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明細書 :可溶型ギ酸デヒドロゲナーゼの発現システム

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2015-130855 (P2015-130855A)
公開日 平成27年7月23日(2015.7.23)
発明の名称または考案の名称 可溶型ギ酸デヒドロゲナーゼの発現システム
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
C12N   9/04        (2006.01)
C12P   7/40        (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAA
C12N 9/04 Z
C12P 7/40
請求項の数または発明の数 25
出願形態 OL
全頁数 25
出願番号 特願2014-248927 (P2014-248927)
出願日 平成26年12月9日(2014.12.9)
新規性喪失の例外の表示 申請有り
優先権出願番号 2013255225
優先日 平成25年12月10日(2013.12.10)
優先権主張国 日本国(JP)
発明者または考案者 【氏名】伊原 正喜
【氏名】河野 祐介
出願人 【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100102842、【弁理士】、【氏名又は名称】葛和 清司
審査請求 未請求
テーマコード 4B024
4B050
4B064
Fターム 4B024AA03
4B024BA08
4B024CA07
4B024DA06
4B024EA04
4B024GA11
4B024HA01
4B024HA06
4B050CC01
4B050CC04
4B050CC05
4B050DD02
4B050LL05
4B064AD03
4B064CA02
4B064CA19
4B064CB18
4B064CC24
4B064CC30
4B064DA16
要約 【課題】 本発明の課題は、十分な比活性を有したNAD(H)やNADP(H)に依存しないで電子の授受を行う可溶型Mo/W-FDHの提供、および前記Mo/W-FDHの発現システムを提供することである。
【解決手段】 本発明は、ゲノム中のギ酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を欠損した大腸菌、および、前記ギ酸デヒドロゲナーゼ遺伝子の膜貫通ドメインおよび膜サブユニットをコードする部分を欠損させた可溶型ギ酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を有するベクターを含む、可溶型ギ酸デヒドロゲナーゼの発現システムおよび該発現システムにより製造された可溶型ギ酸デヒドロゲナーゼなどに関する。さらに前記可溶型ギ酸デヒドロゲナーゼを利用した光駆動型ギ酸デヒドロゲナーゼおよび、その光駆動ギ酸生成システムに関する。
【選択図】 図3
特許請求の範囲 【請求項1】
ゲノム中のギ酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を欠損した大腸菌、および、前記ギ酸デヒドロゲナーゼ遺伝子の膜貫通ドメインおよび膜サブユニットをコードする部分を欠損させた可溶型ギ酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を有するベクターを含む、可溶型ギ酸デヒドロゲナーゼの発現システム。
【請求項2】
ギ酸デヒドロゲナーゼ遺伝子が配列番号1に記載の塩基配列を有し、膜貫通ドメインをコードする部分が、該塩基配列の3964位~4128位の部分である、請求項1に記載の発現システム。
【請求項3】
ベクターが、pUc fdoGHst’(配列番号6)である、請求項1または2に記載の発現システム。
【請求項4】
ギ酸デヒドロゲナーゼが、Mo型またはW型ギ酸デヒドロゲナーゼである、請求項1~3のいずれか一項に記載の発現システム。
【請求項5】
pUc fdoGHst’(配列番号6)である可溶型ギ酸デヒドロゲナーゼ発現ベクター。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の発現システムを用いた、可溶型ギ酸デヒドロゲナーゼの製造方法。
【請求項7】
ゲノム中のギ酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を欠損した大腸菌に、前記ギ酸デヒドロゲナーゼ遺伝子の膜貫通ドメインおよび膜サブユニットをコードする部分を欠損させた可溶型ギ酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を有するベクターを挿入し、該ベクターが挿入された前記大腸菌を培養することを含む、可溶型ギ酸デヒドロゲナーゼの製造方法。
【請求項8】
大腸菌を、容器高の7割~8割まで培養液を入れた培養フラスコで、80rpm~100rpmで、穏やかに振盪培養することを含む、請求項6または7に記載の製造方法。
【請求項9】
培養が、2日間培養した場合に、培養液のOD600の値が1.8~3.1を示す条件で行われる、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
大腸菌由来の、膜貫通ドメインおよび膜サブユニットを欠損させた可溶型ギ酸デヒドロゲナーゼ。
【請求項11】
Mo型またはW型ギ酸デヒドロゲナーゼである、請求項10に記載の可溶型ギ酸デヒドロゲナーゼ。
【請求項12】
(1)配列番号7および8に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド、または、
(2)該アミノ酸配列において、1~30個のアミノ酸が、欠失、置換または付加したアミノ酸配列からなり、かつ、ギ酸デヒドロゲナーゼ活性を有する、可溶型ギ酸デヒドロゲナーゼ。
【請求項13】
請求項10~12のいずれか一項に記載の可溶型ギ酸デヒドロゲナーゼに直接またはリンカーを介して光合成反応中心蛋白質複合体(Photosystem I,PSI)のPsaEサブユニットが連結されてなる、光駆動型ギ酸デヒドロゲナーゼ。
【請求項14】
リンカーを有する、請求項13に記載の光駆動型ギ酸デヒドロゲナーゼ。
【請求項15】
リンカーが、親水性アミノ酸を含むリンカーである、請求項14に記載の光駆動型ギ酸デヒドロゲナーゼ。
【請求項16】
リンカーが、グリシン、セリン、プロリンから選択される1種または2種以上の親水性アミノ酸を含む、請求項15に記載の光駆動型デヒドロゲナーゼ。
【請求項17】
リンカーが、6個~16個のアミノ酸からなる、請求項14~16のいずれか一項に記載の光駆動型ギ酸デヒドロゲナーゼ。
【請求項18】
可溶型ギ酸デヒドロゲナーゼが、配列番号8に記載のポリペプチドにおいて、111位、114位、134位、138位、141位、150位および231位のアミノ酸の少なくとも1つが、親水性アミノ酸に置換されてなる、請求項13~17のいずれか一項に記載の光駆動型ギ酸デヒドロゲナーゼ。
【請求項19】
アミノ酸の置換が、A111T、A114S、I134E、I134Q、Y138S、A141S、L150EおよびL150Qからなる群から選択される1種または2種以上である、請求項18に記載の光駆動型ギ酸デヒドロゲナーゼ。
【請求項20】
アミノ酸の置換が、(1)A111T、A114S、I134E、Y138S、A141SおよびL150E、(2)A111T、A114S、I134E、Y138S、A141SおよびL150Q、または、(3)A111T、A114S、I134Q、Y138S、A141SおよびL150Eである、請求項19に記載の光駆動型ギ酸デヒドロゲナーゼ。
【請求項21】
さらにタグを有する、請求項13~20のいずれか一項に記載の光駆動型ギ酸デヒドロゲナーゼ。
【請求項22】
タグが、Hisタグである、請求項21に記載の光駆動型ギ酸デヒドロゲナーゼ。
【請求項23】
請求項13~22のいずれか一項に記載の光駆動型ギ酸デヒドロゲナーゼとPsaEサブユニットの欠損したPSIとを含む、光駆動ギ酸生産システム。
【請求項24】
請求項23に記載の光駆動ギ酸生産システムを用いた、ギ酸の生産方法。
【請求項25】
ギ酸の生産に用いる、PsaEサブユニットの欠損したPSI。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、可溶型ギ酸デヒドロゲナーゼおよびその発現システムに関し、特に、大腸菌(Escherichia coli)において大量発現可能であって、活性を有する可溶型ギ酸デヒドロゲナーゼおよびその発現システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ギ酸が次世代エネルギーキャリアとして期待されていることから、ギ酸生成・分解にかかわるギ酸デヒドロゲナーゼは、大きな注目を集めいている。さらにギ酸デヒドロゲナーゼは、二酸化炭素の還元を効率よく触媒し、副生成物を出さないことから、人工光合成や化学工業の分野からも大きな注目を集めている。例えば、遺伝子操作によりギ酸デヒドロゲナーゼおよびヒドロゲナーゼの酵素群を高発現させた微生物を用いて水素を供給する燃料電池などが検討されている(特許文献1:特許第3764862号公報)。
【0003】
ギ酸デヒドロゲナーゼ(FDH)は、ギ酸の二酸化炭素への酸化反応(HCOO→CO+H+2e)と、二酸化炭素のギ酸への還元反応(CO+H+2e→HCOO)を触媒する酵素である。また、ギ酸デヒドロゲナーゼは、大きく2つのグループに分類できる(非特許文献1:Ferry G J(1990))。1つ目のグループは、NAD(H)のほかに、触媒活性に金属イオンなどの補酵素を持たないNADH依存的ギ酸デヒドロゲナーゼである(非特許文献2:Popov V Oら(1994))。2つ目のグループは、モリブデンもしくはタングステンを活性中心に持つギ酸デヒドロゲナーゼ(以下、Mo/W-FDHという)に分類できる。Mo/W-FDHにおける活性サブユニットは、プテリンと呼ばれる補酵素を2分子有し、その2分子にモリブデンもしくはタングステンが配位されている。モリブデンもしくはタングステンには、さらに、セレノシステインが配位している(非特許文献3:Richard A. Rotheryら(2008)、非特許文献4:Moura J Jら(2004))。
【0004】
Mo/W-FDHは、活性サブユニットの他にさらにいくつかのサブユニットが会合することで、生体内において様々な役割を担っており、電子授受の方法やサブユニット構造に基づいて、さらに3つのグループに分けることができる。
【0005】
第1のグループは、電子の授受をNAD(H)もしくはNADP(H)に依存する可溶性蛋白質のグループである。このグループのMo/W-FDHでは、モリブデンもしくはタングステンでギ酸から抜き取られた電子で、NADもしくはNADPを還元する。または、NADHもしくはNADPHから電子を抜き取り、二酸化炭素還元のためにモリブデンもしくはタングステンに電子が送られる。両者の電子伝達を触媒するために、フラビンを含むジアフォラーゼサブユニットなどを有する(非特許文献5:Laukel Mら(2003)、非特許文献6:Hartmann Tら(2013)、非特許文献7:Yamamoto Iら(1983))。
【0006】
第2のグループは、NAD(H)やNADP(H)に依存しないで電子の授受を行う膜結合性蛋白質のグループである。このグループのMo/W-FDHにおける電子授受は、ヘムなどの補酵素を含んだ膜サブユニットとの間の電子移動によって行われる。そのために、活性サブユニットと膜サブユニットの間に、鉄硫黄クラスターを有する電子伝達サブユニットが存在し、3つのサブユニットからなる構造を基本としている。代表例として、大腸菌由来のFDH-NやFDH-Oなどがある(非特許文献8:Jormakka Mら (2002)、非特許文献9:Benoit Sら(1998))。
【0007】
第3のグループは、NAD(H)やNADP(H)に依存しないで電子の授受を行う可溶性蛋白質のグループである。このグループのMo/W-FDHにおける電子授受は、ヘムを有する可溶性シトクロムや鉄硫黄クラスターを有する可溶性フェレドキシンなどの電子伝達蛋白質との間の電子移動によって行われると考えられている。活性サブユニットと鉄硫黄クラスターを有する電子伝達サブユニットとの2つのサブユニットから成り、電子伝達サブユニットは可溶性電子伝達蛋白質との会合と電子移動反応の場を提供している。例として、クロストリジウム属(Clostridium pasteurianum)由来のギ酸デヒドロゲナーゼ(非特許文献10:Liu C Lら(1984))や、硫酸還元菌(Syntrophobacter fumaroxidans)由来のギ酸デヒドロゲナーゼなどがある(非特許文献11:Torsten Rら(2008))。この第3のグループのMo/W-FDHは、電極や光触媒などとの直接電子伝達が可能であり、産業的に価値が特に高いとされている(非特許文献11)。
【0008】
これまでギ酸デヒドロゲナーゼを産業的に利用する試みとして、例えば、上記の特許文献1のほかにも、メタノール資化性細菌であるハイモマイクロビウム属の微生物からギ酸デヒドロゲナーゼを採取すること(特許文献2:特開2000-78970号公報)、アカカビ由来のギ酸脱水素酵素に対して特定のアミノ酸置換を導入し、大腸菌から活性を有した変異型ギ酸脱水素酵素を得ること(特許文献3:国際公開第2011/016102号)、マイコバクテリウムバッカエ由来のβ-ニコンチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸依存型ギ酸脱水素酵素活性を有する、ギ酸脱水素酵素の変異体蛋白質を構築したこと(特許文献4:国際公開第2012/169341号)などが報告されているが、いずれもギ酸デヒドロゲナーゼの十分な発現量や活性量を得られたとはいえないものであった。また、産業への応用が期待できるMo/W-FDHについて発現系は報告されていない。
【先行技術文献】
【0009】

