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明細書 :電磁波識別方法及び識別装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5975333号 (P5975333)
公開番号 特開2014-052197 (P2014-052197A)
登録日 平成28年7月29日(2016.7.29)
発行日 平成28年8月23日(2016.8.23)
公開日 平成26年3月20日(2014.3.20)
発明の名称または考案の名称 電磁波識別方法及び識別装置
国際特許分類 G01R  29/08        (2006.01)
FI G01R 29/08 D
請求項の数または発明の数 8
全頁数 12
出願番号 特願2012-194809 (P2012-194809)
出願日 平成24年9月5日(2012.9.5)
審査請求日 平成27年8月14日(2015.8.14)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504174135
【氏名又は名称】国立大学法人九州工業大学
発明者または考案者 【氏名】大塚 信也
【氏名】埋金 寿壮
【氏名】芝田 拓樹
個別代理人の代理人 【識別番号】100108660、【弁理士】、【氏名又は名称】大川 譲
審査官 【審査官】續山 浩二
参考文献・文献 国際公開第2010/038468(WO,A1)
特開2005-024439(JP,A)
特開2012-098158(JP,A)
特開2011-078102(JP,A)
特開2011-153997(JP,A)
特開2001-243512(JP,A)
調査した分野 G01R 29/08
特許請求の範囲 【請求項1】
放射源から放射された電磁波を受信して、該電磁波が直達波であるかどうかを識別する電磁波識別方法において、
所定レベル以上の電磁波信号を検出し、
該検出された電磁波波形データを記録し、保存し、
前記記録し、保存された電磁波波形データを入力して、該電磁波波形データを最大振幅値で規格化した規格化データを用いて、受信電磁波が直達波かどうかを評価し、
該直達波かどうかの評価は、前記規格化データの振幅値のヒストグラムから尖度の値を求め、該尖度の値が所定のしきい値以上かどうかで行い、或いは前記規格化データから正規確率プロットを求め、所定の確率値での規格化データの値が所定のしきい値以上或いは以下であるかどうか、又は所定の規格化データの値での確率値が所定の確率値以上或いは以下であるかどうかで行う、ことから成る電磁波識別方法。
【請求項2】
前記直達波かどうかを評価した結果に基づき、検出電磁波から機器の異常状態を評価して診断する異常状態診断、或いは電磁波発生源の発生場所を特定する電磁波可視化を行う請求項1に記載の電磁波識別方法。
【請求項3】
前記直達波かどうかを評価することにより、受信電磁波が直達波であるか或いは回折波であるかを識別する請求項1に記載の電磁波識別方法。
【請求項4】
放射源から放射された電磁波を受信して、該電磁波が直達波であるかどうかを識別する電磁波識別装置において、
電磁波を検出するアンテナと、
前記アンテナからの所定レベル以上の電磁波信号を検出する検出部と、
前記検出部で検出された電磁波波形データを記録し、保存する測定及び記録部と、
前記測定及び記録部で記録し、保存された電磁波波形データを入力して、該電磁波波形データを最大振幅値で規格化した規格化データを用いて、受信電磁波が直達波かどうかを評価する解析及び評価部と、を備え、
前記解析及び評価部は、前記規格化データの振幅値のヒストグラムから尖度の値を求め、該尖度の値が所定のしきい値以上かどうかで直達波かどうかを評価し、或いは前記規格化データから正規確率プロットを求め、所定の確率値での規格化データの値が所定のしきい値以上或いは以下であるかどうか、又は所定の規格化データの値での確率値が所定の確率値以上或いは以下であるかどうかで直達波かどうかを評価する電磁波識別装置。
