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明細書 :乳酸菌の製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B1)
特許番号 特許第5778325号 (P5778325)
登録日 平成27年7月17日(2015.7.17)
発行日 平成27年9月16日(2015.9.16)
発明の名称または考案の名称 乳酸菌の製造方法
国際特許分類 C12N   1/20        (2006.01)
A61K  35/74        (2015.01)
A61P  37/08        (2006.01)
A61P  43/00        (2006.01)
A61P  39/02        (2006.01)
FI C12N 1/20 A
C12N 1/20 E
A61K 35/74 A
A61P 37/08
A61P 43/00 111
A61P 39/02
請求項の数または発明の数 1
全頁数 17
出願番号 特願2014-161001 (P2014-161001)
出願日 平成26年8月7日(2014.8.7)
審査請求日 平成27年4月7日(2015.4.7)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】304019399
【氏名又は名称】国立大学法人岐阜大学
発明者または考案者 【氏名】福永 肇
【氏名】江崎 孝行
早期審査対象出願または早期審理対象出願 早期審査対象出願
個別代理人の代理人 【識別番号】100085257、【弁理士】、【氏名又は名称】小山 有
審査官 【審査官】大久保 智之
参考文献・文献 特開2004-026729(JP,A)
特開2006-109761(JP,A)
国際公開第2006/073145(WO,A1)
特開2012-229258(JP,A)
特許第5420791(JP,B2)
Clin. Exp. Allergy (2002) Vol.32, pp.563-570
Allergy (2012) Vol.67, pp.343-352
Vet. Med.-Czech (2002) Vol.47, No.6, pp.169-180
化学と生物(2012)Vol.50, No.3. pp.182-187
Geun Eog Ji,Probiotics in Primary Prevention of Atopic Dermatitis,Yoshikawa T (ed): Food Factors for Health Promotion. Forum Nutr. Basel, Karger,2009年,Vol.61,pp.117-128
モダンメディア(2011)Vol.57, No.10, pp.277-287
調査した分野 C12N 1/00-7/08
JSTPlus(JDreamIII)
PubMed
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要約
【課題】
食物アレルギーなどのアレルギーを引き起こすIgE抗体を減少させることにより、食物アレルギーの症状を改善させるための乳酸菌を提供する。
【解決手段】
M細胞に侵入可能な乳酸菌であり、さらにフィラメント化することによりガレクチン-9が結合することが可能となり、M細胞を通過することによりM細胞に発現しているガレクチン-9がフィラメント乳酸菌に結合する。更にガレクチン-9結合フィラメント乳酸菌がIgE抗体を結合できる形態にする。
【選択図】 図1
特許請求の範囲 【請求項1】
乳酸菌を糖を含まない培地で37℃以上48℃以下の培養温度で培養することで、M細胞(Microfold cell)に侵入可能で、ガレクチン-9が結合可能で且つM細胞通過後にアレルギー抗体であるIgE抗体を吸収結合する能力を有するフィラメント形態の乳酸菌を得ることを特徴とする乳酸菌の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明はM細胞に侵入することで免疫機能を改善する乳酸菌の製造方法に関する。

