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明細書 :カーボンナノチューブ/グラフェン複合材料およびその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2016-008155 (P2016-008155A)
公開日 平成28年1月18日(2016.1.18)
発明の名称または考案の名称 カーボンナノチューブ/グラフェン複合材料およびその製造方法
国際特許分類 C01B  31/02        (2006.01)
H01B   5/14        (2006.01)
H01B  13/00        (2006.01)
FI C01B 31/02 101Z
H01B 5/14 A
H01B 13/00 503B
請求項の数または発明の数 6
出願形態 OL
全頁数 16
出願番号 特願2014-129637 (P2014-129637)
出願日 平成26年6月24日(2014.6.24)
公序良俗違反の表示 特許法第64条第2項第4号の規定により図面の一部または全部を不掲載とする。
発明者または考案者 【氏名】藤森 利彦
出願人 【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100099759、【弁理士】、【氏名又は名称】青木 篤
【識別番号】100077517、【弁理士】、【氏名又は名称】石田 敬
【識別番号】100087413、【弁理士】、【氏名又は名称】古賀 哲次
【識別番号】100093665、【弁理士】、【氏名又は名称】蛯谷 厚志
【識別番号】100102990、【弁理士】、【氏名又は名称】小林 良博
【識別番号】100080919、【弁理士】、【氏名又は名称】田崎 豪治
審査請求 未請求
テーマコード 4G146
5G307
5G323
Fターム 4G146AA01
4G146AA12
4G146AA13
4G146AA15
4G146AA19
4G146AB06
4G146AB07
4G146AC03B
4G146AC16B
4G146AC17B
4G146AC20B
4G146AC30B
4G146AD17
4G146AD22
4G146AD23
4G146CB10
4G146CB11
4G146CB12
4G146CB17
4G146CB19
4G146CB21
4G146CB32
4G146CB33
5G307FA01
5G307FA02
5G307FB03
5G307FC10
5G323BA05
5G323BB02
5G323BB06
要約 【課題】導電性が向上されたカーボンナノチューブ/グラフェン複合材料を得る。
【解決手段】硫黄原子が鎖状に連なる硫黄鎖が内包されてなるカーボンナノチューブがグラフェンと複合化されてなるカーボンナノチューブ/グラフェン複合材料。硫黄原子が鎖状に連なる硫黄鎖が内包されてなるカーボンナノチューブの分散液をグラフェン上に塗布し、ついで分散媒を除去することにより複合化することにより得られる。
【選択図】図11
特許請求の範囲 【請求項1】
硫黄原子が鎖状に連なる硫黄鎖が内包されてなるカーボンナノチューブがグラフェンと複合化されてなるカーボンナノチューブ/グラフェン複合材料。
【請求項2】
硫黄原子が鎖状に連なる硫黄鎖が内包されてなるカーボンナノチューブの分散液をグラフェン上に塗布し、ついで分散媒を除去することにより複合化することを特徴とするカーボンナノチューブ/グラフェン複合材料の製造方法。
【請求項3】
分散液のカーボンナノチューブ濃度が0.0001~0.1wt%である請求項2に記載のカーボンナノチューブ/グラフェン複合材料の製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載のカーボンナノチューブ/グラフェン複合材料を含む透明導電膜。
【請求項5】
請求項2または3に記載の製造方法により得られたカーボンナノチューブ/グラフェン複合材料を含む透明導電膜。
【請求項6】
透明導電膜が透明電極である請求項4または5に記載の透明導電膜。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子の透明電極等に好適なカーボンナノチューブ/グラフェン複合材料およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
世界的なクリーン・エネルギー需要は今後ますます拡大していくといわれている。こうした社会情勢の中、太陽光エネルギーに代表される再生可能エネルギーを積極的に利用しながら、さらに貴重資源に依存しない社会システムを構築していくことが求められている。このような社会ニーズを背景にして、これまでに太陽電池は材料・システムの両側面から研究開発が活発に進められてきた。その結果として、大幅なコスト低減を達成し、また成形性・デザイン性を考慮した開発も進められていることから、その市場は今後も拡大していくと予想される。その一方で、太陽電池の主要な構成部品である透明電極は、依然としてレアメタルであるインジウムを含む酸化インジウムスズ(Indium Tin oxide: ITO)電極が採用されている。太陽電池の未来は、産出量の限られたインジウムに依存しているのが現状である。インジウムの枯渇が緊急の課題となる前に、余剰資源を積極的に活用した透明電極の開発を進め、ITO代替材料の選択肢を広げておく必要があるといえる。
【0003】
ITO代替材料として様々な材料開発が進められているが、その有力な候補の一つがカーボンナノチューブやグラフェンに代表されるナノカーボン材料である(図12に、(a) 単層カーボンナノチューブSWCNTおよび(b)グラフェンのモデル構造を示す。)。カーボンナノチューブを用いた透明電極の作製方法は、カーボンナノチューブ分散液をガラスやPETフィルムなど透明な基板上に塗布して薄膜化する手法が広く利用されている。現在、薄膜化技術や高純度カーボンナノチューブ生長技術の向上により、ITOに匹敵する光透過率・電気伝導性をもつカーボンナノチューブ透明電極が作製されている(非特許文献1)。既存のカーボンナノチューブ薄膜化技術をベースとして、さらにハイスペックなカーボンナノチューブ透明電極を作製するには、どのような方法があるだろうか。その一つが、カーボンナノチューブに特徴的なナノスケールの空間・空隙に導電性物質を内包することで、カーボンナノチューブの導電性を向上する方法である。
【0004】
カーボンナノチューブの中空空間は、新しいナノ構造体を合成することができる、特異的な空間である(非特許文献2)。特に、たとえば単層カーボンナノチューブの直径が1 nm程度の場合、その内部空間におかれた物質は空間的な制約を強く受けるため、チューブ軸に沿った一次元構造体を形成することが多い。たとえば、ピーポットとよばれるフラーレン分子の一次元配列構造やガドリウムなどの金属ナノワイヤー、ヨウ素やセレンの異常らせん構造など、バルク結晶ではみられない多くの新規ナノ構造体が見出されている。ここで重要なことは、カーボンナノチューブ内部で一次元構造化した物質は、通常のバルク構造体とは異なる、低次元化に伴う特異的な性質が現れてくることである。
【0005】
そこで、本発明者らは、先般、常温・常圧で絶縁体である硫黄に着目し、カーボンナノチューブのもつ一次元空間を利用することで、導電性硫黄が合成できることを見出した。硫黄は原油の精製過程における副産物として、製油所で大量に回収されている。その生産量は中東など原油生産国をはじめとして、今後ますます増加していくといわれている。このような社会情勢の中、製油所では硫黄の処分が大きな問題として深刻化している現状がある。従来の用途は硫酸の原料、ゴムの加硫や肥料など安価な工業薬品であり、新しい機能性材料として積極的に利用されていない。
【先行技術文献】
【0006】

