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明細書 :筋組織系及び神経系の活動量及び活動効率の評価システム及び評価方法並びにそのプログラム

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2016-063995 (P2016-063995A)
公開日 平成28年4月28日(2016.4.28)
発明の名称または考案の名称 筋組織系及び神経系の活動量及び活動効率の評価システム及び評価方法並びにそのプログラム
国際特許分類 A61B   5/0488      (2006.01)
FI A61B 5/04 330
請求項の数または発明の数 12
出願形態 OL
全頁数 17
出願番号 特願2014-194693 (P2014-194693)
出願日 平成26年9月25日(2014.9.25)
発明者または考案者 【氏名】永井 秀利
出願人 【識別番号】504174135
【氏名又は名称】国立大学法人九州工業大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100090697、【弁理士】、【氏名又は名称】中前 富士男
【識別番号】100176142、【弁理士】、【氏名又は名称】清井 洋平
【識別番号】100127155、【弁理士】、【氏名又は名称】来田 義弘
審査請求 未請求
テーマコード 4C027
4C127
Fターム 4C027AA04
4C027CC01
4C027FF01
4C027FF02
4C027GG11
4C027GG13
4C027KK03
4C127AA04
4C127CC01
4C127FF01
4C127FF02
4C127GG11
4C127GG13
4C127KK03
要約 【課題】運動中の表面筋電信号から、筋組織系及び神経系活動を量的及び質的にリアルタイムに評価することができる評価システム及び評価方法並びにそのプログラムを提供する。
【解決手段】運動中の筋の表面筋電信号を検出して、ウェーブレット解析に基づく信号処理を行って、微細な信号を含む信号特徴を抽出して、対象筋に関する筋組織系活動量、筋組織系活動効率、神経系活動量、及び神経系活動効率の各評価因子を獲得する手段Aを有する。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
運動中の筋の表面筋電信号を検出して、ウェーブレット解析に基づく信号処理を行って、微細な信号を含む信号特徴を抽出して、対象筋に関する筋組織系活動量、筋組織系活動効率、神経系活動量、及び神経系活動効率の各評価因子を獲得する手段Aを有することを特徴とする評価システム。
【請求項2】
請求項1記載の評価システムにおいて、前記評価因子の2以上に基づいて、筋の実効発揮力、疲労度、筋組織系活動、神経系活動、及び負荷量のいずれか1又は2以上の評価係数を獲得する手段Bを更に有することを特徴とする評価システム。
【請求項3】
請求項1記載の評価システムにおいて、前記評価因子の2以上に基づいて、前記対象筋の筋活動における速筋への依存度である速筋と遅筋との寄与割合を示す指標を獲得する手段Cを更に有する評価システム。
【請求項4】
請求項2記載の評価システムにおいて、前記神経系活動量の評価因子、又は前記神経系活動の評価係数に基づいて、筋の緊張度を評価する手段Dを更に有することを特徴とする評価システム。
【請求項5】
運動中の筋の表面筋電信号を検出して、ウェーブレット解析に基づく信号処理を行って、微細な信号を含む信号特徴を抽出して、対象筋に関する筋組織系活動量、筋組織系活動効率、神経系活動量、及び神経系活動効率の各評価因子を獲得する工程Aを有することを特徴とする評価方法。
【請求項6】
請求項5記載の評価方法において、前記評価因子の2以上に基づいて、筋の実効発揮力、疲労度、筋組織系活動、神経系活動、及び負荷量のいずれか1又は2以上の評価係数を獲得する工程Bを更に有することを特徴とする評価方法。
【請求項7】
請求項5記載の評価方法において、前記評価因子の2以上に基づいて、前記対象筋の筋活動における速筋への依存度である速筋と遅筋との寄与割合を示す指標を獲得する工程Cを更に有する評価方法。
【請求項8】
請求項6記載の評価方法において、前記神経系活動量の評価因子、又は前記神経系活動の評価係数に基づいて、筋の緊張度を評価する工程Dを更に有することを特徴とする評価方法。
