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明細書 :血中HCV検出方法及び抗HCV治療の効果判定方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5924587号 (P5924587)
公開番号 特開2014-059219 (P2014-059219A)
登録日 平成28年4月28日(2016.4.28)
発行日 平成28年5月25日(2016.5.25)
公開日 平成26年4月3日(2014.4.3)
発明の名称または考案の名称 血中HCV検出方法及び抗HCV治療の効果判定方法
国際特許分類 G01N  33/576       (2006.01)
G01N  33/53        (2006.01)
C12Q   1/70        (2006.01)
C07K  14/47        (2006.01)
FI G01N 33/576 Z
G01N 33/53 D
C12Q 1/70 ZNA
C07K 14/47
請求項の数または発明の数 7
全頁数 17
出願番号 特願2012-204395 (P2012-204395)
出願日 平成24年9月18日(2012.9.18)
審査請求日 平成26年10月31日(2014.10.31)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504258527
【氏名又は名称】国立大学法人 鹿児島大学
発明者または考案者 【氏名】宇都 浩文
【氏名】坪内 博仁
【氏名】馬渡 誠一
個別代理人の代理人 【識別番号】100091096、【弁理士】、【氏名又は名称】平木 祐輔
【識別番号】100118773、【弁理士】、【氏名又は名称】藤田 節
【識別番号】100170221、【弁理士】、【氏名又は名称】小瀬村 暁子
審査官 【審査官】草川 貴史
参考文献・文献 国際公開第2009/051259(WO,A1)
特開2006-308533(JP,A)
特表2010-507093(JP,A)
調査した分野 G01N 33/48-33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
補体C4のHCV NS3/4Aプロテアーゼ切断により生成される、血液検体中のC4γ切断断片を検出することを含む、被験者の血液中のC型肝炎ウイルス(HCV)の検出方法であって、前記C4γ切断断片が、配列番号1で示されるアミノ酸配列の1583位のシステインと1584位のセリンの間、又は1590位のシステインと1591位のアラニンの間のNS3/4Aプロテアーゼ切断によりC4γ鎖から生成される17kDa又は15kDaのタンパク質である、方法
【請求項2】
被験者が、C型肝炎ウイルス感染者又は感染既往者である、請求項に記載の方法。
【請求項3】
被験者が、C型肝炎ウイルスに対する抗ウイルス治療中又は抗ウイルス治療終了後の患者である、請求項記載の方法。
【請求項4】
請求項又はに記載の方法を用いてC型肝炎ウイルスを経時的に測定することを含む、被験者におけるC型肝炎ウイルス量のモニタリング方法。
【請求項5】
請求項又はに記載の方法を用いてC型肝炎ウイルスを測定し、その測定結果を抗ウイルス治療の効果の指標とすることを含む、抗ウイルス治療効果判定するための指標を得る方法。
【請求項6】
補体C4のHCV NS3/4Aプロテアーゼ切断により生成されるC4γ切断断片に結合する抗体を含む、C型肝炎ウイルス検出試薬であって、前記C4γ切断断片が、配列番号1で示されるアミノ酸配列の1583位のシステインと1584位のセリンの間、又は1590位のシステインと1591位のアラニンの間のNS3/4Aプロテアーゼ切断によりC4γ鎖から生成される17kDa又は15kDaのタンパク質である、C型肝炎ウイルス検出試薬
【請求項7】
請求項に記載のC型肝炎ウイルス検出試薬を含む、C型肝炎ウイルス検出用キット。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、血中HCV検出方法及び抗HCV治療の効果判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
C型肝炎ウイルス(Hepatitis C Virus;HCV)はフラビウイルス科に属するプラス鎖一本鎖RNAウイルスであり、ヒトを固有の宿主とし、C型肝炎の原因になることが知られている。Simmondsらの系統解析法によると、HCVの遺伝子型は遺伝子型1~6に分類され、さらにそれらは複数のサブタイプに分類されている(非特許文献1)。HCVのRNAゲノムは、4つの構造タンパク質領域(Core、E1、E2、p7)と6つの非構造タンパク質領域(NS2、NS3、NS4A、NS4B、NS5A、NS5B)からなる1つの前駆体タンパク質(ポリプロテイン)をコードする(非特許文献2)。前駆体タンパク質は翻訳後、宿主細胞内のプロテアーゼ及びウイルスプロテアーゼによって加水分解され、それぞれ成熟した10種類のタンパク質となる。
【0003】
HCVに感染し急性肝炎を発症した患者のうち、70%が持続感染して慢性化するといわれている。持続感染者の多くはALT高値等の肝障害を伴う慢性肝炎となり、やがて肝硬変、肝癌や肝不全へと進行する。HCVに対する主な抗ウイルス治療として、インターフェロン-αやインターフェロン-βの単独療法に加えて、ペグインターフェロンとリバビリンとの併用療法が標準的な治療法として確立されている。しかしこれらのインターフェロンを用いた抗ウイルス治療では、全治療者の約60%にしか治療効果が認められず、ウイルスが陰性化しても治療終了後に再燃する例は多い。またインターフェロンの治療効果は、HCVの遺伝子型と大きく関連しており、遺伝子型1や4に対しては効果が低く、遺伝子型2、3、5、6に対してはより効果が高いとされている。
【0004】
現在のC型肝炎の治療法では、HCV排除のための24~72週間にわたる薬剤投与による抗ウイルス治療が主に行われている。薬剤投与期間を完遂して血清HCV RNAが陰性化した後、経過観察を行って24週目まで血清HCV RNAの陰性化が認められた場合、その治療効果は、持続性ウイルス学的著効(sustained virological response;SVR)と判断される。現在のC型肝炎治療は最終的にこのSVRを目指している。一方、薬剤投与終了時には血清HCV RNA陰性であったが、その後に血清HCV RNAが陽性化した場合、その治療効果は再燃と判断される。また所定の薬剤投与期間を完遂したが血清HCV RNAが陰性化しない場合、治療無効と判断される。従来の抗ウイルス治療では、抗ウイルス治療の効果を判定するためにHCV RNAを定量的に検出してHCV量の指標としている。HCV RNAの検出にはアンプリコア法やTaqMan法が用いられているが、ウイルスの陰性化をより厳密かつ早期に確認するために、より高感度なHCV検出法が求められている。
【0005】
HCVのNS3とNS4Aによって構成される酵素NS3/4Aはセリンプロテアーゼ活性を有し、HCV複製に重要な役割を担い、直接作用型抗ウイルス剤(direct-acting antiviral agents;DAA)の標的の一つとなっている(非特許文献3及び4、特許文献1等)。DAAの一つであるNS3/4Aプロテアーゼ阻害剤は、近年、HCVに対する治療効果を飛躍的に向上させ、ペグインターフェロン+リバビリン+NS3/4Aプロテアーゼ阻害剤の3剤併用療法は、難治と言われていたHCV遺伝子型1型かつ高ウイルス量であるC型慢性肝炎患者において、高いウイルス消失効果をもたらしている。しかしNS3/4Aプロテアーゼ阻害剤の抗ウイルス作用の機序は十分解明されているとはいえない。
【0006】
HCVの持続感染には、HCVが宿主免疫応答に対し抑制的に作用していることが示唆されている(非特許文献5)が、その機序は十分解明されていない。また、HCV感染者の中で、肝硬変へ進展するスピードには個人差があり、特にHCV慢性感染者ではあるがALT値正常を維持するALT正常持続HCV感染者(HCV carrier with persistent normal ALT;PNALT)は、ALTが高値の慢性肝炎患者と比較し、肝線維化のスピードが遅いことが報告されている(非特許文献6)。これらの臨床像の違いは、宿主免疫反応に起因していることが推測されるが、その反応の違いの理由は十分解明されていない。
【0007】
本発明者らはこれまでプロテオミクスを用いた手法で、肝疾患患者の血清から主として肝臓癌のマーカーとなりうるタンパク質を同定する試みを行ってきた(非特許文献7~10)。しかしそれらのタンパク質の生体内での機能や肝疾患患者の病態との関連は十分解明されていない。
【先行技術文献】
【0008】

