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明細書 :ガリウム標識薬剤

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5971867号 (P5971867)
登録日 平成28年7月22日(2016.7.22)
発行日 平成28年8月17日(2016.8.17)
発明の名称または考案の名称 ガリウム標識薬剤
国際特許分類 A61K  51/00        (2006.01)
C07K   1/13        (2006.01)
C07B  59/00        (2006.01)
C07F   5/00        (2006.01)
C07C 251/16        (2006.01)
C07K   7/64        (2006.01)
FI A61K 49/02 C
C07K 1/13
C07B 59/00
C07F 5/00 H
C07C 251/16
C07K 7/64 ZNA
請求項の数または発明の数 5
全頁数 26
出願番号 特願2013-520596 (P2013-520596)
出願日 平成24年6月15日(2012.6.15)
国際出願番号 PCT/JP2012/065332
国際公開番号 WO2012/173222
国際公開日 平成24年12月20日(2012.12.20)
優先権出願番号 2011135535
優先日 平成23年6月17日(2011.6.17)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成27年6月12日(2015.6.12)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人 千葉大学
発明者または考案者 【氏名】荒野 泰
【氏名】上原 知也
個別代理人の代理人 【識別番号】100088904、【弁理士】、【氏名又は名称】庄司 隆
【識別番号】100124453、【弁理士】、【氏名又は名称】資延 由利子
【識別番号】100135208、【弁理士】、【氏名又は名称】大杉 卓也
【識別番号】100152319、【弁理士】、【氏名又は名称】曽我 亜紀
審査官 【審査官】幸田 俊希
参考文献・文献 特表平04-500072(JP,A)
国際公開第2010/125647(WO,A1)
特開2009-132691(JP,A)
Gottschaldt,M. et al.,InIII and GaIII Complexes of Sugar-Substituted Tripodal Trisalicylidene Imines: The First 68Ga-Labelled Sugar Derivative,Eur. J. Inorg. Chem.,2009年10月,Vol.2009, No.28,p.4298-307
Knetsch,P.A. et al.,[68Ga]NODAGA-RGD for imaging αvβ3 integrin expression.,Eur. J. Nucl. Med. Mol. Imaging,2011年 4月13日,Vol.38, No.7,p.1303-12
調査した分野 A61K 49/00
A61K 51/00
CAplus/REGISTRY(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
配列表の配列番号1に示す環状ペンタペプチドc(RGDfK)をヘキサン酸を介して結合させたトリサリチルアルジミノメチル エタノール[tri-salicylaldiminomethyl-ethanol、H(sal)TAMEol]と、ガリウム67またはガリウム68とから形成される下式(I)の錯体構造を有する錯体を含み、標的部位への集積性および安定性が増加した放射性ガリウム標識薬剤。
【化1】
JP0005971867B2_000006t.gif

【請求項2】
6-アミノヘキサノアート c(RGDfK)結合サリチルアルデヒドと、2,2’,2’’-トリ(アミノメチル)エタノール[2,2’,2’’-tri-(aminomethyl)-ethanol、TAMEol]と、ガリウム67またはガリウム68とをクエン酸溶液中で反応させることを含む下式(I)の錯体構造を有する錯体の形成方法
【化2】
JP0005971867B2_000007t.gif

【請求項3】
診断用放射性標識薬剤である請求項1に記載の放射性ガリウム標識薬剤。
【請求項4】
6-アミノヘキサノアート c(RGDfK)結合サリチルアルデヒドと、2,2’,2’’-トリ(アミノメチル)エタノール[2,2’,2’’-tri-(aminomethyl)-ethanol、TAMEol]と、ガリウム67またはガリウム68とを、別々の包装単位として含んでなる、請求項1に記載の放射性ガリウム標識薬剤の調製用キット。
【請求項5】
6-アミノヘキサノアート-c(RGDfK)結合サリチルアルデヒドと、2,2’,2’’-トリ(アミノメチル)エタノール[2,2’,2’’-tri-(aminomethyl)-ethanol、TAMEol]と、ガリウム67またはガリウム68とをクエン酸溶液中で反応させて下式(I)の錯体構造を有する錯体を形成させることを含む、標的部位への集積性および安定性が増加した放射性ガリウム標識薬剤の製造方法。
【化3】
JP0005971867B2_000008t.gif
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、標的分子に結合する化合物と結合させたトリサリチルアルジミノメチル エタノール[tri-salicylaldiminomethyl-ethanol、H(sal)TAMEol]と、ガリウム67(gallium-67、Ga-67)またはガリウム68(gallium-68、Ga-68)とから形成される錯体構造を有する錯体を含み、標的部位への集積性および安定性が増加した放射性ガリウム標識薬剤、その製造方法、および前記放射性ガリウム標識薬剤の調製用配位子に関する。
【背景技術】
【0002】
放射性標識薬剤は、放射性同位元素の核種により標識された化合物を含む薬剤であり、疾患の診断や治療、例えば腫瘍の診断や治療などに広く利用されている。放射性標識薬剤を特定の組織や細胞に集積させることにより、感度の高い診断や有効な治療を行うことができ、また、正常の組織や細胞への副作用を低減することができる。例えば、腫瘍細胞が臓器や組織に転移し、散在しているような場合でも、正常の組織や細胞に影響を与えることなく、有効な診断や治療が行える。放射性標識薬剤を用いた診断や治療においては、有用な核種の選択や、該薬剤を特定の組織や細胞に集積させるための薬剤設計が行われてきた。
【0003】
ガリウム(Ga)は原子番号31の元素であり、インジウムと同じ第13族元素に属する。ガリウムの多種類の核種の中でGa-67(以下、67Gaと略称することがある)とGa-68(以下、68Gaと略称することがある)の二つの放射性核種が核医学診断に適した性質を有している。67Gaはサイクロトロンにより製造される半減期78時間のγ線放出核種であり、67Gaクエン酸塩(67Ga-citrate)が悪性腫瘍や炎症の診断を目的とした単一光子放射線コンピュータ断層撮影(single photon emission computed tomography、以下SPECTと略称する)用薬剤として臨床で使用されている。一方、68Gaは半減期68分の陽電子放出核種であり、ポジトロン断層撮影(positron emission tomography、以下、PETと略称する)診断に用いられる。また近年、半減期270日のゲルマニウム-68(68Ge)との過渡平衡を利用したジェネレータシステムの開発により、サイクロトロンを設置しなくても使えるPET核種として期待されている。
【0004】
タンパク質やペプチドなどの生理活性分子は一般に、ガリウムに対する安定な結合部位を有していないことから、標的分子である生理活性分子をガリウムで標識するために、ガリウムへの配位部位と生理活性分子との結合部位とを分子内に併せ持つ二官能性キレート剤を用いた診断薬剤の開発が行われている。実際、内分泌腫瘍に発現するソマトスタチン受容体を標的としたDOTA-D-Phe1-Tyr3-オクトレオチド(DOTA-D-Phe1-Tyr3-octreotide、DOTA-TOC、非特許文献1および2)や乳がんのHer2受容体を標的としたDOTAアフィボディ(DOTA-affibody、非特許文献3)などが研究されている。
【0005】
しかしながら、放射性標識薬剤の製造においては、放射性ガリウムなどの金属放射性核種の濃度が極めて低いため、目的とする放射性標識薬剤を高い放射化学的収率で短時間のうちに得るために、大過剰のキレート剤、具体的には0.01~1mM濃度のキレート剤を用いて標識が行われている。そのため、このような放射性標識薬剤をそのまま生体に投与すると、標識されていないキレート剤が標的部位に対して放射性標識薬剤と競合し、放射性標識薬剤の集積の低下を招き、その結果、標的分子の画像化が妨げられる。このような問題に対して、比放射能の向上を目指した検討が行われているが、配位子濃度が低い場合には標識率が低下することや、二官能性キレート剤を複数個導入して標識率を向上させた場合には標的分子との結合親和性が低下することが報告されている(非特許文献4)。
【0006】
