TOP > 国内特許検索 > 植物気孔開口調節剤 > 明細書

明細書 :植物気孔開口調節剤

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2016-117685 (P2016-117685A)
公開日 平成28年6月30日(2016.6.30)
発明の名称または考案の名称 植物気孔開口調節剤
国際特許分類 A01N  43/54        (2006.01)
A01N  43/90        (2006.01)
A01P  21/00        (2006.01)
A01G   7/06        (2006.01)
FI A01N 43/54 G
A01N 43/90 104
A01N 43/90 102
A01P 21/00
A01G 7/06 A
請求項の数または発明の数 14
出願形態 OL
全頁数 16
出願番号 特願2014-258418 (P2014-258418)
出願日 平成26年12月22日(2014.12.22)
発明者または考案者 【氏名】木下 俊則
【氏名】井上 心平
【氏名】戸田 陽介
【氏名】佐藤 綾人
【氏名】青木 沙也
出願人 【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
個別代理人の代理人 【識別番号】110000796、【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
審査請求 未請求
テーマコード 2B022
4H011
Fターム 2B022EA01
2B022EA10
4H011AB03
4H011BA01
4H011BB08
4H011BC18
4H011DA13
4H011DC05
4H011DD03
要約 【課題】植物気孔開口促進剤、及び植物気孔開口阻害剤、さらにはこれらを用いた植物成長促進方法、及び乾燥耐性向上方法を提供すること。
【解決手段】一般式(1)で表される化合物、一般式(2)で表される化合物、これらの化合物の塩、並びにこれらの化合物若しくはその塩の溶媒和物からなる群より選択される少なくとも1種、又は
一般式(3)で表される化合物、この化合物の塩、並びにこの化合物若しくはその塩の溶媒和物からなる群より選択される少なくとも1種
を有効成分として含有する、植物気孔開口調節剤。
【選択図】なし
特許請求の範囲 【請求項1】
一般式(1):
【化1】
JP2016117685A_000010t.gif
[一般式(1)中、Rは2,2-ビス(ヒドロキシメチル)プロピオニルオキシ基、ヒドロキシ基、2-ヒドロキシエトキシ基、2-エトキシエトキシ基、ジメチルホスフィノイルオキシ基、又は1H-テトラゾール-1-イル基を示し; Rはメトキシ基、水素原子、ヒドロキシ基、又はメチルチオ基を示し; Rはメトキシ基又は水素原子を示し; 波線はR、R、又はRと結合した炭素原子がS及びRのいずれの配置もとり得ることを示す。]
で表される化合物、一般式(2):
【化2】
JP2016117685A_000011t.gif
[一般式(2)中、R~Rは同一又は異なって炭素数1~4のアルコキシ基を示す。]
で表される化合物、これらの化合物の塩、並びにこれらの化合物若しくはその塩の溶媒和物からなる群より選択される少なくとも1種、又は
一般式(3):
【化3】
JP2016117685A_000012t.gif
[一般式(3)中、R10~R12は同一又は異なって水素又は炭素数1~4のアルキル基を示す。]
で表される化合物、この化合物の塩、並びにこの化合物若しくはその塩の溶媒和物からなる群より選択される少なくとも1種を有効成分として含有する、植物気孔開口調節剤。
【請求項2】
が2,2-ビス(ヒドロキシメチル)プロピオニルオキシ基である、請求項1に記載の調節剤。
【請求項3】
及びRがメトキシ基である、請求項1又は2に記載の調節剤。
【請求項4】
~Rがメトキシ基である、請求項1~3のいずれかに記載の調節剤。
【請求項5】
10及びR11がエチル基であり、且つR12がメチル基である、請求項1~4のいずれかに記載の調節剤。
【請求項6】
