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明細書 :L10型FeNi規則合金の製造方法、及びL10型FeNi規則合金

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2014-105376 (P2014-105376A)
公開日 平成26年6月9日(2014.6.9)
発明の名称または考案の名称 L10型FeNi規則合金の製造方法、及びL10型FeNi規則合金
国際特許分類 C21D   8/00        (2006.01)
H01F   1/04        (2006.01)
C22C  38/00        (2006.01)
C22C  33/02        (2006.01)
B22F   3/00        (2006.01)
C22C  19/03        (2006.01)
G11B   5/64        (2006.01)
G11B   5/851       (2006.01)
H01F   1/06        (2006.01)
C22F   1/10        (2006.01)
B30B  11/02        (2006.01)
C22F   1/00        (2006.01)
FI C21D 8/00 D
H01F 1/04 Z
C22C 38/00 303Z
C22C 33/02 G
B22F 3/00 E
C22C 19/03 D
G11B 5/64
G11B 5/851
H01F 1/06 L
C22F 1/10 B
B30B 11/02 Z
C22F 1/00 604
C22F 1/00 660C
C22F 1/00 660D
C22F 1/00 683
C22F 1/00 685Z
C22F 1/00 686A
C22F 1/00 687
C22F 1/00 691B
請求項の数または発明の数 8
出願形態 OL
全頁数 15
出願番号 特願2012-261373 (P2012-261373)
出願日 平成24年11月29日(2012.11.29)
発明者または考案者 【氏名】堀田 善治
【氏名】李 昇原
【氏名】高梨 弘毅
【氏名】水口 将輝
【氏名】小嗣 真人
【氏名】大河内 拓雄
【氏名】大槻 匠
出願人 【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
【識別番号】599112582
【氏名又は名称】公益財団法人高輝度光科学研究センター
個別代理人の代理人 【識別番号】100080160、【弁理士】、【氏名又は名称】松尾 憲一郎
【識別番号】100149205、【弁理士】、【氏名又は名称】市川 泰央
審査請求 未請求
テーマコード 4K018
4K032
5D006
5D112
5E040
Fターム 4K018AA30
4K018BA04
4K018BA14
4K018BD02
4K018CA02
4K018CA50
4K018FA08
4K018KA42
4K032AA09
4K032AA10
4K032AA25
4K032CH04
5D006BB01
5D112AA05
5D112BB01
5D112GB04
5E040AA11
5E040CA06
5E040HB05
5E040NN01
要約 【課題】L1型FeNi規則合金の製造方法、及びL1型FeNi規則合金を提供する。
【解決手段】鉄とニッケルとを含有する金属組成物に対して約50以上の相当歪を付与する第1工程を行う。前記金属組成物とは、インゴット等の塊(バルク)の金属、もしくは異なる種類の金属粉末を混ぜ合わせた混合粉末を含む。前記金属組成物は、44~56at%の前記鉄と44~56at%の前記ニッケルを含有する。さらに、0~20at%のコバルトを含んでもよい。必要に応じて、前記第1工程の後に、もしくは第1工程と同時に、L1型FeNi規則合金の規則化温度未満の温度で前記金属組成物に対して熱処理を行う。
【選択図】図4
特許請求の範囲 【請求項1】
鉄とニッケルとを含有する金属組成物に対して50以上の相当歪みを付与する第1工程を含むことを特徴とするL1型FeNi規則合金の製造方法。
【請求項2】
前記鉄および前記ニッケルが粉末状であることを特徴とする請求項1に記載のL1型FeNi規則合金の製造方法。
【請求項3】
前記金属組成物は、44~56at%の前記鉄と44~56at%の前記ニッケルを、前記鉄と前記ニッケルの合計が100at%を超えない範囲で、含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のL1型FeNi規則合金の製造方法。
【請求項4】
前記金属組成物は、コバルトを含有することを特徴とする請求項1~請求項3の何れか1項に記載のL1型FeNi規則合金の製造方法。
【請求項5】
前記金属組成物は、0~20at%のコバルトを、前記鉄と前記ニッケルと前記コバルトの合計が100at%を超えない範囲で、含有することを特徴とする請求項1~請求項4何れか1項に記載のL1型FeNi規則合金の製造方法。
【請求項6】
前記金属組成物に対してL1型FeNi規則合金の規則化温度未満の温度で熱処理を行う第2工程を、前記第1工程を行った後に行うことを特徴とする請求項1~請求項5の何れか1項に記載のL1型FeNi規則合金の製造方法。
【請求項7】
前記第1工程においては、前記金属組成物を室温以上L1型FeNi規則合金の規則化温度未満に加熱しつつ、前記金属組成物に対して50以上の相当歪みを付与することを特徴とする請求項1~請求項6の何れか1項に記載のL1型FeNi規則合金の製造方法。
【請求項8】
FeNi合金中に非ウィドマンシュテッテン構造で形成されていることを特徴とするL1型FeNi規則合金。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、L1型FeNi規則合金の製造方法、及びL1型FeNi規則合金に関する。
【背景技術】
【0002】
超高密度磁気記録媒体の実現には、高い磁気異方性を有する材料が必要であり、そのような材料としてL1型の規則合金であるFePtやFeAuが挙げられる。しかしながら、貴金属であるプラチナや金は、埋蔵量や生産量が少なく高価であるため、安定した入手が困難であるという問題がある。
【0003】
また、現在の磁気記録材料、光磁気材料、光通信材料、磁石材料などに使用される高性能磁性材料の製造においては、レアアースの存在が必要不可欠となっている。しかしながら、レアアースは、地球上に一様に分布しているわけではなく、安定した入手が困難な場合があるため、レアアースを必要としない磁性材料の開発が強く望まれている。
【0004】
ここで、FePt合金やFeAu合金と同様にL1型結晶構造を有し、優れた磁気特性を示す材料として隕石に含まれるFeNi合金が知られている。隕石に含まれるFeNi合金は、地球上に存在するFeNi合金とは大きく異なる磁気ヒステリシスや磁気異方性を有している。
【0005】
非特許文献1においては、隕石の磁気特性と金属組織との相関について解析されており、隕石の有する特異な磁気特性は、ウィドマンシュテッテン構造に由来すると報告されている。
【0006】
ウィドマンシュテッテン構造においては、鉄が豊富なα相(bcc-FeNi、カマサイト)とニッケルが豊富なγ相(fcc-FeNi、テーナイト)とに明確に分離しており、これらα相とγ相の界面のごく近傍において、隕石特有の薄膜状の層(テトラテーナイト)が形成されている。テトラテーナイトは、50%鉄-50%ニッケルの組成比で構成されたL1型FeNi規則合金である。
【先行技術文献】
【0007】