一方、分子内に標的分子との結合部位(標的分子認識素子と称することがある)を2分子有する化合物(二価の化合物と称する)は結合部位を1分子有する化合物(一価の化合物と称する)に比べ標的分子への高い結合力を有することが知られており、これは多価効果として医薬品の設計に広く利用されている(非特許文献5~7)。これらの知見から、標的分子認識素子を一つ有する一価配位子が金属原子と1:2あるいは1:3の錯体を作ることで、標的分子への標識体の集積が向上することが期待できる。
【0007】
実際、本発明者らは、金属放射性核種としてテクネチウム-99m(以下、99mTcと略称することがある)を、そして標的分子認識素子を有する配位子としてArg-Gly-Asp結合ペニシラミン(以下、RGD結合ペニシラミンを称することがある)を用い、99mTcとRGD結合ペニシラミンとで形成された錯体が標的分子への高い集積性を有し、かつ生体内で安定であることを明らかにし、該錯体の放射性標識薬剤としての有用性を示している(特許文献1および2)。
【0008】
これに対し、ガリウムと配位子とで形成される1:2あるいは1:3の錯体であって生体内や過剰の配位子を除去した状態で安定に存在するものは報告されていない。生体内では、ガリウム錯体と配位子とは異なる挙動を示すことから、過剰の配位子を除去した場合における安定性が重要となる。2座配位子であるデフェリプロンはガリウムと1:3の錯体を形成するが、形成した錯体溶液から過剰の配位子を除去すると錯体が崩壊することが報告されている(非特許文献8)。
【先行技術文献】
【0009】

【特許文献1】特開2009-132691号公報。
【特許文献2】国際公開第2010/125647号パンフレット。
【0010】

【非特許文献1】ハニン(Hanin,F.-X.)ら、「Tumor uptake of 68Ga-DOTA-Tyr3-octreotate:animal PET studies of tumor flow and acute somatostatin receptor modulation in the CA20948 rat model.」、ヌクレアー メディシン アンド バイオロジー(Nuclear Medicine and Biology)、2010年、第37巻、p.157-165。
【非特許文献2】カーン(Khan,M.U.)ら、「Clinical indications for Gallium-68 positron emission tomography imaging.」、ヨーロピアン ジャーナル オブ サージカル オンコロジー(European Journal of Surgical Oncology)、2009年、第35巻、p.561-567。
【非特許文献3】レン(Ren,G.)ら、「A 2-helix small protein labeled with 68Ga for PET imaging of HER2 expression.」、ジャーナル オブ ヌクレアー メディシン(Journal of Nuclear Medicine)、2009年、第50巻、p.1492-1499。
【非特許文献4】レンネン(Rennen,H.J.J.M.)ら、「Labeling proteins with Tc-99m via hydrazinonicotinamide(HYNIC):Optimization of the conjugation reaction.」、ヌクレアー メディシン アンド バイオロジー(Nuclear Medicine and Biology)、2000年、第27巻、p.599-604。
【非特許文献5】マムメン(Mammen,M.)ら、「Polyvalent interactions in biological systems:Implications for design and use of multivalent ligands and inhibitors.」、アンゲヴァンテ ケミー インターナショナル エディション(Angewandte Chemie-International Edition)、1998年、第37巻、p.2755-2794。
【非特許文献6】ムルダー(Mulder,A.)ら、「Multivalency in supramolecular chemistry and nanofabrication.」、オーガニック アンド バイオモレキュラー ケミストリー(Organic and Biomolecular Chemistry)、2004年、第2巻、p.3409-3424。
【非特許文献7】キースリング(Kiessling,L.L.)ら、「Synthetic multivalent ligands as probes of signal transduction.」、アンゲヴァンテ ケミー インターナショナル エディション(Angewandte Chemie-International Edition)、2006年、第45巻、p.2348-2368。
【非特許文献8】モテカイティス(Motekaitis,R.J.)ら、「Stabilities of the iron(III) chelates of 1,2-dimethyl-3-hydroxy-4-pyridinone and related ligands.」、インオーガニカ キミカ アクタ(Inorganica Chimica Acta)、1991年、第183巻、p.71-80。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ガリウムの放射性核種は、高度な画像診断や病態の解明などに大きく貢献すると期待されている分子イメージングに有用であるが、生体内で安定であり、かつ、標的部位に効率的に集積する放射性ガリウム標識薬剤は未だ開発されていない。
【0012】
本発明は、標的部位に効率的に集積し、かつ、生体内での高い安定性を有する放射性ガリウム標識薬剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、ガリウムと2座配位子あるいは3座配位子による1:3または1:2の安定な錯体を得ることは困難であり、ガリウムとの安定な錯形成には6座の配位子が必要であると考え、ガリウムと錯形成するときは6座配位子であるが、錯形成後残存した配位子が速やかにn座配位子(n=1-5)に崩壊することでガリウム錯体のみが多価効果を示すという新たな薬剤設計を考案した。そして、シッフ塩基が水溶液中でアミン、アルデヒドと平衡状態にあることに注目し、配位子内にシッフ塩基が存在する場合、該シッフ塩基が、錯未形成時は加水分解を受けてアルデヒドとアミンに分解するが、ガリウムの配位により安定化されることで、標識体のみが6座となり多価効果を示すと考え(図1)、モデル配位子として配位子骨格にシッフ塩基を有するトリサリチルアルジミノメチル エタノール[tri-salicylaldiminomethyl-ethanol、以下H(sal)TAMEolと略称することがある]を用いて本薬剤設計の基礎的評価を行った。まず、H(sal)TAMEolを配位子として用いてガリウムとの錯体Ga-(RGD-hx)TAMEolを作製した。次いで、標的分子認識素子として、悪性腫瘍などの新生血管に高密度に発現することが知られているαβインテグリンに特異的に結合する環状ペンタペプチド、シクロ-Arg-Gly-Asp-D-Phe-Lys[配列表の配列番号1、以下c(RGDfK)と略称することがある]をGa-(sal)TAMEolのベンゼン環にヘキサン酸を介して結合した構造を有する錯体Ga-(RGD-hx)TAMEolを作製し、そのアポトランスフェリン(apo-transferrin)中での安定性およびαβインテグリンに対する親和性を検討した。また、担癌モデルマウスを用いてGa-(RGD-hx)TAMEolの標的部位への特異的な集積性をインビボで検討した。
【0014】
その結果、本発明者らは、配位子骨格にシッフ塩基を有する化合物であるH(sal)TAMEolや標的分子認識素子を有する当該化合物であるH(RGD-hx)TAMEolとガリウムとの錯体がアポトランスフェリン中で安定であることを明らかにした。さらに、H(RGD-hx)TAMEolとガリウムとの錯体が、αβインテグリンに対する高い親和性を示すこと、および、担癌モデルマウスを用いた検討において、移植した腫瘍に集積して明瞭な画像を与えたが、排泄組織を除く他の組織へは集積しなかったことを明らかにした。これらの知見から、本発明者らは標的分子結合素子を有するH(sal)TAMEolと放射性ガリウムとから形成される錯体が、生体内での高い安定性を有し、かつ、標的部位に効率的に集積する放射性ガリウム標識薬剤を与え得ることを見出し、本発明を完成した。
【0015】
即ち、本発明は以下に関する。
(1)標的分子に結合する化合物と結合させたトリサリチルアルジミノメチル エタノール[tri-salicylaldiminomethyl-ethanol、H(sal)TAMEol]と、ガリウム67またはガリウム68とから形成される錯体構造を有する錯体を含み、標的部位への集積性および安定性が増加した放射性ガリウム標識薬剤。
(2)標的分子に結合する化合物と結合させたH(sal)TAMEolが、配列表の配列番号1に示す環状ペンタペプチドと結合させたH(sal)TAMEolである前記放射性ガリウム標識薬剤。
(3)6-アミノヘキサノアート c(RGDfK)結合サリチルアルデヒド(sal-hx-RGDfK)と、2,2’,2’’-トリ(アミノメチル)エタノール[2,2’,2’’-tri-(aminomethyl)-ethanol、TAMEol]と、ガリウム67またはガリウム68とをクエン酸溶液中で反応させることにより形成された錯体を含む、標的部位への集積性および安定性が増加した放射性ガリウム標識薬剤。
