TOP > 国内特許検索 > 低酸素耐性ヒラメの識別方法 > 明細書

明細書 :低酸素耐性ヒラメの識別方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6041259号 (P6041259)
公開番号 特開2014-054203 (P2014-054203A)
登録日 平成28年11月18日(2016.11.18)
発行日 平成28年12月7日(2016.12.7)
公開日 平成26年3月27日(2014.3.27)
発明の名称または考案の名称 低酸素耐性ヒラメの識別方法
国際特許分類 C12Q   1/68        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
FI C12Q 1/68 ZNAA
C12N 15/00 A
請求項の数または発明の数 6
全頁数 10
出願番号 特願2012-200031 (P2012-200031)
出願日 平成24年9月12日(2012.9.12)
審査請求日 平成27年8月27日(2015.8.27)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504196300
【氏名又は名称】国立大学法人東京海洋大学
【識別番号】000192903
【氏名又は名称】神奈川県
発明者または考案者 【氏名】岡本 信明
【氏名】坂本 崇
【氏名】長谷川 理
個別代理人の代理人 【識別番号】100110249、【弁理士】、【氏名又は名称】下田 昭
【識別番号】100113022、【弁理士】、【氏名又は名称】赤尾 謙一郎
【識別番号】100116090、【弁理士】、【氏名又は名称】栗原 和彦
審査官 【審査官】北村 悠美子
参考文献・文献 特開2010-124797(JP,A)
特開2004-081155(JP,A)
Database Genbank[online], Accession No. DQ889045, Definition:Paralichthys olivaceus microsatellite P
BMC Genomics,2010年,11:554,11pages
水産増殖,2002年,Vol.50, No.3,p.369-374
平成24年度日本水産学会秋季大会講演要旨集,2012年 9月14日,p.56,542
調査した分野 C12Q 1/68
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
特許請求の範囲 【請求項1】
下記工程から成る低酸素耐性ヒラメの識別方法。
1)ヒラメ、その卵又はそれらの加工品から抽出したDNAについて、下記a)又はb)のいずれかのDNAマーカー配列若しくはその一部であってマイクロサテライト配列を含む配列を増幅する工程、
a)配列番号1の809~1158番目の塩基配列(その965~1000位がマイクロサテライト配列に相当する。)
b)配列番号1の507~788番目の塩基配列(その629~750位がマイクロサテライト配列に相当する。)
2)別途継代飼育の結果、低酸素耐性と認められる系統のヒラメについて、上記1)の工程を実施する工程、及び
3)1)と2)の工程の増幅結果を比較し、これらが一致する場合に、ヒラメが低酸素耐性であると識別する工程
【請求項2】
前記工程1)における増幅がPCR反応により行われ、前記工程3)における増幅結果の比較が、増幅されたDNA断片をゲル電気泳動により分離して、その長さを比較することにより行われ、その長さが一致する場合に増幅結果が一致したとする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
下記工程から成る低酸素耐性ヒラメの識別方法。
1)ヒラメ、その卵又はその加工品から抽出したDNAについて、(1)又は(2)のオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いてPCR反応を行う工程、及び
(1)5'-CATGTTGGTCTGAGACGATGAACTC-3' (配列番号2)の3'側末端から連続する少なくとも18個の塩基から成るオリゴヌクレオチド、及び5'-TAGATCCTGTTGTTTTCCTGCTCG-3' (配列番号3)の3'側末端から連続する少なくとも18個の塩基から成るオリゴヌクレオチド、又はこれらに相補的な配列の2つのオリゴヌクレオチド、
