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明細書 :ケトン血症を伴うリー脳症患者又は保因者の検出方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2015-027261 (P2015-027261A)
公開日 平成27年2月12日(2015.2.12)
発明の名称または考案の名称 ケトン血症を伴うリー脳症患者又は保因者の検出方法
国際特許分類 C12Q   1/68        (2006.01)
C12Q   1/48        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
G01N  33/50        (2006.01)
FI C12Q 1/68 ZNAZ
C12Q 1/48 Z
C12N 15/00 A
G01N 33/50 P
請求項の数または発明の数 8
出願形態 OL
全頁数 18
出願番号 特願2013-157339 (P2013-157339)
出願日 平成25年7月30日(2013.7.30)
発明者または考案者 【氏名】松本 直通
【氏名】三宅 紀子
出願人 【識別番号】505155528
【氏名又は名称】公立大学法人横浜市立大学
個別代理人の代理人 【識別番号】110001656、【氏名又は名称】特許業務法人谷川国際特許事務所
審査請求 未請求
テーマコード 2G045
4B024
4B063
Fターム 2G045AA13
2G045AA16
2G045AA24
2G045AA25
2G045AA35
2G045CA25
2G045CB01
2G045CB03
2G045CB26
2G045DA03
2G045DA04
2G045DA13
2G045DA28
2G045DA30
2G045DA36
2G045DA53
2G045DB06
2G045FB01
2G045FB02
2G045FB03
2G045FB13
2G045GC15
4B024AA11
4B024CA01
4B024CA20
4B024HA08
4B024HA11
4B063QA01
4B063QA19
4B063QQ26
4B063QQ42
4B063QQ79
4B063QR08
4B063QR57
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS36
4B063QX02
要約 【課題】遺伝的原因の多数が未だ不明であるリー脳症について、確定診断に有用な新たな指標を提供すること。
【解決手段】本願発明者らは、通常のリー脳症で認められる乳酸及びピルビン酸の上昇がみられず、ケトン血症を伴うという特徴を有する新規な型のリー脳症を発症した日本人非近親婚家系を対象に鋭意に変異解析した結果、X染色体上に存在するグリコーゲン生合成に関与するグリコゲニン2(Glycogenin 2; GYG2)遺伝子が当該新型リー脳症の責任遺伝子であることを同定した。当該新型リー脳症の患者はGYG2遺伝子の有害な変異をヘミ接合、ホモ接合又は複合ヘテロ接合で有し、保因者はヘテロ接合で有する。
【選択図】図2
特許請求の範囲 【請求項1】
生体から分離された試料を用いて、対象生体がGYG2遺伝子の変異を有するか否かを調べることを含む、ケトン血症を伴うリー脳症患者又は保因者の検出方法。
【請求項2】
GYG2遺伝子の有害な変異がヘミ接合、ホモ接合又は複合ヘテロ接合で検出された場合に患者が検出され、ヘテロ接合で検出された場合に保因者が検出される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
ゲノムDNA試料を用いてゲノム配列を調べることにより行なわれる請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
前記変異は、GYG2遺伝子がコードするGYG2タンパク質のグリコシルトランスフェラーゼ活性が損なわれる変異である請求項1ないし3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記変異は、GYG2タンパク質アイソフォームaの第17番チロシン、第215番フェニルアラニン、第217番グリシン、第220番リシン、第221番プロリン、若しくは第222番トリプトファン、又は他のアイソフォームにおける対応するアミノ酸残基における置換変異である請求項4記載の方法。
【請求項6】
第222番トリプトファンにおける置換変異は、トリプトファンがセリンに置換する変異である請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記変異は、配列番号12に示されるヒトゲノム配列中の第284位のGがCになる変異である請求項4記載の方法。
【請求項8】
生体から分離された試料を用いて、対象生体がGYG2遺伝子の変異を有するか否かを調べることを含む、ケトン血症を伴うリー脳症の原因変異の検出方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、ケトン血症を伴うリー脳症患者又は保因者の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リー脳症(Leigh syndrome; LS)(MIM #256000)は、1951年にイギリスの神経学者Leighによって亜急性壊死性脳症として報告された疾患である。主に2歳以下で発症し(非特許文献1、2)、進行性の中枢神経系の特徴的な病変(脳幹、基底核、小脳を中心とする両側対称性の壊死性あるいは軟化性病変)を呈する(非特許文献3)。頻度は4万出生に一人であり(非特許文献4)、乳児期のミトコンドリア病の中で最も一般的な病型である。
【0003】
本症の疾病病態は中枢神経内におけるエネルギー産生障害によると考えられており、ミトコンドリアの機能異常が数多く報告されている。少数のミトコンドリア遺伝子に加え(非特許文献3、5~9)、少なくとも37個の核遺伝子が責任遺伝子として報告されており、遺伝的要因は多岐にわたる。しかし、大部分の症例の原因はわかっていない。
【0004】
グリコゲニンは、自身の特定のチロシン残基にグルコースを結合する(自己グルコシル化)ことでグリコーゲン合成を開始する酵素であり、血糖の恒常性に重要な役割を果たしている。ヒトではグリコゲニン1(GYG1)及びグリコゲニン2(GYG2)の2つのパラログが同定されており、2量体(ホモダイマー又はヘテロダイマー)ないしは3量体以上のオリゴマーを形成する(非特許文献10)。GYG1は主として筋肉で、GYG2は主として肝臓、心臓及び膵臓で発現することが知られている。グリコゲニン遺伝子変異による疾患として、自己グルコシル化が損なわれるGYG1遺伝子の変異により筋力低下及び心不整脈が引き起こされることが報告されている(非特許文献11)。しかしながら、GYG2遺伝子変異に起因するヒト疾患の報告はこれまでにない。
【先行技術文献】
【0005】

