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明細書 :細孔性高分子化合物、分離対象化合物の分離方法、単結晶、結晶構造解析用試料の作製方法、及び解析対象化合物の分子構造決定方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2016-160256 (P2016-160256A)
公開日 平成28年9月5日(2016.9.5)
発明の名称または考案の名称 細孔性高分子化合物、分離対象化合物の分離方法、単結晶、結晶構造解析用試料の作製方法、及び解析対象化合物の分子構造決定方法
国際特許分類 C07D 401/14        (2006.01)
C08L  85/00        (2006.01)
C08L 101/00        (2006.01)
C08K   5/55        (2006.01)
FI C07D 401/14
C08L 85/00
C08L 101/00
C08K 5/55
請求項の数または発明の数 9
出願形態 OL
全頁数 26
出願番号 特願2015-044098 (P2015-044098)
出願日 平成27年3月5日(2015.3.5)
発明者または考案者 【氏名】藤田 誠
【氏名】星野 学
出願人 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】国立研究開発法人科学技術振興機構
個別代理人の代理人 【識別番号】100108419、【弁理士】、【氏名又は名称】大石 治仁
審査請求 未請求
テーマコード 4C063
4J002
Fターム 4C063AA05
4C063BB01
4C063CC43
4C063DD12
4C063EE10
4J002AA00X
4J002CQ00W
4J002EY016
4J002GD00
4J002GT00
要約 【課題】糖類、アミノ酸類、ヒドロキサム酸類等の特定の部分構造を有する化合物を、その細孔及び/又は中空内に効率よく取り込むことができる細孔性高分子化合物、この細孔性高分子化合物を用いる分離対象化合物の分離方法を提供する。
【解決手段】1若しくは2以上の分子鎖、又は、1若しくは2以上の分子鎖及び骨格形成性化合物によって構成された三次元骨格と、該三次元骨格によって仕切られて形成された、細孔及び/又は中空とを有し、前記三次元骨格が、ボロニル基を、前記細孔及び/又は中空内に有する細孔性高分子化合物、この細孔性高分子化合物を用いる分離対象化合物の分離方法、この細孔性高分子化合物の単結晶、この単結晶を用いる結晶構造解析用試料の作製方法、及びこの結晶構造解析用試料を用いる解析対象化合物の分子構造決定方法。
【選択図】図5
特許請求の範囲 【請求項1】
1若しくは2以上の分子鎖、又は、1若しくは2以上の分子鎖及び骨格形成性化合物によって構成された三次元骨格と、該三次元骨格によって仕切られて形成された、細孔及び/又は中空とを有し、前記三次元骨格が、ボロニル基を、前記細孔及び/又は中空内に有する細孔性高分子化合物。
【請求項2】
前記細孔性高分子化合物が、配位性部位を2つ以上有する配位子及び中心金属としての金属イオンを含む多核金属錯体である、請求項1に記載の細孔性高分子化合物。
【請求項3】
前記細孔性高分子化合物が、配位性部位を2つ以上有する配位子、中心金属としての金属イオン、及びボロニル基を有する骨格形成性芳香族化合物を含む多核金属錯体である、請求項1又は2に記載の細孔性高分子化合物。
【請求項4】
前記配位性部位を2つ以上有する配位子が、下記式(1)
【化1】
JP2016160256A_000020t.gif
(式中、Arは、置換基を有していてもよい3価の芳香族基を表す。X~Xは、それぞれ独立に、2価の有機基、またはArとY~Yとを直接結ぶ単結合を表す。Y~Yは、それぞれ独立に、配位性部位を有する1価の有機基を表す。)
で示される三座配位子である、請求項2又は3に記載の細孔性高分子化合物。
【請求項5】
前記中心金属としての金属イオンが、周期表第8~12族の金属のイオンである、請求項2~4に記載の細孔性高分子化合物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の細孔性高分子化合物を、下記式(I)~(III)
【化2】
JP2016160256A_000021t.gif
(式中、A~Aは、それぞれ独立に、-OH、又は-N(R)(R)を表す。R、Rは、それぞれ独立に、水素原子、又はハロゲン原子を有していてもよい炭素数1~20の炭化水素基を表す。)
で示される部分構造を有する分離対象化合物を含む混合物と接触させ、分離対象化合物の分子を細孔性高分子化合物の細孔及び/又は中空内に取り込ませることを特徴とする分離対象化合物の分離方法。
【請求項7】
請求項1~5のいずれかに記載の細孔性高分子化合物からなる単結晶。
【請求項8】
請求項7に記載の単結晶を、下記式(I)~(III)
【化3】
JP2016160256A_000022t.gif
(式中、A~Aは、それぞれ独立に、-OH、又は-N(R)(R)を表す。R、Rは、それぞれ独立に、水素原子、又はハロゲン原子を有していてもよい炭素数1~20の炭化水素基を表す。)
で示される部分構造を有する解析対象化合物と接触させ、解析対象化合物の分子を細孔性高分子化合物の細孔及び/又は中空内に規則的に配列させることを特徴とする結晶構造解析用試料の作製方法。
【請求項9】
請求項8に記載の方法により得られた結晶構造解析用試料を用いて結晶構造解析を行うことを特徴とする、解析対象化合物の分子構造決定方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、糖類、アミノ酸類、ヒドロキサム酸類等の特定の部分構造を有する化合物を、その細孔及び/又は中空内に効率よく取り込むことができる細孔性高分子化合物、この細孔性高分子化合物を用いる分離対象化合物の分離方法、この細孔性高分子化合物の単結晶、この単結晶を用いる結晶構造解析用試料の作製方法、及びこの結晶構造解析用試料を用いる解析対象化合物の分子構造決定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
細孔性高分子化合物は、内部に細孔及び/又は中空を有する結晶を構成する高分子化合物である。このような細孔性高分子化合物は、その細孔及び/又は中空内に特定の化合物を選択的に取り込む性質を有することが知られており、これまでに種々の利用方法が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、遷移金属イオン(M)6個と、実質的に平面形状の三座有機配位子(L)4個とから自己組織化的に形成され、八面体型の立体形状を有し、該八面体の6つの頂点に遷移金属イオン(M)が配置されたM構造を構造単位とし、このM構造の各頂点に位置する遷移金属イオン(M)を共有しながら、前記M構造が連続配列してなる細孔性ネットワーク錯体が記載されている。
この文献には、この細孔性ネットワーク錯体が、その細孔内にフラーレンC70を選択的に取り込むことができるため、この細孔性ネットワーク錯体をフラーレンC60及びフラーレンC70を含有するフラーレンの混合物と接触させることにより、フラーレンC70を分離することができることが記載されている。
【0004】
また、非特許文献1には、高分子金属錯体の細孔性単結晶を結晶スポンジとして使用し、その細孔内にフラボノイド等を取り込ませて結晶構造解析用試料を作製し、その構造を決定する方法が記載されている。
結晶スポンジ法を利用することにより、解析対象化合物の単結晶を作製することなく結晶構造解析用試料を作製することができる。したがって、結晶スポンジ法を利用することで、解析対象化合物が通常の条件下で液体や気体のものであっても、結晶構造解析用試料を作製することができる。
また、結晶スポンジ法を利用する場合、極少量の解析対象化合物を用いて結晶構造解析用試料を作製することができる。したがって、結晶スポンジ法を利用することで、解析対象化合物が大量に入手することが困難な化合物(例えば、天然物中の微量の不純物や、代謝物等)であっても、効率よく結晶構造解析用の試料を作製することができる。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】国際公開2011/062260号
【0006】

