TOP > 国内特許検索 > 硫化物固体電解質材料、電池および硫化物固体電解質材料の製造方法 > 明細書

明細書 :硫化物固体電解質材料、電池および硫化物固体電解質材料の製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6037444号 (P6037444)
公開番号 特開2014-137918 (P2014-137918A)
登録日 平成28年11月11日(2016.11.11)
発行日 平成28年12月7日(2016.12.7)
公開日 平成26年7月28日(2014.7.28)
発明の名称または考案の名称 硫化物固体電解質材料、電池および硫化物固体電解質材料の製造方法
国際特許分類 H01M  10/0562      (2010.01)
C01B  25/14        (2006.01)
H01M  10/052       (2010.01)
H01M   4/62        (2006.01)
H01B   1/06        (2006.01)
H01B  13/00        (2006.01)
FI H01M 10/0562
C01B 25/14
H01M 10/052
H01M 4/62 Z
H01B 1/06 A
H01B 13/00 Z
請求項の数または発明の数 5
全頁数 18
出願番号 特願2013-006282 (P2013-006282)
出願日 平成25年1月17日(2013.1.17)
審査請求日 平成27年10月7日(2015.10.7)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
発明者または考案者 【氏名】菅野 了次
【氏名】平山 雅章
【氏名】加藤 祐樹
【氏名】山崎 久嗣
個別代理人の代理人 【識別番号】100101203、【弁理士】、【氏名又は名称】山下 昭彦
【識別番号】100104499、【弁理士】、【氏名又は名称】岸本 達人
【識別番号】100129838、【弁理士】、【氏名又は名称】山本 典輝
審査官 【審査官】浅野 裕之
参考文献・文献 国際公開第2011/118801(WO,A1)
特開2010-036823(JP,A)
特開2010-040457(JP,A)
MURAYAMA,M. et al,"Material design of new lithium ionic conductor, thio-LISICON, in the Li2S-P2S5 system",Solid State Ionics,2004年,Vol.170,pp.173-180
KANNO,R. et al,"Synthesis of a new lithium ionic conductor, thio-LISICON-lithium germanium sulfide system",Solid State Ionics,2000年,Vol.130,pp.97-104
調査した分野 H01M 10/05~10/0587
C01B 25/14
H01B 1/06
H01B 13/00
H01M 4/13~ 4/1399
H01M 4/62
JSTPlus(JDreamIII)
特許請求の範囲 【請求項1】
元素、M元素およびS元素を含有し、
前記Mは、Liと、Mg、CaおよびZnからなる群から選択される少なくとも一種の二価元素との組み合わせであり、
前記Mは、P、Sb、Si、Ge、Sn、B、Al、Ga、In、Ti、Zr、V、Nbからなる群から選択される少なくとも一種であり、
CuKα線を用いたX線回折測定における2θ=29.58°±0.50°の位置にピークを有し、
CuKα線を用いたX線回折測定における2θ=27.33°±0.50°の位置にピークを有しないか、
前記2θ=27.33°±0.50°の位置にピークを有する場合、前記2θ=29.58°±0.50°のピークの回折強度をIとし、前記2θ=27.33°±0.50°のピークの回折強度をIとした際に、I/Iの値が0.50未満であり、
前記二価元素の置換量δ(%)が、0℃において、δ=0の場合よりも高いLiイオン伝導度を示す範囲内にあり、かつ、0<δ<1を満たすことを特徴とする硫化物固体電解質材料。
置換量δ(%)=2X1B/(X1A+2X1B)*100
(X1Aは、前記Mにおける前記Liのモル分率であり、X1Bは、前記Mにおける前記二価元素のモル分率である)
【請求項2】
元素およびS元素から構成される八面体Oと、M2a元素およびS元素から構成される四面体Tと、M2b元素およびS元素から構成される四面体Tとを有し、前記四面体Tおよび前記八面体Oは稜を共有し、前記四面体Tおよび前記八面体Oは頂点を共有する結晶構造を主体として含有し、
前記Mは、Liと、Mg、CaおよびZnからなる群から選択される少なくとも一種の二価元素との組み合わせであり、
前記M2aおよび前記M2bは、それぞれ独立に、P、Sb、Si、Ge、Sn、B、Al、Ga、In、Ti、Zr、V、Nbからなる群から選択される少なくとも一種であり、
前記二価元素の置換量δ(%)が、0℃において、δ=0の場合よりも高いLiイオン伝導度を示す範囲内にあり、かつ、0<δ<1を満たすことを特徴とする硫化物固体電解質材料。
置換量δ(%)=2X1B/(X1A+2X1B)*100
(X1Aは、前記Mにおける前記Liのモル分率であり、X1Bは、前記Mにおける前記二価元素のモル分率である)
【請求項3】
正極活物質を含有する正極活物質層と、負極活物質を含有する負極活物質層と、前記正極活物質層および前記負極活物質層の間に形成された電解質層とを含有する電池であって、
前記正極活物質層、前記負極活物質層および前記電解質層の少なくとも一つが、請求項1または請求項2に記載の硫化物固体電解質材料を含有することを特徴とする電池。
【請求項4】
請求項1に記載の硫化物固体電解質材料の製造方法であって、
前記M元素、前記M元素および前記S元素を含有する原料組成物を用いて、メカニカルミリングにより、非晶質化したイオン伝導性材料を合成するイオン伝導性材料合成工程と、
前記非晶質化したイオン伝導性材料を加熱することにより、前記硫化物固体電解質材料を得る加熱工程と、
を有することを特徴とする硫化物固体電解質材料の製造方法。
【請求項5】
請求項2に記載の硫化物固体電解質材料の製造方法であって、
前記M元素、前記M2a元素、前記M2b元素および前記S元素を含有する原料組成物を用いて、メカニカルミリングにより、非晶質化したイオン伝導性材料を合成するイオン伝導性材料合成工程と、
前記非晶質化したイオン伝導性材料を加熱することにより、前記硫化物固体電解質材料を得る加熱工程と、
を有することを特徴とする硫化物固体電解質材料の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、低温環境下においてLiイオン伝導性が良好な硫化物固体電解質材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年におけるパソコン、ビデオカメラおよび携帯電話等の情報関連機器や通信機器等の急速な普及に伴い、その電源として利用される電池の開発が重要視されている。また、自動車産業界等においても、電気自動車用あるいはハイブリッド自動車用の高出力かつ高容量の電池の開発が進められている。現在、種々の電池の中でも、エネルギー密度が高いという観点から、リチウム電池が注目を浴びている。
【0003】
現在市販されているリチウム電池は、可燃性の有機溶媒を含む電解液が使用されているため、短絡時の温度上昇を抑える安全装置の取り付けや短絡防止のための構造・材料面での改善が必要となる。これに対し、電解液を固体電解質層に変えて、電池を全固体化したリチウム電池は、電池内に可燃性の有機溶媒を用いないので、安全装置の簡素化が図れ、製造コストや生産性に優れると考えられている。
【0004】
全固体リチウム電池に用いられる固体電解質材料として、硫化物固体電解質材料が知られている。例えば、非特許文献1においては、Li(4-x)Ge(1-x)の組成を有するLiイオン伝導体(硫化物固体電解質材料)が開示されている。また、特許文献1においては、X線回折測定において特定のピークを有する結晶相の割合が高いLiGePS系の硫化物固体電解質材料が開示されている。さらに、非特許文献2には、LiGePS系の硫化物固体電解質材料が開示されている。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】国際公開第2011/118801号
【0006】

