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明細書 :ゲルアクチュエータ及びその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5713417号 (P5713417)
登録日 平成27年3月20日(2015.3.20)
発行日 平成27年5月7日(2015.5.7)
発明の名称または考案の名称 ゲルアクチュエータ及びその製造方法
国際特許分類 H02N  11/00        (2006.01)
FI H02N 11/00 Z
請求項の数または発明の数 8
全頁数 15
出願番号 特願2013-558691 (P2013-558691)
出願日 平成25年2月12日(2013.2.12)
国際出願番号 PCT/JP2013/053249
国際公開番号 WO2013/122047
国際公開日 平成25年8月22日(2013.8.22)
優先権出願番号 2012029010
優先日 平成24年2月14日(2012.2.14)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成26年8月6日(2014.8.6)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
発明者または考案者 【氏名】橋本 稔
早期審査対象出願または早期審理対象出願 早期審査対象出願
個別代理人の代理人 【識別番号】100088306、【弁理士】、【氏名又は名称】小宮 良雄
【識別番号】100126343、【弁理士】、【氏名又は名称】大西 浩之
審査官 【審査官】河村 勝也
参考文献・文献 特開2010-016969(JP,A)
特開2009-189220(JP,A)
特開平02-041685(JP,A)
特開2007-118159(JP,A)
特開平08-033361(JP,A)
国際公開第2004/026758(WO,A1)
調査した分野 H02N 11/00
特許請求の範囲 【請求項1】
誘電性高分子材料を含むゲル層と、そのゲル層を厚さ方向に挟む陽極と陰極とからなる単位構造を備えるゲルアクチュエータであって、
前記陽極は、前記ゲル層に対向する面が凹凸面に形成されていて、前記凹凸面の凸部が前記ゲル層に接触して、前記凹凸面の凹部が空隙になっていることを特徴とするゲルアクチュエータ。
【請求項2】
前記単位構造が、電気的短絡を回避する配置で、複数層に積層されていることを特徴とする請求項1に記載のゲルアクチュエータ。
【請求項3】
前記陽極の両面に前記ゲル層が設けられ、それぞれのゲル層に前記陰極が積層されて形成されていることを特徴とする請求項2に記載のゲルアクチュエータ。
【請求項4】
前記陰極の両面に前記ゲル層が設けられ、それぞれのゲル層に前記陽極が積層されて形成されていることを特徴とする請求項2又は3に記載のゲルアクチュエータ。
【請求項5】
前記陽極が、その陽極の一方の面における前記凸部と前記凹部とを、他方の面における前記凹部と前記凸部とする波形形状に形成され、前記凸部と前記凹部とが同形に形成されていることを特徴とする請求項1~4の何れかに記載のゲルアクチュエータ。
【請求項6】
前記陽極が、非導電性材からなるベース材の一方の面が凹凸形状に形成されていて、その凹凸形状の表面に導電層が被覆されて形成されていることを特徴とする請求項1~4の何れかに記載のゲルアクチュエータ。
【請求項7】
誘電性高分子材料を含むゲル層と、そのゲル層を厚さ方向に挟む陽極と陰極とからなる単位構造を備え、前記陽極に形成された凹凸面の凸部が前記ゲル層に接触し前記凹凸面の凹部が空隙になっているゲルアクチュエータの製造方法であって、
前記陽極の前記ゲル層に対向する面を、前記凹凸面に形成する工程と、
前記凸部を前記ゲル層に接触させて前記凹部を前記空隙にする工程と有することを特徴とするゲルアクチュエータの製造方法。
【請求項8】
前記陰極の両面に前記ゲル層を設けたゲルシートを形成する工程と、
前記ゲルシートに前記陽極を積層する工程とを、有することを特徴とする請求項7に記載のゲルアクチュエータの製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、ロボットをはじめとするさまざまな機械システムに利用することができるゲルアクチュエータ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医療・福祉分野で使用されるロボットをはじめとするさまざまな機械システムは、人間に対する親和性、安全性が求められることから、これらの条件を満足する次世代型のアクチュエータの開発が求められている。そのなかでも高分子材料を用いたアクチュエータは、人間の生体筋のようにソフトで、小型軽量であり、エネルギー効率が高いという利点を持つため、数多くの研究がなされている。しかしながら、高分子アクチュエータは溶液中でのみ駆動するタイプや屈曲変形するタイプ(特許文献1)が多く、生体筋のように大気中で伸縮する高分子アクチュエータは限られている。
