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明細書 :ヒアルロン酸を利用したスフェロイド培養法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6226545号 (P6226545)
公開番号 特開2014-204674 (P2014-204674A)
登録日 平成29年10月20日(2017.10.20)
発行日 平成29年11月8日(2017.11.8)
公開日 平成26年10月30日(2014.10.30)
発明の名称または考案の名称 ヒアルロン酸を利用したスフェロイド培養法
国際特許分類 C12N   5/095       (2010.01)
FI C12N 5/095
請求項の数または発明の数 4
全頁数 12
出願番号 特願2013-082671 (P2013-082671)
出願日 平成25年4月11日(2013.4.11)
審査請求日 平成28年2月5日(2016.2.5)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
発明者または考案者 【氏名】妹尾 昌治
【氏名】笠井 智成
個別代理人の代理人 【識別番号】110000796、【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
審査官 【審査官】濱田 光浩
参考文献・文献 国際公開第2010/110435(WO,A1)
特開2007-202506(JP,A)
Biomaterials, (2011), Vol. 32, p. 6929-6945
調査した分野 C12N 5/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
WPIDS(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
CD44発現細胞をヒアルロン酸を含む培地で非接着系培養してスフェロイドを形成することを特徴とする、CD44発現細胞の培養法。
【請求項2】
CD44発現細胞ががん細胞及び/又はがん幹細胞である、請求項1に記載の培養法。
【請求項3】
ヒアルロン酸として低分子ヒアルロン酸をさらに使用し、低分子ヒアルロン酸と競合的にCD44と結合させることでCD44高発現細胞を得る、請求項1又は2に記載の培養法。
【請求項4】
微生物が生成した酸化鉄を培地中に添加する、請求項1~3のいずれか1項に記載の培養法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、CD44発現細胞のスフェロイド培養法及び濃縮技術に関する
【背景技術】
【0002】
がん幹細胞の濃縮には、CD133やCD44などのマーカータンパク質を指標として、マグネティックビーズ(非特許文献1, Miltenyi Biotec社製Diamond CD133 Isolation Kit)を用いて単離する方法やフローサイトメトリーによって分離と回収を行う方法(非特許文献2)、レーザーマイクロダイセクション(Leica社製 LMD6500 & LMD7000)などがある。
【0003】
単離や分離したがん幹細胞の培養と維持には、ヒアルロン酸を重合あるいはヒアルロン酸とゼラチンを重合したゲル(非特許文献3, Sigma-Aldrich社製 Hystem)、コラーゲンゲル(日本ベクトン・ディッキンソン社製 マトリゲル)などが使用され得る。
【先行技術文献】
【0004】

