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明細書 :ダイヤモンドライクカーボン膜の成膜装置および形成方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2014-237890 (P2014-237890A)
公開日 平成26年12月18日(2014.12.18)
発明の名称または考案の名称 ダイヤモンドライクカーボン膜の成膜装置および形成方法
国際特許分類 C23C  16/455       (2006.01)
C23C  16/26        (2006.01)
FI C23C 16/455
C23C 16/26
請求項の数または発明の数 16
出願形態 OL
全頁数 27
出願番号 特願2014-098357 (P2014-098357)
出願日 平成26年5月12日(2014.5.12)
優先権出願番号 2013100200
優先日 平成25年5月10日(2013.5.10)
優先権主張国 日本国(JP)
発明者または考案者 【氏名】西永 泰隆
【氏名】田中 勝己
【氏名】チュウ チャオ キョン
出願人 【識別番号】504133110
【氏名又は名称】国立大学法人電気通信大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100083806、【弁理士】、【氏名又は名称】三好 秀和
【識別番号】100101247、【弁理士】、【氏名又は名称】高橋 俊一
審査請求 未請求
テーマコード 4K030
Fターム 4K030AA09
4K030AA17
4K030BA28
4K030BB05
4K030CA02
4K030CA05
4K030DA03
4K030DA08
4K030EA01
4K030EA03
4K030FA10
4K030JA06
4K030JA10
4K030KA09
4K030KA41
要約 【課題】成膜に要する時間を短縮することができ、且つ膜品質を向上させることが可能なダイヤモンドライクカーボン膜の成膜装置およびその形成方法を提供する。
【解決手段】ガス制御部22は、流動経路14が成膜温度に達するまで、キャリアガスをキャリアガス供給源20から流動経路14に供給するように制御すると共に、流動経路14が成膜温度に達した際に、炭素源が所定濃度で含まれるように、成膜用ガスをキャリアガス供給源20および炭化水素ガス供給源18から流動経路14に所定流量で供給するように制御するように構成されている。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
ダイヤモンドライクカーボン膜を成膜する成膜対象物を配置し、成膜用ガスおよび前記成膜用ガス以外のガスを流動させる流動経路と、
水素ガス、窒素ガスまたはアルゴンガスの何れかを含むキャリアガスを所定流量で前記流動経路に供給するキャリアガス供給源と、
ケトン体、アルコール類またはカルボン酸の何れかのガスから成る炭素源を所定流量で前記流動経路に供給する炭素源ガス供給源と、
前記キャリアガス供給源および前記炭素源ガス供給源から前記流量経路へのガス流量を制御するガス制御部と、
前記流動経路の温度を上昇させる加温部と、
前記流動経路内の温度が所定温度となるように前記加温部を制御する温度制御部と、を備え、
前記ガス制御部は、前記流動経路が成膜温度に達するまで、前記キャリアガスを前記キャリアガス供給源から前記流動経路に供給するように制御すると共に、前記流動経路が成膜温度に達した際に、炭素源が所定濃度で含まれるように、前記成膜用ガスを前記キャリアガス供給源および前記炭化水素ガス供給源から前記流動経路に所定流量で供給するように制御することを特徴とするダイヤモンドライクカーボン膜の成膜装置。
【請求項2】
前記ガス制御部は、成膜完了後において、前記キャリアガス供給源から供給されるキャリアガスを前記流動経路に供給するように制御することを特徴とする請求項1に記載のダイヤモンドライクカーボン膜の成膜装置。
【請求項3】
前記ガス制御部は、成膜前と成膜後とで、前記キャリアガスの種類を変更するように制御することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のダイヤモンドライクカーボン膜の成膜装置。
【請求項4】
前記成膜温度は、1000~1400℃であることを特徴とする請求項1から請求項3の何れか1項に記載のダイヤモンドライクカーボン膜の成膜装置。
【請求項5】
前記成膜用ガスの前記炭素源と前記成膜用ガス以外のモル比が0.18~0.30:1.0であることを特徴とする請求項1から請求項4の何れか1項に記載のダイヤモンドライクカーボン膜の成膜装置。
【請求項6】
前記ケトン体は、アセトンであることを特徴とする請求項1から請求項5の何れか1項に記載のダイヤモンドライクカーボン膜の成膜装置。
【請求項7】
前記キャリアガス供給源およびガス制御部によるガスの供給は、バブリングを経由して行われることを特徴とする請求項1から請求項6の何れか1項に記載のダイヤモンドライクカーボン膜の成膜装置。
【請求項8】
前記成膜対象物は、所定のセラミックまたは所定の金属で構成されることを特徴とする請求項1から請求項7の何れか1項に記載のダイヤモンドライクカーボン膜の成膜装置。
【請求項9】
水素ガスを流動させる流動経路に、ダイヤモンドライクカーボン膜を成膜する成膜対象物を配置する工程と、
前記水素ガスを所定流量で前記流動経路に流すと共に前記成膜対象物を室温から所定温度まで上昇させる工程と、
前記所定温度に達した際に、前記水素ガスをキャリアガスとして炭素源であるケトン体、アルコール類またはカルボン酸の何れかを所定の濃度で含む成膜用ガスを前記流動経路に所定時間にわたって流動させる工程と、
前記所定温度の状態を所定時間にわたって保持する工程と
を有することを特徴とするダイヤモンドライクカーボン膜の形成方法。
【請求項10】
前記炭素源としてのケトン体は、アセトンであることを特徴とする請求項9に記載のダイヤモンドライクカーボン膜の形成方法。
【請求項11】
前記成膜対象物は、セラミックまたは金属で構成されることを特徴とする請求項9または請求項10に記載のダイヤモンドライクカーボン膜の形成方法。
【請求項12】
前記成膜用ガスを流す前に、前記水素ガスを流動させることにより、前記成膜対象物の表面について前記水素ガスの還元作用により不純物除去を行うことを特徴とする請求項9から請求項11の何れか1項に記載のダイヤモンドライクカーボン膜の形成方法。
【請求項13】
前記成膜対象物の表面には、金属からなる触媒が塗布されていることを特徴とする請求項9から請求項12の何れか1項に記載のダイヤモンドライクカーボン膜の形成方法。
【請求項14】
前記金属からなる触媒は、セラミックで構成されることを特徴とする請求項13に記載のダイヤモンドライクカーボン膜の形成方法。
【請求項15】
前記所定温度は、1000~1400℃であることを特徴とする請求項9から請求項14の何れか1項に記載のダイヤモンドライクカーボン膜の形成方法。
【請求項16】
ダイヤモンドライクカーボン膜の形成後に、前記水素ガスを流動させることにより、前記成膜対象物上の前記ダイヤモンドライクカーボン膜の表面に残留している不要の炭素の除去を行うことを特徴とする請求項9から請求項15のいずれか1項に記載のダイヤモンドライクカーボン膜の形成方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイヤモンドライクカーボン膜の成膜装置および形成方法に係りsp/sp構造比が比較的高いダイヤモンドライクカーボン膜の成膜装置および形成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
硬度、摺動性などの特性に加えて、耐熱性、耐融着性、耐溶着性に優れ、しかも極めて平坦な表面を備えたダイヤモンドライクカーボン(Diamond Like Carbon。以下「DLC」ともいう。)膜は、工具等の硬質被覆材などとして実用化されている。
【0003】
DLC膜は、プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)装置を用いて低温で作製できることが広く知られている。
【0004】
しかし、プラズマCVD装置は装置自体が複雑な作りとなり装置導入コストが高くなるという難点がある。
【0005】
そこで、大気圧中でのDLC膜の作成を可能にする大気圧熱分解法が開発されつつある(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【0006】