【特許文献1】特許第3764862号公報
【特許文献2】特開2000-78970号公報
【特許文献3】国際公開第2011/016102号
【特許文献4】国際公開第2012/169341号
【0010】

【非特許文献1】Ferry James G., “Formate dehydrogenase” FEMS Microbiology Review (1990) Volume. 87, Issues 3-4, pp.377-382.
【非特許文献2】Popov V O et al., “NAD+-dependent formate dehydrogenase” Biochemical Journal (1994) Vol.301 pp.625-643.
【非特許文献3】Richard A. Rothery et al., “The prokaryotic complex iron-sulfur molybdoenzyme family” Biochimica et Biophysica Acta (2008) Vol.1778 pp.1897-1929.
【非特許文献4】Moura J J et al., “Mo and W bis-MGD enzymes: nitrate reductases and formate dehydrogenases”J Biol Inorg Chem (2004) Vol.9 pp.791-799.
【0011】

【非特許文献5】Laukel M et al., “The tungsten-containing formate dehydrogenase from Methylobacterium extorquens AM1: purification and properties” Eur. J. Biochem. (2003) Vol.270 pp.325-333.
【非特許文献6】Hartmann T et al., “The oxygen-tolerant and NAD+-dependent formate dehydrogenase from Rhodobacter capsulatus is able to catalyze the reduction of CO2 to formate” FEBS J. (2013) Sep 13 doi:10.1111/febs. 12528.
【非特許文献7】Yamamoto I et al., “Purification and properties of NADP-dependent formate dehydrogenase from Clostridium thermoaceticum, a tungsten-selenium-iron protein” J. Biol. Chem. (1983), Vol.258 pp.1826-1832.
【非特許文献8】Jormakka M et al., “Molecular basis of proton motive force generation: structure of formate dehydrogenase-N” Science (2002) Vol.295 pp.1863-1868.
【0012】