【非特許文献1】月刊「化学」2013年(68巻)8月号35~40頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、細孔性高分子化合物は、精製処理や化学分析におけるツールとして有用である。
しかしながら、従来の細孔性高分子化合物は、その適用範囲に限界があった。すなわち、従来の細孔性高分子化合物は、細孔及び/又は中空内に取り込ませる化合物が親水性化合物である場合には成功率が低くなる傾向があり、重要な生体物質や医薬品成分である、糖類、アミノ酸類、ヒドロキサム酸類等の化合物の構造を決定するにはさらなる改良が必要であった。
【0008】
本発明は、上記した従来技術に鑑みてなされたものであり、糖類、アミノ酸類、ヒドロキサム酸類等の特定の部分構造を有する化合物を、その細孔及び/又は中空内に効率よく取り込むことができる細孔性高分子化合物、この細孔性高分子化合物を用いる分離対象化合物の分離方法、この細孔性高分子化合物の単結晶、この単結晶を用いる結晶構造解析用試料の作製方法、及びこの結晶構造解析用試料を用いる解析対象化合物の分子構造決定方法、を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決すべく、新規細孔性高分子化合物について鋭意検討した。その結果、細孔及び/又は中空内にボロニル基を有する細孔性高分子化合物が、糖類、アミノ酸類、ヒドロキサム酸類等の化合物の取り込みに適することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
かくして本発明によれば、下記〔1〕~〔5〕の細孔性高分子化合物、〔6〕の分離対象化合物の分離方法、〔7〕の単結晶、〔8〕の結晶構造解析用試料の作製方法、及び〔9〕の解析対象化合物の分子構造決定方法、が提供される。
【0011】
〔1〕1若しくは2以上の分子鎖、又は、1若しくは2以上の分子鎖及び骨格形成性化合物によって構成された三次元骨格と、該三次元骨格によって仕切られて形成された、細孔及び/又は中空とを有し、前記三次元骨格が、ボロニル基を、前記細孔及び/又は中空内に有する細孔性高分子化合物。
〔2〕前記細孔性高分子化合物が、配位性部位を2つ以上有する配位子及び中心金属としての金属イオンを含む多核金属錯体である、〔1〕に記載の細孔性高分子化合物。
〔3〕前記細孔性高分子化合物が、配位性部位を2つ以上有する配位子、中心金属としての金属イオン、及びボロニル基を有する骨格形成性芳香族化合物を含む多核金属錯体である、〔1〕又は〔2〕に記載の細孔性高分子化合物。
〔4〕前記配位性部位を2つ以上有する配位子が、下記式(1)
【0012】
【化1】
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【0013】
(式中、Arは、置換基を有していてもよい3価の芳香族基を表す。X~Xは、それぞれ独立に、2価の有機基、またはArとY~Yとを直接結ぶ単結合を表す。Y~Yは、それぞれ独立に、配位性部位を有する1価の有機基を表す。)
で示される三座配位子である、〔2〕又は〔3〕に記載の細孔性高分子化合物。
〔5〕前記中心金属としての金属イオンが、周期表第8~12族の金属のイオンである、〔2〕~〔4〕に記載の細孔性高分子化合物。
〔6〕前記〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の細孔性高分子化合物を、下記式(I)~(III)
【0014】
【化2】
JP2016160256A_000004t.gif

【0015】
(式中、A~Aは、それぞれ独立に、-OH、又は-N(R)(R)を表す。R、Rは、それぞれ独立に、水素原子、又はハロゲン原子を有していてもよい炭素数1~20の炭化水素基を表す。)
で示される部分構造を有する分離対象化合物を含む混合物と接触させ、分離対象化合物の分子を細孔性高分子化合物の細孔及び/又は中空内に取り込ませることを特徴とする分離対象化合物の分離方法。
〔7〕前記〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の細孔性高分子化合物からなる単結晶。
〔8〕前記〔7〕に記載の単結晶を、下記式(I)~(III)
【0016】
【化3】
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【0017】
(式中、A~Aは、それぞれ独立に、-OH、又は-N(R)(R)を表す。R、Rは、それぞれ独立に、水素原子、又はハロゲン原子を有していてもよい炭素数1~20の炭化水素基を表す。)
で示される部分構造を有する解析対象化合物と接触させ、解析対象化合物の分子を細孔性高分子化合物の細孔及び/又は中空内に規則的に配列させることを特徴とする結晶構造解析用試料の作製方法。
〔9〕前記〔8〕に記載の方法により得られた結晶構造解析用試料を用いて結晶構造解析を行うことを特徴とする、解析対象化合物の分子構造決定方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、糖類、アミノ酸類、ヒドロキサム酸類等の特定の部分構造を有する化合物を、その細孔及び/又は中空内に効率よく取り込むことができる細孔性高分子化合物、この細孔性高分子化合物を用いる分離対象化合物の分離方法、この細孔性高分子化合物の単結晶、この単結晶を用いる結晶構造解析用試料の作製方法、及びこの結晶構造解析用試料を用いる解析対象化合物の分子構造決定方法、が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】単結晶の細孔が延在する方向を表す図である。
【図2】多核金属錯体1の三次元骨格を表す図である。
【図3】多核金属錯体3の三次元ネットワーク構造を表す図である。
【図4】多核金属錯体5の三次元ネットワーク構造を表す図である。
【図5】実施例1で得られた多核金属錯体の結晶構造を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を、1)細孔性高分子化合物、2)分離対象化合物の分離方法、並びに、3)細孔性高分子化合物の単結晶、結晶構造解析用試料の作製方法、及び解析対象化合物の分子構造決定方法、に項分けして詳細に説明する。

【0021】
1)細孔性高分子化合物
本発明の細孔性高分子化合物は、1若しくは2以上の分子鎖、又は、1若しくは2以上の分子鎖及び骨格形成性化合物によって構成された三次元骨格と、該三次元骨格によって仕切られて形成された、細孔及び/又は中空とを有し、前記三次元骨格が、ボロニル基を、前記細孔及び/又は中空内に有するものであることを特徴とする。

【0022】
本発明の細孔性高分子化合物に含まれる三次元骨格は、結晶内部において、三次元的な広がりを有する骨格状の構造体をいう。三次元骨格は、1若しくは2以上の分子鎖、又は、1若しくは2以上の分子鎖及び骨格形成性化合物によって構成されたものである。
「分子鎖」とは、共有結合及び/又は配位結合によって組織化された組織体をいう。この分子鎖内には、分岐構造や環状構造があってよい。
1の分子鎖によって構成された三次元骨格としては、例えば、「ジャングルジム」状に組織化された骨格が挙げられる。
2以上の分子鎖によって構成された三次元骨格としては、2以上の分子鎖が、水素結合、π-πスタッキング相互作用、ファンデルワールス力等の相互作用により、全体として一つに組織化された骨格をいう。例えば、2つの分子鎖が、「ちえのわ」状に絡みあってなる骨格が挙げられる。このような三次元骨格としては、後述する、多核金属錯体1、2の三次元骨格が挙げられる。

