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明細書 :鉄損測定方法および鉄損測定装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2016-133355 (P2016-133355A)
公開日 平成28年7月25日(2016.7.25)
発明の名称または考案の名称 鉄損測定方法および鉄損測定装置
国際特許分類 G01R  33/12        (2006.01)
G01R  27/02        (2006.01)
FI G01R 33/12 Z
G01R 27/02 A
請求項の数または発明の数 16
出願形態 OL
全頁数 24
出願番号 特願2015-007128 (P2015-007128)
出願日 平成27年1月16日(2015.1.16)
発明者または考案者 【氏名】清水 敏久
【氏名】高野 耕至
【氏名】石井 仁
【氏名】齋藤 泰典
【氏名】長島 仁
出願人 【識別番号】305027401
【氏名又は名称】公立大学法人首都大学東京
【識別番号】503103109
【氏名又は名称】岩通計測株式会社
個別代理人の代理人 【識別番号】100099759、【弁理士】、【氏名又は名称】青木 篤
【識別番号】100092624、【弁理士】、【氏名又は名称】鶴田 準一
【識別番号】100119987、【弁理士】、【氏名又は名称】伊坪 公一
【識別番号】100114018、【弁理士】、【氏名又は名称】南山 知広
審査請求 未請求
テーマコード 2G017
2G028
Fターム 2G017BA03
2G017BA05
2G017BA15
2G017CA17
2G028BB07
2G028CG08
2G028CG11
2G028CG19
2G028CG20
2G028DH11
2G028FK01
2G028FK09
2G028GL07
2G028GL12
2G028MS02
要約 【課題】軟磁性体鉄心のコイルに流れる電流の振幅および両端電圧に対する電流の相対位相差を正確に測定し、鉄損を正確に測定する方法の提供。
【解決手段】電圧測定回路1、電流検出用素子3および電流測定回路2を使用して被測定試料7の鉄損を測定する鉄損測定方法であって、電流検出用素子のインピーダンスの大きさの周波数特性と、電圧測定回路に対する電流検出用素子および電流測定回路の相対測定位相誤差の周波数特性を記憶する準備工程と、被測定試料7と電流検出用素子の直列回路に周期信号を印加し、被測定試料の両端電圧および電流を測定し、周波数成分に分解する第1計測工程と、準備工程で記憶しておいたデータを用いて被測定試料に流れる電流の振幅を周波数成分ごとに補正し、両端電圧に対する電流の相対位相差を周波数成分ごとに補正する第2計測工程と、鉄損を算出する第3計測工程と、を有する鉄損測定方法。
【選択図】図6
特許請求の範囲 【請求項1】
電圧測定回路、電流検出用素子および電流測定回路を使用して被測定試料の鉄損を測定する鉄損測定方法であって、
前記電流検出用素子のインピーダンスの大きさの周波数特性と、前記電圧測定回路に対する前記電流検出用素子および前記電流測定回路の相対測定位相誤差の周波数特性を記憶する準備工程と、
被測定試料と前記電流検出用素子を直列に接続した直列回路に周期信号を印加し、前記被測定試料の両端電圧を前記電圧測定回路で、前記被測定試料に流れる電流を前記電流検出用素子および前記電流測定回路で測定し、前記被測定試料の両端電圧と前記被測定試料に流れる電流を周波数成分に分解する第1計測工程と、
前記準備工程で記憶しておいたデータを用いて、前記被測定試料に流れる電流の振幅を周波数成分ごとに補正し、前記被測定試料の両端電圧に対する前記被測定試料に流れる電流の相対位相差を周波数成分ごとに補正する第2計測工程と、
前記被測定試料の両端電圧と前記振幅と前記測定試料の両端電圧に対する相対位相差が補正された前記被測定試料に流れる電流とを用いて、被測定試料の鉄損を算出する第3計測工程と、を有することを特徴とする鉄損測定方法。
【請求項2】
前記準備工程は、
基準試料のインピーダンスの大きさの周波数特性と周波数位相特性を測定し記憶する第1準備工程と、
前記基準試料の両端電圧を前記電圧測定回路で、前記基準試料に流れる電流を前記電流検出用素子および前記電流測定回路で測定し、前記第1準備工程で記憶しておいた測定データを用いて、前記電流検出用素子のインピーダンスの大きさの周波数特性と、前記電圧測定回路に対する前記電流検出用素子および前記電流測定回路の相対測定位相誤差の周波数特性を算出し、記憶する第2準備工程と、を有する請求項1に記載の鉄損測定方法。
【請求項3】
前記第1測定工程または前記準備工程を実行する前に、
前記電圧測定回路および前記電流測定回路の周波数振幅特性を、ガウシアン特性あるいは最大平坦特性に調整し、前記電圧測定回路および前記電流測定回路の周波数位相特性を直線に調整し、遮断周波数を測定周波数の上限の10倍以上にする装置設定工程を、有する請求項2に記載の鉄損測定方法。
【請求項4】
前記第2計測工程では、前記被測定試料に流れる電流の位相が、前記被測定試料の両端電圧の位相に合わせるように補正する請求項1から3のいずれか1項に記載の鉄損測定方法。
【請求項5】
前記電流検出用素子は、シャント抵抗である請求項1から4のいずれか1項に記載の鉄損測定方法。
【請求項6】
前記電流検出用素子は、カレントセンサー抵抗である請求項1から4のいずれか1項に記載の鉄損測定方法。
【請求項7】
前記被測定試料が1次巻線および2次巻線を有する場合には、前記第1計測工程において、前記1次巻線に前記周期信号を印加し、前記2次巻線の両端電圧を測定する請求項1から6のいずれか1項に記載の鉄損測定方法。
【請求項8】
電圧測定回路、電流検出用素子および電流測定回路を使用して被測定試料の鉄損を測定するための、前記電流検出用素子のインピーダンスの大きさの周波数特性と、前記電圧測定回路に対する前記電流検出用素子および前記電流測定回路の相対測定位相誤差の周波数特性を測定する方法であって、
基準試料のインピーダンスの大きさの周波数特性と周波数位相特性を測定し記憶する第1準備工程と、
前記基準試料の両端電圧を前記電圧測定回路で、前記基準試料に流れる電流を前記電流検出用素子および前記電流測定回路で測定し、前記第1準備工程で記憶しておいた測定データを用いて、前記電流検出用素子のインピーダンスの大きさの周波数特性と、前記電圧測定回路に対する前記電流検出用素子および前記電流測定回路の相対測定位相誤差の周波数特性を算出する第2準備工程と、を有する方法。
【請求項9】
被測定試料の両端電圧を測定する電圧測定回路と、
電流検出用素子と、
前記電流検出用素子に流れる電流を検出する電流測定回路と、
制御演算部と、を備え、
前記制御演算部は、
前記電流検出用素子のインピーダンスの大きさの周波数特性と、前記電圧測定回路に対する前記電流検出用素子および前記電流測定回路の相対測定位相誤差の周波数特性と、を記憶する記憶部を有することを特徴とする鉄損測定装置。
【請求項10】
前記制御演算部は、
被測定試料と前記電流検出用素子を直列に接続した直列回路に周期信号を印加し、前記被測定試料の両端電圧を前記電圧測定回路で、前記被測定試料に流れる電流を前記電流検出用素子および前記電流測定回路で測定し、前記被測定試料の両端電圧と前記被測定試料に流れる電流を周波数成分に分解する第1計測工程と、
前記準備工程で記憶しておいたデータを用いて、前記被測定試料に流れる電流の振幅を周波数成分ごとに補正し、前記被測定試料の両端電圧に対する前記被測定試料に流れる電流の相対位相差を周波数成分ごとに補正する第2計測工程と、
前記被測定試料の両端電圧と前記振幅と前記測定試料の両端電圧に対する相対位相差が補正された前記被測定試料に流れる電流とを用いて、被測定試料の鉄損を算出する第3計測工程と、実行する請求項9に記載の鉄損測定装置。
【請求項11】
前記制御演算部は、
基準試料のインピーダンスの大きさの周波数特性と周波数位相特性を測定し記憶する第1準備工程と、
前記基準試料の両端電圧を前記電圧測定回路で、前記基準試料に流れる電流を前記電流検出用素子および前記電流測定回路で測定し、前記第1準備工程で記憶しておいた測定データを用いて、前記電流検出用素子のインピーダンスの大きさの周波数特性と、前記電圧測定回路に対する前記電流検出用素子および前記電流測定回路の相対測定位相誤差の周波数特性を算出し、記憶する第2準備工程と、を実行する請求項10に記載の鉄損測定装置。
【請求項12】
前記電圧測定回路および前記電流測定回路は、周波数振幅特性がガウシアン特性あるいは最大平坦特性に調整され、周波数位相特性が直線に調整され、遮断周波数が測定周波数の上限の10倍以上である請求項10または11に記載の鉄損測定装置。
【請求項13】
前記制御演算部は、
前記第2計測工程で、前記被測定試料に流れる電流の位相が、前記被測定試料の両端電圧の位相に一致するように補正する請求項10から12のいずれか1項に記載の鉄損測定装置。
【請求項14】
前記電流検出用素子は、シャント抵抗である請求項9から13のいずれか1項に記載の鉄損測定装置。
【請求項15】
前記電流検出用素子は、カレントセンサー抵抗である請求項9から13のいずれか1項に記載の鉄損測定装置。
【請求項16】
前記被測定試料が1次巻線および2次巻線を有する場合には、前記第1計測工程において、前記1次巻線に前記周期信号を印加し、前記2次巻線の両端電圧を測定する請求項10から12のいずれか1項に記載の鉄損測定装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、軟磁性体を鉄心とするコイル部品の鉄損測定方法および鉄損測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
軟磁性体は、モーター、トランス、インダクタ等のコイル部品の鉄心として広く使用されている。近年は電力の省力化の流れで、これらコイル部品はその鉄心の電力損失である鉄損の低減が強く求められている。鉄損を低減した材料を開発・製造するため、鉄損をより正確に測定する鉄損測定装置の提供が強く望まれている。
【0003】
一般の鉄損測定装置は、電圧測定回路と、シャント抵抗またはカレントセンサーを含む電流測定回路と、を有する。測定を行う場合には、被測定物であるコイル部品とシャント抵抗またはカレントセンサーを直列に接続した直列回路を形成し、外部信号発生器から直列回路の両端に周期信号を印加し、周期信号の少なくとも1周期分、コイル部品の両端電圧およびシャント抵抗またはカレントセンサーの両端電圧を測定する。測定は、周期より十分に短い時間間隔で行う。シャント抵抗またはカレントセンサーの両端電圧から直列路に流れる電流を算出し、コイル部品の両端電圧と電流の積を1周期時間積分し、1周期の時間で除することにより、コイル部品の電力損失である鉄損を算出する。
【先行技術文献】
【0004】

