TOP > 国内特許検索 > 免疫応答を回避するための薬剤 > 明細書

明細書 :免疫応答を回避するための薬剤

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6067564号 (P6067564)
登録日 平成29年1月6日(2017.1.6)
発行日 平成29年1月25日(2017.1.25)
発明の名称または考案の名称 免疫応答を回避するための薬剤
国際特許分類 A61K  47/02        (2006.01)
A61K  47/42        (2017.01)
A61K   9/14        (2006.01)
FI A61K 47/02 ZNA
A61K 47/42
A61K 9/14
請求項の数または発明の数 3
全頁数 17
出願番号 特願2013-528956 (P2013-528956)
出願日 平成24年8月3日(2012.8.3)
国際出願番号 PCT/JP2012/069800
国際公開番号 WO2013/024710
国際公開日 平成25年2月21日(2013.2.21)
優先権出願番号 2011176686
優先日 平成23年8月12日(2011.8.12)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成27年7月31日(2015.7.31)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
発明者または考案者 【氏名】阿部 敬悦
【氏名】川上 和義
【氏名】阿尻 雅文
【氏名】福本 学
【氏名】高見 誠一
【氏名】冨樫 貴成
【氏名】村垣 公英
【氏名】高橋 徹
個別代理人の代理人 【識別番号】110001047、【氏名又は名称】特許業務法人セントクレスト国際特許事務所
審査官 【審査官】石井 裕美子
参考文献・文献 加瀬明日香 他,麹菌の細胞表層タンパク質Hydrophobin(HypA)の単量体生産,日本農芸化学会大会講演要旨集,2009年,Vol.2009,p.272
石川絢也 他,麹菌Aspergillus oryzaeの細胞表層タンパク質Hydrophobin群の局在解析,日本農芸化学会大会講演要旨集,2009年,Vol.2009,p.272
AIMANIANDA,V. et al,Surface hydrophobin prevents immune recognition of airborne fungal spores,Nature,2009年,Vol.460, No.7259,p.1117-21
DAGENAIS,T.R. et al,Aspergillus fumigatus LaeA-mediated phagocytosis is associated with a decreased hydrophobin layer,Infection and immunity,2010年,Vol.78, No.2,p.823-9
調査した分野 A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/48
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
ナノメーターサイズの金属単体または金属化合物の表面にRolAタンパク質が修飾されている粒子を含んでなる、樹状細胞に対する免疫刺激の回避およびマクロファージによる貪食の回避のための組成物。
【請求項2】
RolAタンパク質がアスペルギル属糸状菌由来である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
ナノメーターサイズの金属単体または金属化合物が3-(3,4-ジヒドロキシフェニル)プロピオン酸で修飾されたものである、請求項1または2に記載の組成物。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、RolAタンパク質を含んでなる免疫応答を回避するための薬剤に関する。
【背景技術】
【0002】
金属元素を構成元素として含有しているナノメーターサイズの超微粒子(例えば、金属酸化物ナノ粒子や金属水酸化物ナノ粒子)は、触媒、記憶材料、発光材料、蛍光材料、二次電池用材料、電子部品材料、磁気記録材料、研摩材料、オプトエレクトロニクス、医薬品、化粧品などの広範な分野での利用が期待されている。ナノメーターサイズの粒子を使用している材料は、その極度に小さなサイズに付随して生ずる興味深い特性を示すことが多いことが知られている。このような材料は工学的、電子的、機械的、および化学的特性の幾つかにおいて、既存のバルク材料とは異なる性質を示すことが報告されている。特に磁性ナノ粒子への注目が高まりを見せており、精力的に研究が行われつつある。磁性ナノ粒子を含めた金属元素含有ナノ粒子が示す特性の中で注目される魅力的な性質は、量子的な性質、磁気光学的な性質と密接に関連しており、広範な用途の産業および科学において注目されている。磁性ナノ粒子は、磁性流体や高密度記録材料、医療診断材料など多くの応用が期待されている。