(4)診断用放射性標識薬剤である前記いずれかの放射性ガリウム標識薬剤。
(5)標的分子に結合する化合物と結合させたH(sal)TAMEolからなる、標的部位への集積性が増加した放射性ガリウム標識薬剤の調製用配位子。
(6)標的分子に結合する化合物とサリチルアルデヒドとを有する化合物およびTAMEolをインビトロで反応させることにより形成される化学構造を有する化合物からなる、標的部位への集積性が増加した放射性ガリウム標識薬剤の調製用配位子。
(7)標的分子に結合する化合物が、配列表の配列番号1に示す環状ペンタペプチドである前記放射性ガリウム標識薬剤の調製用配位子。
(8)前記いずれかの放射性ガリウム標識薬剤の調製用配位子を含む薬剤と、ガリウム67またはガリウム68を含む薬剤とを、別々の包装単位として含んでなるキット。
(9)sal-hx-RGDfKと、TAMEolと、ガリウム67またはガリウム68とを、別々の包装単位として含んでなるキット。
(10)標的分子に結合する化合物と結合させたH(sal)TAMEolを配位子として用い、ガリウム67またはガリウム68とインビトロで錯形成させることを含む放射性ガリウム標識薬剤の製造方法。
(11)標的分子に結合する化合物と結合させたH(sal)TAMEolが、配列表の配列番号1に示す環状ペンタペプチドと結合させたH(sal)TAMEolである前記放射性ガリウム標識薬剤の製造方法。
(12)sal-hx-RGDfKと、TAMEolと、ガリウム67またはガリウム68とをクエン酸溶液中で反応させることを含む、標的部位への集積性および安定性が増加した放射性ガリウム標識薬剤の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、標的部位に効率的に集積し、かつ、生体内での高い安定性を有する放射性ガリウム標識薬剤を提供できる。具体的には、本発明により、標的分子に結合する化合物と結合させたH(sal)TAMEolと、ガリウム67またはガリウム68とから形成される錯体構造を有する錯体を含み、標的部位への集積性および安定性が増加した放射性ガリウム標識薬剤を提供できる。本発明に係る放射性ガリウム標識薬剤に含まれる錯体は、標的分子への結合部位を1箇所有する標的分子認識素子(1価の標的分子認識素子)を3個有する多価錯体であるため、従来使用されていた1価の錯体と比較して、標的部位に高い集積性を示す。
【0017】
従来の放射性ガリウム標識薬剤はその製造において大過剰の配位子を使用するために、そのまま使用すると錯体を形成していない配位子が標的部位に対して放射性標識薬剤と競合し、放射性標識薬剤の標的部位への集積の低下を招き、その結果、分子イメージングにおける標的分子の画像化が妨げられていた。
【0018】
本発明に係る放射性ガリウム標識薬剤は、錯体を形成していない配位子が速やかに配位座の数のより少ない配位子に崩壊し、ガリウム錯体のみが多価効果を示すために、その製造において大過剰の配位子を使用しても標的部位への集積性が高く、分子イメージング技術による診断や治療経過の観察を容易にする。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】配位子がガリウムと錯形成することによりシッフ塩基が安定化し、配位子の分解が防止されることを説明する図である。シッフ塩基を有するモデル配位子であるトリサリチルアルジミノメチル エタノール[H(sal)TAMEol]は、ガリウムと錯形成しないときはTAMEolとサリチルアルデヒド(Salicylaldehyde、sal)に分解するが、ガリウムと錯形成したGa-H(sal)TAMEolは分解しない。
【図2】67Ga-(sal)TAMEolと非放射性ガリウム標識(sal)TAMEol のそれぞれの逆相高速液体クロマトグラフィー(RP-HPLC)保持時間が一致したことを示す図である。パネル(A)は、67Ga-(sal)TAMEolのRP-HPLC分析における放射活性(Radioactivity)を示す。パネル(B)は対照である非放射性ガリウム標識(sal)TAMEol のRP-HPLCにおけるガリウムイオン強度(69Ga ion count)を誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP-MS)により分析した結果を示す。横軸は保持時間(分)[retention time(min)]を示す。(実施例4)
【図3】67Ga-(RGD-hx)TAMEolと非放射性ガリウム標識 (RGD-hx)TAMEolのそれぞれのRP-HPLC保持時間が一致したことを示す図である。パネル(A)は、対照である非放射性ガリウム標識 (RGD-hx)TAMEolをRP-HPLCで分析し紫外吸収(UV吸収)を測定したところ、保持時間28.5分にGa-(RGD-hx)TAMEol、26分にsal-hx-RGDfKが観察されたことを示す。パネル(B)は、67Ga-(RGD-hx)TAMEolのRP-HPLC分析において、その放射活性(Radioactivity)が28.5分に観察されたことを示す。パネル(C)は、67Ga標識後にRP-HPLCで分析しUV吸収を測定したところ、主に、sal-hx-RGDfKが26分に、67Ga-クエン酸ガリウム(67Ga-citrate)に含まれるベンジルアルコールが15分に観察されたことを示す。横軸は保持時間(分)[retention time(min)]を示す。(実施例4)
【図4】H(sal)TAMEolはエタノール溶液中では安定であるが、リン酸緩衝液中で速やかにサリチルアルデヒドとTAMEolに崩壊することを示す図である。パネル(A)は、エタノール中でH(sal)TAMEolを1時間インキュベーション後にRP-HPLCにより分析しUV吸収を測定した結果を示す。パネル(B)は、リン酸緩衝液中でH(sal)TAMEolを1時間インキュベーション後にRP-HPLCにより分析しUV吸収を測定した結果を示す。保持時間13.5分はH(sal)TAMEol、保持時間5分はサリチルアルデヒドのピークである。横軸は保持時間(分)[retention time(min)]を示す。(実施例5)
【図5】アポトランスフェリン溶液中において67Ga-(sal)TAMEolが安定に存在することを示す図である。横軸は期間(時間)[Time(h)]を、縦軸は完全なものの割合(% of intact)を示す。(実施例5)
【図6】アポトランスフェリン溶液中において67Ga-(RGD-hx)TAMEolが安定に存在することを示す図である。横軸は期間(時間)[Time(h)]を、縦軸は完全なものの割合(% of intact)を示す。(実施例5)
【図7】67Ga-(RGD-hx)-TAMEolの標的部位への集積性と、副作用である他組織へのその集積の程度を、担癌モデルマウスを用いてインビボで検討した結果を示す図である。67Ga-(RGD-hx)-TAMEolは、左足に移植した腫瘍(Tumor)を明瞭に画像化したが、腎臓(Kidney)および膀胱(Bladder)の排泄組織を除く他の組織への集積は観察されなかった。(実施例7)

【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明は、標的分子認識素子と結合させたトリサリチルアルジミノメチル エタノール[tri-salicylaldiminomethyl-ethanol、H(sal)TAMEol]と、ガリウム67またはガリウム68とから形成される錯体構造を有する錯体を含み、標的部位への集積性および安定性が増加した放射性ガリウム標識薬剤、その製造方法、および前記放射性ガリウム標識薬剤の調製用配位子に関する。
【0021】
用語「放射性ガリウム標識薬剤」は、放射性標識薬剤の1種であり、ガリウムの放射性核種により標識された化合物を含み、標的部位、例えば特定の組織や細胞の標識化に使用される薬剤を意味する。かかる薬剤は、疾患の診断や治療効果の経過観察など、例えばSPECTやPETなどを用いた分子イメージング技術による診断や治療効果の経過観察に使用される。ガリウムの放射性核種として、67Gaまたは68Gaを好ましく例示できる。
【0022】
用語「錯体」とは、金属および金属類似元素の原子またはイオンを中心にして、配位子が配位した物質を意味し、配位化合物ともいう。配位とは、配位子が中心の金属と配位結合を形成して中心金属の周囲に配列することをいう。錯体は、配位子と金属との配位結合により形成される。配位子と金属による錯体の形成を、錯形成と称することがある。配位結合とは、1本の結合にあずかる2個の原子価電子が、一方の原子のみから提供されている結合をいう。多配位とは、複数の配位子が中心の金属と配位結合を形成して中心金属の周囲に配列することをいう。n配位とは、n分子の配位子が中心の金属と配位結合を形成して中心金属の周囲に配列することをいう。金属が遷移金属である場合、nは一般的に2から9である。錯体において、中心金属の周囲に集まって配位結合をつくる配位子の数を配位数という。
【0023】
用語「配位子」とは、錯体中で中心金属に配位結合している他の原子(配位原子)を含む化合物を意味する。配位子には多数の種類があり、2つ以上の可能な配位原子を含む化合物を多座配位子、1つである場合を単座配位子、2つである場合を2座配位子、3つである場合を3座配位子のように称する。
【0024】
