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明細書 :無機有機複合熱電変換材料とその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2016-086027 (P2016-086027A)
公開日 平成28年5月19日(2016.5.19)
発明の名称または考案の名称 無機有機複合熱電変換材料とその製造方法
国際特許分類 H01L  35/14        (2006.01)
H01L  35/24        (2006.01)
H01L  35/34        (2006.01)
H01L  29/06        (2006.01)
B82Y  30/00        (2011.01)
B82Y  40/00        (2011.01)
H02N  11/00        (2006.01)
C01G  23/00        (2006.01)
FI H01L 35/14
H01L 35/24
H01L 35/34
H01L 29/06 601N
B82Y 30/00
B82Y 40/00
H02N 11/00 A
C01G 23/00 D
請求項の数または発明の数 10
出願形態 OL
全頁数 19
出願番号 特願2014-216416 (P2014-216416)
出願日 平成26年10月23日(2014.10.23)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第2項適用申請有り 1-1.電気通信回線を通じて、2014年6月8日,http://www.cimtec-congress.org/abstracts_symposium_fdのサイトに発表。 1-2.学会 CIMTEC 2014,6th Forum on New Materialsにおいて、2014年6月17日に発表。 2-1.電気通信回線を通じて、平成26年7月6日,http://abstracts.its.org/bookofabstractsおよびhttp://abstracts.its.org/abstractdetails/10553のサイトに発表。 2-2.学会 ICT2014-INTERNATIONAL CONFERENCE ON THERMOELECTRICSにおいて、平成26年7月8日に発表。 3-1.The International Ceramic Federation発行、5th International Congress on Ceramics,Abstruct(DVD-ROM),F-07-024欄において、2014年8月17日に発表。 3-2.学会 5th International Congress on Ceramics(ICC5)において、2014年8月20日に発表。 4-1.一般社団法人日本熱電学会発行、第11回日本熱電学会学術講演会(TSJ2014)予稿集(発行日:2014年9月29日),第51頁において、平成26年9月29日に発表。 4-2.学会第11回日本熱電学会学術講演会(TSJ2014)において、平成26年9月29日に発表。 5-1.一般社団法人日本熱電学会発行、第11回日本熱電学会学術講演会(TSJ2014)予稿集(発行日:2014年9月29日),第138頁において、平成26年9月29日に発表。 5-2.学会第11回日本熱電学会学術講演会(TSJ2014)において、平成26年9月29日に発表。
発明者または考案者 【氏名】河本 邦仁
【氏名】万 春磊
出願人 【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100117606、【弁理士】、【氏名又は名称】安部 誠
【識別番号】100136423、【弁理士】、【氏名又は名称】大井 道子
【識別番号】100142239、【弁理士】、【氏名又は名称】福富 俊輔
審査請求 未請求
テーマコード 4G047
Fターム 4G047CA03
4G047CB08
4G047CC03
4G047CD07
要約 【課題】無機材料と有機材料とからなり、中低温域で優れた熱電変換特性を有するn型の無機有機複合熱電変換材料を提供する。
【解決手段】無機有機複合熱電変換材料は、n型熱電変換特性を有し層状の結晶構造を有する無機材料の層間に、有機カチオンと、比誘電率が10以上の極性溶媒分子と、が導入されている。無機材料の層間距離は、無機材料単独での層間距離よりも大きく、15Å以下であることが好ましい。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
n型熱電変換特性を有し層状の結晶構造を有する無機材料の層間に、
有機カチオンと、比誘電率が10以上の極性溶媒分子と、が導入されている、無機有機複合熱電変換材料。
【請求項2】
前記無機材料の結晶構造における層間距離は、該無機材料単独での層間距離よりも大きく15Å以下である、請求項1に記載の無機有機複合熱電変換材料。
【請求項3】
前記無機材料は硫化チタンである、請求項1または2に記載の無機有機複合熱電変換材料。
【請求項4】
前記有機カチオンはヘキシルアンモニウムイオンである、請求項1~3のいずれか1項に記載の無機有機複合熱電変換材料。
【請求項5】
前記極性溶媒分子は、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコールおよび水からなる群から選択される少なくとも1つを含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の無機有機複合熱電変換材料。
【請求項6】
前記有機カチオンと前記極性溶媒分子とは溶媒和を形成している、請求項1~5のいずれか1項に記載の無機有機複合熱電変換材料。
【請求項7】
300Kにおける熱伝導度が1W/mK以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載の無機有機複合熱電変換材料。
【請求項8】
前記無機材料の結晶構造を構成する層は波状に湾曲されている、請求項1~7のいずれか1項に記載の無機有機複合熱電変換材料。
【請求項9】
下記で定義される曲げ弾性率E:
幅w:3mm,厚みh:300μmの試験片を用意し、
片持ち梁式にて、拘束位置から荷重点までの距離Lを1.8cmとして、前記荷重点に荷重Pを加えたときの前記荷重点の変位δに基づき、次式E=(4×P×L)/(w×h×δ)で算出される;
が0.5GPa以下である、請求項1~8のいずれか1項に記載の無機有機複合熱電変換材料。
【請求項10】
n型熱電変換特性を有し層状の結晶構造を有する無機材料を用意すること、
有機カチオンが溶媒に溶解されている導入溶液を用意すること、
比誘電率が10以上の極性溶媒を用意すること、
前記無機材料を陰極とし、前記導入溶液中で前記陰極と陽極との間に電圧を印加することで、前記無機材料の結晶構造における層間に少なくとも前記有機カチオンと前記溶媒の溶媒分子とが導入された前駆体を得ること、および
前記前駆体を前記極性溶媒に浸漬して前記前駆体中の前記溶媒分子と前記極性溶媒の溶媒分子とを置換することで、無機有機複合熱電変換材料を得ること、
を含む、無機有機複合熱電変換材料の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、無機有機複合熱電変換材料に関する。より詳細には、フレキシブルなn型熱電変換材料として有用な無機有機複合熱電変換材料と、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、日本で消費されるエネルギーの約6割以上は、未利用のまま廃熱として大気中へ排出されるといわれている。かかる廃熱を電気エネルギーに変換して利用できれば、省エネルギー、環境負荷の軽減を実現することができるために望ましい。ここで、廃熱の多くは発電所や工場、自動車などから比較的少量ずつに排出され、その大部分は200℃以下と温度が低いことから、タービンなどを用いた従来の大規模なエネルギー変換技術では利用が難しいという問題があった。そのため、このように小量で、かつ、低温の廃熱を有効利用するために、低温でも高い変換効率で発電が可能な熱電発電技術の開発が期待されている。
【0003】
200℃以下の中低温度域で高い熱電発電特性を示す材料として、ビスマス(Bi)とテルル(Te)を用いた金属間化合物(Bi-Te系化合物)が知られている。しかしながら、BiやTeはレアメタルであるため原料を大量に入手するのが困難であり、また、化学的耐久性が低い、毒性がある、硬い、重い等といった欠点が指摘されてもいる。
一方、近年では、非常に高い導電性を示す導電性高分子を利用した熱電変換材料が注目を集めている。このような有機材料を利用した熱電変換材料は、レアメタルを使わないために低コストであり、環境負荷が低いほか、柔軟性があるといった特長を有する。例えば、2013年には、Kimらにより、PEDOT:PSS(Poly(3,4-ethylenedioxythiophene):Poly(styrenesulfonate))系材料について、0.42という高い無次元熱電変換性能指数(ZT)が実現されたことが報告されている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【0004】

