TOP > 国内特許検索 > 分光特性測定装置 > 明細書

明細書 :分光特性測定装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2016-142522 (P2016-142522A)
公開日 平成28年8月8日(2016.8.8)
発明の名称または考案の名称 分光特性測定装置
国際特許分類 G01J   3/453       (2006.01)
G01J   3/45        (2006.01)
FI G01J 3/453
G01J 3/45
請求項の数または発明の数 5
出願形態 OL
全頁数 20
出願番号 特願2015-015733 (P2015-015733)
出願日 平成27年1月29日(2015.1.29)
発明者または考案者 【氏名】石丸 伊知郎
出願人 【識別番号】304028346
【氏名又は名称】国立大学法人 香川大学
個別代理人の代理人 【識別番号】110001069、【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
審査請求 未請求
テーマコード 2G020
Fターム 2G020AA03
2G020CA12
2G020CC22
2G020CC46
2G020CC63
2G020CD03
2G020CD24
2G020CD26
2G020CD35
要約 【課題】鮮明なインターフェログラムを取得可能な分光特性測定装置を提供する。
【解決手段】分光特性測定装置は、被測定物の複数の測定点からそれぞれ発せられた測定光を第1の測定光及び第2の測定光に分割する分割光学系、第1及び第2の測定光の干渉光を結像面上に形成する結像光学系、第1及び第2の測定光の間に連続的な光路長差分布を与える光路長差付与手段、複数の画素を有する干渉光検出部、干渉光検出部で検出された干渉光の光強度に基づき測定点のインターフェログラムを求め、このインターフェログラムをフーリエ変換することによりスペクトルを取得する処理部、被測定物と分割光学系の間に配置された該分割光学系と共通の共役面を有する共役面結像光学系、共役面に配置された複数の長方形状の開口部を有する振幅型回折格子を備える。
【選択図】図12
特許請求の範囲 【請求項1】
a) 被測定物の測定領域内に位置する複数の測定点からそれぞれ発せられた測定光を第1の測定光及び第2の測定光に分割する分割光学系と、
b) 前記第1の測定光及び前記第2の測定光の間に連続的な光路長差分布を付与する光路長差付与手段と、
c) 連続的な光路長差分布が付与された前記第1の測定光及び前記第2の測定光を結像面上で干渉させて干渉光を形成する結像光学系と、
d) 前記結像面に配置された前記干渉光の光強度を検出する検出部であって、直線上に等間隔で配置された複数の画素を有する干渉光検出部と、
e) 前記干渉光検出部で検出された前記干渉光の光強度に基づき、前記被測定物の測定点のインターフェログラムを求め、このインターフェログラムをフーリエ変換することによりスペクトルを取得する処理部と、
f) 前記被測定物の測定領域と前記分割光学系の間に配置された、該分割光学系と共通の共役面を有するとともに、該共役面に前記測定点からの測定光を結像する共役面結像光学系と、
g) 前記共役面に配置された、周期的に並ぶ透光部と遮光部とを有する振幅型回折格子と
を備え、
前記干渉光検出部の複数の画素の間隔をp、光学倍率をm、前記振幅型回折格子の透光部の幅をW、隣り合う2つの透光部の中心間距離をDとすると、WおよびDが以下の式(1)および式(2)
W=(p×2)/(m+1) ・・・ (1)
D=(p×2)/ m ・・・ (2)
によりそれぞれ定義されることを特徴とする分光特性測定装置。
【請求項2】
a) 被測定物の測定領域内に位置する複数の測定点からそれぞれ発せられた測定光を第1の像面上に収束させる共役面結像光学系と、
b) 前記第1の像面上に配置された、周期的に並ぶ透光部と遮光部とを有する振幅型回折格子と、
c) 前記振幅型回折格子の透光部を通過した前記測定光を第1の測定光及び第2の測定光に分割する分割光学系と、
d) 前記第1の測定光及び前記第2の測定光の間に連続的な光路長差分布を付与する光路長差付与手段と、
e) 連続的な光路長差分布が付与された前記第1の測定光及び前記第2の測定光を結像面上で干渉させて干渉光を形成する結像光学系と、
f) 前記結像面に配置された前記干渉光の光強度を検出する検出部であって、等間隔で配置された複数の画素を有する干渉光検出部と、
g) 前記干渉光検出部で検出された前記干渉光の光強度に基づき、前記被測定物の測定点のインターフェログラムを求め、このインターフェログラムをフーリエ変換することによりスペクトルを取得する処理部とを備え、
前記干渉光検出部の複数の画素の間隔をp、光学倍率をm、前記振幅型回折格子の透光部の幅をW、隣り合う2つの透光部の中心間距離をDとすると、WおよびDが以下の式(1)および式(2)
W=(p×2)/(m+1) ・・・ (1)
D=(p×2)/ m ・・・ (2)
によりそれぞれ定義されることを特徴とする分光特性測定装置。
【請求項3】
a) 被測定物の測定領域内に位置する複数の測定点からそれぞれ発せられた測定光を第1の測定光及び第2の測定光に分割する分割光学系と、
b) 前記第1の測定光及び前記第2の測定光の間に連続的な光路長差分布を付与する光路長差付与手段と、
c) 連続的な光路長差分布が付与された前記第1の測定光及び前記第2の測定光を結像面上で干渉させて干渉光を形成する結像光学系と、
d) 前記結像面に配置された前記干渉光の光強度を検出する検出部であって、直線上に等間隔で配置された複数の画素を有する干渉光検出部と、
e) 前記干渉光検出部で検出された前記干渉光の光強度に基づき、前記被測定物の測定点のインターフェログラムを求め、このインターフェログラムをフーリエ変換することによりスペクトルを取得する処理部と、
f) 前記被測定物の測定領域と前記分割光学系の間に配置された、該分割光学系と共通の共役面を有するとともに、該共役面に前記測定点からの測定光を結像する共役面結像光学系と、
g) 前記共役面に配置された、周期的に並ぶ透光部と遮光部とを有する振幅型回折格子と
を備え、
前記分割光学系を構成する対物レンズの開口数N.A.が実効的な開口数N.A.よりも小さいとき、