【背景技術】
【0002】
小腸の内側の粘膜固有層にリンパ小節が平板状に集合したパイエル板と呼ばれるリンパ組織がある。このパイエル板の一部で繊毛が未発達の領域に免疫に関して重要な働きをするM細胞(Microfold cell)が存在する。このM細胞は特殊に分化した腸管の上皮組織の一部と考えられ、腸管内腔側からエンドサイトーシスによって細菌(抗原)を取込み、基底膜(バソラテラル)側で接しているT細胞、B細胞或いはマクロファージに抗原を提示する。
【0003】
特許文献1には、GP2がM細胞、特にヒトM細胞に特異的に発現しており、このGP2をM細胞のマーカーとして使用することが提案されている。
【0004】
特許文献2には、ガレクチン-9が免疫細胞に作用し、免疫を抑制する方向に制御し過剰な炎症を抑える機能を有していることが記載されている。
【0005】
特許文献3には、GP2とガレクチン-9の関連性について検証し、M細胞中のGP2をタイトジャンクションに移動させることでシート形成能が発揮され、同時にM細胞はアレルゲンや細菌と結合するガレクチン-9を発現するという知見を得、これに基づき、M細胞を培養することでシート状の人工皮膚とすることを提案している。
【0006】
特許文献4には、サルモネラ菌のワクチン株として使われる無害化されたサルモネラ菌(Ty21a)等が知られている。サルモネラ菌(Ty21a)はサルモネラ菌(Ty2)から突然変異(vi抗原の欠損,galE遺伝子の変異)したものであり、M細胞の機能を強化することが記載されている。
【0007】
非特許文献1には、乳酸菌(R21)のアレルギー抑制機能の報告がなされている。
【0008】
非特許文献2には、乳酸菌(シロタ株)のアレルギー抑制機能の報告がなされている。
【0009】
非特許文献3には、アレルギー疾患で増加するIgE抗体とガレクチン-9が結合することについて述べている。
【0010】
非特許文献4には、乳酸菌とオリゴ糖によりガレクチン-9を増加させ、アレルギー反応を抑制させることについて述べている。
【先行技術文献】
【0011】

【特許文献1】特開2008-141995号公報
【特許文献2】WO2012/077811
【特許文献3】特許第5197880号公報
【特許文献4】特許第5420791号公報
【0012】

【非特許文献1】Lactobacillus acidophilus strain L-92 induces CD4(+)CD25(+)Foxp3(+) regulatory T cells and suppresses allergic contact dermatitis. Mohammad Monir Shah et al. Biological and Pharmaceutical BulletinVol. 35 (2012) No. 4 P 612-616.
【非特許文献2】Lactobacillus casei strain Shirota suppresses serum immunoglobulin E and immunoglobulin G1 responses and systemic anaphylaxis in a food allergy model. Shida K et al. Clin Exp Allergy. 2002 Apr;32(4):563-70.
【非特許文献3】Galectin-9 Is a High Affinity IgE-binding Lectin with Anti-allergic Effect by Blocking IgE-Antigen Complex Formation; Toshiro Niki,; Shoko Tsutsui,; Shigeru Hirose,; Sachiko Aradono‡,; Yasushi Sugimoto; Keisuke Takeshita,; Nozomu Nishi and; Mitsuomi Hirashima. J Biol Chemv.284(47); Nov 20, 2009