【0003】
高分子材料の一つであるポリ塩化ビニル(PVC)を可塑剤によりゲル化したPVCゲルは、陽極近傍でクリープ変形を生じ、大気中での高い伸縮率と応答性を有することが知られている(非特許文献1)。本発明者らは、このPVCゲルの電場駆動特性に着目し、陽極にメッシュ形状を有する電極を用いてPVCゲルを電極で挟み、積層することにより大気中で収縮駆動するソフトアクチュエータを開発し(非特許文献2)、その特性を明らかにするとともに(非特許文献3)、そのモデル化と制御に関する研究を行ってきた。さらに、この原理を利用した負作動型ブレーキの開発を行った(非特許文献4)。
【0004】
これらの一連の研究により、600Vの電圧印加で変位率10%、発生力400Pa/Layer、応答性7Hzという特性を有し、大気中において低消費電力で伸縮駆動するアクチュエータの実現可能性を示した。本アクチュエータは電場印加により剛性が増加するという、生体筋によく似た特性を有するとともに、フィードバック制御により正確な変位制御が可能で、このアクチュエータを一つの制御要素として扱えることも明らかになった。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】特開2009-273204号公報
【0006】

【非特許文献1】藤井勝哉、荻原孝文、平井利博、木下健:PVCゲルのクリープ変形に及ぼす可塑剤の影響、Polymer Preprints,Japan,Vol.55,No.2 pp.4557-4558, 2006
【非特許文献2】山野美咲、小川直希、橋本稔、高崎緑、平井利博、「収縮型PVCゲルアクチュエータの構造と駆動特性」日本ロボット学会誌、Vol.27 No.7pp718~24,2009
【非特許文献3】NaokiOgawa,Minoru Hashimoto,Midori Takasaki and Toshihiro Hirai,”CharacteristicsEvaluation of PVC Gel Actuators”,The 2009 IEEE/RS International Conference onIntelligent Robots and Systems (IROS2009), St.Louis, USA, pp.2898-2903,2009
【非特許文献4】橋本稔、柴垣南、平井利博、「収縮型PVCゲルアクチュエータを用いた負作動型ブレーキの開発」日本ロボット学会誌、29巻8号、pp.667-674 2011
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、生体筋の特性は、変位率30%、発生力300kPa、応答特性10Hzと言われており、高分子ゲルアクチュエータを医療・福祉分野等で使用するためには、発生力の増大と安全性向上のための印加電圧の低減が求められる。
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、低電圧で生体筋に匹敵する発生力等の特性を有し、小型化を図ることによって、アクチュエータ素子としてさらに広い用途に利用することを可能にするゲルアクチュエータ及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るゲルアクチュエータは、誘電性高分子材料を含むゲル層と、そのゲル層を厚さ方向に挟む陽極と陰極とからなる単位構造を備えるゲルアクチュエータであって、前記陽極は、前記ゲル層に対向する面が凹凸面に形成されていて、前記凹凸面の凸部が前記ゲル層に接触して、前記凹凸面の凹部が空隙になっていることを特徴とする。凹凸面に形成する陽極の形状としては、円柱状、ホール状(平板体に離散的に有底の穴もしくは貫通孔を設けたもの)、直方体状、メッシュ状、波形形状等の様々な形状とすることができる。
【0009】
ゲルアクチュエータは、前記単位構造が、電気的短絡を回避する配置で、複数層に積層されていることが好ましい。前記陽極の両面に前記ゲル層が設けられ、それぞれのゲル層に前記陰極が積層されて形成されていることが好ましい。また、前記陰極の両面に前記ゲル層が設けられ、それぞれのゲル層に前記陽極が積層されて形成されていることが好ましい。
【0010】
