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明細書 :高分子の伸長方法および高分子伸長装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2014-068612 (P2014-068612A)
公開日 平成26年4月21日(2014.4.21)
発明の名称または考案の名称 高分子の伸長方法および高分子伸長装置
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
C12M   1/00        (2006.01)
FI C12N 15/00 A
C12M 1/00 A
請求項の数または発明の数 14
出願形態 OL
全頁数 35
出願番号 特願2012-218223 (P2012-218223)
出願日 平成24年9月28日(2012.9.28)
発明者または考案者 【氏名】川野 聡恭
【氏名】新宅 博文
【氏名】雪本 直哉
【氏名】上原 聡司
【氏名】谷口 正輝
【氏名】川合 知二
出願人 【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
個別代理人の代理人 【識別番号】110000338、【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
審査請求 未請求
テーマコード 4B024
4B029
Fターム 4B024AA11
4B024AA19
4B024AA20
4B024CA01
4B024CA11
4B024HA19
4B029AA23
4B029BB20
4B029CC08
要約 【課題】帯電した高分子を十分に伸長させる方法を提供する。
【解決手段】固定用電極と対向電極との間の距離が高分子の全長よりも長い流路内にて、高分子を含んでいる溶液を流動させ、固定用電極と対向電極との間に電圧を印加し、当該電圧を低下させることで高分子の一端を固定用電極に固定した状態で、他端を固定用電極から離脱させ、高分子を伸長させる。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
電荷を有する高分子を流路内で伸長させる、高分子の伸長方法であって、
上記高分子を含んでいる溶液を、上記高分子を固定するための固定用電極および上記固定用電極と対をなす対向電極が備えられている流路内へ導入し、当該溶液を、上記流路内にて流動させる溶液流動工程と、
上記固定用電極に上記高分子が有する電荷とは逆の極性を与えるように、上記固定用電極と上記対向電極との間に電圧を印加して、上記高分子を上記固定用電極上に固定する高分子固定工程と、
上記電圧を低下させることによって、上記高分子の一端が上記固定用電極上に固定された状態で上記高分子の他端を上記固定用電極から離脱させ、上記高分子を、上記溶液の流動方向へ伸長させる高分子伸長工程と、を含み、
上記固定用電極と上記対向電極との間の距離は、上記高分子の全長よりも長いことを特徴とする高分子の伸長方法。
【請求項2】
上記溶液流動工程では、上記溶液を、上記流路内にて上記固定用電極から上記対向電極へ向かって流動させることを特徴とする請求項1に記載の高分子の伸長方法。
【請求項3】
上記溶液流動工程では、上記溶液を、上記流路内にて上記対向電極から上記固定用電極へ向かって流動させることを特徴とする請求項1に記載の高分子の伸長方法。
【請求項4】
上記電圧を低下させる速度が、450mV/s以上であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の高分子の伸長方法。
【請求項5】
上記固定用電極の、上記溶液の流動方向に平行な方向への幅が、上記高分子の全長よりも短いことを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の高分子の伸長方法。
【請求項6】
上記高分子が、DNA、RNA、タンパク質、ペプチドまたは糖であることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の高分子の伸長方法。
【請求項7】
上記流路の一端には、上記流路内へ導入するための上記溶液を貯留している導入用リザーバが連結されているとともに、上記流路の他端には、上記流路外へ導出された上記溶液を貯留している導出用リザーバが連結されており、
上記溶液流動工程では、上記導入用リザーバと上記導出用リザーバとの間における上記溶液の水頭差によって、上記溶液を、上記流路内にて流動させることを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の高分子の伸長方法。
【請求項8】
上記流路内を流動する上記溶液の流速が、45.9μm/s以上91.8μm/s以下であることを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載の高分子の伸長方法。
【請求項9】
電荷を有する高分子を伸長させる高分子伸長装置であって、
上記高分子を含んでいる溶液を流動させるための流路と、
上記流路の内部に配置され、かつ、上記高分子を固定するための固定用電極と、
上記流路の内部に配置され、かつ、上記固定用電極と対をなす対向電極と、
上記固定用電極と上記対向電極との間に印加する電圧の値を切り替えるための電圧調節手段と、を備えており、
上記固定用電極と上記対向電極との間の距離が、上記高分子の全長よりも長いことを特徴とする高分子伸長装置。
【請求項10】
上記流路は、上記溶液を、上記固定用電極から上記対向電極へ向かって流動させるためのものであることを特徴とする請求項9に記載の高分子伸長装置。
【請求項11】
上記流路は、上記溶液を、上記対向電極から上記固定用電極へ向かって流動させるためのものであることを特徴とする請求項9に記載の高分子伸長装置。
【請求項12】
上記電圧調節手段は、450mV/s以上の速度で電圧を低下させるものであることを特徴とする請求項9~11のいずれか1項に記載の高分子伸長装置。
【請求項13】
上記固定用電極の、上記溶液の流動方向に平行な方向への幅が、上記高分子の全長よりも短いことを特徴とする請求項9~12のいずれか1項に記載の高分子伸長装置。
【請求項14】
上記流路の一端に連結され、かつ、上記流路内へ導入するための上記溶液を貯留している導入用リザーバと、
上記流路の他端に連結され、かつ、上記流路外へ導出された上記溶液を貯留している導出用リザーバと、を備えており、
上記導入用リザーバおよび上記導出用リザーバは、上記導入用リザーバと上記導出用リザーバとの間における上記溶液の水頭差によって、上記溶液を流動させるものであることを特徴とする請求項9~13のいずれか1項に記載の高分子伸長装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子の一端を電極上に固定した状態で、当該高分子を伸長させる、高分子の伸長方法および高分子伸長装置に関する。更に具体的には、高分子の一端を電極上に固定した状態で、流路内を流れる流体の力によって当該高分子を伸長させる、高分子の伸長方法および高分子伸長装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子の分子レベルでの観察は、高分子の構造および挙動の理解を進める上で重要であり、近年、生物学、医学、薬学、農学、工学等の分野において注目を集めている。高分子の分子レベルでの観察が可能になれば、医療、創薬、ナノデバイスの開発等の分野にも応用することが可能になると考えられる。
【0003】
しかしながら、高分子は複雑な立体構造をとることが多い。例えば、核酸の重合体であるDNAは非常に長い糸状の高分子であるが、溶液中では凝集した状態となって存在している。DNA等の鎖状高分子を分子レベルで観察するには、当該高分子を一直線状に伸長させた方が観察しやすい。
【0004】
本発明者らは、これまで、非一様な電場におけるDNAの流動特性に着目し、高分子を伸長させる方法について実験的考察を行ってきた。具体的には、非特許文献1に示すように、正極と負極とを交互に有するくし歯状電極を配置したマイクロ流路を用いた新たなDNA伸長方法を提案し、実験においてλDNA(48,502bp)の伸長を試みてきた。
【0005】
非特許文献1に記載の技術では、リン酸基によって負に帯電しているλDNAの一端を、マイクロ流路内に設けられている正極上に固定する。なお、上記正極は、マイクロ流路の底面に設けられている。上述した状態で、λDNAを、マイクロ流路の底面近傍を流れる流体に晒すことによって、λDNAが伸長する。
【0006】
上記マイクロ流路の底面には、上記正極の下流側に、当該正極と対をなす負極が配置されている。λDNAの他端もリン酸基によって負に帯電しているので、当該他端と負極とが反発する。これによって、λDNAの他端をマイクロ流路内の流れの速い領域(具体的には、マイクロ流路の横断面における中央部)にまで浮上させて、λDNAを伸長させる方法を試みている。
【先行技術文献】
【0007】

