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明細書 :蛍光プローブ及びその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6019535号 (P6019535)
登録日 平成28年10月14日(2016.10.14)
発行日 平成28年11月2日(2016.11.2)
発明の名称または考案の名称 蛍光プローブ及びその製造方法
国際特許分類 A61K  49/00        (2006.01)
G01N  21/64        (2006.01)
FI A61K 49/00 Z
G01N 21/64 F
請求項の数または発明の数 8
全頁数 15
出願番号 特願2013-524724 (P2013-524724)
出願日 平成24年7月17日(2012.7.17)
国際出願番号 PCT/JP2012/068111
国際公開番号 WO2013/011984
国際公開日 平成25年1月24日(2013.1.24)
優先権出願番号 2011160261
優先日 平成23年7月21日(2011.7.21)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成27年7月14日(2015.7.14)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
発明者または考案者 【氏名】小野 健治
【氏名】澤田 誠
【氏名】渕 真悟
【氏名】竹田 美和
個別代理人の代理人 【識別番号】100094190、【弁理士】、【氏名又は名称】小島 清路
【識別番号】100151644、【弁理士】、【氏名又は名称】平岩 康幸
【識別番号】100151127、【弁理士】、【氏名又は名称】鈴木 勝雅
審査官 【審査官】加藤 文彦
参考文献・文献 特開2007-230877(JP,A)
特表2003-504419(JP,A)
特表2006-522123(JP,A)
渕真悟 他,Yb`3+´,Nd`3+´共添加Bi2O3系ガラス蛍光体の近赤外広帯域発光,蛍光体同学会講演予稿,2008年,Vol.323rd,p.7-16
調査した分野 A61K 49/00
G01N 21/64
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
特許請求の範囲 【請求項1】
近赤外光域の波長の光で励起されて該波長以外の近赤外光域の波長の光を発するYbイオン、Ndイオン、Smイオン及びPrイオンから選ばれた少なくとも1種の希土類元素のイオンを含む蛍光プローブであって、該イオンを含むZnO-B系ガラスのガラス粉体からなることを特徴とする蛍光プローブ。
【請求項2】
前記近赤外光域が、800~1200nmの範囲にある波長である請求項1に記載の蛍光プローブ。
【請求項3】
前記希土類元素の含有割合が前記蛍光プローブを構成する原子の合計量に対して0.4~2.0at%である請求項1又は2に記載の蛍光プローブ。
【請求項4】
前記粉体の最大長さを測定した際の下限値が0.1μmであり、上限値が1.0μmである請求項1~のいずれか一項に記載の蛍光プローブ。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の蛍光プローブを製造する方法であって、
Yb、Nd、Sm及びPrから選ばれた少なくとも1種の希土類元素を含む化合物と、ZnO-B系ガラスのガラス原料とを溶融する溶融工程と、
前記溶融工程により得られた溶融物を冷却し、前記希土類元素のイオンを含むガラス組成物を作製する冷却工程と、
前記ガラス組成物を破砕し、粉体を得る破砕工程と、を備えることを特徴とする蛍光プローブの製造方法。
【請求項6】
前記希土類元素を含む化合物が、酸化物である請求項に記載の蛍光プローブの製造方法。
【請求項7】
前記溶融工程における温度が900℃~1350℃である請求項5又は6に記載の蛍光プローブの製造方法。
【請求項8】
前記破砕工程において、乳棒及び乳鉢による破砕、並びに/又は、ボールミルによる破砕が行われる請求項のいずれか一項に記載の蛍光プローブの製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、近赤外光の照射により、照射光の波長と異なる近赤外光を発する蛍光プローブ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光法による生体イメージングは、放射線を用いることなく低侵襲的に構造変化や対象物の動態変化を捉えることができるイメージング手法の一つである。蛍光法では、蛍光プローブが広く用いられ、発光した蛍光をもとに、目的対象物(標的分子)の構造変化や動態変化等が可視化観察されるので、蛍光プローブは、有用である。このような蛍光プローブとして、例えば、特許文献1には、GFPやDsRedなどの蛍光タンパク質やCy2などのCyシリーズやAlexa488などのAlexaシリーズといった有機化合物からなる蛍光色素(有機蛍光色素)が記載されている。また、特許文献2には、その他の有機化合物からなる蛍光プローブが多数記載されている。
【0003】
これらの有機化合物からなる蛍光プローブの多くは、480nm付近の短波長の光で励起するため、励起光が生体深部に到達できず、生体の外表面のイメージングしか行うことができない。また、上記有機化合物は、可視光域で発光するため、生体を構成する物質のさまざまな蛍光と重なり、目的対象物の蛍光とそれ以外の蛍光とが混在したイメージとして得られる。そのため、スペクトル分析を用いて分光するなど、目的対象物を明確に捉えるための工夫が必要となる。更に、有機蛍光色素は、蛍光発生の原理上、退色する傾向にあるので、励起光の照射時間が長いと、目的物質の蛍光シグナルが消失してしまう欠点がある。
【0004】
これらの問題点を解消するには、生体の外表面から20mm程度の深部まで透過する近赤外光域の光を励起光として用い、それに対応した蛍光プローブを用いることが一つの糸口になると考えられる。
【0005】
可視光域と比べ、波長800nmを超える近赤外光域では、生体に対して、単に光の透過性が高いだけではなく、水やヘモグロビンの光吸収が極めて低いことから、血液成分などが発する自家蛍光がほとんど見られない。そのため、近赤外光域の光を用いると、目的対象物の蛍光とそれ以外の物質の蛍光とを区別して明確に捉えることが容易であると考えられる。したがって、近赤外光域蛍光プローブを用いることで、これまでにない良好なイメージングが可能になると考えられる。
【0006】
近年、特許文献3に記載されているように、蛍光プローブとして、半導体量子ドットが用いられ始めている。この手法では、量子ドットの粒子径を変化させることにより、さまざまな波長に対応した蛍光プローブを作製することができる。また、有機蛍光色素などと異なり、近赤外光域の蛍光プローブを作製することもできる。
【0007】
しかしながら、近赤外光域の蛍光を発する量子ドットは、粒子径が大きく、生体で使用しにくい欠点を有する。更に、量子ドットは、カドミウムなどの生体有害物質を含むため、毒性を軽減する必要性が生じる。
【0008】
特許文献4には、希土類元素のイオンを含有したシリコンジオキサイドナノ粒子が開示されており、特許文献5には、希土類元素のイオンを含有したYAGナノ結晶が開示されている。これらの技術によると、量子ドットとは異なるので、粒径に依存せず、広い範囲の波長の光で発光する蛍光プローブを作製することができる。
特許文献4又は5に記載された発明は、特許文献1~3に記載された発明と比べて、その発光波長、退色に対する安定性、粒径の制御等において有用であると考えられる。ところが、YAGナノ結晶やシリコンジオキサイドナノ結晶へ希土類元素のイオンを導入する場合には、希土類元素のイオンが高効率の発光を示すように、結晶中の特定の位置に取り込まれるように結晶成長条件をコントロールしなければならず、製造工程において高度なテクニックが要求される。また、ナノ結晶のサイズコントロールも高度なテクニックが必要である。更に、ナノ結晶の凝集防止も必要であり、製造管理コストは多大なものとなる。特許文献4のシリコンジオキサイドナノ粒子は、溶液からの合成方法によるため、この問題は重要である。尚、特許文献5には、結晶材料ではなく非晶質材料を用いることも示唆されているが、その具体的な原料や製造方法は記載されておらず、YAGナノ結晶等と同様の方法によって、溶液から非晶質ナノ粒子が作製されるものと推測される。
【先行技術文献】
【0009】

