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明細書 :絶縁材料のラマン散乱スペクトルを用いた2次元薄膜原子構造の積層数決定装置及び積層数決定方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2016-061657 (P2016-061657A)
公開日 平成28年4月25日(2016.4.25)
発明の名称または考案の名称 絶縁材料のラマン散乱スペクトルを用いた2次元薄膜原子構造の積層数決定装置及び積層数決定方法
国際特許分類 G01N  21/65        (2006.01)
FI G01N 21/65
請求項の数または発明の数 6
出願形態 OL
全頁数 15
出願番号 特願2014-189349 (P2014-189349)
出願日 平成26年9月17日(2014.9.17)
発明者または考案者 【氏名】中山 敦子
【氏名】星野 豪
【氏名】山田 裕
出願人 【識別番号】304027279
【氏名又は名称】国立大学法人 新潟大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100093230、【弁理士】、【氏名又は名称】西澤 利夫
【識別番号】100174702、【弁理士】、【氏名又は名称】安藤 拓
審査請求 未請求
テーマコード 2G043
Fターム 2G043AA03
2G043AA06
2G043FA02
2G043FA07
2G043HA01
2G043HA09
2G043JA04
2G043KA09
2G043NA01
2G043NA06
要約 【課題】グラフェンの積層数を簡便かつ正確に決定することができ、特に、大がかりな装置や、高度な知識と熟練された技術を要せず、測定条件に厳しい制限のない、絶縁材料上の2次元薄膜原子構造の積層数決定装置及び積層数決定方法を提供する。
【解決手段】絶縁材料20に支持された積層数未知の2次元薄膜原子構造21に入射レーザー光11を照射し、絶縁材料20由来のラマン散乱光の分光ピーク強度比I/Iを取得するための測定を行う顕微ラマン分光計2と、絶縁材料20に支持された積層数既知の2次元薄膜原子構造21に入射レーザー光11を照射して発生する絶縁材料20由来のラマン散乱光の分光ピーク強度比I/Iと、2次元薄膜原子構造21の積層数nとの関係を示す標準曲線に基づいて、分光ピーク強度比I/Iを標準曲線と照合し、積層数未知の2次元薄膜原子構造21の積層数を決定する積層数決定機構3とを備える。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
絶縁材料上の2次元薄膜原子構造の積層数決定装置であって、
前記絶縁材料に支持された積層数未知の2次元薄膜原子構造に入射レーザー光を照射し、前記絶縁材料由来のラマン散乱光の分光ピーク強度比I/Iを取得するための測定を行う顕微ラマン分光計と、
前記絶縁材料に支持された積層数既知の2次元薄膜原子構造に前記入射レーザー光を照射して発生する前記絶縁材料由来のラマン散乱光の分光ピーク強度比I/Iと、前記2次元薄膜原子構造の積層数nとの関係を示す標準曲線に基づいて、前記分光ピーク強度比I/Iを前記標準曲線と照合し、前記積層数未知の2次元薄膜原子構造の積層数を決定する積層数決定機構とを備える2次元薄膜原子構造の積層数決定装置。
【請求項2】
前記標準曲線は、前記積層数既知の2次元薄膜原子構造の単層に対する前記入射レーザー光の透過率T及び積層数nより、次の関係式:
/I=T2n
で表わされる、請求項1に記載の2次元薄膜原子構造の積層数決定装置。
【請求項3】
前記標準曲線は、前記絶縁材料に支持され、それぞれ積層数nが異なる前記積層数既知の2次元薄膜原子構造を複数用意して前記分光ピーク強度比I/Iを取得し、これと前記2次元薄膜原子構造の積層数nとの関係に基づいて取得される、請求項1に記載の2次元薄膜原子構造の積層数決定装置。
【請求項4】
前記2次元薄膜原子構造はグラフェンである、請求項1から3のいずれかに記載の2次元薄膜原子構造の積層数決定装置。
【請求項5】
前記絶縁材料は、金属以外のラマン活性を示す物質である、請求項1から4のいずれかに記載の2次元薄膜原子構造の積層数決定装置。
【請求項6】
次の工程を含む、絶縁材料上の2次元薄膜原子構造の積層数決定方法:
前記絶縁材料に支持された積層数既知の2次元薄膜原子構造に入射レーザー光を照射して発生する前記絶縁材料由来のラマン散乱光の分光ピーク強度比I/Iと、前記2次元薄膜原子構造の積層数nとの関係を示す標準曲線を取得する工程;
前記絶縁材料に支持された積層数未知の2次元薄膜原子構造に前記入射レーザー光を照射し、前記絶縁材料由来のラマン散乱光の分光ピーク強度比I/Iを取得する工程;及び
前記分光ピーク強度比I/Iを前記標準曲線と照合し、前記積層数未知の2次元薄膜原子構造の積層数を決定する工程。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁材料上に支持されたグラフェン等の2次元薄膜原子構造の積層数決定装置及び積層数決定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グラフェンは、2004年にNovoselovらが、スコッチテープを用いてグラファイトから機械的に剥離し、酸化膜付きシリコン基板に転写する方法を発見して以来、物性実験からその価値を見出された。
【0003】
その後、基礎科学、電子デバイス、センサー、電池等の幅広い分野で研究開発が活発に行われている。グラフェンは、その理想的な2次元構造に起因して様々な特異的性質を有し、各種分野への応用が期待されている物質である。
【0004】
また、グラフェンを筆頭に、原子の2次元的結合構造、あるいは、それと等価な2次元的電子状態を表面、界面などに有する機能性を持った薄膜物質は、従来のバルク物質や単なる薄膜とは異なる特性・構造を持つことで、新たな機能や従来材料の特性を凌駕する機能を発現することが可能であり、新規材料やデバイスの開発につながることが期待される。
【0005】
このような2次元薄膜原子構造は、その産業上の利用において、精密な積層数の評価が不可欠である。すなわちグラフェン等の2次元薄膜原子構造は、積層数に依存して電子物性や光学特性が顕著に変化するので、所望の機能を発揮させるためには、予め積層数を決定してデバイスを作製することが要求される。例えばグラフェン積層数の評価法は、キャパシター特性をはじめ、各種デバイスの性能向上に不可欠な技術である。
【0006】
従来、絶縁材料上に転写したグラフェンの積層数を評価するものとして、次のような方法が知られている。
【0007】
(a)ラマン分光法によるグラフェン2Dバンド(G’バンド)の線形フィッティング(非特許文献1、2)。
この方法では、グラフェンのGバンドと2Dバンドの相対強度比、2Dバンドの波数(エネルギー)、2Dバンドの形状などを基にグラフェン積層数を決定する。
【0008】
(b)反射光学顕微鏡観察によるコントラスト測定(非特許文献3)。
この方法における観察の原理は、基板と基板上のグラフェンの光学反射によるコントラスト差である。グラフェンを酸化膜付きシリコン基板に貼り付け、そのグラフェンの光学顕微鏡像を取得した後、SiO表面とグラフェンの光学顕微鏡像のコントラスト比を比較する。
【0009】
(c)透過型電子顕微鏡(TEM)、原子間力顕微鏡(AFM)、走査型電子顕微鏡(SEM、特許文献1)による方法。
【0010】
また、六方晶窒化ホウ素は、グラフェンとよく似た蜂の巣構造を持つ絶縁材料で、窒素とホウ素が形成する非常に強いsp結合の2次元平面構造が弱い結合で積層した構造になっている。この六方晶窒化ホウ素でも、ラマン分光法による積層数の評価(非特許文献4)、反射光学顕微鏡観察によるコントラスト測定に基づく積層数の評価(非特許文献5)が報告されている。
【先行技術文献】
【0011】

