TOP > 国内特許検索 > 多剤感受性酵母 > 明細書

明細書 :多剤感受性酵母

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2015-015939 (P2015-015939A)
公開日 平成27年1月29日(2015.1.29)
発明の名称または考案の名称 多剤感受性酵母
国際特許分類 C12N   1/19        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
C12Q   1/02        (2006.01)
G01N  33/50        (2006.01)
G01N  33/15        (2006.01)
C12N   9/00        (2006.01)
FI C12N 1/19 ZNA
C12N 15/00 A
C12Q 1/02
G01N 33/50 X
G01N 33/15 Z
C12N 9/00
請求項の数または発明の数 13
出願形態 OL
全頁数 27
出願番号 特願2013-147069 (P2013-147069)
出願日 平成25年7月12日(2013.7.12)
発明者または考案者 【氏名】臼井 健郎
【氏名】知念 拓実
出願人 【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100092783、【弁理士】、【氏名又は名称】小林 浩
【識別番号】100120134、【弁理士】、【氏名又は名称】大森 規雄
【識別番号】100153693、【弁理士】、【氏名又は名称】岩田 耕一
【識別番号】100104282、【弁理士】、【氏名又は名称】鈴木 康仁
審査請求 未請求
テーマコード 2G045
4B024
4B050
4B063
4B065
Fターム 2G045AA40
2G045BA13
2G045BB20
2G045CB21
2G045DA13
2G045DA14
2G045DA36
2G045FB01
4B024AA11
4B024CA01
4B024CA09
4B024CA11
4B024CA20
4B024DA06
4B024DA12
4B024EA04
4B024GA11
4B024HA01
4B024HA09
4B024HA11
4B050CC03
4B050DD11
4B050LL01
4B050LL03
4B063QA01
4B063QA06
4B063QA18
4B063QQ17
4B063QR68
4B063QR76
4B063QX01
4B065AA26X
4B065AA72X
4B065AA72Y
4B065AB01
4B065AC20
4B065BA01
4B065CA46
要約 【課題】薬剤スクリーニング及び遺伝学的標的分子探索等に有用な、より多くの薬剤に対して感受性を示す多剤感受性酵母を提供する。
【解決手段】本発明に係る形質転換出芽酵母は、(i)少なくともPDR3遺伝子、PDR8遺伝子、PDR1遺伝子、YRR1遺伝子、SNQ2遺伝子、PDR5遺伝子、PDR10遺伝子、YOR1遺伝子、PDR15遺伝子、PDR11遺伝子、PDR12遺伝子及びAUS1遺伝子の発現機能を喪失させ、(ii) RME1遺伝子中の開始コドン(ATG)より上流に向けて第308番目の塩基と第309番目の塩基との間にアデニン(A)を挿入し、(iii)ERG6遺伝子をコンディショナルに発現可能としたものであることを特徴とする。
【選択図】なし
特許請求の範囲 【請求項1】
(i)少なくともPDR3遺伝子、PDR8遺伝子、PDR1遺伝子、YRR1遺伝子、SNQ2遺伝子、PDR5遺伝子、PDR10遺伝子、YOR1遺伝子、PDR15遺伝子、PDR11遺伝子、PDR12遺伝子及びAUS1遺伝子の発現機能を喪失させ、
(ii)RME1遺伝子中の開始コドン(ATG)より上流に向けて第308番目の塩基と第309番目の塩基との間にアデニン(A)を挿入し、
(iii)ERG6遺伝子をコンディショナルに発現可能としたものである、
形質転換出芽酵母。
【請求項2】
コンディショナルに活性化され得るプロモーターをERG6遺伝子の上流に導入したものである、請求項1記載の酵母。
【請求項3】
ERG6遺伝子をガラクトースの存在下で発現可能としたものである、請求項1又は2記載の酵母。
【請求項4】
ERG6遺伝子の上流にGal1プロモーターが導入されたものである、請求項1~3のいずれか1項に記載の酵母。
【請求項5】
出芽酵母がサッカロミセス・セレビシエである、請求項1~4のいずれか1項に記載の酵母。
【請求項6】
形質転換に用いる出芽酵母が、BY4741株又はBY4742株である、請求項1~5のいずれか1項に記載の酵母。
【請求項7】
(i)少なくともPDR3遺伝子、PDR8遺伝子、PDR1遺伝子、YRR1遺伝子、SNQ2遺伝子、PDR5遺伝子、PDR10遺伝子、YOR1遺伝子、PDR15遺伝子、PDR11遺伝子、PDR12遺伝子及びAUS1遺伝子の発現機能を喪失させる工程、
(ii) RME1遺伝子中の開始コドン(ATG)より上流に向けて第308番目の塩基と第309番目の塩基との間にアデニン(A)を挿入する工程、
(iii)ERG6遺伝子をコンディショナルに発現可能とする工程を含む、
形質転換出芽酵母の作製方法。
【請求項8】
前記(iii)の工程が、コンディショナルに活性化され得るプロモーターをERG6遺伝子の上流に導入する工程である、請求項7記載の方法。
【請求項9】
出芽酵母がサッカロミセス・セレビシエである、請求項7又は8記載の方法。
【請求項10】
形質転換に用いる出芽酵母が、BY4741株又はBY4742株である、請求項7~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
請求項1~6のいずれか1項に記載の酵母に所望の薬剤を接触させ、遺伝学的解析を行うことにより、当該薬剤の標的分子の同定及び/又は作用機構の解析をする方法。
【請求項12】
請求項1~6のいずれか1項に記載の酵母に候補物質を接触させ、当該酵母に対する効果を評価することにより、当該酵母に所望の表現型を誘導する物質をスクリーニングする方法。
【請求項13】
請求項1~6のいずれか1項に記載の酵母に所望の薬剤と候補物質とを接触させ、当該出芽酵母に対する当該薬剤の効果を評価することにより、当該の効果を亢進又は抑制する物質をスクリーニングする方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、薬剤スクリーニング及び遺伝学的標的分子探索に有用な、多剤感受性酵母に関する。
【背景技術】
【0002】
出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)は真核生物のモデルであり、ケミカルバイオロジー分野においても化合物スクリーニングや標的分子の同定、作用機構解析等によく用いられている。
標的分子の同定研究では、プローブ化化合物を用いた物理的相互作用を指標にして標的分子 (結合分子) の同定がよく行われる。しかしながらプローブ化化合物と標的分子との親和性・特異性の高さ、標的分子の存在量などの要因が、その成功の可否を規定しており、成功率は必ずしも高くない(非特許文献1)。そのため物理的相互作用のアプローチとは別の方法が必要となる。
その一つの方法に酵母などのモデル生物を用いた遺伝学的なアプローチがある。このアプローチは標的分子の薬剤結合部位に変異が入ると、優性耐性変異を示すことを利用した標的分子同定法であり、プローブ化化合物を用いた方法で問題となる標的分子との親和性・特異性や標的分子の存在量は問題とならない。
【0003】
また、この手法は免疫抑制剤rapamycinの標的分子TORを同定した手法でもあり(非特許文献2)、有効性は高い。しかしながら、一般に酵母は動物細胞と比較して高い薬剤耐性を示すという問題がある。
このような薬剤耐性は貴重な薬剤の使用量を増大させるのみならず、解析を行う上で大きな障害となる。
【先行技術文献】
【0004】