【0023】
「骨格形成性化合物」とは、分子鎖の一部を構成するものではないが、水素結合、π-πスタッキング相互作用、ファンデルワールス力等の相互作用により、三次元骨格の一部を構成する化合物をいう。例えば、後述する多核金属錯体における骨格形成性芳香族化合物が挙げられる。
「細孔」、「中空」は結晶内における内部空間を表す。筒状に伸びている内部空間を「細孔」といい、それ以外の内部空間を「中空」という。なお、本明細書において、この「細孔、中空」を、「細孔性高分子化合物の細孔、中空」と表したり、「結晶の細孔、中空」と表したりすることがある。

【0024】
前記三次元骨格は、ボロニル基を、前記細孔及び/又は中空内に有する。
このボロニル基は、後述する部分構造を有する化合物と可逆的に共有結合を形成し得るため、本発明の細孔性高分子化合物の細孔及び/又は中空内に取り込まれたこの部分構造を有する化合物は、その細孔及び/又は中空内でより安定化されると考えられる。

【0025】
本発明の細孔性高分子化合物としては、配位性部位を2つ以上有する配位子(以下、「多座配位子」ということがある。)及び中心金属としての金属イオンを含む多核金属錯体や、これらに加えて、さらに、骨格形成性芳香族化合物を含むものが挙げられる。これらの多核金属錯体においては、ボロニル基を有する多座配位子や骨格形成性芳香族化合物を用いることにより、三次元骨格にボロニル基を導入することができる。
なかでも、後述するように、ボロニル基を有する多核金属錯体を効率よく合成することができることから、多座配位子、中心金属としての金属イオン、及びボロニル基を有する骨格形成性芳香族化合物を含む多核金属錯体が好ましい。

【0026】
多座配位子は、前記三次元骨格を形成し得るものである限り、特に限定されず、公知の多座配位子を利用することができる。
ここで、「配位性部位」とは、配位結合が可能な非共有電子対を有する、配位子中の原子又は原子団をいう。例えば、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、リン原子等のヘテロ原子;ニトロ基、アミノ基、シアノ基、カルボキシル基等の原子団;等が挙げられる。なかでも、窒素原子又は窒素原子を含む原子団が好ましい。
なかでも、配位子の平面性が高く、強固な三次元骨格が形成され易いことから、多座配位子としては、芳香環を有するものが好ましい。
一般的に、配位子の中心から、配位性部位までの距離が長い多座配位子を用いると、相対的に細孔や中空が大きい多核金属錯体が得られ、配位子の中心から、配位性部位までの距離が短い多座配位子を用いると、相対的に細孔や中空が小さい多核金属錯体が得られる。

【0027】
また、比較的大きな細孔や中空を有する多核金属錯体を容易に得ることができる観点から、多座配位子としては、配位性部位を3つ有する配位子(以下、「三座配位子」ということがある。)が好ましく、3つの配位性部位の非共有電子対(軌道)が擬同一平面上に存在し、かつ、3つの配位性部位が、三座配位子の中心部に対して等間隔放射状に配置されているものがより好ましい。

【0028】
ここで、「擬同一平面上に存在する」とは、各非共有電子対が、同一平面上に存在する状態の他、若干ずれた平面、例えば、基準となる平面に対して、20°以下で交差するような平面に存在する状態も含む意味である。
また、「3つの配位性部位が、三座配位子の中心部に対して等間隔放射状に配置されている」とは、配位子の中心部から等間隔で放射状に延びる線上に、3つの配位性部位が前記中心部から略等距離に配置されている状態をいう。

【0029】
三座配位子としては、例えば、下記式(1)

【0030】
【化4】
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【0031】
(式中、Arは、置換基を有していてもよい3価の芳香族基を表す。X~Xは、それぞれ独立に、2価の有機基、又はArとY~Yとを直接結ぶ単結合を表す。Y~Yは、それぞれ独立に、配位性部位を有する1価の有機基を表す。)で示される配位子が挙げられる。

【0032】
式(1)中、Arは3価の芳香族基を表す。
Arを構成する炭素原子の数は、通常3~22、好ましくは3~13、より好ましくは3~6である。

【0033】
Arとしては、6員環の芳香環1つからなる単環構造を有する3価の芳香族基が挙げられる。
6員環の芳香環1つからなる単環構造を有する3価の芳香族基としては、下記式(2a)~式(2d)で示される基が挙げられる。なお、式(2a)~式(2d)において、「*」は、それぞれ、X~Xとの結合位置を表す。

【0034】
【化5】
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【0035】
これらの中でも、式(2a)又は(2b)で示される芳香族基が好ましく、式(2b)で示される芳香族基が特に好ましい。
Arは、式(2a)、式(2c)、式(2d)で示される芳香族基の任意の位置に置換基を有するものであってもよい。かかる置換基としては、メチル基、エチル基、イソプロピル基、n-プロピル基、t-ブチル基等のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、n-ブトキシ基等のアルコキシ基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;等が挙げられる。この置換基として、ボロニル基を用いることもできる。

【0036】
~Xは、それぞれ独立に、2価の有機基、又は、ArとY~Yとを直接結ぶ単結合を表す。

【0037】
2価の有機基としては、Arとともに、π電子共役系を構成し得るものが好ましい。X~Xで表される2価の有機基がπ電子共役系を構成することで、式(1)で示される三座配位子の平面性が向上し、より強固な三次元骨格構造が形成され易くなる。
2価の有機基を構成する炭素原子の数は、2~18が好ましく、2~12がより好ましく、2~6がさらに好ましい。

【0038】
2価の有機基としては、炭素数2~10の2価の不飽和脂肪族基、6員芳香環1つからなる単環構造を有する2価の有機基、6員芳香環が2~4個縮合してなる縮合環構造を有する2価の有機基、アミド基〔-C(=O)-NH-〕、エステル基〔-C(=O)-O-〕、これらの2価の有機基の2以上の組み合わせ等が挙げられる。

【0039】
炭素数2~10の2価の不飽和脂肪族基としては、ビニレン基、アセチレン基(エチニレン基)等が挙げられる。
6員環の芳香環1つからなる単環構造を有する2価の有機基としては、1,4-フェニレン基等が挙げられる。
6員環の芳香環が2~4個縮合してなる縮合環構造を有する2価の有機基としては、1,4-ナフチレン基、アントラセン-1,4-ジイル基等が挙げられる。
これらの2価の有機基の2以上の組み合わせとしては、下記のものが挙げられる。

【0040】
【化6】
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【0041】
これらの中でも、X~Xで表される2価の有機基としては、下記のものが好ましい。

【0042】
【化7】
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【0043】
2価の有機基中の芳香環は、環内に、窒素原子、酸素原子、硫黄原子等のヘテロ原子を含んでいてもよい。
また、2価の有機基は、置換基を有するものであってもよい。かかる置換基としては、Arの置換基として先に示したものと同様のものが挙げられる。

【0044】
~Yは、それぞれ独立に、配位性部位を有する1価の有機基を表す。
~Yで表される有機基としては、Ar、X~Xとともに、π電子共役系を構成し得るものが好ましい。
~Yで表される有機基がπ電子共役系を構成することで、式(1)で示される三座配位子の平面性が向上し、強固な三次元骨格構造が形成され易くなる。
~Yを構成する炭素原子の数は、5~11が好ましく、5~7がより好ましい。

【0045】
~Yとしては、下記式(3a)~式(3f)で示される有機基が挙げられる。なお、式(3a)~式(3f)において、「*」は、X~Xとの結合位置を表す。

【0046】
【化8】
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【0047】
これらの中でも、Y~Yとしては、式(3a)で表される基が特に好ましい。
~Yは、式(3a)~式(3f)で示される有機基の任意の位置に、置換基を有するものであってもよい。かかる置換基としては、Arの置換基として先に例示したものと同様のものが挙げられる。

