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明細書 :セルロースナノファイバーの製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2016-061002 (P2016-061002A)
公開日 平成28年4月25日(2016.4.25)
発明の名称または考案の名称 セルロースナノファイバーの製造方法
国際特許分類 D21H  11/18        (2006.01)
D21H  15/02        (2006.01)
C08B  15/08        (2006.01)
FI D21H 11/18 ZNM
D21H 15/02
C08B 15/08
請求項の数または発明の数 4
出願形態 OL
全頁数 12
出願番号 特願2014-192345 (P2014-192345)
出願日 平成26年9月22日(2014.9.22)
発明者または考案者 【氏名】水野 正浩
【氏名】天野 良彦
【氏名】野▲崎▼ 功一
【氏名】佐藤 健人
【氏名】酒井 俊郎
出願人 【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
審査請求 未請求
テーマコード 4C090
4L055
Fターム 4C090AA04
4C090BA24
4C090BD19
4C090BD24
4C090CA23
4C090CA24
4L055AA08
4L055AF09
4L055BA39
4L055BB01
要約 【課題】 セルロース材料からセルロースナノファイバーを製造する際の歩留まりを向上させ、効率的にセルロースナノファイバーを製造することができるセルロースナノファイバーの製造方法を提供する。
【解決手段】 本発明に係るセルロースナノファイバーの製造方法は、セルロース材料を膨潤処理する処理工程と、膨潤処理工程を経たセルロース材料に超音波を作用させ、セルロース繊維を解繊する処理工程と、を備えることを特徴とする。
前記セルロース材料の膨潤処理として、セルロース材料にSwolleninを作用させる方法が有効である。
【選択図】 図2
特許請求の範囲 【請求項1】
セルロース材料を膨潤処理する処理工程と、
膨潤処理工程を経たセルロース材料に超音波を作用させ、セルロース繊維を解繊する処理工程と、
を備えることを特徴とするセルロースナノファイバーの製造方法。
【請求項2】
前記セルロース材料の膨潤処理として、セルロース材料にSwolleninを作用させることを特徴とする請求項1記載のセルロースナノファイバーの製造方法。
【請求項3】
前記セルロース材料の膨潤処理として、セルロース材料にSwolleninを作用させ、セルロース繊維の結晶構造を(002)結晶面に加えて(021)結晶面を有する構造とすることを特徴とする請求項1記載のセルロースナノファイバーの製造方法。
【請求項4】
前記セルロース繊維を解繊する処理において作用させる超音波の周波数を28kHz~200kHzとすることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項記載のセルロースナノファイバーの製造方法。


発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース材料からセルロースナノファイバーを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースナノファイバーとは、天然に存在するセルロース繊維を、平均幅が数~100nm程度、平均長が0.5~数μm程度のサイズにまで解繊した極細繊維状物質のことである。セルロースナノファイバーは、非常に軽量であると同時に、鋼鉄の5倍以上の強度を有すこと、また植物細胞壁から得られる再生可能な天然材料として、その利用技術の開発が進められている。
【0003】
現在、セルラーゼを含む酵素剤をセルロースに作用させ部分的にセルロース繊維を断片化した後、ブレンダーやグラインダーなどによる解繊処理を施すことによりセルロースナノファイバーが生産されている。
セルロースナノファイバーの生産に超音波を利用するものとして、セルロース原料を酵素処理する前に超音波処理を行い、結晶性の高いセルロース原料内に酵素が浸透し易くするもの(特許文献1)、予備解繊した繊維原料に超音波を印加して微細繊維とするもの、またその際に酵素を作用させる方法(特許文献2)、パイナップルやサトウキビバガスなどの天然バイオマスから、酵素処理と超音波処理によってナノファイバーを調製する方法(非特許文献1)等がある。