【非特許文献1】N. Yukimoto et. al.,Proceedings of the International Workshop on Micro- and Nano-Engineering,p.106,2011
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述のような従来の技術では、帯電した高分子を十分に伸長させることができないという問題があった。
【0009】
具体的には、非特許文献1に記載の技術では、最も伸長しているλDNAの長さでも、λDNAの全長(16.5μm)の35%程度でしかなかった。
【0010】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みてなされたものであって、その目的は帯電した高分子を十分に伸長させる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、高分子を十分に伸長させるためには、正極と負極との間の距離の設定が重要であることを見出し、本発明を完成させるに至った。更に具体的には、本発明者らは、正極と負極との間の距離が短すぎると、高分子の他端をマイクロ流路内の流れの速い領域にまで浮上させる効果よりも、高分子が伸長することを妨げる効果(換言すれば、高分子を、伸長方向とは逆の方向へ跳ね返す効果)の方が大きくなり、かえって高分子を十分に伸長させることができないことを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
本発明に係る高分子の伸長方法は、上記課題を解決するために、電荷を有する高分子を流路内で伸長させる、高分子の伸長方法であって、上記高分子を含んでいる溶液を、上記高分子を固定するための固定用電極および上記固定用電極と対をなす対向電極が備えられている流路内へ導入し、当該溶液を、上記流路内にて流動させる溶液流動工程と、上記固定用電極に上記高分子が有する電荷とは逆の極性を与えるように、上記固定用電極と上記対向電極との間に電圧を印加して、上記高分子を上記固定用電極上に固定する高分子固定工程と、上記電圧を低下させることによって、上記高分子の一端が上記固定用電極上に固定された状態で上記高分子の他端を上記固定用電極から離脱させ、上記高分子を、上記溶液の流動方向へ伸長させる高分子伸長工程と、を含み、上記固定用電極と上記対向電極との間の距離は、上記高分子の全長よりも長いことを特徴としている。
【0013】
上記構成によれば、上記流路に高分子を含んでいる溶液を流し、固定用電極と対向電極との間に電圧を印加することによって、固定用電極上に高分子を固定することができる。さらに、上記電圧を低下させることによって、高分子の一端を固定用電極から離脱させることができる。その結果、高分子を、溶液の流動によって流れの方向に伸長させることができる。
【0014】
また、上記固定用電極と上記対向電極との距離は、上記高分子の全長よりも長いので、上記対向電極の影響によって上記高分子が縮小する方向に力が働くことを防ぐことができる。よって、上記高分子を、より効率よく伸長させることができる。
【0015】
本発明に係る高分子の伸長方法では、上記溶液流動工程では、上記溶液を、上記流路内にて上記固定用電極から上記対向電極へ向かって流動させることが好ましい。
【0016】
上記構成によれば、上記高分子を上記固定用電極から上記対向電極へ向かって伸長させることができる。上記固定用電極と上記対向電極との距離は、上記高分子の全長よりも長いので、上記高分子と対向電極との間の反発を防ぐことができる。すなわち、上記対向電極によって上記高分子が縮小する方向に力が働くことを防ぐことができる。その結果、高分子を、溶液の流動によって流れの方向に、より効率よく伸長させることができる。
【0017】
本発明に係る高分子の伸長方法では、上記溶液を、上記流路内にて上記対向電極から上記固定用電極へ向かって流動させることが好ましい。
【0018】
上記構成によれば、上記高分子を上記固定用電極から下流へ向かって伸長させることができる。上記固定用電極と上記対向電極との距離は、上記高分子の全長よりも長く、さらに上記対向電極が上記固定用電極よりも上流に存在するため、上記対向電極によって上記高分子が縮小する方向に力が働くことを、より確実に防ぐことができる。その結果、高分子を、溶液の流動によって流れの方向に、より効率よく伸長させることができる。
【0019】
本発明に係る高分子の伸長方法では、上記電圧を低下させる速度が、450mV/s以上であることが好ましい。
【0020】
上記構成によれば、上記高分子の一端を固定用電極に固定した状態で、上記高分子の他端をより効率よく離脱させることができる。その結果、高分子を、溶液の流動によって流れの方向に、より伸長させることができる。
【0021】
本発明に係る高分子の伸長方法では、上記固定用電極の、上記溶液の流動方向に平行な方向への幅が上記高分子の全長よりも短いことが好ましい。
【0022】
上記構成によれば、上記高分子全体が上記固定用電極に付着してしまうことを防ぐことができ、上記高分子の一端を固定用電極から離脱しやすくすることができる。
【0023】
本発明に係る高分子の伸長方法では、上記高分子がDNA、RNA、タンパク質、ペプチドまたは糖であることが好ましい。
【0024】
上記構成によれば、溶液中において複雑な立体構造をとる高分子を伸長させることができる。
【0025】
本発明に係る高分子の伸長方法では、上記流路の一端には、上記流路内へ導入するための上記溶液を貯留している導入用リザーバが連結されているとともに、上記流路の他端には、上記流路外へ導出された上記溶液を貯留している導出用リザーバが連結されており、上記溶液流動工程では、上記導入用リザーバと上記導出用リザーバとの間における上記溶液の水頭差によって、上記溶液を、上記流路内にて流動させることが好ましい。
【0026】
上記構成によれば、流路の外部にポンプ等を接続して動力を与える必要がなく、簡易な構成によって上記溶液を流動させることができる。
【0027】
本発明に係る高分子の伸長方法では、上記流路内を流動する上記溶液の流速が、45.9μm/s以上91.8μm/s以下であることが好ましい。
【0028】
上記構成によれば、溶液の流れによるせん断応力を利用して高分子の一端を十分に伸長させることができ、かつ、上記せん断応力が大きすぎるために固定用電極から高分子全体が離脱してしまうことを防ぐことができる。
【0029】
本発明に係る高分子伸長装置は、上記課題を解決するために、電荷を有する高分子を伸長させる高分子伸長装置であって、上記高分子を含んでいる溶液を流動させるための流路と、上記流路の内部に配置され、かつ、上記高分子を固定するための固定用電極と、上記流路の内部に配置され、かつ、上記固定用電極と対をなす対向電極と、上記固定用電極と上記対向電極との間に印加する電圧の値を切り替えるための電圧調節手段と、を備えており、上記固定用電極と上記対向電極との間の距離が、上記高分子の全長よりも長いことを特徴としている。
【0030】
上記構成によれば、上記流路に高分子を含んでいる溶液を流し、固定用電極と対向電極との間に電圧を印加することによって、固定用電極上に高分子を固定することができる。さらに、電圧調節手段を用いて上記電圧を低下させることによって、高分子の一端を固定用電極から離脱させることができる。その結果、高分子を、溶液の流動によって流れの方向に伸長させることができる。
【0031】
また、上記固定用電極と上記対向電極との距離は、上記高分子の全長よりも長いので、上記対向電極の影響によって上記高分子が縮小する方向に力が働くことを防ぐことができる。よって、上記高分子を、より効率よく伸長させることができる。
【0032】
本発明に係る高分子伸長装置では、上記流路は、上記溶液を、上記固定用電極から上記対向電極へ向かって流動させるためのものであることが好ましい。
【0033】
上記構成によれば、上記高分子を上記固定用電極から上記対向電極へ向かって伸長させることができる。上記固定用電極と上記対向電極との距離は、上記高分子の全長よりも長いので、上記高分子と対向電極との間の反発を防ぐことができる。すなわち、上記対向電極によって、上記高分子が縮小する方向に力が働くことを防ぐことができる。その結果、高分子を、溶液の流動によって流れの方向に、より効率よく伸長させることができる。
【0034】
本発明に係る高分子伸長装置では、上記流路は、上記溶液を、上記対向電極から上記固定用電極へ向かって流動させるためのものであることが好ましい。
【0035】
上記構成によれば、上記高分子を上記固定用電極から下流へ向かって伸長させることができる。上記固定用電極と上記対向電極との距離は、上記高分子の全長よりも長く、さらに上記対向電極が上記固定用電極よりも上流に存在するため、上記対向電極が上記高分子に対して及ぼす影響を、より確実に低減することができる。その結果、高分子を、溶液の流動によって流れの方向に伸長させることができる。
【0036】
本発明に係る高分子伸長装置では、上記電圧調節手段は、450mV/s以上の速度で電圧を低下させるものであることが好ましい。
【0037】
上記構成によれば、上記高分子の一端を固定用電極に固定した状態で、上記高分子の他端をより効率よく離脱させることができる。その結果、高分子を、溶液の流動によって流れの方向に、より伸長させることができる。
【0038】
本発明に係る高分子伸長装置では、上記固定用電極の、上記溶液の流動方向に平行な方向への幅が上記高分子の全長よりも短いことが好ましい。
【0039】
上記構成によれば、上記高分子全体が上記固定用電極に付着してしまうことを防ぐことができ、上記高分子の一端を固定用電極から離脱しやすくすることができる。
【0040】
本発明に係る高分子伸長装置では、上記流路の一端に連結され、かつ、上記流路内へ導入するための上記溶液を貯留している導入用リザーバと、上記流路の他端に連結され、かつ、上記流路外へ導出された上記溶液を貯留している導出用リザーバと、を備えており、上記導入用リザーバおよび上記導出用リザーバは、上記導入用リザーバと上記導出用リザーバとの間における上記溶液の水頭差によって、上記溶液を流動させるものであることが好ましい。
【0041】
上記構成によれば、流路の外部にポンプ等を接続して動力を与える必要がなく、簡易な構成によって上記溶液を流動させることができる。
【発明の効果】
【0042】
本発明は、高分子を含んでいる溶液を流路に流し、固定用電極と対向電極との間に電圧を印加することによって、固定用電極上に高分子を固定し、さらに、上記電圧を低下させることによって、高分子の一端を固定用電極から離脱させる方法である。
【0043】
そのため、高分子を、溶液の流動によって流れの方向に伸長させることができるという効果を奏する。
【0044】
また、上記固定用電極と上記対向電極との距離は、上記高分子の全長よりも長いので、上記対向電極の影響によって上記高分子が縮小する方向に力が働くことを防ぐことができ、より効率よく上記高分子を伸長させることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明に係る高分子を伸長させる方法の原理を示す概略図であり、(a)および(b)は電圧を印加した場合の流路内部の図であり、(a)は平面図であり、(b)は断面図である。(c)および(d)は電圧を低下させた場合の流路内部の図であり、(c)は平面図であり、(d)は断面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る高分子伸長装置の一部を示し、(a)は斜視図であり、(b)は(a)の点線A-A’における断面図であり、(c)は電極に導線を接続した場合の斜視図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る高分子伸長装置の一部を示し、(a)は斜視図であり、(b)は(a)の点線A-A’における断面図であり、(c)は電極に導線を接続した場合の斜視図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る高分子伸長装置を示す概略図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る高分子伸長装置を示す概略図である。
【図6】本発明の一実施例に係る第1の基板の製造方法を示す概略図であり、(a)~(g)のそれぞれにおいて上側が平面図であり、下側が平面図中の点線A-A’~G-G’のそれぞれにおける断面図である。
【図7】本発明の一実施例に係る第1の基板上に電極を製造する方法を示す概略図であり、(a)~(g)のそれぞれにおいて上側が平面図であり、下側が平面図中の点線A-A’~G-G’のそれぞれにおける断面図である。
【図8】本発明の一実施例に係る流路の断面図である。
【図9】本発明の実施例1および比較例2における実験結果を示す図である。
【図10】本発明の実施例1~3における実験結果を示す図である。
【図11】本発明の一実施例に係る第3~5の基板の製造方法を示す概略図であり、(a)~(g)のそれぞれにおいて上側が平面図であり、下側が平面図中の点線A-A’~G-G’のそれぞれにおける断面図である。
【図12】本発明の一実施例に係る流路の断面図である。
【図13】本発明の一実施例における印加した電圧と時間との関係を示す図である。
【図14】本発明の比較例2における実験結果を示す図である。
【図15】本発明の実施例4における実験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下、本発明の実施の形態の一例について詳細に説明するが、本発明は、これらに限定されない。なお、説明の便宜上、同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を省略する。