用語「標的分子認識素子」とは、標的分子に結合する化合物、好ましくは特異的に結合する化合物を意味する。標的分子に特異的に結合するとは、標的分子には結合するが、標的分子以外の分子には結合しないか、弱く結合することをいう。標的分子認識素子として、例えば、タンパク質、ペプチド、抗体、および抗体断片などを挙げることができる。標的分子認識素子と結合させた配位子と金属とで錯体を形成させることにより、該錯体を標的分子、すなわち標的部位に結合させることができる。したがって、標的分子認識素子を選択して用いることにより、所望の標的部位に錯体を集積させることができる。
【0025】
本発明において、錯体を形成する金属は、配位子と2配位以上の配位結合を形成する金属、例えばガリウムが使用される。金属として、好ましくは金属放射性核種が使用される。金属放射性核種として具体的には、67Gaおよび68Gaを好ましく例示できる。金属放射性核種はこれら具体例に限定されず、放射標識薬剤を用いた診断や、がん疾患などの内部放射線治療などの目的に適当な放射線、放射線量、半減期を有する限りにおいていずれも使用することができる。診断および治療において正常の組織や細胞への影響を少なくするという観点から、短半減期金属放射性核種が好ましく使用される。
【0026】
本発明において、錯体を形成する配位子は、金属と配位結合により多配位の錯体を形成し得る化合物であって、錯体を形成しない場合は速やかに崩壊する化合物が使用される。具体的には、配位子骨格内にシッフ塩基を有する化合物が好ましく例示できる。シッフ塩基は水溶液中でアミン、アルデヒドと平衡状態にあるため、シッフ塩基を有する配位子が錯体を形成していない時には分解されるが、錯形成することにより安定化し、錯形成した標識体のみが多価効果を示すと考えることができる(図1)。したがって、本発明に係る錯体は、その製造において大過剰の配位子を使用しても、錯体を形成していない配位子が速やかに配位座の数のより少ない配位子に崩壊し、錯体のみが多価効果を示すために、標的部位への集積性が従来製造されていた錯体と比較して高い。
【0027】
配位子骨格にシッフ塩基を有する化合物として、トリサリチルアルジミノメチル エタノール[tri-salicylaldiminomethyl-ethanol、H(sal)TAMEol]を好ましく例示できる。配位子は特に限定されず、金属と多配位の錯体を形成する化合物である限りにおいていずれも使用することができる。
【0028】
本発明において、標的分子認識素子として、タンパク質、ペプチド、抗体、および抗体断片を例示できる。具体的には、炎症や腫瘍細胞浸潤などに伴う組織構築において高い発現が認められるタンパク質や腫瘍細胞に特異的に発現するタンパク質に結合するリガンド、抗体および抗体のFab断片などを例示できる。より具体的には、がんの新生血管に高発現が認められるインテグリンに親和性を有する環状ペンタペプチド、例えばシクロ-Arg-Gly-Asp-D-Phe-Lys[配列表の配列番号1、c(RGDfK)と略称する]を挙げることができる。そのほか、造骨性のがん(骨転移)に多く存在するヒドロキシアパタイトへの親和性を有するビスフォスフォン酸やオリゴアスパラギン酸、オリゴグルタミン酸、マクロファージの表面に存在する走査因子の受容体と親和性があるペプチドであるfMet-Leu-Phe(fMLP)、がん細胞に発現が認められる葉酸受容体と結合する葉酸とその誘導体などを例示できる。標的分子認識素子は、例示された化合物に限定されず、標的分子に結合する化合物であればいずれを使用することもできる。
【0029】
標的分子認識素子と配位子とを結合させるとき、それらの間にスペーサーを介在させることができる。配位子が複数の標的分子認識素子を有する場合、該配位子と金属とで形成される錯体が多価効果を有効に示すためには、標的分子認識素子同士の間の距離が重要となる。標的分子認識素子同士の間の距離は、該標的分子認識素子の大きさにより異なる。例えば、αβインテグリンを標的としたRGD結合薬剤の多価効果についての検討で、RGDペプチド間に25~30bondの距離が必要とされている。標的分子認識素子同士の間の距離は例示した距離に限定されず、使用する標的分子認識素子により適当な距離を選択する。このような距離を保つためにスペーサーの利用が有効である。スペーサーとして好ましく使用できる化合物として、ヘキサン酸などの直鎖飽和カルボン酸、アミノ酸数個からなるペプチド、複数のエチレングリコールからなるエチレングリコール鎖などを例示できる。より好ましくはヘキサン酸を例示できる。標的分子認識素子と配位子を結合させる方法は特に限定されないが、例えば、カルボン酸とアミノ基によるアミド結合や、ハロゲン化アルキルによるN-アルキル化により結合させることができる。
【0030】
錯体の製造は、標的分子認識素子と結合させたH(sal)TAMEolを配位子として用い、金属とインビトロで錯形成させることにより実施できる。
【0031】
錯体の製造は、あるいは、標的分子認識素子と、配位子と、金属とを混合して標的分子認識素子と配位子とを結合させると同時に錯体を形成させることができる。例えば、6-アミノヘキサノアート c(RGDfK)結合サリチルアルデヒド(sal-hx-RGDfK)と、2,2’,2’’-トリ(アミノメチル)エタノール[2,2’,2’’-tri-(aminomethyl)-ethanol、TAMEol]と、67Gaまたは68Gaとをクエン酸溶液中で反応させることにより、67Gaまたは68Gaの錯体を形成させることができる。錯形成反応は、放射性ガリウムとして67GaClを使用して酢酸緩衝液中あるいはクエン酸溶液中で実施することもできる。好ましい反応条件は、67Ga-citrateを使用する場合、配位子濃度が0.1mM~10mM程度、クエン酸濃度が1~10mM程度、pH4~6、温度が80~100℃、反応時間が15~60分間である。放射性ガリウムとして67GaClを使用する場合、好ましい反応条件は、配位子濃度が0.01mM~10mM程度の0.1M 酢酸緩衝液あるいは0.1mM~10mM クエン酸溶液、pH3~6、温度が室温から100℃、反応時間が5~30分間である。
【0032】
本発明に係る放射性標識薬剤として、c(RGDfK)(配列表の配列番号1)と結合させたH(sal)TAMEolと67Gaまたは68Gaとから形成される錯体構造を有する錯体を含む放射性標識薬剤を例示できる。
【0033】
本発明に係る放射性標識薬剤として、好ましくは、c(RGDfK)(配列表の配列番号1)をヘキサン酸を介して結合させたH(sal)TAMEolと67Gaまたは68Gaとから形成される錯体構造[下式(I)]を有する錯体を含む放射性標識薬剤を好ましく例示できる。
【0034】
【化1】
JP0005971867B2_000002t.gif

【0035】
上記式(I)で表される錯体において、Gaは67Gaまたは68Gaであり得る。
【0036】
本発明に係る放射性標識薬剤として、より好ましくは、sal-hx-RGDfKと、TAMEolと、67Gaまたは68Gaとをクエン酸溶液中で反応させることにより形成された錯体を含む、放射性ガリウム標識薬剤を例示できる。
【0037】
本発明に係る放射性標識薬剤は、標的分子認識素子と結合させた配位子であって金属と多配位の錯体を形成する配位子と該金属の放射性核種とから形成される錯体を有効成分とするものである。このような錯体は、標的分子認識素子と結合させた配位子であって金属と多配位の錯体を形成する配位子を含むため、配位子と同数の標的分子認識素子を有する。すなわち、このような錯体は複数の標的分子結合部位を有する。このように、標的分子認識素子と結合させた配位子であって金属と多配位の錯体を形成する配位子含み、その結果錯体中に配位子と同数の標的分子認識素子を有する錯体を多価錯体と称し、そして多価の錯体を有効成分として含む放射性標識薬剤を多価放射性標識薬剤と称する。例えば、標的分子認識素子と結合させた配位子であって金属と3配位の錯体を形成する配位子を含む錯体は、錯体中に3箇所の標的分子結合部位を有し、3価錯体と称する。また、標的分子認識素子と結合させた配位子であって金属と2配位の錯体を形成する配位子を含む錯体は、錯体中に2箇所の標的分子結合部位を有し、2価錯体と称する。標的分子認識素子と結合させた配位子であって金属と1配位の錯体を形成する配位子を含む錯体は、錯体中に1箇所の標的分子結合部位を有し、1価錯体と称する。
【0038】
標的分子への結合部位を2箇所有する化合物(2価の化合物)は標的分子への結合部位を1箇所有する化合物(1価の化合物)に比べて標的分子との高い親和性や集積を示すことが知られている(非特許文献3)。標的分子へ結合する化合物として抗体を例にとると、2価のIgG抗体は、1価のFab断片よりも少なくとも50~100倍、多価抗体のIgMはIgGの10倍の抗原との結合力(avidity)を有する。
【0039】
このことから、多価錯体は1価錯体と比較して、標的分子との高い親和性や集積を示す。したがって、多価錯体を含む放射性標識薬剤は、標的部位に高い集積性を示す。
【0040】
本発明に係る放射性標識薬剤は、放射性標識薬剤を用いた画像診断や、内部放射線治療に使用することができる。本発明に係る放射性標識薬剤は、がん疾患の診断や治療に好ましく使用されるが、適用疾患は特に限定されず、画像診断や内部放射線治療が適用される疾患であればいずれの疾患にも使用できる。診断や治療の対象となる標的の特性にしたがって、放射性標識薬剤の有効成分である錯体に結合させる標的分子認識素子を選択することにより、該標的の診断や治療が可能であり、本放射性標識薬剤は診断および治療の分野で広く使用できる。