【特許文献1】特公平6-60913号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記の測定では、シャント抵抗を使用するとコイル部品に流れる電流の振幅が正確に測定できていないという第1の問題と、コイル部品の両端電圧とコイル部品に流れる電流との相対位相差が正確に測定できていないという第2の問題がある。
【0006】
第1の問題は、シャント抵抗が、直流抵抗値だけでなく、寄生静電容量と寄生インダクタンスとで構成される寄生リアクタンスを有することに起因し、直流抵抗値が小さなシャント抵抗を使用すると、より影響が大きくなる。一方、印加信号の波形を良好に維持し、発熱を小さくする上では、シャント抵抗の直流抵抗値は小さいことが望ましく、特に自動車関連の大電流のコイル部品を測定する場合には、直流抵抗値が小さいことが望ましい。そのため、大電流用のコイル部品を測定する場合に、第1の問題は、大きな問題になる。
【0007】
第2の問題は、高力率の場合に大きな問題になる。第2の問題を解消する手法として、オシロスコープのチャンネル間の測定信号の遅延時間の補正に古くから用いられているデスキューと呼ばれる手法があり、近年では一部のパワーメータにも使用されている。しかし、シャント抵抗またはカレントセンサーを含む電流測定回路の周波数位相特性は直線でないため、デスキューでは、周波数の全範囲について相対測定位相誤差を正確に取り除くことができない。
【0008】
以上のような理由で、従来の鉄損測定装置は、上記の第1および第2の問題のため、鉄損を正確に測定できなかった。
【0009】
本発明は、軟磁性体を鉄心とするコイル部品に流れる電流の振幅、およびコイル部品の両端電圧に対するコイル部品に流れる電流の相対位相差を正確に測定し、コイル部品の鉄損を正確に測定する鉄損測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を実現するため、本発明の鉄損測定方法および装置は、準備工程および計測工程を実行する。
準備工程では、予めトレーサビリティが保証されているインピーダンスアナライザ等の本発明の鉄損測定装置とは別のインピーダンス測定器でインピーダンスの大きさの周波数特性と周波数位相特性を測定し記憶された基準試料を用いて、電流検出用素子の正確なインピーダンスの大きさの周波数特性と、電圧測定回路に対する電流検出用素子を含む電流測定回路の正確な相対測定位相誤差の周波数特性を、あらかじめ測定し、記憶しておく。
【0011】
計測工程では、被測定試料と電流検出用素子を直列に接続した直列回路に周期信号を印加し、被測定試料の両端電圧と電流検出用素子の両端電圧をそれぞれ測定し、準備工程で記憶しておいた電流検出用素子の正確なインピーダンスの大きさの周波数特性を用いて、被測定試料に流れる正確な電流の振幅を算出する。また、同じく準備工程で記憶しておいた電圧測定回路に対する電流検出用素子を含む電流測定回路の正確な相対測定位相誤差の周波数特性を用いて、被測定試料の両端電圧に対する被測定試料に流れる電流の相対位相差を補正し、正確な相対位相差を算出し、正確な被測定試料に流れる電流、正確な被測定試料の両端電圧、および正確な被測定試料の両端電圧に対する被測定試料に流れる電流の相対位相差からコイル部品の鉄損を求める。
【0012】
1つの電流検出用素子について準備工程で記憶した、電流検出用素子の正確なインピーダンスの大きさの周波数特性と、電圧測定回路に対する電流検出用素子を含む電流測定回路の正確な相対測定位相誤差の周波数特性は、同じ電流検出用素子であれば、繰り返し使用可能である。したがって、同じ電流検出用素子を使用するのであれば、異なる被測定試料について、準備工程無しで測定工程を実行できる。ただし、電流検出用素子の特性が変化する可能性がある場合には、適宜準備工程を行うことが望ましい。
【0013】
本発明を適用した鉄損測定装置は、電圧測定回路、電流測定回路、シャント抵抗またはカレントセンサー、および制御演算部を有する。制御演算部は、電流検出用素子のインピーダンスの大きさの周波数特性と、電圧測定回路に対する電流検出用素子および電流測定回路の相対測定位相誤差の周波数特性と、を記憶する記憶部を有する。制御演算部は、各部を制御して計測工程を実行し、被測定試料の鉄損を測定する計測工程を行う。さらに、制御演算部が、各部を制御して準備工程を実行するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、軟磁性体を鉄心とする被測定試料の鉄損測定の確度が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、一般的な鉄損測定装置の概略構成を示すブロック図である。
【図2】図2は、相対測定位相誤差が鉄損の値に与える影響を示す図である。
【図3】図3は、従来のデスキューが前提とする電圧測定回路およびシャント抵抗を含む電流測定回路の周波数位相特性を示す図であり、(A)が2つの特性を、(B)および(C)は2つの特性を一致させる手法を示す。
【図4】図4は、デスキューの問題点を説明する図であり、(A)が2つの特性を、(B)および(C)は2つの特性を一致させる手法を示す。
【図5】図5は、シャント抵抗の代わりにカレントセンサーを使用した鉄損測定装置の概略構成を示すブロック図である。
【図6】図6は、実施形態の鉄損測定装置が、被測定試料であるコイル部品の鉄損を測定するために実行する処理を示すフローチャートである。
【図7】図7は、第2準備工程を実行する時の実施形態の鉄損測定装置の状態を示す図である。
【図8】図8は、第1準備工程で測定した基準試料の周波数位相特性、第2準備工程で算出したα(ω)およびβ(ω)の周波数特性の関係を示す図であり、横軸をリニアスケールで描画した図である。
【図9】図9は、第1準備工程で測定した基準試料の周波数位相特性、第2準備工程で算出したα(ω)およびβ(ω)の周波数特性の関係を示す図であり、横軸を対数で描画した図であり、(A)は全周波数範囲を、(B)は周波数範囲の一部を拡大して示している。
【図10】図10は、第2準備工程で算出した相対測定位相誤差の周波数特性Δφ(ω)およびシャント抵抗のインピーダンスの大きさの周波数特性|Zs(ω)|を示す図であり、(A)がΔφ(ω)を、(B)が|Zs(ω)|を示す。
【図11】図11は、第1計測工程を実行する時の実施形態の鉄損測定装置の状態を示す図である。
【図12】図12は、準備工程で使用した基準試料を、実施形態における測定対象とした場合に得られた基本波の位相差の周波数特性θ'std(ω)と、第1準備工程で測定した周波数位相特性θstd(ω)との差異Δθstd(ω)を示す図である。
【図13】図13は、準備工程で使用した基準試料を、実施形態における測定対象とした場合に得られた試料の両端電圧の基本波の振幅を、試料に流れる電流の基本波の振幅で除して得られる試料のインピーダンスの大きさの周波数特性|Z'std(ω)|と、第1準備工程で測定したインピーダンスの大きさの周波数特性|Zstd(ω)|との差異|ΔZstd(ω)|を示す図である。
【図14】図14は、2次巻線を有するコイル部品を測定する時の実施形態の鉄損測定装置の状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
実施形態の鉄損測定装置を説明する前に、一般的な鉄損測定技術について説明する。
一般に、コイル部品の鉄損を測定するには、パワーメータやパワーアナライザが使用されており、これら従来の測定器を使用してコイル部品の鉄損を測定する方法を説明する。