【非特許文献1】Y. Kim et al., Appl. Phys. Express, 6, 025101 (2013)
【非特許文献2】M. Monthioux et al., Carbon Meta-Nanotubes Synthesis, Properties and Applications, pp. 223-271, Wiley-Blackwell (2012)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は,上記の導電性硫黄の利用の一環として、さらに導電性が向上されたカーボンナノチューブ/グラフェン複合材料を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は上記の問題を解決するために、以下の発明を提供するものである。
(1)硫黄原子が鎖状に連なる硫黄鎖が内包されてなるカーボンナノチューブがグラフェンと複合化されてなるカーボンナノチューブ/グラフェン複合材料。
(2)硫黄原子が鎖状に連なる硫黄鎖が内包されてなるカーボンナノチューブの分散液をグラフェン上に塗布し、ついで分散媒を除去することにより複合化することを特徴とするカーボンナノチューブ/グラフェン複合材料の製造方法。
(3)分散液のカーボンナノチューブ濃度が0.0001~0.1wt%である上記(2)に記載のカーボンナノチューブ/グラフェン複合材料の製造方法。
(4)上記(1)に記載のカーボンナノチューブ/グラフェン複合材料を含む透明導電膜。
(5)上記(2)または(3)に記載の製造方法により得られたカーボンナノチューブ/グラフェン複合材料を含む透明導電膜。
(6)透明導電膜が透明電極である上記(4)または(5)に記載の透明導電膜。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、導電性が向上されたカーボンナノチューブ/グラフェン複合材料を提供し得る。すなわち、カーボンナノチューブ中空空間を利用することで一次元硫黄結晶が合成でき、硫黄の一次元結晶が金属であるために導電性が向上する。これは、余剰資源である硫黄を有効活用し得る。本発明の複合材料は、さらにグラフェンとの複合化による透明電極として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】SWCNT内部に形成された硫黄原子ワイヤー(矢印)のTEM写真(スケール・バー:2nm)。
【図2】(a)S@SWCNT凝集体のSTEM写真(スケール・バー:30nm)。(b) (a)の点線における炭素および硫黄のラインプロファイル。
【図3】S@SWCNTの元素マッピング(スケール・バー:200nm)。
【図4】S@SWCNTおよび未内包SWCNTのXRDパターン(矢印は一次元硫黄結晶の回折ピークを示す。)。
【図5】(a)ジグザグ状および(b)直線状の一次元硫黄結晶に帰属される回折ピークの温度変化。
【図6】He/O2混合ガスの流通下で測定したS@SWCNTおよび未内包SWCNTの熱重量減少曲線(He:O2=8:2)。
【図7】S@SWCNTおよび未内包SWCNTのラマンスペクトル(励起波長:785 nm)。
【図8】S@SWCNTおよび未内包SWCNTの電気抵抗率の温度依存性。
【図9】(a) S@SWCNT分散液、(b)スプレー塗布法/スピンコート法。
【図10】試作したS@SWCNT/グラフェン複合体からなる透明電極。
【図11】S@SWCNT/グラフェン複合体の光透過率およびシート抵抗とS@SWCNT塗布時間との関係。
【図12】(a) SWCNTおよび(b)グラフェンのモデル構造を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のカーボンナノチューブ/グラフェン複合材料は、硫黄原子が鎖状に連なる硫黄鎖が内包されてなるカーボンナノチューブがグラフェンと複合化されてなる。

