TOP > 国内特許検索 > 電界効果トランジスタ、中間体 > 明細書

明細書 :電界効果トランジスタ、中間体

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5678129号 (P5678129)
公開番号 特開2013-211588 (P2013-211588A)
登録日 平成27年1月9日(2015.1.9)
発行日 平成27年2月25日(2015.2.25)
公開日 平成25年10月10日(2013.10.10)
発明の名称または考案の名称 電界効果トランジスタ、中間体
国際特許分類 H01L  29/786       (2006.01)
H01L  21/336       (2006.01)
H01L  51/05        (2006.01)
H01L  51/30        (2006.01)
FI H01L 29/78 617T
H01L 29/78 618B
H01L 29/78 626C
H01L 29/78 617V
H01L 29/28 100A
H01L 29/28 280
請求項の数または発明の数 13
全頁数 13
出願番号 特願2013-122140 (P2013-122140)
分割の表示 特願2009-548853 (P2009-548853)の分割、【原出願日】平成20年9月1日(2008.9.1)
出願日 平成25年6月10日(2013.6.10)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 第68回応用物理学会学術講演会講演予稿集、No.3、1334ページに発表
優先権出願番号 2008004629
2008004630
優先日 平成20年1月11日(2008.1.11)
平成20年1月11日(2008.1.11)
優先権主張国 日本国(JP)
日本国(JP)
審査請求日 平成25年7月10日(2013.7.10)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
【識別番号】000173809
【氏名又は名称】一般財団法人電力中央研究所
発明者または考案者 【氏名】竹谷 純一
【氏名】小野 新平
【氏名】関 志朗
個別代理人の代理人 【識別番号】100084412、【弁理士】、【氏名又は名称】永井 冬紀
【識別番号】100078189、【弁理士】、【氏名又は名称】渡辺 隆男
審査官 【審査官】岩本 勉
参考文献・文献 特開2003-303630(JP,A)
特開2004-080026(JP,A)
特表2009-507246(JP,A)
国際公開第2007/002989(WO,A1)
特開2005-209736(JP,A)
特表2006-507692(JP,A)
特開2007-180498(JP,A)
特開2005-285756(JP,A)
特開2007-149648(JP,A)
特開2007-142362(JP,A)
平原律雄,他4名,”弾性樹脂を用いた有機半導体単結晶/イオン液体界面の作製と電気二重層トランジスタ”,第68回応用物理学会学術講演会講演予稿集,社団法人応用物理学会,2007年 9月 4日,No.3,p.1334
Jiyoul LEE et al.,“Ion Gel Gated Polymer Thin-Film Transistors”,Journal of the American Chemical Society,米国,American chemical Society,2007年 3月24日,Vol.129,p.4532-4533
調査した分野 H01L 29/786
H01L 21/336
特許請求の範囲 【請求項1】
有機半導体層及びゲート絶縁層を備えた電界効果トランジスタであって、
ソース電極と、
ドレイン電極と、
前記ソース電極と前記ドレイン電極に接する有機半導体層と、
有機半導体層に隣り合ったゲート絶縁層と、からなり、
前記ゲート絶縁層は、室温で150mPas(ミリパスカル セカンド)以下の粘度を有する液状であって、
前記ゲート絶縁層は、イオン液体単独であるか、または、その主要成分がイオン液体であることを特徴とする電界効果トランジスタ。
【請求項2】
前記ゲート絶縁層は、前記有機半導体層とは、毛細管現象を示す所定の距離で隔てられていることを特徴とする請求項1に記載の電界効果トランジスタ。
