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明細書 :人工癌幹細胞の作製方法及びその分化誘導方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5924741号 (P5924741)
登録日 平成28年4月28日(2016.4.28)
発行日 平成28年5月25日(2016.5.25)
発明の名称または考案の名称 人工癌幹細胞の作製方法及びその分化誘導方法
国際特許分類 C12N   5/10        (2006.01)
C12N   5/095       (2010.01)
C12N   5/09        (2010.01)
G01N  33/15        (2006.01)
G01N  33/50        (2006.01)
C12Q   1/02        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
FI C12N 5/10
C12N 5/095
C12N 5/09
G01N 33/15 Z
G01N 33/50 Z
C12Q 1/02
C12N 15/00 ZNAA
請求項の数または発明の数 6
全頁数 17
出願番号 特願2013-518012 (P2013-518012)
出願日 平成24年5月24日(2012.5.24)
国際出願番号 PCT/JP2012/063302
国際公開番号 WO2012/165287
国際公開日 平成24年12月6日(2012.12.6)
優先権出願番号 2011118557
優先日 平成23年5月27日(2011.5.27)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成27年2月10日(2015.2.10)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】505155528
【氏名又は名称】公立大学法人横浜市立大学
発明者または考案者 【氏名】梁 明秀
【氏名】西 真由子
個別代理人の代理人 【識別番号】100098121、【弁理士】、【氏名又は名称】間山 世津子
【識別番号】100107870、【弁理士】、【氏名又は名称】野村 健一
審査官 【審査官】山本 匡子
参考文献・文献 国際公開第2011/049099(WO,A1)
Nagai K. et al.,Long-term culture following ES-like gene-induced reprogramming elicits an aggressive phenotype in mutated cholangiocellular carcinoma cells.,Biochem Biophys Res Commun. ,2010年 4月30日,395(2),p.258-63
MIYOSHI,N. et al, Defined factors induce reprogramming of gastrointestinal cancer cells , Proc Natl
BOUKAMP P, et al.,, Normal keratinization in a spontaneously immortalized aneuploid human keratinocyte cell line,,J Cell Biol.,1988年,Vol.106, No.3,,p.761-71
SCHURER N, et al.,,Lipid composition and synthesis of HaCaT cells, an immortalized human keratinocyte line, in comparis,Exp Dermatol.,1993年,Vol.2, No.4,,p.179-85
BELLO D, et al.,,Androgen responsive adult human prostatic epithelial cell lines immortalized by human papillomavirus,Carcinogenesis,1997年,Vol.18, No.6,,p.1215-23
Kazuaki Kudo, Koji Arimitsu, Hironori Ohmori, Hiromitsu Ito, and Kunihiro Ichimura,3-Phenyl-3,3-ethylenedioxy-1-propyl Sulfonates as Acid Amplifiers To Enhance the Photosensitivity of,Chemistry of Materials,米国,American Chemical Society,1999年 7月 7日,11,2119-2125
ACHANZAR WE, et al.,,Cadmium-induced malignant transformation of human prostate epithelial cells.,Cancer Res.,2001年,Vol.61, No.2,,p.455-8
高野哲也 他,ヒト不死化乳腺上皮細胞MCF-10AからのiPS細胞(induced pluripotent stem cells)樹立,再生医療,2009年,Vol.8,p.253, P-129
MIURA K, et al., Variation in the safety of induced pluripotent stem cell lines.Nat Biotechnol. 2009
中西真人,iPS細胞と癌幹細胞の相互理解 iPS細胞のがん化の考察,再生医療,2010年,Vol.9, No.2,p.216-221
UTIKAL,J. et al, Sox2 is dispensable for the reprogramming of melanocytes and melanoma cells into in
調査した分野 C12N 5/00-28
C12Q 1/00-70
C12N 15/00-90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
WPIDS/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)



特許請求の範囲 【請求項1】
Oct3/4、Sox-2、Klf-4及びc-Myc遺伝子を不死化上皮細胞に導入する工程、前記4遺伝子を導入した細胞が形成するコロニーの中からアルカリフォスファターゼ染色陽性の細胞を選択することにより、多能性癌幹細胞を得る工程、前記多能性癌幹細胞を浮遊系で培養して胚様体を形成する工程、さらに、前記胚様体を付着系で培養する工程を含む、癌幹細胞をin vitroで作製する方法。
【請求項2】
不死化上皮細胞に由来し、Oct3/4、Sox-2、Klf-4及びc-Myc遺伝子が導入され、癌幹細胞マーカー因子であるABCG2, CD44, CD133を発現する、癌幹細胞。
【請求項3】
請求項記載の癌幹細胞を分化させることを含む、癌細胞をin vitroで作製する方法。
【請求項4】
癌幹細胞を付着系で培養する工程を含む請求項記載の方法。
【請求項5】
請求項に記載の細胞又は請求項3若しくは4に記載の方法で作製した癌細胞を用いて、抗癌作用を有する物質をスクリーニングする方法。
【請求項6】
不死化上皮細胞が、ヒト乳腺上皮細胞MCF-10A、ヒト前立腺上皮細胞RWPE-1及びヒト皮膚ケラチノサイトHaCaTから成る群より選択される請求項記載の方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、人工癌幹細胞の作製方法及びその分化誘導方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の幹細胞生物学研究の進歩により、固形癌や血液腫瘍において癌幹細胞の存在が強く示唆されている。固形癌では、癌幹細胞の小さなサブセット(side population: SPとも言う)が存在し、この集団は腫瘍塊を維持するために、もっぱら自己複製することによって未分化能を保持した癌幹細胞を維持しながら多数の癌細胞を生み出す。癌幹細胞特異的な制御因子を標的にすれば、効率的に腫瘍から癌幹細胞を枯渇させるかもしれない。そのような治療薬が開発できれば、癌を根治することができる。しかしながら、そのような決定的な制御因子を同定することは、癌患者の腫瘍由来の癌幹細胞を集めてきても、また、癌細胞株の一部を集めてきても、その分画は不均一であるため、癌幹細胞特異的な因子の同定や阻害剤の探索を行うことができない。そのため、100%純粋な癌幹細胞を作り出すことができれば、上記の研究が大いに促進すると考えられる。
【0003】
癌幹細胞の定義は、(1)自己複製、(2)多分化能そして(3)免疫不全マウスに移植すると元の癌と同じ表現型の癌が形成されることである。「癌幹細胞」という言葉は、自己複製能(悪性腫瘍と表現型として多様な腫瘍細胞集団に分裂する)をもった癌細胞として便宜上定義される。多くの腫瘍は、体内で増殖し、腫瘍形成能をもつ癌幹細胞に形質転換した単細胞に由来する。しかし、癌幹細胞の起源については未だにわかっていない。
【0004】
癌幹細胞は、各種の細胞表面マーカーの発現をもとに同定され、腫瘍塊や癌細胞株からセルソーターを用いて回収することができる。しかしこの方法で集められた癌幹細胞はヘテロの集団であり、純粋な癌幹細胞の特徴を備えた細胞はごく一部であり、厳密な意味において癌幹細胞とは言えない。
【0005】
固形癌の中に特異的亜集団(SP)があり、癌幹細胞の機能的な性質を獲得している。それは自己複製や分化を起こすことによって腫瘍全体を形成する能力を有する。固形癌の細胞集団の中である特定の細胞表面マーカーを有する細胞が癌幹細胞の形質を有することが知られている。たとえば、脳腫瘍(グリオブラストーマ)、前立腺癌、大腸癌では、これらの癌より分離したCD133+ cellsおよびCD133- cellsの免疫不全マウスへの異種移植実験により、また、in vitroにおいて自己複製能、増殖・分化能を有することから、CD133+cellsはcancer stem cells であることが示された(非特許文献1~3)。
また、乳癌においてはCD44の発現が高く、CD24の発現が低い分画(CD44(+)CD24(-/low))が癌幹細胞の性質を有することが示された(非特許文献4)。
【0006】
しかしながら、これらの細胞表面マーカーを頼った癌幹細胞の分離法は、100%癌幹細胞を分離しているとは言えず、また、分離した細胞の維持や増幅が極めて困難である。そのため、人工的に癌幹細胞を作り出すことが考えられた。
【0007】
Miyoshiらは最近、種々の胃腸管系の癌細胞(癌細胞株)においてリプログラミング因子を発現させることによって癌幹細胞の誘導に成功したことを報告している(非特許文献5)。
【0008】
しかし、これらの癌細胞はすでに形質転換(悪性化、癌化)しており多くの遺伝子変異や染色体異常を獲得している。そのため均一な細胞集団を構成しておらず、薬剤スクリーニングやバイオマーカー探索に適していないと考えられる。したがって、それらの細胞を純粋な癌幹細胞と定義するのは難しい。
【0009】
一方、山中らはヒト線維芽細胞にSOX2, OCT4, Klf4, c-Mycの4つの遺伝子をレトロウイルスベクターを用いて導入することで、胚性幹細胞(Embryonic stem cells: ES細胞)に類似した人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cell, iPS cell)を誘導できることを示した(非特許文献6)。
【0010】
しかしながら、これらの4つの遺伝子をヒト不死化細胞に導入した例はなく、これらの4つの遺伝子の導入が、細胞の初期化のみならず、癌化も同時に引き起こすことで、ヒト癌幹細胞が形成されることを示した報告は無い。
【先行技術文献】
【0011】