【0047】
〔1.高分子が伸長する原理〕
本発明における高分子が伸長する原理を説明する。図1の(a)~(d)は、流路内部における一対の固定用電極および対向電極の概略図を示している。図1の(a)~(d)のx軸、y軸、z軸は、3次元空間における方向を規定している。図1の(a)および(c)におけるy軸方向は、紙面に垂直な方向を示している。図1の(b)は、図1の(a)をz軸方向から見た図であり、図1の(d)は、図1の(c)をz軸方向から見た図である。図1では、高分子5が負に帯電しており、固定用電極1は正極であり、対向電極2は負極である例を示しているが、本発明はこれに限定されない。また、図1の(b)および(d)における放物線は流速の分布を表しており、後述する水頭差によって溶液を流動させる場合を想定しているが、本発明はこれに限定されない。

【0048】
まず、負に帯電している高分子5を含んでいる溶液を流路3に導入し、流動させる。ここで、流路3は流路壁4によって囲まれている。また、図1の(a)~(d)において、上記溶液は、x軸の矢印の方向に流動している。よって、図1の(a)~(d)においては、x軸の方向を下流方向とし、x軸の方向と逆の方向を上流方向とする。

【0049】
そして、流路3の底面に配置された固定用電極1と対向電極2との間に高電圧を印加すると、負に帯電した高分子5が正極である固定用電極1上に拘束される。図1の(a)および(b)は高電圧を印加した場合の流路3の概略図を示している。印加した電圧が比較的高い場合、高分子5は伸長することなく、高分子5の全体が固定用電極1上に強く拘束される。

【0050】
次に、上記溶液を流動させた状態で、印加電圧を高電圧から低電圧へと瞬時に切り替えると、固定用電極1上に拘束されていた高分子5の一端が固定用電極1から離脱し、上記溶液の流れによって下流側へと流される。しかしながら、高分子5のもう一端は固定用電極1上に拘束され続ける。その結果、高分子5の一部分が固定用電極1上に拘束された状態で、高分子5の離脱した部分が下流方向へ流された状態となり、高分子5は伸長する(高分子は常に周囲の流体分子のブラウン運動による衝突力を受けており、高分子の一端が固定され、他端が離脱する現象は確率統計力学的に理解されるべきものである)。図1の(c)および(d)は、印加電圧を低電圧へと切り替えた後の流路3の概略図を示している。

【0051】
なお、図1では、負に帯電している高分子5が、正極である固定用電極1上に拘束される例を示したが、高分子5が正に帯電している高分子である場合は、負極を固定用電極1として用いればよく、正極を対向電極2として用いればよい。また、図1では、固定用電極1から対向電極2に向かって溶液を流動させる例を示しているが、対向電極2から固定用電極1に向かって溶液を流動させてもよい。

【0052】
<高分子>
本発明において、高分子は、電荷を有する高分子である。本発明において「電荷を有する高分子」とは、少なくとも一部が帯電している高分子である。具体的に、上記高分子は、少なくとも一部が、正または負の何れかに帯電している高分子であってもよい。また、上記高分子は、一部が正に帯電し、別の一部が負に帯電している高分子であってもよい。この場合には、高分子全体として見たときに、高分子が正または負の何れか一方に偏って帯電していればよい。また、元来帯電していない高分子に帯電している分子を接続し、帯電させたものであってもよい。

【0053】
上記高分子は、溶液に含まれた状態で流路内に導入される。上記構成であれば、容易に溶液を流路内に導入し、かつ、流動させることができる。また上記構成であれば、溶液の流動によって容易に高分子を伸長させることができる。

【0054】
上記高分子の分子量や主鎖の長さは特に限定されない。上記高分子は、例えば単一の単量体の重合によって形成された重合体でもよく、複数の単量体の共重合によって形成された共重合体であってもよい。

【0055】
上記高分子には例えば生体高分子が挙げられる。生体高分子の例としては、核酸、タンパク質、ペプチドおよび糖等が挙げられる。核酸としては特に限定されず、DNAであってもよく、RNAであってもよい。また、核酸は、一本鎖であってもよいし、二本鎖であってもよい。例えば、高分子がDNAであれば、DNAが有するリン酸基が負の電荷を帯びているため、正極上に拘束される。また、例えば元来帯電していないタンパク質に対し、解離性アミノ酸を連結することによって帯電させたものであってもよい。

