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明細書 :分子模型および分子構造の再現方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2016-031525 (P2016-031525A)
公開日 平成28年3月7日(2016.3.7)
発明の名称または考案の名称 分子模型および分子構造の再現方法
国際特許分類 G09B  23/26        (2006.01)
FI G09B 23/26
請求項の数または発明の数 12
出願形態 OL
全頁数 12
出願番号 特願2014-155456 (P2014-155456)
出願日 平成26年7月30日(2014.7.30)
発明者または考案者 【氏名】伊原 正喜
出願人 【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100090170、【弁理士】、【氏名又は名称】横沢 志郎
【識別番号】100142619、【弁理士】、【氏名又は名称】河合 徹
【識別番号】100153316、【弁理士】、【氏名又は名称】河口 伸子
審査請求 未請求
要約 【課題】簡素な構成で、分子構造を容易に再現することのできる分子模型、および当該分子模型を用いた分子構造の再現方法を提供すること。
【解決手段】分子模型1では、原子半径を反映させた複数の原子表示部材3を原子間距離および結合角を反映させて結合させてある。複数の原子表示部材3のうち、一重の共有結合で結合している2つの原子を示す2つの原子表示部材3(C1)、3(C2)は、スナップボタン等の結合部6によって結合し、結合軸周りに回転する。また、水素結合等の引力的相互作用を有する原子を示す原子表示部材3(H)には、粘着部材、磁石、面ファスナー等のカップリング部材8を付しておく。そして、分子模型1を揺らすことにより、引力的相互作用を模したカップリング部材8同士の吸着を最適化した分子模型1とする。
【選択図】図2
特許請求の範囲 【請求項1】
原子半径を反映させた複数の原子表示部材を原子間距離および結合角を反映させて結合させた分子模型であって、
前記複数の原子表示部材のうち、一重の共有結合で結合している2つの原子を示す2つの原子表示部材が、仮想の結合軸周りに回転可能な結合部によって結合され、
前記複数の原子表示部材のうち、引力的相互作用を有する原子を示す原子表示部材には、脱離可能なカップリング部材が付されていることを特徴とする分子模型。
【請求項2】
前記原子表示部材は、結合面が形成された球状部材からなることを特徴とする請求項1に記載の分子模型。
【請求項3】
前記結合部は、凸部をもって前記2つの原子表示部材の一方側に保持された第1留め具と、前記凸部が嵌る凹部をもって前記2つの原子表示部材の他方側に保持された第2留め具とが対になったスナップボタンからなることを特徴とする請求項1または2に記載の分子模型。
【請求項4】
前記カップリング部材は、粘着部材、磁石および面ファスナーのうちのいずれかからなることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載の分子模型。
【請求項5】
前記複数の原子表示部材には、一重の共有結合で結合している2つの炭素原子を示す2つの原子表示部材が含まれ、
前記2つの炭素原子を示す2つの原子表示部材は、前記結合部によって結合されていることを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項に記載の分子模型。
【請求項6】
前記複数の原子表示部材によって蛋白質の構造が再現されていることを特徴とする請求項1乃至5の何れか一項に記載の分子模型。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れか一項に記載の分子模型を用いた分子構造の再現方法であって、
前記分子模型を揺らすことにより、前記引力的相互作用を模した前記カップリング部材同士の吸着を最適化させることを特徴とする分子構造の再現方法。
【請求項8】
前記分子模型を揺らすにあたっては、前記分子模型を液体に浸漬した状態で前記液体を揺らすことを特徴とする請求項7に記載の分子構造の再現方法。
【請求項9】
前記分子模型として、蛋白質の分子構造を再現した分子模型と、水の分子構造を再現した分子模型と、を前記液体に浸漬した状態で前記液体を揺らすことで、蛋白質内の疎水相互作用を再現することを特徴とする請求項8に記載の分子構造の再現方法。
【請求項10】
前記分子模型として、膜蛋白質の分子構造を再現した分子模型と、水の分子構造を再現した分子模型と、脂質の分子構造を再現した分子模型と、を前記液体に浸漬した状態で前記液体を揺らすことで、脂質二重膜中の脂質と蛋白質との相互作用を再現することを特徴とする請求項8に記載の分子構造の再現方法。
【請求項11】
前記分子模型を揺らすにあたっては、前記分子模型に振動を加えることを特徴とする請求項7に記載の分子構造の再現方法。
【請求項12】
前記カップリング部材として磁石を用い、
前記分子模型を揺らすにあたっては、前記分子模型に外部から磁界を印加することを特徴とする請求項7に記載の分子構造の再現方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、教育や研究等に利用される分子模型および分子構造の再現方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
教育や研究等の現場等で用いられる分子模型には、原子半径を反映させた複数の原子表示部材を原子間距離および結合角を反映させて結合させたものがあり、かかる分子模型によれば、分子構造の理解や解明に便利である(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【0003】