【特許文献1】国際公開WO 2006/039488
【0009】

【非特許文献1】Simmonds et al., Hepatology, (1994) vol.10, p.1321-1324
【非特許文献2】Rehermann B., J. Clin. Invest., (2009) 119(7):1745-1754
【非特許文献3】Moradpour D., et al., Nat. Rev. Microbiol., (2007) 5(6):453-463
【非特許文献4】Morikawa K., et. al., J. Viral. Hepat., (2011) 18(5):305-315
【非特許文献5】Barnaba V., J. Hepatol., (2010);53(4):752-761
【非特許文献6】Persico M., et al., J. Viral Hepat., (2006);13(5):290-296
【非特許文献7】Kanmura S., et al., Hepatology. (2007);45(4):948-956
【非特許文献8】Kanmura S., J. Gastroenterol., (2010);45(4):459-467
【非特許文献9】Uto H., Proteome Sci., (2010);31;8:70
【非特許文献10】Imakiire K., Mol. Med. Report., (2012); 6: 259-264
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、ヒト被験者の血中のC型肝炎ウイルスをより高感度に検出する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、HCVのNS3/4Aプロテアーゼが補体C4をγ鎖内で切断すること、及びそれにより生じるC4γ切断断片量がHCV感染者の血中のHCVの存在、及び抗HCV治療後のHCV量の変化(抗ウイルス治療の効果)をよく反映することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は以下を包含する。
[1] 補体C4のHCV NS3/4Aプロテアーゼ切断により生成される、血液検体中のC4γ切断断片を検出することを含む、被験者の血液中のC型肝炎ウイルス(HCV)の検出方法。
[2] 前記C4γ切断断片が、配列番号1で示されるアミノ酸配列の1583位のシステインと1584位のセリンの間、又は1590位のシステインと1591位のアラニンの間のNS3/4Aプロテアーゼ切断によりC4γ鎖から生成される17kDa又は15kDaのタンパク質である、上記[1]に記載の方法。
[3] 被験者が、C型肝炎ウイルス感染者又は感染既往者である、上記[1]又は[2]に記載の方法。
[4] 被験者が、C型肝炎ウイルスに対する抗ウイルス治療中又は抗ウイルス治療終了後の患者である、上記[3]記載の方法。
[5] 上記[3]又は[4]に記載の方法を用いてC型肝炎ウイルスを経時的に測定することを含む、被験者におけるC型肝炎ウイルス量のモニタリング方法。
[6] 上記[4]又は[5]に記載の方法を用いてC型肝炎ウイルスを測定し、その測定結果を抗ウイルス治療の効果の指標とすることを含む、抗ウイルス治療効果の判定方法。
[7] 補体C4のHCV NS3/4Aプロテアーゼ切断により生成されるC4γ切断断片に結合する抗体を含む、C型肝炎ウイルス検出試薬。
[8] 前記C4γ切断断片が、配列番号1で示されるアミノ酸配列の1583位のシステインと1584位のセリンの間、又は1590位のシステインと1591位のアラニンの間のNS3/4Aプロテアーゼ切断によりC4γ鎖から生成される17kDa又は15kDaのタンパク質である、上記[7]に記載のC型肝炎ウイルス検出試薬。
[9] 上記[7]又は[8]に記載のC型肝炎ウイルス検出試薬を含む、C型肝炎ウイルス検出用キット。
【発明の効果】
【0013】
本発明の方法によれば、HCV感染者の血中のHCVをより高感度に検出することができ、抗ウイルス治療の効果の判定に有利に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、HCV NS3/4AプロテアーゼによるC4切断の解析結果を示す。図1AはSDS-PAGEの結果、図1Bは補体C4の前駆体タンパク質のアミノ酸配列上のC4γ切断断片のN末端の位置を示す。図1Bに示した配列は配列番号3に示す。
【図2】図2は、補体C4のHCV NS3/4Aプロテアーゼによる切断様式を示す。
【図3】図3は、HCV NS3/4AプロテアーゼによるC4切断で生成したC4γ切断断片Frag F1、F2、F3を示したSDS-PAGE像を示す。
【図4】図4は、図3においてサンプル(1)~(6)について示された各バンドのタンパク質濃度を光学密度で示す。
【図5】図5は、補体機能(溶血)へのHCV NS3/4Aプロテアーゼの影響を示す。データは三重反復(triplicate)で測定し、平均±標準偏差で表した。図中、左からC4添加量12.5μg/ml、6.3μg/ml、3.1μg/mlの試験群を示す。「no C4」はC4無添加のコントロールを示す。
【図6】図6は、HCV NS3/4Aプロテアーゼの補体機能低下作用に対するHCV NS3/4Aプロテアーゼ阻害剤の影響を示す。C4は6.3μg/ml添加した。データは三重反復(triplicate)で測定し、平均±標準偏差で表した。
【図7】図7は、HCV感染者及びHCV非感染者の血液中のC4γ切断断片Frag F1、F2の検出結果を示す写真である。
【図8】図8は、抗ウイルス治療中のHCV感染者の血清中のC4γ切断断片を経時的に測定した結果を示す図である。図8AとB、CとD、EとFは、それぞれ1型SVR症例(遺伝子型1のHCV感染者のSVR症例)、2型SVR症例(遺伝子型2のHCV感染者のSVR症例)、及び1型無効例(遺伝子型1のHCV感染者でSVRが得られなかった症例)における、血清中のC4γ切断断片の検出を示すウェスタンブロットの結果及びHCV-RNA測定値(A、C、E)、並びにそのウェスタンブロットに基づくC4γ切断断片のコントロールとの濃度比(B、D、F)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
補体系は自然免疫の中心的役割を担っており、病原体の排除を補助する。補体系は血液中の多数の小タンパク質から構成され、古典経路、マンノース結合レクチン経路、副経路の3つの生化学的プロセスで活性化される。補体系を構成する成分の1つである補体C4は、古典経路及びマンノース結合レクチン経路で活性化される。C4は分子量19.8万の糖タンパク質であり、3本のポリペプチド鎖(α鎖、β鎖、γ鎖)がジスルフィド結合で架橋されたユニット構造をとっている(図2)。ヒトC4遺伝子によってコードされる1本の前駆体ポリペプチド(C4前駆体ポリペプチド)は翻訳後に切断され、補体C4β鎖、補体C4-Aα鎖(補体C4α鎖)、及び補体C4γ鎖が生成する。C4遺伝子にコードされる前駆体ポリペプチドのアミノ酸配列は決定されている。例えばNCBI Proteinデータベース(UniProtKB/Swiss-Prot)でアクセッション番号P0C0L4(version: P0C0L4.1)の下で開示されるヒトのC4前駆体ポリペプチドの典型的アミノ酸配列(配列番号1)において、1~19位はシグナルペプチド、20~675位は補体C4β鎖、676~679位はプロペプチド、680~1446位は補体C4α鎖、1447~1453位はプロペプチド、そして1454位~1744位が補体C4γ鎖である。補体C4γ鎖に相当する、配列番号1の1454位~1744位のアミノ酸配列を配列番号2に示す。

