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明細書 :乳癌乳房温存療法後の局所再発リスクの予測に用いるための診断薬並びに予測方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6202362号 (P6202362)
公開番号 特開2014-169917 (P2014-169917A)
登録日 平成29年9月8日(2017.9.8)
発行日 平成29年9月27日(2017.9.27)
公開日 平成26年9月18日(2014.9.18)
発明の名称または考案の名称 乳癌乳房温存療法後の局所再発リスクの予測に用いるための診断薬並びに予測方法
国際特許分類 G01N  33/574       (2006.01)
G01N  33/53        (2006.01)
G01N  33/48        (2006.01)
C07K  16/32        (2006.01)
C07K  16/28        (2006.01)
FI G01N 33/574 A
G01N 33/53 Y
G01N 33/48 P
C07K 16/32
C07K 16/28
請求項の数または発明の数 7
全頁数 18
出願番号 特願2013-041644 (P2013-041644)
出願日 平成25年3月4日(2013.3.4)
審査請求日 平成28年3月2日(2016.3.2)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
発明者または考案者 【氏名】佐邊 壽孝
【氏名】橋本 茂
【氏名】橋本 あり
【氏名】小野寺 康仁
【氏名】白土 博樹
【氏名】木下 留美子
個別代理人の代理人 【識別番号】110000109、【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
審査官 【審査官】赤坂 祐樹
参考文献・文献 特開2006-067968(JP,A)
米国特許出願公開第2011/0071042(US,A1)
佐邊 壽孝,乳癌の発癌初期段階からの全身播種の分子機構とその予測バイオマーカー,JMTO Newsletter,2012年 9月,No. 14,2-3頁
SABE H et al.,The EGFR-GEP100-Arf6-AMAP1 Signaling Pathway Specific to Breast Cancer Invasion and Metastasis,Traffic,2009年 8月,10(8),982-993
調査した分野 G01N 33/48-33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
乳癌乳房温存療法後の局所再発リスクの予測に用いるためのキットであって、
以下の(i)~(ii)の組合せのいずれかの2つの遺伝子の翻訳産物のそれぞれを特異的に検出できるタンパク質及び/又はポリペプチドを含有する2つの診断薬を含む、キット:
(i)AMAP1及びGEP100、並びに
(ii)EBL5及びC-Met
【請求項2】
上記タンパク質及び/又はポリペプチドが、抗体及び/又はその断片である、請求項1に記載のキット。
【請求項3】
患者の乳癌乳房温存療法後の局所再発リスクを予測するために、
乳癌乳房温存療法を受けた患者から採取した生体試料において、以下の(i)~(ii)の組合せのいずれかの2つの遺伝子の翻訳産物発現レベルをそれぞれ決定すること
含む、乳癌乳房温存療法後の局所再発リスクを予測するための方法
(i)AMAP1及びGEP100、並びに
(ii)EBL5及びC-Met
【請求項4】
上記生体試料が乳房組織である、請求項に記載の方法。
【請求項5】
上記2つの遺伝子の翻訳産物発現レベルが、それら遺伝子の翻訳産物をそれぞれ特異的に認識可能なタンパク質及び/又はポリペプチドを用いた免疫組織化学法により決定される、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
上記タンパク質及び/又はポリペプチドが抗体及び/又はその断片である、請求項に記載の方法。
【請求項7】
前記患者の乳癌乳房温存療法後の局所再発リスクを予測するために用いられる判断基準は、以下の(i)及び(ii)である、請求項3~6の何れか1項に記載の方法:
(i)決定した上記2つの遺伝子の翻訳産物発現レベルの全てが、対応する対照の発現レベルよりも高い場合には、上記患者は乳癌の局所再発リスクが高い;
(ii)決定した上記2つの遺伝子の翻訳産物発現レベルのうち一つでも、対応する対照の発現レベルよりも低いか、若しくは同等である場合には、上記患者は乳癌の局所再発リスクが低い。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、乳癌乳房温存療法後の局所再発リスクの予測に用いるための診断薬及びキット、並びに乳癌乳房温存療法後の局所再発リスクを予測する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、早期乳癌の治療においては、乳房温存療法(Breast conservation therapy;BCT)が広く承認された標準的な治療方法として確立されている(非特許文献1-3)。乳房温存療法は、腫瘍摘出術、及びそれに続く乳房全体への放射線照射療法、並びに化学療法やホルモン療法等の補助療法からなる治療法である。乳房温存療法は、患者の生活の質(Quality of life)をも考慮して、文字通り乳房を可能な限り温存することを目的とするものである。その治療法は、乳腺内の視認可能な病巣部だけを外科手術により切除し、組織生検により病巣部の取り残しが無いことを確認しつつ、細胞レベルで取り残した病巣部位は術後の放射線照射により根絶し、さらに乳房以外に存在し得るかもしれない微小転移巣は補助療法により根絶すると云う原理に基づく。しかしながら、このような原理に基づく乳癌温存療法であっても、8.8~20%の患者に乳房内局所再発が見られるのが現状である(非特許文献1-3)。
【0003】
過去の報告によれば、年齢、Ki-67抗原レベル、細胞増殖の核マーカー等の幾つかの因子が、乳癌温存療法後の局所再発に関するリスク因子として確認されている(非特許文献4)。さらに、乳癌の遺伝子発現シグナチュアに基づいて分類される、乳癌の5つの分子サブタイプ(即ち、"Luminal A-like"、"Luminal B-like"、"HER2-enriched"、"basal-like"及び"normal-like")に応じて、乳癌温存療法後の再発頻度が変化することも報告されている(非特許文献5及び6)。さらに、外科手術による切除断端の状態(margin status)、結節状態(nodal status)、及び腫瘍悪性度(tumor grade)も、乳癌温存療法後の局所再発の頻度に相関することが報告されている(非特許文献7及び8)。
【0004】
さらに、乳癌の遠隔転移及び全生存率の予測に関する臨床病理学的評価に有用であるとされる、70遺伝子のクラスターからなる遺伝子発現シグナチュアに基づく乳癌再発診断法「マンマプリント」"MammaPrint"(Agendia社、アムステルダム、オランダ)が開発されており、この診断法は米国食品医薬品局に承認されている(非特許文献9、10及び11)。一方、「マンマプリント」では局所再発は予測できないこと(正答率18%)も示されている(Kreike et al., Clin Cancer Res 15: 4181-4190, 2009)。
【0005】
遺伝子発現プロファイルのデータセットを解析することにより、傷応答性シグナチュア(wound-response signature)(非特許文献12)が、乳癌温存療法後の局所再発に有意に相関することも報告されている(非特許文献13)。しかし、このシグナチュアはその後、同一研究グループにより否定されている (Kreike et al., Clin Cancer Res 15: 4181-4190, 2009)。
【先行技術文献】
【0006】