【特許文献1】特開2009-93204号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の分子模型では、一重の共有結合によって結合した炭素同士が結合軸周りに回転不能であるため、分子構造の再現性が低いという問題点がある。また、蛋白質、核酸、脂質、多糖類、デンドリマー、ミセル、ポリマー、カーボンナノチューブ、超分子等の分子では、水素結合、静電相互作用、疎水相互作用等の引力的相互作用が分子構造に影響を及ぼしているが、特許文献1に記載の分子模型では、引力的相互作用の影響を反映させることが困難である。
【0005】
一方、結合軸周りの回転や引力的相互作用を考慮して分子構造を再現させる手法として、コンピューターによるシミュレーションがある。かかる手法では、例えば、蛋白質をアミノ酸等の小さな構成成分に分離して計算した後、計算結果を繋ぎ合わせる。そして、蛋白質全体としての矛盾を解消する操作を行った後、再度、構成成分に分離して計算するという工程を繰り返す。このため、コンピューターによるシミュレーションを利用した手法のみでは、処理能力が高いコンピューターを必要とするとともに、多大な処理を必要とする。
【0006】
以上の問題点に鑑みて、本発明の課題は、簡素な構成で、分子構造を容易に再現することのできる分子模型、および当該分子模型を用いた分子構造の再現方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、原子半径を反映させた複数の原子表示部材を原子間距離および結合角を反映させて結合させた分子模型であって、前記複数の原子表示部材のうち、一重の共有結合で結合している2つの原子を示す2つの原子表示部材が、仮想の結合軸周りに回転可能な結合部によって結合され、前記複数の原子表示部材のうち、引力的相互作用を有する原子を示す原子表示部材には、脱離可能なカップリング部材が付されていることを特徴とする。
【0008】
本発明において、「一重の共有結合で結合している2つの原子を示す2つの原子表示部材が、仮想の結合軸周りに回転可能な結合部によって結合され」とは、一重の共有結合で結合している2つの原子を示す2つの原子表示部材の少なくとも一部が、仮想の結合軸周りに回転可能な結合部によって結合されていることを意味し、全部が仮想の結合軸周りに回転可能な結合部によって結合されている形態に限定されない。また、本発明において、
「前記複数の原子表示部材のうち、引力的相互作用を有する原子を示す原子表示部材には、脱離可能なカップリング部材が付されている」とは、引力的相互作用を有する原子を示す原子表示部材の少なくとも一部にカップリング部材が付されていることを意味し、引力的相互作用を有する原子を示す原子表示部材の全てにカップリング部材が付されている形態に限定されない。
【0009】
本発明では、一重の共有結合で結合している2つの原子を示す2つの原子表示部材が、仮想の結合軸周りに回転可能な結合部によって結合されているため、一重の共有結合での回転を反映した分子模型を構成することができる。また、引力的相互作用を有する原子を示す原子表示部材にカップリング部材が付されているため、引力的相互作用を反映した分子模型を構成することができる。
【0010】
本発明において、前記原子表示部材は、結合面が形成された球状部材からなる構成を採用することができる。
【0011】
本発明において、前記結合部は、凸部をもって前記2つの原子表示部材の一方側に保持された第1留め具と、前記凸部が嵌る凹部をもって前記2つの原子表示部材対の他方側に保持された第2留め具とが対になったスナップボタンからなることが好ましい。かかる構成によれば、仮想の結合軸周りに回転可能な結合部を容易に構成することができる。
【0012】
本発明において、前記カップリング部材は、粘着部材、磁石および面ファスナーのうちのいずれかからなることが好ましい。かかる構成によれば、脱離可能なカップリング部材を容易に設けることができる。
【0013】
本発明においては、例えば、前記複数の原子表示部材には、一重の共有結合で結合している2つの炭素原子を示す2つの原子表示部材が含まれ、前記2つの炭素原子を示す2つの原子表示部材は、前記結合部によって結合されている。本発明において、例えば、前記複数の原子表示部材によって蛋白質の構造が再現される。
【0014】