【非特許文献1】上杉志成, 「ケミカルゲノミクスにおける標的タンパク質同定」, ケミカルバイオロジー・ケミカルゲノミクス (半田宏編・シュプリンガー・フェアラーク東京出版), 77-90 (2005).
【非特許文献2】Heitman J, Movva NR and Hall MN, Targets for cell cycle arrest by the immunosuppressant rapamycin in yeast, Science, 253, 905-909 (1991).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような状況下において、薬剤スクリーニング及び遺伝学的標的分子探索等に有用な、より多くの薬剤に対して感受性を示す「多剤感受性酵母」の開発が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記状況を考慮してなされたもので、以下に示す、形質転換出芽酵母等を提供するものである。
【0007】
(1)(i)少なくともPDR3遺伝子、PDR8遺伝子、PDR1遺伝子、YRR1遺伝子、SNQ2遺伝子、PDR5遺伝子、PDR10遺伝子、YOR1遺伝子、PDR15遺伝子、PDR11遺伝子、PDR12遺伝子及びAUS1遺伝子の発現機能を喪失させ、
(ii)RME1遺伝子中の開始コドン(ATG)より上流に向けて第308番目の塩基と第309番目の塩基との間にアデニン(A)を挿入し、
(iii)ERG6遺伝子をコンディショナルに発現可能としたものである、
形質転換出芽酵母。
【0008】
上記(1)の形質転換出芽酵母において、上記(iii)のERG6遺伝子をコンディショナルに発現可能としたものとしては、例えば、コンディショナルに活性化され得るプロモーターをERG6遺伝子の上流に導入したものが挙げられる。当該プロモーターとしては、例えば、Gal1プロモーターが挙げられ、その場合、上記(1)の形質転換出芽酵母は、ERG6遺伝子をガラクトースの存在下で発現可能としたものとなる。
上記(1)の形質転換出芽酵母において、宿主細胞として用いる出芽酵母は、例えば、サッカロミセス・セレビシエが挙げられ、具体的には、例えば、BY4741株及びBY4742株が挙げられる。
【0009】
(2)(i)少なくともPDR3遺伝子、PDR8遺伝子、PDR1遺伝子、YRR1遺伝子、SNQ2遺伝子、PDR5遺伝子、PDR10遺伝子、YOR1遺伝子、PDR15遺伝子、PDR11遺伝子、PDR12遺伝子及びAUS1遺伝子の発現機能を喪失させる工程、
(ii) RME1遺伝子中の開始コドン(ATG)より上流に向けて第308番目の塩基と第309番目の塩基との間にアデニン(A)を挿入する工程、
(iii)ERG6遺伝子をコンディショナルに発現可能とする工程を含む、
形質転換出芽酵母の作製方法。
【0010】
上記(2)の作製方法において、前記(iii)の工程は、例えば、コンディショナルに活性化され得るプロモーターをERG6遺伝子の上流に導入する工程が挙げられる。
上記(2)の作製方法において、宿主細胞として用いる出芽酵母は、例えば、サッカロミセス・セレビシエが挙げられ、具体的には、例えば、BY4741株及びBY4742株が挙げられる。
【0011】
(3)上記(1)の形質転換出芽酵母に所望の薬剤を接触させ、遺伝学的解析を行うことにより、当該薬剤の標的分子の同定及び/又は作用機構の解析をする方法。
(4)上記(1)の形質転換出芽酵母に候補物質を接触させ、当該酵母に対する効果を評価することにより、当該酵母に所望の表現型を誘導する物質をスクリーニングする方法。
(5)上記(1)の形質転換出芽酵母に所望の薬剤と候補物質とを接触させ、当該出芽酵母に対する当該薬剤の効果を評価することにより、当該の効果を亢進又は抑制する物質をスクリーニングする方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、より多種多様な薬剤に対して感受性を示す一方で、形質転換(遺伝子導入)、接合及び胞子形成といった遺伝学的解析の効率低下が抑制された、多剤感受性の形質転換出芽酵母を提供することができる。
当該出芽酵母は、例えば、薬剤の標的分子の同定方法、薬剤の作用機構の解析方法、薬剤効果を亢進又は抑制する物質のスクリーニング方法等に用いることができ、極めて有用なものである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1(A)は、各々の組換え株(形質転換株)のコンストラクト(プライマーの結合部位も含む)を示す概略図であり、図1(B)は、作製した12geneΔ0HSR-iERG6株のコロニーダイレクトPCRの結果を示す図である。
【図2】YPD培養条件下(グルコース存在下)又はガラクトース存在下における各々の組換え株(形質転換株)の遺伝子導入効率(形質転換効率)の算出結果を示すグラフである。
【図3】グルコース存在下における各々の組換え株(形質転換株)の接合効率の算出結果を示すグラフである。

【0014】
【図4】グルコース存在下又はガラクトース存在下における各々の組換え株(形質転換株)の胞子形成効率の算出結果を示すグラフである。
【図5】YPDプレート (グルコース存在下)上での、各々の組換え株(形質転換株)の薬剤感受性の結果を示す図である。1~6は各薬剤を示し、1:DMSO(コントロール)、2:ローダミン6G 1.5nmol、3:ラトランキュリンA 3.5 pmol、4:ハイグロマイシンB 50nmol、5:フルフェナジン 15 nmol
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施することができる。
なお、本明細書において引用された全ての刊行物、例えば先行技術文献、及び公開公報、特許公報その他の特許文献は、参照として本明細書に組み込まれる。

【0016】

1.本発明の概要
多くの薬剤に対し同時に耐性を付与する非特異的薬剤耐性の要因として、「薬剤排出能」と「薬剤透過性」が挙げられる。
薬剤排出能には、細胞膜上に存在する薬剤排出ポンプとその転写因子が、薬剤透過性障壁には、細胞膜や細胞壁の脂質であるエルゴステロールが関わっている。そのため、多剤超感受性酵母として薬剤排出ポンプの転写因子PDR1、PDR3、及びエルゴステロール合成酵素ERG6を破壊した三重遺伝子破壊株がよく用いられている(Simon JA and Bedalov A, Yeast as a model system for anticancer drug discovery, Nat. Rev. Cancer, 4, 481-492 (2004).)。この株は薬剤感受性が高く、薬剤探索によく用いられているものの、エルゴステロール合成遺伝子の破壊により形質転換能や胞子形成能が低下している。遺伝学的に薬剤標的分子の同定を行うには、高い形質転換能、接合能、胞子形成能が必要なため、三重破壊株は標的分子同定に用いることができない。

【0017】
そこで、まず本発明者は、遺伝学解析に必要な形質転換能や、接合能、胞子形成能を維持しつつ、高い多剤感受性を示す株の作製を行った。エルゴステロール合成系はそのままにし、細胞膜上の薬剤排出に関わる8種のABC transporterの遺伝子と、その転写因子4種の遺伝子との、合計12種の遺伝子を破壊し、さらに胞子形成を高めるRME1 (ins-308A)変異を導入した、12geneΔ0HSR株を作製した(Chinen T, Ota Y, Nagumo Y, Masumoto H and Usui T, Construction of multidrug sensitive yeast with high sporulaton efficiency, Biosci. Biotechnol. Biochem., 75, 1588-1593 (2011).)。12geneΔ0HSR株は、親株と同程度の増殖速度、遺伝子導入効率、接合効率、胞子効率を示し、より多くの薬剤に対して感受性を示すものであった。しかしながら、その一方で、感受性を示す薬剤スペクトルがerg6破壊株とは異なっており、erg6破壊株においては感受性を示すがERG6未破壊株においては十分な感受性を示さない化合物も多く存在した。したがって、薬剤排出系と細胞膜障壁とは異なった薬剤群に耐性を付与していることが示唆された。以上のことから、12geneΔ0HSR株においてERG6遺伝子を破壊することでさらに多くの薬剤に対して感受性を示す株を作製することが可能であると考えられる。しかしながら、ERG6遺伝子の破壊により、遺伝子導入・接合・胞子形成の効率低下が生じるため、酵母の大きな利点である操作性を損なってしまうという問題があった。