【非特許文献1】Naess et al. (2009) Biochim Biophys Acta 1787: 484-490.
【非特許文献2】Ostergaard et al. (2007) Brain 130: 853-861.
【非特許文献3】Finsterer (2008) Pediatr Neurol 39: 223-235.
【非特許文献4】Rahman et al. (1996) Ann Neurol 39: 343-351.
【非特許文献5】Antonicka et al. (2010) Am J Hum Genet 87: 115-122.
【非特許文献6】Debray et al. (2011) J Med Genet 48: 183-189.
【非特許文献7】Lopez et al. (2006) Am J Hum Genet 79: 1125-1129.
【非特許文献8】Martin et al. (2005) Arch Neurol 62: 659-661.
【非特許文献9】Quinonez et al. (2013) Pediatr Neurol 48: 67-72.
【非特許文献10】Gibbons et al. (2002) J Mol Biol 319: 463-477.
【非特許文献11】Moslemi et al. (2010) N Engl J Med 362: 1203-1210.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、遺伝的原因の多数が未だ不明であるリー脳症について、確定診断に有用な新たな指標を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者らは、通常のリー脳症で認められる乳酸及びピルビン酸の上昇がみられず、ケトン血症を伴うという特徴を有する新規な型のリー脳症を発症した日本人非近親婚家系を対象に鋭意に変異解析した結果、X染色体上に存在するグリコーゲン生合成に関与するグリコゲニン2(Glycogenin 2; GYG2)遺伝子が当該新型リー脳症の責任遺伝子であることを同定し、本願発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、生体から分離された試料を用いて、対象生体がGYG2遺伝子の変異を有するか否かを調べることを含む、ケトン血症を伴うリー脳症患者又は保因者の検出方法を提供する。また、本発明は、生体から分離された試料を用いて、対象生体がGYG2遺伝子の変異を有するか否かを調べることを含む、ケトン血症を伴うリー脳症の原因変異の検出方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、乳酸及びピルビン酸の上昇がみられず、ケトン血症を伴うという特徴を有する新型のリー脳症の責任遺伝子が初めて同定され、本症の確定診断が可能になった。リー脳症の責任遺伝子として糖代謝に関与する遺伝子はこれまでに報告がなく、本願発明者らが初めて報告するものである。本発明の方法により診断が確定することでリー脳症患者の予後等を推測できる。また早期にGYG2遺伝子変異を特定できれば、血糖を補う等の処置を早期に開始して症状の悪化を防ぐことができるので、本症の治療ないしは管理に貢献できる。今後、本症の病態が解明されることにより、さらに有効な管理・治療法の開発が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】GYG2遺伝子の各アイソフォームの構造を対比して説明する図である。
【図2】A) 特徴的な型のリー脳症及びGYG2変異(c.665G>C, p.W222S)を有する家族の家系図である。四角、円、三角はそれぞれ男性、女性及び自然流産を表す。白が健常、黒が罹患者。自然流産については罹患状態不明。B) GYG2変異のシークエンシング波形データである。C) ヒトGYG2(アイソフォームa)の機能ドメインを示す図である。置換変異p.W222Sはグリコシルトランスフェラーゼファミリー8ドメイン内での変異であった。D) GYG2における第222番Wの進化的保存性を示す図である。酵母からヒトまで同一のアミノ酸を星印で示す。配列のアラインメントはCLUSTALW (http://www.genome.jp/tools/clustalw/)を用いて行なった。
【図3】GYG2変異を有するリー脳症患者の脳MRI像である。A及びB(患者II-2): T1強調画像(A)及びT2強調画像(B)で両側の淡蒼球に壊死病変を認めた(矢印)。1歳時に深部白質でT2延長が観察された。C~F(患者II-3): 1歳11ヶ月齢時のMRIでT1強度の低下(C)とT2信号の上昇(D)があり、尾状核、淡蒼球及び被殻の腫脹を認めた。矢印は大脳基底核における腫脹病変を示す。4歳時(E, F)には軽度の強度上昇が継続していたが大脳基底核の腫脹は消失した(F)。
【図4】A) ヒトGYG1(Protein Data Bankコード; 3T7O)ホモダイマーの結晶構造(Chaikuad et al. (2011) Proc Natl Acad Sci U S A 108:21028-21033.)である。αへリックスをリボン、βシートを矢印、ループを糸で示す。アミノ酸番号はヒトGYG1における番号であり、括弧内がGYG2における番号である。四角で囲った領域を拡大してBに示す。B) 野生型GYG2(左)及びp.W222S変異型GYG2(右)の構造の詳細図である。15位, 218位及び220位のアミノ酸残基及びUDPGを棒で示す。水素結合は破線で示す。C) FoldXソフトウェアで計算した、GYG2のp.W222S変異による自由エネルギー変化である。分子構造は全てPyMOL (www.pymol.org)を用いて描写した。
【図5】GYG2の酵素活性を解析した結果である。A) 組換えGYG2のウエスタンブロット解析結果である。野生型(WT)及び変異型(p.W222S)GYG2は予測されたサイズ(52 kDa)で検出された。βアクチン(42 kDa)は内部コントロールとして用いた。B) GYG2の14Cグルコシル化を表すオートラジオグラフィー像である。14Cのシグナルは、WTでは検出されたが、変異型では検出されずMockと同程度のレベルであった。C) 14Cシグナル強度を相対評価してグラフ化した結果である。Mockで検出された活性は内生のグリコゲニンに起因するものと考えられる。エラーバーは平均値の標準誤差を示す。
【図6】グリコーゲン貯蔵及び解糖経路における生化学的代謝の模式図である。A) グリコーゲン生合成の模式図である。GYG2は、チロシン(アイソフォームaでは第197位)においてO-結合自己グルコシル化を起こす触媒作用を有し、約10個のグルコース分子を付加する。その後のグリコーゲンシンターゼ及び分岐酵素による伸長反応で巨大分子グリコーゲンが形成される。B) GYG2機能障害における生化学的経路のモデルである。GYG2機能障害はグリコーゲン貯蔵の欠損を招くため、グリコーゲンが消耗しやすく、脂肪組織及び糖原性アミノ酸から糖新生が誘導される。左下の破線枠内がミトコンドリアにおける反応である。アセチルCoAの上昇により、ピルビン酸をアセチルCoAに不可逆的に変換するピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体が阻害され(図中の破線矢印)、ピルビン酸-オキザロ酢酸-リンゴ酸-オキザロ酢酸を経て糖新生が促進される。トリアシルグリセロールはグリセリン及び脂肪酸に代謝される。脂肪酸はβ酸化及びケトン生成に用いられる。矢印は正常な代謝の方向を示している。GYG2欠損患者において予測される主たる経路をグレーの矢印で示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の方法で診断可能なリー脳症(以下、LSと略記することがある)は、通常のリー脳症では認められないケトン血症を伴うという特徴を有する新型のリー脳症である。通常のリー脳症では血中及び髄液中の乳酸及びピルビン酸が上昇するが、当該新型のリー脳症では血中及び髄液中の乳酸及びピルビン酸は正常範囲である。以下、本発明で対象とする「ケトン血症を伴うリー脳症」を単に新型リー脳症と呼ぶことがある。