【特許文献1】国際公開WO2009/020197号公報
【特許文献2】特開2008-149154号公報
【特許文献3】国際公開WO2008/123291号公報
【特許文献4】特表2003-522149号公報
【特許文献5】特開2007-230877号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、近赤外光を利用する蛍光プローブ及びその効率良い製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、希土類元素のイオンがガラスの中に分散したガラス組成物を作製した。そして、このガラス組成物に近赤外光を照射すると、照射光の波長と異なる近赤外光を発することを見い出した。また、ガラス組成物を、破砕して微粒化した場合、この粉体が近赤外光域の光を励起光とする生体イメージングに好適な蛍光プローブであることを見い出した。即ち、本発明は以下に示される。
1.近赤外光域の波長の光で励起されて該波長以外の近赤外光域の波長の光を発するYbイオン、Ndイオン、Smイオン及びPrイオンから選ばれた少なくとも1種の希土類元素のイオンを含む蛍光プローブであって、該イオンを含むZnO-B系ガラスのガラス粉体からなることを特徴とする蛍光プローブ。
2.上記近赤外光域が、800~1200nmの範囲にある波長である上記1に記載の蛍光プローブ。
.上記希土類元素の含有割合が上記蛍光プローブを構成する原子の合計量に対して0.4~2.0at%である上記1又は2に記載の蛍光プローブ。
.上記粉体の最大長さを測定した際の下限値が0.1μmであり、上限値が1.0μmである上記1~のいずれか一項に記載の蛍光プローブ。
上記1~4のいずれか一項に記載の蛍光プローブを製造する方法であって、
Yb、Nd、Sm及びPrから選ばれた少なくとも1種の希土類元素を含む化合物と、ZnO-B系ガラスのガラス原料とを溶融する溶融工程と、上記溶融工程により得られた溶融物を冷却し、上記希土類元素のイオンを含むガラス組成物を作製する冷却工程と、上記ガラス組成物を破砕し、粉体を得る破砕工程と、を備えることを特徴とする蛍光プローブの製造方法。
.上記希土類元素を含む化合物が、酸化物である上記に記載の蛍光プローブの製造方法。
.上記溶融工程における温度が900℃~1350℃である上記5又は6に記載の蛍光プローブの製造方法。
.上記破砕工程において、乳棒及び乳鉢による破砕、並びに/又は、ボールミルによる破砕が行われる上記のいずれか一項に記載の蛍光プローブの製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の蛍光プローブは、希土類元素のイオンが、ガラスの中に分散しているガラス粉体からなることから、近赤外光を照射すると、照射光の波長と異なる近赤外光を発する。この性質を利用して、近赤外光域の光を励起光とする生体イメージングに好適に用いることができる。また、本発明の蛍光プローブは、有機色素と異なり退色することなく化学的に安定であり、量子ドットのように粒子径にも制限がないので、市販の励起用光源を用いた多彩な生体イメージング法における蛍光プローブとして好適である。特に、上記の励起光は、ヒトを含む動物の体表面から内部への透過性に優れるので、表面から20mm程度の深さまでの範囲における所望の部位をより詳しく観察することができる。
【0013】
本発明における希土類元素のイオンが、Ybイオン、Ndイオン、Smイオン及びPrイオンから選ばれた少なくとも1種であるので、近赤外光域の波長の光であって、励起光と異なる波長の発光(蛍光)を容易に得ることができる。
例えば、希土類元素のイオンとして、Ybイオン及びNdイオンの両方を含む場合は、波長808nmの光の照射で、生体透過性の高い1000nm帯(950~1050nmを含む)の発光が得られる。そして、希土類元素のイオンとして、Ndイオンを単独で用いた場合は、波長808nmの光の照射で、安価なSi系検出器を用いることができる900nm帯(860~930nmを含む)の発光が得られる。また、希土類元素のイオンとして、Ybイオンを単独で用いた場合は、波長808nmの光の照射で、1000nm帯(950~1050nmを含む)の発光が得られる。
【0014】
本発明におけるガラスが、ZnO-B系ガラスであるので、励起光及び蛍光の波長の透過性に優れ、高い発光強度が得られる。
