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明細書 :生体適合性電極構造体及びその製造方法、並びに、デバイス及びその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2015-019806 (P2015-019806A)
公開日 平成27年2月2日(2015.2.2)
発明の名称または考案の名称 生体適合性電極構造体及びその製造方法、並びに、デバイス及びその製造方法
国際特許分類 A61B   5/0408      (2006.01)
A61B   5/0478      (2006.01)
A61B   5/0492      (2006.01)
C08L 101/00        (2006.01)
C08K   3/04        (2006.01)
A61L  15/00        (2006.01)
C01B  31/02        (2006.01)
FI A61B 5/04 300J
C08L 101/00
C08K 3/04
A61L 15/00
A61B 5/04 300V
C01B 31/02 101F
請求項の数または発明の数 14
出願形態 OL
全頁数 29
出願番号 特願2013-149663 (P2013-149663)
出願日 平成25年7月18日(2013.7.18)
発明者または考案者 【氏名】関谷 毅
【氏名】染谷 隆夫
【氏名】鷹野 玲美
出願人 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
個別代理人の代理人 【識別番号】100064908、【弁理士】、【氏名又は名称】志賀 正武
【識別番号】100094400、【弁理士】、【氏名又は名称】鈴木 三義
【識別番号】100147267、【弁理士】、【氏名又は名称】大槻 真紀子
審査請求 未請求
テーマコード 4C081
4G146
4J002
Fターム 4C081AA01
4C081AA10
4C081CF161
4C081DA02
4C081DA12
4C081DB07
4C081DC03
4C081EA14
4G146AA07
4G146AC03B
4G146AD23
4G146AD28
4J002AB051
4J002CH021
4J002DA006
4J002FD116
4J002GB01
要約 【課題】生体適合性を有し、生体内に長期間適用可能であり、臓器等のしわの形状に対して追従性に優れて臓器等との間に極めて良好な界面を形成できると共に、低周波数から高周波数にわたり低インピーダンスの生体適合性電極構造体を提供する。
【解決手段】生体適合性電極構造体100は、電子回路に接続可能な、導電性ナノ材料101が高分子媒体102中に分散されてなる生体適合性電極構造体100であって、導電性ナノ材料101は高分子媒体102中において、電子回路との接続面100aの反対面100bの側ではその接続面側よりも低密度で分散されている。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
電子回路に接続可能な、導電性ナノ材料が高分子媒体中に分散されてなる生体適合性電極構造体であって、前記導電性ナノ材料は前記高分子媒体中において、前記電子回路との接続面の反対側ではその接続面側よりも低密度で分散されていることを特徴とする生体適合性電極構造体。
【請求項2】
前記導電性ナノ材料はカーボンナノ材料であることを特徴とする請求項1に記載の生体適合性電極構造体。
【請求項3】
前記高分子媒体はゲル状であることを特徴とする請求項1又は2のいずれかに記載の生体適合性電極構造体。
【請求項4】
前記生体適合性電極構造体は、前記導電性ナノ材料を含む高分子媒体からなる第1の高分子層と、前記導電性ナノ材料を含まないか又は前記第1の高分子層より低密度で導電性ナノ材料を含む高分子媒体からなる第2の高分子層とが前記電子回路との接続面側から順に積層されてなることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の生体適合性電極構造体。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の生体適合性電極構造体を電極として備えたことを特徴とするデバイス。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の生体適合性電極構造体を備えたデバイスであって、前記生体適合性電極構造体に接続された複数の電極を有し、前記生体適合性電極構造体は前記複数の電極に対応して配置されていることを特徴とするデバイス。
【請求項7】
請求項4に記載の生体適合性電極構造体を備えたデバイスであって、複数の電極を有し、各電極は前記第1の高分子層によって構成され、前記第2の高分子層は前記複数の電極に亘って形成されていることを特徴とするデバイス。
【請求項8】
請求項4に記載の生体適合性電極構造体を備えたデバイスであって、複数の電極を有し、各電極は前記第1及び第2の高分子層によって構成されていることを特徴とするデバイス。
【請求項9】
請求項4に記載の生体適合性電極構造体を備えたデバイスであって、前記生体適合性電極構造体に接続する複数の電極を有し、前記第1の高分子層は各電極ごとに配置され、前記第2の高分子層は前記複数の電極に亘って形成されていることを特徴とするデバイス。
【請求項10】
請求項4に記載の生体適合性電極構造体を備えたデバイスであって、前記生体適合性電極構造体に接続された複数の電極を有し、前記第1及び第2の高分子層は各電極ごとに配置されていることを特徴とするデバイス。
【請求項11】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の生体適合性電極構造体の製造方法であって、
複数の電極を有する電子回路上に、導電性ナノ材料を高分子媒体中に分散させた液膜を形成する工程と、高分子媒体中の導電性ナノ材料を前記電子回路側に偏在させる工程と、液膜を硬化させて各電極上に生体適合性電極構造体を配置する工程とを有することを特徴とする生体適合性電極構造体の製造方法。
【請求項12】
請求項4に記載の生体適合性電極構造体の製造方法であって、
導電性ナノ材料を含む第1の高分子層となる第1の高分子媒体を、複数の電極を有する電子回路上に形成する工程と、導電性ナノ材料を含まないか又は前記第1の高分子層より低密度で導電性ナノ材料含む第2の高分子層となる第2の高分子媒体を前記第1の高分子媒体上に形成する工程と、前記第1および第2の高分子媒体を一括して各電極上に配置するように加工する工程とを有することを特徴とする生体適合性電極構造体の製造方法。
【請求項13】
請求項8に記載のデバイスの製造方法であって、
導電性ナノ材料を含む第1の高分子層となる第1の高分子媒体を電子回路上に形成する工程と、導電性ナノ材料を含まないか又は前記第1の高分子層より低密度で導電性ナノ材料含む第2の高分子層となる第2の高分子媒体を前記第1の高分子媒体上に形成する工程と、前記第1および第2の高分子媒体を一括して、電子回路の複数の電極をなすように加工する工程とを有することを特徴とするデバイスの製造方法。
【請求項14】
請求項10に記載のデバイスの製造方法であって、
導電性ナノ材料を含む第1の高分子層となる第1の高分子媒体を、複数の電極を有する電子回路上に形成する工程と導電性ナノ材料を含まないか又は前記第1の高分子層より低密度で導電性ナノ材料含む第2の高分子層となる第2の高分子媒体を前記第1の高分子媒体上に形成する工程と、前記第1および第2の高分子媒体を一括して各電極上に配置するように加工する工程とを有することを特徴とするデバイスの製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、生体適合性電極構造体及びその製造方法、並びに、デバイス及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機半導体を利用したフレキシブルエレクトロニクスは、柔らかい素材で構成されたデバイスを生体の表面や内部に装着し、細胞や組織から直接生体情報を得る手段として、近年注目されている。生体の内部における組織や細胞との電気的接触は、主にPt、Au等の金属を介して行われている(非特許文献1、2)。
【0003】
しかしながら、Pt、Au等の金属が生体内の組織や細胞に直接触れると、生体細胞の抗体反応により、金属と組織や細胞との間に炎症反応が起きるため、長期的に生体情報観測を行うことが難しいという問題がある。また、生体細胞の表面には、しわ等の表面の起伏が存在しているが、金属で形成された電極は一般に固く、表面形状の局所的な変化に追従できないことが問題となっている。このため、電極の接触が不安定となり、電気信号が不安定になるなどの問題がある。こうしたことから、生体細胞と直接接触する電極材料として、生体適合性を有し、生体細胞の表面を十分に覆うことが可能な表面形状への追従性に優れた材料の開発が望まれている。
【0004】
ところで、カーボンナノチューブ(CNT)等の導電性ナノ材料はフレキシブルな導電材料として期待されている。特許文献1には、カーボンナノチューブとイオン液体とのゲルからなり、柔軟性に富むアクチュエータ素子用導電体材料や、カーボンナノチューブとイオン液体とポリマーとのゲル状組成物からなるアクチュエータ素子用電極層が開示されている。このゲルまたはゲル状組成物の形成時に、せん断力下における細分化処理を行うことにより、カーボンナノチューブの相互のからみ合いを減少させ、からみ合いの減少したカーボンナノチューブの表面に「カチオン-π」相互作用により結合したイオン液体の分子がイオン結合を介してカーボンナノチューブの束同士を結びつけることにより、形成されるものと推測されている(特許文献2)。なお、「カチオン-π」相互作用は、水素結合(ファンデルワールス力の10倍程度)に匹敵する強さがある。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】特許第4038685号公報
【特許文献2】特許第3676337号公報
【0006】

