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明細書 :デバイス同士を同期する自律同期システム及び、自律同期方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2014-171019 (P2014-171019A)
公開日 平成26年9月18日(2014.9.18)
発明の名称または考案の名称 デバイス同士を同期する自律同期システム及び、自律同期方法
国際特許分類 H04L   7/00        (2006.01)
FI H04L 7/00 B
H04L 7/00 H
請求項の数または発明の数 14
出願形態 OL
全頁数 14
出願番号 特願2013-040751 (P2013-040751)
出願日 平成25年3月1日(2013.3.1)
発明者または考案者 【氏名】長谷川 幹雄
【氏名】安田 裕之
【氏名】本田 悠貴
【氏名】中尾 裕也
【氏名】堀尾 喜彦
【氏名】合原 一幸
出願人 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
個別代理人の代理人 【識別番号】100130111、【弁理士】、【氏名又は名称】新保 斉
審査請求 未請求
テーマコード 5K047
Fターム 5K047BB01
5K047GG57
5K047GG58
5K047HH15
要約 【課題】同期を行うべきデバイス同士が互いに通信することなく自律的に同期可能な自律同期システムであって、特に非結合非線形振動子の位相同期理論に基づく新しい同期方法を提供すること。
【解決手段】デバイス同士を同期する自律同期システムであって、複数のデバイスと、全てのデバイスが同時に配置され、所定の波動が各デバイスに対して伝播可能な範囲であるデバイス設置エリアとから構成される。デバイスには、所定の波動の波形を検出する波形検出手段と、コンピュータ上の非結合非線形振動子のモデルを有し、該波形の信号データを入力して演算する演算手段と、同期状態になるまで演算を行ったかを判定する同期判定手段と、同期された非結合非線形振動子の位相を抽出する同期位相抽出手段とを備える。
【選択図】図2
特許請求の範囲 【請求項1】
デバイス同士を同期する自律同期システムであって、
複数の該デバイスを、所定の波動が各デバイスに対して伝播可能な範囲に同時に配置し、
該デバイスにおいて、
該所定の波動の波形を検出する波形検出手段と、
検出した波形を入力する非結合非線形振動子の挙動を示す振動手段と、
同期された該振動手段の位相を抽出する同期位相抽出手段と
を備えたことを特徴とする自律同期システム。
【請求項2】
前記自律同期システムの前記デバイスにおいて、
前記振動手段として、
コンピュータ上の非結合非線形振動子のモデルを有し、該波形の信号データを入力して演算する演算手段と、
該演算手段に該波形の信号データの入力を続けて演算する過程で、同期状態になるまで演算を行ったかを判定する同期判定手段と
を有することを特徴とする自律同期システム。
【請求項3】
前記所定の波動が、前記デバイスの周囲の気体又は液体を媒質として伝播する波動である
請求項1又は2に記載の自律同期システム。
【請求項4】
前記各デバイスに、
前記波形検出手段により検出された波形の信号データから、所定の正規化処理を行う正規化処理手段を備え、
前記演算手段において正規化された信号データを用いて演算する
請求項2又は3に記載の自律同期システム。
【請求項5】
前記各デバイスに、
前記同期位相抽出手段による抽出結果に基づいて調整される計時手段を備え、
全てのデバイスの該計時手段が同期されるようにした
請求項1ないし4のいずれかに記載の自律同期システム。
【請求項6】
前記所定の波動が音波であって、
前記正規化処理手段では、該音波の振動数を計測し、そのグラフの平均値が0となるように差分をとったグラフに変換する正規化を行う
請求項4又は5に記載の自律同期システム。
【請求項7】
前記デバイスが、通信ネットワークにおけるノードであって、ネットワークを介した同期通信を行う
請求項1ないし6のいずれかに記載の自律同期システム。
【請求項8】
前記通信ネットワークにおけるノードが、センサ手段を備えたセンサノードであって、同期されたタイミングで取得した情報を送信する
請求項7に記載の自律同期システム。
【請求項9】
デバイス同士を同期する自律同期方法であって、
複数の全ての該デバイスを、所定の波動が各デバイスに伝播可能な範囲に配置した状態で、
各デバイスにおいて、該所定の波動の波形を検出する波形検出ステップ、
非結合非線形振動子の挙動を示す振動手段を用い、該検出した波形を入力する非結合非線形振動ステップ、