【非特許文献1】Fisher B, Anderson S, Bryant J, et al: Twenty-year follow-up of a randomized trial comparing total mastectomy, lumpectomy, and lumpectomy plus irradiation for the treatment of invasive breast cancer. N Engl J Med 347:1233-41, 2002
【非特許文献2】Veronesi U, Cascinelli N, Mariani L, et al: Twenty-year follow-up of a randomized study comparing breast-conserving surgery with radical mastectomy for early breast cancer. N Engl J Med 347:1227-32, 2002
【非特許文献3】Van Dongen JA, Voogd AC, Fentiman IS, et al: Long-term results of a randomized trial comparing breast-conserving therapy with mastectomy: European Organization for Research and Treatment of Cancer 10801 trial. J Natl Cancer Inst 92:1143-50, 2000
【非特許文献4】Elkhuizen PH, Voogd AC, van den Broek LC, et al: Risk factors for local recurrence after breast-conserving therapy for invasive carcinomas: a case-control study of histological factors and alterations in oncogene expression. Int J Radiat Oncol Biol Phys 45:73-83, 1999
【非特許文献5】Nguyen PL, Taghian AG, Katz MS, et al: Breast cancer subtype approximated by estrogen receptor, progesterone receptor, and HER-2 is associated with local and distant recurrence after breast-conserving therapy. J Clin Oncol 26:2373-8, 2008
【非特許文献6】Millar EK, Graham PH, O'Toole SA, et al: Prediction of local recurrence, distant metastases, and death after breast-conserving therapy in early-stage invasive breast cancer using a five-biomarker panel. J Clin Oncol 27:4701-8, 2009
【非特許文献7】Jones HA, Antonini N, Hart AA, et al: Impact of pathological characteristics on local relapse after breast-conserving therapy: a subgroup analysis of the EORTC boost versus no boost trial. J Clin Oncol 27:4939-47, 2009
【非特許文献8】Kunkler IH, Kerr GR, Thomas JS, et al: Impact of screening and risk factors for local recurrence and survival after conservative surgery and radiotherapy for early breast cancer: results from a large series with long-term follow-up. Int J Radiat Oncol Biol Phys 83:829-38, 2012
【非特許文献9】van de Vijver MJ, He YD, van't Veer LJ, et al: A gene-expression signature as a predictor of survival in breast cancer. N Engl J Med 347:1999-2009, 2002
【非特許文献10】van 't Veer LJ, Dai H, van de Vijver MJ, et al: Gene expression profiling predicts clinical outcome of breast cancer. Nature 415:530-6, 2002
【非特許文献11】Buyse M, Loi S, van't Veer L, et al: Validation and clinical utility of a 70-gene prognostic signature for women with node-negative breast cancer. J Natl Cancer Inst 98:1183-92, 2006
【非特許文献12】Chang HY, Nuyten DS, Sneddon JB, et al: Robustness, scalability, and integration of a wound-response gene expression signature in predicting breast cancer survival. Proc Natl Acad Sci U S A 102:3738-43, 2005
【非特許文献13】Nuyten DS, Kreike B, Hart AA, et al: Predicting a local recurrence after breast-conserving therapy by gene expression profiling. Breast Cancer Res 8:R62, 2006
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述の通り、非特許文献4~8には、乳癌温存療法後の局所再発に関するリスク因子各種が記載されているものの、これらリスク因子に基づいて臨床の現場に応用出来る乳癌温存療法後の局所再発リスクを予測することは出来なかった(上述)。
【0008】
さらに、非特許文献9~11に記載される乳癌再発診断法は、乳癌の再発一般を対象にするものであって、特に乳癌温存療法後における局所再発の予測を可能にする技術では無い。
さらに、非特許文献12及び13に記載の技術については、それ以降、大規模な患者群に基づく臨床試験の調査もされておらず、その有用性は定かではない。
【0009】
そこで、本発明の課題は、乳癌の温存療法後における局所再発リスクを予測できる予測診断薬並びに予測方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、Arf6経路に属する特定の遺伝子群のうち少なくとも2以上の遺伝子の共発現が乳癌温存療法後における局所再発に有意に相関することを見出した。本発明は、係る知見により完成されたものである。
【0011】
即ち、本発明は以下に関する。
【0012】
〔1〕 乳癌乳房温存療法後の局所再発リスクの予測に用いるための診断薬であって、
AMAP1、GEP100、EBL5、及びc-Metからなる群から選択されるいずれか1つの遺伝子の翻訳産物を特異的に認識可能なタンパク質及び/又はポリペプチドを含有する、診断薬。
〔2〕 上記タンパク質及び/又はポリペプチドが、抗体及び/又はその断片である、〔1〕に記載の診断薬。
〔3〕 乳癌乳房温存療法後の局所再発リスクの予測に用いるためのキットであって、〔1〕又は〔2〕に記載の診断薬を含む、キット。
〔4〕 上記診断薬が、以下の(i)~(ii)の組合せのいずれかの2つの遺伝子の翻訳産物のそれぞれを特異的に検出できる2つの診断薬を含む、〔3〕に記載のキット:
(i)AMAP1及びGEP100、並びに
(ii)EBL5及びC-Met。
〔5〕 (A)乳癌乳房温存療法を受けた患者から採取した生体試料において、AMAP1、GEP100、EBL5、及びc-Metから成る群から選択される少なくとも2つの遺伝子の翻訳産物発現レベルをそれぞれ決定すること;並びに
(B)工程(A)において決定した翻訳産物発現レベルに基づいて、上記患者の乳癌乳房温存療法後の局所再発リスクを予測すること、
を含む、乳癌乳房温存療法後の局所再発リスクを予測する方法。
〔6〕 工程(A)における上記少なくとも2つの遺伝子が以下の(i)~(ii)の組合せの何れかである、〔5〕に記載の方法:
(i)AMAP1及びGEP100、並びに
(ii)EBL5及びC-Met。
〔7〕 上記生体試料が乳房組織である、〔5〕又は〔6〕に記載の方法。
〔8〕 工程(A)において、上記少なくとも2つの遺伝子の翻訳産物発現レベルが、それら遺伝子の翻訳産物をそれぞれ特異的に認識可能なタンパク質及び/又はポリペプチドを用いた免疫組織化学法により決定される、〔5〕から〔7〕の何れかに記載の方法。
〔9〕 上記タンパク質及び/又はポリペプチドが抗体及び/又はその断片である、〔8〕に記載の方法。
〔10〕工程(A)において、上記患者の非癌性乳房組織における上記少なくとも2つの遺伝子の翻訳産物それぞれの発現レベルを対照として上記生体試料における上記少なくとも2つの遺伝子の翻訳産物発現レベルを決定し、かつ工程(B)において、以下の判断基準により上記患者の乳癌乳房温存療法後の局所再発リスクを予測する、〔5〕から〔9〕の何れかに記載の方法:
(i)工程(A)において決定した上記少なくとも2つの遺伝子の翻訳産物発現レベルの全てが、対応する対照の発現レベルよりも高い場合には、上記患者は乳癌の局所再発リスクが高いと予測する;又は
(ii)工程(A)において決定した上記少なくとも2つの遺伝子の翻訳産物発現レベルのうち一つでも、対応する対照の発現レベルよりも低いか、若しくは同等である場合には、上記患者は乳癌の局所再発リスクが低いと予測する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、乳癌温存療法後における局所再発リスクを精度良く予測可能である。その結果、乳癌局所再発リスクを考慮した治療計画の決定が可能になり、乳癌温存療法後における局所再発を効果的に防止することが可能となる。また、従来の乳癌温存療法においては病変部位の生検組織試料に基づく病理診断が為されている。本発明によれば、その病理診断と同時に、それら生検組織試料において所定の遺伝子翻訳産物の発現を検出すれば実施可能である。そのため、本発明によれば、患者への負担も少なく、かつ簡便に乳癌温存療法後における局所再発リスクを予測することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例において取得した免疫組織化学染色の顕微鏡写真を示す図である。
【図2】実施例において取得した免疫組織化学染色の顕微鏡写真を示す図である。
【図3】AMAP1及びGEP100の共発現と乳癌乳房温存療法の完了から局所再発までの期間との相関関係を調べた結果を示す図である。
【図4】c-MET及びEBL5の共発現と乳癌乳房温存療法の完了から局所再発までの期間との相関関係を調べた結果を示す図である。
【図5】各種パラメータと乳癌乳房温存療法の完了から局所再発までの期間との相関関係を調べた結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
診断薬
本発明の一の態様によれば、乳癌乳房温存療法後の局所再発リスクの予測に用いるための診断薬であって、AMAP1、GEP100、EBL5、及びc-Metからなる群から選択されるいずれか1つの遺伝子の翻訳産物を特異的に認識可能なタンパク質及び/又はポリペプチドを含有する、診断薬が提供される。