【0017】
図1は、一般的な鉄損測定装置の概略構成を示すブロック図である。
鉄損測定装置10は、電圧測定回路1と、電流測定回路2と、シャント抵抗3と、制御演算部4と、表示装置5と、を有する。制御演算部4は、例えば、CPU、ROM、RAMなどから形成される。

【0018】
電圧測定回路1は、増幅器(アンプ)11と、A/D変換器(コンバーター)12と、記憶装置13と、を有する。電流測定回路2は、増幅器21と、A/D変換器(コンバーター)22と、記憶装置23と、を有する。

【0019】
測定を行う場合には、外部信号発生器6と、被測定物であるコイル部品7と、シャント抵抗3を図示のように接続し、外部信号発生器6から角周波数ω0の周期信号を出力し、コイル部品7に印加する。この時、電圧測定回路1は、少なくとも1周期分(周期T0=2π/ω0)、コイル部品7の両端電圧VL(t)を測定し、A/Dコンバーター12でデジタル信号に変換し、記憶装置13に記憶する。電流測定回路2は、少なくとも1周期分、シャント抵抗3の両端電圧Vs(t)を測定し、A/Dコンバーター22でデジタル信号に変換し、記憶装置23に記憶する。(t)は時間tの関数であることを示している。このように、電圧測定回路1および電流測定回路2は、それぞれ、VL(t)およびVs(t)を離散データとして保持する。制御演算部4は、電圧測定回路1および電流測定回路2の制御を行うとともに、記憶装置13および23に保持された離散データを使って数値演算等のデータ処理を行う。表示装置5はデ-タ処理の結果を表示する。