【請求項3】
前記ゲート絶縁層は、前記電界効果トランジスタに前記毛細管現象により保持されていることを特徴とする請求項1または2のいずれか一項に記載の電界効果トランジスタ。
【請求項4】
ゲート電圧の変調周波数10Hzにおける静電容量の1/10に減少する周波数が10kHz以上であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の電界効果トランジスタ。
【請求項5】
前記有機半導体は、ルブレンまたはペンタセンであることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の電界効果トランジスタ。
【請求項6】
前記イオン液体を構成する陽イオンは、イミダゾリウム系陽イオン、ピリジニウム系陽イオン、アンモニウム系陽イオン、およびピラゾリウム系陽イオンから選択されることを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の電界効果トランジスタ。
【請求項7】
前記イオン液体を構成する陽イオンは、
1-methyl-3-methylimidazolium, 1-ethyl-3-methylimidazolium, 1-propyl-3-methylimidazolium,1-butyl-3-methylimidazolium,1-pentyl-3-methylimidazolium,1-hexyll-3-methylimidazolium,1-oxyl-3-methylimidazolium,1,2-dimethyl-3-propylimidazolium,1-methyl-1-propylpyrrolidinium,1-methyl-1-butylpyrrolidinium,1-butyl-1-methylpyrrolidinium,1-methyl-1-propylpiperidinium, trimethyl propyl ammonium, trimethyl octyl ammonium, trimethyl hexyl ammonium, trimethyl pentyl ammonium, and trimethyl butyl ammonium,1-ethyl-2,3,5-trimethylpyrazolium,1-butyl-2,3,5-trimethylpyrazolium,1-propyl-2,3,5-trimethylpyrazoliumから選択され、
前記イオン液体を構成する陰イオンは、
bis(trifluoromethanesulfonyl)imide,bis(fluorosulfonyl)imide,bis(perfluoroethylsulfonyl)imide, tetrafluoroborate, hexafluorophosphate, and dicyanoamineから選択されることを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載の電界効果トランジスタ。
【請求項8】
前記イオン液体は、EMI(CF3SO2)2N、即ち1-ethyl-3-methylimidazolium bis(trifluoromethanesulfonyl)imide、または、EMI(FSO2)2N、即ち、1-ethyl-3-methylimidazolium bis(fluorosulfonyl)imideのいずれかを用いることを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載の電界効果トランジスタ。
【請求項9】
前記イオン液体は、無機酸化物ナノ粒子を含んでいることを特徴とする請求項1~8のいずれか一項に記載の電界効果トランジスタ。
【請求項10】
前記ゲート絶縁層は、無機イオンを含んでいることを特徴とする請求項1~9のいずれか一項に記載の電界効果トランジスタ。
【請求項11】
前記イオン液体は、前記電界効果トランジスタに形成されたくぼみに保持されていることを特徴とする請求項1~10のいずれか一項に記載の電界効果トランジスタ。
【請求項12】
電界効果トランジスタを製造するための中間体であって、
定の深さのくぼみを表面に有する基板と、
前記基板の表面に、前記くぼみを挟んで対向してそれぞれ形成されたソース電極およびドレイン電極と、
