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明細書 :細胞凝集塊作製法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2014-236698 (P2014-236698A)
公開日 平成26年12月18日(2014.12.18)
発明の名称または考案の名称 細胞凝集塊作製法
国際特許分類 C12N   5/09        (2010.01)
C12N   5/071       (2010.01)
C12N   5/07        (2010.01)
C12N   1/00        (2006.01)
FI C12N 5/00 202U
C12N 5/00 202A
C12N 5/00 202Z
C12N 1/00 A
請求項の数または発明の数 7
出願形態 OL
全頁数 12
出願番号 特願2013-120946 (P2013-120946)
出願日 平成25年6月7日(2013.6.7)
発明者または考案者 【氏名】武井 孝行
【氏名】吉田 昌弘
【氏名】北園 純平
出願人 【識別番号】504258527
【氏名又は名称】国立大学法人 鹿児島大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100091096、【弁理士】、【氏名又は名称】平木 祐輔
【識別番号】100118773、【弁理士】、【氏名又は名称】藤田 節
【識別番号】100170221、【弁理士】、【氏名又は名称】小瀬村 暁子
審査請求 未請求
テーマコード 4B065
Fターム 4B065AA90X
4B065AC17
4B065BB40
4B065BC47
4B065CA60
要約 【課題】簡便な線状細胞凝集塊作製法の提供。
【解決手段】細胞を含む生体適合性ポリマー含有水溶液を中空部に内包した中空径150μm以下のアルギン酸ゲル中空ファイバーを作製し、その中空部で細胞を培養することを含む、線状細胞凝集塊の作製方法。
【選択図】なし
特許請求の範囲 【請求項1】
細胞を含む生体適合性ポリマー含有水溶液を中空部に内包した中空径150μm以下のアルギン酸ゲル中空ファイバーを作製し、その中空部で細胞を培養することを含む、線状細胞凝集塊の作製方法。
【請求項2】
生体適合性ポリマー含有水溶液がポリビニルアルコール含有水溶液である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
アルギン酸ゲルがアルギン酸カルシウムゲルである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
二価陽イオン含有水溶液中に、アルギン酸ナトリウム含有水溶液を外側に、細胞を含む生体適合性ポリマー含有水溶液を内側に二重円筒状に注入することによって、前記アルギン酸ゲル中空ファイバーを作製する、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
二価陽イオン含有水溶液が塩化カルシウム含有水溶液である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
細胞培養後にアルギン酸ゲルを溶解することをさらに含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか1項に記載の方法によって作製される、アルギン酸ゲル中空ファイバーの中空部に充填された線状細胞凝集塊。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、中空ファイバーを用いた線状細胞凝集塊作製法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ディッシュ等の培養容器を使用して細胞を培養すると、細胞は容器表面に接着、伸展し、単層で増殖する。しかし、そのような単層の細胞は生体内の細胞とは異なる挙動を示す場合がある。そこで、三次元培養と呼ばれる、細胞をより生体内に近い凝集塊の状態で培養する方法が知られている。従来、このような三次元培養法としては、旋回培養法やハンギングドロップ法が用いられてきた。旋回培養法は、細胞を培養する際に旋回運動させることで、浮遊する細胞同士を接触させ、次第に細胞凝集塊を形成させる方法である。ハンギングドロップ法は、平面支持体の下面に付着させた細胞懸濁液を水滴状に垂れ下がった状態で保持させ、その垂れ下がった溶液の最下部に細胞が自重で降下し自然集合することを利用した細胞凝集塊の作製方法である。しかし、これら従来の方法では、形成される細胞凝集塊のサイズを制御することは困難であった。細胞凝集塊のサイズが数百μm以上になると、その中心部の細胞には栄養素や酸素の供給が十分に行われなくなり、中心部に細胞壊死層が発生してしまうため、細胞凝集塊のサイズを制御することは重要である。
【0003】
近年、ヒドロゲルファイバーを利用した細胞凝集塊作製法が報告されている(非特許文献1)。この方法では、まず細胞を包括固定化したヒドロゲルファイバーを作製し、ファイバー表面を架橋剤で架橋し、その後ファイバー内部を液化して細胞を培養し、最後にファイバーを分解することによって、サイズを制御した線状細胞凝集塊が得られる。しかしこの方法は、細胞毒性の高い架橋剤を必要とすること、内部を液化したファイバーの強度が非常に低いこと、そして多くの工程が必要で煩雑であること等の問題があった。
【0004】
なお本発明者は、デキストラン水溶液とアルギン酸ナトリウム水溶液を塩化カルシウム水溶液中に注入することによる、アルギン酸ゲル中空ファイバーの作製を報告している(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【0005】

