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明細書 :金属亜鉛ナノ粒子、及びその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2014-240512 (P2014-240512A)
公開日 平成26年12月25日(2014.12.25)
発明の名称または考案の名称 金属亜鉛ナノ粒子、及びその製造方法
国際特許分類 B22F   1/00        (2006.01)
B22F   1/02        (2006.01)
B22F   9/00        (2006.01)
B22F   9/24        (2006.01)
FI B22F 1/00 R
B22F 1/02 B
B22F 9/00 B
B22F 9/24 Z
請求項の数または発明の数 21
出願形態 OL
全頁数 19
出願番号 特願2013-123183 (P2013-123183)
出願日 平成25年6月11日(2013.6.11)
発明者または考案者 【氏名】前之園 信也
【氏名】デリック モット
【氏名】グエン タン マイ
出願人 【識別番号】304024430
【氏名又は名称】国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学
個別代理人の代理人 【識別番号】110000523、【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
【識別番号】100127133、【弁理士】、【氏名又は名称】小板橋 浩之
審査請求 未請求
テーマコード 4K017
4K018
Fターム 4K017AA03
4K017AA06
4K017BA01
4K017CA03
4K017CA08
4K017DA09
4K017EJ01
4K017FB03
4K017FB07
4K018BA10
4K018BB01
4K018BB05
4K018BB06
4K018BD10
要約 【課題】化学的なアプローチによって、分散可能な粒子としての形態を備えた、金属亜鉛ナノ粒子を製造する方法、及び製造された該金属亜鉛ナノ粒子を提供すること。
【解決手段】亜鉛の塩、有機化合物からなる保護剤、及び有機溶媒を含む原料溶液を加熱する工程、加熱された原料溶液に還元剤を注入して金属亜鉛ナノ粒子を析出させる工程、を含む金属亜鉛ナノ粒子の製造方法、及びヘキサゴナルプレート状の形態を有する金属亜鉛ナノ粒子。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
ヘキサゴナルプレート状の形態を有する、金属亜鉛ナノ粒子。
【請求項2】
ヘキサゴナルプレート状のプレートの厚みが、4nm~60nmの範囲にある、請求項1に記載の金属亜鉛ナノ粒子。
【請求項3】
ヘキサゴナルプレート状のプレートの直径が、50nm~400nmの範囲にある、請求項1~2のいずれかに記載の金属亜鉛ナノ粒子。
【請求項4】
ヘキサゴナルプレート状の形態が、亜鉛の六方晶の単結晶が成長してなるヘキサゴナルプレート状の形態である、請求項1~3のいずれかに記載の金属亜鉛ナノ粒子。
【請求項5】
金属亜鉛ナノ粒子が、XRDパターンにおいて亜鉛酸化物相が検出されない、請求項1~4のいずれかに記載の金属亜鉛ナノ粒子。
【請求項6】
制限視野電子回折(SAED)パターンが、6回の回折対称性を示す、請求項1~5のいずれかに記載の金属亜鉛ナノ粒子。
【請求項7】
次のシェラー式:
d = Kλ/(βcosθ) (式1)
(ただし、d[nm]はナノ粒子の結晶部分の平均サイズ(結晶サイズ)、Kは形状因子(無次元)であり、λ[nm]はX線波長、β[rad]は最大強度の半分でのピーク幅(FWHM)、θ[rad]はピーク位置(ブラッグ角)である。)
において、K=0.9、λ=0.15418nmを使用して得られる平均結晶サイズdが、10~60nmの範囲にある、請求項1~6のいずれかに記載の金属亜鉛ナノ粒子。
【請求項8】
金属亜鉛の表面に、有機化合物からなる保護剤の層が設けられてなる、請求項1~7のいずれかに記載の金属亜鉛ナノ粒子。
【請求項9】
保護剤の有機化合物が、炭素数6~24の炭化水素骨格の末端に、-COOH、-NH2、又は-SHの基を有している有機化合物から選択された1種以上である、請求項8に記載の金属亜鉛ナノ粒子。
【請求項10】
保護剤の有機化合物が、炭素数6~24である、1-アルキルアミン、1-アルキルチール、1-アルキルカルボン酸から選択された1種以上である、請求項8~9のいずれかに記載の金属亜鉛ナノ粒子。
【請求項11】
耐酸化性を有する、請求項8~10のいずれかに記載の金属亜鉛ナノ粒子。
【請求項12】
UV照射による励起によって可視領域の波長に蛍光発光可能である、請求項1~11のいずれかに記載の金属亜鉛ナノ粒子。
【請求項13】
請求項1~12のいずれかに記載の金属亜鉛ナノ粒子を含んでなる、可視蛍光発光剤。
【請求項14】
請求項8~12のいずれかに記載の金属亜鉛ナノ粒子が溶媒中に分散されてなる、金属亜鉛ナノ粒子分散液。
【請求項15】
亜鉛の塩、有機化合物からなる保護剤、及び有機溶媒を含む原料溶液を加熱する工程、
加熱された原料溶液に、還元剤を注入して、金属亜鉛ナノ粒子を析出させる工程、
を含む、金属亜鉛ナノ粒子の製造方法。
【請求項16】
亜鉛の塩が、塩化亜鉛である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
保護剤の有機化合物が、保護剤の有機化合物が、炭素数6~24の炭化水素骨格の末端に、-COOH、-NH3、又は-SHの基を有している有機化合物から選択された1種以上である、請求項15~16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
原料溶液中における、亜鉛の塩:保護剤の有機化合物のモル比が、1:1~1:60の範囲にある、請求項15~17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
加熱する工程が、原料溶液を100~300℃の範囲の温度に加熱する工程である、請求項15~18のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
還元剤が、水素化トリアルキルホウ素アルカリ金属塩である、請求項15~19のいずれかに記載の方法。
【請求項21】
請求項1~12のいずれかに記載の金属亜鉛ナノ粒子を使用して、可視蛍光を発光させる方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、金属亜鉛ナノ粒子、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属ナノ粒子は、ナノスケールのサイズや形状に起因する特別な性質を期待されて、種々の研究がなされてきた。この金属ナノ粒子を製造するためのアプローチとして、大別すると物理的なアプローチと化学的なアプローチとがある。
【0003】
物理的なアプローチとしては、例えば、金属の真空蒸着やレーザーアブレーションなどを用いた手法がある。これらは高温あるいは高エネルギーでの物理現象に基づいた手法であり、特別な装置や設備を必要とする。これらの物理的な手法は、特別な装置を使用せずに、低温・常圧で金属ナノ粒子を簡便に量産するという手法ではない。加えて、これらの物理的な手法によって製造された金属ナノ粒子は、多くの場合、金属ナノ粒子が形成されるための固体基板を必要とする。そして、例えば、その固体基板、例えばシリコンウェハーなどの上に、金属が蒸着して成長して、金属ナノ粒子となる。このようにして得られる金属ナノ粒子は、固体基板上に生じたキノコ状の突起であり、通常はこの突起を金属ナノ粒子と称して、研究が行われる。しかし、このような金属ナノ粒子状突起付き固体基板は、現実には粒子ではないのであるから、破壊することなく溶媒に分散させることはできないし、調製した分散液を現実の用途に使用することもできない。
【0004】
化学的なアプローチとしては、溶液中での合成や電気化学的な析出があり、主として、貴金属、例えば、金、銀、プラチナ、パラジウム及びこれらの合金について、研究が行われてきた。しかし、これらの貴金属による金属ナノ粒子は、貴金属そのものの稀少さと高価さが、現実の用途の制約となる。一方で、酸化される傾向の大きな金属、例えばアルミニウムや亜鉛などは、酸化されやすい液相合成が原理的に困難である。しかし、もし、酸化される傾向が大きいが、比較的に安価なこれらの金属、特に亜鉛によって、化学的なアプローチによる金属亜鉛ナノ粒子を製造できれば、現実の場面で使用可能な用途は非常に広いものとなる。
【0005】
近年、金属亜鉛ナノ粒子を製造したという報告がなされている(非特許文献1)。しかし、この金属亜鉛ナノ粒子は、物理的なアプローチによるものであって、シリコンウェハー上に真空蒸着によって固体基板上の突起として製造されたものであり、厳密には孤立した粒子として得られたものではない。また、その大きさは、サブミクロンのスケールであり、比較的に大きなものであった。
【先行技術文献】
【0006】