【非特許文献1】A. C. Ferrari, et al., Phys. Rev. Lett. 97, 187401 (2006).
【非特許文献2】D. Graf et al., Nano Lett. 7, 238 (2007).
【非特許文献3】P. Blake et al., Appl. Phys. Lett. 91, 063124 (2007).
【非特許文献4】E. V. Grobachev et al., Small 7, 465 (2011).
【非特許文献5】日浦英文他、NEW DIAMOND 27, 42 (2011).
【0012】

【特許文献1】国際公開第2011/162411号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、従来の(a)~(c)による積層数の評価は、以下の点で研究開発のボトルネックとなっていた。
【0014】
上記(a)の方法は、グラフェンを支持する絶縁材料の種類によっては、絶縁材料上に転写したグラフェンのラマンピークが絶縁材料のピークと重なってしまう。例えば、ダイヤモンド基板上に転写したグラフェンのラマンピークは、ダイヤモンド(2次)のピークと重なるため、線形解析による積層数評価が困難である。また、5枚以上積層したグラフェンでは、積層数が増すにつれて、各積層数のグラフェンを特徴付けるラマンバンドの位置や形状が不規則に変化することに起因して、ラマンピークの線形がより複雑化し、解析が難しくなる。
【0015】
上記(b)の方法は、基板のみの反射強度Rとn層グラフェンが積層した基板上の反射強度Rの差が無い場合、コントラスト(=R/R-1)がなくなり、積層数評価が難しい。この方法では基板として酸化膜付きシリコン基板のみが検討されているが、使用可能な基板の制約がある。また、グラフェン積層数とコントラスト比の線形性の制約によって、6層程度を超える積層数の評価が難しい。
【0016】
上記(c)の方法は、装置が大がかりで、測定や解析には高度な知識と熟練された技術を要する。高真空での測定、試料サイズなど、測定条件も限定される。
【0017】
グラフェンのうち、工業的な利用が期待されるものには10~15層程度のものが多く、このような積層数のものを、非破壊で、かつ、その場観察ができる方法が望まれていた。そしてグラフェンデバイス作製のための基板を選択できないことは、グラフェンデバイスの応用範囲を狭めてしまうことにもなり得る。
【0018】
本発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、グラフェンの積層数を簡便かつ正確に決定することができ、特に、大がかりな装置や、高度な知識と熟練された技術を要せず、測定条件に厳しい制限のない、絶縁材料上の2次元薄膜原子構造の積層数決定装置及び積層数決定方法を提供することを課題としている。
【0019】
また本発明は、上記の課題に対して、単層から30層までの広範囲にわたる積層数評価が可能な、絶縁材料上の2次元薄膜原子構造の積層数決定装置及び積層数決定方法を提供することを課題としている。
【0020】
また本発明は、上記の課題に加えて、絶縁材料の種類による制限の少ない、絶縁材料上の2次元薄膜原子構造の積層数決定装置及び積層数決定方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0021】
グラフェンは、炭素原子の薄層構造でありながら、その独特な電気的特性により不透明度が高い。本発明者らは、従来のようにグラフェンのラマンスペクトルの線形解析から積層数を評価するのではなく、グラフェンを転写したラマン活性を示す絶縁材料からのラマンピークを用いて転写されたグラフェン積層数を評価した。
【0022】
その結果、グラフェンの遮光効果を利用して、グラフェンが載っている絶縁基板由来のラマンピークを測定することで、グラフェンの積層数を簡便かつ正確に導くことができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0023】
すなわち、本発明の2次元薄膜原子構造の積層数決定装置及び積層数決定方法は、以下のことを特徴としている。ここで、以下の記述においてI、I、Iの定義は次のとおりである。
:絶縁材料に支持された積層数未知の2次元薄膜原子構造に入射レーザー光を照射して測定した、絶縁材料由来のラマン散乱光の分光ピーク強度であり、顕微ラマン分光計によって測定した絶対強度である。