【非特許文献1】Nurazhani Abdul Raof et al., Biomaterials (2011) 32, p. 4498-4505
【非特許文献2】Takayuki Takei et al., Biochem. Eng. J. (2010) 49, p. 143-147
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、簡便な線状細胞凝集塊作製法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、アルギン酸ゲルからなる中空ファイバーの中空部において、生体適合性ポリマー含有水溶液中に懸濁した細胞を培養することによって、中空ファイバーの中空径と同じ直径の線状細胞凝集塊を簡便に作製できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下を包含する。
[1] 細胞を含む生体適合性ポリマー含有水溶液を中空部に内包した中空径150μm以下のアルギン酸ゲル中空ファイバーを作製し、その中空部で細胞を培養することを含む、線状細胞凝集塊の作製方法。
[2] 生体適合性ポリマー含有水溶液がポリビニルアルコール含有水溶液である、[1]に記載の方法。
[3] アルギン酸ゲルがアルギン酸カルシウムゲルである、[1]又は[2]に記載の方法。
[4] 二価陽イオン含有水溶液中に、アルギン酸ナトリウム含有水溶液を外側に、細胞を含む生体適合性ポリマー含有水溶液を内側に二重円筒状に注入することによって、前記アルギン酸ゲル中空ファイバーを作製する、[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5] 二価陽イオン含有水溶液が塩化カルシウム含有水溶液である、[4]に記載の方法。
[6] 細胞培養後にアルギン酸ゲルを溶解することをさらに含む、[1]~[5]のいずれかに記載の方法。
[7] [1]~[5]のいずれかに記載の方法によって作製される、アルギン酸ゲル中空ファイバーの中空部に充填された線状細胞凝集塊。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、線状細胞凝集塊を簡便に作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、PVA水溶液を中空部に内包したアルギン酸ゲル中空ファイバーの作製法を示す模式図である。ファイバー作製の様子を側方から見た断面を示している。符号はそれぞれ、1. 外筒、2. 内筒、3. 塩化カルシウム水溶液、4. PVA水溶液、5. アルギン酸ナトリウム水溶液を示す。
【図2】図2は、PVA水溶液を中空部に内包したアルギン酸ゲル中空ファイバーを示す写真である。
【図3】図3は、二重円筒管先端での水溶液の流速及び外筒内径がファイバーの外径に及ぼす影響を示すグラフである。
【図4】図4は、PVA流量比がファイバーの外径及び中空径に及ぼす影響を示すグラフである。
【図5】図5は、中空ゲルファイバー内での細胞凝集塊の形成を示す写真である。Aは培養0日目、Bは培養10日目の写真である。
【図6】図6は、線状細胞凝集塊の細胞培養用シャーレへの接着を示す写真である。Aは培養0日目、Bは培養1日目の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。

【0012】
本発明は、線状細胞凝集塊の作製方法に関する。本方法によれば、直径を制御した線状細胞凝集塊、特に、内部に酸素や栄養素を供給でき壊死細胞層が発生しない直径150μm以下の細い線状細胞凝集塊を簡便に作製することができる。具体的には、本方法は、細胞を含む生体適合性ポリマー含有水溶液を中空部に内包した中空径150μm以下のアルギン酸ゲル中空ファイバーを作製すること、及びその中空部で細胞を培養することを含む。