また、粉体を構成する希土類元素の含有割合が、蛍光プローブを構成する原子の合計量に対して0.4~2.0at%である場合には、より高い蛍光強度を得ることができる。
【0015】
本発明の蛍光プローブの製造方法によれば、蛍光プローブを効率良く製造することができる。溶融工程によりガラス原料等を溶融した後、冷却工程及び破砕工程を経て、蛍光プローブを作製するため、自由度の大きい製造方法とすることができる。また、上記のように、ガラス組成を広く選択することができるので、破砕特性及び発光特性に合わせて、一般的なガラス原料を自由に扱うことができる。ガラス原料として、ZnO-B系ガラスを形成する原料を用いると、溶融工程における溶融温度を、低下させることができ、ガラス組成物を円滑に形成することが可能となる。尚、引用文献に示された方法のように、溶液からのナノ結晶成長を利用する方法では、結晶母体組成によって成長条件が異なるため、自由度が小さい。更に、ガラス組成物は、一般的な破砕によって微粒化が容易であることから、本発明の蛍光プローブの製造方法は、非常に簡便である。また、凝集防止に関してもガラス組成物を製造後、破砕する際に、一般的な凝集防止剤を使用すればよい。以上より、本発明の蛍光プローブの製造方法によって、製造コスト及び管理コストの低減化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】の蛍光プローブの製造方法で作製したガラス組成物(破砕前)の外観画像である。
【図2】の蛍光プローブの製造方法で作製した蛍光プローブの粒径分布を示すグラフである。
【図3】参考例1で得られた蛍光プローブ粉体に可視光を照射して撮影した画像である。
【図4】参考例1で得られた蛍光プローブ(粉体)に近赤外光を照射して撮影した画像である。
【図5】参考例1で得られた蛍光プローブ(粉体)に近赤外光を照射して得られた蛍光スペクトルである。
【図6】参考例1で得られた蛍光プローブをマウスの尾静脈に注入した後、自然光下にて撮影した画像である。
【図7】参考例1で得られた蛍光プローブをマウスの尾静脈に注入した後、近赤外光を照射して撮影した画像である。
【図8】参考例1で得られた蛍光プローブをマウスの肺に集積させた後、自然光下にて撮影した画像である。
【図9】参考例1で得られた蛍光プローブをマウスの肺に集積させた後、近赤外光を照射して撮影した画像である。
【図10】参考例1で得られた蛍光プローブをマウスの皮膚下に注入する前に、近赤外光を照射して撮影した画像である。
【図11】参考例1で得られた蛍光プローブをマウスの皮膚下に注入した後、近赤外光を照射して撮影した画像である。
【図12】実施例で得られた蛍光プローブ粉体に近赤外光を照射して得られた蛍光スペクトルである。
【図13】参考で得られた蛍光プローブ粉体に近赤外光を照射して得られた蛍光スペクトルである。
【図14】実施例で得られた蛍光プローブ粉体に近赤外光を照射して得られた蛍光スペクトルである。
【図15】実施例で得られた蛍光プローブ粉体に近赤外光を照射して得られた蛍光スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
1.蛍光プローブ
本発明の蛍光プローブは、近赤外光域の波長の光で励起されて該波長以外の近赤外光域の波長の光を発するYbイオン、Ndイオン、Smイオン及びPrイオンから選ばれた少なくとも1種の希土類元素のイオンを含む蛍光プローブであって、該イオンを含むZnO-B系ガラスのガラス粉体からなることを特徴とする。本発明における近赤外光域の波長とは、750nmから2500nm程度の波長範囲を意味し、好ましくは800nmから1200nmの波長範囲である。
尚、本明細書において、Yb、Nd、Tm、Sm、Ho、Er、Dy及びPrは、希土類元素のイッテルビウム(Yb)、ネオジム(Nd)、ツリウム(Tm)、サマリウム(Sm)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ジスプロシウム(Dy)及びプラセオジム(Pr)を示す。
本発明の蛍光プローブを構成するガラス粉体は、Ybイオン、Ndイオン、Smイオン及びPrイオンから選ばれた少なくとも1種の希土類元素のイオンが、ZnO-Bガラスの中に分散された粉体である。これは、ガラスの中に希土類元素のイオンが散らばって含まれている状態を意味し、希土類元素のイオンによる特定の化学構造体を形成している状態ではない。尚、本発明の蛍光プローブでは、希土類元素のイオンは、三価のイオンとして存在している。