【0016】
本発明は、ヒト生体内でこの補体C4γ鎖からHCV由来のNS3/4Aプロテアーゼによる切断で生成される切断断片(C4γ切断断片)が、血中のHCVの存在量をよく反映しているという、本発明者らが見出した驚くべき知見に基づくものである。本発明は、被験者由来の血液検体中のC4γ切断断片を検出し、その検出結果に基づいて、該被験者の血中のC型肝炎ウイルス(HCV)を検出する方法に関する。

【0017】
本発明において「血液検体」とは、血液中のHCVを検出すべき被験者から採取した血液(全血)、又はそこから常法により分離した血清若しくは血漿を指し、血清がより好ましい。血液検体は、冷蔵温度(2~8℃)又はそれ以下で保存することが好ましく、採血の数日後以降にHCV検出を行う場合には冷凍保存(例えば-20℃又は-80℃)することがさらに好ましい。

【0018】
本発明における被験者は、好ましくは、血中のHCVの存在又はHCV量を検査する必要があるヒト被験者である。被験者は、HCV感染が疑われる者であってもよい。被験者はまた、HCVに感染している者(HCV感染者)であってもよいし、HCV感染既往者(HCVに感染し、治癒した者)であってもよい。HCV感染者は、肝機能状態を示す血清ALT値が正常(およそ30~40 IU/L以下、通常は30 IU/L以下)なHCVキャリア(ALT正常持続HCV感染者(HCV carrier with persistent normal ALT;PNALT))であってもよいし、血清ALT値が異常な高値であり、C型急性肝炎若しくはC型慢性肝炎、肝硬変又は肝癌を発症しているHCV感染患者であってもよい。被験者は、遺伝子型1、2、3、4、5又は6のいずれのHCVに感染していてもよい。被験者はまた、高ウイルス量症例(TaqMan法等のリアルタイムPCR法で5.0 log IU/ml以上)であっても、低ウイルス量症例(TaqMan法等のリアルタイムPCR法で5.0 log IU/ml未満)であってもよい。

【0019】
被験者は、HCVに対する抗ウイルス治療中又は抗ウイルス治療終了後の患者であってもよい。本発明において「抗ウイルス治療」とは、患者体内のC型肝炎ウイルスを排除する目的で行う治療をいう。抗ウイルス治療は、通常、24~72週間の所定の薬剤投与期間にわたり薬剤を投与してHCV RNAを検出限界以下に低下させるプロセスであるが、耐え難い副作用等の出現や治療への低応答性のためにHCV RNAが検出限界以下に低下する前に薬剤投与を中断又は中止することもありうる。一般的には、薬剤投与期間を完遂し、その間にHCV RNAが検出限界以下まで低下した場合、経過観察を行って24週目までHCV RNAが検出されなければ(HCV RNA陰性化)、ウイルス消失(持続性ウイルス学的著効(sustained virological response;SVR))が得られたものと判定される。本発明において「抗ウイルス治療中の患者」とは、抗ウイルス治療のための薬剤投与期間(限定するものではないが、通常は24~72週間)中の患者を意味する。「抗ウイルス治療終了後の患者」は、具体的には、抗ウイルス治療を受けた経験があるが血液検体の採取時点では抗ウイルス治療を受けていない患者を意味する。「抗ウイルス治療終了後の患者」は、抗ウイルス治療のための薬剤投与期間を完遂しHCV RNAが陰性化した後の経過観察期間中にある患者、その経過観察期間満了時にSVRが達成された患者、経過観察期間満了時に再燃(一旦陰性化したHCVが再び陽性化)した患者、及び抗ウイルス治療のための薬剤投与を副作用や低い治療応答性等のために中止した患者を包含する。本発明において「抗ウイルス治療の終了」とは、抗ウイルス治療のための薬剤投与を所定の期間完遂したこと又は中止したことを意味し、必ずしも患者の血中のHCVが消失したことを意味しない。抗ウイルス治療としては、限定するものではないが、インターフェロン療法(インターフェロン-α若しくはインターフェロン-βの単独療法、又はペグインターフェロンの単独療法)、ペグインターフェロン(例えばPEG化IFNα-2a又はPEG化IFNα-2b)+リバビリン併用療法、ペグインターフェロン+リバビリン+NS3/4Aプロテアーゼ阻害剤(例えばテラプレビル、ボセプレビル、TMC435、MK7009、及びBI201335等)の3剤併用療法、及びNS5A阻害剤又はNS5B阻害剤+プロテアーゼ阻害剤(NS3阻害剤等)併用療法等が挙げられる。

