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明細書 :担子菌を用いるエタノールの製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5984121号 (P5984121)
登録日 平成28年8月12日(2016.8.12)
発行日 平成28年9月6日(2016.9.6)
発明の名称または考案の名称 担子菌を用いるエタノールの製造方法
国際特許分類 C12P   7/06        (2006.01)
C12N   1/14        (2006.01)
FI C12P 7/06
C12N 1/14 E
請求項の数または発明の数 6
微生物の受託番号 NPMD NITE BP-1099
全頁数 13
出願番号 特願2013-517896 (P2013-517896)
出願日 平成24年3月2日(2012.3.2)
国際出願番号 PCT/JP2012/055444
国際公開番号 WO2012/164990
国際公開日 平成24年12月6日(2012.12.6)
優先権出願番号 2011122579
優先日 平成23年5月31日(2011.5.31)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成27年2月27日(2015.2.27)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504224153
【氏名又は名称】国立大学法人 宮崎大学
発明者または考案者 【氏名】亀井 一郎
【氏名】目黒 貞利
【氏名】近藤 隆一郎
【氏名】森 智夫
【氏名】平井 浩文
個別代理人の代理人 【識別番号】100091096、【弁理士】、【氏名又は名称】平木 祐輔
【識別番号】100118773、【弁理士】、【氏名又は名称】藤田 節
審査官 【審査官】福間 信子
参考文献・文献 特開2010-183859(JP,A)
特開2006-223159(JP,A)
特開2007-319114(JP,A)
MAURICE, G.,Fermentation Alcoolique par deux Basidiomycete Phlebia dariata Fr. et Corticium ochracefulvum,Compt. Rend.,1962年,Vol.254,pp.2213-2214
調査した分野 C12P
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
特許請求の範囲 【請求項1】
Phlebia sp. MKFC40001(NITE BP-1099)、又は炭素源とともに培養した場合にエタノールを生成することができる能力が実質的に保持されているPhlebia sp. MKFC40001(NITE BP-1099)の変異株である担子菌を炭素源とともに好気的条件において培養する前処理工程と、
前処理工程後に、半好気的条件又は嫌気的条件において、前記担子菌を前記炭素源とともに更に培養してエタノールを生成する発酵工程と
を含む、エタノールの製造方法。
【請求項2】
前記前処理工程と発酵工程とを同一の容器内で実施する、請求項1の方法。
【請求項3】
炭素源が多糖類である、請求項1又は2の方法。
【請求項4】
多糖類が、植物バイオマス資材、結晶性セルロース、紙類、パルプ又はコットンリンターの形態である、請求項3の方法。
【請求項5】
炭素源がグルコース、キシロース、マンノース、ガラクトース、フルクトース及びアラビノースからなる群から選択される1種以上の糖類である、請求項1又は2の方法。
【請求項6】
Phlebia sp. MKFC40001(NITE BP-1099)、又は炭素源とともに培養した場合にエタノールを生成することができる能力が実質的に保持されているPhlebia sp. MKFC40001(NITE BP-1099)の変異株である担子菌と、該担子菌を担持する担体とを含む、請求項1~5のいずれか1項の方法に使用するための種菌。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、担子菌を用いて炭素源(好ましくは、植物バイオマス等の水不溶性形態のセルロース、ヘミセルロース、デンプン等の多糖類、並びに、グルコース、キシロース等の糖類)からエタノールを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、植物バイオマス資材からエタノールを製造する技術の開発が盛んである。
【0003】
通常は水不溶性形態のセルロース及び/又はヘミセルロースを含む植物バイオマス資材からエタノールを製造するためには糖化工程と、エタノール発酵工程が少なくとも必要であり、糖化工程の前処理として脱リグニン工程が別途必要となる場合もある。