【先行技術文献】
【0004】

【特許文献1】特開2008-150719号公報
【特許文献2】特開2008-169497号公報
【0005】

【非特許文献1】Adriana de Campos, Ana Carolina Correa, David Cannella, Eliangela de M Teixeira, Jose M. Marconcini, Alain Dufresne, Luiz H. C. Mattoso, Pierre Cassland, Anand R. Sanadi“Obtaining nanofibers from curaua and sugarcane bagasse fibers using enzymatic hydrolysis followed by sonication” Cellulose, 20, 1491-1500 (2013)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した酵素をセルロース原料に作用させてセルロースナノファイバーを作製する方法では、セルロースがその構成単糖であるグルコースまたはセロオリゴ糖にまで分解されてしまい、セルロースナノファイバーの歩留まりが低くなるという問題がある。天然のセルロース繊維はセルロースの束が会合した非常に結晶性が高い構造を有するため、酵素をセルロース繊維に作用させると、セルロース繊維が外側から分解され、ナノファイバーになる量が少なくなるためである。また、酵素はセルロース繊維結晶性の高い部分には作用し難く、酵素を反応させても元のセルロースファイバーが残ってしまい、セルロースナノファイバーが得られ難いためにセルロースナノファイバーの歩留まりが低くなるという問題もあった。
【0007】
本発明は、セルロース材料からセルロースナノファイバーを製造する際の歩留まりを向上させ、効率的にセルロースナノファイバーを製造することができるセルロースナノファイバーの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るセルロースナノファイバーの製造方法は、セルロース材料を膨潤処理する処理工程と、膨潤処理工程を経たセルロース材料に超音波を作用させ、セルロース繊維を解繊する処理工程と、を備えることを特徴とする。
本発明に係るセルロースナノファイバーの製造方法は、セルロース材料を解繊してセルロースナノファイバーを得る方法として、セルロース材料をあらかじめ膨潤処理してから、超音波を作用させる方法が、ナノファイバーを得る方法としてきわめて有効であることを見出してなされたものである。
【0009】
セルロース材料に超音波を印加する前処理として行う膨潤処理は、超音波処理によってセルロース材料を解繊する作用を促進させる処理であり、酵素処理のようなセルロース材料をグルコースやセロオリゴ糖等に分解する作用ではなく、セルロース繊維の繊維形態を保ちながら、セルロース繊維の結合を弱める作用を意味する。
セルロース材料を膨潤させることにより、超音波処理の際にセルロース繊維の結晶性が緩んだ部位から水分子が入り込み、効率的に超音波が作用してセルロースナノファイバーに分離することができる。
【0010】
セルロース材料の膨潤処理には、セルロース膨潤タンパク質として知られているSwolleninが好適に使用できる。Swolleninは結晶性の高いセルロース繊維間に入り込み、水素結合を切断あるいは緩める作用を有する。Swolleninは公知の遺伝子組換え方法を利用して容易に培養することができ、セルロース材料の処理量に合わせてSwolleninの分量を調節して使用することができる。
セルロース材料の膨潤処理は、pH5.0からpH6.0に調製した緩衝液中に浸漬させる方法で行うことができる。pHが5.0以下、及び6.0以上だと、Swolleninの安定性が低下するからである。
【0011】
セルロース材料の膨潤処理としてセルロース材料にSwolleninを作用させる処理を行うとにより、セルロース繊維の結晶構造がセルロースI型繊維に特徴的な(002)結晶面を備える構造から、(002)結晶面に加えて(021)結晶面を有する結晶構造となる。すなわち、セルロース材料に膨潤処理を施すことにより、セルロース材料の結晶構造を変化させることができ、結晶構造の特徴的な変化から膨潤処理がなされたことを知ることができる。
【0012】