【0020】
本発明の方法では、被験者の血液検体中のC4γ切断断片を検出し、好ましくは定量的に検出(測定)する。ここで、C4γ切断断片は、生体内のHCV由来のNS3/4Aプロテアーゼにより宿主の補体C4のγ鎖が切断されることにより生成するものである。より具体的には、C4γ切断断片は、配列番号1で示される塩基配列からなるC4前駆体ポリペプチド中では1454位~1744位に位置するC4γ鎖が、HCV NS3/4Aプロテアーゼにより、配列番号1の1583位のシステインと1584位のセリンの間、又は1590位のシステインと1591位のアラニンの間で切断されることにより生成する。補体C4のγ鎖は32kDaのタンパク質であり、これがHCV NS3/4Aプロテアーゼにより切断されると17kDaのタンパク質と15kDaのタンパク質になり、これらが「C4γ切断断片」である。本発明において32kDa、17kDa、15kDaの分子量のタンパク質とは、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)による解析で約32kDa、約17kDa、約15kDaの分子量を有するものとして分離されるタンパク質を意味する。C4γ切断断片である17kDaのタンパク質(本明細書では17kDaタンパク質とも称する)は、典型的には、N末端アミノ酸配列として、「SAEVCQCA」(1583位のシステインと1584位のセリンの間で切断された場合;配列番号7)又は「AEGKCPRQ」(1590位のシステインと1591位のアラニンの間で切断された場合;配列番号8)を有するものでありうる。C4γ切断断片である17kDaタンパク質は、配列番号1で示すアミノ酸配列の1584位~1744位の配列又は1591位~1744位の配列からなるものであってもよいし、当該配列の内部において1又は数個(例えば2~10個)のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなる、活性のあるC4γ鎖の断片であってもよい。あるいはC4γ切断断片である17kDaタンパク質は、配列番号1で示すアミノ酸配列の1584位~1744位の配列又は1591位~1744位の配列と90%以上、好ましくは95%以上の配列同一性を示すアミノ酸配列からなる、活性のあるC4γ鎖の断片であってもよい。またC4γ切断断片である15kDaのタンパク質(本明細書では15kDaタンパク質とも称する)は、典型的には、N末端アミノ酸配列として「EAPKVVEE」(配列番号9)を有するものでありうる。C4γ切断断片である15kDaタンパク質は、配列番号1で示すアミノ酸配列の1454位~1583位の配列又は1454位~1590位の配列からなるものであってもよいし、当該配列の内部において1又は数個(例えば2~10個)のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなる、活性のあるC4γ鎖の断片であってもよい。C4γ切断断片である15kDaタンパク質は、配列番号1で示すアミノ酸配列の1454位~1583位の配列又は1454位~1590位の配列と90%以上、好ましくは95%以上の配列同一性を示すアミノ酸配列からなる、活性のあるC4γ鎖の断片であってもよい。

【0021】
被験者の血液検体中のC4γ切断断片の検出及び測定は、当業者に周知のタンパク質定量法を用いて行うことができる。タンパク質定量法としては、以下に限定するものではないが、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動等を用いたウエスタンブロット法、ELISA法、親和結合電気泳動法等が挙げられる。ウエスタンブロット法では、まず、血液検体由来のタンパク質試料をゲル電気泳動により、タンパク質の分子量に応じて分離する。このゲル電気泳動には、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)が一般的に利用される。SDS-PAGE法では、タンパク質を陰イオン性の界面活性剤であるSDS及び還元剤であるメルカプトエタノールで処理して、タンパク質の高次構造を崩し、全てのタンパク質に負電荷をもたせ、ポリアクリルアミドゲルの篩効果により、タンパク質の分子量の差に基づいて分離を行う。タンパク質を分離したゲルを取り出し、分離されたタンパク質をPVDF等の膜に転写し、界面活性剤および還元剤を取り除き、ブロッキング処理を施した後、C4γ切断断片に結合する標識抗体を導入し結合反応を引き起こすことができる。抗体の標識としては、酵素(ホースラディッシュペルオキシダーゼ等)、蛍光色素、化学発色団などを用いることができる。洗浄により、未反応の標識抗体を取り除いた後、酵素基質反応によるシグナル、蛍光色素や化学発色団からのシグナル等のシグナルを可視化又はデータ化し、検体中のC4γ切断断片(17kDa又は15kDaのタンパク質)の量を測定すればよい。C4γ切断断片に結合する抗体としては、抗C4ポリクローナル抗体や抗C4γ切断断片モノクローナル抗体を用いることができる。抗C4ポリクローナル抗体はヒト補体C4を抗原として用いて常法により作製することができるが、市販品を用いることもできる。抗C4γ切断断片モノクローナル抗体は、C4γ鎖、又はC4γ切断断片である17kDaタンパク質若しくは15kDaタンパク質を抗原として用いて常法により作製することができる。得られたタンパク質バンドのシグナルを画像解析することによってタンパク質を定量化することができる。17kDaタンパク質の濃度は、上記のC4γ切断断片である2つの17kDaタンパク質の測定値の合計として算出してもよい。15kDaタンパク質の濃度は、上記の2つのC4γ切断断片である15kDaタンパク質の測定値の合計として算出してもよい。17kDaタンパク質の濃度と、15kDaタンパク質の濃度は、いずれか一方のみを算出してもよいし、17kDaタンパク質と15kDaタンパク質の両方の濃度を算出してもよい。

【0022】
以上のようにして、被験者の血液検体中にC4γ切断断片(17kDaタンパク質又は15kDaタンパク質)が健常者(HCV RNA陰性であり肝障害を有しない者)の血液検体と比較して統計学的に有意に高濃度で検出された場合には、その被験体の血液中にHCVが存在すること、すなわちHCVへの感染が示される。健常者の血液検体ではC4γ切断断片はほぼ検出されない。血液検体中のC4γ切断断片の濃度は、被験体の血液中のHCV濃度と相関する。したがって血液検体中のC4γ切断断片の濃度を測定することにより、被験体の生体内の血液中のHCV量の相対レベルを検査することができる。本発明において「C型肝炎ウイルス(HCV)量の測定」とは、サンプル中のHCVの絶対量を算出することだけでなく、生体内のHCV量(濃度)の相対レベルを算出することも含む。本発明の方法では、C4γ切断断片を直接の検出対象とすることにより、従来のアンプリコアHCV測定法やTaqMan HCV測定法等のHCV RNAの検出法よりも少ない量の検出下限まで高感度にHCVを検出することができる。

【0023】
このような血液中のC4γ切断断片レベルとHCVレベルとの相関は、HCVがその持続感染量に応じた量のC4γ切断断片の生成をもたらしていることを意味する。これは、HCVがそのNS3/4Aプロテアーゼの作用により補体C4をγ鎖内で切断することで補体の活性化を阻害し、補体機能を低下させ、ヒト宿主の免疫応答を減弱させることで持続感染を維持していることによるものと考えられる。

【0024】
本発明の方法は、HCV感染が疑われる者を被験者として実施する場合、該被験者のHCV感染の有無を調べるために用いることができる。あるいは、HCV感染者又はHCV感染既往者を被験者とする場合には、被験者の血中のHCV量を調べるため、又は被験者の血中のHCVが排除されてHCV感染が治癒しているか否かを調べるために用いることができる。