【非特許文献1】G-H. Kim, et al., Nature Mater, 12,(2013)719
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、熱電変換素子は、大きな電位差を得るためにp型半導体とn型半導体とを組み合わせることで構成される。しかしながら、上記のPEDOT:PSS系材料はp型の有機熱電変換材料であって、n型の有機熱電変換材料についてはPEDOT:PSS系材料ほどZTの高い材料は知られていない。
本発明は、上記の従来技術の問題を解決すべく創出されたものであり、その目的は、無機材料と有機材料とからなり、中低温域で優れた熱電変換特性を有するn型の無機有機複合熱電変換材料を提供することである。また他の側面として、この無機有機複合熱電変換材料の製造技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ここに開示される技術により、無機有機複合熱電変換材料が提供される。この熱電変換材料は、n型熱電変換特性を有し層状の結晶構造を有する無機材料の層間に、有機カチオンと、比誘電率が10以上の極性溶媒分子と、が導入されていることを特徴としている。
本発明者らは、n型の熱電変換特性を有する無機材料を骨格とし、この無機材料の結晶構造の層間に有機カチオンを導入することで、人工超格子を構築することを想到した。そしてこの層間に、有機カチオンのみならず上記の極性溶媒分子を挿入することで、熱伝導度を大幅に低減し、ZTの向上を実現したものである。これにより、新規なn型の無機有機複合熱電変換材料が提供される。
【0007】
ここに開示される無機有機複合熱電変換材料の好適な一態様について、上記無機材料の結晶構造における層間距離は、該無機材料単独での層間距離よりも大きく15Å以下であることを特徴としている。これにより、電気伝導度の低下を抑えてより安定してZTの改善を図ることができる。
【0008】
ここに開示される無機有機複合熱電変換材料の好適な一態様について、上記無機材料は硫化チタンであることを特徴としている。これにより、レアメタルや毒性元素を含むことなく熱電変換特性に優れた無機有機複合熱電変換材料が提供される。
【0009】
ここに開示される無機有機複合熱電変換材料の好適な一態様について、上記有機カチオンはヘキシルアンモニウムイオンであることを特徴としている。これにより、安定して熱電変換特性に優れた無機有機複合熱電変換材料を実現することができる。
【0010】
ここに開示される無機有機複合熱電変換材料の好適な一態様について、上記極性溶媒分子は、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコールおよび水からなる群から選択される少なくとも1つを含むことを特徴としている。このような構成により、より好適に熱伝導度を低減してZTの向上を図ることができる。
【0011】
ここに開示される無機有機複合熱電変換材料の好適な一態様について、上記有機カチオンと上記極性溶媒分子とは溶媒和を形成している。これにより、上記無機材料のキャリア移動度を好適に高めることができる。
【0012】
ここに開示される無機有機複合熱電変換材料の好適な一態様について、300Kにおける熱伝導度が1W/mK以下であることを特徴としている。このような構成により、ZTをより確実に高めることができる。
【0013】
ここに開示される無機有機複合熱電変換材料の好適な一態様について、上記無機材料の結晶構造を構成する層は波状に湾曲されている。かかる構成により、この無機有機複合熱電変換材料が柔軟性を備え得ると考えられる。
【0014】
ここに開示される無機有機複合熱電変換材料の好適な一態様について、下記で定義される曲げ弾性率E:幅w:3mm,厚みh:300μmの試験片を用意し、片持ち梁式にて、拘束位置から荷重点までの距離Lを1.8mmとして、上記荷重点に荷重Pを加えたときの上記荷重点の変位δに基づき、次式E=(4×P×L)/(w×h×δ)で算出される;が0.5GPa以下であることを特徴としている。これにより、フレキシブルな無機有機複合熱電変換材料が実現される。
【0015】
他の側面において、ここに開示される技術は、無機有機複合熱電変換材料の製造方法を提供する。かかる製造方法は、n型熱電変換特性を有し層状の結晶構造を有する無機材料を用意すること;n型熱電変換特性を有し層状の結晶構造を有する無機材料を用意すること;溶媒中に有機カチオンを含む導入溶液を用意すること;比誘電率が10以上の極性溶媒を用意すること;上記無機材料を陰極とし、上記導入溶液中で上記陰極と陽極との間に電圧を印加することで、上記無機材料の結晶構造における層間に少なくとも上記有機カチオンと上記溶媒の溶媒分子とが導入された前駆体を得ること;および、上記前駆体を上記極性溶媒に浸漬して上記前駆体中の上記溶媒分子と上記極性溶媒の溶媒分子とを置換することで、無機有機複合熱電変換材料を得ること;を含むことを特徴としている。これにより、上記無機有機複合熱電変換材料を簡便かつ効率的に作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】ここに開示される無機有機複合熱電変換材料の微細構造を説明する模式図である。
【図2】サンプル1のH-NMRスペクトルである。
【図3】各例の無機有機複合熱電変換材料の(a)キャリア密度,(b)キャリア移動度,(c)ゼーベック係数および(d)電気伝導度を示すグラフである。
【図4】各例の高角散乱環状暗視野走査透過顕微鏡(HAADF-STEM)像であって、(a)TiS単結晶粒子の高倍率像、サンプル5の(b)高倍率像および(c)低倍率像である。
【図5】各サンプルに導入した極性溶媒の比誘電率と、無次元熱電変換性能指数(ZT)との関係を示したグラフである。
【図6】サンプル5および参照例の(a)X線回折(XRD)パターンと、(b)熱重量分析(TG)プロファイルである。
【図7】サンプル6のH-NMRスペクトルである。
【図8】サンプル6の(a)高倍率および(b)低倍率での高角散乱環状暗視野走査透過顕微鏡(HAADF-STEM)像である。
【図9】サンプル6と参考例についての、ZTの温度依存性を示すグラフである。
【図10】(a)サンプル6、(b)TiS単結晶および(c)PTFEシートの曲げ弾性係数を示すグラフである。
【図11】サンプル6を湾曲させたときの曲率半径と、電気抵抗変化率(R/R)との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本技術が提供する無機有機複合熱電変換材料の好適な製造方法について説明しながら、かかる無機有機複合熱電変換材料の特徴について詳細に説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄(例えば、熱電変換材料の特性評価法等に係る一般的事項等)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書および図面に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。