【0016】
本発明において、「乳癌乳房温存療法」とは、乳房温存療法腫瘍摘出術とそれに続く乳房全体への放射線照射療法を含む治療法である。より具体的には、乳癌乳房温存療法は、乳腺内の視認可能な病巣部だけを外科手術により切除し、組織生検により病巣部の取り残しが無いことを確認しつつ、上記外科手術後に病巣側乳房全体に予防的処置としての放射線照射療を行う療法であり得る。加えて、乳癌乳房温存療法は、任意に化学療法やホルモン療法等の補助療法も含み得る。乳癌乳房温存療法は、文字通り乳房を温存することにより患者の生活の質(Quality of life)を向上させることを目的とするものであり、当該技術分野において早期乳癌に対して広く承認された標準的な治療方法である。

【0017】
本発明において、「局所再発リスク」とは、乳癌乳房温存療法を受けた患者が、当該治療の完了後に乳房内に癌を再発するリスクを意味する。局所再発リスクは、乳癌乳房温存療法を受けた後、例えば、5年以内の早期再発リスクを主に意味する。但し、乳癌乳房温存療法を受けた後5年を超え、10年以内の中期再発リスク、あるいは10年を超える後期再発リスクを含み得る。

【0018】
「局所再発リスクの予測」の方法については、「予測方法」において後述する。
本発明の治療薬が、乳癌乳房温存療法後の局所再発リスクの予測に用いることができることは、後述する実施例で示される通り、乳癌乳房温存療法を受け、かつその後乳癌が局所再発した患者群において、乳房組織で特定遺伝子の組合せの翻訳産物発現が見られる患者は、乳房組織で当該特定遺伝子の組合せの翻訳産物発現が見られない患者と比較して、統計的に乳癌乳房温存療法後、比較的早期(例えば、5年以内)に乳癌が局所再発する事が統計的有意さを持って示される。特定遺伝子の組合せとは、具体的には、AMAP1、GEP100、EBL5、及びc-METから成る群から選択される少なくとも2つの遺伝子であり、特にAMAP1及びGEP100の組合せ、又はEBL5及びc-Metの組合せの組合せで翻訳産物発現が見られる患者は統計的有意さを持って局所再発するリスクが高い。即ち、乳癌乳房温存療法後の局所再発リスクを予測する方法について後述する通り、乳房組織において上記遺伝子の組合せの翻訳産物の発現が一定レベルで認められる場合、当該患者は乳癌乳房温存療法後に乳癌を早期に局所再発するリスクが高いと予測される。このように、本発明において「乳癌乳房温存療法後の局所再発リスクの予測」とは、乳房組織における上記特定遺伝子の組合せの翻訳産物の発現を検出することを前提としていることから、当該予測に用いるための本発明の診断薬は、具体的にはそれら遺伝子翻訳産物の検出に用いるための試薬であって、AMAP1、GEP100、EBL5、及びc-Metからなる群から選択されるいずれか1つの遺伝子の翻訳産物を特定的に認識可能なタンパク質及び/又はポリペプチドを含有するものである。

【0019】
遺伝子AMAP1(GeneID:50807)は、癌浸潤におけるArf6の下流エフェクターである。
遺伝子GEP100(GeneID:9922)は、癌浸潤におけるArf6活性化因子である。
遺伝子EPB41L5(略称EBL5)(GeneID:57669)は、癌浸潤におけるAMAP1の結合パートナーであり、浸潤仮足形成に必須である。
遺伝子c-Met(GeneID:4233)は、癌浸潤においてTGFβ1によってトランス活性化され、GEP100を活性化する細胞表面受容体である。自身のリガンドである、HGFによっても直接活性化され、浸潤を促す。