【0004】
一般的な糖化工程としては硫酸法と酵素法がある。硫酸法は環境負荷が高いことと、反応容器の腐食が問題である。酵素法はセルラーゼのコストが高いという点で問題がある。酵素法に供されるバイオマス資源は、通常、前処理として脱リグニンされている必要がある。脱リグニン工程としてはアルカリ処理法などが知られている。エタノール発酵工程は、酵母を用いて行われることが一般的である。このように、バイオマス資材からエタノールを製造する従来の方法は多段階の工程が必要である。
【0005】
例えば特許文献1にはリグノセルロース系バイオマス原料から、アルカリ処理を含む工程により酵素糖化反応のための基質を製造する方法、すなわち糖化工程のためのリグノセルロース系バイオマス原料の前処理方法が開示されている。この文献では、製造された基質は、酵素により糖化され、糖化物は更に微生物(酵母)によりエタノール発酵される。
【0006】
特許文献2には木質系バイオマスを原料とする糖化発酵システムが記載されている。このシステムでは、セルロース分解酵素と、ヘミセルロース分解酵素と、アルコール発酵微生物(酵母)とを用いて木質系バイオマスを糖化発酵反応させる工程と、反応物に残存する五炭糖物質を分離し、五炭糖をアルコール発酵させることが可能な微生物(酵母)を用いて発酵反応させる工程とが実施される。
【0007】
特許文献3には、酵素糖化とアルコール発酵とを同一槽において実施する方法が記載されている。しかしながらこの方法でも、糖化酵素を産生する能力を有する、糸状菌等の微生物と、アルコール発酵を行う酵母とを組み合わせて用いる必要があった。
【0008】
このように、植物バイオマス資材からエタノールを製造する従来技術は多段階の工程を必要とするため、エネルギー消費及びコストの面で満足できるものではなかった。単一の手段を用いて、脱リグニン工程、糖化工程、及びエタノール発酵工程を実施するための技術が求められている。
【0009】
稲藁、竹、広葉樹木材等の植物バイオマス資材はキシロース等の五炭糖を構成単位として含むヘミセルロースを含む。しかしながら通常のエタノール発酵性微生物は、五炭糖を資化してエタノールを生成する能力を有していない。このため、ヘミセルロースの糖化物から、通常のエタノール発酵性微生物を用いてエタノールを製造する場合、五炭糖を利用できずエタノール収率が低下する問題がある。特許文献2に記載されているように、グルコース等の六炭糖を資化してエタノールを発酵生成する微生物と、キシロース等の五炭糖を資化してエタノールを発酵生成する微生物とを組み合わせて用いた場合には反応系が複雑となりコストの面で問題がある。
【0010】
特許文献4には、脱リグニン工程、糖化工程、及びエタノール発酵工程を単一の手段により実施することを可能にする技術として、シロアミタケ(Trametes suaveolens)を用いて炭素源からアルコール発酵によりアルコールを製造する方法が開示されている。しかしながら特許文献4では、シロアミタケの六炭糖の資化能力は確認されているが、五炭糖を同時に資化することができるかどうかは確認されていない。すなわち、脱リグニン工程、糖化工程、及びエタノール発酵工程を単一の手段により実施することができ、なおかつ、六炭糖と五炭糖を共に炭素源としてエタノール発酵させることができる技術は従来確立されていない。
【0011】
特許文献4に用いられているシロアミタケは白色腐朽菌の一種である。白色腐朽菌はリグニンパーオキシダーゼ、マンガンパーオキシダーゼ、ラッカーゼ等を産生し木材由来のリグニンを分解する能力を有することが知られている(特許文献5)。白色腐朽菌はまたセルロースを糖化する能力を有することが知られている。Phlebia属に属するPhlebia sp. MG-60株は高塩濃度条件においてリグニンを分解することができる白色腐朽菌の1種として単離された(特許文献6)。Phlebia属に属する白色腐朽菌がアルコール発酵能を有するか否かは従来検討されていない。
【先行技術文献】
【0012】

【特許文献1】特開2011-4730号公報
【特許文献2】特開2010-17084号公報
【特許文献3】特開2008-54676号公報
【特許文献4】特開2010-183859号公報
【特許文献5】特開2008-6372号公報
