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明細書 :ガラスからの重金属の分離方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6061291号 (P6061291)
公開番号 特開2014-094366 (P2014-094366A)
登録日 平成28年12月22日(2016.12.22)
発行日 平成29年1月18日(2017.1.18)
公開日 平成26年5月22日(2014.5.22)
発明の名称または考案の名称 ガラスからの重金属の分離方法
国際特許分類 B09B   3/00        (2006.01)
C01B  33/18        (2006.01)
FI B09B 3/00 303A
B09B 3/00 ZAB
B09B 3/00 304J
C01B 33/18 D
請求項の数または発明の数 13
全頁数 13
出願番号 特願2012-248553 (P2012-248553)
出願日 平成24年11月12日(2012.11.12)
審査請求日 平成27年11月6日(2015.11.6)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】592072791
【氏名又は名称】鳥取県
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
発明者または考案者 【氏名】門木 秀幸
【氏名】成岡 朋弘
【氏名】居藏 岳志
【氏名】吉岡 敏明
【氏名】藤森 崇
個別代理人の代理人 【識別番号】110001139、【氏名又は名称】SK特許業務法人
【識別番号】100130328、【弁理士】、【氏名又は名称】奥野 彰彦
【識別番号】100130672、【弁理士】、【氏名又は名称】伊藤 寛之
審査官 【審査官】金 公彦
参考文献・文献 特開2004-306012(JP,A)
特開2007-308310(JP,A)
特開2000-282155(JP,A)
欧州特許出願公開第1918031(EP,A1)
中村 崇,ブラウン管用ガラスのカレットリサイクルの現状と課題,セラミックス,2012年 2月 1日,Vol.47 No.2,pp.86-89
調査した分野 B09B 1/00- 5/00
C01B 33/00-33/193
DWPI(Thomson Innovation)
特許請求の範囲 【請求項1】
重金属を含むガラス粉を塩化剤の存在下で900~1400℃で焼成することによって前記重金属を塩化物として揮発させて分離する工程を備え、
前記焼成は、水酸化物の存在下で行われ
前記塩化剤中の塩素原子と、塩化される前記重金属のモル比(塩素原子/重金属原子)は、3以上であり、
前記水酸化物中の水酸基と、前記塩化剤中の塩素原子のモル比(水酸基/塩素原子)は、0.1~20であり、
前記ガラス粉は、粒径が125μm未満である粒子を50質量%以上含有する、ガラスからの重金属の分離方法。
【請求項2】
前記塩化剤は、塩素含有有機高分子化合物又は塩化カルシウムである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記水酸化物は、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、又は水酸化アルミニウムである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記水酸化物は、水酸化カルシウムである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記モル比(塩素原子/重金属原子)は、6以上である、請求項1~4に記載の方法。
【請求項6】
前記塩化剤がポリ塩化ビニルであり、前記水酸化物中の水酸基と、前記塩化剤中の塩素原子のモル比(水酸基/塩素原子)は、0.5~4である、請求項1~請求項の何れか1つに記載の方法。
【請求項7】
前記モル比(水酸基/塩素原子)は、1.25~1.75である、請求項に記載の方法。
【請求項8】
前記塩化剤が塩化カルシウムであり、前記水酸化物中の水酸基と、前記塩化剤中の塩素原子のモル比(水酸基/塩素原子)は、0.1~1である、請求項1~請求項の何れか1つに記載の方法。
【請求項9】
前記モル比(水酸基/塩素原子)は、0.15~0.65である、請求項に記載の方法。
【請求項10】
前記重金属は、Pb、Co、Cu、Mn、Ni、Zn、In、Cd、As、Se、Fe、Cr、Ti、Ag、Au、Csから選ばれる少なくとも1種である、請求項1~請求項の何れか1つに記載の方法。