【0018】
本発明の蛍光プローブに含まれる希土類元素のイオンは、その励起帯に相当する波長の光により励起され、励起状態から基底状態へ緩和する際に発光する。本発明の蛍光プローブにおいて、希土類元素のイオンの励起帯に相当する波長の光が近赤外光域にあり、発光する光の波長が、近赤外光域にあり、且つ、励起光と異なる波長であることから、励起光以外の波長の光を利用している蛍光プローブであるといえる。また、希土類元素のイオンが、励起光及び蛍光の透過性に優れたガラスの中に含まれることから、希土類元素のイオンの発光強度を低減させることなく、蛍光プローブにおける十分な発光強度を得ることができる。

【0019】
本発明の蛍光プローブに用いる希土類元素のイオンは、Ybイオン、Ndイオン、Smイオン及びPrイオンから選ばれた少なくとも1種である。
例えば、発光中心としてYbイオン及びNdイオンを含有する蛍光プローブは、808nm付近を含む光の受光により、2つのイオンが励起され、850nm~1100nmの近赤外光域で発光する。このように、励起光と異なる波長で発光し、生体の観察に適した蛍光プローブとすることができる。

【0020】
本発明の蛍光プローブを構成する粉体中の希土類元素の含有割合の下限値は、発光強度の観点から、蛍光プローブを構成する原子の合計量に対して、好ましくは0.05at%であり、より好ましくは0.4at%、更に好ましくは0.7at%である。また、上限値は、通常、10at%、好ましくは7at%、より好ましくは3.4at%、更に好ましくは2.0at%である。希土類元素のイオンの含有割合が多過ぎると、濃度消光が生じることがある。そのため、含有割合は、濃度消光が生じない範囲で、希土類元素のイオンの種類等に応じて、適宜、設定すればよい。

【0021】
本発明におけるガラス粉末を構成するZnO-Bガラスは、ガラス転移現象を示す無機化合物からなる非晶質固体である。この非晶質固体は、公知の方法により粉砕される結晶と同程度の剛性を持つ。