【特許文献1】特許第5002803号公報
【特許文献2】特開2008-260670号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、上記従来の大気圧熱分解法によるDLC膜の形成方法は、成膜に例えば1時間以上の時間を要していた。
【0008】
即ち、比較的大きな試料表面にDLC膜を形成する場合に、単位表面当たりのDLC量を増大させる必要から反応に必要な炭化水素を供給するために長時間の反応時間を必要とするという難点があった。
【0009】
また、炭素源としてメタンを用いた場合には、形成されたDLC膜の表面に煤状の不要な炭素が残留するという不都合もあった。
【0010】
本発明は、上述のような課題を解決すべくなされたものであり、成膜に要する時間を短縮することができ、且つ膜品質を向上させることが可能なダイヤモンドライクカーボン膜の成膜装置および形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するため、本発明に係るダイヤモンドライクカーボン膜の成膜装置は、
ダイヤモンドライクカーボン膜を成膜する成膜対象物を配置し、成膜用ガスおよび前記成膜用ガス以外のガスを流動させる流動経路と、水素ガス、窒素ガスまたはアルゴンガスの何れかを含むキャリアガスを所定流量で前記流動経路に供給するキャリアガス供給源と、ケトン体、アルコール類またはカルボン酸の何れかのガスから成る炭素源を所定流量で前記流動経路に供給する炭素源ガス供給源と、前記キャリアガス供給源および前記炭素源ガス供給源から前記流量経路へのガス流量を制御するガス制御部と、前記流動経路の温度を上昇させる加温部と、前記流動経路内の温度が所定温度となるように前記加温部を制御する温度制御部とを備え、前記ガス制御部は、前記流動経路が成膜温度に達するまで、前記キャリアガスを前記キャリアガス供給源から前記流動経路に供給するように制御すると共に、前記流動経路が成膜温度に達した際に、炭素源が所定濃度で含まれるように、前記成膜用ガスを前記キャリアガス供給源および前記炭化水素ガス供給源から前記流動経路に所定流量で供給するように制御することを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係るダイヤモンドライクカーボン膜の形成方法は、水素ガスを流動させる流動経路に、ダイヤモンドライクカーボン膜を成膜する成膜対象物を配置する工程と、前記水素ガスを所定流量で前記流動経路に流すと共に前記成膜対象物を室温から所定温度まで上昇させる工程と、前記所定温度に達した際に、前記水素ガスをキャリアガスとして炭素源であるケトン体、アルコール類またはカルボン酸の何れかを所定の濃度で含む成膜用ガスを前記流動経路に所定時間にわたって流動させる工程と、前記所定温度の状態を所定時間にわたって保持する工程とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば以下の効果を奏することができる。
【0014】
即ち、本発明に係るダイヤモンドライクカーボン膜の成膜装置によれば、sp/sp構造比が、0.32~0.5であり、ラマン分光法におけるGバンドピークの半値幅が、70cm-1以下であることにより、硬度が高く、抵抗率の高い優れた特性を有するダイヤモンドライクカーボン膜を得ることができる。
【0015】
また、本発明に係るダイヤモンドライクカーボン膜の形成方法によれば、炭素源としてメタンを用いる場合に比して、成膜に要する時間を大幅に短縮することができる。
【0016】
また、成膜用ガスを流す前に、水素ガスを流動させることにより、成膜対象物の表面について水素ガスの還元作用により不純物除去を行う場合には、成膜対象物の表面を清浄化して成膜品質を向上させることができる。
【0017】
また、成膜対象物の表面に、所定の触媒を塗布する場合には、成膜温度をより低温とすることができる。
【0018】
また、ダイヤモンドライクカーボン膜の形成後に、水素ガスを流動させることにより、成膜対象物上のダイヤモンドライクカーボン膜の表面に残留している不要の炭素の除去を行う場合には、成膜品質を一層向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】(a)は、実施の形態に係る成膜装置の概念を説明する模式図であり、(b)は、成膜対象物にDLC膜が形成された状態を示す断面図である。
【図2】管状の電気炉の概略構成を示す模式図である。
【図3】実施の形態に係る成膜装置を用いた成膜実験例の電気炉内温度と時間との関係を示すグラフである。
【図4】成膜用ガスの生成方法を示す模式図である。
【図5】実施の形態において所定条件(アセトン湯浴温度:60℃、熱分解温度:1200℃)で成膜されたDLC膜のラマンスペクトルを示すグラフである。
【図6】実施の形態において所定条件(アセトン湯浴温度:60℃、熱分解温度:1200℃)で成膜されたDLC膜のXPSスペクトルを示すグラフである。
【図7】実施の形態において所定条件で成膜されたDLC膜中のsp/sp構造比とGピークの半値幅(fwhm)の関係を示すグラフである。
【図8】実施の形態において所定条件(アセトン湯浴温度:50℃、60℃)で成膜されたDLC膜およびメタンを用いた比較例の熱分解温度(触媒無しの場合と有りの場合)とラマンシフトのGピーク位置との関係を示すグラフである。
【図9】実施の形態において所定条件(アセトン湯浴温度:50℃、60℃)で成膜されたDLC膜およびメタンを用いた比較例の熱分解温度(触媒無しの場合と有りの場合)とG-ピーク半値幅との関係を示すグラフである。
【図10】実施の形態において所定条件(アセトン湯浴温度:50℃、60℃)で成膜されたDLC膜およびメタンを用いた比較例の熱分解温度(触媒無しの場合と、触媒有りの場合)とラマンスペクトルのGピークとDピークの面積強度の比、I(D)/I(G)比との関係を示すグラフである。
【図11】実施の形態において所定条件(アセトン湯浴温度:50℃、60℃)で成膜されたDLC膜およびメタンを用いた比較例の熱分解温度(触媒無しの場合と有りの場合)とsp/sp構造比との関係を示すグラフである。
【図12】実施の形態において所定条件(アセトン湯浴温度:50℃、60℃)で成膜されたDLC膜およびメタンを用いた比較例の熱分解温度と光学バンドギャップとの関係を示すグラフである。
【図13】アセトン捕集装置の概略構成を示す図である。
【図14】実施の形態において所定条件(アセトン湯浴温度:50℃、60℃)で成膜されたDLC膜およびメタンを用いた比較例の熱分解温度と抵抗値との関係を示す図表である。
【図15】実施の形態において所定条件(アセトン湯浴温度:50℃、60℃)で成膜されたDLC膜のsp/sp構造比と電気抵抗率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一例としての実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。ここで、添付図面において同一の部材には同一の符号を付しており、また、重複した説明は省略されている。なお、ここでの説明は本発明が実施される最良の形態であることから、本発明は当該形態に限定されるものではない。
[DLC膜の形成方法の実施の形態]
実施の形態に係るDLC膜の形成方法は、次の(a)~(d)の形成工程を有する。即ち、
(a)水素ガスを流動させる流動経路に、ダイヤモンドライクカーボン膜を成膜する成膜対象物を配置する工程、
(b)前記水素ガスを所定流量で前記流動経路に流すと共に前記成膜対象物を室温から所定温度まで上昇させる工程、
(c)前記所定温度に達した際に、前記水素ガスをキャリアガスとして炭素源であるケトン体、アルコール類またはカルボン酸の何れかを所定の濃度で含む成膜用ガスを前記流動経路に所定時間にわたって流動させる工程、
(d)前記所定温度の状態を所定時間にわたって保持する工程、
である。