【非特許文献1】CD133+ and CD133- Glioblastoma-Derived Cancer Stem Cells Show Differential Growth Characteristics and Molecular Profiles. Dagmar Beier, et al. Cancer Res 2007 67 (9): 4010-4015 (脳腫瘍の癌幹細胞の発見)
【非特許文献2】Identification of Putative Stem Cell Markers, CD133 and CXCR4, in hTERT-Immortalized Primary Nonmalignant and Malignant Tumor-Derived Human Prostate Epithelial Cell Lines and in Prostate Cancer Specimens. Jun Miki, et al. Cancer Res 2007 67: (7) 3153-3161(前立腺癌の癌幹細胞の発見)
【非特許文献3】Identification and expansion of human colon-cancer-initiating cells. Lucia Ricci-Vitiani, et al. Nature 2007 4 January Vol.445, 111-115 (大腸癌の癌幹細胞の発見)
【非特許文献4】Prospective identification of tumorigenic breast cancer cells.Al-Hajj M, Wicha SM, Benito-Hernandez A, Morrison SJ, Clarke MF.Proc Natl Acad Sci USA. 2003;100:3983-3988.(乳癌の癌幹細胞の発見)
【非特許文献5】Defined factors induce reprogramming of gastrointestinal cancer cells. Miyoshi N, Ishii H, Nagai K, Hoshino H, Mimori K, Tanaka F, Nagano H, Sekimoto M, Doki Y, Mori M. Proc Natl Acad Sci U S A. 2010 Jan 5;107(1):40-5. Epub 2009 Dec 14.
【非特許文献6】Induction of pluripotent stem cells from adult human fibroblasts by defined factors. Takahashi K, Tanabe K, Ohnuki M, Narita M, Ichisaka T, Tomoda K, Yamanaka S.Cell. 2007 Nov 30;131(5):861-72.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、癌幹細胞及びその作製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
癌幹細胞は、腫瘍内に存在する小さな細胞集団で、腫瘍の増殖や再発に影響を与える。In vitroにおける癌幹細胞システムを構築すれば、癌幹細胞の性質を解明したり、新たな癌幹細胞治療を発展することができるようになる。本発明者らは今回の研究で、リコンビナントのレトロウイルスまたはセンダイウイルスベクターを介してOct3/4, Sox2, Klf4, c-Mycの4種類のリプログラミング因子を導入することによって、ヒト不死化細胞(ヒト乳腺上皮細胞MCF-10A, ヒト前立腺上皮細胞RWPE-1, ヒト皮膚ケラチノサイトHaCaT)から誘導型癌幹細胞(induced cancer stem cells:iCSCまたはCSC)を樹立した。iCSCは、ES細胞やiPS細胞と形態的に類似しており、フィーダー細胞(マウス胎児線維芽細胞)上でニッチを形成しコロニーを形成することで、自己複製および未分化能を維持できる。iCSCは免疫不全マウスモデルに移植すると腫瘍を形成する能力がある。In vitroにおいて胚様体を介した分化を行うと、CD44+/CD24lowを示す癌幹細胞が出現する。そしてこれらの細胞をさらに分化させると上皮マーカーであるサイトケラチン7やサイトケラチン8/18を発現する上皮癌細胞になる。これらの細胞はソフトアガーコロニーフォーメーションアッセイやマトリゲル浸潤アッセイなどの形質転換アッセイにおいて悪性化形質を示す。本発明者らが構築した癌幹細胞モデルを用いて、将来的に癌幹細胞を標的とした新しい診断法や治療法が発展する可能性がある。本発明はこれらの知見により、完成されたものである。本発明の要旨は以下の通りである。
【0014】
(1)Oct3/4、Sox-2、Klf-4及びc-Myc遺伝子を不死化上皮細胞に導入することを含む、多能性癌幹細胞の作製方法。
(2)(1)記載の方法で作製した多能性癌幹細胞。
(3)(2)記載の多能性癌幹細胞を分化させることを含む、癌幹細胞の作製方法。
(4)(3)記載の方法で作製した癌幹細胞。
(5)(4)記載の癌幹細胞を分化させることを含む、癌細胞の作製方法。
(6)(5)記載の方法で作製した癌細胞。
(7)(2)、(4)又は(6)記載の細胞を用いて、抗癌作用を有する物質をスクリーニングする方法。
【0015】
本癌幹細胞モデルは、本発明者らが世界に先駆けて開発した誘導型癌幹細胞モデルであり、未分化癌幹細胞から分化癌細胞に至る様々な分化段階の“癌細胞”を作り出すことができる。従来の患者検体から採取された癌幹細胞は、未分化性を維持したままで複製することが困難な上に、そのin vitroにおける分化の効率がきわめて低いことが問題となっている。本癌幹細胞モデルシステムを用いることで、高い効率で安定的な癌幹細胞の維持・複製が可能である。また、未分化状態を維持したまま、幹細胞を安定かつ容易に大量培養することが可能となるため、癌幹細胞を標的とする薬剤スクリーニングやバイオマーカーの探索にも大いに役立つと考えられる。
【0016】