【特許文献6】特開2001-169775号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、植物バイオマス資源等に由来する炭素源からエタノールを簡便に、かつ高効率で製造するための手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、驚くべきことに、Phlebia属に属する担子菌が、リグニン分解能及び多糖類の糖化能を有するだけでなく、糖からエタノールを生成する能力を有すること、並びに、グルコースだけでなくキシロースを炭素源とした場合でもエタノールを生成する能力を有することを見出した。本発明者は更に、Phlebia属に属する担子菌を、リグニンを含有する炭素源と共に好気的条件において培養する前処理工程を行った後に、半好気的条件又は嫌気的条件において、前記担子菌を前記炭素源とともに更に培養して前記炭素源を基質とするエタノール発酵を行うことにより、エタノールの生成効率を更に高めることができることを見出した。これらの知見に基づき、以下の発明を完成させるに至った。すなわち本発明は以下の発明を包含する:
(1)Phlebia属に属する担子菌を炭素源とともに培養することによりエタノールを生成する工程を含む、エタノールの製造方法。
【0015】
(2)エタノールを生成する前記工程が、
前記担子菌を炭素源とともに好気的条件において培養する前処理工程と、
前処理工程後に、半好気的条件又は嫌気的条件において、前記担子菌を前記炭素源とともに更に培養してエタノールを生成する発酵工程と
を含む、(1)の方法。
【0016】
(3)Phlebia属に属する担子菌がPhlebia sp. MKFC40001(NITE BP-1099)である、(1)又は(2)の方法。
【0017】
(4)炭素源が多糖類である、(1)~(3)のいずれかの方法。
【0018】
(5)多糖類が、植物バイオマス資材、結晶性セルロース、紙類、パルプ又はコットンリンターの形態である、(4)の方法。
【0019】
(6)炭素源がグルコース、キシロース、マンノース、ガラクトース、フルクトース及びアラビノースからなる群から選択される1種以上の糖類である、(1)~(3)のいずれかの方法。
【0020】
(7)Phlebia属に属する担子菌と、該担子菌を担持する担体とを含む、炭素源からエタノールを生成するための種菌。
【0021】
(8)Phlebia属に属する担子菌がPhlebia sp. MKFC40001(NITE BP-1099)である、(7)の種菌。
【0022】
本明細書は本願の優先権の基礎である日本国特許出願2011-122579号の明細書に記載される内容を包含する。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、植物バイオマス資源等に由来する炭素源からエタノールを簡便に、かつ高効率で製造するための手段が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は本発明の方法の概要を示すフローチャートである。
【図2】図2は本発明の方法の好適な実施形態の概要を示すフローチャートである。
【図3】図3は、前処理工程の期間とリグニン含有率の低減との関係を示すグラフである。
【図4】図4は、発酵工程の期間とエタノール変換率との関係を示すグラフである。

【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
1.担子菌
本発明は、フレビア(Phlebia)属に属する担子菌が、炭素源を資化してエタノールを生成する能力を有するという驚くべき知見に基づく発明である。
【0026】
本発明に用いる担子菌は、Phlebia属に属し、後述する炭素源とともに培養した場合にエタノールを生成する能力を有する担子菌であれば特に限定されず、木材細胞壁成分のリグニンを分解する能力を有する白色腐朽菌であればより好ましい。このような微生物としては、フレビア・エスピー(Phlebia sp.)MKFC40001(NITE BP-1099,以下単に「MKFC40001」と称することがある)が挙げられる。MKFC40001は、特許文献6及びApplied and Environmental Microbiology 74 (9), pp. 2709-2716において開示されている、熱帯性樹木から分離された高耐塩性の白色腐朽菌であるPhlebia sp. MG-60と同一の株である。本発明者らは当該Phlebia sp. MG-60株を九州大学において保存されていたコレクションから入手した。当該株は、Phlebia sp. MKFC40001の名称のもと、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)に2011年5月11日に国内寄託され、受託番号NITE P-1099が付与された。当該Phlebia sp. MKFC40001(NITE P-1099)は、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(〒292-0818日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)において、2012年2月21日付けで、ブダペスト条約に基づく寄託(国際寄託)へと移管され、国際寄託された。2012年2月21日付けで国際寄託されたPhlebia sp. MKFC40001には、前記機関により受託番号NITE BP-1099が付与された。