【0018】
そこで、本発明者は、上記問題を解決するべく鋭意検討及び種々の実験を行い、その結果、培養条件依存的にERG6遺伝子を発現できるコンディショナル発現系を12geneΔHSR株に導入し、薬剤感受性を検討する際にはERG6タンパク質を発現せず、遺伝子導入・接合・胞子形成といった遺伝学的解析が必要な場合にはERG6タンパク質を発現し得る、12geneΔHSR-iERG6株を作製し、これを有用な「多剤感受性酵母」として見出した。

【0019】

2.形質転換出芽酵母
本発明の形質転換出芽酵母は、下記(i)~(iii)の遺伝的特徴を有するものである。
(i)少なくともPDR3遺伝子、PDR8遺伝子、PDR1遺伝子、YRR1遺伝子、SNQ2遺伝子、PDR5遺伝子、PDR10遺伝子、YOR1遺伝子、PDR15遺伝子、PDR11遺伝子、PDR12遺伝子及びAUS1遺伝子の12種の遺伝子の発現機能を喪失させたもの。
(ii) RME1遺伝子中の開始コドン(ATG)より上流に向けて第308番目の塩基と第309番目の塩基との間にアデニン(A)を挿入したもの。
(iii)ERG6遺伝子をコンディショナルに発現可能としたもの(すなわち、ERG6遺伝子を特定の条件下である場合に発現可能としたのもの)。

【0020】
本発明において、形質転換に用いる出芽酵母は、限定はされないが、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、クリベロマイセス・ラクティス(Kluyveromyces lactis)及びカンジダ・アルビカンス(Candida albicans)等が挙げられるが、一般的には、サッカロミセス・セレビシエが好ましい。サッカロミセス・セレビシエとしては、より具体的には、BY4741株、BY4742株、NBRC1951株、NBRC1952株、NBRC1953株、NBRC1954株、X2180-1A株(ATCC26786)、CB11株(Berkley Stock Center)、W303-1A株(BY4848)、MT8-1株(BY2685)、NBRC1440株、NBRC1445株、YPH499株、YPH500株、RAY3A株等が挙げられ、なかでもサッカロミセス・セレビシエBY4741株及びBY4742株が好ましい。BY4741株は、「MATa his3D0 leu2D0 met15D0 ura3D0」の遺伝的特徴を有する野生型株であり、BY4742株は、「MATa his3D0 leu2D0 met15D0 ura3D0」の遺伝的特徴を有する野生型株である。

【0021】
上記(i)の遺伝的特徴は、前述のとおり、出芽酵母における少なくとも前記特定の12種の遺伝子について、その遺伝子の発現機能を喪失させたというものである。
ここで「遺伝子の発現機能を喪失させた」とは、当該12種の遺伝子から本来発現されるべき生物学的機能を有するタンパク質(以下、対象タンパク質)が発現されないことを意味する。このような状態の例としては、対象タンパク質遺伝子の発現産物が全く生成されない状態(要するに、遺伝子欠失の状態など)だけでなく、当該遺伝子の発現産物(例えば、hnRNA、mRNA又はタンパク質)は発現されるが、それら発現産物が本来の正常な機能を有さない状態(要するに、不活性可された状態など)が挙げられる。このような対象タンパク質遺伝子の機能喪失は、対象タンパク質遺伝子又はその転写調節領域若しくはプロモーター領域を含む発現制御領域上における1又は複数のヌクレオチドの欠失、置換、及び/又は挿入等によって生じさせることができる。なお、当該欠失、置換、及び/又は挿入を行う部位や、欠失、置換、及び/又は挿入される配列は、対象タンパク質遺伝子の正常な機能が喪失しうる限り、特に限定されないが、好ましくは、対象タンパク質の活性部位をコードする遺伝子配列の少なくとも1つが欠失していることが好ましい。

【0022】
また、二倍体株を用いる場合は、遺伝子発現機能の喪失は、対象タンパク質の発現機能が、染色体上の少なくとも一方のアレル(ヘテロ接合型)で喪失していれば効果がある場合もあるが、好ましくは、両アレルで喪失していること(ホモ接合型)が好ましい。但し、一倍体を用いる場合は、これには限定されない。
ここで、前述した特定の12種の遺伝子の具体的名称及び遺伝子配列は、下記表Aに示す通りである。なお、当該各遺伝子は、DNA又はRNAのいずれであってもよい。

【0023】
【表A】
JP2015015939A_000002t.gif

【0024】
本発明の一実施形態として、上記特定の12種の遺伝子は、いずれも、それぞれの塩基配列(例えば、上記表A中の配列番号1,3,5,7,9,11,13,15,17,19,21,23)において1若しくは複数個(好ましくは、1~10個、より好ましくは1~5個、さらに好ましくは1~3個)の塩基が欠失、挿入、置換又は付加された変異型遺伝子や、当該塩基配列(配列番号1,3,5,7,9,11,13,15,17,19,21,23)に対して、約80%以上、81%以上、82%以上、83%以上、84%以上、85%以上、86%以上、87%以上、88%以上、89%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、99.1%以上、99.2%以上、99.3%以上、99.4%以上、99.5%以上、99.6%以上、99.7%以上、99.8%以上、99.9%以上の相同性を有する塩基配列を有する変異型遺伝子であってもよい。これら変異型遺伝子は、コード若しくは非コード領域、又はその両方において変異され得る。コード領域における変異は、保存的若しくは非保存的なアミノ酸の欠失、挿入、置換及び/又は付加を生成し得る。本明細書中で使用される場合、配列番号2,4,6,8,10,12,14,16,18,20,22,24のアミノ酸配列をコードする遺伝子、あるいは、当該アミノ酸配列(配列番号2,4,6,8,10,12,14,16,18,20,22,24)において1若しくは複数個(例えば、1~20個、1~15個、1~10個、1~9個、1~8個、1~7個、1~6個、1~5個、1~4個、1~3個、1~2個)のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列をコードする遺伝子、又は当該アミノ酸配列(配列番号2,4,6,8,10,12,14,16,18,20,22,24)に対して、約80%以上、81%以上、82%以上、83%以上、84%以上、85%以上、86%以上、87%以上、88%以上、89%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、99.1%以上、99.2%以上、99.3%以上、99.4%以上、99.5%以上、99.6%以上、99.7%以上、99.8%以上、99.9%以上の相同性を有するアミノ酸配列をコードする遺伝子もまた、ERG6遺伝子に包含される。

【0025】
上記(ii)の遺伝的特徴は、前述のとおり、出芽酵母におけるRME1遺伝子中の開始コドン(ATG)より上流に向けて第308番目の塩基と第309番目の塩基との間にアデニン(A)を挿入したものである。なお、当該アデニンの挿入箇所は、染色体上の野生型RME1遺伝子のプロモーター中に相当する。詳しくは、RME1遺伝子の開始コドン(ATG)より1塩基上流の塩基を第1番目としたとき、さらに上流の第308番目の塩基はチミン(T)、第309番目の塩基はアデニン(A)であり、上記(ii)の遺伝的特徴は、この第308番目の塩基(T)と第309番目の塩基(A)との間に、新たにアデニン(A)を挿入したものである。本明細書においては、当該挿入変異を「RME1 (ins-308A)」又は「RME1 (ins-308A)変異」と表記する。