(2)5'-CTCACTGTTCTGAAGCTTCTCT-3' (配列番号4)の3'側末端から連続する少なくとも18個の塩基から成るオリゴヌクレオチド、及び5'-CGTCTGAGTCGGAATCCTTCTG-3' (配列番号5)の3'側末端から連続する少なくとも18個の塩基から成るオリゴヌクレオチド、又はこれらに相補的な配列の2つのオリゴヌクレオチド
2)(1)の2つのオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いた場合に、PCR産物のゲル電気泳動において119bpのバンドがある場合、又は(2)の2つのオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いた場合に、PCR産物のゲル電気泳動において217bpのバンドがある場合に、ヒラメが低酸素耐性であると識別する工程
【請求項4】
ヒラメが低酸素耐性であるか否かを識別するための診断キットであって、下記いずれかの配列若しくはその一部であってマイクロサテライト配列を含む配列を増幅するためのPCR用プライマーを含むキット。
a)配列番号1の809~1158番目の塩基配列(その965~1000位がマイクロサテライト配列に相当する。)
b)配列番号1の507~788番目の塩基配列(その629~750位がマイクロサテライト配列に相当する。)
【請求項5】
前記PCR用プライマーが、
下記a-1)の塩基配列から成るオリゴヌクレオチド、及びa-2)の塩基配列から成るオリゴヌクレオチドに相補的なオリゴヌクレオチド、又はこれらに相補的な配列の2つのオリゴヌクレオチド
a-1)配列番号1の1~964番目の塩基配列のうち連続する少なくとも18個の塩基配列
a-2)配列番号1の1001~1303番目の塩基配列のうち連続する少なくとも18個の塩基配列
又は下記b-1)の塩基配列から成るオリゴヌクレオチド、及びb-2)の塩基配列から成るオリゴヌクレオチドに相補的なオリゴヌクレオチド、又はこれらに相補的な配列の2つのオリゴヌクレオチド
b-1)配列番号1の1~628番目の塩基配列のうち連続する少なくとも18個の塩基配列
b-2)配列番号1の751~1030番目の塩基配列のうち連続する少なくとも18個の塩基配列
から成る請求項に記載のキット
【請求項6】
前記PCR用プライマーが、下記いずれかである請求項4に記載のキット
(1)5'-CATGTTGGTCTGAGACGATGAACTC-3' (配列番号2)の3'側末端から連続する少なくとも18個の塩基から成るオリゴヌクレオチド、及び5'-TAGATCCTGTTGTTTTCCTGCTCG-3' (配列番号3)の3'側末端から連続する少なくとも18個の塩基から成るオリゴヌクレオチド、又はこれらに相補的な配列の2つのオリゴヌクレオチド
(2)5'-CTCACTGTTCTGAAGCTTCTCT-3' (配列番号4)の3'側末端から連続する少なくとも18個の塩基から成るオリゴヌクレオチド、及び5'-CGTCTGAGTCGGAATCCTTCTG-3' (配列番号5)の3'側末端から連続する少なくとも18個の塩基から成るオリゴヌクレオチド、又はこれらに相補的な配列の2つのオリゴヌクレオチド
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
この発明は、ヒラメが低酸素耐性であるか否かを識別する方法及びそのためのDNAマーカーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来からヒラメの飼育は、仔魚から成魚まで、海水をポンプで陸上の飼育施設に揚水して、行われている。
このため、夏季の高水温期には、飼育水中の溶存酸素の減少により酸欠やこれらに起因した疾病被害がしばしば発生し、産業的に深刻な被害が生じている。
このため、ヒラメの飼育施設では、飼育密度を低く抑えたり、酸欠を防止するために液体酸素施設や酸素発生器などを設置し、飼育水の溶存酸素濃度の確保を図っている。しかし、これらの対策は、施設の維持や液化酸素などに多額の費用を要し、生産コストを上げる一因となっている。
ニジマスについては、低酸素耐性形質が遺伝することが確かめられている(非特許文献1)。
またヒラメの遺伝子連鎖地図は公開されている(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【0003】

【非特許文献1】水産増殖 Vol.50, No.3, Page.369-374 (2002)
【非特許文献2】BMC Genomics 2010, 11:554