【0027】
Phlebia sp. MKFC40001(NITE BP-1099)の分類学上の位置及び科学的性質は以下の通りである。
【0028】
分類学上の位置:ITS-5.8S rDNA配列の解析を行った結果(DDBJ accession number AB210077)、系統樹からはPhlebia属のクラスターに入り、Phlebia radiate strain ATCC64658と90%一致し近縁であると判断される。
【0029】
科学的性質:木材腐朽菌のなかでも木材細胞壁成分のリグニンを分解することができる白色腐朽菌である。PDA培地上、30℃で良好な生育を示し、糸状、白色の菌糸を示す。培地蔓延後は薄い黄色を呈する。0.02%グアヤコール含有PDA培地で生育させると、培地がグアヤコール酸化物に由来する赤色を呈する。低窒素条件下で大量のマンガンペルオキシダーゼを生産しフェノール性化合物を酸化する。3%程度のSea salts含有培地でも良好な生育を示す耐塩性菌である。
【0030】
本発明に用いられるPhlebia sp. MKFC40001の範囲には、Phlebia sp. MKFC40001の変異株であって、後述する炭素源とともに培養した場合にエタノールを生成することができる能力が実質的に保持されている変異株もまた包含される。ここで変異株とはPhlebia sp. MKFC40001が変異誘発処理された変異株である。変異誘発処理は任意の適当な変異原を用いて行われ得る。ここで、「変異原」とは、変異原効果を有する薬剤だけでなく、UV照射のごとき変異原効果を有する処理をも包含する。
【0031】
2.炭素源
Phlebia属に属する担子菌は、糖類を資化してエタノールを生成する能力に加えて、リグニン分解能、多糖類の糖化能を有していることから、本発明の方法では種々の炭素源を利用することができる。炭素源としては、糖類、多糖類、水不溶性形態の多糖類、多糖類を含む植物バイオマス資源等が挙げられる。
【0032】
炭素源として利用可能な糖類としては、グルコース、マンノース、ガラクトース、フルクトース等の六炭糖、キシロース、アラビノース等の五炭糖等の単糖類、セロビオース等の二糖類が挙げられる。稲藁、竹、広葉樹木材等の植物バイオマス資材は、キシロース等の五炭糖と、グルコース等の六単糖とを構成単位とするヘミセルロースと、グルコースを構成単位とするセルロースとを含む。本発明の方法は、ヘミセルロースとセルロースとを含む植物バイオマス資材から単一の工程により効率的にエタノールを生成することができるという驚くべき効果を奏する。
【0033】
更に、炭素源としては、糖化を受けて上記の糖類を供給可能な多糖類(オリゴ糖類を含む)を使用することができる。多糖類としてセルロース、ヘミセルロース、デンプンが挙げられる。多糖類は水不溶性の形態であってもよい。炭素源として利用可能な水不溶性の形態の多糖類(特にセルロース及び/又はヘミセルロース)としては、植物バイオマス資材、結晶性セルロース、古紙等の紙類、パルプ、コットンリンター等の形態の多糖類が挙げられる。
【0034】
植物バイオマス資材は、木本系バイオマス資材であってもよいし、草本系バイオマス資材であってもよい。木本系バイオマス資材としては針葉樹、広葉樹、裸子植物等の樹木に由来する木材(建築廃材、間伐材等を含む)、おが屑、きのこ廃菌床等が挙げられる。草本系バイオマス資材としては稲、麦、トウモロコシ、サトウキビ、竹、ススキ等に由来する資材、例えば農産物の収穫や加工処理の際に生じる残渣等が挙げられる。植物バイオマス資材は、予め粉砕処理、爆砕処理等の物理的処理や、アルカリ処理等の化学的処理が施されたものを炭素源として使用することもできる。
【0035】
3.エタノールの生成
本発明のエタノール製造方法は、Phlebia属に属する担子菌を炭素源とともに培養することによりエタノールを生成する工程S100(図1)を含む。
【0036】