【請求項9】
請求項1記載の評価システムの手段Aをコンピュータに実行させることを特徴とするプログラム。
【請求項10】
請求項2記載の評価システムの手段Bをコンピュータに実行させることを特徴とするプログラム。
【請求項11】
請求項3記載の評価システムの手段Cをコンピュータに実行させることを特徴とするプログラム。
【請求項12】
請求項4記載の評価システムの手段Dをコンピュータに実行させることを特徴とするプログラム。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、人間工学(疲労評価、筋緊張評価など)、医用電子工学、医学分野(基礎医学、スポーツ医学、リハビリテーション、筋電活用義肢など)、医用計測機器産業、スポーツ産業、健康産業、フィットネス(ダイエット)産業など、表面筋電信号を活用する及び筋活動を計測対象とするあらゆる分野に使用される運動中の表面筋電信号からの筋組織系及び神経系活動を量的及び質的にリアルタイムに評価するシステム及び方法並びにそのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
表面筋電信号は、筋活動の情報を非侵襲に獲得する手段として、多様な分野で極めて広く用いられている(非特許文献1)。例えば信号から一定区間を切り出し、その区間の信号の強さに基づいて計算されたRMS値は、その区間の筋活動の量の評価として用いられているもののひとつである。ただし、信号の強さは、皮膚への電極の接触状態などにより変動し易い。そのため、そうした変動に左右されにくい周波数中央値なども筋活動量の評価に用いられている。これらの評価は確かに筋活動の特性の一側面を評価しているが、筋疲労に伴う変化を反映してはおらず、これのみで筋の発揮力を定量評価することには問題がある。特許文献1のように筋疲労の影響を回避して発揮筋力を得ようとするものもあるが、外部から肉体に刺激を与えねばならない点は好ましくなく、運動中には振動送信部が動いてしまうことで計測結果が乱れる恐れもある。また、表面筋電信号には微細で短時間だけ出現する特徴も存在するが、従来の信号処理手法では、ノイズに紛れるほど微細で短時間だけ発生した特徴を、強い信号による特徴と同等の的確さを持って捉えることができなかった。
【0003】
筋疲労のような筋活動の特性変化を捉えることは重要で研究もなされており、同じ発揮力に対しての表面筋電信号の増大や周波数中央値の減少などが生じることが知られている。しかし、それらの傾向には「同じ発揮力の場合」という条件が付いており、運動中など発揮力が一定でない場合には直接的には利用できない。非特許文献2~4など、動的運動時の筋疲労評価も試みている研究もあるが、同じ動作あるいは同じ負荷となる時点での値の相対的変化を評価するものであり、任意の動作の任意の時点で評価を行うことはできない。特許文献2~7のような手段も運動中に活動が大きく変化する筋に対しての適用は困難である。他にも、特許文献8~12や非特許文献5のように、外的刺激を与えた際の反応を見ることで筋疲労度を評価しようとする技術も存在するが、運動中には適用できないし、「非侵襲」という表面筋電の利点にそぐわない。特許文献13や非特許文献5のような手法も存在するが、外的環境に関するパラメータが評価式に含まれており、特定の実験環境以外で汎用的に利用することは困難である。また、同じ筋疲労状況でも、軽負荷であれば影響なく運動できるにも関わらず負荷が大きいとうまく運動できなくなるということからもわかるように、筋疲労の影響は負荷の大きさによって変わると言えるが、従来はそうした違いを捉えることができなかった。特許文献14のように、筋肉にかかる負担を予測しようとする試みもあるが、対応できる動作は固定的である。
【0004】
本発明は、対象となる筋について1チャネルで計測した表面筋電信号に基づき、筋組織系と神経系とを区別しつつ各活動特性を獲得、評価するものである。非特許文献6の中でも「表面筋電図からパワー、筋疲労、筋活動量の関連性に関する調査報告はない」と述べられているように、それらは従来技術では満足に得ることができなかった類の極めて有用な情報であり、表面筋電信号を活用する際の総合的分析手法として、国内のみならず世界的に各種の筋電応用技術に影響を及ぼす可能性を持つ。