【0018】
ここに開示される無機有機複合熱電変換材料(以下、特にことわりの無い限り、単に「本熱電変換材料」等という場合がある。)は、図1に示したように、本質的に、n型熱電変換特性を有し、層状の結晶構造を有する無機材料の層間に、有機カチオンと、比誘電率が10以上の極性溶媒分子と、が導入されることで構成されている。本熱電変換材料は、必ずしもこれに限定されるものではないが、例えば、以下の製造方法により好適に製造することができる。

【0019】
すなわち、ここに開示される無機有機複合熱電変換材料の製造方法は、下記の1~5の工程を含んでいる。
(1)n型熱電変換特性を有し層状の結晶構造を有する無機材料を用意する。
(2)溶媒中に有機カチオンを含む導入溶液を用意する。
(3)比誘電率が10以上の極性溶媒を用意する。
(4)上記無機材料を陰極とし、導入溶液中で陰極と陽極との間に電圧を印加することで、無機材料の結晶構造における層間に少なくとも上記有機カチオンと上記溶媒の溶媒分子とが導入された前駆体を得る。
(5)上記前駆体を極性溶媒に浸漬して上記前駆体中の上記溶媒分子と上記極性溶媒の溶媒分子(以下、「極性溶媒分子」という。)とを置換することで、無機有機複合熱電変換材料を得る。
なお、上記工程1および2は、工程4に先立って実施すれば、その他の工程との順番等に特に制限はない。また、上記工程3は、工程5に先立って実施すれば、その他の工程との順番等に特に制限はない。以下、各工程について説明する。

【0020】
1.無機材料の用意
工程1では、n型熱電変換特性を有し、層状の結晶構造を有する無機材料を用意する。かかる無機材料としては、公知の各種の層状n型熱電変換材料を用いることができる。このような無機材料としては、具体的には、例えば、層状構造を有し、Nd-Ce-Cu系酸化物等に代表される銅酸化物や、NaCo等に代表されるコバルト系酸化物、CaMnO等に代表されるマンガン系酸化物、Zr-Al-C系炭化物、BiTe等に代表されるビスマス系カルコゲナイド、TiS等に代表される遷移金属ダイカルコゲナイド等が挙げられる。特に限定するものではないが、ここに開示される技術においては、上記無機材料として遷移金属ダイカルコゲナイドを用いることが好ましく、特に、硫化チタンを用いることを好ましい態様としている。

【0021】
遷移金属ダイカルコゲナイドは、一般式:MChで表される、バンドギャップを有するn型の半導体である。上記一般式中の、MはTi,Zr,Hf,V,Nb,Ta,Mo,Wから選択される少なくとも1種の遷移金属元素であり、ChはS,Se,Te等の周期表の第16族に属する少なくとも1種のカルコゲン元素である。この遷移金属ダイカルコゲナイドは、共有結合またはイオン結合で構成されるMCh単位層が、ファンデルワールス力により緩く結合されて積層された層状構造を有している。単位層内のカルコゲン元素Chは、中心金属Mに対して正八面体配位あるいは三角プリズム型配位となり得る。

【0022】
なかでも硫化チタンは、一般式:TiSで表され、300KにおけるZTが0.069のn型の熱電変換特性を有する物質である。この硫化チタンは、構成元素であるチタン(Ti)がレアメタルではなく、また、毒性を有さない点で好ましい。なお、この硫化チタンは、本発明の本質を損ねない範囲において、TiとS以外の他の元素を含むことができる。ここに開示される無機材料としては、TiSの単結晶を特に好ましく用いることができる。

【0023】
TiSは、TiS八面体ブロックからなる単位層がファンデルワールス力により結合し、その層間にナノ空間を有する層状構造を備えている。本発明者らは、これまでに、硫化チタン(TiS)が層間で剥離してモノレイヤー(チタンサルフェン)になると、電子およびフォノンの量子閉じ込め効果により、熱起電力の増大と熱伝導度の低減が起こることを明らかにしている。そこで、本熱電変換材料は、この硫化チタンを骨格(ビルディングブロック)とし、層間のナノ空間に適切な有機カチオンを導入することで、人工的なナノハイブリッド超格子を構築し、熱電変換特性の向上を図ったものである。