【非特許文献1】Ryoji Kanno et al., “Lithium Ionic Conductor Thio-LISICON The Li2S-GeS2-P2S5 System”, Journal of The Electrochemical Society, 148 (7) A742-A746 (2001)
【非特許文献2】Noriaki Kamaya et al., “A lithium superionic conductor”, Nature Materials, Advanced online publication, 31 July 2011, DOI:10.1038/NMAT3066
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
電池の高出力化の観点から、イオン伝導性が良好な固体電解質材料が求められている。特許文献1には、X線回折測定において特定のピークを有する結晶相の割合が高い硫化物固体電解質材料は、良好なイオン伝導性を有することが開示されている。一方、特許文献1に記載されたLiGePS系の硫化物固体電解質材料は、一般的な電解質材料と同様に、低温環境下においてLiイオン伝導性が低下するという問題がある。
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、低温環境下においてLiイオン伝導性が良好な硫化物固体電解質材料を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明においては、M元素、M元素およびS元素を含有し、上記Mは、Liと、Mg、CaおよびZnからなる群から選択される少なくとも一種の二価元素との組み合わせであり、上記Mは、P、Sb、Si、Ge、Sn、B、Al、Ga、In、Ti、Zr、V、Nbからなる群から選択される少なくとも一種であり、CuKα線を用いたX線回折測定における2θ=29.58°±0.50°の位置にピークを有し、CuKα線を用いたX線回折測定における2θ=27.33°±0.50°の位置にピークを有しないか、上記2θ=27.33°±0.50°の位置にピークを有する場合、上記2θ=29.58°±0.50°のピークの回折強度をIとし、上記2θ=27.33°±0.50°のピークの回折強度をIとした際に、I/Iの値が0.50未満であり、上記二価元素の置換量δ(%)が、0℃において、δ=0の場合よりも高いLiイオン伝導度を示す範囲内にあることを特徴とする硫化物固体電解質材料を提供する。
置換量δ(%)=2X1B/(X1A+2X1B)*100
(X1Aは、上記Mにおける上記Liのモル分率であり、X1Bは、上記Mにおける上記二価元素のモル分率である)
【0010】
本発明によれば、2θ=29.58°付近のピークを有する結晶相の割合が高いため、イオン伝導性が良好な硫化物固体電解質材料とすることができる。さらに、Liの一部を二価元素で置換することにより、低温環境下においてLiイオン伝導性が良好な硫化物固体電解質材料とすることができる。
【0011】
また、本発明においては、M元素およびS元素から構成される八面体Oと、M2a元素およびS元素から構成される四面体Tと、M2b元素およびS元素から構成される四面体Tとを有し、上記四面体Tおよび上記八面体Oは稜を共有し、上記四面体Tおよび上記八面体Oは頂点を共有する結晶構造を主体として含有し、上記Mは、Liと、Mg、CaおよびZnからなる群から選択される少なくとも一種の二価元素との組み合わせであり、上記M2aおよび上記M2bは、それぞれ独立に、P、Sb、Si、Ge、Sn、B、Al、Ga、In、Ti、Zr、V、Nbからなる群から選択される少なくとも一種であり、上記二価元素の置換量δ(%)が、0℃において、δ=0の場合よりも高いLiイオン伝導度を示す範囲内にあることを特徴とする硫化物固体電解質材料を提供する。
置換量δ(%)=2X1B/(X1A+2X1B)*100
(X1Aは、上記Mにおける上記Liのモル分率であり、X1Bは、上記Mにおける上記二価元素のモル分率である)
【0012】
本発明によれば、八面体O、四面体Tおよび四面体Tが所定の結晶構造(三次元構造)を有することから、イオン伝導性が良好な硫化物固体電解質材料とすることができる。さらに、Liの一部を二価元素で置換することにより、低温環境下においてLiイオン伝導性が良好な硫化物固体電解質材料とすることができる。
【0013】
上記発明においては、上記置換量δ(%)が、0<δ<1を満たすことが好ましい。
【0014】
また、本発明においては、正極活物質を含有する正極活物質層と、負極活物質を含有する負極活物質層と、上記正極活物質層および上記負極活物質層の間に形成された電解質層とを含有する電池であって、上記正極活物質層、上記負極活物質層および上記電解質層の少なくとも一つが、上述した硫化物固体電解質材料を含有することを特徴とする電池を提供する。
【0015】
本発明によれば、上述した硫化物固体電解質材料を用いることにより、高出力であり、低温環境に強い電池とすることができる。
【0016】
また、本発明においては、上述したピーク強度比を有する硫化物固体電解質材料の製造方法であって、上記M元素、上記M元素および上記S元素を含有する原料組成物を用いて、メカニカルミリングにより、非晶質化したイオン伝導性材料を合成するイオン伝導性材料合成工程と、上記非晶質化したイオン伝導性材料を加熱することにより、上記硫化物固体電解質材料を得る加熱工程と、を有することを特徴とする硫化物固体電解質材料の製造方法を提供する。
【0017】
本発明によれば、イオン伝導性材料合成工程で非晶質化を行い、その後、加熱工程を行うことにより、2θ=29.58°付近のピークを有する結晶相の割合が高い硫化物固体電解質材料を得ることができる。
【0018】
また、本発明においては、上述した結晶構造を有する硫化物固体電解質材料の製造方法であって、上記M元素、上記M2a元素、上記M2b元素および上記S元素を含有する原料組成物を用いて、メカニカルミリングにより、非晶質化したイオン伝導性材料を合成するイオン伝導性材料合成工程と、上記非晶質化したイオン伝導性材料を加熱することにより、上記硫化物固体電解質材料を得る加熱工程と、を有することを特徴とする硫化物固体電解質材料の製造方法を提供する。
【0019】
本発明によれば、イオン伝導性材料合成工程で非晶質化を行い、その後、加熱工程を行うことにより、八面体O、四面体Tおよび四面体Tが所定の結晶構造(三次元構造)を有する硫化物固体電解質材料を得ることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明においては、低温環境下においてLiイオン伝導性が良好な硫化物固体電解質材料を得ることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】イオン伝導性の高い硫化物固体電解質材料と、イオン伝導性の低い硫化物固体電解質材料との違いを説明するX線回折スペクトルである。
【図2】本発明の硫化物固体電解質材料の結晶構造の一例を説明する斜視図である。
【図3】本発明の電池の一例を示す概略断面図である。
【図4】本発明の硫化物固体電解質材料の製造方法の一例を示す説明図である。
【図5】実施例1および比較例1~4で得られた硫化物固体電解質材料のX線回折スペクトルである。
【図6】実施例1および比較例1~4で得られた硫化物固体電解質材料のLiイオン伝導度の測定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の硫化物固体電解質材料、電池、および硫化物固体電解質材料の製造方法について、詳細に説明する。