:絶縁材料に支持された積層数既知の2次元薄膜原子構造に入射レーザー光を照射して測定した、絶縁材料由来のラマン散乱光の分光ピーク強度であり、顕微ラマン分光計によって測定した絶対強度である。
:2次元薄膜原子構造を配置しない絶縁材料に入射レーザー光を照射して測定した、絶縁材料由来のラマン散乱光の分光ピーク強度であり、顕微ラマン分光計によって測定した絶対強度である。
【0024】
本発明の2次元薄膜原子構造の積層数決定装置は、絶縁材料上の2次元薄膜原子構造の積層数決定装置であって、前記絶縁材料に支持された積層数未知の2次元薄膜原子構造に入射レーザー光を照射し、前記絶縁材料由来のラマン散乱光の分光ピーク強度比I/Iを取得するための測定を行う顕微ラマン分光計と、
前記絶縁材料に支持された積層数既知の2次元薄膜原子構造に前記入射レーザー光を照射して発生する前記絶縁材料由来のラマン散乱光の分光ピーク強度比I/Iと、前記2次元薄膜原子構造の積層数nとの関係を示す標準曲線に基づいて、前記分光ピーク強度比I/Iを前記標準曲線と照合し、前記積層数未知の2次元薄膜原子構造の積層数を決定する積層数決定機構とを備えている。
【0025】
また本発明の絶縁材料上の2次元薄膜原子構造の積層数決定方法は、次の工程を含む:
前記絶縁材料に支持された積層数既知の2次元薄膜原子構造に入射レーザー光を照射して発生する前記絶縁材料由来のラマン散乱光の分光ピーク強度比I/Iと、前記2次元薄膜原子構造の積層数nとの関係を示す標準曲線を取得する工程;
前記絶縁材料に支持された積層数未知の2次元薄膜原子構造に前記入射レーザー光を照射し、前記絶縁材料由来のラマン散乱光の分光ピーク強度比I/Iを取得する工程;及び
前記分光ピーク強度比I/Iを前記標準曲線と照合し、前記積層数未知の2次元薄膜原子構造の積層数を決定する工程。
【0026】
好ましい態様において、前記標準曲線は、前記積層数既知の2次元薄膜原子構造の単層に対する前記入射レーザー光の透過率T及び積層数nより、次の関係式:
/I=T2n
で表わされる。
【0027】
好ましい別の態様において、前記標準曲線は、前記絶縁材料に支持され、それぞれ積層数nが異なる前記積層数既知の2次元薄膜原子構造を複数用意して前記分光ピーク強度比I/Iを取得し、これと前記2次元薄膜原子構造の積層数nとの関係に基づいて取得される。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、グラフェン等の2次元薄膜原子構造の遮光効果を利用して、2次元薄膜原子構造を支持する絶縁基板由来のラマン散乱強度比を取得することで、2次元薄膜原子構造の積層数を簡便かつ正確に決定することができる。測定に必要なものは顕微ラマン分光計のみで、その他の大がかりな装置、高度な知識と熟練された技術を要しない。そして常温、大気圧下での測定でも積層数評価が可能で、高真空での測定、試料サイズなど、測定条件の厳しい制限がない。
【0029】
また本発明によれば、単層から30層までの広範囲にわたる積層数評価が可能である。
【0030】
また本発明によれば、ラマン活性を示す絶縁材料ならば絶縁材料の種類による制限が少なく、例えばグラフェン等の2次元薄膜原子構造とのコントラストが小さい絶縁材料でも積層数が評価できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の2次元薄膜原子構造の積層数決定装置の実施形態の概略構成を示した図である。
【図2】本発明の2次元薄膜原子構造の積層数決定装置の実施形態の概略構成を示した図である。
【図3】絶縁材料に支持された2次元薄膜原子構造に入射レーザー光を照射した様子を模式的に示した図である。
【図4】積層数決定方法の概略を示すフローチャートである。
【図5】絶縁材料としてダイヤモンドアンビルを用いた実施例の概略構成を示した図である。
【図6】ダイヤモンドアンビルに転写されたn層グラフェンの光学顕微鏡写真である。
【図7】図6にある(1)~(5)のグラフェンを転写したダイヤモンドと、ダイヤモンドアンビルのみ(BG)のラマンスペクトルである。
【図8】図6にある(1)~(5)のグラフェンを転写したダイヤモンドアンビルのラマンピーク強度比I/Iと積層数nの関係をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下に、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。