同期された該振動手段の位相を抽出する同期位相抽出ステップ
を有することを特徴とする自律同期方法。
【請求項10】
前記自律同期方法において、
前記非結合非線形振動ステップとして、
各デバイスの演算手段が、予め備えたコンピュータ上の非結合非線形振動子のモデルに対して該波形の信号データを入力して演算を行う演算ステップと、
各デバイスの同期判定手段が、該演算手段に該波形の信号データの入力を続けて演算する過程で、同期状態になるまで演算を行ったかを判定する同期判定ステップと、
を有する請求項9に記載の自律同期方法。
【請求項11】
前記所定の波動が、前記デバイスの周囲の気体又は液体を媒質として伝播する波動である
請求項9又は10に記載の自律同期方法。
【請求項12】
前記波形検出ステップの後に、
各デバイスの正規化処理手段が、該波形検出ステップで検出された波形の信号データから、所定の正規化処理を行う正規化処理ステップを有し、
前記演算ステップでは正規化された信号データを用いて演算する
請求項10に記載の自律同期方法。
【請求項13】
前記請求項1に記載の自律同期システムにおけるデバイスであって、
該所定の波動の波形を検出する波形検出手段と、
検出した波形を入力する非結合非線形振動子の挙動を示す振動手段と、
同期された該振動手段の位相を抽出する同期位相抽出手段と
を少なくとも備えたことを特徴とする自律同期システムのデバイス。
【請求項14】
前記自律同期システムにおけるデバイスであって、
前記振動手段として、
コンピュータ上の非結合非線形振動子のモデルを有し、該波形の信号データを入力して演算する演算手段と、
該演算手段に該波形の信号データの入力を続けて演算する過程で、同期状態になるまで演算を行ったかを判定する同期判定手段と
を有する請求項13に記載のデバイス。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、デバイス同士を同期する自律同期システム及び方法であって、特に所定の波動が伝播可能な範囲に同時に配置されるデバイスが、その波動に基づいて同期を行う技術に関する。
【背景技術】
【0002】
振動子は互いに結合した場合に同期現象を示すことが良く知られており、例えば、Huygensによる共通ビームに支えられた2つの振り子時計がある時間後には同期する現象がある。
一方で、結合のない非線形振動子を共通な入力ノイズのみによって同期させるNoise-Induced Synchronizationが近年注目されており、その理論研究が進められている。これは同一のノイズ信号やパルス信号を非結合状態にある複数の非線形振動子に入力することで振動子間の位相差が縮小し、最終的に同期するという現象であり、数理的にも証明されている。非特許文献1~10は本現象に関する先行研究である。
【0003】
発明者らは、この同期理論を応用することで、省電力化が求められる無線センサネットワークの同期を、センサが取得する情報のみで達成させる手法を提案してきた。すなわち、無線センサネットワークにおいては、間欠的な信号送受信を行うことで省電力化が可能となるが、そのためにはセンサノード間の同期が必要となる。しかし、同期達成のために信号の送受信を行うと、そのために電力を消費してしまう問題があった。
【0004】
非特許文献11では、Noise-Induced Synchronizationを適用することにより、通信をおこなわずに時刻同期を達成する手法を提案している。本文献において各センサノードがノイズとして用いるのは実環境信号であり、これを振動子に入力することで、近距離であれば通信せずにノード間の同期が達成できることが示されている。実環境信号の具体例としては、湿度、温度、大気圧を用いている。
【0005】
次いで、非特許文献12では、温度と湿度を実環境信号として用いる点では非特許文献11と共通するが、データの取得間隔が一定でない場合を想定してデータの入力方法について検討を行っている。従来の研究では、近隣同士のノードから取得された実環境信号が0.8以上の高い相互相関を示している場合に、それら実環境信号をノイズとして用いることが可能(非特許文献13)としていたが、本文献ではデータの区分平均や移動平均に用いるサンプルの時間数を適切に調整することで相互相関係数を高く保てるようにし、同期を確認した。
【0006】
特許文献において本発明に関連するものとしては、センサネットワークにおける親機と子機の時刻の同期方法を提案する特許文献1、高精度な同期方法を提案する特許文献2などが開示されているが、いずれもネットワークを用いて通信を行うものであり、ノードが自律して同期を行う手法ではない。
【先行技術文献】
【0007】