【0023】
A.硫化物固体電解質材料
まず、本発明の硫化物固体電解質材料について説明する。本発明の硫化物固体電解質材料は、2つの実施態様に大別することができる。そこで、本発明の硫化物固体電解質材料について、第一実施態様および第二実施態様に分けて説明する。

【0024】
1.第一実施態様
第一実施態様の硫化物固体電解質材料は、M元素、M元素およびS元素を含有し、上記Mは、Liと、Mg、CaおよびZnからなる群から選択される少なくとも一種の二価元素との組み合わせであり、上記Mは、P、Sb、Si、Ge、Sn、B、Al、Ga、In、Ti、Zr、V、Nbからなる群から選択される少なくとも一種であり、CuKα線を用いたX線回折測定における2θ=29.58°±0.50°の位置にピークを有し、CuKα線を用いたX線回折測定における2θ=27.33°±0.50°の位置にピークを有しないか、上記2θ=27.33°±0.50°の位置にピークを有する場合、上記2θ=29.58°±0.50°のピークの回折強度をIとし、上記2θ=27.33°±0.50°のピークの回折強度をIとした際に、I/Iの値が0.50未満であり、上記二価元素の置換量δ(%)が、0℃において、δ=0の場合よりも高いLiイオン伝導度を示す範囲内にあることを特徴とするものである。
置換量δ(%)=2X1B/(X1A+2X1B)*100
(X1Aは、上記Mにおける上記Liのモル分率であり、X1Bは、上記Mにおける上記二価元素のモル分率である)

【0025】
第一実施態様によれば、2θ=29.58°付近のピークを有する結晶相の割合が高いため、イオン伝導性が良好な硫化物固体電解質材料とすることができる。さらに、Liの一部を二価元素で置換することにより、低温環境下においてLiイオン伝導性が良好な硫化物固体電解質材料とすることができる。電解質材料のLiイオン伝導性は温度依存性を有し、通常、低温環境下ではLiイオン伝導性が低下する。その結果、電池抵抗は上がり、出力は低下する。これに対して、第一実施態様においては、Liの一部を二価元素で置換することにより、低温環境下においてLiイオン伝導性が良好な硫化物固体電解質材料とすることができる。その理由は以下の通りであると推察される。すなわち、Liの一部を二価元素(例えばMg)で置換すると、電気的中性を保つように、Li2原子に対してMg1原子を置換することができる。これにより、Li量が低減し、Liイオン伝導の活性化エネルギーを下げることができると推察される。Liの一部を二価元素で置換しない場合、低温環境化では、Li量が多すぎてサイトが詰まっている状態(活性化エネルギーが高い状態)であるのに対して、第一実施態様においては、Liの一部を二価元素で置換することで、低温環境化でも、活性化エネルギーが低い状態を維持できると推察される。

【0026】
図1は、イオン伝導性が高い硫化物固体電解質材料と、イオン伝導性が低い硫化物固体電解質材料との違いを説明するX線回折スペクトルである。なお、図1における2つの硫化物固体電解質材料は、ともにLi3.25Ge0.250.75の組成を有するものである。図1において、イオン伝導性が高い硫化物固体電解質材料は、2θ=29.58°±0.50°の位置、および、2θ=27.33°±0.50°の位置にピークを有する。また、図1において、イオン伝導性が低い硫化物固体電解質材料も同様のピークを有する。ここで、2θ=29.58°付近のピークを有する結晶相と、2θ=27.33°付近のピークを有する結晶相とは、互いに異なる結晶相であると考えられる。なお、第一実施態様においては、2θ=29.58°付近のピークを有する結晶相を「結晶相A」と称し、2θ=27.33°付近のピークを有する結晶相を「結晶相B」と称する場合がある。この結晶相Aの結晶構造は、後述する第二実施態様に記載する結晶構造であると考えられる。

【0027】
結晶相A、Bは、ともにイオン伝導性を示す結晶相であるが、そのイオン伝導性には違いがある。結晶相Aは、結晶相Bに比べて、イオン伝導性が顕著に高いと考えられる。従来の合成方法(例えば固相法)では、イオン伝導性の低い結晶相Bの割合を少なくすることができず、イオン伝導性を十分に高くすることができなかった。これに対して、第一実施態様では、イオン伝導性の高い結晶相Aを積極的に析出させることができるため、イオン伝導性の高い硫化物固体電解質材料を得ることができる。

【0028】
また、第一実施態様においては、イオン伝導性が低い硫化物固体電解質材料と区別するため、2θ=29.58°付近のピークの回折強度をIとし、2θ=27.33°付近のピークの回折強度をIとし、I/Iの値を0.50未満に規定している。なお、I/Iの値が0.50未満の硫化物固体電解質材料は、従来の合成方法では得ることができないと考えられる。また、イオン伝導性の観点からは、第一実施態様の硫化物固体電解質材料は、イオン伝導性の高い結晶相Aの割合が高いことが好ましい。そのため、I/Iの値はより小さいことが好ましく、具体的には、0.45以下であることが好ましく、0.25以下であることがより好ましく、0.15以下であることがさらに好ましく、0.07以下であることが特に好ましい。また、I/Iの値は0であることが好ましい。言い換えると、第一実施態様の硫化物固体電解質材料は、結晶相Bのピークである2θ=27.33°付近のピークを有しないことが好ましい。

【0029】
第一実施態様の硫化物固体電解質材料は、2θ=29.58°付近にピークを有する。このピークは、上述したように、イオン伝導性の高い結晶相Aのピークの一つである。ここで、2θ=29.58°は実測値であり、材料組成等によって結晶格子が若干変化し、ピークの位置が2θ=29.58°から多少前後する場合がある。そのため、第一実施態様においては、結晶相Aの上記ピークを、29.58°±0.50°の位置のピークとして定義する。結晶相Aは、通常、2θ=17.38°、20.18°、20.44°、23.56°、23.96°、24.93°、26.96°、29.07°、29.58°、31.71°、32.66°、33.39°のピークを有すると考えられる。なお、これらのピーク位置も、±0.50°の範囲で前後する場合がある。