【0012】
GYG2はグリコーゲン生合成に関与するタンパク質である。GYG2タンパク質はグリコシルトランスフェラーゼファミリー8ドメインを有し、O-グルコシル化(自己グルコシル化)を経て同ドメイン内の特定のチロシン残基にグルコース付加を開始して、UDP-グルコース7~10残基を付加する(Bollen et al. (1998) Biochem J 336: 19-31; Lomako et al. (2004) Biochim Biophys Acta 1673: 45-55.; Zhai et al. (2001) IUBMB Life 51: 87-91.)。その後、グリコーゲンシンターゼ及び分岐酵素による伸長反応で巨大分子グリコーゲンが形成される。GYG2は血糖の恒常性に重要な役割を果たしている。

【0013】
GYG2遺伝子がコードするGYG2タンパク質には、アイソフォームa (GenBankアクセッション番号NM_001079855)、アイソフォームb (NM_003918)、アイソフォームc (NM_001184702)、アイソフォームd (NM_001184703)、アイソフォームe (NM_001184704)の少なくとも5種のアイソフォームが存在する。このうち少なくとも2つのアイソフォーム(a及びb)は肝臓、心臓及び膵臓で優先的に発現していることが報告されているが(Mu et al. (1997) J Biol Chem 272: 27589-27597)、他のアイソフォームについては発現及び機能の詳細は未だ不明である。なお、アイソフォームaでは、第8番~第226番アミノ酸の領域がグリコシルトランスフェラーゼファミリー8ドメインであり、グルコース付加が開始するチロシン残基は第197番チロシンである。

【0014】
配列表の配列番号1及び2は、NCBIのGenBankに上記のアクセッション番号で登録されているGYG2遺伝子アイソフォームaのコード領域のcDNA配列及びアミノ酸配列である。配列番号3及び4は、アイソフォームbのコード領域のcDNA及びアミノ酸配列である。本明細書では、GYG2遺伝子の塩基の位置及びGYG2タンパク質のアミノ酸残基の位置は、特に断りがない場合、アイソフォームa(配列番号1、2)における位置で表す。なお、アイソフォームaの第3番アミノ酸~C末端の領域とアイソフォームbの第34番アミノ酸~C末端の領域はアミノ酸配列が同一である。

【0015】
配列番号5~16には、5種のアイソフォームの中で最も長いアイソフォームbの各エクソン及びその近傍のイントロンの配列を表1の通りに示した。各アイソフォーム間を比較した相違点を表中及び図1に示す。

【0016】
【表1】
JP2015027261A_000003t.gif

【0017】
本発明では、生体から分離された試料を用いて、対象生体がGYG2遺伝子に変異を有するか否かを調べる。GYG2遺伝子の変異には、コードするGYG2タンパク質のごく少数のアミノ酸残基の変化(置換、欠失、挿入)の他、GYG2タンパク質の少なくとも一部の領域を欠失するような変異をもたらす遺伝子配列の変化が包含され、GYG2遺伝子領域の全体又は一部を欠失する変異も包含される。例えば、エクソン又はイントロン領域内での塩基の置換、欠失、挿入、重複等によるミスセンス変異、ナンセンス変異、フレームシフト変異、インフレーム欠失若しくは挿入変異(1個以上のアミノ酸の欠失若しくは挿入をもたらす)、スプライシング異常を生じる変異、あるいはGYG2遺伝子を含む染色体領域の微細欠失等が挙げられるが、これらに限定されない。なお、配列表に示されたGYG2遺伝子のゲノム配列、cDNA配列、及びコードされるGYG2タンパク質のアミノ酸配列は、正常なGYG2配列の典型例であり、GYG2遺伝子変異の有無は、配列表に示されたGYG2遺伝子の配列を基準とし、この基準配列との対比により判断され得る。

【0018】
新型リー脳症は劣性遺伝であり、責任遺伝子GYG2はX染色体上に存在する。従って、GYG2遺伝子の有害な変異がヘミ接合で(対象生体が男性の場合)、又はホモ接合若しくは複合ヘテロ接合で(対象生体が女性の場合)検出された場合に、該対象生体は新型リー脳症であると判断することができる。GYG2遺伝子の有害な変異がヘテロで検出された場合、その対象生体(女性)は保因者である。女性保因者から生まれた女児が、GYG2遺伝子の有害な変異を親から譲り受け、かつ、他方のGYG2遺伝子アリルに有害な変異がde novoで生じた場合には、女性患者の発生が想定される。