【非特許文献1】Masato Kotsugi et al., "Novel Magnetic Domain Structure in Iron Meteorite Induced by the Presence of L10-FeNi", Applied Physics Express (2010) 013001
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した隕石に含まれるL1型FeNi規則合金は、L1型FePt規則合金に匹敵する高い磁気異方性を有している。従って、L1型FeNi規則合金を人工的に製造することが可能になれば、高性能の磁性材料を安価に安定して供給することが可能となる。
【0009】
しかしながら、ウィドマンシュテッテン構造は、オクタヘドライト型隕石(八面体晶隕鉄)(隕鉄)において見られる特有の構造であり、一様にNiが分布するFeNi合金を加熱融解後、極めてゆっくり(約100万年以上/℃かけて)冷却することにより形成されるものである。このため、このオクタヘドライト型隕石の形成過程と同じ手法でL1型FeNi規則合金を工業的に合成することは、現実的には不可能である。
【0010】
本発明は、前記課題に鑑みてなされたもので、L1型FeNi規則合金の製造方法、及び(人工的に製造された)L1型FeNi規則合金を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の態様の1つは、鉄とニッケルとを含有する金属組成物に対して50以上の相当歪みを付与する第1工程を含むことを特徴とするL1型FeNi規則合金の製造方法である。
【0012】
また、本発明の選択的な態様の1つは、前記鉄および前記ニッケルが粉末状であることを特徴とするに係るL1型FeNi規則合金の製造方法である。
【0013】
また、本発明の選択的な態様の1つは、前記金属組成物が、44~56at%の前記鉄と44~56at%の前記ニッケルを、前記鉄と前記ニッケルの合計が100at%を超えない範囲で、含有することを特徴とするL1型FeNi規則合金の製造方法である。
【0014】
また、本発明の選択的な態様の1つは、前記金属組成物が、コバルトを含有することを特徴とするL1型FeNi規則合金の製造方法である。
【0015】
また、本発明の選択的な態様の1つは、前記金属組成物が、0~20at%のコバルトを、前記鉄と前記ニッケルと前記コバルトの合計が100at%を超えない範囲で、含有することを特徴とするL1型FeNi規則合金の製造方法である。
【0016】
また、本発明の選択的な態様の1つは、前記金属組成物に対してL1型FeNi規則合金の規則化温度未満の温度で熱処理を行う第2工程を、前記第1工程を行った後に行うことを特徴とするL1型FeNi規則合金の製造方法である。
【0017】
また、本発明の選択的な態様の1つは、前記第1工程において、前記金属組成物を室温以上L1型FeNi規則合金の規則化温度未満に加熱しつつ、前記金属組成物に対して50以上の相当歪みを付与することを特徴とするL1型FeNi規則合金の製造方法である。
【0018】
また、本発明の他の態様の1つは、FeNi合金中に非ウィドマンシュテッテン構造で形成されたことを特徴とするL1型FeNi規則合金である。
【0019】
なお、上述したL1型FeNi規則合金の製造方法は、他の方法の一環として実施されたり各工程に対応する手段を備えたL1型FeNi規則合金の製造装置として実現されたりする等、各種の態様を含む。また、上述したL1型FeNi規則合金の製造方法を実施する製造装置を備える製造システム、上述した製造方法の構成に対応した機能をコンピュータに実現させるプログラム、該プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体、等としても実現可能である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、L1型FeNi規則合金の製造方法、及びL1型FeNi規則合金を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】L1型FeNi規則合金のPEEMイメージである。
【図2】理論的に予測したL1型FeNiのX線回折パターンである。
【図3】隕石のX線回折パターンである。
【図4】L1型FeNi規則合金の製造方法の流れを示すフローチャートである。
【図5】HPT法で用いる巨大歪み付与装置の一例に係る構成を説明する図である。
【図6】FeNi合金の状態図である。
【図7】実施例に示す製造条件の一覧である。
【図8】巨大歪み付与加工を行って製造したFeNi合金のX線回折パターンである。
【図9】巨大歪み付与加工を行って製造したFeNi合金のX線回折パターンである。
【図10】巨大歪み付与加工を行って製造したFeNi合金のX線回折パターンである。
【図11】巨大歪み付与加工を行って製造したFeNi合金のX線回折パターンである。
【図12】巨大歪み付与加工を行って製造したFeNi合金のX線回折パターンである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、下記の順序に従って本発明を説明する。
(1)L1型FeNi規則合金:
(2)L1型FeNi規則合金の製造方法:
(3)実施例:
(4)まとめ:

【0023】
(1)L1型FeNi規則合金:
図1は、本発明に係るL1型FeNi規則合金を説明するための図である。同図には、隕石に形成されているL1型FeNi規則合金と、本発明に係るL1型FeNi規則合金とを対比して示してある。

【0024】
図1(a1)~(a3)は、隕石(NWA 859 Taza)の所定部位をPEEM(光電子顕微鏡)で撮影した各種画像であり、図1(a1)は表面組織形状の画像、図1(a2)はFe/Ni組成分布の画像、図1(a3)は磁区構造の画像である。なお、図1(a2)は、白くなるほどFe/Ni比が大きく、黒くなるほどFe/Ni比が小さくなる。また、図1(a3)は、白又は黒に近くなるほど磁化が強く、グレーになるほど磁化が弱くなる。

【0025】
なお、硬磁性であるL1型FeNi規則合金を、磁区を通じて検出するために次の磁気的な処理を行った。1Tの磁場を試料面直方向に印加して一旦磁化を飽和させた後、50mTの交流消磁を行って軟磁性体のみを消磁した。これにより、硬磁性であるL1型FeNi規則合金が、残留磁化として磁区上では白又は黒く観測される。

【0026】
図1(a2)と(a3)から、図1に示す隕石の領域X1においてFeが豊富であり、領域X2においてNiが豊富であり、領域X3において磁化が高いことが分かる。従って、図1に示す隕石の領域X1はα相(bcc-FeNi、カマサイト)、領域X2はγ相(fcc-FeNi、テーナイト)、領域X3はL1型FeNi規則合金の相(テトラテーナイト)であると考えられる。なお、領域X3の外縁には磁壁(Domain Wall)が形成されている。

【0027】
すなわち、FeNi合金のPEEMイメージにおいて、図1の隕石の領域X3と同程度に磁区コントラストが高く、Fe/Ni比が約50%の領域が観察されれば、その領域にはL1型FeNi規則合金の相(テトラテーナイト)が形成されていると考えられる。なお、図1(a1)に示す表面組織形状と図(a2),(a3)とを対比すると、磁区構造と表面組織形状の間には特段の相関が無いことが分かる。