本発明を適用した分子模型を用いて分子構造を再現する方法では、前記分子模型を揺らすことにより、前記カップリング部材のペアを最適化させることが好ましい。実際の分子、特に蛋白質等の高分子は、液体中で分子内もしくは分子間で水素結合、静電相互作用、疎水相互作用等の引力的相互作用が形成されて無数の構造を取りうるが、熱揺らぎによってそれらの相互作用は破壊と再形成を繰り返すことになり、その結果、最も安定な構造に落ち着く。そのような安定で最適化された構造を再現することは、コンピューターによるシミュレーションでも困難である。しかし、前述の分子模型に熱揺らぎに相当する人為的な揺らぎを与えることによって、実際の高分子が液体中等で取っている安定な構造を容易に反映させることができる。
【0015】
本発明において、前記分子模型を揺らすにあたっては、例えば、前記分子模型を液体に浸漬した状態で前記液体を揺らす方法を採用することができる。この場合、前記分子模型として、蛋白質の分子構造を再現した分子模型と、水の分子構造を再現した分子模型と、を前記液体に浸漬した状態で前記液体を揺らすことが好ましい。多くの蛋白質は水溶液中で機能的な構造を形成するが、この構造形成に疎水相互作用が重要な働きをしている。しかし、疎水相互作用を忠実に再現するためには、脱離可能なカップリング部材のみでは困難である。蛋白質の構造形成における疎水相互作用は、水分子等の溶媒分子によって形成された水素結合ネットワークに親水的アミノ酸等の親水性部分が参加する一方で、水素結合を形成できない疎水性アミノ酸の側鎖は排除され、疎水性部分同士で凝集する現象に起因する。このような疎水性アミノ酸側鎖間の凝集を予測することは、コンピューターによるシミュレーションでも困難である。しかし、水素結合を模倣したカップリング部材を付
与した水の分子模型を数十から数百個、前記液体を満たした透明容器内に入れて水素結合ネットワークを再現した中で、蛋白質の分子構造を再現した分子模型を揺らせば、蛋白質内の疎水相互作用を容易に再現することができ、溶液中の蛋白質構造を忠実に再現することができる。
【0016】
本発明において、前記分子模型を揺らすにあたっては、例えば、前記分子模型として、膜蛋白質の分子構造を再現した分子模型と、水の分子構造を再現した分子模型と、脂質の分子構造を再現した分子模型と、を前記液体に浸漬した状態で前記液体を揺らすことが好ましい。膜蛋白質は水溶液中で形成された脂質二重膜内で機能的な構造を形成するが、この構造形成には、水等の溶媒分子との相互作用に加えて、脂質との疎水相互作用も重要な働きをしている。よって、水の分子構造を再現した分子模型と、脂質の分子構造を再現した分子模型とによって脂質二重膜を再現した上で、膜蛋白質の分子構造を再現した分子模型を前記脂質二重膜に組み込んで、揺らすことによって、膜蛋白質構造を忠実に再現することができる。
【0017】
本発明において、前記分子模型を揺らすにあたっては、前記分子模型に振動を加えてもよい。
【0018】
本発明において、前記カップリング部材として磁石を用いた場合、前記分子模型を揺らすにあたっては、前記分子模型に外部から磁界を印加してもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明では、一重の共有結合で結合している2つの原子を示す2つの原子表示部材が、仮想の結合軸周りに回転可能な結合部によって結合されているため、一重の共有結合での回転を反映した分子模型を構成することができる。また、引力的相互作用を有する原子を示す原子表示部材にカップリング部材が付されているため、引力的相互作用を反映した分子模型を構成することができる。それ故、簡素な構成で、分子構造を容易に再現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明を適用した蛋白質の分子模型の説明図である。
【図2】本発明を適用した分子模型において、リシン(lysine;アミノ酸)の分子構造を再現した様子を示す説明図である。
【図3】本発明を適用した分子模型において、カルボキシル基の分子構造を再現した様子を示す説明図である。
【図4】本発明を適用した分子模型に用いた原子表示部材の説明図である。
【図5】本発明を適用した分子模型を用いた分子構造の再現方法の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の説明では、蛋白質分子の分子構造を再現する場合を中心に説明する。