前記セルロース繊維を解繊する処理において作用させる超音波の周波数は28kHz~200kHzの範囲とすることが有効である。超音波を利用する解繊処理においては、超音波の周波数によって効果的な解繊がなされる場合と、有効に解繊がなされない場合がある。セルロース繊維の解繊処理には28kHz~200kHzの周波数が有効であり、とくに200kHzの超音波が有効に利用できる。解繊処理では、セルロース繊維の芯部分まで完全に解繊される必要がある。印加する超音波の周波数として好適な周波数を選択することは、セルロース繊維の芯部分まで効率的に解繊できるようにするために重要である。
【0013】
本発明に係るセルロースナノファイバーの製造方法においてセルロース材料として用いられる対象材料はとくに限定されるものではなく、一般に利用されるセルロース材料、たとえば、稲、小麦、とうもろこし、サトウキビ等の穀物の廃棄物、草、木材、パルプ、廃棄紙、各種残渣等が利用できる。使用に際しては、これらセルロース材を必要に応じて前処理して使用すればよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るセルロースナノファイバーの製造方法によれば、セルロース材料から効率的に、かつ簡易な方法によってセルロースナノファイバーを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】未処理のセルロース試料とSwollenin処理したセルロース試料表面のSEM画像である。
【図2】超音波洗浄機の周波数を28、200、950kHzとした場合のセルロース試料表面のSEM像である。
【図3】超音波処理時間を10分、20分、30分としたときのセルロース試料表面のSEM像である。
【図4】Swollenin処理の処理日数を4日間と5日間として、超音波処理を施したセルロース試料表面のSEM像である。
【図5】各試料についてのXRD測定結果を示すグラフである。
【図6】セルロース試料を酵素(EG V)処理した場合と、Swollenin処理した場合のセルロース試料表面のSEM像である。
【図7】セルロース試料を酵素(EG V)処理したときのXRD測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係るセルロースナノファイバーの製造方法においては、セルロース材料に膨潤処理を施し、膨潤処理を施したセルロース材料に超音波処理を行って解繊処理することによってセルロースナノファイバーを作製する。
以下の実施例では、具体的にセルロース材料からセルロースナノファイバーを作製した実験例について、セルロース材料の調製、セルロース膨潤タンパク質であるSwolleninの調製から、実際にセルロース材料を解繊処理した結果について説明する。
【実施例】
【0017】
(セルロース材料の調製)
セルロースナノファイバーを作製するためのセルロース材料には、種々のセルロース材料が使用できる。実施例では、セルロース試料としてコットンリンタ—パルプ(日本製紙株式会社製)を使用した。このセルロース試料はシート状であったため、シュレッダー (MSシュレッダー、C-38S、MEIKO) にて短冊状に刻んだ後、小型粉砕機(ワンダーブレンダーWB-1:大阪ケミカル)を用いて乾式粉砕処理したものを用いた。粉砕処理条件は、電気容量:700 W、回転数:25,000rpmである。
【実施例】
【0018】
(Swolleninの調製)
本実施例ではセルロース膨潤タンパク質としてSwolleninを使用した。Swolleninはセルロースとマトリックスの間の水素結合を切断する作用を有することが知られている。
Swolleninを調製するため、遺伝子組換え操作を利用した。遺伝子組み換えSwolleninの発現は、Trichoderma reesei由来のSwolleninをコードするcDNAを組み込んだ発現用ベクターpPIC9Kによって形質転換された酵母Pichia pastoris KM71 (Invitorogen)を用いた。
【実施例】
【0019】
次いで、RBD/geneticin培地に上記形質転換体P.pastorisの胞子を植菌した後、30℃で5日間静置培養し、コロニーを形成させた。調製したBMGY培地を滅菌処理した後、60 mlに対してコロニーを1つ植菌し、30℃ 、120rpmで4日間培養した。その後4000rpm、5分、遠心分離し、沈殿をBMMY培地400 mlに懸濁させ、30℃、120rpmで7日間培養し、24時間ごとにメタノールを培養液全量の1 % になるように添加した。培養後、得られた培養液を8000 rpm、10分、遠心分離し、得られた上清を粗酵素液とした。粗酵素液に対し、終濃度が1 M になるように硫酸アンモニウムを加え、4℃で緩やかに回転させながら、タンパク質を沈殿させた。沈殿物を10,000 rpm、15分、遠心分離し、得られた沈殿を100 mlの50 mM酢酸ナトリウム緩衝液 (pH5.5) に懸濁させた。