【0030】
一方、2θ=27.33°付近のピークは、上述したように、イオン伝導性の低い結晶相Bのピークの一つである。ここで、2θ=27.33°は実測値であり、材料組成等によって結晶格子が若干変化し、ピークの位置が2θ=27.33°から多少前後する場合がある。そのため、第一実施態様においては、結晶相Bの上記ピークを、27.33°±0.50°の位置のピークとして定義する。結晶相Bは、通常、2θ=17.46°、18.12°、19.99°、22.73°、25.72°、27.33°、29.16°、29.78°のピークを有すると考えられる。なお、これらのピーク位置も、±0.50°の範囲で前後する場合がある。

【0031】
また、第一実施態様の硫化物固体電解質材料は、M元素、M元素およびS元素を含有するものである。上記Mは、通常、Liと、Mg、CaおよびZnからなる群から選択される少なくとも一種の二価元素との組み合わせである。さらに、第一実施態様においては、下記式により、二価元素の置換量δ(%)を定義する。
置換量δ(%)=2X1B/(X1A+2X1B)*100
(X1Aは、上記Mにおける上記Liのモル分率であり、X1Bは、上記Mにおける上記二価元素のモル分率である)
置換量δ(%)は、通常、0℃において、δ=0の場合よりも高いLiイオン伝導度を示す範囲内である。ここで、δ=0の場合よりも高いLiイオン伝導度を示す範囲は、以下の予備実験により求めることができる。すなわち、第一実施態様の硫化物固体電解質材料(δ>0)と、比較対象用の硫化物固体電解質材料(δ=0)とを準備し、同一条件(例えば後述する実施例に記載する条件)で0℃におけるLiイオン伝導度を測定する実験を行い、Liイオン伝導度が比較対象用の硫化物固体電解質材料(δ=0)以下とならない範囲を、「δ=0の場合よりも高いLiイオン伝導度を示す範囲」として定めることができる。なお、例えば、第一実施態様の硫化物固体電解質材料の組成がLi3.43275Mg0.008625Ge0.450.55(δ=0.5%)である場合、対応する比較対象用の硫化物固体電解質材料の組成は、Li3.45Ge0.450.55(δ=0)である。なお、置換量δは、ICP(高周波誘導結合プラズマ)発光分光分析により求めることができる。

【0032】
一方、上記Mは、三価、四価または五価の元素であることが好ましく、少なくとも四価の元素を含むことがより好ましい。また、上記Mは、通常、P、Sb、Si、Ge、Sn、B、Al、Ga、In、Ti、Zr、V、Nbからなる群から選択される少なくとも一種である。中でも、第一実施態様においては、上記Mが、P、Ge、Al、Zr、Sn、Bからなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましく、PおよびGeの少なくとも一方であることがより好ましい。また、上記Mは、2種またはそれ以上の元素であっても良い。

【0033】
また、後述する実施例では、LiMgGePS系の硫化物固体電解質材料を実際に合成し、得られたサンプルのX線回折測定を行い、I/Iが所定の値以下であることを確認している。一方、第一実施態様の硫化物固体電解質材料は、通常、後述する第二実施態様に記載する所定の結晶構造を有する。M元素およびM元素は、その任意の組み合わせにおいて、上記の硫化物固体電解質材料と同様の結晶構造を取ることが可能であると推測される。そのため、M元素およびM元素の任意の組み合わせにおいて、いずれも良好なイオン伝導性を有する硫化物固体電解質材料が得られると考えられる。また、X線回折のピークの位置は、結晶構造に依存することから、硫化物固体電解質材料が上記結晶構造を有していれば、M元素およびM元素の種類に依らず、類似したXRDパターンが得られると考えられる。

【0034】
また、第一実施態様の硫化物固体電解質材料は、Li元素、上述した二価元素M(II)、Ge元素、P元素およびS元素を含有することが好ましい。さらに、LiM(II)GePS系の硫化物固体電解質材料の組成は、所定のI/Iの値を得ることができる組成であれば特に限定されるものではないが、例えば、Li(4-x)Ge(1-x)(xは、0<x<1を満たす)におけるLiの一部をM(II)で置換した組成が好ましい。イオン伝導性の高い硫化物固体電解質材料とすることができるからである。ここで、Li(4-x)Ge(1-x)の組成は、LiPSおよびLiGeSの固溶体の組成に該当する。すなわち、この組成は、LiPSおよびLiGeSのタイライン上の組成に該当する。LiPSおよびLiGeSは、いずれもオルト組成に該当し、化学的安定性が高く、水分に対する安定性が高いという利点を有する。

【0035】
また、上記Li(4-x)Ge(1-x)におけるxは、所定のI/Iの値を得ることができる値であれば特に限定されるものではないが、例えば、0.4≦xを満たすことが好ましく、0.5≦xを満たすことがより好ましい。一方、上記xは、x≦0.8を満たすことが好ましく、x≦0.75を満たすことがより好ましい。このようなxの範囲とすることにより、I/Iの値をより小さくできるからである。これにより、さらにイオン伝導性が良好な硫化物固体電解質材料とすることができる。

【0036】
第一実施態様の硫化物固体電解質材料は、通常、結晶質の硫化物固体電解質材料である。また、第一実施態様の硫化物固体電解質材料は、イオン伝導性が高いことが好ましく、25℃における硫化物固体電解質材料のイオン伝導性は、1.0×10-3S/cm以上であることが好ましい。また、第一実施態様の硫化物固体電解質材料の形状は特に限定されるものではないが、例えば粉末状を挙げることができる。さらに、粉末状の硫化物固体電解質材料の平均粒径は、例えば0.1μm~50μmの範囲内であることが好ましい。

【0037】
第一実施態様の硫化物固体電解質材料は、高いイオン伝導性を有するものであるので、イオン伝導性を必要とする任意の用途に用いることができる。中でも、第一実施態様の硫化物固体電解質材料は、電池に用いられるものであることが好ましい。電池の高出力化に大きく寄与することができるからである。また、第一実施態様の硫化物固体電解質材料の製造方法については、後述する「C.硫化物固体電解質材料の製造方法」で詳細に説明する。また、第一実施態様の硫化物固体電解質材料は、後述する第二実施態様の特徴を兼ね備えたものであっても良い。