【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】特開2005-230367号公報
【特許文献2】特開2001-104288号公報
【特許文献3】特開2002-224072号公報
【特許文献4】特開2007-209453号公報
【特許文献5】特開2010-51682号公報
【特許文献6】特開2013-119001号公報
【特許文献7】特開2013-244027号公報
【特許文献8】特開2000-232号公報
【特許文献9】特開2001-276005号公報
【特許文献10】特開2004-201877号公報
【特許文献11】特開2004-49789号公報
【特許文献12】特開2012-200490号公報
【特許文献13】特開2007-236663号公報
【特許文献14】特開2004-275214号公報
【0006】

【非特許文献1】福永哲夫編「筋の科学辞典~構造・機能・運動~」朝倉書店(2002)
【非特許文献2】白井礼、水戸和幸「多点電極を用いた表面筋電図による動的運動時の筋疲労評価」信学技報Vol.114 No.79、MBE2014-16、pp.19-22(2014)
【非特許文献3】木竜徹「局所筋疲労を表面筋電図でみる」バイオメカニズム学会誌Vol.21 No.2、pp.75-80(1997)
【非特許文献4】吉田英恵、氏家英樹、石村康生、和田充雄「表面筋電図のカオス解析手法による筋疲労の評価」バイオメカニズム学会誌Vol.28 No.4、pp.201-212(2004)
【非特許文献5】入江隆、岡久雄「生体機械インピーダンスによる筋疲労の休息効果の計測」日本機械学会論文誌Vol.71 No.703、pp.131-136(2005)
【非特許文献6】徳安達士、松野航大、松平慎平「表面筋電位のパターンエントロピー分析による筋疲労の定量評価」、日本機械学会ロボティクス・メカトロニクス講演会2012講演論文集、2A2-B04(2012)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
運動中の表面筋電信号から、以下(例)に示すように、筋組織系及び神経系活動を量的及び質的にリアルタイムに評価することができる評価システム及び評価方法並びにそのプログラムを提供することを目的とする。
1)ノイズを低減しつつ、強い信号からノイズに近いレベルの微細で短時間の信号までの極めて広いダイナミックレンジで、表面筋電信号の特徴を抽出すること。
2)運動中にリアルタイム(表面筋電信号収集に必要な遅延を除く)に、以下の情報を得ること。
a.筋組織系と神経系とのそれぞれの活動の量(活動強度)を評価する値を得ること。
b.筋組織系と神経系とのそれぞれの活動の質(効率;疲労度)を評価する値を得ること。
c.それぞれの量と質とから、筋組織と神経とのそれぞれの活動程度の評価値を得ること。
d.筋組織と神経との総合的な疲労度の評価値を得ること。
e.疲労による影響を加味した筋の実効出力(発揮力)を示す値を得ること。
f.疲労による活動量低下を加味した、筋への負荷の程度を評価する値を得ること。
g.筋活動における速筋と遅筋との寄与割合の指標となる値を得ること。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的に沿う第1の発明に係る評価システムは、運動中の筋の表面筋電信号を検出して、ウェーブレット解析に基づく信号処理を行って、微細な信号を含む信号特徴を抽出して、対象筋に関する筋組織系活動量、筋組織系活動効率、神経系活動量、及び神経系活動効率の各評価因子を獲得する手段Aを有する。
【0009】
第1の発明に係る評価システムにおいて、前記評価因子の2以上に基づいて、筋の実効発揮力、疲労度、筋組織系活動、神経系活動、及び負荷量のいずれか1又は2以上の評価係数を獲得する手段Bを更に有することができる。
【0010】
第1の発明に係る評価システムにおいて、前記評価因子の2以上に基づいて、前記対象筋の筋活動における速筋への依存度である速筋と遅筋との寄与割合を示す指標を獲得する手段Cを更に有することができる。
【0011】
第1の発明に係る評価システムにおいて、前記神経系活動量の評価因子、又は前記神経系活動の評価係数に基づいて、筋の緊張度を評価する手段Dを更に有することができる。
【0012】
前記目的に沿う第2の発明に係る評価方法は、運動中の筋の表面筋電信号を検出して、ウェーブレット解析に基づく信号処理を行って、微細な信号を含む信号特徴を抽出して、対象筋に関する筋組織系活動量、筋組織系活動効率、神経系活動量、及び神経系活動効率の各評価因子を獲得する工程Aを有する。
【0013】
第2の発明に係る評価方法において、前記評価因子の2以上に基づいて、筋の実効発揮力、疲労度、筋組織系活動、神経系活動、及び負荷量のいずれか1又は2以上の評価係数を獲得する工程Bを更に有することができる。
第2の発明に係る評価方法において、前記評価因子の2以上に基づいて、前記対象筋の筋活動における速筋への依存度である速筋と遅筋との寄与割合を示す指標を獲得する工程Cを更に有することができる。
第2の発明に係る評価方法において、前記神経系活動量の評価因子、又は前記神経系活動の評価係数に基づいて、筋の緊張度を評価する工程Dを更に有することができる。
【0014】
前記目的に沿う第3の発明に係るプログラムは、第1の発明に係る評価システムの手段Aをコンピュータに実行させる。
前記目的に沿う第4の発明に係るプログラムは、第1の発明に係る評価システムの手段Bをコンピュータに実行させる。
前記目的に沿う第5の発明に係るプログラムは、第1の発明に係る評価システムの手段Cをコンピュータに実行させる。
前記目的に沿う第6の発明に係るプログラムは、第1の発明に係る評価システムの手段Dをコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、従来の技術では全く得ることができないか、あるいは極めて強い制約条件下でしか得ることができなかった筋の活動や状態の情報を、動作中にリアルタイムに得ることができるようになる。
疲労影響なども含めた総合的な評価が可能になることで、従来の技術では疲労による特性変化などを適切に扱えずに低精度な評価しか行えなかったものを高精度に評価できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施の形態に係る評価システムの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
続いて、図面を参照しながら、本発明を具体化した実施の形態について説明し、本発明の理解に供する。
図1に示すように、本発明の一実施の形態に係る評価システム10は、運動中の筋の表面筋電信号をセンサー11で検出して、ウェーブレット解析に基づく信号処理を行って、微細な信号を含む信号特徴を抽出して、対象筋に関する筋組織系活動量、筋組織系活動効率、神経系活動量、及び神経系活動効率の各評価因子を獲得する手段A(処理部1)を有し、更に、評価因子の2以上に基づいて、筋の実効発揮力、疲労度、筋組織系活動、神経系活動、及び負荷量のいずれか1又は2以上の評価係数を獲得する手段B(処理部2)を更に有する。

【0018】
更に、評価システム10は、評価因子の2以上に基づいて、対象筋の筋活動における速筋への依存度である速筋と遅筋との寄与割合を示す指標を獲得する手段C(処理部3)と、神経系活動量の評価因子、又は神経系活動の評価係数(神経系活動効率の評価因子)に基づいて、筋の緊張度を評価する手段Dを有している。