【0021】
なお、本実施の形態において、前記炭素源としてのケトン体として、アセトン(CHCOCH)を用いた。

【0022】
ケトン体としては、アセトン以外にアルデヒド等を用いることもできる。また、ケトン体に代えて、メタノールやエタノール等のアルコール類を用いることもできる。

【0023】
成膜対象物は、所定のセラミックまたは所定の金属で構成されるようにできる。セラミックとしては、アルミナ、シリカ等を用いることができる。金属としては、鉄、モリブデン鋼などを用いることができる。

【0024】
また、成膜用ガスを流す前に、水素ガスを流動させることにより、成膜対象物の表面について前記水素ガスの還元作用により不純物除去を行う工程を有するようにしても良い。

【0025】
また、成膜対象物の表面には、所定の触媒が塗布されるようにしても良い。なお、所定の触媒は、所定の濃度で塗布されるようにできる。

【0026】
また、前記所定温度は、1000~1400℃とすることが好ましい。

【0027】
さらに、DLC膜の形成後に、水素ガスを流動させることにより、成膜対象物上のDLC膜の表面に残留している不要の炭素の除去を行う工程を有するようにしても良い。
[実施の形態に係る成膜装置の基本構成]
上記形成方法を実施可能な実施の形態に係る成膜装置の基本構成は、次の通りである。

【0028】
即ち、実施の形態に係る成膜装置は、ダイヤモンドライクカーボン膜を成膜する成膜対象物を配置し、成膜用ガスおよび前記成膜用ガス以外のガスを流動させる流動経路と、
水素ガス、窒素ガスまたはアルゴンガスの何れかを含むキャリアガスを所定流量で前記流動経路に供給するキャリアガス供給源と、ケトン体、アルコール類またはカルボン酸の何れかのガスから成る炭素源を所定流量で前記流動経路に供給する炭素源ガス供給源と、前記キャリアガス供給源および前記炭素源ガス供給源から前記流量経路へのガス流量を制御するガス制御部と、前記流動経路の温度を上昇させる加温部と、前記流動経路内の温度が所定温度となるように前記加温部を制御する温度制御部とを備え、前記ガス制御部は、前記流動経路が成膜温度に達するまで、前記キャリアガスを前記キャリアガス供給源から前記流動経路に供給するように制御すると共に、前記流動経路が成膜温度に達した際に、炭素源が所定濃度で含まれるように、前記成膜用ガスを前記キャリアガス供給源および前記炭化水素ガス供給源から前記流動経路に所定流量で供給するように制御する構成となっている。