【0012】
本発明におけるカーボンナノチューブは、硫黄原子が鎖状に連なる硫黄鎖が内包されてなる。カーボンナノチューブに硫黄を内包させると、硫黄はカーボンナノチューブの一次元ナノ空間にならって鎖状となり、互いに共有結合した硫黄鎖となって内包される。このように、硫黄は、カーボンナノチューブのナノ空間が鋳型のように作用して一次元結晶となり、これによって硫黄が金属化する。

【0013】
カーボンナノチューブに内包される硫黄原子は、直線構造として内包される場合と、ジグザグ構造となって内包される場合がある。ジグザグ構造で内包される場合も、硫黄鎖は一次元的な構造であり、硫黄原子が一次元的に規則的に配列して内包されることから、本発明においては一次元結晶と称する。

【0014】
直線鎖が直線構造としてカーボンナノチューブに内包される場合、並列に2つの硫黄鎖が内包される構造となっていてもよい。

【0015】
硫黄を内包させるカーボンナノチューブは、導電性を備えるために、硫黄を内包させた状態で、硫黄の一次元鎖が形成され、硫黄の一次元結晶が形成されていれば、単層、二層または三層以上の多層カーボンナノチューブであってもよいが、好適には単層である。

【0016】
このようなカーボンナノチューブとしては、中空部分の内径が0.4~2.0nm程度のものが使用され、好適には内径が0.8~1.5nm程度のものが使用される。硫黄原子のサイズは、0.4nm程度であるので、カーボンナノチューブの中空部分の内径は0.4nm以上である必要があり、カーボンナノチューブの中空部分の内径が2.0nm程度より大きい場合は、常温、常圧下で形成される硫黄の構造(S)が形成されるので、カーボンナノチューブの中空部分の内径は、2.0nm程度以下である必要がある。

【0017】
このようなカーボンナノチューブの製造方法としては、カーボンナノチューブと硫黄とを密閉容器に収容し、容器を真空密封する工程;その真空密封した容器をバルク硫黄の沸点である718K(445℃)以上の温度に加熱してカーボンナノチューブに硫黄を内包させる工程;ならびにカーボンナノチューブに硫黄を内包させた後、カーボンナノチューブの外面に付着した硫黄を除去する精製工程、を備える製造方法が好適に利用され得る。