【0048】
式(1)で示される三座配位子中の、Ar、X~X、Y~Yを適宜選択することで、多核金属錯体の細孔や中空の大きさを調節することができる。この方法を利用することで、目的の大きさの細孔や中空を有する多核金属錯体を効率よく得ることができる。

【0049】
式(1)で示される三座配位子としては、強固な三次元骨格構造が形成され易いことから、平面性及び対称性が高く、かつ、π共役系が配位子全体に広がっているものが好ましい。このような三座配位子としては、下記式(4a)~式(4f)で示される配位子、又は、これらの任意の位置に置換基を有する配位子が挙げられる。

【0050】
【化9】
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【0051】
これらの中でも、式(1)で示される三座配位子としては、上記式(4a)で示される2,4,6-トリス(4-ピリジル)-1,3,5-トリアジン(TPT)が特に好ましい。

【0052】
また、多核金属錯体の多座配位子として、市販品を用いることもできる。例えば、2012年9月発行のシグマアルドリッチ社パンフレット(材料科学の基礎 第7号-多孔性配位高分子(PCP)/金属有機構造体(MOF)の基礎)には、PCP/MOF用配位子およびリンカー用化合物として、ピラジン、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、1,2-ジ(4-ピリジル)エチレン、4,4’-ビピリジル、4,4’-ビフェニルジカルボン酸、ベンゼン-1,3-ジカルボン酸、ピラジン-2,3-ジカルボン酸、ピラジン-3,5-ジカルボン酸等が記載されている。これらの配位子、又は、その任意の位置に置換基を有する配位子を多核金属錯体の多座配位子として用いることができる。

【0053】
多核金属錯体の中心金属としての金属イオンは、前記多座配位子と配位結合を形成して、三次元骨格を形成し得るものである限り特に限定されない。なかでも、鉄イオン、コバルトイオン、ニッケルイオン、銅イオン、亜鉛イオン、銀イオン、パラジウムイオン、ルテニウムイオン、ロジウムイオン、白金イオン等の周期表第8~12族の金属のイオンが好ましく、2価の、周期表第8~12族の金属イオンがより好ましい。なかでも、大きな細孔や中空を有する多核金属錯体が得られ易いことから、亜鉛(II)イオン、コバルト(II)イオンが特に好ましい。

【0054】
多核金属錯体の中心金属には、前記多座配位子の他に、単座配位子が配位していてもよい。かかる単座配位子としては、塩化物イオン(Cl)、臭化物イオン(Br)、ヨウ化物イオン(I)、チオシアン酸イオン(SCN)等の1価の陰イオン;アンモニア、モノアルキルアミン、ジアルキルアミン、トリアルキルアミン、エチレンジアミン等の電気的に中性の配位性化合物;等が挙げられる。

【0055】
また、多核金属錯体は、反応溶媒(多核金属錯体の合成に用いた溶媒)、置換溶媒(反応溶媒と置き換えられた他の溶媒をいう。以下にて同じ。)、後述する骨格形成性芳香族化合物を含むものであってもよい。

【0056】
「骨格形成性芳香族化合物」とは、三次元骨格を構成する分子鎖と相互作用(ただし、共有結合、配位結合を除く。)し、三次元骨格の一部を構成し得る芳香族化合物をいう。
多核金属錯体が骨格形成性芳香族化合物を含むことで、三次元骨格がより強固になる傾向がある。

【0057】
骨格形成性芳香族化合物としては、縮合多環芳香族化合物が挙げられる。例えば、下記式(5a)~式(5i)で示されるものが挙げられる。

【0058】
【化10】
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【0059】
これらの縮合多環芳香族化合物は、任意の位置に置換基を有するものであってもよい。かかる置換基としては、前記多座配位子の置換基として示したものと同様のものが挙げられる。
なかでも、本発明に用いる縮合多環芳香族化合物としては、ボロニル基を有するものが好ましい。化学合成の観点から、骨格形成性芳香族化合物にボロニル基を導入する方が、多座配位子にボロニル基を導入するよりも容易である場合が多いからである。

【0060】
ボロニル基を有する骨格形成性芳香族化合物としては、前記式(5a)~(5i)で示される骨格形成性芳香族化合物の任意の位置に、ボロニル基含有基を有するものが挙げられる。
ボロニル基含有基としては、ボロニル基、ボロニルメチル基、ボロニルフェニル基等が挙げられ、ボロニル基が好ましい。
ボロニル基を有する骨格形成性芳香族化合物としては、これまでに骨格形成性芳香族化合物としてトリフェニレン〔前記式(5a)で示される化合物〕を含む細孔性高分子化合物の単結晶を用いて結晶構造解析が行われており、その細孔の状態が十分に明らかになっていることから、トリフェニレンの1位または2位にボロニル基含有基を有する化合物が好ましく、1-トリフェニレニルボロン酸、又は2-トリフェニレニルボロン酸がより好ましい。

【0061】
ボロニル基を有する骨格形成性芳香族化合物は、例えば、対応する芳香族化合物の臭化物をリチオ化し、次いで、その反応生成物をトリメトキシボランと反応させた後、加水分解することにより合成することができる。また、市販品をそのまま用いてもよい。

【0062】
多核金属錯体としては、例えば、以下の化合物が挙げられる。
(1)ボロニル基を有する配位子及び金属イオンからなる化合物〔多核金属錯体(α)〕
(2)配位子、金属イオン、及び、ボロニル基を有する骨格形成性芳香族化合物とからなる化合物〔多核金属錯体(β)〕
(3)ボロニル基を有する配位子、金属イオン、及び、ボロニル基を有する骨格形成性芳香族化合物とからなる化合物〔多核金属錯体(γ)〕
(4)前記多核金属錯体(α)~(γ)いずれかの細孔又は中空内に、溶媒分子等のゲスト分子が包接されてなる化合物〔多核金属錯体(δ)〕

【0063】
本発明に用いる多核金属錯体は、ゲスト分子をその細孔や中空内に取り込んだ後においても結晶性を失わず、かつ、比較的大きな細孔や中空を有するものが好ましい。

【0064】
このような特性を有する多核金属錯体は、前記式(1)で示される三座配位子を用いることで、簡便に得ることができる。
具体的には、下記式(6a)~(6c)で示される多核金属錯体が挙げられる。

【0065】
【化11】
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【0066】
式(6a)~式(6c)中、Mは、2価の、周期表第8~12族の金属イオンを表し、Xは、1価の陰イオン性単座配位子を表し、Lは、前記式(1)で示される三座配位子(又は前記式(1)で示される三座配位子であって、ボロニル基を有する化合物)を表し、「solv」は、合成時に用いた溶媒分子等のゲスト分子を表し、「SA」は、骨格形成性芳香族化合物(又はボロニル基を有する骨格形成性化合物)を表し、a、b、cは任意の自然数を表す。L、SAの少なくとも一方は、ボロニル基を有している。

【0067】
より具体的には、下記の多核金属錯体が挙げられる。

【0068】
【化12】
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【0069】
式(7a)~(7d)中、「solv」、「SA」、a、b、cは、前記と同じ意味を表す。ただし、TPT、SAのいずれか一方は、ボロニル基を有している。