【非特許文献1】Jonathan VIenti et al, Nature Neurosicence, 2011, Vol. 14, No. 12, 1599-1607
【非特許文献2】Quan Qing et al., PNAS, 2010, Vol. 107, No. 5, 1882-1887
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、カーボンナノチューブ(CNT)等の導電性ナノ材料は、生体に与える影響について十分に理解が進んでいないこともあり、生体の表面や体内に装着するデバイスの材料として使用する研究は進んでいない。
実際、特許文献1及び2には、それらに開示された材料は生体の表面や体内に装着するデバイスの材料として使用することが想定されていないため、導電性ナノ材料を生体に与える影響が抑制された状態の電極やそれを備えたデバイスについては何ら記載も示唆もない。
特許文献2には、カーボンナノチューブの表面にイオン液体の分子が結合することが記載されているが、カーボンナノチューブの表面をイオン液体の分子で覆い、さらにそのイオン液体の分子の層の上を高分子で覆う構成については何ら記載も示唆もない。
また、特許文献1には、カーボンナノチューブとイオン液体とポリマーとのゲル状組成物からなる電極層が開示されているが、ポリマーは機械的な強度を保つために配合されるものであり(段落0026等)、カーボンナノチューブ及びイオン液体のゲルとポリマーとを加熱混合して当該ゲル状組成物からなる電極層を形成するという手法によって得られるゲル状組成物からなる電極層が開示されているに過ぎない。また、カーボンナノチューブを覆うイオン液体の分子を単層とするための濯ぎ工程や、カーボンナノチューブに結合していないイオン液体の分子を除去するための濯ぎ工程や、ポリマーを架橋する架橋工程については何ら記載も示唆もない。
【0008】
また、高分子媒体に導電性ナノ材料を分散させた材料は、高分子媒体の柔らかさと導電性ナノ材料の導電性とを兼ね備える材料ではあるが、導電性ナノ材料が含まれる分、高分子媒体本来の柔らかさは損なわれる。また、生体に接触する部分に導電性ナノ材料が多く含まれると、炎症反応が生じてしまうことがある。一方、導電性ナノ材料が少ないと、電極とデバイス間のインピーダンスが大きくなってしまい、精度のよい情報のやりとりができないという問題があった。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、生体適合性を有し、生体内に長期間適用可能であり、臓器等のしわの形状に対して追従性に優れて臓器等との間に極めて良好な界面を形成できると共に、低周波数から高周波数にわたり低インピーダンスの生体適合性電極構造体及びその製造方法、並びに、デバイス及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明は以下の手段を採用した。
【0011】
本発明の一態様に係る生体適合性電極構造体は、電子回路に接続され、導電性ナノ材料が高分子媒体中に分散されてなる生体適合性電極構造体であって、前記導電性ナノ材料は前記高分子媒体中において、前記電子回路との接続面の反対側ではその接続面側よりも低密度で分散されているものである。
【0012】
また、本発明の一態様に係る生体適合性電極構造体は、前記導電性ナノ材料がカーボンナノ材料である。
【0013】
また、本発明の一態様に係る生体適合性電極構造体は、前記高分子媒体がゲル状である。
【0014】
また、本発明の一態様に係る生体適合性電極構造体は、前記第1の高分子層の上に、前記第1の高分子媒体に比べて、前記導電性ナノ材料の含有量が少ない第2の高分子媒体からなる第2の高分子層が配されている。
【0015】
また、本発明の一態様に係る生体適合性電極構造体は、前記導電性ナノ材料を含む高分子媒体からなる第1の高分子層と、前記導電性ナノ材料を含まないか又は前記第1の高分子層より低密度で導電性ナノ材料含む高分子媒体からなる第2の高分子層とが前記電子回路との接続面側から順に積層されてなる。
【0016】
また、本発明の一態様に係るデバイスは、上記の生体適合性電極構造体を電極として備えたものである。
【0017】
また、本発明の一態様に係るデバイスは、上記の生体適合性電極構造体を備えたデバイスであって、前記生体適合性電極構造体に接続された複数の電極を有し、前記生体適合性電極構造体は前記複数の電極に対応して配置されている。
【0018】
また、本発明の一態様に係るデバイスは、上記の生体適合性電極構造体を備えたデバイスであって、複数の電極を有し、各電極は前記第1の高分子層によって構成され、前記第2の高分子層は前記複数の電極に亘って形成されている。
【0019】
また、本発明の一態様に係るデバイスは、上記の生体適合性電極構造体を備えたデバイスであって、複数の電極を有し、各電極は前記第1及び第2の高分子層によって構成されている。
【0020】
また、本発明の一態様に係るデバイスは、上記の生体適合性電極構造体を備えたデバイスであって、前記生体適合性電極構造体に接続する複数の電極を有し、前記第1の高分子層は各電極ごとに配置され、前記第2の高分子層は前記複数の電極に亘って形成されている。
【0021】
また、本発明の一態様に係るデバイスは、上記の生体適合性電極構造体を備えたデバイスであって、前記生体適合性電極構造体に接続された複数の電極を有し、前記第1及び第2の高分子層は各電極ごとに配置されている。
【0022】
本発明の一態様に係る生体適合性電極構造体の製造方法は、複数の電極を有する電子回路上に、高分子媒体中の導電性ナノ材料を高分子媒体中に分散させた液膜を形成する工程と、導電性ナノ材料を前記電子回路側に偏在させる工程と、液膜を硬化させて各電極上に生体適合性電極構造体を配置する工程とを有するものである。
【0023】
本発明の一態様に係る生体適合性電極構造体の製造方法は、導電性ナノ材料を含む第1の高分子層となる第1の高分子媒体を、複数の電極を有する電子回路上に形成する工程と、導電性ナノ材料を含まないか又は前記第1の高分子層より低密度で導電性ナノ材料含む第2の高分子層となる第2の高分子媒体を前記第1の高分子媒体上に形成する工程と、前記第1および第2の高分子媒体を一括して各電極上に配置するように加工する工程とを有するものである。
【0024】
本発明の一態様に係るデバイスの製造方法は、導電性ナノ材料を含む第1の高分子層となる第1の高分子媒体を電子回路上に形成する工程と、導電性ナノ材料を含まないか又は前記第1の高分子層より低密度で導電性ナノ材料含む第2の高分子層となる第2の高分子媒体を前記第1の高分子媒体上に形成する工程と、前記第1および第2の高分子媒体を一括して、電子回路の複数の電極をなすように加工する工程とを有するものである。
【0025】
本発明の一態様に係るデバイスの製造方法は、導電性ナノ材料を含む第1の高分子層となる第1の高分子媒体を、複数の電極を有する電子回路上に形成する工程と導電性ナノ材料を含まないか又は前記第1の高分子層より低密度で導電性ナノ材料含む第2の高分子層となる第2の高分子媒体を前記第1の高分子媒体上に形成する工程と、前記第1および第2の高分子媒体を一括して各電極上に配置するように加工する工程とを有することを特徴とするデバイスの製造方法。
【発明の効果】
【0026】
本発明の一態様に係る生体適合性電極構造体によれば、導電性ナノ材料が高分子媒体中において、電子回路との接続面側でその密度が高く分散され、その反対側で接続面側よりも密度が低く分散された構成、すなわち、生体の表面や組織に接触する側の導電性ナノ材料の密度を電子回路との接続面側の密度より低く分散された構成を採用したので、生体の炎症反応を抑制することができる。また、本発明の生体適合性電極構造体は、生体の表面や組織に接触する側の導電性ナノ材料の密度が低いので高分子媒体本来の柔らかさを有し、対象とする物体(ここでは生体表面や組織)に対して一様に密着させることができる。これにより、生体適合性電極構造体の生体表面や組織との実質的な接触面積が大きくなるため、高周波の電気信号に対するインピーダンスをより一層低くすることができる。したがって、この接触面積を大きくすることにより、電気信号の検出感度を、従来の金属材料によるものに比べて著しく高めることができ、ひいては、電極をより小型化することが可能となる。また、電子回路との接続面側の導電性ナノ材料の密度を高くすることで、容量結合に起因した低周波の電気信号に対するインピーダンスの上昇を低く抑えることができる。
【0027】
従来、ペースメーカーの刺激電極等のように、生体内で臓器等に刺激を与える電極には生体内に長期間適用できるものはあるが、生体内の臓器等からでてくる電気信号を読み出す電極には生体内に長期間適用できるものはなかった。これは、従来の材料で作製された電極は生体内に入れると、まもなく電極と臓器等の組織との間に異物反応(炎症反応)が生じて、電気信号を検出することが困難になるからである。刺激を与える電極ではかかる異物反応を生じても、刺激を与えるという目的を果たすことができるが、生体内の臓器等が発する電気信号を検出する電極では、電気信号を検出するという目的を果たすことが困難である。これに対して、本発明の生体適合性電極構造体は、生体内に長期間収め、生体内の臓器等が発する電気信号を、長期間安定的に読み出す電極等に用いることを可能である。
【0028】
このように本発明の生体適合性電極構造体は、長期間生体内に入れた際の抗体反応が小さく、信頼性の高い生体用電極の材料として用いることができる。また、本発明の生体適合性電極構造体は非常に柔らかいため、生体組織を傷つけることなく、生体組織の表面を覆うことができる。また、細胞組織には数100μm程度のものもあるが、本発明の生体適合性電極構造体は光架橋を行うことができるため、所定の細胞組織に適用可能なサイズの微細な電極を作製することもできる。
【0029】
また、本発明の生体適合性電極構造体によって作製された電極は生体内の臓器等に密着させて長期間安定的に臓器等の信号を読み出すことができる。生体からの微弱な信号は増幅しないと検出は困難であるが、有機トランジスタ(例えば、NATURE MATERIALS, 9, 2010, 1015-1022)を用いて作製した柔らかいアンプを、臓器の傍に備えることにより、臓器等からの電気信号を増幅することが可能となる。これにより、非常に微弱な電気信号を高精度で取り出すことが可能となり、生体からの微弱な信号を検出することができるようになる。
【0030】
本発明の一態様に係る生体適合性電極構造体の製造方法によれば、導電性ナノ材料を含む第1の高分子層となる第1の高分子媒体と、導電性ナノ材料を含まないか又は第1の高分子層より低密度で導電性ナノ材料含む第2の高分子層となる第2の高分子媒体とを一括して各電極上に配置するように加工する工程を有する構成を採用したので、導電性ナノ材料の密度や高分子層の厚みを変えるだけで容易に生体適合性電極構造体のインピーダンスを調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】(a)は、本発明の第1実施形態による生体適合性電極構造体の構成を模式的に示す断面図であり、(b)本発明の生体適合性電極構造体を電極上に備えたデバイスの一部を摸式的に示す図である。
【図2】本発明の第2実施形態による生体適合性電極構造体の構成を模式的に示す断面図である。
【図3】本発明のデバイスの製造において、電子回路の複数の電極上に生体適合性電極構造体を配置する方法の他の例を説明するための模式図である。
【図4】(a)は、DEMEBFを構成する分子に覆われたカーボンナノチューブがポリロタキサンに分散されてなる組成物を示す写真である。(b)(a)で示した組成物を光架橋して得られたシートの写真である。(c)(a)に示した組成物を光架橋するとともに、約50μm程度の線幅の微細構造をパターニングしたものの光学顕微鏡写真である。
【図5】(a)本発明で用いることが可能なカーボンナノチューブのTEM像である。(b)イオン液体なしで、カーボンナノチューブとポリロタキサンとを水中で混合し、ジェットミルで細分化を行いながら撹拌して得られたポリロタキサンで覆われたカーボンナノチューブのTEM像である。(c)図4(a)に示した組成物と同じ条件で得られた、カーボンナノ材料あるいは組成物のTEM像である。
【図6】本発明の生体適合性電極構造体のコンダクタンスの周波数依存性を示すグラフである。
【図7】本発明の生体適合性電極構造体を構成する第1の高分子層の原料である組成物の作製方法を示すフロー図である。
【図8】本発明の生体適合性電極構造体を構成する第1の高分子層の作製方法を示すフロー図である。
【図9】カーボンナノチューブの分散性を調べた結果を示す写真であり、(A)はカーボンナノチューブを脱イオン水に入れ、1週間撹拌した後の状態を示す写真であり、(B)は、カーボンナノチューブとDEMEBFとを脱イオン水に入れ、同様にして1週間撹拌した後の状態を示す写真であり、(C)はカーボンナノチューブを脱イオン水に入れ、同様にして1週間撹拌し、その後、ジェットミルで処理した後の状態を示す写真であり、(D)はカーボンナノチューブとDEMEBF60mgとを脱イオン水に入れ、同様にして1週間撹拌し、その後、ジェットミルで処理した後の状態を示す写真であり、(E)カーボンナノチューブとDEMEBFとミクロフィブリル化セルロースとを脱イオン水に入れ、同様にして1週間撹拌して得られたペーストを、その後、ジェットミルで処理した後の状態を示す写真である。
【図10】カーボンナノチューブがポリロタキサンに分散されてなる層とポリロタキサンだけの層とが積層されてなる本発明の生体適合性電極構造体の光学顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、好適な実施形態に基づき、図面を参照して本発明を説明する。なお、以下に示す実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために、例を挙げて説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。また、以下の説明に用いる図面は、本発明の特徴を分かりやすくするために、便宜上、要部となる部分を拡大している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。