【0022】
本発明の蛍光プローブの形態は、粉体であり、形状は、球体、楕円球体、多面体(立方体、直方体、八面体等)等の塊状;断面が、円形、楕円形又は多角形の線状(直線体、曲線体)等とすることができる。この蛍光プローブの大きさは、具体的には、電子顕微鏡、レーザー散乱計等で測定される最大長さの上限値が、好ましくは10μm、より好ましくは5μm、更に好ましくは1μm以下である。但し、下限値は、通常、0.1μmである。蛍光プローブの発光強度は、粉体の体積に依存するので、最大長さの下限値が0.1μmであれば、十分な発光強度を得ることができる。尚、蛍光プローブが小さければ、ヒトを含む動物の毛細血管内を移動させることが容易となり好ましい。生体イメージングに好ましい形状は、尖った部位ができるだけ少ない形状であり、多面体や球体に近い形状がより好ましい。

【0023】
2.蛍光プローブの製造方法
本発明の蛍光プローブの製造方法は、Yb、Nd、Sm及びPrから選ばれた少なくとも1種の希土類元素を含む化合物(以下、単に「希土類化合物」ともいう)と、ZnO-B系ガラスのガラス原料とを溶融する溶融工程と、上記溶融工程により得られた溶融物を冷却し、上記希土類元素のイオンを含むガラス組成物を作製する冷却工程と、上記ガラス組成物を破砕し、粉体を得る破砕工程と、を備えることを特徴とする。
本発明の製造方法では、希土類元素を結晶中の特定の位置に取り込ませなければならない技術と異なり、単純に、溶融工程及び冷却工程により、ガラス組成物の中に希土類元素のイオンが取り込まれるため、製造上のテクニックを必要としない。

【0024】
上記溶融工程は、希土類化合物と、ガラス原料とを含有する混合物を溶融する工程である。この溶融工程により、希土類化合物とガラス原料の両方が溶融して混ざり合った溶融物が生成する。

【0025】
上記希土類化合物は、溶融工程でガラス原料とともに溶融混合物を形成し、冷却工程の後、ガラス組成物の中に希土類元素のイオンを生じさせる化合物である。このような化合物としては、希土類元素を含む酸化物、水酸化物、硫酸塩、炭酸塩、硝酸塩、リン酸塩及びハロゲン化物等が挙げられる。このような希土類化合物は、1種のみでもよく、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらのうち、生体に対する光透過性の高い蛍光が得られることから、Yb、Nd、Sm及びPrから選ばれた希土類元素の酸化物が特に好ましい。具体的には、ガラスの中に、Ybイオン又はNdイオンを分散させた蛍光プローブを製造する場合、希土類化合物として、Yb又はNdが好ましく用いられる。

【0026】
上記ガラス原料は、ZnO-B系ガラスの原料であり、加熱により溶融物とされた後に冷却されて、ガラスを形成することができる材料である。一般的なガラス原料としては、よく知られたガラス形成化合物を用いることができ、SiO、GeO、P、B等が挙げられ、ガラスの諸物性を制御するために、Bi、ZnO、CaO等の修飾酸化物等を併用する。例えば、ガラス粉末を構成するガラスをBi-B系ガラスとする場合、Bi及びHBOが用いられる。
製造コストを考慮すると、形成されるガラスの融点が低くなるガラス原料を用いることが好ましい。また、適切な破砕特性が得られるガラスが得られるように、ガラス中の各酸化物の割合を調整することが好ましい。

【0027】
溶融工程における、希土類化合物及びガラス原料の混合比は、蛍光プローブの使用目的に応じて、適宜、選択される。上記のように、本発明の蛍光プローブを構成する原子の合計量に対して、希土類元素の好ましい含有割合が0.05~10at%であるので、希土類化合物の使用量は、希土類化合物及びガラス原料の合計量に対して、好ましくは0.1~10mol%であり、より好ましくは1~5mol%である。希土類化合物の使用量が、上記範囲内であると、濃度消光が抑制され、発光特性に優れる蛍光プローブが得られる。

【0028】
上記溶融工程において、溶融物を調製する方法及び溶融条件は、特に限定されない。
溶融工程における溶融温度は、希土類化合物及びガラス原料の種類により、適宜、選択されるが、好ましくは800℃~1500℃であり、より好ましくは900℃~1350℃、更に好ましくは1000℃~1250℃である。
また、溶融工程における溶融時間は、好ましくは5~60分であり、より好ましくは10~15分である。

【0029】
上記冷却工程は、溶融工程で得られた溶融物を冷却し、希土類元素のイオンを含むガラス組成物を得る工程である。溶融物の冷却方法及び冷却条件は、特に限定されない。例えば、大気雰囲気下での放置による空冷等が挙げられる。冷却速度は、例えば、毎秒数ケルビンとすることができる。