【0022】
(蛋白質の分子構造)
図1は、本発明を適用した蛋白質の分子模型1の説明図であり、図1(a)、(b)は、水素結合等の引力的相互作用を反映したときの分子模型1の説明図、および水素結合等の引力的相互作用を反映する前の分子模型1の説明図である。

【0023】
図1に示す分子模型1は、蛋白質の分子構造を再現したものである。蛋白質は各種アミノ酸が鎖状に多数連結した高分子化合物であり、アミノ酸は、アミノ基とカルボキシル基
の両方の官能基を有している。例えば、アミノ酸のうち、カルボキシル基が結合している炭素にアミノ基も結合しているαアミノ酸は、以下の化学式
RCH(NH)COOH
により表される。かかるアミノ酸は、ヒドロキシ基やアミノ基に水素を有しているため、蛋白質では、水素結合等の引力的相互作用が生じている。このため、分子模型1において、水素結合等の引力的相互作用を考慮しない場合、分子模型1は、図1(b)に示す形態を有しているが、水素結合等の引力的相互作用を考慮すると、分子模型1は、図1(a)に示す形態となり、図1(a)に示す形態の方が実際の蛋白質の分子構造に近い。

【0024】
(分子模型1の構成)
図2は、本発明を適用した分子模型1において、リシン(lysine;アミノ酸)の分子構造を再現した様子を示す説明図である。図3は、本発明を適用した分子模型1において、カルボキシル基の分子構造を再現した様子を示す説明図であり、図3(a)、(b)は、原子表示部材3を結合させた様子を示す説明図、および原子表示部材3を結合させる前の様子を示す説明図である。図4は、本発明を適用した分子模型1に用いた原子表示部材3の説明図であり、図4(a)、(b)、(c)は、カルボキシル基を構成する炭素を示す原子表示部材3(C1)の説明図、水素を示す原子表示部材3(H)の説明図、およびカルボキシル基においてヒドロキシ基を構成する酸素の原子表示部材3(O1)の説明図である。なお、図2、図3および図4には、各原子表示部材3が示す元素を示してある。

【0025】
図1(a)に示す蛋白質の分子構造を再現するにあたって、本発明を適用した分子模型1において、例えば、蛋白質を構成するアミノ酸のうち、リシンの分子構造を再現すると、図2に示すようになる。また、本発明を適用した分子模型1において、アミノ酸(リシン)を構成するカルボキシル基の分子構造を再現すると、図3に示すようになる。

【0026】
図2および図3に示す分子模型1においては、原子半径を反映させた複数の原子表示部材3を原子間距離および結合角を反映させて結合させてある。ここで、原子表示部材は、結合面が形成された球状部材からなる。

【0027】
例えば、図3および図4(a)に示すように、カルボキシル基を構成する炭素を示す原子表示部材3(C1)は、結合角に対応する方向に向いた3つの結合面11、12、13で球体を削った構造を有している。

【0028】
また、図3および図4(b)に示すように、水素を示す原子表示部材3(H)は、1つの結合面21で球体を削った構造を有している。

【0029】
また、図3および図4(c)に示すように、カルボキシル基においてヒドロキシ基を構成する酸素を示す原子表示部材3(O1)は、結合角に対応する方向に向いた2つの結合面31、32で球体を削った構造を有している。

【0030】
なお、図3に示すように、カルボキシル基が接続するα炭素を示す原子表示部材3(C2)は、結合角に対応する方向に向いた4つの結合面41、42、43、44で球体を削った構造を有している。

【0031】
また、図3に示すように、カルボキシル基においてカルボニルカル基を構成する酸素を示す原子表示部材3(O2)は、1つの結合面51で球体を削った構造を有している。

【0032】
本形態では、炭素を示す原子表示部材3(C1)、3(C2)の作成に用いた球体はいずれも同一サイズであり、酸素を示す原子表示部材3(O1)、3(O2)の作成に用いた球体はいずれも同一サイズである。また、炭素を示す原子表示部材3(C1)、3(C
2)の作成に用いた球体、水素を示す原子表示部材3(H)の作成に用いた球体、および酸素を示す原子表示部材3(O1)、3(O2)の作成に用いた球体のサイズ(半径)は、各原子の原子半径に対応して、以下の比
3.4:2.4:3.04
に設定してある。また、球体に対する結合面の形成位置(球体の中心からの位置)は、原子間距離に対応して設定されている。また、球体に対する結合面の形成位置(向き)は、結合角に対応して設定されている。例えば、原子表示部材3(C1)において、原子表示部材3(C2)と結合する結合面11と原子表示部材3(O1)と結合する結合面12の角度は110°に設定され、原子表示部材3(C2)と結合する結合面11と原子表示部材3(O2)と結合する結合面13の角度は126°に設定されている。