【0019】
本発明の一実施の形態に係る評価システム10には、表面筋電信号を計測するためのセンサー(体表に装着するための電極端子を含む)11、微弱な信号を増幅する信号増幅器12、信号の周波数帯域を制限する帯域フィルタ(LPF)13、アナログである信号をデジタル値として計算機に取り込むためのA/D変換装置14、本発明の手段を実現するための演算装置(コンピュータ)15が必要である。

【0020】
本発明を適用したい身体部位(筋)に電極端子16を取り付け、センサー11により表面筋電信号を取り込む。得られた信号は、信号増幅器12によって、後段のA/D変換器14が適切に取り込むことができる電圧レベルまで増幅する。帯域フィルタ13は、主に後段のA/D変換器14での変換の際に偽信号を生じさせないために、信号に含まれる周波数成分をA/D変換器14のサンプリング周波数の1/2以下の周波数までに制限するために挿入する。

【0021】
ここまでの装置(評価システム10)は、8,000~10,000Hzの信号を適切に扱うことができる仕様が求められる。複数の身体部位(筋)について本発明を実施し、それらの部位の協調動作の特性を獲得したい場合には、ここまでの装置が計測したい部位の数だけ必要になる。
適切な電圧レベルと周波数帯域に変換された信号は、A/D変換器14によって演算装置15に取り込む。A/D変換器14は20,000Hzかそれ以上の速度でサンプリングできるものが望まれる。複数の身体部位(筋)の情報を取り込む場合には、その数の信号のすべてをサンプリング周期よりも十分に短い時間で取り込めるだけの性能を持つ必要がある。複数の信号すべてを同時サンプリングできる仕様であれば、より望ましい。

【0022】
A/D変換器14によってデジタル値として取り込まれたデータは、本発明の手段A、B、C、Dをプログラムとして実装した演算装置(コンピュータ)15によって処理し、各因子や評価値として出力する。本発明の手段A、B、C、Dの適用に際してウェーブレット解析の深さ(レベル)や解析に用いる窓幅は固定されるため、途中の計算値を保持できるだけの固定サイズのメモリ領域を確保すれば、演算装置15が行うべき処理はA/D変換器14から一つのデータが得られるごとに定数時間で完了するような内容である。よって、本発明の効果であるリアルタイム性を得るためには、定数時間処理をサンプリング周期の間に完了できるだけの演算能力が必要である。もちろん、本発明の手段A、B、C、Dのすべてを実際に演算する必要はない。部分的な演算により、本発明の効果の一部だけの情報を得ることも可能であるので、活用しようとしている値を得るのに必要な演算だけを実行できる能力があれば十分である。

【0023】
本発明に係る評価システム、評価方法を更に詳細に説明する。
1.表面筋電の計測
一般的な表面筋電計測では、1,000~2,000Hz程度でローパスフィルタをかけ、周波数帯域に制限をかけることが多い。これは表面筋電の信号成分の大部分が数百Hzかそれ以下であるためであるが、本発明の手段は、一般的な計測では破棄されているような高周波域の信号を高いサンプリングレートで計測することで初めて達成できるものである。なお、本発明の手段における適切な評価パラメータの値は、計測時の設定の影響を受ける。ここでは、ローパスフィルタを8,000Hzとし、サンプリングレートを20,000Hzとした場合を推奨できる設定の例とする。
本発明の実験評価で用いた筋電センサ部は、体表に接する電極端子の近くに増幅回路(2,000倍)やフィルタ回路を組み込んだアクティブ電極であり、電極端子の材質は銀にAgClの表面処理を施したものである。
本発明の実施においては、電極を装着した際に完全脱力した状態での表面筋電信号を計測しておくべきである。これにより得られた信号はすべてノイズであるとみなすことができるため、後述のノイズ低減処理の閾値を定める際の情報源となる。

【0024】
2.ウェーブレット解析と重心推移の獲得
表面筋電信号は非常に微弱でノイズ混入も多い。そのため、ノイズ低減処理は重要である。
比較的単純なノイズ低減手法としては、脱力時の表面筋電信号の平均mと標準偏差σを求め、m±2*σかm±3*σの範囲の強さの信号はノイズとして切り捨てるものがある。しかしその場合、ノイズとともに微細な特徴をも捨ててしまっている可能性が高い。そこで本発明ではそうした単純な手法の使用は避け、ウェーブレット解析に基づく信号処理を施すことで微細な特徴を拾い上げる。
ウェーブレット解析は、局所性を持つ波形(ウェーブレット関数)との適合を調べることで、波形の時間-周波数成分を得るものである。使用するウェーブレット関数の形状が解析する波形の信号特徴に近いほど、特徴抽出能力が高い。表面筋電信号は個々のパルス的な電位変化の重畳であることを考えると、その個々の電位変化にウェーブレット関数の形状が近いことが望ましいと言える。そこで本発明の手段で使用するウェーブレット関数としてはDaubechies’N=2を選択することを推奨する。同ウェーブレット関数の関数形状は(他のウェーブレット関数に比べて)個々の非対称な電位変化に近く、サポート(関数の値が0でない区間)が狭いために演算に必要なサンプリングデータ数の増大(結果出力を得るまでの遅延時間の増大に繋がる)も避けられる。なお、同ウェーブレット関数は他のより広いサポートを持つウェーブレット関数に比べて周波数分解能に劣るが、本発明の手段(後述の重心推移法)では高い周波数分解能は必要ないために問題となることはない。