【非特許文献4】Galectin-9 Induced by Dietary Synbiotics Is Involved in Suppression of Allergic Symptoms in Mice and Humans.S de Kivit, E Saeland, AD Kraneveld. Allergy. 2012;67(3):343-352
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述した先行技術文献から以下のことが判明又は予測されている。
(1)M細胞は粘膜免疫に関する重要な働きをしている。
(2)乳酸菌には免疫調整機能があることが知られているが、どのような成分が免疫に作用するかは不明である。尚、非特許文献4からは乳酸菌によってガレクチン‐9が増加し、アレルギー反応が抑制されることが分かっているが、どのような形態の乳酸菌が有効かについては何ら開示されていない。
(3)ガレクチン-9はアレルギー抗体であるIgEに結合することができる。
【0014】
一方、食物アレルギー、アトピー性皮膚炎、ぜんそく、鼻炎などは、造血幹細胞に由来するマスト細胞表面や腸管粘膜表面に存在しているIgE抗体にアレルゲンが結合し、ヒスタミン等の化学伝達物質を放出することによって発症する。
【0015】
ここで、前記ガレクチン-9は、IgE抗体を中和し、ヒスタミンの遊離を阻止することで、アレルギー症状を緩和していることが予測される。またM細胞におけるガレクチン-9の発現を増強すれば、アレルギーに対して有効であることも予測できる。
【0016】
M細胞内にガレクチン-9を増加させることは特許文献で記載されているが、増加したガレクチン-9をどのようにしてアレルギー症状の改善、予防を行えるようにするかは、何れの先行技術にも示唆されていない。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者は実験によって以下の知見を得た。
(1) 乳酸菌をグルコースやガラクトースなどの糖を含まない液体培地で培養すると乳酸菌の形態が変化した。この形態変化として菌体の長さが長くなる(フィラメント化)現象が観察された。一方、培養温度を48℃以下にするとフィラメント化が促進された。フィラメントに変化した乳酸菌にはガレクチン-9が結合することが観察された。(フィラメント乳酸菌)
(2) フィラメント乳酸菌はガレクチン-9が発現しているシート状M細胞への侵入が観察された。
(3) 試験管内でガレクチン-9を結合させたフィラメント乳酸菌と既定量のIgE抗体を反応させると、試験管の中のIgEが減少した。
(4) OVAで感作したマウス・パイエル板M細胞にはガレクチン-9とGP2が発現していた。
(5) フィラメント乳酸菌をマウスに3週間経口投与したところ血中IgEが半減した。
【0018】
上記の知見に基づき本発明をなすに至った。即ち、請求項1に係る発明は上記の知見に基づきなしたものである。即ち、M細胞シートを通過することでM細胞内に発現しているガレクチン-9を吸収結合するフィラメント乳酸菌またはM細胞シートを通過するフィラメント乳酸菌を用途とした発明である。
【0019】
また本発明者は(3)及び(5)の実験により以下の知見も得た。
ガレクチン-9が結合したフィラメント乳酸菌にIgE抗体が結合する能力があるかを測定した。
【0020】
フィラメント乳酸菌にガレクチン-9を結合させることが可能であり、ガレクチン-9が結合したフィラメント乳酸菌はIgEを吸着結合し、マウスの血中IgE抗体を低下させた。
【0021】
請求項2に係る発明は、上記ガレクチン-9結合可能なフィラメント乳酸菌を培養する条件を規定したものであり、好ましくはフィラメント形態の乳酸菌は糖を含まない培地で48℃以下の培養温度で培養される。
【発明の効果】
【0022】
本発明者の知見からフィラメント乳酸菌はM細胞に発現しているガレクチン-9に結合する。遺伝子組換えや化学物質を用いて作成するのではなく、培地からグルコースやガラクトースなどの糖類を除去し、48℃以下の高温で培養することで作成されたものである。したがって、安全性は極めて高い。