【0033】
図1及び図2は、本発明の2次元薄膜原子構造の積層数決定装置の実施形態の概略構成を示した図である。

【0034】
積層数決定装置1は、絶縁材料20上の2次元薄膜原子構造21の積層数を決定するものであり、図1に示すように、2次元薄膜原子構造21に入射レーザー光を照射し、ラマン散乱光の強度を測定する測定部2を備えている。

【0035】
また積層数決定装置1は、図1及び図2に示すように、測定部2が測定したラマン散乱光の強度を元に2次元薄膜原子構造21の積層数を決定する積層数決定部3を備えている。

【0036】
測定部2は、絶縁材料20に支持された積層数未知の2次元薄膜原子構造21に入射レーザー光11を照射し、絶縁材料20由来のラマン散乱光の分光ピーク強度Iを測定するための顕微ラマン分光計である。また測定部2では、前述の分光ピーク強度I及びIも測定される。

【0037】
測定部2は、絶縁材料20に支持された2次元薄膜原子構造21に入射レーザー光11を照射するためのレーザー光源10と、入射レーザー光11を照射して発生する絶縁材料20由来のラマン散乱光を分光する分光器16と、分光したラマン散乱光を検出する検出器17とを備えている。

【0038】
レーザー光源10は、入射レーザー光11が安定な単波長であること、十分なラマン散乱光を発生させるために強度の高い光源であること、光源の線幅が狭いほど波数分解能が高くなること等を考慮して選択される。レーザー光源10としては、例えば、固体レーザー、半導体レーザー、アルゴンイオンレーザー等が挙げられる。

【0039】
分光器16は、絶縁材料20より発生したラマン散乱光を分光する。分光器16としては、例えば、回折格子を組み込んだポリクロメーター等が挙げられる。

【0040】
検出器17は、ラマン散乱光は非常に微弱なため、感度(量子効率)の高いものを使用することが望ましい。検出器17の量子効率は波長によって大きく変わるので、励起波長及び測定波数範囲に合わせた選択が必要となる。レーザー光源10として可視光源を使用する場合、冷却CCD検出器を用いることができる。

