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明細書 :放射線遮蔽能を有するヨウ素捕集材料

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6218136号 (P6218136)
公開番号 特開2015-020101 (P2015-020101A)
登録日 平成29年10月6日(2017.10.6)
発行日 平成29年10月25日(2017.10.25)
公開日 平成27年2月2日(2015.2.2)
発明の名称または考案の名称 放射線遮蔽能を有するヨウ素捕集材料
国際特許分類 B01J  41/10        (2006.01)
C01G  53/00        (2006.01)
G21F   9/12        (2006.01)
G21F   1/02        (2006.01)
G21C   9/00        (2006.01)
FI B01J 41/10
C01G 53/00 A
G21F 9/12 511A
G21F 1/02
G21C 9/00 K
請求項の数または発明の数 1
全頁数 9
出願番号 特願2013-149118 (P2013-149118)
出願日 平成25年7月18日(2013.7.18)
審査請求日 平成28年7月1日(2016.7.1)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504155293
【氏名又は名称】国立大学法人島根大学
発明者または考案者 【氏名】笹井 亮
個別代理人の代理人 【識別番号】100116861、【弁理士】、【氏名又は名称】田邊 義博
審査官 【審査官】菊地 寛
参考文献・文献 国際公開第2012/102151(WO,A1)
特開2010-059005(JP,A)
特開2013-000696(JP,A)
特開平01-304041(JP,A)
特開2005-345448(JP,A)
特表2008-538136(JP,A)
国際公開第2008/114877(WO,A1)
特開昭60-161744(JP,A)
特開2002-371368(JP,A)
調査した分野 B01J 41/00
G21F 1/00
G21F 9/00
特許請求の範囲 【請求項1】
下式(1)により表される層状複水酸化物の放射性ヨウ素129I捕集材兼放射能遮蔽材としての使用。
[Ni2+0.8Al3+0.2(OH)][An-0.2/n・mHO]・・・(1)
(式中、Aは、電荷の中立性の法則に従うように選ばれた無機又は有機アニオン、nは1以上の整数である。)
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線遮蔽能を有するヨウ素捕集材料に関し、特に半減期が長い129Iを陰イオン交換反応により選択的に回収するとともに129Iから放出されるγ線(約0.04MeV)に対し高い遮蔽能を有する捕集素材の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、核燃料の再処理工程や原子炉の廃炉時に発生する多くの放射性元素のうち、129Iは、発生量は少ないが半減期が1570万年と長く、一旦環境中に漏洩してしまうとその影響は半永久的に残留する。ここで、ヨウ素は水に溶解すると陰イオンとして存在し、汚染水の処理には陰イオン交換材料が必要となる。
【0003】
しかしながら、従来の技術では、陰イオン性ヨウ素の陰イオン交換選択性はひくく、効果的に水環境から陰イオン性ヨウ素を除去できる材料はほとんど存在しない。
【0004】
僅かに、層状複水酸化物(LDH:Layered Double Hydroxide)が知られているものの、MgとAlからなる一般的なLDHは、陰イオン性フッ素に対する交換性は高いものの、陰イオン性ヨウ素については、ほとんど除去できないのが実情である。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】特開2005-345448号公報
【特許文献2】特開2012-240873号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記に鑑みてなされたものであって、陰イオン性ヨウ素に対して高い選択性を有し、また、放射性ヨウ素についての有用な捕集材に関する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項に記載の発明は、下式(1)により表される層状複水酸化物の放射性ヨウ素129I捕集材兼放射能遮蔽材としての使用である。
[Ni2+0.8Al3+0.2(OH)][An-0.2/n・mHO]・・・(1)
(式中、Aは、電荷の中立性の法則に従うように選ばれた無機又は有機アニオン、nは1以上の整数である。)
【0009】
なお、式(1)中のmは、必ずしも整数に限定されない。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、陰イオン性要素を効率的に捕集することができる。また、放射性ヨウ素を捕集しつつ放射能を効果的に遮蔽することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】各LDHに対するIのイオン交換等温線を示したグラフである。
【図2】各LDHに対するハロゲン等の分配係数を示したグラフである。
【図3】Ni/Al(4)LDHに関し、Clに対するIのKielland plotである。
【図4】各LDHに関する、Clに対するIのKielland plotである。
【図5】各LDHそれぞれの、ハロゲン等陰イオンに対する平衡定数の値を示した表である。
【図6】LDHの放射能遮蔽率を測定する実験系を示した図である。
【図7】各LDHに対する放射能遮蔽率の実験値と理論値とを示した表である。
【図8】各LDHに対する129Iからのγ線の遮蔽率の算出値を示した表である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しながら詳細に説明する。
ここでは、まずLDHの作製について説明し、次いで評価について説明する。
試薬は以下のものを用いた。