【非特許文献9】Benoit S et al., “Topological analysis of the aerobic membrane-bound formate dehydrogenase of Escherichia coli” Journal of Bacteriology (1998) Vol.180 pp.6625-6634.
【非特許文献10】Liu C L et al., “Formate dehydrogenase of Clostridium pasteurianum” Journal of Bacteriology (1984) Vol.159 pp.375-380.
【非特許文献11】Torsten R et al., “Reversible interconversion of carbon dioxide and formate by an electroactive enzyme” PNAS (2008) Vol.105 pp.10654-10658.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するため、研究を重ねる中で、最も産業への応用が期待される上記第3のグループのMo/W-FDHの発現系を実用に耐え得る規模で確立することを検討したが、困難に直面した。すなわち、第3のグループのMo/W-FDHは、嫌気性菌である硫酸還元菌やクロストリジウム属細菌で見つかっていることから、これらの細菌を培養して、菌体サンプルからMo/W-FDHを抽出し、多数の工程からなる精製を行う必要があった。しかし、上記の細菌は、嫌気性細菌であり培養が困難、且つ増殖が遅いという問題があった。さらに、形質転換の効率が悪く、操作が煩雑であるために、アミノ酸置換やタグの導入が困難であった。そこで本発明者らは、容易に培養操作が簡便で、形質転換も容易な大腸菌を宿主として、硫酸還元菌由来Mo/W-FDHの組換え蛋白質の調製を試みた。しかしながら、FDHにおいて、補酵素の挿入など活性型への成熟に関連している酵素群についての知見が不十分であることなどが原因で、硫酸還元菌由来Mo/W-FDHの大腸菌内異種発現は現状では実用化において障害が大きいとの結論に至った。
【0014】
次に本発明者らは、大腸菌由来のMo/W-FDH(FDH-OおよびFDH-N)に着目した。
そもそも、硫酸還元菌由来Mo/W-FDHなど、第3のグループのMo/W-FDHは、可溶性、且つ、NAD(H)やNADP(H)に依存しないで直接電子の授受を行うことができることから、電極や光触媒などとの直接電子伝達が可能となり、産業的価値を高めている。
【0015】
大腸菌には、FDH-OとFDH-Nの2種類の第2のグループのMo/W-FDHが知られている。これらのうちFDH-Nは、硝酸などの窒素を誘導源とし、また嫌気的な条件により発現が誘導されやすいことから、特別な設備を必要としない好気条件での培養は好適とはいえず、実用化の上では必ずしも有利とはいえない。そこで本発明者らは、FDH-Oをベースとして、膜サブユニットを削除することで、第3のグループのMo/W-FDHと同様のサブユニット構造に、活性を失うことなく改変できれば、同様の機能を付与できるのではないか、さらには好気条件での大量培養が可能となり産業的価値がさらに高まるのではないかとの仮説を立てた。
【0016】
かかる仮説に基づき、FDH-OおよびFDH-Nを破壊した大腸菌に、FDH-O活性サブユニット遺伝子(fdoG)および電子伝達サブユニット遺伝子(fdoH)を組み込んだプラスミドを導入したところ、可溶型FDH-Oを容易に調製することができ、アミノ酸置換やタグの付与も容易に設計できるようになった。さらに、FDH-O電子伝達サブユニットには、膜貫通ドメインが存在しており、電極や光触媒などとの直接電子伝達の立体障害となることが予想されたため、膜貫通ドメインを切断し、さらに変異を導入したところ、発現量が数倍に上がることを見出した。
【0017】
さらに本発明者らは、これまでの本発明者らによる新しい知見に基づく発明をさらに発展的に利用できるように、FDHを光合成反応中心蛋白質複合体(Photosystem I,PSI)に組み込んだFDH-PSI複合体を構築することで、PSIにおける光誘起電子移動とFDHの二酸化炭素還元能(ギ酸生産能)を組み合わせた光駆動ギ酸生産を目指した。自発的会合によるFDH-PSI複合体の形成を企図し、FDHのスモールサブユニット(fdoH)にPSIを構成するサブユニットの一つであるPsaEを融合したPsaE融合Mo/W-FDHと、PsaEサブユニットを欠失したPsaE欠失PSIを用いることを検討したが、単にこれだけでは、実用可能な安定性が得られない場合があることが分かった。そこで、かかる安定性を得ることを新たな課題として、鋭意研究を進めたところ、もともとfdoHとfdhIの界面であった領域に存在する特定のアミノ酸に変異を加えることによって、安定性が増し、さらに変異体の構成を工夫することによって、精製の効率を著しく向上させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
したがって本発明の課題は、十分な比活性を有したNAD(H)やNADP(H)に依存しないで電子の授受を行う可溶型Mo/W-FDHの提供、および前記Mo/W-FDHの発現システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
すなわち本発明は、以下に関する。
[1] ゲノム中のギ酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を欠損した大腸菌、および、前記ギ酸デヒドロゲナーゼ遺伝子の膜貫通ドメインおよび膜サブユニットをコードする部分を欠損させた可溶型ギ酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を有するベクターを含む、可溶型ギ酸デヒドロゲナーゼの発現システム。
[2] ギ酸デヒドロゲナーゼ遺伝子が配列番号1に記載の塩基配列を有し、膜貫通ドメインをコードする部分が、該塩基配列の3964位~4128位の部分およびである、前記[1]に記載の発現システム。
[3] ベクターが、pUc fdoGHst’(配列番号6)である、前記[1]または[2]に記載の発現システム。
[4] ギ酸デヒドロゲナーゼが、Mo型またはW型ギ酸デヒドロゲナーゼである、前記[1]~[3]のいずれか一項に記載の発現システム。
【0019】
[5] pUc fdoGHst’(配列番号6)である可溶型ギ酸デヒドロゲナーゼ発現ベクター。
[6] 前記[1]~[5]のいずれか一項に記載の発現システムを用いた、可溶型ギ酸デヒドロゲナーゼの製造方法。
[7] ゲノム中のギ酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を欠損した大腸菌に、前記ギ酸デヒドロゲナーゼ遺伝子の膜貫通ドメインおよび膜サブユニットをコードする部分を欠損させた可溶型ギ酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を有するベクターを挿入し、該ベクターが挿入された前記大腸菌を培養することを含む、可溶型ギ酸デヒドロゲナーゼの製造方法。
[8] 大腸菌を、容器高の7割~8割まで培養液を入れた培養フラスコで、80rpm~100rpmで、穏やかに振盪培養することを含む、前記[6]または[7]に記載の製造方法。
[9] 培養が、2日間培養した場合に、培養液のOD600の値が1.8~3.1を示す条件で行われる、前記[8]に記載の製造方法。
【0020】
[10] 大腸菌由来の、膜貫通ドメインおよび膜サブユニットを欠損させた可溶型ギ酸デヒドロゲナーゼ。
[11] Mo型またはW型ギ酸デヒドロゲナーゼである、前記[10]に記載の可溶型ギ酸デヒドロゲナーゼ。
[12] (1)配列番号7および8に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド、または、
(2)該アミノ酸配列において、1~30個のアミノ酸が、欠失、置換または付加したアミノ酸配列からなり、かつ、ギ酸デヒドロゲナーゼ活性を有する、可溶型ギ酸デヒドロゲナーゼ。
【0021】
[13] 前記[10]~[12]のいずれか一項に記載の可溶型ギ酸デヒドロゲナーゼに直接またはリンカーを介して光合成反応中心蛋白質複合体(Photosystem I,PSI)のPsaEサブユニットが連結されてなる、光駆動型ギ酸デヒドロゲナーゼ。
[14] リンカーを有する、前記[13]に記載の光駆動型ギ酸デヒドロゲナーゼ。
[15] リンカーが、親水性アミノ酸を含むリンカーである、前記[14]に記載の光駆動型ギ酸デヒドロゲナーゼ。
[16] リンカーが、グリシン、セリン、プロリンから選択される1種または2種以上の親水性アミノ酸を含む、前記[15]に記載の光駆動型デヒドロゲナーゼ。
[17] リンカーが、6個~16個のアミノ酸からなる、前記[14]~[16]のいずれか一項に記載の光駆動型ギ酸デヒドロゲナーゼ。
【0022】
[18] 可溶型ギ酸デヒドロゲナーゼが、配列番号8に記載のポリペプチドにおいて、111位、114位、134位、138位、141位、150位および231位のアミノ酸の少なくとも1つが、親水性アミノ酸に置換されてなる、前記[13]~[17]のいずれか一項に記載の光駆動型ギ酸デヒドロゲナーゼ。
[19] アミノ酸の置換が、A111T、A114S、I134E、I134Q、Y138S、A141S、L150EおよびL150Qからなる群から選択される1種または2種以上である、前記[18]に記載の光駆動型ギ酸デヒドロゲナーゼ。
[20] アミノ酸の置換が、(1)A111T、A114S、I134E、Y138S、A141SおよびL150E、(2)A111T、A114S、I134E、Y138S、A141SおよびL150Q、または、(3)A111T、A114S、I134Q、Y138S、A141SおよびL150Eである、前記[19]に記載の光駆動型ギ酸デヒドロゲナーゼ。
【0023】
[21] さらにタグを有する、前記[13]~[20]のいずれか一項に記載の光駆動型ギ酸デヒドロゲナーゼ。
[22] タグが、Hisタグである、前記[21]に記載の光駆動型ギ酸デヒドロゲナーゼ。
[23] 前記[13]~[22]のいずれか一項に記載の光駆動型ギ酸デヒドロゲナーゼとPsaEサブユニットの欠損したPSIとを含む、光駆動ギ酸生産システム。
[24] 前記[23]に記載の光駆動ギ酸生産システムを用いた、ギ酸の生産方法。
[25] ギ酸の生産に用いる、PsaEサブユニットの欠損したPSI。
【発明の効果】
【0024】
本発明の可溶型ギ酸デヒドロゲナーゼの発現システムによれば、十分な比活性を有する可溶型Mo/Wギ酸デヒドロゲナーゼを提供することができる。特に、可溶型Mo/Wギ酸デヒドロゲナーゼを簡易かつ短期間に、そして大量に提供することができる。
また、プラスミドサイズが比較的小さく、遺伝子操作が容易であることから、例えば、ランダムライブラリーなどの多数のアミノ酸置換体のライブラリーを構築することなどが容易にできる。かかるライブラリーなどを用いることによって、有用な可溶型Mo/Wギ酸デヒドロゲナーゼ変異体の探索などを迅速に行うことができる。さらに、可溶型Mo/Wギ酸デヒドロゲナーゼの発現を制御するプロモーターを解析することにも有用である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1は、大腸菌ギ酸デヒドロゲナーゼの3次元立体構造を示す図である。
【図2】図2は、大腸菌のゲノム上に存在するギ酸デヒドロゲナーゼ遺伝子の構造を示す模式図である。ギ酸デヒドロゲナーゼ遺伝子は、大サブユニット、膜貫通ドメインを含む小サブユニットおよび膜サブユニットを夫々コードする3つの領域からなる。
【図3】図3は、本発明の可溶型ギ酸デヒドロゲナーゼの発現システムの一態様を示す模式図である。かかる発現システムにおいて、大腸菌ゲノム上のギ酸デヒドロゲナーゼ遺伝子は欠失している。プラスミドにおいて、大サブユニットおよび膜貫通ドメインを欠失した小サブユニットをコードする領域を含む。
【図4】図4は、本発明の可溶型ギ酸デヒドロゲナーゼの発現システムの一態様を示す模式図である。かかる発現システムにおいて、大腸菌ゲノム上のギ酸デヒドロゲナーゼ遺伝子は欠失している。プラスミドにおいて、大サブユニットおよび膜貫通ドメインを欠失した小サブユニットをコードする領域を含み、大サブユニットにおいて変異が導入されている。
【図5】図5は、ギ酸デヒドロゲナーゼ活性の測定結果を示す電気泳動図である。図中の記号は、夫々次の意味を有する;WT:野生型、△fdoI:ゲノム上のFDH-Oの膜サブユニットのみ破壊、△fdo:FDH-Oの活性サブユニット+膜サブユニット破壊、△fdo△fdn:FDH-OおよびFDH-Nの活性サブユニット+膜サブユニット破壊、△fdo△fdn+pBRfdoGHmst:FDH-Oの活性サブユニット+膜サブユニットをプラスミドに乗せて導入、△fdo△fdn+pUcfdoGHst:FDH-Oの活性サブユニット(膜貫通ドメインなし)を導入、△fdo△fdn+pUcfdoGHst’:変異を導入したFDH-Oの活性サブユニット(膜貫通ドメインなし)を導入。
【図6】図6は、PsaE・Mo/W-FDHのプラスミドおよび大腸菌に発現させた、fdoG遺伝子、fdoH遺伝子、リンカー、psaE遺伝子を組み込みんだ、大腸菌のプラスミドと(右図)、これにより作製されたPsaE融合ギ酸デヒドロゲナーゼ蛋白質を表す(左図)。
【図7】図7は、リンカーのアミノ酸数の変化させたときのPsaE・Mo/W-FDHのギ酸分解活性を示す電気泳動図である。各レーンにおいて、用いたリンカーは次のとおりである。レーン8:GGSGGSGG(配列番号15)、レーン10:GGSGGGGSGG(配列番号16)、レーン10s:GSSGSSGSSG(配列番号17)、レーン10P:GGSGGPGSGG(配列番号18)、レーン12:GGSGGGGSGGSG(配列番号19)、レーン12D:GGSGDGSGDGSG(配列番号20)、レーン12DK:GGSGDGSGKGSG(配列番号21)、レーン14:GGSGGGGSGGSGGG(配列番号22)。
【図8】図8は、リンカーのアミノ酸数の変化させたときのPsaE・Mo/W-FDHのギ酸分解活性を示す電気泳動図である。各レーンにおいて、aはGGSGG(配列番号23)からなるリンカー、bはGGSGGGGSGG(配列番号16)からなるリンカー、cはGGSGGSGGSGGGGSS(配列番号24)からなるリンカーをそれぞれ示す。
【図9】図9は、FDHにPsaEが直接またはリンカーを介したPsaE・Mo/W-FDHのギ酸分解活性を示す電気泳動図である。各レーンにおいて、1および25は、FDHを、2~24および26は、GGSGGGGSGG(10gs)(配列番号16)からなるアミノ酸配列を有するPsaE・Mo/W-FDHの変異体をそれぞれ示す。
【図10】図10は、StrepタグとHisタグのそれぞれの異なるタグで精製されたPsaE・Mo/W-FDH蛋白質の活性染色図である。各レーンは、左から、細胞破砕液をそのまま用いたサンプル、蛋白質精製する前の上清サンプル、蛋白質生成する前の沈殿サンプル、精製カラムに吸着しなかったサンプル、精製カラムから分離したサンプルのフラクション1~8をそれぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明のギ酸デヒドロゲナーゼの発現システムは、ギ酸デヒドロゲナーゼを大腸菌によって大量発現する。発現するギ酸デヒドロゲナーゼは、Mo型またはW型ギ酸デヒドロゲナーゼ(Mo/W-FDH)であり、少なくとも膜サブユニットがなく、好ましくは膜サブユニットおよび小サブユニットの膜貫通ドメインが欠損している。