前記陽極の凹凸面における凸部と凹部は、その平面形状、高さ、深さ、幅、配置間隔等を適宜設定することができる。前記陽極を、その一方の面側における凸部と凹部とが他方の面側における凹部と凸部となる波形形状とし、前記凸部と凹部とを同形に形成することが好ましい。これにより、陽極の両面にゲル層を配置してゲルアクチュエータを積層構造とすることができる。なお、凸部と凹部とが同形とは、陽極の一方の面側と他方の面側とにおける凸部と凹部との高さ、深さが同一で、凸部と凹部との配置間隔が同一という意味である。
【0011】
また、陽極の他の構造として、前記陽極が、非導電性材からなるベース材の一方の面が凹凸形状に形成されていて、その凹凸形状の表面に導電層が被覆されて形成されているものでもよい。この場合は、陽極、ゲル層、陰極をこの順に積層してゲルアクチュエータとする。
【0012】
ゲルアクチュエータは、陽極と陰極との間に印加する電圧をON-OFFすることにより、厚さ方向に収縮する作用をなす。すなわち、陽極と陰極との間に電圧を印加すると、陰極からゲルに注入された電荷が陽極側に蓄積され、陽極に吸着されるようにゲルがクリープ変形し、凹凸面に形成された陽極の凹部の空隙にゲルが入り込むことによって厚さ方向に収縮し、電圧を解除すると、ゲルの弾性により元の状態に復帰する作用をなす。
【0013】
ゲルアクチュエータの収縮作用はゲルのクリープ変形に起因する。このクリープ変形は、陽極表面に接触するゲルの接触面から深さ方向数10μmでの相互作用力により発生するものと考えられている。ゲル表面近傍で電荷密度が増大し、この負電荷と陽極の静電的引力によりゲルが陽極表面に這い出すことによりクリープ変形が発生する。ゲル表面近傍の電荷密度は、印加電場の増大とともに増加することから、電場を大きくすると変位量が増大する。
したがって、陽極と陰極とに挟まれたゲルの厚さを薄くすると、印加する電圧が同一であっても電場(陽極側のゲル表面の電荷密度分布)は増大し、大きなクリープ変形を得ることができる。
【0014】
言い換えれば、同じ変形量を得るとした場合、ゲルの厚さを薄くすることによって印加電圧を小さくすることができる。仮に、ゲルの厚さを10分の1にすることができれば、印加電圧を1桁小さくしても同じ変形量が得られることになる。しかしながら、厚さ数百μmのメッシュ状の陽極を使用して単にゲルの厚さを薄くすると、メッシュ状の陽極の空隙部分にゲルが完全に入り込んでしまって、陽極と陰極とが短絡してしまうおそれがある。したがって、ゲルの厚さを薄くする場合は、メッシュの空隙量を小さくする必要がある。すなわち、ゲルと陽極の厚さを減少させることによって、印加電圧を低減させることが可能である。
【0015】
また、ゲルアクチュエータの発生力は、ゲル及び、ゲルを厚さ方向に挟む配置とする陽極と陰極とからなるアクチュエータの単位構造の積層数に比例して増大する。同じ厚さのゲルアクチュエータを考えた場合、単位構造の厚さを薄くし、その積層数を増やすことによって発生力を大きく増大させることが可能である。たとえば、単位構造の厚さを3mmから30μmに薄くすることができれば、ゲルアクチュエータの積層数は100倍になり、ゲルアクチュエータの発生力を100倍にすることが可能である。
【0016】
本発明に係るゲルアクチュエータは、陽極のゲルに接触する(対向する)面を凹凸面とする構成とすることにより、導体を微細形成する手段を利用して凹凸面の凹凸形状を微細化することができ、陽極の凹凸構造を数μm~数十μm程度の微細な構造とすることが容易に可能になる。また、陽極に形成する凹凸構造の形態(凸部と凹部の高さ、深さ、平面配置パターン等)についても適宜設定することができ、種々の用途に対応してゲルアクチュエータを構成することができるとともに、ゲルアクチュエータを多層積層構造としてかつコンパクト化を図ることが可能になる。
【0017】
本発明に係るゲルアクチュエータの製造方法は、誘電性高分子材料を含むゲル層と、そのゲル層を厚さ方向に挟む陽極と陰極とからなる単位構造を備え、前記陽極に形成された凹凸面の凸部が前記ゲル層に接触し前記凹凸面の凹部が空隙になっているゲルアクチュエータの製造方法であって、前記陽極の前記ゲル層に対向する面を、前記凹凸面に形成する工程と、前記凸部を前記ゲル層に接触させて前記凹部を前記空隙にする工程と有することを特徴とする。
【0018】
ゲルアクチュエータの製造方法は、さらに、前記陰極の両面に前記ゲル層を設けたゲルシートを形成する工程と、該ゲルシートに前記陽極を積層する工程とを、有していてもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係るゲルアクチュエータは、多層積層構造としてかつコンパクト化を図ることが可能であり、実用可能な所要の発生力を有するアクチュエータとして提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明を適用するゲルアクチュエータの基本構造とその作用を示す断面図である。