【非特許文献1】Jin et al. 2008. Neuroscience;154,541-550.
【非特許文献2】Griguer et al. 2008. PlosOne;3(11)e3655.
【非特許文献3】Rehfeldt et al. 2012 Integr.Biol.;4,422-430.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のCD44発現細胞の単離技術は高価な装置や試薬が必要であり、装置を用いる場合は設置するためのスペースと専門的な技術が必要であった。
【0006】
また、分離した細胞の維持をこれまでは重合したゲル中やゲル表面で行う必要があったため、蛍光タンパク質の発現が無い細胞あるいは染色等が不可能な場合、明視野では観察が非常に困難であった。さらに、均一なゲルの作製が難しく、細胞の状態を常に一定に保つのは難しかった。さらに、培養後の細胞の回収や継代および細胞から分泌される因子等の回収が非常に困難であった。細胞に薬剤や成長因子、サイトカイン等を曝露するのが難しいという問題もあった。
【0007】
本発明は、CD44発現細胞を通常の器具、装置を用いて容易に増殖、濃縮もしくは単離する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題に鑑み検討を重ねた結果、ヒアルロン酸を添加した培地でCD44発現細胞を培養することで、スフェロイドを形成することができ、CD44発現細胞の集団を容易にかつ高い再現性で濃縮、回収可能であることを見出した。
【0009】
本発明は、以下のCD44発現細胞の培養法を提供するものである。
項1. CD44発現細胞をヒアルロン酸を含む培地で非接着系培養してスフェロイドを形成することを特徴とする、CD44発現細胞の培養法。
項2. CD44発現細胞ががん細胞及び/又はがん幹細胞である、項1に記載の培養法。
項3. ヒアルロン酸として低分子ヒアルロン酸をさらに使用し、低分子ヒアルロン酸と競合的にCD44と結合させることでCD44高発現細胞を得る、項1又は2に記載の培養法。
項4. 微生物が生成した酸化鉄を培地中に添加する、項1~3のいずれか1項に記載の培養法。
【発明の効果】
【0010】
CD44発現細胞を分離するためには、非常に高価な装置が必要であり、また設置スペースを確保することや特別な技術を習得する必要があったが、本技術によって、一般的な細胞培養設備があれば、特殊な技術も必要無く、安価にCD44発現細胞、特にCD44高発現細胞を得ることが可能となった。
【0011】
ゲル状の培養基材(コラーゲンゲル、ヒアルロン酸重合体など)では、細胞塊を形成した細胞および分泌物の回収が困難であったが、それらが容易に回収可能となった。
【0012】
細胞に薬剤等を処理する場合に、ゲル状培養基材では処理および濃度調整が困難であったが、それらが容易になった。
【0013】
スフェロイド(細胞塊)の経時的観察および明視野での顕微鏡観察が非常に困難であったが、本発明によれば容易に観察および維持することが出来るようになった。
【0014】
自己複製能の確認を従来よりも簡便に行うことが出来る。
【0015】
担がん作製が難しい(腫瘍形成能が低い)細胞(特にがん幹細胞)から悪性度が高いCD44高発現細胞(特にがん幹細胞)を簡便に濃縮出来る。また作成した担がんを抽出することでCD44発現量が高い細胞集団を培養出来る。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】ヒトグリオーマ由来U251MG細胞を用いた場合の実験手順を概略的に示す。
【図2】ヒアルロン酸添加培地での培養
【図3】HA濃度の検討
【図4】非接着系ディッシュ上での培養 With:HA添加培地 Without:HA無添加培地(通常培地)
【図5】細胞塊からの細胞分離と自己複製
【図6】CD44遺伝子発現量の比較A: A172細胞B: U251MG細胞C: U251MG-P1細胞
【図7】U251MG細胞に対するU251MG-P1細胞のCD44遺伝子発現量
【図8】HA添加培地で培養したU251MG細胞の腫瘍形成
【図9】CD44タンパク質発現量の比較
【図10】アストロサイトマーカータンパク質の検出
【図11】SkOv-3細胞のHA培養
【図12】CD44タンパク質を模式的に示す。
【図13】ヒアルロン酸(HA)を用いたスフェロイド作製
【発明を実施するための形態】
【0017】
CD44は、図12に示すような1回膜貫通型糖蛋白質ヒアルロン酸レセプターであり、グリオーマ,がん細胞の表面に特異的に高発現し、ヒトすい臓がん、前立腺がん、乳がんなどのがん幹細胞マーカーであることが知られている。CD44は、細胞凝集、細胞周囲のマトリックスの保持、マトリックス-細胞間のシグナリング、MMPsの配向性制御(細胞遊走、浸潤)などの機能を有する。

【0018】
CD44発現細胞は、CD44を細胞表面に発現している限り特に限定されないが、CD44をウエスタンブロッティングや免疫染色等、タンパク質レベルでの検出が可能であるCD44高発現細胞が好ましい。

【0019】
CD44発現細胞としては、各種のがん細胞及びがん幹細胞、造血系の細胞、赤血球、T細胞を含む血液細胞、消化管、筋肉、皮膚、神経系などの細胞で広範に発現する。がん幹細胞はCD44高発現のがん幹細胞が好ましく使用される。CD44発現細胞は、ヒアルロン酸の存在下に非接着(浮遊)培養することで、スフェロイドを形成し得、CD44発現細胞の濃縮、単離、精製を行うことができる。また、CD44発現細胞はヒアルロン酸の存在下で培養することでその機能が亢進し得、例えば、ヒアルロン酸の存在下に培養されたがん幹細胞は造腫瘍能が亢進する。

【0020】
ヒアルロン酸は、N-アセチルグルコサミンとグルクロン酸の二糖繰り返し単位から構成され、分子量は500~2000000万程度、好ましくは1000~1500000程度、より好ましくは3000~1000000程度が挙げられる。ヒアルロン酸は天然のヒアルロン酸をそのまま使用してもよく、酵素(ヒアルロニダーゼ)により分解するか、酸による加水分解で分子量を低下させた低分子量化ヒアルロン酸のいずれを使用してもよい。