【0041】
本発明に係る放射性標識薬剤の投与経路として、静脈内投与あるいは動脈内投与を好ましく挙げることができる。投与経路はこれら経路に限定されず、本放射性標識薬剤の投与後、その作用が有効に発現し得る経路であればいずれも利用できる。
【0042】
本発明に係る放射性標識薬剤の放射活性強度は、本標識薬剤を投与したことにより目的を達成し得る強度であり、かつ、被験者の放射線被爆が可能な限り低い臨床投与量である限りにおいて任意である。放射性強度は、放射性標識薬剤を使用する一般的な診断方法や治療方法で使用されている放射活性強度を参考にして決定できる。
【0043】
本発明に係る放射性標識薬剤は、上記錯体を有効成分として含むほか、必要に応じて、1種類または2種類以上の医薬的に許容される担体(医薬用担体)を含むことができる。医薬用担体として、pHを調整するための酸、塩基、緩衝液、安定化剤、等張化剤、保存剤を例示できる。
【0044】
本発明において、標的分子認識素子と結合させたH(sal)TAMEolを含む薬剤と、67Gaまたは68Gaを含む薬剤とを、別々の包装単位として含んでなるキットを提供できる。本発明に係るキットとして、sal-hx-RGDfKを含む薬剤と、TAMEolを含む薬剤と、67Gaまたは68Gaを含む薬剤とを、別々の包装単位として含んでなるキットを好ましく例示できる。67Gaまたは68Gaを含む薬剤は、好ましくは67Ga溶液または68Ga溶液であり、より好ましくはクエン酸67Gaや67GaClを、さらに好ましくはクエン酸67Gaを例示できる。キットに含まれる薬剤は、必要に応じて、上記のような1種類または2種類以上の医薬的に許容される担体(医薬用担体)を含むことができる。
【0045】
本発明に係る放射性標識薬剤の有効成分である錯体は多価錯体であり、1価錯体と比較して、標的分子との高い親和性や集積を示す。したがって、本発明に係る多価錯体を含む放射性標識薬剤は、従来使用されていた1価錯体を含む放射性標識薬剤と比較して、標的部位に高い集積性を示し、そのため放射性標識薬剤を用いた画像診断において高い感度を提供できる。また、本発明に係る多価錯体を含む放射性標識薬剤は、生体内において十分な安定性を示す。
【0046】
このように、本発明に係る多価錯体を含む放射性標識薬剤の使用により、標的部位への放射性錯体の集積を増加させることができ、その結果、放射性標識薬剤を用いた画像診断において高い感度を提供できる。例えば、本発明に係る放射性標識薬剤の有効成分である錯体は、がんの新生血管に高発現が認められるインテグリンに親和性を有する環状ペンタペプチドであるc(RGDfK)(配列表の配列番号1)を標的分子認識素子として複数有するため、1価錯体と比較して、標的部位であるがん新生血管への集積が増加する。また、この錯体は生体内において十分な安定性を示した。したがって、このような錯体を含む放射性標識薬剤は、がんの診断において高い感度を提供できる。
【0047】
本発明に係る放射性標識薬剤はまた、従来の放射性ガリウム標識薬剤と比較して有用性が高い。従来の放射性ガリウム標識薬剤はその製造において大過剰の配位子を使用するために、そのまま使用すると錯体を形成していない配位子が標的部位に対して放射性標識薬剤と競合し、放射性標識薬剤の集積の低下を招き、その結果、分子イメージングにおける標的分子の画像化が妨げられていた。一方、本発明に係る放射性標識薬剤は、錯体を形成していない配位子が速やかに配位座の数のより少ない配位子に崩壊し、錯体のみが多価効果を示すために、その製造において大過剰の配位子を使用しても標的部位への集積性が高く、分子イメージング技術による診断や治療経過の観察を容易にする。
【0048】
以下、実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下に示す実施例によって何ら限定されるものではない。
【0049】
標的部位に効率的に集積し、かつ、生体内での高い安定性を有する放射性ガリウム標識薬剤の製造を目的とし、Gaと錯形成するときは6座配位子であるが、錯形成後残存した配位子が速やかにn座配位子(n=1-5)に崩壊するという薬剤設計考案した。そして、シッフ塩基が水溶液中でアミン、アルデヒドと平衡状態にあることに注目し、シッフ塩基を有する配位子が錯体を形成していない時には分解されるが、錯形成することにより安定化すると考え(図1)、モデル配位子として配位子骨格にシッフ塩基を有するH(sal)TAMEolを用い、Gaとの錯体Ga-(sal)TAMEolを製造し、本薬剤設計の基礎評価を行った。次いで、標的分子認識素子として、悪性腫瘍などの新生血管に高密度に発現することが知られているαβインテグリンに特異的に結合する環状ペンタペプチドであるc(RGDfK)(配列表の配列番号1)を、Ga-(sal)TAMEolのベンゼン環にヘキサン酸を介して結合したGa-(RGD-hx)TAMEolを作製し、そのアポトランスフェリン中での安定性およびαβインテグリンに対する親和性を検討した。さらに、担癌モデルマウスを用いてGa-(RGD-hx)TAMEolの標的部位への特異的な集積性をインビボで検討した。
【0050】
(機器と試薬)
ガリウム-67(67Ga)は[67Ga]Ga-citrate(富士フイルムRIファーマ株式会社、トウキョウ、ニッポン)を用いた。HPLCによる分析は、UV検出器L-7405、ポンプL-7100(HITACHI製)を使用して行った。RT-HPLCカラムは5C18-AR-300カラム(4.6×150mm、Nacalai Tesque製、キョウト、ニッポン)を用い、流速1mL/分でミリQ水(milliQ水、A相)とメタノール(B相)を50:50から0:100まで15分で変化させる直線グラジエント法(システム1)、あるいはA相:B相を90:10から40:60まで30分で変化させる直線グラジエント法(システム2)、さらに、TSKgel TMS250(4.6×75mm TOSOH、トウキョウ、ニッポン)を用いて、流速0.8mL/分で0.1M Tris-HNO-バッファー pH7.0(C相)とアセトニトリル(D相)を95:5で溶出した(システム3)。溶出液はフラクションコレクター(RediFrac、GEヘルスケア バイオサイエンス製、トウキョウ)を用いて30秒毎に分取した。放射活性はオートウェルガンマカウンター(ARC-380M、アロカ、トウキョウ)を用いて計測した。また、LC-ICP-MSによる分析は、HPLC溶出液をICP-MS HP4500(アジレント、トウキョウ)にオンラインで接続し分析した。順相薄層クロマトグラフィー(TLC)には、シリカゲルプレート(メルクシリカゲル 60F254、日本メルク、トウキョウ)を、逆相薄層クロマトグラフィー(RP-TLC)には逆相シリカゲルプレート(メルクシリカゲル 60-RP-18F254S、日本メルク、トウキョウ)を用い、展開溶媒としてメタノール(システム4)あるいは0.1M 酢酸アンモニウム:メタノール=1:1を用いた。H-NMR、ESI-MSおよびFAB-MSによる分析はそれぞれJEOL JNM-ALPHA 400 スペクトロメータ(JEOL社、トウキョウ)およびアジレント 6100A JEOL JMS-AX 505 マス スペクトロメータ(JEOL社、トウキョウ)を使用して行った。125I-Arg-Gly-Asp-D-Tyr-Val(125I-RGDyV)および185/187Re-TMEC-[N-hx-c(RGDfK)]は以前に報告した方法(特許文献1)に従って合成した。その他の試薬は特級試薬を購入し、そのまま使用した。
【実施例1】
【0051】
(配位子の合成)
Gaと錯形成するときは6座配位子であるが、錯形成後残存した配位子が速やかにn座配位子(n=1-5)に崩壊するという薬剤設計を基に、配位子の骨格内にシッフ塩基を有するH(sal)TAMEolを合成した。
【0052】
1. トリサリチルアルジミノメチル エタノール[Tri-salicylaldiminomethyl-ethanol、H(sal)TAMEol]の合成
【0053】
(sal)TAMEolの合成法を化学反応式1に示す。
【0054】
(化学反応式1)
【化2】
JP0005971867B2_000003t.gif

【0055】
1-1. ペンタエリトリトール トリアジド(Penta-erithoritol-tri-azide)の合成
ペンタエリトリトール トリブロミン(Penta-erithoritol-tri-bromin) 2g(6.17mmol)とアジ化ナトリウム 4.7g(72mmol)をジメチルホルムアミド(dimethylformamide、DMF) 35mLに溶解し、窒素雰囲気下80℃で24時間攪拌した。溶媒を減圧除去した後、残渣をジクロロメタン(dichloromethane) 30mLに溶解し、ミリQ水(milliQ水) 20mLで2回洗浄した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、溶媒を減圧留去した。残渣をヘキサン:酢酸エチル(3:1)を溶出溶媒とするシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、ペンタエリトリトール トリアジドを無色透明油状物として得た(収量1.10g;収率84%)。H-NMR(CDOD):TM3.34(s,6H,CH)、3.49(s,2H,CH)、FAB-MS(m/z):212[(M+H)];Found:212.