【図2】本発明を適用するゲルアクチュエータに用いられる陽極の外観図である。
【図3】本発明を適用する積層型のゲルアクチュエータの断面図である。
【図4】積層型のゲルアクチュエータの作用を示す断面図である。
【図5】積層型のゲルアクチュエータの他の例を示す断面図である。
【図6】積層型のゲルアクチュエータの作用を示す断面図である。
【図7】本発明を適用するゲルアクチュエータに用いられる陽極の製造方法を示す図である。
【図8】本発明を適用するゲルアクチュエータに用いられるゲルシートの製造方法を示す図である。
【図9】本発明を適用するゲルアクチュエータの他の製造方法を示す図である。
【図10】ゲルアクチュエータに電極を形成した状態を示す断面図である。
【発明を実施するための好ましい形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの形態に限定されるものではない。
【0022】
(ゲルアクチュエータの基本構造)
図1(a)は、本発明に係るゲルアクチュエータの基本構造を示す。このゲルアクチュエータ10は、金属等の導電材を用いて両面を凹凸面に形成した陽極12と、陽極12を厚さ方向に挟む配置として陽極12の両面に積層して配置した誘電性高分子材料を含むゲル層14と、ゲル層14の外面(陽極12に接する面とは反対側の面)を被覆する陰極16とを備える。
【0023】
ゲル層14は平坦な膜状に形成され、陽極12の凸部12aを跨ぐように積層され、凸部12aの中間の凹部12bの部位が空隙となる。
【0024】
ゲルアクチュエータのアクチュエータ作用をなす単位構造は、1つのゲル層14と、そのゲル層14を厚さ方向に挟む陽極12と陰極16とで構成される。つまり単位構造は、[陽極12、ゲル層14、陰極16]となる。複数の単位構造を同じ向きで積層すると、[陽極12、ゲル層14、陰極16] [陽極12、ゲル層14、陰極16]・・・の順に並び、隣接する単位構造同士で、陽極12と陰極16とが電気的に短絡してしまう。図1(a)に示すゲルアクチュエータの基本構造は、2つの単位構造を、陽極12を共通に用いて、互いに逆向きに積層したものである。このように配置することで、基本構造では、2つの単位構造同士の電気的短絡が回避されている。このゲルアクチュエータの基本構造では、2つの単位構造が陽極12を共通に用いているので、2つの単位構造を単に逆向きに積層する場合よりも、アクチュエータの厚さが薄くなっている。
【0025】
本実施形態においては、陽極12を凸部12aと凹部12bとが並列して交互に連なる波形形状とした。陽極は、微細な円柱を凸部として多数配置するなど他の形状により構成することも可能である。図2に、本実施形態の陽極12の外観図を示す。陽極12の一方の面側における凸部12a及び凹部12bは、他方の面側においては凹部12bと凸部12aとなり、凸部12aと凹部12bは同一の形状(高さ、深さ、幅が同一)となっている。
【0026】
ゲルアクチュエータ10のアクチュエータ作用は、陽極12の表面に設けた凹凸のうち凹部12bの空隙にゲル層14のゲルが入り込む作用によって生じる。したがって、アクチュエータ作用を考える上では、陽極12の表面に形成する凹部12bの幅、深さ、配置間隔等を適宜設定する必要がある。
【0027】
ゲル層14に主成分として含まれる誘電性高分子材料は、電場を作用させることにより屈曲変形やクリープ変形を生じさせる材料である。例として、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリメタクリル酸メチル、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ナイロン6、ポリビニルアルコール、ポリカーボネイト、ポリエチレンテレフタレート、ポリアクリロニトリル、シリコーンゴム等が挙げられる。ゲル層14は、誘電性高分子材料、及び誘電性高分子材料をゲル化するための可塑剤を含んでいる。ゲル層14は、必要性に応じ、他の添加剤を含んでいてもよい。誘電性高分子材料が電場による充分な変形特性を有する場合、ゲル層14は、誘電性高分子材料のみで形成されていてもよい。
【0028】
陰極16は、陽極12との間でゲル層14に電圧を印加するためのものである。ゲル層14の全面にわたって電場を作用させるため、陰極16はゲル層14の全面を被覆するように設ける。陰極16はゲル層14に対してある程度均等な電場が作用すればよいから、完全なべた膜に形成せず、メッシュ状に形成することも可能である。