本発明者らが独自に開発した人工癌幹細胞は、従来の癌細胞株から分離される異種細胞集団からなる癌幹細胞株とは異なり、不死化細胞から人工的に作り出されたものである。そのため、遺伝子変異の蓄積や染色体の異常が最小限であり、ほぼ100%純粋かつ安定的な均一癌幹細胞集団を得ることができる。この細胞を用いることで、未知の癌幹細胞マーカーの探索や、癌幹細胞を特異的に死滅させる化合物のスクリーニング等が実施可能である。それにより、癌幹細胞を標的とした新たな分子標的療法の開発に結びつくと考えられる。また、本癌幹細胞モデルは創薬の効率を高める重要なツールとして活用することができる。
【0017】
癌細胞のリプログラミングにより癌幹細胞を誘導する方法(非特許文献5)と本発明とを比較すると、以下のことが言える。
1)非特許文献5は既にトランスフォーム(悪性化)している癌細胞のリプログラミングを行っている。本研究は腫瘍形成能を持たない正常に近いヒト不死化上皮細胞から癌幹細胞を作製出来る点が新規であり、今までの事実からは想定できない。
2)癌細胞株には少量であるが腫瘍形成能(tumor initiating ability)を持った癌幹細胞が存在する。癌細胞に山中4因子を入れて癌細胞を作製する方法は、単にそのような癌幹細胞を増やした可能性がある。
3) 癌細胞は染色体不安定性が増大しているため、多数の遺伝子変異や染色体異常の蓄積が存在している。そのため、個々の癌細胞の遺伝子に大きなバラツキがある。そのような細胞集団から癌幹細胞を取得した際、再現性を持って同じ形質を有する癌幹細胞を分離することは困難である。そのため、癌細胞株から作製した癌幹細胞を薬剤スクリーニングなどへ利用するのは理論上困難である。
4) 非特許文献5は、癌細胞株に山中4因子を入れることでES/iPSマーカーを発現する癌幹細胞が作製できるとしているが、生体内における癌幹細胞はES細胞やiPS細胞などの多能性幹細胞とは分化レベルが異なっている。そのため、実際の癌幹細胞と同等な性質を有する細胞を取得するためには、ES/iPSマーカーの発現する細胞をある程度分化をさせる必要がある。しかし、非特許文献5にはそのような記載はどこにもない。本発明は、ES/iPSレベルの細胞を通常癌幹細胞レベルまで分化誘導させる方法も提供する。
【発明の効果】
【0018】
ヒトの癌組織から癌幹細胞を分離することは、その希少性や採取の煩雑性、さらには倫理的問題等多くの困難をともなう。本発明者らの樹立した細胞を用いることで、各分化段階の癌幹細胞を必要なだけ適宜調整することが可能であり、癌幹細胞およびニッチを標的とした新たな創薬を推進することが可能となる。また、新たな癌幹細胞マーカーの同定や癌幹細胞の抗癌剤抵抗性の分子機構の解析などに利用できる。
本明細書は、本願の優先権の基礎である日本国特許出願、特願2011‐118557の明細書および/または図面に記載される内容を包含する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】ヒト不死化乳腺上皮細胞を用いた誘導型癌幹細胞の作製。a、MCF-10Aにリプログラミング4因子を発現させることによる未分化細胞樹立のストラテジー。b、アルカリフォスファターゼ染色陽性のコロニーをピックアップした。c、樹立したCSC10Aのうち4クローンについて未分化マーカーで免疫染色を行った。d、CSC10Aのうち4クローンとMCF-10Aおよび4F-iPSについて未分化マーカーの発現をRT-PCRで確認した。e、CSC10Aのうち4クローンとMCF-10Aおよび4F-iPSについて未分化マーカーまたは分化マーカーの発現をウエスタンブロットにて確認した。
【図2】CSC10AとCSC10Aを分化誘導させたCSC10A-D9の樹立。a、CSC10AまたはMCF-10Aを等量のマトリゲルと混ぜ、SCIDマウスの皮下に注入した。b、c、d、e、 9週間後にできた腫瘍の大きさをグラフに示した(b)。腫瘍の断面図(c)。腫瘍をHE染色した(d、e)。f、 CSC10Aを分化誘導の過程で未分化マーカー(Oct4)、癌幹細胞マーカー(CD44、CD133、ABCG2)、分化上皮系マーカー(CK7、CK8/18)を用いて免疫染色した。g、CSC10AおよびMCF7について、フローサイトメーターを用いてCD44、CD24抗体で染色される細胞を分画した。
【図3】誘導癌幹細胞の悪性化形質の検討。a、CSC10A-D9およびMCF-10Aについてフォーカスフォーメーションアッセイを行った。b、CSC10A-D9およびMCF-10Aについて浸潤アッセイを行った。c、CSC10A-D9およびMCF-10Aについてコロニーフォーメーションアッセイを行った。
【図4】不死化ヒト前立腺上皮細胞および不死化ヒト皮膚ケラチノサイトからの癌幹細胞の誘導。a、不死化ヒト乳腺上皮細胞と同様の方法を用いてリプログラミング4因子を発現させ、不死化ヒト皮膚ケラチノサイトHaCaTから癌幹細胞を樹立した。樹立したコロニーを未分化マーカーで免疫染色した。b、不死化ヒト乳腺上皮細胞と同様の方法を用いてリプログラミング4因子を発現させ、不死化ヒト前立腺上皮細胞RWPE-1から癌幹細胞を樹立した。樹立したコロニーを未分化マーカーで免疫染色した。
【図5】模式図。本発明の概要。ヒト不死化上皮細胞にOct3/4,Sox2,Klf4, c-Mycの4つのリプログラミング因子を導入することで、癌幹細胞を誘導することができる。また、Pin1を追加導入することで癌幹細胞の形成を促進することができる。誘導した多能性癌幹細胞は、CD44+, CD133+, ABCG2+のいわゆる癌幹細胞に分化誘導することができ、それをさらに分化させることで、分化上皮細胞マーカーのサイトケラチン(CK)7+, CK8/18+の癌細胞に作製することができる。
【図6】CSC10Aを分化誘導させたCSC10A-D9に10μMのsalinomycinまたはDMSOを処理し、4日後に細胞の形態を位相差顕微鏡で観察した(図6a上)。salinomycin処理により、細胞が上皮様に分化し、各々の細胞のサイズが大きくなった。また、これらの細胞を未分化マーカーであるアルカリフォスファターゼ(ALP)で染色したところ、salinomycin処理によりALP陽性細胞が顕著に減少した(図6下)。次にこれらの細胞を溶解し、ウエスタンブロット法を行ったところ、salinomycin処理により幹細胞(間葉系)マーカーであるVimentinの発現が低下し、分化(上皮系)マーカーであるbeta-cateninの発現の増加が見られた(図6b)。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を詳細に説明する。