前記干渉光検出部の複数の画素の間隔をp、光学倍率をm、前記振幅型回折格子の透光部の幅をW、隣り合う2つの透光部の中心間距離をDとすると、WおよびDが以下の式(3)および式(4)
W=(p×4)/(m+1) ・・・ (3)
D=(p×3)/ m ・・・ (4)
によりそれぞれ定義されることを特徴とする分光特性測定装置。
【請求項4】
a) 被測定物の測定領域内に位置する複数の測定点からそれぞれ発せられた測定光を第1の像面上に収束させる共役面結像光学系と、
b) 前記第1の像面上に配置された、周期的に並ぶ透光部と遮光部とを有する振幅型回折格子と、
c) 前記振幅型回折格子の透光部を通過した前記測定光を第1の測定光及び第2の測定光に分割する分割光学系と、
d) 前記第1の測定光及び前記第2の測定光の間に連続的な光路長差分布を付与する光路長差付与手段と、
e) 連続的な光路長差分布が付与された前記第1の測定光及び前記第2の測定光を結像面上で干渉させて干渉光を形成する結像光学系と、
f) 前記結像面に配置された前記干渉光の光強度を検出する検出部であって、等間隔で配置された複数の画素を有する干渉光検出部と、
g) 前記干渉光検出部で検出された前記干渉光の光強度に基づき、前記被測定物の測定点のインターフェログラムを求め、このインターフェログラムをフーリエ変換することによりスペクトルを取得する処理部とを備え、
前記分割光学系を構成する対物レンズの開口数N.A.が実効的な開口数N.A.よりも小さいとき、
前記干渉光検出部の複数の画素の間隔をp、光学倍率をm、前記振幅型回折格子の透光部の幅をW、隣り合う2つの透光部の中心間距離をDとすると、WおよびDが以下の式(3)および式(4)
W=(p×4)/(m+1) ・・・ (3)
D=(p×3)/ m ・・・ (4)
によりそれぞれ定義されることを特徴とする分光特性測定装置。
【請求項5】
前記光路長差付与手段が、入射面と出射面が平行な第1透過部と、入射面及び出射面のいずれか一方が前記第1透過部の入射面又は出射面と同一面上にあり、入射面及び出射面のうちの一方に対して他方が傾斜するくさび形の第2透過部から成る透過型の光学部材を有し、
前記分割光学系が、前記測定光を平行光線化して前記第1透過部及び前記第2透過部に入射させる対物レンズを有し、
前記結像光学系が、前記測定光のうち前記第1透過部を透過した第1測定光と前記第2透過部を透過した第2測定光が入射する、前記第1透過部と前記第2透過部の境界面と前記第1透過部の入射面との交線に平行な軸を有する、シリンドリカルレンズを有し、
前記干渉光検出部が、前記シリンドリカルレンズに入射した前記第1測定光と前記第2測定光の干渉光の強度分布を検出し、
前記処理部が、前記干渉光検出部で検出される前記干渉光の強度分布に基づき前記被測定物の測定点のインターフェログラムを求め、このインターフェログラムをフーリエ変換することによりスペクトルを取得する
ことを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の分光特性測定装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、分光特性測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
分光特性の測定技術として、波長分散型分光法、或いはフーリエ分光法と呼ばれる分光技術を用いた手法が知られている(非特許文献1参照)。波長分散型分光法は、測定試料を透過した光、或いは測定試料面で反射した光(以下「物体光」ともいう。)を回折格子や音響光学可変波長フィルタ(AOTF;Acousto-Optic Tunable Filter)に照射したときに得られる回折光の回折角が、当該物体光の波長に応じて異なる原理を利用した分光法である。
【0003】
一方、フーリエ分光法(FTIR(フーリエ変換赤外分光光度計:Fourier Transform Infrared Spectroscopy))は、マイケルソン型の2光束干渉光学系を用いた位相シフト干渉を利用した分光測定技術である。この方法では物体光をハーフミラーなどのビームスプリッタにより2つに分岐し、それぞれの光束をミラーにより反射させて再度ハーフミラーに到達させ、これら2つの光束を合流させて干渉現象を観察する。2つに分岐した光束のうちの一方(参照光)を反射するミラーは参照ミラーと呼ばれる。フーリエ分光法では、参照ミラーを光の波長よりも短い分解能で高精度に移動させて干渉光強度を変化させ、いわゆるインターフェログラムを得る。そして、このインターフェログラムを数学的にフーリエ変換することにより分光特性を取得する。
【0004】
測定試料から射出される物体光は散乱光線、屈折光線、反射光線等の様々な光線からなり、これら光線の方向も様々である。このように多様な方向の光線成分が回折格子や参照ミラーに照射されると、分光精度が低下する。そのため、いずれの分光法においても物体光の空間的コヒーレンシー(可干渉性)を高めるために、微小開口を有するピンホールやスリットを用いて物体光のうち特定方向の光線成分のみを回折格子や参照ミラーに照射させている。しかしながら、ピンホールやスリットを用いると、大半の物体光がピンホールやスリットを通過せず測定に供しないことから、光の利用効率が低い。
【0005】
これに対して、特許文献1には、測定試料から発せられる無指向の光線を対物レンズにより平行光束にした上で、結像レンズにより結像面上に集光させて測定試料の2次元の共役像を形成する手法が開示されている。この手法では、多波長光源からの光を測定試料に照射し、その透過光又は反射光を対物レンズに入射させ、平行光束にする。また、図1に示すように、環状の固定ミラーと、該固定ミラーの内側に配置された円板状の可動ミラーから成る位相可変フィルターにより平行光束の一部と残りの平行光束との間に任意の位相差を与える。そして、結像面上に配置されたCCDカメラなどの2次元アレイデバイスの各画素において多波長の干渉強度を検出することにより、干渉強度変化であるインターフェログラムを取得する。
【0006】
上記可動ミラーはピエゾ素子などにより高精度に機械的に移動される。これにより、物体光間の位相シフト干渉による結像強度変化(インターフェログラム)を全ての画素で同時に観察できる。そして、これらのインターフェログラムを数学的にフーリエ変換することにより2次元の分光特性分布を取得することができる。
