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明細書 :電子親和力の低下処理装置に用いられる活性化容器及びキット、該キットを含む電子親和力の低下処理装置、フォトカソード電子ビーム源、並びに、フォトカソード電子ビーム源を含む電子銃、自由電子レーザー加速器、透過型電子顕微鏡、走査型電子顕微鏡、電子線ホログラフィー顕微鏡、電子線描画装置、電子線回折装置及び電子線検査装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5808021号 (P5808021)
公開番号 特開2015-022810 (P2015-022810A)
登録日 平成27年9月18日(2015.9.18)
発行日 平成27年11月10日(2015.11.10)
公開日 平成27年2月2日(2015.2.2)
発明の名称または考案の名称 電子親和力の低下処理装置に用いられる活性化容器及びキット、該キットを含む電子親和力の低下処理装置、フォトカソード電子ビーム源、並びに、フォトカソード電子ビーム源を含む電子銃、自由電子レーザー加速器、透過型電子顕微鏡、走査型電子顕微鏡、電子線ホログラフィー顕微鏡、電子線描画装置、電子線回折装置及び電子線検査装置
国際特許分類 H01J  37/073       (2006.01)
H01J   1/34        (2006.01)
FI H01J 37/073
H01J 1/34 C
請求項の数または発明の数 26
全頁数 29
出願番号 特願2013-147682 (P2013-147682)
出願日 平成25年7月16日(2013.7.16)
審査請求日 平成27年5月28日(2015.5.28)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
発明者または考案者 【氏名】西谷 智博
早期審査対象出願または早期審理対象出願 早期審査対象出願
個別代理人の代理人 【識別番号】100167689、【弁理士】、【氏名又は名称】松本 征二
審査官 【審査官】小野 健二
参考文献・文献 特開平9-298032(JP,A)
特開2002-8575(JP,A)
特開2002-313214(JP,A)
調査した分野 H01J 37/073
H01J 1/30-1/34
特許請求の範囲 【請求項1】
表面処理材料を気化し、該気化した表面処理材料でフォトカソード材料を電子親和力の低下処理及び/又はフォトカソードを再電子親和力の低下処理するための電子親和力の低下処理装置に用いられる活性化容器(但し、真空チャンバーを除く。)であって、
前記活性化容器は電子親和力の低下処理装置の真空チャンバー内に配置して用いられ、
前記活性化容器が、電子が通過できる孔を含む、
ことを特徴とする活性化容器。
【請求項2】
前記活性化容器(但し、真空チャンバーを除く。)が、導電性材料又は絶縁性材料から選択される材料で形成されることを特徴とする請求項1に記載の活性化容器。
【請求項3】
フォトカソードホルダーの位置を変えるための駆動手段が、前記活性化容器(但し、真空チャンバーを除く。)に形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の活性化容器。
【請求項4】
気化した表面処理材料の飛散方向を制御する方向制御手段を更に含むことを特徴とする請求項1~3の何れか一項に記載の活性化容器。
【請求項5】
表面処理材料を加熱するための加熱手段を更に含むことを特徴とする請求項1~4の何れか一項に記載の活性化容器。
【請求項6】
気化した表面処理材料が前記活性化容器(但し、真空チャンバーを除く。)外に漏洩することを防止するためのシールドを更に含むことを特徴とする請求項1~5の何れか一項に記載の活性化容器。
【請求項7】
前記孔が、前記フォトカソードホルダーを挿入できる大きさであることを特徴とする請求項に記載の活性化容器。
【請求項8】
光を通過するための孔を更に含むことを特徴とする請求項1~6の何れか一項に記載の活性化容器。
【請求項9】
請求項1~8の何れか一項に記載の活性化容器(但し、真空チャンバーを除く。)、及び表面処理材料を含むことを特徴とする電子親和力の低下処理装置に用いられるキット。
【請求項10】
前記表面処理材料が、加熱手段を挿通したものであることを特徴とする請求項9に記載のキット。
【請求項11】
フォトカソード材料又はフォトカソードを貼り付けたフォトカソードホルダーを更に含むことを特徴とする請求項9又は10に記載のキット。
【請求項12】
気化した表面処理材料が前記活性化容器(但し、真空チャンバーを除く。)外に漏洩することを防止するためのシールドが形成されたフォトカソードロッドを更に含むことを特徴とする請求項11に記載のキット。
【請求項13】
前記活性化容器(但し、真空チャンバーを除く。)に対して摺動可能な蓋を更に含み、前記フォトカソード材料又はフォトカソードを貼り付けたフォトカソードホルダーが前記蓋に形成されていることを特徴とする請求項11に記載のキット。
【請求項14】
前記フォトカソードホルダーが、光透過性材料で作製される又は光を透過する孔を含むことを特徴とする請求項11又は12に記載のキット。
【請求項15】
前記蓋及び前記フォトカソードホルダーが、光透過性材料で作製される又は光を透過する孔を含むことを特徴とする請求項13に記載のキット。
【請求項16】
前記フォトカソード材料又はフォトカソードと、前記フォトカソードホルダーの間に基板を含み、該基板が光透過性材料で作製される又は光を透過する孔を含むことを特徴とする請求項11~15の何れか一項に記載のキット。
【請求項17】
請求項9~16の何れか一項に記載のキット、真空チャンバー及び真空ポンプを含むことを特徴とする電子親和力の低下処理装置。
【請求項18】
請求項17に記載の電子親和力の低下処理装置、アノード及び光源を含むことを特徴とするフォトカソード電子ビーム源。
【請求項19】
請求項18に記載のフォトカソード電子ビーム源を含むことを特徴とする電子銃。
【請求項20】
請求項18に記載のフォトカソード電子ビーム源を含むことを特徴とする自由電子レーザー加速器。
【請求項21】
請求項18に記載のフォトカソード電子ビーム源を含むことを特徴とする透過型電子顕微鏡。
【請求項22】
請求項18に記載のフォトカソード電子ビーム源を含むことを特徴とする走査型電子顕微鏡。
【請求項23】
請求項18に記載のフォトカソード電子ビーム源を含むことを特徴とする電子線ログラフィー顕微鏡。
【請求項24】
請求項18に記載のフォトカソード電子ビーム源を含むことを特徴とする電子線描画装置。
【請求項25】
請求項18に記載のフォトカソード電子ビーム源を含むことを特徴とする電子線回折装置。
【請求項26】
請求項18に記載のフォトカソード電子ビーム源を含むことを特徴とする電子線検査装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、電子親和力の低下処理装置に用いられる活性化容器及びキット、該キットを含む電子親和力の低下処理装置、フォトカソード電子ビーム源、並びに、フォトカソード電子ビーム源を含む電子銃、自由電子レーザー加速器、透過型電子顕微鏡、走査型電子顕微鏡、電子線ログラフィー顕微鏡、電子線描画装置、電子線回折装置及び電子線検査装置に関し、特に、従来のようにフォトカソード材料を電子親和力の低下処理及びフォトカソードを再電子親和力の低下処理するための真空チャンバーと、フォトカソードを配置し電子を放出する電子ビーム源チャンバーを別々に設けることなく、単一の真空チャンバー内でフォトカソード材料の電子親和力の低下処理及びフォトカソードの再電子親和力の低下処理を繰り返し行うことができ、且つ電子の放出を行うことができる、電子親和力の低下処理装置に用いられる活性化容器及び該活性化容器を含むキット、該キットを含む電子親和力の低下処理装置、フォトカソード電子ビーム源、並びに、フォトカソード電子ビーム源を含む電子銃、自由電子レーザー加速器、透過型電子顕微鏡、走査型電子顕微鏡、電子線ログラフィー顕微鏡、電子線描画装置、電子線回折装置及び電子線検査装置に関するものである。