【請求項11】
前記ガラス粉は、粒径が45μm未満である粒子を50質量%以上含有する請求項1~10に記載の方法。
【請求項12】
前記焼成の温度は、1000~1300℃である、請求項1~請求項11の何れか1つに記載の方法。
【請求項13】
前記ガラスは、ブラウン管のファンネルガラスである、請求項1~請求項12の何れか1つに記載の方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスからの重金属の分離方法に関する。本発明は、一例では、ブラウン管のファンネル部分に使用されている鉛ガラスから鉛を分離するために利用される。
【背景技術】
【0002】
ブラウン管のファンネル部分に使用されているガラス(ファンネルガラス)には鉛が高濃度で含まれている。従来、ブラウン管を廃棄する際には、ファンネルガラスは、新たなブラウン管のファンネルガラスとしてリサイクルされている。しかし、近年、薄型テレビの普及によって、ブラウン管の製造が減少し、ファンネルガラスを新たなブラウン管のファンネルガラスとして利用することが難しくなっており、ファンネルガラスの別の処分の方法が必要となってきている。
【0003】
上記の通り、ファンネルガラスには鉛が高濃度で含まれているため、そのまま埋め立てることができず、また、建築材料等に利用することも容易ではない。そこで、ファンネルガラスから鉛を除去する技術が要望されている。
【0004】
ファンネルガラスから鉛を除去する技術として、特許文献1に記載されているように、鉛ガラスを還元剤と共に溶融することによって、酸化鉛を還元して金属鉛として回収する方法がある(溶融還元法)。
【0005】
ファンネルガラスから鉛を除去する別の技術として、特許文献2に記載されている、いわゆる分相法がある。この方法では、廃ガラスを酸化ホウ素原料と共に溶融することによって、酸化ケイ素相と酸化ホウ素相の分相状態のガラスを形成し、クロムやコバルト等の不純物を酸化ホウ素相中に濃縮し、この酸化ホウ素相を酸で溶解することによって、廃ガラスから不純物を除去する。
【0006】
また、さらに別の技術として、非特許文献1においては、鉛ガラスを還元溶融処理を行い、約20%含まれる鉛を金属鉛として分離し、ガラス中の鉛濃度を<1mass%まで低減させた後、塩化剤(CaCl)と還元剤(C)を添加し、還元雰囲気で溶融することで、残留するPbをPbClとして揮発分離することで、99%を超えるPbの除去率を達成する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【0007】

【特許文献1】特開平7-96264号公報
【特許文献2】WO2003/024879
【0008】

【非特許文献1】環境問題とガラスのリサイクル技術 還元溶融/塩化揮発ハイブリッド法によるブラウン管ガラスからの鉛の分離抽出技術, セラミック,Vol.47, No.2, pp.96-100, 2012. (Ceramics Japan : Bulletin of the Ceramic Society of Japan 47(2), 96-100, 2012-02)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1の方法は、付加価値が高い金属鉛が回収できるという利点があるが、金属鉛を回収した後のガラス中にも数千mg/kgのレベルで鉛が残留し、このままでは、やはり埋め立て等には利用できないという問題がある。
特許文献2の方法は、不純物を効果的に除去することができるという利点があるが、大量の酸が必要となるため、抽出プラントの規模が大型化し、廃ガラスの処理費用が増大してしまうという問題がある。
非特許文献1の方法は、還元溶融処理と塩化揮発処理の2つの工程が必要であり、処理に手間と時間がかかる。
【0010】
このようにいずれの従来技術も満足の行くものではなく、さらに効率的且つ低コストで、ファンネルガラスから鉛を分離する方法が望まれている。
また、ファンネルガラス以外にも、種々の重金属を含む廃ガラスは多数存在しており、そのような廃ガラスから重金属を分離する方法が望まれている。
【0011】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、効率的且つ低コストでガラスからの重金属を分離する方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、重金属を含むガラス粉を塩化剤の存在下で900~1400℃で焼成することによって前記重金属を塩化物として揮発させて分離する工程を備え、前記焼成は、水酸化物の存在下で行われる、ガラスからの重金属の分離方法が提供される。