【0003】
磁性ナノ粒子は、それらが有望な用途を有していることから広範な分野で研究者にますます注目されてきている(非特許文献1から4)。マグネタイト(磁鉄鉱、Fe3O4)は、ヒトに対して化学的には無毒なものであることから、例えば、薬物や遺伝子デリバリーのキャリアーとしての用途、癌の温熱療法(hyperthermia therapy)における用途、バイオセンサーにおける用途、そして再生移植医療を含む組織工学(tissue engineering)における用途を包含する、Fe3O4の多くの医療用途が提案されており、研究されている(非特許文献5から8)。
【0004】
このような医療応用を実現するためには、Fe3O4を十分に小さなものとし、水や血液中で凝集することなく良好に分散しているようにすることが求められている。加えて、マクロファージを含めた貪食細胞によって捕捉されることがないようにすること、すなわち、ヒトの体内における免疫学的な反応に対してステルス性を有するようにすることが求められている。Fe3O4ナノ粒子は、様々な方法で合成されてきており(非特許文献9)、それらの表面の性状は、リガンド交換法を含めたいくつかの手法で変えることができる(非特許文献10から15)。
【0005】
貪食細胞によって捕捉されることなく、血中での半減期寿命を長くするため(非特許文献16)、ポリエチレングリコールなどの様々なポリマーでもって酸化鉄のナノ粒子を被覆することが試みられてきた(非特許文献17から20)。しかしながら、これらの方法では、その個々の方法を適用することが実用上困難であるのに加えて、溶媒間を移動する間の分散液の安定性が問題であった(非特許文献21)。
【0006】
また、200nmより大きいナノ粒子は、脾臓の貪食細胞により捕捉されることが報告されている(非特許文献22)。
【0007】
なお、本発明者らのグループは、金属酸化物ナノ粒子や金属水酸化物ナノ粒子を合成する手法として、亜臨界水や超臨界水といった高温高圧水下での水熱合成場を利用する技術を開発している(特許文献1から5)。
【先行技術文献】
【0008】

【特許文献1】特開平4-50105号公報
【特許文献2】特開平6-302421号公報
【特許文献3】特開2005-21724号公報
【特許文献4】特開2005-194148号公報
【特許文献5】特開2008-162864号公報
【0009】

【非特許文献1】M. De, P. S. Ghosh, V. M. Rotello, Adv. Mater. 2008, 20, 4225-4241
【非特許文献2】Y. Jun, J. H. Lee, J. Cheon, Angew. Chem. Int. Ed. 2008, 47,5122-5135
【非特許文献3】J. Kim, Y. Piao, T. Hyeon, Chem. Soc. Rev. 2009, 38, 372-390
【非特許文献4】V. I. Shubayev, T. R. Piasanic, S. Jin, Advanced Drug Delivery Review 2009, 61, 467-477
【非特許文献5】J. Kreuter, Adv. Drug. Deliv. Rev. 2001, 47, 65-81
【非特許文献6】J. M. Nam, C. S. Thaxton, D. A. Mirkin, Science 2003, 301, 1884-1886
【非特許文献7】A. Ito, Y. Kuga, H. Honda, H. Kikkawa, A. Horiuchi, Y. Watanabe, T. Kobayashi, Cancer Lett. 2004, 212, 167-175
【非特許文献8】A. Ito, M. Shinlai, H. Honda, T. Kobayashi, J. Biosci. Bioeng. 2005, 100, 1-11
【非特許文献9】X. Wang, J. Zhuang, Q. Peng, Y. Li, Nature 2005,437, 121-124
【非特許文献10】Q. Liu, Z. Xu, Langmuir, 1995, 11, 4617-4622
【非特許文献11】A. B. Bourlinos, A. Bakandritos, V. Georgakilas, D. Petridis, Chem. Mater. 2002, 14, 3226-3228
【非特許文献12】R. Hong, N. O. Fischer, T. Emrick, V. M. Rotello, Chem. Mater. 2005, 17, 4617-4621
【非特許文献13】S.-W. Kim, S. Kim, J. B. Tracy, A. Jasanoff, M. G. Bawendi, J. Am. Chem. Soc. 2005, 127, 4556-4557