【0026】
ここで、当該RME1遺伝子は、減数分裂開始を抑制的に制御する転写因子(Rme1p)をコードする遺伝子であり、GenBank Accession No.: DQ116799に登録された塩基配列(配列番号25)(RME1遺伝子のプロモーター領域の塩基配列も含む)を有するものである(なお、当該遺伝子によりコードされるタンパク質のアミノ酸配列は、配列番号26に示される。)。当該塩基配列(配列番号25)中、CDS領域は第601番目~第1503番目の塩基からなる領域である。前述したRME1遺伝子の開始コドン(ATG)より上流に向けて第308番目の塩基と第309番目の塩基は、それぞれ順に、当該塩基配列(配列番号25)における第292番目の塩基と第293番目の塩基に相当する。

【0027】
当該変異(RME1 (ins-308A))を導入することにより、形質転換出芽酵母の胞子形成能を高めることができ、薬剤の標的分子の同定や作用機構の分析を行うための遺伝的解析の実現性及び容易性を向上させることができる。

【0028】
上記(iii)の遺伝的特徴は、前述のとおり、出芽酵母におけるERG6遺伝子をコンディショナルに発現可能としたもの(すなわち、出芽酵母においてERG6遺伝子コンディショナル発現系を導入したもの)である。要するに、ERG6遺伝子を所望の特定の条件下である場合に発現可能としたものであり、詳しくは、当該特定の条件下でない状態では発現が不可能であるか又は抑制されており、当該特定の条件下である状態では発現可能となるように、例えば遺伝的手法(遺伝子組み換え技術等)を用いて改変されたものである。
ここで、当該ERG6遺伝子は、エルゴステロール合成酵素をコードする遺伝子であり、GenBank Accession No. X74249に登録された塩基配列(配列番号27)を有するものである(なお、当該遺伝子によりコードされるタンパク質のアミノ酸配列は、配列番号28に示される。)。

【0029】
本発明の一実施形態として、上記ERG6遺伝子は、その塩基配列(配列番号27)において1若しくは複数個(好ましくは、1~10個、より好ましくは1~5個、さらに好ましくは1~3個)の塩基が欠失、挿入、置換又は付加された変異型遺伝子や、当該塩基配列(配列番号27)に対して、約80%以上、81%以上、82%以上、83%以上、84%以上、85%以上、86%以上、87%以上、88%以上、89%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、99.1%以上、99.2%以上、99.3%以上、99.4%以上、99.5%以上、99.6%以上、99.7%以上、99.8%以上、99.9%以上の相同性を有する塩基配列を有する変異型遺伝子であってもよい。これら変異型遺伝子は、コード若しくは非コード領域、又はその両方において変異され得る。コード領域における変異は、保存的若しくは非保存的なアミノ酸の欠失、挿入、置換及び/又は付加を生成し得る。本明細書中で使用される場合、配列番号28のアミノ酸配列をコードする遺伝子、あるいは、当該アミノ酸配列(配列番号28)において1若しくは複数個(例えば、1~20個、1~15個、1~10個、1~9個、1~8個、1~7個、1~6個、1~5個、1~4個、1~3個、1~2個)のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列をコードする遺伝子、又は当該アミノ酸配列(配列番号28)に対して、約80%以上、81%以上、82%以上、83%以上、84%以上、85%以上、86%以上、87%以上、88%以上、89%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、99.1%以上、99.2%以上、99.3%以上、99.4%以上、99.5%以上、99.6%以上、99.7%以上、99.8%以上、99.9%以上の相同性を有するアミノ酸配列をコードする遺伝子もまた、ERG6遺伝子に包含される。

【0030】
上記のERG6遺伝子コンディショナル発現系としては、通常の培養時(薬剤接触時又は該接触前後など)の条件に含まれない特定の存在下でのみERG6遺伝子を発現可能とするものであればよく、限定はされないが、例えば、ガラクトースの存在下でのみERG6遺伝子を発現可能とするものや、銅イオンの存在下でのみERG6遺伝子を発現可能とするもの、ドキシサイクリン(Dox)の存在下又は非存在下でのみERG6遺伝子を発現可能とするもの(Tet-On(登録商標)/Tet-Off(登録商標) Gene Expression System)、メチオニン欠乏培地でのみERG6遺伝子を発現可能とするもの(METプロモーター)、β-estradiol存在下でのみERG6遺伝子を発現可能とするもの(GEV system, ref. Molec. Biol. Cell, 22, 4447-4459, (2011))等が挙げられる。なかでも、ガラクトースの存在下でのみERG6遺伝子を発現可能とするもの、銅イオンの存在下でのみERG6遺伝子を発現可能とするもの、ドキシサイクリン(Dox)の存在下又は非存在下でのみERG6遺伝子を発現可能とするものが好ましく、ガラクトースの存在下でのみERG6遺伝子を発現可能とするものがより好ましい。

【0031】
また、ERG6遺伝子コンディショナル発現系の構築手法としては、限定はされないが、例えば、ERG6遺伝子の発現制御が可能なプロモーターとして前記特定の条件下である場合に活性化され得るプロモーターをERG6遺伝子の上流に導入する手法等が挙げられる。また、当該構築手法としては、前掲のTet-On(登録商標)/Tet-Off(登録商標) Gene Expression System(タカラバイオ)を用いた手法も挙げられる。なかでも、前記特定の条件下である場合に活性化され得るプロモーターをERG6遺伝子の上流に導入する手法が好ましく、具体的には、ERG6遺伝子の上流にGal1プロモーターやCup1プロモーターを導入する手法が挙げられる。

【0032】
このようにERG6遺伝子コンディショナル発現系を導入することにより、出芽酵母への薬剤接触時にはERG6遺伝子の発現を抑制し、より多くの薬剤に対する感受性を高める一方で、形質転換(遺伝子導入)、接合及び胞子形成といった遺伝学的解析が必要な場合にはコンディショナルにERG6遺伝子の発現誘導を行うことにより、当該遺伝子導入、接合及び胞子形成の効率低下を抑制することができる。これにより、出芽酵母を用いて、従来より多種多様な薬剤について、標的分子の同定及び/又は作用機構の解析等を行うことが可能となる。
また、本発明の形質転換出芽酵母は、前述した(i)~(iii)の各遺伝的特徴以外に、適宜1種又は2種以上の遺伝的特徴(遺伝子改変や変異等)を有していてもよく、後述する本発明の形質転換出芽酵母を用いた薬剤の標的分子同定及び/又は作用機構の解析、並びに薬剤スクリーニングにおいて、有用な酵母として用いることができる。

【0033】
本発明の形質転換出芽酵母における前述した(i)~(iii)の各遺伝的特徴の構築は、いずれも、公知の遺伝学的知見及び遺伝子組換え技術を用いて適宜行うことができる。
例えば、特定の遺伝子の発現機能を喪失させる方法としては、ジーンターゲティング又はRNA干渉(RNAi)等のノックアウト又はノックダウン技術等が挙げられる。

【0034】
(1)ジーンターゲティング
ジーンターゲティングは、相同組換えを利用して染色体上の特定遺伝子に変異を導入する手法である(Capeccchi, M.R. Science, 244, 1288-1292, 1989)。
まず、対象タンパク質遺伝子機能を喪失させるためのターゲティングベクターを構築する。ターゲティングベクターを構築するに当たり、対象となる出芽酵母のゲノムDNAライブラリーを調製する。このゲノムDNAライブラリーは、多型等により組換え頻度が低下しないよう、ジーンターゲティングの対象となる出芽酵母と同系統の出芽酵母に由来するゲノムDNAから作製したライブラリーを用いることが好ましい。そのようなライブラリーとしては、市販のものを用いてもよい。あるいは、対象タンパク質のcDNA又はその部分配列をプローブとしてスクリーニングを行い、対象タンパク質のゲノム遺伝子のDNA配列をクローニングしてもよく、あるいは、対象タンパク質のcDNA又はその部分配列に基づいてプライマーを作製し、ゲノムの対象タンパク質遺伝子をPCR増幅することにより調製することができる。ゲノムDNAライブラリーの調製方法の詳細については、"Sambrook & Russell, Molecular Cloning: A Laboratory Manual Vol. 3, Cold Spring Harbor Laboratory Press 2001"、"Ausubel, Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons 1987-1997"を参照することができる。