【0023】
本発明に係るフィラメント乳酸菌は、経口投与することで、M細胞に侵入してM細胞内のガレクチン‐9を菌体表面に結合する。
ガレクチン‐9を例にとるとM細胞で産生されたガレクチン‐9はM細胞を通過する細菌や消化食物に結合し、免疫寛容を誘導する。またM細胞ポケット(M細胞の窪みに免疫細胞が集積している特殊な構造)で分泌されたガレクチン‐9は、IgE抗体に結合して不活性化し、その結果、食物アレルギーやアトピー性疾患が改善される。
【0024】
また、新生児の腸管には母親の産道に由来する乳酸菌が生誕後すぐに定着することが知られている。また、母乳に含まれている特殊な糖は乳酸菌のみが菌体に取り込み利用し、他の細菌では利用することができないことが知られている。このように乳酸菌は我々の生命の営みの中に組み込まれ、我々が気づかないうちに乳酸菌が利用されている。世界中で多くの乳酸菌研究がなされているが具体的な作用を示すには至っていない。また、多くの乳酸菌サプリメントが発売されているが具体的な効用を示した製品はない。このことは乳酸菌の効用は乳酸菌単独の影響ではなく、生体との共同での作用が結果的に効果を引き起こしているものと考えることができる。
【0025】
また、M細胞内のガレクチン‐9が結合し、M細胞を通過したフィラメント乳酸菌は、M細胞近傍に存在するIgE抗体と結合すると考えられる。マウスを用いた投与実験では血中レベルのIgEが減少していることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本願発明の概要を説明した図
【図2】左上写真は無害化されたサルモネラ菌(Ty21a) の赤色蛍光写真。中上写真は病原性のサルモネラ菌(Ty2)の赤色蛍光写真。 右上写真は乳酸菌と結合したガレクチン‐9の赤色蛍光写真。 左下図は赤色蛍光結合Ty21aのフローサイトメーターでの分析 右下図は赤色蛍光結合フィラメント乳酸菌のフローサイトメーターでの分析
【図3】(a)は糖類を含まない液体培地(MH培地)で37℃培養したフィラメント乳酸菌の顕微鏡写真 (b)は糖類を含まない液体培地(LCM培地)で44℃培養したフィラメント乳酸菌の顕微鏡写真 (c)は糖類を含む培地(MRS培地)で37℃培養した乳酸菌の顕微鏡写真
【図4】本発明に係る乳酸菌を30℃から50℃培養(LCM培地)した顕微鏡写真
【図5】乳酸菌及び大腸菌(E.coli)のシート状M細胞の侵入状態を説明した図(2時間)
【図6】Transwell(登録商標)で作成されたM細胞シート下層内においてM細胞内のガレクチン‐9を吸着結合したフィラメント乳酸菌(48℃、LCM培地)を経時的にフローサイトメーターで分析した図。
【図7】ガレクチン‐9結合フィラメント乳酸菌のIgE抗体吸着能を検証した図。
【図8】動物実験での結果を示した図。

【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
先ず、本発明の概要は、図1に示すように、経口摂取したフィラメント状乳酸菌がM細胞に接触し、そのうちのいくつかのフィラメント乳酸菌は M細胞を通過し、通過する間にM細胞中のガレクチン-9を吸着結合する。
【0028】
このガレクチン-9が結合したフィラメント乳酸菌には図1に示すようにIgE抗体が吸着される。IgE抗体が減少することで、アレルギー症状が緩和される。
次に、個々の操作について詳細に述べる。
【0029】
乳酸菌の鑑別
乳酸菌を他の菌種から鑑別する必要があり、以下の方法を用いて同定を行った。
(市販の細菌同定キットによる鑑別)
細菌を鑑別するために多くの市販キットが入手可能である。具体的にはアピ50CHI(ビオメリュージャパン、東京)を用いて同定を行った。50個のプラスチック・ウェルに細菌が分解する可能性のある基質(糖やタンパク質)もしくは菌が合成する可能性があるアミノ酸を検出する試薬をあらかじめウェルに加え乾燥されたものがキットとして用意されている。