【特許文献1】特開2011-135498号公報
【特許文献2】特開2010-016576号公報
【0008】

【非特許文献1】A.T Winfree,“The Geometry of Biological Time”, Springer 2001年
【非特許文献2】Y. Kuramoto,“Chemical Oscillations, Waves, and Turbulence,” Dover, 2003年
【非特許文献3】W.Horsthemke and R.Lefever,“Noise-Induced Transitions” Springer,1983年
【非特許文献4】J. Teramae and D. Tanaka,“Robustness of the Noise-Induced PhaseSynchronization in a General Class of Limit Cycle Oscillators,” Physical Review Letters, vol. 93, 204103,2004年
【非特許文献5】H. Nakao, K. Arai, and Y.Kawamura, “Noise-Induced Synchronization and Clustering in Ensembles of Uncoupled Limit-CycleOscillators,” Phys. Rev.Lett. 98,184101 2007年
【非特許文献6】H. Nakao, K. Arai and K. Nagai,“Synchrony of limit-cycle oscillators inducedby random external impulses,” Physical Review E, vol. 72, 026220, 2005年
【非特許文献7】H. Nakao, K. Arai, K. Nagai, Y.Tsubo and Y. Kuramoto, “Synchrony of neural oscillators induced by random telegraphiccurrents,” PhysicalReview E, vol. 71, 036217,2005年
【非特許文献8】K. Arai and H. Nakao,“Phase coherence in an ensemble of uncoupledlimit-cycle oscillators receiving common Poisson impulses,” Physical Review E, vol. 77, 036218, 2008年
【非特許文献9】K. Arai and H. Nakao“, Reproducibility of limit-cycle oscillatorsinduced by random impulses,” Proc. of NOLTA, pp.295-298, 2006年
【非特許文献10】S. Hata, K. Arai, R. F. Galan andH. Nakao, “Optimal phaseresponse curves for stochastic synchronization of limit-cycle oscillators bycommon Poisson noise” Physical Review E, vol. 84, 016229, 2011年
【非特許文献11】安田裕之、高相一輝、長谷川幹雄 「Noise-InducedSynchronizationに基づいた実環境信号による無線センサネットワークの同期」電子情報通信学会技術研究報告. NLP, 非線形問題 111(106), 29-34, 2011年6月
【非特許文献12】安田裕之、原島惇、加藤智洋、長谷川幹雄、合原一幸 「環境信号による無線センサネットワーク自律同期手法におけるデータ入力の検討」 電子情報通信学会情報ネットワーク科学研究会・複雑コミュニケーションサイエンス研究会合同ワークショップ発表
【非特許文献13】M. Harashima, H. Yasuda and M.Hasegawa,“Synchronization of Wireless Sensor Networks using Natural Environmental SignalsBased on Noise-Induced Phase Synchronization Phenomenon,” Proc. IEEE VTC, 2012年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記の従来技術において、ネットワークを介して同期を行う手法では、同期のために電力を消費するため、特に省電力を要求されるセンサノードなどには適さない問題があった。これを解決する方法として、温度や湿度などの環境信号をノイズとして用い自律同期手法も提案しているが、使用可能な環境信号は限定されていた。また、このような従来想定していた環境信号ではデータの変異が長い時間をかけて生じるため、同期にかかる時間が長くなる問題もあった。
【0010】
本発明は、従来技術における問題点に鑑みて創出したものであり、同期を行うべきデバイス同士が互いに通信することなく自律的に同期可能な自律同期システムであって、特に非結合非線形振動子の位相同期理論に基づく新しい同期方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は上記課題を解決するために次の手段を用いる。