【非特許文献1】J.-H. Lin, Y.-J. Huang, Y.-P. Su, C.-A. Liu, R. S. Devan, C.-H. Ho, Y.-P. Wang, H.-W. Lee, C.-M. Chang, Y. Liou and Y.-R. Ma, RSC Adv., 2012, 2, 2123
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の目的は、化学的なアプローチによって、分散可能な粒子としての形態を備えた、金属亜鉛ナノ粒子を製造する方法、及び製造された該金属亜鉛ナノ粒子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、鋭意研究の結果、亜鉛の塩と保護剤を有機溶媒中で混合して加熱した後に還元剤を添加することで、金属亜鉛ナノ粒子を製造できることを見いだして、本発明に到達した。得られた金属亜鉛ナノ粒子は、粒子として分散可能な粒子であり、サブミクロンのスケールよりも小さいサイズであり、ヘキサゴナルプレート状の形態を有し、耐酸化性を備えた金属亜鉛のナノ粒子であった。さらにこの金属亜鉛ナノ粒子は、可視領域を含む波長範囲で蛍光発光するという特徴を備えていた。
【0009】
したがって、本発明は次の(1)以下にある。
(1)
ヘキサゴナルプレート状の形態を有する、金属亜鉛ナノ粒子。
(2)
ヘキサゴナルプレート状のプレートの厚みが、4nm~60nmの範囲にある、(1)に記載の金属亜鉛ナノ粒子。
(3)
ヘキサゴナルプレート状のプレートの直径が、50nm~400nmの範囲にある、(1)~(2)のいずれかに記載の金属亜鉛ナノ粒子。
(4)
ヘキサゴナルプレート状の形態が、亜鉛の六方晶の単結晶が成長してなるヘキサゴナルプレート状の形態である、(1)~(3)のいずれかに記載の金属亜鉛ナノ粒子。
(5)
金属亜鉛ナノ粒子が、XRDパターンにおいて亜鉛酸化物相が検出されない、(1)~(4)のいずれかに記載の金属亜鉛ナノ粒子。
(6)
制限視野電子回折(SAED)パターンが、6回の回折対称性を示す、(1)~(5)のいずれかに記載の金属亜鉛ナノ粒子。
(7)
次のシェラー式:
d = Kλ/(βcosθ) (式1)
(ただし、d[nm]はナノ粒子の結晶部分の平均サイズ(結晶サイズ)、Kは形状因子(無次元)であり、λ[nm]はX線波長、β[rad]は最大強度の半分でのピーク幅(FWHM)、θ[rad]はピーク位置(ブラッグ角)である。)
において、K=0.9、λ=0.15418nmを使用して得られる平均結晶サイズdが、10~60nmの範囲にある、(1)~(6)のいずれかに記載の金属亜鉛ナノ粒子。
(8)
金属亜鉛の表面に、有機化合物からなる保護剤の層が設けられてなる、(1)~(7)のいずれかに記載の金属亜鉛ナノ粒子。
(9)
保護剤の有機化合物が、炭素数6~24の炭化水素骨格の末端に、-COOH、-NH2、又は-SHの基を有している有機化合物から選択された1種以上である、(8)に記載の金属亜鉛ナノ粒子。
(10)
保護剤の有機化合物が、炭素数6~24である、1-アルキルアミン、1-アルキルチール、1-アルキルカルボン酸から選択された1種以上である、(8)~(9)のいずれかに記載の金属亜鉛ナノ粒子。
(11)
耐酸化性を有する、(8)~(10)のいずれかに記載の金属亜鉛ナノ粒子。
(12)
UV照射による励起によって可視領域の波長に蛍光発光可能である、(1)~(11)のいずれかに記載の金属亜鉛ナノ粒子。
(13)
(1)~(12)のいずれかに記載の金属亜鉛ナノ粒子を含んでなる、可視蛍光発光剤。
(14)
(8)~(12)のいずれかに記載の金属亜鉛ナノ粒子が溶媒中に分散されてなる、金属亜鉛ナノ粒子分散液。
【0010】
さらに、本発明は、次の(21)以下にもある。
(21)
亜鉛の塩、有機化合物からなる保護剤、及び有機溶媒を含む原料溶液を加熱する工程、
加熱された原料溶液に、還元剤を注入して、金属亜鉛ナノ粒子を析出させる工程、
を含む、金属亜鉛ナノ粒子の製造方法。
(22)
亜鉛の塩が、塩化亜鉛である、(21)に記載の方法。
(23)
保護剤の有機化合物が、保護剤の有機化合物が、炭素数6~24の炭化水素骨格の末端に、-COOH、-NH2、又は-SHの基を有している有機化合物から選択された1種以上である、(21)~(22)のいずれかに記載の方法。
(24)
保護剤の有機化合物が、炭素数6~24である、1-アルキルアミン、1-アルキルチール、1-アルキルカルボン酸から選択された1種以上である、(21)~(23)のいずれかに記載の方法。
(25)
原料溶液中における、亜鉛の塩:保護剤の有機化合物のモル比が、1:1~1:60の範囲にある、(21)~(24)のいずれかに記載の方法。
(26)
加熱する工程が、原料溶液を100~300℃の範囲の温度に加熱する工程である、(21)~(25)のいずれかに記載の方法。
(27)
還元剤が、水素化トリアルキルホウ素アルカリ金属塩である、(21)~(26)のいずれかに記載の方法。
【0011】
さらに、本発明は、次の(31)以下にもある。
(31)
(1)~(12)のいずれかに記載の金属亜鉛ナノ粒子を使用して、可視蛍光を発光させる方法。
(32)
(1)~(12)のいずれかに記載の金属亜鉛ナノ粒子に、励起光を照射する工程、
励起された金属亜鉛ナノ粒子が、蛍光発光する工程、
を含む、可視蛍光を発光させる方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、分散可能な粒子としての形態を備えた、金属亜鉛ナノ粒子を提供する。本発明の金属亜鉛ナノ粒子は、物理的なアプローチによって得られる固体基板上のナノ突起ではなく、文字通りのナノ粒子である。さらに本発明の金属亜鉛ナノ粒子は、亜鉛酸化物が検出されないような純度を有し、文字通りの金属亜鉛によるナノ粒子である。さらに本発明の金属亜鉛ナノ粒子は、サブミクロンのオーダーのサイズではなく、さらに微小なナノ粒子となっているために、可視波長の領域に蛍光発光のスペクトルを有する。そのために、本発明は、比較的に安価で入手しやすい金属亜鉛による新規な可視蛍光発光剤組成物を提供するものともなっている。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は亜鉛ナノ粒子のSEM及びTEM画像である。
【図2】図2は亜鉛ナノ粒子のXRDパターンである。
【図3】図3は亜鉛ナノ粒子のZn2p(図3A)とO1s(図3B)のXPSスペクトルである。
【図4】図4は亜鉛ナノ粒子のHRTEM画像(図4A、B)と電子線回折パターン(図4C)である。
【図5】図5は亜鉛ナノ粒子のバンド構造を示す説明図である。
【図6】図6は亜鉛ナノ粒子のフォトルミネセンス発光及び励起のスペクトルと蛍光発光の写真である。
【図7】図7は合成条件を変えた亜鉛ナノ粒子のTEM画像である。
【図8】図8は合成条件を変えた亜鉛ナノ粒子のTEM画像である。
【図9】図9は合成条件を変えた亜鉛ナノ粒子のTEM画像である。
【図10】図10は空気で部分酸化された亜鉛ナノ粒子のTEM画像である。
【図11】図11は空気で部分酸化された亜鉛ナノ粒子のZn2pのXPSスペクトルである。
【図12】図12は空気で部分酸化された亜鉛ナノ粒子XRDパターンである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[金属亜鉛ナノ粒子]
本発明は、ヘキサゴナルプレート状の形態を有する、金属亜鉛ナノ粒子を提供する。この金属亜鉛ナノ粒子は、検出可能な金属酸化物を含んでおらず、そのサイズは後述の通りにサブミクロンサイズよりも小さく、ナノスケールに至る微小な粒子である。おそらくはこれらに起因して、本発明の金属亜鉛ナノ粒子は、優れた可視蛍光発光特性を有する。