【0013】
本発明において線状細胞凝集塊とは、全体として線状の構造を有する複数の細胞の集合塊をいう。本発明において線状とは、直径に比較して長さが十分に長い構造をいい、直径に対する長さの比が2倍以上、例えば5倍以上又は10倍以上、好ましくは100倍以上の構造をいう。本発明において線状細胞凝集塊の直径は、150μm以下、特に10~150μmであることが好ましく、例えば20~120μm又は30~100μmであってよい。一方、線状細胞凝集塊の長さは特に限定されず、300μm以上、例えば500μm~1m、1mm~50cm又は3mm~10cmであってもよい。

【0014】
本発明における細胞は、作製される線状細胞凝集塊の使用目的に応じて適宜決定することができる。本発明における細胞は、足場非依存性増殖能を有する細胞(足場に接着しなくても増殖可能な細胞)であることが好ましい。足場非依存性増殖能を有する細胞としては、例えば、癌細胞が挙げられる。癌細胞としては、例えば、肝癌、胃癌、リンパ腫、扁平上皮癌、神経芽細胞腫、腎臓癌、子宮体癌、子宮頸癌、膵臓癌、大腸癌(結腸癌、盲腸癌又は直腸癌)等由来の細胞が挙げられるが、特に限定しない。本発明で用いる細胞は、動物細胞であることが好ましく、動物としては、霊長類や非霊長類を含む哺乳動物、鳥類、爬虫類、両生類、昆虫類等が挙げられる。動物は、好ましくはヒトを含む哺乳動物である。哺乳動物としては、例えば、ヒト、サル、ウシ、ブタ、ヒツジ、ウマ、ネズミ等が挙げられるが、特に限定しない。本発明における細胞の具体例としては、肝癌細胞株Hep G2、胃癌細胞HGC-27、結腸癌CACO-2等が挙げられる。

【0015】
本発明においてアルギン酸ゲルとは、アルギン酸の分子中のカルボン酸基等と多価金属イオンとがキレート構造を形成してゲル化したものをいう。好ましい実施形態では、アルギン酸ゲルは、アルギン酸の分子中のカルボン酸基等とカルシウムイオンとがキレート構造を形成してゲル化した、アルギン酸カルシウムゲルである。

【0016】
本発明におけるアルギン酸ゲル中空ファイバーは、アルギン酸ゲルを主成分とする、中空部を有するマイクロファイバーである。本発明において中空ファイバーの中空径(すなわち中空部の直径)及び長さは、作製しようとする線状細胞凝集塊の直径及び長さに応じて適宜決定することができる。中空ファイバーの中空径は、150μm以下、特に10~150μmであることが好ましく、例えば20~120μm又は30~100μmであってよい。中空ファイバーの長さは特に限定されず、300μm以上、例えば500μm~1m、1mm~50cm又は3mm~10cmであってもよい。中空ファイバーの外径は特に限定しないが、典型的には100~600μm、例えば200~500μmであってよい。中空ファイバーの外径は、ファイバーの強度を高くするため、外径に対する中空径の比(中空径/外径)が0.8以下であることが好ましい。

【0017】
本発明における中空ファイバーは、細胞を含む生体適合性ポリマー含有水溶液を中空部に内包する。本発明で使用できる生体適合性ポリマーとしては、細胞に対して刺激性や細胞傷害性等の悪影響を及ぼさないものであれば、細胞培養用材料として現に利用されているものを含む、当業者に公知のあらゆる天然又は合成のポリマーであってもよい。限定するものではないが、生体適合性ポリマーとしては、ポリビニルアルコール、ポリエチレングルコール、多糖類、例えばカルボキシセルロース等のセルロース誘導体及びデキストランが挙げられる。本発明で使用する生体適合性ポリマー含有水溶液は、ポリビニルアルコール含有水溶液であってもよい。