【0056】
〔2.高分子伸長装置〕
本発明の一実施形態に係る高分子伸長装置について、図2~5を参照しながら、以下に説明する。図2の(a)~(c)は、本実施形態に係る高分子伸長装置の一部の概略構成を示す図である。図2の(a)は本実施形態に係る高分子伸長装置の一部の斜視図であり、図2の(b)は図2の(a)の点線A-A’における断面図である。図2の(a)および(b)に示すように、本実施形態では、第1の基板6および第2の基板7を貼り合せることによって流路3が形成されている。流路3の内部には固定用電極1および対向電極2が配置されている。図2の(c)は本実施形態に係る高分子伸長装置の固定用電極1および対向電極2に導線11を接続した場合の斜視図である。

【0057】
<流路>
本発明に係る高分子伸長装置は、電荷を有する高分子を含んでいる溶液を流動させるための流路3を備えている。

【0058】
流路3の形状は特に限定されるものではなく、例えば、流路3において、溶液を流動させる方向に垂直な断面が矩形であっても、円形であってもよいが、流路3の底面が平面である形状の方が、固定用電極1および対向電極2を配置しやすいので好ましい。

【0059】
流路3の大きさは特に限定されるものではないが、例えば流路3において、溶液を流動させる方向に垂直な断面が矩形である場合、溶液を流動させる方向の長さを50μm以上28mm以下とし、流路の高さを5μm以上50μm以下とし、流路の幅を50μm以上100μm以下とすることができる。

【0060】
本実施形態では第1の基板6および第2の基板7を貼り合せることによって流路3が形成されているが、流路3の形成方法は特に限定されるものではなく、例えば、2つ以上の基板を貼り合せることで形成されてもよいし、1つの基板中を掘削することで形成してもよい。2つ以上の基板を貼り合せる場合は、表面が平らな基板と溝が形成されている基板とを貼り合せて溝部分を流路3としてもよいし、溝が形成されている基板同士を貼り合せることで溝部分を流路3としてもよい。また、2つ以上の基板を貼り合せた後に掘削して流路3を形成してもよい。

【0061】
図3の(a)~(c)は、3つ以上の基板を貼り合せて流路3を形成した場合の高分子伸長装置の一部の概略構成を示す図である。図3の(a)は高分子伸長装置の一部の斜視図であり、図3の(b)は図3の(a)の点線A-A’における断面図である。図3の(a)および(b)に示すように、本実施形態では、第3の基板12、第4の基板13および第5の基板14、ならびに第2の基板7を貼り合せることによって流路3が形成されている。図3の(c)は本実施形態に係る高分子伸長装置の固定用電極1および対向電極2に導線11を接続した場合の斜視図である。

【0062】
上記基板の材料は特に限定されるものではなく、例えばガラス、樹脂等を用いることができる。例えば、顕微鏡によって流路内部を観察する場合には、基板の少なくとも一部にカバーガラスおよび/またはPDMS(ポリジメチルシロキサン)等の透明な材料を用いればよい。例えば、図2の第2の基板7としてカバーガラスを用いれば、底面から流路3の内部を観察することができる。また、例えば図3の第3の基板12としてカバーガラスを用いれば、上面から流路3の内部を観察することができる。

【0063】
流路3は、上記高分子を含んでいる溶液を導入するための導入口9を備えていてもよい。導入口9の形状および大きさは特に限定されるものではないが、例えば導入口9を円形とすることができる。

【0064】
さらに、流路3は、流路3から上記溶液を導出するための導出口10を備えていてもよい。上記構成によれば、毛細管現象によって流路3内で上記溶液を流動させることもできる。また、導入口9または導出口10にポンプを接続して外部から力を加えて上記溶液を流動させてもよい。導出口10の形状および大きさも導入口9と同様に、特に限定されるものではない。

【0065】
<電極>
流路3の内部には高分子を固定するための固定用電極1および固定用電極と対をなす対向電極2が備えられている。本明細書では、固定用電極1および対向電極2を合わせて電極8と称する場合もある。図2および3では、対向電極2は固定用電極1よりも下流側に配置されている。すなわち、上記高分子を含んでいる溶液は固定用電極1から対向電極2に向かう方向に流動する。ただし、本発明では、固定用電極1と対向電極2の距離が十分離れていれば、上記高分子を含んでいる溶液を対向電極2から固定用電極1に向かう方向に流動させても良い。また、対向電極2は流路の上面や側面に設置しても、固定用電極1との距離が十分離れていれば、高分子の伸長効果を損なうことはほとんどない。

【0066】
図2の(c)および図3の(c)に示すように、固定用電極1および対向電極2には導線11が接続されている。上記構成によれば、導線を介して電源を接続することができ、上記固定用電極と上記対向電極との間に電圧を印加することができる。

【0067】
上記固定用電極および上記対向電極は、少なくとも1対備えられていればよい。上記固定用電極および上記対向電極はそれぞれ複数備えられていてもよい。例えば、図2および図3に示すように、固定用電極1および対向電極2をくし歯状電極として配置すれば、流路内において固定用電極1および対向電極2を交互に配置することができる。上記構成によれば、高分子を固定用電極1上に固定する機会を増やすことができる。

【0068】
固定用電極上に上記高分子を固定するには、上記固定用電極に上記高分子が有する電荷とは逆の極性を与えるように、上記固定用電極と上記対向電極との間に電圧を印加すればよい。すなわち、上記固定用電極に負に帯電した高分子を固定する場合は、固定用電極を正極とすればよく、上記固定用電極に正に帯電した高分子を固定する場合は、固定用電極を負極とすればよい。

【0069】
本発明に係る高分子伸長装置では、上記固定用電極と上記対向電極との間の距離が、上記高分子の全長よりも長いことを特徴としている。本発明は、上述の〔高分子が伸長する原理〕に示したように、上記固定用電極上に高分子の一端を固定し、高分子の他端を固定用電極から離脱した状態で、溶液の流れによって高分子を伸長させることを特徴としている。上記固定用電極と上記対向電極との間の距離が、上記高分子の全長よりも短い場合、上記高分子と上記対向電極とが反発し合い、上記高分子が収縮する方向へ力が働いてしまう。例えば、正極である固定用電極上に、負に帯電した高分子を固定する場合、負極である対向電極と負に帯電した高分子とが反発し合う。上記固定用電極と上記対向電極との間の距離が、上記高分子の全長よりも長ければ、上記反発を防ぐことができ、上記高分子を伸長させることができる。

【0070】
上述のように、本発明に係る高分子伸長装置では、流路の内部において、固定用電極および対向電極のどちらが上流に配置されていてもよい。例えば上記高分子を含んでいる溶液を固定用電極1から対向電極2に向かう方向に流動させる場合、上記高分子を固定用電極1から対向電極2へ向かって伸長させることができる。固定用電極1と対向電極2との距離は、上記高分子の全長よりも長いので、上記高分子と対向電極2との間の反発を防ぐことができる。すなわち、対向電極2によって上記高分子が収縮する方向に力が働くことを防ぐことができる。その結果、高分子を、溶液の流動によって流れの方向に、より効率よく伸長させることができる。

【0071】
また、例えば上記高分子を含んでいる溶液を対向電極2から固定用電極1に向かう方向に流動させる場合、上記高分子を固定用電極1から下流へ向かって伸長させることができる。固定用電極1と対向電極2との距離は、上記高分子の全長よりも長く、さらに対向電極2が固定用電極1よりも上流に存在するため、対向電極1によって上記高分子が縮小する方向に力が働くことを、より確実に防ぐことができる。その結果、高分子を、溶液の流動によって流れの方向に、より効率よく伸長させることができる。

【0072】
本願出願時において、各種高分子の長さは周知である。例えば、高分子が核酸である場合、1塩基あたりの長さは、0.34nmと近似することができる。それ故に、伸長させようとする核酸を構成する塩基の数を設定すれば高分子の長さを決定することができ、当該決定された長さに基づいて、上記固定用電極と上記対向電極との間の距離を適宜設定することができる。

