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明細書 :線維症予防又は治療用医薬組成物

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5946191号 (P5946191)
登録日 平成28年6月10日(2016.6.10)
発行日 平成28年7月5日(2016.7.5)
発明の名称または考案の名称 線維症予防又は治療用医薬組成物
国際特許分類 A61K  38/22        (2006.01)
A61P  43/00        (2006.01)
A61P  11/00        (2006.01)
FI A61K 37/24
A61P 43/00 105
A61P 11/00
請求項の数または発明の数 1
全頁数 12
出願番号 特願2013-523901 (P2013-523901)
出願日 平成24年7月3日(2012.7.3)
国際出願番号 PCT/JP2012/066971
国際公開番号 WO2013/008681
国際公開日 平成25年1月17日(2013.1.17)
優先権出願番号 2011152392
優先日 平成23年7月9日(2011.7.9)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成27年7月1日(2015.7.1)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
発明者または考案者 【氏名】大河内 眞也
個別代理人の代理人 【識別番号】100113402、【弁理士】、【氏名又は名称】前 直美
審査官 【審査官】井上 明子
参考文献・文献 国際公開第2010/51347(WO,A1)
The American Journal of Pathology,2009年,Vol.174, No.4,p.1368-1378
日本臨床,2006年,Vol.64, No.4,p.1354-1360
調査した分野 A61K 38/22
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
特許請求の範囲 【請求項2】
スタニオカルシン1(STC1)を有効成分として含有する肺線維症の予防、治療及び/又は進行抑制用医薬組成物。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、線維症、特に肺線維症を予防し、進行を抑制し、及び/又は治療するための医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
間質性肺炎は、肺の間質(肺胞以外の部分)の炎症を特徴とする難治性の疾患である。間質性肺炎の患者のうち、50%が特発性肺線維症に移行し、重症化することが知られている。肺線維症は、肺が硬くなって縮小し、ガス交換が不十分になる疾患である。この症状が進行すると、最終的に、呼吸困難に陥り、死に至る。特発性肺線維症患者は、日本では1.5万人、米国では5万人といわれている。
【0003】
現在、この疾患に関しては、有効な薬や治療が患者や医師から強く望まれており、製薬企業が注目して研究開発に力を入れている。それにもかかわらず、有効な薬剤や治療方法は確立されておらず、生存期間は2~3年である。
【0004】
スタニオカルシン1(STC1)は、魚類のエラから発見され、哺乳類にも分布する、2量体糖蛋白質ホルモンである。STC1は、リンやカルシウムの代謝のほか、ミトコンドリアの酸化的リン酸化促進や神経細胞及び心筋保護作用、骨代謝促進作用など、様々な生理活性を有することが知られている。
【0005】
具体的には、以下の知見が報告されている。STC1は、脱共役タンパク質2(UCP2)の誘導を介して細胞内ミトコンドリアの膜電位を低下させる(非特許文献1~3)。このUCP2を介したミトコンドリア膜電位の低下は、細胞内過酸化物質(ROS)の低下につながり、ミトコンドリアのグルコース依存度の低下とミトコンドリアの脂質代謝上昇をもたらす(非特許文献1~3)。また、STC1は、嫌気性代謝又は好気性代謝のどちらでもない、脱共役代謝(乳酸量増大、酸素消費量増大、脂質代謝量増大をもたらす)を誘導する。脱共役代謝は、飢餓時(あるいは障害環境)においては、より多くのエネルギーを消費可能で、過酸化ストレスも軽減するため、障害環境下では生存に有利と考えられている(非特許文献3、4)。
【0006】
非特許文献5及び特許文献1には、腎炎を惹起させる物質(Anti-GBM Ab)を投与することにより腎炎モデルマウスを作製すると、マウスの腎組織に線維化が生じることが開示されている。そして、野生型(WT)マウス及びSTC1高発現マウスにそれぞれ腎炎惹起物質を投与した場合、STC1高発現マウスの腎は、WTマウスよりも腎組織の線維化が減少していることが明らかとなったことが記載されている。
【0007】
しかし、このモデルマウスを用いた実験では、腎炎が生じた結果、線維化が生じるのであって、腎の炎症組織が線維化している。これらの文献には、STC1に抗線維化作用(線維芽細胞増殖抑制作用など)があることを示す記載はない。また、肺線維症に関する記載もない。
【0008】
STC1については、脂肪細胞の分化又は成熟抑制活性、骨形成促進、神経保護作用などの種々の生理活性に基づいた医薬組成物としての利用が提案されてきた(特許文献2~5)。しかし、肺線維症に対する医薬としての可能性を示す先行技術は知られていない。
【先行技術文献】
【0009】