【0021】
本発明は、Oct3/4、Sox-2、Klf-4及びc-Myc遺伝子を不死化上皮細胞に導入することを含む、多能性癌幹細胞の作製方法を提供する。

【0022】
本発明の方法において、Oct3/4、Sox-2、Klf-4及びc-Myc遺伝子を導入する不死化上皮細胞は、不死化しているが、癌化していない上皮細胞であればよく、例えば、ヒト乳腺上皮細胞MCF-10A(ATCC Number : 10ACRL-10317TM, Designations: MCF), ヒト前立腺上皮細胞RWPE-1(ATCCから購入。番号CRL-11609), ヒト皮膚ケラチノサイトHaCaT(Boukamp P, Petrussevska RT, Breitkreutz D, Hornung J, Markham A, Fusenig NE (1988) Normal keratinization in a spontaneously immortalized aneuploid human kerati-nocyte cell line. J Cell Biol 106:761-771)などを挙げることができる。また、不死化上皮細胞は、初代培養細胞、継代細胞、株化細胞のいずれであってもよい。

【0023】
Oct3/4、Sox-2、Klf-4及びc-Myc遺伝子(初期化因子)を不死化上皮細胞に導入し、多能性癌幹細胞を作製するには、体細胞への転写因子(Oct3/4、Sox2、Klf-4、c-Myc)の形質導入による再プログラミング化の方法(Cell, 126, pp.663-676, 2006; Cell, 131, pp.861-872, 2007; Science, 318, pp.1917-1920, 2007; Nature, 451, pp.141-147, 2008; 「ヒトiPS細胞の樹立方法」Ver. 1 京都大学 物質-細胞統合システム拠点iPS細胞研究センター、CiRA M& M 2008年7月4日)を用いるとよいが、この方法に限定されるわけではない。あるいは、ダイレクトリプログラミングの方法を用いてもよい(Nat. Cell Biol. 2011 Mar;13(3):215-22; Cell 142, 375-386 (2010); NATURE 463, 1035-1041 (2010); PNAS 108(19), 7838-7843 (2011))。

【0024】
本発明の方法においては、体細胞の再プログラミング化に必要な因子(初期化因子)に加えペプチジルプロリルイソメラーゼPin1を共発現させてもよい。すなわち、体細胞の再プログラミング化に必要な因子の形質導入と同時又はその前後にPin1を不死化上皮細胞に形質導入してもよい。あるいはまた、体細胞の再プログラミング化に必要な因子の形質導入と同時又はその前後にPin1タンパク質を不死化上皮細胞に導入してもよい。Pin1を追加導入することで癌幹細胞の形成を促進することができる。

【0025】
ペプチジルプロリルイソメラーゼPin1はリン酸化されたSer/Thr-Pro というモチーフに結合し、そのペプチド結合を介してタンパク質の構造をシス・トランスに異性化させることにより、リン酸化タンパク質の機能を調節する新しいタイプのレギュレータである。この 新規の"リン酸化後"調節機構は標的タンパク質の活性、タンパク質-タンパク質結合、細胞内局在、さらには安定性等を変化させ、リン酸化タンパク質の機能発現に重要な役割を果たすことが知られている。また、Pin1がリン酸化タンパク質に結合して構造が変化することで、ユビキチン化やSUMO化などの、他の翻訳後修飾のスイッチのON/OFFが調節されている。Pin1は癌、免疫疾患および神経変性疾患等の難治性疾患の病態形成に極めて重要な役割を果たすことが明らかになっている。Pin1の標的となるリン酸化タンパク質は多岐に渡り、細胞や組織の違いによって異なる。また、同一細胞/組織であっても、正常時と疾患時では、基質のリン酸化状態が異なることで、そのレパートリーが大きく変わる。本発明者らは、Pin1が多能性幹細胞においてOct4を基質とすることで、幹細胞の自己複製や多能性維持を制御することを見いだしている。

【0026】
体細胞の再プログラミング化に必要な因子に加えPin1を共発現させるには、例えば、体細胞の再プログラミング化に必要な因子をコードするDNAを発現できるベクターに該DNAを組み込んで不死化上皮細胞に導入し、それと同時またはその前後に、Pin1をコードするDNAを発現できるベクターに該DNAを組み込んだものを前記不死化上皮細胞に導入するとよい。体細胞の再プログラミング化に必要な因子をコードするDNAのすべてを一つのベクターに組み込んで不死化上皮細胞に導入してもよいし、体細胞の再プログラミング化に必要な因子の各々をコードするDNAを別のベクターに組み込んで不死化上皮細胞に導入してもよい。また、Pin1をコードするDNAは、体細胞の再プログラミング化に必要な因子をコードするDNAを組み込んだベクターに組み込んで不死化上皮細胞に導入してもよいし、体細胞の再プログラミング化に必要な因子をコードするDNAを組み込んだベクターとは別のベクターに組み込んで不死化上皮細胞に導入してもよい。体細胞の再プログラミング化に必要な因子をコードするDNAを発現できるベクター及びPin1をコードするDNAを発現できるベクターとしては、ウイルスベクター、プラスミド、人工染色体などを挙げることができるが、ウイルスベクター(例えば、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、センダイウイルスベクターなど)が好ましく、レトロウイルスベクターがより好ましい。レトロウイルスベクターとしては、pMXsレトロウイルスベクター、pBabeレトロウイルスベクター、pRetroレトロウイルスベクターなどを使用することができる。ベクターには、プロモーター、エンハンサー、転写ターミネーター、開始コドン、スプライシングシグナル、ポリアデニル化部位、ストップコドンなどの遺伝子発現調節配列、クローニング部位、薬剤耐性遺伝子、レポーター遺伝子などの要素が含まれていてもよい。

【0027】
Pin1のDNA配列及びアミノ酸配列情報は、データベースGenBankのアセッション番号 ヒトPin1 NM006221、マウスPin1 NM023371、ラットPin1 NM00110670から得られる。ヒトのPin1のDNA配列及びアミノ酸配列を配列番号1及び2に示す。Pin1は、本発明の目的を達成するものであれば、天然型又は変異体のいずれであってもよい。

【0028】
体細胞の再プログラミング化に必要な因子やPin1を不死化上皮細胞に形質導入するには、マイクロインジェクション法、リポソーム、リポフェクション、エレクトロポレーション、リン酸カルシウム法、ウイルス感染などの公知の手法を用いることができる。体細胞の再プログラミング化に必要な因子やPin1を不死化上皮細胞に形質導入した後、その細胞を回収し、フィーダー細胞上に再播種して、培養するとよい。フィーダー細胞としては、マウス線維芽細胞、SNL76/7、ヒト間葉系細胞などを用いることができる。