【0015】
[ヘキサゴナルプレート状]
ヘキサゴナルプレート状とは、上面及び底面が略正六角形である略正六角柱であって、高さ(厚み)が小さいために板状となっている形態である。ヘキサゴナルプレート状を、板状正六角柱ということもできる。金属亜鉛が六方晶の単結晶として角柱面方向に選択成長することによって、このような形状となっていると本発明者は考えている。ヘキサゴナルプレート状のプレートの厚みとは、この略正六角柱の高さをいう。ヘキサゴナルプレート状のプレートの直径とは、この上面及び底面の略正六角形の対角線の長さをいう。また、本発明による亜鉛ナノ粒子は、このようなヘキサゴナルプレート状のナノ粒子であるために、亜鉛NHex、亜鉛NHexs、ZnNHex、ZnNHexs、ということがある。また、ナノ粒子を単にNP、NPsということがある。

【0016】
[プレートの厚み]
好適な実施の態様において、ヘキサゴナルプレート状のプレートの厚みは、例えば、4nm~60nmの範囲、6nm~60nmの範囲、4nm~40nmの範囲、6nm~40nmの範、20nm~40nmの範囲とすることができる。

【0017】
[プレートの直径]
好適な実施の態様において、ヘキサゴナルプレート状のプレートの直径は、例えば、50nm~400nmの範囲、60nm~350nmの範囲、60nm~200nmの範囲、100nm~200nmの範囲、150nm~200nmの範囲、200nm~350nmの範囲とすることができる。

【0018】
[プレートの直径と厚み]
好適な実施の態様において、ヘキサゴナルプレート状のプレートの厚みと直径とは、それがプレート状(板状)となるように、厚みに比して直径がより大きくなるように、それぞれの範囲のなかから、組み合わせたものである。例えば、直径50nm~100nmに対して厚み4nm~40nm、例えば、直径100nm~400nmに対して厚み4nm~60nmとすることができる。

【0019】
[金属亜鉛]
上述のように、ヘキサゴナルプレート状の形態は、金属亜鉛が六方晶の単結晶として成長することによって得られるものと考えられ、この金属亜鉛は、亜鉛酸化物がXRDやXPS等の検出手段によっても検出されない、高純度の金属亜鉛である。後述する優れた蛍光特性は、サイズと、酸化物を含まない高純度の金属亜鉛であることから、もたらされているものと考えられる。また、後述するように、金属亜鉛ナノ粒子は、制限視野電子回折(SAED)パターンが、6回の回折対称性を示すものとなっており、各粒子は、金属亜鉛が六方晶の単結晶として成長したものであった。