【0025】
C4γ切断断片の検出に基づく本発明のHCV検出と併せて、従来のHCV RNA測定によるHCV検出を行うことも好ましい。HCV RNA測定はアンプリコアHCV測定法や、TaqMan HCV測定法等のリアルタイムPCR法により実施することができる。

【0026】
また本発明では、上記のHCV検出方法を用いて、被験者におけるHCV量を経時的に測定することにより、被験者におけるHCV量をモニタリングすることができる。この場合、被験者はHCV感染者又は感染既往者が好ましい。被験者はまた、HCVに対する抗ウイルス治療中又は抗ウイルス治療終了後の患者であることも好ましい。HCV感染者は、その多くが慢性化しC型慢性肝炎を発症するが、20~30%のHCV慢性感染者は持続感染しながらALT値正常を示して明らかな肝障害を示さないことが知られている。しかしそのようなALT正常持続HCV感染者も、組織学的には軽微あるいは軽度な慢性肝炎を示すことが多く、線維化の進展が見られる場合もある。したがって、ALT正常持続HCV感染者を被験者として、定期的又は不定期に採取した血液検体中の上記C4γ切断断片を測定することにより、HCV量の変化(HCVの増加又は減少)をモニタリングしてもよく、これはその肝障害の悪化又は改善を客観的に調べる上で有用である。また、抗ウイルス治療の所定の薬剤投与期間を完遂しSVRを達成した患者において、定期的又は不定期に血液検体中の上記C4γ切断断片を測定することにより、患者の血液中のHCVを高感度にモニタリングしてもよい。そのモニタリングにより、検出限界以下に減少したHCVの再度の増殖(再燃)を早期に発見し、すみやかに抗ウイルス治療を再開することが可能になる。あるいは、抗ウイルス治療を行ったがSVRを達成できずに薬剤投与期間を終了又は途中で薬剤投与を中止した患者について、定期的又は不定期に血液検体中の上記C4γ切断断片を測定することにより、患者の血液中のHCV量の変化を高感度にモニタリングしてもよい。そのモニタリングにより、HCV量の変動を確認しながら、別の抗ウイルス治療の実施を検討することが可能になる。本発明において「経時的に測定」とは、測定を定期的又は不定期に継続して行うことを意味する。

【0027】
さらに本発明では、上記のHCV検出方法を用いて、抗ウイルス治療中又は抗ウイルス治療終了後の患者である被験者の血液検体中のC4γ切断断片を検出・測定することにより被験者の血液中のHCVを測定し、その測定結果を指標として患者における抗ウイルス治療の効果を判定する方法に関する。抗ウイルス治療中又は抗ウイルス治療終了後の患者の血液検体中のC4γ切断断片量が薬剤投与期間中に検出限界以下まで低下し、経過観察期間にわたって検出限界以下であった場合、その患者に実施した抗ウイルス治療は有効であったと判断でき、患者がSVRを達成したと判断することができる。経過観察期間は薬剤投与期間満了時から24週間が一般的であるが、C4γ切断断片の検出に基づくHCV検出はより高感度であるため、経過観察期間は24週間より短くすることもできる。一方、患者の血液検体中のC4γ切断断片量が薬剤投与期間内に検出限界以下まで低下したが、経過観察期間満了時に再び検出された場合、その抗ウイルス治療の効果は「再燃」と判定される。なお、再燃症例であってもその後の肝癌発生率が有意に低下することが知られていることから、再燃と判断される場合も、施した抗ウイルス治療について、肝障害の進行が抑制される効果がある程度期待できる。患者の血液検体中のC4γ切断断片量が、抗ウイルス治療中に明確に低下したものの事前に定めた薬剤投与期間完遂時には検出限界以下まで低下しなかった場合、その薬剤投与期間では抗ウイルス治療の効果が十分でなかった(「効果不十分」)ものと判定することができる。この場合、薬剤投与期間を延長し、抗ウイルス治療をさらに継続して行ってもよい。患者の血液検体中のC4γ切断断片量が抗ウイルス治療中に明確な低下を示さず、薬剤投与期間完遂時に検出限界以下まで低下しなかった場合、その抗ウイルス治療の効果は「無効」と判定される。患者の血液検体中のC4γ切断断片量が、抗ウイルス治療中に十分低下しない場合には、治療を無効と判定し、薬剤投与期間中に抗ウイルス治療を中止してもよい。抗ウイルス治療は副作用を伴うことも多いことから、無効な治療を早期に判定できれば有利である。抗ウイルス治療中又は抗ウイルス治療終了後の患者の血液検体におけるC4γ切断断片量の変化は、このような抗ウイルス治療の効果(ウイルス量の変化)とよく相関する。血液検体におけるC4γ切断断片が顕著に減少した場合、被験者の血中のHCV量も顕著に減少したことが示唆される。血液検体においてC4γ切断断片の有意な減少が認められない場合、被験者の血中のHCV量も十分減少していないことが示唆される。

【0028】
抗ウイルス治療中又は抗ウイルス治療終了後の患者の血液検体中のC4γ切断断片量を検出・測定し、検出限界以下まで低下する時期を調べることも有用である。抗ウイルス治療開始後12週目までにウイルス量が2 log10以上減少するか又は消失する「早期ウイルス学的応答(early virologic response; EVR)」が達成された症例では、SVRに至る可能性が高く、12週目にはHCVは大きく減少したものの残存しその後例えば24週までに消失した症例(late responder)ではSVRを達成する上でより長期の抗ウイルス治療が有効である可能性があることが報告されている。したがって、例えば、抗ウイルス治療開始後12週目にはC4γ切断断片は検出限界以下まで低下しなかったがその後検出限界以下まで低下(ウイルス消失)した場合、その抗ウイルス治療の効果は被験者にとって遅効性であると判定し、薬剤投与期間を追加してより長期の薬剤投与(たとえば、全部で72週間)を行うこともできる。

【0029】
本発明はまた、被験者由来の血液検体中のC4γ切断断片を検出し、その検出結果に基づいて、該被験者の血中のC型肝炎ウイルス(HCV)を検出することにより、被験者のHCV感染の有無又は被験者のHCV保持レベルを診断する方法も提供する。さらに本発明は、上記のHCV検出方法を用いて、HCV感染者である被験者におけるHCV量を経時的に測定し、被験者におけるHCV量をモニタリングすることにより、被験者のC型肝炎の治療方針を決定する方法、及びその方法を用いたC型肝炎治療法も提供する。