【特許文献1】国際公開WO2010/051347号公報
【特許文献2】特開2000-229880号公報
【特許文献3】特開平7-188051号公報
【特許文献4】再表02/004013号公報
【特許文献5】再表00/016795号公報
【0010】

【非特許文献1】Cancer Res, 2008, 68:(13)5198-5205
【非特許文献2】Cancer Res, 2009, 69:(6)2163-2166
【非特許文献3】Tohoku University Global COE Network Medicine Winter Camp of GCOE 2010, Feb, 5th, 2011, Akiu, Sendai, Japan
【非特許文献4】Journal of Leukocyte Biology, 2009, 86:981-988
【非特許文献5】The American Journal of Pathology, 2009, 174:(4)1368-1378
【非特許文献6】呼吸と循環(医学書院)2008年9月号 肺線維症の動物実験モデル(海老名雅仁)
【非特許文献7】PNAS, 2003:(14) 8407-8411
【非特許文献8】AJRCCM, 2000:(162) 225-231
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、線維症、特に肺線維症の予防及び治療薬として有用な医薬組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、STC1はROSストレスを軽減することから、STC1が低酸素下での肺細胞の生存を延長し又は機能を活性化させる可能性を期待して研究した。そして、STC1を気管内投与した実験的肺線維症モデルマウスにおいて、肺線維化が顕著に抑制されることを見出し、本発明を完成した。
【0013】
したがって、本発明によれば、
〔1〕 STC1を有効成分として含有する線維症の予防、治療及び/又は進行抑制用医薬組成物;
〔2〕 線維症が、肺線維症である、上記〔1〕記載の医薬組成物
が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明の医薬組成物によれば、肺の線維化が顕著に抑制され、それとともに過酸化ストレスが顕著に抑制される。したがって、本発明の医薬組成物は、線維症、特に肺線維症の予防、進行抑制及び/又は治療が可能である。
線維症の改善にも利用されることがある従来の薬剤と比較して、STC1は有利である。プレドニン、シクロスポリンA(cyclosporin-A)、FK506等は、免疫を強力に抑制するため、易感染性の原因となる。これに対し、STC1は、免疫系の抑制を起こさないことが報告されている(Transgenic Res (2010) 19:1017?1039)ことから、易感染性の問題がないと期待される。また、N-アセチルシステイン(N-acetylcystein;NAC)は静脈投与ができないという欠点があり、STC1はNACと比較してもその点で有利であると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、STC1投与群のある個体の肺組織の染色像を示す図である。パネルAは、ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色像、パネルBはエラスィカマッソン(EM)染色像をそれぞれ表す(以下、図2~5も同じ)。
【図2】図2は、STC1投与群の別の個体の肺組織の染色像を示す図である。
【図3】図3は、ブレオマイシン(Bleo)投与群のある個体の肺組織の染色像を示す図である。
【図4】図4は、ブレオマイシン(Bleo)投与群の別の個体の肺組織の染色像を示す図である。
【図5】図5は、N-アセチルシステイン(NAC)投与群のある個体の肺組織の染色像を示す図である。
【図6】図6は、正常肺組織の染色像を示す図である。パネルAはHE染色像、パネルBはEM染色像、パネルCは8-ヒドロキシデオキシグアノシン(8-Hydroxydeoxyguanuosine;8OHDG)染色像をそれぞれ表す。
【図7】図7は、ブレオマイシン(パネルA、D、G)、STC1(パネルB、E、H)、NAC(パネルC、F、I)投与群の肺組織の染色像を示す図である。パネルA~CはHE染色像、パネルD~FはEM染色像、パネルG~Iは8OHDG染色像をそれぞれ表す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の線維症予防又は治療用医薬組成物は、STC1を有効成分として含有することを特徴とする。本発明において使用されるSTC1としては、動物細胞又は組織等から得られる天然のSTC1分子又は天然のSTC1と同一のアミノ酸配列を有する組換え型STC1、遺伝子工学技術により改変されたSTC1遺伝子に基づいて産生される組換え型STC1、合成されたSTC1のほか、STC1の活性フラグメントなどの機能的等価物のいずれであってもよい。したがって 、本発明に関して用語「スタニオカルシン1」(STC1)は、特に示さない限り、これらの種々のSTC1をも包含する意味で用いられる。