【0018】
本発明の方法では、アルギン酸ゲル中空ファイバーの中空部において、生体適合性ポリマー含有水溶液中の細胞を十分に培養することにより、中空ファイバーの中空径と同じ直径の線状細胞凝集塊を簡便に作製することができる。このため、本方法は、直径を制御した線状細胞凝集塊の作製に好適である。

【0019】
中空ファイバーの中空径は、一つのファイバー内で一定でなくてよく、途中で変化していてもよい。このようなファイバーを用いれば、部分的に直径が変化する線状細胞凝集塊を作製することができる。

【0020】
本発明において、細胞を含む生体適合性ポリマー含有水溶液を中空部に内包したアルギン酸ゲル中空ファイバーは、どのような方法によって作製してもよく、当業者に公知のヒドロゲル中空ファイバー作製法を利用して作製することができる。例えば、アルギン酸ゲル中空ファイバーを作製し、その後、細胞を含む生体適合性ポリマー含有水溶液を中空部に注入してもよく、又はアルギン酸ゲル中空ファイバーの作製と同時に、細胞を含む生体適合性ポリマー含有水溶液が中空部に取り込まれるようにしてもよい。

【0021】
好ましい一実施形態において、細胞を含む生体適合性ポリマー含有水溶液を中空部に内包したアルギン酸ゲル中空ファイバーは、二価陽イオン含有水溶液中に、アルギン酸ナトリウム含有水溶液を外側に、細胞を含む生体適合性ポリマー含有水溶液を内側に二重円筒状に注入することによって作製することができる。アルギン酸ナトリウム含有水溶液中のアルギン酸は、二価陽イオン含有水溶液中の二価陽イオンと接触すると、二価陽イオンを取り込み、水溶液がゲル化する。一方、生体適合性ポリマー含有水溶液は二価陽イオンに接触してもゲル化しない。これにより、生体適合性ポリマー含有水溶液の液流を取り巻くようにアルギン酸ゲルのファイバー(中空ファイバー)が形成される。この方法では、アルギン酸ゲル中空ファイバーを作製しながら、同時に、細胞を含む生体適合性ポリマー含有水溶液を中空部に配置させることができるため、操作が簡便であり効率的である。

【0022】
本実施形態と同様の方法で、生体適合性ポリマー含有水溶液の代わりに水のような低粘性の液体を使用すると、液流が乱流になりやすく、中空ファイバーをうまく形成することは困難である。しかし、生体適合性ポリマー含有水溶液は水より高い粘性を有するため、液流が乱流になることを抑制し、層流状態が保たれ、その結果、サイズを制御した中空ファイバーをうまく作製することができる。

【0023】
本実施形態において「二価陽イオン含有水溶液中に、アルギン酸ナトリウム含有水溶液を外側に、細胞を含む生体適合性ポリマー含有水溶液を内側に二重円筒状に注入する」とは、二価陽イオン含有水溶液中に、アルギン酸ナトリウム含有水溶液を外側とし、細胞を含む生体適合性ポリマー含有水溶液を内側とした二重円筒状の液流が二価陽イオン含有水溶液中で形成されるように、アルギン酸ナトリウム含有水溶液と、細胞を含む生体適合性ポリマー含有水溶液を二価陽イオン含有水溶液中に注入することを意味する。本発明において「二重円筒状」とは、所定の水溶液の液流をチューブ状に取り巻くように別の水溶液の液流が形成されることを意味し、厳密な二重円筒形を形成することのみを意味するわけではない。