【0020】
Vs(t)は、シャント抵抗3の(直流)抵抗値Rsを用いて、次の式(1)でコイル部品7に流れる電流IL(t)に変換される。

【0021】
【数1】
JP2016133355A_000003t.gif

【0022】
そして、コイル部品7の電力損失である鉄損Pcは、次の式(2)に従って数値積分で算出される。

【0023】
【数2】
JP2016133355A_000004t.gif

【0024】
ところが、この従来の測定方法で得られる鉄損の値は、以下に記述する2つの問題があり、鉄損を正確に測定しているとはいえない。
第1の問題は、コイル部品7に流れる電流IL(t)の振幅が正確に測定できていないということである。

【0025】
シャント抵抗3は、直流抵抗値Rsだけで構成されているわけではなく、寄生静電容量Csと寄生インダクタンスLsとで構成される寄生リアクタンスXsを必ず有するので、シャント抵抗3のインピーダンスZsは、次の式(3)で表される。

【0026】
【数3】
JP2016133355A_000005t.gif

【0027】
シャント抵抗3は、コイル部品7に流れる電流IL(t)を測定するために設けるものであり、シャント抵抗3の抵抗値Rsは、外部信号発生器6から見ると本来は不要な負荷である。特に、外部信号発生器6から出力される周期信号が方形波の場合は、抵抗値Rsが小さくないとコイル部品7に流れる電流が三角波状にならないという印加信号の劣化を生じる。また、シャント抵抗3の電力損失による発熱により、シャント抵抗3の抵抗値Rsそのものの変動の原因ともなることから、抵抗値Rsは、シャント抵抗3の両端電圧Vs(t)が検出できる範囲で、できる限り小さい値のものを使用することが望ましい。特に、自動車関連などで使用されるコイル部品7は大電流用であり、シャント抵抗3での電力損失が大きくなる。

【0028】
一方、シャント抵抗3の寄生静電容量や寄生インダクタンスは、シャント抵抗3固有のものであり、意図的に付加されたものではないので、寄生リアクタンスXsを小さくするには限界がある。

【0029】
上記の理由でシャント抵抗3の直流抵抗値Rsを小さくすることが望ましい。すると、シャント抵抗3のインピーダンスZsに占める寄生リアクタンスXsの直流抵抗値Rsに対する比率が高くなる。特に、外部信号発生器6から出力される周期信号の角周波数ω0が高くなると、さらにその比率が高くなる。

【0030】
例えば、あるシャント抵抗3が、抵抗値Rs=100[mΩ]と寄生インダクタンスLs=10[nH]の直列回路と等価とみなされる場合、周波数ω0/2π=100[kHz]で、リアクタンスXsは6.3[mΩ]である。周波数ω0/2π=1[MHz]で、Xsは63[mΩ]にもなってしまう。外部信号発生器6から出力される周期信号の角周波数ω0が高くなるに従って、リアクタンスXsはさらに大きくなり、式(1)を用いてシャント抵抗3の両端電圧Vs(t)をコイル部品7に流れる電流IL(t)に変換するのは正確ではなくなる。

【0031】
第2の問題は、コイル部品7の両端電圧VL(t)とコイル部品7に流れる電流IL(t)との相対位相差が正確に測定できていないということである。

【0032】
コイル部品7の両端電圧VL(t)とコイル部品7に流れる電流IL(t)を、それぞれ直流成分がないとしてフーリエ級数で表すと次の式(4)および(5)となる。式(4)および(5)において、VLkおよびILkは、それぞれVL(t)とIL(t)の角周波数ω0のk次高調波の振幅(k:自然数)、θkはVL(t)に対するIL(t)の角周波数ω0のk次高調波の相対位相差である。

【0033】
【数4】
JP2016133355A_000006t.gif

【0034】
【数5】
JP2016133355A_000007t.gif

【0035】
これらを式(2)に代入すると、鉄損Pcは、次の式(6)で表される。

【0036】
【数6】
JP2016133355A_000008t.gif

【0037】
この式(6)から、鉄損Pcを正確に求めるためには、角周波数ω0、およびそのk次高調波kω0に対するコイル部品7の両端電圧の振幅VLk、コイル部品7に流れる電流の振幅ILk、およびこれらの相対位相差θkを正確に測定することが重要であることが分かる。

【0038】
ところが従来の測定方法では、この相対位相差θkは、本来測定したいθkからずれてしまい相対測定位相誤差Δφkが生じ、コイル部品7に流れる電流IL(t)は式(5)ではなく、次の式(7)で表されるようになってしまうことが知られている。

【0039】
【数7】
JP2016133355A_000009t.gif

【0040】
この相対位相測定誤差Δφkが生じる原因は、電圧測定回路1とシャント抵抗3を含む電流測定回路2との間で測定信号の遅延時間に差異が必ず生じるためである。
従って、この場合の鉄損は、式(6)ではなく、次の式(8)のPc'で表わされることになる。

【0041】
【数8】
JP2016133355A_000010t.gif

【0042】
ここで、この相対測定位相誤差Δφkが鉄損の値に与える影響を見てみるために、鉄損誤差ΔPcを次の式(9)で定義する。なお、式(9)は説明を簡単にするため、ある特定の角周波数ωx(k=x)成分のみ記述した。

【0043】
【数9】
JP2016133355A_000011t.gif

【0044】
図2は、相対測定位相誤差が鉄損の値に与える影響を示す図である。図2では、式(9)を用いて、力率角θxが89.1[deg]~89.7[deg]、相対測定位相誤差Δφxが±0.2[deg]の範囲で変化した時の鉄損誤差ΔPcを求めた結果が示される。この図から、相対測定位相誤差Δφxがいかに鉄損の値に影響を及ぼすかが分かる。例えば、被測定物の力率角θxが89.7[deg]の高力率角の場合、相対測定位相誤差Δφxが±0.1[deg]生じただけで、鉄損誤差ΔPcが33.3[%]にもなってしまう。

【0045】
従って、何らかの方法で相対測定位相誤差Δφkを取り除かなければ、コイル部品7の両端電圧VL(t)とコイル部品7に流れる電流の振幅IL(t)との相対位相差θkは正確に測定できず、鉄損Pcも正確に測定できないことが分かる。

【0046】
この相対測定位相誤差Δφkを取り除く方法として、オシロスコープのチャンネル間の測定信号の遅延時間の補正に古くから用いられているデスキューと呼ばれる手法があり、近年では一部のパワーメータにも使用されている。

【0047】
デスキューは、2つの特性を一致させるように補正して、相対測定位相誤差を除去する手法である。しかし、このデスキューの手法を用いても相対測定位相誤差Δφkを正確に取り除くことはできない。以下、この理由を説明する。
まず、デスキューで相対測定位相誤差Δφkを取り除く原理を説明する。

【0048】
図3は、従来のデスキューが前提とする電圧測定回路およびシャント抵抗を含む電流測定回路の周波数位相特性を示す図であり、(A)が2つの特性を、(B)および(C)は2つの特性を一致させる手法を示す。