【0030】
上記破砕工程は、冷却工程で得られたガラス組成物を破砕して、粉体を得る工程である。この破砕工程で得られた粉体を蛍光プローブとして用いることができる。ガラス組成物の粉砕方法は、特に限定されず、ガラス等の塊状物を粉砕し、微粒化する、公知の方法を適用することができる。例えば、乳棒及び乳鉢による破砕、ボールミルによる破砕等が挙げられる。これらの粉砕方法は、組み合わせて行うこともできる。

【0031】
以下、Ybイオン及びNdイオンを含有するBi-B系ガラスの粉体からなる蛍光プローブの製造方法の1例を示す。

【0032】
Ybイオン及びNdイオンを含有するBi-B系ガラスの粉体からなる蛍光プローブは、Yb粉末、Nd粉末、Bi粉末及びHBO粉末を、所定の割合で混合し、加熱して混合物を溶融した後、溶融物を冷却し、更に、冷却物(ガラス組成物)を粉砕することにより作製される。混合物を溶融する場合には、アルミナ坩堝等が用いられ、溶融温度は、例えば、1000℃~1250℃に設定される。また、冷却は、ステンレス製又はカーボン製の鋳型に融液(溶融物)を流し出し、空冷すればよい。尚、1000℃を超える温度で溶融を行うと、Biイオンが還元されるため、この場合は、Sb粉末を使用すると、Biイオンの還元を抑制することができる。希土類化合物とガラス原料との合計を100mol%としたときに、Ybの使用量が5.0mol%以下、かつ、Ndの使用量が6.0mol%以下であれば、1000℃での溶融物を冷却することにより、ガラス組成物を作製することができる。蛍光プローブの原料として、Ybを1.0mol%、Ndを1.0mol%、Biを48.5mol%、Bを48.5mol%、Sbを1.0mol%として作製したガラス組成物(破砕前)の外観画像を図1に示す。

【0033】
次いで、得られたガラス組成物を、上記例示した方法により破砕することにより、蛍光プローブを作製できる。尚、破砕条件を変えることによって、最終的に得られる蛍光プローブの粒径分布を、例えば、図2(A)及び(B)に示すように制御できる。

【0034】
希土類元素のイオン源として、Yb及びNdを用いる場合、Yb及びNdの使用量並びにガラス原料の組成は、所望の発光特性が得られるように、適宜、変更してもよい。例えば、希土類化合物とガラス原料との合計を100mol%としたときに、Ybを5.0mol%、Ndを2.9mol%、Biを43.9mol%、Bを48.1mol%として作製した蛍光プローブは、十分な発光特性を与える。また、Yb及びNdの使用量を、それぞれ、5.0mol%及び3.0mol%に固定して、Bi及びBの使用量をそれぞれ、91.9mol%及び0mol%、82.4mol%及び9.5mol%、73.2mol%及び18.8mol%、64.5mol%及び27.3mol%、55.2mol%及び33.7mol%、又は、36.6mol%及び55.4mol%と変化させることもできる。