培養条件は特に限定されないが、典型的には上述の炭素源を、必要に応じて窒素源、無機塩類等の必要な成分とともに含有する、液体状、固体状、スラリー状等の適当な性状の培地にPhlebia属に属する担子菌を接種して培養する。培養は嫌気的培養、半好気的培養、好気的培養のいずれでもよいが、嫌気的培養又は半好気的培養であることが好ましい。嫌気的培養又は半好気的培養とは具体的には、担子菌を接種した培地を、外気と実質的に通気させることなく培養することを指す。本発明において嫌気的条件とは、実質的に遊離酸素が存在しない培養条件を指し、例えば、担子菌と培地とを容器内に収容し、容器内の雰囲気を窒素ガス等で置換するなどして実質的に酸素を含まない状態とし、容器内と外気とが実質的に通気しない状態で培養する培養条件が挙げられる。本発明において半好気的条件とは、空気雰囲気下よりも遊離酸素が低減された培養条件を指し、例えば、担子菌と培地とを容器内に収容し、容器内の雰囲気を、少なくとも培養開始時には空気等で満たされた酸素を含む状態であるが、容器内と外気とが実質的に通気しない状態で培養する培養条件が挙げられる。本発明において好気的条件とは、空気雰囲気下と同程度に遊離酸素が存在する培養条件を指し、例えば、担子菌と培地とを容器内に収容し、容器内と外気とが通気可能な状態で培養する培養条件が挙げられる。
【0037】
他の培養条件は適宜決定することができる。例えば、温度は25℃~35℃が好ましく、培養時間は24時間~500時間程度とすることができる。
【0038】
本発明の好ましい実施形態では、Phlebia属に属する担子菌を炭素源とともに培養することによりエタノールを生成する工程S100が、Phlebia属に属する担子菌を炭素源とともに好気的条件において培養する前処理工程S101と、前処理工程S101後に、半好気的条件又は嫌気的条件において、前記担子菌を前記炭素源とともに更に培養してエタノールを生成する発酵工程S102との2つの工程(図2)を少なくとも含む。この実施形態は、植物バイオマス資材等の、リグニンとともに含有する炭素源に対して特に有効である。
【0039】
前処理工程S101は、前記担子菌を、炭素源及び適宜水を含む培地に接種し、好気的条件にて培養する工程である。前処理工程では、炭素源にリグニンが含まれる場合、該リグニンが分解される。前処理工程は、炭素源(乾燥物基準)の総量に対してリグニンが20%(w/w)以下、好ましくは15%(w/w)以下となるまで行うことが好ましい。前処理工程の温度は25℃~35℃とすることが好ましい。前処理工程の培養期間は、好ましくは250~3000時間、より好ましくは300~2000時間、より好ましくは500~1500時間、最も好ましくは500~1000時間である。前処理工程は、炭素源及び適宜水を含む培地に、必要に応じて窒素源、無機塩類等の必要な成分を更に添加した状態で用いて行われても良いが、炭素源が植物バイオマス資材等の、窒素源、無機塩類等を含むものである場合には追加の成分の添加は必須ではない。
【0040】
発酵工程S102は、前処理工程S101後に、半好気的条件又は嫌気的条件において、前記担子菌を前記炭素源とともに更に培養してエタノールを生成する工程である。前処理工程後の前記担子菌と前記炭素源とを含む混合物に、必要に応じて、窒素源、無機塩類等の必要な成分を追加してから、半好気的条件又は嫌気的条件において発酵工程を行うことができる。発酵工程は、25℃~35℃の温度において実施することが好ましく、120~720時間実施することが好ましく、240~480時間実施することが特に好ましい。
【0041】
図2に示す実施形態を効率的に実施するためには、前処理工程S101と発酵工程S102とを同一の容器内で実施することが好ましい。
【0042】
他の実施形態では、前処理工程S101は必須ではなく、工程S100が、前処理工程S101を行わず、前記担子菌を炭素源の存在下で、好ましくは半好気的条件又は嫌気的条件において培養して、エタノールを生成する工程であってもよい。当該他の実施形態は、例えばリグニンを含有しない炭素源(或いは、リグニン含有量が、上記の前処理工程での目標量以下である炭素源)を用いた場合に適している。この場合の工程S100は、25℃~35℃の温度において実施することが好ましく、24~720時間実施することが好ましく、48~480時間実施することが特に好ましい。
【0043】
培養により生成されたエタノールを培地から回収する工程S200(図1、図2)の具体的な手段は特に限定されない。
【0044】
4.種菌
本発明はまた、Phlebia属に属する担子菌と、該担子菌を担持する担体とを含む、炭素源からエタノールを生成するための種菌を提供する。
【0045】
種菌は担子菌の菌糸体を、固体担体、液体担体等の適当な形状の担体とともに含む組成物である。
【0046】
本発明はまた、Phlebia属に属する担子菌と、該担子菌を担持する担体とを含む種菌組成物の、炭素源からエタノールを生成するための使用に関する。
【実施例】
【0047】
実験1
1.使用菌株