【実施例】
【0020】
次に、Swolleninを精製するため、12 gの微結晶性セルロース粉末 (Merck) を1 M 硫酸アンモニウムを含む50 mM 酢酸ナトリウム緩衝液 (pH5.5) に懸濁させ、これをエコノカラム (φ2.8 cm×12.8 cm、バイオラッド) に詰め、アフィニティーカラムを2本作製した。
上述した硫安沈殿後のタンパク質溶液を約50 mLずつ、これら2本のカラムに供した。同緩衝液を十分量流すことで、セルロースに吸着しないタンパク質を洗い流した後、脱イオン水を流すことによりセルロースに吸着したタンパク質の溶出を行った。この操作によって得られた溶液を、Swollenin溶液として4℃で保存し、セルロース試料の膨潤操作に使用した。
【実施例】
【0021】
上述した方法によって得られたSwollenin溶液中のタンパク質量の測定は、Lowry法によって行った。すなわち、2wt% 炭酸ナトリウム-水酸化ナトリウム : 1wt% 酒石酸カルシウム : 1wt% 硫酸銅 (II) 五水和物 = 100 : 1 : 1 (vol / vol / vol ) の組成で調製した反応液150 μLと原液の酵素液300 μLを混合した。その後15分間常温にて静置し、1 Nフォリンチオカルトフェノール試薬を20 μL加えて、更に30分間静置した。そして、吸光光度計を用いて620 nmでの吸光度を測定した。また、標準物質には牛血清アルブミン (Bio-Rad) を用いて、0 μg/mL~ 200 μg/mLの範囲で検量線を作成した。
【実施例】
【0022】
(膨潤処理)
前述した方法によって得たセルロース試料5mgに、上述した遺伝子組換え方法により得られた、タンパク質量0.15 mg / ml のSwollenin溶液10 mlを加え、さらに終濃度が1 M になるように硫酸アンモニウム粉末を加え、40℃で反応させた。反応時間は、3、4、5日の3条件とした。
【実施例】
【0023】
図1は、未処理のセルロース試料と、Swollenin溶液を用いて処理したセルロース試料のSEM画像である。
図1で未処理とあるのは、粉砕機を用いて粉砕処理したもの、Swollenin処理とあるのは、Swollenin溶液を用いて3日間反応させたのものである。それぞれ低倍率と高倍率のSEM像を示す。
セルロース試料にSwollenin処理したものでは、セルロース繊維に裂け目が生じている。未処理のセルロース試料には、このような裂け目は見られない。Swollenin処理により、セルロース繊維間の結合がゆるやかになり、裂け目が生じたものと考えられる。
【実施例】
【0024】
走査型電子顕微鏡による繊維の表面観察は、次のようにして行った。
セルロース試料を凍結乾燥器FDU-1200 (東京理科) にて一晩凍結乾燥させたものを、試料台に張り付けたカーボンテープ (日新 EM) 上に固定させた。セルロース試料を乗せた試料台を真空蒸着装置Twin Coater JEC-550 (日本電子) に入れ、1.5 kVAで2分30秒スパッタリングをし、白金蒸着させた後にFE-SEM SU-8000(日立)にて繊維表面を観察した。
以下、走査型電子顕微鏡によるセルロース試料の繊維表面の観察は同様の方法によっている。
【実施例】
【0025】
(解繊処理)
上述した方法によりセルロース試料にSwollenin溶液を用いて反応させた後、Swolleninを失活させずに、得られたセルロース試料に対し解繊処理として超音波を作用させる処理を行った。超音波処理は15 mlの共栓付き三角フラスコ内で行い、5分に一度、超音波洗浄機から三角フラスコを取り出し、ピペッティングにより攪拌する操作を行い、続いて、超音波洗浄機に三角フラスコを戻してさらに超音波を作用させた。
使用機種:三井電器社製バス型超音波洗浄機、周波数:28、200、950kHz、電力:300 W、処理時間:10、20、30分、処理温度:20~30℃。
【実施例】
【0026】
図2は、セルロース試料に作用させる超音波の周波数がセルロース試料の解繊にどのように作用するかを調べた結果を示す。それぞれ、Swollenin処理していないものと、Swollenin処理したものについて、超音波の周波数を28、200、950kHzとした場合のセルロース試料表面のSEM像を示す。