一般式(1)で表される化合物、一般式(2)で表される化合物、これらの化合物の塩、並びにこれらの化合物若しくはその塩の溶媒和物からなる群より選択される少なくとも1種を有効成分として含有する、植物気孔開口促進剤。
【請求項7】
一般式(1)で表される化合物、一般式(2)で表される化合物、これらの化合物の塩、並びにこれらの化合物若しくはその塩の溶媒和物からなる群より選択される少なくとも1種を有効成分として含有する、光合成促進剤。
【請求項8】
一般式(1)で表される化合物、一般式(2)で表される化合物、これらの化合物の塩、並びにこれらの化合物若しくはその塩の溶媒和物からなる群より選択される少なくとも1種を有効成分として含有する、植物成長促進剤。
【請求項9】
一般式(3)で表される化合物、この化合物の塩、並びにこの化合物若しくはその塩の溶媒和物からなる群より選択される少なくとも1種を有効成分として含有する、植物気孔開口阻害剤。
【請求項10】
一般式(3)で表される化合物、この化合物の塩、並びにこの化合物若しくはその塩の溶媒和物からなる群より選択される少なくとも1種を有効成分として含有する、乾燥耐性向上剤。
【請求項11】
請求項8に記載の植物成長促進剤を植物又は植物の生育する土壌に施用する、植物成長促進方法。
【請求項12】
請求項8に記載の植物成長促進剤を植物の気孔に接触させる、請求項11に記載の促進方法。
【請求項13】
請求項10に記載の乾燥耐性向上剤を植物又は植物の生育する土壌に施用する、乾燥耐性向上方法。
【請求項14】
請求項10に記載の乾燥耐性向上剤を植物の気孔に接触させる、請求項13に記載の向上方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、植物気孔開口調節剤に関する。より具体的には、植物気孔開口促進剤、及び植物気孔開口阻害剤、さらにはこれらを用いた植物成長促進方法、及び乾燥耐性向上方法に関する。
【背景技術】
【0002】
陸生高等植物は、葉の表皮に存在する気孔の開口調節を通じて、光合成に必要な二酸化炭素の取り込み量や、蒸散量等の調節を行っている。例えば、水不足に晒されると、植物体内の水分を維持するために、気孔を閉鎖し、蒸散を抑制することが知られている。また、気孔は光に反応して開口され、光合成に必要な二酸化炭素の取り込みが促進されることが知られている。このため、気孔開口を人為的に調節することにより、光合成の促進、成長促進、乾燥耐性向上等の効果が期待できる。
【0003】
気孔開口の人為的な調節の例としては、孔辺細胞において細胞膜H-ATPase(AHA2)を過剰発現させる方法が報告されている(特許文献1、非特許文献1)。この方法によれば、気孔開口を促進させ、これに伴い光合成速度及び植物成長も促進させることができる。また、孔辺細胞においてマグネシウムキラターゼHサブユニットを過剰発現させ、気孔の閉鎖を促進させることによって、乾燥耐性を向上させる方法も報告されている(非特許文献2)。
【0004】
これらの方法は、遺伝子組換え技術によるものであるため、
1.遺伝子組換え技術が確立していない生物種においては組換え技術の確立・最適化が都度必要となる。
2.遺伝子組み換え作物(GMO)の作出に時間がかかる(例えばポプラはトランスジェニック当代の作出に約半年、イネにおいては次世代のGMO種子の獲得に半年以上それぞれ要する。)
3.作成したGMOに対して都度認可が必要となる。
【0005】
これに対して、既に生育している植物に対して施用することにより気孔開口を調節できる物質であれば、GMOの作出及びその認可という手続を各種植物に対して採らなくてもよいので、非常に有用である。
【0006】
一方、シロリムスやその誘導体(テンシロリムス等)は、動物において、免疫抑制作用や抗がん作用を有することが知られている。CP-100356は、細胞毒性物質の細胞外への排出を担うP糖タンパク質の阻害作用を有することが知られている。PD-166285は、チロシンキナーゼc-Src、線維芽細胞増殖因子レセプター1(FGFR1)、及び血小板由来増殖因子レセプターβ(PDGFRβ)の阻害作用を有することが知られている。しかしながら、これらの化合物やその類似化合物が気孔開口を調節することは全く知られていない。
【先行技術文献】
【0007】

