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明細書 :クロストリジウム属細菌を用いたブタノールの生産方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2016-052284 (P2016-052284A)
公開日 平成28年4月14日(2016.4.14)
発明の名称または考案の名称 クロストリジウム属細菌を用いたブタノールの生産方法
国際特許分類 C12P   7/16        (2006.01)
C12R   1/145       (2006.01)
FI C12P 7/16
C12P 7/16
C12R 1:145
請求項の数または発明の数 10
出願形態 OL
全頁数 12
出願番号 特願2014-179819 (P2014-179819)
出願日 平成26年9月4日(2014.9.4)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第2項適用申請有り 公益財団法人日本農芸化学会 大会講演要旨集 2014年度(平成26年度)大会[東京] 平成26年3月5日
発明者または考案者 【氏名】中山 俊一
【氏名】清 啓自
出願人 【識別番号】598096991
【氏名又は名称】学校法人東京農業大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100122574、【弁理士】、【氏名又は名称】吉永 貴大
審査請求 未請求
テーマコード 4B064
Fターム 4B064AC04
4B064CA02
4B064CA21
4B064CB07
4B064CD09
4B064CD12
4B064CD19
4B064CD22
4B064CD24
4B064DA16
要約 【課題】ブタノール生産菌によるブタノール生産において、ブタノール生産菌の至適温度を超える温度においても、効率よくブタノールを生産するブタノール生産技術を提供することを目的とする。
【解決手段】ブタノール生産菌により糖を含む基質からブタノールを生産する方法において、前記ブタノール生産菌によるブタノールの生産工程を、アデニンの存在下で行うことによって、ブタノール生産菌の至適温度を超える温度においても、ブタノールを効率よく生産する。
【選択図】図5
特許請求の範囲 【請求項1】
ブタノール生産菌により糖を含む基質からブタノールを生産する方法において、
前記ブタノール生産菌によるブタノールの生産工程を、アデニンの存在下で行うことを特徴とする、
ブタノールの生産方法。
【請求項2】
前記アデニンの濃度が、50~250mg/Lの範囲内である、請求項1に記載のブタノール生産方法。
【請求項3】
前記基質が、セルロース資化菌によりセルロース基質を糖化する工程により得られる、
請求項1又は2に記載のブタノールの生産方法。
【請求項4】
前記セルロース資化菌がセルロース資化能を有するクロストリジウム(Clostridium)属細菌であり、前記ブタノール生産菌がブタノール生産能を有するクロストリジウム(Clostridium)属細菌である、請求項3に記載のブタノール生産方法。
【請求項5】
前記セルロース資化菌が、クロストリジウム サーモセラム(Clostridium thermocellum)NBRC 103400である、請求項3又は4に記載のブタノール生産方法。
【請求項6】
前記ブタノール生産菌が、クロストリジウム サッカロパーブチルアセトニカム(Clostridium saccharoperbutylacetonicum) N1-4株である、請求項1~5のいずれか1項に記載のブタノール生産方法。
【請求項7】
前記セルロース基質が、セルロース系バイオマス又は木質系バイオマスを含む、請求項3~6のいずれか1項に記載のブタノール生産方法。
【請求項8】
前記セルロース基質を糖化する工程を開始してから少なくとも24時間経過後に、前記ブタノール生産菌を添加してブタノールを生産する工程を実施する、請求項3~7のいずれか1項に記載のブタノール生産方法。
【請求項9】
前記セルロース基質を糖化する工程を、50~65℃で実施し、前記ブタノールを生産する工程を、25~41℃で実施する、請求項3~8のいずれか1項に記載のブタノール生産方法。
【請求項10】
前記セルロース基質を糖化する工程において、ヘミセルラーゼを添加する工程を更に有する、請求項3~9のいずれか1項に記載のブタノール生産方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物を用いたブタノールの生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、化石燃料への依存による地球温暖化問題がクローズアップされている。同時に、石油の枯渇が指摘されており、エネルギー確保が人類共通の重要課題となっている。そこで、石油由来の燃料生産に代わりバイオマス由来の燃料生産が求められている。殊に、食物と競合しない非食料バイオマス由来のバイオマス燃料への期待が高まっている。