【0029】
図1(b)は、陽極12と陰極16との間に電圧を印加した状態を示す。陽極12と陰極16との間に電圧を印加すると、電荷が陰極16からゲル層14に注入され、陽極12の近傍に電荷が蓄積され、ゲルがクリープ変形して陽極12の凹部12bにゲルが入り込む。凹部12bの空隙内にゲルが入り込むことによってゲル層14が厚さ方向に収縮する。すなわち、図1(a)におけるゲルアクチュエータ10の全体厚Hに対し、図1(b)のゲルアクチュエータ10の全体厚H’が、H’<Hとなる。陽極12の両面を凹凸面としたことで、陽極12の両面がゲル層14に作用し、ゲルアクチュエータとして効率的な収縮作用をなす構造となっている。凹部12bの空隙は、入り込むゲルにより空気が外部に押し出され、そのゲルにより満たされてもよい。
【0030】
ゲル層14は陽極12と陰極16との間に印加する電圧をオフにすると、ゲル自体の弾性により、電圧を印加する前の平坦状の状態(図1(a)の状態)に復帰する。したがって、陽極12と陰極16との間に印加する電圧をON-OFFする操作を繰り返して行うことにより、ゲルアクチュエータ10を繰り返して収縮操作することができる。
【0031】
(ゲルアクチュエータの多層構造)
図3は、ゲルアクチュエータの多層構造を示す。ゲルアクチュエータは単位構造のみであっても、アクチュエータ作用(厚さ方向に収縮-復帰する作用)をなす。図1に示すように単位構造を2層に積層した基本構造とすることで、アクチュエータ作用を倍にできる。図3に示すように、アクチュエータ作用をなす単位構造を多数層に積層することにより、より大きな収縮量と発生力を得ることができる。
【0032】
ゲルアクチュエータを多層構造とする場合は、ゲル層14と陰極16とにより陽極12を厚さ方向に挟む配置とする。図1においては、陽極12の両面にゲル層14と陰極16を配置したが、図3に示す実施形態では、陰極16の両面に設けたゲル層14にそれぞれ陽極16を積層する構成とし、陰極16を挟む両側にゲル層14と陽極12とが、陰極16を基準として対称に配置される構成としている。積層された陽極12と陰極16は、各々電源18の正極と負極に接続する。
【0033】
なお、図3に示す実施形態では、単位構造同士の電気的短絡を回避するために、複数の単位構造を、順に逆向きに積層して配置している。隣接する単位構造は、陰極16や陽極12を共通に用いている。
【0034】
図4は、積層構造としたゲルアクチュエータの陽極12と陰極16とに電圧を印加した状態を示す。電圧を印加することにより、ゲル層14のゲルがクリープ変形し、陽極12の凹部12bの空隙内にゲルが入り込み、厚さ方向に収縮する。陽極12の両面を凹凸面としたことで、陽極12の両面がゲル層14に作用し、積層型のゲルアクチュエータとして効率的な収縮作用をなす構造となっている。
【0035】
陽極12とゲル層14、陰極16を交互に積層して形成したゲルアクチュエータ全体としての収縮量は、各々のゲル層14の収縮量を加え合わせたものになるから、積層数を増大させることにより収縮量(厚さ方向の変形量)が比例して増大する。また、積層構造のゲルアクチュエータのよる発生力も各々のゲル層14に基づく発生力を加え合わせたものになる。したがって、より大きな収縮量あるいはアクチュエータ力を得るには、ゲルアクチュエータの積層数を増大させればよい。
【0036】
(ゲルアクチュエータの他の構成例)
図5は積層型のゲルアクチュエータの他の構成例を示す。本実施形態のゲルアクチュエータも、陽極13と陰極16とによってゲル層14を厚さ方向に挟む配置とし、ゲル層14に接する陽極13の表面を凹凸面としたことは上述した実施形態と同様である。ただし、上述した実施形態においては、陽極13の両面を凹凸面としたのに対して、本実施形態では、非導電性のベース材13bの一方の面が凹凸形状であり、この凹凸形状の表面を導電層13aにより被覆して、陽極13の片面を凹凸面としている。なお、陽極は、微細な円柱を凸部として多数配置するなど他の形状により構成することも可能である。
【0037】
陽極13と陰極16とでゲル層14を挟む構成部分がアクチュエータ作用をなす単位構造である。積層型のゲルアクチュエータは、陽極13の上にゲル層14と陰極16とをこの順に積層して構成される。陽極13と陰極16は、電源18の正極と負極にそれぞれ接続されて電圧が印加される。本構成例では、複数の単位構造を同じ向きで積層しているが、非導電性のベース材13bを、隣接する単位構造の間に設けているので、単位構造同士の電気的短絡が回避されている。
【0038】