【特許文献1】国際公開第2014/142334号
【0008】

【非特許文献1】PNAS, January 7, 2014, vol.111, no.1, pp.533-538
【非特許文献2】Front Plant Sci, October 30, 2013, vol.4, Article440
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、植物気孔開口調節剤を提供することを目的とする。より具体的には、植物気孔開口促進剤、及び植物気孔開口阻害剤、さらにはこれらを用いた植物成長促進方法、及び乾燥耐性向上方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題に鑑み鋭意研究を重ねた結果、本発明者等は、一般式(1)で表される化合物及び一般式(2)で表される化合物が植物気孔開口促進作用を有することを見出した。また、これらの化合物による気孔開口促進作用は、乾燥ストレス応答性の植物ホルモンであるアブシジン酸によって抑制されることを見出した。さらに、一般式(3)で表される化合物が植物気孔開口阻害作用を有することをも見出した。本発明は、これらの知見に基づいて更に研究を重ねた結果、完成されたものである。すなわち、本発明は以下の構成を包含する。
【0011】
項1.
一般式(1):
【0012】
【化1】
JP2016117685A_000002t.gif

【0013】
[一般式(1)中、Rは2,2-ビス(ヒドロキシメチル)プロピオニルオキシ基、ヒドロキシ基、2-ヒドロキシエトキシ基、2-エトキシエトキシ基、ジメチルホスフィノイルオキシ基、又は1H-テトラゾール-1-イル基を示し; Rはメトキシ基、水素原子、ヒドロキシ基、又はメチルチオ基を示し; Rはメトキシ基又は水素原子を示し; 波線はR、R、又はRと結合した炭素原子がS及びRのいずれの配置もとり得ることを示す。]
で表される化合物、一般式(2):
【0014】
【化2】
JP2016117685A_000003t.gif

【0015】
[一般式(2)中、R~Rは同一又は異なって炭素数1~4のアルコキシ基を示す。]
で表される化合物、これらの化合物の塩、並びにこれらの化合物若しくはその塩の溶媒和物からなる群より選択される少なくとも1種、又は
一般式(3):
【0016】
【化3】
JP2016117685A_000004t.gif