【0049】
図3の(A)に示すように、デスキューは、電圧測定回路1とシャント抵抗3を含む電流測定回路2のそれぞれの周波数位相特性が、電気回路として理想的な直線P、および直線Qであると想定している。この場合、図3の(B)および(C)に示すように、デスキューを行う前の相対測定位相誤差Δφkは、直線Pと直線Qとの差異であり、直線Rで表される。図3の(A)から(C)では、角周波数ωxで直線Pと直線Qとの差異が、相対測定位相誤差Δφxであるとしている。

【0050】
デスキューでは、ある特定の角周波数ωxにて電圧測定回路1とシャント抵抗3を含む電流測定回路2のそれぞれに入力する電圧信号と電流信号の相対位相差θxが0、あるいは既知であるように、一方(または両方)の信号の位相を調整する。説明を簡単にするため、図3の(B)および(C)では、相対位相差θxが0の信号を入力した場合で説明する。θx=0が正しく測定できるためには、図3の(B)に示すように、角周波数ωxに対する直線Qの点Aが直線Pの点Bに重なるように、あるいは図3の(C)に示すように、その逆で点Bが点Aに重なるように、電圧測定回路1、あるいはシャント抵抗3を含む電流測定回路2の周波数位相特性を補正しなければならない。

【0051】
上記の補正は、次のように行われる。直線P、直線Qとは別に、次の式(10)で表される角周波数ωxで位相がΔφxである直線Rを作る。次に図3の(B)に示すように、直線Qに直線Rを加える、もしくは、図3の(C)に示すように、直線Pから直線Rを差し引く補正を行う。

【0052】
【数10】
JP2016133355A_000012t.gif

【0053】
前者の場合は、電圧VL(t)は式(4)のままであり、式(7)の電流IL(t)の各周波数成分の位相に対して、次の式(11)の位相補正を施すことであり、後者の場合は、電流IL(t)は式(7)のままであり、式(4)の電圧VL(t)の各周波数成分の位相に対して、次の式(12)の位相補正を施すことである。

【0054】
【数11】
JP2016133355A_000013t.gif

【0055】
【数12】
JP2016133355A_000014t.gif

【0056】
どちらの場合も式(2)に代入すると、相対測定位相誤差Δφkが取り除かれ、鉄損Pcは式(6)で表されるようになり、一見正しそうに見える。

【0057】
ところが、電気計測の分野では周知であるように、電圧測定回路1、および電流測定回路2の周波数位相特性を電気回路として理想的な直線に近づけることは可能であるが、シャント抵抗3を含んだ電流測定回路2の周波数位相特性を、理想的な直線にすることは不可能である。シャント抵抗3は、前述したように直流抵抗Rsだけで構成されているわけではなく、寄生静電容量Csと寄生インダクタンスLsとで構成される寄生リアクタンスXsを必ず有するからである。このため、デスキューでは相対測定位相誤差Δφkを正確に取り除くことができない。

【0058】
図4は、デスキューの問題点を説明する図であり、(A)が2つの特性を、(B)および(C)は2つの特性を一致させる手法を示す。
図4を参照して、デスキューでは相対測定位相誤差Δφkを正確に取り除くことができない理由をさらに説明する。図4では、説明を簡単にするために、電圧測定回路1の周波数位相特性が、図4の(A)に示す直線Sであり、シャント抵抗3を含む電流測定回路2の周波数位相特性が折れ線Tであるとする。デスキューを行う前の相対測定位相誤差Δφkは、直線Sと折れ線Tとの差異となる。ここでは、角周波数ωxで直線Sと折れ線Tとの差異が、相対測定位相誤差Δφxであるとしている。

【0059】
この場合のデスキューについて、図4の(B)および(C)を用いて説明する。デスキューでは、電圧測定回路1とシャント抵抗3を含む電流測定回路2のそれぞれに、角周波数ωxで相対位相差θxが0である電圧信号と電流信号を入力する。θx=0が正しく測定できるようにするためには、図4の(B)に示すように、角周波数ωxに対する折れ線Tの点Aが直線Sの点Bに重なるように、あるいは図4の(C)に示すように、その逆で点Bが点Aに重なるように、電圧測定回路1、あるいはシャント抵抗3を含む電流測定回路3の周波数位相特性を補正する。

【0060】
この補正は次のように行われる。図4の(B)に示すように、直線S、折れ線Tとは別に、角周波数ωxで位相がΔφxである直線Uを作る。次に、折れ線Tに直線Uを加える、もしくは、図4の(C)に示すように、直線Sから直線Uを差し引く補正を行う。前者の場合、折れ線Tは折れ線Vとなり、角周波数ωxを除いて直線Sとは重ならない。後者の場合は、直線Sが直線Wとなり、やはり角周波数ωxを除いて折れ線Tとは重ならない。これはいずれも、デスキューでは、角周波数ωxを除いて他の角周波数では相対測定位相誤差Δφkが取り除かれていないことを意味する。

【0061】
以上の通り、デスキューでは、角周波数の1点では相対測定位相誤差を取り除けるが、それ以外の角周波数では相対測定位相誤差Δφkを正確に取り除くことができない。
以上説明したように、一般の鉄損測定装置は、第1および第2の問題を有し、鉄損PCを正確に測定できない。

【0062】
上記の例では、シャント抵抗3を使用する鉄損測定装置の例を説明したが、パワーメータやパワーアナライザは、コイル部品7に流れる電流IL(t)の検出手段として、シャント抵抗を用いるのではなく、カレントトランスや電流プローブ等のカレントセンサーを用いる場合がある。

【0063】
図5は、シャント抵抗の代わりにカレントセンサー16を使用した鉄損測定装置の概略構成を示すブロック図である。
図5の鉄損測定装置10Aは、カレントセンサー16を使用した以外、図1の鉄損測定装置10と同じであり、説明は省略する。カレントセンサー16を含む電流測定回路17も、周波数位相特性が理想的な直線にならないことが知られている。従って、デスキューでは、図1のシャント抵抗3を用いた装置と同様に、相対測定位相誤差Δφkを正確に取り除くことはできない。言い換えれば、カレントセンサー16を使用した場合も、シャント抵抗3を使用した場合と同様に、上記の第2の問題があり、鉄損は正確に測定できない。

【0064】
以下に説明する実施形態の鉄損測定装置は、コイル部品の鉄損を正確に測定することができる。
実施形態の鉄損測定装置は、図1の鉄損測定装置10または図5の鉄損測定装置10Aと類似の構成を有するが、制御演算部4の構成が異なる。以下、シャント抵抗3を有する図1の鉄損測定装置10を例として説明するが、カレントセンサー16を有する図5の鉄損測定装置10Aについても同様である。