【0024】
このような、二価陽イオン含有水溶液中への、アルギン酸ナトリウム含有水溶液及び細胞を含む生体適合性ポリマー含有水溶液の二重円筒状の注入は、例えば二重円筒管を内部に備えた容器を使用して行ってもよい。例えば、二重円筒管は、二重円筒管を構成する内側の円筒(内筒)としての両端が開口した管、例えば注射針、及び二重円筒管を構成する外側の円筒(外筒)としての両端が開口した管、例えばピペット先端部から構成されてもよい。内筒内径は200~600μm、例えば300~500μm又は450~500μmであってよく、外筒内径は200~1000μm、例えば240~910μmであってよい。内筒内径とは、内筒の両端のうち水溶液が出ていく方の先端の内径をいう。外筒内径とは、外筒の両端のうち水溶液が出ていく方の先端の内径をいう。二重円筒管を備えた容器は、例えば内径5~10mmの管の一端に前記内筒と外筒を取り付けたものであってよい。そのような容器において、外筒と内筒は完全に同軸であっても、又は同軸ではなくてもよい。外筒と内筒は、円柱状であってもよいが、円錐台状であることも好ましい。例えば、外筒は円錐台状、内筒は円柱状であることも好ましい。外筒からアルギン酸ナトリウム含有水溶液を、そして内筒から細胞を含む生体適合性ポリマー含有水溶液を、二重円筒管(好ましくは容器の底面に固定した二重円筒管)から、例えば(好ましくは上向きに)押し出すことにより、二重円筒管の外側の区画に収容された二価陽イオン含有水溶液中にそれらの水溶液を二重円筒状に注入することができる。

【0025】
上記のような二重円筒管を用いた実施形態において、注入する水溶液の流速、アルギン酸ナトリウム含有水溶液を注入する円筒(外筒)の内径、及び生体適合性ポリマー流量比(生体適合性ポリマー含有水溶液量/(アルギン酸ナトリウム含有水溶液量+生体適合性ポリマー含有水溶液量))、例えばポリビニルアルコール(PVA)流量比(PVA含有水溶液流量/(アルギン酸ナトリウム含有水溶液流量+PVA含有水溶液流量))を変化させることによって、作製される中空ファイバーの外径及び中空径を制御することができる。

【0026】
具体的には、中空ファイバーの外径は、注入する水溶液(すなわちアルギン酸ナトリウム含有水溶液及び生体適合性ポリマー含有水溶液)の流速及び外筒内径によって制御できる。注入する水溶液の流速を大きくすると中空ファイバーの外径は大きくなり、前記流速を小さくすると中空ファイバーの外径は小さくなる。外筒内径を大きくすると中空ファイバーの外径は大きくなり、外筒内径を小さくすると中空ファイバーの外径は小さくなる。一方、中空ファイバーの中空径は、生体適合性ポリマー流量比によって制御できる。生体適合性ポリマー流量比を大きくすると中空ファイバーの中空径は大きくなり、生体適合性ポリマー流量比を小さくすると中空ファイバーの中空径は小さくなる。また、生体適合性ポリマー流量比が一定の場合、外径に対する中空径の比は一定である。

【0027】
本実施形態において用いるアルギン酸ナトリウム含有水溶液、生体適合性ポリマー含有水溶液及び二価陽イオン含有水溶液は、それぞれ、アルギン酸ナトリウム、生体適合性ポリマー及び二価陽イオンのみを含有する水溶液に限定されず、アルギン酸ナトリウム、生体適合性ポリマー及び二価陽イオンに加えて他の成分をさらに含有する水溶液であってもよい。例えば、緩衝液にアルギン酸ナトリウム、生体適合性ポリマー及び二価陽イオン(典型的には二価陽イオン塩)のいずれかを溶解した水溶液等も含む。緩衝液としては、カルシウム及びマグネシウムを含まないリン酸緩衝生理食塩水(PBS(-)、pH 7.4)、HBSS等が挙げられるが、特に限定しない。本発明におけるアルギン酸ナトリウム含有水溶液及び生体適合性ポリマー含有水溶液は、カルシウム及びマグネシウム等の多価陽イオンを含まないことが好ましい。アルギン酸ナトリウム含有水溶液中のアルギン酸が、二価陽イオン含有水溶液と接触する前にゲル化することを防止するためである。