【0017】
[一般式(3)中、R10~R12は同一又は異なって水素又は炭素数1~4のアルキル基を示す。]
で表される化合物、この化合物の塩、並びにこの化合物若しくはその塩の溶媒和物からなる群より選択される少なくとも1種を有効成分として含有する、植物気孔開口調節剤。
【0018】
項2.
が2,2-ビス(ヒドロキシメチル)プロピオニルオキシ基である、項1に記載の調節剤。
【0019】
項3.
及びRがメトキシ基である、項1又は2に記載の調節剤。
【0020】
項4.
~Rがメトキシ基である、項1~3のいずれかに記載の調節剤。
【0021】
項5.
10及びR11がエチル基であり、且つR12がメチル基である、項1~4のいずれかに記載の調節剤。
【0022】
項6.
一般式(1)で表される化合物、一般式(2)で表される化合物、これらの化合物の塩、並びにこれらの化合物若しくはその塩の溶媒和物からなる群より選択される少なくとも1種を有効成分として含有する、植物気孔開口促進剤。
【0023】
項7.
一般式(1)で表される化合物、一般式(2)で表される化合物、これらの化合物の塩、並びにこれらの化合物若しくはその塩の溶媒和物からなる群より選択される少なくとも1種を有効成分として含有する、光合成促進剤。
【0024】
項8.
一般式(1)で表される化合物、一般式(2)で表される化合物、これらの化合物の塩、並びにこれらの化合物若しくはその塩の溶媒和物からなる群より選択される少なくとも1種を有効成分として含有する、植物成長促進剤。
【0025】
項9.
一般式(3)で表される化合物、この化合物の塩、並びにこの化合物若しくはその塩の溶媒和物からなる群より選択される少なくとも1種を有効成分として含有する、植物気孔開口阻害剤。
【0026】
項10.
一般式(3)で表される化合物、この化合物の塩、並びにこの化合物若しくはその塩の溶媒和物からなる群より選択される少なくとも1種を有効成分として含有する、乾燥耐性向上剤。
【0027】
項11.
項8に記載の植物成長促進剤を植物又は植物の生育する土壌に施用する、植物成長促進方法。
【0028】
項12.
項8に記載の植物成長促進剤を植物の気孔に接触させる、項11に記載の促進方法。
【0029】
項13.
項10に記載の乾燥耐性向上剤を植物又は植物の生育する土壌に施用する、乾燥耐性向上方法。
【0030】
項14.
項10に記載の乾燥耐性向上剤を植物の気孔に接触させる、項13に記載の向上方法。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、植物気孔開口調節剤を提供することができる。また、植物気孔開口促進剤、光合成促進剤、植物成長促進剤等を提供することもできる。これらの促進剤は、葉を枯死させる危険性がより低い。さらに、本発明は、植物気孔開口阻害剤、乾燥耐性向上剤等を提供することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】テンシロリムス及びCP-100356の、気孔開口促進作用の測定結果(試験例1)を示す。
【図2】テンシロリムス及びCP-100356の気孔開口促進作用に対する、アブシジン酸の影響の評価結果(試験例2)を示す。
【図3】PD-166285の、気孔開口阻害作用の測定結果(試験例3)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明の植物気孔開口調節剤は、一般式(1):

【0034】
【化4】
JP2016117685A_000005t.gif

【0035】
[一般式(1)中、Rは2,2-ビス(ヒドロキシメチル)プロピオニルオキシ基、ヒドロキシ基、2-ヒドロキシエトキシ基、2-エトキシエトキシ基、ジメチルホスフィノイルオキシ基、又は1H-テトラゾール-1-イル基を示し; Rはメトキシ基、水素原子、ヒドロキシ基、又はメチルチオ基を示し; Rはメトキシ基又は水素原子を示し; 波線はR、R、又はRと結合した炭素原子がS及びRのいずれの配置もとり得ることを示す。]
で表される化合物、一般式(2):

【0036】
【化5】
JP2016117685A_000006t.gif

【0037】
[一般式(2)中、R~Rは同一又は異なって炭素数1~4のアルコキシ基を示す。]
で表される化合物、これらの化合物の塩、並びにこれらの化合物若しくはその塩の溶媒和物からなる群より選択される少なくとも1種、又は
一般式(3):

【0038】
【化6】
JP2016117685A_000007t.gif

【0039】
[一般式(3)中、R10~R12は同一又は異なって水素又は炭素数1~4のアルキル基を示す。]
で表される化合物、この化合物の塩、並びにこの化合物若しくはその塩の溶媒和物からなる群より選択される少なくとも1種を有効成分として含有する。

【0040】
塩は、農学的に許容される塩であれば、特に制限されるものではなく、酸性塩、塩基性塩のいずれも採用することができる。例えば酸性塩の例としては、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩等の無機酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、酒石酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、リンゴ酸塩、クエン酸塩、メタンスルホン酸塩、パラトルエンスルホン酸塩等が挙げられる。また、塩基性塩の例として、ナトリウム、及びカリウムなどのアルカリ金属塩、並びにカルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩等が挙げられる。

【0041】
溶媒和物としては、一般式(1)で表される化合物、一般式(2)で表される化合物、一般式(3)で表される化合物、又はその塩と、農学的に許容される溶媒との溶媒和物である限り特に限定されない。農学的に許容される溶媒としては、例えば水、エタノール、グリセロール、酢酸等が挙げられる。