【0007】
また、特許文献2には、空間的位相シフト法と呼ばれる手法が開示されている。さらに、マイケルソン干渉計を用いた位相シフト干渉による分光測定技術として、例えば、アルゴ社のFTIR方式の赤外線中長波長域用スペクトルイメージ分光システム、Zygo社の垂直走査型低コヒーレンス干渉法(Coherence Scanning Interferometry)による立体形状計測装置、フルフィールドOCT(Optical Coherence Tomography)と呼ばれる断層計測方式などが知られている。
【0008】
ところが、上記した従来の分光測定技術には次のような問題があった。
まず、物体面上の各輝点を面積の無い理想的な点光源として光学的にモデル化して考える。これらの理想的な輝点は、レンズによるフラウンフォーファ回折により像面上にエアリー(Airy)の回折像と呼ばれる同心円状の明暗縞から成る共役な輝点像を形成する(図2参照)。エアリーの回折像の中心の円形の明るい領域はエアリーディスクと呼ばれ、エアリーディスクの中心から回折像の最初の暗環(第1暗輪体)の幅方向中心までの距離の2倍、すなわち第1暗輪体の直径Rは下記式(1)で得られることが知られている。
R=1.22λ/N.A. (1)
ここでλは光の波長、N.A.(Numerical Aperture)はレンズの数値開口数(N.A.=n×sinθ)である。また、nは屈折率であり、θはレンズ中心から有効径の角度である。
【0009】
エアリーの回折像は、1つの輝点から発せられた多光線の干渉縞として物理的に理解される。すなわち、エアリーディスクの中心では多光線全ての位相が揃っており、光線同士が強め合うため明るい領域となる。また、暗環は、エアリーディスクの中心からの各光線の角度に応じて幾何的に決定される光路長差に応じた位相差により、光線同士が弱め合うため暗い領域となる。
【0010】
1つの輝点から発せられた多光線(物体光束)の半分に位相差π[rad.]を与えると、初期状態(位相差0[rad.])では明るかったエアリーディスクの中心が暗く変化し、暗かった暗環部分は明るく変化する。物体光束に与える位相差を変化させること(以下「位相シフト操作」ともいう。)に伴うエアリーディスクの中心での明暗の変化(干渉光強度変化)をフォトダイオードアレイ検出器等の光検出器で検出するのが、従来の手法によるインターフェログラムの取得原理である。
【0011】
ところが、上述したように、物体面は無数の輝点の集まりからなるため、位相シフト操作を行っても明暗の変化を検出できない場合がある。それは、物体面を構成する無数の輝点を、レーリー基準と呼ばれる距離をおいて存在する2つの輝点からなるペア(以下「輝点ペア」という)の群として考えることにより説明がつく。
【0012】
図3に示すように、レーリー基準とは、2つのエアリーの回折像の、エアリーディスクの中心間の距離が第1暗輪体の半径(r=0.61λ/N.A.)に相当する条件をいう。この条件では、輝点ペアから形成される2つのエアリーの回折像は、暗環とエアリーディスクの中心が重なり合っており、互いに打ち消し合う関係にある。この関係は位相シフト操作を行っても変化しないため、位相シフト操作に伴うエアリーディスクの中心位置での干渉強度変化を検出することができない。すなわち、輝点ペアから形成される2つのエアリーの回折像のうちの一方のエアリーディスクの中心領域の輝度を検出する画素を注目画素とすると(図3参照)、該注目画素においては、一方のエアリーディスクの中心が明るい初期状態(位相差0[rad.])では、他方のエアリーディスクの暗環が一方のエアリーディスクの中心に重なる。また、位相差π[rad.]与えた場合は、一方のエアリーディスクの中心が暗くなり、これに、明るい領域に変化した他方のエアリーディスクの暗環領域が重なる。このため、いずれの状態でも当該画素で検出される輝度値はほとんど変化しない。
【0013】
上記現象はいずれの輝点ペアから形成される2つのエアリーの回折像においても生じるため、上記のような輝点ペアが物体面上に無数に存在していると考えると、位相シフト操作に伴う干渉強度変化を検出することができないことになり、インターフェログラムの鮮明度が劣化する。
【0014】
そこで、本発明者は、中赤外光領域(波長:8μm~14μm)の光を照射したときにほぼ全ての光を吸収する物体(以下「黒体」という。)の表面に金網を配置し、分光特性を測定する実験を行った。図4(a)はデジタルカメラによる金網の撮影画像(光学倍率:1倍)を示し、図4(b)は金網を配置した黒体表面に中赤外領域の光を照射したときの赤外線カメラによる撮影画像(中赤外画像)を示す。また、図4(c)は金網が存在しない黒体表面(図4(b)において(b-1)で示す領域)のインターフェログラムおよびこれをフーリエ変換して得られたスペクトル、図4(d)は金網のエッジ部分の領域(図4(b)において(b-2)で示す領域)のインターフェログラムおよびこれをフーリエ変換して得られたスペクトルを示す。
【0015】
図4(b)から分かるように、黒体の表面は一様な光強度分布を有するため、中赤外画像では模様がほとんど無く(低空間周波数)、全面が光った状態にある。このような低空間周波数領域は多数の輝点ペアから成るとみなされ、インターフェログラムの鮮明度が極めて低くなる(図4(c))。これに対して、金網のエッジ部分では光強度を打ち消し合う輝点ペアが存在しないため、高い鮮明度でインターフェログラムが取得される(図4(d))。つまり、黒体であってもその表面に金網を配置することで、一様な光強度分布にバラツキが生じ、光強度を打ち消し合う輝点ペアをなくすことができる。
【先行技術文献】
【0016】

【特許文献1】特開2008-309706号公報
【特許文献2】特開2012-058068号公報
【特許文献3】WO2014/054708
【0017】

【非特許文献1】平石次郎編「フーリエ変換赤外分光法」学会出版センター, 1985年11月
【非特許文献2】石丸伊知郎「共役面超解像格子によるフーリエ分光断層イメージングの高鮮明度化」、日本光学会年次学術講演会2012(Optics & Photonics Japan 2012)講演要旨集
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