【0003】
バイオマス燃料としてはバイオエタノールが知られているが、バイオマス燃料としてのブタノールも注目されている。ブタノールは燃焼エネルギー効率がエタノールよりも高く、既存の化石燃料へ高い比率で混合することができる。また、溶剤としても従来よりよく利用されているなど、利用用途の広さという観点でも、エタノールよりも優れているといえる。
【0004】
ブタノール生産菌としては、代表的なものとしてクロストリジウム(Clostridium)属細菌が知られている。しかしながら、ブタノール生産菌はセルロースを資化することができず、また、セルロース資化菌は高ブタノール生産能を有しない。そこで、本発明者は、セルロース資化菌によるセルロース糖化と、高ブタノール生産菌を組み合わせた混合培養により、1つの系でセルロース基質の糖化を行いつつブタノールを生産することで、セルロース基質を用いたブタノール生産を効率よく実施することを提案した(特許文献1)。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】特開2011-239710号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
セルロース資化菌と高ブタノール生産菌を組み合わせた混合培養は、1つの系でセルロース基質の糖化とブタノールの生産を行うことができるという利点を有している。しかしながら、セルロース資化菌の至適温度は55~60℃であるのに対し、高ブタノール生産菌の至適温度は25~34℃であるため、温度調整を適切に行う必要があった。特に、高ブタノール生産菌は37℃を超えるとブタノール生産を中止してしまうという性質を有しているため、セルロース資化工程後、ブタノール生産工程を開始するには培地温度が高ブタノール生産菌の至適温度になるまで低下するのを待つか、冷却等の作業を行う必要があった。その作業を含めたブタノール生産は、約2週間(14日間)の期間を要していた。
【0007】
そこで本発明は、高ブタノール生産菌を用いた培養系において、高ブタノール生産菌の至適温度を超える温度においても、効率よくブタノールを生産するブタノール生産技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、高ブタノール生産菌によるブタノール発酵を1つの系で行う混合培地にアデニンを添加して培養を実施したところ、高ブタノール生産菌の至適温度を超える温度においてもセルロース基質からのブタノール生産を効率よく実施することができるとの知見を得た。
【0009】
本発明はかかる知見に基づきなされたものであり、ブタノール生産菌により糖を含む基質からブタノールを生産する方法において、前記ブタノール生産菌によるブタノールの生産工程を、アデニンの存在下で行うことを特徴とする、ブタノール生産方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明のブタノール生産方法によれば、糖を含む基質、例えばセルロース資化菌によるセルロース糖化を行った培養から、高ブタノール生産菌としてクロストリジウム(Clostridium)属細菌を用いてブタノール生産を行うに当たり、アデニン存在下でブタノール生産を行うことにより、高ブタノール生産菌の至適温度を超える温度においてもブタノール生産を実施することができる。そのため、ブタノール生産工程を10日から14日間に短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】5種類の核酸塩基をそれぞれ100mg/L添加し37℃で培養した時の培養上清における核酸塩基量の経時変化を検討した結果を示す図である。
【図2】アデニンの添加量を変えて37℃で培養した場合のN1-4株の菌体濃度を測定した結果を示す図である。
【図3】アデニンの添加量を変えて培養72時間でのN1-4株の発酵生産物量を測定した結果を示す図である。
【図4】培養96時間での25℃~41℃のブタノール生産菌の最大濁度を検討した結果を示す図である。
【図5】培養96時間での25℃~41℃の発酵生産量を測定した結果を示す図である。
【図6】25℃~42℃、アデニン無添加でブタノール生産量の経時的変化を測定した結果を示す図である。
【図7】25℃~42℃、アデニン無添加でブタノール発酵の最終発酵産物量の比較データを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施形態としてセルロース基質からのブタノールを生産する場合について詳細に説明する。本発明による特に好適なブタノール生産方法は、クロストリジウム(Clostridium)属細菌の混合培養によるセルロース基質からのブタノール生産方法であって、セルロース資化能を有するクロストリジウム(Clostridium)属細菌によりセルロース基質を糖化する工程と、アデニン存在下でブタノール生産能を有するクロストリジウム(Clostridium)属細菌によりブタノールを生産する工程と、を有する。