【0019】
「有害な変異」ないしは「病原性の変異」とは、GYG2タンパク質の正常な機能が損なわれる変異であり、具体的には、多量体の形成、O-グルコシル化、UDP-グルコース残基の付加を経て、グリコーゲンシンターゼ及び分岐酵素の作用を受けてグリコーゲンになるステップのいずれかの段階が障害される変異である。典型的には、GYG2の「有害な(病原性の)変異」は、GYG2タンパク質のグルコシルトランスフェラーゼ活性が損なわれる変異であり得る。進化的に高度に保存されたアミノ酸残基における変異、とりわけGYG2タンパク質の機能ドメイン内での変異は、有害な変異である蓋然性が高い。機能ドメイン内の進化的保存性の高い1個以上のアミノ酸残基を欠失する変異や、そのようなアミノ酸残基が性質の異なるアミノ酸に置換する変異は、通常、有害な変異である。検出された塩基の変異が、多数の健常者集団には認められない変異であったり、NCBIのdbSNPや1000 Genomes Project等の塩基配列の多様性に関する周知のデータベースに登録されていないまれな塩基変異である場合も、本発明で指標となる有害な変異と考えて差し支えない。

【0020】
ある遺伝子中のアミノ酸置換変異が病原性変異であるか否かを調べることができる各種の予測ツールが知られている。例えば、SIFT (http://sift.jcvi.org/)、PolyPhen (http://genetics.bwh.harvard.edu/pph/)、PolyPhen-2 (http://genetics.bwh.harvard.edu/pph2/)、Mutation Taster (http://neurocore.charite.de/MutationTaster/index.html)、Align GVGD (http://agvgd.iarc.fr/agvgd_input.php)などが知られている。実際に検出されたGYG2変異について、このような公知の予測ツールを用いて有害な変異であるかどうかを判断することも可能である。SIFTでは、スコア0.05未満の場合、置換はintolerant(タンパク質機能変化に影響あり)と予測される。PolyPhenでは、スコア2.0を超えた場合、病原性と予測される。PolyPhen-2では、スコア0.000 (良性の可能性が最も大) ~0.999 (有害の可能性が最も大)でスコア付けされ、スコアをもとにした判定がpossiblyあるいはprobably damagingであるときに、病原性変異が強く示唆される。Align GVGDでは、Class C0 (可能性小) ~Class C65 (可能性大)の範囲でクラススコア評価され、クラススコアC55以上の変異であれば病原性変異が示唆される。

【0021】
また、タンパク質立体構造予測からGYG2タンパク質の機能が損なわれる変異かどうかを推定することも可能である。タンパク質の構造予測は公知のデータベース及びソフトウェア(例えば、データベースEnsembl、RCSB Protein Data Bank、ソフトウェアPyMOL等、下記実施例参照)を用いて容易に実施できる。

【0022】
下記表2に示した変異は、実施例において非近親婚家系から同定された新型リー脳症の病因変異である。この変異は進化的に高度に保存されたアミノ酸残基において生じており(図2)、健常者集団には見出されないまれな変異であった。

【0023】
【表2】
JP2015027261A_000004t.gif

【0024】
もっとも、表2の変異は本発明で指標となるGYG2遺伝子変異の一例であり、本発明の範囲はこのような具体例に限定されるものではない。例えば、アイソフォームaのグリコシルトランスフェラーゼファミリー8ドメイン内の第215番Phe、第217番Gly、第220番Lys、第221番Proも、図2Dに示す通り酵母からヒトに至るまで進化的に高度に保存されており、これらのアミノ酸残基が置換又は欠失等した場合でも表2に記載の変異と同様に病因変異となる蓋然性が非常に高い。中でもとりわけ第220番Lysは、結晶構造解析(図4)によると、第222番Trpと共にUDP-グルコースの結合に必須的と考えられる疎水性コアに関与している残基であり、第220番Lysが性質の異なるアミノ酸(例えば環状側鎖を有するアミノ酸)に変異した場合にもp.W222S変異と同様にUDP-グルコースの結合が障害されると考えられるので、新型リー脳症の病因変異になるものと考えられる。第220番Lysと同様に疎水性コアに関与している第17番Tyr(図4)の変異も同様に病因変異になると考えられる。また、他のアイソフォームにおいて上記に例示したアミノ酸残基に対応する残基(例えば、アイソフォームaの第17番チロシン、第215番フェニルアラニン、第217番グリシン、第220番リシン、第221番プロリン、及び第222番トリプトファンは、アイソフォームbの第48番チロシン、第246番フェニルアラニン、第248番グリシン、第251番リシン、第252番プロリン、及び第253番トリプトファンにそれぞれ対応する)が変異した場合も同様に病因変異になると考えられる。

【0025】
GYG2遺伝子の変異は、ゲノムDNAやRNA等の核酸試料を用いて塩基配列を解析することで検出可能である。とりわけ、ゲノムDNA試料を用いてゲノム配列の解析を行なうことが最も確実で望ましい。ゲノムDNA等の核酸試料は、末梢血や口腔粘膜スワブ等から常法により容易に調製することができる。また、種々の出生前遺伝子検査法が公知であり、胎児にGYG2遺伝子変異が存在するかどうかを調べることも可能である。例えば、胎児から細胞を採取して検査する方法(羊水、絨毛、臍帯血を使用)、母体血中に混在している胎児細胞を用いて胎児の遺伝子変異を検査する非侵襲の検査方法、体外受精した受精卵の1細胞を用いる方法(着床前診断)など、種々の手法が公知である。上記非侵襲の検査方法では、胎児が「被検者」であり、母体血試料中に含まれる胎児細胞試料が「被検者から分離された試料」に該当する。