上記知見に基づき、本発明者は、低空間周波数領域でのインターフェログラムの鮮明度を向上する方法として、共役面に格子像を形成する手法を提案した(特許文献3)。この方法では、物体面の像を共役結像光学系により一旦、物体面と光学的に共役な像面上に形成する。そして、この共役面上に振幅型回折格子を設置して輝点を間引くことにより、光強度を打ち消し合う輝点ペアの数を減らす。振幅型回折格子は、入射光に対し透明部と不透明部を交互に配列したものであり、例えば光を透過する材質から成る板状部材の表面に1乃至複数の光を遮断する薄膜を形成したものや、複数の微小な線材を一定間隔で配置したものなどがある。この手法によるインターフェログラムの鮮明度の向上効果は、例えば、2012年に開催された日本光学会年次学術講演会(Optics & Photonics Japan 2012)で報告している(非特許文献2参照)。
【0019】
しかしながら、特許文献3は振幅型回折格子を用いることを教示するに過ぎず、光強度を打ち消し合う輝点ペアの数を減らすことができる具体的な条件、例えば振幅型回折格子の透明部の幅や間隔(ピッチ)等と干渉光強度を検出するためのカメラの画素ピッチ等との関係は特許文献3には開示されていない。従って、分光測定装置を設計する際には、透明部の幅やピッチが異なる複数の振幅型回折格子を用意し、実際にインターフェログラムを取得してその鮮明度を評価しながら振幅型回折格子の透明部の幅やピッチ等の適切な値を決定するといった試行錯誤が必要であった。
【0020】
本発明が解決しようとする課題は、鮮明なインターフェログラムを取得可能な分光特性測定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記課題を解決するために成された本発明に係る分光特性測定装置は、
a) 被測定物の測定領域内に位置する複数の測定点からそれぞれ発せられた測定光を第1の測定光及び第2の測定光に分割する分割光学系と、
b) 前記第1の測定光及び前記第2の測定光の間に連続的な光路長差分布を付与する光路長差付与手段と、
c) 連続的な光路長差分布が付与された前記第1の測定光及び前記第2の測定光を結像面上で干渉させて干渉光を形成する結像光学系と、
d) 前記結像面に配置された前記干渉光の光強度を検出する検出部であって、直線上に等間隔で配置された複数の画素を有する干渉光検出部と、
e) 前記干渉光検出部で検出された前記干渉光の光強度に基づき、前記被測定物の測定点のインターフェログラムを求め、このインターフェログラムをフーリエ変換することによりスペクトルを取得する処理部と、
f) 前記被測定物の測定領域と前記分割光学系の間に配置された、該分割光学系と共通の共役面を有するとともに、該共役面に前記測定点からの測定光を結像する共役面結像光学系と、
g) 前記共役面に配置された、周期的に並ぶ透光部と遮光部とを有する振幅型回折格子と
を備え、
前記干渉光検出部の複数の画素の間隔をp、光学倍率をm、前記振幅型回折格子の透光部の幅をW、隣り合う2つの透光部の中心間距離をDとすると、WおよびDが以下の式(1)および式(2)
W=(p×2)/(m+1) ・・・ (1)
D=(p×2)/ m ・・・ (2)
によりそれぞれ定義されることを特徴とする。
【0022】
また、本発明に係る分光特性測定装置は、
a) 被測定物の測定領域内に位置する複数の測定点からそれぞれ発せられた測定光を第1の像面上に収束させる共役面結像光学系と、
b) 前記第1の像面上に配置された、周期的に並ぶ透光部と遮光部とを有する振幅型回折格子と、
c) 前記振幅型回折格子の透光部を通過した前記測定光を第1の測定光及び第2の測定光に分割する分割光学系と、
d) 前記第1の測定光及び前記第2の測定光の間に連続的な光路長差分布を付与する光路長差付与手段と、
e) 連続的な光路長差分布が付与された前記第1の測定光及び前記第2の測定光を結像面上で干渉させて干渉光を形成する結像光学系と、
f) 前記結像面に配置された前記干渉光の光強度を検出する検出部であって、等間隔で配置された複数の画素を有する干渉光検出部と、
g) 前記干渉光検出部で検出された前記干渉光の光強度に基づき、前記被測定物の測定点のインターフェログラムを求め、このインターフェログラムをフーリエ変換することによりスペクトルを取得する処理部とを備え、
前記干渉光検出部の複数の画素の間隔をp、光学倍率をm、前記振幅型回折格子の透光部の幅をW、隣り合う2つの透光部の中心間距離をDとすると、WおよびDが以下の式(1)および式(2)
W=(p×2)/(m+1) ・・・ (1)
D=(p×2)/ m ・・・ (2)
によりそれぞれ定義されることを特徴とする。
【0023】
例えば、可視光領域のレーザ光源と、該可視光の波長(5×10-7m)の数倍程度の細長い1本のスリットと、スクリーンを並べて配置し、レーザ光源からの単色光をスリットに通過させると、スリットの幅よりもわずかに広い幅の縞模様の光(干渉縞)がスクリーン上に現れる。これは、単色光がスリットを通過する際に生じる回折により、一部の単色光と残りの単色光が干渉して強め合ったり弱めあったりするからである。図5(a)はスクリーン上に現れる干渉縞の強度分布とスリットの関係を示す図である。このとき、干渉縞の明るい部分(明点)と暗い部分(暗点)になる回折角θとスリットの幅w、光の波長λとの関係は次の式で表される。
明点の条件:w・sinθ=0,(N+1/2)λ
暗点の条件:w・sinθ=N・λ (Nは自然数)
例えば図5(b)に示すように、w・sinθ1=λを満たす角度θ1は、光路長差が1波長となる回折角となる。
【0024】
一方、本発明においては、分割光学系と共通の共役面を有するとともに、該共役面に前記測定点からの測定光を結像する共役面結像光学系を設け、前記共役面に振幅型回折格子を配置した。振幅型回折格子とは、周期的に配列された複数の透光部と遮光部を有する光学部品である。透光部は光が通過するものであれば良く、基本的には開口部である。従って、以下では、透光部を開口部として説明する。
共役面に振幅型回折格子を配置したことにより、結像面には振幅型回折格子の開口部を通過した光の像(開口像)が形成される。図6は、第1測定光と第2測定光の間の位相差が0(rad.)及びπ(rad.)のときの結像面における開口像の強度分布、及び振幅型回折格子の開口と画素の配置を示す図である。開口像の中心から第1暗輪帯までの強度分布が3個の画素で検出されるように該画素を配置すると、第1測定光と第2測定光の間の位相差の変化に伴う強度変化を各画素により検出することができる。ただし、位相差がπのときの第1暗輪帯の輝度値は位相差が0のときの中心部の輝度値よりも低いため、この配置では、位相差の変化に伴う輝度値の変化が中心画素に比べて残り2個の各画素では小さくなる。