【0013】
セルロース基質としては、セルロース系バイオマスであればその種類に限定されない。ここで、セルロース系バイオマスとは、セルロースを含む物質を意味し、例えば、レーヨン、綿、麻などの植物系の繊維のわた、糸、布帛などの繊維類;新聞紙、ろ紙、雑誌、コピー紙やダンボールなどの紙類;稲わら、野菜くずなどの農産廃棄物のほか、結晶性セルロースなどを挙げることができる。

【0014】
セルロース基質の濃度は、ブタノールの生産効率の観点からは、0.5~10%(w/w)であることが好ましく、2~8%(w/w)であることがより好ましく、3~5%(w/w)であることがさらに好ましい。

【0015】
なお、前記セルロース基質には、ヘミセルラーゼを添加することが好ましい。ヘミセルラーゼを添加することにより、ヘミセルロースを含むセルロース系バイオマスの糖化が促進され、ブタノール生産菌が資化するためのセロビオースやグルコースの量が増加する結果、ブタノール生産量を増加させることができる。ヘミセルラーゼの添加量は任意に設定することができるが、添加量が多ければ糖化をより促進させることができる。

【0016】
前記ヘミセルロースを含むセルロース系バイオマスとしては、木質系バイオマスが挙げられる。本実施形態において木質系バイオマスとは、植物体の一部をなしていた木質系部分を含む材料であって、家畜等の動物の消化管を通ったことがなく、かつ、工業的に食品または飼料とするために加工又は分解工程を受けたことがなく、かつ、食品又は食品原料として不適である、主としてセルロース、ヘミセルロースおよびリグニンから構成されるバイオマスをいう。具体的には、例えば、間伐材、剪定枝葉、木材チップ、おが屑や籾殻、製材工場等の残廃材、建築廃材、建築解体材などが挙げられる。

【0017】
前記セルロース資化菌としては、例えば特開昭59-85295号公報にセルロース分解菌として記載の既知の細菌を使用することができるが、セルロース資化能を有するクロストリジウム(Clostridium)属細菌が好適であり、なかでも、セルロース基質中のセルロースを資化(糖化)する能力が高いという観点から、クロストリジウム サーモセラム(Clostridium thermocellum)NBRC 103400株であることが特に好ましい。クロストリジウム サーモセラム(Clostridium thermocellum)は、セルロースを嫌気的条件下で糖化してセロビオース及びグルコースを生成する。また、好熱性菌としても知られ、その至適温度は55~60℃と、他のクロストリジウム(Clostridium)属細菌の至適温度と比較すると高い。

【0018】
また、前記セルロース資化能を有するクロストリジウム(Clostridium)属細菌として、遺伝子組み換えにより、セルロース資化能が高められた組み換え体を用いることもできる。従って、本実施形態においては、セルロース資化能を有するクロストリジウム(Clostridium)属細菌には、遺伝子組み換えにより、セルロース資化能が高められた組み換え体も含まれる。

【0019】
前記ブタノール生産菌としては、ブタノール生産能を有する既知の細菌を使用することができるが、ブタノール生産能を有するクロストリジウム(Clostridium)属細菌が好ましく、なかでも、ブタノール生産能が高いという観点から、クロストリジウム サッカロパーブチルアセトニカム(Clostridium saccharoperbutylacetonicum)N1-4株が特に好ましい。クロストリジウム サッカロパーブチルアセトニカム(Clostridium saccharoperbutylacetonicum)は、前記クロストリジウム サーモセラム(Clostridium thermocellum)NBRC 103400株がセルロースを糖化して生成したセロビオース及び/又はグルコースを基質として嫌気的条件下でブタノール発酵を行い、主にブタノールを生産するほか、エタノール、酢酸、酪酸、アセトンなどを生産する。また、至適温度は25~34℃であり、37℃を超えるとブタノール生産を停止してしまうという性質を有している。