【背景技術】
【0002】
GaAs型半導体のフォトカソードを利用した電子ビーム源(GaAs型フォトカソード電子ビーム源)は、これまで、高い偏極度を持つスピン偏極電子ビーム源として素粒子・ハドロン物理実験(Weinberg角の精密測定)や高繰り返し短パルスで大電流可能な高輝度電子ビーム源として1kWの赤外自由電子レーザー発生など、加速器科学分野に貢献している。
【0003】
さらに、GaAs型フォトカソード電子ビーム源は、次世代の放射光源用加速器に用いる低エミッタンス(位相空間中でビームの占める面積)で大電流可能な高輝度電子ビーム源の有力候補になっており、宇宙誕生の謎に迫る線形型の次世代加速器将来計画「国際リニアコライダー計画」では、唯一の実用的高性能スピン偏極電子ビーム源と考えられている。
【0004】
一方、半導体デバイスの微細化や機能材料の高度化には、原子スケールでの詳細な構造解析や元素分析とともに、構造内の電気的、磁気的特性計測が不可欠と考えられている。この要求に対して既存の性能を超える次世代の観測、計測技術が求められており、それには、要素技術である電子ビーム源の高性能化が不可欠である。GaAs型フォトカソード電子ビーム源は、高繰り返し短パルス、高輝度と高スピン偏極の性能から、次世代の電子顕微鏡に用いる電子ビーム源として有力視されている。
【0005】
ところで、GaAs型フォトカソード電子ビーム源は、負電子親和力(Negative Electron Affinity(以下、「負電子親和力」を「NEA」と記載することがある。)表面:伝導帯底よりも真空準位が低くなる状態)を利用している。NEA表面を利用することで、価電子帯から伝導帯底のポテンシャルレベルへ光励起した電子をそのまま真空中へ電子ビームとして取り出すことができる。図1は、GaAs型フォトカソード電子ビーム源からの電子ビーム生成の概念を示しており、次に説明する、(1)励起過程、(2)拡散過程、(3)脱出過程、の3ステップモデルの現象論で説明することができる(非特許文献1参照)。
(1)フォトカソードへ励起光を入射し、価電子帯電子を伝導帯へ励起する(励起過程)。
(2)伝導帯へ励起された電子は、表面へと拡散する(拡散過程)。
(3)表面まで到達した電子は、表面障壁をトンネルし、真空中へ脱出する(脱出過程)。
【0006】
GaAs半導体では、約4eVの電子親和力(真空準位と伝導帯底のエネルギー差)があり、NEA表面状態を形成するためには、次のプロセスが必要である。
(1)初めにp型ドーピングのGaAs半導体を真空中で加熱し、酸化物や炭化物などの表面不純物を除去し清浄にする。これにより、表面領域にバンドベンディングを生じさせ、真空準位を半導体のバンドギャップの半分程度(φ)下げることができる。
(2)次に結晶表面に微小の光電流が得られるように、図2に示すように、まずセシウムを蒸着し、その後、光電流の飽和毎にセシウム蒸着と酸素付加を最大の光電流が得られるまで交互に繰り返す。この方法により、残りの真空準位(φ)を下げることで、NEA表面状態を形成することができる(非特許文献1参照)。
【0007】
なお、NEA表面状態とは、上記プロセスにより、フォトカソードの真空準位のエネルギーレベルを伝導帯底のエネルギーレベルより低い状態にすることを意味する。しかしながら、フォトカソードの真空準位のエネルギーレベルが伝導帯底のエネルギーレベルより高くてもフォトカソードから真空中へ電子を放出することもできる。また、フォトカソードをNEA表面状態に処理した後であっても、電子の放出を続けるとフォトカソードの真空準位のエネルギーレベルが伝導帯底のエネルギーレベルより低いレベルから高いレベルに戻りながら、電子を放出する場合もある。したがって、フォトカソードを電子ビーム源として使用する場合は、フォトカソードの真空準位のエネルギーレベルを可能な限り低下させることが好ましいが、NEA表面状態にする又は維持することは必須ではない。したがって、本発明において「電子親和力の低下処理」とは、フォトカソードの真空準位のエネルギーレベルを、電子が放出できるレベルまで低下させるための処理を意味する。以下、「電子親和力の低下処理」のことを「EA表面処理」、「電子親和力の低下処理」によりフォトカソードの真空準位のエネルギーレベルが電子が放出できるレベルまで低下している状態を「EA表面」と記載することがある。
【0008】
ところで、EA表面は、微量なH2O、CO、CO2等の残留ガスの吸着やイオン化した残留ガスのEA表面への逆流で劣化する。そのため、フォトカソードから長期間安定的に電子ビームを取り出すためには、処理と維持のために超高真空度が必要である。また、EA表面処理したフォトカソードから取り出せる電子の量は有限であり、一定量の電子ビームを放出した後は、フォトカソード表面を再度EA表面処理する必要がある。
【0009】
図3は、従来のEA表面処理したフォトカソードを用いた電子銃10の全体写真であり、EA表面処理チャンバー11、電子銃チャンバー12、EA表面処理したフォトカソードの搬送手段13を少なくとも含んでいる。上記のとおり、EA表面処理したフォトカソードは、EA処理を超高真空中で行った後に超高真空状態を保ったまま外気に晒すことなく電子銃に装填する必要があり、また、一定時間経過したフォトカソードは再度EA表面処理する必要があるが、従来は、EA表面処理チャンバーと電子銃チャンバーは別々に設ける必要があった。その理由は、従来のEA表面処理はチャンバー内で直接フォトカソードに表面処理材料を蒸着する方法を採用しているが、EA表面処理を同一チャンバー内で行うと、EA表面処理材料が電子銃チャンバー及びチャンバー内の各種装置に付着してしまい、特に電極付近に付着したEA表面処理材料は電界放出暗電流の発生の原因となり、電子銃の機能が著しく低下するためである。
【0010】
しかしながら、EA表面処理チャンバーと電子銃チャンバーを別々に設ける場合、先ず、超高真空状態にするチャンバーが2個必要であり、更に、超高真空状態を維持したままEA表面処理チャンバーで処理したフォトカソードを電子銃チャンバーに搬送するための搬送手段13が必要であることから、電子銃装置が非常に大型化するという問題がある。また、超高真空を維持した状態で、EA表面処理チャンバーから電子銃チャンバーにEA表面処理したフォトカソードを移動・装着し且つフォトカソードの再EA表面処理の際には電子銃チャンバーからEA表面処理チャンバーに移動・装着する必要があるため、装置を精密に設計し、且つフォトカソードを搬送中に脱落しないように適切な操作をする必要があり、装置管理が煩雑になるという問題がある。
【先行技術文献】
【0011】