【0042】
一般式(1)で表される化合物の好ましい態様は以下のとおりである。

【0043】
としては、好ましくは2,2-ビス(ヒドロキシメチル)プロピオニルオキシ基が挙げられる。

【0044】
としては、好ましくはメトキシ基、メチルチオ基等が挙げられ、より好ましくはメトキシ基が挙げられる。

【0045】
としては、好ましくはメトキシ基が挙げられる。

【0046】
本発明において、Rと結合した炭素原子はR配置を有することが好ましく、RまたはRが水素原子でない場合、Rと結合した炭素原子はS配置、Rと結合した炭素原子はR配置を有することが好ましい。

【0047】
一般式(1)で表される化合物の具体例としては、以下の化合物を挙げることができる。これら具体例中、好ましくはテンシロリムスが挙げられる。
(1-1)テンシロリムス(R=2,2-ビス(ヒドロキシメチル)プロピオニルオキシ基、R=メトキシ基、R=メトキシ基)
(1-2)シロリムス(R=ヒドロキシ基、R=メトキシ基、R=メトキシ基)
(1-3)デフォロリムス(R=ジメチルホスフィノイルオキシ基、R=メトキシ基、R=メトキシ基)
(1-4)エベロリムス(R=2-ヒドロキシエトキシ基、R=メトキシ基、R=メトキシ基)
(1-5)ゾタロリムス(R=1H-テトラゾール-1-イル基、R=メトキシ基、R=メトキシ基)
(1-6)バイオリムス(R=2-エトキシエトキシ基、R=メトキシ基、R=メトキシ基)
(1-7)ノボリムス(R=ヒドロキシ基、R=ヒドロキシ基、R=メトキシ基)
(1-8)7-チオメチル-ラパマイシン(R=ヒドロキシ基、R=チオメチル基、R=メトキシ基)
(1-9)7-デメトキシ-ラパマイシン(R=ヒドロキシ基、R=水素原子、R=メトキシ基)
(1-10)32-デメトキシ-ラパマイシン(R=ヒドロキシ基、R=メトキシ基、R=水素原子)

【0048】
一般式(2)で表される化合物の好ましい態様は以下のとおりである。

【0049】
炭素数1~4のアルコキシ基は、直鎖状又は分子状のいずれでもよいが、直鎖状のものが好ましく挙げられる。具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、イソブトキシ基、sec-ブトキシ基、t-ブトキシ基等が挙げられる。

【0050】
~Rとしては、好ましくはメトキシ基、エトキシ基等が挙げられ、より好ましくはメトキシ基が挙げられる。

【0051】
一般式(2)で表される化合物が塩の形態を採る場合は、好ましくは塩酸塩が挙げられる。

【0052】
一般式(2)で表される化合物の具体例としては、CP-100356(R~R=メトキシ基)が挙げられる。

【0053】
一般式(3)で表される化合物の好ましい態様は以下のとおりである。

【0054】
炭素数1~4のアルキル基は、直鎖状又は分子状のいずれでもよいが、直鎖状のものが好ましく挙げられる。具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基等が挙げられる。

【0055】
10及びR11としては、好ましくはメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基等が挙げられ、より好ましくはメチル基、エチル基等が挙げられ、さらに好ましくはエチル基が挙げられる。

【0056】
12としては、好ましくはメチル基、エチル基等が挙げられ、より好ましくはメチル基が挙げられる。

【0057】
一般式(3)で表される化合物の具体例としては、PD-0166285(R10及びR11=エチル基、R12=メチル基)が挙げられる。

【0058】
一般式(1)~(3)で表される化合物は、有機合成化学分野における通常の方法に従って合成することができる。また、市販されているもの、例えば一般式(1)で表される化合物についてはテンシロリムス、シロリムス、デフォロリムス、エベロリムス、ゾタロリムス、バイオリムス、ノボリムス等を、一般式(2)で表される化合物についてはCP-100356等を、一般式(3)で表される化合物についてはPD-0166285等を用いることもできる。