【0026】
タンパク質のアミノ酸配列は、エクソン領域だけではなくイントロン領域における変異によっても影響され得るが、遺伝子検査では通常、エクソン及びその近傍数十~数百塩基程度、例えば30~50塩基程度のイントロン領域を含めて検査するのが一般的である。本発明でも、エクソン及びその近傍のイントロンを対象に配列解析を行えばよい。ゲノム配列の解析により変異を検出する場合には、本願配列表の配列番号5~16や公知のデータベースから入手可能なGYG2遺伝子のゲノム配列を参照して適宜プライマーを設計し、ゲノムDNA試料を用いて常法によりシークエンシングを行えばよい。対象生体ゲノムDNA上のGYG2遺伝子の塩基配列を決定し、これを野生型配列と比較することにより、変異を詳細に同定できる。決定した塩基配列は、例えばSeqScape (登録商標) 等の公知のソフトウェアを用いて解析することにより、変異の検出やプロファイリングを容易に行うことができる。

【0027】
変異がホモかヘテロかは、シークエンスの波形データから確認できる。ヘテロ変異の場合、同一部位に2種類のシグナルが重なることになる。ヘテロ変異が2箇所以上ある場合、クローニングして配列決定すれば、変異が複合ヘテロであるかどうか(すなわち、変異が異なる染色体上に存在するかどうか)を確認できる。

【0028】
ゲノムからGYG2遺伝子全長が欠失している場合には、CDS領域の増幅断片が得られない。一部領域が欠失している場合でも、プライマーの設定部位によってはゲノムDNAから増幅断片が得られない。従って、増幅断片の有無に基づいてGYG2遺伝子領域の全部又は一部が欠失しているか否かを調べることが可能である。ゲノムからGYG2遺伝子の一部領域が欠失している場合には、野生型と比較してより小さいサイズの増幅断片が得られることもあるので、増幅断片のサイズに基づいて一部領域の欠失を判断することもできる。