【0073】
本発明に係る高分子伸長装置では、上記固定用電極の、上記溶液の流動方向に平行な方向への幅が上記高分子の全長よりも短いことが好ましい。上記構成によれば、上記高分子全体が上記固定用電極に付着してしまうことを防ぐことができ、上記高分子の一端を固定用電極から離脱しやすくすることができる。

【0074】
<電圧調節手段>
本発明に係る高分子伸長装置は、上記固定用電極と上記対向電極との間に印加する電圧の値を切り替えるための電圧調節手段を備えている。上記構成によれば、上述の〔高分子が伸長する原理〕に示したように、上記固定用電極上に上記高分子を固定した後、電圧を低下させることによって、上記高分子の一端を上記固定用電極上に固定した状態で、上記高分子の他端を上記固定用電極上から離脱させることができる。

【0075】
<その他の構成>
本発明に係る高分子伸長装置は、上述の構成以外にその他の構成を含んでいてもよい。例として、上述の構成およびその他の構成を含んだ高分子伸長装置の概略図を図4および図5に示す。

【0076】
図4に示す高分子伸長装置では、導入口9および導入用リザーバ15、ならびに、導出口10および導出用リザーバ16は、それぞれシリコンチューブ17aおよび17bを介して流路3へ接続されている。導入用リザーバ15は上記流路内へ導入するための上記溶液を貯留しているものである。導出用リザーバ16は上記流路外へ導出された上記溶液を貯留しているものである。図4に示す高分子伸長装置では、導入用リザーバ15、シリコンチューブ17a、流路3、シリコンチューブ17b、および導出用リザーバ16に上記溶液が満たされている。導入用リザーバ15および導出用リザーバ16はそれぞれ手動ステージ18aおよび18bに取り付けられており、手動ステージを流路の高さ方向(図4における紙面上下方向、すなわち、図1の(b)および(d)におけるy軸方向)に動かし、導入用リザーバ15が導出用リザーバ16よりも高い位置となるように調節して水頭差Δhを生じさせ、流路3内の溶液を流動させることができる。

【0077】
また、図4に示す高分子伸長装置では、電極8が導線を介して電源19に接続されており、これにより電極間に電圧を印加することができ、また電圧を調節することができる。すなわち、電源19は上記電圧調節手段に該当する。図4に示す高分子伸長装置では、対物レンズ20およびミラー21を介して、倒立顕微鏡に接続されたCCDカメラ22によって、流路の画像を取得し、当該画像をPC23に取り込んで画像処理を行う。

【0078】
図5に示す高分子伸長装置では、導入口9にはシリコンチューブ17aを介して導入用リザーバ15が接続されているが、導出口10にはシリコンチューブ17bを介してシリンジポンプ24が接続されている。上記構成によれば、導出口10に接続したシリンジポンプ24を矢印の方向へ引くことによって、流路3内の溶液を流動させることができる。

【0079】
図4および図5に示した構成の組み合わせは一例であり、これらに限定されるものではない。

【0080】
〔3.高分子の伸長方法〕
本発明に係る高分子の伸長方法を以下に説明する。本発明に係る高分子の伸長方法は例えば上述した本発明に係る高分子伸長装置を用いて実現することができる。よって、〔高分子伸長装置〕において既に説明した構成については、詳細な説明は省略する。

【0081】
<溶液流動工程>
本発明に係る高分子の伸長方法は、上記高分子を含んでいる溶液を、上記高分子を固定するための固定用電極および上記固定用電極と対をなす対向電極が備えられている流路内へ導入し、当該溶液を、上記流路内にて流動させる溶液流動工程を含んでいる。

【0082】
上記構成によれば、後述する高分子伸長工程において、溶液の流動により高分子を溶液の流れの方向に伸長させることができる。また、上記高分子が核酸である場合、溶液中において凝集しやすい核酸を伸長させることができる。なお、上述のように、上記溶液を固定用電極から対向電極に向かう方向に流動させてもよいし、対向電極から固定用電極に向かう方向に流動させてもよい。

【0083】
上記溶液を流動させる方法は、特に限定されないが、例えば、上述のように導入用リザーバおよび導出用リザーバを設けて水頭差を利用する方法、シリンジポンプを用いる方法が挙げられる。また、電気泳動を利用する方法、電気浸透流を利用する方法を用いてもよい。

【0084】
上記溶液の流速としては、高分子を伸長させることができれば特に限定されないが、45.9μm/s以上300μm/s以下が好ましく、45.9μm/s以上200μm/s以下がより好ましく、45.9μm/s以上91.8μm/s以下がさらに好ましい。特に好ましい上記溶液の流速は、68.8μm/s以上91.8μm/s以下である。上記構成によれば、溶液の流れによるせん断応力を利用して高分子の一端を十分に伸長させることができ、かつ、上記せん断応力が大きすぎるために固定用電極から高分子全体が離脱してしまうことを防ぐことができる。上記流速は、例えば上述のように導入用リザーバおよび導出用リザーバを設けて水頭差を利用することによって好適に実現できる。

【0085】
<高分子固定工程>
本発明に係る高分子の伸長方法は、上記固定用電極に上記高分子が有する電荷とは逆の極性を与えるように、上記固定用電極と上記対向電極との間に電圧を印加して、上記高分子を上記固定用電極上に固定する高分子固定工程を含んでいる。

【0086】
上記構成によれば、帯電した高分子を当該高分子とは逆の極性を有する固定用電極上に固定することができる。

【0087】
本発明において、「固定」とは帯電した高分子の少なくとも一部が電極上へ電気的に誘引されて接触している状態を意味する。本明細書では、電極上へ高分子が「拘束」されていると表現する場合もあるが、同様の意味である。

【0088】
印加する電圧は、高分子を固定することができる電圧であれば特に限定はされないが、本工程の後に電圧を低下させる工程が存在するため、比較的高い電圧であることが好ましい。印加する電圧は700mV以上であることが好ましく、1000mV以上であることがより好ましい。上記構成によれば、帯電した高分子を固定用電極上に十分に固定することができる。

【0089】
<高分子伸長工程>
本発明に係る高分子の伸長方法は、上記電圧を低下させ、上記高分子の一端が上記固定用電極上に固定された状態で、上記高分子の他端を上記固定用電極から離脱させ、上記高分子を、上記溶液の流動方向へ伸長させる高分子伸長工程を含んでいる。

【0090】
上記構成によれば、上記電圧を低下させることによって、上記高分子の一端が上記固定用電極上に固定された状態で、上記高分子の他端を伸長させることができる。

【0091】
本発明に係る高分子の伸長方法では、上記電圧を低下させる速度は速ければ速いほど好ましい。例えば、上記速度は450mV/s以上であることが好ましく、900mV/s以上であることがより好ましい。上記構成によれば、上記高分子の一端を固定用電極に固定した状態で、上記高分子の他端をより効率よく離脱させることができる。その結果、高分子を、溶液の流動によって流れの方向に、より伸長させることができる。上記電圧を低下させる速度は、例えば上述の電圧調節手段を利用することによって好適に実現できる。

【0092】
ここで、上記固定用電極と上記対向電極との間の距離は、上記高分子の全長よりも長いことを特徴としている。よって〔高分子伸長装置〕にて述べたように、上記高分子と上記対向電極との反発を防ぐことができる。上述のように、上記高分子を含んでいる溶液を固定用電極1から対向電極2に向かう方向に流動させる場合、対向電極2によって上記高分子が収縮する方向に力が働くことを防ぐことができる。また、上記高分子を含んでいる溶液を対向電極2から固定用電極1に向かう方向に流動させる場合、固定用電極1と対向電極2との距離が上記高分子の全長よりも長く、さらに対向電極2が固定用電極1よりも上流に存在するため、対向電極1によって上記高分子が縮小する方向に力が働くことを、より確実に防ぐことができる。その結果、高分子を、溶液の流動によって流れの方向に、より効率よく伸長させることができる。