【0017】
本発明において使用されるSTC1としては、ヒト由来のアミノ酸配列を有するもの又はヒト由来のアミノ酸配列に基づいて機能を損なうことなく改変されたものが好ましい。ヒトSTC1のアミノ酸配列及び塩基配列は公知であり、登録番号NP#003146.1、NM#003155.2としてバンクに登録されている。ヒト以外の動物のSTC1についても、多くの動物由来のSTC1のアミノ酸配列及び塩基配列が知られており、これらはいずれも、ヒトのSTC1に対して、例えば魚類(ギンザケ)94%、鳥類(ニワトリ)95%、各種哺乳類100%の高い相同性を有することが知られている(表1)。

【0018】
【表1-1】
JP0005946191B2_000002t.gif

【0019】
【表1-2】
JP0005946191B2_000003t.gif

【0020】
したがって、本発明において使用可能なSTC1は、ヒトSTC1のアミノ酸配列に対して80%以上、好ましくは90%以上、最も好ましくは94%以上の相同性を有するものである。特に、ヒトSTC1配列(例えば293細胞由来のヒトSTC1配列)と100%一致するアミノ酸配列を有する、天然又はリコンビナントSTC1(rSTC1)を用いることが好ましい。本発明においては、これらのSTC1の1種又は2種以上を適宜選択して用いることができる。

【0021】
本発明の医薬組成物は、STC1を唯一の必須成分とするが、所望により、線維症の改善に有効な作用を持つと考えられている成分を含むことができる。例えば、プレドニン等のステロイド製剤、N-アセチルシステイン等の還元剤、パーフェニドン(pirfenidone)等の抗線維化薬、シクロスポリンA、FK506等の免疫抑制薬や、グルコース輸液、リンゲル輸液の成分等が挙げられ、これらの他の有効成分をさらに含有させることによって、一層の線維症改善作用を期待できる。また、本発明の医薬組成物は、これらの薬剤等と併用することができる。
なお、本発明に関して線維症の「改善」は、予防及び治療(軽快、治癒を含む)を包含する意味で用いられる。

【0022】
本発明の医薬組成物は、製薬又は食品業界で公知の種々の成分などを用いて製剤化して投与することができる。投与経路は、公知のいずれの経口的又は非経口的経路であってもよく、例えば、経口、経皮、注射、経腸、直腸内等の任意の経路を選択することができる。好ましい投与経路としては、気管投与、また、ホルモン製剤の場合のように、経口、又は注射もしくは点滴が挙げられる。

【0023】
したがって、医薬組成物の形態としては、注射用組成物、点滴用組成物、坐剤、経鼻剤、舌下剤、経皮吸収剤などが挙げられる。本発明の医薬組成物には、添加剤として、製薬産業において公知の賦形剤、崩壊剤、滑沢剤、結合剤、界面活性剤、流動性促進剤、着色剤、安定剤、香料などを適宜添加して所望の剤型の医薬組成物とすることができる。

【0024】
例えば、注射用組成物の場合、塩化ナトリウムなどの等張剤や、燐酸塩又はクエン酸塩などの緩衝剤、pH調整剤、グルコースなどの糖類、安定化剤、可溶化剤など、一般的に注射剤に用いられる任意成分を用いることができる。注射剤として投与する場合、本発明の医薬組成物は、生理食塩水等の水性担体に溶解し、滅菌した液体を投与してもよく、あるいは、注射用粉末製剤を製造し、水性担体に溶解した溶液を用時調製して投与してもよい。

【0025】
また、例えば、粉末剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤等の経口剤は、デンプン、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチなどの糖類、及び無機塩類などを用いて常法によって製剤化することができる。これらの製剤には、前記のような賦形剤の他に、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、流動性促進剤、着色料、香料等を適宜使用することができる。

【0026】
このような各種製剤の製造方法は、当業者には充分公知である。なお、本発明に関して「医薬組成物」という場合、人間に対して適用するもののほか、ヒト以外の動物に対して適用するものをも含む。

【0027】
本発明の医薬組成物は、所定の血中濃度を維持するように投与することが望ましい。好ましい血中濃度は、20~200ng/ml程度であることができ、50~100ng/ml程度が好ましい。