【請求項5】
前記解析及び評価部は、直達波かどうかを評価した結果に基づき、検出電磁波から機器の異常状態を評価して診断する異常状態診断、或いは電磁波発生源の発生場所を特定する電磁波可視化を行う請求項4に記載の電磁波識別装置。
【請求項6】
前記解析及び評価部において直達波かどうかを評価した結果は、検出電磁波から機器の異常状態を評価して診断する異常状態診断装置、或いは電磁波発生源の発生場所を特定する電磁波可視化装置に出力される請求項4に記載の電磁波識別装置。
【請求項7】
前記解析及び評価部は、受信電磁波が直達波であるか或いは回折波であるかを識別する請求項4に記載の電磁波識別装置。
【請求項8】
前記放射源は、高電圧電力機器において、絶縁破壊の前駆現象として発生する電気絶縁異常箇所である部分放電発生源であったり、気中コロナ放電であったり、あるいは人体や電気電子機器における静電気放電(ESD)である請求項4に記載の電磁波識別装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、放射源から放射された電磁波を受信して、該電磁波が直達波であるかどうかを識別する電磁波識別方法及び識別装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電力設備には高い信頼性が要求されており、電気的異常を早期に検出し、その状態を評価する技術が求められている。現在、電気絶縁異常が発生した場合、その絶縁異常により発生した放電からの放射電磁波を検出し、その検出波形情報に基づき機器の異常有無や状態評価が試みられている。特に、UHF 帯の電磁波を対象とする UHF 法が注目されている。
【0003】
通常、ガス絶縁開閉装置(GIS)やガス絶縁送電線(GIL)等のガス絶縁機器では、中心高電圧導体-金属接地タンク間が高電界下に曝されており、機器内部で部分放電が発生すると、最終的には中心導体-金属タンク間の絶縁が破れて絶縁破壊を引き起こすおそれがある。そこで、絶縁破壊の前駆現象である部分放電の段階でガス絶縁機器内部を伝搬してくる電磁波信号を検出して、部分放電信号か否かを判定することにより、絶縁異常を事前に見極める診断手法が採られている。この部分放電信号の検出手法としては様々な手法が提案されているが、その1つとして、UHF(Ultra High Frequency)法が絶縁診断の高信頼度化に対して最も有用視されている。UHF法とは主にUHF帯域(300MHz~3GHz)の高周波電磁波をこの帯域に感度を有するアンテナを用いて検出する手法である。
【0004】
放電起因の電磁波発生源の標定は、放電源の位置座標やアンテナからの距離を求めることにより行われている(特許文献1,特許文献2参照)。特許文献1は、電磁波発生源からの電磁波の到来角を求めることのできる電波干渉計システムを開示する。この電波干渉計システムは、電磁波源が水平面内にあるときは2本のアンテナで到来角を求め、また、さらに方位角や仰角が必要な場合や、位置座標を求める必要がある場合には、複数組のアンテナ対を用いる。即ち、3次元的な発生源の座標やアンテナからの距離を求めるために、アンテナを3つ以上配置して、そのアンテナに到達する時間差に基づき行っている(点標定)。
【0005】
発生源と検出センサ間に構造物がある場合、例えば、構造物の背面でUHF 帯の電磁波が発生したとしても、回折現象によりUHF 帯の放射電磁波は検出できる。しかし、回折波は構造物による回折、散乱の影響を受けているため、元の波形とは形状が異なる。そのため、回折波に基づき放電の発生位置や状態を評価すると正しく評価できない問題がある。よって、回折波と直達波を区別することは重要であり、検出波形が回折波か直達波かを知ること、分かることが望まれていた。回折波と直達波のどちらの波形に診断技術を適用しているかを知ることは、診断精度の向上や診断結果の信頼性向上に貢献できる。
【先行技術文献】
【0006】