同図で、Swo有→sonicとあるのは、セルロース懸濁液にSwollenin溶液(硫安含む)を加えた溶液に超音波処理を行ったものである。Swollenin処理日数は3日である。Swo無→sonicとあるのは、Swollenin処理せず、三角フラスコに水と粉砕処理後のセルロース試料を入れて超音波処理したものである。超音波処理時間はいずれも30分である。
【実施例】
【0027】
図2において、Swollenin処理していないセルロース試料について見ると、超音波処理をしても超音波処理しない場合とほとんど変化がない。すなわち、セルロース試料を単に超音波処理しても微細化されない(解繊されない)ことがわかる。
一方、Swollenin処理したセルロース試料に超音波処理を施すと、セルロース試料がはっきりと微細化される(解繊される)ことがわかる。ただし、超音波処理の周波数についてみると、周波数が28kHzでは、セルロース試料の表面部分は微細化されるが、セルロース試料の芯部分が微細化されずに残り、周波数が200kHzでは、セルロース試料の芯部分まで均一に微細化される一方、周波数が950kHzの場合は、ほとんど微細化の作用が得られない。
この実験結果は、Swollenin処理したセルロース試料に超音波を作用させて解繊処理する際には、超音波の周波数を200kHzがとすることが好適であることを示す。
【実施例】
【0028】
図3は、超音波処理時間がセルロース試料の解繊にどのように作用するかを調べた結果を示したもので、それぞれ、超音波処理時間を10分、20分、30分としたときのセルロース試料表面のSEM像を示す。
図3で上段のSEM像はSwollenin処理していないセルロース試料について超音波を作用させた場合、下段のSEM像はSwollenin処理したセルロース試料について超音波を作用させた場合である。Swollenin処理の処理日数は3日、超音波処理の周波数は200kHzとした。
【実施例】
【0029】
図3から、Swollenin処理していないセルロース試料に超音波処理を施す方法では、処理時間を長くしても、セルロース繊維が解繊される状態にはならないことがわかる。
一方、Swollenin処理したセルロース試料の場合は、超音波処理により効果的にセルロース繊維が解繊される。ただし、解繊作用はセルロース試料の表面から進むため、10分間の超音波処理では中心に太い繊維が残っている。20分間の処理では、解繊が進むが、部分的に中心の繊維が残る。30分間の処理により、ほとんどの繊維が解繊された状態になった。この実験結果は、本実験条件では、超音波処理時間としては30分が適当であることを示す。
【実施例】
【0030】
図4は、Swollenin処理日数が超音波処理による解繊作用にどのように影響するかを調べたものである。図4は、Swollenin処理の処理日数を4日と5日として、超音波処理を施したセルロース試料表面のSEM像を示す。超音波の周波数は200kHz、超音波処理時間は30分である。
図4に示す測定結果は、図3に示したSwollenin処理日数が3日間のセルロース試料とほとんど差異がない。したがって、Swollenin処理日数としては3日で十分であると言える。
【実施例】
【0031】
(セルロースナノファイバーの結晶化度の測定)
上述したSwollenin処理後に超音波処理を施したセルロース試料の繊維形態を調べるため、XRD測定により繊維の結晶化度を調べた。
図5は、未処理のセルロース試料(未処理)、セルロース試料に超音波処理を加えたもの(Sonicのみ)、セルロース試料にSwollenin処理を施したもの(Swoのみ)、セルロース試料にSwollenin処理と超音波処理を加えたもの(Swo→sonic)のXRDグラフである。なお、比較のため、市販のセルロースナノファイバーであるセリッシュ(登録商標:株式会社ダイセル)について測定した結果をあわせて示す。
【実施例】
【0032】
図5に示すXRDグラフには、いずれの試料にも、セルロースI型繊維に特徴的な結晶性を示す(002)結晶面のピークが表れている。すなわち、上記各セルロース試料は、セルロースI型繊維に特徴的な結晶性を備えていることがわかる。なお、Swollenin処理を施したもの(Swoのみ)と、Swollenin処理と超音波処理を加えた試料(Swo→sonic)については、(021)結晶面のピークが表れることが特徴的である。(021)結晶面は、セルロース繊維の長手方向(繊維方向)に対して傾斜する面である。Swollenin処理を施したセルロース試料に(021)結晶面が存在することは、Swollenin処理によってセルロース繊維間の結合が緩やかになり、処理前にくらべて結晶性が低下したことを示している。
【実施例】
【0033】
