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明細書 :上皮及び内皮損傷の治療剤

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5967631号 (P5967631)
登録日 平成28年7月15日(2016.7.15)
発行日 平成28年8月10日(2016.8.10)
発明の名称または考案の名称 上皮及び内皮損傷の治療剤
国際特許分類 C07K  14/745       (2006.01)
A61K  38/00        (2006.01)
A61P   9/10        (2006.01)
A61P   7/10        (2006.01)
A61P  11/06        (2006.01)
A61P   9/14        (2006.01)
FI C07K 14/745 ZNA
A61K 37/02
A61P 9/10 101
A61P 9/10
A61P 7/10
A61P 11/06
A61P 9/14
請求項の数または発明の数 7
全頁数 48
出願番号 特願2014-512741 (P2014-512741)
出願日 平成25年4月30日(2013.4.30)
国際出願番号 PCT/JP2013/062989
国際公開番号 WO2013/162078
国際公開日 平成25年10月31日(2013.10.31)
優先権出願番号 2012102910
優先日 平成24年4月27日(2012.4.27)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成28年2月2日(2016.2.2)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】899000057
【氏名又は名称】学校法人日本大学
発明者または考案者 【氏名】日臺 智明
【氏名】北野 尚孝
【氏名】真宮 淳
早期審査対象出願または早期審理対象出願 早期審査対象出願
個別代理人の代理人 【識別番号】100092783、【弁理士】、【氏名又は名称】小林 浩
【識別番号】100120134、【弁理士】、【氏名又は名称】大森 規雄
【識別番号】100153693、【弁理士】、【氏名又は名称】岩田 耕一
【識別番号】100104282、【弁理士】、【氏名又は名称】鈴木 康仁
審査官 【審査官】松岡 徹
参考文献・文献 国際公開第2011/028229(WO,A1)
国際公開第2009/137254(WO,A1)
Hideko Atoda et al.,Characterizaiton of a Monoclonal Antibody B1 That Recognizes Phosphorylated Ser-158 in the Activation Peptide Region of Human Coagulation Factor IX,The Journal of Biological Chemistry,2006年,Vol.281, No.14, pp9314-9320
調査した分野 C07K
A61K
A61P
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/BIOSISWPIDS/(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
以下の(a)~(d)のいずれかのペプチド、又はこれらの塩を含むことを特徴とする、上皮及び内皮損傷の治療剤。
(a) 配列番号10、4、12及び6のいずれかに示されるアミノ酸配列を含むペプチド。
(b) 配列番号16、18、20及び22のいずれかに示されるアミノ酸配列を含むペプチド
(c) 配列番号12及び6のいずれかに示されるアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、上皮及び内皮損傷の修復活性を有するペプチド。
(d) 配列番号20及び22のいずれかに示されるアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、上皮及び内皮損傷の修復活性を有するペプチド。
【請求項2】
上皮及び内皮損傷が微小損傷である、請求項記載の治療剤。
【請求項3】
以下の(a)~(d)のいずれかのペプチド、又はこれらの塩を含むことを特徴とする、上皮及び内皮細胞の伸展亢進剤。
(a) 配列番号10、4、12及び6のいずれかに示されるアミノ酸配列を含むペプチド。
(b) 配列番号16、18、20及び22のいずれかに示されるアミノ酸配列を含むペプチド
(c) 配列番号12及び6のいずれかに示されるアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、上皮及び内皮細胞の伸展亢進活性を有するペプチド。
(d) 配列番号20及び22のいずれかに示されるアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、上皮及び内皮細胞の伸展亢進活性を有するペプチド。
【請求項4】
請求項若しくは記載の治療剤又は請求項記載の伸展亢進剤を含む、医薬組成物。
【請求項5】
上皮及び内皮損傷に伴う疾患又は病態の治療に用いるものである、請求項記載の医薬組成物。
【請求項6】
上皮及び内皮損傷が微小損傷である、請求項記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記疾患又は病態が、敗血症、動脈硬化症、急性心筋梗塞、狭心症、動静脈血栓症、脳梗塞後脳浮腫及び気管支喘息並びに血管透過性亢進状態からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項又は記載の医薬組成物。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、上皮及び内皮損傷の治療剤、特に上皮及び内皮の微小損傷の治療剤、並びに上皮及び内皮細胞の伸展亢進剤等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
止血凝固に携わる凝固第9因子(F9)は古くから知られる必須の血液凝固因子であり、血友病の原因タンパク質として周知である。F9は、血液凝固反応の過程において、凝固第11因子(F11)と凝固第7因子により、軽鎖と重鎖の間に存在する中間部(Activation peptide(F9-AP))が切断され、活性化される。切断後も軽鎖と重鎖はジスルフィド結合によりつながっており、1つの分子として、血液凝固反応を促進する(非特許文献1:Textbook of Medical Physiology,10e.Arthur C.Guyton MD)。しかしながら、中間部であるF9-APの機能についての報告はほとんどない。
ところで、上皮細胞の一種である血管内皮細胞は、通常時は、血小板機能や凝固線溶系を制御し、血管内で血栓が形成されないように機能している。また、血液やその成分が血管の外に漏れ出ることがないよういに血管の内面を覆っている。血管内皮細胞が障害を受けることにより様々な急性の疾患が引き起こされる(非特許文献2:Harrison’s Principles of Internal Medicine,18e.Dan Longo)。例えば、心筋梗塞などの急性冠症候群(ACS)、出血箇所のみで生じるべき血液凝固反応が全身の血管内で無秩序に起こる播種性血管内凝固症候群(DIC)、細菌によって引き起こされた全身性炎症反応症候群の敗血症、及びアレルギー性疾患のうち最も激しく重篤な症状のアナフィラキシー等がある。これらの疾患における内皮細胞の損傷は微小なものであるが、血管内での異常な凝固や血液成分の血管外への漏出が起こるためいずれも急性かつ重篤なものであり、迅速で適切な処置と治療薬の投与が必要とされる。上記疾患の急性期の治療には、従来、降圧剤や抗ヒスタミン、ステロイド、抗凝固薬等の投与やバイパス手術等の侵襲的な処置が行われている。上記各疾患の病因はそれぞれ異なっているが、血管内皮細胞の障害や、それによって引き起こされる血漿成分の間質への漏出は、これらの疾患の予後を左右するターニングポイントである。従って、上皮及び内皮損傷のより迅速な修復と機能の改善を行うことができる治療薬が臨床の現場で求められている。しかしながら、従来の上皮及び内皮損傷の治療薬は、いずれも速やかに治療効果が得られるものではなかった。