【0013】
従来は、ガラスから鉛を分離させるには、CaClなどの塩化剤を用いて鉛を塩化物にして揮発させることによって、ガラスと鉛とを分離するのが一般的であった。このような方法を用いた場合、ガラス中の残留鉛濃度は、600mg/kg(0.06%)程度にまでは低減されるが、土壌汚染対策法において、埋め立てに用いるガラス中の鉛の含有量基準が150mg/kg以下に規定されていることを考慮すると、ガラス中の残留鉛濃度をさらに低減させる必要があった。このような状況において、残留鉛濃度をさらに低減させるべく研究を行ったところ、鉛ガラスの焼成を塩化剤と水酸化物の存在下で行った場合には、残留鉛濃度が大幅に低減されることを見出した。そして、このような現象は、鉛に限定されず、塩化揮発が可能な別の重金属でも同様に生じることを見出し、本発明の完成に到った。
【0014】
水酸化物の添加によって残留重金属濃度が劇的に低減される原理については現在研究中であって、完全には明らかにはなっていないが、水酸化物が、塩化剤から放出された塩素原子を補足し、塩素原子と重金属原子との反応を促進しているのではないかと推測している。そして、この作用により、反応炉内に放出される塩素量を低減させることが可能になり、これによって、炉の腐食を抑制し、且つ反応炉から排出されるガス中の塩素濃度を低減させることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】(a)~(d)は、塩化剤がポリ塩化ビニル(PVC)である場合の塩化剤と水酸化物の併用効果を示すグラフである。
【図2】塩化剤がPVCである場合の焼成温度とPb揮発率との関係を示すグラフである。
【図3】塩化剤がPVCである場合の焼成時間とPb揮発率との関係を示すグラフである。
【図4】塩化剤がPVCである場合のガラス粉の粒径とPb揮発率との関係を示すグラフである。
【図5】(a)~(c)は、塩化剤がCaClである場合の塩化剤と水酸化物の併用効果を示すグラフである。
【図6】(a)~(c)は、塩化剤がCaClである場合の水酸化物の添加量がPb揮発率に与える影響を示すグラフである。
【図7】塩化剤がPVCである場合の種々の重金属についての塩化剤と水酸化物の併用効果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について説明する。

【0017】
本発明の一実施形態のガラスからの重金属の分離方法は、重金属を含むガラス粉を塩化剤の存在下で900~1400℃で焼成することによって前記重金属を塩化物として揮発させて分離する工程を備え、前記焼成は、水酸化物の存在下で行われる。
以下、各工程について詳細に説明する。

【0018】
1.重金属を含むガラス粉
重金属を含むガラス粉は、ボールミルや市販の振動ミルなどを用いて、重金属を含むガラスを破砕することによって製造することができる。ガラス粉の粒径は、特に限定されないが、粒径が大きすぎると、重金属が塩化(塩化物になることを、「塩化」と称する。)されにくく、重金属の除去効率が低下するので、粒径は小さいほうが好ましい。そこで、ガラス粉は、粒径が125μm未満である粒子を50質量%(好ましくは60、70、80、90、95、99質量%)以上含有することが好ましく、粒径が45μm未満である粒子を50質量%(好ましくは60、70、80、90、95、99質量%)以上含有することがさらに好ましい。本明細書において、「粒径がXμm未満である」とは、篩の目開きがXμmである篩を通り抜けるものであることを意味する。「粒径がXμm未満である粒子をY質量%以上」とは、ガラス粉中のY質量%以上の部分が、篩の目開きがXμmである篩を通り抜けるものであることを意味している。篩の目開きがXμmである篩を通り抜けない粒子が若干含まれていても、Y質量%以上の粒子の粒径がXμm未満であれば、その粒子において重金属の塩化揮発反応が十分に進むため、重金属が分離可能である。但し、粒径が大きな粒子が混在しているとその分だけ重金属の揮発率が低下するので、全体の重金属揮発率を高めるには、全ての粒子の粒径がXμm未満であることが好ましい。

【0019】