【0025】
図7は、結像面に形成される2個の隣接する開口像の第1暗輪帯が重複するように振幅型回折格子の開口部の間隔を設定したときの2個の開口像の強度分布、及びこの強度分布を5個の画素で検出する場合の振幅型回折格子と画素の配置を示しており、図8はそのときの3個の画素から得られるインターフェログラムを示している。この構成では、中心に位置する画素に両方の開口像の第1暗輪帯がオーバーラップするため、この中心画素の検出値は2個の開口像の第1暗輪帯の強度の和となる。従って、第1暗輪帯が明るく変化したとき(位相差がπのとき)の当該画素の検出輝度値は、その両側の画素が検出するエアリーディスクの輝度値と同等になる。また、図8に示すように、画素列ごとに位相がπずれたインターフェログラムが得られる。
【0026】
このとき、振幅型回折格子の開口幅をWとすると、結像面上に形成される開口像の幅は2Wになる。これは、開口像の第一暗点を生じる方向θが、sinθ=λ/Wにより求まるからである。すなわち、図9および図10に示すように、結像光学系の理論空間解像度dはd=λ/N.A.により決定されるが、一つの開口部から生じる回折光は第一暗点までに多くの光量が存在することから、N.A.≒sinθに相当するとみなすことができる。これを実効的なN.A.と呼ぶことにする。この場合、理論空間解像度d=λ/N.A.≒λ/sinθ=Wとなる。つまり、開口幅Wから生じる回折光によるエアリーディスクの直径は、開口幅Wに等しいとみなすことができる。ところで、コンボリューションの考えに基づけば、物体面上で開口幅Wは、結像面上では開口幅W×光学倍率m+理論空間解像度dとなる。前述のように、理論空間解像度d=開口幅Wであることから、開口像の幅は、開口幅W×(光学倍率m+1)により求めることができる。つまり、光学倍率が1のときの開口像の幅は2Wとなる。
【0027】
なお、無限遠補正光学系の場合、前記レンズのN.A.は対物レンズと結像レンズの2つについて考えなくてはならない。理論空間解像度はどちらか小さい方のN.A.によって決定されることから、前記レンズのN.A.は、対物レンズと結像レンズの2つのN.A.のうち、小さい方の値を用いる。
【0028】
この開口像の幅が隣り合う2画素の間隔(画素ピッチ)になるように、開口幅W、光学倍率mを設定する。例えば、画素ピッチpが30μm、光学倍率mが1倍の場合は、30μm×2=W×(1+1)となり、開口幅Wは画素ピッチ30μmと等しくすれば良い。また、開口部の中心間距離も結像面上では2画素のピッチになることから、開口部の中心間距離=画素ピッチ×2/光学倍率により算出することができる。従って、画素ピッチpが30μmの場合は、開口部の中心間距離= 30μm×2/1=60μmと算出することができる。また、開口部と開口部の間の遮光部の幅は30μmとなる。つまり、画素ピッチが30μmである干渉光検出部を用いる場合には、振幅型回折格子の開口幅Wを30μm、開口部の中心間距離Dを60μmに設定すれば良い。
【0029】
ただし、以上の説明は物理的なレンズN.A.よりも実効的なN.A.の方が小さい場合に当てはまるが、中赤外光のように波長λが長く、実効的なN.A.がレンズN.Aよりも大きい場合には当てはまらない。これについて、図11を参照して説明する。
【0030】
ここでは、測定波長帯域8μm~14μmのマイクロボロメーター(画素ピッチ:23.5μm)を干渉光検出部とした場合を例に挙げて説明する。
測定波長帯域の中では最長波長の回折光の第一暗点を生じる方向θが最も大きくなるため、この場合は、波長14μmの光の回折光の実効的なN.A.がレンズのN.A.内に収まらなくてはならない。しかし、例えば、光学倍率1倍、画素ピッチ23.5μmの場合、開口幅Wは23.5μm(D=23.5×2/(1+1)=23.5μm)になる。この開口幅の最長波長の実効的なN.A.を方向θを用いて表すと、
N.A. = n・sinθ (nは屈折率)
となり、大気の屈折率は1、sinθ=14/23.5≒0.60であるため、0.60以上のN.A.を有するレンズを用いれば良いが、場合によっては0.30程度のN.A.のレンズを用いなければならないことがある。
【0031】
逆に、実効的な開口数N.A.を0.60の半分の0.30にするためには、開口幅Wを23.5μmの2倍の47μmにすれば良いが、この場合、結像面上での開口像の幅が、47μm×2=94μmとなってしまい、画素ピッチ23.5μmの4倍(つまり4画素の幅)になってしまう。この場合、例えば、1つの開口像を今までの3画素ではなく、5画素で分割して検出しなくてはならない。しかし、中心画素と位相がπずれた両端の2画素に比べて、さらに最外周に有る2つの画素(図中灰色で示す)は結像強度が極めて弱くなる。そこで、隣接する開口像とのオーバーラップを、今までの1画素ではなく、更に多い2画素に増やすようなレイアウトが必要となる。このようなレイアウトにより、実質、中心画素と両端2画素により結像強度変化を取得することが可能になる。
【0032】
つまり、本発明においては、前記分割光学系を構成する対物レンズの開口数N.A.が実効的な開口数N.A.よりも小さいとき、前記振幅型回折格子の開口部の幅W、該開口部の中心間距離Dは、以下の式(3)および式(4)
W=(p×4)/(m+1) ・・・ (3)
D=(p×3)/ m ・・・ (4)
により規定される値にそれぞれ設定すれば良い。
【0033】
例えば、光学倍率1倍、画素ピッチ23.5μmの場合は、以下のようになる。
開口幅=23.5×4/(1+1)=47μm
開口部中心間距離=23.5×3/1=70.5μm
この開口パターンを持つ振幅型回折格子では、遮光部の幅は23.5μmということになる。
【発明の効果】
【0034】