【0033】
<生体適合性電極構造体(第1実施形態)>
本発明の第1実施形態に係る生体適合性電極構造体100の構成について、図1(a)を用いて説明する。また、図1(b)を用いて、生体適合性電極構造体の適用例を説明する。図1(a)は、生体適合性電極構造体100の構成を模式的に示す断面図であり、図1(b)は、生体適合性電極構造体を備えたデバイスの例の一部を模式的に示す図である。左側の図は、このデバイスの生体組織表面側の一電極とその上に配置する生体適合性電極構造体の部分を拡大した模式図である。

【0034】
図1(a)に示す生体適合性電極構造体100は、電子回路に接続可能な、導電性ナノ材料101が高分子媒体102中に分散されてなる生体適合性電極構造体であって、前記導電性ナノ材料101は前記高分子媒体102中において、前記電子回路との接続面100aの反対面100bの側ではその接続面側よりも低密度で分散されている。
符号103は、電子回路の電極であって、図1(a)は生体適合性電極構造体100が電極103上に配置されている状態を示したものである。

【0035】
図1(b)において、絶縁シート111上に複数の電極103が形成され、その電極103上に生体適合性電極構造体100が配置され、生体適合性電極構造体100が生体組織112の表面に密着するように配置された構成を模式的に示している。
図1(b)に示すデバイスでは、絶縁シート上に形成された電子回路(図示せず)により、生体適合性電極構造体を通して生体組織に刺激を与えるか又は生体の信号を検出することができる。

【0036】
本発明の「導電性ナノ材料」とは、ナノメートルサイズで構造化している構成要素からなる材料をいう。
本発明の「導電性ナノ材料」はカーボンナノ材料であることが好ましい。
カーボンナノ材料とは、カーボン原子で構成され、ナノメートルサイズで構造化している構成要素(例えば、1本のCNT)が通常、その構成要素のカーボン原子同士がファンデルワールス力でくっついているもの、例えば、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー(炭素繊維のうち、径が10nm以下のもの)、カーボンナノホーン、フラーレン、グラフェンをいう。10nm以下の微細なカーボンナノ材料であれば、水中で良好な分散性を発揮する。
「導電性ナノ材料」の他の例として、金、白金、銀などのナノ粒子、PEDOT/PSS粒子を挙げることができる。

【0037】
カーボンナノ材料は同じ種類のものだけが用いられていてもよいし、複数の種類のものが用いられていてもよい。

【0038】
カーボンナノチューブは、炭素原子が六角網目状に配列したグラフェンシートが単層で又は多層で円筒状に丸まった構造を有するものであるが(単層ナノチューブ(SWNT)、2層ナノチューブ(DWNT)、多層ナノチューブ(MWNT)と呼ばれる)、カーボンナノ材料として用いることができるカーボンナノチューブは特に制限はなく、SWNT、DWNT、MWNTのいずれでも構わない。また、カーボンナノチューブは一般にレーザーアブレーション法、アーク放電、熱CVD法、プラズマCVD法、気相法、燃焼法などで製造できるが、どのような方法で製造したカーボンナノチューブでも構わない。また、複数の種類のカーボンナノチューブを用いても構わない。

【0039】
カーボンナノチューブは、カーボンナノチューブ間のファンデルワールス力によって凝集しやすく、通常、複数本のカーボンナノチューブがバンドル(束)を形成したり、凝集体を形成して存在する。しかし、イオン液体の存在下で、そのバンドルもしくは凝集体にせん断力を加えて細分化する(カーボンナノチューブの絡み合いを低減する)ことができる。十分に細分化を行うことにより、カーボンナノチューブ同士をくっつけているファンデルワールス力を弱めて一本一本のカーボンナノチューブに分離すると共に、一本一本のカーボンナノチューブにイオン液体を吸着させることができ、その結果、イオン液体の分子が覆った単体のカーボンナノチューブを含む、カーボンナノチューブとイオン液体とからなる組成物を得ることできる。
なお、細分化工程において用いるせん断力を付与する手段は特に限定されるものではなく、ボールミル、ローラーミル、振動ミルなどのせん断力を付与することができる湿式粉砕装置を使用することができる。

【0040】
カーボンナノチューブとイオン液体とを混ぜ、上記細分化工程を行うことにより、からみ合いが減少したカーボンナノチューブの表面に「カチオン-π」相互作用により結合したイオン液体の分子がイオン結合を介してカーボンナノチューブを結びつけることによりゲル状組成物になると考えられているが(特許文献2)、後述するように、このゲル状組成物を、例えば、生理食塩水やエタノール等でリンスすることにより、カーボンナノチューブの表面に1層のイオン液体の分子の層を形成することができ、さらに、水と水溶性高分子とを混ぜることにより、イオン液体を構成する分子に覆われたカーボンナノチューブが水溶性高分子媒体中に分散されてなる組成物を作製することができる。