【0029】
げっ歯類以外の不死化上皮細胞(例えば、ヒト不死化上皮細胞)を用いる場合には、遺伝子の導入効率と実験者の安全性を高めるために、げっ歯類のみに感染するエコトロピック受容体をコードするレンチウイルスを使って、げっ歯類のみに感染するエコトロピック受容体を標的細胞(例えば、ヒト不死化上皮細胞)に導入しておき、エコトロピックレトロウイルスを使って、体細胞の再プログラミング化に必要な因子やPin1を導入するとよい。また、レトロウイルスベクターをPLAT-E細胞(エコトロピックウイルス由来のエンベロープ糖タンパク質(env)を発現するように設計されている)などのパッケージング細胞にトランスフェクションすることにより、標的細胞への感染効率を高めることができる。

【0030】
体細胞の再プログラミング化に必要な因子の形質導入と同時又はその前後にPin1タンパク質を不死化上皮細胞に導入するには、細胞膜透過性シグナルを付加する方法、リポフェクション試薬を用いる方法、エレクトロポレーション法、Pin1タンパク質の直接導入、Pin1タンパク質の活性化、Pin1の発現誘導などを利用するとよい。Pin1タンパク質を活性化するには、不死化上皮細胞をProtein kinase C阻害剤またはProtein kinase A阻害剤を処理すればよい。Protein kinase C阻害剤としては、Calphostin C, Polymixin B、Rottlerin、Y-27632、PD 173074、GF 109203Xなどを例示することができる。Protein kinase A阻害剤としては、Staurosporine、 SP600125、 Apigenin、 LY 294002、 KT 5823、 KT5720などを例示することができる。Pin1の発現を誘導するには、細胞増殖因子を投与すればよい。細胞増殖因子としては、epidermal growth factor、fibroblast growth factor、vascular endothelial growth factorなどを例示することができる。あるいはまた、転写因子E2Fを発現させることで、Pin1の発現を誘導することも可能である。

【0031】
上記のようにして誘導した多能性癌幹細胞(以下、「誘導型多能性癌幹細胞」と記すこともある。)は免疫不全マウスモデルに移植すると腫瘍を形成する能力がある。In vitroにおいて胚様体を介した分化を行うと、CD44+/CD24lowを示す癌幹細胞が出現しうる。そしてこれらの細胞をさらに分化させると上皮マーカーであるサイトケラチン7やサイトケラチン8/18を発現する上皮癌細胞になりうる。これらの細胞はソフトアガーコロニーフォーメーションアッセイやマトリゲル浸潤アッセイなどの形質転換アッセイにおいて悪性化形質を示しうる。従って、本発明は、上記の方法で作製した多能性癌幹細胞も提供する。

【0032】
本発明の多能性癌幹細胞は、多能性幹細胞マーカー(例えば、TAR-1-60、Nanogなど)を発現しうる。また、幹細胞マーカー(例えば、OCT4、Nanogなど)も発現しうる。

【0033】
多能性癌幹細胞を培養、継代及び凍結するには、ES細胞に用いられる方法を適用すればよい。

【0034】
また、本発明は、前記の多能性癌幹細胞を分化させることを含む、癌幹細胞の作製方法及びこの方法で作製された癌幹細胞(以下、「誘導型癌幹細胞」と記すこともある。)を提供する。本発明の癌幹細胞は、上皮系の癌幹細胞マーカー(例えば、CD44, CD133, ABCG2など)を発現しうる。

【0035】
さらに、本発明は、前記の癌幹細胞を分化させることを含む、癌細胞の作製方法及びこの方法で作製された癌細胞も提供する。本発明の癌細胞は、上皮系分化マーカー(例えば、CK7, CK8/18など)を発現しうる。

【0036】
後述の実施例に記載した実験では、以下のことが明らかとなった。誘導型多能性癌幹細胞(iCSCまたはiCSC)を浮遊培養系で7日間培養すると胚様体(embryoid body)を形成する。この段階で、誘導型多能性癌幹細胞が誘導型癌幹細胞レベルまで分化していると考える。この胚様体を付着系で2日間培養すると、細胞がディッシュの底に付着して単層に広がっていく。これがEarly differentiationの状態である(図2f )。さらに7日から9日培養するとLate differentiation(図2f)になる。Early differentiationの状況ではほぼ全ての細胞が癌幹細胞であり、CD44などの癌幹細胞マーカーを発現する(この時点ではCK7やCK8/18陽性細胞はない)。Late differentiationのstepでは一部の細胞が分化をしてCK7やCK8/18陽性の癌細胞のフォーカスが散見される(CK7やCK8/18は分化した癌細胞(上皮細胞)のマーカーである。)。ただし、Late differentiationにおいても、癌幹細胞が全体の95%以上で残っている(分化した癌幹細胞は5%以下)。Late differentiationの状態(付着系)から再び浮遊系に戻すと、再度胚葉体を形成し、誘導型癌幹細胞のみが増殖する。それをまた付着系に戻すとEarly differentiationの状態に戻す事ができる。この方法を用いると、常にフレッシュな癌幹細胞を得ることができる。誘導型癌幹細胞は、増殖スピードが早いので、10倍希釈で、3日おきに継代培養するとよい。ここに示された操作又はそれを改変した操作により、癌幹細胞及び癌細胞を作製することができる。

【0037】
また、salinomycinを投与すると、癌幹細胞のみを殺して、癌細胞だけが残るという報告がある(Gupta PB, Onder TT, Jiang G, Tao K, Kuperwasser C, Weinberg RA, Lander ES. Identification of selective inhibitors of cancer stem cells by high-throughput screening. Cell. 2009 Aug 21;138(4):645-59. Epub 2009 Aug 13. PubMed PMID: 19682730.)。本論文ではフローサイトメータによる解析で、(CD44high/CD24low)の細胞は癌幹細胞、(CD44low/CD24high) の細胞は癌細胞とそれぞれ定義している。本論文の図4aの右側にフローサイトメータのブロットがあり、癌幹細胞と癌細胞が混在する集団にsalinomycinを添加すると、(CD44low/CD24high)の癌細胞だけが残っているのが分かる。逆に、抗癌剤のTaxol(Tax)を処理すると(CD44high/CD24low)の癌幹細胞のみが残る。これはsalinomycinは癌幹細胞のみの増殖を抑制するのに対し、Taxolは癌細胞のみの増殖を抑制する(すなわち、Taxolは癌幹細胞には効かない、抵抗性である)ことを示している。本発明の細胞では、癌幹細胞と癌細胞が混在するlate differentiationの状況においてsalinomycinを処理すると、上記と同様にすでに存在する癌細胞だけが増えてくるということが期待できる。また、逆に、Taxol(Tax)を処理すると、癌幹細胞のみが残り、増殖することが期待できる。後述の実施例では、誘導型癌幹細胞(CSC10A)をsalinomycin処理したところ、未分化マーカーであるアルカリフォスファターゼや幹細胞(間葉系)マーカーであるVimentinの発現が低下し、分化(上皮系)マーカーであるbeta-cateninの発現の増加が見られた。