【0035】
次に、クローニングされたゲノムDNAを、シークエンシング、サザンブロッティング、制限酵素消化等によって解析してエクソンの位置及び制限酵素サイトを同定する。このような解析により得られた配列情報を基に変異導入部位等を決定する。
本発明において、染色体上に導入する変異(欠失、置換、及び/又は挿入)は対象タンパク質遺伝子の正常な機能が損なわれる限り特に限定はされず、これらの変異は、対象タンパク質遺伝子のイントロン領域、エクソン領域又は対象タンパク質遺伝子の発現制御領域に存在していてよい。前記変異は、対象タンパク質遺伝子のエクソン領域に存在することが好ましく、さらに好ましくは、対象タンパク質遺伝子の少なくとも1つのエクソンが欠失した変異、最も好ましくは全てのエクソンが欠失した変異である。このような変異であれば、確実に対象タンパク質遺伝子の機能を欠損させることができるからである。

【0036】
ターゲティングベクターは、変異導入部位の3’及び5’側の相同領域(それぞれ3’アーム及び5’アーム)に加え、組み換え体のセレクション用の選択マーカーを含んでいてもよい。選択マーカーの例としては、URA3遺伝子、CgURA3遺伝子、Nourseothricin dihydrogen sulfate(NAT)耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシンBホスホトランスフェラーゼ遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子等のポジティブセレクションマーカー、LacZ、GFP(Green Fluorescence Protein)及びルシフェラーゼ遺伝子などの破壊対象遺伝子の発現レポーター、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ遺伝子(HSV-TK)、ジフテリア毒素Aフラグメント(DTA)等のネガティブセレクションマーカー等が挙げられる。これらのセレクションマーカーを3’アーム及び5’アームの間に挿入した配列を用いることにより、ターゲット遺伝子を破壊することもできる。ベクターは相同領域の外側に、ベクターを直鎖化するための適当な制限酵素切断部位を含んでいてもよい。

【0037】
このようなターゲティングベクターは、市販のプラスミドベクター(例えば、pENTR/D-TOPO(登録商標:Invitrogen)やpBluescriptII (Stratagene)等)をベースにして構築することができる。
本発明の出芽酵母は、対象タンパク質遺伝子の破壊後に、相同組換に用いた選択マーカーが細胞から脱落していることが好ましい。例えば、上記ターゲティングベクターがコードする選択マーカー遺伝子の両端に、組換え配列を挿入し、当該組換え配列間で組換えを生じさせて、選択マーカー遺伝子をループアウトさせることにより、選択マーカーを宿主細胞から脱落させることができる。このようにして作製される本発明の出芽酵母は、選択マーカーを有しないため、複数の対象タンパク質遺伝子を破壊する際に、選択マーカーが制限されないという優れた特徴を有する。

【0038】
選択マーカーの脱落に使用可能な組換え配列としては、Flippase Recognition Target 配列(FRT配列)、バクテリオファージP1由来のloxP配列、醤油酵母(Zygosaccharomyces rouxii)由来のRS配列、バクテリオファージMu由来のgix配列等が挙げられる。
これらの組換え配列間に組換えを生じさせるためには、適切なリコンビナーゼを発現させる必要がある。上記の組換え配列間に組換えを生じさせるリコンビナーゼは、それぞれ、Flippase(FLP:FLP-FRTリコンビネーション)、Cre(Cre-loxPリコンビネーション)、R Recombinase (R:RS リコンビネーション)、GIX recombinase (R:RS リコンビネーション)等が挙げられる。

【0039】
さらに、リコンビナーゼをコードするプラスミドも宿主細胞から脱落していることが好ましい。宿主細胞の複数の対象タンパク質遺伝子の破壊において、選択マーカーが制限されないからである。
したがって、リコンビナーゼをコードするプラスミドは、宿主細胞内で不安定なものが好ましく、特に、当該プラスミドの選択マーカーに対する選択圧をかけない状態において、宿主細胞から脱落するものが好ましい。
そのようなプラスミドの例としては、YRpタイプのプラスミドが挙げられるが、これに限定されるものではない。

【0040】
選択マーカーは、任意の薬剤耐性(NAT耐性、ネオマイシン耐性、ハイグロマイシンBホスホトランスフェラーゼ耐性、カナマイシン耐性、ハイグロマイシン耐性、ゼオシン耐性、ジェネティシン耐性)、栄養要求性マーカー(ura3、ura5、niaD)、銅耐性マーカー(CUP1)(Marin et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 81, 337 1984)、セルレニン耐性マーカー(fas2m, PDR4)等であってもよいが、これらに限定されるものではない。

【0041】
(2)RNA干渉
上記以外にも、対象タンパク質遺伝子の発現機能を欠損させる方法として、siRNA(small interfering RNA)等を用いたRNA干渉(RNA interference: RNAi)法が挙げられる。RNAiは、複数の段階を経て行われるマルチステッププロセスである。最初に、RNAi発現ベクターから発現した二本鎖RNA(Double Stranded RNA: dsRNA)又はヘアピン状のshRNA(Small Hairpin RNA)がDicerによって認識され、21~23 ヌクレオチドのsiRNAsに分解される。次に、siRNAsはRNA 誘導型サイレンシング複合体 (RNA-Induced Silencing Complex: RISC) と呼ばれるRNAi標的複合体に組み込まれ、RISCとsiRNAsとの複合体がsiRNAの配列と相補的な配列を含む標的mRNAに結合し、mRNAを分解する。標的mRNAは、siRNAに相補的な領域の中央で切断され、最終的に標的mRNAが速やかに分解されてタンパク発現量が低下する。最も効力の高い siRNA二重鎖は、19bpの二重鎖の各3’末端にウリジン残基2個の突出部分を持つ21ヌクレオチド長の配列であることが知られている(Elbashir S.M. et al., Genes and Dev, 15, 188-200 (2001))。

【0042】
従って、対象タンパク質遺伝子ノックダウン出芽酵母を得るには、まず、前記表Aに記載した配列番号1,3,5,7,9,11,13,15,17,19,21,23で示される塩基配列(これらに限定されない)の一部と相補的な配列を含むヌクレオチドを、適切なRNAi発現ベクターにdsRNA又はshRNAとして発現可能な状態で挿入してRNAiベクターを作製する。次に、前記ベクターを宿主細胞に導入し、形質転換体をセレクションすることにより対象タンパク質遺伝子ノックダウン出芽酵母を得ることができる。
dsRNA又はshRNAの設計及び合成は、市販のDNA/RNAシンセサイザー、例えば、Applied Biosystems394型で行うことも可能であり、あるいは第三者機関(例えば、TAKARA Bio)に委託することもできる。

【0043】
対象タンパク質遺伝子の発現機能の喪失は、正常な対象タンパク質遺伝子の発現量の低下として確認することができる。対象タンパク質遺伝子の発現量は、本発明の出芽酵母の抽出物を用いたRT-PCR法及びアガロースゲル電気泳動、Real-Time PCR法、ノーザンブロッティング法、マイクロアレイ解析並びに質量分析法等によって測定することができる。これらの測定方法に用いるプライマー又はプローブは、当該対象タンパク質遺伝子の配列に基づいて設計及び合成することができる。対象タンパク質遺伝子の発現産物が正常であるかどうかは、当該発現産物の配列解析を行うことにより確認することができる。

