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明細書 :哺乳動物における膵癌を診断するための診断キット、それを用いた検査方法および診断マーカー

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2014-183839 (P2014-183839A)
公開日 平成26年10月2日(2014.10.2)
発明の名称または考案の名称 哺乳動物における膵癌を診断するための診断キット、それを用いた検査方法および診断マーカー
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
C12M   1/34        (2006.01)
C07K  16/30        (2006.01)
C12N  15/02        (2006.01)
C12Q   1/68        (2006.01)
C12P  19/04        (2006.01)
G01N  33/574       (2006.01)
C12P  21/08        (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAA
C12M 1/34 Z
C07K 16/30
C12N 15/00 C
C12Q 1/68 A
C12P 19/04 Z
G01N 33/574 B
C12P 21/08
請求項の数または発明の数 10
出願形態 OL
全頁数 24
出願番号 特願2014-020302 (P2014-020302)
出願日 平成26年2月5日(2014.2.5)
優先権出願番号 2013029776
優先日 平成25年2月19日(2013.2.19)
優先権主張国 日本国(JP)
発明者または考案者 【氏名】松本 和也
【氏名】三浦 典正
【氏名】植木 賢
【氏名】汐田 剛史
出願人 【識別番号】504150461
【氏名又は名称】国立大学法人鳥取大学
個別代理人の代理人 【識別番号】110001139、【氏名又は名称】SK特許業務法人
【識別番号】100130328、【弁理士】、【氏名又は名称】奥野 彰彦
【識別番号】100130672、【弁理士】、【氏名又は名称】伊藤 寛之
審査請求 未請求
テーマコード 4B024
4B029
4B063
4B064
4H045
Fターム 4B024AA12
4B024BA45
4B024DA03
4B024GA05
4B024HA14
4B024HA15
4B029AA07
4B029BB11
4B029BB17
4B029BB20
4B029CC01
4B029FA12
4B063QA13
4B063QA19
4B063QQ03
4B063QQ08
4B063QQ53
4B063QQ79
4B063QR36
4B063QR48
4B063QR62
4B063QR72
4B063QR77
4B063QS02
4B063QS33
4B063QS34
4B063QX01
4B064AF11
4B064AG27
4B064CA10
4B064CA20
4B064CC24
4B064DA14
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA51
4H045FA72
要約 【課題】膵癌の診断に有用な血液中のバイオマーカーを提供する。
【解決手段】哺乳動物における膵癌を診断するための診断キットであって、その哺乳動物から得られた血液中のhTERTをコードするmRNAを定量的に検出するためのhTERT検出試薬を有し、そのhTERTをコードするmRNAの量が膵癌の診断の指標となる、診断キットを提供する。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
哺乳動物における膵癌を診断するための診断キットであって、
前記哺乳動物から得られた血液または唾液中のTERTをコードするmRNAを定量的に検出するためのTERT検出試薬を有し、
前記TERTをコードするmRNAの量が膵癌の診断の指標となる、
診断キット。
【請求項2】
請求項1に記載の診断キットにおいて、
前記膵癌の病期分類がTS1またはTS2である、
診断キット。
【請求項3】
請求項1または2に記載の診断キットにおいて、
前記TERT検出試薬が、TERTをコードするmRNAにハイブリダイズ可能な1組のプライマーを含む、
診断キット。
【請求項4】
請求項3に記載の診断キットにおいて、
前記哺乳動物がヒトであり、
前記TERTがhTERTであり、
前記1組のプライマーが、
(1)SEQ ID:1及びSEQ ID:2、SEQ ID:3及びSEQ ID:4、SEQ ID:5及びSEQ ID:6、SEQ ID:7及びSEQ ID:8のいずれかの組合せ、または
(2)(1)のいずれかの組合せとの間で80%以上の塩基配列の同一性を有する組合せ、
のいずれかからなる、
診断キット。
【請求項5】
請求項4に記載の診断キットにおいて、
前記1組のプライマーが、蛍光色素を用いたリアルタイムRT-PCRに用いるための1組のプライマーである、
診断キット。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の診断キットにおいて、
前記哺乳動物から得られた血液または唾液中のCA19-9を定量的に検出するためのCA19-9検出試薬をさらに有し、
前記TERTをコードするmRNAの量と前記CA19-9の量とを含む総合指標を、膵癌の診断の指標として示す、
診断キット。
【請求項7】
請求項6に記載の診断キットにおいて、
前記CA19-9検出試薬が、CA19-9に特異的に結合するモノクローナル抗体を含む、
診断キット。
【請求項8】
哺乳動物における膵癌を検査するための検査方法であって、
請求項1~7に記載の診断キットを用いて、前記哺乳動物から得られた血液または唾液中の膵癌の診断の指標を得る工程を含む、
検査方法。
【請求項9】
哺乳動物における膵癌を診断するための診断マーカーであって、
前記哺乳動物から得られた血液または唾液中のhTERTをコードするmRNAの量を含む、
診断マーカー。
【請求項10】
請求項9に記載の診断マーカーにおいて、
前記哺乳動物から得られた血液または唾液中のCA19-9の量をさらに含み、
前記TERTをコードするmRNAの量と前記CA19-9の量とを含む総合指標を、膵癌の診断の指標として示す、
診断マーカー。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、哺乳動物における膵癌を診断するための診断キット、それを用いた検査方法および診断マーカーに関する。
【背景技術】
【0002】
膵癌診療ガイドラインによると、膵癌治療開始前の確定診断が望ましいとされる。なかでも膵腫瘤に対する超音波内視鏡下穿刺吸引生検(以下EUS-FNA)は、正診率85~91%とされているが、約10%を正診できないことが課題である。またEUS-FNA施行可能な施設は限られており、現行の膵癌に対するバイオマーカーの正診率は70%程度と満足できるものではない。したがって、膵癌に対するサロゲートマーカーの開発が求められている。
【0003】
本発明者のうち一部のメンバーは、ヒト血清中から微量のmRNAを抽出し、特定の遺伝子発現を定量化する方法を確立し、肝細胞癌のバイオマーカーとしてhuman telomerase reverse transcriptase mRNA(以下hTERT mRNA)の臨床的有用性を報告してきた(特許文献1および非特許文献1)。
【0004】
また、非特許文献2には、human telomerase reverse transcriptase(以下hTERT)遺伝子の1塩基多型(SNPs)の膵癌との関係について解析した結果が報告されている。さらに、非特許文献3には、生検で入手した各種癌組織から顕微解剖して得られたサンプルについてhTERT mRNAをリアルタイムRT-PCRで定量した結果が報告されている。そして、非特許文献4および非特許文献5には、膵液中のhTERT mRNAをRT-PCR(またはリアルタイムRT-PCR)で定量した結果が報告されている。また、非特許文献6には、アデノウイルスベクターでhTERTを発現させると、他の成分との相乗効果で抗腫瘍効果があることが報告されている。
【0005】
一方、非特許文献7には、血清中のcarbohydrate antigen 19-9(以下CA19-9)の量が膵癌のバイオマーカーとして利用可能であることが報告されている。
【先行技術文献】
【0006】