【0041】
顕微ラマン分光計は、図示はしないが、接眼レンズによる試料の観察や、内蔵カメラによるモニター表示、オートフォーカス、画像上でのマウスクリックによる目的箇所のセンタリングが可能な構成とすることができる。

【0042】
絶縁材料20は、X-Yステージ18の試料台上に配置されており、X-Yステージ18を駆動することによって絶縁材料20をX-Y走査できるように構成されている。

【0043】
レーザー光源10から出射された入射レーザー光11は、ハーフミラー12によって反射され、顕微鏡対物レンズ13によって集光されて、絶縁材料20に支持された2次元薄膜原子構造21に照射される。

【0044】
これにより発生した絶縁材料20からのラマン散乱光は、顕微鏡対物レンズ13に取り込まれ、ハーフミラー12を透過し、レイリー散乱光の除去フィルター14、スリット15を通って分光器16に導かれる。

【0045】
2次元薄膜原子構造21を透過した絶縁材料20からのラマン散乱光を検出する際には、顕微鏡対物レンズ13などの光学系を調整して、2次元薄膜原子構造21のサイズよりもスポット径を小さくする。

【0046】
分光器16で分光されたラマン散乱光は、検出器17で検出され、電気信号に変換されて積層数決定部3の外部接続部30へ入力される。

【0047】
図1及び図2に示す積層数決定部3は、絶縁材料20に支持された積層数既知の2次元薄膜原子構造21に入射レーザー光11を照射して発生する絶縁材料20由来のラマン散乱光の分光ピーク強度比I/Iと、2次元薄膜原子構造21の積層数nとの関係を示す標準曲線に基づいて、積層数未知の2次元薄膜原子構造21を測定して得た分光ピーク強度比I/Iを標準曲線と照合し、積層数未知の2次元薄膜原子構造21の積層数を決定する積層数決定機構を構成している。分光ピーク強度比I/I及びI/Iは、測定部2で測定されたI、I及びIに基づいて積層数決定部3で取得される。

【0048】
積層数決定部3は、例えばコンピュータであり、外部接続部30、制御部31、記憶部32、入力部33、及び出力部34を備えている。これらはバス35で接続されている。

【0049】
外部接続部30は、ケーブル等で外部の測定部2等と接続されている。

【0050】
制御部31は、各構成要素を駆動制御するためのCPU、ROM、RAM等を備えている。

【0051】
記憶部32は、各構成要素を動作させるためのプログラムが格納されている。また積層数決定装置1を動作させるための積層数決定プログラム及び積層数決定に用いる標準曲線、すなわち絶縁材料20に支持された積層数既知の2次元薄膜原子構造21に入射レーザー光10を照射して発生する絶縁材料20由来のラマン散乱光の分光ピーク強度比I/Iと、2次元薄膜原子構造21の積層数nとの関係を示す標準曲線のデータも記憶部32に格納される。

【0052】
入力部33は、測定条件等の入力を行うための、マウス、キーボード等である。

【0053】
出力部34は、測定結果を出力するディスプレイ等である。

【0054】
以上のような構成を備えた積層数決定装置1を用いた絶縁材料20上の2次元薄膜原子構造21の積層数決定方法は、次の原理に基づいている。以下、2次元薄膜原子構造21としてグラフェンを用いた場合を例として説明する。

【0055】
図3に示すように、グラフェン21を転写した絶縁材料20からのラマン散乱スペクトルを測定すると、グラフェン21によって、入射レーザー光11が遮蔽され、かつ、絶縁材料20からのラマン散乱光40も遮蔽され、その結果、絶縁材料20のラマンピーク強度は減少する。

【0056】
絶縁材料20上に転写したグラフェン21の積層数が増えると、絶縁材料20に到達する入射レーザー光11に対する遮光性が高くなり、更に絶縁材料20からのラマン散乱光40に対する遮光性も高くなり、その結果、絶縁材料20のラマンスペクトル強度はより減少する。

【0057】
単層グラフェンの透過率は、非特許文献1等の公知文献からおよそ97.7%である。よって、n層グラフェン21が絶縁材料20上に転写されている場合、絶縁材料20上のラマン強度比I/Iは、原理的には(0.977)2nとなる。