【発明の概要】
【0003】
このような状況下において、上皮及び内皮損傷の治療、特に上皮及び内皮の微小損傷の治療を迅速かつ効果的に行うことができる治療剤等の開発が望まれていた。
本発明は、上記状況を考慮してなされたもので、以下に示す、上皮及び内皮損傷治療剤、上皮及び内皮細胞の伸展亢進剤、上記治療剤又は伸展亢進剤を含む医薬組成物(例えば、上皮及び内皮損傷に伴う疾患又は病態の治療用医薬組成物)等を提供するものである。
(1)以下の(a)~(f)のいずれかのペプチド、その誘導体あるいはこれらの塩。
(a)配列番号10、4、12及び6のいずれかに示されるアミノ酸配列を含むペプチド。
(b)配列番号16、18、20及び22のいずれかに示されるアミノ酸配列を含むペプチド。
(c)配列番号10、4、12及び6のいずれかに示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、上皮及び内皮損傷の修復活性あるいは上皮及び内皮細胞の伸展亢進活性を有するペプチド。
(d)配列番号16、18、20及び22のいずれかに示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、上皮及び内皮損傷の修復活性あるいは上皮及び内皮細胞の伸展亢進活性を有するペプチド。
(e)配列番号10、4、12及び6のいずれかに示されるアミノ酸配列に対して、80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、上皮及び内皮損傷の修復活性あるいは上皮及び内皮細胞の伸展亢進活性を有するペプチド。
(f)配列番号16、18、20及び22のいずれかに示されるアミノ酸配列に対して、80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、上皮及び内皮損傷の修復活性あるいは上皮及び内皮細胞の伸展亢進活性を有するペプチド。
上記(1)記載のペプチド、その誘導体あるいはこれらの塩において、上皮及び内皮損傷としては、例えば微小損傷が挙げられる。
(2)以下の(a)~(f)のいずれかのペプチド、その誘導体あるいはこれらの塩を含むことを特徴とする、上皮及び内皮損傷の治療剤。
(a)配列番号10、4、12及び6のいずれかに示されるアミノ酸配列を含むペプチド。
(b)配列番号16、18、20及び22のいずれかに示されるアミノ酸配列を含むペプチド。
(c)配列番号10、4、12及び6のいずれかに示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、上皮及び内皮損傷の修復活性を有するペプチド。
(d)配列番号16、18、20及び22のいずれかに示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、上皮及び内皮損傷の修復活性を有するペプチド。
(e)配列番号10、4、12及び6のいずれかに示されるアミノ酸配列に対して、80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、上皮及び内皮損傷の修復活性を有するペプチド。
(f)配列番号16、18、20及び22のいずれかに示されるアミノ酸配列に対して、80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、上皮及び内皮損傷の修復活性を有するペプチド。
上記(2)記載の治療剤において、上皮及び内皮損傷としては、例えば、微小損傷が挙げられる。
(3)以下の(a)~(f)のいずれかのペプチド、その誘導体あるいはこれらの塩を含むことを特徴とする、上皮及び内皮細胞の伸展亢進剤。
(a)配列番号10、4、12及び6のいずれかに示されるアミノ酸配列を含むペプチド。
(b)配列番号16、18、20及び22のいずれかに示されるアミノ酸配列を含むペプチド。
(c)配列番号10、4、12及び6のいずれかに示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、上皮及び内皮細胞の伸展亢進活性を有するペプチド。
(d)配列番号16、18、20及び22のいずれかに示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、上皮及び内皮細胞の伸展亢進活性を有するペプチド。
(e)配列番号10、4、12及び6のいずれかに示されるアミノ酸配列に対して、80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、上皮及び内皮細胞の伸展亢進活性を有するペプチド。
(f)配列番号16、18、20及び22のいずれかに示されるアミノ酸配列に対して、80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、上皮及び内皮細胞の伸展亢進活性を有するペプチド。
(4)被験動物に上記(3)記載の伸展亢進剤を投与することを含む、上皮及び内皮細胞の伸展亢進方法。
(5)上記(2)又は(3)記載の伸展亢進剤を含む、医薬組成物。
上記(5)の医薬組成物は、例えば、上皮及び内皮損傷に伴う疾患又は病態の治療に用いるものが挙げられる。ここで、当該上皮及び内皮損傷としては、例えば、微小損傷が挙げられ、当該疾患又は病態としては、例えば、敗血症、動脈硬化症、急性心筋梗塞、狭心症、動静脈血栓症、脳梗塞後脳浮腫及び気管支喘息並びに血管透過性亢進状態からなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
(6)被験動物に上記(5)記載の医薬組成物を投与することを含む、上皮及び内皮損傷に伴う疾患又は病態の治療方法。
上記(6)の方法において、上皮及び内皮損傷としては、例えば、微小損傷が挙げられ、疾患又は病態としては、例えば、敗血症、動脈硬化症、急性心筋梗塞、狭心症、動静脈血栓症、脳梗塞後脳浮腫及び気管支喘息並びに血管透過性亢進状態からなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
本発明によれば、上皮及び内皮損傷の治療剤、特に上皮及び内皮の微小損傷の治療剤を提供することができる。また、上皮及び内皮細胞の伸展亢進剤を提供することもできる。
当該治療剤や伸展亢進剤は、上皮及び内皮損傷(特に微小損傷)に伴う各種疾患又は病態の治療に用いることができる点で、極めて有用である。
また、上記治療剤及び伸展亢進剤は、その作用効果から鑑みて、細胞間接着強化剤及び細胞間間隙の収縮剤として用いることもできる。このことは、例えば、後述する本願実施例4及び8の結果等から理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0004】
図1は、本願実施例1の結果を示す写真である。
図2は、本願実施例2の結果を示すグラフである。縦軸の数値は、培養皿を振盪した時に底面から剥れた細胞数を表す。
図3は、本願実施例3の結果を示す写真である。
図4は、本願実施例4の結果を示す写真である。
図5は、本願実施例5の結果を示す写真である。
図6は、本願実施例6の結果を示す写真である。
図7は、本願実施例7の結果を示す写真である。
図8は、本願実施例8の結果を示す写真である。
図9は、本願実施例9の結果を示すグラフである。縦軸の数値は、血管内皮細胞シートを透過した蛍光修飾デキストランの量(ネガティブコントロールでの値を1としたときの相対量)を表す。
図10は、本願実施例10における実験1の結果、すなわち肺水腫に対する治療効果(肺水分量の低減効果)の結果を示すグラフである。グラフ中、「Control」は、正常マウスを表し、「LPS」は、「LPS(リポ多糖)+コントロールペプチド(配列番号26)」投与群を表し、「LPS/Peptide」は、「LPS(リポ多糖)+治療ペプチド(配列番号25)」投与群を表す。また、グラフの縦軸の数値は、各マウスにおける体重(g)あたりの肺の重量(g)の割合(肺重量(g)/体重(g))を表す。