【非特許文献1】MRS-J NEWS,Vol.20,No.2,May 2008
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記した問題点を解決するためになされた発明であり、鋭意研究を行ったところ、超真空状態にできるチャンバー内に活性化容器を設け、該活性化容器内で表面処理材料を気化し、該気化した表面処理材料を活性化容器内でフォトカソード材料に蒸着することでEA表面処理ができること、更に、前記チャンバーを用い、一定時間経過後にフォトカソードを再EA表面処理することで、単一の真空チャンバーを用いてフォトカソード材料のEA表面処理及びフォトカソードの再EA表面処理(以下、「フォトカソード材料のEA表面処理及びフォトカソードの再EA表面処理」を「EA表面処理」と記載することもある。また、「フォトカソード材料」及び「フォトカソード」の何れにも該当する場合は「フォトカソード(材料)」と記載することもある。)ができることを新たに見出した。
そして、前記活性化容器に電子が通過できる孔を形成し、EA表面処理したフォトカソードを前記活性化容器に配置したまま光を照射すると、前記活性化容器に形成された孔をとおして電子を放出することができるので、単一の真空チャンバーを用いて電子ビーム源にできること、そして、本発明の電子ビーム源は、電子銃等の様々な装置の電子ビーム源として用いることができることを新たに見出し、本発明を完成した。
【0013】
すなわち、本発明の目的は、電子親和力の低下処理装置に用いられる活性化容器及びキット、該キットを含む電子親和力の低下処理装置(以下、単に「処理装置」と記載することもある。)、フォトカソード電子ビーム源、並びに、フォトカソード電子ビーム源を含む電子銃、自由電子レーザー加速器、透過型電子顕微鏡、走査型電子顕微鏡、電子線ログラフィー顕微鏡、電子線描画装置、電子線回折装置及び電子線検査装置を提供することにある。

【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、以下に示す、電子親和力の低下処理装置に用いられる活性化容器及びキット、処理装置、フォトカソード電子ビーム源、並びに、フォトカソード電子ビーム源を含む電子銃、自由電子レーザー加速器、透過型電子顕微鏡、走査型電子顕微鏡、電子線ログラフィー顕微鏡、電子線描画装置、電子線回折装置及び電子線検査装置に関する。

【0015】
(1)表面処理材料を気化し、該気化した表面処理材料でフォトカソード材料を電子親和力の低下処理及び/又はフォトカソードを再電子親和力の低下処理するための電子親和力の低下処理装置に用いられる活性化容器(但し、真空チャンバーを除く。)であって、
前記活性化容器は電子親和力の低下処理装置の真空チャンバー内に配置して用いられ、
前記活性化容器が、電子が通過できる孔を含むことを特徴とする活性化容器。
(2)前記活性化容器(但し、真空チャンバーを除く。)が、導電性材料又は絶縁性材料から選択される材料で形成されることを特徴とする上記(1)に記載の活性化容器。
(3)フォトカソードホルダーの位置を変えるための駆動手段が、前記活性化容器(但し、真空チャンバーを除く。)に形成されていることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の活性化容器。
(4)気化した表面処理材料の飛散方向を制御する方向制御手段を更に含むことを特徴とする上記(1)~(3)の何れか一に記載の活性化容器。
(5)表面処理材料を加熱するための加熱手段を更に含むことを特徴とする上記(1)~(4)の何れか一に記載の活性化容器。
(6)気化した表面処理材料が前記活性化容器(但し、真空チャンバーを除く。)外に漏洩することを防止するためのシールドを更に含むことを特徴とする上記(1)~(5)の何れか一に記載の活性化容器。
(7)前記孔が、前記フォトカソードホルダーを挿入できる大きさであることを特徴とする上記(3)に記載の活性化容器。
(8)光を通過するための孔を更に含むことを特徴とする上記(1)~(6)の何れか一に記載の活性化容器。
(9)上記(1)~(8)の何れか一に記載の活性化容器(但し、真空チャンバーを除く。)、及び表面処理材料を含むことを特徴とする電子親和力の低下処理装置に用いられるキット。
(10)前記表面処理材料が、加熱手段を挿通したものであることを特徴とする上記(9)に記載のキット。
(11)フォトカソード材料又はフォトカソードを貼り付けたフォトカソードホルダーを更に含むことを特徴とする上記(9)又は(10)に記載のキット。
(12)気化した表面処理材料が活性化容器(但し、真空チャンバーを除く。)外に漏洩することを防止するためのシールドが形成されたフォトカソードロッドを更に含むことを特徴とする上記(11)に記載のキット。
(13)前記活性化容器(但し、真空チャンバーを除く。)に対して摺動可能な蓋を更に含み、前記フォトカソード材料又はフォトカソードを貼り付けたフォトカソードホルダーが前記蓋に形成されていることを特徴とする上記(11)に記載のキット。
(14)前記フォトカソードホルダーが、光透過性材料で作製される又は光を透過する孔を含むことを特徴とする上記(11)又は(12)に記載のキット。
(15)前記蓋及び前記フォトカソードホルダーが、光透過性材料で作製される又は光を透過する孔を含むことを特徴とする上記(13)に記載のキット。
(16)前記フォトカソード材料又はフォトカソードと、前記フォトカソードホルダーの間に基板を含み、該基板が光透過性材料で作製される又は光を透過する孔を含むことを特徴とする上記(11)~(15)の何れか一に記載のキット。
(17)上記(9)~(16)の何れか一に記載のキット、真空チャンバー及び真空ポンプを含むことを特徴とする電子親和力の低下処理装置。
(18)上記(17)に記載の電子親和力の低下処理装置、アノード及び光源を含むことを特徴とするフォトカソード電子ビーム源。
(19)上記(18)に記載のフォトカソード電子ビーム源を含むことを特徴とする電子銃。
(20)上記(18)に記載のフォトカソード電子ビーム源を含むことを特徴とする自由電子レーザー加速器。
(21)上記(18)に記載のフォトカソード電子ビーム源を含むことを特徴とする透過型電子顕微鏡。
(22)上記(18)に記載のフォトカソード電子ビーム源を含むことを特徴とする走査型電子顕微鏡。
(23)上記(18)に記載のフォトカソード電子ビーム源を含むことを特徴とする電子線ログラフィー顕微鏡。
(24)上記(18)に記載のフォトカソード電子ビーム源を含むことを特徴とする電子線描画装置。
(25)上記(18)に記載のフォトカソード電子ビーム源を含むことを特徴とする電子線回折装置。
(26)上記(18)に記載のフォトカソード電子ビーム源を含むことを特徴とする電子線検査装置。