【0038】
さらに、本発明は、上記の多能性癌幹細胞、癌幹細胞又は癌細胞を用いて、抗癌作用を有する物質をスクリーニングする方法を提供する。

【0039】
本発明のスクリーニング方法では、例えば、多能性癌幹細胞、癌幹細胞又は癌細胞を被検物質の存在下又は不存在下で培養し、細胞生存率を測定する。被検物質の不存在下で培養した細胞と比較して、被検物質の存在下で培養した細胞の生存率が低下していれば、被検物質は抗癌作用を有すると判定することができる。

【0040】
被験物質は、いかなる物質であってもよく、例えば、タンパク質、ペプチド、多糖、オリゴ糖、単糖、脂質、低分子化合物、核酸(DNA、RNA、オリゴヌクレオチド、モノヌクレオチド等)などを挙げることができる。これらの物質は、天然物であっても、化学的又は生化学的に合成された物であってもよく、また、遺伝子工学的に生産された物であってもよい。
【実施例】
【0041】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0042】
〔実施例1〕
<結果>
ヒト不死化細胞を用いた誘導型癌幹細胞の作製
作製法の概要および時間経過を図1aに示した。ヒト不死化乳腺上皮細胞株MCF-10A細胞(Pauley RJ, Jones RF, Brooks SC. Isolation and characterization of a spontaneously immortalized human breast epithelial cell line, MCF-10.; Soule HD, Maloney TM, Wolman SR, Peterson WD Jr, Brenz R, McGrath CM, Russo J, ; Cancer Res. 1990 Sep 15;50(18):6075-86. (MCF-10A細胞の樹立))に、Sox2, Oct3/4, Klf4, c-Mycの4つの遺伝子をレトロウイルスベクターを用いて導入後、6日間MEGM培地で培養し、その後細胞をトリプシン・EDTAで剥離し、フィーダー細胞(マウス線維芽細胞)上に播種した。次の日にヒトES培地に交換し、2日おきに培地を交換しながら培養を継続した。21日後にアルカリフォスファターゼ染色を行い、濃紅色のES細胞様コロニーを1つずつ毛細管を用いて回収した(図1b)。これらの細胞群を細胞クローンとして24ウェルプレートで培養を継続した。
【実施例】
【0043】
それらのうち代表的な4クローンについて、多能性幹細胞マーカーである、TAR-1-60, Nanogを免疫染色したところ、4つのクローンとも発現が認められた(図1c)。
【実施例】
【0044】
また、RT-PCR法(図1d)およびウエスタンブロット法(図1e)を用いた解析においても、これらのクローンは複数の幹細胞マーカーを発現していた 。
【実施例】
【0045】
これらの細胞をSCIDマウスの皮下にマトリゲルとともに注入した。その結果、癌幹細胞を移入したマウスにおいて腫瘍を形成した (図2a, b, c)。組織学的解析により、これらの腫瘍は未分化な小型な細胞から形成されており、テラトーマの形成は認められなかった (図2d, e)。これらの結果は作製された細胞株がiPS細胞と形態的には類似しているものの、性質的にはiPS細胞と異なることを示している。
【実施例】
【0046】
次にこれらの細胞を表面コートされていないプレートで培養し、球状体(スフェア)として培養を行った後、付着系プレートを用いて細胞を付着させたところ、紡錘形の間葉系様細胞がプレート上に増殖した(図2f)。これらの細胞群について、従来の癌幹細胞マーカーであるCD44,CD133,ABCG2の発現を免疫染色法を用いて確認したところ、すべてのクローンにおいてその発現が認められた(図2f)。また、フローサイトメーターを用いて細胞膜上のマーカー分子を測定した結果、これらの細胞は従来の上皮系癌幹細胞と同様に、CD44+/CD24low分画に認められた(図2g)。次に、これらの細胞をさらに長期間培養を行うと、わずかな細胞群が自発的に分化を行い、分化上皮系マーカーであるCK7やCK8/18 を発現するコロニーが形成された(図2f)。これらの結果は、本細胞株が分化誘導の結果、いわゆる癌幹細胞レベルから分化した癌細胞までの様々な分化段階の細胞を生み出すことができることを示している。
【実施例】
【0047】
誘導癌幹細胞の悪性化形質の検討
次にこれらの細胞が癌細胞としての形質を有するかどうかについて検討を行った。誘導癌幹細胞とMCF-10A細胞を500個/10cmディッシュで10日間培養を行った結果、癌幹細胞(CSC10A)のみが細胞塊(フォーカス)を多数形成した(図3a)。次に、マトリゲルコートトランスウェルを用いた転移浸潤アッセイを行った結果、癌幹細胞のみがマトリゲルを壊して浸潤する像が認められた(図3b)。また、細胞をソフトアガー内において培養を行った結果、癌幹細胞のみが複数のコロニーを形成した (図3c)。以上の結果より、作成された癌幹細胞は悪性形質(癌化)を獲得していることが示された。(癌細胞としての性質を有している。)
不死化ヒト前立腺上皮細胞および不死化ヒト皮膚ケラチノサイトからの癌幹細胞の誘導
また本手法を用いて、前立腺上皮細胞RWPE-1(Bello D, Webber MM, Kleinman HK, Wartinger DD, Rhim JS. Androgen responsive adult human prostatic epithelial cell lines immortalized by human papillomavirus 18. Carcinogenesis. 1997 Jun;18(6):1215-23. (RWPE-1細胞の樹立))と皮膚ケラチノサイトHaCaT(Boukamp P, Dzarlieva-Petrusevska RT, Breitkreuz D, Hornung J, Markham A, Fusenig NE. Normal keratinization in a spontaneously immortalized aneuploid human keratinocyte cell line. J. Cell Biol. 106: 761-771, 1988. (HaCaT細胞の樹立))を用いて同様の手法にて癌幹細胞の誘導を行った。その結果、MCF-10A細胞と同様に免疫染色において各種の多能性幹細胞マーカーを発現するコロニーを複数得ることができた(図4a,b)。これらの細胞は上記のMCF-10A由来の癌幹細胞と同様の性質を有することが確認された。すなわち、本手法を用いることで、ヒト不死化細胞から同様に、ヒト癌幹細胞を構築することができる(まとめ図、図5)。
【実施例】
【0048】
CSC10Aの分化誘導(Salinomycin添加による効果)
Salinomycin処理により、CSC10Aが分化し、細胞のサイズが大きくなり(図6a上)、未分化マーカーであるアルカリフォスファターゼの染色性が低下した(図6a下)。また、Salinomycin(SMC)処理CSC10A細胞では、幹細胞(間葉系)マーカーであるVimentinの発現が低下し、分化(上皮系)マーカーであるbeta-cateninの発現の増加が見られた(図6b)。
【実施例】
【0049】
<実験手順>
細胞培養