【0029】
生体内でGYG2が変異により機能を喪失した場合、グリコーゲン貯蔵が損なわれるが、脂肪組織や糖原性アミノ酸(Alaなど)から血中グルコースが供給されるため(図6B)、患者体内で生じているGYG2変異を低血糖として捉えることは困難である。しかし、このような状態が続くことで体内の各組織のエネルギーが消耗し、症状が悪化すると考えられる。本発明により早期にGYG2変異を同定して新型リー脳症の確定診断を行なうことで、患者に対し早期に血糖を補う処置を開始することができ、症状の悪化を防ぐことが可能になる。
【実施例】
【0030】
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0031】
<方法>
被検者
リー脳症(LS)と診断された男性患者ら及びその両親からインフォームドコンセントを得た後、末梢血サンプルを採取した。QuickGene-610L(富士フィルム社)を指示書に従い用いて末梢血白血球からDNAを抽出した。家族員全員に由来するリンパ芽球様細胞株を樹立した。本研究は横浜市立大学医学部の倫理委員会に承認された。
【実施例】
【0032】
全エキソーム配列決定
2名の患者(図1a中のII-2及びII-3)について、全エキソーム配列決定(Whole Exome Sequencing; WES)を行なった。末梢血より抽出したゲノムDNA(各サンプル3μg)をCovaris S2 system(Covaris社)を用いて200bpに剪断した。ゲノムパーティショニングは、II-2についてはSureSelect Human All Exon 50 Mb Kit(Agilent Technologies社)を、II-3についてはSureSelect Human All Exon Kit v4を用いて行なった。調製したライブラリーの配列決定はペアエンド法により行なった。インデックスリードを7bpとし、II-2については108bpのペアエンドをGenome Analyzer IIx(Illumina社)にて、II-3については101bpのペアエンドをHiseq2000(Illumina社)にて、それぞれ配列を決定した。Novoalign 3.0(http://www.novocraft.com)によりヒトリファレンスゲノムhg19に対してリードのアライメントを行なった。アライメントされたリードはPicard(http://picard.sourceforge.net)により処理してPCR duplicateを除去した。変異コールはGenome Analysis Toolkit 1.3-24(GATK; http://www.broadinstitute.org/gatk)を推奨される条件(GATK Best Practice Variant Detection v3; http://www.broadinstitute.org/gatk/guide/topic?name=best-practices)にて使用して実施し、ANNOVAR (2012Jun24) (http://www.openbioinformatics.org/annovar)によりアノテーションを行なった。これらの基準を用いて、コード領域及びその隣接する30pbの領域に位置する変異のみを抽出し、dbSNP build 137 (MAF≧0.01) (http://genome.ucsc.edu/cgi-bin/hgTrackUi?hgsid=316787363&g=snp135Common&hgTracksConfigPage=configure)に登録されているコモン変異を除外した。
【実施例】
【0033】
ミトコンドリアゲノムの変異を検出するため、各エキソームリードはまずNovoalign-2.08.02 (http://www.novocraft.com/)を用いてヒトミトコンドリアゲノムに対してアライメントし、次いでfastqフォーマットに変換した。これらのリードをNovoalign-2.08.02を用いてヒトリファレンスゲノムGRCh37 (NCBI)(核及びミトコンドリアのDNA)に対してアライメントし、次いでPicardにより処理してPCR duplicateを除去した。変異コールは上記と同様にGenome Analysis Toolkit 1.3-24を推奨される条件(GATK Best Practice Variant Detection v3)にて使用して実施した。このフローにより、コールされたミトコンドリアゲノムの全ての変異について、MITOMAP (http://www.mitomap.org/bin/view.pl/MITOMAP)による病原性か否かのチェックが行なわれた。
【実施例】
【0034】
候補変異の選択
家系図より、本疾患が常染色体劣性遺伝又はX染色体劣性遺伝であると仮定した。この仮定に従い、BITS(日本国東京)が創出したスクリプトを使用して、表4(後掲)に記載の基準で変異をフィルタリングした。
【実施例】
【0035】
原因遺伝子の同定
常染色体劣性モデル及びX染色体劣性モデルに基づく全ての候補変異について、両親及び患者兄弟においてサンガーシークエンシングにより配列の確認を行なった。ゲノムDNAを鋳型として増幅したPCR産物の配列をABI3500xl自動シークエンサー(Applied Biosystems社)にて決定し、Sequencher 5.0 (Gene Codes Corporation社)を用いて解析を行なった。家系図によると本疾患はミトコンドリア遺伝の可能性もあり、またLSはミトコンドリアゲノム変異により生じることが知られているので、既報のアルゴリズム(Picardi and Pesole (2012) Nat Methods 9: 523-524. doi: 10.1038/nmeth.2029)によりエキソームデータを用いてミトコンドリア全ゲノムの検査も行なった。
【実施例】
【0036】
構造モデリング
GYG2ミスセンス変異(アイソフォームa: NM_001079855中に発見されたc.665G>C, p.W222S)が分子構造レベルでその機能に及ぼす作用を評価するため、変異型分子構造を構築し、当該変異により生じる自由エネルギー変化をFoldXソフトウェア (version 3.0) (Guerois et al. (2002) J Mol Biol 320: 369-387.; Khan and Vihinen (2010) Hum Mutat 31: 675-684.)を用いて計算した。ヒトGYG2の結晶構造が利用不能であったため、ヒトGYG1(Protein Data Bank code; 3T7O)の結晶構造を構造モデルとして使用した。変異をGYG1ホモダイマーの1つのサブユニットに導入した。FoldXエネルギー機能はリガンドを扱えないことから、GYG1の結晶構造に含まれるリガンドは無視して計算を行なった。計算は3回反復して行ない、得られたデータは平均値±標準偏差で表した。
【実施例】
【0037】
哺乳動物発現ベクターの調製
pENTR221に組み込まれたヒトグリコゲニン2アイソフォームaのcDNAクローン(IMAGE Clone ID: 100008747)は、かずさDNA研究所より購入した。ミスセンス変異(c.665G>C, p.W222S)は、QuikChange II XL site-directed mutagenesis kit(Agilent Technologies社)を用いて部位特異的変異誘発により導入した。野生型及び変異型のC' V5/6xHisタグ付加GYG2コンストラクトは、pcDNA-DEST40(Invitrogen社)を用いてGatewayシステム(Invitrogen社)のLR組換えにより作出した。タグ無しコンストラクトは、最後のコドンを変異導入により停止コドンに変化させて作出した。