【発明を実施するための形態】
【0005】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施し得る。
なお、本明細書は、本願優先権主張の基礎となる特願2012-102910号明細書(2012年4月27日出願)の全体を包含する。また、本明細書において引用された全ての刊行物、例えば先行技術文献、及び公開公報、特許公報その他の特許文献は、参照として本明細書に組み込まれる。
1.上皮及び内皮損傷治療剤、上皮及び内皮細胞の伸展亢進剤
本発明の上皮及び内皮損傷治療剤(以下、本発明の治療剤という。)並びに本発明の上皮及び内皮細胞の伸展亢進剤(以下、本発明の伸展亢進剤という。)は、血液凝固第9因子(F9)の全長における軽鎖と重鎖の間に存在する中間部(Activation peptide(F9-AP))のペプチド又はその部分断片を包含するペプチド等を含むものである。
本発明の治療剤及び本発明の伸展亢進剤による治療及び伸展亢進の対象は、上皮又は内皮であればよく、限定はされないが、好ましくは内皮である。特に、内皮細胞がより好ましく、血管内皮細胞がさらに好ましい。
また、本発明において、上皮及び内皮の損傷とは、上皮及び内皮の組織や細胞が受けた損傷であればよく、限定はされないが、微小損傷であることが好ましい。本発明において、微小損傷とは、1個又は数個の細胞の欠損や、細胞間接着の異常等により生じる、1μm以下(例えば10nm~1μm)から100μm程度の間隙と定義することができる。
さらに、本発明において、上皮及び内皮細胞の伸展とは、当該細胞の本来有する細胞形状が伸びて広がるように変形し、通常の状態(変形前の細胞の状態)以上の空間又は面積の範囲を覆うようになることと定義することができる。
本発明における、F9の全長とは、シグナルペプチド及びプロペプチドを有するF9全体のアミノ酸配列から、当該シグナルペプチド及びプロペプチド部分が除かれたアミノ酸配列からなるペプチド(タンパク質)を意味する。
例えば、マウス由来のペプチド(タンパク質)に関しては、配列番号8に示されるF9全体のアミノ酸配列(GenBankアクセッション番号:BAE28840;計471アミノ酸)から、シグナルペプチド及びプロペプチド部分に相当するアミノ酸配列が除かれた、配列番号2に示されるアミノ酸配列(計425アミノ酸)からなるペプチド(タンパク質)が、F9の全長に相当する。配列番号8に示されるアミノ酸配列の第1番目~第46番目のアミノ酸からなる領域が、シグナルペプチド及びプロペプチド部分であるので(本明細書中において同様)、配列番号2に示されるアミノ酸配列は、配列番号8に示されるアミノ酸配列の第47番目~第471番目のアミノ酸からなる配列である。なお、配列番号8に示されるアミノ酸配列からなるペプチド(タンパク質)をコードするDNAは、配列番号7に示される塩基配列(GenBankアクセッション番号:AK149372)の第2番目~第1414番目(又は第2番目~第1417番目)の塩基からなるDNAであり、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるペプチド(タンパク質)をコードするDNAは、配列番号1に示される塩基配列(すなわち、配列番号7に示される塩基配列の第140番目~第1414番目(又は第140番目~第1417番目)の塩基からなるDNA)である。
他方、ヒト由来のペプチド(タンパク質)に関しては、配列番号24に示されるF9全体のアミノ酸配列(GenBankアクセッション番号:CAA01140.1;計461アミノ酸)から、シグナルペプチド及びプロペプチド部分に相当するアミノ酸配列が除かれた、配列番号14に示されるアミノ酸配列(計433アミノ酸)からなるペプチド(タンパク質)が、F9の全長に相当する。配列番号24に示されるアミノ酸配列の第1番目~第28番目のアミノ酸からなる領域が、シグナルペプチド及びプロペプチド部分であるので(本明細書中において同様)、配列番号14に示されるアミノ酸配列は、配列番号24に示されるアミノ酸配列の第29番目~第461番目のアミノ酸からなる配列である。なお、配列番号24に示されるアミノ酸配列からなるペプチド(タンパク質)をコードするDNAは、配列番号23に示される塩基配列(GenBankアクセッション番号:A13997.1)の第2番目~第1384番目(又は第2番目~第1387番目)の塩基からなるDNAであり、配列番号14に示されるアミノ酸配列からなるペプチド(タンパク質)をコードするDNAは、配列番号13に示される塩基配列(すなわち、配列番号23に示される塩基配列の第86番目~第1384番目(又は第86番目~第1387番目)の塩基からなるDNA)である。
本発明の治療剤及び本発明の伸展亢進剤は、具体的には、先に述べた通り、F9の全長(例えば、配列番号2及び14)における軽鎖と重鎖の間に存在する中間部(F9-AP)のペプチド又はその部分断片を包含するペプチド等を含むものであり、具体的には、下記(a)又は(b)のペプチドを含むものである。
(a)配列番号10、4、12及び6のいずれかに示されるアミノ酸配列を含むペプチド。
(b)配列番号16、18、20及び22のいずれかに示されるアミノ酸配列を含むペプチド。
上記(a)のペプチドとしては、限定はされないが、配列番号10、4、12及び6のいずれかに示されるアミノ酸配列からなるペプチドが好ましく、同様に、上記(b)のペプチドとしては、限定はされないが、配列番号16、18、20及び22のいずれかに示されるアミノ酸配列からなるペプチドが好ましい。
上記(a)における配列番号10、4、12及び6に示されるアミノ酸配列は、いずれも、マウス由来のF9の部分断片のアミノ酸配列であり、上記(b)における配列番号16、18、20及び22に示されるアミノ酸配列は、いずれも、ヒト由来のF9の部分断片のアミノ酸配列である。
ここで、配列番号6に示されるアミノ酸配列(45アミノ酸)は、マウス由来のF9における前記中間部(F9-AP)のペプチドのアミノ酸配列である。同様に、配列番号22に示されるアミノ酸配列(36アミノ酸)は、ヒト由来のF9における前記中間部(F9-AP)のペプチドのアミノ酸配列である。
配列番号4及び18で示されるアミノ酸配列は、それぞれ順に、配列番号6及び22に示されるアミノ酸配列のN末端側の25アミノ酸からなるアミノ酸配列である。
また、配列番号12及び20に示されるアミノ酸配列は、それぞれ順に、配列番号6及び22に示されるアミノ酸配列のN末端側の1アミノ酸(Arg:アルギニン)を除いたアミノ酸配列である。
さらに、配列番号10及び16に示されるアミノ酸配列は、それぞれ順に、配列番号4及び18に示されるアミノ酸配列のN末端側の1アミノ酸(Arg:アルギニン)を除いた24アミノ酸からなるアミノ酸配列である。
上記配列番号4及び18に示される25アミノ酸残基からなるペプチド、特に配列番号10及び16に示される24アミノ酸残基からなるペプチドは、マウス及びヒト由来のF9における前記中間部(F9-AP)の活性部位に相当する部分である。ここで、当該活性部位に相当する、マウス由来の配列番号10に示されるアミノ酸配列と、ヒト由来の配列番号16に示されるアミノ酸配列とは、互いに相同性が高いものであり、少なくとも哺乳類においては同様に相同性が高いものである。よって、当業者であれば、例えば、マウス由来のアミノ酸配列を含むペプチドについて、上皮及び内皮損傷の修復活性あるいは上皮及び内皮細胞の伸展亢進活性を有することが確認される場合は、他の哺乳類、特にヒト由来のアミノ酸配列を含むペプチドについても同様に上記修復活性あるいは伸展亢進活性を有することは、合理的かつ当然に推認することができる。