【0044】
また、例えば、所望の塩基を欠失、置換、挿入又は付加した変異型の塩基配列(特に変異置換型の塩基配列)については、例えば、上記「Moleculer cloning, A Laboratory Manual 3rd ed.」や「Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons (1987-1997)」等に記載の部位特異的変位誘発法に準じて調製することができる。具体的には、Kunkel法や Gapped duplex法等の公知手法により、部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キットを用いて調製することができ、当該キットとしては、例えば、QuickChangeTMSite-Directed Mutagenesis Kit(ストラタジーン社製)、GeneTailorTMSite-Directed Mutagenesis System(インビトロジェン社製)、TaKaRa Site-Directed Mutagenesis System(Prime STAR(登録商標) Mutagenesis Basal kit、Mutan(登録商標)-Super Express Km等:タカラバイオ社製)等が好ましく挙げられる。

【0045】
さらに、出芽酵母(宿主細胞)の形質転換方法としては、一般に用いられる公知の方法が利用できる。例えば、エレクトロポレーション法(Mackenxie D. A. et al. Appl. Environ. Microbiol., 66, 4655-4661, 2000)、スフェロプラスト法(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 75 p1929(1978))、酢酸リチウム法(リチウムアセテート法;J. Bacteriology, 153, p163(1983))、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 75 p1929 (1978)、Methods in yeast genetics, 2000 Edition: A Cold Spring Harbor Laboratory Course Manual等に記載の方法が利用可能であるが、これらに限定されない。

【0046】
その他、一般的なクローニング技術に関しては、"Sambrook &Russell, Molecular Cloning: A Laboratory Manual Vol. 3, Cold Spring Harbor Laboratory Press 2001"や、"Methods in Yeast Genetics、A laboratory manual (Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor, NY)"等を参照することができる。

【0047】
本発明の形質転換出芽酵母は、後述するような、所望の薬剤の標的分子の同定方法、及び/又は、所望の薬剤の作用機構の解析方法に好適に用いることができる。また、本発明の形質転換出芽酵母に候補物質を接触させ、当該酵母に対する効果を評価することにより、当該酵母に所望の表現型を誘導する物質をスクリーニングする方法や、所望の効果を亢進又は抑制する物質のスクリーニング方法のほか、Amesテストなどの変異原物質検出や作物等に含まれる有害物質の検出等にも好適に用いることができる。

【0048】

3.薬剤の標的分子同定及び/又は作用機構の解析、並びに薬剤スクリーニング
本発明は、上述した本発明の形質転換出芽酵母を用いて、薬剤の標的分子同定及び/又は作用機構の解析、並びに薬剤スクリーニングを行う方法も提供することができる。

【0049】
例えば、(1) 上述した本発明の形質転換出芽酵母に所望の薬剤を接触させ、遺伝学的解析(形質転換(遺伝子導入)、接合及び胞子形成等)を行うことにより、当該薬剤の標的分子の同定及び/又は当該薬剤の作用機構の解析を行う方法、(2)上述した本発明の形質転換出芽酵母に候補物質を接触させ、当該酵母に対する効果を評価することにより、当該酵母に所望の表現型を誘導する物質をスクリーニングする方法、並びに、(3) 本発明の形質転換出芽酵母に所望の薬剤と候補物質とを接触させ、当該出芽酵母に対する当該薬剤の効果を評価することにより、当該薬剤の効果を亢進又は抑制する物質のスクリーニング方法を提供することができる。

【0050】
上記(1)の方法は、上述した本発明の形質転換出芽酵母に、例えば更に所望の遺伝子変改変を加えて特定の機能を持たせた酵母とし、当該酵母を用いて遺伝学的解析(形質転換(遺伝子導入)、接合及び胞子形成等)を行うことが好ましい。当該遺伝学解析の方法や判断基準等については、公知の方法や判断基準等を適用することができる。

【0051】
上記(2)のスクリーニング方法は、上述した本発明の形質転換出芽酵母に、例えば更に所望の遺伝子変改変を加えて特定の機能を持たせた酵母とし、当該酵母を用いて薬剤スクリーニング等を行うことが好ましい態様として挙げられる。一例としては、本発明の形質転換出芽酵母にRAD9機能欠損を加えた酵母を用い、当該酵母に候補物質を接触させてその効果を評価することにより、遺伝子修復関連に関わる薬剤スクリーニングする方法が挙げられる。上記(2)の方法は、いわゆる未知の薬剤、あるいは未知の薬効をスクリーニングし見出す方法として好適なものである。

【0052】
上記(3)のスクリーニング方法は、述した本発明の形質転換出芽酵母に、所望の薬剤と候補物質とを接触させることにより、所望の薬剤の薬効制御や新たな薬効の発現の確認及び評価を行うことが好ましい態様として挙げられる。この際、用いる酵母としては、上記(2)の方法で述べたように、例えば更に所望の遺伝子変改変を加えて特定の機能を持たせた酵母を用いてもよい。上記(3)の方法は、例えば、いわゆる公知の薬剤の薬効を制御する物質、あるいは公知の薬剤における未知の薬効を誘因・誘導する物質をスクリーニングし見出す方法として好適なものである。