図6は、図5に示したゲルアクチュエータの陽極13と陰極16との間に電圧を印加した状態を示す。電圧を印加したことにより、ゲル層14のゲルが陽極13の凸部に引き付けられ、ゲルが部分的に陽極13の凹部13cの空隙内に入り込み、ゲル層14が厚さ方向に収縮して、ゲルアクチュエータの収縮作用が生じる。
【0039】
前述した実施形態のゲルアクチュエータについて説明したと同様に、電圧の印加をON-OFFする操作に伴ってゲル層14が収縮-復帰する作用は可逆作用であり、繰り返して作用させることができることから、好適なアクチュエータとして利用することができる。
【0040】
図1及び図3に示したゲルアクチュエータにおいては、陽極12の両面を凹凸面とし、陽極12の両面でゲルの収縮作用を利用する形態としている。本実施形態においては、陽極13の一方の面のみをゲルの収縮作用に利用するが、陽極の片面のみを凹凸面とする場合は、ゲルのクリープ変形のしやすさ、凹部へのゲルの入り込みのしやすさ等を考慮して、凹凸面における凸部、凹部の設置間隔、深さ等を適宜設計できるという利点がある。また、シクロオレフィンポリマー(COP)のような非導電性材からなるベース材13bが導電層13aの支持材(支持フィルム)として作用することで、凹凸パターンを微細に形成することが容易になるという利点もある。
【0041】
(ゲルアクチュエータの製造方法)
積層型のゲルアクチュエータを形成する際に、陽極やゲル層の厚さを薄くすることは積層数を増大させ、かつゲルアクチュエータ全体としてコンパクト化を図る上できわめて重要である。
本発明に係るゲルアクチュエータのように、ゲル層に対向する陽極の表面を凹凸面としてゲル層の収縮作用を利用する場合は、単に陽極やゲル層の厚さを薄くすると、ゲルがクリープ変形して陽極の凹部に入り込んだ際に陽極と陰極とが電気的に短絡するおそれがある。この問題を回避するには、陽極の薄型化を図ると同時に陽極に形成する凹凸パターンを、ゲルがクリープ変形しても陽極と陰極とが短絡しないように層の厚さに応じて設ける必要がある。
【0042】
本発明に係るゲルアクチュエータは、陽極とゲル層の厚さをμmオーダーとすることを想定している。陽極あるいはゲル層の厚さをμmオーダーとする場合、陽極に形成する凹凸パターンはμmオーダーあるいはこれ以下の精度による微細形成が求められる。
電子部品の製造分野等においては、微細パターンを形成する方法として種々の方法がなされている。本発明に係るゲルアクチュエータを製造する場合も、従来の微細パターンの形成方法を利用することができる。以下に、ゲルアクチュエータの製造方法例を示す。
【0043】
<陽極を形成する工程>
図7に、両面を凹凸面とする陽極の製造例を示す。
まず、陽極の凹凸パターンに合わせて凹凸を形成した基板30を形成する(図7(a))。基板30の表面に、フォトリソグラフィー法により基板30の表面で凸部として残す部位を被覆するレジストパターンを形成し、このレジストパターンを保護膜として基板30の表面をエッチングして基板30の表面に凹凸パターン30aを形成する。基板30に使用する素材に応じて化学的エッチング、あるいはRIE(Reactive Ion Etching)等の物理的エッチングを選択すればよい。フォトリソグラフィー法によれば、数μm~数十μの精度で凹凸パターン30aを形成することは容易である。基板30には、シリコン基板、ガラス板、金属板等の微細パターンの形成に適した素材を用いる。
【0044】
次いで、基板30の凹凸パターンを樹脂(高分子材料)に転写する操作を行う。基板30の凹凸面に転写用の樹脂を供給し、基板30と樹脂とを相互に加圧しながら樹脂を硬化させて基板30の凹凸パターンを樹脂に転写する。樹脂は熱硬化させる方法、紫外線硬化樹脂を使用し紫外線を照射して硬化させる方法等により硬化させることができる。
図7(b)は、基板30から凹凸パターンを転写して得られた転写基板40である。
【0045】
次に、転写基板40の凹凸パターン40aを形成した面に、導体層50を形成する(図7(c))。導体層50は転写基板40に設けた凹凸パターン40aが反映されるように、凹凸パターン40aの凸部、凹部、凹部の内側面を被覆するように設ける。導体層50は、めっき法、スパッタリング法等を利用して、所定の厚さに形成することができる。本実施形態においては、陽極の両面を同形の波形に形成するから、この波形が得られるように転写基板40の凹凸形状と、導体層50の厚さを制御する。導体層50に用いる導体材料としては、ニッケル、銅、各種合金材料が用いられる。なお、導体層50は単層に形成する場合に限らず、ニッケル層を基材とし、表面層を金とするといったように複数層に設けることもできる。
【0046】