PDA(ポテト,デキストロース,寒天)平面培地で28℃・7日間培養したPhlebia sp. MKFC40001(2011年5月11日に日本国内寄託されたNITE P-1099と同一の、2012年2月21日に国際寄託されたNITE BP-1099)の菌糸体を、以下の試験に用いた。
【0048】
同様に培養した下記29種の白色腐朽菌を含む木材腐朽菌の菌糸体についても以下の試験に用いた。
【0049】
Ceriporia lacerata(1株)、Phanerochaete sordida(2株)、Phanerochaete chrysosporium(1株)、Pleurotus ostreatus(1株)、Pleurotus pulmonarius (1株)、Pycnoporus coccineus(3株)、Trametes versicolor(2株)、Trametes hirsuta(2株)、Trametes suaveolens(2株)、Gloeophyllum trabeum (2株)、Fomitopsis palustris (1株)、Punctularia sp.(2株)、その他未同定株(9株)
2.培養培地組成・培養条件
培地組成は以下の通り:
【表1】
JP0005984121B2_000002t.gif

【0050】
炭素源として、グルコース(和光純薬製,特級)、キシロース(和光純薬製,特級)、結晶性セルロース(Cellulose microcrystalline: MERCK)、広葉樹未晒クラフトパルプ(王子製紙製),針葉樹未晒クラフトパルプ(王子製紙製),新聞紙(ミキサーで軽く裁断したもの),コナラ木粉(100メッシュパス,メタノール脱脂済)を使用した。
【0051】
炭素源としてグルコース又はキシロースを用いる場合:
炭素源を除いた培地18mlを含む100ml三角フラスコをオートクレーブ滅菌した。20%に調製したグルコース水溶液およびキシロース水溶液をろ過滅菌し、オートクレーブ後の三角フラスコにグルコース水溶液2ml、又はキシロース水溶液2ml、又は両水溶液各1mlを加えた(炭素源の培地中の最終濃度2%)。ここにPDA培地で培養した対象菌株を寒天ごとコルクボーラーで取り出し(直径5mm)、三角フラスコに接種し、シリコン栓で密封し通気を遮断した。その後28℃に設定したインキュベーター内、暗所で静置培養し5日、10日、20日培養後にサンプル回収を行った。
【0052】
炭素源として結晶性セルロース、広葉樹未晒クラフトパルプ、針葉樹未晒クラフトパルプ、新聞紙、又はコナラ木粉を用いる場合:
炭素源を除いた培地20mlを含む100ml三角フラスコに所定の炭素源を下記表に示す濃度(2%(w/v)又は1%(w/v))となるように加え、オートクレーブ滅菌した。ここに上記と同様の手順及び条件に従い対象菌株を接種し、培養を行い、サンプル回収を行った。
【0053】
3.分析方法
所定期間培養した培地から液層を1.5ml回収し、13,600g×10min,4℃で遠心分離した後、上清を1.0ml採取した。採取した上清を滅菌水で5倍希釈し、フィルター(0.45μm)を通して濾過し、分析試料とした。分析試料は、HPLCにて分析した。
【0054】
HPLC条件は以下の通り。
【0055】
カラム:Shodex KS-802
移動相:Distilled water
流速: 1.0ml/min
検出器:Shimadzu RID-10A
4.結果
試験に供した30種の木材腐朽菌のうちグルコースを基質として高効率のエタノール発酵(理論収率の70%以上)が観察されたものは3種(MKFC40001、Punctularia sp. Trametes suaveolens)、キシロースを基質とした高効率のエタノール発酵(理論収率の60%以上)が観察されたものは1種(MKFC40001)、グルコース-キシロース混合系を基質とした高効率のエタノール発酵(理論収率の70%以上)が観察されたものは1種(MKFC40001)、結晶性セルロースを基質としたエタノール発酵が観察されたものはMKFC40001のみであった。MKFC40001のみが全ての基質からエタノールを生成することができた。
【0056】
MKFC40001についての結果を次表に示す。
【0057】
MKFC40001は培養5日目で、グルコースから理論収率の70%以上のエタノールを生産した。このことからMKFC40001はグルコースの発酵能が高いことが示された。
【0058】
MKFC40001は培養10日目で、キシロースから理論収率の60%以上のエタノールを生産した。このことからMKFC40001はキシロースの発酵能を有することが示された。
【0059】
MKFC40001は培養10日目で、グルコースとキシロースの混合溶液から、その理論収率の70%以上のエタノールを生産した。このことからグルコースとキシロースの同時発酵が可能であることが示された。
【0060】