【発明の効果】
【0016】
本発明は、電子が通過できる孔を含み、表面処理材料を気化することができる活性化容器を真空チャンバー内に配置することで、単一の真空チャンバーを用いてEA表面処理ができること、並びに電子ビーム源とすることができるので、EA表面処理チャンバー及びフォトカソードを搬送する搬送手段が不要となり、装置を小型化することができる。
また、フォトカソードを異なる真空チャンバー間で搬送する必要が無いことから、従来のように真空チャンバー間を搬送中にフォトカソードが脱落したり破損したりする恐れが無く、操作性が向上する。
本発明の活性化容器、キットは、従来の電子銃の電子銃チャンバーにセットすることが可能であり、また、処理装置は従来の電子銃チャンバーと置換することが可能であるので、新規に電子銃を購入することなく、既存の電子銃の操作性を向上することができる。
更に、本発明の電子ビーム源を、電子銃、自由電子レーザー加速器、透過型電子顕微鏡、走査型電子顕微鏡、電子線ログラフィー顕微鏡、電子線描画装置、電子線回折装置及び電子線検査装置等の既存の装置の電子ビーム源として用いることができるので、前記装置の小型化、操作性の向上及び従来の電子ビーム源では得られなかった機能の向上を図ることができる。

【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、GaAs型フォトカソード電子ビーム源からの電子ビーム生成の概念を示している。
【図2】図2は、EA表面状態の形成手順を示している。
【図3】図3は、図面代用写真で、従来のEA表面処理したフォトカソードを用いた電子銃の全体像を示す写真である。
【図4】図4は、本発明の活性化容器20、並びに活性化容器20及び表面処理材料30を含むキット40の実施形態の一例を示すための概略図である。
【図5】図5は、加熱手段を組み込んだ表面処理材料の一例の概略図である。
【図6】図6は、電極回りの電界シミュレーションを示す図である。
【図7】図7は、本発明の活性化容器20の孔21に、フォトカソードホルダー51を挿入した際の位置関係の一例を示す概略図である。
【図8】図8は、活性化容器20に設ける孔21とフォトカソードホルダー51との関係の他の実施形態を示す図である。
【図9】図9は、活性化容器に設ける方向制御手段の例をしている。
【図10】図10は、本発明のキット40を用いて、フォトカソード(材料)をEA表面処理する際の位置関係の概略を示す図である。
【図11】図11は、フォトカソードロッド50にシールド54を設けた例を示す図である。
【図12】図12は、活性化容器20にシールド54を設けた例を示す図である。
【図13】図13は、本発明のキット40の他の実施形態を示すための概略図である。
【図14】図14は、本発明のキット40の他の実施形態を示すための概略図である。
【図15】図15は、本発明のキット40の他の実施形態を示すための概略図である。
【図16】図16は、本発明のキット40の他の実施形態を示すための概略図である。
【図17】図17は、本発明の処理装置60の一例を示す概略図である。
【図18】図18は、本発明の電子ビーム源(2極構造)の一例を示す概略図である。
【図19】図19は、本発明の電子ビーム源(3極構造)の一例を示す概略図である。
【図20】図20は、図面代用写真で、実施例2で作製した表面処理材料を先端に取り付けた固定部材の外観を示す写真である。
【図21】図21は、図面代用写真で、実施例2で作製したキットの外観を示している。
【図22】図22は、図面代用写真で、実施例3でフォトカソード52を作製した後、真空チャンバーと活性化容器を取り外し、フォトカソード側から撮影した写真である。
【図23】図23は、実施例4でフォトカソードのEA表面再処理を行った際の量子効率の回復程度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の活性化容器、キット、処理装置、フォトカソード電子ビーム源、並びに、フォトカソード電子ビーム源を含む電子銃、自由電子レーザー加速器、透過型電子顕微鏡、走査型電子顕微鏡、電子線ログラフィー顕微鏡、電子線描画装置、電子線回折装置及び電子線検査装置について詳しく説明する。


【0019】
図4は、本発明の活性化容器20、並びに活性化容器20及び表面処理材料30を含むキット40の実施形態の一例を示すための概略図である。

【0020】
本発明において、活性化容器20とは、後述する表面処理材料を内部に配置して該表面処理材料を気化することができ、該気化した表面処理材料でフォトカソード(材料)をEA表面処理することができる容器を意味し、本発明の活性化容器20は、少なくともフォトカソードから放出される電子が通過する孔21を含んでいる。孔21は少なくとも電子が通過できる大きさであればよいが、加工の容易性、及びフォトカソード52から放出される電子と孔21の角度や位置関係の調整を容易にするため、1nm~10mmの大きさであってもよく、50μm~5mmの大きさでもよい。また、後述するフォトカソードホルダーを孔21に挿入することもでき、その場合、孔21はフォトカソードホルダーを挿入できる大きさであればよく、上記の数値範囲より大きくてもよい。

【0021】
活性化容器20の材料に特に制限は無く、例えば、ガラス、モリブデン、セラミック、サファイア、チタン、タングステン、タンタル等の300℃以上、より好ましくは400℃の熱に耐えることができる耐熱性材料で形成することができる。

【0022】
本発明のキット40は、活性化容器20及び表面処理材料30を少なくとも含んでいる。本発明の表面処理材料30とは、フォトカソード(材料)をEA表面処理するための材料を意味し、EA表面処理することができる材料であれば特に制限は無く、Li、Na、K、Rb、Cs、Te、Sb等の元素が挙げられる。なお、前記元素の中で、Li、Na、K、Rb、Csは単体では自然発火してしまい、保存・利用ができないため、前記元素の複合元素、前記元素を含む化合物の形態で使用する必要がある。一方、化合物の形態で使用する場合は、前記元素の蒸着時に不純物ガスが発生しないようにする必要がある。したがって、Li、Na、K、Rb、Csから選択される元素を表面処理材料30として使用する場合は、Cs2CrO4、Rb2CrO4、Na2CrO4、K2CrO4等の化合物と不純物ガスの発生を抑える還元剤を組合せて用いることが好ましい。前記表面処理材料30は、加熱手段を用いて活性化容器20内で気化されフォトカソード(材料)に蒸着される。