【0058】
そこで、これを標準曲線とし、絶縁材料20に支持された積層数未知のグラフェン21に入射レーザー光11を照射して測定を行い、測定された分光ピーク強度Iに基づいて、絶縁材料20由来のラマン散乱光の分光ピーク強度比I/Iを取得する。そして分光ピーク強度比I/Iを標準曲線と照合することで、積層数未知のグラフェン21の積層数を決定することができる。

【0059】
実際には、ここに絶縁材料20の反射率等がラマン散乱光の分光ピーク強度の要因に加わる。そこで、より精密な積層数の評価を行う場合には、予めグラフェン21の積層数が分かっているもの(0層、単層、n層、∞層)を転写した絶縁材料20のラマン散乱光の分光ピーク強度比I/Iとグラフェン21の積層数nとの関係を、実験的に標準曲線として求めておく。次に、同一の絶縁材料20を用いて、評価したい積層数未知のグラフェン21が転写された絶縁材料20におけるラマン散乱光の分光ピーク強度比I/Iを取得し、標準曲線と照合して積層数を決定する。

【0060】
2次元薄膜原子構造21を支持する絶縁材料20としては、ラマン散乱のピークが測定できるものであれば特に限定されないが、例えば、ダイヤモンドや、Si、GaAs(ガリウムヒ素)、窒化ホウ素等の半導体、マイカ等の絶縁体等を挙げることができる。しかし金属の場合は、ラマン活性を示すものであっても、大抵は低温に冷却しないとラマンピークが得られず、そうなると装置も大がかりとなり、またピークの形状は強度が弱くブロードであることから、絶縁材料20としては、金属以外のラマン活性を示す物質が好ましい。

【0061】
絶縁材料20の形状は、特に限定されないが、2次元薄膜原子構造21を支持する平坦面を有するものが好ましい。例えば、絶縁材料20として基板を用いることができる。

【0062】
また、観察の妨げにならないように、絶縁材料20は予め、洗浄や酸素プラズマ等で清浄化することが望ましい。CVDグラフェンやSiC熱分解エピタキシャル成長グラファイトの場合、機械的な剥離・貼り付けをせずに成長基板をそのまま用いることも可能である。

【0063】
2次元薄膜原子構造21は、原子の2次元的結合構造、あるいは、それと等価な2次元的電子状態を表面、界面などに有する機能性を持った薄膜物質であり、例えば、グラフェン、六方晶窒化ホウ素(hBN)、トポロジカル絶縁体、2次元原子・分子薄膜等が挙げられる。

【0064】
グラフェンは、例えば、天然グラファイトを粘着テープで薄く剥がすことによって得られる。グラフェンの原料としては上記の天然グラファイトのほか、HOPG(高配向熱分解グラファイト)、Kish(キッシュ)グラファイト、CVD(化学気相成長)グラフェン、SiC熱分解エピタキシャル成長グラファイト等を用いることができる。

【0065】
次に、積層数決定装置1を用いた2次元薄膜原子構造21の積層数決定方法について、図4を参照して説明する。

【0066】
まず、積層数決定部3の制御部31は、記憶部32に格納された積層数決定プログラムを起動し、評価したい積層数未知の2次元薄膜原子構造21の試料の測定結果と照合するための標準曲線が得られていない場合には、標準曲線を取得する(S101、S102)。

【0067】
なお、標準曲線が既に取得済みの場合は、S102のステップは不要であり、次のS103に進む。

【0068】
ここで、S102における標準曲線の取得方法について説明する。

【0069】
この標準曲線は、絶縁材料20に支持された積層数既知の2次元薄膜原子構造21に入射レーザー光11を照射して発生する絶縁材料20由来のラマン散乱光の分光ピーク強度比I/Iと、2次元薄膜原子構造21の積層数nとの関係を示すものである。

【0070】
一例では、標準曲線は、2次元薄膜原子構造21の単層に対する入射レーザー光11の透過率Tと、2次元薄膜原子構造21の積層数nより、絶縁材料20由来のラマン散乱光の分光ピーク強度比I/IをT2nとする関係式で表わされる。この関係式の原理については図3を参照して上述したとおりである。この例によれば、測定を要せずとも標準曲線を取得することができ、グラフェンの積層数を非常に簡便に決定することができる。