【0028】
図1(b1)~(b3)は、本発明に係るFeNi合金の所定部位をPEEMで撮影した各種画像であり、図1(b1)は表面組織形状の画像、図1(b2)はFe/Ni組成分布の画像、図1(b3)は磁区構造の画像である。なお、図1(b2)は、白くなるほどFe/Ni比が大きく、黒くなるほどFe/Ni比が小さくなる。また、図1(b3)では、白くなるほど磁化が高く、黒くなるほど磁化が低くなる。

【0029】
図1(b3)によれば、左半分の領域X4に、曲がりくねった複雑な形状の白い部位を有していることが分かる。この部分の磁区コントラストは、図1(a3)の領域X3と同程度である。すなわち、後述する製造方法によって作成されたFeNi合金には、曲がりくねった複雑な形状のL1型FeNi規則合金の相(テトラテーナイト)が形成されていると考えられる。

【0030】
ただし、この図1(b3)に示すL1型FeNi規則合金の相(テトラテーナイト)は、α相やγ相の境界に形成されたものではなく、相の境界には磁壁も形成されていない。

【0031】
すなわち、本発明により作成されるFeNi合金内に形成されるL1型FeNi規則合金は、α相(bcc-FeNi、カマサイト)とγ相(fcc-FeNi、テーナイト)との境界面に形成されるウィドマンシュテッテン構造になっておらず、非層状であり、隕石におけるL1型FeNi規則合金とは全く異なる形態を取っていることが分かる。

【0032】
また、本発明に係るFeNi合金は、後述する製造方法において説明するように、巨大歪み付与加工によって形成されるため、サブミクロンレベルに結晶粒が微細化されている。この結晶粒の粒界は、曲がりくねった複雑な形状であり、本発明に係るFeNi合金に形成されるL1型FeNi規則合金の相の形状と符合する。このことから、後述する製造方法によって製造されるFeNi合金中に形成されるL1型FeNi規則合金は、この結晶粒界に形成されているものと考えられる。

【0033】
なお、L1型FeNi規則合金が生成されたことの確認は、上述したPEEMで撮影した磁区構造の画像からも推察されるが、以下のX線回折パターンを利用すれば、より確実に確認することができる。

【0034】
図2は、理論的に予測したL1型FeNiのX線回折パターンである。同図に示すように、L1型FeNi規則合金は、結晶方位(100)、(110)、(111)、(200)、(210)、(211)、(220)、(221)、(310)に対応するピークが発現することが予測される。

【0035】
これらピークのうち、結晶方位(111)、(200)、(220)に対応するピークはFeNiの不規則相に起因するものであり、結晶方位(100)、(110)、(210)、(211)、(221)、(310)に対応するピークが、L1型FeNi規則合金に固有のX線回折パターンである。

【0036】
そして、L1型FeNi規則合金に固有のピークのうち、結晶方位(110)に対応するピークは、FeNi不規則相固有のピークである結晶方位(220)に起因するピークに対して約0.5%程度の強度で現れることが予測されており、L1型FeNi規則合金に固有のピークの中では最も強く現れる。

【0037】
そこで、後述する実施例においては、L1型FeNi規則合金が形成されたことの指標として、X線回折パターンに結晶方位(110)に起因するピークの発現を用いた。むろん、他の結晶方位に対応するピークを指標として用いてもよく、例えば、結晶方位(100)に応じて発現するL1型FeNi規則合金に固有のピークも結晶方位(110)のピークに近い強度で現れるため、この結晶方位(100)のピークをL1型FeNi規則合金の形成の指標とすることができる。

【0038】
以上の理論的な予測を確認するため、L1型FeNi規則合金が形成されている隕石を用いてX線回折パターンを測定した結果が図3である。

【0039】
図3(a)~(c)は、NWA859Taza(Plessitic Opl. IRUNGR. found 2001, Taza, Morocco, Africa, TKW:75kg+, Full slice:50.0g)隕石のそれぞれ異なる部位のX線回折パターンであり、図3(d)は、Gibeon隕石のX線回折パターンである。なお、図3の横軸はX線の入射角であり、縦軸は回折強度である。なお、図3(a)~(d)のX線回折パターンは比較のため上下にずらして表示してある。

【0040】
また、X線回折パターンのグラフの下には、理論的に予測されたL1型FeNi規則合金のX線回折パターンのピーク位置(from calculation)を併記してある。また、以下で説明する図8~12のX線回折パターンにも同様の表示を併記してある。