【0020】
[シェラ-式による評価]
ナノ粒子の評価に広く使用される次のシェラ-式:
d = Kλ/(βcosθ) (式1)
(ただし、d[nm]はナノ粒子の結晶部分の平均サイズ(結晶サイズ)、Kは形状因子(無次元)であり、λ[nm]はX線波長、β[rad]は最大強度の半分でのピーク幅(FWHM)、θ[rad]はピーク位置(ブラッグ角)である。)
において、K=0.9、λ=0.15418nmを使用して、本発明の金属亜鉛ナノ粒子を評価することができる。好適な実施の態様において、この評価による平均結晶サイズdは、例えば、10~60nmの範囲、30~40nmの範囲にある。

【0021】
[保護剤の層]
好適な実施の態様において、金属亜鉛ナノ粒子の金属亜鉛の表面には、有機化合物からなる保護剤の層が設けられている。この保護剤の層の存在によって、金属亜鉛ナノ粒子が耐酸化性を有しているものと、本発明者は考えている。この耐酸化性は、強力なものであり、金属亜鉛ナノ粒子が溶媒中に分散された分散液を、大気にさらして室内に放置した場合に、金属亜鉛ナノ粒子による蛍光発光が観察可能な状態を、3日以上、維持できるものであった。本発明において、耐酸化性とは、金属亜鉛ナノ粒子が溶媒中に分散された分散液を、大気にさらして室内に放置した場合に、3日以上経過後も、金属亜鉛ナノ粒子による蛍光発光が観察可能であることをいう。

【0022】
[保護剤の有機化合物]
好適な実施の態様において、保護剤の有機化合物が、炭素数6~24の炭化水素骨格の末端に、-COOH、-NH2、又は-SHの基を有している有機化合物から選択された1種以上であるものとすることができる。このような有機化合物として、例えば、環式又は非環式の、直鎖又は分枝の、飽和又は不飽和の、炭化水素の酸、炭化水素のアミン、炭化水素のチオール、を挙げることができる。また、好適な実施の態様において、保護剤の有機化合物が、例えば炭素数6~24、炭素数12~24、炭素数14~22、炭素数16~20、炭素数18である、飽和又は不飽和の、直鎖又は分枝の、1-アルキルアミン、1-アルキルチール、1-アルキルカルボン酸から選択された1種以上であるものとすることができる。好ましい有機化合物として、例えば、オレイン酸、オレイルアミン、ドデカンチオール、ステアリン酸、ドデシルアミンなどを挙げることができる。

【0023】
[溶媒への分散性]
好適な実施の態様において、金属亜鉛ナノ粒子は、保護剤の層によって表面を被覆されており、各粒子が溶媒中に分散可能であり、金属亜鉛ナノ粒子による分散液を製造することができる。分散に適した溶媒は、保護剤の有機化合物の特性に応じて適宜選択することができる。例えば末端にアミノ基、カルボキシル基、チオール基を有する炭素化合物、例えばアルキルアミン、アルカンチオール、脂肪族カルボン酸を保護剤の有機化合物として使用した場合には、これらの炭化水素部分に親和性のある有機溶媒を好適に使用することができる。また、保護剤となる有機化合物をさらに選択して、金属亜鉛ナノ粒子の溶媒側に露出する領域の親和性を選択すれば、さらに所望の溶媒に対して分散させて、分散液を製造することができる。保護剤の層の上に、溶媒親和性のための有機化合物の層を、さらに設けることもできる。金属亜鉛ナノ粒子が所望の溶媒に対して分散されたこのような分散液の製造は、従来の物理的な手法によって固体基板上に蒸着などで成長させて得られた金属ナノ粒子では、不可能なことであった。

【0024】
[可視蛍光発光]
本発明の金属亜鉛ナノ粒子は、バルクの金属亜鉛においては全く想定されていなかった、蛍光発光の特性を有する。特に、本発明の金属亜鉛ナノ粒子は、おそらくは微小なサイズの金属亜鉛六方晶の単結晶となっていることに起因して、可視光の領域におよぶ優れた蛍光発光のスペクトルを有する。波長約400nmよりも短波長の光は、紫外光となって不可視であるが、波長約400nmよりも長波長の光は、可視光の領域に属しており、このような可視光の蛍光発光特性は、ヒトに視認可能であることから、応用範囲が極めて広い。好適な実施の態様において、本発明の金属亜鉛ナノ粒子は、可視領域に広い蛍光発光スペクトルを有するものとすることができ、このような可視蛍光発光特性を有する金属亜鉛ナノ粒子は、今までに得られていない。亜鉛が、比較的に安価で入手しやすい金属であることから、本発明の金属亜鉛ナノ粒子、及び金属亜鉛ナノ粒子の分散液は、可視蛍光発光剤として、好適に使用可能なものである。このような可視蛍光発光剤は、例えばインクジェットプリンタのインキ等の用途にも、好適に使用可能である。可視蛍光の発光のスペクトルは、金属亜鉛ナノ粒子のサイズによって調整することが可能であるので、後述する製造条件を選択することによって、所望の可視光の波長の領域に発光スペクトルを有する可視蛍光発光剤を得ることができる。

【0025】
[金属亜鉛ナノ粒子の製造方法]
本発明の金属亜鉛ナノ粒子は、亜鉛の塩、有機化合物からなる保護剤、及び有機溶媒を含む原料溶液を加熱する工程、加熱された原料溶液に、還元剤を注入して、亜鉛金属ナノ粒子を析出させる工程、を含む製造方法によって、得ることができる。

【0026】
[亜鉛の塩]
亜鉛の塩は、使用される溶媒に溶解又は分散可能な塩であれば、使用することができ、例えば、塩化亜鉛(ZnCl2)、二酢酸亜鉛(C464Zn)、亜鉛(II)アセチルアセトナート(C10144Zn)を好適に使用できる。

【0027】
[有機化合物からなる保護剤]
保護剤として使用される有機化合物は、上述した保護剤の有機化合物であって、使用される溶媒に溶解又は分散可能な有機化合物を、好適に使用することができる。