【0018】
上記の精製工程においては、硫黄を内包させる工程により得られたカーボンナノチューブを二硫化炭素と混合し、超音波照射してカーボンナノチューブ分散液を調製し、この分散液を濾過する工程を備えるのが好適である。

【0019】
本発明において用いられるグラフェンは、特に制限されず、たとえば、メタン等の炭化水素類等の含酸素を原料として熱CVD(熱化学蒸着)法により金属触媒箔もしくは板(銅箔、ニッケル板等)上に形成されたグラフェン単層を基板上に転写し、必要に応じて転写を繰り返して複数のグラフェン層を形成する方法が好適に採用される。すなわち、熱CVD法は、900~1000℃で実施され、大きな面積で成膜され得、層数制御も容易であるが、金属触媒箔もしくは板上に形成されたグラフェン膜を、所望の基板に転写する必要がある。転写法自体は、常法によることができ、たとえばPMMA(ポリメチルメタクリレート)を用いる転写法が好適に採用され得る。転写法は、複数のグラフェン層を一度で転写する方法も採用し得る。

【0020】
酸化グラフェン溶液を基板に塗布して成膜し、還元する溶液塗布法等も使用され得る。

【0021】
基板としては、石英、ガラス、その他のセラミックス、プラスチックス等が好適に使用され得、プラスチックスとしては、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリアクリレート等が挙げられる。厚さは、目的により異なるが、50μm~5mm程度から選択されるのが通常である。

【0022】
本発明のカーボンナノチューブ/グラフェン複合材料は、硫黄原子が鎖状に連なる硫黄鎖が内包されてなるカーボンナノチューブの分散液をグラフェン上に塗布し、ついで分散媒を除去することにより複合化することにより好適に得られる。カーボンナノチューブの分散液は、たとえばo-ジクロロベンゼン、1,2-ジクロロエタン等の有機分散媒を用いて調製される。分散液のカーボンナノチューブの濃度は、0.0001~0.1wt%であるのが好適であり、0.001~0.01wt%であるのがさらに好適である。

【0023】
分散液をグラフェン上に塗布するに際しては、スプレー法、スピンコート法、バーコート法、ディップコート法、またはこれらの組み合わせが好適な塗布法として採用され得る。

【0024】
分散媒の除去は、使用する分散媒の種類により異なるが、分散媒の沸点以上の加熱、真空乾燥等により行われる。

【0025】
本発明の好適な一態様において、得られるカーボンナノチューブ/グラフェン複合材料は、石英基板上において、グラフェンに硫黄原子が鎖状に連なる硫黄鎖が内包されてなるカーボンナノチューブが複合体を形成した透明導電膜となる。