【0041】
ここで、図3(a)~(d)の何れのX線回折パターンにも結晶方位(110)のピークが発現している。すなわち、L1型FeNi規則合金に固有のピークのうち、結晶方位(110)に対応するピークは、FeNi合金中にL1型FeNi規則合金が形成されていることの指標として用いることができることが示されている。

【0042】
(2)L1型FeNi規則合金の製造方法:
図4は、L1型FeNi規則合金の製造方法の流れを示すフローチャートである。同図に示す製造方法は、少なくとも巨大歪み付与工程(S10)を含み、必要に応じて熱処理工程(S20)を行うものである。

【0043】
巨大歪み付与工程(S10)においては、FeとNiとを含む金属組成物としての試料に巨大歪みを与えて結晶粒径をサブミクロンレベル(1ミクロン以下)又はナノレベルに超微細化させる組織制御を行う。これにより、試料に相当ひずみを定量的に与えることができる。なお、金属組成物とは、インゴット等の塊(バルク)の金属のみならず、異なる種類の金属粉末を混ぜ合わせた混合粉末も含む概念である。

【0044】
巨大歪みの付与は様々な手法で行う事が可能であり、例えば、ECAP(Equal-Channel Angular Pressing)法、HPT(High-Pressure Torsion)法、ARB(Accumulative Roll Bonding)法、MDF(Multi Directional Forging)法、HPS(High-Pressure Sliding)法、等を用いることができる。なお、以下ではHPT法を例に取って巨大歪み付与工程(S10)について説明する。

【0045】
図5は、HPT法で用いる巨大歪み付与装置の一例に係る構成を説明する図である。同図に示す巨大歪み付与装置100は、試料に対して、挟み込みによる負荷圧力(静水圧)とねじり変形による剪断応力とを同時に加える。

【0046】
巨大歪み付与装置100は、具体的には、対向配置した2つのアンビル10,20、押圧手段30及び回転手段40を備えている。なお、押圧手段30及び回転手段40については、図5では図示を省略している。

【0047】
アンビル10,20は略円柱状であり、互いに対向しあう面11,21に、リング状の凹部12,22を有する。リング状の凹部12,22は、アンビル10,20の面11,21を所定の位置関係で対面させたときにリング状の空間を形成する位置にそれぞれ形成されている。なお、アンビル10,20に設ける凹部12,22の形状はリング状に限るものではなく、円形であっても良い。

【0048】
押圧手段30は、支持基台を介してアンビル10,20の少なくとも一方に接続されており、面11,21を互いに近づける方向に応力を印加することができる。これにより、巨大歪み付与装置100は、リング状の空間に配置された試料に対し、当該試料を圧縮する方向の応力を加えることができる。

【0049】
回転手段40は、支持基台を介してアンビル10,20の少なくとも一方に接続されており、アンビル10,20のリング状の凹部12,22の中心を回転軸として、アンビル10,20を他方のアンビルに対して相対的に回転させることができる。これにより、巨大歪み付与装置100は、凹部12,22の間に挟圧された試料に対して連続的にねじり変形を加えて、当該試料に相当ひずみを導入することができる。

【0050】
なお、アンビル10,20の凹部12,22の底面13,23は、粗面とすることが好ましい。リング状の空間に試料を挟圧しながら回転力による歪みを加える際に、試料と底面13,23との接触部分が滑りにくくなることから、回転力を試料に伝えやすくなり、試料に対して効果的に巨大歪みを加えることができるからである。

【0051】
また、アンビル10,20の面11,21の凹部12,22よりも中心側には、アンビル10、20の回転軸と中心が一致した円形状凹部14,24が形成されている。これにより、試料にねじり変形を加える際に2つのアンビル10,20が接触して摩擦が生じる可能性を軽減している。

【0052】
また、アンビル10,20のリング状の凹部12,22の深さの合計は、試料の厚みよりも小さくなるように構成することが好ましい。すなわち、凹部12,22の間に形成されるリング状の空間に試料を挟圧した状態で、面11,21の間に隙間25が形成される状態にすることが好ましい。

【0053】
これにより、後述する巨大歪み付与工程において、試料の微細化により試料厚みが徐々に薄くなったり、粉末試料の場合に、凹部の外に試料が漏出して凹部12,22の底面13,23の間隔が徐々に狭くなったりしても、面11,21が直接に接触して摩耗することを防止し、加える圧力を効率的に試料に伝えることができる。