【0029】
また、前記ガス制御部は、成膜完了後において、前記キャリアガス供給源から供給されるキャリアガスを前記流動経路に供給するように制御するようにできる。

【0030】
さらに、前記ガス制御部は、成膜前と成膜後とで、前記キャリアガスの種類を変更するように制御するようにしてもよい。

【0031】
また、前記成膜温度は、1000~1400℃であることが好ましい。

【0032】
前記成膜用ガスの前記炭素源と前記成膜用ガス以外のモル比は、0.18~0.30:1.0であることが望ましい。

【0033】
また、前記ケトン体は、アセトンとすることができる。

【0034】
前記キャリアガス供給源およびガス制御部によるガスの供給は、バブリングを経由して行われるようにしてもよい。

【0035】
また、前記成膜対象物は、所定のセラミックまたは所定の金属で構成されるようにできる。
[実施の形態に係る成膜装置の構成例]
上記形成方法を実施可能な成膜装置の構成例について、図1~図3を参照して説明する。

【0036】
図1(a)は本実施の形態に係る成膜装置の概念を説明する模式図、図1(b)はDLC膜が形成された状態を示す断面図である。

【0037】
本実施の形態に係る成膜装置10は、図1(a)に示すように、ガス供給源12と、ガス供給源12から供給されたガスを流動させる流動経路14と、ガス供給源12および流動経路14を制御する制御部16とを有する。

【0038】
ガス供給源12は、炭素源としてのアセトンガス供給源18と、キャリアガスとしての水素ガス(Hガス)供給源20とを有する。

【0039】
流動経路14には、成膜対象物30を載置する炉26が設けられている。

【0040】
制御部16は、例えばマイクロコンピュータ等で構成され、ガス制御部22と温度制御部24とを有する。

【0041】
ガス制御部22は、アセトンガスと水素ガスとの混合比を制御すると共に、混合されてなる成膜用ガスRGの流量を調整するように構成されている。

【0042】
温度制御部24は、成膜用ガスRGの温度制御を行うように構成されている。
(配置工程)
本実施形態では、流動経路14に設ける炉としては、図2に示すような管状の電気炉26を用いることができる。

【0043】
管状の電気炉26内には、炉心管28が挿通され、成膜用ガスRGや水素ガスが流通されるようになっている。

【0044】
炉心管28内には、DLC膜の成膜対象となるセラミック製あるいは金属製の成膜対象物30が載置される。

【0045】
セラミックとしては、例えばアルミナやシリカ等が適用可能である。

【0046】
金属製の成膜対象物30としては、例えば、SKD11、S45C、SKH51、SNCM439、SUS304、SCM440などの金属物(金属部材や金属部品など)が挙げられる。なお、SKD11はドリルロッドに使用されるのに適しており、SKH51は高速度鋼に使用されるのに適している。また、SCM440はクロムモリブデン鋼であり構造用鋼として使用されるのに適しており、S45Cは鋼管として使用されるのに適している。

【0047】
また、セラミック製あるいは金属製の成膜対象物に代えて、サファイアガラスなどで構成した成膜対象物を用いることもできる。

【0048】
(不純物除去・成膜工程)
成膜対象物30を配置した後、流動経路14には、図3に示す時間T1の期間にわたって水素ガスが流通される。図3に示す実験例では、水素ガスの流量は50ml/minとした。

【0049】
なお、図3は、本実施の形態に係る成膜装置10を用いた成膜実験例の電気炉内温度と時間との関係を示すグラフである。

【0050】
次いで、電気炉26により、図3に示す時間T1の期間にわたって成膜対象物30を室温から所定温度になるまで加熱する工程を経る。

【0051】
図3に示す例では、時間T1は約240分となっている。

【0052】
この水素ガスを流通させる工程において、成膜対象物30の表面30fに存在する不純物は、水素ガスの還元作用により除去される。即ち、不純物は、水素ガスとの反応によりHOやCOなどのガス状となって除去される。これにより、成膜対象物30の表面30fを清浄な状態に保つことができる。

【0053】
そして、温度制御部24において所定温度に達したと判定された時点から図3に示す時間T2の期間にわたって水素ガスとアセトンガスの混合ガスから成る成膜用ガスRGが流通される。

【0054】
なお、図3に示す実験例では、所定温度はA~Gの100℃間隔の7種類の温度(約800℃~1400℃)で試行された。

【0055】
また、図3に示す例では、時間T2は約10分となっている。

【0056】
このように、成膜対象物30を所定温度で保持しつつアセトンガスを含む成膜用ガスRGを成膜対象面30fに触れさせることにより、成膜対象面30fと成膜用ガスRGを反応させてDLC膜34(図1(b)参照)を成膜対象面30f上に成膜させる。

【0057】
所定温度の上限は、成膜対象物30の耐熱温度(即ち、成膜対象物30が熱で溶けない温度)で規制される。この所定温度は、低くて済むほど、成膜装置の装置構成を簡素化あるいは低コスト化できる。

【0058】
また、図3に示す例では、成膜に要する時間T2は約10分で済み、炭素源としてメタンガスを用いた場合の成膜時間(約2時間)に比して、成膜時間を大幅に短縮することができる。これにより、効率的にDLC膜の形成を行うことができ、コストの低廉化を図ることができる。