【特許文献1】特許第4761046号公報
【0007】

【非特許文献1】BMC gastroenterology,18;10:46,2010
【非特許文献2】PLoS ONE,November 2011,Volume6,Issue11,e27921
【非特許文献3】Cancer Sci,November 2008,vol.99,no.11,2244-2251
【非特許文献4】Clinical Cancer Research,Vol.11,2285-2292,March 15,2005
【非特許文献5】Clinical Cancer Research,Vol.7,1976-1981,July 2001
【非特許文献6】Cancer Sci,March 2010,vol.101,no.3,735-742
【非特許文献7】World J Gastroenterol,2004;10(11):1675-1677
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記文献記載の従来技術は、以下の点で改善の余地を有していた。
【0009】
第一に、特許文献1および非特許文献1に記載の技術では、肝細胞癌のバイオマーカーとしてhTERT mRNAが臨床的有用性を有することについては実証しているが、膵癌のバイオマーカーとして有用かどうかは不明であった。
【0010】
第二に、非特許文献2の技術では、単にhTERT遺伝子の1塩基多型(SNPs)の膵癌との関係について解析しているだけであるため、hTERT mRNAが膵癌のバイオマーカーとして有用かどうかは不明であった。
【0011】
第三に、非特許文献3の技術では、生検で入手した各種癌組織から顕微解剖して得られたサンプルについてhTERT mRNAをリアルタイムRT-PCRで定量しているため、血液または唾液中のhTERT mRNAの量が膵癌のバイオマーカーとして有用かどうかは不明であった。
【0012】
第四に、非特許文献4または非特許文献5の技術では、膵液中のhTERT mRNAをリアルタイムRT-PCRで定量しているため、血液または唾液中のhTERT mRNAの量が膵癌のバイオマーカーとして有用かどうかは不明であった。
【0013】
第五に、非特許文献6の技術では、アデノウイルスベクターでhTERTを発現させると、他の成分との相乗効果で抗腫瘍効果があることが示されているだけであり、hTERT mRNAが膵癌のバイオマーカーとして有用かどうかは不明であった。
【0014】
第六に、非特許文献7の技術では、他の診断マーカーと組み合わせた場合であっても膵癌のバイオマーカーとしての感度は77%に過ぎず、特に膵癌の第一ステージ、第二ステージにおける感度は40.0%、58.3%と低いために実用には改善の余地があった。
【0015】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、膵癌の診断に有用な血液または唾液中のバイオマーカーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明によれば、哺乳動物における膵癌を診断するための診断キットであって、その哺乳動物から得られた血液または唾液中のTERTをコードするmRNAを定量的に検出するためのhTERT検出試薬を有し、そのTERTをコードするmRNAの量が膵癌の診断の指標となる、診断キットが提供される。
【0017】
また、本発明によれば、哺乳動物における膵癌を診断するための診断マーカーであって、その哺乳動物から得られた血液または唾液中のTERTをコードするmRNAの量を含む、診断マーカーが提供される。
【0018】
これらの診断キットまたは診断マーカーによれば、後述の実施例に示すように、血液または唾液中のTERTをコードするmRNAの量が膵癌の診断の好適な指標となるため、医師などの医療関係者がヒトをはじめとする哺乳動物における膵癌を診断する際に生検などをしなくても血液または唾液を用いて容易に正確な診断ができる。
【0019】
また、本発明によれば、上記の診断キットは、上記の哺乳動物から得られた血液または唾液中のCA19-9を定量的に検出するためのCA19-9検出試薬をさらに有し、そのTERTをコードするmRNAの量とそのCA19-9の量とを含む総合指標を、膵癌の診断の指標として示すことが好ましい。
【0020】
また、本発明によれば、上記の診断マーカーは、上記の哺乳動物から得られた血液または唾液中のCA19-9の量をさらに含み、そのTERTをコードするmRNAの量とそのCA19-9の量とを含む総合指標を、膵癌の診断の指標として示すことが好ましい。
【0021】
これらの診断キットまたは診断マーカーによれば、後述の実施例に示すように、血液または唾液中のTERTをコードするmRNAの量およびCA19-9の量を併せて用いることによって膵癌の診断のさらに好適な指標となるため、医師などの医療関係者がヒトをはじめとする哺乳動物における膵癌を診断する際に生検などをしなくても血液または唾液を用いて容易にさらに正確な診断ができる。
【0022】
また、本発明によれば、哺乳動物における膵癌を検査するための検査方法であって、上記の診断キットを用いて、その哺乳動物から得られた血液中の膵癌の診断の指標を得る工程を含む、検査方法が提供される。
【0023】
この方法によれば、後述の実施例に示すように、上記の診断キットを用いて血液または唾液中の膵癌の診断の指標の検査を行うため、医師などの医療関係者がヒトをはじめとする哺乳動物における膵癌を診断する際に生検などをしなくても血液または唾液を用いて容易に正確な診断ができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、医師などの医療関係者がヒトをはじめとする哺乳動物における膵癌を診断する際に生検などをしなくても血液または唾液を用いて容易に正確な診断ができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】実施例で行ったhTERTmRNAのリアルタイムRT-PCRの結果を示すグラフである。
【図2】実施例で用いたhTERTmRNAのリアルタイムRT-PCRの検定線を示すグラフである。
【図3】実施例2で用いたROC curveを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。

【0027】
<用語の説明>
「診断マーカー」とは、一般に「バイオマーカー」と呼ばれる概念を含み、NIHのバイオマーカーについての定義である「通常の生物学的過程、病理学的過程、もしくは治療的介入に対する薬理学的応答の指標として、客観的に測定され評価される特性」を含む概念である。

【0028】
また、「哺乳動物」とは、任意の哺乳動物を含み、ヒト、家畜用動物、ペット用動物、動物園用動物、又はスポーツ用動物、例えば、イヌ、ネコ、ウシ、ブタ、ウマ、ヒツジ、ウサギなどを含む。哺乳動物は、好ましくはヒトである。また、以下の実施形態に係るマーカー、試薬、またはキットを哺乳動物に適用する場合、哺乳動物は、膵癌に罹患していることが疑われる哺乳動物であってもよい。