【特許文献1】特許第4015384号公報
【特許文献2】特開2011-53055号公報
【0007】

【非特許文献1】埋金 寿壮, 芝田 拓樹, 大塚 信也 :放電/誘電・絶縁材料/高電圧合同研究会、 ED-12-025、 DEI-12-0367、 HV-12-025 (2012)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、検出電磁波が直達波であるかどうかを区別して、検出することを目的としている。さらに、このように直達波を選別して検出する技術を、検出電磁波から機器の異常状態を評価する全ての診断装置とか、電磁波発生源の発生場所を特定する電磁波可視化装置に適用することによって、評価の信頼性を向上させることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
放射源から放射された電磁波を受信して、該電磁波が直達波であるかどうかを識別する本発明の電磁波識別方法は、所定レベル以上の電磁波信号を検出し、該検出された電磁波波形データを記録し、保存し、かつ、この記録し、保存された電磁波波形データを入力して、該電磁波波形データを最大振幅値で規格化した規格化データを用いて、受信電磁波が直達波かどうかを評価する。直達波かどうかの評価は、規格化データの振幅値のヒストグラムから尖度の値を求め、該尖度の値が所定のしきい値以上かどうかで行い、或いは規格化データから正規確率プロットを求め、所定の確率値での規格化データの値が所定のしきい値以上或いは以下であるかどうか、又は所定の規格化データの値での確率値が所定の確率値以上或いは以下であるかどうかで行う。
【0010】
また、本発明の電磁波識別装置は、電磁波を検出するアンテナと、このアンテナからの所定レベル以上の電磁波信号を検出する検出部と、この検出部で検出された電磁波波形データを記録し、保存する測定及び記録部と、この測定及び記録部で記録し、保存された電磁波波形データを入力して、該電磁波波形データを最大振幅値で規格化した規格化データを用いて、受信電磁波が直達波かどうかを評価する解析及び評価部とを備える。解析及び評価部は、規格化データの振幅値のヒストグラムから尖度の値を求め、該尖度の値が所定のしきい値以上かどうかで直達波かどうかを評価し、或いは規格化データから正規確率プロットを求め、所定の確率値での規格化データの値が所定のしきい値以上或いは以下であるかどうか、又は所定の規格化データの値での確率値が所定の確率値以上或いは以下であるかどうかで直達波かどうかを評価する。
【0011】
解析及び評価部は、直達波かどうかを評価した結果に基づき、検出電磁波から機器の異常状態を評価して診断する異常状態診断、或いは電磁波発生源の発生場所を特定する電磁波可視化を行う。また、解析及び評価部において直達波かどうかを評価した結果は、検出電磁波から機器の異常状態を評価して診断する異常状態診断装置、或いは電磁波発生源の発生場所を特定する電磁波可視化装置に出力される。
【0012】
解析及び評価部は、受信電磁波が直達波であるか或いは回折波であるかを識別する。放射源は、高電圧電力機器において、絶縁破壊の前駆現象として発生する電気絶縁異常箇所である部分放電発生源であったり、気中コロナ放電であったり、あるいは人体や電気電子機器における静電気放電(ESD)である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、放射源からの検出電磁波波形が直達波かどうかを区別することができる。より具体的には、トリガをかけてある振幅値以上の電磁波を検出し、その検出した電磁波波形を処理して評価することで、直達波かどうかを判断する(区別する)ことができる。これによって、検出電磁波から機器の異常状態を評価する全ての装置に対して、直達波を選別して評価することでその信頼性が向上する。
【0014】
また、電磁波発生源の発生場所を特定する電磁波可視化装置に適用する場合において、回折波を検出した場合は位置標定を正しく評価できない可能性が高いが、本発明による検出電磁波波形が直達波かどうかを区別する技術を用いることにより、「回折波による標定結果」と表示することで結果の誤りの可能性を理解できる。即ち、電磁波可視化装置では、可視化結果が何もない空間や、発生しそうにない場所に表示されると、その評価は誤りであることが容易に理解できる一方、回折波と知らずに標定して、発生しそうな場所に誤って評価された場合、その標定結果を「回折波による標定結果」と表示することで、結果の誤りの可能性を喚起できることになる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の電磁波直達波と回折波の識別装置を示す概略構成図である。
【図2】直達波と回折波を識別する方法を説明する図である。
【図3】測定した電磁波波形を例示する図であり、(A)は受信アンテナから見える位置(P1)で測定した電磁波波形を、また、(B)は、受信アンテナから見えない位置(P5)で測定した電磁波波形をそれぞれ示している。
【図4】検出した電磁波を規格化した波形を例示する図であり、(A)は受信アンテナから見える位置(P1)で測定した電磁波の規格化波形を、また、(B)は、受信アンテナから見えない位置(P5)で測定した電磁波の規格化波形をそれぞれ示している。
【図5】振幅のヒストグラムを示す図であり、(A)は受信アンテナから見える位置(P1)で測定し規格化した電磁波波形(図4(A)参照)から作成したものであり、(B)は受信アンテナから見えない位置(P5)で測定し規格化した電磁波波形(図4(B)参照)から作成したものである。
【図6】GIS 周辺設備でのESD ガンの配置を示す図である。
【図7】ESD ガンを図6中の位置P1、P4、P5、P7 に配置した時の測定電磁波波形を示す図である。
【図8】図7に示す測定電磁波の規格化波形を示す図である。
【図9】(A)(B)は、左右一対のアンテナSLB,SRBでそれぞれ測定した測定電磁波に対して規格化し、かつヒストグラム化した振幅値ヒストグラムの分布から求めた尖度 Kを、測定地点毎に表示したグラフである。
【図10】(A)(B)は、左右一対のアンテナSLB,SRBでそれぞれ測定した測定電磁波に対して規格化し、かつヒストグラム化した振幅値ヒストグラムの正規確率プロットの分布を、測定地点毎に表示したグラフである。
【図11】各ESD ガン配置における最大振幅値Vpp のアンテナ距離L依存性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、例示に基づき本発明を説明する。図1は、本発明の電磁波直達波と回折波の識別装置を示す概略構成図である。本発明は、例えば、ガス絶縁開閉装置(GIS)やガス絶縁送電線(GIL)等のガス絶縁機器において、絶縁破壊の前駆現象である部分放電の段階でガス絶縁機器内部を伝搬してくる電磁波信号を検出して、部分放電信号か否かを判定するUHF法等に対して適用できる。それ故に、図1の放射源とは、例えば、機器内部で発生した部分放電がスペーサやブッシングなどの電磁波開口部から機器外部に漏洩した電磁波が発生源となる。但し、後述のように、実験は、放射源としてESDガンを用い、かつ、アンテナから見える位置と機器の背後など見えない位置などに設置して行った。電磁波を検出するアンテナは、指向性のあるUHF帯に感度を有する、例えばホーンアンテナである。検出部及び測定/記録部は、オシロスコープによって構成できる。検出部で、アンテナからのトリガレベル以上の電磁波信号を検出し、測定/記録部で、検出電磁波波形を記録、保存する。