【0053】

以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0054】
1.材料及び方法
1-1.材料
1-1-1.酵母株
本実施例では、実験室野生株である
BY4741 (MATa his3D0 leu2D0 met15D0 ura3D0);
BY4742 (MATa his3D0 leu2D0 met15D0 ura3D0);
OTA017 (12gene△0HSR: MATa his3Δ1 leu2Δ0 met15Δ0 ura3Δ0 pdr3Δ0 pdr8Δ0 pdr1Δ0 yrr1Δ0 snq2Δ0 pdr5Δ0 pdr10Δ0 yor1Δ0 pdr15Δ0 pdr11Δ0 pdr12Δ0 aus1Δ0 RME1 (ins-308A) );及び
OTA019 (12gene△0HSR: MATa his3Δ1 leu2Δ0 met15Δ0 ura3Δ0 pdr3Δ0 pdr8Δ0 pdr1Δ0 yrr1Δ0 snq2Δ0 pdr5Δ0 pdr10Δ0 yor1Δ0 pdr15Δ0 pdr11Δ0 pdr12Δ0 aus1Δ0 RME1 (ins-308A) )
を親株として使用した。
【実施例1】
【0055】
1-1-2.プライマーおよびプラスミド
本実施例において使用したプライマーを表1に、プラスミドを表2示した。
【実施例1】
【0056】
【表1】
JP2015015939A_000003t.gif
【実施例1】
【0057】
【表2】
JP2015015939A_000004t.gif
【実施例1】
【0058】
なお、表2中、「HIS3 marker、LEU2 marker、KanMX6 marker」については“Bahler J., Wu JQ., Longtine MS., Shah NG., McKenzie A 3rd., Steever AB., Wach A., Philippsen P., Pringle JR., Heterologous modules for efficient and versatile PCR-based gene targeting in Schizosaccharomyces pombe. Yeast, 14, 943-951 (1998).”を参照することができ、「KanMX6-Gal1p」については“Longtine MS., McKenzie A 3rd., Demarini DJ., Shah NG., Wach A., Brachat A., Philippsen P., Pringle JR., Additional modules for versatile and economical PCR-based gene deletion and modification in Saccharomyces cerevisiae., Yeast, 14, 953-961 (1998).”を参照することができる。
【実施例1】
【0059】
1-1-3.培地
本実施例において使用した培地を、下記表a~iに示した。なお、寒天平板培地を作製する場合は下記表a~iに記載の組成に2%(w/v)の寒天粉末を添加した。
【実施例1】
【0060】
【表a】
JP2015015939A_000005t.gif
【実施例1】
【0061】
【表b】
JP2015015939A_000006t.gif
【実施例1】
【0062】
【表c】
JP2015015939A_000007t.gif
【実施例1】
【0063】
【表d】
JP2015015939A_000008t.gif
【実施例1】
【0064】
【表e】
JP2015015939A_000009t.gif
【実施例1】
【0065】
【表f】
JP2015015939A_000010t.gif
【実施例1】
【0066】
【表g】
JP2015015939A_000011t.gif
【実施例1】
【0067】
【表h】
JP2015015939A_000012t.gif
【実施例1】
【0068】
【表i】
JP2015015939A_000013t.gif
【実施例1】
【0069】
1-1-4.Buffer類
本実施例において使用したBuffer類の組成を、下記表j~lに示した。
【実施例1】
【0070】
【表j】
JP2015015939A_000014t.gif
【実施例1】
【0071】
【表k】
JP2015015939A_000015t.gif
【実施例1】
【0072】
【表l】
JP2015015939A_000016t.gif
【実施例1】
【0073】
1-1-5.小分子化合物
Fluphenagineとhygromycin BはSigma (St. Louis, MO)から購入した。Latrunculin AとmanoalideはWako (Osaka, Japan)から購入した。Rhodamine 6GはPolyscience (Warrington, PA)から購入した。FluconazoleはLKT Laboratories (St. Paul, MN) から購入した。Fluconazoleは100%エタノールに、他の小分子化合物はすべてDimethyl Sulfoxide (DMSO, Nacalai Tesque)に溶解、保存し、適宜希釈して使用した。
【実施例1】
【0074】
1-2.各組み換え株の作製
1-2-1.KanMX6-Gal1p cassetteプラスミドpTC031の作製
S1-/S4-ERG6プライマーでERG6上流にGAL1 promoterを導入する断片を増幅可能なKanMX6-Gal1p cassetteプラスミドpTC031を作製した。
GAL1 promoter領域をPCRで増幅して、SacI-GAL1 promoter-EcoRI断片を作製した (表3、表4)。作製した断片を制限酵素 (SacI/EcoRI)で切断し、制限酵素 (SacI/EcoRI)で切断したpYM-N1プラスミドと混合しライゲーション反応(TOYOBO, ligation high)を行った。その後大腸菌DH5αにTransformationし、作製に成功したプラスミドを取得し、プラスミドの導入配列をゲノムシーケンス (ABI31310)により確認した。
【実施例1】
【0075】
【表3】
JP2015015939A_000017t.gif
【実施例1】
【0076】
【表4】
JP2015015939A_000018t.gif
【実施例1】
【0077】
1-2-2.遺伝子破壊用KanMX6 cassetteの作製
KanMX6カセットプラスミドpFA6a-KanMX6、もしくはpTC031をテンプレートとし、S1-ERG6/S2-ERG6プライマー (template = pFA6a-KanMX6)もしくはS1-ERG6/S4-ERG6プライマー (template = pTC031)を用いてCassette PCRを行った。PCR酵素はKOD Dash (TOYOBO)を用いた。PCRの組成は表5に、PCRプログラムは表6に示した。
【実施例1】
【0078】
【表5】
JP2015015939A_000019t.gif
【実施例1】
【0079】
【表6】
JP2015015939A_000020t.gif
【実施例1】
【0080】
1-2-3.リチウムアセテート法によるDNA断片の導入
酵母を液体培地 50 mlで30oC, 170 rpmで一晩培養し、対数増殖期(細胞濃度OD600 = 0.3~0.4)になってから5,000 rpmで3分遠心し回収した。MilliQ 50 mlで一回、LiSorb buffer(表2.13)10 mlで一回洗浄した後、LiSorb 300μlに懸濁した。Lisorb bufferで懸濁した酵母を50μlずつ分注し、LiPEG buffer(表2.14)を300μl、PCR産物(もしくはプラスミド)を5μl、carrier DNAを5μl加え撹拌し、室温に20分静置した。
DMSOを35μl加え42oCで15分熱ショック処理を行ない、DNAを取り込ませた。その後氷上で冷却し、5,000 rpmで3分遠心して細胞を回収した。回収した細胞をMilliQ 100μlで懸濁し、選択培地に播いた。30oCで二晩培養後、生育してきたコロニーを2度新しい選択培地に塗布し、コロニーダイレクトPCRにより遺伝子組み換えの確認を行った。
【実施例1】
【0081】
1-2-4.コロニーダイレクトPCRによる遺伝子改編確認
選択培地で生育した酵母株をZymolyase buffer (前記表1)に懸濁し、37oCで30分処理したものをテンプレートとしてPCRを行った。PCRの組成を表7、PCRプログラムを表8に示した。
【実施例1】
【0082】
【表7】
JP2015015939A_000021t.gif
【実施例1】
【0083】
【表8】
JP2015015939A_000022t.gif
【実施例1】
【0084】
1-3.生育速度、遺伝子導入効率、接合効率、胞子形成効率の検討
1-3-1.遺伝子導入効率の検討
酵母を対数増殖期まで培養した後(前記表a又は表fの培地を使用)、リチウムアセテート法により各酵母株 (OD600 = 0.4, 20 ml)へプラスミドを1μg導入し、プラスミドに導入された栄養要求マーカーにより生えてきたコロニー数を計測した。導入プラスミドに対するコロニー形成能colony forming unit (cfu/μg)を算出し、酵母株の遺伝子導入効率とした。
【実施例1】
【0085】
1-3-2.接合効率の検討