【0024】
このような無機材料は、必ずしも制限されるものではないが、本熱電変換材料の原料として粒子状のものを好ましく用いることができる。なお、粒子状との形態に精密な制限はなく、必ずしも球状のものに限定されず、板状、塊状等の各種の形態であってよい。典型的には、TiSの結晶構造に由来した六角平板状ないしはその類縁形状のものを好ましく用いることができる。また、無機材料の大きさについても任意であってよく、本熱電変換材料の用途等に応じて適宜決定することができる。例えば一例として、平均粒子径が0.1μm~1mm(好ましくは1μm~100μm、例えば5μm~50μm)程度と比較的微細なものを用いることが挙げられる。あるいは、例えば、平均粒子径が1mm~500mm(好ましくは5mm~90mm、例えば10mm~80mm)程度の比較的粗大なものを用いることもできる。なお、ここでいうところの無機材料の大きさは、本発明の製造方法に供する際の大きさであって、製造後の本熱電変換材料についてはこれに制限されない。このような無機材料は、市販の製品を購入して入手しても良いし、原料から合成して入手しても良い。例えば、遷移金属ダイカルコゲナイドの単結晶を合成するには、化学的気相輸送法を好適に利用することができる。
なお、本明細書における「平均粒子径」とは、特記しない限り、レーザ散乱・回折法に基づく粒度分布測定装置により測定された体積基準の粒度分布における積算値50%での粒径を意味するものとする。

【0025】
2.導入溶液の用意
工程2では、溶媒中に有機カチオンを含む導入溶液を用意する。
ここで有機カチオンは、上記の層状構造を有する無機材料の層間に導入される対象である。この有機カチオンとしては、例えば、硫化チタン等の無機材料の層間に挿入可能な大きさであって、かつ、層間で正に帯電して存在し得る各種の有機カチオンを考慮することができる。そしてこの導入溶液は、例えば、各種のカチオン性のポリマー又はモノマーを適切な溶媒に溶解させることで調製することができる。
カチオン性のポリマー又はモノマーとしては特に制限されず、水に溶解したときに親水基がカチオン(陽イオン)となる各種の有機材料を用いることができる。これに制限されるものではないが、例えば、具体的には、ポリアリルアミン塩酸塩(PAA)、アリルアミン塩酸塩、トリアルキルアミン塩酸塩(TAA)、ヘキシルアミン(HA)およびその類縁体等が好適例として挙げられる。

【0026】
また、これらカチオン性のポリマー又はモノマーを溶解させる溶媒については、上記のカチオン性有機化合物に対する溶解性を有し、後の工程4において電解液として機能し得る各種のものを特に制限なく使用することができる。例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート(PC)、アセトニトリル(ACN)、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド(Dimethyl sulfoxide:DMSO)、ジメチルホルムアミド(N,N-dimethylformamide:DMF)またはこれらの混合物等を好ましく用いることができる。より好ましくは、多様な有機化合物や無機塩を溶解し得るDMSOやDMFまたはこれらの混合物等である。なお、導入溶液における有機カチオンの濃度について厳密な制限はないが、例えば、0.01M~10M(好ましくは0.05M~5M、例えば0.1M~1M)程度を目安とすることができる。ここで、濃度を示す「M」は「mol/L」を意味する。

【0027】
3.極性溶媒の用意
工程3では、比誘電率が10以上の極性溶媒を用意する。この極性溶媒は、図1に示されるように、極性溶媒分子として、上記の有機カチオンと共に無機材料の層間に挿入される成分である。後で説明するが、無機材料の層間において、この極性溶媒が有機カチオンと溶媒和することで、有機カチオンと単位層との間のクーロン相互作用を弱めることができる。換言すると、有機カチオンを極性溶媒中で安定化させ、単位層内での電子の移動をより円滑にする役割を有すると考えられる。

【0028】
このような極性溶媒としては、適度な炭素鎖および水酸基,カーボネート基,複素環等の極性基を有する各種の有機溶媒や水等を用いることができる。具体的には、例えば、メタノール,エタノール,1-プロパノール,2-プロパノール,1-ブタノール,t-ブチルアルコール,アセトン,ブロモホルム,ニトロメタン,エチレングリコール,ポリエチレングリコール,テトラヒドロフラン,γ-ブチロラクトン,ニトロベンゼン,アセトニトリル,アセトフェノン,N-メチルピロリドン,ピリジン,エチレンカーボネート,メチレン臭化物,メチレンヨウ化物,炭酸エチレン,ホルムアミド,Nメチルホルムアミド,Nメチルアセトアミド,二硫化炭素,酢酸,ギ酸,水等が挙げられる。好ましくは、エチレングリコール,ポリエチレングリコール等のエチレングリコール類,上記1-ブタノール等のブタノール類,ホルムアミド等のアミド類,水等が挙げられる。このような極性溶媒は、いずれか1種を単独で用いても良いし、2種以上を混合して用いてもよい。ここで、理由は定かではないが、ジメチルスルホキシド(Dimethyl sulfoxide:DMSO)は比誘電率が49で10以上であるが、ここに開示される極性溶媒分子として用いた場合に好適な特性を示す熱電変換材料が得られ難い。この理由として、DMSOが、熱電材料とした場合に熱的安定性において劣るためであると推察される。そこで、DMSOを用いる場合には、上記のいずれか1種以上の極性溶媒分子と共存させることが好ましい。このとき、極性溶媒分子全体に占めるDMSOの割合は、好ましくは30mol%以下であり、より好ましくは20mol%以下であり、特に好ましくは15mol%以下である。このとき、DMSOと共存させる極性溶媒は特に制限されないものの、例えば、酢酸,ギ酸,水等のプロトン性溶媒であることが好ましい。

【0029】
また極性溶媒における比誘電率は、15以上であるのが好ましく、20以上であるのがより好ましく、30以上であるのが特に好ましく、40以上であるのが更に好ましい。比誘電率の上限には特に制限はないが、例えば、200以下程度をおおよその目安として設定することができる。極性溶媒が2種以上の混合溶媒であるとき、全体としての比誘電率が上記範囲であればよい。かかる観点から、例えば、極性溶媒としてのエチレングリコール類については、重量平均分子量Mwが1000以下のポリエチレングリコール(PEG)を用いることができ、Mwが300以下のPEGであるのが好ましく、Mwが200以下のPEGであるのがより好ましく、ジエチレングリコール(DEG)またはエチレングリコール(EG)を用いるのが更に好ましい。