【0059】
次いで、時間T2の成膜工程が終了した後、図3に示す時間T3の期間にわたって、ガス制御部22の制御により再び水素ガスを流通させる。これにより、成膜対象物30上に形成されたDLC膜34上に不要の炭素(煤)が付着した場合にも水素ガスと反応させて除去することができ、DLC膜の品質を向上させることができる。

【0060】
その後、電気炉26の開放などを行い、電気炉26から成膜対象物30を取り出す。 その際、成膜工程の終了時に不活性ガスまたは窒素ガスを流動経路14に流すことで水素ガス等を排除し、電気炉26内の成膜対象物30を室温にまで冷却した後に電気炉26を開放することが好ましい。

【0061】
このようにして形成されたDLC膜34は、炭化水素熱分解法で成膜されているので、プラズマ法で作製されたDLC膜に比して、ラマン散乱分光において後述するようにGピーク、Dピークが共に顕著に観測される。

【0062】
また、管状の電気炉26に代えて、市販の電気炉26も用いることができるので、プラズマCVDなどの装置を用いて成膜する場合に比べ、成膜対象物30の寸法が大きい場合にもDLC膜を成膜することができる。

【0063】
また、成膜用ガスRGの流量については、多すぎると成膜用ガスRGの温度が低下すること、また、成膜用ガスRGを効率良く使用することを考慮し、成膜対象面30f(被成膜面)に対して成膜用ガスRGができるだけゆっくりと接触するように流すことが好ましい。ただし、流量が少なすぎるとDLC膜の原料となる炭素が充分に供給されないおそれもあるので、電気炉26の寸法や成膜対象物30の寸法などを考慮して適度な流量に設定される。

【0064】
また、本実施形態では、説明の便宜上、片面側の成膜対象面30fにDLC膜34を成膜する場合について述べたが、成膜用ガスRGに接する成膜対象物表面であれば成膜が可能である。

【0065】
即ち、図1(b)の二点鎖線および実線で示すように、成膜対象物30の成膜用ガスRGと接する全面にDLC膜34を成膜することも可能である。

【0066】
また、成膜対象面30fに触媒(例えば、Ni、Fe、Co等の微粒子)を塗布してDLC膜34を成膜するようにしても良い。

【0067】
なお、DLC膜34は、膜厚約1~10μmの範囲内で成膜できる。
[成膜用ガスの生成方法]
図4の模式図を参照して、成膜用ガスの生成方法について説明する。

【0068】
図4に示す例では、容器61に入れた液体状のアセトン63を湯浴容器60に浸し、所定の温度で湯浴しながら水素ガス(H)をバブリングして成膜用ガスRGを生成した後、供給管70を介して電気炉26に供給するようになっている。

【0069】
また、供給管71を介して水素ガス(H)を単独で電気炉26に供給できるようになっている。

【0070】
なお、湯浴する所定の温度は、後述するように、アセトン沸点(56℃)より低く設定した50℃と、該沸点よりも高く設定した60℃で実験を行った。

【0071】
図4に示す成膜用ガスの生成方法を適用することにより、前出の図3のグラフに従えば、時間T1においては、供給管71を介して水素ガス(H)を単独で電気炉26に供給する。

【0072】
次いで、電気炉26を加熱して所定温度に達した場合には、時間T2の期間、上述のようにして生成した成膜用ガスRGを供給管70を介して電気炉26に供給する。

【0073】
次に、時間T2経過後には、時間T3の期間にわたって再び供給管71を介して水素ガス(H)を単独で電気炉26に供給する。

【0074】
以上のように電気炉26に供給するガスを所定のタイミングで切り換えることにより、成膜対象物30にDLC膜を形成することができる。
[成膜されたDLC膜の評価結果]
図5~図12に、本実施の形態において所定条件で成膜されたDLC膜の評価結果を示す。

【0075】
図5は、実施の形態において所定条件(アセトン湯浴温度:60℃、熱分解温度:1200℃)で成膜されたDLC膜のラマンスペクトルを示すグラフである。

【0076】
図5に示すように、通常用いられる可視光レーザを用いたラマン散乱分光において、成膜されたDLC膜は、1333cm-1と1584cm-1の2箇所にピークを有することが分かる。

【0077】
図示しないグラファイトでは1584cm-1に鋭いピークが一本観測され、この振動モードはグラファイト(Graphite)の頭文字をとってG-bandと呼ばれる。

【0078】
また、グラファイトでは1333cm-1付近の領域に大きなフォノン状態密度を持つがラマン活性でないため、結晶性の高いグラファイトではピークは観測されない。しかし、欠陥が導入されるとラマンピークとなって観測され、このピークは欠陥(Defect)由来のピークとしてD-bandと呼ばれる。

【0079】
欠陥由来であるため、結晶性の低いグラファイトやアモルファス、ナノ粒子において強い強度で観測される。

【0080】
また、同じカーボン結晶でも、グラファイトと異なる結晶構造であるダイヤモンドの振動モードでは1333cm-1に一本鋭いピークが現れ、微小結晶および薄膜の結晶性評価などに使用されている。

【0081】
つまり、ダイヤモンドやグラファイトのような完全な結晶構造を持たない炭素材料は、二本のラマンピークが観測され、結晶性が高くなるほど鋭く、半値幅の狭いピークを示す。

【0082】
DLC膜における1333cm-1付近のブロードなD-bandの相対感度と比較して、ダイヤモンドに観測される1333cm-1の鋭い1本のピークの相対感度は極めて低いため、わずかにDLCを含んだダイヤモンドにおいても1333cm-1の鋭い1本のピークは僅かにしか観測されない。