【0033】
(結合構造)
このように構成した分子模型1において、複数の原子表示部材3はいずれも結合面が重なるように結合される。ここで、複数の原子表示部材3のうち、一重の共有結合で結合している2つの原子を示す2つの原子表示部材3は、仮想の結合軸周りに回転可能な結合部6によって結合されている。

【0034】
より具体的には、カルボキシル基を構成する炭素とα炭素とは、一重の共有結合で結合しているので、結合軸周りに回転可能である。従って、原子表示部材3(C1)の結合面11と原子表示部材3(C2)の結合面12は、結合軸周りに回転可能な結合部6によって結合されており、原子表示部材3(C1)、3(C2)は、結合部6を通る軸線周りに相対回転が可能である。また、カルボキシル基を構成する炭素と、カルボキシル基においてヒドロキシ基を構成する酸素とは、一重の共有結合で結合しているので、結合軸周りに回転可能である。従って、原子表示部材3(C1)の結合面12と原子表示部材3(O1)の結合面31は、結合軸周りに回転可能な結合部6によって結合されており、原子表示部材3(C1)、3(O1)は、結合部6を通る軸線周りに相対回転が可能である。なお、図示を省略するが、α炭素とアミノ基の窒素も、一重の共有結合で結合しているので、これらの原子を示す原子表示部材も、結合軸周りに回転可能な結合部6によって結合されている。また、図示を省略するが、主鎖等を構成する炭素を構成する原子表示部材においても、一重の共有結合で結合している部分は、原子表示部材が結合軸周りに回転可能な結合部6によって結合されている。

【0035】
かかる結合部6として、本形態では、凸部をもって2つの原子表示部材の一方側に保持された第1留め具61と、第1留め具61の凸部が嵌る凹部をもって2つの原子表示部材の他方側に保持された第2留め具62とが対になったスナップボタンが用いられている。このため、仮想の結合軸周りに回転可能な結合部6を容易に構成することができる。

【0036】
これに対して、カルボニル基を構成する炭素と酸素は、2重の共有結合で結合しているため、結合軸周りに回転できない。従って、カルボニル基を構成する炭素を示す原子表示部材3(C1)の結合面13とカルボニルカル基を構成する酸素を示す原子表示部材3(O2)の結合面51とは接着等の方法で固定されている。

【0037】
なお、水素は、結合軸周りに回転しても、分子構造に影響を及ぼさないため、酸素に結合している水素を示す原子表示部材の結合面(原子表示部材3(H)の結合面21)や、炭素に結合している水素を示す原子表示部材の結合面は、接着等の方法で固定されている。

【0038】
このような構成は、リシンの分子模型1に限らず、全てのアミノ酸の分子模型1に適用したうえで、各アミノ酸の分子模型1を連結し、図1に示す蛋白質の分子模型1を構成する。

【0039】
(カップリング部材8)
本形態の分子模型1において、複数の原子表示部材3のうち、水素結合、静電相互作用、疎水静電作用等の引力的相互作用を有する原子を示す原子表示部材には、結合面とは反対側に、脱離可能なカップリング部材8が付されている。本形態では、複数の原子表示部材3のうち、水素結合(引力的相互作用)を生じる水素を示す原子表示部材3(H)にカップリング部材8が付されている。かかるカップリング部材8は、粘着部材、磁石、面ファスナー等からなり、カップリング部材8が接近あるいは接触した際、カップリング部材8同士が吸着する。

【0040】
また、図2に示すように、ヒドロキシ基等、水素結合を形成する基の水素を示す原子表示部材3(H)には、同種のカップリング部材8、例えば、磁石81を付し、エチレン基等、疎水静電作用を有する基の水素を示す原子表示部材には、別の種類のカップリング部材8、例えば、面ファスナー82等を付してもよい。

【0041】
(分子構造の再現方法)
図5は、本発明を適用した分子模型を用いた分子構造の再現方法の一例を示す説明図である。

【0042】
上記した原子表示部材3を用いて蛋白質の分子模型1を製作した時点では、図1(b)に示すように、水素結合等の引力的相互作用が最適化されていない状態にある。そこで、本形態では、分子模型1を揺らすことにより、結合部6で原子表示部材3を回転させ、それによって、カップリング部材8同士を吸着させて、水素結合等の引力的相互作用を最適化させる。