【0030】
4.前駆体の作製
工程4では、上記無機材料を陰極とし、上記導入溶液中で陰極と陽極との間に電圧を印加する。陰極において、無機材料はバルク体が用いられても良いし、微細粒子が用いられていても良い。微細粒子を用いる場合には、例えば、集電箔の表面に、複数の微細粒子を直接またはバインダ等を介して配置すれば良い。陽極としては、例えばこの種の電気化学反応に使用され得る白金電極等の各種の電極を用いることができる。陰陽極間に印加する電圧は、例えば1.5V~2.4V程度とすることができる。これにより、導入溶液中に含まれる有機カチオンは陰極に引き寄せられ、無機材料の層間に挿入(インターカレーション)されると同時に、陰極から層内に電子が注入される。また、導入溶液を構成する溶媒の一部も、有機カチオンと共に無機材料の層間に挿入され得る。これにより、無機材料の結晶構造における層間に、少なくとも上記有機カチオンと上記溶媒分子とが導入された前駆体を得ることができる。

【0031】
なお、本熱電変換材料は、無機材料の単位層の層間のナノ空間に有機カチオンが挿入されている。ここで、挿入される有機カチオンにより、無機材料の層間距離は変化(典型的には拡大)し得る。また、単位層は主としてファンデルワールス力で結ばれており、過剰な有機カチオンの挿入は超格子構造を崩壊させ得る。そのため、有機カチオンは、超格子構造を崩壊させることなく、層間に複数の分子が重なり合うことなく、或いは数層(2~3分子層、典型的には2分子層)程度に重なり合って挿入されることが好ましい。できれば単分子層で挿入されることが好ましい。かかる観点から、例えば、対象とする上記無機材料の形態(例えば、大きさ、形状)等に応じて、上記の印加電圧および印加時間等を調整することができる。例えば、具体的な一例として、無機材料として数ミリ角の大きさの板状結晶を用いる場合に、印加電圧1.8V、印加時間20分程度の条件で上記電気化学的挿入を実施することが好ましい。

【0032】
5.無機有機複合熱電変換材料の作製
工程5では、上記で得た前駆体を用意しておいた極性溶媒に浸漬し、駆体中の溶媒分子と極性溶媒分子とを置換(溶媒交換)する。前駆体の形状や極性溶媒との量比等にもよるが、極性溶媒への浸漬は概ね24時間程度とすることができる。また、極性溶媒の性質にもよるが、極性溶媒は溶媒交換を促進させる目的等で、適度に加熱(例えば、30℃~60℃程度の加熱)することもできる。導入溶液の溶媒分子は、全てが完全に極性溶媒分子に置換される必要はない。例えば、意図して、あるいは不可避的に、溶媒分子が残存することもあり得る。これにより、ここに開示される無機有機複合熱電変換材料を得ることができる。

【0033】
この無機有機複合熱電変換材料は、層状の結晶構造を有する無機材料の層間に、有機カチオンと極性溶媒分子とが導入されている。これによって、無機材料の結晶構造における層間距離は、該無機材料単独での層間距離よりも拡大され得る。また、本発明者らの検討によると、この層間距離が大きすぎると熱電変換特性が急速に劣化し得る。したがって、この層間距離は、18Å以下程度とすることができ、15Å以下程度であるのが好ましく、12Å以下であるのがより好ましく、10Å以下であるのが特に好ましい。

【0034】
また、層間において、有機カチオンは極性溶媒分子と溶媒和していることが好ましい。有機カチオンと極性溶媒分子とが溶媒和の状態にあると、有機カチオンの状態が安定化されて、無機材料の単位層内の電子(キャリア)に対する有機カチオンのクーロン相互作用が抑制され得る。これにより、単位層内での電子の移動度(μ)を向上することができる。
なお、このような有機カチオンと極性溶媒分子との組み合わせは、本熱電変換材料のパワーファクター(PF;Sσ)やZTを著しく高め得る。特に限定されるものではないが、ここに開示される技術において、例えば、有機カチオンがヘキシルアンモニウムイオンであって、極性溶媒分子がエチレングリコールまたは水である構成は、特に好ましい組み合わせであり得る。

【0035】
このようにして得られる本熱電変換材料は、骨格を無機材料で構成しているために本質的に高い耐久性が備えられている。そしてこの無機材料の層間に有機化合物が導入されることで、堅固な無機材料の単位層が湾曲され得る。湾曲の度合いは様々であり得るために一概には言えないが、例えば、層間距離を15Å以下(特に好ましくは10Å以下)に保ったまま、曲率が100nm-1以上10nm-1以下程度(例えば20nm-1程度)、振幅が1nm以上10nm以下(例えば2nm)、波長が10nm以上50nm以下程度(例えば30nm程度)の波状にナノレベルで湾曲され得る。このような無機材料の結晶構造の変化の理由は定かではないが、単位層の層間に極性溶媒分子が不均一に導入されたことにより、単位層を構成するTiS八面体ブロックの傾きや互いのブロック同士の共有結合の角度等が影響を受けたものと考えることができる。

【0036】
また、このような湾曲構造を有する本熱電変換材料は、柔軟性が付与されてもいる。例えば、高い柔軟性(例えば、曲げ弾性率が0.5GPa以下、望ましくは0.15GPa以下)を示し得る。換言すると、本熱電変換材料は、全体としての堅固な骨格は維持したまま、柔軟性が付与されたものであり得る。従来のn型のフレキシブルな熱電変換材料においては、当該熱電変換材料をファイバー状あるいは微細粉末状にしてペースト化することで柔軟性を実現していた。これに対し、ここに開示される熱電変換材料は、例えばバルクに相当する形状においてフレキシブルであり得る点で、これまでにない新しいn型熱電変換材料である。