【0021】
本明細書において、単に「ヒアルロン酸」と記載した場合には、高分子ヒアルロン酸と低分子ヒアルロン酸の両方を含む。高分子ヒアルロン酸は、分子量10万以上、好ましくは30万以上、より好ましくは50万以上、さらに好ましくは70万以上、特に100万以上のヒアルロン酸を指し、天然から得られるヒアルロン酸は、これらの分子量の大きな(高分子量の)「ヒアルロン酸」に該当する。

【0022】
ヒアルロン酸を酵素又は酸、アルカリなどを用いて化学的に処理することで、低分子化したヒアルロン酸、あるいは天然由来のヒアルロン酸から分子量が一定以下のヒアルロン酸を分離することで、本発明で使用する「低分子ヒアルロン酸」を得ることができる。「低分子ヒアルロン酸」の分子量は、分子量10万以下のヒアルロン酸を指し、分子量の上限は10万、7万、5万、3万、1万、5千程度であり、分子量の下限は、500、1000、2000、3000程度である。

【0023】
ヒアルロン酸は、ニワトリのとさか、臍帯などの動物由来のものであってもよく、乳酸菌、連鎖球菌などの微生物に由来するものであってもよい。

【0024】
ヒアルロン酸を添加する培地は、細胞培養に使用される培地を広く使用することができ、特に限定されないが例えばDMEM培地などが挙げられる。培地には、ペニシリン、ストレプトマイシンなどの抗生物質、血清由来の成分、成長因子などを添加してもよい。

【0025】
ヒアルロン酸の添加量は、培地中の濃度が0.1μg/ml~5000μg/ml程度、好ましくは1μg/ml~3000μg/ml程度、より好ましくは5μg/ml~1000μg/ml程度、さらに好ましくは10μg/ml~200μg/ml程度である。

微生物が生成した酸化鉄およびその製造方法は、WO2010/110435およびWO2011/074587に記載されており、これらの文献全体を本明細書に援用する。微生物が生成した酸化鉄は、様々な微生物が菌体外に生産する酸化鉄であり、種々の形状のものが知られている。微生物が生成した酸化鉄は、「バイオジナス酸化鉄」とも称される。

【0026】
本明細書において、「酸化鉄」とはα-Fe2O3、β-Fe2O3、γ-Fe2O3、Fe3O4などに例示される狭義の酸化鉄、α-FeOOH、β-FeOOH、γ-FeOOHなどに例示されるオキシ水酸化鉄、フェリハイドライト(Ferrihydrite)に代表される非晶質に近い構造の水酸化鉄を含む、鉄と酸素とを主成分とする化合物の総称である。

【0027】
上記鉄酸化細菌としては、Fe3O4、α-FeOOH、またはγ-FeOOH(レピドクロサイト)等を含む上記酸化鉄を形成するものであれば良く、特に限定されるものではない。上記バイオジナス酸化鉄を生成する鉄酸化細菌としては、たとえば、トキソシリックス属細菌(Toxothrix sp.)、レプトスリックス属細菌(Leptothrix sp.)、クレノシリックス属細菌(Crenothrix sp.)、クロノシリックス属細菌(Clonothrix sp.)、ガリオネラ属細菌(Gallionella sp.)、シデロカプサ属細菌(Siderocapsa sp. )、シデロコッカス属細菌(Siderococcus sp.)、シデロモナス属細菌(Sideromonas sp.)、およびプランクトミセス属細菌(Planktomyces sp.)などを挙げることができる。

【0028】
レプトスリックス属細菌の一例としては、レプトスリックス・コロディニ OUMS1株が挙げられる。当該レプトスリックス・コロディニOUMS1株は、2009年12月25日に、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8(郵便番号292-0818))に、受託番号NITE P-860として寄託されている。また、この菌株は、現在国際寄託に移管されており、その受託番号はNITE BP-860である。