上記のように、本発明によれば、測定点(物体面)と共役な面上に振幅型回折格子を配置し、そこで空間的な周期変化を付与された光により干渉光を得るようにした。そのため、どのような試料からでも干渉光を得ることができ、鮮明なインターフェログラムを取得することができる。しかも、本発明では、振幅型回折格子の構成(透光部の幅W、隣り合う透光部の中心間距離D)を、干渉光検出部が有する複数の画素の間隔(画素ピッチ)p、光学倍率mを用いて算出できるため、分光特性測定装置の構成を簡単に設計することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】位相可変フィルターにより平行光束の一部と残りの平行光束との間に任意の位相差を与えてインターフェログラムを取得する従来の手法の説明図。
【図2】位相シフト操作に伴うエアリーディスク内の輝度の変化の説明図。
【図3】物体面を構成する無数の輝点を、レーリー基準と呼ばれる距離を保つ2つの輝点からなるペアの群として考えたときの光学的モデルの説明図。
【図4】黒体の表面に金網を配置して中赤外領域の光を照射したときのインターフェログラムの鮮明度を調べる実験結果を示す図であり、(a)は金網の撮影画像、(b)は表面に金網を配置した黒体の中赤外画像、(c)は黒体表面のうち金網が存在しない領域インターフェログラム及びスペクトル、(d)は黒体表面のうち金網のエッジ付近のインターフェログラム及びスペクトル。
【図5】幅が非常に狭い開口部を通過した単波長光により形成される回折像(開口像)の光強度分布の説明図(a)、光路長差が1波長となる回折角の説明図(b)。
【図6】結像面上に形成される1個の開口像の強度分布を3個の画素で検出する場合の説明図。
【図7】結像面上に形成される2個の開口像の強度分布を5個の画素で検出する場合の説明図。
【図8】結像面上に形成される2個の開口像の強度分布を5個の画素で検出する場合の1個の開口像に対応する3個の画素により観察されるインターフェログラム。
【図9】振幅型回折格子の開口部の幅と結像面上に形成される開口像の幅との関係の説明図。
【図10】振幅型回折格子の開口部の幅と結像面上に形成される開口像の幅との関係の別の説明図。
【図11】結像面上に形成される2個の開口像の強度分布を8個の画素で検出する場合の説明図。
【図12】本発明の第1実施例に係る分光特性測定装置を概略的に示す上面図、斜視図。
【図13】位相シフトに伴う結像強度分布の変化を示す図。
【図14】多重スリットの各部の寸法を示す図。
【図15】実験室内の風景の全方位の分光イメージング画像。
【図16】実験室内の風景の全方位の分光イメージング画像とスペクトル。
【図17】本発明の第2実施例を示す多重スリットの構造の説明図。
【図18】多重スリットの傾き調節機構の説明図。
【図19】本発明の第3実施例において求められた設計条件で黒体に中赤外領域の光を照射して分光イメージングを行ったときの結果を示す図。
【図20】顔全体の輻射光分光イメージングの結果を示す図。
【図21】本発明の第4実施例に係る分光特性測定装置の概略構成と多重スリットの構成を示す図。
【図22】多重スリットと画素ピッチとの関係を説明する図。
【図23】多重スリットと画素ピッチとの関係を説明する別の図。
【図24】多重スリットと画素ピッチとの関係を説明する図。
【図25】本発明の第5実施例に係る分光特性測定装置を示す図。
【図26】第5実施例で用いる多重スリットを示す図。
【図27】本発明を、マイケルソン干渉計を用いた、FTIR方式分光イメージ装置に適用した第6実施例の光学系概略図を示す。
【図28】本発明を立体形状測定装置に適用した光学系概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明は、輝点間の干渉強度打ち消し合いを無くして、鮮明なインターフェログラムを取得可能な条件、具体的には、測定波長帯域、光学倍率、使用するカメラの画素ピッチなど、様々な光学観察条件ごとに、振幅型回折格子の適切な透光部の幅、あるいは遮光部の幅の最適な設計値を容易に算出できる条件を提供するものである。
例えば、遮光部の幅を広くすると、輝点の間隔が広くなって打ち消し合いを無くすことができるが、遮光部の幅を過度に広くすると輝度値を全く検出できない画素を生じることになる。また、遮光部の幅を狭くすると、近接する輝点間の打ち消し合いにより鮮明度が劣化してしまう。一方、透光部の幅を狭くしすぎると光量不足になり、広くしすぎると1つの透光部内で輝点間の打ち消し合いを生じてしまう。発明者は、このような事象を順に検証していくことにより適切な条件を得た。以下、具体的な実施例について述べる。
【実施例1】
【0037】
図12に示すように、本実施例の分光特性測定装置は、共役面結像光学系と結像型2次元フーリエ分光光学系により構成されている。共役面結像光学系では、測定対象(物体面)の像を広角レンズや顕微対物レンズなど、観察条件である視野範囲や倍率に応じたレンズを用いて物体面と光学的に共役な面を形成する。この共役面は結像型2次元フーリエ分光光学系の物体面となり、該共役面に多重スリットを配置する。この多重スリットが本発明の振幅型回折格子に相当し、周期的に配列された開口部(本発明の透光部に相当する)を有する。開口部と開口部の間の部分が遮光部となる。結像型2次元フーリエ分光光学系は、対物レンズと結像レンズによる無限遠補正結像光学系であり、光学的なフーリエ変換面の近傍に位相可変フィルターを設置している。
【実施例1】
【0038】
位相可変フィルターは、主軸に対して約45度傾けて設置されており、垂直方向の上下に配置された固定ミラー部と可動ミラー部を有する。可動ミラー部は、図示しない駆動機構により矢印で示す方向に移動される。なお、固定ミラー部と可動ミラー部を上下のどちらに配置しても良いが、ここでは上側に可動ミラー部を、下側に固定ミラー部を配置している。
また、左右に固定ミラー部と可動ミラー部を配置することも可能であるが、この構成では、可動ミラー部を大きく移動させた場合に、固定ミラー部が可動ミラー部の影になって光線が遮られる場合が生じるので、上下方向に配置する方が好ましい。
【実施例1】
【0039】
図12中、位相可変フィルターの固定ミラー部と可動ミラー部を上下に重ねている方向を垂直軸、垂直軸と直交する方向を水平軸と定義する。共役面と結像面(2次元受光アレイデバイス)上で、この垂直軸と水平軸に相当する方向を同様に定義する。共役面上に配置する多重スリットは、水平軸に開口部の長手方向が、垂直軸に開口部の幅方向が位置するように配置する。結像型2次元フーリエ分光光学系は任意の倍率で設計可能であるが、本実施例では光学倍率を1倍にした例について述べる。