【0030】
本発明はまた、上記HCV検出方法等に好適に使用可能な、HCV NS3/4Aプロテアーゼ切断で生成される上記C4γ切断断片に結合する抗体(好ましくは、C4γ切断断片に特異的に結合する抗体)を含む、C型肝炎ウイルス検出試薬も提供する。C4γ切断断片に結合する抗体、例えばC4γ切断断片に特異的に結合する抗体は、通常のポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体の製造方法に従って作製すればよい。抗体作製の際に抗原として使用可能なC4γ切断断片又はC4γ鎖は、上述のとおりである。また抗C4ポリクローナル抗体もC4γ切断断片に結合する抗体として用いることができる。抗C4ポリクローナル抗体は市販品を使用することもできる。C型肝炎ウイルス検出試薬は、C4γ切断断片に結合する抗体に加えて、担体、溶媒(水、バッファー等)、賦形剤、pH調整剤、等張化剤及び保存剤等の不活性添加剤を含んでもよい。

【0031】
本発明はまた、そのようなC型肝炎ウイルス検出試薬を含む、C型肝炎ウイルス検出用キットも提供する。C型肝炎ウイルス検出用キットは、ELISA又はウェスタンブロット解析用試薬やSDS-PAGE試薬等をさらに含んでもよい。
【実施例】
【0032】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0033】
なお、以下の実施例で使用したHCV NS3/4Aプロテアーゼ(セリンプロテアーゼ)はAnaSpec社(Fremont, CA, USA)から、HCV CoreとHCV NS5はProSpec社(Israel)から購入した。このHCV NS3/4Aプロテアーゼは遺伝子型1bのHC-J4株由来である。Core及びNS5は遺伝子型1のHCV株由来である。単離されたヒト由来補体(C1、C2)はHycult Biotech社(Netherlands)から、ヒト補体C4及びC4欠損モルモット血清(C4 deficient guinea pig serum; C4dGPS)はSigma Aldrich社(St. Louis)から購入した。HCV NS3/4Aプロテアーゼ阻害剤VX-950(テラプレビル(Telaprevir))はSelleck Chemicals社(Houston)から購入した。ベロナール緩衝液は和光純薬工業株式会社(Osaka, Japan)より、ヒツジ赤血球は日本バイオテスト研究所(Tokyo, Japan)より、溶血素はデンカ生研株式会社(Tokyo, Japan)より購入した。
【実施例】
【0034】
また以下の実施例では、統計解析はSPSSソフトウェア(SPSS Inc., Chicago, IL, USA)を用いた。Mann Whitney-U's testもしくはTukey' s testを用いて検定し、p<0.05を統計学的に有意差ありとした。【0035】
[実施例1]NS3/4Aプロテアーゼの補体C4に対する作用の解析
HCV非構造タンパク質であるNS3/4Aプロテアーゼが宿主免疫応答の一部を担う補体C4に対してどのような影響を及ぼすのかを検討するため、補体C4にHCV NS3/4Aプロテアーゼ、HCV Core又はHCV NS5を混合し、C4が切断されるか試験した。
【実施例】
【0036】
まず、補体C4(4μl)に、HCV NS3/4Aプロテアーゼ、HCV Core及びHCV NS5(4μl)のいずれかと、30mM ジチオトレイトール(DTT)含有アッセイバッファー(SensoLyte(登録商標)490 HCVプロテアーゼアッセイキット, AnaSpec)12μlを混合し、30℃で30分、インキュベートした。コントロールとして、C4、HCV NS3/4Aプロテアーゼ、Core又はNS5のいずれか(4μl)単独に上記アッセイバッファー(16μl)を混合し、同様にインキュベートした。
【実施例】
【0037】
インキュベートした混合溶液に5% 2-メルカプトエタノール含有Laemmliサンプルバッファー(Bio-Rad)(20μl)を混合し、その混合溶液25μlをAny kDTMミニプロティアン(登録商標)TGXTM プレキャストゲル(Bio-Rad)を用いた一次元ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)(濃度勾配ゲル)に供してタンパク質を分離し、クーマシーブリリアントブルー(CBB)で染色した。
【実施例】
【0038】
CBB染色で検出したタンパク質については株式会社ニッピ(Tokyo, Japan)によりN末端ペプチドシークエンスを行い、N末端領域のアミノ酸配列を解析した。
【実施例】
【0039】
結果を図1に示す。C4をNS3/4Aプロテアーゼとともにインキュベートした溶液には、約100kDaのタンパク質及び約75kDaのタンパク質のほか、約17kDaのタンパク質2つ(図1中、Frag F1及びFrag F2)と約15kDaのタンパク質(Frag F3)が検出された(図1A)。一方、C4をHCV Core又はNS5とインキュベートした溶液には、約100kDaのタンパク質及び約75kDaのタンパク質は検出されたが、約17kDa及び約15kDaのタンパク質は検出されなかった(図1A)。C4をHCV Core又はNS5とインキュベートした溶液、及びC4単独の溶液で検出された約32kDaのタンパク質はC4をNS3/4Aプロテアーゼとインキュベートした溶液では検出されなかった。
【実施例】
【0040】
N末端領域のアミノ酸解析から、100kDaタンパク質はC4α鎖(N末端アミノ酸配列はNVNFQKAI;配列番号4)、75kDaタンパク質はC4β鎖(N末端アミノ酸配列はKPRLLLFS;配列番号5)、32kDaタンパク質はC4γ鎖(N末端アミノ酸配列はEAPKVVEE;配列番号6)であることが示された。一方、17kDaタンパク質のN末端アミノ酸配列は、Frag F1についてはC4中のアミノ酸配列SAEVCQCA(1584-1591位;配列番号7)と、Frag F2についてはC4中のアミノ酸配列AEGKCPRQ(1591-1598位;配列番号8)と一致し、いずれもC4γ鎖内であることが示された(図1B)。15kDaタンパク質(Frag F3)のN末端アミノ酸配列はC4中のアミノ酸配列EAPKVVEE(1454-1461位;配列番号9)と一致した(図1B)。また、同定した15kDaタンパク質のN末端アミノ酸配列はC4γ鎖のN末端配列と一致した(図1B)。以上の結果から、HCV NS3/4Aプロテアーゼは、C4前駆体タンパク質のアミノ酸配列(配列番号1)の1583位のシステイン(C)と1584位のセリン(S)の間、又は1590位のシステイン(C)と1591位のアラニン(A)の間でC4γ鎖を切断し、約17kDaのタンパク質断片と約15kDaのタンパク質断片を生成することが示された(図2)。
【実施例】
【0041】
[実施例2]NS3/4Aプロテアーゼ阻害剤のC4切断抑制効果の解析
NS3/4Aプロテアーゼ阻害剤が、NS3/4AプロテアーゼによるC4切断を抑制するかどうかを検討した。