【0029】
微生物が生成した酸化鉄は種々の形状を取り、レプトスリックス・オクラセア(Leptothrix ochracea)が生産する酸化鉄は、中空繊維状鞘状構造をしており、ガリオネラ・フェルギネア(Gallionella ferruginea)を初めとするガリオネラ属は螺旋状、スフェロチルス属およびクロノスリックス属は枝分かれしたチューブ状または糸状、トクソスリックス属は糸状(ハープのような形状、扇状)、シデロモナス属は短幹状、シデロカプサ属はカプセル状、シデロコッカス属は球状の酸化鉄を生産する。微生物が生成した酸化鉄の大きさは、その種類によって様々であるが、通常0.1~3000μm程度である。これらの酸化鉄は、例えば、浄水場の自然ろ過施設に溜まった堆積物中等に存在し、該堆積物に遠心分離、減圧乾燥等を施すことより、精製することができる。

【0030】
微生物が生成した酸化鉄は、鉄、酸素以外に微量のケイ素、リンを含むが、同一の微生物が作り出す酸化鉄であっても、酸化鉄に含まれる鉄、ケイ素、リン等の構成成分の種類や構成比は、微生物の存在する環境によって変化する。微生物が生成した酸化鉄は天然物由来であるため、かかる酸化鉄を担体として用いた培養上清から抗原成分が混入する可能性は非常に低い。

【0031】
本発明の微生物が生成した酸化鉄は、特定の実施形態に限定されないが、レプトスリックス・オクラセアが生成する酸化鉄は中空チューブ状であるため、スフェロイド内部にまで養分や酸素等の供給、培養液の交換がより効果的になされる点で好ましい。レプトスリックス・オクラセアが生成する酸化鉄を用いると、スフェロイドは大きく成長しても状態をより良好に維持することができる。 さらに、本発明の微生物が生成した酸化鉄には、(i)かかる酸化鉄に加熱処理を施すことにより磁性セラミックスとしたもの、(ii)かかる酸化鉄を酸処理しFe成分を溶解除去することにより多孔質アモルファスシリカとしたもの、ならびに(iii)微生物が生成した酸化鉄有機基、磁性セラミックス、または多孔質アモルファスシリカの有機基で化学修飾し得る部分(例えば、Fe原子および/またはSi原子に結合した酸素原子)の少なくとも一部を有機基で化学修飾して得られた有機・無機材料も含まれる。磁性セラミックスおよびその製造方法についてはWO2011/074587に記載されており、この文献全体を本明細書に援用する。上記酸処理は、バイオジナス酸化鉄を酸処理することによりFe成分を溶解除去し、結果として多孔質アモルファスシリカが得られるもので、酸処理に使用する酸としては、例えば、塩酸および硫酸が挙げられる。酸処理の時間は、通常1時間~6日、特に2~4日である。酸処理工程の前に、微生物が生成した酸化鉄を乾燥する工程を有していても良く、酸処理工程の後に、酸処理工程で得られた多孔質アモルファスシリカを洗浄および乾燥する工程を有していても良い。有機・無機材料およびその製造方法についてはWO2010/110435に記載されている。CD44発現細胞は、該細胞と微生物が生成した酸化鉄とを含む液体培地を、培養容器に入れることにより培養され得るが、該細胞、微生物が生成した酸化鉄および液体培地は、同じタイミングで培養容器に入れられてもよいし、別のタイミングで培養容器に入れられてもよい。

【0032】
微生物が生成した酸化鉄は、0.1~10mg/ml程度の量で培地に添加することができる。

【0033】
本発明では非接着培養の条件下でCD44発現細胞を培養することにより、CD44発現細胞のスフェロイドを形成することができる(図13)。

【0034】
CD44発現細胞の培養方法、培養条件は、各細胞の種類に応じて一般的な培養方法、条件が採用できる。培地は、ヒアルロン酸を添加する以外は任意の細胞培養用の培地を用いることができ、例えば、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、グラスゴーMEM(GMEM)、EMEM、MEMα、RPMI-1640、ハムF-12、MCDB培地等が挙げられるが、これらに限定されない。これらの培地にヒアルロン酸を添加することで、本発明の培養法を実施することができる。さらに、これらの培地には血清または、各種の増殖因子もしくは分化誘導因子等が添加されてもよい。

【0035】
培養容器は、スフェロイド培養に適したフラスコ、シャーレ、ペトリディッシュ、プレート、組織培養用チューブ、トレイ、培養バッグ、ローラーボトル、またはホローファイバー等の任意の培養容器又は培養皿であってよい。1実施形態において、培養容器は細胞非接着性の内底面を有する培養容器である。ここで、細胞非接着性とは、スフェロイドの形成を阻害しない程度に、培養細胞が接着してもよく、全く接着しなくてもよい。