【0070】
上記式(6a)~式(6c)で示される多核金属錯体の三次元骨格は、これらに類似する多核金属錯体の公知の三次元骨格から推定することができる。
すなわち、ボロニル基を有しない多核金属錯体ではあるが、Lとして、前記式(4a)で示されるTPTを用いた多核金属錯体は、これまでに、溶媒などのゲスト分子を取り込んだ形での分子構造が単結晶X線構造解析で決定されている。
ボロニル基が、多核金属錯体の三次元骨格に影響を与えない範囲においては、本願発明の多核金属錯体の三次元骨格は、これらのボロニル基を有しない多核金属錯体の三次元骨格と同様のものであると考えられる。したがって、以下において、Lとして、前記式(4a)で示されるTPTを用い、ボロニル基を有しない多核金属錯体〔下記式(7a’)~式(7d’)で示される多核金属錯体〕について説明する。
なお、以下において、配位子や溶媒分子を以下のように省略することがある。

【0071】
PhNO:ニトロベンゼン
TPH:トリフェニレン
PER:ペリレン
MeOH:メタノール
DCB:1,2-ジクロロベンゼン

【0072】
(1)[(ZnI(TPT)(solv) (7a’)
式(7a’)で示される多核金属錯体としては、特開2008-214584号公報、J.Am.Chem.Soc.2004,v.126,pp16292-16293に記載の[(ZnI(TPT)(PhNO5.5(多核金属錯体1)や、多核金属錯体1中の反応溶媒分子の全部又は一部を置換溶媒に交換したものが挙げられる。

【0073】
多核金属錯体1の三次元骨格を図2(a)~(d)に示す。
多核金属錯体1の三次元骨格は、2つの分子鎖1aと1bから構成される。分子鎖1a、1b中、各亜鉛(II)イオンには、2つのTPTのピリジル基と2つのヨウ化物イオンが四配位四面体型で配位している。そして、TPTによって、この亜鉛(II)イオンを含む構造同士が三次元的に結ばれることで、それぞれの分子鎖が形成されている〔図2(a)〕。

【0074】
分子鎖1a、1bは、それぞれ、最も短い閉鎖環状連鎖構造として、TPT10分子とZn10原子とからなる閉鎖環状連鎖構造を有している〔図2(b)〕。
これらの分子鎖1a、1bは、(010)軸に沿ったピッチが、15Åの螺旋状のヘキサゴナル三次元ネットワーク構造とみなすことができる〔図2(c)〕。

【0075】
分子鎖1a、1bは、同じ亜鉛(II)イオンを共有することはなく、互いに独立している。そして、同一の空間を共有するように互いに入り組んだ入れ子状に相互貫通することで、全体として一つに組織化された三次元骨格を構成する。
この三次元骨格を有する多核金属錯体1の単結晶は、規則的に整列した1種類の細孔を有している〔図2(d)〕。

【0076】
多核金属錯体1の単結晶の空隙率は、50%である。
多核金属錯体1の単結晶の細孔の内接円の直径は、5~8Åである。

【0077】
(2)[(ZnBr(TPT)(solv) (7b’)
式(7b)で示される多核金属錯体としては、特開2008-214318号公報に記載の[(ZnBr(TPT)(PhNO(HO)](多核金属錯体2)や、多核金属錯体2中の反応溶媒分子の全部又は一部を置換溶媒に交換したものが挙げられる。

【0078】
多核金属錯体2は、(ZnI)が(ZnBr)に置き換わっている点を除き、多核金属錯体1の三次元骨格と同様の骨格を有している。
多核金属錯体2の単結晶の細孔の形状や大きさ、及び空隙率は、多核金属錯体1の単結晶のものとほぼ同じであった。

【0079】
(3)[(ZnI(TPT)(SA)(solv))] (7c’)
式(7c’)で示される多核金属錯体としては、特開2006-188560号公報に記載の[(ZnI(TPT)(TPH)(PhNO3.9(MeOH)1.8(多核金属錯体3)や、[(ZnI(TPT)(PER)(PhNO(多核金属錯体4)や、これらの多核金属錯体中の反応溶媒分子の全部又は一部を置換溶媒に交換したものが挙げられる。

【0080】
多核金属錯体3の三次元骨格を図3(a)~(c)に示す。
多核金属錯体3の三次元骨格は、2つの分子鎖1Aと1B、及び骨格形成性芳香族化合物であるトリフェニレン分子から構成される。
分子鎖1A、1B中、各亜鉛(II)イオンには、2つのヨウ化物イオンと2つのTPTのピリジル基が四配位四面体型で配位している。そして、TPTによって、この亜鉛(II)イオンを含む構造同士が三次元的に結ばれることで、それぞれの分子鎖が形成されている。
分子鎖1A、1Bは、同じ亜鉛(II)イオンを共有することはなく、互いに独立している。そして、同一の空間を共有するように互いに入り組んだ入れ子状に相互貫通することで、全体として一つに組織化された三次元骨格を構成する。

【0081】
多核金属錯体3中で、トリフェニレン分子(2)は、分子鎖1Aのトリス(4-ピリジル)トリアジン〔TPT(1a)〕のπ平面と、分子鎖1Bのトリス(4-ピリジル)トリアジン〔TPT(1b)〕のπ平面との間に強固に挿入(インターカレート)されている〔図3(b)〕。このとき、トリフェニレン分子は、TPT(1a)及びTPT(1b)間のπ-π相互作用によって安定化され、多核金属錯体3の三次元骨格の一部として機能している。なお、図3(b)は、図3(a)中の線で囲った部分を横から見たときの図である。

【0082】
多核金属錯体3の単結晶には、規則的に配列した2種の細孔(細孔A及びB)が存在する〔図3(c)〕。細孔A及びBは、TPTとTPHが交互に積み重なった積み重ね構造の間に、それぞれ規則的に形成されている。
細孔Aは、ほぼ円筒型であり、且つ、積み重なった無数のTPT及びTPHのπ平面の側縁に存在する水素原子でほぼ取り囲まれている。
一方、細孔Bは、略三角柱型であり、且つ、その三角柱を形成する3方の面のうち、2つはTPTのπ平面に取り囲まれ、もう一つは積み重なった無数のTPT及びTPHのπ平面の側縁に存在する水素原子で取り囲まれている。
これら細孔A及びBは、若干蛇行した細長い形状を有している。

【0083】
多核金属錯体3の単結晶の細孔の空隙率は、28%である。
多核金属錯体3の単結晶の細孔Aの内接円の直径は、5~8Åである。
多核金属錯体3の単結晶の細孔Bの内接円の直径は、5~8Åである。

【0084】
多核金属錯体4は、多核金属錯体3のトリフェニレン分子の代わりに、ペリレン分子が2つのTPTの間に挿入されている点を除き、多核金属錯体3と同様の骨格構造を有する。
多核金属錯体4の単結晶の細孔の形状や大きさ、及び空隙率は、多核金属錯体3の単結晶のものとほぼ同じであった。

【0085】
(4)[(Co(NCS)(TPT)(solv) (7d’)
式(7d’)で示される多核金属錯体としては、WO2011/062260号公報に記載の[(Co(NCS)(TPT)(DCB)25(MeOH)(多核金属錯体5)や、多核金属錯体5中の反応溶媒分子の全部又は一部を置換溶媒に交換したものが挙げられる。