また、配列番号4に示されるアミノ酸配列は、マウス由来のF9全体である配列番号8に示されるアミノ酸配列の第192番目~第216番目の25アミノ酸からなる配列であり、配列番号10に示されるアミノ酸配列は、配列番号8に示されるアミノ酸配列の第193番目~第216番目の24アミノ酸からなる配列であり、配列番号6に示されるアミノ酸配列は、配列番号8に示されるアミノ酸配列の第192番目~第236番目の45アミノ酸からなる配列であり、配列番号12に示されるアミノ酸配列は、配列番号8に示されるアミノ酸配列の第193番目~第236番目の44アミノ酸からなる配列である。なお、上記配列番号10、4、12及び6に示されるアミノ酸配列からなるペプチド(タンパク質)をコードするDNAは、それぞれ順に、配列番号9、3、11及び5に示される塩基配列である。
同様に、配列番号18に示されるアミノ酸配列は、ヒト由来のF9全体である配列番号24に示されるアミノ酸配列の第191番目~第215番目の25アミノ酸からなる配列であり、配列番号16に示されるアミノ酸配列は、配列番号24に示されるアミノ酸配列の第192番目~第215番目の24アミノ酸からなる配列であり、配列番号22に示されるアミノ酸配列は、配列番号24に示されるアミノ酸配列の第191番目~第226番目の36アミノ酸からなる配列であり、配列番号20に示されるアミノ酸配列は、配列番号24に示されるアミノ酸配列の第192番目~第226番目の35アミノ酸からなる配列である。なお、上記配列番号16、18、20及び22に示されるアミノ酸配列からなるペプチド(タンパク質)をコードするDNAは、それぞれ順に、配列番号15、17、19及び21に示される塩基配列である。
本発明において、「ペプチド」とは、少なくとも2個以上のアミノ酸がペプチド結合によって結合して構成されたものを意味し、オリゴペプチド、ポリペプチドなどが含まれる。さらに、ポリペプチドが一定の立体構造を形成したものはタンパク質と呼ばれるが、本発明においては、このようなタンパク質も上記「ペプチド」に含まれるものとする。従って、本発明の治療剤及び本発明の伸展亢進剤に含まれるペプチドは、オリゴペプチド、ポリペプチド、タンパク質のいずれをも意味し得るものである。
また本発明の治療剤及び本発明の伸展亢進剤は、先に述べた通り、前記(a)及び(b)のペプチドと機能的に同等なペプチドとして、下記(c)及び(d)のペプチドを含むものであってもよい。
(c)配列番号10、4、12及び6のいずれかに示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、上皮及び内皮損傷の修復活性あるいは上皮及び内皮細胞の伸展亢進活性を有するペプチド。
(d)配列番号16、18、20及び22のいずれかに示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、上皮及び内皮損傷の修復活性あるいは上皮及び内皮細胞の伸展亢進活性を有するペプチド。
ここで、上記「1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列」としては、例えば、1~15個、1~14個、1~13個、1~12個、1~11個、1~10個、1~9個、1~8個、1~7個、1~6個(1~数個)、1~5個、1~4個、1~3個、1~2個、1個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列が挙げられ、限定はされないが、当該欠失、置換又は付加の数は、一般的には小さい程好ましい。当該欠失、置換又は付加等の変異の導入は、部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット例えば、GeneTailorTM Site-Directed Mutagenesis System(インビトロジェン社)、及びTaKaRa Site-Directed Mutagenesis System(Prime STAR(登録商標)Mutagenesis Basal kit、Mutan(登録商標)-Super Express Km等:タカラバイオ社製)等を用いて行うことができる。また、上記欠失、置換又は付加の変異が導入されたペプチドであるかどうかは、各種アミノ酸配列決定法、並びにX線及びNMR等による構造解析法などを用いて確認することができる。
さらに、前記(a)及び(b)のペプチドと機能的に同等なペプチドとしては、例えば、下記(e)及び(f)のペプチドも挙げられる。
(e)配列番号10、4、12及び6のいずれかに示されるアミノ酸配列に対して、80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、上皮及び内皮損傷の修復活性あるいは上皮及び内皮細胞の伸展亢進活性を有するペプチド。
(f)配列番号16、18、20及び22のいずれかに示されるアミノ酸配列に対して、80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、上皮及び内皮損傷の修復活性あるいは上皮及び内皮細胞の伸展亢進活性を有するペプチド。
より詳しくは、上記(e)及び(f)のペプチドとしては、前記(a)における配列番号10、4、12及び6のいずれかに示されるアミノ酸配列や、前記(b)における配列番号16、18、20及び22のいずれかに示されるアミノ酸配列に対して、約80%以上、81%以上、82%以上、83%以上、84%以上、85%以上、86%以上、87%以上、88%以上、89%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、99.1%以上、99.2%以上、99.3%以上、99.4%以上、99.5%以上、99.6%以上、99.7%以上、99.8%以上、99.9%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、上皮及び内皮損傷の修復活性あるいは上皮及び内皮細胞の伸展亢進活性を有するペプチドが挙げられる。上記相同性の数値は一般的に大きい程好ましい。
本発明において、上皮及び内皮損傷の修復活性とは、上皮及び内皮における上皮及び内皮細胞の被覆性を回復させる活性を意味し、例えば、Wound healing assay、Permeability assay又は免疫染色法等により評価及び測定することができる。
また、本発明において、上皮及び内皮細胞の伸展亢進活性とは、個々の上皮及び内皮細胞(特に上皮及び内皮損傷の周辺部分に存在する細胞)の形状を伸展させる活性、ひいては、上皮及び内皮における当該細胞1個あたりの、基質に対する被覆面積を広げる活性を意味し、例えば、Wound healing assay、Adhesion assay又は免疫染色法等により測定することができる。
本発明の治療剤及び本発明の伸展亢進剤に含まれる前記(a)~(f)のペプチドは、その構成アミノ酸の残基数は特に限定はされず、所定の活性(上皮及び内皮損傷の修復活性、又は上皮及び内皮細胞の伸展亢進活性)を有する範囲内で適宜設定することができる。
前記(a)~(f)のペプチドは、天然物由来のペプチドであってもよいし、人工的に化学合成して得られたものであってもよく、限定はされない。天然物由来のペプチドである場合は、細胞毒性等の悪影響や副作用等がない場合が多いため好ましい。
天然物由来のペプチドとしては、天然に存在するオリゴペプチド、ポリペプチド及びタンパク質、又はこれらを断片化した状態のもの等が挙げられる。天然物由来のペプチドは、天然物から公知の回収法及び精製法により直接得てもよいし、又は、公知の遺伝子組換え技術により、当該ペプチドをコードする遺伝子を各種発現ベクター等に組込んで細胞に導入し、発現させた後、公知の回収法及び精製法により得てもよい。あるいは、市販のキット、例えば、試薬キットPROTEIOSTM(東洋紡)、TNTTMSystem(プロメガ)、合成装置のPG-MateTM(東洋紡)及びRTS(ロシュ・ダイアグノスティクス)等を用いた無細胞タンパク質合成系により当該ペプチドを産生し、公知の回収法及び精製法により得てもよく、限定はされない。