【0020】
上記遺伝子の翻訳産物を特異的に認識可能なタンパク質及び/又はポリペプチドとは、上記遺伝子のうち一の遺伝子の翻訳産物に特異的に結合し得るものであれば特に限定されるものでは無いが、例えば、当該翻訳産物に対する抗体及び/又はその断片が挙げられる。抗体及び/又はその断片としては、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、一本鎖抗体、ヒト化抗体等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。上記遺伝子の翻訳産物を特異的に認識可能なタンパク質及びポリペプチドの調製方法については、遺伝子翻訳産物に対する特異的結合を保持し得る限り、どのような方法も採用し得るが、当該遺伝子翻訳産物となるタンパク質及び/又はその断片を抗原として、公知の手法により所望のポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、一本鎖抗体、ヒト化抗体等を調製することが出来る。

【0021】
さらに、本発明の診断薬においては、単一の診断薬に、上記遺伝子のうち1つの遺伝子の翻訳産物を特異的に認識可能なタンパク質又はポリペプチド1つのみが含まれていてもよいし、或いは上記遺伝子の翻訳産物それぞれをそれぞれ特異的に認識可能な2以上のタンパク質及び/又はポリペプチドが含まれていてもよい。加えて、上記タンパク質及び/又はポリペプチドは、遺伝子翻訳産物の検出のために、標識物質で標識されていてもよく、標識物質としては、蛍光物質(例えば、GFP等の蛍光タンパク質、並びにフルオロセイン等の蛍光低分子化合物を含む)等が挙げられる。但し、これら標識物質による標識を有する物に限定される意図ではない。本発明の診断薬において上記タンパク質及び/又はポリペプチドが標識されていない場合には、当該遺伝子の翻訳産物の最終的な検出には、それらタンパク質及び/又はポリペプチド(一次抗体)に結合する二次抗体を用いたシステムを用いることができる。このような二次抗体を用いたシステムには市販の検出キットがあり、例えば、一次抗体に対する二次抗体がペルオキシダーゼで標識されており、試料中で目的遺伝子翻訳産物に特異的に結合した一次抗体にさらに上記二次抗体を特異的に結合させ、ペルオキシダーゼの発色基質となる3,3'-ジアミノベンジジンテトラヒドロクロライドを当該試料に添加して発色を観察することにより遺伝子翻訳産物の検出することが出来る。さらに、本発明において、1つの診断薬に、上記遺伝子の翻訳産物それぞれをそれぞれ特異的に認識可能な2以上のタンパク質及び/又はポリペプチドが含まれていている場合には、例えば、それら2以上のタンパク質及び/又はポリペプチドをそれぞれ異なる波長の蛍光を発する異種の蛍光物質で標識しておけば、同一試料において目的の遺伝子翻訳産物それぞれを検出することが出来る。

【0022】
診断薬は、任意に、緩衝剤、防腐剤、凍結防止剤等を含み得る。緩衝剤としては、例えば、トリス塩酸塩、リン酸カリウム、リン酸ナトリウム等を挙げることかできる。防腐剤としては、例えば、アジ化ナトリウム等を挙げることができる。凍結防止剤としては、例えば、グリセロール等を挙げることができる。

【0023】
本発明の診断薬は、後述する乳癌温存療法後の局所再発リスクを予測する方法の工程(A)において、所定の遺伝子翻訳産物の発現レベルを決定するために当該遺伝子の翻訳産物を検出するのに用いることができる。

【0024】
キット
本発明の別の態様によれば、乳癌乳房温存療法後の局所再発リスクの予測に用いるためのキットであって、上述の診断薬を含む、キットが提供される。

【0025】
本発明のキットは、以下の乳癌乳房温存療法後の局所再発リスクを予測する方法を実施する上で用いられ得る試薬及び部材等の要素をキットとして提供するものであり、上記診断薬を含むことを特徴とする。

【0026】
本発明のキットにおいては、本発明の診断薬が、(1)単一の診断薬において、AMAP1、GEP100、EBL5、及びc-METのうち1つの遺伝子の翻訳産物を特異的に認識可能なタンパク質又はポリペプチド1つのみが含まれることにより1つの遺伝子の翻訳産物の検出が可能である診断薬であってもよいし、(2)単一の診断薬においてそれら遺伝子の翻訳産物それぞれをそれぞれ特異的に認識可能な2以上のタンパク質及び/又はポリペプチドが含まれることにより当該単一の診断薬が上記複数の遺伝子翻訳産物の検出が可能である単一の診断薬であってもよい。さらに、本発明のキットにおいては、上記(1)の1つの遺伝子の翻訳産物の検出が可能である診断薬、及び/又は上記(2)の複数の遺伝子翻訳産物の検出が可能である単一の診断薬が含まれ得る。さらに本発明のキットに含まれる診断薬が一種類であろうと二種類であろうと、当該キットに含まれる診断薬により複数の遺伝子翻訳産物の検出を可能とする場合には、以下の(i)~(ii)のいずれかの組合せの遺伝子の翻訳産物を検出できる診断薬であることが好ましい。

【0027】
(i)AMAP1及びGEP100、並びに
(ii)EBL5及びc-Met。

【0028】
本発明のキットには、上記診断薬に加えて、ブロッキング試薬、診断薬に含まれるタンパク質及び/又はポリペプチド(抗体)の検出に用いるための標識化二次抗体、発色試薬、乳癌乳房温存療法後の局所再発リスクを予測する方法に関する実験プロトコルを記述した指示書等が任意に含まれ得る。ブロッキング試薬としては、例えば、牛血清アルブミン(BSA)等を挙げることができる。

【0029】
予測方法
本発明の別の態様によれば、以下の乳癌温存療法後の局所再発リスクを予測する方法が提供される。
(A)乳癌乳房温存療法を受けた患者から採取した生体試料において、AMAP1、GEP100、EBL5、及びc-Metから成る群から選択される少なくとも2つの遺伝子の翻訳産物発現レベルをそれぞれ決定すること;並びに
(B)工程(A)において決定した翻訳産物発現レベルに基づいて、上記患者の乳癌乳房温存療法後の局所再発リスクを予測すること、
を含む、乳癌乳房温存療法後の局所再発リスクを予測する方法。