本実施形態が主に対象としている重金属を含むガラスは、従来技術の項で詳細に説明したブラウン管のファンネルガラスであり、本実施形態は、このファンネルガラスから金属鉛を回収することと、ファンネルガラスを無害化することを目的としている。但し、本実施形態は、ファンネルガラスのみを対象としているのではなく、別の出所・種類の鉛ガラスも対象としている。さらに、本実施形態は、鉛のみを対象としているのではなく、環境汚染防止や資源確保等の観点からガラスからの分離が必要とされる種々の重金属を対象としている。本実施形態が対象とする重金属は、ガラス中に酸化物として存在していて塩化揮発によってガラスから分離可能であるものであり、本明細書において「重金属」は、Pb、Co、Cu、Mn、Ni、Zn、In、Cd、As、Se、Fe、Crのような典型的な重金属、Ti、Ag、Auのようなレアメタルとして分類される金属、その他のCsのような原子量が比較的大きい(例:45~250であり、具体的には例えば、45、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、250であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。)金属を含むものとして定義される。つまり、重金属は、例えば、Pb、Co、Cu、Mn、Ni、Zn、In、Cd、As、Se、Fe、Cr、Ti、Ag、Au、Csから選ばれる少なくとも1種である。これ以外の重金属、レアメタル、その他の金属であっても、塩化揮発によってガラスから分離可能であれば、本実施形態の方法を適用可能である。なお、本発明はガラスを対象としているが、本発明の手法は、コンデンサやコイルなどが搭載された回路基板からのレアメタル回収や、焼却飛灰の無害化などにも応用できる可能性がある。

【0020】
ガラス中のシリカ(SiO)の含有量は、特に限定されないが、例えば30~99質量%であり、具体的には例えば、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、99質量%であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。ガラス中の重金属の含有量は、酸化物換算(重金属が鉛の場合PbO)で、例えば、0.02~50質量%であり、具体的には例えば0.02、0.05、0.1、0.5、1、5、10、15、20、25、30、40、50質量%であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。

【0021】
2.塩化剤
本実施形態の方法で用いる塩化剤は、ガラス中の重金属を塩化物にすることができるものであれば限定されないが、コストや入手容易性等の観点から塩素含有有機高分子化合物や塩化カルシウム(CaCl)が特に好ましい。塩素含有有機高分子化合物は、塩素原子を含む有機高分子化合物であり、ポリ塩化ビニリデンやポリ塩化ビニルが例示される。塩素含有有機高分子化合物は、不適切な方法で処理を行うとダイオキシンの発生原因になり得るので、処分が容易ではないが、本実施形態の方法において塩化剤として用いれば、廃材である塩素含有有機高分子化合物を、重金属をガラスから分離するために有効活用することができる。また、塩化カルシウムは、水溶液の状態でドラム式洗濯機の流体バランサーに充填されるものであり、洗濯機と共に廃棄されるので、安価に入手が可能である。また、塩化カルシウムを用い且つ添加する水酸化物の量を最適化すれば、塩素含有有機高分子化合物を用いた場合よりも、残留重金属濃度を低くすることができるので、塩化カルシウムを塩化剤として用いることが好ましい。

【0022】
塩化剤の添加量は、特に限定されず、重金属が十分に塩化されるのに必要な量を添加すればよい。塩化剤は、好ましくは、塩化剤中の塩素原子と塩化される重金属のモル比(塩素原子/重金属原子)が3以上になるように添加される。このモル比が小さすぎると重金属の塩化が不十分となり重金属の揮発率が低くなる。また、このモル比は、5以上、6以上、8以上、又は10以上がさらに好ましい。この場合、重金属揮発率が高まるからである。このモル比の上限は、特に規定されないが、多く入れすぎてもさらなる重金属揮発率の上昇は期待できないので、例えば、30以下、20以下、又は15以下である。

【0023】
3.水酸化物
塩化剤と共に添加される水酸化物の種類は、特に限定されず、ガラス中の重金属の揮発率を上昇させるものであればよい。水酸化物は、例えば、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、又は水酸化アルミニウムなどの金属水酸化物である。アルカリ金属の水酸化物は、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウムである。アルカリ土類金属の水酸化物は、例えば、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムである。これらの水酸化物の中でも、水酸化カルシウムは、ガラス中の重金属の揮発率を上昇させる効果が特に高いので好ましい。