すなわち、請求項1に記載の発明によれば、少なくとも各々にコンピュータを備えたデバイス同士を同期する自律同期システムであって、複数のデバイスと、全てのデバイスが同時に配置する。そして、各デバイスには、所定の波動の波形を検出する波形検出手段と、検出した波形を入力する非結合非線形振動子の挙動を示す振動手段と、同期された振動手段の位相を抽出する同期位相抽出手段とを備えたことを特徴とする。
【0012】
請求項2に記載の発明は、上記の自律同期システムのデバイスにおいて、上記の振動手段として、コンピュータ上の非結合非線形振動子のモデルを有し、波形の信号データを入力して演算する演算手段と、演算手段に波形の信号データの入力を続けて演算する過程で、同期状態になるまで演算を行ったかを判定する同期判定手段とを有することを特徴とする
【0013】
請求項3に記載の発明のように、上記所定の波動が、デバイスの周囲の気体又は液体を媒質として伝播する波動である構成でもよい。
【0014】
請求項4に記載の発明によれば、各デバイスに、波形検出手段により検出された波形の信号データから、所定の正規化処理を行う正規化処理手段を備え、演算手段において正規化された信号データを用いて演算する上記の自律同期システムを提供することができる。
【0015】
請求項5に記載の発明によれば、各デバイスに、同期位相抽出手段による抽出結果に基づいて調整される計時手段を備え、全てのデバイスの計時手段が同期されるようにした上記の自律同期システムを提供することができる。
【0016】
請求項6に記載の発明によれば、所定の波動が音波であって、正規化処理手段では、音波の振動数を計測し、そのグラフの平均値が0となるように差分をとったグラフに変換する正規化を行うこともできる。
【0017】
請求項7に記載の発明によれば、デバイスが、通信ネットワークにおけるノードであって、ネットワークを介した同期通信を行う上記自律同期システムを提供することができる。
【0018】
請求項8に記載の発明によれば、通信ネットワークにおけるノードが、センサ手段を備えたセンサノードであって、同期されたタイミングで取得した情報を送信する上記自律同期システムを提供することができる。
【0019】
請求項9に記載の発明によれば、デバイス同士を同期する自律同期方法を提供することもできる。
本方法において、複数の全てのデバイスを、所定の波動が各デバイスに伝播可能な範囲に配置した状態で、各デバイスにおいて、所定の波動の波形を検出する波形検出ステップ、非結合非線形振動子の挙動を示す振動手段を用い、検出した波形を入力する非結合非線形振動ステップ、同期された振動手段の位相を抽出する同期位相抽出ステップを有することを特徴とする。
【0020】
請求項10に記載の発明によれば、上記の自律同期方法において、非結合非線形振動ステップとして、各デバイスの演算手段が、予め備えたコンピュータ上の非結合非線形振動子のモデルに対して波形の信号データを入力して演算を行う演算ステップと、各デバイスの同期判定手段が、演算手段に波形の信号データの入力を続けて演算する過程で、同期状態になるまで演算を行ったかを判定する同期判定ステップと、を有する。
【0021】
請求項11に記載の発明によれば、所定の波動が、前記デバイスの周囲の気体又は液体を媒質として伝播する波動である構成でもよい。
【0022】
請求項12に記載の発明によれば、上記の波形検出ステップの後に、各デバイスの正規化処理手段が、波形検出ステップで検出された波形の信号データから、所定の正規化処理を行う正規化処理ステップを有し、演算ステップでは正規化された信号データを用いて演算する構成でもよい。
【0023】
請求項13及び14に記載の発明によれば、上記の自律同期システムにおけるデバイスを提供することもできる。
【発明の効果】
【0024】
本発明は、以上の構成を備えることにより、次の効果を奏する。
まず、デバイスを設置したエリア内を伝播する任意の波動を用いて各デバイスを自律的に同期することができるので、従来とは全く異なる同期手法を提供することができる。特に、多様な波動を用いることができるので、伝播環境の媒質、波動の特性や、要求される同期精度に応じた波動を選択することができる。
【0025】
自律同期により、デバイス間の通信を行うことなく同期することができるので、省電力化、デバイスの簡素化にも寄与する。
さらに、本手法ではデバイス間を接続する通信ネットワークは必ずしも必要とせず、相互の通信機能がないデバイスにも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係る自律同期システムの構成図である。
【図2】本発明に係るデバイスの構成図である。
【図3】本発明に係る自律同期方法のフローチャートである。
【図4】相関係数と同期率との関係を示すグラフである。
【図5】接近した場所で測定した2つの音声信号の波形である。
【図6】音声波形から縦軸を振動数に変換したグラフである。
【図7】図6からさらに平均が0となるように変換したグラフである。
【図8】2つ音声波形から、実際に位相差を測定した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態を、図面に示す実施例を基に説明する。なお、実施形態は下記に限定されるものではない。
図1は本発明に係る自律同期システム(1)の構成図である。本システムには、所定の波動(10)が伝播可能な媒質(11)が満たされているデバイス設置エリア(12)の中に、複数のデバイス(13)が配置されている。