【0041】
本発明の「高分子媒体」は、導電性ナノ材料を分散させることができる高分子であれば、特に制限はない。本発明の「高分子媒体」は、ゲル状であることが好ましい。
例えば、高分子媒体として水溶性高分子(媒体)を用いる場合、水に溶解でき、あるいは、分散できる高分子であれば特に制限はなく、水中で架橋できるものであればより好ましい。例えば、以下の例を挙げることができる。
1.合成高分子
(1)イオン性
ポリマクリル酸(アニオン性)
ポリスチレンスルホン酸(アニオン性)
ポリエチレンイミン(カチオン性)
MPCポリマー(両性イオン)
(2)非イオン性
ポリビニルピロリドン(PVP)
ポリビニルアルコール(ポリ酢酸ビニル鹸化物)
ポリアクリルアミド(PAM)
ポリエチレンオキシド(PEO)
2.天然系高分子(多くは多糖類)
デンプン
ゼラチン
ヒアルロン酸
アルギン酸
デキストラン
タンパク質(例えば水溶性コラーゲンなど)
3.半合成高分子(例えばセルロースを可溶化したもの)
カルボキシメチルセルロース(CMC)
ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)
メチルセルロース(MC)、等のセルロース誘導体
水溶性キトサン(「2.天然系高分子」に分類することもできる)

【0042】
また、水溶性高分子の具体的な化合物としては、例えば、ポリロタキサンを挙げることができる。ポリロタキサンは、環状分子(回転子:rotator)の開口部が直鎖状分子(軸:axis)によって串刺し状に包接されてなる擬ポリロタキサンの両末端(直鎖状分子の両末端)に、環状分子が遊離しないように封鎖基を配置して成る。例えば、環状分子としてα-シクロデキストリン、直鎖状分子としてポリエチレングリコールを用いたポリロタキサンを用いることができる。

【0043】
また、水溶性高分子媒体としては架橋剤と反応する基を有する化合物であれば、架橋により強固な膜を形成することから、より好ましい。
本発明の生体適合性電極構造体を用いて、微細な形状のパターンを形成するには、水溶性高分子が光架橋性であることが好ましい。

【0044】
高分子媒体は、エネルギー付与(熱、光、電子線等)により硬化されたものでもよい。

【0045】
本発明の生体適合性電極構造体は特に生体への適用に制限するものでなく、その効果を発揮できるあらゆる分野に適用できる。

【0046】
本発明の生体適合性電極構造体は、電子回路上の電極上に配置されて、又は、電子回路上の電極自体として用いることができる。本発明の生体適合性電極構造体は、導電性ナノ材料を電子回路との接続面側に偏在するように含有することにより、電子回路とのインピーダンスを極めて小さくできるため、生体信号を正確に電子回路に伝えることができる。

【0047】
(二重被覆カーボンナノ材料を含む生体適合性電極構造体)
導電性ナノ材料としてカーボンナノ材料を用いる場合、カーボンナノ材料は親水性のイオン液体を構成する分子と水溶性高分子とで二重に被覆されたものでもよい。すなわち、生体適合性電極構造体は、親水性のイオン液体を構成する分子と水溶性高分子とで二重に被覆されたカーボンナノ材料がその高分子媒体中に分散されてなるものとしてもよい。
イオン液体が生体に与える影響について十分に研究が進んでいないが、この生体適合性電極構造体は、カーボンナノ材料に結合されたイオン液体を構成する分子を水溶性高分子で覆う二重被覆された構成なので、この構成を生体に触れる態様で用いた場合であってもイオン液体を構成する分子が生体に触れることを回避できる。また、カーボンナノ材料本体(イオン液体を構成する分子及び水溶性高分子で覆われる前のカーボンナノ材料自体)は、イオン液体を構成する分子及び水溶性高分子で二重に覆われているので、この構成を生体に触れる態様で用いた場合であってもカーボンナノ材料本体が生体に触れることを回避できる。

【0048】
かかる生体適合性電極構造体を構成する材料について、生体適合に関する国際標準規格ISO10993-6に則り、「コロニー形成法による細胞毒性試験」を実施して細胞毒性がないことを確認し、さらに、その規格による「ウサギ埋植試験」を実施して、従来のAu電極と比べて生体の拒絶反応が小さいことを確認した。

【0049】
上記「二重に被覆」とは、イオン液体を構成する分子の層と、水溶性高分子の層とで被覆されていることをいう。この生体適合性電極構造体は、イオン液体分子の層で被覆されたカーボンナノ材料と水溶性高分子と水とを混合して、水溶性高分子を水に溶解した状態すなわち、水溶性高分子が小サイズとなって分散した状態でイオン液体分子の層を覆うために、水溶性高分子も層状となって覆われる。これに対して、特許文献1に記載されている“カーボンナノチューブとイオン液体とポリマーとのゲル状組成物からなる電極層”の場合、カーボンナノチューブ及びイオン液体のゲルとポリマーとを加熱混合して形成されたもの(実施例1等)なので、イオン液体分子がカーボンナノチューブを層状に覆っていたとしても、ポリマーは層状で(イオン液体分子を介して)カーボンナノチューブを覆ってはいない。
また、この生体適合性電極構造体は、イオン液体を構成する分子及び水溶性高分子を層状でカーボンナノ材料を覆っているので、ほぼ均一な厚さのイオン液体を構成する分子の層と、ほぼ均一な厚さの水溶性高分子の層とで被覆されたものとすることができる。すなわち、特許文献1に記載されているゲル状組成物と比較して、カーボンナノチューブに代表されるカーボンナノ材料を、分子レベルで均一にコーティングすることができる。また、イオン液体の分子が、カーボンナノ材料にしっかり結合されるのでピンホールなくコーティングすることができる。
イオン液体を構成する分子の層の“ほぼ均一な厚さ”とは、70%以上、好ましくは90%以上のイオン液体を構成する分子の層が単分子層であることをいう。
また、水溶性高分子の層の“ほぼ均一な厚さ”とは、70%以上、好ましくは90%以上の水溶性高分子の層の厚さのばらつきが20nm以下、好ましくは10nm以下、より好ましくは5nm以下であることをいう。

【0050】
カーボンナノ材料を包み込むイオン液体の分子の層は単分子層であってもよい。カーボンナノ材料の表面とイオン液体の分子とは「カチオン-π」相互作用により結合するが、イオン液体の分子同士の間の結合がその「カチオン-π」相互作用による結合よりも小さい、カーボンナノ材料とイオン液体との組み合わせを選択することにより、カーボンナノ材料を包み込むイオン液体の分子の層を単分子層とすることが可能となる。
例えば、カーボンナノ材料としてカーボンナノチューブ、イオン液体としてN,N-ジエチル-N-メチル-N-(2-メトキシエチル)アンモニウム テトラフルオロボレート(DEMEBF)を選択することにより、カーボンナノチューブを包み込むDEMEBFの分子の層を単分子層とすることができる。さらに、水溶性高分子として例えば、ポリロタキサンを選択すると、DEMEBFの単分子層の上に5nm程度の薄いポリロタキサンの層を形成することができる。こうして得られる組成物はカーボンナノチューブの分散濃度を高密度とすることができ、高い導電性材料とすることができる。かかる導電性材料で作製した電極等の導電部材では、薄いDEMEBF分子層及びポリロタキサン層を介してカーボンナノチューブ間を電子が移動して電流が流れる。

【0051】
この生体適合性電極構造体において、カーボンナノ材料の表面とイオン液体の分子とは「カチオン-π」相互作用によって強く結合しているために、カーボンナノ材料の表面と結合しているイオン液体の分子は水溶性高分子媒体の外に出てこない。なお、カーボンナノ材料の表面と結合していないイオン液体の分子は、例えば、生理食塩水やエタノールによる濯ぎによって除去することができる。

【0052】
親水性のイオン液体の量を、全てのカーボンナノ材料を被覆できる量に調整することにより、カーボンナノ材料をまず、イオン液体の分子が完全に覆い、その上を水溶性高分子が覆う構成となる。
カーボンナノ材料をイオン液体の分子を介して被覆する水溶性高分子と、被覆されたカーボンナノ材料が分散する水溶性高分子(媒体)は同じ種類でもよいし、異なる種類としてもよい。かかる構成は例えば、イオン液体の分子で被覆されたカーボンナノ材料と水溶性高分子と水とを混合して、カーボンナノ材料をイオン液体の分子を介して水溶性高分子で被覆し、次いで、イオン液体の分子を介して水溶性高分子で被覆されたカーボンナノ材料と、同じ種類又は異なる種類の水溶性高分子と水とを混合することにより得ることができる。

【0053】
この生体適合性電極構造体は、カーボンナノ材料がイオン液体を構成する分子の単分子膜で被覆されていてもよい。
カーボンナノ材料の表面にイオン液体の分子を結合させて覆い、カーボンナノ材料の表面に結合していないイオン液体の分子を濯いで(リンスして)除去することにより、カーボンナノ材料はイオン液体を構成する分子の単分子膜で被覆されたものとなる。

【0054】
この生体適合性電極構造体は、生体内に適用してもカーボンナノ材料自体が生体内の細胞に実質的に触れることがない(あるいは、細胞に触れる面積を著しく低下されている)。また、高い柔軟性を有するので、生体内の臓器等の表面に対して追従性に優れ、臓器等との間に極めて良好な界面を形成できる。さらにまた、カーボンナノ材料の含有量の調整等により、高い導電性を有するものとすることができる。また、カーボンナノ材料を被覆するイオン液体分子を単分子膜とすることにより、カーボンナノ材料間の導電性を高いものとすることができる。カーボンナノ材料をイオン液体の分子を介して被覆する水溶性高分子と、被覆されたカーボンナノ材料が分散する水溶性高分子(媒体)とを異なる種類とすることにより、一方のみを硬化することが可能となる。