【0028】
本実施形態において用いるアルギン酸ナトリウム含有水溶液のアルギン酸ナトリウム濃度は、0.1~10%(w/v)、好ましくは0.5~3%(w/v)、例えば1%(w/v)であってよい。生体適合性ポリマー含有水溶液の生体適合性ポリマー濃度は、1~20%(w/v)、好ましくは5~15%(w/v)、例えば10%(w/v)であってよい。二価陽イオン含有水溶液の二価陽イオン濃度は、10~500mM、好ましくは50~200mM、例えば100mMであってよい。

【0029】
本実施形態において、二価陽イオン含有水溶液中の二価陽イオンは、例えば、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、バリウムイオン又はストロンチウムイオンであってよい。二価陽イオン含有水溶液はカルシウムイオン含有水溶液であることが好ましい。カルシウムイオン含有水溶液としては、カルシウム塩含有水溶液、例えば、塩化カルシウム含有水溶液、リン酸カルシウム含有水溶液、炭酸カルシウム含有水溶液及び硫酸カルシウム含有水溶液が挙げられるが、塩化カルシウム含有水溶液が好ましい。

【0030】
本発明の方法では、細胞を含む生体適合性ポリマー含有水溶液としては、好ましくは、細胞を懸濁した生体適合性ポリマー含有水溶液を用いる。生体適合性ポリマー含有水溶液中の細胞の密度は、細胞に応じて適宜調整し得るが、典型的には1.0×106~1.0×108細胞/ml、例えば1.0×107細胞/mlであってよい。

【0031】
作製した中空ファイバーは、ローラー等を用いて巻き取り回収してもよい。特に、中空ファイバーを作製しながら、同時に巻き取り回収する操作をすることで、ファイバーを連続的に調製することができ、長いファイバーの作製が可能となる。

【0032】
作製した中空ファイバーを培地中に配置した後、ファイバーの中空部において細胞を培養することができる。培地としては、使用する細胞の培養に適した培地を適宜選択することができるが、例えば10%(v/v)牛胎児血清を添加したダルベッコ変法イーグル培地を用いてよい。

【0033】
中空ファイバーの中空部で細胞を培養する期間は、細胞の増殖能、作製しようとする線状細胞凝集塊の直径や長さ等によって適宜変更することができる。例えば、培養期間は5~15日間とし得る。培養期間は、細胞の増殖具合を顕微鏡で観察することによって決定することができる。細胞が中空ファイバーの中空部に隙間なく増殖している様子が見られたら、培養を終了することが好ましい。

【0034】
本発明に係る線状細胞凝集塊の作製方法は、細胞培養後にアルギン酸ゲルを溶解することをさらに含んでもよい。溶解は、クエン酸(例えばクエン酸三ナトリウム)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、グリコールエーテルジアミン四酢酸(EGTA)等の金属イオンキレート剤、又はアルギン酸リアーゼ等のアルギン酸加水分解酵素を使用して、その水溶液中にファイバーを浸して行うことができる。アルギン酸ゲルが溶解した後の細胞凝集塊は、遠心により回収してよい。

【0035】
本発明に係る線状細胞凝集塊の作製方法は、細胞毒性の高い架橋剤が不要であり、細胞凝集塊の直径のより正確な制御が可能であるという利点がある。本方法における中空ファイバーは、強度が高く頑丈であり、またファイバー作製過程は、細胞の生存率に対して悪影響を及ぼさないという利点もある。