【実施例1】
【0040】
計測波長帯域0.4μm~0.8μm、無限補正光学系には対物レンズ(焦点距離:100mm、N.A.=0.24)と結像レンズ(焦点距離:100mm、N.A.=0.24)により光学倍率1倍で、CCDカメラ(画素ピッチ:11μm×11μm)上に結像させている。また、共役面結像光学系のレンズには、双曲面ミラー(最大画角50[deg.])を用いた全方位分光イメージング装置である。この光学条件の場合、下記のように多重スリットの開口部の幅(以下、開口幅ともいう)、開口部の中心間距離が求まる。
開口幅W = 画素ピッチ×2/(光学倍率+1)
=11μm×2/(1+1)=11μm
開口部中心間距離D= 画素ピッチ×2/光学倍率
=11μm×2/1=22μm
以上より、開口幅11μm、遮光幅11μmの多重スリットに設計すれば良いことが分かる。
この場合に、実効的なN.A.が、レンズのN.A.よりも小さいことが要求されるため、それを確認する。
本実施例においては、実効的なN.A.=sinθ=最長波長/開口幅=0.8μm/11μm≒0.073となる。
一方、対物レンズと結像レンズのN.A.は双方とも0.24であることから、実効的なN.A.は十分に小さく、条件を満たしていることが確認できた。
【実施例1】
【0041】
次に、図13および図14を参照して、上記事例における多重スリットの具体的なレイアウトについて述べる。
可動ミラー部と固定ミラー部を上下に配置すると、位相シフトに伴う干渉像の変化の方向により異方性を生じる。これは、垂直軸を通る断面では、固定ミラー部と可動ミラー部に半分ずつの光線が照射されるが、水平軸を通る断面では、固定ミラー部、或いは可動ミラー部のみに光線が照射されることになるからである。つまり、垂直軸を通る断面でみると、位相シフト操作に伴って、多光線干渉として干渉強度が変化するが、水平軸を通る断面でみると、物体光束内において相対的な位相差が生じず、位相シフト操作に伴う干渉強度変化は生じないことになる。このような異方性を考慮すると、垂直軸方向には輝点間の位相の打ち消し合いを解消するための開口部と遮光部の組み合わせが必要であるが、水平軸方向には輝点間の位相の打ち消し合いが生じないことから遮光部は必要ないことになる。つまり、図13および図14に示すように、多重スリットは水平方向に延びる開口部を有していれば良い。後述の同心円レイアウトの位相可変フィルターでは矩形状の開口部を二次元配置しなくてはならず、遮光部の面積が広くなることと比較すると、本実施例に係る多重スリットの方が光の利用効率が高いことが判る。
【実施例1】
【0042】
図15および図16に、本実施例に係る分光特性測定装置を用いて実験室内の風景を全方位で分光イメージングした結果を示す。図15(a)はカラー画像、(b)は白黒画像である。これらの画像には、実験室内の上方にある天井の蛍光灯、下方にある光学除震台、側方にあるホワイトボードが撮影されている。また、図16(a)は可視光画像であり、(b)は位相シフト操作に伴う結像強度変化であるインターフェログラムの鮮明度を擬似カラー画像で示したものである。図16(c)は蛍光灯の輝線スペクトルを、(d)は擬似カラー画像から得られたスペクトルを示す。このように、全域にわたって十分な干渉鮮明度を得ることができており、本実施例の効果を実証することができた。また、照明光源でもある天井の蛍光灯固有の輝線スペクトルが、擬似カラー画像から得られたスペクトルの波長550nm、610nmの位置に存在することを確認することができた。
【実施例2】
【0043】
図17および図18は、本発明の第2実施例に係る分光特性測定装置の特徴を説明するための図である。本実施例に係る分光特性測定装置の構成は第1実施例と略同じであるため、図示および説明を省略する。
図12に示す分光特性測定装置では、図17に示すように、左端の画素の中心および右端の画素の中心の両方にそれぞれ多重スリットの開口像の中心が位置するように配置した方が、該開口像の鮮明度が高くなる。換言すると、開口像の鮮明度を高くするためには、多重スリットの開口部の長手方向の中心軸と、画素列の中心軸を高精度に位置決めできる必要がある。そこで、本実施例に係る分光特性測定装置では、多重スリットの傾きを調整する調整機構を設けた。この調整機構は、位置決めのために多重スリットの開口部を垂直軸方向に移動させる場合の最大移動量が、高々1個の開口部の幅に相当する量であることに着目した簡易的な調整機構である。
【実施例2】
【0044】
具体的には、図18に示すように、調整機構20は、多重スリット10の周りを取り囲む矩形枠部201と該矩形枠部201の上部に配置された2本のねじ202、203と、矩形枠部201の下辺と多重スリット10の間に配置された弾性部材204から成る。弾性部材204は例えばウレタンゴム、シリコーンゴム等の合成ゴムから成る。2本のねじ202、203の矩形枠部201へのねじ込み量をそれぞれ独立的に調整することにより弾性部材204の変形量が変化し、多重スリット10の傾きを調整することができる。なお、多重スリット10の傾きを調整する際に開口部が変形することを防止するため、多重スリット10の下端部の遮光部の幅を狭くして弾性変形しやすくすると良い。
【実施例3】
【0045】
第3実施例に係る分光特性測定装置は、測定波長帯域が8μm~14μmのマイクロボロメーター(画素ピッチ:23.5μm)を干渉光検出部として用いた例である。ここでは、物理的なレンズのN.A.よりも実効的なN.A.の方が大きいものとする。
上述したように、この場合の多重スリットの開口幅および開口部の中心間距離と画素ピッチとの関係は次の式で表される。
開口幅W = 画素ピッチp×4/(光学倍率m+1)
開口部中心間距離D = 画素ピッチp×3/光学倍率m
また、本実施例では、ゲルマニューム素材の中赤外用対物レンズ(焦点距離:20mm、N.A.:0.30)および結像レンズ(焦点距離:20mm、N.A.:0.30)を用いて、光学倍率1倍の無限遠補償結像光学系を構築した。さらに、共役面結像光学系では、光学倍率を0.02倍とした。
【実施例3】
【0046】
このとき、光学倍率を1倍、画素ピッチを23.5μmとすると、開口幅Wおよび開口部の中心間距離Dは以下のようになる。
開口幅W=23.5×4/(1+1)=47μm
開口部中心間距離D=23.5×3/1=70.5μm