【0055】
従来、ペースメーカーの刺激電極等のように、生体内で臓器等に刺激を与える電極では生体内に長期間適用できるものはあるが、生体内の臓器等からでてくる電気信号を読み出す電極では生体内に長期間適用できるものはなかった。これは、従来の材料で作製された電極は生体内に入れると、まもなく電極と臓器等の組織との間に異物反応(炎症反応)が生じて、電気信号を検出することが困難になるからである。刺激を与える電極ではかかる異物反応を生じても刺激を与えるという目的を果たすことができるが、生体内の臓器等の信号を検出する電極では信号を検出するという目的を果たすことが困難である。
これに対して、この生体適合性電極構造体は生体内に長期間収めることができる。この生体適合性電極構造体は生体内の臓器等からでてくる電気信号を、長期間安定的に読み出す電極又は電極上に配置して用いることができる材料である。

【0056】
このようにこの生体適合性電極構造体は、長期間生体内に入れても抗体反応が小さく、信頼性の高い生体用電極の材料として用いることができる。また、この生体適合性電極構造体は、非常に柔らかいため、生体組織を傷つけることなく、生体組織の表面を覆うことができる。また、細胞組織は数100μm程度のものもあるが、この生体適合性電極構造体は光架橋を可能とすることができるので、その細胞組織に適用可能な微細な電極を作製するのにも適している。

【0057】
また、この生体適合性電極構造体からなる電極は生体内の臓器等に密着させて長期間安定的に臓器等の信号を読み出すことができるので、有機トランジスタ(例えば、NATURE MATERIALS, 9, 2010, 1015-1022)を用いて臓器の傍で臓器等からの信号を増幅することが可能となる。これにより、非常に微弱な信号を高精度で取り出すことが可能となる。すなわち、生体からの微弱な信号は増幅しないと検出は困難であるが、有機トランジスタを用いて作製した柔らかいアンプと、この生体適合性電極構造体によって作製された電極とを用いて、生体内でその臓器等の近傍で生体からの微弱な信号を増幅することにより、生体からの微弱な信号を検出することが可能となる。

【0058】
また、臓器等の電気信号を容量結合で検出する際、その大きさは電極の表面積に比例する。この生体適合性電極構造体からなる電極を使って容量結合で電気信号を検出する場合、その電極は従来の金属電極に比べると格段に柔らかく、臓器等にぴったりとくっつくことができるために実質的な接触面積が大きくなる。そのため、電気信号を得るための実質的な容量の検出感度は従来の金属電極に比べて非常に高く、電極をより小型化することが可能となる。また、この生体適合性電極構造体は、高い比表面積を有するカーボンナノ材料を含むもので、この点からも高い信号検出能力を有するものである。カーボンナノ材料を含有することにより、電子回路とのインピーダンスを極めて小さくできるため、生体信号を正確に電子回路に伝えることができる。

【0059】
<生体適合性電極構造体(第2実施形態)>
図2は、本発明の第2実施形態に係る生体適合性電極構造体の模式図である。
以下の説明では、第1実施形態に係る生体適合性電極構造体で説明した内容で本実施形態にも適用される内容は省略する場合があり、また、第1実施形態に係る生体適合性電極構造体に適用される場合もある。

【0060】
図2に示す生体適合性電極構造体200は、電子回路に接続可能な、導電性ナノ材料が高分子媒体中に分散されてなる生体適合性電極構造体であって、導電性ナノ材料201を含む高分子媒体202からなる第1の高分子層203と、前記導電性ナノ材料を含まないか又は前記第1の高分子層より低密度で導電性ナノ材料含む高分子媒体からなる第2の高分子層204とが電子回路との接続面側から順に積層されてなる。

【0061】
本実施形態では、導電性ナノ材料が高密度の高分子層と、導電性ナノ材料が低密度か又は含有しない高分子層とを電子回路との接続面側から順に積層する二層構造とすることによって、高分子媒体中において電子回路との接続面側にその反対側よりも導電性ナノ材料の密度が高くなるように偏在させる構成である。

【0062】
このように高分子媒体の導電性ナノ材料の密度を偏在させる構成とすることによって、交流信号の伝達が改善される。
本発明に係る2種類の高分子媒体からなる二層構造(導電性ナノ材料はカーボンナノチューブの場合)と、比較例としてカーボンナノチューブを含まない高分子媒体の一層(比較例1)、及び、本発明の第1の高分子層に比べて低密度でかつ一様にカーボンナノ材料を含む高分子媒体の一層(比較例2)とについて、それらの層をAu電極上に積層してそのインピーダンスの周波数特性を調べたところ、比較例は低周波においてインピーダンスが高くなってしまうのに対して、本発明に係る二層構造では低周波においてもインピーダンスはほとんど変わらなかった。
導電性ナノ材料を含まない高分子媒体の一層(比較例1)の方は、その高分子媒体がコンデンサとして作用してコンデンサのインピーダンスの周波数特性を示していると考えられえる。また、低密度で導電性ナノ材料を含む高分子ゲルの一層(比較例2)も比較例1と同様のインピーダンスの周波数特性を示したことは、その高分子媒体がコンデンサとしての作用が大きいことを示していると考えられる。比較例1と比較例2では周波数特性に差はないあるいは差は小さいが、比較例1の高分子層ではカーボンナノチューブを含むので、その分、抵抗自体は比較例2の高分子層よりも低いと考えられる。
これに対して、本発明に係る二層構造の高分子媒体では、第2の高分子層は比較例1と同様にコンデンサとして作用する一方、第1の高分子層はコンデンサと抵抗が並列配置されたような電気特性を担っていて、それにより、低周波数でのインピーダンスの上昇の抑制になっているものと推測される。交流信号の伝達にはコンデンサとしての作用が必須である一方、低周波数でのインピーダンスの上昇の抑制には高密度で導電性ナノ材料を含む第1の高分子層が重要な役割を果たしていると考えられる。また、電子回路との接続面側に導電性ナノ材料を含有する第1の高分子層を備えることにより、電子回路とのインピーダンスを極めて小さくできるため、生体信号を正確に電子回路に伝えることができる。
また、特に第2の高分子層の電気特性においてはイオン伝導が寄与しているものと考えられる。

【0063】
<生体適合性電極構造体の製造方法(第1実施形態)>
本発明の生体適合性電極構造体の製造方法は、複数の電極を有する電子回路上に、導電性ナノ材料を高分子媒体中に分散させた液膜を形成する工程と、高分子媒体中の導電性ナノ材料を前記電子回路側に偏在させる工程と、液膜を硬化させて各電極上に生体適合性電極構造体を配置する工程とを有する。
電子回路はシート状の基板上に形成されたものを用いることができる。
生体適合性電極構造体自体を電極として用いるように製造してもよい。
液膜を形成する工程は例えば、親水性のイオン液体とカーボンナノ材料(導電性ナノ材料)と水とを混合して、そのイオン液体を構成する分子に覆われたカーボンナノ材料が分散する第1の分散系を得る第1の工程と、その第1の分散系と水溶性高分子と水とを混合して、イオン液体を構成する分子に覆われたカーボンナノ材料と水溶性高分子とが分散する第2の分散系を得る第2の工程とを有する方法によって行うことができる。
第2の分散系において、複数の種類の水溶性高分子を用いることにより、カーボンナノ材料をイオン液体の分子を介して被覆する水溶性高分子と、被覆されたカーボンナノ材料が分散する水溶性高分子(媒体)を異なる種類することができる。あるいは、カーボンナノ材料をイオン液体の分子を介して被覆する水溶性高分子を複数の種類で行うことも可能になる。これにより、材料の硬さ調節や、導電性、光学特性等の制御も可能となる。

【0064】
高分子層中の導電性ナノ材料を電子回路側に偏在させる方法としては例えば、親水性のイオン液体として磁性イオン液体を用いてカーボンナノ材料(導電性ナノ材料)を被覆し、電子回路(電子回路が形成された基板)の下から磁石を用いて、磁性イオン液体で被覆されたカーボンナノ材料を高分子層の電子回路側に引き付けるという方法や、異なる導電性ナノ材料の高分子ゲルの層を複数層積層する方法などが挙げられる。

【0065】
この生体適合性電極構造体の製造方法は、上記第1の工程において、カーボンナノ材料にせん断力を加えて細分化してもよい。これにより、カーボンナノ材料のバンドル又は凝集がより解けた状態で親水性のイオン液体で覆うことができる。