【0020】
また、前記ブタノール生産能を有するクロストリジウム(Clostridium)属細菌として、遺伝子組み換えにより、ブタノール生産能が高められた組み換え体を用いることもできる。従って、本実施形態においては、ブタノール生産能を有するクロストリジウム(Clostridium)属細菌には、遺伝子組み換えにより、ブタノール生産能が高められた組み換え体も含まれる。

【0021】
クロストリジウム(Clostridium)属細菌の混合培養は、前記セルロース基質を糖化する工程を開始してから少なくとも24時間経過後に、ブタノール生産菌を添加して、前記ブタノールを生産する工程を実施することにより行うのが適当である。

【0022】
すなわち、前記ブタノール生産菌はセルロース基質を直接資化することができないため、前記ブタノール生産菌がブタノールを生産するためには、前記セルロース資化菌がセルロース基質を糖化する工程が前提として必要となる。そのため、仮に前記セルロース資化菌と前記ブタノール生産菌を同時に培地に添加しても、所望量のブタノールを生産することは困難である。

【0023】
しかし、前記セルロース資化菌がセルロースを糖化し始めれば、同時並行的に前記ブタノール生産菌がブタノールを生産することが可能となる。

【0024】
前記セルロース基質を糖化する工程は、前記セルロース資化菌の至適温度で実施し、前記ブタノールを生産する工程を、前記ブタノール生産菌の至適温度で実施することがブタノールの効率的生産の観点から好ましい。

【0025】
前記セルロース資化能を有するクロストリジウム(Clostridium)属細菌の至適温度は55~60℃であり、前記ブタノール生産能を有するクロストリジウム(Clostridium)属細菌の至適温度は25~34℃である。従って、それぞれの工程でクロストリジウム(Clostridium)属細菌を用いる場合、前記セルロース基質を糖化する工程は、60℃前後で実施することが好ましく、前記ブタノールを生産する工程は、30℃前後で実施することが好ましい。

【0026】
ところが、混合培養系にアデニンを添加し、アデニンの存在下でブタノール生産を行うことにより、ブタノールの生産が難しかった34~41℃でもブタノール生産能が向上し、特に、37℃であれば、アデニンを添加せずに培養した場合と比較して、菌体量が約1.5倍に増加し、ブタノール生産能は約2.5倍向上する。なお、ここでいう「アデニン」は、純粋なアデニンに限定されず、アデニンと同様な機能を失わない範囲で人為的又は自然に改変されたアデニン誘導体(派生物)やアデニンの機能を失わない範囲で他の物質を含むものであってもよい。

【0027】
アデニンの濃度は50mg/Lでも効果が認められ、濃度依存的にブタノール生産能が向上するが、250mg/Lを超えると効果が頭打ちになる。従ってアデニンの濃度は50~250mg/Lであることが好ましい。

【0028】
アデニンの添加のタイミングは、ブタノール生産工程の開始時にアデニンが存在していれば良く、セルロール糖化工程中でもよい。

【0029】
ブタノール生産工程の終了後、必要に応じて、得られたブタノールを蒸留し高濃度のブタノールを分取する蒸留工程を実施する。蒸留工程では、培養液を蒸留装置等によって蒸留し、ブタノール濃度を所望の濃度に濃縮する。

【0030】
蒸留工程で副生された蒸留残渣はセルロース基質(セルロース系バイオマス)やクロストリジウム(Clostridium)属細菌に由来する栄養素を豊富に含み、栄養学的に優れていることから、飼料化や肥料化を行うことにより、家畜の飼料や農作物の肥料として有効利用することができる。

【0031】
蒸留残渣を家畜の飼料として利用する場合は、例えば、蒸留残渣をそのまま又は乾燥処理を実施した上で、家畜に供給することができる。また、蒸留残渣を農作物の肥料として利用する場合は、例えば、必要に応じて炭素源又は窒素源を添加し、C/N比を適宜調整することにより、作物に有用な肥料が得られる。