【0023】
加熱手段としては、表面処理材料30を気化できれば特に制限は無く、活性化容器20全体を加熱することで内側に配置されている表面処理材料30を間接的に加熱してもよいし、表面処理材料30のみを直接加熱してもよい。前者の方法としては、活性化容器20に電熱コイル等の加熱手段を形成する、又は、後述するように、本発明のキットは真空チャンバー内で用いられることから、真空チャンバー全体を電熱コイル、ランプヒーター等を用いて加熱し、真空チャンバー内の活性化容器20を前記表面処理材料30が気化する温度まで加熱する方法が挙げられる。

【0024】
また、後者の方法としては、図5に示すように、加熱手段を組み合わせた表面処理材料30が挙げられる。図5(1)は表面処理材料30の中に加熱手段31を組み込んだ例を示しており、表面処理材料30の中心部に電熱線等の加熱手段31を挿通し、長手方向に切込み32を入れた略長方形状に形成されている。加熱手段31に通電すると、図5(2)に示すように、切込み32が加熱により大きくなり、大きくなった切込み32から、表面処理材料30を気化することができ、その際、表面処理材料30は切込み32から指向性を持って気化することから、フォトカソード(材料)の方向のみに気化した表面処理材料30を飛散することができる。図5に示す表面処理材料30は、上記のように形成してもよいし、市販されている材料を用いてもよい。例えば、アルカリ金属材料としてはSAES Getters社製のアルカリディスペンサーが知られている。

【0025】
図5(3)は加熱手段を組み合わせた表面処理材料30の他の例を示しており、電熱線等の加熱手段31を螺旋にすることでバスケット部を形成し、該バスケット部に表面処理材料30を入れ、加熱手段31に通電することで、表面処理材料30を飛散させてもよい。図5(3)に示す例は、自然条件下で発火せず、元素単体で保存・利用できる元素に使用することができ、例えば、表面処理材料30として、Te、Sbを用いる場合に好ましい。

【0026】
前記加熱手段31と組み合わせた表面処理材料30は、通電するための電線を繋げて活性化容器20内に配置してもよいし、活性化容器20とは別の図示していない表面処理材料30の固定部材に取り付け、該固定部材を介して活性化容器20に挿入してもよい。固定部材はセラミック、サファイア等の耐熱性かつ絶縁性の材料で形成すればよい。活性化容器20内に設ける表面処理材料30は、活性化容器20の内側の形状に沿った又は任意の形状の単一の表面処理材料30であってもよいし、複数個の表面処理材料30を適当な間隔で配置してもよい。また、後述する気化した表面処理材料30の飛散方向を制御する方向制御手段を設ける場合、又は図5(2)に示す表面処理材料30を用いる場合は、表面処理材料30を設ける位置に特に制限は無いが、方向制御手段を設けない場合は、活性化容器20の底部に設けることが好ましい。

【0027】
活性化容器20は、フォトカソード(材料)をEA表面処理することに加え、電極の一部として用いることもできる。図6は、電極回りの電界シミュレーション図を示しており、電極の端の部分の電場は、電極の端部を回り込むように発生している。一般的に、フォトカソードの電場は平行になっていることが好ましい。

【0028】
図7は、本発明の活性化容器20の孔21に、フォトカソードホルダー51を挿入した際の位置関係の一例を示す概略図である。なお、図7に示すフォトカソード52は、フォトカソードロッド50の先端に設けられたフォトカソードホルダー51の、フォトカソードロッド50と反対側の面に貼り付けられている。フォトカソードホルダー51に貼り付けられるフォトカソード52の大きさは適宜調整すればよい。活性化容器20に形成した孔21にフォトカソード52を外部に晒すようにフォトカソードホルダー51を挿入し、フォトカソード52及び活性化容器20を一体化して電極とした場合は、活性化容器20の端部で電界は回り込み、フォトカソード52付近の電場を平行にすることができる。活性化容器20を電極の一部とする場合は、フォトカソード52と通電する必要があることから、活性化容器20を導電性材料で形成する必要があり、モリブデン、チタン、タングステン、タンタル、ステンレス等の材料が挙げられる。活性化容器20を電極の一部として使用しない場合は、活性化容器20を絶縁性材料で形成すればよく、ガラス、セラミック、サファイア等の材料が挙げられる。

【0029】
図8は、活性化容器20に設ける孔21とフォトカソードホルダー51との関係の他の実施形態を示す図である。本実施形態では、フォトカソードホルダー51は孔21に挿入されず、フォトカソードホルダー51に貼り付けられたフォトカソード52が活性化容器20の孔21の部分に配置するようになっている。本実施形態の場合は、孔21は少なくとも電子が通過できる大きさであればよいが、上記のとおり、加工の容易性、及びフォトカソード52から放出される電子と孔21の角度や位置関係の調整を容易にするため、1nm~10mmの大きさにしてもよく、50μm~5mmの大きさでもよい。また、フォトカソード52に光を斜めから照射することもあり、光照射の見込み角を大きくし、より広範囲の角度から光を照射できるようにするため、活性化容器20の底部を孔21に向かって厚みが薄くなるようにテーパー状にしてもよい。テーパーの角度は、孔21の大きさ、光の入射角により適宜調整すればよい。

【0030】
活性化容器20は、上記材料を溶解し鋳型に流し込んで形成してもよいし、切削加工で形成してもよい。また、活性化容器20の形状は、フォトカソードホルダー51を活性化容器20内に配置することができれば形状に特に制限は無く、円筒形、多角形筒形等、適宜選択すればよい。

【0031】
活性化容器20には、気化した表面処理材料30の飛散方向を制御する方向制御手段を形成してもよい。図9は方向制御手段の例を示しており、例えば、図9(1)は、2枚の方向制御板33を、表面処理材料30を挟むように形成し、気化した表面処理材料30が飛散する角度を、孔21の端部を結んだ面に対して0度より大きく、90より小さい角度で調整できるようにしている。また、フォトカソードホルダー51の大きさが活性化容器20の内側の大きさとほぼ同じの場合は、図9(2)に示すように、方向制御板33は1枚であってもよい。方向制御板33は、活性化容器20を作製する際に同時に作製してもよいし、別途作製して溶接等により固定してもよい。