【0066】
この生体適合性電極構造体の製造方法は、上記第2の工程の後に、水溶性高分子を架橋させて、カーボンナノ材料が水溶性高分子媒体中に分散され、該水溶性高分子が架橋されてなる生体適合性電極構造体を作製する工程をさらに備えてもよい。これにより、成形性や加工性が向上する。
この架橋工程の後に、第2の工程で用いた水溶性高分子と異なる種類の水溶性高分子を混ぜ込んで架橋することにより、材料の硬さ調節や、導電性、光学特性等の制御も可能となる。
この生体適合性電極構造体の製造方法は、カーボンナノ材料に結合していない前記イオン液体を構成する分子を除去するために濯ぎ工程をさらに備えるものであってもよい。この濯ぎ工程は例えば、生理食塩水、エタノール、ゲルを破壊しない液体によって行うことができる。
上述の通り、イオン液体は生体に与える影響について十分に研究が進んでいないが、この生体適合性電極構造体の製造方法は、この濯ぎ工程を備えることにより、カーボンナノ材料に結合されたイオン液体を構成する分子を水溶性高分子で覆う生体適合性電極構造体を製造するので、得られる生体適合性電極構造体はイオン液体を構成する分子が生体細胞に触れることが回避される。
この濯ぎ工程はいずれの段階で行ってもよく、例えば、上記第1の工程の後、上記第2の工程の後、上記生体適合性電極構造体を作製する工程の後に行うことができる。
濯ぎ工程を第1の工程の後に適切に行うことにより、カーボンナノ材料を覆うイオン液体の分子を確実に単層にすることが可能となる。また、濯ぎ工程を第2の工程の後や水溶性高分子を架橋した後等に適切に行うことにより、カーボンナノ材料に結合していないイオン液体の分子を除去することが可能となる。架橋後は水溶性高分子は溶けないので、イオン液体の分子を除去しやすい。

【0067】
<生体適合性電極構造体の製造方法(第2実施形態)>
以下の説明では、第1実施形態に係る生体適合性電極構造体で説明した内容で本実施形態にも適用される内容は省略する場合があり、また、第1実施形態に係る生体適合性電極構造体に適用される場合もある。
第2実施形態に係る生体適合性電極構造体の製造方法は、導電性ナノ材料を含む第1の高分子層となる第1の高分子媒体を、複数の電極を有する電子回路上に形成する工程と、導電性ナノ材料を含まないか又は前記第1の高分子層より低密度で導電性ナノ材料含む第2の高分子層となる第2の高分子媒体を前記第1の高分子媒体上に形成する工程と、前記第1および第2の高分子媒体を一括して各電極上に配置するように加工する工程とを有するものである。
すなわち、導電性ナノ材料を分散させた高分子ゲルを、電子回路を有する基板上に一層(第1の高分子層)塗布し、その上に導電性ナノ材料を含まないか又は第1の高分子層より低密度で導電性ナノ材料含む高分子ゲルの層(第2の高分子層)を重ね、その後、この二層のゲル層を架橋させて一括してパターニングして各電極上に配置されるように加工して、二層構造の生体適合性電極構造体を作製することができる。

【0068】
この方法の利点として以下の利点がある。
高分子ゲル層を一層塗り、架橋(硬化)させてから、もう一層塗ると、密着性が弱くて剥がれやすいのに対して、この方法の場合、液相状態で二層を積層して一括で硬化させると密着性が向上することが挙げられる。
また、当該生体適合性電極構造体を生体に適用する場合、生体に触れる側のゲル層(第2の高分子層)はカーボンナノチューブを含まないか又はカーボンナノチューブの含有が第1の高分子層のカーボンナノチューブ密度よりも低密度なので、生体適合性が高い電極となる。
また、生体に触れる第2の高分子層はカーボンナノチューブを含まないか又はカーボンナノチューブの含有が第1の高分子層のカーボンナノチューブ密度よりも低密度なので、ゲル本来の柔らかさを利用することができ、生体に適用しやすい。
また、高分子ゲル層に一様に導電性ナノ材料を含む場合に比べて、導電性ナノ材料が少量で済む。
また、例えば、導電性ナノ材料としてカーボンナノチューブを用いた場合はさらに以下の利点がある。
カーボンナノチューブは黒いので、カーボンナノチューブを含む材料ではパターニングの精度が落ちる。この方法の場合、第2の高分子層はカーボンナノチューブを含まないか又はカーボンナノチューブの含有が第1の高分子層のカーボンナノチューブ密度よりも低密度なので、第1の高分子層よりも光を通しやすい。従って、二層を一括してパターニングすることでパターニングの精度が向上する。

【0069】
<デバイス>

【0070】
本発明の一実施形態に係るデバイスは、本発明の生体適合性電極構造体を電極として備えるものであって、例えば、生体の表面や体内に装着して用いることができる。
電極が形成される基板としては、シート状の絶縁基材を用いることができる。その例としては、市販のポリイミドフィルム、またはポリエチレンナフタレートフィルムが挙げられる。この基板は他の実施形態に係るデバイスにおいても用いることができる。

【0071】
本発明の他の実施形態に係るデバイスは、本発明の生体適合性電極構造体に接続された複数の電極を有し、生体適合性電極構造体は各電極ごとに配置されているものであって、例えば、生体の表面や体内に装着して用いることができる。

【0072】
本発明の他の実施形態に係るデバイスは、複数の電極を有し、各電極は導電性ナノ材料を含む高分子媒体からなる第1の高分子層によって構成され、導電性ナノ材料を含まないか又は第1の高分子層より低密度で導電性ナノ材料含む高分子媒体からなる第2の高分子層はその複数の電極に亘って形成されているものであって、例えば、生体の表面や体内に装着して用いることができる。

【0073】
本発明の他の実施形態に係るデバイスは、複数の電極を有し、各電極は導電性ナノ材料を含む高分子媒体からなる第1の高分子層と、導電性ナノ材料を含まないか又は第1の高分子層より低密度で導電性ナノ材料含む高分子媒体からなる第2の高分子層とによって構成されているものであって、例えば、生体の表面や体内に装着して用いることができる。

【0074】
本発明の他の実施形態に係るデバイスは、本発明の生体適合性電極構造体に接続された複数の電極を有し、各電極上にはそれぞれ、導電性ナノ材料を含む高分子媒体からなる第1の高分子層が配置され、この第1の高分子層を含む全体を、導電性ナノ材料を含まないか又は第1の高分子層より低密度で導電性ナノ材料含む高分子媒体からなる第2の高分子層が覆っているものであって、例えば、生体の表面や体内に装着して用いることができる。

【0075】
本発明の他の実施形態に係るデバイスは、本発明の生体適合性電極構造体に接続された複数の電極を有し、各電極ごとに、導電性ナノ材料を含む高分子媒体からなる第1の高分子層と、導電性ナノ材料を含まないか又は第1の高分子層より低密度で導電性ナノ材料含む高分子媒体からなる第2の高分子層とが配置されているものであって、例えば、生体の表面や体内に装着して用いることができる。

【0076】
<デバイスの製造方法>
本発明に係るデバイスは、絶縁基材上に公知の回路作成技術を用いて電子回路を形成し、その電子回路上の複数の電極上に、本発明の生体適合性電極構造体を形成することによって製造することができる。

【0077】
本発明の一実施形態に係るデバイスの製造方法は、導電性ナノ材料を含む第1の高分子層となる第1の高分子媒体を、複数の電極を有する電子回路上に形成する工程と導電性ナノ材料を含まないか又は前記第1の高分子層より低密度で導電性ナノ材料含む第2の高分子層となる第2の高分子媒体を前記第1の高分子媒体上に形成する工程と、前記第1および第2の高分子媒体を一括して各電極上に配置するように加工する工程とを有するものである。

【0078】
以下に本発明の一実施形態に係るデバイスの製造方法の一例について説明する。
まず、所定の形状を有するシート状の絶縁基材を準備する。具体的には例えば、市販のポリイミドフィルム、またはポリエチレンナフタレートフィルムを準備する。

【0079】
次に、シート状の絶縁基材の一方の面に、公知の回路作成技術を用いて、デバイスの心臓部である電子回路(生体適合性電極構造体を配置するための複数の電極を含む)を形成する。公知の回路作成技術としては例えば、フレキシブルプリント基板作成技術が挙げられる。電極の材料としては、金、白金等の腐食しにくい金属材料を用いることが好ましい。この例では、かかる材料からなる電極上に生体適合性電極構造体を配置する構成であるが、生体適合性電極構造体自体を電極としてもよい。

【0080】
次に、回路が形成されたシート状の絶縁基材に、その複数の電極及びその周辺部が露出するように第1の絶縁素材からなる層を形成する。第1の絶縁素材の材料としては限定するものではないが、例えば、パリレン(登録商標)、サイトップ(登録商標)を用いることができる。パリレンは例えばCVD法により、また、サイトップはディッピングにより、被覆することができる。
この第1の絶縁素材の被覆層の厚さとしては例えば、1~10μmである。

【0081】
次に、導電性ナノ材料を含む高分子ゲル(例えば、図4(a)で示した、N,N-ジエチル-N-メチル-N-(2-メトキシエチル)アンモニウム テトラフルオロボレート(DEMEBF)を構成する分子に覆われたカーボンナノチューブがポリロタキサンに分散されてなる組成物(光架橋剤を含むもの))をその上に塗布する。これにより、第1の絶縁素材の被覆層上及びそれが被覆されていない領域(複数の電極及びその周辺部)上に第1の高分子層をなす高分子ゲル層が塗布された状態となる。