【0027】
本発明のギ酸デヒドロゲナーゼの発現システムは、ゲノム中のギ酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を欠損した大腸菌、および、前記ギ酸デヒドロゲナーゼ遺伝子の膜貫通ドメインおよび膜サブユニットをコードする部分を欠損させた可溶型ギ酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を有するベクターを含む。

【0028】
本発明の発現システムに用いる大腸菌は、ゲノム中のギ酸デヒドロゲナーゼ遺伝子が欠損しており、例えば、E. coli Keio Knockout Strainsより購入可能な、FDH-O膜サブユニット(fdoI)破壊BW25113株を用いることができる。また、公知の方法により、当業者は、適宜、ゲノム中のギ酸デヒドロゲナーゼ遺伝子が欠損した大腸菌を調製することが可能である。

【0029】
大腸菌ギ酸デヒドロゲナーゼは、大サブユニット(活性サブユニット)、膜貫通ドメインを含む小サブユニット(電子伝達サブユニット)および膜サブユニットの3つのサブユニットから構成されている(図1、図2)。したがって、ゲノム中のギ酸デヒドロゲナーゼ遺伝子は、上記の大サブユニット、小サブユニットおよび膜サブユニットを夫々コードする3つの領域を有する。

【0030】
本発明の発現システムに用いるベクターは、大腸菌に形質転換可能で、目的蛋白質が発現可能であれば、特に限定されないが、好ましくは大腸菌のプラスミドに由来する。本発明の発現システムに用いるベクターは、例えば、pBR322、pUc18、pUc19、pET、pGEM、pMW、pACYCなどに由来し、常法により構築することができる。本発明の発現システムに用いるベクターは、大腸菌ギ酸デヒドロゲナーゼ遺伝子の大サブユニットをコードする領域および小サブユニットをコードする領域が組み込まれている。好ましくは本発明のベクターは、大サブユニットをコードする領域、および、膜貫通ドメインを除く小サブユニットをコードする領域が組み込まれている(図3)。特に好ましくは、本発明の発現システムに用いるベクターは、pUc fdoGHst’(配列番号6)である。また、プラスミド上の大サブユニットをコードする領域および/または小サブユニットをコードする領域の1個または2個以上の塩基が変異していてもよい。

【0031】
大腸菌のギ酸デヒドロゲナーゼ遺伝子としては、FDH-Oをコードするfdo遺伝子、FDH-Nをコードするfdn遺伝子が挙げられる。例えば、fdo遺伝子の大サブユニットをコードする領域(活性サブユニット遺伝子(fdoG))の塩基配列は、配列番号1に記載の塩基配列の166位~3216位に相当する。fdo遺伝子の小サブユニットをコードする領域(電子伝達サブユニット遺伝子(fdoH))の塩基配列は、配列番号1に記載の塩基配列の3229位~4161位に相当する。fdo遺伝子の膜貫通ドメインをコードする領域は、配列番号1に記載の塩基配列の3964位~4128位に相当する。

【0032】
本発明の発現システムによって得られるギ酸デヒドロゲナーゼは、可溶型ギ酸デヒドロゲナーゼであり、これをコードする可溶型ギ酸デヒドロゲナーゼ遺伝子は、例えば、配列番号1の166位~4161位に相当する塩基配列を有している。
本発明の可溶型ギ酸デヒドロゲナーゼは、典型的には、配列番号7および8に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、膜サブユニットを含まない。本発明の可溶型ギ酸デヒドロゲナーゼは、ギ酸デヒドロゲナーゼ活性を有していれば、前記配列番号7および8に記載のアミノ酸配列のうち、1個または複数個のアミノ酸が、欠失、置換または付加していてもよい。本発明の可溶型ギ酸デヒドロゲナーゼは、前記配列番号7および8に記載のアミノ酸配列において、1~30個、好ましくは、1~20個、とくに好ましくは、1~10個、さらに好ましくは、1~5個のアミノ酸が、欠失、置換または付加したアミノ酸配列からなり、かつ、ギ酸デヒドロゲナーゼ活性を有する。

