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明細書 :吸着速度測定方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2016-133395 (P2016-133395A)
公開日 平成28年7月25日(2016.7.25)
発明の名称または考案の名称 吸着速度測定方法
国際特許分類 G01N   7/02        (2006.01)
FI G01N 7/02
請求項の数または発明の数 4
出願形態 OL
全頁数 7
出願番号 特願2015-008204 (P2015-008204)
出願日 平成27年1月20日(2015.1.20)
発明者または考案者 【氏名】飯山 拓
【氏名】伊藤 博光
出願人 【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
審査請求 未請求
要約 【課題】 時間微分等の複雑な処理を行うことなく、簡易な構成、方法により高精度に多孔体への吸着速度を測定する方法を提供する。
【解決手段】 サンプルセル内の圧力に基づいて、装置内の目的流体の流量を調整する圧力フィードバック法を用いて、吸着剤試料への目的流体の吸着速度を測定する。本発明に係る測定方法によれば、サンプルセルへの目的流体の導入流量および排出流量と、所定の定数を用いた簡易な演算処理により、微分等の処理を経ることなく、直接吸着速度を算出することが可能となる。
【選択図】 図2
特許請求の範囲 【請求項1】
吸着剤試料を格納するサンプルセルと、
該サンプルセルに所望の流量で目的流体を導入する導入部と、
前記サンプルセルから前記目的流体を所望の流量で排出する排出部と、
前記サンプルセル内の圧力を測定する圧力測定部を備える測定装置を用い、
前記吸着剤試料が格納された前記サンプルセル内に前記目的流体を導入し、前記目的流体の圧力で所望の圧力で一定に保つステップと、
前記目的流体の導入量または排出量の少なくともいずれか一方の量を変化させ、前記サンプルセル内の前記目的流体の圧力を変化させるステップと、
前記目的流体の圧力を変化させた際の、前記サンプルセル内への目的流体の導入流量、前記サンプルセル内からの目的流体の排出流量の差を用いて、前記吸着剤試料への目的流体の吸着速度を算出するステップと、
を備えることを特徴とする、吸着速度測定方法。
【請求項2】
前記吸着速度を算出するステップにおいて、目的流体の吸着速度を下記の式で算出することを特徴とする、請求項1記載の吸着速度測定方法。
【数1】
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式中、導入流量fiintroは、目的流体の導入流量、fioutは、目的流体の排出流量、P°は標準圧力(P°=101.3kPa)、T°は標準温度(T°=298.15K)、Rはガス定数(R=8.31JK-1mol-1)である。
【請求項3】
前記サンプルセル内の前記目的流体の圧力を所望の圧力で一定に保つステップの前工程として、目的流体の導入を行わずに排出を行い、サンプルセル内を減圧するステップと、
をさらに備えることを特徴とする、請求項1または2記載の吸着速度測定方法。
【請求項4】
前記吸着剤試料が、多孔質固体試料であることを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項記載の吸着速度測定方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、吸着速度測定方法に関する。具体的には、多孔質試料へ物質を吸着させる際の吸着速度を、簡易な方法で高精度に測定するための測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
流体の多孔体への吸着現象は、物質の貯蔵、分離、精製等に広く利用されている。特に物質の分離においては、分子種による吸着量の違いを利用した平衡分離が知られており、これまで本発明者らは、多孔性物質の吸着量等の吸着特性を、圧力フィードバック方式を用いて測定するための測定装置および測定方法について報告している(特許出願1)。
【0003】
一方、上記の平衡分離に加え、目的流体の分子種による吸着速度の違いを利用した速度分離が、近年多くの関心を集めている。吸着速度分離は、加熱や冷却のプロセスを必要とせず、エネルギーの消費が少ない圧力の制御のみで物質を分離できるため、Pressure Swing Adsorption(PSA)法による空気の窒素、酸素への分離をはじめとして、広く工業的に利用されている。
【0004】
吸着速度の測定方法としては、これまでに、吸着剤試料を格納した容器中に目的流体を流通させた上で、重量天秤により吸着剤試料の重量変化を測定する方法が報告されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】特開2007-64731号公報
【0006】