【0036】
細胞非接着性の内底面を有する培養容器は、任意の公知のまたは市販の細胞非接着性の培養容器であってよく、例えば、ポリスチレン等の汎用プラスチックを射出成型した、特別な表面処理を行わない培養容器、不織布または多孔性フィルムの足場を備えた培養容器、微細な凹凸面を備えたプラスチック成型の培養容器、ポリエチレングリコールやポリヒドロキシエチルメタクリレート、エチレンビニルアルコール共重合体などの親水性の高い物質から形成された培養容器、容器の表面を、界面活性剤やリン脂質などの表面性能を親水性にし得る物質でコーティングした培養容器、プラズマ処理などの表面処理によって親水性を付与した培養容器が含まれるが、これらに限定されるわけではない。

【0037】
培養細胞の数は培養容器の容量、細胞の種類、最終的なスフェロイドの大きさ等を考慮して適宜決定されるが、例えば、培地1mL辺り104個~107個、好ましくは104個~106個の終濃度で培養容器に播種される。培養は振とう培養でも静置培養でもよい。培養液の交換は、スフェロイドが形成される限り特に限定されないが、例えば1日1回又は2回以上行ってもよく、2~4日に1回の交換でもよい。培養液の交換の前に遠心分離などの処理を行い、細胞を沈殿させたあとに培養液を交換することもできる。培養期間は、2~20日間程度である。培養温度は、37℃前後が好ましい。スフェロイド(細胞塊)の大きさとしては、通常、直径が10~500μm程度、好ましくは50~200μm程度である。スフェロイドは大きくなりすぎると内部に栄養が浸透しにくくなるため、適当なサイズに達するとスフェロイドを分離するのが望ましい。得られたスフェロイドは細胞をばらばらにした後、再度非接着培養を行うことにより繰り返しスフェロイドを形成することができる。スフェロイドの形成によりCD44発現細胞を精製することができ、スフェロイド形成を繰り返すことにより、より純粋な(形質の均質な) CD44発現細胞を得ることができる。

【0038】
CD44発現細胞は、動物由来、好ましくは脊椎動物由来、特に哺乳動物由来である。哺乳動物としては、ヒト、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ヒツジ、サルなどが挙げられ、特にヒトが挙げられる。CD44発現細胞は、これら動物(好ましくは脊椎動物、特にヒト)由来の細胞であれば特に限定されず、例えば初代培養細胞、継代培養細胞、あるいは株化された細胞でもよい。また、ES細胞、iPS細胞、各種の幹細胞、あるいはこれら多能性細胞/幹細胞から誘導された細胞であってもよい。

【0039】
本発明の培養法によれば、スフェロイドを形成したCD44発現細胞は、CD44の発現量が上昇し、さらに細胞の増殖が促進され、細胞の機能も亢進する。

【0040】
がん幹細胞は、CD44を高発現している細胞が多く存在することが知られている。CD44の高発現細胞は、CD44のリガンドであるヒアルロン酸を培地に加えると細胞の増殖性が高められ、がん幹細胞の場合には悪性度が高められる。