【0032】
なお、上述したセルロース資化工程に代えて、糖を含む他のブタノール発酵培地を使用してブタノール生産工程を実施することもできる。糖としては、ブタノール生産菌が資化可能な糖であれば特に制限はなく、例えば、グルコース、マンノース、フルクトース、ガラクトース、アラビノース、キシロース、トレハロース、マンニトール、ラクトース、マルトース、サリシン、セロビオース、ラムノース、リボース、デンプン(可溶性デンプン、サゴデンプン、タピオカデンプン、コーンデンプン、ジャガイモデンプン、小麦デンプン、コウリャンデンプン)、デキストリン、キシラン、廃糖蜜等、様々な食用及び非食用の、六炭糖又は五炭糖を構成単位とする糖質(saccharides)を挙げることができる。
【実施例】
【0033】
1.ブタノール生産菌添加後の培養温度の検討
セルロース資化菌として、クロストリジウム サーモセラム(Clostridium thermocellum)NBRC 103400株(=ATCC27405)(以下、「NBRC 103400株」という)を使用した。一方、ブタノール生産菌としては、クロストリジウム サッカロパーブチルアセトニカム(Clostridium saccharoperbutylacetonicum) N1-4株(以下、「N1-4株」という)を使用した。
【実施例】
【0034】
NBRC 103400株の初発菌体量をOD600nm=1.0に調製し、2%(wt/vol)結晶性セルロース(Avicel cellulose、Sigma-Aldrich社製)を基質として植菌し、嫌気的条件下、24h(1日)、60℃で培養した。培養開始から24h(1日)経過後、各培地にN1-4株をOD600nm=1.0に調製したものを添加し、培地の温度を下げて嫌気的条件下で培養した。
【実施例】
【0035】
ここで、N1-4株の培養温度を、25℃、30℃、34℃、37℃、42℃に設定することで、ブタノール生産菌添加後の適切な培養温度を検討した。
【実施例】
【0036】
図6に25℃~42℃、アデニン無添加でブタノール生産量の経時的変化を測定した結果を示し、図7に最終発酵産物量の比較データを示す。図6、図7に示すように、ブタノール生産菌添加後の培養温度を30℃に設定した場合に最もブタノール生産性が高くなることが判明した。しかしながら、培養温度を34℃以上に設定した場合、ブタノール生産性が顕著に低下し、高温になるにつれて酪酸生成量が増加する傾向が認められた。なお、結晶性セルロースに代えて、ろ紙、新聞紙、綿、稲わらを基質とした場合でも同様の傾向が認められた。
【実施例】
【0037】
2.アデニンの添加によるブタノール生産菌の高温耐性の獲得
(1)使用菌種と培地
アデニンの添加によるブタノール生産菌の高温耐性の付与効果を確認するため、以下の実験を行った。N1-4株を用い、その培養にはTYA培地を用いた。TYA培地はglucose 40 g、Bacto trypton 6 g、yeast extract 2g、NH4CH3COOH 3 g、KH2PO4 0.5 g、MgSO4・7H2O 0.3 g、FeSO4・7H2O 10 mgを蒸留水へ溶解し121℃、15min滅菌後、ヘッドスペースを窒素置換してブチル栓にて密栓し嫌気状態を維持した。核酸塩基の添加は以下のように行った。核酸塩基としてアデニン、グアニン、チミン、シトシン、ウラシル5種類すべてをそれぞれ100 mg/Lずつ添加する場合は、加温して溶解した核酸溶液(200 mg/L)を調製しTYA培地と混合した。一方で、核酸塩基としてアデニンのみを添加する場合は、0.5 M HClにて10 g/L溶液を調製し、それをTYA培地へ必要量添加してpH=6.5になるようNaOHにてpHを調整した。アデニン添加濃度を検証した時を除いて、コントロールとなるアデニンを添加していないTYA培地においても塩濃度が同等となるようにした。
【実施例】
【0038】
(2)培養方法