【0030】
本発明の方法において、「乳癌乳房温存療法」の定義は、上記した通りである。本発明の方法において、患者とは、上記の乳癌乳房温存療法を受けた患者である。

【0031】
本発明の方法において、「生体試料」とは、上記乳癌乳房温存療法を受けた患者から採取された任意の生体試料である。生体試料は、乳房組織であることが好ましく、さらに、乳房組織としては、乳癌乳房温存療法の腫瘍摘出術の際に患者から摘出した乳癌病変部位の組織であってもよいし、病変部位が存在していた近傍の乳房組織であって腫瘍摘出術の後に採取した乳房組織もよい。但し、患者への負担を極力軽減し、かつ局所再発リスクの精度良い予測を達成する観点から、乳房組織は、乳癌乳房温存療法の腫瘍摘出術の際に患者から摘出した乳癌病変部位の組織であることが好ましい。

【0032】
本発明の方法の工程(A)においては、上記生体試料において、AMAP1、GEP100、EBL5、及びc-Metから成る群から選択される少なくとも2つの遺伝子の翻訳産物発現レベルをそれぞれ決定する。これら遺伝子は、Arf6経路に属する遺伝子である。以下の実施例で示される結果によれば、乳癌患者の乳房組織においてArf6経路に属する遺伝子が組織レベルで発現し、Arf6経路の稼働が推定される場合には、当該患者は相対的に乳癌乳房温存療法後に早期に局所再発するリスクが高いことが裏付けられている。従って、Arf6経路に属する遺伝子のうちの少なくとも2つの遺伝子の翻訳産物の発現レベルを決定し、それら二つの遺伝子の発現が確認された場合、乳癌乳房温存療法後の局所再発を促進するものと考えられるArf経路の稼働が推定され、当該患者は早期に乳癌を局所再発する蓋然性が高いと判断し得ることから、本願発明の方法の工程(A)では、Arf経路に属する遺伝子から成る群から選択される少なくとも2つの遺伝子の翻訳産物発現レベルをそれぞれ決定する。

【0033】
なお、GEP100、Arf6、及びAMAP1等の遺伝子群を含むArf6経路が、乳癌の浸潤及び転移を促進するのに重要な役割を果たすことが報告されており、このArf6経路に属する遺伝子のうち、GEP100及びEGFR、或いはArf6及びAMAP1の組合せが共発現している場合、乳癌の悪性度及び浸潤度が高いことが示されている(Morishige M, Hashimoto S, Ogawa E, et al: GEP100 links epidermal growth factor receptor signalling to Arf6 activation to induce breast cancer invasion. Nat Cell Biol 10:85-92, 2008;Hashimoto S, Onodera Y, Hashimoto A, et al: Requirement for Arf6 in breast cancer invasive activities. Proc Natl Acad Sci U S A 101:6647-52, 2004;Onodera Y, Hashimoto S, Hashimoto A, et al: Expression of AMAP1, an ArfGAP, provides novel targets to inhibit breast cancer invasive activities. EMBO J 24:963-73, 2005)。加えて、Arf6経路に属する遺伝子の高レベル発現が、乳癌乳房温存療法後の再発に相関する可能性があることが考えられ(JMTO,Newsletter, 2012年9月、No.14,p3-4;福井大学医学部ライフサイエンスイノベーション推進機構セミナー兼第371回学内セミナー(大学院セミナー)要旨:p53 mutation and TGFβ signaling culminate in cancer invasiveness via GEP100-Arf6-AMAP1 pathway)、そのうち、GEP100及びEGFRの共発現が、乳癌乳房温存療法後の再発に相関するか否かが、まず検討された(R. Kinoshitaら、International Journal of Radiation Oncology・Biology・Physics, Volume 84, Number 3S, Supplement 2012 Poster Viewing Abstracts, S227, 2026:Co-overexpression of GEP100 with EGFR correlates with early recurrence after breast conservation therapy (BCT))。その結果、その後の詳細な検討も含め、GEP100及びEGFRの組合せ共発現では乳癌乳房温存療法後の局所再発を有意に予測できない事がわかり、かつArf6経路に属するその他遺伝子が乳癌乳房温存療法後の局所再発に有意に相関することもこれ迄には明らかにされていない。

【0034】
本発明方法の工程(A)において、生体試料における上記所定の遺伝子の翻訳産物発現レベルを決定する方法としては、特に限定されるものでは無いが、具体的には、本発明の診断薬について上記した如く、検出の対象となる遺伝子の翻訳産物を特異的に認識可能なタンパク質又はポリペプチド(診断薬)を用いて当該遺伝子の翻訳産物発現レベルを決定することが可能である。より具体的には、生体試料である組織切片において遺伝子翻訳産物の発現強度及び発現分布を正確に把握して発現レベルを決定出来ることから、特に、それらタンパク質及び/又はポリペプチド(診断薬)を用いた免疫組織化学法により当該遺伝子の翻訳産物発現レベルを決定することが好ましい。なお、免疫組織化学法については、各種公知の手法が知られている。本発明においては、それら公知の手法を用いても良いし、或いは新たに開発された手法を用いてもよく、対象となる遺伝子翻訳産物の発現レベルを決定できるものである限り、特に限定されるものではない。

【0035】
さらに、本発明においては、遺伝子翻訳産物の特異的な検出を確保するために、上記タンパク質及び/又はポリペプチドは、検出の対象となる遺伝子翻訳産物に対する抗体及び/又はその断片であることが好ましい。

【0036】
さらに、本発明方法の工程(A)において、本発明所定の少なくとも2つの遺伝子の翻訳産物発現レベルをそれぞれ決定するには、具体的には、生体試料において任意のタンパク質検出法で検出されたシグナル強度を一定の基準と比較することにより、本発明所定の遺伝子の翻訳産物発現レベルを決定することが出来る。一定の基準の例としては、同一患者から採取した非癌性組織(特に、非癌性乳房組織)における本発明所定の遺伝子翻訳産物発現レベルを対照とする形態が挙げられる。この場合、具体的には、同一患者から採取した非癌性組織(特に、非癌性乳房組織)における本発明所定の遺伝子翻訳産物発現について同一のタンパク質検出法で検出されたシグナル強度と、対象生体試料における本発明所定の遺伝子翻訳産物のシグナル強度を比較し、本発明所定の少なくとも2つの遺伝子の翻訳産物発現レベルをそれぞれ決定することができる。さらに、「翻訳産物発現レベルを決定する」との具体的な形態としては、例えば、上記一定の基準又は対照と比較して対象生体試料における本発明所定の少なくとも2つの遺伝子の翻訳産物発現のシグナル強度が「高い」、「同等」又は「低い」と判定することができる。或いは、例えば上記一定の基準又は対照におけるシグナル強度を基準として対象生体試料における本発明所定の少なくとも2つの遺伝子の翻訳産物発現のシグナル強度をスコア化することが挙げられる。シグナル強度をスコア化については、例えば、対照試料における遺伝子翻訳産物のシグナル強度を0とし、そのシグナル強度と対照生体試料における遺伝子翻訳産物のシグナル強度を比較して、例えば、-1から3等の整数でスコア化することが出来る。