【0083】
したがって、図5に示すように実施の形態において所定条件(アセトン湯浴温度:60℃、熱分解温度:1200℃)で成膜された膜は、ダイヤモンドに特徴的な1333cm-1の鋭い1本のピークは観測されず、1333cm-1と1584cm-1の2箇所にブロードなピークを有している。これにより、本実施の形態に係るDLC膜は、ダイヤモンド的な性質を有してはいるが、その量は限定的であるという特性を有する特徴的なDLC膜であると判断することができる。

【0084】
図6は、実施の形態において所定条件(アセトン湯浴温度:60℃、熱分解温度:1200℃)で成膜されたDLC膜のXPSスペクトル(C1sについて波形分離)を示すグラフである。

【0085】
ここで、波形(イ)は元データ(Raw Intensity)、(ロ)はバックグラウンドであり、(ハ)および(ニ)は、元データ(イ)から波形分離されたspとspの波形である。

【0086】
図6を見ると、284eVに鋭いピークが表れている。これは、sp軌道の炭素の1s電子を検出したものであると考えられる。

【0087】
また、285eV付近にある程度のピークが表れている。これは、sp軌道の炭素の1s電子を検出したものであると考えられる。

【0088】
なお、sp軌道の炭素には、ダイヤモンドにおける炭素と結合したC-C結合した炭素とともに、水素と結合したC-H結合による炭素が存在することが知られている。

【0089】
したがって、図5に示すように実施の形態において所定条件(アセトン湯浴温度:60℃、熱分解温度:1200℃)で成膜された膜は、通常の炭素としての性質を有するsp軌道の炭素と、ダイヤモンド的な性質を有するsp軌道の炭素と水素とが結合したC-H結合による炭素を含んでいることが分かる。

【0090】
図7は、実施の形態において所定条件で成膜されたDLC膜中のsp/sp構造比とGピークの半値幅(fwhm)の関係を示すグラフである。

【0091】
図7において横軸は、XPSスペクトルより求めたsp/sp比、縦軸は、ラマンスペクトルより求めたGピークの半値幅(cm-1)である。

【0092】
図7にプロットした成膜条件は、以下の4種類である。

【0093】
○:触媒なしで、メタン+Ar(10%+90%) 処理温度:1000、1100、1200、1300℃
◎:触媒なしで、湯浴温度50℃ アセトン+水素50ml 処理温度:1200、1300、1400℃
□:触媒なしで、湯浴温度60℃ アセトン+水素50ml 処理温度:1000、1200、1300、1400℃
●:触媒有りで、湯浴温度50℃ アセトン+水素50ml 処理温度:1100、1200、1300、1400℃
■:触媒有りで、湯浴温度60℃ アセトン+水素50ml 処理温度:1000、1100、1200、1300、1400℃
なお、メタン+Arは1時間、アセトンは10分間の反応で、成膜対象物としてのセラミックス基板上に成膜した。
触媒の塗布方法としては滴下法を用い、触媒の量はその機能を持たせるためセラミックの表面原子数(約8.18×1014)個の1/10(8.18×1013個=1.36×10mol)となるように硝酸ニッケル(II)六水和物、硝酸鉄(III)九水和物、硝酸コバルト(II)六水和物を蒸留水に溶かし、硝酸塩水溶液を調製した。これらの硝酸塩は、昇温中で水素によって還元され、純粋な金属クラスタとなって基板上に残る。

【0094】
図7より、
(1)湯浴50℃でアセトン+水素を原料とすると(◎および●)、メタン+Arで作製したDLC(○)と比べsp/spは大きな値をとる。
(2)湯浴60℃でアセトン+水素を原料とすると(□および■)、メタン+Arで作製したDLC(○)と比べsp/spは僅かに小さな値をとる(0.26±0.04→0.20±0.04)。
(3)Gピークのfwhm値はアセトンを用いるとメタン+Arの時に比べ必ず小さな値をとる。

【0095】
ということが分かる。

【0096】
そして、本発明者は、図7に基いて、本実施の形態に係る成膜装置で成膜されたDLC膜は、sp/sp構造比が0.32~0.5であるとの知見を導き出した。

【0097】
図8は、実施の形態に係る成膜装置において所定条件(アセトン湯浴温度:50℃、60℃)で成膜されたDLC膜およびメタンを用いた比較例の熱分解温度(触媒無しの場合と、触媒有りの場合)とラマンシフトのGピーク位置との関係を示すグラフである。

【0098】
図8に基いて、触媒無しでセラミックス上に成膜したDLC膜について検討すると、それぞれの結果から、湯浴温度50℃、湯浴温度60℃ともに1400℃では殆どグラファイトの領域、1000~1300℃ではnc-graphite(nano-crystalline Graphite)から非晶質炭素(a-C)の領域であるということが分かる。

【0099】
図9は、実施の形態において所定条件(アセトン湯浴温度:50℃、60℃)で成膜されたDLC膜およびメタンを用いた比較例の熱分解温度(触媒無しの場合と、触媒有りの場合)とG-ピーク半値幅(fwhm)との関係を示すグラフである。

【0100】
図10は、実施の形態に係る成膜装置において所定条件(アセトン湯浴温度:50℃、60℃)で成膜されたDLC膜およびメタンを用いた比較例の熱分解温度(触媒無しの場合と、触媒有りの場合)とラマンスペクトルのGピークとDピークの面積強度の比、I(D)/I(G)比との関係を示すグラフである。

【0101】
ここで、触媒なしでアセトンにより作製されたDLC膜について、メタンで作製したDLC膜と比較すると、以下の(1)~(5)に示す事項が分かる。
(1)メタンで作製したDLCでは作製温度を1000℃から1300℃に変えても、Gピーク位置、I(D)/I(G)比、Gpeak半値幅はあまり変化がないのに対し、アセトンで作製したDLC膜では、これらの値の変化が大きい。
(2)成膜温度上昇により、Gピーク半値幅が減少し、結晶性の高いDLC膜が作製される。
(3)湯浴温度が50℃、60℃いずれの場合で作製してもDLCの特性に大きな差はない。
(4)1300℃で作製したDLC膜のGピーク位置はグラファイトの1575cm-1より低くなり、非晶質炭素(a-C)の特性を示す。
(5)1400℃で作製すると、グラファイトが生成すると考えられる。