【0082】
次に、上記高分子ゲルにおいて、導電性ナノ材料を含まないか又はそれよりも導電性ナノ材料の密度が低い高分子ゲルを、その高分子ゲル層の上に塗布して二層の高分子ゲル層を形成する。

【0083】
次に、例えば、超微細デジタル型UV露光システム(「デジタル露光装置」、ピーエムティー株式会社製)を用いて、光架橋を行うと共に、各電極上に二層の高分子層が配置するようにパターニングを行って、各電極上に生体適合性電極構造体を作製する。

【0084】
次に、パリレン等の第2の絶縁素材を全体に被覆し、生体適合性電極構造体上の第2の絶縁素材をレーザー等を用いて除去して、生体適合性電極構造体を露出させる。
概略以上の工程によって、デバイスを製造することができる。

【0085】
平坦なガラス基板等のサポート基板に、シート状の絶縁基材を貼ってもよい。

【0086】
図3は、本発明のデバイスの製造において、電子回路の複数の電極上に生体適合性電極構造体を配置する方法の他の実施形態の一例を説明するための模式図である。
絶縁基材(不図示)の一面上に公知の回路作成技術を用いて電子回路を形成した後、電子回路全体を含み、絶縁基材のその一面をゴム301で覆う。このゴムとしては例えば、シリコンゴム、フッ素ゴムが挙げられる。当該ゴムは疎水性のゴムであることが好ましい。電子回路全体を含み絶縁基材のその一面を覆う方法としては、それを達成できる方法であれば、特に制限はない。
次いで、そのゴムについて、電極を配置する箇所にパターニングして(例えば、格子状にパターニングして)穴301aを開ける。
次いで、予め作製しておいた、電極103上に本発明の生体適合性電極構造体100を堆積した電極部材105をその穴301aにはめ込むことによって、当該デバイスの電極部分を作製する。