【0035】
本発明の蛍光プローブは、生体イメージングに好適であり、蛍光プローブを生体内に導入する方法は、以下に例示される。
(1)蛍光プローブを、シリンジにより、直接、注射する方法
(2)蛍光プローブと、液体とを含む分散液を、シリンジにより、直接、注射する方法
(3)蛍光プローブをエンドサイトーシスやファゴサイトーシスによって取り込んだ細胞を、シリンジにより注射する方法
(4)蛍光プローブを細胞膜に標識した細胞を、シリンジにより注射する方法
(5)蛍光プローブを標識した抗体や化学物質をシリンジにより注射する方法
そして、生体外部から励起光を照射し、蛍光プローブからの発光を観察する。その際、励起光の波長と発光の波長とが異なるため、励起光を除去する光学フィルターを用いるとよい。励起光の光源としては、市販の光源を用いればよく、発光ダイオードやレーザダイオードのような半導体発光デバイスが好ましい。希土類イオン分散ガラス蛍光プローブの発光は、Si系CCDカメラ、InGaAsカメラ等の既存の2次元検出器を用いればよい。
本発明の蛍光プローブは、化学的に安定であるので、生体内における所望の部位に導入しても、変質又は分解を引き起こすことがないので、近赤外光を照射することにより、十分な発光強度を得ることができる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例を挙げて、本発明の実施の形態を、更に具体的に説明する。但し、本発明は、これらの実施例に何ら制約されるものではない。
【実施例】
【0037】
参考例1
(1)蛍光プローブの調製
希土類元素化合物として、1mol%のYb粉末(関東化学社製 素材研究用試薬)及び4mol%のNd粉末(関東化学社製 素材研究用試薬)と、ガラス原料として、47mol%のBi粉末(関東化学社製 素材研究用試薬)、B換算で47mol%となる量のHBO粉末(ナカライテスク社製 特級試薬)、及び、1mol%のSb粉末(和光純薬工業株式会社製 試薬)と(希土類元素化合物及びガラス原料を合わせて100mol%とする)を、チャック袋(zipper bag)中で混合し、蛍光プローブの原料である混合粉末を調製した。次いで、混合粉末をアルミナ坩堝に投入し、大気雰囲気下、1250℃で10分間加熱をして、溶融させた。続いて、ステンレス鋳型に溶融物(融液)を流し出して、室温(20℃程度)で空冷させて、希土類イオンが分散したガラス組成物を得た。その後、得られたガラス組成物を、乳棒、乳鉢及びボールミルにより破砕し、レーザー散乱計により測定される最大長さが0.1μm以上1μm以下の粉体混合物(蛍光プローブ)を作製した。希土類元素(Yb及びNdの含有量の合計)の含有割合は、蛍光プローブを構成する全原子の合計に対して、2.0at%であった。
上記により得られた蛍光プローブに対して、可視光を照射したとき、及び、波長808nmを含む近赤外光を照射したときの蛍光プローブの画像を、それぞれ、図3及び図4に示す。波長808nmを含む近赤外光を照射した場合、励起されて蛍光を発して、蛍光プローブの粉末形状を反映していることが確認された。また、蛍光スペクトル測定により、蛍光の波長は850~1100nmであることを確認した(図5参照)。
【実施例】
【0038】
(2)生体イメージング評価
蛍光プローブ0.1gを、リン酸緩衝液(pH7.4、10mM)1mlに投入し、撹拌して、蛍光プローブが懸濁した分散液を得た。得られた分散液を、26ゲージ針の付いた1mlシリンジに充填し、マウスの尾静脈から200μl注入した。図6及び図7に、自然光の下でマウス尾部を撮影した画像、及び、808nmを含む近赤外光を照射して励起させ、マウス尾部に含まれる蛍光プローブから発せられた蛍光(波長850~1100nmの光)を撮影した画像を示す。
【実施例】
【0039】
図7に示す画像によると、マウスの尾静脈中の蛍光プローブの発光が明瞭に観察できた(2つの矢印の間の発光線参照)。波長808nmの光は、生体透過性の比較的高い励起極大波長の1つであるため、尾静脈中の蛍光プローブを十分励起することができた。そして、蛍光プローブの蛍光は、波長850~1100nmの光であるため、蛍光プローブが尾静脈の中にあるにも関わらず、この光が生体を透過しマウスの尾の外から容易に観察できた。更に、マウスの尾静脈の周辺の発光は観察されず、低侵襲で、バックグラウンド発光の無い尾静脈の観察ができた。
【実施例】
【0040】
参考例2
参考例1と同様の方法で調製した蛍光プローブの分散液を、参考例1と同様の方法により、マウスの体内に注入し、蛍光プローブを肺に集積させた。図8及び図9に、マウスの皮膚のみを切開後、肺を含む部分を撮影した画像を示す。図8は、自然光の下で撮影した画像であり、図9は、808nmを含む近赤外光を照射して励起させ、蛍光プローブから発せられた蛍光(波長850~1100nmの光)を撮影した画像である。
【実施例】
【0041】
図8に示される画像から、蛍光プローブの集積は明瞭ではないが、図9に示される画像によると、肺へ集積した蛍光プローブの発光が明確に観察された。尚、皮膚を切開せずに、除毛だけした場合でも、近赤外光の照射により、同様の蛍光観察を行うことができた。このように、低侵襲で、バックグラウンド発光の無い肺のイメージングができた。尚、最終的には、開腹によって肺への集積を確認した。
【実施例】
【0042】
参考例3