前記くぼみの底面に形成されたゲート電極と、からなり、
前記くぼみの前記所定の深さは、前記電界効果トランジスタにおいて前記くぼみが半導体層に覆われることにより隙間を形成し、前記隙間に、室温で150mPas(ミリパスカル セカンド)以下の粘度を有し、その主要成分がイオン液体である液状電解液を充填した際、毛細管現象を示す程度の深さであることを特徴とする電界効果トランジスタを製造するための中間体。
【請求項13】
前記基板は弾性を有することを特徴とする請求項12に記載の電界効果トランジスタを製造するための中間体。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、有機半導体層及びゲート絶縁層を備えた有機電界効果トランジスタに関する。特に、本発明は、駆動電圧が低く、それでいて、電流増幅率が十分に高く、かつ、応答性が高い有機電界効果トランジスタに関するものである。本発明のトランジスタは、ソース電極-ドレイン電極間を流れる電流を増幅する増幅素子やその電流をON-OFFするスイッチング素子に使用される。
【背景技術】
【0002】
電界効果トランジスタは、ソース電極、ドレイン電極、これら電極に接触している半導体層、該半導体層に隣り合ったゲート絶縁層、及び、該ゲート絶縁層に接触しているゲート電極からなる。
【0003】
近年、半導体として無機ではなく有機半導体を用い、ゲート絶縁層として誘電体ではなく電解質を使用した有機電界効果トランジスタが盛んに研究されている。有機トランジスタは、軽く薄いだけでなく、柔らかいので曲げることができる利点を有している。そのため、有機トランジスタは、トランジスタの用途を広げる、と期待されている。
【0004】
そして、電解質として、ポリマーゲル(ポリエチレングリコール)にLiイオンを混ぜたポリマーゲル電解質を用いた研究が行われている。この場合、ポリマーゲルは糊剤又は増粘剤として機能する。そのため、ポリマーゲル電解質は、液状ではなくペースト状である。
【0005】
ポリマーゲル電解質に電圧を加えるとイオンの移動が起こり、電極から厚さ1nm程度の部分に、正あるいは負のイオンが蓄積されて両電荷のバランスが破れた層(電気二重層)ができると言われている。この層に注目すると、電界は半導体表面の厚さ1nm程度の所に集中し、ゲート電極とソース電極(又はドレイン電極)との間にわずか1V程度の電圧を印加しただけでも、この層には10MV/cmの大きな電界が印加されることになる。従って、このポリマーゲル電解質をトランジスタのゲート絶縁層に用いると、低い電圧でも、より高い電界が印加される。その結果、ゲート絶縁層により多くのキャリアが注入される。そのため、そのようなトランジスタは、駆動電圧が低くとも、電流増幅率が高くなる。
【0006】
そのような中で、ポリマーゲルにLiイオンの代わりにイオン液体(例えば、1-butyl-3-methylimidazolium hexafluorophosphate)を混ぜたポリマーゲル電解質IIをゲート絶縁層に用いた有機電界効果トランジスタが提案された(非特許文献1参照)。
【0007】

【非特許文献1】Jiyoul Lee et al, “Ion Gel Gated Polymer Thin-Film Transistors” J. Am. Chem. Soc. 129 (2007) 4532.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、ポリマーゲル電解質IIをゲート絶縁層に用いた有機電界効果トランジスタは、応答性が低く、また、電流増幅率が比較的高いものの未だ不十分であるという問題点を有する。
【0009】
本発明の目的は、低い駆動電圧、十分に高い電流増幅率及び高い応答性を備えた有機電界効果トランジスタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願請求項1の発明によれば、有機半導体層及びゲート絶縁層を備えた電界効果トランジスタであって、ソース電極と、ドレイン電極と、前記ソース電極と前記ドレイン電極に接する有機半導体層と、有機半導体層に隣り合ったゲート絶縁層と、からなり、ゲート絶縁層は、室温で150mPas(ミリパスカル セカンド)以下の粘度を有する液状であって、ゲート絶縁層は、イオン液体単独であるか、または、その主要成分がイオン液体である電界効果トランジスタを提供する。