【0028】
[亜鉛の塩と有機化合物の比率]
好適な実施の態様において、原料溶液中における、亜鉛の塩:保護剤の有機化合物のモル比として、例えば、1:1~1:60の範囲、1:1~1:30の範囲、1:2~1:60の範囲、1:2~1:30の範囲、1:2~1:10の範囲、1:10~1:30の範囲を、好適に使用することができる。原料溶液中の保護剤の有機化合物に対する亜鉛の塩の割合が小さくなれば、得られる金属亜鉛ナノ粒子のサイズは、小さくなる傾向にある。したがって、この比率を制御することによって、金属亜鉛ナノ粒子のサイズを、所望のサイズへと制御することができる。

【0029】
[有機溶媒]
好適な実施の態様において、有機溶媒としては、亜鉛の塩と保護剤の有機化合物が溶解又は分散可能な有機溶媒であって、後述する還元剤による還元反応が、好適に実施可能な溶媒であれば、特に制限無く使用することができる。このような有機溶媒として、例えば、エーテル、脂肪族飽和炭化水素、脂肪族不飽和炭化水素、トリオクチルホスフィンを挙げることができる。特に、芳香環を有するエーテル、例えば、ジフェニルエーテルを、好適に使用することができる。

【0030】
[原料溶液を加熱する工程]
原料溶液は、還元剤の注入に先立って、所定の温度に達するまで、加熱する工程を行う。好適な実施の態様において、この所定の温度として、例えば、100~300℃の範囲、120~240℃の範囲、140~220℃の範囲、150~200℃の範囲の温度を、挙げることができる。この温度を高くすると、得られる金属亜鉛ナノ粒子のサイズは、小さくなる傾向にある。したがって、この温度を制御することによって、金属亜鉛ナノ粒子のサイズを、所望のサイズへと制御することができる。

【0031】
[還元剤]
還元剤を、加熱された原料溶液に注入することによって、亜鉛金属ナノ粒子を析出させることができる。還元剤として、例えば、水素化ホウ素アルカリ金属塩(例えば水素化ホウ素ナトリウム)、ジボラン、ヒドラジン、水素化トリアルキルホウ素アルカリ金属塩(例えば水素化トリエチルホウ素アルカリ金属塩)、多価アルコールを挙げることができる。還元剤は、原料溶液に対して使用可能な還元剤であって、強力な還元剤であることが好ましい。特に好ましい還元剤として、水素化トリエチルホウ素化リチウム(Li[BH(Et)3])を挙げることができ、このTHF溶液は原料溶液への注入に好適に使用することができる。還元剤は、注入操作の便宜のために、溶媒に溶解させた溶液として、使用することができる。