【0086】
多核金属錯体5の三次元骨格を図4(a)に示す。
多核金属錯体5は、構造単位として、コバルトイオン6個と、TPT4個とから構成される〔Co(TPT)〕構造を有する。この構造単位は八面体型の立体形状を有し、該八面体の6つの頂点にコバルトイオンが配置されている〔図4(b)〕。各コバルト(II)イオンには、4つのTPTのピリジル基と2つのチオシアン酸イオンとが六配位八面体型で配位している。なお、図4(b)は、図4(a)中の線で囲った部分を拡大した図である。
そして、この〔Co(TPT)〕構造の各頂点に位置するコバルトイオンを共有しながら、〔Co(TPT)〕構造が三次元的に連結することで、〔Co(TPT)〕構造間に細孔が形成される〔図4(c)〕。
また、前記構造単位は、内部に中空を有している。

【0087】
多核金属錯体5の単結晶の空隙率は、78%である。この値は、細孔及び中空の体積をあわせて算出した値である。
多核金属錯体5の単結晶の細孔の内接円の直径は、10~18Åである。

【0088】
本発明の方法においては、式(7a’)~式(7d’)で示される多核金属錯体における多座配位子(TPT)や骨格形成性芳香族化合物の代わりに、ボロニル基を有する多座配位子や骨格形成芳香族化合物を用いることで得られる、式(7a’)~式(7d’)で示される多核金属錯体と同様の三次元骨格構造を有し、かつ、ボロニル基を有する多核金属錯体の単結晶を、細孔性高分子化合物の単結晶として用いることができる。

【0089】
また、多核金属錯体としては、上記の式(1)で示される多座配位子を有するものの他に、多孔性配位高分子(PCP)や金属有機構造体(MOF)と称される公知の多核金属錯体を用いることもできる。例えば、2012年9月発行のシグマアルドリッチ社パンフレット(材料科学の基礎 第7号-多孔性配位高分子(PCP)/金属有機構造体(MOF)の基礎)には、
[Cu(bzdc)(pyz)]
(「bzdc」は、2,3-ピラジンジカルボン酸を表し、「pyz」は、ピラジンを表す。nは任意の数を表す。)、
[Zn(14bdc)(dabco)]
(「14bdc」は、1,4-ベンゼンジカルボン酸を表し、「dabco」は、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタンを表し、nは任意の数を表す。)、
[Cu(dhbpc)(bpy)]
(「Hdhbpc」は、4,4’-ジヒドロキシビフェニル-3-カルボン酸を表し、「bpy」は、4,4’-ビピリジルを表し、nは任意の数を表す。)、
[Cr(btc)
(「Hbtc」は、1,3,5-ベンゼントリカルボン酸を表し、nは任意の数を表す。)等の多核金属錯体が記載されている。

【0090】
本発明の方法においては、これらの多核金属錯体中の多座配位子等に代えて、ボロニル基を導入した多座配位子等を用いて得られた多核金属錯体の単結晶を、細孔性高分子化合物の単結晶として用いることができる。

【0091】
多核金属錯体の合成方法は特に限定されず、公知の方法を利用することができる。
例えば、2012年9月発行のシグマアルドリッチ社パンフレット(材料科学の基礎 第7号-多孔性配位高分子(PCP)/金属有機構造体(MOF)の基礎)には、多座配位子等を含有する溶液と、金属イオン等を含有する溶液を混合する溶液法;耐圧容器内に、溶媒、多座配位子、金属イオン等を入れ、耐圧容器を密封した後、溶媒の沸点以上に加熱して水熱反応を行う水熱法;容器内に、溶媒、多座配位子、金属イオン等を入れ、マイクロ波を照射するマイクロ波法;容器内に、溶媒、多座配位子、金属イオン等を入れ、超音波を照射する超音波法;溶媒を用いることなく、多座配位子、金属イオン等を機械的に混合する固相合成法;等が記載されており、これらの方法を用いて、多核金属錯体の単結晶を得ることができる。

【0092】
これらの中でも、特別の装置等を要しないことから、溶液法が好ましく用いられる。
溶液法としては、例えば、多座配位子の第1の溶媒の溶媒溶液に、金属イオン含有化合物の第2の溶媒の溶媒溶液を、多座配位子と金属イオンとを所定の割合で加え、このまま、0~70℃で、数時間から数日間、静置する方法が挙げられる。

【0093】
金属イオン含有化合物は、特に制限されない。例えば、式:MXで示される化合物が挙げられる。ここで、Mは金属イオンを表し、Xは対イオンを表し、nはMの価数を表す。

【0094】
前記Xの具体例としては、F、Cl、Br、I、SCN、NO、ClO、BF、SbF、PF、AsF、CHCO等が挙げられる。

【0095】
用いる反応溶媒(第1の溶媒及び第2の溶媒)としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、1,2-ジクロロベンゼン、ニトロベンゼン等の芳香族炭化水素類;n-ペンタン、n-ヘキサン、n-ヘプタン等の脂肪族炭化水素類;シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン等の脂環式炭化水素類;アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類;ジメチルスルホキシド(DMSO)等のスルホキシド類;N,N-ジメチルホルムアミド、n-メチルピロリドン等のアミド類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,2-ジメトキシエタン、1,4-ジオキサン等のエーテル類;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;エチルセロソルブ等のセロソルブ類;ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2-ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類;酢酸メチル、酢酸エチル、乳酸エチル、プロピオン酸エチル等のエステル類;水;等が挙げられる。これらの溶媒は一種単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。

【0096】
比較的大きな多核金属錯体の結晶を得たい場合には、前記第1の溶媒と第2の溶媒として、互いに相溶性を有さない(すなわち、2層分離する)ものを用いることが好ましい。例えば、第1の溶媒として、ニトロベンゼン、ジクロロベンゼン、ニトロベンゼンとメタノールの混合溶媒、ジクロロベンゼンとメタノールの混合溶媒を用い、第2の溶媒としてメタノールを用いる方法が挙げられる。
また、上記多核金属錯体1~5と同様の三次元骨格構造を有する多核金属錯体ついては、それぞれ、上記文献に記載された方法にしたがって合成することができる。

【0097】
後述するように、本発明の細孔性高分子化合物は、分離対象化合物を分離する際の吸収体や、結晶構造解析用試料を作製する際に用いる結晶スポンジとして利用することができる。

【0098】
2)分離対象化合物の分離方法
本発明の方法は、前記細孔性高分子化合物を、前記式(I)~(III)で示される部分構造を有する分離対象化合物(以下、単に「分離対象化合物」ということがある。)を含む混合物と接触させ、分離対象化合物の分子を細孔性高分子化合物の細孔及び/又は中空内に取り込ませることを特徴とする。

【0099】
細孔性高分子化合物を、分離対象化合物を含む混合物と接触させ、分離対象化合物の分子を細孔性高分子化合物の細孔及び/又は中空内に取り込ませる方法としては、後述する結晶構造解析用試料の作製方法におけるものと同様のものを利用することができる。
すなわち、本発明の方法においては、単結晶を使用する必要が無く、また、分離対象化合物が、細孔性高分子化合物の細孔及び/又は中空内に規則性をもって収容される必要が無い点を除き、本発明の方法と、結晶構造解析用試料の作製方法においては、同様の操作により細孔性高分子化合物の細孔及び/又は中空内に対象化合物の分子を取り込ませる。
したがって、本発明の方法における、細孔性高分子化合物と混合物との接触条件は、後述する結晶構造解析用試料の作製方法における接触条件を利用することができる。また、本発明の方法においては、高濃度の分離対象化合物の溶液を用いたり、接触時間を短くしたりして、分離対象化合物の分子を、細孔性高分子化合物の細孔及び/又は中空内に乱雑に収容してもよい。