【0054】
以上のように構成された巨大歪み付与装置100を用いて、空間Sに配置された試料に挟み込み圧力(通常1GPa以上)を加えながら、アンビル10,20を他方のアンビルに対して相対的に回転させると試料に相当ひずみを発生し、この相当ひずみによって結晶粒径をサブミクロンレベルに超微細化することができる。

【0055】
ここで、巨大歪み付与装置100が試料に加える相当ひずみのひずみ量εは、下記の式(1)で表すことができる。下記(1)式において、rは回転中心からの距離、Nは回転数、tは試料の厚み、をそれぞれ表す。

【0056】
【数1】
JP2014105376A_000003t.gif

【0057】
すなわち、巨大歪み付与装置100が試料に与える相当ひずみεは、回転数N及び回転中心からの距離rに比例し、試料の厚みtに反比例する。更に言えば、試料に加えたねじり変形による剪断応力に比例し、試料の厚みtに反比例する。

【0058】
そして、熱処理工程(S20)においては、巨大歪みを与えた試料を加熱する。ただし、巨大歪み付与工程(S10)と熱処理工程(S20)は並行して行ってもよく、例えば、試料を加熱しながら巨大歪みを付与してもよい。この熱処理工程における加熱温度は、320℃未満で行い、例えば、290℃や300℃、310℃等で行う。

【0059】
これは、L1型FeNi規則合金は、規則化温度である320℃を超えると安定して存在しなくなるためである。図6はFeNi合金の状態図である。同図には、L1型FeNi規則合金は、320℃未満で存在し、320℃を超えると他の相と共存することが示されている。

【0060】
また、図6からは、室温(約25℃)では、FeNi合金に含まれるNiの割合が約44~56at%の範囲あればL1型FeNi規則合金が安定する相となり、この範囲外では、他の相と共存することが把握される。従って、L1型FeNi規則合金を製造するための試料は、44~56at%のFeと44~56at%のNiを、FeとNiの合計が100at%を超えない範囲で含有するように調製する。

【0061】
このように、熱処理工程(S20)における加熱温度を320℃未満とし、L1型FeNi規則合金を製造するための試料は、44~56at%のFeと44~56at%のNiを、FeとNiの合計が100at%を超えない範囲で含有するように調製することにより、L1型FeNi規則合金の生成効率を向上する事が出来る。

【0062】
(3)実施例:
以上説明した製造方法を用いて、図7に示す各製造条件にて実際にL1型FeNi規則合金の製造した結果を説明する。なお、L1型FeNi規則合金の製造に用いたのは下記試料(A)~(D)であるが、後述する図面の中では、比較のために、下記試料(B)~(D)の調製に用いた下記試料(E)~(G)についても適宜にX線回折パターンを測定して対比して示してある。

【0063】
(A)FeNiのインゴット(Fe-50at%Ni)
(B)FeとNiの混合粉末(Fe-50at%Ni)
(C)FeとNiとCoの混合粉末(Fe-47.5at%Ni-5at%Co)
(D)FeとNiとCoの混合粉末(Fe-47.5at%Ni-20at%Co)
(E)純度3NのNi粉末
(F)純度2NのCo粉末
(G)純度5NのFe粉末

【0064】
まず、図8は、試料(A)について、図7の(a1),(a2)の条件で巨大歪み付与加工を行って製造したFeNi合金のX線回折パターンである。なお、図8の(a1)が図7の(a1)の条件で製造したFeNi合金のX線回折パターンであり、図8の(a2)が図7の(a2)の条件で製造したFeNi合金のX線回折パターンである。

【0065】
この図8の測定結果によれば、図8の(a1)のX線回折パターンに示すように、図7の(a1)の条件で行った巨大歪み付与加工の直後は、結晶方位(110)のピークが現れないが、図8の(a2)のX線回折パターンに示すように、図7の(a1)の条件に加えて一定時間の熱処理を行う図7の(a2)の条件であれば、結晶方位(110)のピークが現れることが分かる。

【0066】
すなわち、試料(A)のFeNiのインゴットは、巨大歪み付与加工を行った後に一定時間の熱処理を行えば、L1型FeNi規則合金を形成できることが分かる。