このレイアウトでは、多重スリットの遮光部の幅は23.5μmになる。
【実施例3】
【0047】
図19に、上記条件のもと、黒体に中赤外領域の光を照射したときの分光イメージング結果を示す。多重スリットを用いることにより、上述したような金網を用いなくても黒体表面の全体で高い鮮明度のインターフェログラムを取得できることが分かる。また、フーリエ変換により得られた分光特性は、プランクの法則に従っていることも確認できた。そこで、図20に示すように、顔全体の輻射光分光イメージングを行った。これは、身体から発せられる輻射光の中赤外領域での分光特性分布を示す。このように、テクスチャー投影などの構造的な照明をすること無く、低空間周波数の全顔において高い鮮明度のインターフェログラムが取得可能であることが実証された。
【実施例4】
【0048】
図21~図24は本発明の第4実施例を示す。図21(a)は第4実施例に係る分光特性測定装置の概略構成図、(b)は多重スリットの正面図、(c)は位相シフタの正面図である。この実施例では、可動ミラー部と固定ミラー部が同心円状に配置された位相シフタを用いた。このような位相シフタでは、垂直軸、水平軸の双方において輝点の打ち消しが生じることから、開口部の周辺に遮光部が必要となる。このため、本実施例では、2次元配置された複数の矩形状の開口部を有する多重スリットを用いた。
【実施例4】
【0049】
2次元受光アレイデバイスの画素ピッチは、通常、垂直軸方向、水平軸方向で同じ大きさであるが、図22に示すように異ならせることも可能である。この場合は、垂直軸方向、水平軸方向それぞれの画素ピッチを用いて、多重スリットの開口部の垂直軸方向、水平軸方向の長さ(幅)が、それぞれ段落[0040]に示す式を満たすように設計すれば良い。一見、開口部と開口部の斜め方向の間隔、つまり遮光部の斜め方向の長さが大きくなっているように感じるが、図23に示すように開口部の斜め方向の長さ(幅)も大きくなるため、設計指針を満たした値となる。すなわち、垂直軸、水平軸の両方向の画素ピッチが等しい場合、斜め方向の画素ピッチは√2倍となる。一方、斜め方向の開口部の幅、開口部の中心間距離も同様に√2倍となることから、設計指針を満たす。以上から、本実施例では、画素のレイアウトと多重スリットの開口部のレイアウトを相似形にすれば良い。
【実施例4】
【0050】
なお、製造上の容易さから、多重スリットとして円形状の開口部を2次元配置したピンホールアレイを用いても良い。ただし、この場合は、斜め方向の開口幅が半径で決まることから、水平軸、垂直軸の両方向で同じであり、設計指針より短くなってしまう。つまり、図24中、星印で示す部分の遮光部の中心当たりの画素の鮮明度が劣化してしまう。従って、矩形状の開口部と円形状の開口部のいずれを選定するかは、製造の容易さ、確保したい面内鮮明度の均一性を考慮して決定すると良い。
【実施例5】
【0051】
図25は、本発明の第5実施例に係る分光特性測定装置を示す。本実施例は、特許文献2に記載の分光特性測定装置に共役面結像光学系を追加した例である。この共役面結像光学系の共役面に図26に示す多重スリットを配置する。この多重スリットは、直線上に並ぶ4個の矩形状の開口部を有する。
本実施例では、1直線上の分光分布が1個の画素により空間的な干渉縞であるインターフェログラムとして取得される。結像ライン方向(図中鉛直方向)の軸を垂直軸、それと直交する方向である空間的位相シフト方向の軸を水平軸と称する。
【実施例5】
【0052】
垂直軸方向には、輝点間の位相シフトの打ち消し合いが生じるため、上記した手法により開口幅と開口部の中心間距離を定める。なお、水平軸方向の開口幅を、視野開口幅と称する。これは、計測した視野の幅、あるいは空間解像度に応じて設定すれば良い。視野幅を狭くして空間解像度を高くすれば、視野開口幅が狭くなり、その結果、光量が小さくなって測定感度が低下する。測定感度を向上させるために視野開口幅を広げると、空間解像度が低下する。このトレードオフは、測定対象や光学条件に沿って判断して設定する。
【実施例6】
【0053】
図27および図28は、本発明の第6実施例を示す。この実施例は、一般的なマイケルソン干渉計を用いた位相シフト干渉光学系に本発明を適用した例である。これは、例えば、マイケルソン干渉計を用いた、FTIR(フーリエ変換赤外分光法:Fourier Transform Infrared Spectroscopy)方式の分光イメージ装置、垂直走査型低コヒーレンス干渉法(Coherence Scanning Interferometry)による立体形状計測装置、更にフルフィールドOCT(Optical Coherence Tomography)と呼ばれる光干渉断層像装置などにも有効な手法である。
【実施例6】
【0054】
従来のマイケルソン型位相シフト干渉光学系に、共役面結像光学系を新たに設置し、その共役面に多重スリットを設置している。第4実施例と同様に、マイケルソン干渉系は光学的な異方性を持たないため、図21(b)に示す、2次元配置された複数の矩形状の開口部を有する多重スリットを用いる。
【実施例6】
【0055】
なお、本発明は、図28に示すような立体形状計測装置やフルフィールドOCTに用いられている、垂直走査型低コヒーレンス干渉法に適用しても良い。図28では、マイケルソン型位相シフト干渉光学系に、共役面結像光学系を新たに設置し、その共役面に本事例も同様に矩形開口アレイを設置している。
このように、輝点間の位相の打ち消し合いを防止することにより、特に空間周波数の低い模様を有する計測対象全面での干渉強度鮮明度の向上が可能となる。
【符号の説明】
【0056】
10…多重スリット
20…調整機構
201…矩形枠部
202、203…ねじ
204…弾性部材
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図5】
3
【図6】
4
【図7】
5
【図8】
6
【図9】
7
【図10】
8
【図11】
9
【図13】
10
【図14】
11
【図17】
12
【図18】
13
【図22】
14
【図23】
15
【図24】
16
【図26】
17
【図27】
18
【図28】
19
【図4】
20
【図12】
21
【図15】
22
【図16】
23
【図19】
24
【図20】
25
【図21】
26
【図25】
27