【0038】
2.第二実施態様
次に、本発明の硫化物固体電解質材料の第二実施態様について説明する。第二実施態様の硫化物固体電解質材料は、M元素およびS元素から構成される八面体Oと、M2a元素およびS元素から構成される四面体Tと、M2b元素およびS元素から構成される四面体Tとを有し、上記四面体Tおよび上記八面体Oは稜を共有し、上記四面体Tおよび上記八面体Oは頂点を共有する結晶構造を主体として含有し、上記Mは、Liと、Mg、CaおよびZnからなる群から選択される少なくとも一種の二価元素との組み合わせであり、上記M2aおよび上記M2bは、それぞれ独立に、P、Sb、Si、Ge、Sn、B、Al、Ga、In、Ti、Zr、V、Nbからなる群から選択される少なくとも一種であり、上記二価元素の置換量δ(%)が、0℃において、δ=0の場合よりも高いLiイオン伝導度を示す範囲内にあることを特徴とするものである。
置換量δ(%)=2X1B/(X1A+2X1B)*100
(X1Aは、上記Mにおける上記Liのモル分率であり、X1Bは、上記Mにおける上記二価元素のモル分率である)

【0039】
第二実施態様によれば、八面体O、四面体Tおよび四面体Tが所定の結晶構造(三次元構造)を有することから、イオン伝導性が良好な硫化物固体電解質材料とすることができる。さらに、Liの一部を二価元素で置換することにより、低温環境下においてLiイオン伝導性が良好な硫化物固体電解質材料とすることができる。

【0040】
図2は、第二実施態様の硫化物固体電解質材料の結晶構造の一例を説明する斜視図である。図2に示す結晶構造において、八面体Oは、中心元素としてMを有し、八面体の頂点に6個のSを有しており、典型的にはLiS八面体およびMgS八面体である。四面体Tは、中心元素としてM2aを有し、四面体の頂点に4個のSを有しており、典型的にはGeS四面体およびPS四面体である。四面体Tは、中心元素としてM2bを有し、四面体の頂点に4個のSを有しており、典型的にはPS四面体である。さらに、四面体Tおよび八面体Oは稜を共有し、四面体Tおよび八面体Oは頂点を共有している。

【0041】
第二実施態様の硫化物固体電解質材料は、上記結晶構造を主体として含有することを大きな特徴とする。硫化物固体電解質材料の全結晶構造における上記結晶構造の割合は特に限定されるものではないが、より高いことが好ましい。イオン伝導性の高い硫化物固体電解質材料とすることができるからである。上記結晶構造の割合は、具体的には、70重量%以上であることが好ましく、90重量%以上であることがより好ましい。なお、上記結晶構造の割合は、例えば、放射光XRDにより測定することができる。特に、第二実施態様の硫化物固体電解質材料は、上記結晶構造の単相材料であることが好ましい。イオン伝導性を極めて高くすることができるからである。

【0042】
なお、第二実施態様におけるM元素、M元素(M2a元素、M2b元素)およびその他の事項については、上述した第一実施態様と同様であるので、ここでの記載は省略する。

【0043】
B.電池
次に、本発明の電池について説明する。本発明の電池は、正極活物質を含有する正極活物質層と、負極活物質を含有する負極活物質層と、上記正極活物質層および上記負極活物質層の間に形成された電解質層とを含有する電池であって、上記正極活物質層、上記負極活物質層および上記電解質層の少なくとも一つが、上述した硫化物固体電解質材料を含有することを特徴とするものである。

【0044】
本発明によれば、上述した硫化物固体電解質材料を用いることにより、高出力であり、低温環境に強い電池とすることができる。

【0045】
図3は、本発明の電池の一例を示す概略断面図である。図3における電池10は、正極活物質を含有する正極活物質層1と、負極活物質を含有する負極活物質層2と、正極活物質層1および負極活物質層2の間に形成された電解質層3と、正極活物質層1の集電を行う正極集電体4と、負極活物質層2の集電を行う負極集電体5と、これらの部材を収納する電池ケース6とを有するものである。本発明においては、正極活物質層1、負極活物質層2および電解質層3の少なくとも一つが、上記「A.硫化物固体電解質材料」に記載した硫化物固体電解質材料を含有することを大きな特徴とする。
以下、本発明の電池について、構成ごとに説明する。

【0046】
1.正極活物質層
本発明における正極活物質層は、少なくとも正極活物質を含有する層であり、必要に応じて、固体電解質材料、導電化材および結着材の少なくとも一つを含有していても良い。特に、本発明においては、正極活物質層が固体電解質材料を含有し、その固体電解質材料が、上述した硫化物固体電解質材料であることが好ましい。高出力であり、かつ、水分に対する安定性が高い電池とすることができるからである。正極活物質層に含まれる上記硫化物固体電解質材料の割合は、電池の種類によって異なるものであるが、例えば0.1体積%~80体積%の範囲内、中でも1体積%~60体積%の範囲内、特に10体積%~50体積%の範囲内であることが好ましい。また、正極活物質としては、例えばLiCoO、LiMnO、LiNiMn、LiVO、LiCrO、LiFePO、LiCoPO、LiNiO、LiNi1/3Co1/3Mn1/3等を挙げることができる。

【0047】
正極活物質層は、さらに導電化材を含有していても良い。導電化材の添加により、正極活物質層の導電性を向上させることができる。導電化材としては、例えばアセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンファイバー等を挙げることができる。また、正極活物質層は、結着材を含有していても良い。結着材の種類としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等のフッ素含有結着材等を挙げることができる。また、正極活物質層の厚さは、例えば0.1μm~1000μmの範囲内であることが好ましい。

【0048】
2.負極活物質層
本発明における負極活物質層は、少なくとも負極活物質を含有する層であり、必要に応じて、固体電解質材料、導電化材および結着材の少なくとも一つを含有していても良い。特に、本発明においては、負極活物質層が固体電解質材料を含有し、その固体電解質材料が、上述した硫化物固体電解質材料であることが好ましい。高出力であり、かつ、水分に対する安定性が高い電池とすることができるからである。負極活物質層に含まれる上記硫化物固体電解質材料の割合は、電池の種類によって異なるものであるが、例えば0.1体積%~80体積%の範囲内、中でも1体積%~60体積%の範囲内、特に10体積%~50体積%の範囲内であることが好ましい。また、負極活物質としては、例えば金属活物質およびカーボン活物質を挙げることができる。金属活物質としては、例えばIn、Al、SiおよびSn等を挙げることができる。一方、カーボン活物質としては、例えばメソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、高配向性グラファイト(HOPG)、ハードカーボン、ソフトカーボン等を挙げることができる。なお、負極活物質層に用いられる導電化材および結着材については、上述した正極活物質層における場合と同様である。また、負極活物質層の厚さは、例えば0.1μm~1000μmの範囲内であることが好ましい。