MKFC40001は不溶性のセルロース(結晶性セルロース)から直接エタノール発酵することができることが確認された。
【0061】
MKFC40001は木材をクラフト蒸解することで得られる未晒クラフトパルプ(広葉樹クラフトパルプ,針葉樹クラフトパルプ)から直接エタノール発酵することが確認された。
【0062】
MKFC40001はリグニンおよびインク等の不純物を多く含む新聞紙から直接エタノール発酵することが確認された。
【0063】
MKFC40001は広葉樹木粉(コナラ)から直接エタノール発酵することが確認された。
【表2】
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【0064】
実験2
1.実験方法
発酵基質として、メタノール脱脂済コナラ木粉(42~100メッシュ)を使用した。100 mL三角フラスコに全乾重量約0.8gの木粉を秤取り、含水率が約80%となるよう純水を加えた。オートクレーブ滅菌後、PDA(ポテト,デキストロース,寒天)培地で培養したPhlebia sp. MKFC40001をPDA培地ごとコルクボーラーでくり抜き、1片を接種した。通気性を有するスポンジ状のシリコン樹脂製栓で蓋をし(好気的条件)、28℃、暗所で培養することで木粉の脱リグニン処理(前処理)を行った。好気的条件で所定期間培養(前処理)した三角フラスコに、オートクレーブ滅菌済の発酵用培地(表1)20mLを加え、シリコンゴム栓で密栓し(半好気的条件)28℃、暗所で培養を行った。培養後、培養液をHPLC分析に供し,生成エタノール量を測定し、エタノール変換率を求めた。
【0065】
2.分析方法
木粉の化学組成分析はNREL(米国 National Renewable Energy Laboratory)が公開している方法に従った。具体的には、木粉サンプルを硫酸加水分解し、得られた還元糖を高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)により分析した。検出されたグルコース、キシロース、ガラクトース、マンノースを、それぞれグルカン、キシラン、ガラクタン、マンナンとして換算した(表3)。リグニンは木粉サンプルの硫酸加水分解物残渣(酸不溶物)の全乾重量を測定し、リグニン量とした。その他の成分はメタノール脱脂済み木粉の全乾重量から、算出されたグルカン、キシラン、ガラクタン、マンナンおよびリグニンの重量を差し引いた値とした。
【0066】
生成エタノール量の測定は、所定期間培養した培地から液層を1.5ml回収し、13,600g×10min,4℃で遠心分離した後、採取した上清を滅菌水で5倍希釈し、フィルター(0.45μm)を通して濾過した試料をHPLCにて分析した。エタノール変換率は、半好気的条件でのエタノール発酵の基質として用いられる、好気的条件での前処理後の木粉サンプルの糖組成(表1)から算出されたエタノールの理論収量(グルコース、ガラクトースおよびマンノース1molからそれぞれエタノールが2 mol、キシロース3 molからエタノール5 molが生産された場合)を100%としたときの、実際に生成されたエタノール量の割合である。
【0067】
3.結果および考察
前処理工程の結果を表3及び図3に、発酵工程の結果を表4及び図4にそれぞれ示す。
【0068】
未処理木粉のリグニン含有率が23.1%であったのに対し、好気的条件での培養を4週間および8週間行うと、それぞれリグニン含有率は18.1%、13.7%に減少した。一方、硫酸加水分解物中の単糖から木粉中の多糖の割合を算出したところ、グルカンの含有率が相対的に上昇していた。すなわち、選択性の高い脱リグニンが行われていることが示された。
【0069】
2、4、6および8週間好気的条件下で培養したサンプルをそれぞれ半好気的条件に切替えて培養したところ、好気的条件での培養期間が長いサンプルほど、エタノール生成量は増加した。好気的条件下での培養(前処理)を6週間行い半好気的条件での培養を20日間行った処理木粉から理論収率の37.7%、好気的条件下での前処理を8週間行い半好気的条件での培養を20日間行った処理木粉から理論収率の43.9%のエタノールが得られた。
【0070】
これらの結果は、Phlebia sp. MKFC40001単独で、脱リグニン処理と糖化・発酵を、単一容器内で行うことが可能であることを示す。
【表3】
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【表4】
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【0071】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3