また、化学合成ペプチドは、公知のペプチド合成方法を用いて得ることができる。合成方法としては、例えば、アジド法、酸クロライド法、酸無水物法、混合酸無水物法、DCC法、活性エステル法、カルボイミダゾール法及び酸化還元法等が挙げられる。また、その合成は、固相合成法及び液相合成法のいずれをも適用することができる。市販のペプチド合成装置を使用してもよい。合成反応後は、クロマトグラフィー等の公知の精製法を組み合わせてペプチドを精製することができる。
本発明の治療剤及び本発明の伸展亢進剤は、前記(a)~(f)のいずれかのペプチドとともに、又はそれに代えて、当該ペプチドの誘導体を含むことができる。当該誘導体とは、当該ペプチドに由来して調製され得るものをすべて含む意味であり、例えば、構成アミノ酸の一部が非天然のアミノ酸に置換されたものや、構成アミノ酸(主にその側鎖)の一部に化学修飾が施されたもの等が挙げられる。
本発明の治療剤及び本発明の伸展亢進剤は、前記(a)~(f)のいずれかのペプチド、及び/又は、当該ペプチドの誘導体とともに、あるいはそれに代えて、当該ペプチド及び/又は当該誘導体の塩を含むことができる。当該塩としては、生理学的に許容される酸付加塩又は塩基性塩が好ましい。酸付加塩としては、例えば、塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸などの無機酸との塩、あるいは酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、蓚酸、安息香酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸などの有機酸との塩が挙げられる。塩基性塩としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化マグネシウムなどの無機塩基との塩、あるいはカフェイン、ピペリジン、トリメチルアミン、ピリジンなどの有機塩基との塩が挙げられる。
塩は、塩酸などの適切な酸、又は水酸化ナトリウムなどの適切な塩基を用いて調製することができる。例えば、水中、又はメタノール、エタノール若しくはジオキサンなどの不活性な水混和性有機溶媒を含む液体中で、標準的なプロトコルを用いて処理することにより調製することができる。
本発明の治療剤及び本発明の伸展亢進剤は、前記(a)~(f)のいずれかのペプチド、その誘導体あるいはこれらの塩からなるものであってもよいし、当該ペプチド、その誘導体又はこれらの塩と他の成分とを含むものであってもよく、限定はされない。他の成分としては、例えば、PBS及びTris-HCl等の緩衝液、並びにアジ化ナトリウム及びグリセロール等の添加剤などが挙げられる。他の成分を含む場合、その含有割合は、当該ペプチド、その誘導体又はこれらの塩による所定の活性(上皮及び内皮損傷の修復活性、又は上皮及び内皮細胞の伸展亢進活性)が著しく妨げられない範囲で、適宜設定することができる。具体的には、上記ペプチドの溶液で用いる場合、ペプチド濃度は、限定はされないが、0.3ng/ml以上であることが好ましく、より好ましくは0.3~5ng/ml、さらに好ましくは0.3~2ng/ml、さらにより好ましくは0.4~1.5ng/ml、特に好ましくは0.6~1ng/ml、最も好ましくは0.8~1ng/mlである。
なお、本発明においては、前記(a)~(f)のいずれかのペプチド、その誘導体あるいはこれらの塩そのものに係る発明も包含される。
本発明においては、本発明の治療剤を用いる上皮及び内皮損傷に伴う疾患又は病態の治療方法を提供することができる。同様に、本発明の伸展亢進剤を用いる上皮及び内皮細胞の伸展亢進方法を提供することもできる。当該方法は、被験動物(患者を含む)に対して本発明の治療剤や本発明の伸展亢進剤を投与する工程を含む方法であり、それ以外にどのような工程を含むものであってもよく、限定はされない。被験動物としては、限定はされないが、ヒト又は非ヒト動物を含む各種哺乳動物が挙げられ、好ましくはヒトである。本発明の治療剤及び本発明の伸展亢進剤の投与方法、用法、用量、並びに、上皮及び内皮損傷に伴う疾患又は病態については、限定はされないが、後述する医薬組成物の投与方法における説明が適宜同様に適用できる。
また本発明においては、前述したように、上記治療剤及び伸展亢進剤は、その作用効果から鑑みて、細胞間接着強化剤及び細胞間間隙の収縮剤として用いることもできる。さらに、本発明の細胞間接着強化剤を用いる、上皮及び内皮細胞の細胞間接着方法(細胞間接着強化方法)や、本発明の細胞間間隙の収縮剤を用いる、上皮及び内皮細胞の細胞間間隙の収縮方法を提供することもできる。これら方法の各工程や手順及び詳細は、上述の治療方法や伸展亢進方法に関する説明が同様に適用できる。
なお、被験動物の生体内に本発明の治療剤及び本発明の伸展亢進剤などを投与する場合は、その有効成分である前記(a)~(f)のいずれかのペプチド等を直接投与してもよいし、あるいは当該ペプチドをコードするDNAの状態で導入(遺伝子導入)してもよく、限定はされない。DNAの導入は、リポソーム法(リポプレックス法)、ポリプレックス法、ペプチド法、エレクトロポレーション法(電気穿孔法)、及びウイルスベクター法などの公知の各種遺伝子導入方法を用いて行うことができる。
2.DNA、組換えベクター、形質転換体
(1)DNA
本発明においては、前記(a)~(f)のいずれかのペプチドをコードする塩基配列を含むDNAに係る発明も包含される。当該DNAは、当該ペプチドをコードする塩基配列からなるDNA(例えば、前述した配列番号9、3、11及び5のいずれかに示される塩基配列からなるDNAや、配列番号15、17、19及び21のいずれかに示される塩基配列からなるDNA)であってもよいし、あるいは、当該塩基配列を一部に含み、その他に遺伝子発現に必要な公知の塩基配列(転写プロモーター、SD配列、Kozak配列、ターミネーター等)を含んでなるDNAであってもよく、限定はされない。なお、当該ペプチドをコードする塩基配列では、コドンの種類は限定されず、例えば、転写後、ヒト等の哺乳類において一般的に使用されているコドンを用いたものであってもよいし、大腸菌や酵母等の微生物や、植物等において一般的に使用されているコドンを用いたものであってもよく、適宜選択又は設計することができる。
また本発明においては、前記(a)~(f)のいずれかのペプチドをコードする塩基配列を含むDNAに対して相補的な塩基配列からなるDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得るDNAであって、上皮及び内皮損傷の修復活性あるいは上皮及び内皮細胞の伸展亢進活性を有するタンパク質をコードするDNAも包含される。ここで、ストリンジェントな条件とは、例えば、塩(ナトリウム)濃度が150~900mMであり、温度が55~75℃、好ましくは塩(ナトリウム)濃度が150~200mMであり、温度が60~70℃での条件をいう。
上記以外に当該ハイブリダイズが可能なDNAとしては、FASTA、BLASTなどの相同性検索ソフトウェアにより、デフォルトのパラメーターを用いて計算したときに、配列番号3又は5に示される塩基配列からなるDNA、あるいは、配列番号4又は6に示されるアミノ酸配列からなるペプチドをコードするDNAと、約60%以上、約70%以上、71%以上、72%以上、73%以上、74%以上、75%以上、76%以上、77%以上、78%以上、79%以上、80%以上、81%以上、82%以上、83%以上、84%以上、85%以上、86%以上、87%以上、88%以上、89%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、99.1%以上、99.2%以上、99.3%以上、99.4%以上、99.5%以上、99.6%以上、99.7%以上、99.8%以上又は99.9%以上の相同性を有するDNAを挙げることができる。
(2)DNAを含む組換えベクター
本発明においては、適当なベクターに上記本発明のDNAを連結(挿入)することにより得られる組換えベクターも包含される。本発明のDNAを挿入するためのベクターは、宿主中で複製可能なものであれば特に限定されず、例えば、プラスミドDNA、ファージDNA、ウイルス等が挙げられる。