【0067】
次に、図9は、試料(A)について、図7の(b1)~(b5)の条件で巨大歪み付与加工を行って製造したFeNi合金のX線回折パターンである。なお、図9の(b1)が図7の(b1)の条件で製造したFeNi合金のX線回折パターンであり、図9の(b2)が図7の(b2)の条件で製造したFeNi合金のX線回折パターンであり、図9の(b3)が図7の(b3)の条件で製造したFeNi合金のX線回折パターンであり、図9の(b4)が図7の(b4)の条件で製造したFeNi合金のX線回折パターンであり、図9の(b5)が図7の(b5)の条件で製造したFeNi合金のX線回折パターンである。

【0068】
この図9の測定結果によれば、図9の(b1)のX線回折パターンに示すように、図7の(b1)の条件で行った巨大歪み付与加工の直後は、結晶方位(110)のピークが現れないが、図9の(b2)~(b5)のX線回折パターンに示すように、図7の(b1)の条件に加えて一定時間の熱処理を行った図7の(b2)~(b5)の条件であれば、結晶方位(110)のピークが現れることが分かる。

【0069】
すなわち、試料(A)のFeとNiのインゴットは、試料(A)のFeNiのインゴットの場合と同様、巨大歪み付与加工を行った後に一定時間の熱処理を行えば、L1型FeNi規則合金を形成できることが分かる。

【0070】
次に、図10は、試料(A)と(B)について、それぞれ図7の(c1)(c2)のように同一条件で巨大歪み付与加工を行って製造したFeNi合金のX線回折パターンである。なお、図10の(c1)が図7の(c1)の条件で製造したFeNi合金のX線回折パターンであり、図10の(c2)が図7の(c2)の条件で製造したFeNi合金のX線回折パターンである。

【0071】
この図10の測定結果によれば、FeNiのインゴットは、巨大歪み付与加工を行った後に一定時間の熱処理を行わなければ、結晶方位(110)のピークは現れないが、FeとNiの混合粉末であれば、加熱しつつ巨大歪み付与加工を行えば、結晶方位(110)のピークが現れることが分かる。

【0072】
すなわち、試料(B)のFeとNiの混合粉末は、巨大歪み付与加工の後に別途に熱処理を行わなくても、巨大歪み付与加工と並行して熱処理を行えば、L1型FeNi規則合金を形成できることが分かる。このことから、巨大歪み付与加工と並行して行う熱処理は、L1型FeNi規則合金の形成を促進して製造効率を向上させると考えられる。

【0073】
次に、図11は、試料(C)について、図7の(d5),(d6)の条件で巨大歪み付与加工を行って製造したFeNi合金のX線回折パターンであり、図7の(d1)~(d4)のNi粉末、Co粉末、Fe粉末及びFeとNiにCoを加えた混合粉末のX線回折パターンも、参考ために併記してある。

【0074】
なお、図11の(d1)が図7の(d1)のNi粉末に係るX線回折パターンであり、図11の(d2)が図7の(d2)のCo粉末に係るX線回折パターンであり、図11の(d3)が図7の(d3)のFe粉末に係るX線回折パターンであり、図11の(d4)が図7の(d4)の条件で製造したFeNi合金のX線回折パターンであり、図11の(d5)が図7の(d5)の条件で製造したFeNi合金のX線回折パターンであり、図11の(d6)が図7の(d6)の条件で製造したFeNi合金のX線回折パターンである。

【0075】
この図11の測定結果によれば、Co粉末を5at%加えたFeとNiの混合粉末は、図11の(d5)のX線回折パターンに示すように、図7の(d5)の条件で行った巨大歪み付与加工の直後でも、結晶方位(110)のピークが現れている。

【0076】
すなわち、試料(C)のFeとNiにCoを5at%添加した混合粉末は、巨大歪み付与加工を行えば、巨大歪み付与加工と並行又は事後的に熱処理を行わなくても、L1型FeNi規則合金を形成できることが分かる。

【0077】
また、図11の(d6)のX線回折パターンに示すように、図7の(d5)の条件に加えて一定時間の熱処理を行う図7の(d6)の条件では、結晶方位(110)のピークは図7の(d5)の場合に比べて強くなっている。

【0078】
すなわち、試料(C)のFeとNiにCoを5at%添加した混合粉末も、試料(A)のFeNiのインゴットの場合と同様、巨大歪み付与加工を行った後に一定時間の熱処理を行えば、L1型FeNi規則合金の形成を促進して製造効率を向上できることが分かる。

【0079】
なお、図11の(d1)~(d3)に示すように、Fe粉末、Ni粉末、Co粉末は、結晶方位(110)のピークは現れていない。また、図11の(d4)に示すように、巨大歪み付与加工を行っていないFeとNiの混合粉末にCo粉末を添加した試料にも、結晶方位(110)のピークは現れていない。従って、L10型FeNi規則合金を形成するためには、巨大歪み付与加工が必要であることが分かる。