【0065】
実施形態の鉄損測定装置は、測定周波数が10[kHz]~1[MHz]である。シャント抵抗3の直流抵抗値Rs=100mΩである。前述のように、制御演算部4は、コンピュータ等で実現され、電圧測定回路1および電流測定回路2の制御を行うとともに、データの記憶および数値演算等のデータ処理を行う。表示装置5、デ-タ処理の結果の表示や、オペレータへの情報・指示を表示する。

【0066】
図6は、実施形態の鉄損測定装置が、被測定試料であるコイル部品7の鉄損を測定するために実行する処理を示すフローチャートである。
図6に示すように、処理は、装置設定工程S10と、第1準備工程S11と、第2準備工程S12と、第1計測工程S13と、第2計測工程S14と、第3計測工程S15と、を有する。第1準備工程S11と第2準備工程S12を合わせて準備工程と、第1計測工程S13から第3計測工程S15を合わせて計測工程と、称する場合がある。

【0067】
装置設定工程S10では、鉄損測定装置を、測定を行うのに適した状態に設定する。もし鉄損測定装置が測定を行うのに適した状態にあれば、装置設定工程S10を行う必要はない。また、後述するように、準備工程で取得した情報が既に記憶されており、準備工程無しで計測工程を開始する場合には、装置設定工程S10を行う。この場合も、鉄損測定装置が測定を行うのに適した状態にあれば、装置設定工程S10を行う必要はない。準備工程では、シャント抵抗3のインピーダンスの大きさの周波数特性|Zs(ω)|と、電圧測定回路に対するシャント抵抗を含む電流測定回路の相対測定位相誤差Δφ(ω)の周波数特性をあらかじめ算出し記憶しておく。計測工程では、実際の被測定試料であるコイル部品を測定し、準備工程で記憶しておいた|Zs(ω)|とΔφ(ω)を用いて補正処理を行って鉄損を求める。

【0068】
以下、各工程について詳細に説明する。
装置設定工程S10では、電圧測定回路1と、シャント抵抗3を含まない電流測定回路2のそれぞれについて、周波数振幅特性を公知のガウシアン特性あるいは最大平坦特性に、周波数位相特性を直線に調整し、遮断周波数が測定周波数の上限の1[MHz]の10倍である10[MHz]になるようにする。

【0069】
電気計測の分野で周知されているように、遮断周波数がこの程度あれば、測定周波数の上限でも、電圧測定回路1およびシャント抵抗3を含まない電流測定回路2のそれぞれ単独での電圧測定値は正確である。

【0070】
第1準備工程S11では、抵抗(代表抵抗値(直流抵抗値)Rd=0.5[Ω])とインダクタ(代表インダクタンス値Ld=0.5[μH])を直列に接続した基準試料を準備し、インピーダンスの大きさの周波数特性|Zstd(ω)|、および周波数位相特性θstd(ω)を、トレーサビリティが保証されているインピーダンスアナライザ等のインピーダンス測定器で、測定周波数の下限の10[kHz]から上限の1[MHz]の100倍である100[MHz]まで測定し、記憶装置に記憶しておく。基準試料の抵抗、およびインダクタは、温度係数が可能な限り小さいものを使うことが推奨される。実施形態で用いたものは、抵抗は100[ppm/℃]、インダクタは35[ppm/℃]である。

【0071】
図7は、第2準備工程S12を実行する時の実施形態の鉄損測定装置10の状態を示す図である。
第2準備工程S12では、図7に示すように、上記の基準試料24を実施形態の鉄損測定装置10の被測定試料として配置する。そして、以下に詳細に述べる測定と演算を測定周波数の下限の10[kHz]から上限の100倍である100[MHz]まで繰り返し行い、シャント抵抗3のインピーダンスの大きさの周波数特性|Zs(ω)|と、電圧測定回路1に対するシャント抵抗3を含む電流測定回路2の相対測定位相誤差の周波数特性Δφ(ω)を求めて記憶しておく。

【0072】
第2準備工程S12を具体的に説明する。信号発生器6から角周波数ωxの正弦波を出力し基準試料24に印加する。このとき、基準試料の両端電圧Vstd(t)とシャント抵抗3の両端電圧Vs(t)を少なくとも1周期分取込み記憶する。Vstd(t)とVs(t)をフーリエ級数展開し、それぞれ次の式(13)および(14)で表わされる基本波ωx成分のみを取り出す。Vstd1、Vs1はそれぞれVstd(t)、Vs(t)の基本波ωx成分の振幅である。またα(ωx)、β(ωx)は、それぞれVstd(t)、Vs(t)の基本波ωx成分の位相である。(ωx)は角周波数ωxの関数であることを示している。

【0073】
【数13】
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【0074】
【数14】
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【0075】
まず、角周波数ωxに対するシャント抵抗3のインピーダンスの大きさ|Zsx)|を求める。
第1準備工程で基準試料24の角周波数ωxに対するインピーダンスの大きさ|Zstdx)|は、既知なので、基準試料24に流れている最大電流Istd1は、式(13)の結果から次の式(15)で求めることができる。

【0076】
【数15】
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【0077】
また、シャント抵抗3の未知であるインピーダンスを|Zsx)|とすると、Istd1は式(14)の結果から、次の式(16)で表すこともできる。

【0078】
【数16】
JP2016133355A_000018t.gif

【0079】
従って、式(15)および(16)のそれぞれの右辺が等しいことから、未知であったシャント抵抗3のインピーダンスの大きさ|Zsx)|は、次の式(17)から求めることができる。

【0080】
【数17】
JP2016133355A_000019t.gif

【0081】
次に、電圧測定回路1に対するシャント抵抗3を含む電流測定回路2の角周波数ωxに対する相対測定位相誤差Δφ(ωx)を求める。
基準試料24の両端電圧Vstd(t)の基本波に対するシャント抵抗3の両端電圧Vs(t)の基本波の位相、即ち基準試料24に流れる電流Istd(t)の基本波の位相γ(ωx)は式(13)および(14)より次の式(18)で求めることができる。

【0082】
【数18】
JP2016133355A_000020t.gif

【0083】
本来、このγ(ωx)が、第1準備工程で測定した基準試料24の角周波数ωxに対する位相θstdx)に一致しなければならないが、相対測定位相誤差Δφ(ωx)があるために一致しない。従って、相対測定位相誤差Δφ(ωx)は、第1準備工程で測定し記憶しておいた位相θstdx)とγ(ωx)との位相差となり、次の式(19)で与えられる。

【0084】
【数19】
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【0085】
実際には、式(14)のVs(t)の基本波の位相-β(ωx)に、このΔφ(ωx)を加え位相補正を施すと、Vs(t)の基本波の位相は次の式(20)で表される。