【0028】
ここで、デバイス設置エリア(12)は媒質(11)として空気が存在し、かつ任意の波動が伝播可能な一定範囲の空間である。デバイス設置エリアは、特定の部屋や建物など壁等で区切られた空間でもよいが、単に波動が伝播可能な範囲として定義できる空間としてもよい。
媒質としては、本実施例では空気とするが、任意の気体又は液体でもよく、さらに媒質がなくとも、電磁波を用いて本発明に適用することもできる。

【0029】
図2は本発明のデバイス(13)の構成図である。デバイス(13)には少なくともコンピュータを含み、機能によって波形検出部(130)、正規化処理部(131)、演算部(132)、同期判定部(133)、同期位相抽出部(134)、計時部(135)を実行処理するように構成している。

【0030】
本発明では上記構成を備えた複数のデバイス(13)がデバイス設置エリア(12)内に不規則に存在しており、これらのデバイスで検出したそれぞれの波動(10)を正規化し、本発明の同期モデルに入力して同期位相を検出するように構成している。
以下、図3に示すフローチャートを用いて説明する。

【0031】
本発明は、Noise-Induced Synchronizationをデバイス間の同期に応用することを提案する。同一のノイズ信号やパルス信号を非結合状態にある複数の非線形振動子に入力することで、振動子間の位相差が縮小し、最終的に同期するという現象である。
本現象については上記非特許文献1~10においても明らかにされており、ここでは簡単に説明する。

【0032】
一般的な振動子のダイナミクスは以下の微分方程式で表される。
【数1】
JP2014171019A_000003t.gif

【0033】
振動子はリミットサイクルを描くようパラメータ調整してあり、周期運動を示す。そこでダイナミクスの式を位相による表記に直すと以下のようになる。
【数2】
JP2014171019A_000004t.gif

【0034】
ここで2つの同一な非線形振動子に共通のノイズを入力した場合を考える。白色ガウスノイズξ(t)を入力した非線形振動子のダイナミクスは以下の式で表される。
【数3】
JP2014171019A_000005t.gif

【0035】
数2と同様に、位相による表記に数3を直すと次のようになる。
【数4】
JP2014171019A_000006t.gif

【0036】
ここで数4における
【数5】
JP2014171019A_000007t.gif
は、位相感受関数と呼ばれる。位相差が十分に小さいとし、位相差を、
【数6】
JP2014171019A_000008t.gif
のように定義した場合、位相差の線形成長率(平均リアプノフ指数)Λは以下のようになる。

【0037】
【数7】
JP2014171019A_000009t.gif
リミットサイクル上における位相差の線形成長率が負となるため、共通入力ノイズが十分に小さいとすれば、位相差は常に減少し続けることが分かる。

【0038】
本件発明者らは、非特許文献11,12において、ネットワークセンサの同期にNoise-Induced Synchronization現象を応用し、各ノードが取得した実環境信号を、ノード内で演算している各非線形振動子に対する入力信号として利用することで振動子を自律的に同期させることが可能なことを示している。

【0039】
一方、これらの従来の技術では温度や湿度など変化が比較的緩やかな実環境信号を用いるため、Noise-Induced Synchronization現象によって位相差が縮小するまでに時間がかかる問題があった。また、実環境信号には相互相関がある程度高くなければならないので、使用する実環境信号は相関の認められるデータを用いる必要がある。