【0011】
本願請求項2の発明によれば、ゲート絶縁層は、有機半導体層とは、毛細管現象を示す所定の距離で隔てられている請求項1に記載の電界効果トランジスタを提供する。
【0012】
本願請求項3の発明によれば、ゲート絶縁層は、電界効果トランジスタに毛細管現象により保持されている請求項1または2のいずれか一項に記載の電界効果トランジスタを提供する。
【0013】
本願請求項4の発明によれば、ゲート電圧の変調周波数10Hzにおける静電容量の1/10に減少する周波数が10kHz以上である請求項1~3のいずれか一項に記載の電界効果トランジスタを提供する。
【0014】
本願請求項5の発明によれば、有機半導体は、ルブレンまたはペンタセンである請求項1~4のいずれか一項に記載の電界効果トランジスタを提供する。
【0015】
本願請求項6の発明によれば、イオン液体を構成する陽イオンは、イミダゾリウム系陽イオン、ピリジニウム系陽イオン、アンモニウム系陽イオン、およびピラゾリウム系陽イオンから選択される請求項1~5のいずれか一項に記載の電界効果トランジスタを提供する。
【0016】
本願請求項7の発明によれば、イオン液体を構成する陽イオンは、
1-methyl-3-methylimidazolium, 1-ethyl-3-methylimidazolium, 1-propyl-3-methylimidazolium, 1-butyl-3-methylimidazolium, 1-pentyl-3-methylimidazolium, 1-hexyll-3-methylimidazolium, 1-oxyl-3-methylimidazolium, 1,2-dimethyl-3-propylimidazolium, 1-methyl-1-propylpyrrolidinium, 1-methyl-1-butylpyrrolidinium, 1-butyl-1-methylpyrrolidinium, 1-methyl-1-propylpiperidinium, trimethyl propyl ammonium, trimethyl octyl ammonium, trimethyl hexyl ammonium, trimethyl pentyl ammonium, and trimethyl butyl ammonium, 1-ethyl-2,3,5-trimethylpyrazolium, 1-butyl-2,3,5-trimethylpyrazolium, 1-propyl-2,3,5-trimethylpyrazoliumから選択され、
イオン液体を構成する陰イオンは、
bis(trifluoromethanesulfonyl)imide, bis(fluorosulfonyl)imide, bis(perfluoroethylsulfonyl)imide, tetrafluoroborate, hexafluorophosphate, and dicyanoamineから選択される請求項1~6のいずれか一項に記載の電界効果トランジスタを提供する。
【0017】
本願請求項8の発明によれば、イオン液体は、EMI(CF3SO2)2N、
即ち1-ethyl-3-methylimidazolium bis(trifluoromethanesulfonyl)imide、または、EMI(FSO2)2N、即ち、1-ethyl-3-methylimidazolium bis(fluorosulfonyl)imideのいずれかを用いる請求項1~6のいずれか一項に記載の電界効果トランジスタを提供する。
【0018】
本願請求項9の発明によれば、イオン液体は、無機酸化物ナノ粒子を含んでいる請求項1~8のいずれか一項に記載の電界効果トランジスタを提供する。
【0019】
本願請求項10の発明によれば、ゲート絶縁層は、無機イオンを含んでいる請求項1~9のいずれか一項に記載の電界効果トランジスタを提供する。
【0020】
本願請求項11の発明によれば、イオン液体は、電界効果トランジスタに形成されたくぼみに保持されている請求項1~10のいずれか一項に記載の電界効果トランジスタを提供する。
【0021】