【0086】
【数20】
JP2016133355A_000022t.gif

【0087】
したがって、Vstd(t)の基本波に対するVs(t)の基本波の位相、即ちIstd(t)の基本波の位相は、次の式(21)で表される。

【0088】
【数21】
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【0089】
このように、第1準備工程で測定し記憶しておいた、正確な基準試料24の位相θstdx)と一致することが分かる。

【0090】
以上の測定と演算を、周波数を変えながら、測定周波数の下限の10[kHz]から上限の1[MHz]の100倍である100[MHz]まで繰り返し行い、シャント抵抗3のインピーダンスの大きさの周波数特性|Zs(ω)|と、相対測定位相誤差の周波数特性Δφ(ω)を求めて記憶しておくことで、第2準備工程が終了する。

【0091】
図8は、第1準備工程で測定した基準試料24の周波数位相特性θstd(ω)、第2準備工程で算出したα(ω)およびβ(ω)の周波数特性の関係を示す図であり、横軸をリニアスケールで描画した図である。

【0092】
図9は、図8と同様に、第1準備工程で測定した基準試料24の周波数位相特性θstd(ω)、第2準備工程で算出したα(ω)およびβ(ω)の周波数特性の関係を示す図であり、位相補正の説明が把握し易いように横軸を対数で描画し、(A)は全周波数範囲を、(B)は周波数範囲の一部を拡大して示している。図9の(B)では、さらに、γ(ωx)およびθstdx)の関係も示している。

【0093】
図10は、第2準備工程で算出した相対測定位相誤差の周波数特性Δφ(ω)およびシャント抵抗3のインピーダンスの大きさの周波数特性|Zs(ω)|を示す図であり、(A)がΔφ(ω)を、(B)が|Zs(ω)|を示す。

【0094】
例えば、特許文献1に記載された鉄損の算出ではないが、被測定物の電流のみを算出する方法が提案されている。特許文献1によれば、シャント抵抗3のインピーダンスの大きさの周波数特性、あるいは周波数位相特性を、基準試料24の時と同様にトレーサビリティが保証されたインピーダンスアナライザ等の鉄損測定装置とは別のインピーダンス測定器で予め測定することが提案されている。しかし、実施形態では、特許文献1のように、シャント抵抗3のインピーダンスの大きさの周波数特性、あるいは周波数位相特性を、別のインピーダンス測定器で予め測定することは行わない。その理由は、実施形態のシャント抵抗3の抵抗値が100[mΩ]と小さいため、これを別のインピーダンス測定器で測定しても、大きな測定誤差が生じるためである。

【0095】
シャント抵抗は本来不要な負荷であり、また、電力損失による発熱により抵抗値そのものの変動の原因ともなることから、抵抗値はシャント抵抗両端電圧が検出できる範囲で、できる限り小さい値を選択し、数十[mΩ]~数百[mΩ]の範囲ものを使用するが一般的である。ところがこれら別のインピーダンス測定器は、インピーダンスの大きさが200~300[mΩ]未満、あるいは4~5[MΩ]を超えると測定確度が非常に悪く、インピーダンスの大きさで数[%]~数10[%]、位相で数[deg]もの大きな測定誤差が生じることが知られている。これだけ測定誤差が生じると、図2で説明したが、もはや鉄損の正確な測定には到底利用できない。特許文献1の実施例に記載された例では、シャント抵抗の抵抗値が1[Ω]のものが使用されており、シャント抵抗の抵抗値としては大きいものを使用しているのは、この問題を回避するためと考えられる。

【0096】
以上、準備工程について説明した。前述のように、準備工程は、実施形態の鉄損測定装置を使用してコイル部品の鉄損を測定する度に行う必要はない。鉄損測定装置の調整作業の中で、一度、シャント抵抗3のインピーダンスの大きさの周波数特性|Zs(ω)|と、相対測定位相誤差の周波数特性Δφ(ω)を求めて記憶しておけば、再度行う必要はない。

【0097】
図11は、第1計測工程S13を実行する時の実施形態の鉄損測定装置10の状態を示す図である。
以下、図11を参照して計測工程について説明する。

【0098】
第1計測工程では、被測定物であるコイル部品7を、実施形態の鉄損測定装置10の被測定試料として配置し、シャント抵抗3と直列回路を形成する。外部の信号発生器6から角周波数ω0の周期信号を出力させ、直列回路の両端に印加する。これにより、コイル部品7およびシャント抵抗3に周期信号に応じた電流が流れる。このとき、コイル部品7の両端電圧VL(t)とシャント抵抗3の両端電圧Vs(t)を少なくとも1周期分取込み記憶する。VL(t)とVs(t)をそれぞれ次の式(22)、(23)で表わされる100次高調波までフーリエ展開する。VLk、VskはそれぞれVL(t)、Vs(t)のω0のk次高調波の振幅であり、α(kω0)、β(kω0)はそれぞれVL(t)、Vs(t)のω0のk次高調波の位相である。100次高調波まで展開したのは、フーリエ級数では周知のように60次程度以上あれば、コイル部品7の両端電圧VL(t)、あるいはシャント抵抗3の両端電圧Vs(t)が方形波であっても再現できるからである。

【0099】
【数22】
JP2016133355A_000024t.gif

【0100】
【数23】
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【0101】
第2計測工程で、次の式(24)で表すようにVs(t)の各周波数成分の振幅Vskを、準備工程で記憶しておいたシャント抵抗3のインピーダンスの大きさの周波数特性|Zs(kω0)|で除して、コイル部品7に流れる電流IL(t)の各周波数成分の振幅を正確な振幅に補正する。また、Vs(t)の各周波数成分の位相β(kω0)に、同じく準備工程で記憶しておいた相対測定位相誤差の周波数特性Δφ(kω0)を加えて、電流IL(t)の各周波数成分の位相を正確な位相に補正し、正確な電流IL(t)を求める。

【0102】
【数24】
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【0103】
準備工程で記憶しておいたシャント抵抗3のインピーダンスの大きさの周波数特性|Zs(ω)|に、角周波数kω0に対応するものがない場合は、周波数特性|Zs(ω)|を1次関数による内挿によって求めたものを使用する。相対測定位相誤差の周波数特性Δφ(ω)についても、角周波数kω0に対応するものがない場合は、同様な処理を行う。

【0104】
第3計測工程で、式(24)のコイル部品7に流れる電流IL(t)、式(22)のコイル部品7の両端電圧VL(t)を用いて、前述の式(2)に従って数値積分して鉄損Pcを求める。

【0105】
コイル部品7に流れる電流の振幅、およびコイル部品7の両端電圧に対するコイル部品7に流れる電流の相対位相差を正確に補正することができているので、本発明の鉄損測定装置によれば正確な鉄損Pcを求めることができる。