【0040】
図4は、相関係数と同期率との関係を示すグラフである。本図から明らかなように、相関係数が0.8を超えると近似的に同期が可能であることが分かる。逆に言えば、Noise-Induced Synchronization現象で与えるノイズは完全に共通である必要はなく、ある程度の相関があれば良いと言うことができる

【0041】
本発明では、温度や湿度などに比して早く同期が行えると共に、同期を行うデバイスで取得の容易なデータとして、共通して伝播する波動を用いることを提案するものである。このような波動は、伝播する際の媒質やデバイスの位置によってそれぞれ異なる信号として伝播するため、従来手法で提案されている共通ノイズとも異なる。もちろん、波動ではない温度や湿度、気圧といった実環境信号とも異なる。

【0042】
本実施例では波動として音波を用いる場合で説明する。本デバイス(13)の波形検出部(130)は、公知のマイクを接続し、音声の波形を取得する。(S1:波形検出ステップ)。
接近した場所で測定した2つの音声信号の例を図5に示す。試しに実線と点線の2つの信号波形から相互相関を算出すると0.44であり、このままでは共通信号として用いることは困難である。

【0043】
そこで、正規化処理部(131)において相関係数を高めるような正規化処理(S2)を行う。図5の音声波形から、振幅が0となるポイントの数をカウントすることで振動数のグラフに変換する。その結果が図6である。
さらに、従来の手法でも提案していたのと同様に、振動子への入力強度を任意の値以下の範囲に収めるため、振動数の平均を0とする処理を行う。平均0にする方法としてデータ毎の差分を取る方法や、データから系列の平均を引く方法などを用いることができる。

【0044】
また、相互相関を高めるために図5のようなごく短時間のデータではなく、図6のようにある程度長い時間で区間平均を求める必要がある。
平均を0となるように変換した結果が図7である。このグラフから相互相関を算出すると0.92まで高められており、上述したように同期に十分な相関がとれていることが分かる。このように本発明は、一見すると同期に使えないような波動であっても、互いに伝播する空間で検出した波動の場合には正規化することで高い相互相関が得られることを見出したものである。
以上の変換処理により、本実施例による正規化処理(S2)が終了する。

【0045】
続く演算ステップ(S3)ではデバイス(13)の演算部(132)に上記の正規化されたデータを入力する。
本実施例において、非結合非線形振動子のモデルとしてFitzHugh-Nagumo振動子(FHN振動子)のモデルを用いる。FHN振動子は以下の式で表されるモデルである。

【0046】
【数8】
JP2014171019A_000010t.gif
なお、上記の数式中で、非線形振動子がリミットサイクルを描くようにパラメータには次の設定値を選択している。
ε=0.08,c=0.7, d=0.8, I=0.4, λ-0.25

【0047】
演算部(132)は予め格納された上記のモデルにデータを入力して演算を行う。この演算は同期するのに十分な程度の周期を行う必要があるので、本実施例では同期判定部(133)が必要な回数のデータを入力したか判定する。(S4:同期判定ステップ)。
必要な回数は予め準備段階において位相差を実測し、所定の位相差を下回った時を同期状態として、その時の入力回数から求めておくことができる。あるいは、同期までに時間的な余裕がある場合に、必要十分な周期を一律に定義しておいてもよい。
同期判定部(133)は周期に限らず、必要な時間分のデータを入力したか否かによって判定してもよい。

【0048】
本実施例では、非結合非線形振動子としてFHN振動子を用い、パラメータも適宜設定しているが、これらは任意に変更可能である。振動子モデルとしては公知のモデルを適用することができ、例えば、Van del Pol振動子や、Rossler振動子を用いてもよい。

【0049】
同期したと判定された状態の非線形振動子の位相を、同期位相抽出部(134)で抽出(S5)する。各デバイスでは、この位相を用いることで様々な同期に用いることができる。