【0026】
本発明の透明導電膜は、太陽電池、発光素子、撮像素子等の半導体素子の透明電極として、好適に使用され得る。たとえば、長波長赤外線を利用する太陽電池等のITO(インジウム・スズ酸化物)が不得手な分野においても好適に使用され得る。グラフェンは、ITOに比し、光透過性が一層良好であり、さらに全波長領域で吸収が小さい利点がある。薄膜太陽電池においては、たとえば、本発明の透明導電膜(第1電極)を付した基板にa-Si:H層(p層、i層、n層)、裏面電極(第2電極)を積層した構造を採用し得る。
【実施例】
【0027】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
実施例1
(1)単層カーボンナノチューブ(SWCNT:single-wall carbon nanotube)を用いた導電性硫黄鎖内包SWCNTの合成
導電性硫黄を内包したSWCNT(S@SWCNT)は、原料であるSWCNTと硫黄粉末をガラス管に真空封入し、600℃の電気炉中に12~48時間放置するという簡便な方法で合成した。導電性硫黄を合成するためには、SWCNTの内径が重要なパラメータである。内径0.6nm~1.6 nmが導電性硫黄の形成に好適である。また、S@SWCNTを透明電極などの導電材料として利用する場合、硫黄の良溶媒である二硫化炭素を用いてSWCNT外壁に付着した硫黄を予め除去しておくのが好適である。
【実施例】
【0028】
導電性硫黄に特徴的な原子ワイヤー構造は、透過型電子顕微鏡(Transmission electron microscopy: TEM)を用いて直接観察することができた。図1は、S@SWCNTのTEM写真である。SWCNTの内部空間に、二つの硫黄原子ワイヤー(矢印)がチューブ軸に沿って、平行に配列していることが確認できる。しかし、電子線照射により硫黄原子ワイヤーがチューブ軸に沿って並進運動するため、図1から明瞭な硫黄の原子配列は確認できない。図2は、数本~十数本のナノチューブからなるS@SWCNT凝集体の走査型TEM(Scanning TEM: STEM)像(a)および元素マッピングのラインプロファイル(b)を示す。炭素および硫黄が同位置で検出されており、さらに広範囲で元素マッピングを行った場合にも同様の結果が得られていることから(図3)、硫黄原子ワイヤーが高い充填率で内包されていることがわかる。
【実施例】
【0029】
硫黄原子ワイヤーは、硫黄原子がSWCNTの一次元チャネル内で規則的に配列していることが特徴である。このことは、放射光を用いたX線回折(X-ray diffraction: XRD)実験から明らかとなった。S@SWCNTでは鋸型の回折ピークがみられ、これらはジグザグ状および直線状の硫黄原子ワイヤーに帰属できる(図4:矢印は、一次元硫黄結晶の回折ピークを示す。)。ここで観測された非対称な回折ピークは一次元規則構造の形成を示唆していることから(C.-E. Chen et al., Phys. Rev. B, 25, 2472-2476 (1982);M. M. Mohan, Phys. Rev. B, 34, 8915-8921 (1986))、硫黄原子ワイヤーは単に原子が一次元に配列した「ワイヤー」ではなく、高度に規則構造の発達した「一次元の結晶」とみなすことができる。また、一次元硫黄結晶は高い熱的安定性を示し、不活性雰囲気においてはバルク硫黄の沸点(~718 K)以上でも、SWCNT内部空間においてその一次元構造を保持できる(図5)。図5は、(a)ジグザグ状および(b)直線状の一次元硫黄結晶に帰属される回折ピークの温度変化を示す。酸素存在下では、~500 Kまで燃焼反応はほとんど進行しない(図6)。図6は、He/O2混合ガスの流通下で測定したS@SWCNTおよび未内包SWCNTの熱重量減少曲線(He:O2=8:2)を示す。このことは、実用上重要であると考えられる。SWCNTの導電性を向上する方法の一つとしてHNO3やヨウ素によるドーピング処理が知られているが、耐熱性・耐候性など、デバイスとしての長期安定性が問題点として懸念されている。その一方で、一次元硫黄結晶はSWCNT内部に固体として存在するため、大気中に放置してもSWCNTから脱離する心配はほとんどないと考えられる。また、先述したように耐熱性が高く、硫黄の良溶媒である硫化炭素に曝してもほとんど溶出しない点は大きなメリットであるといえる。
【実施例】
【0030】