【0017】
解析/評価部及び表示部は、パソコンによって構成できる。測定/記録部で検出し、記録された電磁波波形データを解析/評価部に入力して、波形データを、1)最大振幅値で規格化して、2)そのデータの振幅値のヒストグラムから尖度Kを求め、Kの値があるしきい値以上かどうかで直達波かどうかを評価する。或いは3)上記1)の規格化データから正規確率プロットを求め、ある確率値でのデータの値があるしきい値以上(あるいは以下)であるかどうかで直達波かどうかを評価する。なお、これと反対に、あるデータの値での確率値があるしきい値以上(あるいは以下)であるかどうかでも直達波かどうかを評価できる。表示部は、評価された結果を表示する。

【0018】
また、解析/評価部において直達波かどうかを評価した結果は、機器の異常状態診断装置とか電磁波可視化装置などの外部装置に出力することができる。直達波かどうかを評価した結果は、検出電磁波から機器の異常状態を評価して診断するいずれの外部の診断装置に対しても出力することができる。これによって、機器の異常状態を評価する診断装置では、直達波を選別して評価することでその信頼性が向上する。或いは、直達波かどうかを評価した結果は、電磁波可視化装置に出力して、電磁波発生源の発生場所を特定する位置標定を正しく評価することができる。若しくは、機器の異常状態の診断とか電磁波可視化を、外部の装置で行う代わりに、パソコン内部の解析/評価部で行うことも可能である。

【0019】
本発明者らは、受信アンテナから直接見える位置と見えない位置に、放射源であるESD ガンを配置して、電磁波測定実験(詳細は、後述する実施例1参照)を重ねた結果、以下の相違があることが分かった。