目的の細菌が発育可能な寒天培地に接種し、37℃の培養器で48時間培養する。発育してきた細菌はコロニー(肉眼で確認できる菌の塊)を形成している。
【0030】
上記のコロニーの一部を滅菌綿棒で掻き取り、キットに添付されている5mlの生理食塩水容器に均一な細菌の混濁液を作成し、20個のプラスチック・ウェルに流し込む。20個のプラスチック・ウェルは1枚のプラスチック・トレイに固定されているため、取り扱いが容易であるように設計されている。このトレイを37℃の培養器で18時間培養する。目的とする細菌により利用・分解するパターンが異なっている。このキットを用いて乳酸菌の一種と同定した。
【0031】
ガレクチン-9のサルモネラ菌との結合性
具体的には、ガレクチン‐9遺伝子組み換え体(R&D,USA)を滅菌蒸留水1mlに溶解させ、プロテイン蛍光ラベルキット(モレキュラープローブ、USA)を用いて蛍光色素であるAlexa 594をガレクチン‐9に結合させる。添付の蛍光色素含有チューブに溶解したガレクチン‐9溶液を加え、4℃で1時間、転倒混和させる。この溶液に添付の緩衝溶液を500ml加え、蛍光色素結合ガレクチン‐9とした。糖類を含まない培地で培養し、対数増幅期に達した乳酸菌の一部を取り出し、滅菌リン酸緩衝液(PBS)を用いて10 CFU/mlの濃度に調整(CFUは菌の数の単位)した。蛍光色素結合ガレクチン‐9の50μlを調整した菌液1mlに加え、4℃で48時間、転倒混和させる。この一部をコラーゲン固定した共焦点顕微鏡用カバーグラスにとり、乾燥させた後、共焦点顕微鏡で観察した。
同様に,サルモネラ菌ワクチン株(Ty21a)サルモネラ菌(Ty2)を観察した。
【0032】
図2に示すように、サルモネラ菌ワクチン株(Ty21a)はVi抗原が欠損しているため、ガレクチン‐9が結合できず染色されていないため暗く写っている。一方、 サルモネラ・チフス菌(Ty2)は表面にVi抗原からなるガラクトースポリマーが形成されており、このガラクトースポリマーがガレクチン‐9の結合によって赤色に染色されている。
【0033】
ガレクチン-9を結合可能な乳酸菌
乳酸菌の一般的な形状は図3(c)に示すような桿菌であるが、図3(a)、図(b)に示すフィラメント状の乳酸菌にすることで、ガレクチン‐9が結合可能なフィラメント乳酸菌とすることができる。
【0034】
ガレクチン-9を結合できるフィラメント状の乳酸菌を2つの方法で作成した。
・ 糖類を含まない液体培地(MH培地)を用いて37℃で培養する。
・ 糖類を含まない液体培地(LCM培地)を用いて48℃までの高温で培養する。
・ においては乳酸菌の発育が遅く、ガレクチン-9の結合割合は70%ぐらいである(図2)。
・ においては48℃でも発育するが、発育できる菌量が減少する。図4に示すように、44℃の培養条件で最長の長さのフィラメンタ状の乳酸菌になった。
【0035】
ガレクチン-9を結合した乳酸菌
遺伝子組み換えした組換え体のガレクチン-9(R&D;USA)を滅菌蒸留水1mlに溶解させる。(100μg/ml)
滅菌リン酸緩衝液(PBS)を用いて10 CFU/mlの濃度に調整した上記記載の乳酸菌の菌液1mlに調整したガラクチン-9溶液50μlを加え、4℃、20時間、振盪混和させる。
【0036】
M細胞に侵入した乳酸菌の検出
次に、本発明に係る乳酸菌のM細胞に対する侵入に関して、ガレクチン-9結合フィラメント乳酸菌、フィラメント乳酸菌、糖を含む液体培地で培養した乳酸菌及び陰性対象として大腸菌(E. coli)と比較した。
尚、実験にはシート状M細胞を用いた。このシート状M細胞は本発明者が開発したもので、以下の手順によって作製する。
【0037】