【0013】
(1-1)LDH合成用試薬
LDH合成に用いた各種溶液は以下の試薬から調製した。
・硝酸マグネシウム六水和物 Mg(NO)・6HO [99.0% Wako(株)]
・硝酸ニッケル(II)六水和物 Ni(NO3)・6HO [98.0% Wako(株)]
・硝酸アルミニウム九水和物 Al(NO)・9HO [98.0% Wako(株)]
・尿素 NHCONH [99.0% Wako(株)]
・ヘキサメチレンテトラミン C12 [関東化学(株)]

【0014】
(1-2)脱炭酸用試薬
脱炭酸イオン処理には以下の試薬を用いた。
・塩化ナトリウム NaCl [99.5% Wako(株)]
・硝酸ナトリウム NaNO [99.0% Wako(株)]
・酢酸 CHCOOH [99.7% Wako(株)]
・酢酸ナトリウム CHCOONa [98.5% Wako(株)]

【0015】
(1-3)イオン交換実験用試薬
イオン交換実験に使用した溶液は以下の試薬から調製した。
・塩化ナトリウム NaCl [99.5% Wako(株)]
・硝酸ナトリウム NaNO [99.0% Wako(株)]
・フッ化ナトリウム NaF [99.0% Wako(株)]
・臭化ナトリウム NaBr [99.5~100.3% Wako(株)]
・ヨウ化カリウム KI [99.5% Wako(株)]

【0016】
また、LDHの合成に際しては、テフロン(フッ素樹脂)内筒耐圧容器((株)三愛科学、容量50、100cm、耐熱温度523K)を用いた。振とう器は、ASONE(株)のMIX ROTOR VMRC-5を使用した。設定温度は300Kとした。

【0017】
LDHは、一般式
[(M2)2+(M3)3+1-x(OH)][An-x/n・mHO]・・・(2)
(式中、M2は二価金属、M3は三価金属、Aはn価の陰イオンである)
として表される。以降では、これを適宜、
n--M2/M3(x/1-x)LDH、または、M2/M3(x/1-x)LDHと表記することとする。

【0018】
(2-1)CO2--Ni/Al(2)LDHの合成:
Ni(NO)・6HO、Al(NO)・9HO、尿素を、[Ni]:[Al]:[Urea]=100:50:330mmol/dmとなるようにイオン交換水に溶解し、Ni-Al-Urea混合溶液(500dm)を調製した。これを30cmずつテフロン内筒耐圧容器にとり分け、密封後、453Kのオーブン中で72h静置した。その後放冷、吸引濾過し、得られた沈殿をイオン交換水で洗浄した後、真空乾燥し、目的のCO2--Ni/Al(2)LDHを得た。

【0019】
(2-2)CO2--Ni/Al(3)LDHの合成:
Ni(NO)・6HO、Al(NO)・9HO、尿素を、[Ni]:[Al]:[Urea]=112.5:37.5:335.3mmol/dmとなるようにイオン交換水に溶解し、Ni-Al-Urea混合溶液(500dm)を調製した。これを60cmずつテフロン内筒耐圧容器にとり分け、密封後、503Kのオーブン中で72h静置した。その後放冷、吸引濾過し、得られた沈殿をイオン交換水で洗浄した後、真空乾燥し、目的のCO2--Ni/Al(3)LDHを得た。

【0020】
(2-3)CO2--Ni/Al(4)LDHの合成:
Ni(NO)・6HO、Al(NO)・9HO、尿素を、[Ni]:[Al]:[Urea]=120:30:327.3mmol/dmとなるようにイオン交換水に溶解し、Ni-Al-Urea混合溶液(500dm)を調製した。これを60cmずつテフロン内筒耐圧容器にとり分け、密封後、503Kのオーブン中で72h静置した。その後放冷、吸引濾過し、得られた沈殿をイオン交換水で洗浄した後、真空乾燥し、目的のCO2--Ni/Al(4)LDHを得た。