【0056】
1-2. 2,2’,’’-トリ(アミノメチル)エタノール[2,2’,2’’-tri-(aminomethyl)-ethanol、TAMEol]の合成
ペンタエリトリトール トリアジド 1.10g(5.2mmol)と10% パラジウム炭素(Pd/C) 1.00gにメタノール 10mLを加え、水素雰囲気下4時間攪拌した。セライトろ過した後、溶液を減圧除去し、TAMEolを無色透明オイルとして得た。この化合物は精製をすることなく次の反応に用いた(収量177mg;収率25.6%)。H-NMR(CDOD) δ2.61(s,6H,CH)、3.46(s,2H,CH)FAB-MS(m/z):134[(M+H)];Found:134.
【0057】
1-3. トリサリチルアルジミノメチル エタノール[H(sal)TAMEol]の合成
TAMEol 170mg(1.27mmol)とサリチルアルデヒド(salicylaldehyde) 489mg(4mmol)をメタノール 10mLに溶解した。一晩室温で静置し、溶媒を減圧濃縮し黄色結晶を得た。結晶を最少量のメタノールに溶解し、再結晶することでH(sal)TAMEolを黄色結晶として得た(収量83mg;収率14.6%)。H-NMR 3.72(s,6H,CH),3.75(s,2H,CH),6.89(t,3H,CH),6.97(d,3H,CH),7.25(d,3H,CH),7.34(t,3H,CH),8.41(s,3H,CH=N),FAB-MS(m/z):446[(M+H)];Found:446.
【実施例2】
【0058】
(配位子の合成)
(sal)TAMEolを基本骨格とし、かつ、標的分子認識素子としてc(RGDfK)(配列表の配列番号1)を有する配位子H(RGD-hx)TAMEolの合成を試みた。H(sal)TAMEolの各サリチルアルデヒドに標的分子認識素子を結合することで、3価の標識体が得られる。標的分子への結合部位を複数有する多価薬剤の親和性には、それぞれの結合部位同士の距離が重要となる。実際、αβインテグリンを標的としたRGD結合薬剤の多価効果についての検討で、RGDペプチド間に25~30bondの距離が必要とされている。そこでRGDと配位子のスペーサーとしてヘキサン酸を選択して、H(RGD-hx)TAMEolの合成を試みた。
【0059】
まず、sal-hx-RGDfKの合成を行った。アルデヒド基の保護基として当初アセタールを試みたが、導入時の酸触媒により、カルボン酸とのエステルの生成が確認され、精製が困難であった。そこで、アミンとアルデヒドとの縮合によりシッフ塩基をつくり、これを保護基として用いた。スペーサーを結合させたc(RGDfK)(配列表の配列番号1)との縮合後、ペプチドの脱保護およびシッフ塩基の加水分解を同時に行い、RT-HPLCにより精製することでsal-hx-RGDfKを7工程で合成した。
【0060】
2. hx-c(RGDfK)結合サリチルアルデヒド(sal-hx-RGDfK)の合成
【0061】
sal-hx-RGDfKの合成は、具体的には、パラヒドロキシ安息香酸(p-Hydroxy benzoic acid)を出発物質として用いて、ダフ反応(Duff reaction)によりアルデヒド基を導入し、次いでアミンとの縮合によりシッフ塩基(shiff base)を作りアルデヒドを保護することにより行った(化学反応式2)。
【0062】
(化学反応式2)
【化3】
JP0005971867B2_000004t.gif

【0063】
2-1. 3-ホルミル-4-ヒドロキシ安息香酸(3-Formyl-4-hydroxy-benzoic acid)の合成
パラヒドロキシ安息香酸 5.0g(36mmol)をトリフルオロ酢酸(trifluoroacetic acid、TFA) 13mLに懸濁させ、TFA 15mLに溶解したヘキサメチレンテトラミン(hexamethylentetramine) 5.1g(36mmol)を窒素雰囲気下室温で滴下した。原料が消失するまで70℃で還流した後、室温下4N HCl 100mLを加えた。3時間攪拌後、黄色の析出物をろ取し、300mLのミリQ水で洗浄することにより目的物を得た(収量2.1g;収率35%)。H-NMR(CDOD) 7.01(d,1H,Aril),8.15(d,1H,Aril),8.38(s,1H,Aril),10.11(s,1H,CHO).
【0064】
2-2. 4-ヒドロキシ-3-[(2-ヒドロキシフェニルイミノ)メスチル]安息香酸{4-Hydroxy-3-[(2-hydroxy-phenylimino)-methtyl]-benzoic acid}の合成
3-ホルミル-4-ヒドロキシ安息香酸 500mg(3.0mmol)とオルトアミノフェノール(o-amino-phenol) 328mg(3.0mmol)をメタノール(30mL)に溶解した。70℃で5分間還流後室温まで冷却し、析出した赤褐色結晶をろ取することで目的物を得た(収量240mg;収率31%)。H-NMR(ジメチルスルホキシド(DMSO)) 6.90(t,1H,CH),6.96(dd,2H,CH),7.12(t,1H,CH),7.43(d,1H,CH),7.91(d,1H,CH) 8.24(s,1H,CH) 9.10(s,1H,CH=N).ESI-M (m/z):256[(M-H)];Found:256.
【0065】
2-3. Fmoc-6-アミノヘキサン酸(Fmoc-6-Aminohexanoic acid)の合成
6-アミノヘキサン酸(6-Aminohexanoic acid) 2.5g(19mmol)を水 38mLに溶解させ、10% NaHCO溶液 38mLを加え攪拌した。その後、ジオキサン 38mLに溶解したFmoc-Cl 3.1g(21mmol)を先の溶液に0℃でゆっくりと滴下した。室温で48時間攪拌した後、溶媒を減圧留去した。残渣をジクロロメタン 100mLに溶解し、2N HCl 30mLで洗浄した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥させた後、溶媒を減圧留去した。残渣をクロロホルム-メタノール(40:1)を溶出溶媒とするシリカゲルクロマトグラフィーにより精製し、目的化合物を白色結晶として得た(収量1.61g;収率24%)。ESI-MS(m/z):354[(M+H)];Found:354.
【0066】
2-4. Fmoc-6-アミノヘキサノアート-c[Arg(Pbf)-Gly-Asp(OtBu)-D-Phe-Lys]の合成
Fmoc-6-アミノヘキサン酸 324mg(0.92mmol)、cyclo[Arg(Pbf)-Gly-Asp(OtBu)-D-Phe-Lys] 838mg(0.92mmol)、ヒドロキシベンゾトリアゾール(hydroxybenzotriazole、(HOBt) 156mg(1.02mmol)を乾燥DMF 43.7mLに溶解した。1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド[1-Ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl)-carobodiimide、WSCI] 194mg(1.02mmol)の乾燥DMF(32.8mL)溶液を氷冷攪拌下ゆっくりと滴下し、室温で二晩攪拌した。溶媒を減圧留去後、残渣をジクロロメタン 100mLに溶解し、5% クエン酸(30mL)、ブリン(30mL)、5% NaHCO(30mL)、ブリン(30mL)、そして5% クエン酸(30mL)を用いて洗浄した。有機層を無水硫酸ナトリウムにより乾燥後、溶媒を減圧留去した。残渣に少量のジエチルエーテル(EtO)を加え、析出した薄黄色の結晶を粗生成物として得た。クロロホルム-メタノール(10:1)を溶出溶媒とするシリカゲルクロマトグラフィーにより精製し、目的化合物を灰白色の結晶として得た(収量705.4mg;収率61.5%)。ESI-MS(m/z):1247[(M+H)];Found:1247.