【非特許文献1】Reid,C,R.;O'koye,I.P.;Thomas,K.M.Adsorption of Gases on Carbon Molecular Sieves Used for Air Separation. Spherical Adsorption as Probes for Kinetics Selectivity. Langmuir,1998,14,2415-2425.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非特許文献1記載の方法は、吸着剤試料への吸着量を直接測定することが可能なため、吸着速度と吸着量とを一度に測定することができる。しかし、吸着量から吸着速度を得るためには、得られた吸着量の時間微分を行う必要があるため、測定精度は高くなく、あわせて、吸着過程を追った詳細な測定が困難であるという課題があった。また、こうした測定を自動化すると、測定装置が高価になってしまうという課題があった。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、簡易な構成、方法により高精度に多孔体への吸着速度を測定する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
即ち、本発明に係る吸着速度測定方法は、吸着剤試料を格納するサンプルセルと、該サンプルセルに所望の流量で目的流体を導入する導入部と、前記サンプルセルから前記目的流体を所望の流量で排出する排出部と、前記サンプルセル内の圧力を測定する圧力測定部を備える測定装置を用い、
前記吸着剤試料が格納された前記サンプルセル内に前記目的流体を導入し、前記目的流体の圧力で所望の圧力で一定に保つステップと、
前記目的流体の導入量または排出量の少なくともいずれか一方の量を変化させ、前記サンプルセル内の前記目的流体の圧力を変化させるステップと、
前記目的流体の圧力を変化させた際の、前記サンプルセル内への目的流体の導入流量、前記サンプルセル内からの目的流体の排出流量の差を用いて、前記吸着剤試料への目的流体の吸着速度を算出するステップと、
を備えることを特徴とする、吸着速度測定方法である。
【0010】
また、別の本発明は、前記吸着速度を算出するステップにおいて、目的流体の吸着速度を下記の式で算出することを特徴とする、請求項1記載の吸着速度測定方法である。
【数1】
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式中、導入流量fiintroは、目的流体の導入流量、fioutは、目的流体の排出流量、P°は標準圧力(P°=101.3kPa)、T°は標準温度(T°=298.15K)、Rはガス定数(R=8.31JK-1mol-1)である。
【0011】
また、別の本発明は、前記サンプルセル内の前記目的流体の圧力を所望の圧力で一定に保つステップの前工程として、目的流体の導入を行わずに排出を行い、サンプルセル内を減圧するステップと、
をさらに備えることを特徴とする、請求項1または2記載の吸着速度測定方法である。
【0012】
また、別の本発明は、前記吸着剤試料が、多孔質固体試料であることを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項記載の吸着速度測定方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る吸着速度測定方法は、サンプルセル内の圧力に基づいて、装置内の目的流体の流量を調整する圧力フィードバック法を用いて、吸着剤試料への目的流体の吸着速度を測定するものである。本発明に係る測定方法によれば、サンプルセルへの目的流体の導入流量および排出流量と、所定の定数を用いた簡易な演算処理により、微分等の処理を経ることなく、直接吸着速度を算出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る測定方法を実施するための測定装置の一例の図である。
【図2】本発明に係る測定方法の流れを示すフロー図である。
【図3】活性炭への水の吸着速度を測定した結果のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明に係る吸着速度測定方法を実施するための形態について説明する。

【0016】
<装置の構成>
図1に、本発明に係る測定方法を実施するための測定装置の例を示す。測定装置は、吸着剤試料を格納するサンプルセル(40)と、サンプルセル内の圧力を測定する圧力計(30)と、サンプルセル内に目的流体を導入する導入部(20)と、サンプルセルから目的流体を排出する排出部(50、60、70)とを備える。