【0037】
本発明方法の工程(B)においては、工程(A)において決定した翻訳産物発現レベルに基づいて、上記患者の乳癌乳房温存療法後の局所再発リスクを予測する。

【0038】
工程(B)において乳癌乳房温存療法後の局所再発リスクを予測するには、具体的には、工程(A)に関し上記に説明した通り、上記一定の基準又は対照と比較により取得した「高い」、「同等」又は「低い」、或いはシグナル強度をスコア化した値に基づいて、乳癌乳房温存療法後の局所再発リスクを予測することが出来る。より具体的には、対象生体試料における上記少なくとも2つの遺伝子の翻訳産物発現レベルが「高い」と判断された場合には、当該患者は乳癌の局所再発リスクが高いと判断し、対象生体試料における上記少なくとも2つの遺伝子の翻訳産物発現レベルが「同等」又は「低い」と判断された場合には、当該患者は乳癌の局所再発リスクが低いと判断することが出来る。或いは、上記の通り遺伝子翻訳産物発現レベルをスコア化した形態を採用した場合には、予めスコアに局所再発リスクが「高い」、「低い」又は「中程度」等の判定基準を割り振っておき、上スコア化により得られた対象生体試料についてのスコアに基づいて乳癌の局所再発リスクを「高い」、「低い」又は「中程度」等と判定してもよい。さらに加えて、乳癌の局所再発リスクの予測は、「高い」、「低い」又は「中程度」のような結果を得るだけでなく、乳癌乳房温存療法後から乳癌を発症するリスクが50~90%(例えば、50%、60%、70%、80%、90%、95%等)である期間がどの程度であるかを判定することも含み得る。

【0039】
治療又は予防方法
さらに、本発明の別の態様によれば、乳癌の再発を治療又は予防する方法が提供される。具体的には、乳癌の局所再発を治療又は予防する方法とは、上記乳癌温存療法後の局所再発リスクを予測する方法により得られた予測結果に基づいて、乳癌の再発を治療又は予防する方法である。

【0040】
具体的には、本方法は、抗癌剤を用いた化学療法、ホルモン療法、放射線療法、外科的処置、食事療法、生活指導等、任意の乳癌の再発を治療又は予防し得る手段を含む。

【0041】
本方法は、上記乳癌温存療法後の局所再発リスクを予測する方法により得られた予測結果に基づいて、乳癌の再発を治療又は予防する限り特に限定されるものではなく、上記乳癌温存療法後の再発リスクを予測する方法の方法工程を含んでもよいし、含まなくてもよい。