【0029】
また、「膵癌」は、膵臓から発生した悪性腫瘍を含む。膵癌の病期分類は、日本膵臓学会の膵癌取扱い規約に基づけば、TNM分類をもとに、4段階の進行度(ステージ)に分けられる。

【0030】
日本膵臓学会の膵癌取扱い規約(第10版)
I期 -大きさが2cm以下で膵臓の内部に限局している。
II期 -がんは膵臓の内部にとどまるが、大きさが2cm以上であるか、第1群のリンパ節に転移がある。
III期-がんは膵臓の外へ少しでるが、リンパ節転移はないか、第1群までに限られている。または、がんは膵臓の内部にとどまるが、リンパ節転移は第2群まである。
IV期 -がんが膵臓の周囲の臓器・器官を巻き込んでいるか、離れた臓器まで転移がある。

【0031】
なお、T分類については、以下のように規定されている。
T分類(膵局所進展度)
T1:TS1,浸潤部が膵内に限局
T2:TS2-4,浸潤部が膵内に限局
T3:CH,DU,S,RPのいずれかに浸潤
CH(膵内胆管),DU(十二指腸浸潤),S(膵前方組織-膵被膜,膵に接する大網,小網,結腸間膜),RP(膵後面結合組織)
T4:PV,A,PL,OOのいずれかに浸潤
PV(門脈PVp,上腸間膜静脈PVsm,脾静脈PVsp),A(総肝動脈Ach,上腸間膜動脈Asm,脾動脈Asp,腹腔動脈Ace),PL(膵外神経叢浸潤,PLphI 膵頭神経叢第I部,PLphII 膵頭神経叢第II部,PLsma 上腸間膜動脈神経叢,PLcha総肝動脈神経叢,PLhdl 肝十二指腸間膜内神経叢,PLspa 脾動脈神経叢,PLce 腹腔神経叢),OO(下大静脈,腎,腎静脈,副腎,胃,大腸,脾臓)

【0032】
また、TSについては、以下のように規定されている。
TS(tumor size)は、(浸潤部分の)最大径を意味する。
TS1<=2.0cm
2.0cm<TS2<=4.0cm
4.0cm<TS3<=6.0cm
TS4>6.0cm

【0033】
一方、膵癌の病期分類は、UICCの規約に基づけば、以下の4段階の進行度(ステージ)に分けられており、日本膵臓学会の膵癌取扱い規約(第10版)とは若干異なっている箇所がある。
UICC規約(第7版)
I期 -膵癌が膵臓の内部にとどまっており、リンパ節転移はない。
II期 -膵癌は膵臓の周りにおよんでいるが、膵臓周囲の重要な血管にはおよばず、リンパ節転移はないか、第1群までに限られている。
III期-癌が膵臓周囲の重要な血管におよんでいるが、離れた臓器には転移がない。
IV期 -膵臓から離れたところに転移がある。
なお、後述する実施例における膵癌の病期分類などは、いずれも日本膵臓学会の膵癌取扱い規約(第10版)に基いており、本実施形態において日本膵臓学会の膵癌取扱い規約(第10版)およびUICCの規約が異なる場合には、日本膵臓学会の膵癌取扱い規約(第10版)が優先するものとする。

【0034】
<TERTをコードするmRNA単独の診断マーカー>
本実施形態に係る診断マーカーは、哺乳動物における膵癌を診断するための診断マーカーである。また、本実施形態に係る診断マーカーは、その哺乳動物から得られた血液または唾液中のTERTをコードするmRNAの量を含む。

【0035】
ここで、本実施形態に係る「TERT」(telomerase reverse transcriptase)は、哺乳動物において多くの悪性腫瘍において発現する悪性腫瘍(癌)特異的抗原(酵素)であるテロメレースの活性中心に位置するサブユニットの一つであるTERT(特にヒトのTERTをhTERT(human telomerase reverse transcriptase)と称する)を含む。本実施形態では、TERTとして、TERTポリペプチドの遺伝子多型体やスプライシングバリアントなどを用いることもできる。

【0036】
また、本実施形態におけるTERTをコードする「mRNA」は、必ずしも完全長である必要は無く、腫瘍の診断など、それぞれの使用目的に応じた鎖長と特異性とを有するmRNAを含む。なお、本実施形態において、TERTをコードするmRNAを定量的に検出する際には、mRNAそのものを直接定量する代わりに、逆転写酵素を用いてmRNAを一旦cDNAにしてからそのcDNAを定量してもよい。

【0037】
また、本実施形態における血液は、哺乳動物の生体のいずれの箇所から採取されてもよく、動脈血、静脈血のいずれから採取されたものも含む。なお、本実施形態において、TERTをコードするmRNAを定量的に検出する際には、血液中で直接TERTをコードするmRNAを定量的に検出する代わりに、血液から血清を分離した上で血清中でTERTをコードするmRNAを定量的に検出してもよい。

【0038】
本実施形態に係る診断マーカーは、後述する実施例に示すように、血液または唾液中のTERTをコードするmRNAの量が膵癌の診断の好適な指標となるため、医師などの医療関係者がヒトをはじめとする哺乳動物における膵癌を診断する際に生検などをしなくても血液または唾液を用いて容易に正確な診断ができる。

【0039】
従来は、膵腫瘤に対する超音波内視鏡下穿刺吸引生検(以下EUS-FNA)は、専門のトレーニングを受けた熟練した手技を有する医師でなければ難しく、診療所または市中病院では積極的に行われていない。これに対して、本実施形態に係る診断マーカーは、後述するリアルタイムRT-PCRなどの装置さえあれば診療所または市中病院でも使用が容易である。そのため、膵癌が疑われる患者がいた場合には、診療所または市中病院で、後述するリアルタイムRT-PCRなどの装置を用いてTERTをコードするmRNAを定量的に検出した上で、膵癌の可能性が高い患者のみを大学病院などの高度な総合病院に紹介して、熟練した医師によるEUS-FNAを受けて確定診断をしてもらうことができる。

【0040】
なお、本実施形態に係る診断マーカーは、膵癌の病期分類がTS1またはTS2である場合に特に有用である。膵癌の(浸潤部分の)最大径は、TS1<=2.0cm、2.0cm<TS2<=4.0cmであるため、膵癌の病期分類がTS1またはTS2である場合には膵癌の発見が非常に困難であった。そのため、このように膵癌のサイズが小さい段階で、後述するリアルタイムRT-PCRなどの装置を用いてTERTをコードするmRNAを定量的に検出して、膵癌の可能性の高い患者を発見できれば、膵癌の外科手術、化学療法、放射線治療などによる治癒の可能性が高まるために好ましい。