【0067】
2-5. 6-アミノヘキサノアート-c[Arg(Pbf)-Gly-Asp(OtBu)-D-Phe-Lys][hx-c(R(Pbf)GD(OtBu)fK]の合成
Fmoc-6-アミノヘキサノアート-c[Arg(Pbf)-Gly-Asp(OtBu)-D-Phe-Lys] 697.5mg(0.56mmol)を5% ピペリジン/DMF溶液 46.5mLに溶解し、室温で10分間攪拌した。溶媒を減圧留去し、残渣をノルマルヘキサン(n-hexane)(100mL)およびEtO(100mL)で洗浄することにより目的とする灰白色結晶を得た(収量578.2mg;収率100%)。ESI-MS(m/z):1025[(M+H)];Found:1025.
【0068】
2-6. hx-c[R(Pbf)GD(OtBu)fK]結合サリチルアルデヒド{sal-hx-c[R(Pbf)GD(OtBu)fK]}の合成
4-ヒドロキシ-3-[(2-ヒドロキシフェニルイミノ)メスチル]安息香酸 31mg(146.4μmol)、hx-c[R(Pbf)GD(OtBu)fK] 100mg(97.6μmol)、HOBt 15mg(10.7μmol)を乾燥DMF 44mLに溶解した。乾燥DMF 4.4mLに溶解したWSCI/HCl 19mg(10.7μmol)を氷冷攪拌下ゆっくり滴下した。室温で2日攪拌後、溶媒を減圧留去した。残渣を酢酸エチル 5mLおよび5% クエン酸 5mLで洗浄後、橙黄色の結晶を粗成生物として得た。これ以上の精製を行わず、次の反応に用いた(粗収量:96.5mg;粗収率:77%)。ESI-MS(m/z):1265[(M+H)];Found:1265.
【0069】
2-7. hx-c(RGDfK)結合サリチルアルデヒド(sal-hx-RGDfK)の合成
Sal-hx-c[R(Pbf)GD(OtBu)fK] 70mg(55.4μmol)をTFA:水=9:1の溶液30mLに溶解し、室温で2時間攪拌した。溶媒を減圧留去後、残渣を水とアセトニトリル 9:1溶液に溶解し、HPLC(システム1)で分取した(収量:13.48mg;収率:28.9%)。ESI-MS(m/z):865[(M+H)];Found:865.
【0070】
sal-hx-RGDfKを用いて、TAMEolとの縮合を行い、H(RGD-hx)TAMEolの合成を試みたが目的物の合成は困難であった。これはペプチドが有機溶媒に難溶性であり、水溶液中で結合反応を行っているため、形成された配位子が安定に存在できないためと考えられた。そこで配位子H(RGD-hx)TAMEolを作製せず、c(RGDfK)(配列表の配列番号1)を標的分子認識素子として有する配位子とガリウムとの錯体の作製は、sal-hx-RGDfKと、TAMEolと、ガリウムとを同時に混合して、配位子骨格の形成とガリウムとの錯形成を同時に行わせることにより実施した(後述3-2.および4-2.)。
【実施例3】
【0071】
(非放射性ガリウム錯体の合成)
Ga-(sal)TAMEolおよびGa-(RGD-hx)TAMEolの合成法を化学反応式3に示す。Ga-(RGD-hx)TAMEolはクエン酸ガリウム(Ga-citrate)との配位子交換反応により合成した。
【0072】
(化学反応式3)
【化4】
JP0005971867B2_000005t.gif

【0073】
3-1. Ga-(sal)TAMEolの合成
(sal)TAMEol 12.8mg(28.9μmol)とガリウム-アセチルアセトナート(acetylacetonate) 10.5mg(28.6μmol)をエタノール 8.5mLに溶解し、80℃で12時間還流した。析出した淡黄色結晶を濾取し、目的とするガリウム錯体を得た(収量8mg;収率54%)。FAB-MS(m/z):511[(M+H)];Found:510.
【0074】
3-2. Ga-(RGD-hx)TAMEolの合成
TAMEol 0.033mg(250nmol)、sal-hx-RGDfK 0.86mg(1μmol)をミリQ水 120μLに溶解した。GaCl 34mg(196μmol)を0.1N クエン酸三ナトリウム溶液 4mLに溶解し、0.2N NaOH溶液でpH6~6.5に調整した溶液5μLを先の溶液に加え、80℃で1時間加熱した。室温まで冷却した後、RT-HPLC(システム3)により精製し、目的とする錯体を得た(収量0.1mg;収率14.4%)。ESI-MS(m/z):1370[(M+2H)2+],914[(M+3H)3+];Found:1370(m/2z),914(m/3z).
【0075】
Ga-(sal)TAMEolはクロロホルムや酢酸エチルをはじめとするほとんどの有機溶媒に難溶性で、加熱したDMSOにのみ多少溶解した。
【実施例4】
【0076】
[放射性ガリウム(67Ga)標識]
4-1. 67Ga-(sal)TAMEolの作製
(sal)TAMEol 0.5mgを1.12mLのエタノールに溶解した。本溶液20μLに67Ga-citrate溶液を20μL加え、80℃で15分間加熱した。放射化学的収率はTLC(システム4)により求めた。
【0077】
4-2. 67Ga-(RGD-hx)TAMEolの作製
2mM sal-hx-RGDfKと0.57mM TAMEolを含むリン酸緩衝生理食塩水(PBS)溶液20μLに67Ga-citrate溶液40μLを加え、80℃で1時間加熱した。放射化学的純度はTLC(システム5)およびRP-HPLC(システム3)により求めた。
【0078】
67Ga-(sal)TAMEolの形成の確認]
67Ga-(sal)TAMEolは、上記のように67Ga-citrateとH(sal)TAMEolとの配位子交換反応により、最終濃度5×10-4Mにおいて放射化学的収率95%以上で得られた。
【0079】
67Ga-(sal)TAMEolの形成の確認を、RT-HPLCにおける67Ga-(sal)TAMEolの保持時間をGa-(sal)TAMEolの保持時間と比較することにより行った。H(sal)TAMEolの非放射性ガリウム錯体は難溶性であり、RT-HPLC装置に付随したUV検出装置で検出できる量の溶解度を有していなかったため、非放射性ガリウム錯体の保持時間はICP-MSにより求めた。TSKgel TMS 250カラムを用いたRP-HPLC分析において、非放射性Ga-(sal)TAMEolの保持時間と67Ga-(sal)TAMEol錯体の保持時間(5.5分)が一致した(図2)。また、TLC(システム4)を用いた分析においても同様のRf値(順相:0.55、逆相:0.79)に放射活性とUV吸収を観察した。このように、67Ga-(sal)TAMEolの保持時間がGa-(sal)TAMEolの保持時間と類似したことから、67Ga-(sal)TAMEolの形成を確認した。
【0080】
67Ga-(RGD-hx)TAMEolの形成の確認]
67Ga-(RGD-hx)TAMEolは、上記のようにsal-hx-RGDfKとTAMEolを混合した溶液に67Ga-citrateを加えて加熱することにより合成した。本合成方法では、ガリウムの配位した錯体は三価錯体として安定に存在するが,ガリウムが配位しないものは一価配位子のまま存在すると考えられる。そこで、RT-HPLCでの分析および質量分析により構造を確認した非放射性ガリウム錯体Ga-(RGD-hx)TAMEolのRT-HPLCにおける保持時間と放射性ガリウム錯体の保持時間とを比較することにより、67Ga-(RGD-hx)TAMEolの形成の確認を行った。
【0081】
RP-HPLC(システム2)分析において、67Ga-(RGD-hx)TAMEolの保持時間はGa-(RGD-hx)TAMEolのものと一致した(28.5分)(図3のパネルAおよびB)。UVによる分析では、主なUV吸収はsal-hx-RGDfKおよび67Ga-citrateに含まれるベンジルアルコールであり(それぞれ26分および15分)、H-(RGD-hx)TAMEolやH-(RGD-hx)TAMEolなどのガリウムを含まない多価配位子のUV吸収は観察されなかった(図3のパネルC)。このことから、本合成方法の産物には67Ga錯体のみが三価体として存在していると考えることができる。
【0082】
67Ga-(RGD-hx)TAMEolは、最終濃度6.67×10-4Mにおいて放射化学的収率95%以上で得られた。
【実施例5】
【0083】
(sal)TAMEol、67Ga-(sal)TAMEol、および67Ga-(RGD-hx)TAMEolの安定性の評価を行った。
【0084】
[H(sal)TAMEolの水溶液中での安定性の評価]
配位子であるH(sal)TAMEolの安定性の評価を行った。H(sal)TAMEolを1mM/エタノール溶液として37℃で1時間インキュベーションした。また、H(sal)TAMEolの1mM/エタノール溶液を10mMリン酸緩衝液(pH7.4)で3倍に希釈し、37℃で1時間インキュベーションした。両溶液をRP-HPCL(システム3)により分析し、分解で生じるサリチルアルデヒドの量を比較した。