まずHCV NS3/4Aプロテアーゼ阻害剤(VX-950)を、ジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解後、各種濃度(0、1、10、100、及び500μM)になるように上記の30mM DTT含有アッセイバッファーで希釈し12μlとした。このHCV NS3/4Aプロテアーゼ阻害剤にNS3/4Aプロテアーゼ(4μl)を加えて30℃で30分プレインキュベートした後、C4(4μl)を加えて30℃で30分インキュベートした。インキュベートした混合溶液に5% 2-メルカプトエタノール含有Laemmliサンプルバッファー(Bio-Rad)(20μl)を混合し、その混合溶液25μlをAny kDTM ミニプロティアン(登録商標) TGXTM プレキャストゲル(Bio-Rad)を用いた一次元ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)に供してタンパク質を分離し、クーマシーブリリアントブルー(CBB)で染色した。コントロールのため、HCV NS3/4Aプロテアーゼ阻害剤VX-950をC4に添加せずに同様の実験を行った。
【実施例】
【0042】
分離されたC4γ鎖(32kDa)、17kDa及び15kDaタンパク質のバンドの染色像は、画像処理ソフトウェアimage J(NIH)を用いて定量化した(光学密度解析)。
【実施例】
【0043】
結果を図3(電気泳動像)及び図4(相対タンパク質濃度)に示す。HCV NS3/4Aプロテアーゼ阻害剤VX950(10μM以上)を用いてNS3/4Aプロテアーゼを前処理したところ、NS3/4Aプロテアーゼ処理により、出現した17kDa及び15kDaタンパク質断片は検出されなくなり(図3)、かつ32kDaのC4γ鎖の濃度が上昇した(図3、図4)。
【実施例】
【0044】
この結果から、NS3/4Aプロテアーゼ阻害剤VX-950が、NS3/4AプロテアーゼによるC4切断を阻害することが示された。またこの結果により、17kDaタンパク質と15kDaタンパク質がC4γ鎖の断片であることが裏付けられた。
【実施例】
【0045】
[実施例3]HCV NS3/4Aプロテアーゼによる補体機能への影響の解析
HCV NS3/4AプロテアーゼによるC4切断の生理的意義を解析するため、溶血素に感作されたヒツジ赤血球(Ab-sensitized sheep erythrocyte;EA)に補体を順に混合して古典経路による補体活性化を再現し、赤血球溶血試験により、HCV NS3/4Aプロテアーゼの補体機能への影響を以下のように試験した。感作ヒツジ赤血球と補体の結合に基づく赤血球溶血試験は、既報に従った(Krych-Goldberg M., et al., J. Biol. Chem., (1999);274(44):31160-31168;Avirutnan P., et. al., J. Exp. Med., (2010);207(4):793-806)。赤血球や補体の希釈には2%ゼラチン含有ベロナール緩衝液(GVB)を使用した。また、すべての操作は氷上で行った。
【実施例】
【0046】
まず、ヒツジ赤血球(5x108 細胞/ml)10mlに溶血素30μlを加え、37℃で30分混合静置し、感作ヒツジ赤血球(EA)を作成した。EA 5mlに10μgの補体C1を加え、30℃で15分インキュベートし、GVBで2回洗浄して補体中間体EAC1を調製した。NS3/4Aプロテアーゼは、20 mM Tris-HCl(pH 8.0)、20%グリセロール、100 mM KCl、1 mM DTT及び0.2 mM EDTAを含む溶液(pH7.5)で各種濃度(0、6.3、12.5、及び25μg/ml)に調製した。補体C4はGVBで各種濃度(0、3.1、6.3、及び12.5μg/ml)に調製した。各濃度の補体C4(5μl)と各濃度のNS3/4Aプロテアーゼ(10μl)に6mM DTT含有GVB(5μl)を混合し(混合液中、2mM DTT)、30℃で30分インキュベートした後、EAC1 100μlと混合し、30℃で15分インキュベートして補体中間体EAC1-C4を調製した。GVBで2回洗浄後、C2(0.1 mg/ml)を1μl加え、室温で4分インキュベートして補体中間体EAC1-C4-C2を調製した。さらに、GVBで2回洗浄後、EAC1-C4-C2 30μlに80倍希釈したC4欠損モルモット血清(C4dGPS)150μlを加え、37℃で30分インキュベートした。ここでC4dGPSは、C4以外の補体成分を含むため、C3と後期補体成分(terminal complement component)C5-C9の供給源として使用したものである。総溶血値を測定するため、C4dGPSの代わりに蒸留水150μlを添加した試料(蒸留水添加試料)も調製した。
【実施例】
【0047】
得られた反応液を遠心し、その上清について415nmで吸光度測定し、溶血度を以下の式で計算した。
溶血度= (被験試料OD415 - GVB OD415) / (蒸留水添加試料OD415 - GVB OD415)
【実施例】
【0048】
結果を図5に示す。NS3/4Aプロテアーゼの存在下では、NS3/4Aプロテアーゼの非存在下(コントロール)と比較して、NS3/4Aプロテアーゼ濃度依存的に有意に溶血度が低下した。いずれのC4濃度でも同様の結果であった。
【実施例】
【0049】
このようにNS3/4AプロテアーゼはC4との相互作用を通じて、古典経路を介した補体活性化により引き起こされる赤血球融解(溶血)を阻害した。このことは、HCV NS3/4Aプロテアーゼが濃度依存的に宿主の補体機能を低下させることを示している。
【実施例】
【0050】
[実施例4]NS3/4Aプロテアーゼ阻害剤による補体機能低下の抑制
12.5μg/mlに希釈したNS3/4Aプロテアーゼ(10μl)を100μMのNS3/4Aプロテアーゼ阻害剤VX950(6mM DTT含有GVBで希釈)5μlと混合し、30℃で30分インキュベートした後、6.3μg/mlに希釈したC4(5μl)と混合して30℃で30分インキュベートした。次いで、実施例3と同様にして調製したEAC1 100μlと混合し、30℃で15分インキュベートして補体中間体EAC1-C4を調製した。GVBで2回洗浄後、C2(0.1 mg/ml)を1μl加え、室温で4分インキュベートしてEAC1-C4-C2を調製した。さらに、GVBで2回洗浄後、EAC1-C4-C2 30μlに80倍希釈したC4dGPS 150μlを加え、37℃で30分インキュベートした。得られた反応液を遠心し、上清を415nmで吸光度測定し、溶血度を上記式に従って計算した。コントロールとして、NS3/4Aプロテアーゼ非存在下及びVX950非存在下でも同様の赤血球溶血試験を行った。
【実施例】
【0051】
図6に示すように、NS3/4Aプロテアーゼ阻害剤VX950の存在下(NS3/4A+/VX950+)では、VX950の非存在下(NS3/4A+/VX950-)と比較して溶血度が上昇した。この結果は、NS3/4Aプロテアーゼによる補体機能低下がNS3/4Aプロテアーゼ阻害剤により抑制され、古典経路活性が回復したことを示す。