【0021】
(2-4)CO2--Mg/Al(2)LDHの合成:
比較をおこなうために、Mg-Al系のLDHも作製した。
Mg(NO)・6HO、Al(NO)・9HO、ヘキサメチレンテトラミンを、[Ni]:[Al]:[HMT]=100:50:175mmol/dmとなるようにイオン交換水に溶解し、Mg-Al-HMT混合溶液(500dm)を調製し、これを30cmずつテフロン内筒耐圧容器にとり分け、密封後、413Kのオーブン中で24h静置した。その後放冷、吸引濾過し、得られた沈殿をイオン交換水で洗浄した後、真空乾燥し、目的のCO2--Mg/Al(2)LDHを得た。

【0022】
(3)脱炭酸イオン処理によるCO2-のClへの置換:
LDHのCO2-の選択性は高いため、層間に取り込まれたままであると単純なイオン交換反応はほとんど起こらない。そこで、酢酸緩衝法により脱炭酸イオン処理をおこないClと置換した。具体的には次の処理を施した。

【0023】
CO2--Mg/Al(2)LDH1.748gに5mol/dmのNaCl溶液100cm、イオン交換水860cmを加え、窒素雰囲気下で均一に分散した。この分散液に窒素気流下(0.5dm/min)で酢酸緩衝溶液[AcOH]/([AcOH]+[AcONa])=0.150、全体濃度2mol/dmを50cmを加え、COモニターでCOの発生がなくなったことが確認できるまで撹拌した。その後、窒素雰囲気下で分散液を吸引濾過した。この時、不純物有機成分除去のため、少量のエタノールで洗浄を数回行った。得られた沈殿を速やかに室温で真空乾燥した。

【0024】
同様に、CO2--Ni/Al(2)LDH、CO2--Ni/Al(3)LDH、CO2--Ni/Al(4)LDHについても、脱炭酸イオン処理し、それぞれ、Cl-Ni/Al(2)LDH、Cl-Ni/Al(3)LDH、Cl-Ni/Al(4)LDHを作製した。

【0025】
なお、反応前後のXRDパタン解析、FT-IRスペクトル解析をおこない、適正に置換されたLDHが得られていることを確認した。

【0026】
(4-1)ヨウ素の捕集性評価:
0.1mol/dmのI水溶液と、0.1mmol/dmのCl水溶液を混合し、0.1mN(Cl+I)水溶液を調整し、この水溶液10cmにCl-LDH粉末を0.10g混合し、300Kで24時間撹拌してイオン交換反応をおこなった。その後、減圧濾過法により固液分離をおこなった。

【0027】
Ni/Al(2)LDH、Ni/Al(3)LDH、Ni/Al(4)LDHのイオン交換等温曲線は、図1のようになった。比較として、Mg/Al(2)LDHの結果も示す。ヨウ化物イオンなどの定量は、炭酸ナトリウム/炭酸ナトリウム混合水溶液をキャリアとしたサプレッサー付イオンクロマトグラフィにより分析した。

【0028】
なお、横軸S:Iモル分率、縦軸(LDH):I交換率は、次式で表される。
=(平衡時の溶液中のIのイオン等量)/(平衡時の溶液中の全イオン等量)・・・(3)
(LDH)=(平衡時のLDH中のIのイオン等量)/(LDHの陰イオン交換容量の物質量)・・・(4)

【0029】
イオン交換等温曲線は、H型、L型、C型、S型があり、定性的評価として、H型>L型>C型>S型の順に選択性が高まるが、図から、Ni/Al(2)はS型、Ni/Al(3)はC型、Ni/Al(4)はL型であり、Ni/Al(4)が特にIに対する選択性が高いことが分かる。

【0030】
(4-2)ハロゲン等陰イオン多種混合系における捕集性評価:
Cl、NO、F、Br、Iそれぞれ0.1mN含む混合水溶液10cmに、Cl-Mg/Al(2)LDH、Cl-Ni/Al(2)LDH、Cl-Ni/Al(3)LDH、または、Cl-Ni/Al(4)LDHを、それぞれ0.10g混合し、300Kで24時間撹拌してイオン交換反応をおこなった。その後、減圧濾過法により固液分離をおこなった。各LDHに対する分配係数Kdは、図2のようになった。

【0031】
なお、分配係数Kdは次式で表される。
Kd={(C-C)/C}×(V/m)。
ここでCは対象イオンの初期濃度、Cは陰イオン交換後の溶液中の対象イオンの濃度、Vは水溶液の量、mはLDHの質量である。

【0032】
図に示したように、Mg/Al(2)LDHやNi/Al(2)LDHでは、Fが他のイオンより非常に大きな分配係数を示しているが、一方、Ni/Al比が高くなると分配係数が減少し、逆にIの分配係数が増加する。特に、Ni/Al(4)では、Iの分配係数が最も大きくなっている。