【0020】
1)回折波と直達波の波形を比べると、回折波は直達波よりも信号強度は低下している。なお、本明細書において、「直達波」とは、直接見通しできる2つの位置の間で伝搬する電磁波を意味する用語として用いている。

【0021】
2) 回折波は直達波よりも波形振幅の持続時間は長くなる。

【0022】
そこで、1)からは、発生信号の強度が常に一定であれば検出信号の強度に基づき回折波と直達波は区別できることになるが、しかし、一般に放電信号は一定でないため、検出信号の強度だけの比較では回折波と直達波を識別できない。そこで、1)と 2)を考慮して、信号を最大振幅値で規格化して、その積分値を評価した場合、回折波と直達波を識別できることもあったが、伝搬経路の条件によっては、顕著な差が認められなかった。

【0023】
そこで、さらに、回折波と直達波の規格化波形を比べると、両波形とも振幅値ゼロの時間軸を線対称とする正負振幅がほぼ対象である波形であり、かつ、回折波は振幅が持続するのに対し、直達波は振幅が持続せず、振幅値ゼロ付近の値が多いことが分かった。このことから、本発明者らは、直達波と回折波を識別する評価指標を見出した。

【0024】
図2は、直達波と回折波を識別する方法を説明する図である。最初に、ステップS1で電磁波を測定する。図3は、測定した電磁波波形を例示する図であり、(A)は受信アンテナから見える位置(P1)で測定した電磁波波形を、また、(B)は、受信アンテナから見えない位置(P5)で測定した電磁波波形をそれぞれ示している。受信アンテナの出力は波形測定装置(例えば、オシロスコープなどの波形観測装置)で検出し記録する。波形測定装置は、オシロスコープのようなトリガ機能を有する測定器を用いて、そのトリガレベルを超えた信号を、所定のトリガ回数となるまで繰り返し測定して検出し、その検出された波形を記録する。

【0025】
次に、図2に示すステップS2において、測定電磁波波形から、Vp+max(プラス方向に最大の振幅値、即ち正の値の最大値)及びVp-max(マイナス方向に最大の振幅値、即ち負の値の最小値)を読み取る。ステップS3において、最大振幅値であるVpp=|Vp+|+|Vp-|を演算により求める。次に、ステップS4において、ある測定時間(例えば 100ns 間)での検出電磁波の振幅値 Vpp を規格化する。即ち、求めた最大振幅値Vpp=1として、検出電磁波の一波形毎にプラス方向ピーク値、及びマイナス方向ピーク値を用いて規格化する。各ピーク値は、波形の最大値、最小値を求める一般的なアルゴリズムで求めることができる。このアルゴリズムを用いて、波形データの各点を比較していくことで最大と最小値を求める。各振幅値の個数は、規格化した波形データから、グラフソフトや統計解析ソフトの一般的なヒストグラム機能で求めることができる。

【0026】
図4は、検出した電磁波を規格化した波形を例示する図であり、(A)は受信アンテナから見える位置(P1)で測定した電磁波の規格化波形を、また、(B)は、受信アンテナから見えない位置(P5)で測定した電磁波の規格化波形をそれぞれ示している。規格化しないと、発生信号の大きさは放電現象や伝搬距離により異なるため、絶対値での評価は基準を決めることが困難となる。その規格化波形の振幅値に基づき、図2のステップS5において、ヒストグラム化する。

【0027】
図5は、振幅のヒストグラムを示す図であり、(A)は受信アンテナから見える位置(P1)で測定し規格化した電磁波波形(図4(A)参照)から作成したものであり、(B)は受信アンテナから見えない位置(P5)で測定し規格化した電磁波波形(図4(B)参照)から作成したものである。測定電磁波波形を各波形の最大振幅値Vpp で規格化し、その規格化波形の各振幅値の発生頻度をヒストグラムで表わしたものである。各図において、横軸は、規格化波形データの振幅値区間(ここでは1区間を0.01刻みとした)を、振幅値ゼロを中心にして表示している。縦軸は、その振幅値区間の度数、即ちデータの個数を表している。