【0033】
本発明の可溶型ギ酸デヒドロゲナーゼのアミノ酸置換体のうち、好ましくは、配列番号7のアミノ酸配列の32位のロイシンがプロリンに置換されたアミノ酸置換体、配列番号7のアミノ酸配列の533位のリジンがアルギニンに置換されたアミノ酸置換体、および、配列番号7のアミノ酸配列の32位のロイシンがプロリンに置換され、533位のリジンがアルギニンに置換されたアミノ酸置換体である。特に、配列番号7のアミノ酸配列の32位のロイシンがプロリンに、かつ、配列番号7のアミノ酸配列の533位のリジンがアルギニンに置換されたアミノ酸置換体は、高い酵素活性が得られるので好ましい。

【0034】
本発明は、一態様において、可溶型ギ酸デヒドロゲナーゼの製造方法に関する。
本発明にかかる可溶型ギ酸デヒドロゲナーゼの製造方法は、ゲノム中のギ酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を欠損した大腸菌に、前記ギ酸デヒドロゲナーゼ遺伝子の膜貫通ドメインおよび膜サブユニットをコードする部分を欠損させた可溶型ギ酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を有するベクターを挿入し、該ベクターが挿入された前記大腸菌を培養することを含む。

【0035】
本発明の可溶型ギ酸デヒドロゲナーゼの製造方法において、大腸菌の培養は常法で行うことができるが、エアレーションに関し、激しくエアレーションを行うよりも、比較的穏やかな条件でエアレーションを行いながら培養するのが好ましい。
例えば、大腸菌を、容器高の7割~8割まで培養液を入れた培養フラスコで、80rpm~100rpmで、穏やかに振盪培養することによって、より活性の高い可溶型ギ酸デヒドロゲナーゼをより多く得ることができる。例えば、100mL三角フラスコであれば、約70mLの培養液を入れ、80rpm振盪する。振盪培養には、各種の形状および各種のサイズの容器を用いることができるが、好ましくは、三角フラスコを用いることができる。三角フラスコのサイズは、10mL、50mL、100mL、200mL、250mL、300mL、500mL、1L、2L、3Lなど任意のものを用いることができる。大量培養する場合は、これらの三角フラスコを同比率に拡大した容器を用いることもできる。簡便に培養するためには、100mL~500mL程度、好ましくは、100mL~300mL程度のサイズの三角フラスコを用いることが好ましい。
さらに培養終了時の目安は、OD600の値が、比活性および収量の観点から1.8~3.1であるときが好ましい。

【0036】
本発明の可溶型ギ酸デヒドロゲナーゼは、直接またはリンカーを介して光合成反応中心蛋白質複合体(Photosystem I,PSI)のサブユニットが連結されてなる、光駆動型ギ酸デヒドロゲナーゼとして用いることができる。
ここで、光合成反応中心蛋白質複合体とは、光合成における光化学系1の反応中心となる蛋白質複合体であり、PsaA、PsaB、PsaC、PsaD、PsaE、PsaF、PsaG、PsaH、PsaI、PsaJ、PsaK、PsaL、PsaM、PsaN、PsaO、PsaP、PsaX、Lhca1、Lhca2、Lhca3、Lhca4、Lhca5、Lhca6、Lhca7、Lhca8、Lhca9などの各種のサブユニットから構成される(高橋裕一郎、光合成研究21(1)、2011年、27~34頁)。

【0037】
本発明において、可溶型ギ酸デヒドロゲナーゼに連結される、光合成反応中心蛋白質複合体のサブユニットは、PsaCサブユニット、PsaDサブユニット、PsaEサブユニットが好ましく、PsaEサブユニットがより好ましい。
また、光駆動によるギ酸の生産に用いるPSIは、可溶型ギ酸デヒドロゲナーゼに連結されるサブユニットが欠損したものが好ましく、PsaEサブユニットの欠損したPSIが特に好ましい。

【0038】
またリンカーを介する場合は、当該リンカーは、蛋白質やサブユニットなどを連結するリンカーとして用い得るものであれば特に限定されないが、好ましくはアミノ酸を含むリンカーであり、より好ましくはアミノ酸からなるリンカーである。また、リンカーにアミノ酸が含まれる場合は、少なくとも6個以上のアミノ酸を含むか、または、16個以下のアミノ酸が好ましい。また、安定性の観点から、6~16個のアミノ酸が好ましく、8~14個のアミノ酸がより好ましい。なお、リンカーに複数のアミノ酸が含まれる場合は、アミノ酸同士が連続していてもよく、連続していなくてもよい。

【0039】
さらに、可溶型ギ酸デヒドロゲナーゼと光合成反応中心蛋白質複合体のサブユニットのリンカーの位置は、後述するサブユニットの欠損したPSIと会合できれば良いことから、可溶型ギ酸デヒドロゲナーゼの活性を失わせる位置でないならば、任意の位置でよい。なお、アミノ酸をリンカーとして用いる場合は、可溶型ギ酸デヒドロゲナーゼのC末端に前記リンカーを直接連結することが好ましい。

【0040】
アミノ酸の種類としては、親水性アミノ酸がグリシン、セリン、プロリンから選択される1種または2種以上の親水性アミノ酸を含むことが好ましく、とりわけグリシンおよび/またはセリンが含まれていることがより好ましい。さらに、グリシンおよび/またはセリンが5個以上含まれることが特に好ましい。

【0041】
光駆動型ギ酸デヒドロゲナーゼとは、ギ酸デヒドロゲナーゼとPSIのサブユニットとが連結し、ギ酸デヒドロゲナーゼとPSIとの複合体を形成して、光駆動により、ギ酸を生成し得るギ酸デヒドロゲナーゼをいう。安定性の観点から、光駆動型ギ酸デヒドロゲナーゼを構成するfdoHのアミノ酸に変異が存在することが好ましい。前記アミノ酸の変異は、典型的には、他のアミノ酸に置換されることであるが、例えば、アミノ酸が化学修飾された変異であってもよい。変異の存在するアミノ酸の数は、少なくとも1個以上であればよいが、5個以上が好ましく、6個以上がより好ましい。また、変異の存在するアミノ酸の数は、ギ酸デヒドロゲナーゼ活性が維持されれば、とくに限定されないが、50個以下でが好ましく、30個以下が特に好ましい。

【0042】
またfdoHの変異を有する領域は、fdoHの領域内であれば、特に限定されないが、fdoIとの境界または境界近く、すなわち配列番号8に記載のポリペプチドにおいては、76~165位または226~236位にあることが好ましく、109~152位、229位~233位にあることがより好ましい。より具体的には、例えば、111位、114位、134位、138位、141位、150位、231位のアミノ酸の1つ若しくは2つ以上、または全部に変異があることが好ましく、さらには、111位、114位、134位、138位、141位、150位の1つ若しくは2つ以上、または全部に変異があることが特に好ましい。

【0043】
さらに変異させる対象となるアミン酸は、疎水性アミノ酸を対象とすることが好ましく、アラニン(A)、ロイシン(L)、チロシン(Y)、イソロイシン(I)、プロリン(P)、システイン(C)を対象とすることがより好ましく、アラニン、ロイシン、チロシンを対象とすることがより好ましい。

【0044】
また置換するアミノ酸としては、親水性アミノ酸へ置換させることが好ましく、トレオニン(T)、セリン(S)、グルタミン酸(E)、グルタミン(Q)、アルギニン(R)、トリプトファン(W)、グリシン(G)、メチオニン(M)、アスパラギン酸(D)のアミノ酸または修飾されたアミノ酸へ置換させることが好ましく、トレオニン、セリン、グルタミン酸、グルタミン、アルギニンへの置換がより好ましい。アミノ酸の置換は、典型的には、1つのアミノ酸に対して、1つのアミノ酸を置換することで行われるが、例えば、1つのアミノ酸に対して、1~3個程度のアミノ酸を置換してもよい。