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本願発明は、ヒラメの低酸素に対する抵抗性の相違と遺伝要因との関係を客観的に明らかにするとともに、これら系統魚を用いて、低酸素の耐性に関する量的形質解析(QTL法)により低酸素耐性の出現原因と関連するDNAマーカーとそのマーカーを用いて低酸素耐性のヒラメを識別する方法を開発して、ヒラメの増養殖事業の発展に貢献することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、長期に亙ってヒラメの養殖研究を行っており、低酸素耐性のあるヒラメを選抜飼育してきた。発明者らは,酸欠により死亡したヒラメを調べた結果、飼育系統によりその死亡率が異なることに気が付いた。そのため、選抜飼育してきた低酸素耐性のある系統と抵抗性のない系統のヒラメを交配し、更に戻し交配により低酸素耐性に遺伝性があることを確認した。
本発明者らは、鋭意検討の結果、ヒラメの低酸素耐性の出現要因と関連する遺伝子が確認できる特定のマイクロサテライトマーカー(MSマーカー)を見出し、このマーカーを用いて低酸素耐性のヒラメを識別する方法を開発した。これらのDNAマーカーを活用し、親魚群から低酸素に対して耐性を有するヒラメを選抜することにより、低酸素の飼育環境における斃死被害を抑制することができる。
【0006】
即ち、本発明は、下記工程から成る低酸素耐性ヒラメの識別方法である。
1)ヒラメ、その卵又はそれらの加工品から抽出したDNAについて、下記a)又はb)のいずれかのマイクロサテライト領域の配列若しくはその一部であってマイクロサテライト配列を含む配列を増幅する工程、
a)配列番号1の809~1158番目の塩基配列(Poli1482TUF: Genbank accession No.DQ889045)
b)配列番号1の507~788番目の塩基配列
2)別途継代飼育の結果、低酸素耐性と認められる系統のヒラメについて、上記1)の工程を実施する工程、及び
3)1)と2)の工程の増幅結果を比較し、これらが一致する場合に、ヒラメが低酸素耐性であると識別する工程
【0007】
また本発明は、下記いずれかのマイクロサテライト領域の配列若しくはその一部であってマイクロサテライト配列を含む配列から成るヒラメが低酸素耐性であるか否かを識別するためのDNAマーカーである。
a)配列番号1の809~1158番目の塩基配列
b)配列番号1の507~788番目の塩基配列
また本発明は、下記いずれかの配列若しくはその一部であってマイクロサテライト配列を含む配列を増幅するためのPCR用プライマーである。
a)配列番号1の809~1158番目の塩基配列
b)配列番号1の507~788番目の塩基配列
また本発明は、ヒラメが低酸素耐性であるか否かを識別するための診断キットであって、上記のPCR用プライマーを含むキットである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】配列番号1の塩基配列を示す図である。太字はマイクロサテライト領域を示し、下線は実施例で用いたプライマーを示す。
【図2】実施例で使用したヒラメの戻し交配家系の作出を示す図である。B系統は低酸素に弱い系統、C系統は低酸素に強い系統、CB系統は両系統間において交配したハイブリット系統、CBB系統は戻し交配家系を示す。
【図3】ヒラメの各系統の低酸素に対する抵抗性(累積死亡率)を比較した図である。横軸は経過時間(時間)、DOは酸素濃度(mg/l)を示す。
【図4】戻し交配家系(CBB系統)におけるMSマーカー(Poli1482TUF)の検出を示す図である。
【図5】戻し交配家系(CBB系統)におけるMSマーカー(Poli Hypoxia-1 TUF)の検出を示す図である。

【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、DNAマーカーとこのマーカーを用いて低酸素耐性のヒラメを識別する方法を提供する。
発明者らは、ヒラメの遺伝子連鎖地図(非特許文献2)に見出された約1300のマイクロサテライトマーカーを調べた結果、遺伝子連鎖群LG24に存在する下記2つのマイクロサテライト領域が、ヒラメの低酸素耐性の出現に関連していることを見出した(後述の実施例参照)。
本発明のDNAマーカーは、下記いずれかのマイクロサテライト領域の配列若しくはその一部であってマイクロサテライト配列を含む配列から成る。
