角膜形成面の間隔を適宜設定することにより、所望の厚さ、両面が平滑面などの所望の表面状態、十分な厚さ、かつ均一な密度の人工角膜を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明に係る人工角膜を示す写真
【図2】人工角膜の切断面を示す写真
【図3】人工角膜形成用基材の斜視図
【図4】基材表面に形成された結合組織を示す写真
【図5】眼球に移植した人工角膜を示す写真で、(a)は移植後1日、(b)は移植後5日、(c)は移植後15日の状態を示す
【図6】球面状の角膜形成面を有する人工角膜形成用基材の斜視図
【図7】図6の人工角膜形成用基材の表面に形成された結合組織を示す写真
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明に係る人工角膜及び人工角膜形の生産方法を実施するための形態について、図面を用いて説明する。

【0037】
図1及び図2に示す人工角膜1は、生体組織材料の存在する環境において人工角膜形成用基材2の表面に形成された結合組織を基材表面から分離したものであり、所望の形状に切断して角膜移植に用いるようになっている。この人工角膜1は、その両面が共に基材表面に接触した状態で形成され、所望の厚さで、十分な厚さ、かつ均一な密度に形成され、さらに、両面が平滑に形成されている。

【0038】
図3に示すように、人工角膜形成用基材2は、生体組織材料の存在する環境に配置して基材表面に人工角膜1を形成するためのものであり、2枚の板状基材3a、3bを互いに間隔をあけて設けてなり、人工角膜1の両面を基材表面に合わせて形成するよう、2枚の板状基材3a、3bの互いに対向する二面が人工角膜1を形成する角膜形成面4とされる。

【0039】
板状基材3a、3bは、わずかに湾曲した同一形状の長方形板とされ、互いに中央部の板厚方向に平行移動した位置関係に配置されて、四隅の結合部5を介して互いに分解可能に一体化されている。結合部5は、小径の円柱状とされ、その長さを適宜設定することにより、角膜形成面4の間隔である板状基材3a、3bの純間隔が設定され、さらに、この結合部5を切断することにより、板状基材3a、3bを互いに分解可能とする。

【0040】
板状基材3a、3bの形状、大きさ及び純間隔は、人工角膜1の形成しようとする形状、大きさ及び厚さに対応させて設定され、例えば、二面の角膜形成面4の間隔が0.1mm~2mmに設定される。さらに、角膜形成面4の表面状態は、人工角膜1の形成しようとする平滑性などの表面状態に応じて設定され、例えば、角膜形成面4の表面粗さが算術平均粗さで50μm以下に設定される。なお、板状基材は、複数枚であれば、2枚に限らず3枚以上であってもよく、3枚以上の場合、中間部の板状基材は、その両面に角膜形成面4を形成すればよい。

【0041】
人工角膜形成用基材2を構成する素材は、特に限定されるものではないが、生体に埋入することによる変形を防止できる程度の強度(硬度)、化学的安定性、及び、滅菌などの負荷に対する耐性を有し、さらに、生体を刺激する溶出物が全くないか少ないという条件を満たす樹脂が好ましく、シリコーン樹脂やアクリル樹脂を例示できる。

【0042】
次に、上記のような人工角膜形成用基材を用いて人工角膜を生産する方法について説明する。

【0043】
この生産方法は、人工角膜形成用基材2を生体組織材料の存在する環境下におく「設置工程」と、人工角膜形成用基材2の周囲に結合組織を形成しつつ、互いに対向する角膜形成面4の間に結合組織を形成する「形成工程」と、環境下から結合組織で被覆された人工角膜形成用基材2を取り出す「取り出し工程」と、人工角膜形成用基材2から角膜形成面4の間の結合組織を剥離して人工角膜1として取り出す「分離工程」とからなる。

【0044】
<設置工程>
人工角膜形成用基材2の互いに対向する角膜形成面4の間に、血液、脂肪、コラーゲン、ゼラチン、及びこれらに増殖因子などを含ませたものなど、結合組織の形成を促進する生体組織材料を収容しておき、この人工角膜形成用基材2を生体組織材料の存在する環境下へ置く。生体組織材料の存在する環境下とは、動物の生体内(例えば、皮下や腹腔内への埋入)、又は、動物の生体外において生体組織材料が浮遊する溶液中等の人工環境内が挙げられる。生体組織材料としては、ヒト、イヌ、ウシ、ブタ、ヤギ、ウサギ、ヒツジなどの他の哺乳類動物由来のものや、鳥類、魚類、その他の動物由来のもの、又は人工材料を用いることもできる。