【0106】
実施形態の鉄損測定装置10によるコイル部品7の両端電圧に対するコイル部品7に流れる電流の相対位相差とコイル部品7に流れる電流の振幅が正確であることを証明する具体例を示す。

【0107】
図12は、準備工程で使用した基準試料24を、あらためて被測定試料として配置し、信号発生器6から周波数を10[kHz]~1[MHz]まで変化させながら正弦波を出力して印加し、各周波数ごとに前述の計測工程を実施したときに得られた、式(22)の試料の両端電圧VL(t)の基本波に対する、式(24)の試料に流れる電流IL(t)の基本波の位相差の周波数特性θ'std(ω)と、第1準備工程で測定した基準試料24の周波数位相特性θstd(ω)との、次の式(25)で表す差異Δθstd(ω)を示したものである。これが全周波数に渡り0.00[deg]であることが理想ではあるが、本発明により±0.02[deg]という非常に高い確度で、第1準備工程で測定した基準試料24の周波数位相特性θstd(ω)と一致し、試料両端電圧に対する試料に流れる電流の相対位相差が測定されていることが分かる。

【0108】
【数25】
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【0109】
図13は、図12同様に、各周波数ごとに計測工程を実施したときに得られた、式(22)の試料の両端電圧VL(t)の基本波の振幅を、式(24)の試料に流れる電流IL(t)の基本波の振幅で除して得られる試料のインピーダンスの大きさの周波数特性|Z'std(ω)|と、第1準備工程で測定した基準試料24のインピーダンスの大きさの周波数特性|Zstd(ω)|との、次の式(26)で表す差異|ΔZstd(ω)| を示したものである。これも全周波数に渡り0.00[%]であることが理想ではあるが、本発明により最大0.16[%]未満という非常に高い確度で、第1準備工程で測定した基準試料24のインピーダンスの大きさの周波数特性|Zstd(ω)|と一致し、試料のインピーダンスの大きさ、即ち試料に流れる電流が測定されていることが分かる。

【0110】
【数26】
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【0111】
上記の実施形態の説明では、単コイルのコイル部品7を測定する場合について説明したが、2次巻線(巻数N2)を有するコイル部品を測定することも可能である。
図14は、2次巻線を有するコイル部品を測定する時の実施形態の鉄損測定装置の状態を示す図である。

【0112】
図14に示すように、2次巻線を有するコイル部品26の1次巻線の一方の端子をシャント抵抗3に接続し、1次巻線の他方の端子とシャント抵抗3の他の端部に、外部の信号発生器6から角周波数ω0の周期信号を出力させ、1次巻線に信号を印加する。これにより、1次巻線およびシャント抵抗3に周期信号に応じた電流が流れ、2次巻線に信号が誘起される。電圧測定回路1は、1次巻線(巻数N1)の両端電圧ではなく、2次巻線の両端電圧を測定する。

【0113】
図11の状態で示した単コイルのコイル部品7は、2次巻線を巻くことができないコイル部品、例えばパッケージされたインダクタ部品の銅損を含む鉄損を測定するのに用いられる。これに対して、図14のように、2次巻線を有するコイル部品26を測定する場合は、1次巻線の銅損が含まれない鉄損が測定できるので、コイル部品の鉄心である軟磁性体そのものの純粋な鉄損が測定できる利点がある。

【0114】
図14のように、2次巻線を有するコイル部品26を測定する構成では、鉄損Pcを式(2)で算出する代わりに次の式(27)で算出する。しかし、準備工程および計測工程の手順とデータ処理は、鉄損Pcの算出以外は同じなので、詳細な説明は省略する。

【0115】
【数27】
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【0116】
実施形態では、式(23)のVs(t)の各周波数成分の位相β(kω0)に、相対測定位相誤差の周波数特性Δφ(kω0)を加えて補正しているが、式(22)のVL(t)の各周波数成分の位相α(kω0)の方にΔφ(kω0)を加えて補正しても、式(2)で求められる鉄損Pcの正確さに影響はない。しかしながら、VL(t)の各周波数成分の位相α(kω0)の方にΔφ(kω0)を加える位相補正は、鉄損Pc以外の測定値に問題を生じさせる。この位相補正は、周波数位相特性が直線ではないシャント抵抗を含む電流測定回路2で測定したVs(t)を基準に、周波数位相特性が直線である電圧測定回路で測定したVL(t)の各周波数成分の位相を補正してしまうことになるので、Vs(t)、およびVL(t)の信号波形は真の信号波形とは異なるものに変化してしまう。そのため、実施形態のように、Vs(t)の各周波数成分の位相β(kω0)に、相対測定位相誤差の周波数特性Δφ(kω0)を加えて補正することが望ましい。ただし、シャント抵抗を含む電流測定回路2の周波数位相特性が直線に近ければ、VL(t)の各周波数成分の位相α(kω0)の方にΔφ(kω0)を加える位相補正でも問題はない。

【0117】
実施形態では、準備工程、および計測工程での信号の取込みは1周期分としているが、1周期に限定されるわけではない。できるだけ多くの整数周期分を取込み、平均処理を行った1周期を演算対象とすれば、より測定確度は向上する。

【0118】
さらに実施形態では、基準試料として抵抗とインダクタを直列に接続したものを採用しているが、基準試料は特にこの素子構成に限定されるわけではない。測定周波数の下限から上限の100倍まで、トレーサビリティが保証されているインピーダンスアナライザ等の本発明の鉄損測定装置とは別のインピーダンス測定器で、インピーダンスの大きさの周波数特性と周波数位相特性が高確度に測定できる0.5[Ω]~数[Ω] のインピーダンスを有する素子構成であれば良い。

【0119】
さらに、実施形態では、電流IL(t)の検出手段としてシャント抵抗を用いた場合について説明したが、これに限定されるわけではなく、カレントトランスや電流プローブ等のカレントセンサーを用いてもよい。
以上説明してきたように、本発明の鉄損測定装置によれば、コイル部品に流れる電流の振幅、およびコイル部品両端電圧に対するコイル部品に流れる電流の相対位相差を正確に補正することができるので、正確なコイル部品に流れる電流、正確なコイル部品両端電圧、および正確なコイル部品両端電圧に対するコイル部品に流れる電流の相対位相差からコイル部品の正確な鉄損を求めることができる。
【符号の説明】
【0120】
1 電圧測定回路
2 電流測定回路
3 シャント抵抗(電流検出用素子)
4 制御演算部
5 表示装置
6 信号発生器
7 被測定試料
16 カレントセンサー
24 基準試料
26 2次巻線を有するコイル部品
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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