転写基板40の表面に導体層50を形成した後、転写基板40を化学的に溶解除去することによって陽極12が得られる(図7(d))。転写基板40を溶解除去する際には、転写基板40のみを選択的に溶解できる溶剤を使用する。したがって、転写基板40を選択的に溶解除去することができるように、導体層50と転写基板40の材質を選択する必要がある。得られた陽極12はゲル層14等と積層して積層型のゲルアクチュエータを形成する部材として用いられる。
【0047】
<ゲルシートを形成する工程>
図8は、ゲルアクチュエータの製造に使用するゲルシート70の製造方法を示す。
図8(a)は、剥離用シート60上にゲル層14aを設けた状態を示す。ゲル層14aは、ポリ塩化ビニル等の誘電性高分子材料を溶媒に溶解して形成したゲル溶液をコーティングし、溶媒を蒸発させることによって形成することができる。ゲル層14aの厚さは、コーティング方法により10μm~100μm程度の厚さに制御することが可能である。
【0048】
誘電性高分子材料としてポリ塩化ビニルを使用する例では、可塑剤としてアジピン酸ジブチル(DBA)を加え、テトラヒドロフラン(THF)を溶媒としてゲル溶液を作成し、このゲル溶液をコーティングすることでゲル層を形成する。可塑剤としては、DBAの他に、例えば、アジピン酸ジメチル(DEA)、フタル酸ビス(BSP)、フタル酸ジブチル(DBP)等が挙げられる。ゲル層は、クリープ変形により収縮作用をなすアクチュエータの主要な構成部分であると同時に、陽極と陰極との間に介在して陽極と陰極との電気的な絶縁作用をなすものであるから、ピンホール等が形成されないように剥離用シート60の表面に均一に形成する必要がある。
【0049】
図8(b)は、ゲル層14aの表面に陰極16となる導体層16aを形成した状態を示す。導体層16aは、銅あるいは金等の金属をスパッタリング、めっき等の成膜方法を利用して形成することができる。
図8(c)は、導体層16aの表面にさらにゲル層14bを形成した状態を示す。ゲル層14bもゲル溶液をコーティングする方法によって形成することができる。
こうして、剥離用シート60上に、導体層16aの両面にゲル層14a、14bを設けたゲルシート70が形成される。
【0050】
<陽極とゲルシートとを積層する工程>
図3に示す積層型のゲルアクチュエータは、図7に示す陽極12と図8に示すゲルシート70とを交互に積層することによって形成することができる。ゲルシート70は剥離用シート60により支持されているから、陽極12にゲルシート70を積層した後、剥離用シート60を剥離することによって、陽極12とゲルシート70とを交互に積層して積層型のゲルアクチュエータを形成することができる。陽極12とゲルシート70との積層数は任意に設定できるから、繰り返し積層数を選択することで任意の積層数のゲルアクチュエータを得ることができる。
【0051】
図5に示すゲルアクチュエータを製造する場合は、図7(c)に示す転写基板40の凹凸面に導体層50を形成したものと、図8(b)に示す、剥離用シート60にゲル層14aと導体層16aとを積層されたものを交互に積層すればよい。この場合は、転写基板40が積層構造体として内蔵されるから、ゲルアクチュエータを構成する好適な材料を転写基板40の材料として選択する。
【0052】
(ゲルアクチュエータの他の製造方法)
ゲルアクチュエータの製造方法は上述した実施形態に限定されるものではない。図7に示す製造工程では、基板30に凹凸パターンを形成し、基板30から転写基板40に凹凸パターンを転写する方法としたが、必ずしもこの方法によらなければならないわけではない。
また、上述した実施形態においては、ゲル層に対向する陽極の表面を波形形状の凹凸面に形成した例であるが、以下に示すように、ゲル層の表面にメッシュ状等の離散的なパターンに導体パターンを形成する方法を利用してゲルアクチュエータを積層構造とすることも可能である。
【0053】
図9(a)は、剥離用シート60により支持したゲルシート70の表面に陽極となる導体層80aを形成した状態を示す。導体層80aはめっき法、スパッタリング法等により所定の厚さに形成することができる。
【0054】
図9(b)は、導体層80aの表面に形成すべき陽極80のパターンにしたがって、フォトリソグラフィー法によりレジストパターン82を形成した状態である。図9(c)は、このレジストパターン82を保護膜として導体層80aをエッチングし、レジストパターン82を除去することにより、ゲルシート70の表面に所定パターンに陽極80を形成した状態である。
【0055】
図9(d)は、陽極80を形成した後、新たに剥離用シート60からゲルシート70を剥離して積層し、積層したゲルシート70の表面に陽極80を形成する工程を繰り返してゲルアクチュエータを積層構造とした状態を示す。積層する工程を適宜選択することにより、ゲルアクチュエータを任意の積層数とすることができる。