【0087】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。但し、これらの実施例はあくまでも本発明を容易に理解するための一助として開示するためのものであって、本発明はこれによって限定されるものではない。
【実施例】
【0088】
図4(a)は、N,N-ジエチル-N-メチル-N-(2-メトキシエチル)アンモニウム テトラフルオロボレート(DEMEBF)を構成する分子に覆われたカーボンナノチューブがポリロタキサンに分散されてなる組成物であって、紫外線(UV)による硬化前の状態を示す写真である。得られた組成物は、ゲル状であることが分かる。なお、本明細書において「ゲル状」とは、流動性を有する液状に対する呼称であって、流動性を失った状態、もしくは、流動性をほぼ失っている状態を意味する。
本発明に係る生体適合性電極構造体はこの組成物を用いて製造することができる。すなわち、この組成物を電子回路上に塗布し、その下から磁石を用いてカーボンナノチューブを偏在させることができ、それを硬化して生体適合性電極構造体を製造できる。また、電子回路上にこの組成物を塗布し、その上に、ポリロタキサンだけからなる層を積層し、それらをパターニングして生体適合性電極構造体を製造できる。
【実施例】
【0089】
この組成物は、次のようにして作製した。まず、市販のカーボンナノチューブ(MWNT、長さ10μm、径5nm)30mgと、親水性のイオン液体である、N,N-ジエチル-N-メチル-N-(2-メトキシエチル)アンモニウム テトラフルオロボレート(DEMEBF)60mgとを混合し、25℃の脱イオン水中において磁気スターラーを用いて700rpm以上の回転数で1週間撹拌した。続いて、得られた懸濁液を、高圧ジェットミルホモジナイザー(60MPa;Nano-jet pal, JN10, Jokoh)を用いて処理し、黒い色のCNTゲルを含む溶液を得た。得られたCNTゲルを含む溶液を生理食塩水で濯いだ後に、光架橋剤(Irgacure2959、長瀬産業株式会社製)1mgと、ポリロタキサンゲル(「光架橋性環動ゲル」、アドバンストソフトマテリアルズ株式会社製)1000mgとを混合し、上記組成物を作製した。
【実施例】
【0090】
図4(b)は、図4(a)で示した組成物に対して、紫外線(波長:365nm)を5分間照射することによって硬化させたシートの写真である。硬化させたシートのヤング率は、10kPaよりも低かった。シリコンのヤング率は100GPa程度であり、従来のプラスチックフィルムのヤング率は1~5GPaであるから、これらに対しては、シートがとりわけ柔らかいことが分かった。また、脳のヤング率は1~2kPaであり、心臓の筋肉細胞のヤング率は~100kPaであるから、本発明の一実施形態の生体適合性電極構造体の材料は、臓器と同程度あるいはそれ以上の柔らかさを有することがわかった。このため、臓器の表面に高い追従性を有し、臓器との間に極めて良好な界面を形成することができる。
【実施例】
【0091】
図4(c)は、超微細デジタル型UV露光システム(「デジタル露光装置」、ピーエムティー株式会社製)を用いて、光架橋を行うとともに、約50μm程度の線幅の微細構造をパターニングしたものの光学顕微鏡写真である。本発明の一実施形態の生体適合性電極構造体の材料は、このように、微細加工が可能な材料である。なお、光架橋材料の種類を変えることによって様々な波長の電磁波による架橋が実現可能であるため、本実施例においては、組成物を硬化させる電磁波としてUVを用いたが、これに限定されることはない。
【実施例】
【0092】
図5(a)~(c)は、高分解断面透過電子顕微鏡像(TEM像)である。図5(a)は本発明で用いることができるカーボンナノチューブ(MWNT、長さ10μm、径5nm)のTEM像を示している。図5(b)はイオン液体なしで、カーボンナノチューブ(MWNT、長さ10μm、径5nm)30mgと、ポリロタキサン(「光架橋性環動ゲル」、アドバンストソフトマテリアルズ株式会社製)100mgとを水中で混合し、ジェットミルで細分化を行いながら撹拌して得られた、ポリロタキサンで覆われたカーボンナノチューブのTEM像を示している。図5(c)は図5(a)で示したのと同じ条件で作製した組成物のTEM像を示している。高分解断面透過電子顕微鏡としては、HF-2000Cold-FE TEM(80kV、株式会社日立ハイテクノロジーズ製)を用いた。
【実施例】
【0093】
図5(a)に示すように、実施例に用いたカーボンナノチューブは、3層または4層で構成されていた。図5(b)に示すように、単体のカーボンナノチューブは、ポリロタキサンによって被覆されているが、被覆された層の厚さは不均一であることが分かった。これに対して、図5(c)に示すように、単体のカーボンナノチューブを被覆するポリロタキサン層の厚さは均一であり、図5(b)に示すものとは明確に異なっていることが分かった。
【実施例】
【0094】
こうした被覆層の厚さに関する均一性の違いは、後者がカーボンナノチューブを覆っていた親水性イオン液体DEMEBFの分子が剥がされて、ポリロタキサンがカーボンナノチューブを覆いなおしたのではなく、カーボンナノチューブを覆っていた親水性イオン液体DEMEBFの分子の層の上にポリロタキサンが覆ったものであることを示している。カーボンナノチューブを覆っていた親水性イオン液体DEMEBFの分子が剥がされて、ポリロタキサンがカーボンナノチューブを覆ったのであれば、図5(c)も図5(b)と同様に被覆層の層厚は不均一になるはずである。また、カーボンナノチューブとDEMEBFの分子との結合が水素結合にも匹敵する高いカチオン-π相互作用で結合しているため、カーボンナノチューブを覆っていた親水性イオン液体DEMEBFの分子は上記の工程では剥がされないと考えられる。
【実施例】
【0095】
図6は、カーボンナノチューブが分散されたポリロタキサン層(第1の高分子層(図2の符号203)に相当)とカーボンナノチューブを含有しないポリロタキサン層(第2の高分子層(図2の符号204)に相当)の二層構造のコンダクタンス(インピーダンスの逆数の実数部)の周波数依存性を示すグラフである。グラフの横軸は電気信号の周波数(Frequency[Hz])、縦軸はコンダクタンス(Conductance[mS/cm])を示している。
【実施例】
【0096】
グラフ中の実線は、Au(金)上に本発明に係る上記二層構造の高分子媒体を積層したサンプル1に関するものである。破線は、Au上にカーボンナノチューブを含有しないポリロタキサン層を積層したサンプル2に関するものである。一点鎖線は、カーボン上にカーボンナノチューブを含有しないポリロタキサン層を積層したサンプル3に関するものである。二点鎖線はAl(アルミニウム)上にカーボンナノチューブを含有しないポリロタキサン層を積層したサンプル4に関するものである。
なお、グラフに示していないが、カーボンナノチューブがサンプル1の第1の高分子層よりも低い密度で一様に分散されたポリロタキサン層についてもサンプル2と同様のコンダクタンスの周波数特性が得られた。これは、周波数特性としては違いはないが、抵抗Rはカーボンナノチューブが一様に分散されたポリロタキサン層の方が低いものと思われる。
【実施例】
【0097】
サンプル1は以下のように作製した。
市販のカーボンナノチューブ(MWNT、長さ10μm、径5nm)30mgと、親水性のイオン液体である、N,N-ジエチル-N-メチル-N-(2-メトキシエチル)アンモニウム テトラフルオロボレート(DEMEBF)60mgと混合し、磁気スターラーを用いて700rpm以上の回転数で1週間、25℃で脱イオン水中で撹拌した。得られた懸濁液を、高圧ジェットミルホモジナイザー(60MPa;Nano-jet pal, JN10, Jokoh)によって処理して、黒い物質を得た。得られたCNTゲルを含む溶液を生理食塩水で濯いだ後に、光架橋剤(Irgacure2959、長瀬産業株式会社製)1mgと、ポリロタキサンゲル(「光架橋性環動ゲル」、アドバンストソフトマテリアルズ株式会社製)1000mgとを混合し、図4(a)に示す組成物を作製した。この組成物をAu上に塗布して第1の高分子層に相当するゲル層を形成した。次いで、そのゲル層上に、上記光架橋剤5mgと上記ポリロタキサンゲル5000mgとを混合したポリロタキサンゲルの層を積層した。次いで、これら二層のゲル層に紫外線(波長:365nm)を照射して硬化してサンプル1を得た。
サンプル2は、Au上に、上記光架橋剤5mgと上記ポリロタキサンゲル5000mgとを混合したポリロタキサンゲルの層を形成し、次いで紫外線(波長:365nm)を照射して硬化して得た。
サンプル3は、カーボン上に、上記光架橋剤5mgと上記ポリロタキサンゲル5000mgとを混合したポリロタキサンゲルの層を形成し、次いで紫外線(波長:365nm)を照射して硬化して得た。
サンプル4は、アルミニウム上に、上記光架橋剤5mgと上記ポリロタキサンゲル5000mgとを混合したポリロタキサンゲルの層を形成し、次いで紫外線(波長:365nm)を照射して硬化して得た。
【実施例】
【0098】
カーボンナノチューブを含有しないポリロタキサン層を積層したサンプル2~4はいずれも、低周波領域において周波数が低くなるのにともなって、コンダクタンスが減少する傾向を示した。これに対し、本発明に係るサンプル1は、低周波領域においても周波数依存性がなく、高周波数領域と同様にコンダクタンスがほぼ一定となる傾向を示した。
【実施例】
【0099】
本発明に係るサンプル1は、低周波領域においてサンプル2に比べて1桁程度、サンプル3、4に比べて2~3桁以上大きいコンダクタンスを有することが分かった。
【実施例】
【0100】
これらの結果から、本発明に係る二層構造の高分子媒体とすることによって、電気信号の伝達機能が大きく改善することが分かった。
このメカニズムは明らかではないが、サンプル2、及び、カーボンナノチューブが一様に分散された高分子層はいずれもコンデンサ特有の低周波でのコンダクタンスの低下がみられるのに対して、本発明に係る二層構造の高分子媒体では低周波でもそのようなコンダクタンスの低下がみられないのはそれらとは全く異なる伝達メカニズムが支配的である構成であることを示している。
【実施例】
【0101】
以下では、カーボンナノ材料としてカーボンナノチューブを、イオン液体としてN,N-ジエチル-N-メチル-N-(2-メトキシエチル)アンモニウム テトラフルオロボレート(DEMEBF)を、また、水溶性高分子としてポリロタキサンを用いた場合を例にとって、本発明の生体適合性電極構造体を構成する第1の高分子層の作製方法について、図7、図8を用いて説明する。
(1)第1工程
まず、カーボンナノチューブとDEMEBFと水とを混合し、撹拌して、イオン液体を構成する分子に覆われたカーボンナノチューブが分散した第1の分散系を得た。攪拌後の第1の分散系に対して、生理食塩水、エタノール、ゲルを破壊しない液体等によって濯ぐ工程を行って、カーボンナノチューブに結合していないDEMEBFを除去してもよい。
【実施例】
【0102】
第1の分散系においては、イオン液体を構成する分子に覆われたカーボンナノチューブが水に分散されており、カーボンナノチューブとイオン液体の量に依存して、他に、イオン液体を構成する分子に十分に覆われていない又は全く覆われていないカーボンナノチューブ(バンドル化されているカーボンナノチューブも含む)やイオン液体を構成する分子が含有されている場合がある。
【実施例】
【0103】
この工程において、ジェットミル等により、カーボンナノチューブにせん断力を加えて細分化するのが好ましい。これは、細分化により、カーボンナノチューブは、ファンデルワールス力でバンドル化していた1本1本のカーボンナノチューブが解けて、バンドル化(凝集)の程度が低減し、1本1本のカーボンナノチューブにまで解くことも可能となるからである。
【実施例】
【0104】
図9は、5つのサンプルA~Eを用いて、カーボンナノチューブの分散性を調べた結果を示すものである。サンプルAは、カーボンナノチューブ30mgを25℃の脱イオン水に入れ、磁気スターラーを用いて700rpm以上の回転数で1週間撹拌した後の状態のサンプルである。サンプルBは、カーボンナノチューブ30mgと、DEMEBF60mgとを25℃の脱イオン水に入れ、同様にして1週間撹拌した後の状態のサンプルである。サンプルCは、カーボンナノチューブ30mgを25℃の脱イオン水に入れ、同様にして1週間撹拌し、その後、高圧ジェットミルホモジナイザー(60MPa;Nano-jet pal, JN10, Jokoh)で処理した後の状態のサンプルである。サンプルDは、カーボンナノチューブ30mgと、DEMEBF60mgとを25℃の脱イオン水に入れ、同様にして1週間撹拌し、その後、高圧ジェットミルホモジナイザーで処理した後の状態のサンプルである。サンプルEは、カーボンナノチューブ30mgと、DEMEBF60mgと、ミクロフィブリル化セルロース(10%セルロース含有の水溶液100mg、「セリッシュ(商品名)」、Daicel Chemical Industries社製)とを25℃の脱イオン水に入れ、同様にして1週間撹拌して得られたペーストを、その後、高圧ジェットミルホモジナイザーで処理した後の状態のサンプルである。
【実施例】
【0105】
なお、「セリッシュ(商品名)」は、高度に精製した純植物繊維を原料とし、特殊な処理方法でミクロフィブリル化したセルロースナノファイバーであり、原料の繊維は、この処理によって数万本に引き裂かれ、繊維の太さが0.1~0.01μmまで微細化されている。
【実施例】
【0106】
サンプルA~Cと比較して、サンプルD、Eは、カーボンナノチューブが水中で高い分散性を示した。この結果から、高い分散性を得るためには、せん断力を加えてバンドル化されているカーボンナノチューブの細分化が有効であることが分かった。
【実施例】
【0107】
(2)第2工程
次に、上記第1の分散系とポリロタキサン(「光架橋性環動ゲル」、アドバンストソフトマテリアルズ株式会社製)と水とを混合し、撹拌して、イオン液体を構成する分子に覆われたカーボンナノ材料と水溶性高分子とが分散した第2の分散系を得た。攪拌後の第2の分散系に対して、生理食塩水、エタノール、ゲルを破壊しない液体等によって濯ぐ工程を行って、カーボンナノチューブに結合していないDEMEBFを除去してもよい。なお、図8に示すように、得られた組成物を架橋する場合には架橋剤も混合することができる。これにより、得られた第2の分散系を図8に示すようなゲル状の物質にすることができる。
【実施例】
【0108】
(3)第3工程
次に、ポリロタキサンを架橋し、DEMEBFを構成する分子に覆われたカーボンナノチューブをポリロタキサン媒体中に分散させることによって、架橋されたポリロタキサンの組成物(導電性材料)を得た。得られた組成物に対して、生理食塩水、エタノール、ゲルを破壊しない液体等を用いて濯ぐ工程を行い、カーボンナノチューブに結合していないDEMEBFを除去してもよい。
【実施例】
【0109】
以上では、本発明の生体適合性電極構造体を構成する第1の高分子層を硬化するまでの工程を示した。
【実施例】
【0110】
図10は、カーボンナノチューブがポリロタキサンに分散されてなる層とポリロタキサンだけの層とが積層されてなる生体適合性電極構造体の光学顕微鏡写真であり、右側の写真は左側の写真の点線で囲んだ部分を拡大した写真である。
図10に示す例は、Auの上に生体適合性電極構造体が形成されたもの(図6のサンプル1と同様の方法で作製されたもの)であって、符号121で示す層はカーボンナノチューブがポリロタキサンに分散されてなる層であり、符号122で示す層はポリロタキサンだけの層であり、符号103はAuである。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明は、生体適合性を有し、生体内に長期間適用可能であり、臓器等のしわの形状に対して追従性に優れて臓器等との間に極めて良好な界面を形成できると共に、低周波数から高周波数にわたり低インピーダンスの生体適合性電極構造体、及び、それを備えたデバイスを提供することができる。
【符号の説明】
【0112】
100、200・・・生体適合性電極構造体
100a・・・電子回路との接続面
100b・・・反対面
101、201・・・導電性ナノ材料
102、202・・・高分子媒体
203・・・第1の高分子層
204・・・第2の高分子層
図面
【図2】
0
【図3】
1
【図6】
2
【図1】
3
【図4】
4
【図5】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9