【0102】
また、湯浴温度の違いによるDLC膜の特性について検討すると、以下の(6)、(7)の事項が分かる。
(6)触媒の無い場合に作製したDLCの特性については、ほとんど違いがない。
(7)触媒を塗布して作製したDLCの特性については、1400℃で作製した膜に違いが見られる。具体的には、60℃で作製した場合にGピーク、I(D)/I(G)比、Gピーク半値幅が1300℃で作製した場合より大きな値となり、本来は結晶性の良いグラファイトが作成される1400℃という温度にも拘らず、供給されるアセトンの量が多いために崩れたグラファイト結晶ができていることが示唆される。

【0103】
また、触媒の有無によるDLC膜の特性について検討すると、以下の(8)の事項が分かる。
(8)触媒がない場合は、1300℃以上で作製した膜ではGピーク位置がグラファイトの1575cm-1より低くなり、非晶質炭素(a-C)の特性を示す。

【0104】
そして、特に上記(2)の事項に基いて、本発明者は、本実施の形態によって成膜されたDLC膜は、ラマン分光法におけるGバンドピークの半値幅が、70cm-1以下であるとの知見を導き出した。

【0105】
図11は、実施の形態に係る成膜装置において所定条件(アセトン湯浴温度:50℃、60℃)で成膜されたDLC膜およびメタンを用いた比較例の熱分解温度(触媒無しの場合と有りの場合)とsp/sp構造比との関係を示すグラフである。

【0106】
図11より、触媒なしでアセトンにより作製されたDLC膜について、メタンで作製したDLC膜と比較すると、以下の(1)~(4)の事項が分かる。
(1)メタンで作製した膜に比べてほぼ同様(0.2~0.3)のsp/sp比が得られる。
(2)湯浴温度50℃、加熱温度1200℃で作製された薄膜では0.4と大きなsp/sp比が得られる。
(3)湯浴温度50℃、加熱温度1100℃で作製された薄膜ではXPS測定ができなかった。
(4)湯浴温度60℃、加熱温度1100℃で作製した膜において特異的に大きなsp/sp比が得られた(この試料ではC1sスペクトルの高BE側にCO等と考えられるピークがあり、酸素原子Oとの反応により表面のsp/sp比が変化している可能性が高い)。

【0107】
また、湯浴温度の違いによるDLC膜の特性について、以下の(5)の事項が分かる。
(5)触媒を塗布して作製したDLC膜において湯浴温度が50℃の膜の方がsp/sp比が大きい(湯浴温度が60℃の場合、供給される炭素量が多く安定なsp炭素が生成すると考えられる)。

【0108】
また、触媒の有無によるDLC膜の特性について、以下の(6)の事項が分かる。
(6)触媒を塗布して作製したDLC膜においては、湯浴温度が同じであれば加熱温度が変化しても作製される膜のsp/sp比は変化しない(反応が十分に早いことを暗示していると考えられる)。

【0109】
図12は、実施の形態において所定条件(アセトン湯浴温度:50℃、60℃)で成膜されたDLC膜およびメタンを用いた比較例1、2の熱分解温度(触媒無しの場合と、触媒有りの場合)と光学バンドギャップとの関係を示すグラフである。

【0110】
図12より、以下の(1)、(2)の事項が分かる。
(1)光学バンドギャップに関して、触媒の有無に拘らず全ての熱分解温度で約1.5~2.0[eV]の値をとる。
(2)メタンの熱分解の値(比較例1、2)よりもアセトンの熱分解の値の方が高い。

【0111】
以上の図5~図12の評価結果から総括して次の(イ)~(ト)の事項が把握される。
(イ)金属触媒を用いなかった場合でも10分で成膜することができた。
(ロ)成膜に関係した触媒の効果は、湯浴温度50℃、熱分解温度1100℃で明確に確認された。
(ハ)触媒を用いると膜厚が厚くなるが、触媒を用いないと膜の剥がれは無いことが分かった。
(ニ)触媒によって膜質に変化が生じることが分かった。
(ホ)触媒を用いないと、熱分解温度1300℃、1400℃では湯浴温度による変化は見られないことが分かった。
(ヘ)炭素のspの割合は、触媒を用いた湯浴温度50℃の場合が一番高いことが分かった。
(ト)触媒の有無に関わらず、メタンの熱分解よりも光学バンドギャップ値は高いことが分かった。
[湯浴温度が50℃と60℃の時のアセトン:水素の比]
次に、湯浴温度が50℃と60℃の時のアセトン:水素の比を求めた計測について述べる。
(計測方法)
水素量は、50ml/minとし、計測法は、水素用デジタル流量計を用いて行った。

【0112】
そして、気体の状態方程式から一定時間に流れた水素量をモル数として計算した。

【0113】
アセトン量については、図13に示すアセトン捕集装置200を用いて行った。

【0114】
アセトン捕集装置200は、図13に示すように、容器201内に液体窒素202を入れ、その中に水素とアセトン蒸気の混合ガスを流通させるU字管203aを有するパイプ203を浸すようになっている。

【0115】
ここで、前出の図4の装置において、湯浴温度を50℃または60℃として水素をバブリングし、供給管70により室温で冷却されたアセトン蒸気が電気炉26に供給される。