【0024】
水酸化物の添加量は、特に限定されず、ガラス中の重金属の揮発率を上昇させるのに必要な量であればよい。水酸化物は、例えば、水酸化物中の水酸基と塩化剤中の塩素原子のモル比(水酸基/塩素原子)が0.1~20になるように添加する。水酸化物の添加量が少なすぎても多すぎても、水酸化物添加による重金属の揮発率上昇の効果が十分に得られないからである。モル比の最適値は使用する塩化剤によって異なり、塩化剤がポリ塩化ビニルである場合、モル比(水酸基/塩素原子)は、0.5~4が好ましく、1~2がさらに好ましく、1.25~1.75がさらに好ましい。このモル比は、具体的には例えば、0.5、1、1.25、1.3、1.35、1.4、1.45、1.5、1.55、1.6、1.65、1.7、1.75、2、2.5、3、3.5、4であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。一方、塩化剤が塩化カルシウムである場合、モル比(水酸基/塩素原子)は、0.1~1が好ましく、0.15~0.65がさらに好ましい。このモル比は、具体的には例えば、0.1、0.15、0.2、0.25、0.3、0.35、0.4、0.45、0.5、0.55、0.6、0.65、0.7、0.8、0.9、1であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。このようなモル比の場合には、重金属の揮発率が高くなって、重金属残留濃度が低くなるからである。

【0025】
4.焼成
重金属を含むガラス粉は、塩化剤及び水酸化物の存在下で900~1400℃で焼成する。焼成温度が低すぎると、塩化した重金属が十分に揮発せず、重金属の揮発率が低下する。一方、焼成温度が高すぎると、ガラス中の重金属が塩化される前にガラス粉が熔融してしまって重金属の塩化反応が進まなくなってしまう。焼成温度は、別の表現では、重金属の塩化物の揮発温度以上で、ガラス粉の熔融温度以下の温度である。焼成温度は、具体的には例えば、900、950、1000、1050、1100、1150、1200、1250、1300、1350、1400℃であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
焼成時間が長いほど反応が進んで重金属揮発率が上昇する傾向がある。後述する実験によれば、10分間の焼成で重金属(Pb)揮発率が99%に到達したので、短時間でも重金属を揮発除去することが可能である。また、焼成時間を120分よりも長くしても、それ以上の重金属揮発率の大幅な上昇は期待できない。従って、焼成時間は、好ましくは10~120分である。但し、除去すべき重金属の種類、焼成温度、目標とする揮発率に従って、焼成時間は適宜設定することができる。

【0026】
5.塩化揮発後のガラス、重金属の塩化物
塩化揮発によって重金属が除去された後のガラスは、無害化されているので、そのまま埋め立ててもよく、建築材料等に利用してもよい。また、塩化揮発された重金属塩化物は、冷却やバグフィルタやサイクロン式の集塵装置により回収して、精錬の原料として利用することができる。
【実施例】
【0027】
以下、本発明の実施例について説明する。
【実施例】
【0028】
1.塩化剤と水酸化物の併用効果の実証
1-1.実験方法
まず、鉛ガラス(ブラウン管ファンネルガラス)を粉砕し、目開き45μmの篩を通過させて、粒径が45μm未満のガラス粉を得た。
次に、鉛ガラス0.4gと、塩化剤(PVC)、Ca(OH)を所定の重量を計量し、メノウ乳鉢で混合した後、アルミナるつぼに移し入れた。
所定の温度に加熱した電気炉に入れ、炉内に0.4L/minで空気を流しながら、1100℃で2時間加熱して、鉛を塩化揮発させた。
室温に取り出し冷却した後、るつぼを100mLのポリ製容器に入れた。フッ化水素酸10mL、硝酸10mLを純水で100mLにまで希釈した混酸を加え、容器を密閉し、2時間、超音波洗浄器により、超音波を照射して、ガラスを分解した。分解液を500mLメスフラスコに移し入れ、るつぼ及び分解容器を硝酸15mLで洗い込んだのち、純水で希釈して500mLにした。
ICP-MSでPbの含有量を分析し、次式によりPb揮発率を算出した。
Pb揮発率(%)= (B-A)/B×100
A : 残留ガラス中の残留量(mg)
B : 鉛ガラス中のPb含有量(mg)
【実施例】
【0029】
1-2.実験結果
得られた実験結果を図1(a)~(d)に示す。