【0033】
また、各LDHのハロゲン等陰イオンに対する平衡定数を算出した。
式(3)と同様にして、Clに対するモル分率SCl、式(4)と同様にしてClに対する交換率(LDH)Clを算出し、Clに対するIの相対的な選択係数KClを算出する。KClは次式で与えられる。
Cl=[(LDH)・SCl]/[(LDH)Cl・S]・・・(5)

【0034】
次いで、平衡定数Kは、次式からGainとThomasの方法を用いて算出した。
【数1】
JP0006218136B2_000002t.gif
すなわち、横軸(LDH)、縦軸LogKClとしたKielland plotoを作製し、プロットデータとLogKCl=0が囲む面積を、シンプソン法により計算し平衡定数Kを得た。

【0035】
図3は、Ni/Al(4)LDHに関し、Clに対するIのKielland plotである。また、同様に、Clに対するSO2-、NOについてもプロットした。また、図4は、Ni/Al(4)LDH、Ni/Al(3)LDH、Ni/Al(2)LDH、Mg/Al(2)LDHに関する、Clに対するIのKielland plotである。

【0036】
図5は、Ni/Al(4)LDH、Ni/Al(3)LDH、Ni/Al(2)LDH、Mg/Al(2)LDHそれぞれの、ハロゲン等陰イオンに対する平衡定数の値を示した表である。表中の陰イオン表示につづく括弧が平衡定数である。表に示したように、Ni/Al(4)LDHは、K=0.51であり、他のLDHに比して極めて高い平衡定数を有することが確認できた。

【0037】
以上の結果から、Ni/Al(4)LDH、詳細には、[Ni2+0.8Al3+0.2(OH)][An-0.2/n・mHO]は、Iに対して、極めて高い選択性を有する捕集材であることが確認できた。なお、Iと交換される陰イオンAn-はここで示したClのほか、無機又は有機アニオンのなかから適宜選択できる。これは、LDHは、NiとAlの構成比に応じて層の間隔が決定され、層間隔に従って定性的な陰イオンの捕集性が決定されるためである。すなわち、Ni/Al(4)LDHは、An-に依存せず定性的にIの選択性が高い層状複水酸化物物質であり、An-はLDHの安定性に影響がなければ特に限定されず、適宜選択可能である。

【0038】
(5)Ni/Al(4)LDHの放射能遮蔽効果
以上の実験により、驚くべきことに、Ni/Al(4)LDHは、Iの選択的捕集性が極めて良好であることが確認できた。これを利用して、放射性ヨウ素、特に、半減期の長い129Iの捕集について検討した。

【0039】
Ni/Al(4)LDHはIの捕集性に優れるが、捕集後にNi/Al(4)LDH自体が放射性物質となる。そこで、Ni/Al(4)自体の放射能遮蔽効果を検討した。実験系を図6に示す。ここでは、線源として60Coを用いた。また、試料は厚み2mmの一軸圧体を用いた。

【0040】
遮蔽率Zは、
Z=(1-X/X)×100 (Xは透過光強度、Xは入射光強度である)
また、透過光強度Xは、X=Xexp(-μx) (μ:線源弱係数)として表される。
各LDHに対する遮蔽率を図7に示す。

【0041】
図左に示したように、LDHの構成金属によらず60Co線源から放出されるγ線に対して、約2%の遮蔽率を有することが確認できる。この遮蔽率は、
http://physics.nist.gov/PhysRefData/XrayMassCoef/tab3.html
に与えられている質量減弱係数の値を用い、試料ペレット中の各元素の密度を考慮して、理論的に計算した値(図7右)とよく一致する。

【0042】
この結果と、試料ペレット中の各元素の密度に基づき、上記データベース中の129Iから放出されるγ線(0.04MeV)に対する遮蔽率を算出した。結果を図8に示す。

【0043】
図示したように、Ni/Alの比が大きくなると129Iから放出されるγ線(0.04MeV)の遮蔽率が高くなっていき、驚くべきことにNi/Al(4)LDHは50%という高い遮蔽能を有することが分かった。したがって、Ni/Al(4)LDHは、捕集した129Iの放射線放出量を低減でき、取扱性の高い物質であることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明によれば、陰イオン性要素を効率的に捕集することができる。また、放射性ヨウ素を捕集しつつ放射能を効果的に遮蔽することができる。したがって、核燃料の再処理工程や原子炉の廃炉時に発生する129Iほか、多くの放射性元素の吸着捕集および遮蔽を実現することができる。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
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【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
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