先ず、M細胞をTranswell(登録商標)のフィルター上に培養する。この培養は、先ずM細胞の濃度を8×10cell/mlに調整し、培養容器4cmに対し2mlの割合で細胞溶液をTranswellのフィルター上に加えた。上層及び下層には20%ウシ胎児血清を含んだ細胞培養溶液を加えた。当初4日目に上下層の細胞培養溶液を新しい溶液を交換し、次の4日目に再度、細胞培養溶液を交換した。更に2日後にM細胞がフィルター面いっぱいに増えていることを確認した。M細胞が培養容器全面に広がった時点で、上下層の細胞培養溶液を血清成分がない細胞培養液に交換し、下層には抗LTβR抗体20μlを添加した。この抗LTβR抗体の刺激により、細胞内のGP2が細胞間接着部(タイトジャンクション)に移動し、細胞同士の結合が強固になる。2日後に培養液を交換、以降2日毎に細胞培養液を交換し6日後にM細胞シートが完成した。
【0038】
M細胞内に侵入した細菌数を定量する方法として以下の方法を実施した。菌液を50μl加え、37℃、5%炭酸ガスの培養器に2時間静置した。Transwellを37℃に加温した血清成分のない細胞培養溶液で其々のウエルの上下層を3回洗浄し、添加した余分の細菌を除去した。更に血清成分のない細胞培養溶で抗生物質ゲンタマイシン250μg/ml濃度溶液を作成し、Transwellの上下層にそれぞれ2mlを加え、37℃、5%炭酸ガスの培養器で2時間静置した。
【0039】
これによりM細胞周辺の余分な細菌が殺菌され、M細胞に侵入した乳酸菌だけを検出できる。(抗生物質ゲンタマイシンは細胞に取り込まれない性質がある。この性質を利用し、細胞侵入性細菌を定量検出することができる。
【0040】
2時間後、細胞周辺のゲンタマイシンを滅菌PBSで3回洗浄する。細胞内に生きている細菌を取り出すため、界面活性剤Triton-X 100 0.1%溶液でM細胞を溶解させ、細菌を回収。滅菌PBSで希釈系列を作成し、MRS寒天培地に接種した。37℃の5%炭酸ガス培養器内に48時間静置。発育してきた細菌のコロニーをカウントし、希釈倍率を加味して、M細胞内に侵入した細菌を定量検出した。
【0041】
結果を図5に示した。この図5から、乳酸菌は2時間でシート状M細胞に侵入できないが、フィラメント状になると乳酸菌はM細胞に侵入できることがわかる。
また、ガレクチン‐9が結合したフィラメント乳酸菌はガレクチン‐9が結合していないフィラメント乳酸菌と比較するとM細胞侵入能は低下するが、対照の糖を含む液体培地で発育した乳酸菌と比較して十分なM細胞侵入能を有している。
MH培地で37℃培養(上段)、LMC培地で44℃培養(下段)したフィラメント乳酸菌のM細胞に侵入したフィラメント乳酸菌の数(CFU/ml)。
【0042】
M細胞シートを通過した乳酸菌の検出
Transwell のフィルター上にM細胞シートを作成した。シートに隙間が開いていないかを確認するため細胞間抵抗測定装置(Millicell; Millipore)を用いて電気抵抗を測定した。電気抵抗値が200Ω・cm2 以上であることを確認することでシートに隙間が無いと判断した。このM細胞シートを形成したTranswellの上層からフィラメント乳酸菌を加えた。加えた時間から2時間後、Transwellの下層の培養液を回収した。回収液に含まれているフィラメント乳酸菌を計数した。
同時に再度、M細胞シートの電気抵抗を測定し、変化の無いことを確認した。このことより、検出されたフィラメント乳酸菌はM細胞内を通過してきたと断定した。
【0043】
対数増幅期の乳酸菌及び陰性コントロールとして大腸菌(E. coli)を10CFU/mlに調整し、それぞれを別のM細胞シートが形成されたウエルの上層に菌液を50μl加えた。37℃、5%炭酸ガスの培養器に静置。滅菌ピペットで下層の培養溶液を回収。滅菌PBSで希釈系列を作成し、MRS寒天培地に接種。37℃の恒温培養器内に48時間静置した。発育してきた細菌のコロニーをカウントし、希釈倍率を加味して、M細胞内を通過した細菌を定量検出した。
【0044】
M細胞シートを通過した乳酸菌に結合したガレクチン-9の検出
M細胞シートを通過してきた乳酸菌にM細胞内のガレクチン-9が結合したかを測定するためフローサイトメーター(MC800: SONY )を使用した。M細胞シートの下層から回収した溶液2mlに蛍光標識した抗ガレクチン-9抗体を50μl加え反応させた。2時間後サンプル(2h)、10時間後サンプル(10h)、24時間後サンプル(24h)とした。M細胞シートを通過させていない乳酸菌を陰性コントロール。横軸は蛍光の強さ、縦軸はその蛍光を示したフィラメント乳酸菌の数を示している(図6)。