【0049】
3.電解質層
本発明における電解質層は、正極活物質層および負極活物質層の間に形成される層である。電解質層は、イオンの伝導を行うことができる層であれば特に限定されるものではないが、固体電解質材料から構成される固体電解質層であることが好ましい。電解液を用いる電池に比べて、安全性の高い電池を得ることができるからである。さらに、本発明においては、固体電解質層が、上述した硫化物固体電解質材料を含有することが好ましい。高出力であり、かつ、水分に対する安定性が高い電池とすることができるからである。固体電解質層に含まれる上記硫化物固体電解質材料の割合は、例えば10体積%~100体積%の範囲内、中でも50体積%~100体積%の範囲内であることが好ましい。固体電解質層の厚さは、例えば0.1μm~1000μmの範囲内、中でも0.1μm~300μmの範囲内であることが好ましい。また、固体電解質層の形成方法としては、例えば、固体電解質材料を圧縮成形する方法等を挙げることができる。

【0050】
また、本発明における電解質層は、電解液から構成される層であっても良い。電解液を用いる場合、固体電解質層を用いる場合に比べて安全性をさらに配慮する必要があるが、より高出力な電池を得ることができる。また、この場合は、通常、正極活物質層および負極活物質層の少なくとも一方が、上述した硫化物固体電解質材料を含有することになる。電解液は、通常、リチウム塩および有機溶媒(非水溶媒)を含有する。リチウム塩としては、例えばLiPF、LiBF、LiClO、LiAsF等の無機リチウム塩、およびLiCFSO、LiN(CFSO、LiN(CSO、LiC(CFSO等の有機リチウム塩等を挙げることができる。上記有機溶媒としては、例えばエチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ブチレンカーボネート(BC)等を挙げることができる。

【0051】
4.その他の構成
本発明の電池は、上述した負極活物質層、電解質層および正極活物質層を少なくとも有するものである。さらに通常は、正極活物質層の集電を行う正極集電体、および負極活物質層の集電を行う負極集電体を有する。正極集電体の材料としては、例えばSUS、アルミニウム、ニッケル、鉄、チタンおよびカーボン等を挙げることができる。一方、負極集電体の材料としては、例えばSUS、銅、ニッケルおよびカーボン等を挙げることができる。また、正極集電体および負極集電体の厚さや形状等については、電池の用途等に応じて適宜選択することが好ましい。また、本発明に用いられる電池ケースには、一般的な電池の電池ケースを用いることができる。電池ケースとしては、例えばSUS製電池ケース等を挙げることができる。

【0052】
5.電池
本発明の電池は、一次電池であっても良く、二次電池であっても良いが、中でも二次電池であることが好ましい。繰り返し充放電でき、例えば車載用電池として有用だからである。本発明の電池の形状としては、例えば、コイン型、ラミネート型、円筒型および角型等を挙げることができる。また、本発明の電池の製造方法は、上述した電池を得ることができる方法であれば特に限定されるものではなく、一般的な電池の製造方法と同様の方法を用いることができる。例えば、本発明の電池が全固体電池である場合、その製造方法の一例としては、正極活物質層を構成する材料、固体電解質層を構成する材料、および負極活物質層を構成する材料を順次プレスすることにより、発電要素を作製し、この発電要素を電池ケースの内部に収納し、電池ケースをかしめる方法等を挙げることができる。

【0053】
C.硫化物固体電解質材料の製造方法
次に、本発明の硫化物固体電解質材料の製造方法について説明する。本発明の硫化物固体電解質材料の製造方法は、2つの実施態様に大別することができる。そこで、本発明の硫化物固体電解質材料の製造方法について、第一実施態様および第二実施態様に分けて説明する。

【0054】
1.第一実施態様
第一実施態様の硫化物固体電解質材料の製造方法は、「A.硫化物固体電解質材料 1.第一実施態様」に記載した硫化物固体電解質材料の製造方法であって、上記M元素、上記M元素および上記S元素を含有する原料組成物を用いて、メカニカルミリングにより、非晶質化したイオン伝導性材料を合成するイオン伝導性材料合成工程と、上記非晶質化したイオン伝導性材料を加熱することにより、上記硫化物固体電解質材料を得る加熱工程と、を有することを特徴とするものである。

【0055】
第一実施態様によれば、イオン伝導性材料合成工程で非晶質化を行い、その後、加熱工程を行うことにより、2θ=29.58°付近のピークを有する結晶相の割合が高い硫化物固体電解質材料を得ることができる。そのため、イオン伝導性が良好な硫化物固体電解質材料を得ることができる。さらに、Liおよび二価元素を組み合わせて用いることにより、低温環境下においてLiイオン伝導性が良好な硫化物固体電解質材料を得ることができる。

【0056】
図4は、第一実施態様の硫化物固体電解質材料の製造方法の一例を示す説明図である。図4における硫化物固体電解質材料の製造方法では、まず、LiS、P、GeSおよびMgSを混合することにより、原料組成物を作製する。この際、空気中の水分によって原料組成物が劣化することを防止するために、不活性ガス雰囲気下で原料組成物を作製することが好ましい。次に、原料組成物にボールミルを行い、非晶質化したイオン伝導性材料を得る。次に、非晶質化したイオン伝導性材料を加熱し、結晶性を向上させることで、硫化物固体電解質材料を得る。

【0057】
第一実施態様においては、2θ=29.58°付近のピークを有する結晶相の割合が高い硫化物固体電解質材料を得ることができるが、以下、その理由について説明する。第一実施態様においては、従来の合成方法である固相法と異なり、一度、非晶質化したイオン伝導性材料を合成する。これにより、イオン伝導性の高い結晶相A(2θ=29.58°付近のピークを有する結晶相)が析出しやすい環境になり、その後の加熱工程により、結晶相Aを積極的に析出させることができ、I/Iの値を、従来不可能であった0.50未満にすることができると考えられる。非晶質化により結晶相Aが析出しやすい環境になる理由は、完全には明らかではないが、メカニカルミリングによりイオン伝導性材料における固溶域が変化し、結晶相Aが析出しにくい環境から析出しやすい環境に変化した可能性が考えられる。
以下、第一実施態様の硫化物固体電解質材料の製造方法について、工程ごとに説明する。

【0058】
(1)イオン伝導性材料合成工程
まず、第一実施態様におけるイオン伝導性材料合成工程について説明する。第一実施態様におけるイオン伝導性材料合成工程は、上記M元素、上記M元素および上記S元素を含有する原料組成物を用いて、メカニカルミリングにより、非晶質化したイオン伝導性材料を合成する工程である。