【0037】
さらに、本熱電変換材料は、上記のとおりの結晶構造の湾曲化に伴い、熱伝導度が大幅に低減され得る。とりわけ、熱伝導度を決定する因子のうち、格子熱伝導度が極めて小さい値(例えば、1W/mK以下、好ましくは0.5W/mK以下、特に好ましくは0.15W/mK以下)にまで低減され得る。詳細は定かではないが、単位層がナノレベルで湾曲化されたことにより格子振動(フォノン)散乱が生じ、電気伝導性に影響を与えることなくフォノンだけが阻害されるような構造が実現されたものと予想される。このような格子熱伝導度の低減も、PFやZTで表される熱電変換特性を著しく高め得るために好ましい。例えば、本熱電変換材料によると、300KにおけるZTが0.1以上、好ましくは0.15以上、より好ましくは0.2以上という高い値を実現することができる。

【0038】
以下、実施例により本発明を具体的に示すが、本発明はかかる例によって限定されるものではない。
(例1)
[二硫化チタン(TiS)単結晶の合成]
二硫化チタンの単結晶を、化学気相輸送法により合成した。すなわち、原料として市販のチタン粉末(製造元:株式会社高純度化学研究所、品番:TIE06PB、平均粒子径:45μm以下)と硫黄粉末(製造元:株式会社高純度化学研究所、品番:SSE02PB、平均粒子径:175μm以下)とを使用した。これらの粉末を、Ti:Sが1:3のモル比となるように秤量し、混合したのち、石英チューブの一方の端部に充填して真空封入(真空度2.0×10-2Pa以下)した。そして、温度傾斜がある電気炉中に石英管を配置し、混合粉末の存在する側の端部が750℃、反対側が630℃となるように加熱した。これにより、高温側で原料を気化させて低温側に移動させ、互いに反応させて単結晶を析出させた。これにより、粒子径が4~5mm程度の六角平板状を呈するTiS単結晶粒子を用意した。

【0039】
[前駆体の調製]
次に、上記で作製したTiSの層間に、電気化学反応を利用して有機カチオンを導入(インターカレート)した。有機カチオンとしてはヘキシルアンモニウムイオン(HA)を用いるようにした。すなわち、先ず、溶媒としてのジメチルスルホキシド(Dimethyl sulfoxide:DMSO)に0.5Mとなるようにヘキシルアミン塩酸塩(Hexylamine Hydrochloride,製造元:東京化成工業株式会社、品番:HO135)を溶解し、導入溶液を用意した。この導入溶液をビーカーに入れて電解液とし、上記作成したTiS単結晶粒子を陰極(カソード)、白金電極を陽極(アノード)として、両電極間に2.0Vの電圧を印加した。これにより、TiS単結晶粒子の層間に、HAとDMSOとの溶媒和分子を挿入した前駆体(TiS[(HA)x(DMSO)y])を作製した。

【0040】
次いで、この前駆体について、上記で溶媒として使用したDMSO成分を、他の極性溶媒成分と置換した。ここで極性溶媒としては、(1)エチレングリコール(EG、比誘電率36),(2)ジエチレングリコール(DEG、比誘電率28),(3)ポリエチレングリコール200(PEG200、分子量200、比誘電率20),(4)ポリエチレングリコール400(PEG400、分子量400、比誘電率14),(5)ポリエチレングリコール1000(PEG1000、分子量1000、比誘電率10)の5種類を用意した。そしてこれらの極性溶媒を50℃に加熱し、上記の前駆体を1日間浸漬させることで、前駆体中のDMSO成分を、当該極性溶媒の極性溶媒分子と置換した。これにより、ここに開示される無機有機複合熱電変換材料を得た。以下、これらの無機有機複合熱電変換材料を、導入した極性溶媒の付番に準じて、それぞれサンプル1~5と呼ぶ。

【0041】
[NMR、偏光IR]
上記で得たサンプル1~5について、核磁気共鳴(Nuclear Magnetic Resonance:NMR)分光法および偏光赤外分光(infrared spectroscopy:IR)法により化学構造解析を行った。測定には、NMR分析装置(製造元:Varian、型番:INOVE-500)を用い、分析条件をDO溶媒、H-NMR室温積算回数32とした。参考のために、サンプル1について得たH-NMRスペクトルを図2に示した。
IRスペクトルから得た情報を併せると、図2に示されるNMRスペクトルにおける、3ppm以下の範囲のピークは、それらのケミカルシフト値より、ヘキシルアミン(HA)に帰属された。また、3ppmから4ppmの範囲に見られるピークは、エチレングリコール(EG)に帰属された。これらのピークの積分値から、TiSの層間にはHAとEGとが、0.096:0.31のモル比で含まれていることが確認された。なお、このサンプル1を、便宜上、TiS[(HA)0.096(EG)0.31]のように示す場合がある。また、図2において、4.5ppmから5ppmに見られるピークは測定に際し添加した重水に関するものである。

【0042】
IRスペクトルからは、TiSの層間に、EGは分子鎖がTiS平面と平行になるように、HAは31.8°に傾斜して、配置していることが確認された。また、サンプル1~5の熱電変換材料が、TiS無機材料と有機材料とからなるナノサイズの超格子構造を実現していることが確認された。

【0043】
[XRD]
TiS単結晶粒子と、上記で得たサンプル1~5とについて、X線回折(X-ray diffraction:XRD)分析を行った。XRD分析には、X線回折分析装置(製造元:株式会社リガク、品番:RINT2100を用い、CuKα線(40kV,30mA)を使用して、2θ=2~60°の範囲をステップ幅0.02、積算時間0.2sの条件で測定した。その結果、同定されたTiS単結晶粒子は、TiSの単結晶のみからなることが確認された。また、TiSの層間距離は5.69Åであることがわかった。
サンプル1~5について、XRDパターンは互いにほぼ同様の位置にピークが見られ、結晶構造には概ね差が見られないことが確認できた。そしてサンプル1~5の層間距離はいずれも16Å以下程度(15.6~15.9Åの範囲)であって、TiSに比較して層間が大幅に拡大されていることがわかった。しかしながら、挿入されたEG,PEGの分子量が変化してもサンプル1~5の間で層間距離はさほど変わっていなかった。これは、IR測定から解ったように、EGやPEGの分子鎖がTiS平面に平行となるように層間に配置されていることによるものと考えられる。
なお、サンプル5の構造を詳細に調査したところ、TiSの層間(15.9Å)にHAおよびPEGがそれぞれ2分子層を形成して存在していることが確認された。したがって、これらのサンプル1~4ついても、TiSの層間(15.6~15.8Å)にHAおよびEG,DEG,PEGがそれぞれ2分子層もしくは単分子層の状態で存在していることが予想される。