プラスミドDNAとしては、大腸菌由来のプラスミド、枯草菌由来のプラスミド、酵母由来のプラスミドなどが挙げられ、ファージDNAとしてはλファージ等が挙げられる。またウイルスとしてはアデノウイルスやレトロウイルスなどが挙げられる。
本発明の組換えベクターには、プロモーター、本発明のDNAのほか、所望によりエンハンサーなどのシスエレメント、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、リポソーム結合配列(SD配列)、選択マーカー遺伝子、レポーター遺伝子などを連結することができる。なお、選択マーカー遺伝子としては、例えばジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子等が挙げられる。レポーター遺伝子としては、緑色蛍光タンパク質(GFP)又はその変異体(EGFP、BFP、YFP等の蛍光タンパク質)、ルシフェラーゼ、アルカリフォスファターゼ、LacZ等の遺伝子が挙げられる。
(3)形質転換体
本発明においては、上記本発明の組換えベクターを、目的遺伝子が発現し得るように宿主中に導入して得ることができる形質転換体も包含される。宿主としては、本発明のDNAを発現し得るものであれば限定されず、例えば、当該分野において周知の細菌、酵母等を用いることができる。
細菌を宿主とする場合は、本発明の組換えベクターが該細菌中で自律複製可能であると同時に、プロモーター、リボゾーム結合配列、本発明のDNA、転写終結配列を含めることができる。細菌としては、大腸菌(Escherichia coli)などが挙げられる。プロモーターとしては、例えばlacプロモーターなどが用いられる。細菌へのベクター導入法としては、公知の各種導入方法、例えばカルシウムイオン法等が挙げられる。
酵母を宿主とする場合は、例えばサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)などが用いられる。この場合、プロモーターとしては酵母中で発現できるものであれば特に限定されず、例えばgal1プロモーター等が挙げられる。酵母へのベクター導入法としては、例えばエレクトロポレーション法、スフェロプラスト法等が挙げられる。
3.医薬組成物
本発明の治療剤及び本発明の伸展亢進剤は、医薬組成物に含まれる有効成分として有用である。なお、実質的には、前記(a)~(f)のいずれかのペプチドを当該有効成分ということもできる。
本発明の医薬組成物は、限定はされないが、例えば、上皮及び内皮損傷(特に微小損傷)に伴う疾患又は病態の治療用の医薬組成物として有用であり、具体的には、敗血症、肺水腫、動脈硬化症、急性心筋梗塞、狭心症、動静脈血栓症、脳梗塞後脳浮腫及び気管支喘息等の治療用の医薬組成物として用いられることが好ましい。また、アレルギー等に起因する血管透過性が上昇した状態(すなわち血管透過性亢進状態)を治療(抑制)するための医薬組成物としても好ましく用いられる。
本発明の医薬組成物は、本発明の治療剤や本発明の伸展亢進剤を有効成分として含み、さらに薬学的に許容される担体を含む医薬組成物の形態で提供され得る。
「薬学的に許容され得る担体」とは、賦形剤、希釈剤、増量剤、崩壊剤、安定剤、保存剤、緩衝剤、乳化剤、芳香剤、着色剤、甘味剤、粘稠剤、矯味剤、溶解補助剤あるいはその他の添加剤等が挙げられる。そのような担体の1種以上を用いることにより、注射剤、液剤、カプセル剤、懸濁剤、乳剤あるいはシロップ剤等の形態の医薬組成物を調製することができる。これらの医薬組成物は、経口あるいは非経口的に投与することができる。非経口投与のためのその他の形態としては、1つ以上の活性物質を含み、常法により処方される注射剤などが含まれる。注射剤の場合には、生理食塩水又は市販の注射用蒸留水等の薬学的に許容される担体中に溶解または懸濁することにより製造することができる。また、有効成分である本発明の治療剤や本発明の伸展亢進剤を生体内に投与する場合、コロイド分散系を用いることもできる。コロイド分散系は、上記ペプチドの生体内の安定性を高めたり、特定の臓器、組織又は細胞へ化合物を効率的に輸送する効果が期待される。コロイド分散系は、通常用いられるものであればよく限定はされないが、ポリエチレングリコール、高分子複合体、高分子凝集体、ナノカプセル、ミクロスフェア、ビーズ、及び水中油系の乳化剤、ミセル、混合ミセル及びリポソームを包含する脂質をベースとする分散系を挙げることができ、好ましくは、特定の臓器、組織又は細胞へ化合物を効率的に輸送する効果のある、リポソームや人工膜の小胞である。
本発明の医薬組成物の投与量は、被験動物(ヒト又は非ヒト動物を含む各種哺乳動物、好ましくはヒト)の年齢、性別、体重及び症状、治療効果、投与方法、処理時間、あるいは医薬組成物に含有される本発明の治療剤及び本発明の伸展亢進剤の種類などにより異なっていてもよい。通常、成人一人あたり、一回につき100μg~5000mgの範囲で投与することができるが、限定はされない。
例えば注射剤により投与する場合は、ヒト患者に対し、1回の投与において1kg体重あたり、1μg~100mgの量を、1日平均あたり1回~数回投与することができる。投与の形態としては、静脈内注射、皮下注射、皮内注射、筋肉内注射あるいは腹腔内注射などが挙げられるが、好ましくは静脈内注射である。また、注射剤は、場合により、非水性の希釈剤(例えばポリエチレングリコール、オリーブ油等の植物油、エタノール等のアルコール類など)、懸濁剤あるいは乳濁剤として調製することもできる。そのような注射剤の無菌化は、フィルターによる濾過滅菌、殺菌剤の配合等により行うことができる。注射剤は、用時調製の形態として製造することができる。すなわち、凍結乾燥法などによって無菌の固体組成物とし、使用前に無菌の注射用蒸留水または他の溶媒に溶解して使用することができる。
なお、本発明は、上皮及び内皮損傷(特に微小損傷)に伴う疾患又は病態を治療する医薬(薬剤)を製造するための、本発明の治療剤の使用を提供するものでもある。また、本発明は、本発明の治療剤を用いること(すなわち被験動物や患者に投与すること)を特徴とする上皮及び内皮損傷(特に微小損傷)に伴う疾患又は病態の治療方法を提供するものである。さらに、本発明は、上皮及び内皮損傷(特に微小損傷)に伴う疾患又は病態を治療するための、本発明の治療剤の使用を提供するものでもある。ここで、当該疾患又は病態の具体例については、前述したとおりである。
同様に、本発明は、上皮及び内皮損傷(特に微小損傷)に伴う疾患又は病態を治療する医薬(薬剤)を製造するための、本発明の伸展亢進剤の使用を提供するものでもある。また、本発明は、本発明の伸展亢進剤を用いること(すなわち被験動物や患者に投与すること)を特徴とする上皮及び内皮損傷(特に微小損傷)に伴う疾患又は病態の治療方法を提供するものである。さらに、本発明は、上皮及び内皮損傷(特に微小損傷)に伴う疾患又は病態を治療するための、本発明の伸展亢進剤の使用を提供するものでもある。ここで、当該疾患又は病態の具体例については、前述したとおりである。
4.キット
本発明においては、構成成分として本発明の治療剤や本発明の伸展亢進剤を含むことを特徴とする、上皮及び内皮損傷治療用キット並びに上皮及び内皮細胞の伸展亢進用キットも提供される。本発明のキットは、上皮及び内皮損傷(特に微小損傷)の治療や、上皮及び内皮細胞の伸展亢進が可能であり、例えば、上皮及び内皮損傷に伴う疾患又は病態(具体的には、敗血症、肺水腫、動脈硬化症、急性心筋梗塞、脳梗塞後脳浮腫及び気管支喘息など)の治療等を行う場合に有効に用いることができるため、臨床分野での有用性はもちろん、医薬及び薬学の分野における各種実験・研究等においても極めて有用性が高いものである。
本発明のキットは、本発明の治療剤や本発明の伸展亢進剤の他に、各種バッファー、滅菌水、各種反応容器(エッペンドルフチューブ等)、洗浄剤、界面活性剤、各種プレート、防腐剤、各種細胞培養容器、及び実験操作マニュアル(説明書)等を含んでいてもよく、限定はされない。
以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