【0041】
本発明の方法で培養前のCD44発現細胞は、ほぼ単一種類の細胞であってもよく、CD44が発現している2種以上の混合細胞群であってもよい。細胞が2種以上含まれていても、スフェロイドにすることで性質/機能の似通った複数のスフェロイドが形成される。これらのスフェロイドを分離することで、所望のCD44発現細胞のスフェロイドを得ることができる。
【実施例】
【0042】
以下、本発明を実施例に基づいてより詳細に説明する。
【実施例】
【0043】
実施例1
1)概略
ヒトグリオーマ由来U251MG細胞を用いた場合の概略を図1に示した。
【実施例】
【0044】
通常の接着系ディッシュ上で培養した細胞を継代する際、ヒアルロン酸(HA)を添加した培地中に移して非接着系ディッシュで培養し、さらに継代して非接着系ディッシュ上で細胞塊を作製した。細胞塊をヌードマウスに接種して担がんを作製した後、接着系ディッシュ上で初代培養(U251MG-P1とした)を行った。初代培養細胞を再びHA添加培地に継代して非接着ディッシュ上で培養した。
【実施例】
【0045】
2)ヒアルロン酸添加培地を用いた培養
ヒトグリオーマ由来A172細胞およびU251MG細胞、U251MG-P1細胞をそれぞれ非接着ディッシュ上でHAを添加した培地(100 μg/ml ヒアルロン酸ナトリウム(和光純薬社製 ヒアルロン酸ナトリウム,鶏冠製)、10% FBS、50 U/ml ペニシリン、および 50 μg/ml ストレプトマイシンを含むDMEM)上と添加していない通常の培地(10% FBS、50 U/ml ペニシリン、および 50 μg/ml ストレプトマイシンを含むDMEM)上で2~5日間培養した。HAを添加しない場合には殆ど細胞が増殖しなかったが(図2にはU251MG-P1の結果のみを示した)、HAを添加した場合には細胞の密度が濃い部分が形成され、一部では細胞塊が形成された(図2.各右端)。またこれらの細胞は通常の接着系ディッシュ上では増殖が認められたので用いた細胞の状態は良好であると考えられた(図2.各左端)。
【実施例】
【0046】
A172細胞およびU251MG細胞をそれぞれ非接着ディッシュ上でHAを添加した培地(0-100 μg/ml ヒアルロン酸ナトリウム、10% FBS、50 U/ml ペニシリン、および 50 μg/ml ストレプトマイシンを含むDMEM)上で5日培養した(図3)。いずれの濃度でも細胞塊を形成するのが確認されたが、100 μg/mlの濃度で一様に細胞塊が観察できた。この添加濃度と200 μg/mlを添加した場合との差が認められなかったため、以後の試験では100 μg/mlをHA添加濃度とした。
【実施例】
【0047】
また、同様に非接着系ディッシュ上で2週間培養した結果、HAを添加した場合はいずれの細胞も細胞塊を形成し、細胞塊の周辺ではディッシュ表面に接着している細胞も観察された(図4.With)。HA無添加の場合は細胞塊の形成は観察されたが、HAを添加した場合と比較して細胞塊の数が少なく、直径が約200 μmに成長すると塊が崩壊した、或いは成長が止まった様子が観察され、特にA172では顕著であった(図4.Without)。
【実施例】
【0048】
3)細胞塊形成能の確認
HA添加培地で作製したA172およびU251MG、U251MG-P1の細胞塊をAccutase溶液(Sigma-Aldrich社製)で懸濁して細胞を分散させた後、それぞれを再びHA添加培地、非接着系ディッシュ上で2週間培養した(図5)。いずれの細胞も再び細胞塊を形成し、細胞塊の周辺にはディッシュ表面に接着した細胞が観察され、細胞塊の自己複製能があることが示された。
【実施例】
【0049】
4)CD44遺伝子発現量の比較
A172細胞およびU251MG細胞、U251MG-P1細胞を接着系ディッシュ、通常培地上と非接着系ディッシュ、HA添加培地上でそれぞれ培養した細胞からRNAを抽出し、CD44遺伝子発現量をqPCR法によって解析した(図6)。U251MG細胞とU251MG-P1細胞は非接着系ディッシュ、通常培地上で培養した細胞からもRNA抽出と比較を行った。
【実施例】
【0050】
接着系ディッシュでの通常培養と比較して非接着系ディッシュでの通常培養はCD44遺伝子発現が亢進しているが、非接着系ディッシュ上、HA添加培地で培養することで、更に発現量が高くなり、U251MG細胞では接着系、通常培地での培養と比較して約2.2 倍になった。
【実施例】
【0051】
U251MG細胞とU251MG-P1細胞の接着系ディッシュ、通常培地での培養をそれぞれ行い、これら2つの細胞間でのCD44遺伝子発現量を比較した(図7)。U251MG-P1はU251MGよりも発現量が約3.9 倍高くなっていた。これらの結果から、本培養法によって、すなわちU251MG細胞をHA添加、非接着系ディッシュ上でスフェロイド培養することによって、CD44遺伝子発現を誘導するあるいは発現量が高い細胞を選択的に生育させることが可能であることが判った。さらに、その細胞をヌードマウスに移植した場合にヌードマウスの担がんから摘出した細胞を初代培養することによって、親株の細胞と比較して恒常的にCD44遺伝子発現量が高い細胞を得られることが判った。