【0044】
[熱電変換特性]
サンプル1~5について、測定温度300Kにおける(a)キャリア密度:η,(b)キャリア移動度:μ,(c)ゼーベック係数:S,(d)電気伝導度:σを測定した。その結果を、図3(a)~(d)にそれぞれ示した。なお、図3のグラフの横軸は、サンプル1~5に導入した極性溶媒の比誘電率を示している。また、キャリア密度,キャリア移動度および電気伝導度は、直流四端子(van der Pauw)法に基づき測定および算出を行った。ゼーベック係数は、ペルチェ素子を用いた直流二端子電圧・温度測定法に基づき測定した。

【0045】
図3に示されるように、(a)キャリア密度については、サンプル間で有意な差は見られなかった。そのため、キャリア密度と相関のある(c)ゼーベック係数についてもサンプル間で略一定の値となった。一方で、(b)キャリア移動度については、極性溶媒の比誘電率と良い相関が見られた。すなわち、極性溶媒の比誘電率が増えるほど、キャリア移動度が高められる傾向があることが確認された。これは、有機カチオンであるHAとキャリア電子との間のクーロン力が、極性溶媒によって遮蔽され、極性溶媒の比誘電率と反比例する関係にあることによると考えられる。その結果、(d)電気伝導度についても極性溶媒の比誘電率と共に増大する傾向が見られ、サンプル1~5は極性溶媒の比誘電率が高くなるほどこの材料中で電子が動きやすくなることがわかった。

【0046】
[熱伝導度]
次いで、サンプル1~5について、測定温度300Kにおける熱伝導度(すなわち、キャリア熱伝導度kおよび格子熱伝導度k)をParallel thermal conductance法により測定した。具体的には、金抵抗に定電流を流すことでサンプルに熱流を通過させ、その際のサンプルに発生した温度差から熱伝導度kを求めた。その結果を下記の表1に示した。各無機有機複合熱電変換材料の熱伝導度は、理論的には導入された極性溶媒の分子量等に依らず、ほぼ同一の値を示すと考えられる。しかしながら、表1に示されるように、例えば、格子熱伝導度については、EGを導入したサンプル1において0.20W/mKと、極めて小さい値を示すことがわかった。Wiedemann-Franz則により、電気伝導度から電子熱伝導度kを見積もり、k=k+kの関係から格子熱伝導度kを求めた。

【0047】
【表1】
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【0048】
[HAADF-STEM]
TiS単結晶粒子と、サンプル5とについて、高角散乱環状暗視野走査透過顕微鏡(HAADF-STEM、製造元:日本電子株式会社,型番:JEM-ARM200F)により微細構造を観察した結果を図4(a)~(c)に示した。図4において、(a)がTiS単結晶粒子の高倍率像を、(b)(c)がサンプル5の高倍率像と低倍率像とを、それぞれ示している。(a)のTiS単結晶については、層間距離5.69Åの規則正しい層状構造を有していることが確認できた。しかしながら、(c)に示されるように、TiSの層間にHAとPEG1000とを導入したサンプル5については、層状の結晶構造が波打ち、明瞭な像が得られ難い状況であった。また(b)に示されるように層間距離にはばらつき(例えば、9.65Å,14.2Å)が見られた。このことは、無機材料のTiSに有機材料を導入することで結晶構造の長距離規則性が失われ、TiSがあたかもアモルファス化したようにも考えることができる。そしてこのアモルファス化によるナノレベルでの波状構造が、フォノン散乱を誘起して振動を抑制し、上記の格子熱伝導度の低下、延いては全体の熱伝導度の低下につながったと考えられる。

【0049】
[ZT]
上記の結果をもとに、サンプル1~5に関する300Kにおける無次元熱電変換性能指数(ZT)を算出した。図5に、各サンプルに導入した極性溶媒の比誘電率と、ZTとの関係を示した。図5に示されるように、サンプル1~5のZTについても、骨格となる無機材料の層間に導入した極性溶媒の比誘電率と良い相関を示すことがわかった。そして、例えば、EGを導入したサンプル1のZTは0.17と、TiS単結晶粒子単独でのZTである0.07に比べて大幅に向上されることが確認できた。
以上のことから、比誘電率の高い(例えば10以上)極性溶媒をn型熱電変換材料の層間に導入することで格子熱伝導度kが極めて低く抑えられ、移動度μおよび電気伝導度σが向上されるとともに、極めて高いZTが得られることが確認された。

【0050】
(例2)
上記の例1と同様に、TiS単結晶粒子の層間にHAとDMSOとの溶媒和分子が導入された前駆体(TiS[(HA)x(DMSO)y])を作製した。
次いで、この前駆体をイオン交換水に1日間浸漬させることで、前駆体中のDMSO成分を、水分子と置換した。これにより、ここに開示される無機有機複合熱電変換材料(サンプル6)を得た。水の比誘電率は78と、例1で用いた極性溶媒の比誘電率(10~36)よりも大きい。

【0051】
[XRD,TG]
次いで、このサンプル6について、XRD分析および熱重量測定(Thermograbimetry:TG)を行った。その結果を図6に、(a)XRDパターン、(b)TGプロファイルとして示した。なお、参考のために、XRDパターンには、TiS単結晶粒子と、溶媒交換前の前駆体についての結果も併せて示した。