【0017】
上記の測定装置のうち、サンプルセルは、測定を行うために試料を格納する容器であり、容積、材質、形状は、測定対象となる吸着剤試料および目的流体の種類に応じて任意に選択可能である。また、複数の吸着剤試料を測定するために、複数のサンプルセルを手動または自動で切り替え可能な機構を備えること、吸着剤試料の吸着速度の温度特性を測定するため、サンプルセルまたはその周辺に温度調整機構を備えることは、当業者であれば適宜選択可能である。

【0018】
本発明に係る測定装置において、測定対象となる吸着剤試料は特に制限はなく、当業者であれば、適当な試料を任意に選択可能である。ただし、本発明に係る測定方法の実施に適した吸着剤試料としては、多孔質固体が好ましく、活性炭、ゼオライト、軽石、シリカ、アルミナ等が例示できる。

【0019】
本発明に係る測定装置において、目的流体の種類は特に制限はなく、吸着質としての特性を有していれば、液体または気体のいずれも選択可能である。ただし、本発明に係る測定方法の実施に適した目的流体は、気体であることが好ましく、酸素、水素、窒素等が例示できる。

【0020】
上記の測定装置のうち、導入部は、目的流体をサンプルセル内に所望の流量で導入する流量制御機構を備えており、例として、マスフローコントローラーによって実現することが可能である。また、導入部は、サンプルセルに導入するための目的流体を格納した流体格納部と接続されており、この流体格納部は独立した構成として、測定装置に備えられても良い。

【0021】
上記の測定装置のうち、排出部における目的流体の排出方法は、当業者であれば任意に選択可能であり、例として、ロータリーポンプをはじめとした、真空ポンプが挙げられる。
排出部には、目的流体の流量を測定する流量測定器と、バルブ等の流量調整機構を備えても良く、流量調整機構は、圧力計によるサンプルセル内の圧力測定結果を入力し、バルブの開度信号を出力するフィードバック回路を備えるのが好ましい。このフィードバック回路は、コンピュータに例示される制御部を介して、サンプルセル内の圧力が、指定された所望の圧力になるように、流量調整機構の動作を調整する。

【0022】
<測定手順>
図2に、本発明に係る測定方法の流れの例を示す。本発明に係る測定方法は、大きく分けて3つのステップで説明することができる。即ち、(S20)サンプルセル内の目的流体の圧力を所定の圧力で一定に保つステップと、(S30)サンプルセル内の圧力を変化させるステップと、(S40)前記圧力変化に伴う目的流体の流量の変化に基づいて、吸着速度を算出するステップである。また、(S20)の前工程として、(S10)サンプルセルから、目的流体以外の流体を排出するため、減圧を行うステップを行っても良い。

【0023】
(S20)圧力を一定に保つステップ
測定装置のサンプルセル内に吸着剤試料を格納し、目的流体を導入する。この際、ある温度、圧力において、気相から吸着剤に吸着質の吸着が無い場合、導入流量と、排出流量が等しくなるように流量調整機構により調整する。これにより、導入流量と排出流量の差Δfが0になり、見かけの系内への目的流体の出入りがなくなる。この状態をもって、当該温度、圧力における平衡状態とみなす。

【0024】
(S30)圧力を変化させるステップ
次に、制御部、流量調整機構を用いて、サンプルセル内の圧力を変化させる。例えば、サンプルセル内の圧力を上昇させ、吸着質の吸着を促した場合、即ち、気相から吸着剤に吸着質の吸着がある場合、気相の物質量が減少するため、サンプルセル内の圧力が低下する。圧力の低下を圧力計により検知したフィードバック回路は、指定された圧力になるように、流量調整機構を調整して、排出流量を減少させる。反対に、気相に吸着剤試料から吸着質が拡散している(脱着している)場合には、気相の物質量が増加するために、サンプルセル内の圧力は上昇する。この場合には、流量調整機構の調整により、排出流量は増加する。