a)配列番号1(図1)の809~1158番目の塩基配列(Poli1482TUF: Genbank accession No.DQ889045) このマイクロサテライト領域においては、配列番号1の965~1000番に、CTTの反復配列(マイクロサテライト配列と考えられる。)が見出される。なお、このマイクロサテライト領域には、配列番号1の809~1158番目の塩基配列に反復単位(CTT)が1又は複数増減したものや反復配列の一部に1個から数個の塩基が、欠失、置換又は付加されたものも含まれる。
b)配列番号1(図1)の507~788番目の塩基配列(以下「Poli Hypoxia-1 TUF」と呼ぶ。)
このマイクロサテライト領域においては、配列番号1の629~750番目にCAの反復配列(マイクロサテライト配列と考えられる。)が見出される。なお、このマイクロサテライト領域には、配列番号1の507~788番目の塩基配列に反復単位(CA)が1又は複数増減したものや反復配列の一部に1個から数個の塩基が、欠失、置換又は付加されたものも含まれる。
【0010】
本発明のヒラメが低酸素耐性であるか否かを識別する方法は下記工程から成る。
工程1)
ヒラメ、その卵又はそれらの加工品からDNAを抽出し、上記いずれかのDNAマーカー(マイクロサテライト領域の配列)又はその一部であってマイクロサテライト配列を含む配列を増幅する。
この増幅(PCR反応)に用いるプライマーとしては、上記マイクロサテライト領域のマイクロサテライト配列を増幅できるものであればよく、上記のマイクロサテライト領域の塩基配列と、好ましくはストリンジェントな条件で、特異的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドであれば限定されない。ここで特異的にハイブリダイズするとは、通常のハイブリダイゼーション条件下、好ましくはストリンジェントな条件下において、他のタンパク質をコードするDNAとクロスハイブリダイゼーションを有意に生じないことを意味する。ストリンジェントな条件は、例えば、60℃、6×SSCの条件である。
【0011】
このようなプライマーは、例えば、配列番号1の塩基配列のうち、マイクロサテライト領域のマイクロサテライト配列を挟む塩基配列から成るオリゴヌクレオチドを用いることができる。このようなオリゴヌクレオチドは、例えば、下記a-1)の塩基配列から成るオリゴヌクレオチド、及びa-2)の塩基配列から成るオリゴヌクレオチドに相補的なオリゴヌクレオチド、又はこれらに相補的な配列の2つのオリゴヌクレオチド
a-1)配列番号1の1~964番目の塩基配列のうち連続する少なくとも18個の塩基配列
a-2)配列番号1の1001~1303番目の塩基配列のうち連続する少なくとも18個の塩基配列
又は下記b-1)の塩基配列から成るオリゴヌクレオチド、及びb-2)の塩基配列から成るオリゴヌクレオチドに相補的なオリゴヌクレオチド、又はこれらに相補的な配列の2つのオリゴヌクレオチドである。
b-1)配列番号1の1~628番目の塩基配列のうち連続する少なくとも18個の塩基配列
b-2)配列番号1の751~1030番目の塩基配列のうち連続する少なくとも18個の塩基配列
これらプライマーは好ましくは18~25個、より好ましくは20~25個の塩基から成るオリゴヌクレオチドである。
【0012】
上記a)Poli1482TUFのマイクロサテライト領域については、例えば、下記(1)の2つのオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとして用いてPCR反応を行うことができる。
(1)5'-CATGTTGGTCTGAGACGATGAACTC-3' (配列番号2)の3'側末端から連続する少なくとも18個の塩基から成るオリゴヌクレオチド、及び5'-TAGATCCTGTTGTTTTCCTGCTCG-3' (配列番号3)の3'側末端から連続する少なくとも18個、好ましくは少なくとも20個、より好ましくはこの配列全ての塩基から成るオリゴヌクレオチド、又はこれらに相補的な配列の2つのオリゴヌクレオチド
このPCRプライマーを用いたPCR産物のゲル電気泳動において119bpのバンドは低酸素耐性のヒラメに多く見出されることから(後述の実施例1及び図4参照)、低酸素耐性アレルに固有のものといえる。
【0013】
また、b)配列番号1の507~788番目の塩基配列については、例えば、下記(2)の2つのオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとして用いてPCR反応を行うことができる。