【0052】
XRDパターンから算出した層間距離は、TiS単結晶が5.69Å、前駆体が13.9Å、サンプル6が9.69Åであった。すなわち、極性溶媒として水を溶媒交換することで、層間距離は、TiS単結晶よりは大きいものの、前駆体よりは小さくなったことが確認された。また、このサンプル6の層間距離は、例えば例1におけるサンプル1~5よりも層間距離が狭くなったことがわかる。
また、熱重量測定の結果から、このサンプル6は、極性溶媒として水を含んでいるにもかかわらず、大気中で室温から120℃程度まで安定に存在し得ることがわかった。

【0053】
[NMR、偏光IR]
サンプル6について、NMR分光法およびIR分光法により化学構造解析を行った。サンプル6について得たH-NMRスペクトルを図7に示した。IRスペクトルから得た情報を併せると、図7に示されるNMRスペクトルにおける1.2ppm近傍のピークはHOに帰属され、1.7ppm以下の範囲のピークはヘキシルアミン(HA)に帰属され、2.9ppm近傍に見られるピークは、DMSOに帰属された。そして、これらのピークの積分値から、TiSの層間には、HAとDMSOとHOとが、3:1:8のモル比で含まれていることが確認された。すなわち、DMSOとHOとは完全に置換されなかった。なお、溶媒置換の時間を長大化しても極少量のDMSOが残存することがわかった(TiS[(HA)0.08(DMSO)0.03(HO)0.22])。また、IRスペクトルからは、TiSの層間にHOがTiS平面と平行になるように、HAは31.8°に傾斜して、配置していることが確認された。このことから、HAおよびDMSO,HOは、概ね1分子層で層間に存在していることがわかった。また、サンプル6の熱電変換材料も、TiS無機材料と有機材料とからなるナノサイズの超格子構造を実現していることが確認された。

【0054】
[HAADF-STEM]
図8にサンプル6についてHAADF-STEMにより微細構造を観察した結果を示した。図8(a)は高倍率像であって、(b)は低倍率像である。(a)に示されるように、TiSの層間にHAとHOとを導入したサンプル6においては、層間距離が9.65Åであった。これは、TiS単結晶の層間距離(5.69Å)と比較すると大きいものの、EGを導入したときの層間距離(15.6Å)よりも小さいものであった。また、(b)に示されるように、サンプル6は、層状のTiS結晶構造が大きく波打っているのが確認された。この湾曲具合はサンプル5よりも大きいことがわかった。

【0055】
[熱電変換特性]
次いで、サンプル6の熱電変換特性について調べた。すなわち、上記例1と同様にして、測定温度300Kにおけるキャリア密度:η,キャリア移動度:μ,ゼーベック係数:S,電気伝導度:σ,熱伝導度:kを測定し、それらの結果からZTを算出した。その結果を、下記の表2に示した。参考のために、TiS単結晶およびサンプル1についての値も併せて表2に示した。また、熱伝導度に関しては、表3に詳細に示した。
サンプル6の熱電変換材料は、表2および3に示されるように、サンプル1に比べてキャリア移動度が大幅に向上され、また熱伝導度(特に格子熱伝導度)が低減されている。そのため、サンプル6のZTは0.21と、サンプル1よりも大幅に改善され、またTiS単結晶のZTの約3倍もの高い値を示すことが確認された。

【0056】
【表2】
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【0057】
【表3】
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【0058】
なお、図9に、サンプル6のZTを300Kから380Kの間で算出した結果を示した。また、参考のために、これまでに知られている無機材料からなるn型熱電変換材料(Cu0.02TiS,(SnS)1.2(TiS)についてのZT値についても併せて示した。図9から明らかなように、ここに開示される技術により、n型熱電変換特性を有する無機材料の層間に、有機カチオンおよび溶媒を導入することで、熱電変換特性を大幅に(例えば、0.10以上)改善できることが示された。

【0059】
[柔軟性試験1]
サンプル6の熱電変換材料について、曲げ弾性係数を測定した。試験片としては、サンプル6を幅w:3mm,長さ:4mm,厚みh:300μmに切り出したものを用意し、片持ち梁式により測定を行った。すなわち、試験片の一端を拘束し、拘束位置から距離L1.8mmの位置を荷重点として、かかる荷重点に荷重Pを加えたときの変位δを測定した。そして、次式に基づき、曲げ弾性係数Eを算出した。
E=(4×P×L)/(w×h×δ)
図10に(a)サンプル6の曲げ弾性係数Eの測定結果を示した。また、参考のために、(b)TiS単結晶および(c)PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)シートについても同様に曲げ弾性係数Eを測定してその結果を示した。図10に示すように、(a)サンプル6は、(b)TiS単結晶および(c)PTFEシートよりも曲げ弾性係数が小さく、より柔軟であることが確認された。

【0060】
[柔軟性試験2]
また、サンプル6の熱電変換材料を湾曲させたときの電気抵抗の変化について調べた。具体的には、試験片として、サンプル6を幅w:3mm,長さ4mm,厚みh:300μmに切り出したものを用意した。また、外径が1.5mm~12.5mmの8通りのガラス管を用意した。そして、試験片の長手方向がガラス管の周方向に沿うように、試験片をガラス管の表面に貼り付けて湾曲させ、湾曲前後の試験片の電気抵抗を測定した。そして、湾曲前抵抗をR、湾曲後抵抗をRとしたときの、電気抵抗変化率R/Rを算出し、その結果を図11に示した。電気抵抗の測定は、N=10で行った。

【0061】
サンプル6の試験片は、曲率半径1.5mmという比較的曲率の高い平面に対しても追随できる柔軟性を備えていることが確認できた。また、湾曲の前後で試験片が破損したりクラックが入ったりすることなく、抵抗変化率も低い値であった。
このように、ここに開示される無機有機複合熱電変換材料は、高い柔軟性を備えると共に、湾曲された時もその電気特性等が殆ど変化しないことが確認された。すなわち、この無機有機複合熱電変換材料は、高いPFとZTとを実現するものであり、また、フレキシブルなn型熱電変換材料として有用であることが示された。
以上、本発明を好適な実施形態により説明してきたが、こうした記述は限定事項ではなく、勿論、種々の改変が可能である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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