【0025】
本発明では、発明者が提案した手法(永井秀利、宮武一志、中村貞吾「黙声認識のための口唇周辺筋電波形におけるウェーブレット係数の重心推移法に基づく特徴」FIT2011講演論文集 Vol.3、pp.41-46(2011)参照)に対し、その欠点を改善するように再定義した新たな「重心推移法(Center-of-Balance Transition Method;CoBT Method)」を導入する。旧手法での重心推移法は一般的なウェーブレット解析手法である多重解像度解析結果に基づくものであるため、信号の解析を開始する位置が1サンプルずれただけでも結果に大きく影響する(シフト不変性の欠如)という問題や低周波域の信号特徴変化への追随性が良くないという問題、さらには連続信号解析において信号を読み取ってから解析結果を得るまでの遅延が一定ではないという問題があった。そこで本発明の重心推移法では、冗長離散ウェーブレット変換結果を用いるように再定義する。冗長離散ウェーブレット変換にはエネルギーの拡散という欠点があり、通常は信号の特徴抽出などにおいて不利となるが、高いサンプリングレートで計測した上で、後述するように特定時刻で切り出したウェーブレット係数の相対関係を利用する重心推移法は、冗長離散ウェーブレット変換が持つ欠点による悪影響を比較的受けづらいという性質を持つ。

【0026】
以下に、表面筋電信号をウェーブレット解析し、ウェーブレット係数の重心値(Center-of-Balance;CoB)を得るまでの手順を示す。この重心値の時間変化を追ったものが重心推移(Center-of-Balance Transition;CoBT)である。この解析においてはサンプリングレートと最大でどのレベル(ウェーブレット解析における周波数帯域を表す)までウェーブレット係数を算出するかが重要であり、それによって本発明の手段で算出される因子や係数の値の範囲が左右される。そこで、得られる重心推移の特性を明瞭に表すために、「サンプリングレートrate Hz、最大レベル-max_lでの重心推移」を「(rate)-L(max_l)CoBT」、あるいはCoBTを略して「(rate)-L(max_l)」のように呼称、表記する。例えば、サンプリングレート20,000Hz(20kHz)、最大レベル-12という設定の場合、重心推移の呼称は「20k-L12CoBT」又は「20k-L12」となる。

【0027】
(0)脱力時表面筋電信号を用いて、ウェーブレット縮退のための閾値を求めておく。本発明の手段としての特殊な閾値算出方法は必要ではない。ウェーブレット縮退で一般的に用いられる閾値算出方法で十分である。ただし、閾値を高く設定しすぎると微弱な特性まで取り除いてしまうので注意する
(1)1個のサンプルデータが得られるごとに、以下を行う。
(a)冗長ウェーブレット変換を漸進的に行う。解析を行う最大レベルが固定されているので、1サンプルの入力に対する時間計算量はO(1)である。
(b)ノイズ低減のため、得られたウェーブレット係数にウェーブレット縮退をかける。縮退処理は、step.0で得た閾値によるsoft-thresholding(すべてのウェーブレット係数を閾値分だけ0方向に減衰させる)とする。閾値以下のウェーブレット係数だけを0に操作するhard-thresholdingは、後述の重心値計算に悪影響を与えるので用いない。
(c)ウェーブレット係数の重心値を計算する。上記(a)で重心値算出に必要な最大レベルのウェーブレット係数を得た時刻tの各レベルのウェーブレット係数をw-1(t)、…、w-L(t)とするとき、重心値を以下の式(1)と定義する。

【0028】
【数1】
JP2016063995A_000003t.gif

【0029】
端的に言えば、最大レベルとのレベル差(対数軸から線形軸に換算)を距離、ウェーブレット係数を重さと見做した重心計算である。
重心値算出の時刻のウェーブレット係数は、通常はウェーブレット係数が対応する時区間の先頭が重心値算出時刻であるものを用いる。Daubechies’N=2を用いた場合、レベル-N(一つのウェーブレット係数が対応する時区間幅をtとする)からレベル-(N+1)(一つのウェーブレット係数が対応する時区間幅2t)を計算する際に必要なデータ(ウェーブレット係数)の数は4(全体の時区間幅4t)であるので、最大レベル-nの重心値を得るために必要な遅延時間(必要なサンプル数が得られるまでの時間)は3*2n-2サンプル分の時間となる。20k-L12で重心値を算出するなら遅延時間は約614msである。遅延時間を縮小したい場合、解析する最大レベルを一つ下げるごとに遅延時間をほぼ半分にすることが可能である。ただし、サンプリングレート20kHzで最大レベル-10未満にまで下げるとなると、表面筋電信号の低周波域を捨てる度合いが増すので推奨しない。推奨される最大レベルの値は解析に用いる周波数帯域によって定まるものであるため、サンプリングレートを変更しても遅延時間を短縮する役には立たない。もう一つの遅延時間短縮方法は、重心値算出時刻が時区間先頭ではなく、時区間末尾となっているウェーブレット係数を用いることである。同じくDaubechies’N=2を用いる場合、最大レベル-nの重心値を得るために必要な遅延時間は2(n+1)-2となる。推奨できる範囲で最大限に遅延を縮小することを目指すなら、末尾利用の20k-L10で約102msの遅延となる。