【0028】
図5に示すように、受信アンテナから見える位置P1 の直達波では規格化振幅値が0付近の個数が多いが、受信アンテナから見えない位置P5 の回折波では振幅が持続するため規格化振幅値が0付近からその周囲に分布が移動している。即ち、直達波は回折波に比べて分布の尖度が高くなることがわかる。実変電所で回折試験を実施したことにより(後述する実施例1参照)、直達波と回折波を識別できる尖度による評価基準を見出すことができた。或いは、この評価基準として、尖度による評価に代えて、正規確率分布を用いて評価することができる。

【0029】
1)尖度により評価
規格化振幅値ヒストグラムの分布から統計量の「尖度K」に従い区別する。規格化振幅値ゼロであるヒストグラムの中心に多数のデータが分布、即ち尖っている分布は直達波で、振幅値ゼロの周囲にも、ほぼ対称にデータが分布するもの、即ち直達波より分布の尖りが小さいものが回折波として評価できる。即ち、尖度 K が大きいと(例えば K>10)その検出波形は直達波であると評価できる。それ以下の場合は、回折波と評価できる。

【0030】
尖度を求める一般的計算式は、以下の通りである。波形の各規格化振幅値を表すN 個のデータ:(x1、 x2、 ・ ・ ・ 、 xN)の各規格化振幅値が以下のように変数xi で与えられていたとする。Sは標準偏差を表す。
尖度Kは、
【数1】
JP0005975333B2_000002t.gif
で表される。