【実施例】
【0038】
自己グルコシル化解析
GYG2のグルコシルトランスフェラーゼ活性は既報(Lomako et al. (1988) FASEB J 2: 3097-3103)に若干の変更を加えた手法により測定した。簡潔に記載すると、10%熱不活化ウシ胎児血清(FBS)(Gibco-BRL社)、2 mM L-グルタミン(Sigma-Aldrich社)及び1%ペニシリン-ストレプトマイシン(Sigma-Aldrich社)を含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)(Sigma-Aldrich社)中でCOS-1細胞を維持した。既報(Mu and Roach (1998) J Biol Chem 273: 34850-34856)の通り、~80%コンフルエントのCOS-1細胞(~1×107)に、野生型のヒトGYG2 (アイソフォームa)を発現するプラスミド又はW222S変異を導入したプラスミドのいずれか5μgをXtreamGENE9 DNA transfection reagent (Roche社) を用いて一過的にトランスフェクトした。24時間後、細胞を回収し、300μLのバッファー(50 mM HEPES, 0.5% Triton X-100, 1×EDTA-フリープロテアーゼインヒビターカクテル錠(Roche Applied Science社), 1×ホスファターゼ阻害剤カクテル(ナカライテスク社) 及び0.5mM β-メルカプトエタノール)中で溶解させた(Mu et al. (1997) J Biol Chem 272: 27589-27597)。14,000 rpmで15分間遠心した後、可溶性画分を回収し、100 mM HEPES (pH7.5), 10 mM MgCl, 4 mMジチオスレイトール(DTT) 及び40μM UDP-[14C]-グルコース(250 mCi/mmol; PerkinElmer社、米国) を含む2×反応バッファー10μLと可溶性画分10μLを混合した(Cao et al. (1993) J Biol Chem 268: 14687-14693)。30℃で30分間インキュベートした後、2×Laemmli sample buffer (Sigma-Aldrich社) 20μLを添加して反応を停止させた(Viskupic et al. (1992) J Biol Chem 267: 25759-25763)。各サンプル15μLをSDS-ポリアクリルアミド電気泳動に付した。Gel drying solution (Bio-Rad Laboratories社)で30分間処理した後、ゲルを乾燥させた。乾燥させたゲルをX線フィルムに2週間曝露し、GYG2へのUDP-[14C]-グルコースの取り込みを検出した。さらに、イメージングアナライザーBAS2500 (富士フィルム社)を用いて14Cシグナルの強度を評価した。実験は独立で3回反復して行なった。
【実施例】
【0039】
ウエスタンブロット解析
GYG2タンパク質の検出には、ウサギポリクローナル抗GYG2抗体(1:500希釈; Abcam社、Cat.#HPA00549)及びセイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRP)結合抗ウサギIgG(1:10,000希釈; Jackson ImmunoResearch社、Cat.#111-035-003)を用いた。免疫ブロットの化学発光反応は、基質としてSupersignal West dura(Thermo Fisher Scientific社)を用いて行なった。化学発光シグナルの画像はFluorChem 8900(Alpha Innotech社)によりキャプチャーした。シグナル強度はAlphaEase FC (Alpha Innotech社)により測定した。実験は独立に3回反復して行なった。
【実施例】
【0040】
<結果>
臨床所見
患者II-2(図2a、表3)は、近親婚ではない両親の子として出生した26歳齢の男性である。母親は自然流産の経験あり。患者II-2は平穏な妊娠経過の末に妊娠39週で仮死なく出生した。出生時体重3,680 g (+1.6 SD)、身長50.0 cm (-0.5 SD)、頭囲34.0 cm (- 0.5 SD)。初期発育は正常であり、4ヶ月で定頸及び玩具に手を伸ばす動作、6ヶ月で寝返り、7ヶ月で二指間つまみ。10ヶ月時に座位の異常があり病院Aに来院、来院時の体重は9,120g (+0.0 SD)、身長76.0 cm (+1.3 SD)、頭囲48.0 cm (+1.4 SD)。笑み及び嚥下は良好。両側斜視を認めた。小奇形は認めず。筋緊張は正常。バビンスキー徴候陰性で深部腱反射は正常。体幹及び四肢のアテトーゼ様運動を認めた。引き起こし反応において内反尖足を呈した。乳酸値及びピルビン酸値はそれぞれ12.2 mg/dl及び0.89 mg/dl (L/P比=13.7)で正常。血液ガス、血糖、アンモニア、AST、ALT、BUN、クレアチン、TSH、T3、T4、アミノ酸及び尿中有機酸分析等のその他の臨床検査は全て正常。脳波(EEG)は異常なし。運動障害性脳性麻痺が疑われ、リハビリテーション部に紹介。2歳ではいはい可能。6歳時に発熱を伴う意識喪失後の全身性強直間代痙攣を経験し、病院Bに入院。大脳基底核の両側梗塞と診断された。EEGは異常なしであったが、症候てんかんの疑いがあったためクロナゼパムを開始。9歳時に再度病院Aに来院。体重19.1kg (-4.5 SD)、身長115.0 cm (-2.8 SD)。数語の発語が不能になり、利き手が右から左に変化していた。深部腱反射の上昇を伴う痙縮やバビンスキー徴候陽性をはじめ、退行の他の徴候も認めた。さらに、両側性の股関節脱臼を患い、足部変形は悪化。四肢の全てに拘縮を認めた。脳MRIにより淡蒼球の両側性壊死病斑を発見(図3a, b)。EEG及び運動伝達速度は正常。乳酸値及びピルビン酸値をはじめ臨床検査は全て正常。12歳時に急性気管支炎で入院、入院時に血中ケトン体の上昇を認めた: アセト酢酸値720μmol/l; 3-OHBA値974μmol/l、尿中ケトン(+++)。血中のアンモニア濃度(18μmol/l)、糖濃度(125 mg/dl)及び乳酸/ピルビン酸レベル(5.1/0.29 mg/dl) はいずれも正常範囲。血中ケトン体値は発熱が終わると正常値に戻った。線維芽細胞を用いた酵素学的分析により、3-ケトチオラーゼ及びスクシニルCoA:3-オキソ酸CoAトランスフェラーゼの欠損は除外された。臨床症状及び繰り返し行なったMRIの所見は、患者II-2の疾患が非進行性であることを示している。現在、患者II-2は一人座り及び発語が不能。カルバマゼピン及びラモトリジンを追加しているが、依然として全身性強直間代痙攣を年に数回呈している。過緊張対策としてダントロレンナトリウム、ジアゼパム、バクロフェン及びレボドパ等の医薬も服薬している。
【実施例】
【0041】