【0042】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例により特に限定されるものではない。
【実施例】
【0043】
<材料及び方法>
(材料及び方法)
(1)患者集団
1988年から2008年にかけて、北海道大学病院(日本国、北海道)において乳房温存手術を受け、その後、乳房全体への放射線照射治療を受けた479人の乳がん患者に関し、彼らの483の乳房について過去を遡って分析した。2010年の5月までに、追跡期間中央値54か月で、20人の患者において総計20の再発が観察された。これら20人の患者のうち、19人の病理組織標本が解析に利用可能であった。ただ一人が、不全の最初の部位として乳房に再発を生じた。残りの一人において、放射線療法の完了後、最初の4か月で局所リンパ節に再発が生じ、かつ18か月において乳房に再発が生じた。乳房における再発時期を19人の患者における解析に用いた。
なお、本試験は、北海道大学の治験審査委員会によって承認されたものである。
【実施例】
【0044】
(2)治療方法
8人の患者は、腫瘤摘出術を受け、8人の患者は乳房4/1切除術を受けた。19人の患者のうち16人(84%)は、腋窩リンパ節郭清を受けており、その他3人(16%)は、センチネルリンパ節生検を受けていた。TNM分類(UICC第5版)がcT3N1M0である患者1人は、トランツズマブ(trastuzumab)投与を含む術前化学療法を受けており、さらに手術後に、補助療法としてトランツズマブ投与を受けていた。1人の患者は、手術の間に化学療法を受けていた。1人の患者は、手術の間、及び手術の後に化学療法を受けていた。3人の患者は、放射線療法の後に化学療法を受けていた。5人の患者は放射線療法の後にホルモン療法を受けていた。全ての患者が、罹患側の乳房に全乳房接線照射を受けていた。1人の患者は、胸骨傍リンパ節及び鎖骨上リンパ節の部位に照射を受けていた。顕微鏡検査により完全な切除を受けた患者に対する処方線量は、18回の照射において45Gyであり、顕微鏡検査により不完全な切除となった患者[切除断端陽性又は切除断端近接(close margin) (5mm未満)]の処方線量は、20回の照射において50Gyであった。2005年7月以来、50歳未満の患者は、切除断端の状態に関わらず、20回の照射において50Gyの照射を受けていた。
【実施例】
【0045】
(3)組織標本
19の病理標本は全て、広範な切除により得た外科的標本であった。1人の患者が、手術前に術前補助化学療法を受けていた。切除断端の病理学的特徴及び無腫瘍状態について、盲検下において、本試験における疾患パラメータを把握していない病理学者が調査した。
【実施例】
【0046】
以下の通り切除断端の状態を定義し、病理学者による評価を行った。
(i)切除の染色縁(inked edge)に腫瘍[浸潤性乳管癌(invasive ductal carcinoma; IDC)又は非浸潤性乳管癌(ductal carcinoma in situ; DCIS)]が認められる場合は切除断端陽性;
(ii)切除断端から5mm以下に腫瘍(IDC又はDCIS)が認められる断端近接(close margin);並びに
(iii)切除断端から5mm超で無腫瘍である断端は断端陰性。
【実施例】
【0047】
(4)免疫組織化学(Immunohistochemistry;IHC)
AMAP1及びGEP100に対する抗体は過去に報告されたものであった(Onodera et al., 2006; Morishige et al., 2008)。EPB41L5抗体は、はそのヒト蛋白質のアミノ酸558番目から733番目までを含むペプチドを抗原としウサギに免疫した後、標準的手法によって抗血清を採取、抗原にてアフィニティ精製したものを用いた。c-METに対する抗体はAbcam、EGFR抗体はNichirei、HER2に対する抗体はDAKOから、それぞれ購入した。
【実施例】
【0048】
免疫組織化学染色は、以下の通り、厚さ4μmのホルマリン固定パラフィン包埋連続切片を用いて実施した。全てのスライドは、最初にキシレンにおいて脱パラフィン処理を行い、段階的なアルコールにおいて脱水処理を実施し、次いで、切片をトリス緩衝食塩水(TBS: 25 mM Tris-HCl (pH 7.4), 137 mM NaCl, 2.7 mM KCl)でリンスした。
【実施例】
【0049】
その後、以下の条件により、各抗原について切片の抗原賦活化処理を行った。
(i)HER2又はEPB41L5(EBL5):クエン酸緩衝液(pH6.0)で95℃、40分インキュベート;
(ii)EGFR:ペプシン溶液で37℃、10分インキュベート;
(iii)AMAP1又はGEP100:抗原賦活化液(EDTA solution、pH9、Nichireiから購入 )で95℃、40分インキュベート;
(iv)c-MET::抗原賦活化液(EDTA solution、pH9、Nichireiから購入)で95℃、40分インキュベート。
【実施例】
【0050】
次いで、室温で0.3%H22/メタノールにインキュベートすることにより、内因性ペルオキシダーゼをブロックした。切片をTBSで洗浄した後、EGFR(1:50)、HER2(1:200)、AMAP1(1:500)、GEP100(1:100)、EPB41L5(EBL5;1:1000)、又はc-MET(1:50)に対する一次抗体(括弧内の比率は希釈倍率)と共に、室温で30分間、インキュベートした。さらにTBSで洗浄した後、二次抗体としてEnVision(商標) (DAKO、日本国)を用いて各一次抗体の検出を行い、ジアミノベンジジンを用いて発色させた。各切片は、ヘマトキシリンを用いて対比染色し、水洗した後、定常法に従い透徹処理・封入処理を行った。
【実施例】
【0051】
(5)評価
全ての試料は、それぞれ独立に、盲検下で、二人の病理学者により評価した。
【実施例】
【0052】
EGFRについては、陽性度は、0~2+のシグナル強度に基づき、同一患者における正常(非癌性)乳管をコントロールの1+とし、各試料について評価を行った。
【実施例】
【0053】
HER2については、各試料は、シグナル強度と、細胞膜の染色度合及びその細胞数の割合に基づいて評価した。強い膜染色が認められる腫瘍細胞が30%超の場合は3+とし、「弱い」から「中程度」の膜染色が認められる腫瘍細胞が10%~30%の場合、又は強い膜染色が認められる腫瘍細胞が10%未満の場合は2+とし、僅かの膜染色が認められる腫瘍細胞が10%未満の場合は1+とし、膜染色が全く観察されないか、若しくは僅かな膜染色が10%未満の腫瘍細胞にしか観察されない場合には0とした。
【実施例】
【0054】
AMAP1については、正常なバックグランドの染色を1+とし、細胞膜及び細胞質の両方に染色が認められた場合は2+と評価した。
【実施例】
【0055】
GEP100については、各試料は、シグナル強度に基づいて1+及び2+で評価した。正常腺細胞質の染色については1+と決定した。
【実施例】
【0056】
c-METについては、コントロールである正常(非癌性)乳管試料より、シグナル強度が低いものを0と評価し、正常乳管試料と同等のシグナル強度のものは1+とし、正常乳管試料よりもシグナル強度が高いものを2+と評価した。
【実施例】
【0057】
EPB41L5(EBL5)については、まず、細胞質に染色が認められないもの、即ちコントロールである正常乳管試料と同等の染色シグナル強度のものは0と評価し、正常乳管試料と比較して中程度に染色シグナル強度が高いものを1+と評価し、正常乳管試料と比較して染色シグナル強度が顕著に高いものを2+と評価した。
【実施例】
【0058】
(6)統計分析
年齢及び切除断端の状態等、予測因子と考えられてきた因子が、放射線治療の完了から再発までの期間に有意な影響を与えるか否かを決定するために、カプラン・マイヤー曲線を求めた。段階的重回帰分析(InstituteSas IS: JMPR 10 Modeling and Multivariate Methods, Cary, NC: SAS Institute Inc, 2012 pp. 139-160)を用いて、放射線治療の完了から再発までの期間の自然対数と発現が相関するマーカーを同定した。段階的重回帰分析の候補となった予測因子変数は、EGFR、HER2、AMAP1、GEP100、EPB4IL5(EBL5)、c-MET、及びそれらの交互作用項である。因子を入力又は残すのに用いたp値の閾値は0.05である。各サブグループ、選択したマーカーの組合せに応じて決定した。再発までの対数時間を、チューキー・クレイマー(Tukey-Kramer)HSD(honestly significant difference)検定を用いた分散分析により、サブグループ間で比較した。サブグループのイベントまでの時間に関しカプラン・マイヤー曲線を求めた。0.05未満のp値は、統計的に有意な相関があると判断した。これらの解析は、JMP(登録商標)(Version 10, SAS Institute Inc., NC.)を用いて実施した。
【実施例】
【0059】
<結果>
(1)患者の臨床的特徴及び病理学的特徴
患者の特徴及び治療方法については、以下の表1に示す。加えて、患者の病理学的特徴、並びに放射線治療完了の後再発までの期間を表2に示す。さらに、各マーカーについて、免疫組織化学スコアを表3に示す。
【実施例】
【0060】
【表1】
JP0006202362B2_000002t.gif
【実施例】
【0061】
【表2】
JP0006202362B2_000003t.gif
【実施例】
【0062】