【0045】
人工角膜形成用基材2を動物に埋入する場合には、十分な麻酔下で最小限の切開術で行い、埋入後は傷口を縫合する。人工角膜形成用基材2の埋入部位としては例えば、人工角膜形成用基材2を受け入れる容積を有する腹腔内、あるいは四肢部、肩部又は背部、腹部などの皮下が好ましい。また、人工角膜形成用基材2を生体組織材料の存在する環境下へ置く場合には、種々の培養条件を整えてクリーンな環境下で公知の方法に従って細胞培養を行えばよい。

【0046】
<形成工程>
設置工程の後、所定時間が経過することにより、人工角膜形成用基材2の周囲に膜状の結合組織が形成され、さらに、結合組織が成長して板状基材3a、3bの角膜形成面4の間に侵入するように形成される。結合組織は、繊維芽細胞とコラーゲンなどの細胞外マトリックスで構成され、板状基材3a、3bの純間隔に対応する厚さに形成される。

【0047】
また、設置工程で、角膜形成面4の間に結合組織の形成を促進する生体組織材料を収容しておくので、結合組織が成長しながら角膜形成面4の間の空間に徐々に侵入していくのを待つよりも、組織形成に要する時間が短くなると共に、より確実に組織形成がされる。

【0048】
<取り出し工程>
所定時間の形成工程を経て、結合組織が十分に形成された後、人工角膜形成用基材2を生体組織材料の存在する環境下から取り出す取り出し工程を行う。生体組織材料の存在する環境下から取り出された人工角膜形成用基材2は、全体を結合組織による膜で覆われている(図4参照)。

【0049】
<分離工程>
人工角膜形成用基材2の周囲の結合組織を除去して、四隅の結合部5を切断し、人工角膜形成用基材2を2枚の板状基材3a、3bに分解して人工角膜1を剥がして取り出す。この人工角膜1は、板状基材3a、3bの角膜形成面4の曲面形状、大きさ、純間隔及び平滑性に対応する形状、大きさ、厚さ及び表面状態で、良質かつ均一な密度に形成されている(図1及び図2参照)。

【0050】
生産された人工角膜1を異種移植する場合には、移植後の拒絶反応を防ぐため、脱細胞処理、脱水処理、固定処理などの免疫源除去処理を施すのが好ましい。脱細胞処理としては、超音波処理や界面活性剤処理、コラゲナーゼなどの酵素処理によって細胞外マトリックスを溶出させて洗浄する等の方法があり、脱水処理の方法としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等の水溶性有機溶媒で洗浄する方法があり、固定処理する方法としては、グルタアルデヒドやホルムアルデヒドなどのアルデヒド化合物で処理する方法がある。

【0051】
次に、上記の人工角膜形成用基材及び生産方法を用いて人工角膜を生産する様子を具体的に説明する。

【0052】
まず、図3に示す人工角膜形成用基材2を体重10kgのビーグル犬の背部皮下に埋入し、そのビーグル犬を通常の飼育条件で1ヶ月飼育した後、結合組織で覆われた人工角膜形成用基材2を摘出した(図4参照)。人工角膜形成用基材2は、滅菌したアクリル製で、板状基材3a、3bの純間隔が0.5mmである。

【0053】
皮下で形成された結合組織は主として、線維芽細胞とコラーゲンから構成され、カプセル化して人工角膜形成用基材2の周囲を覆うと共に、角膜形成面4の間に侵入して人工角膜1を構成していた。また、結合組織の膜で覆われた人工角膜形成用基材2は、皮下組織より容易に摘出することができた。

【0054】
次いで、人工角膜形成用基材2の周囲の結合組織を剥がして取り除き、板状基材3a、3bを分離して、内部の人工角膜1を取り出した(図1参照)。なお、板状基材3a、3bの角膜形成面4と人工角膜1とは全く接着しておらず、両者は損傷無く容易に分離することができた。