【0116】
そして、前記アセトン蒸気をアセトン捕集装置200のパイプ203に流通させ、U字管203aを通し、一定時間にわたって液体窒素トラップに捕集し、液体として重量を測定し、モル数に換算してアセトン量を計算した。
測定結果は、次の通りとなった。

【0117】
アセトン:水素(モル比)
湯浴温度50℃の時: 0.20:1.0
湯浴温度60℃の時: 0.29:1.0
湯浴温度を(沸点を超える温度)60℃としてもアセトン:水素比が50℃の時とそれほど大きく変わらないのは、次のような理由であると推察される。

【0118】
即ち、図4に示す装置において、湯浴温度を60℃とすると、沸点を超えたアセトン蒸気が勢いよく供給される。しかし、アセトン蒸気の大部分は、供給管70の上方部分で冷却され液化して容器60内に戻り、残りのアセトン蒸気が水素ガスによって電気炉26内に供給されることとなる。このような理由から、湯浴温度を60℃にしてもアセトン量は50℃の場合と比して余り大きくはならないものと考えられる。
(熱分解温度と抵抗値との関係)
次に、図14は、実施の形態に係る成膜装置において所定条件(アセトン湯浴温度:50℃、60℃)で成膜されたDLC膜およびメタンを用いた比較例の熱分解温度と抵抗値との関係を示す図表である。

【0119】
図14に示す抵抗値は、四探針法で測定できるI-V特性と膜厚tを使うことによって、膜の電気抵抗率ρ、シート抵抗ρs[Ω/cm]として下記の式1で求めることができる。

【0120】
ρ=Ft×(V/I)・・・式1
但し、Fは抵抗率補正係数(=π/ln2)である。

【0121】
本実施の形態で作製したDLC膜の抵抗率は、10-3~10-4オーダーで、比較例(メタン熱分解法)で作製したDLCは10-5オーダーであることから、アセトンを用いて作製したDLCは抵抗率が高く、より半導体的となったと考えられる。
(DLC膜中のsp/sp比と電気抵抗率)
図15は、実施の形態に係る成膜装置において所定条件(アセトン湯浴温度:50℃、60℃)で成膜されたDLC膜のsp/sp構造比と電気抵抗率との関係を示すグラフである。

【0122】
図15において、横軸は、XPSスペクトルより求めたsp/sp比、縦軸は、電気抵抗率である。

【0123】
成膜条件は、セラミックス基板上にメタン+Arは1時間、アセトンは10分間にわたって反応させて成膜した。

【0124】
ここで、湯浴温度等の条件は、
□:湯浴温度50℃ アセトン+水素50ml 1100、1200、1300、1400℃
○:湯浴温度60℃ アセトン+水素50ml 1000、1100、1200、1300、1400℃
である。

【0125】
また、四探針法で測定できるI-V特性と膜厚tを使うことによって、膜の電気抵抗率ρ、シート抵抗ρs[Ω/cm]を式2のように求めることができる。

【0126】
ρ=Ft×(V/I)=ρst・・・式2
但し、Fは抵抗率補正係数(=π/ln2)である。

【0127】
図15に示す結果から以下の(1)、(2)の事項が分かる。
(1)湯浴温度が50℃の場合は、成膜されたDLC膜中のsp/spの値が大きくなるに従って電気抵抗率は小さくなる。sp炭素はsp炭素と比較して電気抵抗率は高い事が予想される。このような予測と異なる結果が得られた理由は、XPSで測定するsp/spの値は表面のみの値であり、炭素と結合した炭素の他に水素と結合した炭素の情報も含まれるのに対し、四探針法で測定される抵抗は膜内部全体であることが考えられる。
(2)湯浴温度が60℃の場合は、成膜されたDLC膜中のsp/spの値はほぼ一定で電気抵抗率はDLCを作製する温度によって変化する。

【0128】
なお、触媒なしの場合については、膜が薄く、膜厚を求めることができず電気抵抗率ρを求めることができない。

【0129】
抵抗FV/I自体の値は触媒無しの場合は数倍(n倍とする)の値を示した。膜厚が触媒を用いた場合と比較して薄いことから、この値を1/n倍と仮定すると電気抵抗率は同じとなる。

【0130】
以上述べたように、本実施の形態に係る成膜装置によれば、sp/sp構造比が、0.32~0.5であり、ラマン分光法におけるGバンドピークの半値幅が、70cm-1以下であるDLC膜が得られる。

【0131】
また、このDLC膜の電気抵抗率は、0.2~2.0×10-3[Ωm]である。

【0132】
また、膜厚は、1~10μmとすることができる。

【0133】
以上本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本明細書で開示された実施の形態はすべての点で例示であって開示された技術に限定されるものではないと考えるべきである。すなわち、本発明の技術的な範囲は、前記の実施の形態における説明に基づいて制限的に解釈されるものでなく、あくまでも特許請求の範囲の記載に従って解釈すべきであり、特許請求の範囲の記載技術と均等な技術および特許請求の範囲内でのすべての変更が含まれる。

【0134】
例えば、アセトンの湯浴温度により供給するアセトン/水素の比率を制御することで、反応炉内の処理温度を変えることなく、成膜されるDLC膜の炭素sp/sp比、バンドギャップ値、電気抵抗値などの特性を制御することができる。
【符号の説明】
【0135】
10…成膜装置
12…ガス供給源
14…流動経路
16…制御部
18…アセトンガス供給源
20…供給源
22…ガス制御部
24…温度制御部
26…電気炉
30…成膜対象物
30f…成膜対象面(表面)
34…DLC膜(ダイヤモンドライクカーボン膜)
60…湯浴容器
61…容器
63…アセトン
70、71…供給管
128…炉心管
200…アセトン捕集装置
201…容器
202…液体窒素
203…パイプ
203a…U字管
RG…成膜用ガス
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12
【図14】
13
【図15】
14