【0041】
<TERTをコードするmRNA単独の診断マーカーのための診断キット>
本実施形態に係る診断キットは、哺乳動物における膵癌を診断するための診断キットである。また、本実施形態に係る診断キットは、哺乳動物から得られた血液または唾液中のTERTをコードするmRNAを定量的に検出するためのTERT検出試薬を有する。

【0042】
このTERT検出試薬は、TERTをコードするmRNAを定量的に検出することができる試薬であれば任意のものを用いることができるが、例えば、TERTをコードするmRNAにハイブリダイズ可能な(または特異的にハイブリダイズ可能な)1組のプライマーを含んでいてもよい。本実施形態における「プライマー」とは、逆転写反応もしくは核酸増幅反応において、鋳型とハイブリダイズし、逆転写反応もしくは核酸増幅反応を開始するのに必要な核酸を含む。逆転写反応もしくは核酸増幅反応において、標的の鋳型とハイブリダイズし、その後の反応を行えるように、好ましくは特異的な生成物(鎖長あるいは配列において)を生成可能なように、より好ましくはプライマー自身がその鋳型特異的な配列を含むように、設計されることが好ましい。また、一般的なプライマーは、これに限られないが、通常、15塩基-100塩基、好ましくは15塩基-35塩基の鎖長を有するように設計されることが好ましい。

【0043】
このようなプライマーは、プライマーのGC(グアニン・シトシン)の比率や、融解温度などの当業者によく知られた技術常識、並びにBLAST等の公知のプログラム及びデータベースを用いることにより、当業者には容易に設計可能である。また、各種プライマー設計ソフトウェアを用いてもよく、例えば、Primer Express TM(パーキン・エルマー、アプライド・バイオシステムズ)やPrimer Explorer(富士通株式会社;LAMP法用)を用いて設計することもできる。その際、プライマーの3'側の領域は鋳型鎖に対し相補的であることが好ましいが、5'側には制限酵素認識配列やタグなどを付加することも可能である。

【0044】
また、例えば核酸増幅法としてICAN法を用いる場合などにおいては、プライマーはDNAだけでなくRNAを含むか、あるいは必要に応じてRNAのみで構成されていてもよい。また、用いる核酸増幅方法/核酸検出方法に応じて、プライマーは、RNAポリメラーゼのプロモーター配列、ステムループ構造部位、制限酵素配列などの様々な機能配列を更に含んでもよい。特に本実施形態に好適なプライマーについては、後述する。

【0045】
また、本実施形態において、「特異的にハイブリダイズする」とは、ある核酸に対し、別の核酸が水素結合等を介し、相補的に結合し、比較対照とすべき核酸には同条件では結合しない状態を含む。必ずしも、「他の全ての核酸に対して結合しない」必要性は無く、使用目的に応じた特異性を有していればよい。例えば、TERT遺伝子のmRNAの検出においては、試料中に含まれる他のmRNAに対して無視できるほどにしか弱く結合しない核酸は、「特異的にハイブリダイズする」核酸であるということができる。

【0046】
ハイブリダイズの条件は、その核酸の使用目的に応じて選択することができる。例えば、PCRに用いるプライマーとしての核酸であれば、PCRでのアニーリング時の条件でハイブリダイズするように選択される。好ましくは、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件でハイブリダイズするものが選択される。

【0047】
また、本実施形態における「ストリンジェントな条件」は、ハイブリダイゼーション中にホルムアミド等の変性剤を含む条件、例えば、42℃において50%(v/v)ホルムアミドと0.1%ウシ血清アルブミン/0.1%フィコール/0.1%のポリビニルピロリドン/50mMのpH6.5のリン酸ナトリウムバッファー、及び750mMの塩化ナトリウム、75mMクエン酸ナトリウムを用いるものや、その適宜改変したものが挙げられるが、これに限られない。また、ハイブリダイゼーション条件の温度については、用いる核酸増幅反応あるいはハイブリダイズ反応に応じて定めることができるが、例えば、42℃、43℃、45℃、50℃、55℃、60℃、65℃、68℃、70℃、72℃である。

【0048】
また、本実施形態における「核酸」とは、天然に存在する塩基、糖及び糖間結合からなる核酸(RNAおよびDNAの双方を含む)のことをいい、そのオリゴマー(例えば、2から100塩基程度)及びポリマー(例えば、100塩基以上)を含む総称である。本実施形態における核酸は、同様に機能する天然に存在しないモノマー、蛍光分子等や放射性同位体で標識されたモノマー、あるいはこれらを含むオリゴマー又はポリマーを含む。

【0049】
また、本実施形態において、「核酸増幅」法としては、標的の核酸を増幅させる方法として公知のものならば、何れの方法を用いてもよいが、プライマー及びプライマーセットを用いる方法として、例えば、PCR法、LAMP法あるいはその他の核酸の協奏的核酸増幅方法が用いられる。特にRNAを増幅する際には、逆転写酵素によってRNAを鋳型としてcDNAを合成し、それと同時或いはそれに引き続いて、耐熱性DNAポリメラーゼによって標的RNA由来の核酸産物を増幅させるRT-PCR法(Kinetic RT-PCR法など)、RT-LAMP法あるいはその他の核酸の協奏的RNA増幅方法が用いられる。更に、核酸増幅法としては、上記のLAMP法に加え、NASBA法、TMA法、3SR法、ICAN法、TRC法等を用いることもでき、当業者であれば、それぞれの方法の試薬やキット等の通常用いられる用い方に従って、これらの方法を実施することができる。

【0050】
また、本実施形態に係る診断キットでは、上記の1組のプライマーが、蛍光色素を用いたリアルタイムRT-PCRに用いるための1組のプライマーであってもよい。ここで、RT-PCR(逆転写反応と核酸増幅反応)の方式としては、例えば、One-Step RT-PCRを用いることもできる。One-Step RT-PCRとは、RTでのインキュベーションからPCRでのサイクリングまで、チューブの開閉や試薬の添加を行うことなく、ワンステップで迅速かつ簡便にRT-PCRを行うことができるRT-PCR法を含み、当該技術分野ではOne-Step RT-PCRのための様々なキット、プロトコールが使用可能であり(例えば、QIAGENのOneStepRT-PCRMix、KAPA BIOSYSTEMSのKAPA SYBR FAST Universal One-Step qRT-PCR Kitなど)、適宜それらを選択して実施することができる。