【0059】
一般式(1)で表される化合物及び一般式(2)で表される化合物は、植物の気孔開口を促進することができる。したがって、一般式(1)で表される化合物、一般式(2)で表される化合物、これらの化合物の塩、並びにこれらの化合物若しくはその塩の溶媒和物からなる群より選択される少なくとも1種を有効成分とする場合、本発明の植物気孔開口調節剤は、植物気孔開口促進剤として用いることができる。

【0060】
一般式(1)で表される化合物及び一般式(2)で表される化合物の気孔開口促進作用は、アブシジン酸によって抑制される。また、アブシジン酸の影響を受ける気孔開口促進は、光合成を促進し、植物の成長を促進することが知られている(特許文献1、非特許文献1)。これらのことから、一般式(1)で表される化合物、一般式(2)で表される化合物、これらの化合物の塩、並びにこれらの化合物若しくはその塩の溶媒和物からなる群より選択される少なくとも1種を有効成分とする場合、本発明の植物気孔開口調節剤は、光合成促進剤や植物成長促進剤として用いることができる。

【0061】
本発明の植物気孔開口調節剤を上記植物気孔開口促進剤、光合成促進剤、植物成長促進剤等として用いた場合、気孔開口作用により乾燥ストレスが生じた場合にはアブシジン酸によってその作用が抑制されるので、葉を枯死させる危険性がより少ない。この観点からは、有効成分は、一般式(2)で表される化合物、この化合物の塩、並びにこの化合物若しくはその塩の溶媒和物からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。

【0062】
一般式(3)で表される化合物は、植物の気孔開口(特に光に対する気孔開口)を阻害することができる。したがって、一般式(3)で表される化合物、この化合物の塩、並びにこの化合物若しくはその塩の溶媒和物からなる群より選択される少なくとも1種を有効成分とする場合、本発明の植物気孔開口調節剤は、植物気孔開口阻害剤として用いることができる。

【0063】
一般的に、植物の気孔開口が阻害されることによって、蒸散が抑制され、植物内の水分量が保たれることが知られている。また、孔辺細胞においてマグネシウムキラターゼHサブユニットを過剰発現させ、気孔の閉鎖を促進させることによって、乾燥耐性を向上させる方法も報告されている(非特許文献2)。このことから、一般式(3)で表される化合物、この化合物の塩、並びにこの化合物若しくはその塩の溶媒和物からなる群より選択される少なくとも1種を有効成分とする場合、本発明の植物気孔開口調節剤は、乾燥耐性向上剤として用いることができる。

【0064】
本発明の植物気孔開口調節剤の対象植物は、気孔を有する植物である限り特に限定されない。例えば、被子植物(双子葉植物、単子葉植物等)、裸子植物、シダ植物等の植物に対して広く適用できる。具体例としては、トマト、ピーマン、トウガラシ、ナス等のナス類、キュウリ、カボチャ、メロン、スイカ等のウリ類、キャベツ、ブロッコリー、ハクサイ等の菜類、セルリー、パセリー、レタス等の生菜・香辛菜類、ネギ、タマネギ、ニンニク等のネギ類、ダイズ、ラッカセイ、インゲン、エンドウ、アズキ等の豆類、イチゴ等のその他果菜類、ダイコン、カブ、ニンジン、ゴボウ等の直根類、サトイモ、キャッサバ、バレイショ、サツマイモ、ナガイモ等のイモ類、アスパラガス、ホウレンソウ、ミツバ等の柔菜類、トルコギキョウ、ストック、カーネーション、キク等の花卉類、イネ、コムギ、オオムギ、トウモロコシ等の穀物類、ベントグラス、コウライシバ等の芝類、ナタネ、ラッカセイ等の油料作物類、サトウキビ、テンサイ等の糖料作物類、ワタ、イグサ等の繊維料作物類、クローバー、ソルガム、デントコーン等の飼料作物類、リンゴ、ナシ、ブドウ、モモ等の落葉性果樹類、ウンシュウミカン、レモン、グレープフルーツといった柑橘類、サツキ、ツツジ、スギ等の木本類等が挙げられる。