図1(a)は、塩化剤としてPVCを用い、水酸化物を添加しない条件で、(Cl/Pb)モル比を変化させたときのPb揮発率と残留Pb濃度を示すグラフである。このグラフに示すように、この条件では、(Cl/Pb)モル比を大きくしてもPb揮発率は上昇せず、PVCのみではPbの塩化揮発が効果的に行われないことが分かった。
図1(b)は、(OH/Cl)モル比が1となるように、水酸化物として消石灰(Ca(OH))を添加した以外は、図1(a)と同様の条件で実験を行って得られたグラフである。このグラフに示すように、水酸化物を添加した場合、(Cl/Pb)モル比を大きくした場合にPb揮発率が上昇し、その結果、(Cl/Pb)モル比が10の場合の残留Pb濃度が0.021%(210mg/kg)という低い値になった。
図1(c)は、(OH/Cl)モル比を1.5に変更した以外は、図1(b)と同様の条件で実験を行って得られたグラフである。このグラフに示すように、(OH/Cl)モル比を1.5に変更することによって、(Cl/Pb)モル比が10の場合の残留Pb濃度が0.009%(90mg/kg)という極めて低い値になった。
図1(d)は、(OH/Cl)モル比を2に変更した以外は、図1(c)と同様の条件で実験を行って得られたグラフである。このグラフに示すように、(OH/Cl)モル比を2に変更した場合、(Cl/Pb)モル比が10の場合の残留Pb濃度が0.018%(180mg/kg)であり、図1(c)の場合よりも却って大きな値になった。
【実施例】
【0030】
以上の結果から、以下のことが言える。
・塩化剤としてPVCのみを用いた場合にはPb揮発率が非常に低かったが、水酸化物を添加することによって、Pb揮発率が大幅に上昇した。
・PVCと水酸化物を併用した場合、PVCと水酸化物の添加量を調整することによって、残留Pb濃度が0.009%(90mg/kg)という極めて低い値になった。土壌汚染対策法の含有量基準が150mg/kg以下であるので、この基準をクリアした。
【実施例】
【0031】
2.焼成温度がPb揮発率に与える影響
次に、(Cl/Pb)モル比を8に固定し(OH/Cl)モル比を1.5に固定して、焼成温度を変化させた以外は、「1-1.実験方法」と同様の実験を行なって、焼成温度がPb揮発率に与える影響を調べた。その結果を図2に示す。図2に示すように、焼成温度が高くなるほど、Pb揮発率が高くなり、900℃で90%を超え、1100℃では99.93%に達した。
【実施例】
【0032】
3.焼成時間がPb揮発率に与える影響
次に、(Cl/Pb)モル比を8に固定し(OH/Cl)モル比を1.5に固定し、焼成時間を変化させた以外は、「1-1.実験方法」と同様の実験を行なって、焼成時間がPb揮発率に与える影響を調べた。その結果を図3に示す。図3に示すように、焼成時間がわずか10分でPb揮発率は99.0%に達し、30分で99.86%になり、120分で99.93%になった。
【実施例】
【0033】
4.ガラス粉の粒径がPb揮発率に与える影響
次に、(Cl/Pb)モル比を8に固定し(OH/Cl)モル比を1.5に固定し、ガラス粉の粒径を変化させた以外は、「1-1.実験方法」と同様の実験を行なって、ガラス粉の粒径がPb揮発率に与える影響を調べた。その結果を図4に示す。図4に示すように、粒径が500μm未満の場合はPb揮発率が80%であり、粒径が125μm未満の場合はPb揮発率が99.3%であり、粒径が45μm未満の場合はPb揮発率が99.93%であった。
【実施例】
【0034】
5.塩化剤がCaClである場合の塩化剤と水酸化物の併用効果
次に、塩化剤としてCaClを使用した以外は、「1-1.実験方法」と同様の実験を行なって、塩化剤がCaClである場合の塩化剤と水酸化物の併用効果を調べた。水酸化物は、Ca(OH)を(OH/Cl)モル比が0.5になるように添加した。
【実施例】
【0035】
その結果を図5(a)~(c)に示す。図5(a)は、(Cl/Pb)モル比を変化させた場合のPb揮発率の変化を示すグラフであり、図5(b)は、図5(a)の縦軸の95~100%の部分を拡大したグラフである。図5(c)は、(Cl/Pb)モル比を変化させた場合の残留Pb濃度の変化を示すグラフである。図5(a)~(c)において、○は水酸化物を使用しなかった場合、●は水酸化物を使用した場合の結果を示す。従って、○→●への変化が塩化剤と水酸化物の併用効果を示している。
【実施例】
【0036】
図5(a)を参照すると、(Cl/Pb)モル比が4の場合、水酸化物を使用しなかった場合はPb揮発率が70.8%であったのに対し、水酸化物を使用した場合はPb揮発率は97.6%に大幅に増大した。この結果は、水酸化物を用いれば、塩化剤の使用量を減らすことができることを示している。