【0051】
リアルタイムPCRを用いることで、ワンステップあるいは短いステップ数の工程で、簡便に、リアルタイムで、かつ定量的に、検出工程までを行うことが可能となる。リアルタイムRT-PCRとしては、例えば、各種蛍光PCRベースの技術を用いることが可能である。蛍光PCRベースの技術としては、例えば、SYBR Greenなどの各種の蛍光性核酸標識剤を用いるインターカレーター法(例えば、ライトサイクラー(登録商標:ロシュ社)、ABI Prizm 7700 Sequence Detection System(登録商標)(パーキン・エルマー、アプライド・バイオシステムズ社)を用いる)、TaqDNAポリメラーゼ酵素の5'エキソヌクレアーゼ活性を利用して増幅をリアルタイムでモニターするTaqManプローブ法、RNaseH酵素のRNase活性及び専用のキメラRNAプローブを利用するサイクリングプローブ法などが挙げられるが、これに限られない。

【0052】
また、本実施形態において、増幅産物の検出法としては、核酸を検出するための方法として公知のものならば、何れの方法を用いてもよい。例えば、増幅後の核酸を電気泳動して検出しても、検出可能な標識を結合させた核酸プローブを用いたハイブリダイゼーション法を用いて検出してもよいが、多数検体処理、自動化、再現性や二次汚染等の点で有利なインターカレーター性蛍光色素(SYBR Greenなど)を用いてもよい。

【0053】
増幅核酸の検出方法は、上記に限られず、例えば、LAMP法では、副産物のピロリン酸マグネシウムによる白濁を指標に検出してもよく、増幅核酸を直接測定しない方法等であっても、それぞれの核酸増幅方法に適用可能な公知の増幅産物検出方法であれば、何れの方法でも用いることができる。

【0054】
また、蛍光色素を用いたリアルタイムRT-PCRにおける定量方法は、コピー数を算出する絶対定量法であってもよく、相対値で発現を調べる相対定量法であってもよい。絶対定量法とは、あらかじめ濃度の分かっている目的産物のDNAを段階希釈し、希釈系列を用いてリアルタイムRT-PCRを行い検量線を書き、濃度不明のサンプルのCt値を検量線にあてはめコピー数を計算するものである。一方で、相対定量法は、目的遺伝子とリファレンス遺伝子を同時に解析しリファレンス遺伝子に比べ、目的遺伝子がどれだけ発現しているかを相対的に比較したものである。

【0055】
また、本実施形態に係る診断キットでは、上記の哺乳動物がヒトである場合には、上記のTERTがhTERTであることが好ましい。そして、上記の1組のプライマーが、後述する実施例でヒトの血液または唾液中のhTERTをコードするmRNAの量を正確に定量できることが実証されているSEQ ID:1及びSEQ ID:2、SEQ ID:3及びSEQ ID:4、SEQ ID:5及びSEQ ID:6、SEQ ID:7及びSEQ ID:8のいずれかの組合せからなることが好ましい。

【0056】
配列番号:1(gttcttccaa acttgctgat gaaat; TERT_NM_198253.2の3049-3071由来)及び2(gtgcaccaac atctacaaga tcc; TERT_NM_198253.2の3118-3142由来)は、本実施形態に好適なプライマーであり、配列番号:3(atttcatcag caagtttgga agaac; TERT_NM_198253.2の3049-3071由来)及び4(ggatcttgta gatgttggtg cac; TERT_NM_198253.2の3118-3142由来)は、それらのプライマーに対応するTERT遺伝子のmRNA上の配列(あるいは相補的配列)である。

【0057】
また、配列番号:5(cggaagagtg tctggagcaa; TERT_NM_198253.2の1787-1806由来)及び6(ggatgaagcg gagtctgga; TERT_NM_198253.2の1913-1931由来)は、特許文献1において本発明者のうち一部のメンバーが開示している本実施形態に好適なプライマーであり、配列番号:7(ttgctccaga cactcttccg; TERT_NM_198253.2の1787-1806由来)及び8(tccagactcc gcttcatcc; TERT_NM_198253.2の1913-1931由来)はそれらのプライマーに対応するTERT遺伝子のmRNA上の配列(あるいは相補的配列)である。これらのプライマーは、TERT遺伝子の配列(遺伝子データベース上では"TERT_NM_198253.2"である配列)を用いて設計された。

【0058】
効果的な逆転写反応の可能なこれらの領域に対するプライマーを用いて逆転写反応及び核酸増幅を行うことにより、正確かつ安定な逆転写反応及び核酸増幅反応を行うことが可能となった。さらに、これらのプライマーは、その感度の高さから、膵癌の初期(TS1またはTS2)において膵癌の存在証拠を血液または唾液中から検出する上でも極めて有効である。

【0059】
なお、本実施形態に係る診断キットでは、1組のプライマーとして、上述のSEQ ID:1及びSEQ ID:2、SEQ ID:3及びSEQ ID:4、SEQ ID:5及びSEQ ID:6、SEQ ID:7及びSEQ ID:8のいずれかの組合せだけでなく、これらの組合せの塩基配列との間の同一性がそれぞれ80%、以上、85%以上、90%以上、95%以上あるいは98%以上(100%以下)である組合せからなる1組のプライマーを用いてもよい。あるいは、1組のプライマーとして、上記のいずれかの組合せの塩基配列に対し、それぞれ1塩基、2塩基、3塩基、4塩基、5塩基、又は数塩基の置換・欠失・挿入がなされた組合せからなる1組のプライマーを用いてもよい(同一性の定義の際と同様に、同一の塩基を有するRNAとDNAの置換は、ここでの置換・欠失・挿入には含めない)。

【0060】
本実施形態における「同一性」とは、配列を比較することにより決定される、2以上の核酸の間の関係を含み、核酸の塩基配列間の適合によって決定されるような配列一致性の程度を含む。「同一性」に関するパラメーターは、既知の方法により容易に計算可能である。この際に、同一の塩基(チミンとウラシンも同一とみなす)を有するDNAとRNAとは結合特性が非常に近いため、同一の核酸塩基として定義してもよい。同一性を決定する目的のためのアラインメントは、当業者の技量の範囲にある種々の方法、例えば、NCBI(National Center for Biotechnology Information)の提供するBLAST、BLAST2SEQ又はALIGNのような公に入手可能なコンピュータソフトウエアを使用することにより達成可能であるが、簡便には、BLAST2SEQにおいて標準的な初期パラメーターを用いて計算された値を用いることもできる。