【0059】
第一実施態様における原料組成物は、M元素、M元素およびS元素を含有するものであれば特に限定されるものではない。なお、原料組成物におけるM元素およびM元素については、上記「A.硫化物固体電解質材料」に記載した事項と同様である。M元素を含有する化合物は、特に限定されるものではないが、例えば、Mの単体およびMの硫化物を挙げることができる。Mの硫化物としては、例えばLiS、MgS、CaS、ZnS等を挙げることができる。M元素を含有する化合物は、特に限定されるものではないが、例えば、Mの単体およびMの硫化物を挙げることができる。Mの硫化物としては、Me(Meは三価の元素であり、例えばAl、B、Ga、In、Sbである)、MeS(Meは四価の元素であり、例えばGe、Si、Sn、Zr、Ti、Nbである)、Me(Meは五価の元素であり、例えばP、Vである)等を挙げることができる。

【0060】
S元素を含有する化合物は、特に限定されるものではなく、単体であっても良く、硫化物であっても良い。硫化物としては、上述したM元素またはM元素を含有する硫化物を挙げることができる。

【0061】
メカニカルミリングは、試料を、機械的エネルギーを付与しながら粉砕する方法である。第一実施態様においては、原料組成物に対して、機械的エネルギーを付与することで、非晶質化したイオン伝導性材料を合成する。このようなメカニカルミリングとしては、例えば、振動ミル、ボールミル、ターボミル、メカノフュージョン、ディスクミル等を挙げることができ、中でも振動ミルおよびボールミルが好ましい。

【0062】
振動ミルの条件は、非晶質化したイオン伝導性材料を得ることができるものであれば特に限定されるものではない。振動ミルの振動振幅は、例えば5mm~15mmの範囲内、中でも6mm~10mmの範囲内であることが好ましい。振動ミルの振動周波数は、例えば500rpm~2000rpmの範囲内、中でも1000rpm~1800rpmの範囲内であることが好ましい。振動ミルの試料の充填率は、例えば1体積%~80体積%の範囲内、中でも5体積%~60体積%の範囲内、特に10体積%~50体積%の範囲内であることが好ましい。また、振動ミルには、振動子(例えばアルミナ製振動子)を用いることが好ましい。

【0063】
ボールミルの条件は、非晶質化したイオン伝導性材料を得ることができるものであれば特に限定されるものではない。一般的に、回転数が大きいほど、イオン伝導性材料の生成速度は速くなり、処理時間が長いほど、原料組成物からイオン伝導性材料への転化率は高くなる。遊星型ボールミルを行う際の台盤回転数としては、例えば200rpm~500rpmの範囲内、中でも250rpm~400rpmの範囲内であることが好ましい。また、遊星型ボールミルを行う際の処理時間は、例えば1時間~100時間の範囲内、中でも1時間~70時間の範囲内であることが好ましい。

【0064】
なお、第一実施態様においては、2θ=29.58°付近のピークを有する結晶相が析出しやすい環境となるように、非晶質化したイオン伝導性材料を合成することが好ましい。

【0065】
(2)加熱工程
第一実施態様における加熱工程は、上記非晶質化したイオン伝導性材料を加熱することにより、上記硫化物固体電解質材料を得る工程である。

【0066】
第一実施態様においては、非晶質化したイオン伝導性材料を加熱することにより、結晶性の向上を図る。この加熱を行うことで、イオン伝導性の高い結晶相A(2θ=29.58°付近のピークを有する結晶相)を積極的に析出させることができ、I/Iの値を、従来不可能であった0.50未満にすることができる。

【0067】
第一実施態様における加熱温度は、所望の硫化物固体電解質材料を得ることができる温度であれば特に限定されるものではないが、結晶相A(2θ=29.58°付近のピークを有する結晶相)の結晶化温度以上の温度であることが好ましい。具体的には、上記加熱温度が300℃以上であることが好ましく、350℃以上であることがより好ましく、400℃以上であることがさらに好ましく、450℃以上であることが特に好ましい。一方、上記加熱温度は、1000℃以下であることが好ましく、700℃以下であることがより好ましく、650℃以下であることがさらに好ましく、600℃以下であることが特に好ましい。また、加熱時間は、所望の硫化物固体電解質材料が得られるように適宜調整することが好ましい。また、第一実施態様における加熱は、酸化を防止する観点から、不活性ガス雰囲気下または真空中で行うことが好ましい。また、第一実施態様により得られる硫化物固体電解質材料については、上記「A.硫化物固体電解質材料 1.第一実施態様」に記載した内容と同様であるので、ここでの記載は省略する。

【0068】
2.第二実施態様
第二実施態様の硫化物固体電解質材料の製造方法は、「A.硫化物固体電解質材料 2.第二実施態様」に記載した硫化物固体電解質材料の製造方法であって、上記M元素、上記M2a元素、上記M2b元素および上記S元素を含有する原料組成物を用いて、メカニカルミリングにより、非晶質化したイオン伝導性材料を合成するイオン伝導性材料合成工程と、上記非晶質化したイオン伝導性材料を加熱することにより、上記硫化物固体電解質材料を得る加熱工程と、を有することを特徴とするものである。

【0069】
第二実施態様によれば、イオン伝導性材料合成工程で非晶質化を行い、その後、加熱工程を行うことにより、八面体O、四面体Tおよび四面体Tが所定の結晶構造(三次元構造)を有する硫化物固体電解質材料を得ることができる。そのため、イオン伝導性が良好な硫化物固体電解質材料を得ることができる。さらに、Liおよび二価元素を組み合わせて用いることにより、低温環境下においてLiイオン伝導性が良好な硫化物固体電解質材料を得ることができる。

【0070】
第二実施態様におけるイオン伝導性材料合成工程および加熱工程については、基本的に、上述した「C.硫化物固体電解質材料の製造方法 1.第一実施態様」に記載した内容と同様であるので、ここでの記載は省略する。所望の硫化物固体電解質材料が得られるように、各種条件を設定することが好ましい。