【0093】
また、上述したように上記固定用電極の、上記溶液の流動方向に平行な方向への幅が上記高分子の全長よりも短いことが好ましい。上記構成によれば、上記高分子全体が上記固定用電極に付着してしまうことを防ぐことができ、上記高分子の一端を固定用電極から離脱しやすくすることができる。
【実施例】
【0094】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明の趣旨を逸脱しない限り、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0095】
〔実施例1~3および比較例1〕
<DNA溶液の調製>
DNA溶液の調製方法について説明する。実施例1~3および比較例1では、高分子としてλDNA(48,502bp)、緩衝液としてTBE buffer(Tris 100mM/Boric Acid 90mM/EDTA 1mM(pH8.4))を用いた。また、核酸蛍光染色剤としてYOYO-1(Ex/Em=491/509)を用いた。加えて,観察中における蛍光の退色を防ぐために、2-メルカプトエタノールを用いた。実施例1~3および比較例1で使用したDNAおよび核酸蛍光染色剤の性質について表1および表2にそれぞれ示す。また、DNA溶液の製作条件について表3に示す。初めに、-20℃で冷凍保存しているλDNAおよび核酸蛍光染色剤を常温で1時間放置し、解凍した。解凍後、λDNA、核酸蛍光染色剤およびTBE bufferを表6に示す割合で混合し、約2時間程度放置することでλDNAと核酸蛍光染色剤とをTBE buffer中で結合させた。その後、蛍光退色防止剤である2-メルカプトエタノールを加え、DNA溶液を調製した。
【実施例】
【0096】
【表1】
JP2014068612A_000003t.gif
【実施例】
【0097】
【表2】
JP2014068612A_000004t.gif
【実施例】
【0098】
【表3】
JP2014068612A_000005t.gif
【実施例】
【0099】
なお、表3中の「染色剤の結合比」は、λDNAに対して染色剤が結合する割合を示しており、本実施例においてはλDNAの5塩基毎に1個のYOYO-1分子が結合することを意味している。すなわち、48,502bpのλDNAには平均して約9700個のYOYO-1分子が結合している。
【実施例】
【0100】
<高分子伸長装置の作製>
実施例1~3および比較例1に用いた流路および電極の作製方法について以下に説明する。実施例1~3および比較例1では、図2の(a)~(c)に示される流路3と同一の流路を用いた。すなわち、第1の基板6と第2の基板7とを貼り合せることで流路3を形成した。実施例1~3および比較例1では第1の基板6としてカバーガラスを用い、第2の基板7としてPDMSを用いて作製した。また、固定用電極1および対向電極2としては金を用いた。
【実施例】
【0101】
まず、PDMS製の第2の基板の作製方法を説明する。第2の基板の流路部分(溝)は、フォトリソグラフィによる鋳型の作製と、PDMSによる型取りによって作製した。流路の作製手順を図6に示す。また、表4に詳細な作製条件を示す。
【実施例】
【0102】
【表4】
JP2014068612A_000006t.gif
【実施例】
【0103】
まず、シリコン基板25aを用意した(図6の(a))。次に、スピンコータ(1H-D7、MIKASA CO.LTD)を用いて、シリコン基板25a上にフォトレジスト(SU-8 3005、MicroChem Corporation)を5μmの厚さで塗布した。
【実施例】
【0104】
その後、フォトレジストが塗布されたシリコン基板25aを、ホットプレート(PC-400D、CORNING)を用いて95℃で3分間加熱してソフトベークを行い、レジスト薄膜26aを形成した(図6の(b))。急冷するとSU-8が剥離する虞があるので、上記加熱後は低発塵性ワイパ(BEMCOT、旭化成せんい株式会社)上でシリコン基板25aを自然冷却した。
【実施例】
【0105】
次に、レジスト薄膜26aを有するシリコン基板25aに、流路形状のフォトリソグラフィを行った。レジスト薄膜26aに接するようにフォトマスク27aを設置し、紫外線露光機(BAH250、株式会社ウシオ電機)を用いて、125mJ/sqcmの露光を行った(図6の(c))。
【実施例】
【0106】
上記露光後、ホットプレートを用いてシリコン基板25aを65℃で1分間、および95℃で2分間加熱してポストベークを行った。その後、シリコン基板25aを現像溶液(SU-8 Developer、MicroChem Corporation)に5分間浸し、パターン部分以外の余分なフォトレジストを除去した。さらにシリコン基板25aを2-プロパノール(株式会社和光純薬工業)によって洗浄した後、ブロワを用いて乾燥させ、流路部分の鋳型を作製した(図6の(d))。
【実施例】
【0107】
そして、Silicon Elastomer Base(Dow Corning Company)とSilicon Elastomer Curing Agent(Dow Corning Company)とを体積比10:1の割合で混合し、液状のPDMSを調製した。
【実施例】
【0108】
上記鋳型上に液状のPDMSを流し込んだ後、真空引きにより脱泡し、ホットプレートを用いて70℃で5時間加熱してPDMSを硬化させた(図6の(e))。硬化したPDMS28aを切り取り(図6の(f))、直径1mmの生検トレパン(BP-05F、株式会社カイインダストリーズ)を用いて、流路となる溝の両端に導入口9および導出口10となる穴を開けた(図6の(g))。
【実施例】
【0109】
次に金電極の作製方法を説明する。金電極はフォトリソグラフィおよびスパッタリングによって作製した。図7に作製手順を示し、表5に詳細な作製条件を示す。
【実施例】
【0110】
【表5】
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【実施例】
【0111】
第1の基板6としてカバーガラス29a(NEOカバーガラス、株式会社松浪硝子工業)を用意した(図7の(a))。スピンコータを用いて、カバーガラス29a上にネガ型フォトレジスト(ZPN1150、Zeon Corporation)を4μmの厚さで塗布した。その後、フォトレジストが塗布されたカバーガラス29aを、ホットプレートを用いて90℃で90秒間加熱してソフトベークを行い、レジスト薄膜30を形成した(図7の(b))。
【実施例】
【0112】
上記レジスト薄膜30を有するカバーグラス29aに、電極形状のフォトリソグラフィを行った。カバーグラス29a上に、レジスト薄膜30と接するようにフォトマスク27bを設置し、紫外線露光機を用いて、30mJ/sqcmの露光を行った(図7の(c))。
【実施例】
【0113】
上記露光後、ホットプレートを用いてカバーガラス29aを110℃で60秒間加熱してポストベークを行った。その後、カバーグラス29aを現像溶液(ZTMA100、Zeon Corporation)に約2分間浸し、パターン部分の余分なフォトレジストを除去した(図7の(d))。
【実施例】
【0114】
その後、カバーガラス29a上に、スパッタリング装置を用いて厚さ約5nmのチタン(Ti)薄膜31を形成した(図7の(e))。チタン薄膜31を形成する理由は、カバーガラス上に金電極を直接形成しようとすると密着性が悪いためである。上記チタン薄膜31上に、スパッタリング装置を用いて厚さ約35nmの金(Au)薄膜32を形成した(図7の(f))。ここで、スパッタリング中の膜厚の計測には水晶発振式成膜コントローラ(CRTM-6000G、株式会社アルバック)を用いた。そして、カバーガラス29aをアセトン溶液(株式会社和光純薬工業)に約1分間浸し、カバーガラス29a上に残っているレジストを除去した(図7の(g))。
【実施例】
【0115】
最後に、固定用電極1および対向電極2が設置されたカバーガラス29aとPDMS28aとの接着方法について説明する。接着にはRIE(Reactive Ion Etching)装置(RIE-10NR、サムコ株式会社)による酸素プラズマ接着方法を用いた。表6に詳細な作製条件を示す。PDMS28aの溝が形成されている側およびカバーガラス29aの電極が設置されている側の表面に対して、酸素プラズマによって表面活性化を行った。その後、活性化された表面が互いに接するように、PDMS28aとカバーガラス29aとを接着させた。以上の工程によって、図2の(a)~(c)に示したものと同様の流路を形成した。すなわち、図2の第1の基板6にカバーガラス29aが対応し、第2の基板7にPDMS28aが対応する。そして、図2の(c)に示すように、固定用電極1および対向電極2と導線11とを銀ペーストを用いて接続した。