【0056】
本製造方法による場合も、陽極80とゲルシート70の厚さを数μm~数十μm程度の厚さに形成することは容易であり、これにより、ゲルアクチュエータを多層に積層してかつ全体厚を薄く、コンパクトに形成することができる。
【0057】
(電極の接続構造)
陽極、陰極、ゲル層からなる多層の積層構造としたゲルアクチュエータの陽極と陰極を、それぞれ電源の正極と負極に接続するには、陽極、陰極、ゲル層を積層した積層体の側面に接続用の電極を設ける方法により、一括して接続することができる。
【0058】
図10は、平面形状が矩形の陽極12、ゲル層14、陰極16を積層して平面形状が矩形のゲルアクチュエータを形成する例において、積層体の側面に陽極12に接続する電極90aと陰極16に接続する電極90bを設けた例である。
【0059】
電極90aと陽極12とを接続するため、陽極12、ゲル層14、陰極16を積層する際に、陽極12については積層体の一方の側面位置まで延出させ、陰極16については積層体の他方の側面位置まで延出するようにして積層する。この場合、陰極16の一方側の端部は積層体の一方の端部から離間する位置に留め、陽極12の他方側の端部は積層体の他方の端部から離間する位置に留めるようにする。
【0060】
この状態で積層体の一方と他方の端部を被覆するように導体層を設けることにより、積層体のすべての陽極12と陰極16とを一括して電気的に接続する電極90a、90bとすることができる。電極90a、90bを形成する際には、電極90a、90bと異極とが短絡しないようにする必要がある。陰極16の一方の端部が積層体の端部に露出しないように、ゲル層14によって陰極16の一方端が封止されるようにゲルシート70を形成してもよい。導体層を形成する方法としては、導体箔や導電性フィルム、導電性ペーストを用いる方法や、めっき法、スパッタリング法等が利用できる。
【0061】
上記実施形態においては、積層型のゲルアクチュエータの製造方法としていくつかの方法を説明した。これらの製造方法を利用することにより、陽極、ゲル層、陰極からなる単位構造を積層したゲルアクチュエータとして、単位構造厚さ30μm、積層数1000層、使用電圧5V、発生力0.4MPa、変位率20%、応答性10Hzの製品を得ることが可能である。
このゲルアクチュエータは、従来のゲルアクチュエータ(単位構造厚さ3mm)に比べ、印加電圧を100分の1にすることができ、かつ発生力を100倍にすることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
上記スペックは、生体筋の発生力、変位率、応答性に匹敵して、ロボット用アクチュエータをはじめとした様々な機器でアクチュエータとして使用可能である。従来のモータなどのアクチュエータを本アクチュエータに置き換えることにより、機器を小型軽量化、静音化、フレキシブル化することが可能となる。また、駆動印加電圧が低減されることにより、人体に接触またはその近傍で使用される機器のアクチュエータとして使用しても、安全性が確保しやすくなる。これにより、例えばマッサージ器、アシストスーツなどの医療福祉分野への応用が可能となる。また、単位構造の厚さを薄くすることによりゲルアクチュエータ自身を小型化することが可能となり、これにより例えば携帯端末などのアクチュエータとしての使用も可能となる。さらに、発生力の増大により、従来のゲルアクチュエータでは力不足であった大型のブレーキ・クラッチなどへ応用も可能となる。
【符号の説明】
【0063】
10 ゲルアクチュエータ
12 陽極
12a 凸部
12b 凹部
13 陽極
13a 導電層
13b ベース材
13c 凹部
14、14a、14b ゲル層
16 陰極
16a 導体層
18 電源
30 基板
30a 凹凸パターン
40 転写基板
40a 凹凸パターン
50 導体層
60 剥離用シート
70 ゲルシート
80 陽極
80a 導体層
82 レジストパターン
90a、90b 電極
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
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【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
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【図9】
8
【図10】
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