【0045】
とりわけ、アミノ酸の置換が、111位のアラニンがトレオニン、114位のアラニンがセリン、134位のイソロイシンがグルタミン酸、134位のイソロイシンがグルタミン、138位のチロシンがセリン、141位のアラニンがセリン、150位のロイシンがグルタミン酸および150位のロイシンがグルタミンからなる群から選択される1種または2種以上である、光駆動型ギ酸デヒドロゲナーゼが好ましい(但し、前記の134位のイソロイシンからグルタミン酸への置換とイソロイシンからグルタミンへの置換や、150位のロイシンからグルタミン酸への置換とロイシンからグルタミンへの置換は、それぞれ同時に起こらないことは言うまでもない)。

【0046】
さらにアミノ酸の置換が、(1)111位のアラニンがトレオニン(A111T)、114位のアラニンがセリン(A114S)、134位のイソロイシンがグルタミン酸(I134E)、138位のチロシンがセリン(Y138S)、141位のアラニンがセリン(A141S)および150位のロイシンがグルタミン酸(L150E)、(2)111位のアラニンがトレオニン(A111T)、114位のアラニンがセリン(A114S)、134位のイソロイシンがグルタミン酸(I134E)、138位のチロシンがセリン(Y138S)、141位のアラニンがセリン(A141S)および150位のロイシンがグルタミン(L150Q)、または、(3)111位のアラニンがトレオニン(A111T)、114位のアラニンがセリン(A114S)、134位のイソロイシンがグルタミン酸(I134Q)、138位のチロシンがセリン(Y138S)、141位のアラニンがセリン(A141S)および150位のロイシンがグルタミン酸(L150E)である、光駆動型ギ酸デヒドロゲナーゼがより好ましい。

【0047】
光駆動型ギ酸デヒドロゲナーゼは、精製などの目的でタグを有していてもよく、好ましくは、Hisタグ、Strepタグ、T7タグであり、精製効率および精製蛋白質の安定性の観点から、Hisタグがより好ましく、Hisx6がさらに好ましい。

【0048】
本発明の光駆動ギ酸生産システムは、可溶型ギ酸デヒドロゲナーゼにPSIのサブユニットを連結させた光駆動型ギ酸デヒドロゲナーゼと、サブユニットの欠損したPSIとを含む。本発明の光駆動ギ酸生産システムに用い得るPSIは、光合成に必要なPSI機能を有していれば、いずれの生物種由来のものでもよい。

【0049】
PSIにおいて欠損したサブユニットは、当該サブユニットの欠損したPSIが光駆動型ギ酸デヒドロゲナーゼと会合でき、光合成に必要なPSI機能を発揮できればよいことから、かかる会合と機能の発揮が担保できれば、可溶型ギ酸デヒドロゲナーゼに連結させたPSIのサブユニットと、PSIにおいて欠損したサブユニットとは、必ずしも一致する必要はない。さらに、前記欠損は、サブユニットの全てを欠損している必要はなく、光駆動型ギ酸デヒドロゲナーゼが、会合できる程度の一部の欠損であってもよい。

【0050】
光駆動型ギ酸デヒドロゲナーゼと会合させる立体的な空間を設けるとの観点から、可溶型ギ酸デヒドロゲナーゼに連結させたPSIのサブユニットと、PSIにおいて欠損したサブユニットとは一致していることが好ましい。かかるサブユニットとしては、PsaEサブユニットが好ましい。

【0051】
上記システムによる、ギ酸の生産方法について、光駆動型ギ酸デヒドロゲナーゼとサブユニットの欠損したPSIとを会合させるためには、混和させるだけでも十分であるが、混合促進剤、界面活性剤、蛋白質安定化剤などを入れてもよい。例えば、ポリエチレングリコール(PEG)、Triton X-100、アルブミン、スクロースなどを入れてもよい。また、ギ酸を生成させる反応環境は、通常の既知の方法で整えることができるが、蛋白質分解を防ぐという観点から、無菌的であることが好ましい。