【表3】
JP0006202362B2_000004t.gif
【実施例】
【0063】
病理腫瘍病期については、7人の患者がTisであり、9人の患者がT1であり、3人の患者がT2であった。7人のDCIS患者のうち一人が、手術前に化学療法を受けており、その患者の生検試料は、臨床腫瘍病期がT3である浸潤性乳管癌と診断されていた。15人の患者がリンパ節転移陰性であり、4人の患者がリンパ節転移陽性であった。12人の患者が、切除縁陰性と診断されたのに対し、3人の患者が切除断端近接と診断され、かつ4人の患者が切除断端陽性であった。これら19人の患者について、放射線治療完了後局所再発までの中位期間は38月(8~179月の範囲に分布)であった。
【実施例】
【0064】
(2)臨床因子及び局所再発までの期間
先ず、切除断端の状態、年齢、ER陽性、又はPgR陽性が、BCT後の局所再発のまでの期間に相関関係があるか否かについて調査した。その結果、切除断端陰性であった患者は、BCT後、局所再発無しの生存期間に関し40月の中央値を示した(図5A)。これに対して、切除端近接又は切除端陽性であった患者は38月の中央値を示した(図5A)。同様に、50歳未満の患者は35月の中央値を示したのに対し、50歳以上の患者も35月の中央値を示した(図5B)。ER陽性の患者は、35月の中央値を示したのに対し、ER陰性の患者は31.5月の中央値を示した(図5C)。PgR陽性の患者は35月の中央値を示したのに対し、PgR陰性の患者は20.5月の中央値を示した(図5D)。対数順位検定によって求められた通り、切除断端状態(p=0.48)、年齢(p=0.97)、ER状態(p=0.58)、並びにPgR状態(p=0.32)に関し、BCT後局所再発の中位期間において統計学的な差異は無かった。
【実施例】
【0065】
(3)GEP100-Arf6-AMAP1経路における遺伝子翻訳産物の発現
GEP100とAMAP1の高レベルな共発現は、局所再発に相関することが判明した。GEP100-Arf6-AMAP1経路は、上述したEGFR及びHer2等、幾つかの受容体型チロシンキナーゼ(receptor tyrosine kinase)で活性化され得る。そこで、AMP1及びGEP100、さらにEGFR及びHer2のタンパク質発現について解析した。
【実施例】
【0066】
EGFRについては、5つの事例(27.7%)でスコア1+の発現が認められ、13の事例(72.2%)が陰性(スコア0)であり、1つの事例が当てはまらなかった。HER2については、5つの事例(26.3%)、8つの事例(42.1%)、4つの事例(21.0%)、及び2つの事例(10.5%)が、それぞれ3+、2+、1+、及び0とスコア付けされた。AMAP1については、5つの事例(26.3%)が2+とスコア付けされ、14の事例(73.7%)が1+とスコア付けされた。GEP100については、8つの事例(42.1%)が2+とスコア付され、11の事例(57.9%)が1+とスコア付けされた。c-Metについては、7つの事例(36.8%)が2+とスコア付けされ、6つの事例(31.6%)が1+とスコア付けされ、6つの事例(31.6%)が0とスコア付された。EPB41L5(EBL5)については、2つの事例(10.5%)が3+とスコア付けされ、4つの事例(21.1%)が2+とスコア付けされ、5つの事例(26.3%)が1+とスコア付され、8つの事例(42.1%)が0とスコア付された。(表3)。さらに、免疫組織化学染色の顕微鏡写真の例を図1及び図2に示す。
【実施例】
【0067】
段階的重回帰分析法(InstituteSas IS: JMP(登録商標)10 Modeling and Multivariate Methods, Cary, NC: SAS Institute Inc, 2012 pp. 139-160)を利用した解析により、GEP100及びAMAP1の組合せで遺伝子翻訳産物が高レベルに共発現しているケースでは、BCTの完了から局所再発までの期間の短さと有意な相関を有し(P<0.001)、さらにその交互作用効果もまた同期間の短さと有意な相関を有することが見出された(P=0.0018)。
【実施例】
【0068】
BCTの完了後、時間の経過に伴いどれだけの患者が再発を免れているかを示す、カプラン・マイヤー曲線による解析の結果を図3及び図4に示す。図3において、"Homo"はAMAP1及びGEP100が共発現していたケースを示し、"Wild/Hetero"はAMAP1又はGEP100の何れか一方のみが発現していたケース、 並びにそれら遺伝子の何れも発現していなかったケースを示す。図4において、Homo"はc-MET及びEBL5が共発現していたケースを示し、"Wild/Hetero"はc-MET又はEBL5の何れか一方のみが発現していたケース、 並びにそれら遺伝子の何れも発現していなかったケースを示す。
【実施例】
【0069】
図3のカプラン・マイヤー曲線によれば、"Homo"群と"Wild/Hetero"との間において統計学的に優位な差を示した(P=0.0001)(図3)。一方、GEP100又はAMAP1の高レベル発現自体は、そのような優位性は示さなかった(図3)。さらに、図4のカプラン・マイヤー曲線によれば、"Homo"群と"Wild/Hetero"との間において統計学的に優位な差を示した(P=0.0005)(図4)。一方、c-MET又はEBL5の高レベル発現自体は、そのような優位性は示さなかった(図4)。
【実施例】
【0070】
なお、EGFR若しくはHER2自体、又はGEP100若しくはAMAP1の何れかとEGFR若しくはHER2との共発現は、何れも、局所再発の迅速性に対して優位性は示さなかった。
【実施例】
【0071】
浸潤性乳管癌及び非浸潤性乳管癌の早期段階に対する乳房温存療法(BCT)は、優れた局所制御率及び患者の生存を提供する。しかしながら、依然として、BCT後に局所再発を経験する患者の有意な集団が存在する。本実施例においては、BCT後に局所再発を経験した集団に注目した結果、切除断端の状態及び年齢は局所再発までの期間の短さとは相関関係が認められなかったが、GEP100タンパク質及びAMAP1タンパク質の組合せ、並びにc-MET及びEBL5の組合せによる共発現それぞれは、局所再発までの期間の短さに統計学的に優位に相関することが見出された。一方、GEP100、AMAP1、c-MET及びEBL5のうちの何れか1つの発現だけでは、局所再発までの期間の短さとは相関が認められなかった。これらの結果によれば、GEP100、AMAP1、c-MET及びEBL5がArf6経路の成分であると言う仮説と合致しており、つまり、これら遺伝子のうち一つのみの発現では、活性Arf6経路を構成しないことになる。EGFR、HER2、ER又はPgR何れかの発現自体も、過去に報告されている通り局所再発までの期間の短さに相関が無かった(Millar EK, Graham PH, O'Toole SA, et al: Prediction of local recurrence, distant metastases, and death after breast-conserving therapy in early-stage invasive breast cancer using a five-biomarker panel. J Clin Oncol 27:4701-8, 2009)。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4