本願請求項12の発明によれば、電界効果トランジスタを製造するための中間体であって、所定の深さのくぼみを表面に有する基板と、基板の表面に、くぼみを挟んで対向してそれぞれ形成されたソース電極およびドレイン電極と、くぼみの底面に形成されたゲート電極と、からなり、くぼみの所定の深さは、電界効果トランジスタにおいてくぼみが半導体層に覆われることにより隙間を形成し、隙間に、室温で150mPas(ミリパスカル セカンド)以下の粘度を有し、その主要成分がイオン液体である液状電解液を充填した際、毛細管現象を示す程度の深さであることを特徴とする電界効果トランジスタを製造するための中間体を提供する。

【0022】
本願請求項13の発明によれば、基板は弾性を有することを特徴とする請求項12に記載の電界効果トランジスタを製造するための中間体を提供する。

【0023】
本発明において使用される有機半導体としては、例えば以下に示すものが使用される。
(1)ペンタセン、テトラセン、アントラセンなどのオリゴアセン分子;
(2)ルブレン、テトラメチルペンタセン、テトラクロロペンタセン、ジフェニルペンタセンなどのオリゴアセン誘導体分子;
(3)セクシチオフェンなどオリゴチオフェン分子及びその誘導体分子;
(4)TCNQ(7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン)及びその誘導体分子;
(5)TTF(1,4,5,8-テトラチアフルバレン)及びその誘導体分子;
(6)ペリレン及びその誘導体分子;
(7)ピレン及びその誘導体分子;
(8)C60などフラーレン分子及びその誘導体分子;
(9)フタロシアニン及び銅フタロシアニンなどのメタルフタロシアニン分子及びその誘導体分子;
(10)ポルフィリン及び亜鉛ポルフィリンや鉄ポルフィリンなどのメタルポルフィリン分子及びその誘導体分子;
(11)BEDT-TTF(ビスエチレンジチオテトラチオフルバレン)及びその誘導体分子;

【0024】
本発明において使用される有機半導体としては、(1)~(11)の中で、ルブレン、ペンタセンが好ましい。
【0025】
イオン液体は室温で液状である。本発明では、イオン液体に糊剤や増粘剤を混ぜないで液状のイオン液体をその液状のままゲート絶縁層に使用する。もし、混ぜるとゲート絶縁層が液状にならず、ペースト状になってしまうからである。そのため、ゲート絶縁層は液状であり、外観上はオイルから水のような粘度を持つ。数値としては、150mPas(ミリパスカル セカンド)以下の粘度に相当する。これにより、高い応答性がトランジスタにもたらされる。ゲート絶縁層が液状であることの付加的な利点は、十分に高い電流増幅率をもたらすことである。ゲート絶縁層が液状であるので、有機半導体層の表面(実際には微細な凹凸がある)との接触が良くなり、電流増幅率が十分に高くなると推測される。イオン液体には、その液状を損ねない範囲で、性能(低い駆動電圧、十分に高い電流増幅率、高い応答性)を高める添加剤を添加又は溶解することは是である。そのような添加剤は、例えば、以下の通りである。
(1)酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化ケイ素、酸化チタンなどの無機酸化物のナノ粒子
(2)リチウムイオン、カリウムイオン、ナトリウムイオンなどの無機イオン
【0026】
本発明では、ゲート絶縁層が液状なので、ゲート絶縁層を形状保持するために、「くぼみ」や所定の隙間を用意することが好ましい。そのため、予め、毛細管現象を示す所定の深さを有する「くぼみ」を備えた基板を用意することが好ましい。この場合、前記基板は弾性を有することが好ましい。基板表面上に「くぼみ」を挟んで対向する位置にソース電極及びドレイン電極が形成される。この場合、ソース電極及びドレイン電極には表面に微細な凹凸が生じる。また、ソース電極及びドレイン電極の上に載置される有機半導体層の表面にも微細な凹凸がある。従って、有機半導体層をソース電極及びドレイン電極の上に載置することにより、半導体層とソース電極との間及び半導体層とドレイン電極との間をそれぞれ電気的に導通させた場合、どうしても、導通が悪い。ところが、弾性を有する基板を使用すると、電流増幅率が非常に高まるのである。おそらく、半導体層とソース電極との間及び半導体層とドレイン電極との間の密着性が高まるので、導通が良くなり、その結果、電流増幅率が非常に高まるものと推測される。
【発明の効果】