iPS細胞は理研バイオ資源センターより入手した(クローン番号 201B7)。iPS細胞はヒトES細胞培養培地(KNOCKOUT Dulbecco’s modified Eagle’s medium (Invitrogen) supplemented with 20% KNOCKOUT SR (Invitrogen), 1% GlutaMAX (Invitrogen), 100 mM Non-essential amino acids (Invitrogen), 50 mM b-mercaptoethanol and 10 ng/ml basic FGF)で培養した{Takahashi, Cell, 131, 861-72, 2007}。
【実施例】
【0050】
iCSC細胞樹立
MCF-10A(ATCCから購入)を、Takahashiらにより記載された方法を用いてiPS化した。{Takahashi, Cell, 131, 861-72, 2007} まず、山中4因子がそれぞれに組み込まれているレトロウイルスベクター(pMXs-hOct3/4, pMXs-hSox2, pMXs-hKlf4, pMXs-hc-Myc (Addgene))をVSV-G遺伝子とともにEffectene transfection reagent (Qiagen社;http://www.qiagen.com/products/transfection/transfectionreagents/effectenetransfectionreagent.aspx)を用いてレトロウイルス作製細胞であるPLAT-E細胞に導入した。48時間後、ウイルスを含む細胞上清を回収し、0.45 umフィルターで濾過した後、10 μg/ml のhexadimethrine bromide (polybrene)を添加してウイルス液とした。標的細胞であるMCF-10Aを100mm ディッシュに6×105個播種し、ウイルス液を加えて37℃で16時間インキュベーションした。その後、乳腺上皮細胞用増殖培地(三光純薬株式会社;http://www.sanko-junyaku.co.jp/product/bio/catalog/nhc/hmec.html) に交換し、そのまま培養を続けた。ウイルス感染から6日目にマウス線維芽細胞(MEF; フィーダー細胞)上にまき、24時間後 ヒトES培養培地に交換した。細胞を37℃ 、 5% CO2 で 21日間培養したところ、iPS細胞様コロニーが複数出現した。
【実施例】
【0051】
癌幹細胞のピックアップ
iPS細胞様コロニーが複数出現したところで、予めフィルター滅菌しておいたアルカリフォスファターゼ染色試薬(Alkaline Phosphatase Substrate Kit(VECTOR,USA))を用いて無菌状態で染色し、濃紅色に染色されたES細胞様のコロニーを顕微鏡下で1つずつ毛細管を用いてピックアップした。ピックアップした細胞はフィーダー細胞をまいた24ウェルプレート内において培養後、細胞クローンとした。
【実施例】
【0052】
抗体
免疫染色:TRA-1-60抗体(1:200, 14-8863, eBioscience)、Nanog抗体(1:200, RCAB0003P, COSMO BIO CO.,LTD)、OCT4抗体(1:300, SC-5279, Santa Cruz)、CD44抗体(1:100, #3570, Cell Signaling)、 CD133抗体(1:50, ab16518-100, abcam)、 ABCG2抗体(1:100, #332002, BioLegend)、CK7抗体(1:100, M7018, DAKO)、CK8/18抗体 SOX2抗体(1:2000, AB5603,MILLIPORE)、Alexa Fluor 488 goat anti-mouse IgG(H+L) (1:5000, A11001, invitrogen)、Alexa Fluor568 goat anti-rabbit IgG(H+L) (1:5000, A11011, invitrogen)
ウエスタンブロット:Actin抗体(1:5000, A5316, Sigma)、Klf4抗体(1:2000, SC-20691,Santa Cruz)
FACS:CD24抗体(1:50, 555574, BC Pharmingen)、CD44抗体(1:50, 555478, BC Pharmingen)
RT-PCR
細胞から精製したRNAから逆転写酵素ReverTraAce-a (Toyobo, Japan)を用いてcDNAにした。Ex-Taq(Takara, Japan)を用いてPCRを行った。
【実施例】
【0053】
PCRプライマー
SOX2:Fw;GGGAAATGGGAGGGGTGCAAAAGAGG(配列番号3),
Rv; TTGCGTGAGTGTGGATGGGATTGGTG(配列番号4)
OCT4:Fw;GACAGGGGGAGGGGAGGAGCTAGG(配列番号5),
Rv; CTTCCCTCCAACCAGTTGCCCCAAAC(配列番号6)
Nanog:Fw;CAGCCCtGATTCTTCCACCAGTCCC(配列番号7),
Rv; tGGAAGgTTCCCAGTCGGGTTCACC(配列番号8)
DNMT3:Fw; TGCTGCTCACAGGGCCCGATACTTC(配列番号9),
Rv; TCCTTTCGAGCTCAGTGCACCACAAAAC(配列番号10)
UTF1:Fw; CCGTCGCTGAACACCGCCCTGCTG(配列番号11),
Rv; CGCGCTGCCCAGAATGAAGCCCAC(配列番号12)
GAPDH:Fw; GTGGACCTGACCTGCCGTCT(配列番号13),
Rv; GGAGGAGTGGGTGTCGCTGT(配列番号14)
核型解析
株式会社日本遺伝子研究所(http://www.ngrl.co.jp/)にて受託解析した。染色体のコピー数、転座や欠失の有無などを核型解析した。本細胞は核型解析により染色体の状況は元のMCF-10Aとほぼ一致しており、エピジェネティックの変化により誘導された癌幹細胞である可能性が高く、最小限の遺伝子変異を有した癌幹細胞モデルとして各種スクリーニングに活用できる可能性がある。
【実施例】
【0054】
免疫不全マウスを用いた腫瘍形成
細胞はアキターゼを用いて解離し、チューブに回収し遠心した。沈殿した細胞をヒトES培養培地に懸濁した。NOD-SCIDマウス(CREA, Tokyo, Japan) 皮下に 2×106 個の細胞と等量のマトリゲル (354234, BD Biosciences)を混ぜて注入した。9週間後に腫瘍を摘出した。凍結腫瘍組織をoptimum cutting temperature compound (OCT) で包埋後、凍結切片にしてヘマトキシリンおよびエオジンで染色した。
【実施例】
【0055】
In Vitro 分化誘導法
iCSC細胞をアキターゼで剥離し、single cellの状態にした後、Ultra low attachment culture plateに10000個/96 wellずつ播種した。培地は(KNOCKOUT Dulbecco’s modified Eagle’s medium (Invitrogen) supplemented with 20% FBS, 1% GlutaMAX (Invitrogen), 100 mM Non-essential amino acids (Invitrogen), 50 mM b-mercaptoethanol)を用いた。浮遊培養を始めて7日目に、EB様細胞をゼラチンコートしたdishに移し、同じ培地でさらに9日間培養を続けた後、それ以降はDMEMで培養した。
【実施例】
【0056】
FACS解析