【0080】
次に、図12は、試料(D)について、図7の(e5),(e6)の条件で巨大歪み付与加工を行って製造したFeNi合金のX線回折パターンであり、図7の(e1)~(e4)のNi粉末、Co粉末、Fe粉末及びFeとNiにCoを加えた混合粉末のX線回折パターンも参考ために併記してある。

【0081】
なお、図12の(e1)が図7の(e1)のNi粉末に係るX線回折パターンであり、図12の(e2)が図7の(e2)のCo粉末に係るX線回折パターンであり、図12の(e3)が図7の(e3)のFe粉末に係るX線回折パターンであり、図12の(e4)が図7の(e4)の条件で製造したFeNi合金のX線回折パターンであり、図12の(e5)が図7の(e5)の条件で製造したFeNi合金のX線回折パターンであり、図12の(e6)が図7の(e6)の条件で製造したFeNi合金のX線回折パターンである。

【0082】
この図12の測定結果によれば、Co粉末を20at%加えたFeとNiの混合粉末は、図12の(e5)のX線回折パターンに示すように、図7の(e5)の条件で行った巨大歪み付与加工の直後でも、結晶方位(110)のピークが現れている。

【0083】
このことから、試料(D)のFeとNiにCoを20at%添加した混合粉末は、巨大歪み付与加工を行えば、巨大歪み付与加工と並行又は事後的に熱処理を行わなくても、L1型FeNi規則合金を形成できることが分かる。

【0084】
ただし、図12の(e6)のX線回折パターンに示すように、図7の(e5)の条件に加えて一定時間の熱処理を行う図7の(e6)の条件では、結晶方位(110)のピークは図7の(e5)の場合よりも小さくなっている。

【0085】
すなわち、試料(D)のFeとNiにCoを20at%添加した混合粉末の場合、巨大歪み付与加工の後で行う熱処理は、L1型FeNi規則合金の形成を阻害させる効果、又は、いったん形成されたL10型FeNi規則合金を消失させる効果があると考えられる。

【0086】
(4)まとめ:
以上をまとめると、以下のことが言える。
まず、鉄とニッケルとを含有する金属組成物(インゴット又は粉末状)に対して約50以上の相当歪みを付与すると、L1型FeNi規則合金が形成される。

【0087】
そして、鉄とニッケルとを含有する金属組成物は、44~56at%の鉄と44~56at%のニッケルを、鉄とニッケルの合計が100at%を超えない範囲で、含有するように調製すると、L1型FeNi規則合金の製造効率が向上する。

【0088】
また、鉄とニッケルとを含有する金属組成物に、コバルトを添加するとL1型FeNi規則合金の製造効率が向上する。特に、0~20at%のコバルトを添加すると、L1型FeNi規則合金の製造効率が向上する。

【0089】
また、鉄とニッケルとを含有する金属組成物に対して、前記相当歪みを付与した後、又は、前記相当歪みを付与しつつ、L1型FeNi規則合金の規則化温度未満の温度で熱処理を行うとL1型FeNi規則合金の製造効率が向上する。

【0090】
以上の方法でFeNi合金中に形成されるL1型FeNi規則合金は、隕石に形成されている層状のウィドマンシュテッテン構造ではなく、非ウィドマンシュテッテン構造で非層状に形成される。

【0091】
また、以上の方法でFeNi合金中に形成されるL1型FeNi規則合金は、結晶粒径がサブミクロンレベルに微細化したFeNi合金の結晶粒界に形成されているため、曲がりくねった複雑な形状である。

【0092】
なお、本発明は上述した実施形態や実施例に限られず、上述した実施形態および実施例の中で開示した各構成を相互に置換したり組み合わせを変更したりした構成、公知技術並びに上述した実施形態および実施例の中で開示した各構成を相互に置換したり組み合わせを変更したりした構成、等も含まれる。また,本発明の技術的範囲は上述した実施形態に限定されず,特許請求の範囲に記載された事項とその均等物まで及ぶものである。
【符号の説明】
【0093】
10…アンビル、11…面、12…凹部、13…底面、14…円形状凹部、20…アンビル、21…面、22…凹部、23…底面、24…円形状凹部、25…隙間、100…付与装置、X1…領域、X2…領域、X3…領域、X4…領域
図面
【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図1】
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