【0031】
2)正規確率分布により評価
規格化振幅値のヒストグラムの正規確率プロットの分布に従い、ある確率値での規格化振幅データの値の大小で区別する(後述する図10参照)。即ち、例えば、確率値0.1%の値が-0.2より小さい場合、或いは確率値99.9%の値が+0.2より大きな場合は直達波であると評価できる。それ以外では、回折波と評価できる。正規確率分布は、例えば、グラフソフト(エクセルやKaleidaGraph)の正規確率プロットを用いて求めることができる。正規確率プロットは、データが正規分布に従っているかどうかを判定するために用いるもので、正規分布に近いデータでは、ほぼ直線上に分布する。従って、正規分布に近い回折波では、ほぼ直線上の分布を示すことになるのに対して、直達波では正規分布とは異なることから、直線からのずれが見られる。
【実施例1】
【0032】
本発明を実証する実験を、屋外変電所の220kV のガス絶縁開閉装置(GIS)設備周辺で実施した。図6は、GIS 周辺設備でのESD ガンの配置を示す図である。実験では、受信アンテナ位置は固定して、放射電磁波源(ESD ガン)の位置を変化させた。アンテナ配置は、一対の右下アンテナSRB及び左下アンテナSLBと、左上のアンテナSLTの3 アンテナ配置である。同図のように、放射源であるESD ガンが受信アンテナから直接見える位置(P1~P4)と、見えない位置(P5~P8)の8 ヶ所で試験した。
【実施例1】
【0033】
電磁波の測定は、対象とする周波数帯域に感度を有するアンテナ(例えば UHF 帯を対象とする場合にはホーンアンテナを使用)と、損失の少ない同軸ケーブルと、およびデジタルオシロスコープ(FastFrame モードのようなセグメントメモリを使用)のように波形を検出記録できる装置と、その測定波形データをパソコンのように解析、評価、表示できる解析/評価部、表示部で行った。Fast Frameモードとは、テクトロニクス社製のオシロスコープに搭載されている機能の名称で、トリガがかかった瞬間のある時間だけを高サンプリングで指定回数だけ記録し、トリガがかからない間はデータを記録しないことで、メモリの節約を行う(高サンプリングで長時間の計測を行う)技術である。
【実施例1】
【0034】
静電気放電試験器(試験器本体:Noiseken, ESS-2002EX、ESDガン部:Noiseken, TC-815-R。以下、この静電気放電試験器をESD ガンと呼ぶ。)のESDガン部先端の放電電極近くに、接地端子と接続されているφ0.25mm のアルミニウムワイヤを配置し、このワイヤと放電電極間でギャップ放電を発生させることで電磁波を発生させた。このESD ガンは、CR ユニット(C=330pF、R=2kΩ)を用い、充電電圧Vc は正極性10kV 一定として使用した。放射電磁波は、UHF 帯を測定対象として、周波数帯域750MHz~5GHzのホーンアンテナ(Schwarzbeck, BBHA9120A)を用い、同軸ケーブルを介してデジタルオシロスコープ(Tektronix, DPO7254, 2.5GHz, 40GS/s)に接続し、オシロスコープのFastFrame モードを使用し(トリガーイベントN=40 回)測定した。
【実施例1】
【0035】
図7は、一例として、ESD ガンを図6中の位置P1、P4、P5、P7 に配置した時の測定電磁波波形を示す図である。図中の右側の波形は、最上段波形(P1)を除いて、縦軸方向に拡大して図示している。図7に示されるように、放射源が直接見えない位置であるP5、P7 でも電磁波波形は検出できている。その波形は、放電源が直接見える位置であるP1、P4 と比べると大きく異なっている。即ち、電磁波振幅値(V) は小さいが、振幅持続時間は長いことがわかる。これは、回折波として伝搬してきたと考えられる。従って、本結果は、機器背後で発生した放電でも、放射電磁波は回折して伝搬するため検出できることを示している。図8は、図7に示す測定電磁波の規格化波形を示す図である。後のヒストグラム化においては、図8に示す規格化波形(100ns程の時間領域)を用いる。
【実施例1】
【0036】
図9(A)(B)は、左右一対のアンテナSLB,SRBでそれぞれ測定した測定電磁波に対して、上述したように規格化し、かつヒストグラム化した振幅値ヒストグラムの分布から求めた尖度 Kを、測定地点毎に表示したグラフである。(A)に示すアンテナSLB或いは(B)に示すアンテナSRBのいずれにおいても、受信アンテナから直接見える位置(P1~P4)(即ち、直達波)の測定結果は尖度 Kが10を越えるのに対して、見えない位置(P5~P8)(即ち、回折波)の測定結果は尖度 Kが10未満であった。これにより、尖度 K が大きいと(例えば K>10)その検出波形は直達波であると評価できる。それ以下の場合は、回折波と評価できる。
【実施例1】
【0037】
図10(A)(B)は、左右一対のアンテナSLB,SRBでそれぞれ測定した測定電磁波に対して、上述したように規格化し、かつヒストグラム化した振幅値ヒストグラムの正規確率プロットの分布を、測定地点毎に表示したグラフである。正規確率プロットは、データが正規分布に従っているかどうかを判定するために用いるもので、正規分布に近い回折波では、ほぼ直線上の分布を示す一方、直達波では正規分布とは異なることから、直線からのずれが見られることになる。図10において、横軸に確率(累積相対度数)と、縦軸にデータの値(規格化振幅値)を示している。確率(累積相対度数)とは、そのデータ区間までに含まれる度数(データの個数)の合計をデータの総数で除したものである。振幅値ヒストグラムの正規確率プロットの分布に従い、ある確率値での規格化振幅データの値の大小で直達波と回折波を区別することができる。即ち、確率値0.1%の値が-0.2より小さい場合、或は確率値99.9%の値が+0.2より大きな場合は直達波であると評価できる。それ以外では、回折波と評価できる。
【実施例1】
【0038】
図11は、各ESD ガン配置における最大振幅値Vpp のアンテナ距離L依存性を示す図である。これまでの検討から、本測定装置における直達電磁波の振幅値Vpp (V)のアンテナ距離L(m)依存性は、eq(1):Vpp = 1.16Vc / L (VcはESDガンの充電電圧(kV)である)として表されることが知られている(非特許文献1参照)。同図より、P1~P4 の結果は、直達波である特性とよく一致している。他方、回折波と思われるP5~P8 の結果は、直達波Vpp の1/5 に低下しており、直達波の特性曲線と異なる特性である。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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