【0061】
本実施形態のプライマーセットを用いる核酸増幅は、TERT遺伝子のmRNAを鋳型として、上述のプライマーセットのうちアンチセンスプライマー(SEQ ID:2、SEQ ID:4、SEQ ID:6、SSEQ ID:8)によってcDNAを合成し、それと同時か或いはそれに引き続いて、上述のプライマーセットと適当なDNAポリメラーゼ活性および/あるいはRNAポリメラーゼ活性により連鎖的に実行される核酸増幅法によってなされる。以上の核酸増幅方法で得られた増幅産物は公知の核酸検出方法で検出することが可能である。

【0062】
それぞれのプライマーは、その目的に応じて、更に様々なものを付加して含んでもよいが、プライマーとしての有効性を考えると、その長さは少なくとも15塩基以上、あるいは18塩基以上、あるいは20塩基以上である。長さの上限は、特に制限されるものではないが、プライマーが長すぎることによる核酸増幅反応の効率低下や各増幅反応に必要なプライマー長を考慮し、上限を、100塩基以下、80塩基以下、60塩基以下、あるいは50塩基以下としてもよい。

【0063】
本実施形態の診断キットにおいては、TERTをコードするmRNAの量が膵癌の診断の指標となるため、TERT遺伝子のmRNAの発現量が高い場合は膵癌の疑いが高いと診断され、その基準(所定のカットオフ値)等は、当分野の医師などによる症例の比較などを通じて適宜設定することができる。

【0064】
腫瘍の診断においては、例えば、血液1ml中における1個の腫瘍細胞の存在を検出することができれば、循環している血液全体では3000個~4000個の細胞に匹敵し、これは腫瘍生着の動物実験における、生着可能となる腫瘍細胞の数に匹敵することになる。仮に、3000個~4000個の循環細胞が腫瘍中の全細胞の0.01%であると仮定しても、その段階での腫瘍には約4×10個の細胞しか含まれず、そのような数の細胞を含む腫瘍は、現在のいずれの方法によっても検出することが困難である。

【0065】
したがって、腫瘍(癌)の初期の段階において腫瘍細胞が流出する場合、感度の高い検出方法が開発できれば、初期の段階の腫瘍(癌)でさえ検出することが可能となる。したがって、例えば、腫瘍細胞が腫瘍サイズといくらかの関連性を以って血液または唾液中に流出する場合、本実施形態に係る診断キットは効果的であり、腫瘍負荷を評価するための定量的試験としても有効となる。

【0066】
さらに、流出した腫瘍細胞と生体内の免疫細胞との闘いの際に、腫瘍細胞や免疫細胞内の多種多様なDNAやタンパク質やRNAなどが血液中に流れ出ることでRNAが検出されることもあるため、腫瘍特異的RNAの検出は、転移の最も早期での出来事を反映しているとも考えられる。

【0067】
したがって、非常に高感度で安定した検出が可能な、本実施形態に係る診断キットは、通常の膵癌の診断キットとしても有用であるだけでなく、特に、膵癌の初期段階(TS1またはTS2)での診断ではより一層有用である。この診断キットは、膵癌の初期段階(TS1またはTS2)において癌細胞の存在証拠を血液または唾液中から検出することもできるので、癌組織腫瘍形成、転移後の切除組織中から癌関連遺伝子を検出する場合に比べ、癌細胞の有無をより正確に検出することも可能である。

【0068】
<TERTをコードするmRNAおよびCA19-9を組合せた診断マーカー>
本実施形態に係る診断キットは、哺乳動物から得られた血液または唾液中のTERTをコードするmRNAの量にくわえて、その哺乳動物から得られた血液または唾液中のCA19-9の量をさらに有することが好ましい。

【0069】
ここで、本実施形態に係る「CA19-9」(carbohydrate antigen 19-9)は、1979年にKoprowskiらにより大腸癌培養株SW1116を免疫抗原として作製したモノクローナル抗体NS19-9によって認識される糖鎖抗原を含む。この抗原の決定部位は、シアリルラクト-N-フコペンタオースIIで、ルイス式血液型のルイスA(Lea)の糖鎖をシアル化したシアリルLea抗原とされる。

【0070】
CA19-9は、正常組織中の唾液腺、胆管、気管支腺などに存在する。消化器癌、特に膵癌・胆嚢癌・胆管癌・大腸癌において高い陽性率を示すことから、これらの癌の診断補助、治療経過及び再発のモニターとして有効である。しかし、非特許文献7にも示されているように、他の診断マーカー(TSGF、CA242)と組み合わせた場合であっても膵癌のバイオマーカーとしての感度は77%に過ぎず、特に膵癌の第一ステージ、第二ステージにおける感度は40.0%、58.3%と低いために実用には改善の余地があった。

【0071】
これに対して、本実施形態では、TERTをコードするmRNAの量とCA19-9の量とを総合して得られる指標を、膵癌の診断の総合指標として示す。具体的には、本実施形態では、TERTをコードするmRNAの量が所定のカットオフ値以上であるか、またはCA19-9の量が所定のカットオフ値以上である場合に、哺乳動物に膵癌の疑いがある(総合指標として陽性である)と判定することが好ましい。このようにして判定した場合には、所定のカットオフ値の設定にもよるが、例えば後述する実施例で示すように、膵癌のバイオマーカーとしての感度は100.0%と高く、特に膵癌の第一ステージ、第二ステージにおける感度は100.0%、100.0%と高いために実用に適している。なお、膵癌の診断の総合指標としては、上記の判定基準に限定されるわけではなく、例えば、TERTをコードするmRNAの量が所定のカットオフ値以上であり、かつCA19-9の量が所定のカットオフ値以上である場合に、哺乳動物に膵癌の疑いがあると判定してもよい。また、TERTをコードするmRNAの量およびCA19-9の量をそれぞれ正規化した上で所定の重み付けをした上で足しあわせて総合指標を計算し、その総合指標が所定のカットオフ値以上である場合に、哺乳動物に膵癌の疑いがあると判定してもよい。

【0072】
<TERTをコードするmRNAおよびCA19-9を組合せた診断マーカーのための診断キット>
本実施形態に係る診断キットは、哺乳動物における膵癌を診断するための診断キットである。また、本実施形態に係る診断キットは、哺乳動物から得られた血液中のTERTをコードするmRNAを定量的に検出するためのTERT検出試薬にくわえて、哺乳動物から得られた血液中のCA19-9を定量的に検出するためのCA19-9検出試薬をさらに有する。