【実施例】
【0116】
【表6】
JP2014068612A_000008t.gif
【実施例】
【0117】
完成した流路3の構造を図8に示す。完成した流路は、流路の幅(図8のz軸方向の長さ)が50μm、高さ(図8のy軸方向の長さ)が5μm、長さ(図8のx軸方向の長さ)が28mmである。電極は正極と負極とが交互に配置されており、それぞれの電極の幅(図8のx軸方向の長さ)が10μm、電極間の距離(一対の正極と負極と間の距離)が100μm、電極の膜厚さが40nmである。なお、比較例1では、電極の幅を6μm、電極間の距離を8μmとしたものを用いた。また、正極および負極は5本ずつあり、計5対である。さらに、第2の基板7に設けられた導入口9および導出口10の直径は1mmである。
【実施例】
【0118】
次に、上記流路を含む高分子伸長装置について述べる。実施例1~3および比較例1では上述の図4に示したような装置によって高分子が伸長する様子を観察した。手動ステージ18aおよび18bを図8におけるy軸方向(流路の高さ方向)に動かし、導入用リザーバ15が導出用リザーバ16よりも高い位置となるように調節して水頭差を生じさせ、流路内の溶液を固定用電極から対向電極へ向かって流動させた。そして電源19によって電圧を印加および調節した。実施例1~3および比較例1では、倒立顕微鏡に接続されたCCDカメラ22によって、流路の画像を取得し、当該画像をPC23に取り込んで画像処理を行った。
【実施例】
【0119】
<予備実験>
まず、印加電圧の大きさとλDNAの流動との関連性を調べるために行った予備実験について説明する。導入用リザーバ15と導出用リザーバ16との間における水頭差20mm、主流速91.8μm/sでDNA溶液を流動させた状態において、1000mVの電圧を印加し、溶液中のλDNAを正極上に拘束させた。なお、主流速とは、溶液の平均流速を示す。その後、電圧を約30mV/secの割合で100mVまで徐々に低下させ、拘束されているDNAが完全に離脱する電圧を調べた。
【実施例】
【0120】
以下に予備実験の結果を説明する。印加電圧を1000mVとした場合、λDNAが溶液の流動により受ける力(せん断応力)に比べて、電場により受ける力の方が十分大きいため、流動しているλDNAが正極上に拘束され、離脱することなく拘束され続けた。また、この場合、λDNAは全体が電極上に強く拘束された状態であった。印加電圧を小さくしていくと、λDNAの一部が電極から離脱し、下流側へと流れていく現象が観察された。印加電圧が200mV程度の際に、λDNAが電極から完全に離脱する現象が確認できた。
【実施例】
【0121】
<実施例1>
実施例1について説明する。導入用リザーバ15と導出用リザーバ16との間における水頭差を20mmとして平均流速91.8μm/sでDNA溶液を流動させ、電極に1000mVの電圧を印加した。この状態で30秒間DNA溶液を流動させ続け、正極上にλDNAを拘束させた。次に、電圧1000mVを保持した状態で、水頭差を調節して溶液の流動を静止させた。その後、水頭差を20mmに戻して平均流速91.8μm/sで溶液を流動させ、印加電圧を1000mVから250mVに切り替え、λDNAの流動を観察した。観察中は250mVの電圧を印加し続けていた。観察には、100倍油侵対物レンズを用い、可視化動画はCCDカメラによって取得した。画素数、空間解像度および撮影速度はそれぞれ1920×1080、0.166μm/pixelおよび20fpsである。
【実施例】
【0122】
以下に実施例1の結果を説明する。図9の(a)および(b)は、実施例1において観察されたλDNAの写真である。ここで、最も伸長しているλDNAの長さは11.7μmであり、これはλDNAの全長の約71.0%に相当する。
【実施例】
【0123】
<比較例1>
比較例1について説明する。比較例1は電極の幅を6μmとし、電極間の距離を8μmとした。また、800mVの電圧を印加してλDNAを正極上に固定した後、電圧を160mVに切り替えたこと以外は、実施例1と同一の条件で実験を行った。
【実施例】
【0124】
以下に比較例1の結果を説明する。図9の(c)は、比較例1において観察されたλDNAの写真である。電極間距離を8μmとした場合、最も伸長しているλDNAの長さは5.90μmであり、これはλDNAの全長の約35.8%に相当する。
【実施例】
【0125】
<実施例1と比較例1との比較>
図9の(b)および(c)を比較すると、電極間距離を8μmから100μmに広げることによって、λDNAの伸長具合が大きくなっていることが確認できた。これは、電極間距離とλDNAの伸長具合との間に関係があることを示している。実施例1の装置では、比較例1の装置に比べ、λDNAを約2倍程度伸長させることが可能となった。
【実施例】
【0126】
<実施例2>
実施例2について説明する。導入用リザーバ15と導出用リザーバ16との間における水頭差を10mmとして平均流速45.9μm/sでDNA溶液を流動させたこと以外は、実施例1と同一の条件で実験を行った。実施例2における固定用電極近傍の観察画像を図10の(a)に示す。
【実施例】
【0127】
<実施例3>
実施例3について説明する。導入用リザーバ15と導出用リザーバ16との間における水頭差を15mmとして平均流速68.8μm/sでDNA溶液を流動させたこと以外は、実施例1と同一の条件で実験を行った。実施例3における固定用電極近傍の観察画像を図10の(b)に示す。
【実施例】
【0128】
<実施例1~3の間の比較>
実施例1~3の間の比較を行い、流動速度の違いによる影響について考察する。図10の(c)は、実施例1における固定用電極近傍の観察画像である。図10の(a)、(b)および(c)を比較すると、溶液の流速が速いほどλDNAの伸長具合が大きくなっていることが確認できる。これは、流動速度を調整することによって、λDNAの伸長具合を調整できることを示している。
【実施例】
【0129】
〔比較例2および実施例4〕
<DNA溶液の調製>
比較例2および実施例4では、上述の実施例1~3および比較例1と同一のDNA溶液を用いた。
【実施例】
【0130】
<高分子伸長装置の作製>
比較例2および実施例4に用いた流路3、ならびに固定用電極1および対向電極2の作製方法について以下に説明する。比較例2および実施例4では、図3の(a)~(c)に示される流路と同一の流路を用いた。すなわち、流路3は第2の基板7、第3の基板12、第4の基板13および第5の基板14によって形成されている。比較例2および実施例4では第2の基板7および第3の基板12としてカバーガラスを用い、第4の基板13および第5の基板14としてPDMSを用いて作製した。また、固定用電極1および対向電極2としては金を用いた。
【実施例】
【0131】
まず、カバーグラス製の第3の基板、ならびに、PDMS製の第4の基板および第5の基板の作製方法を説明する。第3の基板、第4の基板および第5の基板から構成される流路部分は、フォトリソグラフィによる鋳型および型取りによって作製した。流路の作製手順を図11に示す。なお、フォトリソグラフィにおける各処理条件、およびPDMSの作製条件は、実施例1~3および比較例1の表4と同一である。
【実施例】
【0132】
まず、シリコン基板25bを用意した(図11の(a))。次に、スピンコータ(1H-D7、MIKASA CO.LTD)を用いて、シリコン基板25a上にフォトレジスト(SU-8 3005、MicroChem Corporation)を5μmの厚さで塗布した。その後、フォトレジストが塗布されたシリコン基板25bを、ホットプレート(PC-400D、CORNING)を用いて95℃で3分間加熱してソフトベークを行い、レジスト薄膜26bを形成した(図11の(b))。急冷するとSU-8が剥離する虞があるので、上記加熱後は低発塵性ワイパ(BEMCOT、旭化成せんい株式会社)上でシリコン基板25bを自然冷却した。
【実施例】
【0133】
次に、レジスト薄膜26bを有するシリコン基板25bに、流路形状のフォトリソグラフィを行った。レジスト薄膜26bに接するようにフォトマスク27bを設置し、紫外線露光機(BAH250、株式会社ウシオ電機)を用いて、125mJ/sqcmの露光を行った(図11の(c))。
【実施例】
【0134】