【0032】
図9(3)は方向制御手段の他の実施形態を示しており、方向制御板33に換え、一方向のみに開口している開口部34を有する容器35を作製し、活性化容器20に溶接等により配置してもよい。開口部34は、方向制御板33と同様、飛散する角度を0度より大きく、90より小さい角度となるように、開口部34の形状を適宜調整すればよい。方向制御板33及び容器35は、活性化容器20に用いられる材料で作製してもよいし、異なる材料でもよい。方向制御手段の内側に配置される表面処理材料30は、上記の加熱手段31を組み込んだ表面処理材料30であってもよいし、表面処理材料30のみを配置してもよい。表面処理材料30のみを配置する場合は、活性化容器20全体を加熱してもよいし、表面処理材料30を配置する部分に予め電熱線等の加熱手段を配置しておいてもよい。

【0033】
フォトカソード52を形成するためのフォトカソード材料は、EA表面処理ができるものであれば特に制限は無く、例えば、III-V族半導体材料、II-V族半導体材料が挙げられる。具体的には、AlN、Ce2Te、GaN、K2CsSb、AlAs、GaP、GaAs、GaSb、InAs等が挙げられる。その他の例としては金属が挙げられ、具体的には、Mg、Cu、Nb、LaB6、SeB6、Ag等が挙げられる。前記フォトカソード材料をEA表面処理することでフォトカソード52を作製することができ、該フォトカソード52は、半導体のギャップエネルギーに応じた近紫外-赤外波長領域で電子励起光が選択可能となるのみでなく、電子ビームの用途に応じた電子ビーム源性能(量子収量、耐久性、単色性、時間応答性、スピン偏極度)が半導体の材料や構造の選択により可能となる。それにより、電子励起に用いる光源は高出力(ワット級)-高周波数(数百MHz)-短パルス(数百フェムト秒)のレーザーのみならず、比較的安価なレーザーダイオードでも、これまでにない高性能なビーム生成をすることが可能である。

【0034】
また、フォトカソード52を貼り付けるためのフォトカソードホルダー51は、モリブデン、チタン、タンタル、ステンレス等から作製することができる。また、フォトカソードロッド50は、モリブデン、チタン、タンタル、ステンレス等から作製することができる。本発明のキット40には、上記のフォトカソード材料が張り付けられたフォトカソードホルダー51、フォトカソードロッド50が含まれていてもよい。

【0035】
図10は、本発明のキット40を用いて、EA表面処理する際の位置関係の概略を示す図である。例えば、図7に示す活性化容器20の孔21にフォトカソードホルダー51を挿入した位置から、フォトカソード駆動手段53により図10に示すようにフォトカソードホルダー51を活性化容器20の内部に引上げ、フォトカソードホルダー51に貼り付けられているフォトカソード(材料)52が活性化容器20内に位置するようにする。なお、図10に示す例ではフォトカソード駆動手段53を活性化容器20に形成しているが、フォトカソード(材料)52の位置を変えることができれば、設ける場所は特に制限は無く、キット40とは別体、例えば、後述する真空チャンバーに設けてもよい。また、フォトカソード駆動手段53は、フォトカソードホルダー51に貼り付けられているフォトカソード(材料)52の位置を変えることができればよく、フォトカソードロッド50、フォトカソードホルダー51の何れを駆動してもよい。フォトカソード駆動手段53は、フォトカソード(材料)52の位置を変えることができるものであれば特に制限は無く、モーター等の公知の駆動手段を用いればよい。

【0036】
EA表面処理時の活性化容器20の内部におけるフォトカソード(材料)52の位置は、表面処理材料30の拡散方向及び範囲と、フォトカソードホルダー51に貼り付けられているフォトカソード(材料)52のサイズを考慮し、表面処理材料30がフォトカソード(材料)52に蒸着できるように調整することが好ましい。なお、フォトカソード(材料)52を活性化容器20の内部に引き上げた後は、孔21は解放状態になる。その際、活性化容器20の孔21の一方の底面部の延長線41と他方の底面部の延長線41が形成する角度42が180度以上であれば、底面部分自体が表面処理材料30の飛散を活性化容器20の内部方向に制御することができ、孔21から気化した表面処理材料30が漏出することを防止できるので好ましい。フォトカソード(材料)52への効率的な蒸着及び孔21から漏出する表面処理材料30をより漏出し難くするために、前記底面の角度42は210度以上とすることがより好ましい。なお、前記の底面の角度は、方向制御手段、加熱手段31を挿入し切込み32を形成した表面処理材料30を用いない場合の角度であるが、加熱手段31を挿入し切込み32を形成した表面処理材料30又は方向制御手段を設ける場合は、表面処理材料30を配置する位置及び底面部の角度は特に制限は無く、図10に示すように表面処理材料30と表面処理材料30を結んだ線と表面処理材料30が飛散する角度Xが0度以上の方向に表面処理材料30を気化・飛散することが好ましく、15度以上がより好ましい。

【0037】
一方、気化・飛散する角度の上限は、活性化容器20の内側の大きさとフォトカソードホルダー51の大きさがほぼ同じであれば上方に漏出する表面処理材料30は非常に少ないので、約90度とすればよく、活性化容器20の内側の大きさとフォトカソードホルダー51に貼り付ける又は既に貼り付けられたフォトカソード(材料)52のサイズを考慮し適宜調整すればよい。

【0038】
活性化容器20の上部からの表面処理材料30の漏出をより減少する場合は、表面処理材料30の飛散方向の調整に加え、シールドを設けてもよい。図11はフォトカソードロッド50にシールド54を設けた例を示しており、シールド54は活性化容器20の内側の形状と同じ形状であればよい。

【0039】
また、図12は活性化容器20にシールド54を設けた例を示している。シールド54は、フォトカソードロッド50と同じ大きさの孔を形成すればよい。シールド54は、例えば、ガラス、モリブデン、セラミック、サファイア、チタン、タングステン、タンタル等の材料から形成すればよい。

【0040】
本発明においては、上記のとおり活性化容器20の底部の角度を調整、及び/又は表面処理材料30の飛散方向を制御、及び/又はシールドを設けることで、フォトカソード(材料)52に蒸着しなかった表面処理材料30の大部分は容器40の内壁に蒸着し、孔21から真空チャンバー内に漏出する表面処理材料30は殆ど無い。したがって、活性化容器20の外周部に表面処理材料30が付着しないので、電界放出暗電流の発生等を防止することができる。

【0041】
図13は、本発明のキット40の他の実施形態を示すための概略図である。本実施形態のキット40には孔21に加え、光源からの光を通過する孔23が活性化容器20に形成されている。本実施形態のキットの場合、孔23の角度、つまり光の入射角度と表面処理材料30の飛散方向を調整すれば、フォトカソード(材料)52を移動することなく、EA表面処理と電子の放出をすることができるが、勿論、フォトカソード(材料)52の位置を調整するフォトカソード駆動手段53を設けてもよい。また、孔23は光を通せばよいことから孔23部分をガラス等で被覆することができる。孔21の大きさは上記のとおりであるので、孔21から表面処理材料30が漏出することはない。また、活性化容器20の内側とほぼ同じ大きさのフォトカソードホルダー51を用いた場合、活性化容器20から外部に連通する孔をほとんどなくすことができ、表面処理材料30が活性化容器20の外に漏出する可能性がより少なくなる。本実施形態の場合は、活性化容器20の外に表面処理材料30が漏出する孔がほとんどないことから、表面処理材料30の方向制御手段は設けなくてもよい。