【0100】
本発明の方法においては、細孔性高分子化合物の細孔及び/又は中空内に分離対象化合物の分子を取り込ませた後、細孔性高分子化合物を、分離対象化合物と親和性のある溶媒に浸漬することで、取り込まれた分離対象化合物の分子が溶媒中に放出される。したがって、例えば、分離対象化合物の分子を溶媒中に放出させた後、細孔性高分子化合物を濾別し、得られた濾液から溶媒を揮発させることにより、高純度の分離対象化合物を得ることができる。

【0101】
3)細孔性高分子化合物の単結晶、結晶構造解析用試料の作製方法、及び解析対象化合物の分子構造決定方法
〔細孔性高分子化合物の単結晶〕
本発明の単結晶は、前記細孔性高分子化合物からなるものである。
細孔性高分子化合物の単結晶とは、前記三次元骨格と、該三次元骨格によって仕切られて形成された、三次元的に規則正しく整列した細孔及び/又は中空を有する結晶をいう。
「三次元的に規則正しく整列した、細孔及び/又は中空」とは、結晶構造解析によって、細孔や中空を確認することができる程度に乱れなく、規則的に整列している細孔や中空をいう。

【0102】
本発明の単結晶は、従来の細孔性高分子化合物の単結晶の調製方法と同様の方法を利用して合成することができる。例えば、本発明の単結晶は、先に示した細孔性高分子化合物の合成方法において、多座配位子の溶液の溶媒と、金属イオン含有化合物の溶液の溶媒として、互いに相溶性を有さない(すなわち、2層分離する)ものを用いたり、これらの溶液を層状にして静置したり、より低濃度の条件を用いて合成したりすることにより得ることができる。

【0103】
細孔の大きさは、細孔が延在する方向に対して、最も垂直に近い結晶面と平行な面(以下、平行面ということがある。)における細孔の内接円(以下、単に「細孔の内接円」ということがある。)の直径と相関がある。内接円が大きければ、細孔も大きくなり、内接円が小さければ、細孔も小さくなる。

【0104】
「細孔が延在する方向」は、以下の方法により決定することができる。
すなわち、まず、対象の細孔を横切る適当な方向の結晶面X(A面、B面、C面かそれぞれの対角面など)を選ぶ。そして、結晶面X上に存在し、かつ、三次元骨格を構成する原子を、ファンデルワールス半径を用いて表すことで、結晶面Xを切断面とする細孔の断面図を描く。同様に、当該結晶面Xと一単位胞ずれた結晶面Yを切断面とする細孔の断面図を描く。次に、それぞれの結晶面における細孔の断面形状の中心間を、立体図において直線(一点鎖線)で結ぶ(図1参照)。このとき得られる直線の方向が、細孔が延在する方向である。

【0105】
また、「細孔の内接円の直径」は、以下の方法により求めることができる。
すなわち、まず、上記と同様の方法により、前記平行面を切断面とする細孔の断面図を描く。次に、その断面図において細孔の内接円を描き、その直径を測定した後、得られた測定値を実際のスケールに換算することで、実際の細孔の内接円の直径を求めることができる。
さらに、前記平行面を、一単位胞分、徐々に平行移動させながら、各平行面における細孔の内接円の直径を測定することで、最も狭い部分の内接円の直径と、最も広い部分の内接円の直径が求められる。
単結晶の細孔の内接円の直径は、2~30Åが好ましく、3~10Åがより好ましい。

【0106】
また、細孔の形状が真円とは大きく異なる場合、上記平行面における細孔の内接楕円の短径及び長径から、単結晶の包接能を予測することが好ましい。
単結晶の細孔の内接楕円の長径は、2~30Åが好ましく、3~10Åがより好ましい。また、単結晶の細孔の内接楕円の短径は、2~30Åが好ましく、3~10Åがより好ましい。

【0107】
単結晶の細孔容積は、論文(A):Acta Crystallogr.A 46,194-201(1990)に記載の手法により求めることができる。すなわち、計算プログラム(PLATON SQUEEZE PROGRAM)により算出したSolvent Accessible Void(単位格子内の空隙体積)をもとに「単結晶の体積×単位胞における空隙率」を用いて計算することができる。
単結晶の細孔容積(一粒の単結晶中のすべての細孔の容積)は、1×10-7~0.1mmが好ましく、1×10-5~1×10-3mmがより好ましい。

【0108】
また、単結晶が中空を有する場合、その中空の大きさも、細孔容積と同様に、上記論文(A)に記載の手法により求めることができる。

【0109】
単結晶は、立方体または直方体形状を有するものが好ましい。その一辺は、好ましくは10~1000μm、より好ましくは、60~200μmである。このような形状、大きさの単結晶を用いることで、良質の結晶構造解析用試料が得られ易くなる。

【0110】
単結晶は、三次元骨格(いわゆるホスト分子)のみからなるものであってもよいし、三次元骨格と、細孔及び/又は中空内に、交換可能な分子(いわゆるゲスト分子)とを有するものであってもよい。

【0111】
単結晶は、管電圧が24kV、管電流が50mAで発生させたMoKα線(波長:0.71Å)を照射し、回折X線をCCD検出器で検出したときに、少なくとも1.5Åの分解能で分子構造を決定できるものが好ましい。かかる特性を有する単結晶を用いることで、良質の結晶構造解析用試料が得られ易くなる。

【0112】
〔結晶構造解析用試料の作製方法〕
本発明の結晶構造解析用試料の作製方法は、前記単結晶を、前記式(I)~(III)で示される部分構造を有する解析対象化合物(以下、単に「解析対象化合物」ということがある。)と接触させ、解析対象化合物の分子を細孔性高分子化合物の細孔及び/又は中空内に規則的に配列させることを特徴とする。

【0113】
解析対象化合物は、分子構造を解明する化合物であり、下記式(I)~(III)で示される部分構造を有する化合物である。当該部分構造は、分子の一部を構成する部分である。なお、式(I)、(II)中のA~A以外の部分(原子)は特に限定されないが、通常は炭素原子である。

【0114】
【化13】
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【0115】
(式中、A~Aは、それぞれ独立に、-OH、又は-N(R)(R)を表す。R、Rは、それぞれ独立に、水素原子、又はハロゲン原子を有していてもよい炭素数1~20の炭化水素基を表す。)

【0116】
、Rの炭素数1~20の炭化水素基としては、メチル基、エチル基等のアルキル基、フェニル基、ナフチル基等のアリール基等が挙げられる。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。

【0117】
前記式(I)で示される部分構造を有する化合物としては、下記式(Ia),(Ib)で示される糖類(単糖類、多糖類)、アミノ酸類(α—アミノ酸、β-アミノ酸、γ—アミノ酸等)や、これらの誘導体(核酸類、ポリペプチド類等)が挙げられる。

【0118】
【化14】
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【0119】
前記式(II)で示される化合物としては、下記式(IIa)で示されるキレート剤が挙げられる。

【0120】
【化15】
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【0121】
前記式(III)で示される化合物としては、下記式(IIIa)で示されるヒドロキサム酸類が挙げられる。