(2)5'-CTCACTGTTCTGAAGCTTCTCT-3' (配列番号4)の3'側末端から連続する少なくとも18個の塩基から成るオリゴヌクレオチド、及び5'-CGTCTGAGTCGGAATCCTTCTG-3' (配列番号5)の3'側末端から連続する少なくとも18個、好ましくは少なくとも20個、より好ましくはこの配列全ての塩基から成るオリゴヌクレオチド、又はこれらに相補的な配列の2つのオリゴヌクレオチド
このPCRプライマーを用いたPCR産物のゲル電気泳動において217bpのバンドは低酸素耐性のヒラメに多く見出されることから(後述の実施例1及び図5参照)、低酸素耐性アレルに固有のものといえる。
【0014】
工程2)
下記の高水温期(低酸素状態)においても死亡率が低く、低酸素耐性と認められる系統のヒラメを、継代飼育する。この継代飼育は通常2世代程度行う。このヒラメに対して、上記工程1)と同様にマイクロサテライト領域の配列又はその一部であってマイクロサテライト配列を含む配列を増幅する。
【0015】
工程3)
1)と2)の工程の増幅結果を比較し、これらが一致する場合に、ヒラメが低酸素耐性であると識別する。一致しない場合は、ヒラメが低酸素耐性ではないと識別する。
【0016】
本発明のDNAマーカーを用いてヒラメが低酸素耐性であるか否かを識別するための診断キットは、上記PCR用プライマーから成り、更に、熱耐性DNAポリメラーゼ(Taqポリメラーゼなど)や検出のため増幅産物に対合させるプローブを含んでもよい。更に、このキットは、その他の消耗試薬として、例えば、デオキシリボヌクレオチド三リン酸(dATP, dCTP, dGTP, dTTP)、バッファー等を含んでもよい。
【0017】
低酸素状態での酸欠や疾病被害による死亡を未然に防ぐため、本発明の方法を利用することにより、例えば以下のようにして、低酸素耐性のヒラメの生産が可能になる。
(1)個体別に低酸素耐性の確認を本発明のDNAマーカーで行い、抵抗性個体のみを選別飼育する。
(2)低酸素耐性の確認を本発明のDNAマーカーで行い、抵抗性の親魚を選抜し、その子孫に低酸素耐性を付与する。この場合、低酸素耐性の確認を本発明のDNAマーカーで行った抵抗性の親魚と他系統の抵抗性のない親魚との交配より作出された子孫に低酸素耐性を付与することも含まれる。
【実施例】
【0018】
以下、実施例にて本発明を例証するが本発明を限定することを意図するものではない。
飼育例1
解析家系として戻し交配家系を作出した(図2)。神奈川県水産技術センターで飼育・維持されている低酸素耐性系統(C系統)と低酸素非耐性系統(B系統)を人為交配させ、F1(CB系統)を作出し、CB雌個体とB雄個体(低酸素耐性系統)を戻し交配し、戻し交配家系(CBB系統)を作出した。
CBB戻し交配家系167個体の表現型の判定は1歳魚で行った。これらをすべて水温25℃で飼育し、試験前日に絶食させた。1000L水槽に800Lの海水を入れ、これにCBB家系167尾を収容した。水温を25℃に保ちながら、注水による酸素供給をなくすため注水を停止させて、さらに酸素供給器を停止させて、試験を開始した。これにより、水中の酸素はヒラメの呼吸により消費され、酸素濃度は時間とともに減少する。CBB戻し交配家系の約半分が死亡した時点で試験を終了した。死亡個体順に、番号を付け、それぞれの死亡時間を記録した。酸素濃度(DO)は試験開始から30分ごとに測定した。
結果を図3に示す。この結果、試験開始約5.75時間後には、B系統はすべての供試魚が死亡したのに対して、C系統及びCB系統においては、殆どの供試魚が生残しており、低酸素の耐性に対する相違に、遺伝要因が関与していることを確認した。
【0019】
実施例1
本実施例では、MSマーカーと低酸素耐性の連鎖について、QTL解析を行った。
飼育例1で表現型の判定を行った戻し交配家系の各個体(167個体)の尾鰭を1cm角の大きさで採取し、lysis buffer [125mM NaCl, 10mM Tris-HCl(pH7.5)、10mMEDTA(Ph8.0)]、Proteinase K(20mg/ml)(Takara)5μl、10%SDS 50μlを含む消化溶液を500 μl加え、37℃で一晩インキュベートした。PCI(phenol : chloroform : isoamylalchorl = 25 : 24 : 1)を等量加えてよく混和し、遠心分離(12000rpm、25℃、10分)、上清を新しいチューブに移した。