セルロース試料の結晶化度の測定は、各セルロース試料を凍結乾燥させたものを測定試料とし、XRD測定機(XRD-6000:島津製作所社製)を用いて測定した。
セルロース繊維の結晶化度(CrI)はSegal法により次式で与えられる。
Iam/I002×100=CrI (%)
2θ=18.5 (Iam : セルロース繊維の非晶性部分) の値を、2θ=22.6 (I002 : セルロース繊維の結晶性部分) の値で割ることで相対的に結晶化度を求めた。
表1にXRDの測定結果に基づいて求めた結晶化度を示す。
【表1】
JP2016061002A_000003t.gif
【実施例】
【0034】
未処理の試料と、Swollenin処理と超音波処理を加えた試料(Swo→sonic)についての結晶化度を比較すると、結晶化度はほとんど変化していない。また、既存のセルロースナノファイバーであるセリッシュ(登録商標)と比較しても、結晶化度は同程度である。すなわち、Swollenin処理に次いで超音波処理を加えて得られるセルロースナノファイバーは、天然セルロースと同様の結晶化度を有し、天然セルロースと同等の高強度を備えることが期待される。
【実施例】
【0035】
(セルロースナノファイバーの比表面積の測定)
解繊処理によってセルロースナノファイバーの比表面積がどの程度増大するかを測定した。
通常の凍結乾燥では水中で繊維が膨潤していても処理後は再び繊維同士が凝集してしまうことが考えられる。そこで、繊維の膨潤した形状を保つためにt-butyl alcohol置換処理を行って比表面積を測定した。具体的には、まず、セルロース試料の分散液を遠心 (8000rpm、25℃、10分) し、上清を取り除いた。次に、t-butyl alcohol (和光) を繊維と良く混ぜ再び同条件で遠心を行い、上清を取り除いた。この操作を4、5回行うことで、セルロース試料の分散液をt-butyl alcoholに置換した。その後、凍結乾燥処理をし、窒素吸着により比表面積を計測した。
使用機種:日本ベル社製BELSORP-mini、測定原理:定容量式ガス吸着法 (フリースペース連続式測定方式)、吸着ガス:窒素、サンプルセル:約1.8 cm3、測定プログラム:吸脱着等温線測定。
【実施例】
【0036】
表2に、未処理のセルロース試料、未処理のセルロース試料に超音波を加えたもの、セルロース試料をSwollenin処理しさらに超音波処理を施した試料についての測定結果を示す。
【表2】
JP2016061002A_000004t.gif
比表面積の測定結果は、未処理のセルロース試料と、超音波処理のみを施したものについてはほとんど差異はなかったが、Swollenin処理しさらに超音波処理を施したものは、未処理のものと比較して約8倍大きくなった。単なる超音波処理では微細化されず、膨潤処理と解繊処理によりナノファイバー化することによって、比表面積が大きくなったことを示す。
【実施例】
【0037】
(酵素処理とSwollenin処理との比較)
セルロース試料に対するSwollenin処理と酵素処理が解繊作用について、どのような相違があるかを調べた。
図6に、セルロース試料に酵素(EG V)を作用させた場合と、酵素処理しさらに超音波処理を加えたときのセルロース試料表面のSEM像と、あわせてSwollenin処理と超音波処理を施したセルロース試料のSEM像を示す。EG Vによる処理及びSwollenin処理の処理日数は3日、超音波処理の周波数200kHz、超音波処理時間は30分間である。
EG Vによる処理は、Swollenin処理と同様で、セルロース試料5mgに、EG Vのストック液(0.15 mg / ml)10mLを加えて反応させる方法によった。
図6から、セルロース試料に酵素(EG V)を作用させたり、さらに超音波処理を加えたりしても、セルロース試料はまったく解繊されないのに対して、Swollenin処理と超音波処理を施すことによって、セルロース試料が微細化され、効果的に解繊されることがわかる。
【実施例】
【0038】
図7は、セルロース試料に酵素(EG V)を作用させ、さらに超音波処理を施した試料についてXRD測定を行った結果を示す。図7では、未処理のセルロース試料(未処理)、未処理のセルロース試料に超音波処理を加えたもの(超音波)、セルロース試料にSwollenin処理を施したもの(Swollenin)、セルロース試料にSwollenin処理と超音波処理を加えたもの(Swollenin+超音波)とセリッシュ(登録商標)についての測定結果を示す。