【0036】
本発明はまた、細胞を含む生体適合性ポリマー含有水溶液を中空部に内包した中空径150μm以下のアルギン酸ゲル中空ファイバーを作製し、その中空部で細胞を培養することによって作製される、アルギン酸ゲル中空ファイバーの中空部に充填された線状細胞凝集塊も包含する。このように中空ファイバーの中空部に線状細胞凝集塊が充填されている形態は、強度が高いため、流通に適する。この形態の線状細胞凝集塊は、使用者が必要に応じてアルギン酸ゲルを溶解して使用することができる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0038】
[実施例1]
(中空ゲルファイバーの外径及び中空径制御)
アルギン酸ナトリウム(株式会社キミカ)を精製水に1%(w/v)濃度となるように溶解してアルギン酸ナトリウム水溶液を調製した。ポリビニルアルコール(PVA、完全けん化型、重合度:400~600、和光純薬工業株式会社)を精製水に10%(w/v)濃度となるように溶解してPVA水溶液を調製した。100 mMの塩化カルシウム水溶液を入れたガラス管の底に固定した二重円筒管(内筒としてのステンレス鋼製の注射針及び外筒としてのプラスチックピペット先端部からなる)を用いて(図1)、アルギン酸ナトリウム水溶液の入った注射器を二重円筒管の外筒に、PVA水溶液の入った注射器を二重円筒管の内筒に、それぞれシリコンチューブとステンパイプを用いてつないだ。その後、シリンジポンプを用いて注射器から二重円筒管を通してアルギン酸ナトリウム水溶液とPVA水溶液を100 mMの塩化カルシウム水溶液中に上方向に押し出した(図1)。押し出されたアルギン酸ナトリウム水溶液は、その中に溶解しているアルギン酸が、周囲の塩化カルシウム水溶液中のカルシウムイオンを取り込むことによってゲル化し、その結果、PVA水溶液を中空部に内包する、アルギン酸ゲルからなる中空ゲルファイバーが作製された(図2)。作製された中空ゲルファイバーはローラーで巻き取り回収した。
【実施例】
【0039】
この中空ファイバーの作製においては、PVA流量比(PVA水溶液流量/(アルギン酸ナトリウム水溶液流量+PVA水溶液流量))を一定に保ったまま、二重円筒管から押し出す各水溶液の流速及び外筒内径を変化させることで、二重円筒管先端での水溶液の流速及び外筒内径が中空ゲルファイバーの中空径及び外径に及ぼす影響を評価した。また、二重円筒管先端での水溶液の流速(17.9 cm/s)及び二重円筒管先端内径(外筒内径)(910μm)を固定しPVA流量比のみを変化させることで、PVA流量比がファイバーの中空径及び外径に及ぼす影響を評価した。詳細な実験条件を表1に示す。なお、二重円筒管先端での水溶液の流速は、アルギン酸ナトリウム水溶液及びPVA水溶液の両者の流速に等しい。
【実施例】
【0040】
【表1】
JP2014236698A_000002t.gif
【実施例】
【0041】
結果を図3及び図4に示す。二重円筒管先端での水溶液の流速及び二重円筒管の先端内径(外筒内径)を変化させたところ、外筒内径が同じ場合、水溶液の流速が大きいほどファイバーの外径は大きくなる傾向が見られ、水溶液の流速が同じ場合、外筒内径が大きいほどファイバーの外径は大きくなる傾向が見られた(図3)。また、PVA流量比を一定に保ったまま、二重円筒管先端での水溶液の流速及び二重円筒管の先端内径(外筒内径)を変化させると、外径に対する中空径の比は保たれたままであった。以上より、二重円筒管先端での水溶液の流速及び二重円筒管の先端内径(外筒内径)を変化させることで、ファイバーの外径を制御することができた。
【実施例】
【0042】
次に、二重円筒管先端での水溶液の流速及び二重円筒管先端内径(外筒内径)を固定しPVA流量比のみを変化させたところ、ファイバーの外径は変化しなかったが、中空径はPVA流量比が大きくなるほど大きくなる傾向が見られた(図4)。以上より、PVA流量比を変化させることで、ファイバーの中空径を制御することができた。また、例えば二重円筒管先端での水溶液の流速17.9 cm/s、二重円筒管先端内径(外筒内径)910μm及びPVA流量比0.01とした場合に中空径104±13μmの中空ゲルファイバーが作製できたことから示されるように(図4)、上記のようにファイバー作製条件を変化させることで、150μm以下の中空径をもつ中空ゲルファイバーを作製することができた。