【0028】
本発明の医薬組成物の投与量は、その製剤形態、投与方法、及び投与される対象の種類、年齢、体重、病状などによって異なり、それらに応じて各々に適した量で投与することができる。上記のような血中濃度を維持するためには、たとえば体重1kgあたり2mg/日以上とすることができる。ヒトに投与する場合、一般的には、有効成分量として、1日あたり80mg~160mg、例えば、成人1人当たり1日120mg以上の量であることができる。このような1日あたりの用量を、一度に又は分割して、予防又は治療が必要とされている対象に対し、投与することができる。

【0029】
STC1が線維症を改善するメカニズムは、以下のように考えられる。STC1は、UCP2をアップレギュレーションすることにより、ミトコンドリア膜電位を低下させ、これによって、過酸化物質量(ROS)を減少させる。また、脱共役呼吸を誘導し、障害環境下のエネルギー効率を改善することにより、障害軽減作用を発揮する。その結果、細胞の線維化が改善される。これらの機序はSTC1の公知の活性の作用メカニズムとはまったく異なるものである。
【実施例】
【0030】
1.病態モデルマウスにおけるSTC1の線維化抑制効果
病態モデルマウスとして、抗ガン剤であるブレオマイシン(Bleo)の有糸分裂阻害作用を利用した肺線維症モデルを使用し、STC1の作用を調べた。
【実施例】
【0031】
ヒトリコンビナント(r)STC1は、BioVender社により製造した。具体的には、293細胞にTAG構造を付加したヒト由来STC1遺伝子を導入し、TAG配列を用いてrSTC1を分離した。
【実施例】
【0032】
具体的には、1群4匹ずつのC57BL6/Jマウス(雌、10週齢)を、麻酔薬(塩酸ケタミン300μg+キシラジン160ngを100μLの生理食塩水に希釈したもの)を腹腔内に投与することにより麻酔した。その後、頚部を切開し気管を露出させ、23Gのサーフロー針の外套を気管に挿入した。さらに、各群のマウス気管内にサーフロー外套から以下の薬剤をそれぞれ投与した。
【実施例】
【0033】
(1)生食コントロール群: ブレオマイシン含有生理食塩水50μL(ブレオマイシン濃度400ng/mL)
(2)STC1投与群: STC1 500ng+ブレオマイシン含有生理食塩水50μL
(3)NAC投与群(ポジティブコントロール): NAC 3mg+ブレオマイシン含有生理食塩水50μL
(4)正常肺群: 生理食塩水50μL
【実施例】
【0034】
1週間後、上記と同様の麻酔を施した後、頸動脈を切断することによりマウスを安楽死させ、その後肺を摘出した。常法により、摘出した肺組織に病理組織染色(HE(ヘマトキシリン・エオジン)染色、EM(エラスィカマッソン染色)、8OHDG染色)を施し、光学顕微鏡で観察した。
【実施例】
【0035】
結果を図1~6、及び図7に示す。
HE染色は組織の全体像を表す。EM染色は線維化の程度を表し、色が濃くなっているのは弾性線維が増えて肺の線維化が悪化していることを示す。また、8OHDG染色は過酸化物の量を表し、過酸化物が多いほど濃く染色される。
【実施例】
【0036】
図1~6では、パネルAがHE染色、パネルBがEM染色を表す。生食コントロール群(図3、4)では線維化が惹起されているが、STC1投与群(図1、2)、NAC投与群(図5)では線維化が抑制されていた。すなわち、STC1の気道内投与はブレオマイシン肺線維症モデルにおいて、肺線維症の進行を抑制し、STC1で著効、NACで改善を示した。
【実施例】
【0037】
図7には、8OHDG染色の結果を併せて示す。8OHDGで染色した場合、生食コントロール群(パネルG)は有意に染まったが、STC1投与群(パネルH)、NAC投与群(パネルI)では染まりが悪く、正常肺群(図6、パネルC)と同程度であった。したがって、STC1は、NACと同様、ブレオマイシンによる過酸化ストレスを抑制していることが示唆された。
【実施例】
【0038】
以上の結果を表2にまとめて示す。
【実施例】
【0039】
【表2】
JP0005946191B2_000004t.gif
【実施例】
【0040】
この出願は、平成23年7月9日出願の日本特許出願、特願2011-152392に基づくものであり、特願2011-152392の明細書及び特許請求の範囲に記載された内容は、すべてこの出願明細書に包含される。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6