【0052】
以下、本発明について、さらに詳細に実施例を用いて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0053】
1.プラスミドコンストラクション
pBR322およびpUc19は、タカラバイオ株式会社から購入した。pBR322への大腸菌由来ギ酸デヒドロゲナーゼ(FDH-O)に関連する活性サブユニット遺伝子(fdoG)および電子伝達サブユニット遺伝子(fdoH)の組み込みは以下の通り行った。
まず、大腸菌から抽出したゲノムDNAを鋳型とし、EcoRI-Fdo-F145プライマー(配列番号9)と、EcoliFdoH-St-Rプライマー(配列番号10)を用いたPCRによって、DNA断片1(配列番号1)を得た。この断片と、EcoRIとSalIで切断したpBR322を等モルで混合し、In-fusion kit(タカラバイオ株式会社)を用いて連結することで、pBR fdoGHmst(配列番号2)を得た。
【実施例】
【0054】
pUc19へのfdoGおよび、膜貫通ドメインを欠失したfdoHの組み込みは以下の通り行った。
まず、pBR fdoGHmstを鋳型とし、fdo145 pUcプライマー(配列番号11)と、fdoH st rvプライマー(配列番号12)を用いたPCRによって、DNA断片2(配列番号3)を得た。次に、pUC plac rvプライマー(配列番号13)とpUC st forプライマー(配列番号14)を用いて、pUc19を鋳型としたインバースPCRによって、DNA断片3(配列番号4)を得た。DNA断片2および3を混合し、In-fusion kit(タカラバイオ株式会社)を用いて連結することで、pUc fdoGHst(配列番号5)を得た。
【実施例】
【0055】
また、DNA断片2の増幅の際に、複製エラー頻度の高いKODFX DNAポリメラーゼ(東洋紡株式会社)を用いて、pUc fdoGHstの作製と同様の操作を行うことで、pUc fdoGHst’変異体のライブラリーを得た。
【実施例】
【0056】
配列番号1~8に示す塩基配列の主な特徴について以下に示す。
[配列番号1](pBR fdoGHmst)1位~37位:EcoRI-Fdo-F145プライマー/166位~3216位:活性サブユニット/3229位~4161位:電子伝達サブユニット/4114位~4178位:EcoliFdoH-St-Rプライマー。
[配列番号2]26位~62位:EcoRI-Fdo-F145プライマー/191位~3241位:活性サブユニット/3254位~4185位:電子伝達サブユニット/4139位~4203位:EcoliFdoH-St-Rプライマー。
[配列番号3]162位~3212位:活性サブユニット/3225位~3974位:電子伝達サブユニット/3960位~3974位:ストレプタグの一部。
[配列番号4]1位~30位:ストレプタグ/34位~2250位:pUcプラスミド。
[配列番号5](pUc fdoGHst)2252位~5302位:活性サブユニット/5315位~6049位:電子伝達サブユニット/6050位~6079位:ストレプタグ。/2197位:(変異なし)c/2346位:(変異なし)t。
[配列番号6](pUc fdoGHst’)2252位~5302位:活性サブユニット/5315位~6049位:電子伝達サブユニットpUc/6050位~6079位:ストレプタグ/2197位:(変異あり)c→t/2346位:(変異あり)t→c。
[配列番号7](活性サブユニット)195位:セレノシステイン。
[配列番号8](電子伝達サブユニット)。
【実施例】
【0057】
上記のプラスミドの作製などで用いた各プライマーの塩基配列は、次表のとおりである。
【表1】
JP2015130855A_000003t.gif
【実施例】
【0058】
2.大腸菌Mo/W-FDH遺伝子破壊株
大腸菌BW25113株、および、FDH-O膜サブユニット(fdoI)破壊BW25113株は、E. coli Keio Knockout Strainsから購入した。
FDH-OおよびFDH-N遺伝子破壊BW25113株は、常法により作製し、単離した。
【実施例】
【0059】
3.培地の調製
LB寒天培地は、LB培地(ナカライテスク株式会社)12.5g、寒天末(ナカライテスク株式会社)7.5g、イオン交換水500mlを混合し、オートクレーブ後、シャーレに分注して、固化させるという操作によって調製した。
LB培地(液体)は、LB培地(ナカライテスク株式会社)20gとイオン交換水1000mlを混合し、オートクレーブすることで作製した。
SOC培地(液体)は、Bacto Tryptone 20g、Yeast Extract 5g、5M NaCl 2ml、2M KCl 1.25mlおよびイオン交換水990mlを混合し、オートクレーブ後、さらに2M Mg solution(1M MgSO・7HO+1M MgCl・6HO)を10mlおよび2Mグルコース溶液10mlを加えて、調製した。
【実施例】
【0060】
4.形質転換体の培養
FDH-OおよびFDH-N遺伝子破壊BW2511株へのpBR fdoGHstおよびpUc fdoGHst’の導入は、通常のケミカル形質転換で行った。形質転換体は、150mlの100μg/mlアンピシリン含有LB培地が入った200ml三角フラスコに植菌し、37℃、振盪速度90rpm、振盪幅2.5センチで微好気的に培養した。約50時間後、600nmのODが約2~3に達した時点で、菌体を回収した。
【実施例】
【0061】
5.ギ酸デヒドロゲナーゼ活性測定
ギ酸デヒドロゲナーゼ(FDH)活性は、細胞破砕をNative-PAGEで分離後、活性染色によって評価した。
Native-PAGEゲルは、4.5mlイオン交換水、3.8ml 30%Acrylamide(ナカライテスク株式会社)、2.8ml 1.5M Tris-HCl(pH8.8)、0.11ml 1%TritonX-100を混合し、テトラメチルエチレンジアミンと過硫酸アンモニウムで重合を開始させて作製した。泳動バッファーは、3gトリスヒドロキシメチルアミノメタン、14.4gグリシン、1ml TritonX-100をイオン交換水に溶解させ、pHを8.3に調節後、容量を1Lに合わせて、調製した。電気泳動は、ゲル一枚につき20mAの定電流で、4℃のコールドルーム内で行った。泳動後は、ゲルを活性染色液(50mM Tris-HCl(pH7.6)、2mMベンジルビオローゲン、2mMニトロブルーテトラゾリウム(NitroBlue tetrazolium)、0.2Mギ酸ナトリウム、0.1%TritonX-100)に浸して、窒素ガス雰囲気下に数時間置くことで、FDH活性によるニトロブルーテトラゾリウムの還元と色素沈着によって形成されたバンドを写真撮影した。
【実施例】
【0062】
6.ギ酸デヒドロゲナーゼ活性の評価
BW2511株(WT)、FDH-O膜サブユニット破壊株(△fdoI)、FDH-O破壊株(△fdo)、FDH-O/FDH-N破壊株(△fdo△fdn)、FDH-O/FDH-N破壊株に、pBR fdoGHmst、pUc fdoGHst、もしくはpUcfdoGHst’を導入した形質転換体の活性測定の結果を図5に示す。
【実施例】
【0063】
レーン1(WT)の野生型のFDHでは、膜サブユニットおよび膜貫通ドメインを有するために、膜蛋白質が可溶化せずに、FDH-OおよびFDH-Nの両者が不溶型であることが確認された。
レーン2(△fdoI)の大腸菌のゲノム上のFDH-Oの膜サブユニットのみを破壊した株では、FDH-Nが可溶化せずに残存しているが、FDH-Oでは膜サブユニットがないことから、活性を有する可溶型FDH(大サブユニットおよび膜貫通ドメインを有する小サブユニット)が観察された。
【実施例】
【0064】
レーン3(△fdo)の大腸菌のゲノム上のFDH-Oの活性サブユニットを破壊した株では、FDH-Nが観察された。FDH-O遺伝子自体が破壊されているため、可溶型FDHは観察されないと考えられる。
レーン4(△fdo△fdn)の大腸菌のゲノム上のFDH-OおよびFDH-Nを破壊した株(FDH遺伝子の大サブユニット、小サブユニット、および膜サブユニットのすべてが破壊されている)では、野生型と比べて不溶型FDHも可溶型FDHもいずれも観察されないことから、かかる遺伝子が破壊されていることがわかる。
【実施例】
【0065】
レーン5(△fdo△fdn+pBRfdoGHmst)の大腸菌のゲノム上のFDH-OおよびFDH-Nを破壊した株に、FDH-Oの活性サブユニットを導入した場合では、膜貫通ドメインを有し、活性を有する可溶型FDH(FDH-O)が観察された。
レーン6(△fdo△fdn+pUcfdoGHst)の大腸菌のゲノム上のFDH-OおよびFDH-Nを破壊した株に、膜貫通ドメインを破壊したFDH-Oの活性サブユニットを導入した場合では、可溶型FDHは観察されなかった。
【実施例】
【0066】
レーン7(△fdo△fdn+pUcfdoGHst’)の大腸菌のゲノム上のFDH-OおよびFDH-Nを破壊した株に、膜貫通ドメインを破壊したFDH-Oの活性サブユニットで、プロモーターに変異を導入した場合では、膜貫通ドメインをもたない活性を有する可溶型FDHが観察された。
【実施例】
【0067】
レーン5(△fdo△fdn+pBRfdoGHmst)とレーン6(△fdo△fdn+pUcfdoGHst)から、膜貫通ドメインを有しているFDHプラスミドを導入した場合、膜貫通ドメインを有していないFDHプラスミドを導入に比べて、活性が高いことがわかる。また、レーン6(△fdo△fdn+pUcfdoGHst)とレーン7(△fdo△fdn+pUcfdoGHst’)から、FDH遺伝子プラスミドおよびそのプロモーターを導入しただけでは、可溶型FDHがほとんど発現しないことがわかる。
【実施例】
【0068】
以上の結果から、膜サブユニットを破壊することで、可溶性FDH-Oが生成することがわかる。また、FDH-O/FDH-N破壊株ではFDHに由来する活性が観察されなくなったが、pBR fdoGHmstを導入することで、僅かに活性が観察され、宿主ベクター系による可溶型FDH-Oの調製に成功したことが明らかとなった。しかし、膜貫通ドメインをコードする配列を削除したpUc fdoGHstを導入することで、再び活性がほとんど見られなくなった。そこで、pUc fdoGHstにランダムな変異を導入する目的で、複製エラー頻度の高いポリメラーゼでDNA断片を増幅しなおし、再びpUc19に導入して得られた多数のプラスミドを、FDH-O/FDH-N破壊株に導入し、それぞれ評価を行った。その結果、活性が回復した膜貫通ドメイン欠失可溶型FDH-Oの調製に成功したことが確認された。高い活性が示したプラスミドpUc fdoGHst’の変異個所を調べた結果、2197位において、cがtへ、2346位において、tがcへの変異が確認できた。