【実施例】
【0043】
[実施例2]
(ファイバー作製操作による細胞障害性の評価)
アルギン酸ナトリウム(株式会社キミカ)をカルシウム及びマグネシウムを含まないリン酸緩衝生理食塩水(PBS(-)、pH 7.4)に1%(w/v)濃度となるように溶解してアルギン酸ナトリウム含有水溶液を調製した。PVA(完全けん化型、重合度:400~600、和光純薬工業株式会社)をPBS(-)に10%(w/v)濃度となるように溶解してPVA含有水溶液を調製した。カルシウム及びマグネシウムを含まないPBS(-)を使用したのは、この段階でアルギン酸がゲル化しないようにするためである。PVA含有水溶液には、ヒト肝癌由来細胞株であるHep G2細胞を1.0×107細胞/mlの密度になるように懸濁した。100 mMの塩化カルシウム含有水溶液(pH 7.4)を入れたガラス管の底に固定した二重円筒管(内筒としてのステンレス鋼製の注射針及び外筒としてのプラスチックピペット先端部からなる)を用いて(図1)、ルギン酸ナトリウム含有水溶液の入った注射器をその二重円筒管の外筒に、PVA含有水溶液の入った注射器をその二重円筒管の内筒に、それぞれシリコンチューブとステンパイプを用いてつないだ。その後、シリンジポンプを用いて注射器から二重円筒管を通してアルギン酸ナトリウム含有水溶液とPVA含有水溶液を100 mMの塩化カルシウム含有水溶液(pH 7.4)中に上方向に押し出すことで、細胞を含むPVA含有水溶液を中空部に内包する、アルギン酸ゲルからなる中空ゲルファイバー(動物細胞包括中空ゲルファイバー)を作製した。作製した中空ゲルファイバーはローラーで巻き取り回収した。
【実施例】
【0044】
次に、動物細胞を中空ゲルファイバーに包括する過程で細胞が障害を受けるかどうか評価した。まず、作製した動物細胞包括中空ゲルファイバーをクエン酸三ナトリウム水溶液(pH7.4)に浸しゲル部分を溶解させた後、遠心分離を行い、細胞を回収した。トリパンブルー色素排除法により、回収した細胞の生存率を測定した。その生存率を用いて「ファイバー作製操作により障害を受けない細胞の割合」(=包括後の細胞の生存率×100/包括前の細胞の生存率)を計算した。その結果、「ファイバー作製操作により障害を受けない細胞の割合」は97%であった。このことから動物細胞包括中空ゲルファイバー作製工程の細胞への影響はほとんどないと考えられた。
【実施例】
【0045】
[実施例3]
(中空ゲルファイバー内に包括された動物細胞の培養)
中空ゲルファイバーの中空部でHep G2細胞が増殖し、中空径と同じ径の細胞凝集塊を形成可能であるか検討するために、実施例2で作製した動物細胞包括中空ファイバーを、10%(v/v)牛胎児血清を添加したダルベッコ変法イーグル培地に移して細胞を培養した。動物細胞包括中空ゲルファイバーの培養0日目と10日目の観察写真を図5に示す。培養時間が経過するにしたがって、中空部分で細胞が増殖していることが確認でき、培養10日後には、中空径と同じ径の細胞凝集塊を形成することができた。細胞凝集塊の長さは、5cm程度であった。
【実施例】
【0046】
次に、培養後クエン酸三ナトリウム水溶液(pH7.4)を用いてファイバーのゲル部分を溶かし、細胞凝集塊を回収し再度培養を行った。細胞凝集塊の培養の経過観察結果を図6に示す。形成した細胞凝集塊は培養後1日目には細胞培養用シャーレに接着することが確認できた。このことから、本方法によって得られた線状細胞凝集塊は、その後も培養可能であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の方法により作製された細胞凝集塊は、創薬スクリーニングや細胞間相互作用の解明等に用いることができる。また、実験動物の代替として利用することができる。
【符号の説明】
【0048】
1 外筒
2 内筒
3 塩化カルシウム水溶液
4 PVA水溶液
5 アルギン酸ナトリウム水溶液
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5