上記露光後、ホットプレートを用いてシリコン基板25bを65℃で1分間、および95℃で2分間加熱してポストベークを行った。その後、シリコン基板25bを現像溶液(SU-8 Developer、MicroChem Corporation)に5分間浸し、パターン部分以外の余分なフォトレジストを除去した。さらにシリコン基板25bを2-プロパノール(株式会社和光純薬工業)によって洗浄した後、ブロワを用いて乾燥させ、流路部分の鋳型を作製した(図11の(d))。
【実施例】
【0135】
そして、Silicon Elastomer Base(Dow Corning Company)とSilicon Elastomer Curing Agent(Dow Corning Company)とを体積比10:1の割合で混合し、液状のPDMSを調製した。上記鋳型上にカバーガラス29bを設置し、液状のPDMSを流し込んだ後、真空引きにより脱泡し、ホットプレートを用いて70℃で5時間加熱してPDMSを硬化させた(図11の(e))。カバーガラス29b、並びに硬化したPDMS28bおよび28cを切り取り(図11の(f))、直径1mmの生検トレパン(BP-05F、株式会社カイインダストリーズ)を用いて、溝の両端に導入口9および導出口10となる穴を開けた(図11の(g))。
【実施例】
【0136】
金電極は、実施例1~3および比較例1と同様に、フォトリソグラフィおよびスパッタリングによって作製した。
【実施例】
【0137】
最後に、実施例1~3および比較例1と同様に酸素プラズマ接着方法を用いて、図3の(a)~(c)に示したものと同様の流路を形成した。すなわち、図3の第2の基板7にカバーガラス29aが対応し、第3の基板12にカバーガラス29bが対応し、第4の基板13にPDMS28bが対応し、第5の基板14にPDMS28cが対応する。そして、図3の(c)に示すように、固定用電極1および対向電極2と導線11とを銀ペーストを用いて接続した。
【実施例】
【0138】
完成した流路3の構造を図12に示す。完成した流路は、流路の幅(図12のz軸方向の長さ)が100μm、高さ(図12のy軸方向の長さ)が5μm、長さ(図12のx軸方向の長さ)が28mmである。電極は正極と負極とが交互に配置されており、それぞれの電極の幅(図12のx軸方向の長さ)が10μm、電極間の距離(一対の正極と負極と間の距離)が100μm、電極の膜厚さが40nmである。また、正極および負極は5本ずつあり、計5対である。さらに、第4の基板13に設けられた導入口9および第5の基板14に設けられた導出口10の直径は1mmである。
【実施例】
【0139】
次に、上記流路を含む高分子伸長装置について述べる。比較例2および実施例4では上述の図5に示したような装置によって高分子が伸長する様子を観察した。図5に示すように、導出口10に接続したシリンジ24を矢印の方向へ引くことによって、流路内のDNA溶液を固定用電極から対向電極へ向かって流動させた。電源19によって電圧を印加および調節した。比較例2および実施例4では、正立顕微鏡に接続されたCCDカメラ22によって、流路の画像を取得し、当該画像をPC23に取り込んで画像処理を行った。
【実施例】
【0140】
<比較例2>
以下に比較例2について説明する。λDNAを含んだ溶液が流路内を流動している状態において、1000mVの電圧を約30秒間印加し、溶液中のλDNAを正極上に拘束させた。その後、電圧を約30mV/secの割合で100mVまで徐々に低下させ、正極表面上におけるλDNAを観察した。比較例2における印加した電圧と時間との関係を図13(a)に示す。観察には、100倍油侵対物レンズを用い、可視化動画はCCDカメラによって取得した。画素数、空間解像度および撮影速度はそれぞれ512×512、0.166μm/pixelおよび34.7fpsである。
【実施例】
【0141】
比較例2の結果を、以下に説明する。印加電圧を1000mVとした場合、流路内を流動しているλDNAが正極へと拘束されていく様子が観察された。しかし、正極表面に拘束される瞬間にλDNAが観察されなくなった。図14の(a)に1000mVを印加している状態における正極表面上の観察画像を示す。この図からも、正極表面上に拘束されているλDNAが観察できていないことがわかる。これは、金電極によるクエンチ現象によるものであると考えられる。クエンチ現象とは、金や銀などの一部の金属が光を吸収する現象であり、金属表面から約10nm以下の距離に置かれた分子からの蛍光は金属に吸収されてしまうことが報告されている(K.A.Kang et al.,Journal of Nanobiotechnology,9:16(2011))。この状態から、印加電圧を徐々に低下させていくと、印加電圧が約700mV程度の時に正極表面上のλDNAが観察され始めた。図14の(b)に、印加電圧が700mVの状態における正極表面上の観察画像を示す。図14の(a)および(b)から、印加電圧が700mV以上の場合、λDNAは電極上に強く拘束され、λDNAの全体が金電極表面から約10nmの範囲に存在していることがわかる。さらに電圧を低下させていくと、蛍光強度が大きくなり、印加電圧約600mV程度の時に、λDNAの形状が判断できる程になった。図14(c)は,印加電圧が550mVの状態における、金電極表面上の観察画像を示している。
【実施例】
【0142】
図14の(a)~(c)に示されているように、比較例2では、λDNAの明確な伸長現象は確認できなかった。これは、電圧を徐々に低下させた場合、電圧降下に伴って、λDNAが常に平衡状態を保つように形状を変形させているためであると考えられる。すなわち、λDNAは伸長した状態よりも凝集した糸まり状の状態の方が安定な状態であるため、電圧降下に合わせてある程度凝集した状態を保ちながら形状を変形させていると考えられる。
【実施例】
【0143】
<実施例4>
以下に実施例4について説明する。λDNAを正極上に拘束させた後、印加電圧を1000mVから250mVに切り替えてλDNAの流動を観察したこと以外は、比較例2と同一の条件で実験を行った。実施例4における印加した電圧と時間との関係を図13(b)に示す。
【実施例】
【0144】
実施例4の結果を、以下に説明する。図15の(a)および(b)は、印加電圧がそれぞれ1000mVおよび250mVの場合において観察される正極近傍の観察画像である。図15の(a)では、比較例2と同様に、電極上に拘束されているλDNAの存在はクエンチ現象により観察できない。また、図15の(b)では、比較例2と異なり、伸長しているλDNAが観察でき、10μm程度の伸長を示しているλDNAが存在する。
【実施例】
【0145】
なお、電極表面上を観察することによって、λDNAは電極の端だけでなく、電極表面全体に拘束されていることが確認できた。このことより、電極幅をより細くすれば、より効果的に高分子の伸長現象を観察することが可能になると考えられる。つまり、高分子の電極に拘束される部分が少なるため、高分子はより伸長するようになると考えられる。
【実施例】
【0146】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0147】
本発明は、凝集した鎖状高分子を伸長させることができるため、生物学、医学、薬学、農学、工学等の分野において高分子の分子レベルでの観察に利用することができる。
【符号の説明】
【0148】
1 ・・・固定用電極
2 ・・・対向電極
3 ・・・流路
4 ・・・流路壁
5 ・・・高分子
6 ・・・第1の基板
7 ・・・第2の基板
8 ・・・電極
9 ・・・導入口
10 ・・・導出口
11 ・・・導線
12 ・・・第3の基板
13 ・・・第4の基板
14 ・・・第5の基板
15 ・・・導入用リザーバ
16 ・・・導出用リザーバ
17a,17b ・・・チューブ
18a,18b ・・・手動ステージ
19 ・・・電圧調節手段
20 ・・・対物レンズ
21 ・・・ミラー
22 ・・・CCDカメラ
23 ・・・PC
24 ・・・シリンジ
25a,25b ・・・シリコン基板
26a,26b ・・・レジスト薄膜
27a,27b,27c ・・・フォトマスク
28a,28b,28c ・・・PDMS
29a,29b ・・・カバーガラス
30 ・・・レジスト薄膜
31 ・・・チタン薄膜
32 ・・・金薄膜
図面
【図6】
0
【図7】
1
【図11】
2
【図13】
3
【図1】
4
【図2】
5
【図3】
6
【図4】
7
【図5】
8
【図8】
9
【図9】
10
【図10】
11
【図12】
12
【図14】
13
【図15】
14