以下の実施例1~9においては、本発明の治療剤及び伸展亢進剤に用いるペプチドとして、配列番号2に示されるF9全長のペプチド(F9(47-471))、配列番号6に示されるF9全長の部分断片のペプチド(F9(192-236))、さらにF9(192-236)の部分断片にあたる配列番号4に示されるペプチド(F9(192-216))を用いた。F9(47-471)は、F9(192-236)及びF9(192-216)を一部に含むペプチドである。本発明の治療剤及び伸展亢進剤に用いるペプチドは、適宜、C末端及び/又はN末端に1又は複数のリシン残基を付加した形で用いることができる。下記の所定の実施例では、これらペプチドは、アルカリフォスファターゼ(AP)との融合タンパク質として用いた。以下では、各々の融合タンパク質を、AP-F9(47-471)、AP-F9(192-236)、AP-F9(192-216)と表記する。
なお、各融合タンパク質は、具体的には、AP発現ベクター(APtag4)に、公知の遺伝子組み換え技術を用いて、所定のペプチド(F9(47-471)、F9(192-236)、F9(192-216))をコードするcDNA(具体的には、配列番号1、3、5に示される塩基配列からなるDNA)をAP遺伝子との融合遺伝子となるように挿入した組換えベクターを構築し、当該ベクターをCHO細胞に導入して発現させ、精製等を行って、作製した。なお、当該cDNAは、公知のF9の遺伝子配列(配列番号7)に基づいて適宜プライマーを設計し、PCRにより所望のcDNA断片を増幅して得て、APtag4に組み込んで用いた。
【実施例1】
【0006】
培養皿に、扁平上皮癌由来細胞A431(以下、A431細胞)を疎らに播いて、アルカリフォスファターゼ(AP;陰性コントロール)又はAP-F9(47-471)(1pmol/ml)を培養液中に添加し、37℃で30分間培養した。その後、4%パラホルムアルデヒドにより細胞を固定して、抗Eカドヘリン抗体(緑)、ファロイヂン(赤)、Hoechst33342(青)を用いて染色し、検鏡した。その結果を図1に示した。F9全長のペプチド(F9(47-471))を添加することにより、細胞が伸展したことが確認された。なお、図1の写真内(右下)のスケールバーは10μmを示す。また、図1中、「control」はAPを添加した場合、「47-471」はAP-F9(47-471)を添加した場合の結果を示す。
【実施例2】
【0007】
F9全長(F9(47-471))のどの部分に細胞の基質上での伸展亢進活性が存在するか、基質への接着能を指標にして判定した。具体的には、96穴培養皿にA431細胞を播いた後、培養液中に、細胞基質間接着の阻害作用を有するF9由来のペプチド(F9(47-191))(1pmol/ml)と、各ペプチド(F9(47-471)、F9(192-236)、F9(192-216)、F9(192-202))(1pmol/ml)とを加え、37℃で24時間培養した後、培養皿をシェーカー上で振盪する条件下で、上記阻害作用を阻害するF9の部分を調べた。なお、F9(47-191)は、配列番号8に示されるアミノ酸配列中の第47番目~第191番目のアミノ酸からなるペプチドであり、F9(192-202)は、配列番号8に示されるアミノ酸配列中の第192番目~第202番目のアミノ酸からなるペプチドである。その結果を図2に示した。本実施例で調べた上記各ペプチドの中では、F9(192-216)が、細胞基質間接着の阻害作用を阻害する、すなわち細胞の基質上での伸展亢進活性を有する、最短のペプチド(アミノ酸残基数が最少のペプチド)であることが分かった。なお、図2のグラフ中の数値(縦軸)は、平均±SDで示した(**:P<0.01)。また、図2中、「47-191」はF9(47-191)の添加条件下であることを示し、「47-471」、「192-236」、「192-216」、「192-202」はそれぞれF9(47-471)、F9(192-236)、F9(192-216)、F9(192-202)を添加した場合の結果を示す。
【実施例3】
【0008】
細胞間接着の形態を調べるため、公知の遺伝子組み換え技術を用いて、A431細胞にGFP(緑)又はRFP(赤)の遺伝子を導入し、GFP又はRFPを発現させるようにしたA431形質転換細胞を作製した。両形質転換細胞を、培養皿に密に播いて、AP(陰性コントロール)又はAP-F9(192-236)(1pmol/ml)を培養液中に添加し、37℃で60分間培養した。その後、4%パラホルムアルデヒドにより細胞を固定して検鏡した。その結果を図3に示した。コントロールでは、細胞の形が間葉系をしており、細胞同士も一部が重なっていたが、AP-F9(192-236)を添加した方では、細胞の形が上皮様の角張った形になり、細胞同士の接触面が直線的になっており、上皮様構造が構築されたことが確認された。なお、図3の写真内(右下)のスケールバーは10μmを示す。また、図3中、「control」はAPを添加した場合、「192-236」はAP-F9(192-236)を添加した場合の結果を示す。
【実施例4】
【0009】
培養皿に、A431細胞を密に播いて、コントロール(AP)又はAP-F9(192-236)(1pmol/ml)を培養液中に添加し、37℃で60分間培養した。その後、4%パラホルムアルデヒドにより細胞を固定し、抗Eカドヘリン抗体(緑)、抗βカテニン抗体(赤)を用いて染色し、検鏡した。その結果を図4に示した。AP-F9(192-236)を加えることにより、Eカドヘリンやβカテニンが細胞間接着部分に局在し、接着が強化されたことが確認された。なお、図4の写真内(右下)のスケールバーは10μmを示す。また、図4中、「control」はAPを添加した場合、「192-236」はAP-F9(192-236)を添加した場合の結果を示す。
【実施例5】
【0010】
培養皿に、A431細胞を密に播き、AP(陰性コントロール)又はAP-F9(192-236)(1pmol/ml)を培養液中に添加した後、当該細胞にメスで細胞1~2個の幅程度の傷をつけ、37℃で30分間培養した。その後、4%パラホルムアルデヒドにより細胞を固定し、抗Eカドヘリン抗体(緑)、ファロイジン(赤)、Hoechst33342(青)を用いて染色し、検鏡した。その結果を図5に示した。コントロールでは、傷をつけた周辺の細胞が傷内に遊走しようとしており、その結果、細胞間に穴(隙間)(矢印)があいている。それに対して、AP-F9(192-236)を添加した方では、傷をつけた周辺の細胞が伸展し、その結果、傷が塞がりつつある(▽印)ことが確認された。なお、図5の写真内(右下)のスケールバーは10μmを示す。また、図5中、「control」はAPを添加した場合、「192-236」はAP-F9(192-236)を添加した場合の結果を示す。
【実施例6】
【0011】
培養皿に、A431細胞を密に播いて、生きたまま蛍光色素で染色し、培養液中にAP(陰性コントロール)又はAP-F9(192-236)(1pmol/ml)を添加し、細胞1個(星印)を針で刺して取り除いた。その後、37℃で60分間培養しつつ、検鏡により経時的に観察した。その結果を図6に示した。AP-F9(192-236)を添加した方では、培養開始から35分後には、取り除いた細胞の周囲の細胞(白線でマーク)が伸展して、穴を塞いだことが確認された。なお、図6の写真内(右下)のスケールバーは10μmを示す。また、図6中、「control」はAPを添加した場合、「192-236」はAP-F9(192-236)を添加した場合の結果を示す。
【実施例7】
【0012】
培養皿に、ウシ大動脈内皮細胞(BAEC)を密に播いて、培養液中にAP(陰性コントロール)又はAP-F9(192-216)(1pmol/ml)を添加し、当該細胞にメスで傷(点線)をつけた後、37℃で30分間培養した。その後、4%パラホルムアルデヒドにより細胞を固定し、ファロイジン(赤)、Hoechst33342(青)を用いて染色し、検鏡した。その結果を図7に示した。AP-F9(192-216)を添加した方では、傷の周辺の細胞が伸展して傷が塞がったことが確認された。なお、図7の写真内(右下)のスケールバーは10μmを示す。また、図7中、「control」はAPを添加した場合、「192-216」はAP-F9(192-216)を添加した場合の結果を示す。