【0025】
(S40)吸着速度を算出するステップ
上記ステップにより得られた値、具体的には、サンプルセル内への目的流体の導入流量、サンプルセル内からの目的流体の排出流量の値を用いて、吸着剤試料への吸着質の吸着速度を算出する。

【0026】
サンプルセル内に導入される目的流体のモル量Δniは、導入流量fiintro、fioutの差の積分から求められる。
【数2】
JP2016133395A_000004t.gif
ここで、P°は標準圧力(P°=101.3kPa)、T°は標準温度(T°=298.15K)、Rはガス定数(R=8.31JK-1mol-1)である。

【0027】
吸着質の吸着剤試料への吸着量は、Δniadsは、サンプルセル内に導入された目的流体のうち、気相で存在している量Δnigasを除いたものとなる。
【数3】
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【0028】
上記式に用いる、Δnigasは、サンプルセルの体積と温度、圧力から算出することができる。
【数4】
JP2016133395A_000006t.gif
ここで、ΔPiはサンプルセルの圧力変化、Vはサンプルセルの実効体積、Tはサンプルセルの温度である。

【0029】
以上の式から、吸着速度(dnads)/dtは次の式で求めることができる。
【数5】
JP2016133395A_000007t.gif

【0030】
上記式のうち、右辺の第2項は、圧力を変化させてから一定時間経過後0となる。このため、吸着速度は、以下の式により直接求めることが可能となる。
【数1】
JP2016133395A_000008t.gif

【0031】
以上から、サンプルセル内への導入流量、排出流量のみを変数として、吸着速度を算出することが可能となる。演算処理において、時間微分を行う必要がないので、従来法と比較して、処理が簡易であり、同時に、10nmols-1程度という、高い測定精度を実現することが可能となる。
【実施例】
【0032】
本発明に係る測定方法の効果検証のため、多孔質固体試料への水の吸着速度の測定を行った。吸着剤試料としては、アドールA10(ユニチカ社製)を使用し、吸着質としては、超純水装置(日本ミリポア社製)により精製した超純水を用いた。
【実施例】
【0033】
まず、水の導入を止め、ロータリーポンプ(アルバック社製)によりサンプルセル内を真空とした。その後、サンプルセル内に吸着質を導入し、初期の目的圧力になるよう、装置に接続されたコンピュータにより設定した。ここでの初期圧力は1.27Paとした。
【実施例】
【0034】
その後、目的圧力を1.33Paまで上昇させるよう、設定を行った。これにより、装置に備えられた圧力フィードバック回路が反応し、排出部の流量調整器の開度を小さくする。これにより、サンプルセル内の圧力は、わずかにオーバーシュートした後、一定時間経過後(t=20~40s)で、変更後の目的圧力まで上昇する。
【実施例】
【0035】
吸着剤試料への吸着が行われる間は、排出流量は、導入流量より小さい状態となる。活性炭への水の吸着は一定時間続き(t=500~20000s)、その後、吸着平衡に達すると、排出流量は、導入流量と等しくなる。なお、複数の圧力条件における吸着速度の測定を行う場合には、目的圧力の変更から、算出までの処理を繰り返すことで測定が可能である。
【実施例】
【0036】
図3は、本実施例において、測定を行った結果のグラフを示す。図中、(a)は、サンプルセル内の圧力を示し、(b)は、導入流量と、排出流量を示す。また、(c)は、吸着速度を示している。なお、(c)のうち、Pressure incrementについては、サンプルセル中の吸着質のうち、気相で存在している量を示している。図から、本実施例に係る測定方法を実施することで、吸着速度が得られることが認められる。
【符号の説明】
【0037】
10 流体格納部
20 導入部
30 圧力計
40 サンプルセル
50 流量調整機構
60 流量測定器
70 フィードバック回路
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2