【0032】
[後処理]
好適な実施の態様において、還元剤を注入することによって析出した亜鉛金属ナノ粒子は、その後に、所望の後処理を行うことができる。例えば、エタノール等のアルコールによる洗浄の操作を複数回行ってもよく、例えば、その後に乾燥させて、乾燥粉末である金属亜鉛ナノ粒子を得ることもできる。
【実施例】
【0033】
以下に実施例をあげて、本発明を詳細に説明する。本発明は、以下に例示する実施例に限定されるものではない。なお、金属亜鉛ナノ粒子は、以下では、ナノ粒子、NPs、などということがあり、また、ヘキサゴン形状であったことから、ナノヘキサゴン、NHexs、金属亜鉛ナノヘキサゴン、などということがある。
【実施例】
【0034】
[金属亜鉛ナノ粒子の製造]
[材料]
ZnCl2(純度98%)、オレイルアミン(OAM、純度70%)、ジフェニルエーテル(PhE、純度99%)、リチウムトリエチルボロハイドライド(リチウムスーパーヒドリド、[LiEt3]BH、1M THF溶液)、さらに通常の溶媒を、シグマアルドリッチ社から入手したものを別途精製することなく使用した。
【実施例】
【0035】
[金属亜鉛ナノヘキサゴンの合成]
1ミリモルのZnCl2及び30ミリモルのOAMを、3口フラスコ中の20mLのPhEに、Arガス下で添加した。このフラスコを開封した状態で120℃で20分間加熱した後に、このフラスコを密閉して200℃まで加熱した。200℃に達した時に、リチウムスーパーヒドリドをフラスコ中に(2ミリモル)注入すると、溶液が急速に黒色となった。このフラスコを200℃で20分間保持した後に、室温まで急冷した。エタノールをこのNP(ナノ粒子)反応混合物に添加した後に、4500rpmで5分間の遠心分離を行って、ZincNPs(亜鉛ナノ粒子)の沈殿生成を誘導した。エタノールによる洗浄操作を数回行って、乾燥した。精製されたナノ粒子(NPs)を回収して、以後の検討に用いた。
【実施例】
【0036】
[TEM、HRTEM、SEM、XRD、XPS、蛍光分光による測定]
透過型電子顕微鏡(TEM)及び高分解能TEM(HRTEM)による分析は、日立H-7650型及びH-9000NAR型透過型電子顕微鏡を、100kV及び300kVでそれぞれ操作して行った。精製されたNHexs(ナノヘキサゴン)(金属亜鉛ナノヘキサゴン粒子)を、OAM(オレイルアミン)を添加したヘキサン又はトルエン中に分散して、NHex分散液を調製した。10μLのNHex分散液を、カーボン被覆した銅製TEMマイクログリッド上に滴下して、大気条件で完全に乾燥させた。電界放射型走査型電子顕微鏡(FESEM)による測定を、日立S-4800型装置で行った。EFSEM試料は、精製した亜鉛NHexsをヘキサン中で懸濁し、シリコン基板上にその懸濁液を滴下して大気中で乾燥させることによって、調製した。X線回折(XRD)結晶パターンは、Rigaku SmartLab製のX線回折装置を、反射配置(reflection geometry)で室温下でCu Kα 照射(1.5418オングストローム(A))によって操作して、得た。X線光電子分光(XPS)は、Shimadzu Kratos製のAXIS-ULTRA DLD高性能XPS装置によって、行った。光電子は、Al Kα単色光照射によって励起した。検出は、ディレイライン検出器(delay-line detector:DLD)及び同心半球型分析器(concentric hemispherical analyzer:CHA)を使用して行った。このCHAの通過エネルギーは、ナロースキャンスペクトルでは20eVであった。試料表面の分析エリアは、300×700μm2であり、照射領域の中心部に位置していた。この装置は、1×10-8 Torrのレベルの真空で操作を行った。XPS試料は、導電性のカーボンテープ上に、乾燥し精製されたNPs(ナノ粒子)を吸着させることによって、調製した。フォトルミネセンス(PL)スペクトルは、Jasco製のFP-6300型蛍光分光装置によって、得た。試料は、このNPs(ナノ粒子)をトルエンとヘキサン(体積比1:1)の混合物中へと再分散させることによって調製した。
【実施例】
【0037】
[SEM及びTEMの結果]
精製したNPs(ナノ粒子)のサイズと形状をSEMとTEMを使用して調べた。この結果を、図1に示す。このNPsは、ヘキサゴナル形状のプレート状形態を示し、直径約200~350nmで厚さ約20~40nmであった。TEM及びSEM画像から見積もった平均厚みは、それぞれ、40.0 ± 2.5 nm及び19.7 ± 1.1 nmであった。このSEM画像(図1A)は、ヘキサゴナル形状のナノプレート群をラージスケールではっきりと示しており、これらのNPs(ナノ粒子)が均一な形状であることをはっきりと示している。この均一な形状のNP(NPs)(ナノ粒子)を、以下に、ナノヘキサゴン(NHex)(NHexs)と記載することがある。TEM画像(図1B及びC)では、撮影方向から見て互いに重なった複数のNHexsが撮影されており、プレート状の形状であることを示している。NHexsの重なりである部分と、重なっていない部分との相対的な明度の違いが、つまり重なりのない独立したNHexsは相対的に明るくなっているのであるが、これらのナノ粒子が極めて薄いことを明瞭に示している。図1Cに見いだされるロッド状のNPは、NHex表面に並行に配列した状態から起き上がって、NHexの側面が電子線によって撮影されたものである。さらに、本発明者は、ZnCl2とOAMの配合比及び反応温度を変化させることによって、zincNHexsの直径及び厚みを変化させることができることを見いだした(詳細は後述して説明する図7、図8、図9参照)。これらの結果は、化学合成法によるアプローチが有用であること、さらに単金属性の亜鉛NPsの光学的性質を大きく改変できることを示すものである。
【実施例】
【0038】
[XRDの結果]
図2に示したXRDパターン(上段)は、生成したNHexsから得られたものである。図2の下段には、対応するバルクのヘキサゴナル相亜鉛のパターンを対照として示す(JCPDS card number 03-065-5973)。図2の上段のXRDパターンは、ヘキサゴナル結晶構造を備えた金属性の亜鉛の指標となるピークを示している。この回折ピークは、2θ = 36.2, 38.9, 43.1, 54.2 度であり、ヘキサゴナル相の亜鉛の格子面の(002), (100), (101), (102)にそれぞれ対応している。XRDパターンにおいて、酸化物相が検出されなかったことは特に重要であり、予想外のことであった。なぜなら、亜鉛は酸化する傾向が大きく、これらNHexsは相対的に表面積が大きいのでさらに酸化されやすくなっているはずであるからである。この分析で観察されたXRDピークは、バルクの状態と比べてブロードになっており、これはNHexsの相対的に小さな結晶サイズによるものである。(101)格子面のピークがブロードになっていることを、シェラーの式を用いて評価したところ(後述する式1参照)、37nmの平均結晶サイズであることが明らかになった。この結果は、亜鉛NHexsの厚みとよく一致する(形状において異方性の粒子であるとの仮定による)。さらに、本発明者は、(100)ピークの相対強度が、バルクの金属亜鉛のものと比較してやや増加していることを見いだした。これは、バルクの構造の場合と比較してナノ結晶においては(100)格子面がより支配的になっている、という亜鉛NHexsの異方性の形状に起因していると推測している。
【実施例】
【0039】
[XPSの結果]
図3に示すXPSスペクトルは、亜鉛NHexsのZn2p(図3のA)とO1s(図3のB)の内殻準位エリアから得られたものであり、亜鉛NHexsの表面の特性を明らかにするものである。亜鉛2pのXPSピークは、対称性があり、ピーク位置は1021.10及び1044.09eVで、ピーク分離は22.99eVであった。これは、金属亜鉛において報告されているZn2p3/2及びZn2p1/2ピークの値によく一致している。亜鉛酸化物のシグナル(1021.7及び1044.8に位置するZn 2p3/2及び2p1/2 のピーク)は、XPSスペクトルに見いだされなかった。酸素1sエリアは531.11 eVに低い強度で単一のピークを示し、これは試料に偶然に付着した分子から生じたものである。このことは亜鉛NHexsが非酸化物の状態であることを支持する。
【実施例】
【0040】
[HRTEM、SAEDの結果]
図4は、単一の亜鉛NHexから得られたHRTEM画像(図4のA及びB)と電子線回折パターン(図4のC)を示している。ナノ結晶の正面に沿った縞模様(lattice fringe)を可視化して、2.35 Å(オングストローム)の間隔を有すると測定できた。この値は、ヘキサゴナル亜鉛の(100)格子面に対応する。単一の亜鉛NHexから得られた制限視野電子回折(SAED)パターンは、6回の回折対称性を明瞭に示しており、この亜鉛NHexsが単一のヘキサゴナル結晶(六方晶)である事実を反映している。SAEDパターンから計算した値は、外側及び内側のスポットがそれぞれ2.10及び2.49Å(オングストローム)であった。これは、(101)及び(002)面のリファレンスとなる面間隔dの値(それぞれ2.092及び2.470 Å(オングストローム))の値に対応する。
【実施例】
【0041】
[ナノ粒子形状の形成]
亜鉛ナノ粒子は六方晶(ヘキサゴナル)の結晶構造を持っており、一般にhcp結晶の
JP2014240512A_000003t.gif角柱面の表面エネルギーは{0001}底面(c軸に垂直方向)の表面エネルギーの約1.5倍ほど高いことが知られている。本発明者は、このような表面エネルギーの相違から、表面エネルギーを下げるために、