【0065】
本発明の植物気孔開口調節剤は、上記した有効成分のみからなるものでもよいが、上記した有効成分に加えて、後述の剤形、施用態様等に応じて種々の添加剤を含んでいてもよい。植物気孔開口調節剤中の本発明の化合物の含有割合は、後述の剤形、施用態様等に応じて適宜決定することができる。例えば、液剤を気孔に接触させる場合であれば、1~500μM、好ましくは5~100μM程度が例示される。

【0066】
本発明の植物気孔開口調節剤の剤形は、農学的に許容される剤形である限り特に限定されない。例えば、液剤、固形剤、粉剤、顆粒剤、粒剤、水和剤、フロアブル剤、乳剤、ペースト剤、分散剤等が挙げられる。

【0067】
添加剤は、農学的に許容される添加剤である限り特に限定されない。例えば、担体、界面活性剤、増粘剤、増量剤、結合剤、ビタミン類、酸化防止剤、pH調整剤、揮散抑制剤、色素等が挙げられる。

【0068】
本発明の植物気孔開口調節剤の施用態様は、農薬の使用態様として公知の態様(或いは将来開発される態様)である限り特に限定されない。例えば、散布、滴下、塗布、植物生育環境中(土壌中、水中、固形培地中、液体培地中等)への混合や溶解等が挙げられる。本発明の植物気孔開口調節剤の作用対象は気孔であるので、好ましくは本発明の植物気孔開口調節剤を植物の気孔に接触させることにより施用することが好ましい。
【実施例】
【0069】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0070】
試験例1:気孔開口促進作用の測定試験
テンシロリムス及びCP-100356の気孔開口促進作用を測定した。具体的には次のように行った。
【実施例】
【0071】
<1-1.表皮小片の作製>
マルバツユクサ(Commelina benghalensis)の茎の一部を、バーミキュライトとピートモスとの混合土を入れたプランターに挿し、自然光が入る室内の窓際(室温25~28℃)で、2~4週間生育させた。プランターを暗室に置き、一晩、暗処理した。暗処理後、弱い赤色光下で、十分に展開した葉の裏側の表皮をピンセットで剥離し、これをはさみで切って、2.0~3.0 mm四方の小片を作製した。
【実施例】
【0072】
<1-2.試験液の調製>
試験液として、気孔開度測定溶液(5 mM MES-BTP[pH6.5], 50 mM KCl, 0.1 mM CaCl2, 0.5% DMSO)、又は該溶液に被検化合物(テンシロリムス、CP-100356、又はフシコクシンを溶解させた溶液を調製した。各試験液中の被検化合物及びその濃度は下記表1の通りである。
【実施例】
【0073】
【表1】
JP2016117685A_000008t.gif
【実施例】
【0074】
<1-3.気孔開口促進作用の測定試験>
試験液1~4それぞれについて、96穴プレートの5つのウェルに50μl/ウェルずつ分注し、そこに表皮小片を浸漬した。暗室内で4時間、薬剤処理した。薬剤処理後、倒立顕微鏡(Nikon ECLIPSE TS100 / TS100-F)による観察像(600倍)下で、各表皮小片あたり9個(=各試験液を用いた場合それぞれについて45個)の気孔の短径(以下、「気孔開度」と示す。)を測定した。一方で、薬剤処理前の表皮小片についても、同様に気孔開度を測定した。上記測定試験を計3回行い、各試験液を用いた場合それぞれについて得られた計135の測定値に基づいて平均値及び標準誤差(Standard Error; SE)を求め、グラフ化した(図1)。有意性(p値)については、Excel(Microsoft)を使用したスチューデントt-検定に従って判定した。両側検定を等分散行列(homoscedastic matrices)について実施した。