【0030】
3.筋組織系及び神経系の各種活動因子の獲得(工程A)
以下で述べる各因子を定める基になる値の多くは瞬間的な値である。そうした瞬間的な値自体も本発明の因子の一種で有用な値であるが、この瞬間値を直接に因子と定義して筋活動を論じるのはあまりにも瞬間的すぎて合理性を欠くと言える。そこで、値の算出にある程度の時間幅を要する因子との整合性も鑑み、特定の時間幅の窓区間を与え、平均等によりその区間での特徴を捉えるようにした値を因子とする。窓幅は50~100ms(サンプリング周波数20kHzで1000~2000サンプル)程度が妥当と考えるが、特にこの窓幅に限定するわけではない。なお、因子を獲得するための窓位置の移動は1サンプル単位で問題ない。

【0031】
[1]筋組織系活動量因子(quantity factor of muscle activity)
重心値計算の場合と同様に、特定時点の各レベルのウェーブレット係数を得て、そのRMS(root-mean-square;二乗平均平方根)を求める。これを窓区間内で平均(絶対値の算術平均でもRMSでも可能だが、RMSを推奨)したものをこの因子の値とする。
この因子の値は、センサ感度や接触具合、ウェーブレット縮退の閾値などの影響を受けやすいため、異なる条件下で得た数値を直接比較することにはあまり意味がない。センサを装着している間の変化のように相対的なものとして扱う。

【0032】
[2]筋組織系活動効率因子(quality factor of muscle activity)
ウェーブレット係数の重心値を平均と見做し、また各レベルのウェーブレット係数の値を、解析する最大レベルとそのレベルとの差の値のサンプルが出現した回数(ただし、整数ではなく実数)と見做し、各時点のレベルの標準偏差を求める。複数の性別、年代の被験者の表面筋電信号を分析した結果、この標準偏差の値の変動量が、筋疲労に伴って減少するという性質を見出した。筋組織の疲労により活動電位振幅と電位変化速度との低下が生じることで合成波形としての表面筋電信号の特徴変化の程度が小さく単調になり、標準偏差の変動も緩やかになることが理由の一つと推察する。
この特性は筋組織の活動の質を反映していると捉えることができる。そこで、時間ごとの標準偏差について、前後3サンプル(時刻tに対してt-1とt+1)の平均との差の絶対値を取り、これを窓区間内で平均(算術平均でもRMSでも可能だが、算術平均を推奨)したものをこの因子の値とする。

【0033】
この特性は、標準偏差波形の高周波成分の減少として捉えることもできるが、短時間で著しく特徴が変化するため、フーリエ変換のような周波数分析を行うのは適切とは言い難い。そのため本発明では、上記のような手法を用いている。
この因子は発揮している筋力そのものへの依存性は低く、筋組織の疲労の影響が出ない限りは、強い力を発揮しているときも弱い力しか発揮していない時も比較的安定した値を示す。また、筋疲労状態でも軽負荷であれば影響なく筋活動を行えるという事実にも呼応し、同じ筋疲労状態なら負荷が大きい場合ほど標準偏差の値の低下も大きい。つまり、この因子は、筋組織疲労を直接に示すのではなく、筋組織疲労の影響の度合いを示すものである。軽い疲労を生じていたとしても、影響が出ないレベルの負荷での運動を行っている範囲ではその疲労を検出できない可能性は高い。ただし、同じ負荷の状態で比較するならば、筋組織疲労度を示す値と見做すこともできる。

【0034】
[3]神経系活動量因子(quantity factor of neural activity)
ウェーブレット係数の重心値を窓区間内で平均(算術平均でもRMSでも可能だが、RMSを推奨)したものを因子とする。重心値は、筋活動の指標として広く用いられている周波数中央値と同種の活動特性である。ただし、窓フーリエ変換の結果に基づく周波数中央値に比べ、重心値は非常に短い時間での活動を特徴として抽出する能力に優れる。
表面筋電信号は筋組織で生じる電位変化を捉えるものであるため、筋組織系の活動を取り除いて純粋に神経系の活動のみを切り出してくることはできない。しかしながら、表面筋電信号の周波数変化は神経インパルスの到達によって誘発されるものであることから、周波数特性を神経系の活動を評価する値として捉えることは十分に妥当性を持つ。