【0071】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0072】
以下に実施例を示して本発明をさらに具体的に説明する。
【実施例】
【0073】
[実施例1]
出発原料として、硫化リチウム(LiS、日本化学工業社製)と、五硫化二リン(P、アルドリッチ社製)と、硫化ゲルマニウム(GeS、高純度化学社製)と、硫化マグネシウム(MgS、高純度化学社製)とを用いた。これらの粉末をアルゴン雰囲気下のグローブボックス内で、LiSを0.3903688g、Pを0.3025689g、GeSを0.304655573g、MgSを0.00240665gの割合で混合し、原料組成物を得た。次に、原料組成物1gを、ジルコニアボール(10mmφ、10個)とともに、ジルコニア製のポット(45ml)に入れ、ポットを完全に密閉した(アルゴン雰囲気)。このポットを遊星型ボールミル機(フリッチュ製P7)に取り付け、台盤回転数370rpmで、40時間メカニカルミリングを行った。これにより、非晶質化したイオン伝導性材料を得た。
【実施例】
【0074】
次に、得られたイオン伝導性材料の粉末を、カーボンコートした石英管に入れ真空封入した。真空封入した石英管の圧力は、約30Paであった。次に、石英管を焼成炉に設置し、6時間かけて室温から550℃まで昇温し、550℃を8時間維持し、その後室温まで徐冷した。これにより、Li3.43275Mg0.008625Ge0.450.55の組成を有する結晶質の硫化物固体電解質材料を得た。この組成は、Li(4-x)Ge(1-x)(x=0.55)におけるLiの一部をMgで置換した組成であり、置換量δは0.5%である。
【実施例】
【0075】
[比較例1]
LiSを0.3925051g、Pを0.302704g、GeSを0.30479gの割合で混合し、原料組成物を得た。この原料組成物を用いたこと以外は、実施例1と同様にして結晶質の硫化物固体電解質材料を得た。得られた硫化物固体電解質材料は、Li3.45Ge0.450.55の組成を有する。この組成はLi(4-x)Ge(1-x)(x=0.55)に該当する。
【実施例】
【0076】
[比較例2]
LiSを0.3882344g、Pを0.302434g、GeSを0.30452g、MgSを0.004811gの割合で混合し、原料組成物を得た。この原料組成物を用いたこと以外は、実施例1と同様にして結晶質の硫化物固体電解質材料を得た。得られた硫化物固体電解質材料は、Li3.4155Mg0.01725Ge0.450.55の組成を有する。この組成は、Li(4-x)Ge(1-x)(x=0.55)におけるLiの一部をMgで置換した組成であり、置換量δは1%である。
【実施例】
【0077】
[比較例3]
LiSを0.383971g、Pを0.302166g、GeSを0.304249g、MgSを0.0096138gの割合で混合し、原料組成物を得た。この原料組成物を用いたこと以外は、実施例1と同様にして結晶質の硫化物固体電解質材料を得た。得られた硫化物固体電解質材料は、Li3.381Mg0.0345Ge0.450.55の組成を有する。この組成は、Li(4-x)Ge(1-x)(x=0.55)におけるLiの一部をMgで置換した組成であり、置換量δは2%である。
【実施例】
【0078】
[比較例4]
LiSを0.350137g、Pを0.300032g、GeSを0.302101g、MgSを0.047729gの割合で混合し、原料組成物を得た。この原料組成物を用いたこと以外は、実施例1と同様にして結晶質の硫化物固体電解質材料を得た。得られた硫化物固体電解質材料は、Li3.105Mg0.1725Ge0.450.55の組成を有する。この組成は、Li(4-x)Ge(1-x)(x=0.55)におけるLiの一部をMgで置換した組成であり、置換量δは10%である。
【実施例】
【0079】
[評価]
(X線回折測定)
実施例1および比較例1~4で得られた硫化物固体電解質材料を用いて、X線回折(XRD)測定を行った。XRD測定は、粉末試料に対して、不活性雰囲気下、CuKα線使用の条件で行った。その結果を図5に示す。図5(b)に示すように、比較例1では、2θ=17.38°、20.18°、20.44°、23.56°、23.96°、24.93°、26.96°、29.07°、29.58°、31.71°、32.66°、33.39°の位置にピークが現れた。これらのピークが、イオン伝導性の高い結晶相Aのピークであると考えられる。なお、イオン伝導性の低い結晶相Bのピークである2θ=27.33°±0.50°のピークは確認されなかった。また、比較例2~4および実施例1は、比較例1と同様の回折パターンを有することが確認された。
【実施例】
【0080】
(X線構造解析)
比較例1で得られた硫化物固体電解質材料の結晶構造をX線構造解析により同定した。XRDで得られた回折図形を基に直接法で晶系・結晶群を決定し、その後、実空間法により結晶構造を同定した。その結果、上述した図2のような結晶構造を有することが確認された。すなわち、四面体T(GeS四面体およびPS四面体)と、八面体O(LiS八面体)とは稜を共有し、四面体T(PS四面体)と、八面体O(LiS八面体)とは頂点を共有している結晶構造であった。また、上述したように実施例1は比較例1と同様の回折パターンを有することから、実施例1においても同様の結晶構造が形成されていることが確認された。
【実施例】
【0081】
(Liイオン伝導度測定)
実施例1および比較例1~4で得られた硫化物固体電解質材料を用いて、温度におけるLiイオン伝導度の変化を評価した。まず、アルゴン雰囲気のグローブボックス内で、試料を適量秤量し、ポリエチレンテレフタラート管(PET管、内径10mm、外径30mm、高さ20mm)に入れ、上下から、炭素工具鋼S45Cアンビルからなる粉末成型治具で挟んだ。次に、一軸プレス機(理研精機社製P-6)を用いて、表示圧力6MPa(成型圧力約110MPa)でプレスし、直径10mm、任意の厚さのペレットを成型した。次に、ペレットの両面に、金粉末(ニラコ社製、樹状、粒径約10μm)を13mg~15mgずつ乗せて、均一にペレット表面上に分散させ、表示圧力30MPa(成型圧力約560MPa)で成型した。その後、得られたペレットを、アルゴン雰囲気を維持できる密閉式電気化学セルに入れた。
【実施例】
【0082】
測定には、周波数応答解析装置FRA(Frequency Response Analyzer)として、ソーラトロン社製のインピーダンス・ゲインフェーズアナライザー(solartron 1260)を用い、恒温装置として小型環境試験機(Espec corp, SU-241, -40℃~150℃)を用いた。交流電圧10mV~1000mV、周波数範囲1Hz~10MHz、積算時間0.2秒、温度23℃の条件で、高周波領域から測定を開始した。測定ソフトにはZplotを用い、解析ソフトにはZviewを用いた。得られた結果を図6および表1に示す。
【実施例】
【0083】
【表1】
JP0006037444B2_000002t.gif
【実施例】
【0084】
図6および表1に示すように、実施例1(δ=0.5%)得られた硫化物固体電解質材料は、25℃では、比較例1(δ=0%)とほぼ同等のLiイオン伝導度を示し、さらに、0℃、-20℃、-30℃の低温環境下では、比較例1(δ=0%)よりも高いLiイオン伝導度を示した。
【符号の説明】
【0085】
1 … 正極活物質層
2 … 負極活物質層
3 … 電解質層
4 … 正極集電体
5 … 負極集電体
6 … 電池ケース
10 … 電池
図面
【図1】
0
【図3】
1
【図4】
2
【図5】
3
【図6】
4
【図2】
5