【0050】
上記実施例では、コンピュータを用いて非結合非線形振動子の挙動をモデルとして同期された位相を計算上求める手法を使っていたが、実際の素子を用いた回路構成をデバイスに備えることもできる。
すなわち公知の振動手段として非結合非線形振動子をアナログ回路上に実装し、波形検出手段で検出した波形を振動子に直接入力する。この場合、この振動子の電気振動は同期するので、各デバイスのアナログ回路で抽出することができる。

【0051】
2つの異なる場所のマイクで取得した音声波形から、実際に位相差を測定した結果を図8に示す。図から明らかなように測定開始から徐々に時間差が短縮し、5000秒以降では1秒以下に収束する。この実験で用いた音声波形は、市街地の一般的な屋外環境であり、特別な音声を発生させたものではない。
このように、本発明の手法では一般環境下に存在する波動を利用してデバイス間の同期が十分に可能であることが示されている。

【0052】
同期位相抽出部(134)で抽出された非線形振動子の位相を用い、デバイス(13)に備えた計時部(135)の時刻を調整することもできる。時計のタイムベースを同期信号により調整する技術は公知であり、本発明はこのような公知技術と組み合わせてもよい。デバイス間(13)の同期が目的であるので、時刻を調整する必要はなく、例えば内蔵するパルス発生器を調整する構成でもよい。

【0053】
本発明は、任意のデバイスに適用することができる。同期を必要とする例として、通信ネットワークのノードが挙げられる。通信ネットワーク分野に適用することで、1日1回など定期的に通信を行う必要のあるノード同士でも、通信量を抑制しながら、正確な同期通信が可能となる。

【0054】
特に、センサネットワークにおけるセンサノードに適用することは好適である。無線センサノードは、省電力化が重要であり、電力消費を抑えるため間欠通信を行うことが多い。本発明をこれに適用し、同期しながら間欠通信を行うことで、正確な通信に寄与する。特に、センサノードの備えるセンサ手段が、波動を検出する構成であれば、本発明の波形検出手段と共用することができる。

【0055】
ネットワークのノードに限らず、自律型ロボット間の同期など玩具やエンターテインメント機器への応用も可能である。その他、タイミングを合わせたい様々なデバイス間の同期に適宜利用することができる。

【0056】
本発明の波動としては、デバイス設置エリアで伝播可能ないかなる波動を用いることもできる。上記のように音波を用いる場合、例えば鉄道や自動車の走行音、テレビ・ラジオ放送で受信機から出力される音声、構内放送でスピーカから出力される音声などを用いることもできる。

【0057】
また、海や湖沼の水面の波動を検出して用いることもできる。広範囲に伝播する波動として地震波を用いることもできる。これら自然界に存在する波動は、特に気象システムなどのセンサネットワークとの組み合わせにおいて好適である。
媒質としては空気などの気体に限らず水などの液体でもよい。水中のデバイス間の同期は無線によることが難しく、水中を伝播する音波や波動(内部波)によって同期することも可能である。

【0058】
本発明における波動は、原則としてデバイス設置エリアに自然に存在する波動、すなわち同期の為に特別に出された波動ではなく、デバイスの設置場所で元々存在していた波動を利用することを想定している。特定の波動源から出力される場合に限らず、街の騒音のように重畳的に波動が重なり合ったものでもよい。波動源にはデバイスのいずれか1つ又は複数のデバイスが含まれていてもよい。
なお、非結合非線形振動子に入力したときに各位相が速く同期するような波動を、同期を目的として出力してもよい。

【0059】
電磁波によって同期を行う構成でもよい。例えばラジオ放送の電波の振幅から放送エリアに含まれる広域のデバイスを一斉に同期することも可能である。本構成は既存の放送システムを利用し、しかも通常の放送番組を受信することで多数のデバイスの同期を実現できるので、極めて有用性の高い応用が可能である。

【0060】
赤外線や可視光線の波動によって同期を行うこともできる。例えば太陽光に含まれる赤外線成分を抽出し、その波動を用いた同期も可能である。
【符号の説明】
【0061】
13 デバイス
130 波形検出部
131 正規化処理部
132 演算部
133 同期判定部
134 同期位相抽出部
135 計時部
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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