【0027】
本発明のトランジスタは、駆動電圧が低い。電圧が印加されると、ゲート絶縁層に電気二重層が形成されると推測される。更に、本発明のトランジスタは、電流増幅率が十分に高く、かつ、応答性が高い。応答性は、本発明においては、特定周波数(ゲート電圧の変調周波数10Hzにおける静電容量が1/10に減少する周波数)で評価する。特定周波数はゲート絶縁層の性能として測定するが、静電容量はトランジスタの構造によって変わるので、トランジスタの性能と言える。本発明では、この特定周波数をもってトランジスタの応答性を評価する。本発明のトランジスタは、特定周波数が10kHz以上と高く、即ち、応答性が高いのである。
【0028】
従来の有機電界効果トランジスタ(Aはポリマーゲル電解質を使用したもの、Bはポリマーゲル電解質IIを使用したもの)と本発明のトランジスタ(C)を性能比較すれば、以下のとおりである。
・A:低い駆動電圧(○)、低い電流増幅率(×)、低い応答性(×)
・B:低い駆動電圧(○)、高い電流増幅率(△)、低い応答性(×)
・C:低い駆動電圧(○)、十分に高い電流増幅率(○)、高い応答性(○)
(注:○は優れる、△は良い、×は良くない)
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】図1は、本実施例1に係る(デユアルゲート構造の)有機電界効果トランジスタの構造を示す概念図である。
【図2】図2は、ゲート電圧VGに対するドレイン電流IDSの変化を示すグラフである。
【図3】図3は、EMI(CF3SO2)2N及びEMI(FSO2)2Nの構造式を示す。
【図4】図4(a)は、実施例1の上側トランジスタ(本発明の一例)について、単位面積あたりの静電容量Cと周波数fとの関連を示すグラフである。図4(b)は、実施例1の上側トランジスタ(本発明の一例)及び従来例II(ポリマーゲル電解質IIを使用したトランジスタ)について、単位面積あたりの静電容量を10Hzにおける単位面積あたりの静電容量で規格化した値と周波数fとの関連を示すグラフある。
【図5】図5は、実施例2の有機電界効果トランジスタの構造を示す概念図である。(a)は平面を、(b)はA-A‘断面を示す。
【図6】図6は、実施例2のトランジスタの出力特性を示すグラフである。
【図7】図7は、実施例2のトランジスタの伝達特性を示すグラフである。
【符号の説明】
【0030】
1 下側ゲート電極(従来例)
2 下側ゲート絶縁層(従来例)
3 有機半導体層
4 ドレイン電極
5 ソース電極
6 ゲート絶縁層(本発明の一例)
7 ゲート電極(本発明の一例)
11 「くぼみ」を備えた基板
12 ゲート電極
13 ゲート絶縁層
14 ソース電極
15 ドレイン電極
16 有機半導体層
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、図面を引用して、本発明に係る電界効果トランジスタの好適な実施例を詳細に説明する。しかし、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0032】
まず、実施例1に係るデユアルゲートトランジスタの構造について説明する。図1は、このトランジスタの構造を示す概念図である。このトランジスタは、上下に2つのトランジスタがある。上側のトランジスタが本発明にかかるものである。下側のトランジスタは従来のものである。
【0033】
このトランジスタは、ドープシリコンからなる下側ゲート電極1、下側ゲート電極1上に形成されたSiO2からなる下側ゲート絶縁層2、下側ゲート絶縁層2上に形成された金のドレイン電極4、金のソース電極5、下側ゲート絶縁層2上に形成された有機ルブレン単結晶からなる有機半導体層3、有機半導体層3の上に形成されたイオン液体からなる(上側)ゲート絶縁層6、及び金線からなる(上側)ゲート電極7から構成される。
【0034】
下側ゲート電極1、下側ゲート絶縁層2、有機半導体層3、ドレイン電極4及びソース電極5で構成される下側の電界効果トランジスタは、従来と同様にSiO2をゲート絶縁層に使用している。
【0035】
それに対して、(上側)ゲート電極7、(上側)ゲート絶縁層6、有機半導体層3、ドレイン電極4及びソース電極5で構成される上側の電界効果トランジスタ(本発明の一例)は、イオン液体をゲート絶縁層に使用している。