乳酸菌は糖を含まない培地(LCM培地)で48℃の培養条件で24時間培養したものを用いた。
【0045】
ガレクチン-9を結合した乳酸菌へのIgE抗体の結合能力
市販のIgE抗体(100ng/ml)(シバヤギ)をリン酸緩衝液で希釈し、25ng/mlの濃度溶液を作成した。抗体溶液60μlにガレクチン-9結合乳酸菌10μl(106個)を加え、2時間室温に静置。その後、遠心機で遠心(3000rpm 10分間、4℃)、乳酸菌に結合したIgE抗体と結合していないIgE抗体を分離した。乳酸菌に結合したIgE抗体は沈渣として回収され、結合していないIgE抗体は上清中に残ったままであるが、沈渣として回収された分だけ減少している。この減少分をELISA法で検出した(図7)。
【0046】
動物実験
OVA感作マウス
生後3週目になったBALB/cマウス(メス)を購入(中部科学資材)。SPF(無菌動物飼育施設)に搬入。1週間その環境に順化させた。その後、P2レベル実験室に移動させた。カプセル化したOVA1gとアジュバンドとしてコレラトキシンBサブユニット2μg/mlを週一回同時投与し、5週間感作した。
その後、カプセルに封入したフィラメント乳酸菌(37℃)を3週間、食餌として一日一回与えた。カプセルには乳酸菌が10個を含んでいる。
【0047】
採血後マウスを解剖し、パイエル板、肝臓、脾臓を10%緩衝ホルマリン液で48時間固定し、パラフィン包埋後、薄切切片を作成した。
【0048】
薄切切片をキシレン、アルコールで脱パラフィンを行い、抗マウス・ガレクチン-9ラット抗体(Biolegend, USA)、抗マウスGP2ラビット抗体(BML、東京)を一次抗体、2次抗体としてAlexa 594ラベル抗ラット抗体、Alexa 488ラベル抗ラビット抗体を用いて蛍光免疫染色を実施した。核染色としてHoechist 33258(Invitrogen, USA)を用いて染色した。
【0049】
結果を図8上段に示す。OVAで感作されたマウスのパイエル板にガレクチン-9(赤色)が発現し、GP2を発現している細胞(緑色)においてもガレクチン-9の発現が認められている。GP2はM細胞のマーカーとして知られていることからM細胞を通過したフィラメント乳酸菌にガレクチン-9が結合したこと推察される。
【0050】
フィラメント乳酸菌を投与した場合(図左)のガレクチン-9の発現がフィラメント乳酸菌投与しない陰性コントロール(図中)に比べ減少していた。
【0051】
アレルギーモデルマウス
OVAに対するIgE抗体を持続的に作るOVA-IgEマウスを購入(日本クレア:東京)。生後6週目になったメスをSPF(無菌動物飼育施設)に搬入。1週間その環境に順化させた。その後、P2レベル実験室に移動させ、カプセルに封入したフィラメント乳酸菌(37℃)を3週間、食餌として一日一回与えた(3匹)。カプセル1gには乳酸菌が10個を含んでいる。
【0052】
フィラメント乳酸菌投与を3週間行った後、採血を行い血清中のOVAに対するIgE抗体を測定した(乳酸菌を投与しなかったマウスからも採血し、投与群と比較した)。
投与しなかったマウス(3匹)の平均OVA特異的IgEを100%とした場合、フィラメント乳酸菌を投与したマウス(3匹)平均OVA特異的IgEでは22.8%のIgEであった。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明に係る乳酸菌は、その用途をM細胞に発現しているガレクチン-9を結合し、更にガレクチン-9にアレルギー抗体であるIgEが結合することで、今までに想定することができなかったアレルギー疾患のIgE抗体を減少させる効果を発揮する。したがって、食物アレルギーやアトピー性皮膚炎などの治療法の開発が可能となる。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7