図7は、酵素(EG V)処理を行った場合も、酵素(EG V)処理と超音波処理を行った場合も、セルロースI型繊維に特徴的な結晶性である(002)面のピークが表れる一方、Swollenin処理を施した場合に特徴的に表れる(021)面によるピークがまったく表れないことを示す。この測定結果は、Swolleninを用いる膨潤処理は、酵素(EG V)処理とは異なる作用であることを示唆する。
【実施例】
【0039】
次に、酵素処理とSwollenin処理による場合で、セルロースの鎖長にどのような影響があるかを調べるため、ゲル浸透クロマトグラフィーによる平均重合分子量測定を行った。
各セルロース試料の懸濁液を凍結乾燥させたものを測定試料とした。ねじ口試験管にセルロース粉末を10 mg加え、ジメチルスルホキシドを1 mL、400 μLのイソシアン酸フェニルを加えた。この溶液の入った試験管を90℃で48時間、時折撹拌しながらセルロース誘導体化を行った。加熱後、10 mLの50 v% メタノールを加え、誘導体化セルロースを析出させ回収し、50 v% エタノールで洗浄し、五酸化二リンを同封したデシケータ内で吸引しながら乾燥させた。その誘導体化セルロース (セルローストリカルバニレート) をテトラヒドロフランに1 mg / mLの濃度になるように溶かし、0.2 μmフィルターに通したものをゲル浸透クロマトグラフィー用の試料とした。
【実施例】
【0040】
目的物質の検出ピークにおける保持時間をtとし、検出ピークにおけるベースラインからの高さをMtとしたとき、次式から重量平均分子量を算出した。
Mw=(ΣtiMti)/(Σti)
この式から算出した重量平均分子量の値を誘導体化セルロース (セルローストリカルバニレート) の単量体の値 (519.42) で割ることにより重量平均分子量を求めた。
【実施例】
【0041】
表3に各処理によって得られた試料についての重量平均分子量(Mw)と重合度(DP)を示す。
【表3】
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表3から、未処理のセルロース試料と比較して、Swollenin処理をした場合は、酵素(EG V)処理をした場合と同程度にまで鎖長が低くなること、また、重合度(DP)についてみると、未処理のものと比較して、Swollenin処理による場合も、酵素処理による場合も重合度が約半分程度に低下することを示す。
【実施例】
【0042】
次に、酵素処理とSwollenin処理によって得られるセルロースナノファイバーの歩留まりを比較するため、各処理後の反応液からDNS法による還元糖量測定を行った。
試料溶液200 μlを試験管に分取し、600 μlのDNS試薬を添加し混合した。次に、5分間煮沸をし、5分間氷冷を行った。その後、4 mlの蒸留水を添加、混合をし、10分間静置した。最後に分光光度計を用いて吸光度540 nmで測定した。
表4に各処理内容について還元糖量を測定した結果を示す。
【実施例】
【0043】
【表4】
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【実施例】
【0044】
表4で、sonicのみ、とあるのは未処理のセルロース試料に超音波処理を施したもの、Swoのみとあるのはセルロース試料にSwollenin処理をしたもの、Swo→sonicとあるのはセルロース試料をSwollenin処理しさらに超音波処理をしたもの、EG Vとあるのは酵素EG Vを用いた処理、EG V→sonicとあるのは酵素処理した後、超音波処理したものである。
なお、Swollenin処理は処理日数3日、超音波処理は周波数200kHz、30分である。
【実施例】
【0045】
表4から、セルロース試料をSwollenin処理したものは、酵素(EG V)処理をしたものと比較して生成還元糖量が少ないことがわかる。表3でみたように、Swollenin処理した場合と酵素(EG V)処理した場合とでは、平均重合度は大きく変わらないのに、表4で、Swollenin処理による場合に、酵素処理よりも還元糖量が低くなる理由は、Swollenin処理の場合は酵素処理と比較して、セロビオース(2糖)や可溶性のセロオリゴ糖の生成量が少ないことを意味する。すなわち、Swollenin処理による場合は酵素(EG V)処理による場合と比較して、セルロース試料を断片化する作用が低く、したがってセルロースナノファイバーを製造する歩留まりが良いということができる。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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