【0036】
このように、イオン液体をゲート絶縁層の主要成分として用いることによって、上側のトランジスタは、ゲート電極7とソース電極5(又はドレイン電極4)との間にゲート電圧が印加されると、イオン液体—半導体界面に電気二重層が生じる。そのため、トランジスタを低電圧で駆動させることができる。また、ゲート絶縁層として通常よく用いられるSiO2(電解質ではなく誘電体)を使用したトランジスタに比べて、上側のトランジスタは、図2に示すように、低い駆動電圧で十分に多くの電流が流すことができる。即ち、電流増幅率が十分に高い。
【0037】
図2は、実施例1のトランジスタについて、ゲート電圧VGに対するドレイン電流IDSの変化を示すグラフである。●は、下側のトランジスタ(SiO2をゲート絶縁層に用いたもの)のグラフである。ドレイン電極-ソース電極間の電圧は、-1.0Vである。
【0038】
ここでは、イオン液体として、下記(1)又は(2)を使用した。
(1)EMI(CF3SO2)2N すなわち、
1-ethyl-3-methylimidazolium bis(trifluoromethanesulfonyl)imideと、
(2)EMI(FSO2)2N すなわち、
1-ethyl-3-methylimidazolium bis(fluorosulfonyl)imide
を用いた。なお、図3に上記EMI(CF3SO2)2NとEMI(FSO2)2Nの構造式を示す。
【0039】
図2に示すように、イオン液体(液状の電解質)をゲート絶縁層に用いると、SiO2をゲート絶縁層に用いた場合に比べ、低いスイッチング電圧VG(ゲート電極とソース電極との間の電圧)をゲート電極に印加するだけで、十分に大きな電流IDSを流すことができる。従って、トランジスタの消費電力が低減する。
【0040】
実施例1の上側のトランジスタは高い応答性(周波数応答性)を示す。図4(a)は、上側のトランジスタの応答性を示すグラフである。○はEMI(FSO2)2Nを用いたトランジスタで、●はEMI(CF3SO2)2Nを用いたトランジスタである。縦軸は、単位がF/cm2で、単位面積あたりの静電容量を表し、横軸は、単位がHzで、周波数を表す。
【0041】
図4(b)は、同じく応答性を示すグラフである。実線は、実施例1のEMI(FSO2)2Nを用いた上側トランジスタの応答性を示し、破線は、従来例II(ポリマーゲル電解質IIを使用したトランジスタ)のそれを示す。縦軸は、単位面積あたりの静電容量を10Hzにおける単位面積あたりの静電容量で規格化した値が単位であり、高周波における単位面積あたりの静電容量の変化量を表す。横軸は、単位がHzで、周波数を表す。
【0042】
両トランジスタについて、特定周波数を比較すると、以下の通りである。特定周波数が高いほど、トランジスタの応答性は高い。

実施例1:10MHz
従来例II: 1kHz

【0043】
本発明の効果のひとつである十分に高い電流増幅率は、高いキャリア移動度によってもたらされる。キャリア移動度は、図2の特性曲線の傾きを静電容量で割った値に相応する。従って、図2及び図4からEMI(CF3SO2)2NとEMI(FSO2)2Nを比較すると、EMI(CF3SO2)2Nのキャリア移動度がEMI(FSO2)2Nのキャリア移動度より高いことがわかる。すなわち、イオン液体のマイナスイオンの分子サイズが大きくなるとキャリア移動度は高くなることが分かる。
【0044】
ポリマーゲル電解質IIとの比較においても、実施例1の上側トランジスタは高いキャリア移動度を示す。特にイオン液体として、EMI(CF3SO2)2Nを用いた場合、キャリア移動度を5.0cm2/Vsとすることができる。それに対して、ポリマーゲル電解質IIを用いた場合、キャリア移動度は1.0cm2/Vsと低かった。
【実施例2】
【0045】
実施例1のように、ゲート絶縁層として液状のものを使用する場合には何らかの手段でそれをトランジスタ内に保持することが好ましい。そこで、実施例2では、ゲート絶縁層(液状)を形状保持する「くぼみ」構造を持つ有機電界効果トランジスタについて説明する。
【0046】
まず、その構造について、図5を引用して説明する。同図(a)は平面図を示し、同図(b)は図(a)に示すA-A’における断面図を示す。
【0047】