【実施例】
【0052】
[実施例5]HCV感染者血液中のC4γ切断断片の検出
実施例1で見出された、NS3/4Aプロテアーゼによる補体C4の切断で生じるC4γ切断断片が、HCV感染者血清中に含まれるかどうかを検討した。
【実施例】
【0053】
HCV抗体陽性かつHCV-RNA陽性(HCVキャリア)である肝癌患者、HCV抗体陽性かつHCV-RNA陽性(HCVキャリア)であるC型慢性肝炎患者、B型肝炎ウイルス(HBV)表面抗原(HBsAg)陽性(HBVキャリア)のB型慢性肝炎患者、及び健常者から血液を採取した。血液採取時には文書によるインフォームドコンセントを行った。血液から分離した血清は-80℃で保存した。
【実施例】
【0054】
各被験者から得られた保存血清5μlにリン酸緩衝生理食塩水(PBS)95μlと400μlのアセトンを添加し、-80℃で2時間混合した。その後、10000Gで遠心して上清を取り除き、沈殿物を0.5% SDSで溶解した。得られたタンパク質を5% 2-メルカプトエタノール含有Laemmliサンプルバッファー(Bio-Rad社)と混合して20μgに調整し、Any kDTM ミニプロティアン(登録商標)TGXTMプレキャストゲル(Bio-Rad)を用いて一次元SDS-PAGEにて分離した。分離したタンパク質をPVDF膜に転写し、1000倍希釈のヤギ抗ヒトC4ポリクローナル抗体(MP Biomedicals, LLC-Cappel Products, Solon, OH, USA)と1時間室温で反応させた。さらに、1000倍希釈のロバ抗ヤギIgG-ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)(Santacruz, CA, USA)と1時間室温で反応させた後、ECL Prime ウェスタンブロット検出試薬(GE Healthcare Life Sciences, Sweden)を添加し、ChemiDoc XRS(Bio-Rad, CA)を用いて画像解析を行った。得られたタンパク質のバンド濃度をImage Jで定量化した。コントロールとして、C4 1μlとNS3/4Aプロテアーゼ1μlとアッセイバッファー48μlとを混合して30℃で30分インキュベートし、得られた溶液中のタンパク質の濃度を同様に測定した。各検体について、C4γ切断断片である17kDaタンパク質(Frag F1及びFrag F2)に対応するバンドの相対タンパク質濃度の合計値を、コントロールの17kDaタンパク質(Frag F1及びFrag F2)の相対タンパク質濃度の合計値と比較して濃度比を算出した。
【実施例】
【0055】
図7に得られたSDS-PAGE解析結果の例を示す。図7のSDS-PAGE泳動像にも示されるとおり、17kDaタンパク質は、B型慢性肝炎患者(CBH)や健常者(Normal)の血清ではほとんど認められなかったが、HCV感染した肝癌患者(HCC(C))及びC型慢性肝炎患者(CHC)の血清では高濃度で検出された。また17kDaタンパク質濃度(コントロールとの濃度比)を被験者間で比較したところ、HCV感染者HCC(C)[n=11]、CHC[n=11]と健常者Normal[n=6]の間でそれぞれp=0.014、p=0.001であり、HCV感染者HCC(C)、CHCとB型肝炎患者CHB[n=14]の間でそれぞれp=0.005、p=0.000であった。血中のC4γ切断断片(Frag F1及びFrag F2)濃度は、HCV感染者において有意に上昇することが示された。
【実施例】
【0056】
[実施例6]C4γ切断断片量を指標とした抗ウイルス治療効果の判定
HCV陽性患者(HCV感染者)に抗ウイルス治療としてペグインターフェロン+リバビリン併用療法を実施しながら、治療経過中の血液を採取し、実施例5と同様の方法で血清中の17kDaタンパク質(C4γ切断断片)の検出を行った。また血清中のHCV-RNAをリアルタイムPCR法で定量した。
【実施例】
【0057】
その結果、ウイルス消失(持続性ウイルス学的著効(sustained virological response;SVR)が得られた症例において、17kDaタンパク質は治療経過とともに減少し、治療終了後はほぼ消失した。この17kDaタンパク質の量(濃度)の変化は特に抗ウイルス治療開始後のHCV-RNA量の変化ともよく対応していた。
【実施例】
【0058】
図8A及びBには、遺伝子型1のHCV感染者のSVR症例(併用療法で72週間投与)について、抗ウイルス治療開始前(IFN前)、投与開始1週間後(1w)、投与開始6週間後(6w)、投与開始8週間後(8w)、投与開始18週間後(18w)、投与開始28週間後(28w)、投与終了後の血清中の、17kDaタンパク質(Frag F1, F2)及びHCV-RNAの検出像(A)、並びに17kDaタンパク質濃度(B)を示す。本症例において、HCV-RNA量が8週以降は検出閾値以下(-)になったが、17kDaタンパク質の量は8週以降も連続して減少傾向を示し、治療終了後はほぼ検出されないレベルとなった。
【実施例】
【0059】
図8C及びDには、遺伝子型2のHCV感染者のSVR症例(併用療法で24週間投与)について、抗ウイルス治療開始前(IFN前)、投与開始1日後(1d)、投与開始2週間後(2w)、投与開始6週間後(6w)、投与開始13週間後(13w)、投与終了後の血清中の、17kDaタンパク質(Frag F1, F2)及びHCV-RNAの検出結果(C)、並びに17kDaタンパク質濃度(D)を示した。本症例において、HCV-RNA量は13週以降、検出閾値以下(-)になったが、17kDaタンパク質の量は13週以降も連続して減少傾向を示し、治療終了後はほぼ検出されないレベルとなった。
【実施例】
【0060】
一方、SVRが得られなかった治療無効例(遺伝子型1)では、治療経過中の17kDaタンパク質の量の有意な減少は示されず、治療終了時にもかなりの量の17kDaタンパク質が検出された(図8E、F)。
【実施例】
【0061】
以上の結果から、上記17kDaタンパク質(C4γ切断断片)量は被験者の血液中のHCV量を反映しており、抗ウイルス治療を受けたHCV感染患者における抗ウイルス効果(HCV減少効果)の指標となることが示された。HCV NS3/4AプロテアーゼはC4を切断することにより、補体の活性化を阻害し、宿主免疫応答を減弱させることで持続感染を維持していると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、被験者の血液検体中のC型肝炎ウイルス(HCV)を高感度に検出し、その測定結果を指標としてHCV感染患者の抗ウイルス治療の効果を判定するために有用である。C4γ切断断片は抗ウイルス治療の効果を早期に判定できる新たな血清マーカーとして有用でありうる。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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