【0122】
【化16】
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【0123】
(Rは、水素原子、又は、炭素数1以上、好ましくは1~20の有機基を表す。)
従来の細孔性高分子化合物は、前記式(I)~(III)で示される部分構造を有する化合物を効率よく取り込むことができないことがあった。
本発明の方法に用いる細孔性高分子化合物は、その細孔及び/又は中空内にボロニル基を有するものであるため、解析対象化合物の分子が細孔及び/又は中空内に入り込むと、前記式(I)~(III)で示される部分構造とボロニル基との間で可逆的な共有結合が形成し、解析対象化合物の分子が細孔及び/又は中空内で安定化されると考えられる。この結果、本発明の方法によれば、前記式(I)~(III)で示される部分構造を有する化合物であっても、細孔及び/又は中空内に効率よく取り込ませることができる。

【0124】
解析対象化合物の大きさは、解析対象化合物が単結晶の細孔及び/又は中空に入り得る大きさのものである限り、特に限定されない。解析対象化合物の分子量は、通常、20~3,000、好ましくは100~2,000である。

【0125】
本発明においては、あらかじめ、核磁気共鳴分光法、質量分析法、元素分析等により、解析対象化合物の分子の大きさをある程度把握し、適当な細孔や中空を有する単結晶を適宜選択して用いることも好ましい。

【0126】
単結晶と、前記解析対象化合物を接触させる方法は特に限定されない。例えば、解析対象化合物の溶液を調製し、単結晶をこの溶液と接触させる方法や、解析対象化合物が液体又は気体である場合は、直接、単結晶を解析対象化合物と接触させる方法、により解析対象化合物の分子を細孔性高分子化合物の細孔及び/又は中空内に取り込ませることができる。なかでも、より良質の結晶構造解析用試料が得られ易いことから、解析対象化合物の溶液を調製する方法が好ましい。
また、解析対象化合物を含む溶液を用いる場合や、解析対象化合物が液体である場合は、前記単結晶を解析対象化合物を含む溶液等に浸漬させる方法、前記単結晶をキャピラリーの中に詰めた後、解析対象化合物を含む溶液等を、そのキャピラリー内を通過させる方法等により、接触操作を行うことができる。

【0127】
解析対象化合物を含む溶液の溶媒は、用いる単結晶を溶解せず、かつ、解析対象化合物を溶解するもののなかから適宜選択される。
用いる溶媒の具体例としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、1,2-ジクロロベンゼン、ニトロベンゼン等の芳香族炭化水素類;n-ブタン、n-ペンタン、n-ヘキサン、n-ヘプタン等の脂肪族炭化水素類;シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン等の脂環式炭化水素類;アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類;ジメチルスルホキシド(DMSO)等のスルホキシド類;N,N-ジメチルホルムアミド、n-メチルピロリドン等のアミド類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,2-ジメトキシエタン、1,4-ジオキサン等のエーテル類;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;エチルセロソルブ等のセロソルブ類;ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2-ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類;酢酸メチル、酢酸エチル、乳酸エチル、プロピオン酸エチル等のエステル類;水;等が挙げられる。これらの溶媒は一種単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。

【0128】
用いる解析対象化合物の量は特に限定されないが、通常、1ngから100g、好ましくは1μg~1gである。
接触時間は特に限定されないが、通常、1分から50日、好ましくは6時間から7日間である。
接触時の温度は特に限定されないが、通常、-20~150℃、好ましくは0~50℃である。

【0129】
本発明の方法により得られる結晶構造解析用試料は、前記単結晶の細孔及び/又は中空内に、解析対象化合物の分子が規則的に配列されてなるものである。
「解析対象化合物の分子が、規則的に配列される」とは、解析対象化合物の分子が、結晶構造解析によって構造を決定することができる程度に乱れなく、単結晶の細孔及び中空内に規則正しく収容されていることをいう。
解析対象化合物の分子を単結晶の細孔及び中空内に規則正しく収容する方法は特に限定されないが、例えば、比較的低濃度の解析対象化合物の溶液を用いたり、接触時間を十分に長くしたりすることにより、解析対象化合物の分子が規則的に配列されてなる結晶構造解析用試料が得られ易くなる。

【0130】
結晶構造解析用試料は、管電圧が24kV、管電流が50mAで発生させたMoKα線(波長:0.71Å)を照射し、回折X線をCCD検出器で検出したときに、少なくとも1.5Åの分解能で分子構造を決定できるものが好ましい。

【0131】
結晶構造解析用試料は、解析対象化合物の分子構造を決定することができるものであれば、前記単結晶中のすべての細孔及び中空内に解析対象化合物の分子が取り込まれている必要はない。例えば、前記単結晶中の細孔及び中空内の一部に、解析対象化合物を含む溶液に用いた溶媒が取り込まれたものであってもよい。

【0132】
結晶構造解析用試料は、解析対象化合物の分子の占有率が10%以上のものであることが好ましい。
占有率は、結晶構造解析により得られる値であり、理想的な包接状態におけるゲスト分子〔解析対象化合物の分子〕の量を100%としたときの、単結晶中に実際に存在するゲスト分子の量を表すものである。

【0133】
〔解析対象化合物の分子構造決定方法〕
本発明の解析対象化合物の分子構造決定方法は、前記方法で得られる結晶構造解析用試料を用いて、解析対象化合物の結晶構造解析を行うことを特徴とする。
本発明の方法においては、X線回折、中性子線回折のいずれの方法も利用することができる。
本発明の方法により解析対象化合物の分子構造を決定する際は、従来の単結晶の代わりに、前記方法で得られた結晶構造解析用試料をマウントする点を除き、従来と同様の方法を用いることができる。
【実施例】
【0134】
以下、実施例を挙げて、本発明をより詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0135】
(機器類)
(1)単結晶X線構造解析
Bruker社製 APEX II/CCD diffractometer〔線源:Mo-Kα線(波長0.71Å)、出力:50mA、24kV〕を用いて行った。
【実施例】
【0136】
〔製造例1〕配位子溶液の調製
2,4,6-トリス(4-ピリジル)-1,3,5-トリアジン(TPT)6.3mg(0.02mmol)と、2-トリフェニレニルボロン酸(和光純薬製)27.2mg(0.10mmol)を、ニトロベンゼン4mlとメタノール1mlの混合溶媒に溶解させて配位子溶液を得た。
【実施例】
【0137】
〔製造例2〕金属イオン含有溶液の調製
ZnI9.6mg(0.03mmol)をメタノール0.5mLに溶解させて、金属イオン含有溶液を得た。
【実施例】
【0138】
〔実施例1〕
製造例1で得た配位子溶液を試験管(φ15mm、高さ12cm)に入れ、その上にメタノール0.5mLを層状になるように静かに加えた。次いで、このメタノール層上に、製造例2で得た金属イオン含有溶液を静かに加えて層状にした。
このまま、15~25℃で10日間放置し、多核金属錯体の単結晶を得た。この単結晶について、X線結晶構造解析を行った。
結晶学的データを第1表に、結晶構造を図5に示す。
【実施例】
【0139】
【表1】
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【実施例】
【0140】
実施例1で得られた多核金属錯体は、ボロニル基を細孔内に有するものである。したがって、ボロニル基と共有結合を可逆的に形成し得る部分構造〔前記式(I)~(III)で示される部分構造〕を有する化合物は、多核金属錯体の細孔内に効率よく蓄積されると考えられる。
【符号の説明】
【0141】
1:結晶面X
2:結晶面Y
3:細孔
4:細孔が延在する方向
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4