図5(b)に示すように、この有機電界効果トランジスタは、「くぼみ」を備えた基板11を有する。「くぼみ」は、所定の深さ(例えば、深さ0.1μm~100μm)を有し、「くぼみ」の底面にはゲート電極12が形成されている。「くぼみ」の中には、ゲート絶縁層13として機能するイオン液体が充填されている。
【0048】
基板11の表面には、「くぼみ」を挟んで対向する位置にソース電極14とドレイン電極15が金薄膜で形成されている。
【0049】
そして、「くぼみ」の上を大きめの有機半導体層(有機ルブレン単結晶)16が載置されている。従って、有機半導体層16の左端領域はソース電極14と接触し、同16の右端領域はドレイン電極15と接触し、これにより有機半導体層16とソース電極との間、有機半導体層16とドレイン電極15との間は、それぞれ電気的に導通が図られている。
【0050】
このような構造のトランジスタは、以下の手順で製造される。
まず、フォトレジストを塗布したシリコン基板を用意する。所定のマスクを介して紫外線を照射することにより、フォトレジストを所定パターンに露光する。これにより露光された部分のフォトレジストは硬化する。次いで、露光されなかった部分のフォトレジストを溶剤で溶解して除去する。これにより、フォトレジストに所定の孔があく。底面はシリコン基板が露出している。換言すれば、これにより、「くぼみ」ができる。この「くぼみ」の形状はほぼ直方体で、寸法は、例えば、幅0.1μm~1mm、長さ0.1μm~1mm、深さ0.1μm~100μmである。この「くぼみ」を有するシリコン基板が原型である。
【0051】
次にシリコンゴムの一種であるpoly-dimethylsiloxane(PDMS)のプレポリマーと硬化剤を用意する。このプレポリマーと硬化剤との混合液を原型の上に流し込み、次いで加熱して混合液を硬化させる。硬化すると、シリコンゴムが生じる。このシリコンゴムを原型から剥がすと、「くぼみ」を備えた基板11が得られる。この基板11はシリコンゴムでできているので、弾性がある。
【0052】
次に「くぼみ」及びその周辺にクロムその上に金を順にマスク蒸着することにより、ゲート電極12、ソース電極14及びドレイン電極15を作成する。それから、「くぼみ」より大きい有機半導体層(有機ルブレン単結晶)16を「くぼみ」を覆うように載置する。これで、「くぼみ」が隙間に変わり、所定の隙間が形成される。この隙間は毛細管現象を示す。
【0053】
最後にこの隙間にイオン液体を充填することによりゲート絶縁層13を形成する。イオン液体は毛細管現象を示す隙間にいるので、毛管力(キャピラリーフォース)により隙間にとどまる。その意味で、隙間は開放系のままであっても良い。しかし、耐久性など実用性を考えると、隙間は封止して密閉系に変えることが好ましい。こうして、有機電界効果トランジスタが製造される。
【0054】
なお、有機半導体層16を載置するだけで、ソース電極14、ドレイン電極15との接触ができ、これにより有機半導体層16とソース電極14との間及び有機半導体層16とドレイン電極15との間を電気的に導通させる方法は、既に例えば、特開2005-268715号公報に開示されている。実施例2では、基板11がシリコンゴム製なので、有機半導体層16を機械的に押し付けると、前記接触が良好になる。
【0055】
実施例2に係るトランジスタの出力特性を図6に、伝達特性を図7に示す。図6のグラフは、図5のソース電極14とドレイン電極15の間にドレイン電圧(V)を印加した際の、ソース電極14とドレイン電極15との間を流れる電流(I)の変化(出力特性)を示す。この結果から、低い駆動電圧及び十分に高い電流増幅率が示唆される。図7のグラフは、図5のゲート電極12とドレイン電極15との間にゲート電圧(V)を印加した際の、ソース電極14とドレイン電極15との間を流れる電流(I)の変化(伝達特性)を示す。この結果から、低い駆動電圧及び十分に高い電流増幅率が示唆される。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明に係る有機電界効果トランジスタは、低い駆動電圧で動作し、それでいて、十分に高い電流増幅率及び高い応答性を示す。そのため、本発明のトランジスタは、増幅素子やスイッチング素子に使用される。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6