CSC-10A細胞を0.02%EDTAを用いて剥離し、FACS buffer (3% FBS/0.1% NaN3/PBS) に懸濁した。3000回転、室温で5分遠心し、再度FACS bufferに懸濁、遠心し、細胞を洗浄した。2x105個/mlになるように細胞をFACS bufferに懸濁し、50ulずつエッペンに分注した。PE-CD24抗体およびFITC-CD44抗体を10ul加え、氷中で30分放置した。細胞にFACS bufferを1ml加え、遠心した。再度FACS bufferに懸濁、遠心し、細胞を洗浄し、100ulのFACS bufferに懸濁した。4%パラホルムアルデヒドを100ul加え、氷中で15分固定した。染色された細胞をFACS装置で測定した。
【実施例】
【0057】
フォーカスフォーメーションアッセイ
細胞をトリプシン/EDTA混合液を用いて剥離し、通常培養用の細胞増殖培地で懸濁した。10 cm dishあたり500個の細胞を播種し、10日間培養した。10日目に細胞をクリスタルバイオレット試薬において染色後、70%エタノールを用いて脱色した。その後、フォーカスの数を定量した。
【実施例】
【0058】
コロニーフォーメーションアッセイ
10%FBS入りの0.5%ソフトアガーをdishに分注し、室温で15分放置した。ソフトアガーが固まったところで、0.33%ソフトアガーと細胞1000個の混合液を重層し、10日間培養した。10日後に位相差顕微鏡を用いてコロニー数をカウントした。
【実施例】
【0059】
浸潤アッセイ
マトリゲルが1mg/mlになるように無血清DMEMで希釈し、24wellトランスウェルに100ul分注した。マトリゲルが固まるまで37℃で5時間放置した。細胞をトリプシンで剥離し、1%FBSを含むDMEMで3回洗浄した後、1×106 個/ml分を1%FBSを含むDMEMで懸濁した。無血清DMEMでトランスウェルを穏やかに洗浄した。トランスウェル上に細胞を播種し、下層のプレートには5ug/mlのフィブロネクチンを含む10%DMEMを600ul満たした。37℃で24時間インキュベートした後、PBSで洗浄し、3%ホルマリンを加えて固定した。トランスウェルをクリスタルバイオレット染色液で5分間染色した後、トランスウェル上面にある浸潤しなかった細胞を綿棒でぬぐい取った。
【実施例】
【0060】
CSC10Aの分化誘導法(Salinomycin添加)
CSC10Aを10cmディッシュに播種し、24時間後に終濃度10μMになるようにSalinomycinを添加し、37℃で培養を続けた。Salinomycinを添加して4日目の細胞をアルカリフォスファターゼで染色した。Salinomycinを添加して4日目の細胞を回収し、ウエスタンブロットにてVimentin、β-catenin、Tubulin(コントロール)の発現を確認した。
本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の癌幹細胞モデルを駆使し、癌幹細胞において特異的に発現するタンパク質やそれらの翻訳後修飾をプロテオミクスやマイクロアレイ等の手法を用いて同定し、癌幹細胞の形成や維持(自己複製能、多分化能)における機能や役割を明らかにすることができる。また、本細胞株をマウスやラット等に移植することで、癌幹細胞特異的モノクローナル抗体を作製することが可能である。これらにより、癌幹細胞の形成を阻止する因子や標的を同定できる。また、癌幹細胞の生物学的特性や正常幹細胞との類似性や相違性を明らかにすることで、癌幹細胞を標的とした新しい治療法の開発に結びつける。さらには、各分化段階の癌幹細胞を分化誘導させる因子をスクリーニングし、癌幹細胞の自己複製や多能性維持を阻害する因子を同定することで、新規の癌幹細胞治療法の開発に役立てることが可能である。
【配列表フリ-テキスト】
【0062】
<配列番号1>
配列番号1は、ヒトPin1のcDNA配列(492bp; 下線部:終止コドン)を示す。
atggcgga cgaggagaag ctgccgcccg gctgggagaagcgcatgagc cgcagctcag gccgagtgta ctacttcaac cacatcacta acgccagccagtgggagcgg cccagcggca acagcagcag tggtggcaaa aacgggcagg gggagcctgc cagggtccgc tgctcgcacc tgctggtgaa gcacagccag tcacggcggc cctcgtcctg gcggcaggag aagatcaccc ggaccaagga ggaggccctg gagctgatca acggctacat ccagaagatc aagtcgggag aggaggactt tgagtctctg gcctcacagt tcagcgactg cagctcagcc aaggccaggg gagacctggg tgccttcagc agaggtcaga tgcagaagcc atttgaagac gcctcgtttg cgctgcggac gggggagatg agcgggcccg tgttcacgga ttccggcatc cacatcatcc tccgcactga gtag
<配列番号2>
配列番号2は、ヒトPin1のアミノ酸配列(163アミノ酸)を示す。
madeeklppg wekrmsrssg rvyyfnhitn asqwerpsgn sssggkngqg eparvrcshllvkhsqsrrp sswrqekitr tkeealelin gyiqkiksge edfeslasqf sdcssakargdlgafsrgqm qkpfedasfa lrtgemsgpv ftdsgihiil rte
<配列番号3>
配列番号3は、SOX2用のPCRプライマー(Fw)の配列を示す。
GGGAAATGGGAGGGGTGCAAAAGAGG
<配列番号4>
配列番号4は、SOX2用のPCRプライマー(Rv)の配列を示す。
TTGCGTGAGTGTGGATGGGATTGGTG
<配列番号5>
配列番号5は、OCT4用のPCRプライマー(Fw)の配列を示す。
GACAGGGGGAGGGGAGGAGCTAGG
<配列番号6>
配列番号6は、OCT4用のPCRプライマー(Rv)の配列を示す。
CTTCCCTCCAACCAGTTGCCCCAAAC
<配列番号7>
配列番号7は、Nanog用のPCRプライマー(Fw)の配列を示す。
CAGCCCtGATTCTTCCACCAGTCCC
<配列番号8>
配列番号8は、Nanog用のPCRプライマー(Rv)の配列を示す。
tGGAAGgTTCCCAGTCGGGTTCACC
<配列番号9>
配列番号9は、DNMT3用のPCRプライマー(Fw)の配列を示す。
TGCTGCTCACAGGGCCCGATACTTC
<配列番号10>
配列番号10は、DNMT3用のPCRプライマー(Rv)の配列を示す。
TCCTTTCGAGCTCAGTGCACCACAAAAC
<配列番号11>
配列番号11は、UTF1用のPCRプライマー(Fw)の配列を示す。
CCGTCGCTGAACACCGCCCTGCTG
<配列番号12>
配列番号12は、UTF1用のPCRプライマー(Rv)の配列を示す。
CGCGCTGCCCAGAATGAAGCCCAC
<配列番号13>
配列番号13は、GAPDH用のPCRプライマー(Fw)の配列を示す。
GTGGACCTGACCTGCCGTCT
<配列番号14>
配列番号14は、GAPDH用のPCRプライマー(Rv)の配列を示す。
GGAGGAGTGGGTGTCGCTGT
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5