【0071】
なお、グラフェンの透過率はいろいろな方法で求められるが、例えば、ラマン分光法によりグラフェン単層の透過率Tを次の方法によって求めることができる。グラフェン単層が配置された絶縁材料20を用意し、絶縁材料20由来のラマン散乱光の分光ピーク強度Iを実験から求める。また、絶縁材料20のラマン散乱光の分光ピーク強度Iを実験から求める。そしてI/I=Tの関係式より、T=(I/I1/2を得る。よって、グラフェン積層数評価のための関係式は、I/I=T2n={(I/I1/22n=(I/Iとなる。この例ではグラフェンを用いた場合について説明したが、他の2次元薄膜原子構造21と置き換えても同様な式が成り立つ。

【0072】
別の例では、標準曲線は、絶縁材料20に支持され、それぞれ積層数nが異なる積層数既知の2次元薄膜原子構造21を複数用意し、これに入射レーザー光11を照射して測定された分光ピーク強度Iより取得した、絶縁材料20由来のラマン散乱光の分光ピーク強度比I/Iに基づいて取得される。上記の例では関係式T2nを標準曲線としたが、実際には、ここに絶縁材料20の反射率等がラマン散乱光の分光ピーク強度の要因として加わる。そこで、より精密な積層数の評価を行うことが適切な場合には、予め2次元薄膜原子構造21の積層数が分かっているもの(0層、単層、n層、∞層)を転写した絶縁材料20におけるラマン散乱光の分光ピーク強度比I/Iと、2次元薄膜原子構造21の積層数nとの関係を、実験的に基づく標準曲線として求めておく。次に、同一の絶縁材料20を用いて、評価したい積層数未知のグラフェン21が転写された絶縁材料20におけるラマン散乱光の分光ピーク強度比I/Iを取得し、標準曲線と照合して積層数を決定する。

【0073】
ここで、予め2次元薄膜原子構造21の積層数nが分かっているものを転写した絶縁材料20は、ラマン測定(非特許文献1、2)、光学測定(非特許文献3)等の公知の方法で2次元薄膜原子構造21の積層数nを評価することによって得ることができる。

【0074】
例えば、積層数nが異なる複数の2次元薄膜原子構造21を用意し、これらを絶縁材料20に転写する。絶縁材料20は積層数未知の2次元薄膜原子構造21を転写するものと同じ材料を用いる。

【0075】
次に、制御部31は積層数決定プログラムに基づき、ステップS103と同じ条件にて絶縁材料20に支持された2次元薄膜原子構造21に入射レーザー光11を照射するように指示する。それに基づいて、測定部2は、絶縁材料20に支持された積層数既知の2次元薄膜原子構造21に入射レーザー光11を照射して、絶縁材料20由来のラマン散乱光の分光ピーク強度Iを測定する。また、基準として2次元薄膜原子構造21を配置しない絶縁材料20由来のラマン散乱光の分光ピーク強度Iも測定しておく。

【0076】
制御部31は、2次元薄膜原子構造21の積層数nと、絶縁材料20由来のラマン散乱光の分光ピーク強度比I/Iの関係をプロットして、最小2乗法等の回帰分析でフィッティングすることにより標準曲線を作成し、記憶部32に保存する。

【0077】
以上の例によれば、より精密な積層数の評価を行うことが可能となる。

【0078】
次のステップとして、積層数未知の2次元薄膜原子構造21、すなわち積層数を決定したい2次元薄膜原子構造21を絶縁材料20上に転写する(S103)。この積層数未知の2次元薄膜原子構造21を支持する絶縁材料20は、図1のX-Yステージ18の試料台上に配置される。

【0079】
次のステップとして、積層数決定部3の制御部31は、積層数決定プログラムに基づき、所定の条件にて絶縁材料20に支持された積層数未知の2次元薄膜原子構造21に入射レーザー光11を照射するように指示し、レーザー光源10より入射レーザー光11を照射する(S104)。

【0080】
次のステップとして、制御部31は、測定部2(顕微ラマン分光計)の検出部17を制御して絶縁材料20由来のラマン散乱光の分光ピーク強度比I/Iを取得する(S105)。

【0081】
次のステップとして、分光ピーク強度比I/Iを標準曲線と照合し、積層数未知の2次元薄膜原子構造21の積層数を決定する(S106)。

【0082】
具体的には、標準曲線における、絶縁材料20由来のラマン散乱光の分光ピーク強度比I/Iに対応する積層数を2次元薄膜原子構造21の積層数とする。

【0083】
本実施形態によれば、グラフェン等の2次元薄膜原子構造21の遮光効果を利用して、2次元薄膜原子構造21を支持する絶縁基板20由来のラマン散乱強度比を取得することで、2次元薄膜原子構造21の積層数を簡便かつ正確に決定することができる。測定に必要なものは顕微ラマン分光計のみで、その他の大がかりな装置、高度な知識と熟練された技術を要しない。そして常温、大気圧下での測定でも積層数評価が可能で、高真空での測定、試料サイズなど、測定条件の厳しい制限がない。