【0073】
このCA19-9検出試薬は、CA19-9(の抗原決定部位であるアリルラクト-N-フコペンタオースII)を定量的に検出することができる試薬であれば任意のものを用いることができるが、例えば、CA19-9に特異的に結合するモノクローナル抗体またはポリクローナル抗体を含んでいてもよい。このような抗CA19-9抗体としては、1979年にKoprowskiらにより大腸癌培養株SW1116を免疫抗原として作製したモノクローナル抗体NS19-9が代表例として挙げられるが、特に限定されず、他のモノクローナル抗体またはポリクローナル抗体を用いてもかまわない。

【0074】
具体的には、抗CA19-9抗体は、常法に基づいて、ウサギ、ラット、マウス等の動物にCA19-9の抗原決定部位であるアリルラクト-N-フコペンタオースIIを含む糖鎖(またはその糖鎖を含む物質)を免疫してポリクローナル抗体を作製する方法、また、常法に基づいて、例えばCA19-9の抗原決定部位であるアリルラクト-N-フコペンタオースIIを含む糖鎖(またはその糖鎖を含む物質)で予め免疫された抗体産生細胞と骨髄腫細胞とを細胞融合させて得られる自律増殖能を持ったハイブリドーマが産出するモノクローナル抗体でもよい。さらに、抗原結合活性を有する限り、組換え抗体やこれらの抗体のフラグメント(例えばF(ab')2、Fab領域等)でもよい。抗体フラグメントは、抗体をタンパク質分解酵素で分解し、精製することにより得られる。なお、これらの抗体を一種単独に用いてもよく、あるいは二種以上を組み合わせて用いてもよい。また、抗CA19-9抗体は、市販されているものを制限なく使用可能である。

【0075】
また、このCA19-9検出試薬は、抗体に限定されず、CA19-9(の抗原決定部位であるアリルラクト-N-フコペンタオースII)を定量的に検出することができるレクチンを用いてもよい。

【0076】
CA19-9の検出を容易にするため、予めCA19-9検出試薬(抗CA19-9抗体など)を標識しておくことが好ましい。抗CA19-9抗体の標識物質としては、検出方法に基づいて、32P、131I、35S、45Ca、H、14C等の放射性同位体、Cy3、Cy5、ローダミン、フルオレセイン、ダンシル、フルオレスカミン、クマリン、ユーロピウム、ナフチルアミン等の蛍光物質、ルシフェリン、イソルミノール、ルミノール、ビス(2,4,6-トリフロロフェニル)オキザレート等の発光物質、フェノール、ナフトール、アントラセン等の紫外線吸収物質、アルカリフォスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ、ペルオキシダーゼ、マイクロペルオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、グルコース-6-リン酸脱水素酵素、アセチルコリンエステラーゼ、リンゴ酸脱水素酵素等の酵素、4-アミノ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル、3-アミノ-2,2,5,5-テトラメチルピロリジン-1-オキシル、2,6-ジ-t-ブチル-α-(3,5-ジ-t-ブチル-4-オキソ-2,5-シクロヘキサジエン-1-イリデン)-p-トリルオキシルのスピンラベル化剤、金コロイド、銀コロイド、白金コロイド等が使用可能である。

【0077】
このCA19-9検出試薬は、例えば、以下のような2ステップサンドイッチ法を用いた化学発光酵素免疫測定法によってCA19-9を測定可能である。
(1)最初に添加したビオチン結合抗CA19-9モノクローナル抗体が試料中のCA19-9と特異的に反応し、次いで添加したストレプトアビジン結合磁性粒子に結合する。
(2)未反応液を除去後、続いて添加したALP標識抗CA19-9モノクローナル抗体が磁性粒子上のCA19-9と特異的に反応する。
(3)未反応液を除去後、さらに添加した発光基質CDP-Starが磁性粒子上のALPにより分解され、生じた発光の強度を測定する。試料中のCA19-9濃度を反映して発光強度が増加するので、あらかじめ既知濃度のCA19-9を含む試料を測定して検量線を作成しておくことにより、試料中のCA19-9濃度を求めることができる。