【実施例】
【0075】
<1-4.結果>
図1中、試験液1を用いた場合と、試験液2又は3を用いた場合との比較より、テンシロリムス又はCP-100356によって、気孔の開口が有意に促進されることが示された。図1中、試験液2又は3を用いた場合と、試験液4を用いた場合との比較より、テンシロリムス又はCP-100356は、気孔開口促進作用があることが知られているフシコクシンよりも、気孔開口促進作用の程度が弱いことが示された。フシコクシンは、カビ毒素として知られている化合物であり、過度な気孔開口促進により蒸散を促進し、これにより葉の枯死を引き起こすことが知られている。上記結果より、テンシロリムス又はCP-100356は、葉の枯死を引き起こすフシコクシン程には気孔開口を促進しないので、葉を枯死させる危険性がより少ないことが示唆された。
【実施例】
【0076】
試験例2:気孔開口促進作用に対するアブシジン酸の影響
テンシロリムス及びCP-100356の気孔開口促進作用に対するアブシジン酸の影響を評価した。具体的には、試験液として、試験液1~4に加えて、気孔開度測定溶液に下記表2に示す被検化合物を溶解させた溶液(試験液5~8)を用いる以外は、試験例1と同様に行った。結果を図2に示す。図2中、アブシジン酸を「ABA」と略記する。
【実施例】
【0077】
【表2】
JP2016117685A_000009t.gif
【実施例】
【0078】
図2中、試験液2を用いた場合と、試験液6を用いた場合との比較、及び試験液3を用いた場合と、試験液7を用いた場合との比較より、テンシロリムス又はCP-100356による気孔開口促進作用は、アブシジン酸により有意に抑制されることが示された。一方、試験液4を用いた場合と、試験液8を用いた場合との比較より、フシコクシンによる気孔開口促進作用は、アブシジン酸の影響をほとんど受けないことが示された。植物ホルモンの一種であるアブシジン酸は、乾燥ストレスに応答して合成され、気孔の閉鎖を誘導することが知られている。このことから、テンシロリムス又はCP-100356は、気孔開口促進作用により乾燥ストレスが生じた場合にはアブシジン酸によってその作用が抑制されるので、葉を枯死させる危険性がより少ないことが示唆された。また、アブシジン酸の影響を受けない気孔開口促進は植物の成長を促進しないが、アブシジン酸の影響を受ける気孔開口促進であれば、光合成を促進し、さらに植物の成長を促進することが知られている(特許文献1、非特許文献1)。このことから、テンシロリムス又はCP-100356は、その気孔開口促進作用を通じて、植物の成長を促進することが示唆された。
【実施例】
【0079】
試験例3:気孔開口阻害作用の測定
PD-166285の気孔開口阻害作用を測定した。具体的には、試験液として、試験液1及び5に加えて、気孔開度測定溶液にPD-166285を溶解(終濃度50μM)させた溶液(試験液9)を用い、且つ表皮小片を試験液に浸漬した後の処理を、4時間の暗処理に替えて5時間の光処理(赤色光: 87 μmol/m2/s + 青色光: 55 μmol/m2/s)にする以外は、試験例1と同様に行った。結果を図3に示す。図3中、アブシジン酸を「ABA」と略記する。
【実施例】
【0080】
図3中、試験液1を用いた場合と、試験液9を用いた場合との比較より、PD-166285によって、気孔の開口が有意に阻害されることが示された。図1中、試験液9を用いた場合と、試験液5を用いた場合との比較より、PD-166285の気孔開口阻害作用はアブシジン酸と同程度であることが示された。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2