【0035】
筋を駆動しようという意志が高まれば、準備活動的に微弱な神経パルスが送られる。少し緊張して意識が向いただけでも微弱な神経パルスは発生する。対象部位への意識を完全にそらさない限りは、完全な脱力というのは非常に難しい。そうした微弱な神経パルスは筋組織を明確に動かすには至らず、筋電信号の強度変化もノイズと変わらない程度に微弱であるが、重心推移法であれば、そうした変化を抽出して特徴化が可能である。
こうした特性により、この因子は、対象部位の緊張度を測るために使用することが可能である。これは、人間工学的に対象部位が真にリラックスできているかどうかを評価するために活用できよう。ただし、こうした微弱な特性を活用する場合には、ウェーブレット縮退の閾値設定には注意する必要がある。閾値が高すぎると微弱な特性ごと弱い信号を削り落としてしまうため、やや控えめな閾値設定とする方が良い結果となることが多い。

【0036】
[4]神経系活動効率因子(quality factor of neural activity)
神経系が疲労すれば神経インパルスの頻度や強度、アセチルコリン放出量が低下すると言われる。表面筋電信号はそれらが筋組織に及ぼした影響の結果であるため、純粋に神経系のみの特徴を切り出すことはできない。
しかしながら、高いサンプリング周波数で得た表面筋電信号の重心推移には、多数のインパルス特徴が観測される。これは、神経インパルスの到達によって励起されたものと言える。神経系が疲労しておらず活発である場合は、神経インパルスが多数到達し、また各神経インパルスによる電位変化は急激であるため、急激な高周波成分の増加によって重心推移にも強いインパルスが生じる。それに対し、神経系が疲労すれば、到達する神経インパルスの頻度や強度の低下により、重心推移に現れるインパルス数は減少し、値も小さくなる。すなわち、重心推移のインパルスは、筋力発揮に対する神経系の活動の効率をより強く示していると捉えることができる。
そこで本発明では、このような重心推移のインパルス特性を神経系の活動の質を反映したものとして扱う。具体的には窓区間内の重心値の標準偏差をこの因子の値とする。他の因子とは異なり、この因子のみは瞬間値が定義されず、窓区間内の平均的な性質として規定される(窓区間の移動を1サンプル単位とすることは可能)。なお、窓幅の設定がこの因子の値域に直接に影響を及ぼすことはない。

【0037】
4.各種評価係数の獲得(工程B)
以下の各係数は、上記の因子の組み合わせによって規定される。
[1]筋組織系活動評価係数(muscle activity coefficient)
筋組織系活動量因子(MA)と筋組織系活動効率因子(ME)とを用いて次式で与える。
√(MA)*√(ME)
[2]神経系活動評価係数(neural activity coefficient)
神経系活動量因子(NA)と神経系活動効率因子(NE)とを用いて次式で与える。
NA*√(NE)
[3]負荷量評価係数(load coefficient)
筋組織系活動量因子(MA)と神経系活動量因子(NA)とを用いて次式で与える。
√(MA)*NA

【0038】
[4]疲労度評価係数(fatigue coefficient)
筋組織系活動効率因子(ME)と神経系活動効率因子(NE)とを用いて次式で与える。
ME*NE
本発明ではこの係数を「疲労度」と呼称しているが、厳密には疲労の影響の度合いを示す係数である。この係数が同じであるだけでは疲労が同等であるとは言えないが、同一人物で同じ値を示している場合、その際の負荷が小さいほど疲労が進行しているとは言える。また、同一人物で同じ負荷であれば、値が小さいほど疲労していると見做せる。

【0039】
[5]実効発揮力評価係数(effective power coefficient)
4種の因子(MA、ME、NA、NE)のすべてを用いて次式で与える。
√(MA)*√(ME)*NA*√(NE)
従来の筋の発揮力評価では、表面筋電信号の強さ(RMS値など)や周波数中央値といった値を用いるのが一般的であるが、これらの値は疲労の影響を受けるため、同じ値でも実際の発揮力は変化してしまう。本発明のこの評価係数は、疲労度の影響を加味した上で、実際に外的に発揮できている力の大きさを評価しており、同じ発揮力ならほぼ同じ値を示す。

【0040】
5.速筋依存度指標の獲得(工程C)
ゆっくりと力を加える(遅筋への依存性大)場合と素早く力を加える(速筋の影響大)場合とのように、運動時の筋力発揮の仕方を変えた場合の表面筋電信号を分析した結果、前述の筋組織系活動効率因子の算出に用いている標準偏差の値に特徴差があるという知見を得た。具体的には、速筋の影響が大きいと思われる動作では、そうでない場合に比べて標準偏差の値に急激な変化(インパルス特徴)が現れるという傾向がある。速筋の活動と遅筋の活動とは混合されて観測されるため、明確に分離することはできないが、そうした特徴を活用することで、発揮力に対する速筋の寄与の程度を捉える指標値を得ることは可能であろう。
指標の値は以下の手順で得る。ただし、この指標値は荒い推測に基づく値であるため、指標値が高ければ寄与率が高いなどと「断言」できるほどの強い性質のものではなく、そうである「可能性が高い」という程度の弱い指標であることに注意する必要がある。