次に、図5(b)~(c)を参照すると、(Cl/Pb)モル比に関わらず、水酸化物を使用することによって、Pb揮発率が上昇し、残留Pb濃度が低減されていることが分かる。例えば、(Cl/Pb)モル比=10の場合、水酸化物を使用しなければ残留Pb濃度は0.059%(590mg/kg)であるのに対し、水酸化物を使用すれば残留Pb濃度が0.0093%(93mg/kg)にまで低減された。土壌汚染対策法の含有量基準が150mg/kg以下であることを考慮すると、590mg/kgから93mg/kgへの低減は、技術的に極めて重要な意義を有する。
【実施例】
【0037】
6.塩化剤がCaClである場合に水酸化物の添加量がPb揮発率に与える影響
次に、塩化剤としてCaClを使用し、(Cl/Pb)モル比を4又は8に固定し、(OH/Cl)モル比を変化させた以外は、「1-1.実験方法」と同様の実験を行なって、塩化剤がCaClである場合に水酸化物の添加量がPb揮発率に与える影響を調べた。
【実施例】
【0038】
その結果を図6(a)~(c)に示す。図6(a)は、(OH/Cl)モル比を変化させた場合のPb揮発率の変化を示すグラフであり、図6(b)は、図6(a)の縦軸の90~100%の部分を拡大したグラフである。図6(c)は、(OH/Cl)モル比を変化させた場合の残留Pb濃度の変化を示すグラフである。図6(a)~(c)において、○は(Cl/Pb)モル比が4の場合、●は(Cl/Pb)モル比が8の場合の結果を示す。
図6(a)~(c)を参照すると、(Cl/Pb)モル比が4の場合は水酸化物を添加しない場合はPb揮発率が極めて低い(約70%)が、水酸化物をわずかでも添加するとPb揮発率が劇的に上昇することが分かる。一方、(Cl/Pb)モル比が8の場合は水酸化物を添加しないでもPb揮発率は99.5%という非常に高い値ではあるが、水酸化物を少量((OH/Cl)モル比=0.15~0.65程度)添加するとPb揮発率がさらに高くなり、残留Pb濃度がさらに低下した。
また、水酸化物を過剰に入れると、Pb揮発率が低下し、残留Pb濃度が上昇することも分かった。
【実施例】
【0039】
7.水酸化物の種類がPb揮発率に与える影響
次に、塩化剤としてCaClを使用し、(Cl/Pb)モル比を10に固定し、(OH/Cl)モル比を0.5に固定し、水酸化物の種類を変化させた以外は、「1-1.実験方法」と同様の実験を行なって、水酸化物の種類がPb揮発率に与える影響を調べた。
その結果を表1に示す。表1に示すように、3種類の水酸化物の何れを使用した場合でも、水酸化物がない場合に比べてPb揮発率が上昇し、残留Pb濃度が低下した。また、アルカリ土類金属の水酸化物(水酸化カルシウム又は水酸化マグネシウム)を用いた場合には、Pb揮発率の上昇及び残留Pb濃度の低下が特に大きかった。さらに、水酸化カルシウムを用いた場合は、Pb揮発率の上昇及び残留Pb濃度の低下が最も大きかった。
【表1】
JP0006061291B2_000002t.gif
【実施例】
【0040】
8.Pb以外の重金属についての塩化剤と水酸化物の併用効果の実証
次に、Pb以外の種々の重金属を塩化揮発によって分離する場合に、水酸化物の併用による揮発率の上昇が見られるかどうかを調べた。
まず、Bi、Ta、Nb、Co、NiO、CuO、MnO、ZnO、TiO、Inをソーダ石灰ガラスに、それぞれ1wt%添加混合して溶融して、模擬ガラスを作成した。
次に、模擬ガラスを粉砕し、目開き45μmの篩を通過させて、粒径が45μm未満のガラス粉を得た。
次に、模擬ガラス0.4gに、塩化剤(PVC)を0.341g、Ca(OH)を0.300gを添加してメノウ乳鉢で混合した後、アルミナるつぼに移し入れた。
所定の温度に加熱した電気炉に入れ、炉内に0.4L/minで空気を流しながら、1100℃で2時間加熱して、重金属を塩化揮発させて分離した。
次に、「1-1.実験方法」と同様の方法で、各種重金属の揮発率を算出した。
その結果を図7に示す。ここでは、Co、Cu、Mn、Ni、Zn、Inについて分析を行った。各元素について、左側のグラフは水酸化物の添加がない場合、右側のグラフは水酸化物の添加がある場合の結果を示す。このグラフから明らかなように、水酸化物を添加していない場合、各種重金属の揮発率は非常に低かったが、水酸化物の添加によって揮発率が劇的に上昇した。
以上より、塩化剤と水酸化物の併用効果は、鉛以外の種々の重金属にも有効であることが実証された。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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