参考例1と同様の方法で調製した蛍光プローブの分散液を、参考例1と同様の方法により、マウスの皮膚下に注入した。蛍光プローブを注入する前と、注入した後に、同じ位置を撮影した画像を図10及び図11に示す。尚、いずれの場合も808nmの励起光を照射した。
【実施例】
【0043】
図10に示すように、蛍光プローブをマウスの皮膚下に注入する前の画像では、発光は観察されなかった。一方、図11に示すように、蛍光プローブをマウスの皮膚下に注入した後では、皮膚下の注入部のみから850~1100nmの蛍光が明確に観察された。このように、皮膚下に存在する蛍光プローブのみを低侵襲で観察することができた。
【実施例】
【0044】
参考例1~3では、微粒化された蛍光プローブを直接用いているが、蛍光プローブの表面を、ポリマー等でコーティングしたり、抗体や薬物などに標識したりすることも可能である。蛍光プローブの標識を行う場合には、抗体等を、蛍光プローブの表面の官能基(例えば、水酸基)に、直接、結合させる方法、蛍光プローブの表面を、シランカップリング剤(例えば、3-アミノプロピルトリメトキシシラン)等でコーティングした後、抗体等を結合させる方法等を適用することができる。
【実施例】
【0045】
実施例(蛍光プローブの製造)
希土類元素化合物として、1mol%のYb粉末(関東化学社製 素材研究用試薬)、及び、1mol%のNd粉末(関東化学社製 素材研究用試薬)と、ガラス原料として、54mol%のZnO粉末(関東化学社製 素材研究用試薬)、及び、B換算で44mol%となる量のHBO粉末(ナカライテスク社製 特級試薬)と(希土類元素化合物及びガラス原料を合わせて100mol%とする)を、混合し、蛍光プローブの原料である混合粉末を調製した。次いで、混合粉末をアルミナ坩堝に投入し、大気雰囲気下、1250℃で10分間加熱をして、溶融させた以外は、参考例1と同様にして、蛍光プローブを作製した。希土類元素(Yb及びNdの含有量の合計)の含有割合は、蛍光プローブを構成する全原子の合計に対して、0.8at%であった。
上記により得られた蛍光プローブの蛍光スペクトル測定により、蛍光の波長は870~1100nmであることを確認した(図12参照)。
【実施例】
【0046】
参考(蛍光プローブの製造)
希土類元素化合物として、1mol%のEr粉末(関東化学社製 素材研究用試薬)と、ガラス原料として、49mol%のBi粉末(関東化学社製 素材研究用試薬)、B換算で49mol%となる量のHBO粉末(ナカライテスク社製 特級試薬)、及び、1mol%のSb粉末(和光純薬工業株式会社製 試薬)と(希土類元素化合物及びガラス原料を合わせて100mol%とする)を、混合し、蛍光プローブの原料である混合粉末を調製した。次いで、混合粉末をアルミナ坩堝に投入し、大気雰囲気下、1250℃で10分間加熱をして、溶融させた以外は、参考例1と同様にして、蛍光プローブを作製した。希土類元素であるErの含有割合は、蛍光プローブを構成する全原子の合計に対して、0.4at%であった。
上記により得られた蛍光プローブの蛍光スペクトル測定により、蛍光の波長は1440~1640nmであることを確認した(図13参照)。
【実施例】
【0047】
実施例(蛍光プローブの製造)
希土類元素化合物として、1mol%のSm粉末(関東化学社製 素材研究用試薬)と、ガラス原料として、54.5mol%のZnO粉末(関東化学社製 素材研究用試薬)、及び、B換算で44.5mol%となる量のHBO粉末(ナカライテスク社製 特級試薬)と(希土類元素化合物及びガラス原料を合わせて100mol%とする)を、混合し、蛍光プローブの原料である混合粉末を調製した。次いで、混合粉末をアルミナ坩堝に投入し、大気雰囲気下、1250℃で10分間加熱をして、溶融させた以外は、参考例1と同様にして、蛍光プローブを作製した。希土類元素であるSmの含有割合は、蛍光プローブを構成する全原子の合計に対して、0.6at%であった。
上記により得られた蛍光プローブの蛍光スペクトル測定により、蛍光の波長は750~1050nmであることを確認した(図14参照)。
【実施例】
【0048】
実施例(蛍光プローブの製造)
希土類元素化合物として、Pr換算で1mol%となる量のPr11粉末(関東化学社製 素材研究用試薬)と、ガラス原料として、54.5mol%のZnO粉末(関東化学社製 素材研究用試薬)、及び、B換算で44.5mol%となる量のHBO粉末(ナカライテスク社製 特級試薬)と(希土類元素化合物及びガラス原料を合わせて100mol%とする)を、混合し、蛍光プローブの原料である混合粉末を調製した。次いで、混合粉末をアルミナ坩堝に投入し、大気雰囲気下、1250℃で10分間加熱をして、溶融させた以外は、参考例1と同様にして、蛍光プローブを作製した。希土類元素であるPrの含有割合は、蛍光プローブを構成する全原子の合計に対して、0.6at%であった。
上記により得られた蛍光プローブの蛍光スペクトル測定により、蛍光の波長は760~1100nmであることを確認した(図15参照)。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の蛍光プローブは、近赤外光を用いた生体イメージングに好適である。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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