【0043】
分子模型1を揺らすにあたっては、例えば、分子模型1を液体に浸漬した状態で液体を揺らす。その結果、一重の共有結合で結合している2つの原子を示す2つの原子表示部材3は、スナップボタン等からなる結合部6で回転し、その際、カップリング部材8が接近あるいは接触した際、カップリング部材8同士が吸着する。その結果、図1(a)に示すように、分子模型1は、水素結合(引力的相互作用)を反映した形態となる。ここで、液体としては、分子模型1が液に完全に潜った状態で浮いていることが好ましいことから、水と多価アルコール等とを混合して液体の比重を調整することが好ましい。

【0044】
その際、図5に示すように、水にグリセリンを混合して比重を調整したグリセリン水溶液等の液体9に、本発明を適用した分子模型1として、蛋白質の分子構造を再現した蛋白質分子模型1aと、水の分子構造を再現した水分子模型1bとを浸漬した状態で液体9を揺らすことが好ましい。かかる構成によれば、水素結合(引力的相互作用)により形成された水素結合ネットワーク1eを再現することができるとともに、蛋白質内の疎水相互作用を再現することができ、蛋白質の分子構造への影響等を直接、目視で認識することができる。

【0045】
また、図示を省略するが、分子模型として、膜蛋白質の分子構造を再現した分子模型と、水の分子構造を再現した分子模型と、脂質の分子構造を再現した分子模型とを液体に浸漬した状態で液体を揺らしてもよい。かかる構成によれば、水等の溶媒分子との相互作用の影響に加えて、脂質との疎水相互作用の影響も反映した膜蛋白質構造を忠実に再現することができる。

【0046】
分子模型1を揺らすにあたっては、分子模型1を掌や振動台にのせて、分子模型1に振動を加えて、分子模型1を揺らしてもよい。また、カップリング部材8として磁石を用いた場合、外部から磁界を分子模型1に加え、磁界の向きを反転させることにより、磁石(
カップリング部材8)によって分子模型1を揺らしてもよい。

【0047】
また、本形態の分子模型1を用いて分子構造を再現した後、分子構造の情報を取得してもよい。そのための具体的な方法としては、本発明を適用した各原子表示部材3に各原子表示部材3間の相対位置情報を記録させ、蛋白質の分子構造を再現した後、別に備える読み取り装置を用いて相対位置情報を取り出す方法や、各原子表示部材3にマーカーを付しておき、蛋白質の分子構造を再現した後、別に備えるスキャナ等の読み取り装置を用いて各原子表示部材3の位置情報を取得する方法が挙げられる。なお、情報を記録する原子表示部材3と、位置情報の読み取り装置との組み合わせは、蛋白質構造再現システムとして発明を構成することができる。

【0048】
(本形態の主な効果)
以上説明したように、本形態の分子模型1では、一重の共有結合で結合している2つの原子を示す2つの原子表示部材3が、仮想の結合軸周りに回転可能な結合部6によって結合されているため、一重の共有結合での回転を反映した分子模型1を構成することができる。また、引力的相互作用を有する原子を示す原子表示部材3にカップリング部材8が付されているため、引力的相互作用を反映した分子模型1を構成することができる。従って、簡素な構成で、分子構造を容易に再現することができる。それ故、蛋白質等の高分子の構造や揺らぎ等を適正に把握することができる。

【0049】
また、蛋白質において、アミノ酸の一次配列からの三次元構造を容易に予測することができるとともに、ポリペプチドを折り畳んだ実際の構造を確認したうえで、アミノ酸の置換の検討や、アミノ酸を置換したときの予測等を容易に行うことができる。さらに、細胞表面の膜蛋白質を再現し、ドラッグ候補分子との結合特性や、結合に伴う蛋白質の構造変化の予測等を容易に行うことができる。

【0050】
(他の実施の形態)
上記実施の形態では、蛋白質(アミノ酸)の分子模型1を中心に説明したが、核酸、脂質、多糖類、デンドリマー、ミセル、ポリマー、カーボンナノチューブ、超分子等の分子模型に本発明を適用してもよい。
【符号の説明】
【0051】
1 分子模型
3 原子表示部材
6 結合部
8 カップリング部材
図面
【図2】
0
【図3】
1
【図4】
2
【図1】
3
【図5】
4