患者II-3(図2a、表3)は、II-2の弟であり、異常なく出生した。平穏な妊娠経過の末に妊娠37週で仮死なく出生。出生時体重3,668 g (+1.5 SD)、身長50.0 cm (+0.5 SD)、頭囲36.0 cm (-0.5 SD)。1ヶ月齢で原因不明の細菌性髄膜炎を罹患。意識喪失後の痙攣と胃腸炎を1歳11ヶ月齢で発症。脳MRIにより大脳基底核の著明な腫脹を認めた(図3c、3d)。大脳基底核の両側梗塞と診断された。その後に患者II-3は左利きに変化。2歳時に外科手術にて両側性内斜視を矯正。4歳時に検査のため病院Aに来院、来院時体重11.0 kg (-2.2 SD)、身長92.5 cm (-1.2 SD)、頭囲49.5 cm (-1.3 SD)。あやし笑いは可能。定頸せず、運動機能の発達は遅延。小奇形は認めず。筋緊張は低張。深部腱反射は悪化しバビンスキー徴候陽性、足クローヌスあり。内反尖足あり。血中アセト酢酸値は1,270μmol/l、3-OHBAは3,270μmol/lと顕著に上昇していた。血中乳酸値及びピルビン酸値は正常(それぞれ6.2 mg/dl及び0.48 mg/dl、L/P比=12.9)。脳脊髄液の乳酸値及びピルビン酸値はそれぞれ11.3 mg/dl及び1.11 mg/dlとわずかに上昇していた。血液ガス、血糖、アンモニア、AST、ALT、BUN、クレアチン、TSH、T3、T4、アミノ酸及びリソソーム酵素等のその他の臨床検査は全て正常。尿中有機酸分析ではアセト酢酸、3-OHBA、及び3-OH-イソ吉草酸の上昇を認めた。EEGでは発作波を認めず。筋生検でも特異的異常を認めず、赤色ぼろ線維は確認されなかった。シトクロームcオキシダーゼの染色は正常(データ示さず)。脳MRIにより大脳基底核及び脳深部白質でのT2延長を確認した(図3e、3f)。5歳時に発熱を伴う嗜眠を呈し、6歳時にも再び嗜眠を呈した。生化学分析により尿中ケトン体の顕著な上昇が確認された: アセト酢酸値1,337μmol/l; 3-OHBA値4,845μmol/l、尿中ケトン(+++)。血中のアンモニア濃度(28μmol/l)、糖濃度(78 mg/dl)、乳酸値(5.1 mg/dl) 及びピルビン酸値(0.43 mg/dl)はいずれも正常範囲。血液ガス分析により、アニオンギャップの上昇(22.4 mEq/l、正常値は12+2)を伴う代謝性ケトアシドーシスが確認された。静脈内輸液により数日以内に意識及び生化学的測定値が正常に回復した。同様のケトアシドーシス発作は繰り返し観察され、左腎の形成不全と神経因性膀胱障害が8歳時に確認された。間欠導尿を開始し、尿路感染症を繰り返して慢性腎不全となった。繰り返し行なった脳MRI検査の所見は、大脳及び小脳の萎縮の進行を示している。患者II-3は現在19歳であり、運動機能及び知的能力の獲得は4歳時以降認められていない。過緊張対策としてダントロレンナトリウム及びジアゼパムを、腎不全対策として球形吸着炭及びアロプリノールを服薬している。
【実施例】
【0042】
【表3】
JP2015027261A_000005t.gif
【実施例】
【0043】
エキソーム配列決定によるGYG2変異の同定
合計2,433,011,483 bps (II-2) 及び7,926,169,749 bps (II-3) をコードDNA配列(CDS)にマップした。CDSの83.3%及び96.0%が10以上のリードでカバーされていた。本症候群が常染色体劣性遺伝又はX染色体劣性遺伝であるという仮説に基づき、常染色体上のホモ又は複合ヘテロ変異及びX染色体上のヘミ変異に着目した。インシリコ解析で4つの候補遺伝子が得られたが、GYG2遺伝子上のヘミ接合ミスセンス変異のみがこれらの遺伝モデル(常染色体劣性又はX染色体劣性)に合致した(表4)。GYG2 (アイソフォームa: NM_001079855) における変異c.665G>C (p.W222S) が患者2名ではヘミ、母親ではヘテロであることはサンガーシークエンシングで確認済みであり(図2b)、X染色体劣性モデルに合致した。該変異は1000 Genomesデータベース及びESP6500には存在しなかった。さらに、エキソーム配列解析の結果、ミトコンドリアDNAには病原性変異が検出されなかった(データ省略)。
【実施例】
【0044】
【表4】
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【実施例】
【0045】
GYG2遺伝子がコードするGYG2タンパク質には、アイソフォームa (NM_001079855)、アイソフォームb (NM_003918)、アイソフォームc (NM_001184702)、アイソフォームd (NM_001184703)、アイソフォームe (NM_001184704)の少なくとも5種のアイソフォームが存在する。このうち少なくとも2つのアイソフォーム(a及びb)は肝臓、心臓及び膵臓で優先的に発現していることが報告されているが(Mu et al. (1997) J Biol Chem 272: 27589-27597)、他のアイソフォームについては発現及び機能の詳細は未だ不明である。更に、我々はGYG2が胎児期および成人期において、脳にも発現していることを明らかにした。グリコシルトランスフェラーゼファミリー8ドメインを有し、O-グルコシル化(自己グルコシル化)を経てそのチロシン残基(アイソフォームaではY197)にグルコース付加を開始するほか、さらにUDP-グルコース7~10残基を自身に付加することもできる(Bollen et al. (1998) Biochem J 336: 19-31; Lomako et al. (2004) Biochim Biophys Acta 1673: 45-55.; Zhai et al. (2001) IUBMB Life 51: 87-91.)。グリコシルトランスフェラーゼファミリー8ドメイン内のW222は酵母S. cerevisiaeからヒトに至るまで進化的に高度に保存されている(図2C, 2D)。このアミノ酸残基は全てのアイソフォームが有している。従って、この残基における変異によりGYG2タンパク質の生物学的機能が障害されるものと考えられる。
【実施例】
【0046】
ヒトGYG2におけるp.W222S変異の構造的考察
GYG2の結晶化構造解析がなされていないため、GYG2 (アイソフォームa) のアミノ酸残基W222をヒトGYG1の結晶構造(Chaikuad et al. (2011) Proc Natl Acad Sci U S A 108:21028-21033.)にマップした。W222はY17及びK220と共にUDP-グルコース (UDPG) 結合部位近傍の疎水性コアに関与している (図4A, 4B)。Y17及びK220の側鎖はUDPGに水素結合しており、前者はさらにファンデルワールス力によりUDPGのウリジン環にスタッキングしている。従って、UDPGの結合には疎水性コアの形成が必須的であると考えられる。
【実施例】
【0047】
W222S変異がタンパク質の安定性に及ぼす影響を調べるため、変異構造をモデリングし、FoldXソフトウェアを用いて該変異による自由エネルギー変化を計算した。その結果、該変異は自由エネルギーを約4 kcal/mol増大させ、タンパク質構造を不安定化するものと予測された(図4C)。このことは、W222S変異によりUDPGの結合が障害されることを示唆している (図4B)。
【実施例】
【0048】
自己グルコシル化解析
インビトロでGYG2変異の機能的効果を調べるため、COS-1細胞内で野生型(WT)及びW222S変異型のGYG2 (アイソフォームa) を一過的に過剰発現させ、自己グルコシル化の観察により各GYG2のグルコシルトランスフェラーゼ活性を測定した。免疫ブロッティングにより、組換えWT GYG2及び変異型GYG2のバンドが予測される通りの52 kDaのサイズで検出され、発現量は同程度であった(図5A)。WT GYG2が妥当なグルコシルトランスフェラーゼ活性を示したのに対し、変異型GYG2は酵素活性がほぼ完全に失われており、Mockと同レベルであった(図5B, 5C)。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5