【0042】
図14は、本発明のキット40の他の実施形態を示すための概略図である。本実施形態のキット40は、図13に示す実施形態と同様の孔21及び孔23が形成されている。また、本実施形態のキットには、活性化容器20に対してほぼ密封状態で摺動可能な蓋45にフォトカソードホルダー51が設けられ、該フォトカソードホルダー51にフォトカソード(材料)52が活性化容器20の内部に向く方向に貼り付けられている。本実施形態の場合も、孔23の角度、つまり光の入射角度と表面処理材料30の飛散方向を調整すれば、フォトカソード(材料)52を移動することなく、EA表面処理と電子放出をすることができるが、蓋45の位置を調整するための図示していない蓋駆動手段を設けてもよい。蓋駆動手段は、フォトカソード駆動手段53と同様、モーター等を用いて形成すればよく、活性化容器20又は真空チャンバー内に形成すればよい。蓋45は、ガラス、モリブデン、セラミック、サファイア、チタン、タングステン、タンタル等の材料で形成すればよい。また、孔21及び孔23は、図13に示す実施形態と同様に形成すればよい。

【0043】
図15は、図13に示す実施形態における活性化容器20において、光源からの光が通過する孔23と電子が通過する孔21を共通化した実施形態を示している。図15に示す実施形態では、後述するアノードの後方から光を射出し、孔21を通過してフォトカソード52に光を照射することでフォトカソード52から放出した電子も孔21を通過するようにしている。孔21の大きさは上記の大きさでよい。また、図14に示す実施形態においても、図15に示す実施形態と同様に、光源からの光が通過する孔23と電子が通過する孔21を共通化してもよい。

【0044】
図16は、図13に示す実施形態における活性化容器20において、光源からの光をフォトカソード52に照射するための孔23に換え、フォトカソードホルダー51に光を照射するための孔24を設けた例を示している。図16に示す実施形態では、フォトカソードホルダー51のフォトカソード52を貼り付けていない側(フォトカソードロッド50の方向)からフォトカソード52に光をあてることで、電子を放出することができる。本実施形態の場合、フォトカソードホルダー51を通過した光は、更にフォトカソードホルダー51とフォトカソード52の間に設けられ、フォトカソード52の半導体素子を作製するための基板を通過してフォトカソード52に光が到達する必要がある。したがって、前記基板はサファイア等の光透過性の材料で形成するか、又は光が通過するための孔を前記基板に形成する必要がある。なお、前記基板はフォトカソード材料として半導体材料を用いた場合は必要であるが、フォトカソード材料として金属材料を用いた場合には必要ない。また、図16に示す例は、フォトカソードホルダー51に孔24を形成しているが、フォトカソードホルダー51を、例えば、サファイア等の光透過性の材料を用いて作製した場合は、孔24を形成する必要は無い。図14に示す実施形態においても、図16に示す実施形態と同様に、蓋45及びフォトカソードホルダー51に孔24を形成してもよいし、蓋45及びフォトカソードホルダー51を光透過性の材料を用いて作製してもよい。更に、フォトカソード52の半導体素子を作製するための基板を光透過性の材料で形成するか、又は光が通過するための孔を前記基板に形成すればよい。

【0045】
図17は、本発明の処理装置60の一例を示す概略図である。本発明の処理装置60は、上記のキット40を、真空チャンバー61内に配置し、前記真空チャンバー61を真空状態にするための真空ポンプ62を含んでいる。また、フォトカソード(材料)に応じて、例えば、酸素、NF3、N2等のEA表面処理に必要な気体を充填したボンベ63及び該ボンベ63の気体をフォトカソード52に吹き付けるための管64を含んでいてもよい。

【0046】
EA表面処理は、約600℃の温度で実施され、10-5Pa以下にする必要があることから、上記条件に耐えることができる公知の真空チャンバー61及び上記真空状態にすることができる真空ポンプ62を用いればよい。真空チャンバー61は、例えば、ステンレス製チャンバー、チタン製チャンバー、μメタル製チャンバー等が挙げられ、真空ポンプ62としては、例えば、ターボポンプ、イオンポンプ、蒸発ゲッターポンプ、非蒸発ゲッターポンプ等が挙げられる。

【0047】
本発明の処理装置60を用いたフォトカソード材料のEA表面処理、及び一定時間経過後のフォトカソード52の再EA表面処理は次の手順で実施することができる。
(1)フォトカソード材料が貼り付けられたフォトカソードホルダー51を真空チャンバー61に導入する前は、大気中の不純物で覆われている。その為、フォトカソード材料が貼り付けられたフォトカソードホルダー51を真空中で300~700℃、10分~1時間加熱し、酸化物や炭化物などの表面不純物を除去し清浄にする。加熱温度及び時間は、用いるフォトカソード材料に応じて適宜調整すればよい。これにより、フォトカソード材料にバンドベンディングを生じさせ、真空準位をフォトカソード52を形成する半導体のバンドギャップの半分程度(φ)下げることができる。
(2)フォトカソード材料の結晶表面に微小の光電流が得られるように、まず表面処理材料30を蒸着し、その後、光電流の飽和毎に表面処理材料30の蒸着と、必要に応じて酸素、NF3、N2等の気体の付加を最大の光電流が得られるまで交互に繰り返す。この方法により、残りの真空準位(φ)を下げることで、EA表面状態を形成することができる。気体の付加は、真空チャンバー61の外部に気体のボンベ63を設け、当該ボンベ63から管64をとおして、フォトカソード材料に吹き付ければよい。なお、複数種類の表面処理材料30、例えば、Cs及びTe、Cs及びSb等をフォトカソード材料に蒸着する場合は、気体の付加は必要ない。
(3)一定時間電子の放出を行った後、上記(2)の手順を行うことで、EA表面の再処理を行う。

【0048】
図18は、本発明の電子ビーム源の一例を示す概略図である。本発明の電子ビーム源は、処理装置60に加え、真空チャンバー61内に設けられたアノード71及び真空チャンバー61の外側に設けられた光源72を含んでいる。アノード71は、電子銃等に用いられている公知のもの、例えば、チタン、モリブデン、ステンレス等を用いることができる。また、光源72は、公知の光源を用いることができ、例えば、レーザーダイオード、パルスレーザー、固体レーザー、気体レーザー等が挙げられる。光源72からの光は、真空チャンバー61に形成した図示しない光透過用窓をとおして照射すればよく、その際、図示しない光学系(ミラー系)を用いて、フォトカソード52に所望の角度で照射できるように適宜調整すればよい。なお、上記のとおり、光源からの光は、アノード71をとしてフォトカソード52に照射してもよい。