【0041】
[1]筋組織系活動効率因子の算出に用いているレベルの標準偏差の値について、直前の値との差分を取る。基本的には、この差分値の絶対値が大きい場合に速筋への依存度が高くなっていると推測する。ただし、この値は筋疲労の影響を受けるため、値が大きいかどうかの判断を固定した閾値で二値的に行うことは適切とは言えない。窓区間内での値の平均的特性に基づいた閾値によって判別する必要がある。その際、標準偏差値の変化は、増加(差分値が正)の場合の方が減少(差分値が負)の場合よりも変化量が大(変化が急峻)であることから、差分値が正の領域と負の領域とで別々に平均的特性を評価する。
[2]差分値の正領域と負領域の絶対値とのそれぞれに対し、窓区間内の平均mと分散σ2とを求める。速筋成分と遅筋成分の切り分けの閾値は、基本値とするm+3*σに非線形な縮退処理を適用した値とする。
閾値の基本値をthresとするとき、閾値縮退関数s(thres)を以下の式(2)とする。

【0042】
【数2】
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【0043】
正領域と負領域とではパラメータのborderの値を変更する必要があり、負領域のborderは正領域の値の2/3とする。複数被験者の上腕二頭筋の20k-L12 CoBTの例では、パラメータの推奨値は、正領域でborder=0.50、gain=0.25、負領域でborder=0.33である。
このs(thres)をそのまま差分値valの遅筋成分の閾値とする(valがs(thres)以下であればvalを、そうでなればs(thres)を遅筋成分の差分値とする)ようにしても構わないが、本発明では、valがs(thres)を超えている程度に応じて、更に閾値を操作する手法を推奨する。これは、「値の大きな差分値を含むということは、その窓区間のthresを引き上げる効果を及ぼしている可能性が高いこと」、及び、「値の大きな差分値を示す場合にはより強く速筋が働いている(依存度が高い)と推測できること」による。差分値に依存した閾値縮退関数sv(thres,val)は以下の式(3)とし、これを遅筋成分の閾値とする。

【0044】
【数3】
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【0045】
すなわち、valがsv(thres,val)以下であればvalを、そうでなければsv(thres,val)を遅筋成分の差分値とする。なお、パラメータの推奨値はweight=10.0、ratio=5.0である。

【0046】
[3]時刻tにおけるウェーブレット係数のレベルの標準偏差をsd(t)、差分値をd(t)と置くと、d(t)=sd(t)-sd(t-1)である。したがって、筋組織系活動効率因子を求める際にはsd(t)-(sd(t-1)+sd(t)+sd(t+1))/3=(d(t)-d(t+1))/3の絶対値を窓区間内で平均すればよい。
これと同様に、上記で求めた遅筋成分の差分値をds(t)とすると、遅筋の筋組織系活動効率因子は(ds(t)-ds(t+1))/3の絶対値を窓区間内で平均することで与えることができる。
今、時刻tの筋組織系活動効率因子の値をME(t)、遅筋の筋組織系活動効率因子の値をMEs(t)と置く。通常はME(t)≧MEs(t)であるが、非線形の縮退処理を施しているため、ME(t)<MEs(t)となる場合がありうることに注意する。
各種評価係数の式で示されたとおり、筋組織系活動効率因子の影響は平方根で効いてくるため、時刻tの速筋依存度指標値は、ME(t)=0又はME(t)<MEs(t)の場合は0、そうでない場合は1-(√(MEs(t))/√(ME(t)))とする。

【0047】
上記手順で求めた速筋依存度指標は瞬間値であるので、実用的に評価するにはある程度の時間幅で平均を取るような処理を望むケースが多いであろう。ただし、本発明の指標で速筋依存度が高く評価される時区間は、そうでない時区間に比べて狭く離散的であるため、時間幅が広くして単純な平均を取ると平均的な速筋依存度は小さく評価される傾向が強いことには注意する必要がある。

【0048】
6.筋の緊張度の評価(工程D)
神経系活動量因子の説明で記載したように、微弱な特性を消してしまわないようにウェーブレット縮退量を控えめに設定した場合の神経系活動量因子又は神経系活動評価係数によって評価する。これらの値が高いほど神経活動が活発でリラックスできていない、すなわち緊張度が高いと解釈することができる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、表面筋電信号から従来にない特徴量を抽出する技術であるため、得られた特徴量をどのように活用できるかが産業上の利用可能性と言える。活用例のいくつかを以下に挙げる。
1)基礎医学の教育・研究用データを提供するための装置
2)人間工学的に疲労評価、緊張評価を行うための計測装置
3)筋疲労に対する健康補助食品や医薬品の開発における筋疲労の進行・回復状況の把握
4)リハビリテーションの作業効率を高めるための運動及び状態を管理するための装置
5)筋電義手、筋電操作ロボット等、表面筋電を活用して操作する装置の高度で高精度な制御
6)スポーツやフィットネスの際の適切で効果的な運動負荷量の管理を行うための装置
7)運動時の筋活用状態の掌握及び運動能力向上のための訓練方針決定の判断基準
8)福祉分野における介護者又は被介護者の筋力補助(増強)装置の高精度制御の実現
【符号の説明】
【0050】
10:評価システム、11:センサー、12:信号増幅器、13:低周波フィルタ、14:A/D変換器、15:演算装置(コンピュータ)、16:電極端子
図面
【図1】
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