JP2014240512A_000004t.gif方向の結晶成長速度が大きくなるために、c軸方向に垂直な方向に結晶が選択成長し、結果として六角板状(ヘキサゴナルプレート状)のZnナノ粒子が得られたのではないかと考えている。今回合成した亜鉛NHexs(亜鉛ナノヘキサゴナル)の場合、このような現象が起こり、亜鉛NHexsは角柱面に垂直な方向(c軸に直角の方向)へ優先的に成長し、ヘキサゴナルプレート状のものとなったと考えられる。また、このような成長の原理からは、キャッピング分子の存在下では、亜鉛NHexsの表面はさらに安定化され、さらに薄いプレート状の形態となることが促進されることが説明できる。
【実施例】
【0042】
[光学的性質]
図5に、非特許文献1(RSC Adv., 2012, 2, 2123)から引用した、亜鉛ヘキサゴナルプレートのバンド構造を示す説明図を示す。グラフの低エネルギー側(縦軸下側)の約1/3を占める連続した部分は3dバンドを表す。グラフ中の略M字型の曲線は、spバンドを表す。グラフの高エネルギー側(縦軸上側)の約1/3の部分にある横軸に平行な点線は、フェルミ準位を表す。
【実施例】
【0043】
近年、亜鉛サブミクロンヘキサゴナルプレートが、フォトルミネセンススペクトルにおいて312~700nmの範囲の波長で発光することが見いだされた(非特許文献1)。亜鉛ヘキサゴナルプレートに対する実験的及び計算的な結果から、そのサイズと形状がもたらす電子構造上の2つの特別な特徴が示唆されている: 第一に、3dバンドのフェルミ準位とそれより上の準位の間のエネルギーオフセット(EF-3d)がバルクの金属亜鉛のそれよりも小さいこと、第二に、spバンドそれ自体が、離散化していて、バンド内ギャップ(Eg(sp) ~ 2.7 eV)を図5で示されるようにM点付近で形成している。バルクのそれと比べて亜鉛サブミクロンプレートのEF-3dは相対的に小さいので、3d-spのバンド内遷移を経て励起された電子は(図5で左側の約1/4の範囲にある、3dバンドからspバンドに伸びている、3本の上向きの矢印参照)、基底状態へ緩和して、UVから青の範囲で発光する。一方で、バルクの金属亜鉛は可視光を発光しない。sp-spのバンド内遷移(図5で右側の約1/3の範囲にある、spバンドからspバンドへ伸びている、3本の上向きの矢印参照)によって励起した電子は、緑から赤の範囲の波長の光を緩和の際に発光する。一方で、バルクの金属亜鉛にはこのような発光も観察されない。
【実施例】
【0044】
[蛍光分光の結果]
図6は、亜鉛NHexsのフォトルミネセンス発光(370nmから550nmの範囲にある曲線)、及び励起(310nmから410nmの範囲にある曲線)のスペクトルを示す。さらに、酸化された亜鉛NHexsのスペクトル(370nmから550nmの範囲にある、横軸に略平行な点線)が記載されている。発光スペクトルに使用された励起波長は310nmであった。励起スペクトルに使用された発光波長は、436nmであった。図の右上にある差し込み図は、ヘキサン/トルエン 1:1(体積/体積)中への亜鉛NHexsの分散液(左)、ヘキサン/トルエン 1:1(体積/体積)中への酸化された亜鉛NHexsの分散液(中央)、ヘキサン/トルエン 1:1(体積/体積)そのもの(右)、を、容器中に入れて、UV照射しないもの(上段)及びUV照射したもの(下段)の写真である。差し込み図において、亜鉛NHexsの分散液にUV照射したもの(下段左側)のみに、蛍光発光が観察されている。一方、酸化された亜鉛NHexsの分散液にUV照射したもの(下段中央)には、蛍光発光は観察されない。
【実施例】
【0045】
図6に示される合成された亜鉛NHexsの励起と発光のスペクトルのうち、亜鉛NHexsの発光スペクトルにおいて、310nmの波長での励起によって、可視光の発光が390nm~550nmの範囲(図6の右側の曲線参照)に観察される。このピークは408nm、432nm及び456nmに位置し、それぞれ3.0eV、2.9eV及び2.7eVに対応する。薄い亜鉛サブミクロンプレート(直径520nm以上、厚さ140nm以上)について報告されているデータでは、発光ピークは、362nm、400nm及び458nmに位置し、これはそれぞれ3.4eV、3.1eV及び2.7eVに対応する。3.4eV及び3.1eVの発光ピークはいずれも、3d-spバンド内遷移によって励起された電子の緩和に帰属し、一方、2.7eVの発光は、sp-spバンド内遷移によって励起された電子の緩和に帰属する。本発明の場合のそれぞれのピークの起源と、亜鉛サブミクロンプレートについて報告のあるデータと比較した本発明のフォトルミネセンスピーク位置の相違とを説明するためには、以下の事実を考慮する必要がある: (i)亜鉛NHexs(例えば厚さ約20~40nm)が、亜鉛サブミクロンプレート(厚さ100nm以上)と比べて、さらに薄いこと、(ii)計算的及び実験的な結果が、金属亜鉛のサイズがバルクの程度からナノサイズの程度に減少すると、EF-3dが減少することを示していること。これらを考慮すると、本発明のフォトルミネセンススペクトルにおける発光ピークの起源には3つの可能性があると、本発明者は考えている。第一には、408nm(3.0eV)及び432nm(2.9eV)を中心とするピークは、3d-spバンド内遷移(図5で3dバンドからspバンドに伸びている上向きの矢印参照)を経て励起された電子の緩和に由来し、一方で、456nm(2.7eV)及び490nm(2.5eV)のピークがsp-sp分子内遷移(図5でspバンドからspバンドへ伸びている上向きの矢印参照)を経て励起された電子の緩和に起源をもつ可能性である。第二には、3.0eV、2.9eV及び2.7eVの3つの発光ピークが、亜鉛サブミクロンプレートと比較して小さな本発明のEF-3dによる3d-spバンド内遷移から、生じ、一方で、2.5eVにある最小のエネルギーピークが、sp-spバンド内遷移を経て励起された電子の緩和から、生じている可能性である。第三には、4つの全ての発光ピークが、亜鉛サブミクロンプレートと比較して小さな本発明のEF-3dによる3d-spバンド内遷移から、生じている可能性である。いずれにせよ、この亜鉛NHexsは、サブミクロンサイズの亜鉛プレートと比べて長波長側で蛍光発光を示しており、亜鉛サブミクロンプレートよりも実用的な用途において高度な利用可能性を備えている。
【実施例】
【0046】
[酸化の効果]
亜鉛NHexsの酸化耐性と、蛍光特性に対する酸化の効果を確認するために、亜鉛NHexsの表面に、二週間にわたって空気を曝露させて酸化した。これによって得られた亜鉛NHexsを、TEM、XPS及びXRD(詳細は、後述して説明する図10、図11、図12参照)によって分析した。すると、この酸化の処理の後で亜鉛NHexsの表面が部分的に酸化されていたことが判明した。このように酸化した亜鉛NHexsは検査した全範囲にわたって蛍光発光を全く示さなかった(図6の点線参照)。このことは、亜鉛NHexs表面の酸化が、表面状態を非発光性結合中心として作用するよう誘導していることを示していると本発明者は考えている。図6の挿入部分は、ヘキサン/トルエン 1/1(体積/体積)への亜鉛NHexs分散液(写真左)、ヘキサン/トルエン 1/1(体積/体積)への酸化処理した亜鉛NHexs分散液(写真中央)、ヘキサン/トルエン 1/1(体積/体積)溶液そのもの(写真右)を、室内光(上段)及びUV照射(下段)で撮影した写真である。亜鉛NHexsが、UV照射下では青色光を発光すること、一方で、酸化処理した亜鉛NHexsが発光しないこと、が明らかである。このフォトルミネセンス特性は興味深いものであり、新しい光学デバイスや用途を切り開くものである。
【実施例】
【0047】
[結果のまとめ]
上記のように、本発明者は、200~350nmの平均直径及び20~40nmの厚みを有する、純粋な亜鉛ヘキサゴン(NHexs)を化学合成する手法を開発した。この合成された亜鉛NHexsは、酸化に対して顕著な耐性がある。このことは、バルクの亜鉛が大気中で容易に酸化するという事実や、今回製造された材料が、相対的に大きな表面積を有しているという事実からすれば、驚くべきことである。この耐酸化性は、この亜鉛NHexsは、異方性NPs(ナノ粒子)のユニークな結晶表面特性と、特定の表面を保護するキャッピング分子から、生じているものと考えている。この亜鉛NHexsは、金属性及び半導体特性の両方を備えており、そのために、青色蛍光発光を呈する。この青色蛍光発光は、光学分野、及び/又は光電子工学分野などの応用に使用される潜在性がある。さらに合成条件を検討すれば、NPsのサイズ、形状、その他の特性に対する広汎な制御を行うことができると考えられる。特に、NPsの形態を制御することによって、蛍光の量子収率、蛍光寿命、亜鉛NHexsのサイズの均一性の改良をさらに改良できるであろう。
【実施例】
【0048】
[サイズ及び厚みの異なる亜鉛ナノヘキサゴンのTEM]
亜鉛ナノヘキサゴンの相対的なサイズ及び厚みは、反応温度、及び/又は亜鉛前駆体とキャッピングリガンド(オレイルアミン、OAM)の供給モル比を変えることによって、操作することができる。図7、図8及び図9のTEM画像は、それぞれ異なった反応条件下で得られた、粒子のサイズと形状の変化を示している。
【実施例】
【0049】
図7は、Zn:OAM = 1:4 の供給モル比で200℃で合成した、亜鉛ナノヘキサゴン(厚さ60nmで直径60~180nm以下)のTEM画像である。
【実施例】
【0050】
図8は、Zn:OAM = 1:2 の供給モル比で200℃で合成した、亜鉛ナノヘキサゴン(直径150~200nm以下)のTEM画像である。
【実施例】
【0051】
図9は、Zn:OAM = 1:20 の供給モル比で150℃で合成した、亜鉛ナノヘキサゴン(厚さ6nm以下で直径60nm以下)のTEM画像である。
【実施例】
【0052】
[シェラー式による結晶サイズの算出]
上記行ったシェラーの式による評価は、結晶サイズとXRDピークのブロード化に関するシェラー式:

d = Kλ/(βcosθ) (式1)

(ただし、d[nm]はナノ粒子の結晶部分の平均サイズ(結晶サイズ)、Kは形状因子(無次元)であり典型的な値は0.9(ただし、ナノ粒子の形状に依存する)、λ[nm]はX線波長、β[rad]は最大強度の半分でのピーク幅(FWHM)、θ[rad]はピーク位置(ブラッグ角)である。)
において、K=0.9、λ=0.15418nmを使用して、亜鉛ナノヘキサゴンの平均結晶サイズ(d)を算出して行った。
【実施例】
【0053】
[空気への曝露による亜鉛ナノヘキサゴンの部分酸化]
亜鉛ナノヘキサゴンを、大気中に二週間曝露させた。図10は、長時間、大気に曝露した後に、部分酸化されている亜鉛ナノヘキサゴンのTEM画像である。得られたTEM画像(図10)では、ナノヘキサゴンの表面上に小さな粒子が数個見いだされた。
【実施例】
【0054】
図11は、大気に曝露した後に部分酸化されている亜鉛ナノヘキサゴンの、Zn2p領域のXPSスペクトルである。1019.35eV及び1042.25eVのピークは金属亜鉛に帰属し、高結合エネルギーにある2つのピーク(1022.55eV及び1045.55eV)は、亜鉛酸化物に由来する。また、部分酸化された亜鉛ナノヘキサゴンのピークパラメータを、酸化されていない亜鉛ナノヘキサゴンと対比して、次の表1に示す。
【実施例】
【0055】
【表1】
JP2014240512A_000005t.gif
【実施例】
【0056】
図12は、大気に2週間曝露した、亜鉛ナノヘキサゴンのXRDパターンである。このピークは、ヘキサゴナル相亜鉛に帰属する(JCPDS No. 03-065-5973)。
【実施例】
【0057】
表面の部分酸化が、XPSスペクトル(図11)のZn2p領域で明確に観察されたが、XRDパターンでは、酸化物のピークは検出されなかった(図12)。これらの結果は、この亜鉛酸化物がアモルファスな構造を有しているか、あるいはピークが非常にブロード化するような非常に微小な結晶サイズを有していてXRDでは観察できないか、のいずれか又は両方を示している。この亜鉛ナノヘキサゴンの部分酸化は、上述したように、フォトルミネセンス発光を抑制するものとなっている。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、優れた蛍光発光特性を備えた、金属亜鉛ナノ粒子を提供する。本発明は、産業上有用な発明である。
図面
【図2】
0
【図3】
1
【図12】
2
【図1】
3
【図4】
4
【図5】
5
【図6】
6
【図7】
7
【図8】
8
【図9】
9
【図10】
10
【図11】
11