-80℃にて保存しているN1-4株のグリセロールストックを融解し液体培地へ植菌して1日間、30℃にて培養した。培養液をTYA平板培地へプレーティングして1日~2日間、30℃で培養し、形成したコロニーを釣菌して1日間30℃で培養して前々培養とした。新しい培地へその10%量の前々培養液を移して12時間、30℃にて培養し前培養とした。本培養は植菌後のOD600nm=0.1になるよう前培養液を植菌した。
【実施例】
【0039】
至適温度内の30℃で培養したN1-4株は、30℃の温度条件下で旺盛に生育し、ブタノール生産量が最大となる。37℃の温度条件下では30℃の温度条件と比較して菌体数が減少し、ブタノール生産量が約50%にまで減少する。しかしながら、核酸塩基であるアデニンを培地に添加して培養を行った場合、37℃の温度条件であっても30℃で培養した場合と同等量のブタノールを生産するという特異的な現象が認められた。
【実施例】
【0040】
すなわち、図1に示すように、核酸塩基ごとに培養期間中の核酸消費量を経時的に測定したところ、培養初期の段階でアデニンが急激に資化されていることが判明し、アデニンが高温条件下でブタノール生産菌の増殖及び発酵の促進に深く関与していることが強く示された。
【実施例】
【0041】
(3)アデニン濃度の検討
図2及び図3に、アデニン濃度がブタノール生産菌(N1-4株)及びブタノール生産量に及ぼす影響を検討した結果を示す。図2は、アデニンの添加量を変えて37℃で培養した場合のN1-4株の菌体濃度を測定した結果を示す図であり、図3は、アデニンの添加量を変えて培養72時間でのN1-4株の発酵生産物量を測定した結果を示す図である(図3中、左側「30℃」と記載されている条件(コントロール)以外は、すべて37℃での結果である)。
【実施例】
【0042】
図2に示すように、37℃の温度条件でアデニンを50mg/L、100mg/L、250mg/L、500mg/Lを添加してブタノール発酵を行った場合、コントロール(アデニン添加なし)と比較して、いずれのアデニン濃度でも菌体数の増加が認められた。
【実施例】
【0043】
図3に示すように、ブタノール生産量は、37℃の温度条件でアデニン添加による効果が顕著に表れ、アデニンの添加により、37℃での高ブタノール生産が可能であることが判明した。添加濃度については、アデニン50mg/Lでも効果が認められ、その後濃度依存的にブタノールの生産量が向上したが、500mg/L、1000mg/Lでは効果が頭打ちになったため、本培養系におけるアデニンの至適濃度は250mg/Lであることが明らかとなった。
【実施例】
【0044】
なお、核酸塩基(アデニン、グアニン)を培地に添加して培養を行った場合、37℃の温度条件であっても30℃で培養した場合と同等量のブタノールを生産することが明らかとなった。
【実施例】
【0045】
(4)アデニン添加による耐熱性の検討
図4及び図5は、アデニンの添加がブタノール生産菌の耐熱性に及ぼす影響を検討した結果を示す図である。図4は、培養96時間での25℃~41℃のブタノール生産菌の最大濁度を検討した結果を示す図であり、図5は、培養96時間での25℃~41℃のブタノール生産量を測定した結果を示す図である。
【実施例】
【0046】
図4に示すように、25℃~39℃までは、アデニンの添加による菌体増殖効果が認められた。同じ温度条件で比較した場合、アデニンの添加の有無はブタノール生産菌の菌体量に顕著な差異をもたらし、例えば、37℃ではアデニンの添加により菌体量が2.5倍に増加し、同様に、38℃では1.8倍、39℃では1.6倍もの菌体量の違いが認められた。
【実施例】
【0047】
また、図5に示すように、25℃~41℃まで、アデニンの添加によるブタノール生産量の増殖効果が認められた。同じ温度条件で比較した場合、アデニンの添加の有無はブタノール生産量に顕著な差異をもたらし、例えば、37℃ではアデニンの添加によりブタノール生産量が1.7倍に増加し、同様に、38℃では2.2倍、39℃では3.3倍ものブタノール生産量の違いが認められた。但し、42℃を超える温度条件では、アデニンを添加した場合であっても菌体量が減少し、ブタノール生産量の増加効果は認められなかった。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6