酵母を選択培地中で30oC、170 rpmで一晩培養し、濃度OD600 = 0.4の菌体溶液を500μl調製した。接合型a (pRS315プラスミドを保有 (前記表cの培地で培養) )、接合型α (pRS313プラスミドを保有(前記表dの培地で培養))の細胞を混ぜた混合溶液をニトロセルロースメンブレン上で濃縮し、メンブレンをYPDプレート上に移し6時間、30oCで培養した。培養後メンブレン上の菌体をMilliQ 100μl中にかきとり、希釈系列を作成しSC-LEUプレート、SC-LEU/-HIS プレートにまき、30oCで2~3日培養後、生えてきたコロニー数を計測した。SC-LEUプレート (前記表c)に生えてきたコロニー数を分母に、SC-LEU/-HIS プレート (前記表e)に生えてきたコロニー数を分子にとり、接合効率を算出した。
【実施例1】
【0086】
1-3-3.胞子形成効率の検討
酵母を前胞子形成培地 (前記表g又は表h)で対数増殖期まで培養した後、胞子形成培地 (前記表i)にまき、室温 (25oC)で一週間程培養した。その後、顕微鏡下で100個程度酵母細胞を観察し、胞子を形成している細胞を数え胞子形成効率を算出した。
【実施例1】
【0087】
1-4.作製した多重遺伝子破壊株の薬剤感受性検討
1-4-1.WST-8法による薬剤感受性検討
酵母をYPD液体培地中 (前記表a)で30oC、170 rpmで一晩培養し、対数増殖期にある細胞をOD600 = 0.1に調製した。濃度を振った各化合物を1% (v/v)添加した。6時間30oCで振とう培養した後にWST-8 (Dojindo)を10μlずつ各ウェルに加え、Controlウェルの吸光度がOD450= 1.8 ~ 2.0になるまで30oCで振とう培養し、プレートリーダー (iMark, Bio-Rad)を用いて各ウェルの吸光度 (OD450)を測定した。測定した値から阻害率を計算し、IC50値を算出した。
【実施例1】
【0088】
1-4-2.Halo assayによる薬剤感受性検討
酵母をYPD液体培地中 (前記表a)で30oC、170 rpmで一晩培養し、対数増殖期にある細胞をOD600 = 0.05となるように42oCに調製した0.5%寒天へ添加し、YPDプレート上に重層した。DMSO 5μlもしくは薬剤5μlを重層した酵母細胞の上に直接滴下し、30oCで24時間培養した。生育阻止円(Halo)の有無により薬剤の感受性を比較した。
【実施例1】
【0089】
2.結果及び考察
2-1.ERG6コンディショナル発現株12geneΔ0HSR-iERG6の作製
前記1-2-1.で作製したGal1 promoter断片をERG6遺伝子の上流に導入した株、及びERG6遺伝子を破壊した株を作製した。組み換え株のコンストラクト (プライマーの結合部位も含む)を図1(A)に、作製した12geneΔ0HSR-iERG6株のコロニーダイレクトPCRの結果を図1(B)に示した(他の株においてもコロニーダイレクトPCRにより遺伝子改変を確認した。)。
上記の流れにより12geneΔ0HSR-iERG6株を作製した。本株はグルコース存在下においてERG6遺伝子発現の抑制が、一方ガラクトース存在下においてERG6遺伝子発現が見込まれる。
【実施例1】
【0090】
2-2.多重遺伝子破壊株の遺伝子導入効率、接合効率、胞子形成効率の検討
前節で作製した12geneΔ0HSR-iERG6株をケミカルバイオロジー解析に用いるためには、薬剤感受性が上昇しているのみならず、ERG6遺伝子誘導条件下 (ガラクトース存在下)において、遺伝学的解析に必要な形質転換能、接合能、および胞子形成能を示すことが必要である。そこでまずこれらの能力を保持しているかを検討した。
【実施例1】
【0091】
2-2-1.12geneΔ0HSR-iERG6株の形質転換(遺伝子導入)効率検討
12geneΔ0HSR-iERG6株の形質転換効率を、12geneΔ0HSR erg6Δ::KanMX6株と親株である12geneΔ0HSR株の形質転換効率と比較した。対数増殖期 (OD600 = 0.4)にあるそれぞれの株に1μgのpRS315プラスミドを形質転換し、SC-LEUプレートに生育してきたコロニー数をcolony forming unit (cfu)としてカウントすることで、形質転換効率を算出したところ、YPD培養条件下(グルコース存在下)において12geneΔ0HSR-iERG6株は12geneΔ0HSR erg6Δ::KanMX6株と同様、親株の12geneΔ0HSR株と比較して著しい形質転換効率の低下を示した。一方、YP-Raf/Gal培養条件下 (ガラクトース存在下)において12geneΔ0HSR株と同オーダーの遺伝子導入効率を示した (図2参照)。このことから作製した12geneΔ0HSR-iERG6株はガラクトース存在下において形質転換効率を上昇させることが可能であることが示された。
【実施例1】
【0092】
2-2-2.12geneΔ0HSR-iERG6株の接合効率検討
12geneΔ0HSR-iERG6株の接合効率を、12geneΔ0HSR erg6Δ::KanMX6株と親株である12geneΔ0HSR株と比較した。グルコース存在下で培養した接合型が異なる株同士を同量混ぜ合わせ、YPD培地上に6時間、30oCにおいた後、二倍体になったコロニーの数の割合 (SC-HIS/-LEUプレート上のコロニー数/SC-LEUプレート上のコロニー数)を算出したところ、12geneΔ0HSR-iERG6株、12geneΔ0HSR erg6Δ::KanMX6株は、12geneΔ0HSR株と比較して有意な接合効率の低下を示さなかった(図3参照)。このことから、12geneΔ0HSR-iERG6株は遺伝学的解析に十分な接合能を維持していることが示された。
【実施例1】
【0093】
2-2-3.12geneΔ0HSR-iERG6株の胞子形成効率検討
最後に12geneΔ0HSR-iERG6株と12geneΔ0HSR erg6Δ::KanMX6株の胞子形成効率を12geneΔ0HSR株と比較した。それぞれの二倍体を胞子形成培地で一週間培養後、胞子を形成した細胞の割合を顕微鏡で計測した。グルコース存在下では12geneΔ0HSR-iERG6株と12geneΔ0HSR erg6Δ::KanMX6株は全く胞子を形成しなかったが、ガラクトース存在下において12geneΔ0HSR-iERG6株は12geneΔ0HSR株と同程度に胞子を形成した(図4参照)。このことから作製した12geneΔ0HSR-iERG6株はガラクトースにより胞子形成効率を上昇させることが可能であると示された。
【実施例1】
【0094】
2-3.12geneΔ0HSR-iERG6株の薬剤感受性検討
前節で十分な接合効率を示し、またコンディショナルに遺伝子導入効率と胞子形成効率を向上させることが可能な12geneΔ0HSR-iERG6株の作製に成功した。そこで次にこの株がERG6遺伝子発現の抑制条件下(グルコース存在下)において複数の薬剤に対して感受性を示すかを検討した。
【実施例1】
【0095】
2-3-1.WST-8法による薬剤感受性検討
YPD液体培地中での薬剤感受性を検討した。対数増殖期にあるそれぞれの株をOD600= 0.1に合わせ各薬剤を、濃度を振って添加し、6時間、30oCで処理した。その後増殖阻害曲線を描き、作成したグラフからIC50値を算出した(表9)。12geneΔ0HSR-iERG6株と12geneΔ0HSR erg6Δ::KanMX6株は、12geneΔ0HSR株より多くの薬剤に対して大幅な感受性増加を示し、薬剤排出系により耐性が付与されている化合物(Latruncurin A)、膜障壁により耐性が付与されている化合物(Hygromycin B, Fluphenazine)の両方に対して高い感受性を示すことが示された。
【実施例1】
【0096】
【表9】
JP2015015939A_000023t.gif
【実施例1】
【0097】
2-3-2.Halo assay法による薬剤感受性検討
12geneΔ0HSR-iERG6株のYPDプレート(グルコース存在下)上での薬剤感受性を他の株と比較した。Halo assay法により感受性比較を行ったところ、親株であるBY4741株やBY4741erg6Δ::KanMX6株、12geneΔ0HSR株と比較して12geneΔ0HSR-iERG6株は12geneΔ0HSR erg6Δ::KanMX6株と同程度の多剤超感受性を示した(図5参照)。
【実施例1】
【0098】
3.総 括
薬剤排出に関わるABC transporterとその転写因子をコードする合計12遺伝子を破壊した12geneΔ0HSR株にERG6遺伝子コンディショナル発現系を導入した12geneΔ0HSR-iERG6株の作製に成功した。12geneΔ0HSR-iERG6株はグルコース存在下で薬剤排出系と膜障壁により耐性が付与されている薬剤群に大幅に感受性が増加した。一方、ガラクトース存在下で遺伝解析に十分な遺伝子導入・胞子形成効率を示した。これらのことから12geneΔ0HSR-ERG6株はコンディショナルに薬剤感受性・遺伝解析の操作性を制御可能であり、特に小分子化合物の標的遺伝子同定のための遺伝解析に適しているばかりでなく、小分子化合物のpositive/negative genetic interaction解析、synthetic lethal/sick genetic interaction解析, Genome-wide overexpression screening、haloinsufficiency-chemical sensitive assayなどケミカルバイオロジー研究の様々な手法に応用可能であると考えられた。
【配列表フリ-テキスト】
【0099】
配列番号29:合成DNA
配列番号30:合成DNA
配列番号31:合成DNA
配列番号32:合成DNA
配列番号33:合成DNA
配列番号34:合成DNA
配列番号35:合成DNA
配列番号36:合成DNA
配列番号37:合成DNA
図面
【図2】
0
【図3】
1
【図4】
2
【図1】
3
【図5】
4