一次元硫黄結晶が金属である実験的証拠は、S@SWCNTの共鳴ラマン分光法測定により確認することができる。ここで、はじめにSWCNTの共鳴ラマン分光法について簡単に説明する。SWCNTは炭素原子の並び方に依存して金属あるいは半導体になることが知られている。それらのバンドギャップ・エネルギーと直径の関係は片浦プロットとしてよばれ、理論的にも実験的にもよく調べられている。ラマン分光は光と物質の相互作用により生じる非弾性散乱光(ラマン散乱光)を測定することにより、物質の振動状態を調べる手法である。特に、照射する光のエネルギーが物質の光学遷移を伴う場合に、共鳴ラマン効果とよばれるラマン散乱光強度の増大が起こる。この現象を利用して、SWCNTのバンドギャップ・エネルギーに相当する光エネルギーを試料に照射すると、金蔵型あるいは半導体型SWCNTを選択的にプローブすることできる。金属型SWCNTのラマンスペクトルはBreit-Wigner-Fano (BWF)型とよばれる非対称なラマンバンドが観測されることが特徴である。BWFバンドは系全体のフェルミ準位近傍の有限な電子状態密度を反映しており、たとえば、金属型SWCNTと銀クラスターと接触することでBWFバンドの強度が増大することが報告されている(S. D. M. Brown et al., Phys. Rev. B, 63, 155414 (2001))。金属型カーボンナノチューブの共鳴条件で測定したS@SWCNTおよび未内包SWCNTのラマンスペクトルを比較すると、一次元硫黄結晶を内包することでBWFバンドの増大が確認できる(図7)。図7は、S@SWCNTおよび未内包SWCNTのラマンスペクトル(励起波長:785nm)を示す。このことは、SWCNT内部に形成された一次元硫黄結晶が金属である有力な証拠の一つである。なお、SWCNTと一次元硫黄結晶の間の電荷移動効果は無視できることが実験的にもまた理論計算上でも示されており、ドーピング効果の可能性は排除できる。
【実施例】
【0031】
図8は、四端子法で測定したS@SWCNTおよび未内包SWCNTの電気抵抗率の温度依存性を示す。導電性硫黄を内包することで電気抵抗率が減少することがわかる。たとえば、300 Kでは電気抵抗率が1.1×10-3 Ω cmから5.0×10-4 Ω cmと、導電性硫黄の存在により未内包SWCNTの約1/2にまで低抵抗化する。図8の結果を、Variable Range Hoppingモデル(K. Yanagi et al., ACS Nano, 4, 40247-4032 (2010))を用いて伝導電子のホッピングに関する次元性(Dimensionality: D)を解析すると、未内包SWCNTはD=2であるのに対して、S@SWCNTではD=3となり、導電性硫黄がSWCNTの内部で導電パスを形成していることを示唆する結果が得られる。このように、SWCNTの特異な一次元空間に導電性硫黄をハイブリッド化することで、SWCNTの導電性を向上することが可能となる。
【実施例】
【0032】
(2)S@SWCNT/グラフェン複合材料およびそれを用いた透明電極
S@SWCNTの応用例として、SWCNTと同様に透明電極として期待されているグラフェンにごく微少量のS@SWCNTを塗布することで、グラフェンのもつ優れた光透過性をほとんど損なうことなく、導電性が向上できることを紹介する。
【実施例】
【0033】
S@SWCNT/グラフェン複合体からなる透明電極は、S@SWCNT分散液をスプレー塗布法とスピンコート法を併用することで、S@SWCNTをグラフェン上に塗布するという簡便な方法を用いた(図9)。具体的には、まずS@SWCNT粉末をo-ジクロロベンゼン中に加え、超音波照射により0.003wt%のS@SWCNT分散液を調製した((a))。次いで、石英基板上に転写した単層グラフェンをスピンコーターで回転させながら、スプレー方式でS@SWCNT分散液の微小液滴をグラフェン上に塗布することで作製した((b))。図10は、試作したS@SWCNT/グラフェン複合体である(石英基板の中央部分。サイズ:2 cm×2 cm程度)。
【実施例】
【0034】
図11は、S@SWCNT/グラフェン透明電極の波長550 nmにおける光透過率およびシート抵抗とスプレー塗布時間の関係を示す(エラーバーは測定データの最大・最小値)。グラフェンのシート抵抗は1200 Ω/□であり、光透過率は95%(石英基板を含む)である。S@SWCNTをグラフェン上に添加していくことでシート抵抗は減っていき、塗布時間60秒では440 Ω/□(平均値)にまで減少した。このとき光透過率は94%であり、グラフェンの透明性をほとんど維持したまま、S@SWCNTを添加することで導電性が向上できることがわかる。ここで用いたグラフェンは、多結晶グラフェンであり、導電性低下の原因の一つである結晶粒界を多く含んでいることが想定される。S@SWCNTの繊維状ナノ構造がグラフェンの結晶粒界間を橋渡しすることで、導電性パスを形成して導電性の向上に寄与していると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明によれば、透明電極等として有用な、導電性が向上されたカーボンナノチューブ/グラフェン複合材料を提供し得る。
図面
【図6】
0
【図11】
1
【図1】
2
【図2】
3
【図3】
4
【図4】
5
【図5】
6
【図7】
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【図8】
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【図9】
9
【図10】
10
【図12】
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