【0055】
人工角膜1の厚さは、0.47±0.2mmであり、板状基材3a、3bの純間隔(0.5mm)と同程度の厚さであった(図2参照)。また、人工角膜1の両面とも角膜形成面4と同様の平滑状態であり、厚さ方向の全部位に渡ってほぼ均一な密度であった(図2参照)。このように、板状基材3a、3bの角膜形成面4の間に人工角膜1を形成することにより、所望の形状、大きさ、厚さ、表面状態の人工角膜1を得ることができ、しかも、人工角膜1の密度を厚さ方向の全範囲に渡ってほぼ均一にできることがわかる。

【0056】
次いで、角膜を表層切除して眼球に欠損部を形成して、この欠損部に、生産した人工角膜1を移植して眼球に生着する様子を観察する移植実験を行った。

【0057】
具体的には、まず、体重10kgのビーグル犬(オス、8歳)に全身麻酔を施して、このビーグル犬の角膜に、バロン氏真空角膜トレパン(直径6mm)を用いて深さ0.375mmまで切開を加え、その後、スパーテルを用いて角膜を層状剥離することにより、直径6mm、深さ0.375mmの角膜表層切除を行って、眼球に欠損部を形成した。

【0058】
さらに、バロン氏ドナー角膜パンチ(直径6.5mm)を用いて直径6.5mmの円形に切断した人工角膜1(移植バイオシート)を、ビーグル犬の角膜表層切除後の欠損部に10-0ナイロン糸を用いて縫合を行った(図5(a)参照)。なお、移植手術後には、感染予防のため抗生物質の点眼と内服を行うと共に、鎮痛のためNSAIDsの全身投与を行ったが、抗炎症薬や免疫抑制剤は使用しなかった。

【0059】
角膜移植後、角膜への人工角膜1の生着と透明化を観察したところ、移植直後は移植した人工角膜1が白濁していたが(図5(a))、その後、人工角膜1がその周縁部から徐々に透明化していき(図5(b))、移植15日後には、人工角膜1のほぼ全体が透明化した(図5(c))。なお、拒絶反応を示唆する角膜血管新生は認められなかった。

【0060】
なお、本発明は、上記の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内において、適宜変更を加えることができる。例えば、人工角膜形成用基材2は、板状基材3a、3bの四隅に結合部5を設けて、結合組織が侵入する開口を四辺に設けた構造であるが、このように、四辺の全てに開口を設けたものに限らず、四辺のうちの少なくとも一辺に開口を設けたものであればよい。

【0061】
また、板状基材3a、3bで構成した人工角膜形成用基材2に代えて、図6に示すように、球面状の人工角膜を形成する人工角膜形成用基材6を採用することもできる。

【0062】
人工角膜形成用基材6は、一対の基材7a、7bに、角膜形成面として、中央部が膨らんだ球面状の凸面8と中央部が窪んだ球面状の凹面9とを形成し、互いに間隔をあけて設けたものである。凸面8及び凹面9の周囲には、平板状の周縁部10a、10bが設けられ、この周縁部10a、10bが複数の結合部11を介して結合されて、一対の基材7a、7bが互いに分解可能に一体化されている。

【0063】
この人工角膜形成用基材6は、上記の人工角膜形成用基材2と同様、動物の生体内などに置いて、基材表面に結合組織を形成するようになっており(図7参照)、その周囲の結合組織を除去して、結合部11を切断して基材7a、7bに分解することにより、凸面8と凹面9との間の人工角膜を剥がして取り出すことができる。さらに、取り出した人工角膜の周囲の余剰部分を除去することにより、眼球形状に合うよう中央部が膨らんだ球面状の人工角膜が得られる。

【0064】
また、結合組織の形成を促進可能なLEDを設けたり、結合組織の形成を促進可能な薬剤を収容して徐々に放出する薬剤収容部を形成したりして、結合組織を形成するのに要する時間を短くすると共に、力学的性質や成分の良好な結合組織を得るようにしてもよい。
【符号の説明】
【0065】
1 人工角膜
2 人工角膜形成用基材
3a、3b 板状基材
4 角膜形成面
5 結合部
6 人工角膜形成用基材
7a、7b 基材
8 凸面
9 凹面
10a、10b 周縁部
11 結合部
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
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【図6】
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【図7】
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