【0084】
また本実施形態によれば、単層から30層まで、広範囲にわたる積層数評価が可能である。そして、絶縁材料20の種類による制限が少なく、例えばグラフェン等の2次元薄膜原子構造21とのコントラストが小さい絶縁材料20でも積層数が評価できる。
【実施例】
【0085】
以下に、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0086】
顕微ラマン分光計としてJobin Yvon社製レーザーラマン分光測定システムT64000を用いた。
【実施例】
【0087】
絶縁材料としてダイヤモンドアンビルを用い、図5に示すように上面にグラフェンを転写して測定を行った。(i)はダイヤモンドアンビルのみ、(ii)はn層グラフェンを転写した場合を示す。
【実施例】
【0088】
図6は、ダイヤモンドアンビルに転写されたn層グラフェンの光学顕微鏡写真である。写真中の(1)~(5)は、積層数の異なる5種類のグラフェンのサンプルであり、これらは別途にグラフェンのラマンスペクトル(2Dバンド)を利用して積層数を求めた(非特許文献1)。
【実施例】
【0089】
これらの積層数の異なる5種類のグラフェンを転写したダイヤモンドアンビルについて、ダイヤモンドアンビル上面に対して入射レーザー光(波長514.5nm)を照射し、ダイヤモンドからのラマン散乱光を検出して、ダイヤモンド(1次)のラマンスペクトルを測定した。
【実施例】
【0090】
図7は、(1)~(5)のグラフェンを転写したダイヤモンドと、ダイヤモンドアンビルのみ(BG)のラマンスペクトルである。このように、n層グラフェンを転写した(1)~(5)ののサンプルでは、ダイヤモンドアンビルのみのBGに比べてラマン散乱光の分光ピーク強度は減少し、ダイヤモンドアンビル上のn層グラフェンによって、入射レーザー光と反射光のラマン散乱光が遮蔽されることを示唆した。
【実施例】
【0091】
表1に、図7の(1)~(5)の各ピークの強度Iと、ダイヤモンドのみのピークの強度Iに対する比(I/I)の結果を示す。各ピークの強度は関数のフィッティングから求めた。
【実施例】
【0092】
【表1】
JP2016061657A_000003t.gif
図8は、グラフェンを転写したダイヤモンドアンビルのラマンピーク強度比I/Iと積層数nの関係をプロットしたグラフである。
【実施例】
【0093】
単層グラフェンの透過率は、文献値(非特許文献1等)からおよそ97.7%である。よって、n層グラフェンが基板上に転写されている場合、基板のラマン強度比I/Iは、原理的には(0.977)2nとなる。この数式と、上記のプロットとを図8に対比した。
【実施例】
【0094】
図8に示すように、ダイヤモンドの1次ピークを用いた強度比-積層数のプロットは、上記数式を再現していた。
【実施例】
【0095】
以上の結果より、予めグラフェンの積層数が分かっているもの(0層、1層、n層、∞層)を転写した基板のラマンスペクトル強度比(基板の強度で割った値)I/Iと積層数nとの関係を実験的に求めておき、回帰分析によって標準曲線を得ることで、同一基板を用いて層数未知のグラフェンを転写し基板のラマンスペクトルを測定し、標準曲線と照合することで、積層数未知のグラフェンの積層数を精度良く決定できることが分かった。
【実施例】
【0096】
更に、単層グラフェンの透過率に基づくシンプルな式を標準曲線として、積層数未知のグラフェンが転写された基板のラマンスペクトルを測定し、そのピーク強度比(基板の強度で割った値)を標準曲線と照合することで、積層数未知のグラフェンの積層数を精度良く決定できることが分かった。
【符号の説明】
【0097】
1 積層数決定装置
2 測定部(顕微ラマン分光計)
3 積層数決定部(積層数決定機構)
10 レーザー光源
11 入射レーザー光
12 ハーフミラー
13 顕微鏡対物レンズ
14 レイリー散乱光の除去フィルター
15 スリット
16 分光器
17 検出器
18 X-Yステージ
20 絶縁材料
21 2次元薄膜原子構造
30 外部接続部
31 制御部
32 記憶部
33 入力部
34 出力部
35 バス
40 絶縁材料からのラマン散乱光
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7