【実施例】
【0052】
5)HA添加培地でスフェロイド培養(ITS+, FBS-)したU251MG細胞の腫瘍形成能
HA添加培地で5日間培養した後、スフェロイド培養(100 μg/ml ヒアルロン酸ナトリウムおよびITS(Sigma-Aldrich社製)を添加した培地での培養)を2週間、非接着系ディッシュ(直径10 mm, 培地量10 ml)で行い、U251MG細胞をヌードマウスBalb/c-nu/nu、メス、4週齢に移植して4週間観察した(図8)。1~3枚のディッシュから集めた細胞をそれぞれマウスの左腹部に移植した。右腹部には通常培養したU251MG細胞を107個、それぞれ移植した。ディッシュ2枚以上から集めた細胞の移植によって担がんが形成された。
【実施例】
【0053】
6)HA添加培地でスフェロイド培養した細胞のCD44タンパク質発現量
A172細胞およびU251MG細胞それぞれを接着系ディッシュ上の通常培地(A)、非接着系ディッシュ上の通常培地(N)およびHA添加培地での培養(H)を行い、CD44タンパク質発現量をウエスタンブロッティング法によって比較した(図9)。細胞から抽出した総タンパク質を10 μgずつ泳動し、1次抗体は抗CD44マウスモノクローナル抗体(片山化学社製)及びHRP標識抗マウスIgG抗体(CSTジャパン社製)を用いた。また、抗β-アクチン抗体(CSTジャパン社製)とHRP標識抗ラビットIgG抗体(CSTジャパン社製)を用いて、構成的に発現しているタンパク質の内部指標として、β-アクチンを検出した。
【実施例】
【0054】
どちらの細胞株においても非接着系ディッシュ上で培養することによって発現量が上昇し、HA添加培地での培養によって更に発現量が上昇していた。
【実施例】
【0055】
7)U251MG-P1におけるアストロサイトマーカータンパク質の検出
U251MG-P1細胞がグリオーマ由来の細胞であることを確認するため、接着系ディッシュ上、通常培地でU251MG細胞およびU251MG-P1細胞、U251MG-P2細胞を培養して、アストロサイトのマーカータンパク質であるGFAPタンパク質をウエスタンブロッティング法で検出した(図10)。なお、U251MG-P1細胞をヌードマウスに移植して、担がんを摘出して初代培養した細胞をU251MG-P2とした。また、GFAPを発現していない細胞(ヒト卵巣がん由来SkOv-3細胞)から抽出したタンパク質をネガティブコントロールとして用いた。それぞれの細胞から抽出した総タンパク質を10 μgずつ泳動して、抗GFAP抗体(Santa Cruz Biotechnology社製)とHRP標識抗マウスIgG抗体(CSTジャパン社製)を用いて検出した。構成的に発現しているタンパク質の内部指標として、β-アクチンを検出した。
【実施例】
【0056】
それぞれの細胞株について、図10中ではU251MG細胞を0、U251MG-P1細胞をP1、U251MG-P2細胞をP2、SkOv-3細胞をSkOv-3と表記した。U251MG-P1およびU251MG-P2細胞は接着系ディッシュで培養するとGFAPを発現していることが確認された。
【実施例】
【0057】
8)SkOv-3細胞のHA培養
SkOv-3細胞、SkOv-3-P1細胞(SkOv-3細胞をマウスに接種後に担がんを摘出して初代培養した細胞)それぞれをU251MG細胞と同様に非接着ディッシュ上でHAを添加した培地(100 μg/ml ヒアルロン酸ナトリウム(和光純薬社製 ヒアルロン酸ナトリウム,鶏冠製)、10% FBS、50 U/ml ペニシリン、および 50 μg/ml ストレプトマイシンを含むRPMI1640)上と添加していない通常の培地(10% FBS、50 U/ml ペニシリン、および 50 μg/ml ストレプトマイシンを含むRPMI1640)上で4日間培養した(図11)。
【実施例】
【0058】
SkOv-3細胞はHA添加培地では細胞塊が観察されたがHAを添加しない培地(HA-、通常培地)で細胞塊が観察されなかった。SkOv-3-P1細胞はHA存在下では細胞塊が大きくなり、周囲にはディッシュ表面上に接着している細胞が多く観察された。HAを添加しない培地(通常培地)では、ディッシュ表面に僅かに接着している細胞が小さな細胞塊を形成していたが、HA添加培地下での培養と比較すると生育が遅く、細胞塊も小さかった。接着系ディッシュ上ではHAの有無による差は殆ど認められず、正常に成長した。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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