【実施例】
【0069】
このことから、単に膜貫通ドメインを有していないFDHプラスミドを導入しただけでは、可溶型FDHを大量に発現させることができず、FDH遺伝子プラスミドのプロモーターに特定の変異を入れ、FDH遺伝子プラスミドの発現を適切に調節することによって、高い活性を有する可溶型FDHを大量に発現させることができることがわかる。
【実施例】
【0070】
7.PsaE・Mo/W-FDHの構築とリンカーの検討
光合成反応中心蛋白質複合体における光誘起電子移動と可溶型ギ酸デヒドロゲナーゼの二酸化炭素還元能(ギ酸生産能)を組み合わせた光駆動ギ酸生産を目的とし、可溶型ギ酸デヒドロゲナーゼ(FDH)をPSIに組み込んだFDH-PSI複合体を構築するため、可溶型ギ酸デヒドロゲナーゼのサブユニット(fdoH)にPSIを構成するサブユニットの一つであるPsaEサブユニット組み込むことを検討した。また、可溶型ギ酸デヒドロゲナーゼと光合成反応中心蛋白質複合体のサブユニットを介するリンカーを検討した。
【実施例】
【0071】
PsaEサブユニット遺伝子(ssr2831)は、Synechocystis sp. PCC 6803ゲノム(Pasteur Culture Collection(PCC)から入手可能)を鋳型にしたPCRによって得ることができ、これを上記と同様にfdoH遺伝子と組み合わせ、さらにfdoH遺伝子とPsaE遺伝子との間にアミノ酸リンカーが挿入されるように、PsaE・Mo/W-FDHを作製し(図6左図)、上記と同様に大腸菌にて発現させた(図6右図)。
【実施例】
【0072】
アミノ酸リンカーとして、
図7の8と表示されたレーンには、[配列番号15]グリシン-グリシン-セリン-グリシン-グリシン-セリン-グリシン-グリシン(GGSGGSGG:Gly-Gly-Ser-Gly-Gly-Ser-Gly-Gly)(8アミノ酸)、
図7の10と表示されたレーンには、[配列番号16]グリシン-グリシン-セリン-グリシン-グリシン-グリシン-グリシン-セリン-グリシン-グリシン(GGSGGGGSGG:Gly-Gly-Ser-Gly-Gly-Gly-Gly-Ser-Gly-Gly)(10アミノ酸)
図7の10sと表示されたレーンには、[配列番号17]グリシン-セリン-セリン-グリシン-セリン-セリン-グリシン-セリン-セリン-グリシン(GSSGSSGSSG:Gly-Ser-Ser-Gly-Ser-Ser-Gly-Ser-Ser-Gly)(10アミノ酸)、
図7の10Pと表示されたレーンには、[配列番号18]グリシン-グリシン-セリン-グリシン-グリシン-プロリン-グリシン-セリン-グリシン-グリシン(GGSGGPGSGG:Gly-Gly-Ser-Gly-Gly-Pro-Gly-Ser-Gly-Gly)(10アミノ酸)、
【実施例】
【0073】
図7の12と表示されたレーンには、[配列番号19]グリシン-グリシン-セリン-グリシン-グリシン-グリシン-グリシン-セリン-グリシン-グリシン-セリン-グリシン(GGSGGGGSGGSG:Gly-Gly-Ser-Gly-Gly-Gly-Gly-Ser-Gly-Gly-Ser-Gly)(12アミノ酸)、
図7の12Dと表示されたレーンには、[配列番号20]グリシン-グリシン-セリン-グリシン-アスパラギン酸-グリシン-セリン-グリシン-アスパラギン酸-グリシン-セリン-グリシン(GGSGDGSGDGSG:Gly-Gly-Ser-Gly-Asp-Gly-Ser-Gly-Asp-Gly-Ser-Gly)(12アミノ酸)、
図7の12DKと表示されたレーンには[配列番号21]グリシン-グリシン-セリン-グリシン-アスパラギン酸-グリシン-セリン-グリシン-リジン-グリシン-セリン-グリシン(GGSGDGSGKGSG:Gly-Gly-Ser-Gly-Asp-Gly-Ser-Gly-Lys-Gly-Ser-Gly)(12アミノ酸)、
【実施例】
【0074】
図7の14と表示されたレーンには、[配列番号22]グリシン-グリシン-セリン-グリシン-グリシン-グリシン-グリシン-セリン-グリシン-グリシン-セリン-グリシン-グリシン-グリシン(GGSGGGGSGGSGGG:Gly-Gly-Ser-Gly-Gly-Gly-Gly-Ser-Gly-Gly-Ser-Gly-Gly-Gly)(14アミノ酸),
図8のaと表示されたレーンには、[配列番号23]グリシン-グリシン-セリン-グリシン-グリシン(GGSGG:Gly-Gly-Ser-Gly-Gly)(5アミノ酸)、
図8のbと表示されたレーンには、上記配列番号16のアミノ酸(GGSGGGGSGG:Gly-Gly-Ser-Gly-Gly-Gly-Gly-Ser-Gly-Gly)リンカーを使用、
図8のcと表示されたレーンには、[配列番号24]グリシン-グリシン-セリン-グリシン-グリシン-セリン-グリシン-グリシン-セリン-グリシン-グリシン-グリシン-グリシン-セリン-セリン(GGSGGSGGSGGGGSS:Gly-Gly-Ser-Gly-Gly-Ser-Gly-Gly-Ser-Gly-Gly-Gly-Gly-Ser-Ser)(15アミノ酸)をそれぞれ用いた。
【実施例】
【0075】
大腸菌で発現したPsaE・Mo/W-FDHを、上記と同様に抽出し、上記と同様にNative-PAGEで泳動し、ギ酸分解活性を観察した。その結果、いずれのリンカーを有するPsaE・Mo/W-FDHも活性を有し、PsaE・Mo/W-FDHの安定性が増していることが示された。特に10アミノ酸のリンカーを有するPsaE・Mo/W-FDHは、他に比べて、細胞内での発現が増した(図7)。
【実施例】
【0076】
8.変異体の作出および該変異体の安定性
fdoHの領域の111位のアラニン(A)、114位のアラニン(A)、134位のイソロイシン(I)、138位のチロシン(Y)、141位のアラニン(A)、150位ロイシン(L)のアミノ酸を他のアミノ酸へ置換して、それぞれの変異体を作出し、評価した。その結果、特に、111位のアラニンをトレオニン、114位のアラニンをセリン、134位のイソロイシンをグルタミンン酸、138位のチロシンをセリン、141位のアラニンをセリン、かつ、150位ロイシンをグルタミン酸に置換した変異体(A111T/A114S/I134E/Y138S/A141S/L150E)、111位のアラニンをトレオニン、114位のアラニンをセリン、134位のイソロイシンをグルタミン酸、138位のチロシンをセリン、141位のアラニンをセリン、かつ、150位ロイシンをグルタミンに置換した変異体(A111T/A114S/I134E/Y138S/A141S/L150Q)、ならびに、111位のアラニンをトレオニン、114位のアラニンをセリン、134位のイソロイシンをグルタミン、138位のチロシンをセリン、141位のアラニンをセリン、かつ、150位ロイシンをグルタミ酸に置換した変異体(A111T/A114S/I134Q/Y138S/A141S/L150E)の各変異体の安定性が増すことが示された(図9)。なお、図9の記号は、FDHは、配列番号7および8の蛋白質、stは、Strepタグ、HisはHisタグ、10gsは、上記配列番号16のアミノ酸(Gly-Gly-Ser-Gly-Gly-Gly-Gly-Ser-Gly-Gly:GGSGGGGSGG)からなるリンカー、PsaEは、PsaEサブユニットをそれぞれ表す。FDH括弧書きは、数字がFDHの置換したアミノ酸の位置、数字の前のアルファベットが置換前のアミノ酸、数字の後のアルファベットが置換後のアミノ酸をそれぞれ表す。またMEDはメチオニン-グルタミン酸-アスパラギン酸を表す。
【実施例】
【0077】
9.タグの検討
PsaE・Mo/W-FDHに、Strepタグ(商品名:Strep-TagII)とHisタグ(Hisx6)との比較実験を行った。PsaE・Mo/W-FDHを発現させた大腸菌から、上記と同様に細胞破砕液を得た。さらに遠心分離処理し、その後、ニッケルキレートカラムもしくはストレプタクチンカラムを用いて、PsaE・Mo/W-FDHを精製し、上記と同様にギ酸分解活性を観察した。蛋白質の安定性は、1~4日間4℃放置し、その活性を調べて評価した。さらに活性の強さおよび収量は、イメージアナライザー(Image J)を使用し、バンドの濃さを定量して評価した。
その結果、Strepタグを有するPsaE・Mo/W-FDHは、細胞破砕液およびその上清には存在するものの、その後沈殿し、さらにはカラムを通しても、素通りしてしまうことが示された。しかし、Hisタグの場合は、ほとんど沈殿せず、さらにカラムに吸着することが示された。すなわち、Strepタグに特異的なストレプタクチンを用いたPsaE・Mo/W-FDHより、StrepタグをHisタグ(Hisx6)に変えたPsaE・Mo/W-FDHの方が、沈殿が少ないことから、PsaE・Mo/W-FDHの安定性が増していることが示され、さらにその精製の効率が10~20倍良いことが示された(図10)。
【実施例】
【0078】
10.ギ酸の生産
PsaE破壊株(Prof. N. Nelson (Roche Institution of Molecular Biology)から入手)から、ドデシルβD-マルトシドで可溶化し、PsaEサブユニットの欠損したPSI蛋白質を抽出し、上記と同様に得らえたPsaE・Mo/W-FDHを混合し、420nm以下の波長をカットしたハロゲンライトを用いて光を照射した。その結果、電気伝導度検出によるイオンクロマトによってギ酸が生成したことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明の可溶型Mo/W-FDHは、NAD(H)やNADP(H)に依存しないで電子の授受を行うことができ、電極や光触媒などとの直接電子伝達が可能である。また、可溶型であって、大腸菌のような培養の容易な微生物により大量生産することができ、産業的に高い価値を有する。また、アミノ酸置換を容易に行うことが可能となり、新しいMo/W-FDHアミノ酸置換体など有用なギ酸デヒドロゲナーゼの創製が可能である。さらに、創製されたギ酸デヒドロゲナーゼを利用することにより、化学製造によらず、光駆動にて、ギ酸を効率よく製造することができる。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
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【図8】
7
【図9】
8
【図10】
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