さらに、CIA(chloroform:isoamylalchorl=24:1)を等量加えて転倒混和した後、遠心分離(12000rpm、25℃、5分)、上清を新しいチューブに移した。そこへ3M酢酸ナトリウムを1/10量、続いて2-propanolを等量加え、転倒混和した。遠心分離(15000rpm、4℃、10分)を行い、DNAペレットが析出していることを確認した後、上清を捨てた。70%エタノールを1ml加えて転倒混和することでDNAペレットおよびチューブの壁面を洗い、その後遠心分離(15000rpm、4℃、5分)を行って上澄みを捨て、5分程度の風乾を行った。風乾の後、TE buffer [10mM Tris-HCl(pH 8.0), 1mM EDTA(pH 8.0)]を50μl加えてDNAの溶解を行った。
【0020】
このようにして得た各DNAを用いて、MSマーカー型のQTL解析を行った。QTL解析は解析ソフトMap Manager QTXb20(Mammalian Genome 12: 930-932 (2001)等)を用いて行った。QTL解析の結果は、ロッドスコア(LOD score)で表され、ロッドスコアが3.0以上の場合、MSマーカーと低酸素耐性とが有意に連鎖していると考えられる。
PCR法は、10×PCR reaction buffer(Mg2+)、2.5Mm dNTP, 1%BSA、5U Taq DNA polymerase(Takara: Ex-Tag)50ng のテンプレートDNAを含む11μlの溶液で、GeneAmpPCRSystem9700(AppliedBiosystems)にて、初期変性95℃ 3分間行った後、変性95℃ 30秒、アニーリング62℃ 1分、伸長72℃ 1分を1サイクルとして30サイクル、最終伸長を72℃ 5分間行い、12℃に急冷することでPCRを行った。PCR反応後、得られたPCR産物に等量のloading dyeを加え、95℃ 5分間熱変性によって1本鎖にし、6%変性ポリアクリルアミドゲルにて電気泳動を行った。電気泳動後、ガラス板をバイオイメージングスキャナー (FLA-9000; FUJIFILM)で読み取り、コンピューターで映像化し、マーカーによって増幅されたアリルの分離パターン(マーカー型)を判定した。
【0021】
QTL解析は2段階に分けて行った。
第1段階:
ヒラメ遺伝子連鎖地図(非特許文献2)に基づき、全ての連鎖群において効率よく関連遺伝子座を探索できるように140個のMSマーカーを選び出した。このMSマーカーを用い、実験初期に死亡した個体(44個体)と最後死亡した個体(44個体)の合計88個体とその両親および祖母のマーカー型の情報を収集して、表現型(死亡・生残)とマーカー型の対応関係を調べた(結果は示さない)。
第2段階:
解析個体数を全個体である167個体(死亡75個体、生残92個体)に増やし、第1段階の検定で有意であった7種のMSマーカー(p<0.05)とその同一連鎖群上に位置する近傍のMSマーカー(Poli Hypoxia-1 TUF)を用いた。Poli Hypoxia-1 TUF以外のMSマーカーは既報告のMSマーカーである(非特許文献2)。各MSマーカーの判定のために用いるPCR用プライマーとして、表1に示す各プライマーを用いた。forward primerの5' 側に蛍光標識(TET)した。これらのMSマーカーを用いて、表現型とマーカー型との対応関係を調べた。表現型は死亡・生残と各個体の死亡時間の2つを用いた。結果を表1に示す。表中、死亡欄及び生残欄は、低酸素耐性のバンドを示した個体の割合を示す。
【表1】
JP0006041259B2_000002t.gif
Poli 1482 TUF及びPoli Hypoxia-1 TUFのMSマーカーを用いた場合には、ロッドスコア(LOD score)が3.0以上であり、これらのMSマーカーが、ヒラメの低酸素耐性を識別するために有効であることを示している。
【0023】
また、図4と5に、Poli 1482 TUF及びPoli Hypoxia-1 TUFのMSマーカーを用いた検出結果を示す。図4(Poli 1482 TUF)において、119bpのバンドは低酸素耐性のヒラメ、125bpのバンドは非低酸素耐性のヒラメに帰属すると考えられる。図5(Poli Hypoxia-1 TUF)において、217bpのバンドは低酸素耐性のヒラメ、215bpのバンドは非低酸素耐性のヒラメに帰属すると考えられる。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4