【0085】
(sal)TAMEolは、エタノール溶液中では安定であったが、リン酸緩衝液中では保持時間5分のサリチルアルデヒドのピークが主に観察された(図4)。このことから、リン酸緩衝液で希釈することによりH(sal)TAMEolは、速やかにサリチルアルデヒドとTAMEolに崩壊することが明らかになった。
【0086】
また、67Ga標識した後のRT-HPLC分析においても、H(sal)TAMEolの残存量は僅かであった。
【0087】
これらの結果は、錯形成後残存した配位子が速やかに2座配位子に分解することを示す。
【0088】
(ガリウム錯体のアポトランスフェリン中での安定性の評価)
67Ga-(sal)TAMEolの安定性を評価するために、アポトランスフェリンに対する安定性を評価した。Gaは鉄イオンと似た性質をもち、炭酸イオン存在下では血漿タンパク質であるトランスフェリンと結合する。そのため、不安定なGa錯体は血漿中で分解し、トランスフェリンと結合後、肝臓などへ運ばれる。RT-HPLCで精製した67Ga-(sal)TAMEolの炭酸イオン存在下におけるアポトランスフェリンに対する安定性を検討した。
【0089】
具体的には、次のように評価を実施した。まず、RP-HPLC(システム2)により過剰のsal-hx-RGDfKを除去し、精製した67Ga-(sal)TAMEolを0.1M 炭酸バッファー(carbonate buffer、pH7.4)に溶解した。本溶液100μLにアポトランスフェリン 1.04mgを150μLの0.1 M 炭酸バッファー(pH7.4)に溶解した溶液を加え、37℃で1、3、6時間インキュベーションし、TLC(システム4、5)およびRP-HPLC(システム3)で未反応の割合を求めた。
【0090】
67Ga-(sal)TAMEolはアポトランスフェリン溶液中において6時間後まで安定に存在した(図5)。
【0091】
これらの結果は、H(sal)TAMEolが、Gaと錯形成した場合は安定であり、錯形成後残存した場合は速やかに2座配位子に崩壊するという所期の目的を満たした配位子であることを示す。
【0092】
本配位子の各サリチルアルデヒドに標的分子認識素子c(RGDfK)を有し、Gaと錯形成した錯体、67Ga-(RGD-hx)TAMEolを作製し、同様に安定性の検討を行った。
【0093】
67Ga-(RGD-hx)TAMEolも6時間後まで安定に存在した(図6)。従って、パラ位に標的分子認識素子の導入を行っても錯体の安定性に影響はないと考えられた。
【0094】
以上の結果より、TAMEolは標的分子認識素子としてペプチドを導入しても高い安定性を有し、錯形成により生じたGa-(RGD-hx)TAMEolのみが三価として安定に存在し、錯形成を行わなかったものは、加水分解により、一価体となるという所期の目的に適した化合物であると考えられる。
【実施例6】
【0095】
67Ga-(RGD-hx)TAMEolのαβインテグリンに対する親和性を検討した。
【0096】
[固相αβ結合アッセイ(Solid-phase αβ binding assay)]
標的分子認識素子を3個有する3価の放射性ガリウム錯体67Ga-(RGD-hx)TAMEolの標的分子αβインテグリンへの結合親和性を、125I-RGDyVとの競合的結合アッセイにより検討した。対照化合物として、環状ペンタペプチドであり1価化合物であるc(RGDyV)(配列番号2)および2価化合物である185/187Re-TMEC-[N-hx-c(RGDfK)](特許文献2)を使用した。
【0097】
具体的には、次のように評価を実施した。イムノロックウェルモジュール(マキシソープ、Nalge-Nunc International K.K.、トウキョウ)プレートに、ヒト精製αβインテグリン(Chemicon International、Temecula、CA、USA)のコーティング バッファー(25mM Tris-HCl、pH7.4、150mM NaCl、1mM CaCl、0.5mM MgCl、1mM MnCl)溶液(600ng/mL) 100μLを加え、4℃で一晩コーティングした。ウエルをバインディング バッファー(0.1% BSA/コーティング バッファー) 200μLで2回洗浄した。各ウエルを2時間ブロッキング バッファー(1% BSA/コーティング バッファー) 200μLでブロッキングした後、各ウエルをバインディング バッファー 200μLで2回洗浄した。バインディング バッファーに溶解した125I-RGDyV溶液(95μL、0.3μCi)および各濃度(2nM、20nM、0.2μM、2μM、20μM、200μM、2000μM)の非放射性リガンドGa-(RGD-hx)TAMEol、185/187Re-TMEC-[N-hx-c(RGDfK)]およびc(RGDyV)溶液 5μLを加えて最終濃度を10-10、10-9、10-8、10-7、10-6、10-5、10-4Mとし、37℃で1時間振とうした。ウエルをバインディング バッファー 200μLで3回洗浄し、各ウエルの放射活性を測定した。
【0098】
125I-RGDyVとの競合的結合アッセイにおいてαβインテグリンへの結合性を評価したところ、c(RGDyV)、185/187Re-TMEC-[N-hx-c(RGDfK)]、およびGa-(RGD-hx)TAMEolのIC50値はそれぞれ114±13nM、44.7±13nM、および5.26±0.35nMであった。Ga-(RGD-hx)TAMEolが最も低いIC50値を示した。
【0099】
このように、3価化合物であるGa-(RGD-hx)TAMEolは、αβインテグリンへの結合能が、1価の化合物であるc(RGDyV)(配列番号2)や2価化合物である185/187Re-TMEC-[N-hx-c(RGDfK)](特許文献2)よりも高いことが判明した。
【0100】
これらの結果は、sal-hx-RGDfKとTAMEolとからなる配位子は、Gaと錯形成することで、親和性の高い3価の錯体となる一方、未反応の配位子は親和性の低い一価のままであることを示す。
【0101】
c(RGDfK)を標的分子認識素子として用いた以上の検討から、H(sal)TAMEolはガリウムと錯形成を行ったもののみが三価体として安定に存在し、錯形成を行わなかったものは加水分解により一価となり、多価効果により親和性に差が生じることが明らかになった。このように、H(sal)TAMEol、および標的分子認識素子を有するH(sal)TAMEolは、標的部位への集積を向上する新たな放射性ガリウムの標識薬剤の設計に有用である。
【実施例7】
【0102】
腫瘍の画像診断における67Ga-(RGD-hx)-TAMEolの効果と、副作用である他組織への集積の程度を、担癌モデルマウスを用いて検討した。
【0103】
具体的には、ヒトグリオーマ細胞、U87MGを移植した担癌マウスに67Ga-(RGD-hx)-TAMEol(6.4MBq、0.4mM、100μL)を投与し、投与1時間後に小動物用SPECT/CT装置にて撮像した。撮像は、5穴マルチピンホールコリメータを装着したFX-3200小動物用SPECT/CT装置(Gamma Medica社製)を用い、60s/projection、ROR 45mmの条件により撮像した。撮像中、マウスは1.3% イソフルラン(isoflurane)により麻酔を行った。
【0104】
図7に示すように、67Ga-(RGD-hx)-TAMEolは、左足に移植した腫瘍を明瞭に画像化した。一方、他の組織へのその集積は、腎臓および膀胱の排泄組織以外では観察されなかった。
【0105】
本結果から、標的分子認識素子を有するH(sal)TAMEolと放射性ガリウムとから形成される錯体構造を有する錯体は、標的部位に特異的に集積し、画像診断で標的部位を明瞭に画像化できること、および排泄組織以外の他の組織に集積するという副作用を示さないことが、インビボにおいて明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0106】
以上説明したとおり、本発明は、標的分子認識素子と結合させたH(sal)TAMEolと、ガリウム67またはガリウム68とから形成される錯体を含み、標的部位への集積性および安定性が増加した放射性ガリウム標識薬剤を提供できる。
【0107】
本発明に係る放射性ガリウム標識薬剤は、錯体を形成していない配位子が速やかに配位座の数のより少ない配位子に崩壊し、ガリウム錯体のみが多価効果を示すために、標的部位への集積性が高く、また、安定性も高いため、疾患の診断や治療効果の経過観察など、例えばSPECTやPETなどを用いた分子イメージング技術による診断や治療効果の経過観察などに有用である。
【配列表フリ-テキスト】
【0108】
配列番号1:第10フィブロネクチンタイプIII反復領域に由来する環状ペプチド。
配列番号2:環状ペプチド。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6