【0049】
上記図18に示す例は、フォトカソード52がマイナス、アノード71がプラスの2極構造の例であるが、図19に示すように、活性化容器20を導電性材料で形成し、且つ、フォトカソード52を活性化容器20に接触しない状態で使用することで3極構造として用いることもできる。3極構造で用いる場合は、フォトカソード52の電圧Vと活性化容器20の電圧Vを、V≠Vとし、VとVはともに0V以下とすればよい。

【0050】
図18に示す2極構造は、電界強度を最大にできるため、大きな電流値を得ることができ、また、電子の広がりを押えられる。したがって、大電流を要する用途、例えば、加速器等の電子ビーム源として有用である。一方、図19に示す3極構造は、電流を安定化できるとともに、電子の広がりを調節することができる。したがって、電子顕微鏡や電子線描画装置等の電子ビーム源として有用である。

【0051】
上記に記載した例は、フォトカソード52のEA表面処理と電子ビーム源として電子を取り出す操作を別々に行っているが、本発明の処理装置を用いた電子ビーム源は、活性化容器20内でフォトカソード52の位置を変えずにEA表面の再処理をすることが可能なことから、フォトカソード52に表面処理材料30を蒸着しながら、フォトカソード52に光を照射して電子を取り出すこともできる。その場合、EA表面の再処理のために電子の取り出しを中止する必要が無く、長時間の連続操業をすることが可能となる。

【0052】
本発明の電子ビーム源70は、従来の電子ビーム源に必要であった、EA表面処理チャンバー及びフォトカソードを搬送する搬送手段が不要となり、装置を小型化することができる。また、EA表面処理したフォトカソードを用いた電子ビーム源は、高輝度だけでなく、高繰返し周波数で短パルスやスピン偏極した電子ビームの生成が可能であり、高度かつ多彩な能力を持つ。したがって、従来から前記能力が必要とされる電子ビーム源を用いた機器、例えば、電子銃、自由電子レーザー加速器、透過型電子顕微鏡(TEM)、走査型電子顕微鏡(SEM)、電子線ログラフィー顕微鏡、電子線描画装置、電子線検査装置等の電子ビーム源として使用することができる。更に、EA表面処理と電子の取り出しを同時に行う場合には、連続操作が必要な電子線描画装置等の加工機器分野の電子ビーム源として使用することができる。


【0053】
以下に実施例を掲げ、本発明を具体的に説明するが、この実施例は単に本発明の説明のため、その具体的な態様の参考のために提供されているものである。これらの例示は本発明の特定の具体的な態様を説明するためのものであるが、本願で開示する発明の範囲を限定したり、あるいは制限することを表すものではない。
【実施例】
【0054】
<実施例1>
〔活性化容器の作製〕
活性化容器は、材料としてモリブデンを用い、切削および表面研磨により形成した。底面は円形状で、直径は68mm、孔の直径は11mmであった。
【実施例】
【0055】
〔キットの作製〕
<実施例2>
〔表面処理材料を先端に取り付けた固定部材の作製〕
切削および焼入れで作製したセラミック製の固定部材36の先端に、CsCrOの中心に加熱用配線を挿通した表面処理材料30(SAES Getters社製)を4つ取り付けた。加熱用配線に通電して加熱するための銀製電線は、固定部材36の中に配線した。図20は作製した表面処理材料を先端に取り付けた固定部材の外観を示す写真である。
〔フォトカソードロッド、及びフォトカソード材料を貼り付けたフォトカソードホルダー作製〕
フォトカソードロッド50はチタンで作製した。フォトカソードホルダー51はモリブデンで作製し、直径は約34mmであった。次に、GaN半導体を成長させたサファイア製の基板を、モリブデン上に溶かしたインジウムにより貼り付けることでフォトカソード材料を貼り付けたフォトカソードホルダー51を作成した。
【実施例】
【0056】
実施例1で作製した活性化容器20に、表面処理材料30を取り付けた固定部材36、及びフォトカソードロッド50の先端に設けられ表面にフォトカソード材料を貼り付けたフォトカソードホルダー51を挿入して、キットを作製した。図21は、実施例2で作製したキットの外観を示す写真である。
【実施例】
【0057】
〔フォトカソードの作製〕
<実施例3>
実施例2で作製したキットを、真空チャンバー(Kimball Physics社製Spherical Chamber)内に設置した。加熱手段としてリボンヒーターを用い、真空ポンプ(アルバック社製イオンポンプ、またはSAES Getter社製非蒸発ゲッターポンプ)で吸引して真空チャンバー内を10-9Paまで、超真空状態に吸引を行った。約550℃で1時間、フォトカソード材料を加熱し、酸化物や炭化物などの表面不純物を除去した。次に、実施例2で作製した表面処理材料を先端に取り付けた固定部材に通電して約600℃に加熱して表面処理材料を気化し、フォトカソード材料の表面にCsを10分蒸着し、引き続き、酸素(99.999%)をフォトカソード材料に2分吹き付けた。表面処理材料と酸素の吹き付けは、5回行うことで、フォトカソード材料のEA表面処理を行い、フォトカソード52を作製した。
【実施例】
【0058】
図22は、実施例3でフォトカソード52を作製した後、フォトカソードホルダー51をEA表面処理時の位置(図10及び図21に示す位置)のまま、真空チャンバーと活性化容器を取り外し、フォトカソード52側から撮影した固定部材及びフォトカソード52を貼り付けたフォトカソードホルダー51の写真である。図22から明らかなように、固定部材の内側にセシウムが蒸着(写真中の楕円で囲んだ灰黄色の部分)することを確認した。本発明の活性化容器により、気化したセシウムの内、フォトカソード(材料)に蒸着しなかったセシウムは活性化容器内に張り付くことから、活性化容器外へのセシウムの回り込みをほとんど抑えられていることが分かった。
【実施例】
【0059】
〔フォトカソードの再EA表面処理〕
<実施例4>
光照射により表面劣化(量子効率で2ケタ程度低下したもの)したフォトカソードに対して、実施例3の酸化物や炭化物などの表面不純物を除去する手順を省略した以外は実施例3と同様の手順でEA表面の再処理を行った。図22はEA表面の再処理時間と量子効率の回復程度を示す図である。量子効率は照射した光の出力と光電流を測定して導出した。図23から明らかなように、EA表面の再処理の開始とともに量子効率(Quantum Efficiency)が回復することが確認できた。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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