【実施例8】
【0013】
培養皿に、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)を密に播いて、培養液中にインターロイキン1β(IL1β)(100ng/ml)を添加し、37℃で24時間培養した。培養後、AP(陰性コントロール)又はAP-F9(192-216)(1pmol/ml)を添加し、さらに37℃で30分間培養した。その後、4%パラホルムアルデヒドにより細胞を固定し、抗VEカドヘリン抗体(緑)、抗βカテニン抗体(赤)、Hoechst33342(青)を用いて染色し、検鏡した。その結果を図8に示した。AP-F9(192-216)をさらに加えたサンプルでは、VEカドヘリンやβカテニンが細胞間接着部分に局在し、接着が強化されたことが確認された。なお、図8の写真内(右下)のスケールバーは10μmを示す。また、図8中、「control」はAPを添加した場合、「IL1β」はインターロイキン1βを添加した場合の結果、「IL1β/192-216」はインターロイキン1βとAP-F9(192-216)とを添加した場合の結果を示す。
【実施例9】
【0014】
インターロイキン1β(IL1β)(100ng/ml)によって生じる、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)の透過性の亢進が、F9(192-216)により抑制されるかどうかについて、ミリポア社製のPermeability assay kit(透過性測定キット)を用いて確認した。具体的な手順は、当該キットのマニュアルに従って行い、血管内皮細胞シートを透過した蛍光修飾デキストランの量(ネガティブコントロールでの値を1としたときの相対量)を測定した。その結果を図9に示した。F9(192-216)を添加した場合は、添加量が0.2pmol/mlの場合(IL+0.2)から10pmol/mlの場合(IL+10)の場合まで、濃度依存性にHUVECの透過性の亢進を抑制することが確認された。なお、図9のグラフ中の数値(縦軸)は、平均±SDで示した。また、図9中、「NC」はネガティブコントロール(IL1β及びF9(192-216)添加なし)、「IL」はIL1βのみを添加した場合の結果、「IL+0.2」、「IL+1」、「IL+4」、「IL+10」はそれぞれIL1βの添加とともにF9(192-216)を0.2pmol/ml、1pmol/ml、4pmol/ml、10pmol/ml添加した場合の結果を示す。
【実施例10】
【0015】
敗血症、播種性血管内凝固症候群(DIC)又は急性呼吸窮迫症候群(ARDS)による肺水腫モデルマウスに対する、本発明のペプチドの治療効果を確認した。なお、ここでいう肺水腫モデルマウスは、後述する実験1に記載のように、正常マウスにLPS(リポ多糖;エンドトキシン)を投与することにより、肺水腫を発症する状態にしたマウスを意味する。
まず、当該治療に用いるペプチドとして、配列番号10に示されるアミノ酸配列を含むアミノ酸配列からなる下記ペプチド(配列番号25)を、既存のペプチド合成機を用いて合成した。
JP0005967631B2_000002t.gif 上記の治療ペプチド中、下線部のアミノ酸が配列番号10に示されるアミノ酸配列(24アミノ酸)である。
同様に、コントロールとして用いるペプチドとして、下記ペプチド(配列番号26)も合成した。
JP0005967631B2_000003t.gif 上記のコントロールペプチド(配列番号26)は、配列番号25に示されるアミノ酸配列における下線部のアミノ酸配列(配列番号10)部分のみをN末端側とC末端側を逆向きに配列させて合成したものである。
なお、上記各ペプチドのC末端側にはリシン残基が6残基を存在するが、これはペプチド全体の可溶性を保持してpH調整を可能とするために付加したものである。
<実験1>
正常マウス群(健常なマウス)、「LPS(リポ多糖;エンドトキシン)+コントロールペプチド(配列番号26)」投与群、及び、「LPS+治療ペプチド(配列番号25)」投与群について(各群とも7匹ずつ)、比較実験を行った。具体的には、LPSは、PBSに溶解し、100μg/体重gを静脈注射した。それから3時間後に、各合成ペプチド(配列番号25及び26)350ng/体重gを静脈注射した。その後、1時間後に各群のマウスから肺を取り出して重量を測定し、体重(g)あたりの肺の重量(g)の割合(肺重量(g)/体重(g))を算出した。その結果を図10に示した。
図10に示したとおり、LPSの投与により肺重量は28%増加したが、その後治療ペプチド(配列番号25)を投与することにより、上記増加分を72%低減できることが確認された。
<実験2>
正常マウス(前記肺水腫モデルマウス等ではない健常なマウス)に、上記実験1で用いた各ペプチドを350ng/体重gで静脈注射し、観察した。その結果、当該マウスには特別な変化は見られないこと(急性毒性がないこと)が確認された。
以上の実験1及び2の結果から、本発明のペプチドについて、in vivoでの肺水腫治療効果を有すること、及び致命的な急性毒性がないことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0016】
本発明によれば、上皮及び内皮損傷の治療剤、特に上皮及び内皮の微小損傷の治療剤を提供することができる。また、上皮及び内皮細胞の伸展亢進剤を提供することもできる。
当該治療剤や伸展亢進剤は、上皮及び内皮損傷(特に微小損傷)に伴う各種疾患又は病態の治療に用いることができる点で、極めて有用である。
【配列表フリ-テキスト】
【0017】
配列番号25:合成ペプチド
配列番号26:合成ペプチド
[配列表]
JP0005967631B2_000004t.gifJP0005967631B2_000005t.gifJP0005967631B2_000006t.gifJP0005967631B2_000007t.gifJP0005967631B2_000008t.gifJP0005967631B2_000009t.gifJP0005967631B2_000010t.gifJP0005967631B2_000011t.gifJP0005967631B2_000012t.gifJP0005967631B2_000013t.gifJP0005967631B2_000014t.gifJP0005967631B2_000015t.gifJP0005967631B2_000016t.gifJP0005967631B2_000017t.gifJP0005967631B2_000018t.gifJP0005967631B2_000019t.gifJP0005967631B2_000020t.gifJP0005967631B2_000021t.gifJP0005967631B2_000022t.gifJP0005967631B2_000023t.gifJP0005967631B2_000024t.gifJP0005967631B2_000025t.gifJP0005967631B2_000026t.gifJP0005967631B2_000027t.gifJP0005967631B2_000028t.gifJP0005967631B2_000029t.gifJP0005967631B2_000030t.gifJP0005967631B2_000031t.gifJP0005967631B2_000032t.gif
図面
【図2】
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【図9】
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【図10】
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【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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