【0078】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。

【0079】
例えば、上記実施の形態ではTERTをコードするmRNAおよびCA19-9を組合せた診断マーカーのための診断キットについてまとめて説明したが、この診断キットは、TERTをコードするmRNA単独の検出試薬と、CA19-9単独の検出試薬とにくわえて、さらに別の膵癌の診断の正確性を高めるのに役立つ診断マーカー(Span-1、CEA、DUPAN2、TSGFなど)の検出試薬を有してもよい。
【実施例】
【0080】
以下、本発明を実施例によりさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0081】
<実施例1>
鳥取大学医学部付属病院における膵癌疑い症例に対して、膵癌のバイオマーカーとしてhTERTmRNAの臨床的意義を以下のとおり検討した。
【実施例】
【0082】
2011年12月より2012年9月までに鳥取大学医学部附属病院で経験した膵癌疑い症例72例(膵癌45例、非膵癌27例)について血液を採取し、血清を以下の実験に供した。患者の平均年齢は70.1歳(36歳~87歳)であった。
【実施例】
【0083】
この試験を行うに際し、患者からインフォームドコンセントを得て、且つ、研究プロトコール(計画案)は、1975年のヘルシンキ宣言の倫理的ガイドラインに従ったものとし、鳥取大学の倫理委員会の承認の下、試験を行った。
【実施例】
【0084】
本実施例では、最初に被験者(患者)の血液を採取し、次に血液中からRNAを含む試料を得た。より具体的に説明すると、患者から採取した血液(約1~2mL)について、10℃で10分間、3段階(800xg、1000xg、1500xg)の遠心分離操作を行うことにより、リンパ球を減少させた血清を得、それを試験試料として用いた。リンパ球が効果的に取り除かれていることは、β2-マイクログロブリンを対照として、CD2、CD3、CD8、CD19、CD22及びCD68の発現量を調べることにより確認した。次いで、従来公知の方法で、血清からデオキシリボヌクレアーゼ処理を用いてRNAを抽出した。血清200μL中から抽出したRNAを200μLのヌクレアーゼフリーの水に溶解した。
【実施例】
【0085】
次に、得られた試料に対してKAPA BIOSYSTEMSのKAPA SYBR FAST Universal One-Step qRT-PCR Kitを使用して以下のプロトコルでリアルタイムRT-PCRを行った。なお、上述のSEQ ID:1のPrimer F (hTERT F)およびSEQ ID:2のPrimer R (hTERT R)を用いてリアルタイムRT-PCRを行った。このリアルタイムRT-PCRの結果を図1に示す。PCRのコントロール試料としては、β2-マイクログロブリンRNAを用いた。コントロールの検量線を図2に示す。
【実施例】
【0086】
JP2014183839A_000003t.gif
【実施例】
【0087】
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【実施例】
【0088】
また、得られた試料に対してベックマン・コールター社製の癌抗原19-9キット アクセスGIモニターを用いて、キットに付属のプロトコルにしたがって化学発光酵素免疫測定法でCA19-9の定量試験(キットに記載されているカットオフ値:<35U/ml)を行った。
【実施例】
【0089】
また、得られた試料に対して市販のキットを用いて、キットに付属のプロトコルにしたがってDUPAN2、CEA、Span-1の定量試験(キットの推奨値をカットオフ値として採用した)を行った。
【実施例】
【0090】
その結果、hTERT mRNAによる膵癌診断能は、ROC曲線解析でカットオフ値を903(copy/血清10μl)と設定した場合、感度97.8%(44/45)、特異度65.4%(17/26)、陽性的中率83.0%(44/53)、陰性的中率94.4%(17/18)、正診率83.0%(44/53)と良好な成績であった。なお、結果を下記の表1にまとめて示す。
【実施例】
【0091】
【表1】
JP2014183839A_000005t.gif
【実施例】
【0092】
また、hTERT mRNAによる膵癌における腫瘍径、T因子による感度は、TS1/TS2/TS3で(TS4症例はなし)、90.0%(9/10)/100%(26/26)/100%(9/9)、T1/T2/T3/T4で100%(2/2)/100%(3/3)/100%(9/9)/96.8%(30/31)と、TS1症例や膵内に限局するT1/T2症例などの切除可能症例でも良好な感度を確認した。なお、結果を下記の表2に示す。
【実施例】
【0093】
【表2】
JP2014183839A_000006t.gif
【実施例】
【0094】
また、CA19-9による膵癌診断能は、キットに記載のとおりCA19-9のカットオフ値を35U/mlと設定した場合、感度75.6%(34/45)、特異度92.6%(25/27)、陽性的中率94.4%(34/36)、陰性的中率69.4%(25/36)、正診率81.9%(59/72)とやや改善の余地のある成績であった。なお、結果を上記の表1にまとめて示す。
【実施例】
【0095】
また、CA19-9による膵癌診断能は、膵癌における腫瘍径、T因子による感度は、TS1/TS2/TS3で(TS4症例はなし)90%(9/10)/100%(26/26)/100%(9/9)、T1/T2/T3/T4でと、TS1症例や膵内に限局するT1/T2症例などの切除可能症例でも良好な感度を確認した。なお、結果を下記の表3に示す。
【実施例】
【0096】
【表3】
JP2014183839A_000007t.gif
【実施例】
【0097】
これに対して、hTERT mRNAおよびCA19-9による総合的な膵癌診断能は、ROC曲線解析でhTERT mRNAのカットオフ値を903(copy/血清10μl)と設定し、キットに記載のとおりCA19-9のカットオフ値を35U/mlと設定して、下記の表4に示すように、hTERT mRNAまたはCA19-9のいずれかがカットオフ値以上である場合に総合指標として陽性であると判定したところ、感度100.0%(45/45)と良好な成績であった。
【実施例】
【0098】
また、hTERT mRNAおよびCA19-9による総合的な膵癌診断能は、膵癌における腫瘍径、T因子による感度は、TS1/TS2/TS3で(TS4症例はなし)、100.0%(10/10)/100%(26/26)/100%(9/9)、T1/T2/T3/T4で100%(2/2)/100%(3/3)/100%(9/9)/96.8%(31/31)と、TS1症例や膵内に限局するT1/T2症例などの切除可能症例でも良好な感度を確認した。なお、結果を下記の表4に示す。
【実施例】
【0099】
【表4】
JP2014183839A_000008t.gif
【実施例】
【0100】
<実施例2>
腫瘍径の異なる膵癌患者(TS1:10例、TS3:9例)に対して、hTERT mRNAおよびCA19-9による総合的な膵癌診断を行った。このときのhTERT mRNAによる膵癌診断の診断能は、ROC曲線解析でカットオフ値を、924.5(copy/血清10μl)に設定して行った。ROC curveを図3に示す。その他の診断条件(血液の採取、定量試験等の条件)は、実施例1と同様の条件で行った。そして、19例について診断した結果、感度は100%であり非常に良好な成績であった(表5)。
【実施例】
【0101】
【表5】
JP2014183839A_000009t.gif
【実施例】
【0102】
<結果の考察>
上記の実施例1~2の実験結果から、血清中hTERT mRNA測定は、早期膵癌の診断にも有用で、現行の膵癌に対する腫瘍マーカーを凌駕することが示された。また、血清中hTERT mRNA測定と、血清中CA19-9測定とを組み合わせると、早期膵癌の診断にも有用で、現行の膵癌に対する腫瘍マーカーをはるかに凌駕することが示された。すなわち、hTERT mRNAまたはCA19-9のいずれかがカットオフ値以上の場合はそれを「陽性」とすれば、膵癌の第一ステージ、第二ステージにいても感度をほぼ100%にすることができるため、診療所および市中病院のようなEUS-FNAを実施することが困難な医療機関であっても、膵癌の患者をほぼ見落とすことがない。そのため、診療所および市中病院は膵癌が疑われる患者をほぼ見落としなく大学病院のような高度医療機関に紹介することができ、高度医療機関でEUS-FNAを行なって擬陽性の患者を排除できるため、高度医療機関で膵癌患者を膵癌の第一ステージ、第二ステージにおいて治療することが可能になる。
【実施例】
【0103】
以上、本発明を実施例に基づいて説明した。この実施例はあくまで例示であり、種々の変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【実施例】
【0104】
たとえば、上記実施例では、ROC曲線解析でカットオフ値を903(copy/血清10μl)と設定し、キットに記載のとおりCA19-9のカットオフ値を35U/mlと設定したが、特に限定されるわけではなく、目的に応じてカットオフ値は適宜調整することができる。具体的には、さらに多くの症例が集まることによって、これらのカットオフ値を最適化できることは当業者には容易に理解できる。
【実施例】
【0105】
また、上記実施例では、血清中のhTERT mRNAを測定したが、特に限定されるわけではなく、目的に応じて唾液中のhTERT mRNAを測定してもよい。本発明者らは、唾液から抽出したRNAを用いて、hTERT mRNAをリアルタイムRT-PCRを行ったところ、hTERT mRNAを検出できることを確認している。そのため、血清中のhTERT mRNAだけでなくて唾液中のhTERT mRNAの場合でも膵癌に対する腫瘍マーカーとして活用できることは当業者には容易に理解できる。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2