【非特許文献14】D. K. Yi, S. T. Selvan, S. S. Lee, G. C. Papaefthymiou, D. Kundaliya, J. Y. Ying, J. Am. Chem. Soc. 2005, 127, 4990-4991
【非特許文献15】B.-S. Kim, J.-M. Qiu, J.-P. Wang, T. A. Taton, Nano Lett. 2005, 5, 1987-1991
【非特許文献16】Y. Zhang, N. Kohler, M. Zhang, Biomaterials 2002, 23, 1553-1560
【非特許文献17】M. Taupitz, J. Wagner, J. Schonorr, Invest Radiol. 2004, 39, 619-625
【非特許文献18】T. Neuberger, B. Schopf, H. Hofmann, M. Hofmann, B. Rechenberg, J. Magn. Magn. Mater. 2005, 293, 483-496
【非特許文献19】M. S. Nikolic, M. Krack, V. Aleksandrovic, A. Kornowski, S. Forster, H. Weller, Angew. Chem. Int. Ed. 2006, 45, 6557-6580
【非特許文献20】A. F. Thunemann, D. Schutt, L. Kaufner, U. Pison, H. Mohwald, Langmuir 2006, 22, 2351-2357
【非特許文献21】R. E. Bailey, S. Nie, in The Chemistry of Nanomaterials: Synthesis, Properties and Application (Eds: C. N. R. Rao, A. Muller, A. K. Cheetham), WILEY-VCH, Weinheim, 2004, pp.405
【非特許文献22】C. Sun, J. S. H. Lee, M. Zhang, Advanced Drug Delivery Reviews 2008, 60、1252-1265
【非特許文献23】V. Aimanianda, J. Bayry, S. Bozza, O. Kniemeyer, K. Perruccio, SR. Elluru, C. Clavaud, S. Paris, AA. Brakhage, SV. Kaveri, L. Romani, JP. Latge. Nature. 2009, Aug 27;460(7259), 1117-1121.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記の通り、免疫応答回避機能が付与された種々のナノ粒子の開発が試みられているが、医療応用などを行う場合には、免疫応答回避機能を付与しつつ、安全性を高める必要がある。ここで、極小サイズのナノ粒子のみならず、直径が200nm以上のナノ粒子に対しても、免疫応答回避機能を付与しうる汎用性の高い技術であることが好ましい。このため、生体分子の中から、優れた免疫応答回避機能を有する分子を同定し、その分子で修飾されたナノ粒子を開発することが求められている。
【0011】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、免疫応答回避機能を有する生体分子で修飾されたナノ粒子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、アスペルギルス属糸状菌由来のRolA(RodA like protein A)タンパク質で、ナノ粒子(カテコールで修飾されたFe3O4)の表面を修飾したところ、ナノ粒子による骨髄樹状細胞の免疫刺激活性が減少するとともに、マクロファージによる貪食が減少することを見出した。特に、これまでマクロファージによる貪食を回避することができないとされていた直径200nm以上のナノ粒子に対しても、RolAタンパク質による修飾によりマクロファージによる貪食を回避することができたことは、驚くべきことである。清酒、味噌、醤油など種々の食品の製造に利用されている麹菌やその他の安全性の高い微生物に由来するRolAタンパク質で修飾されたナノ粒子は、このような優れた免疫応答回避機能と高い安全性を兼ね備えており、医療応用などに用いる組成物として有用である。
【0013】
本発明は、より詳しくは、以下の発明を提供するものである。
【0014】
(1)RolAタンパク質を含んでなる免疫応答を回避するための組成物。
【0015】
(2)RolAタンパク質がアスペルギル属糸状菌由来である、(1)に記載の組成物。
【0016】
(3)さらに、ナノメーターサイズの金属単体または金属化合物を含んでなる、(1)または(2)に記載の組成物。
【0017】
(4)ナノメーターサイズの金属単体または金属化合物の表面にRolAタンパク質が修飾されている、(3)に記載の組成物。
【0018】
(5)ナノメーターサイズの金属単体または金属化合物がカテコールで修飾されたものである、(4)に記載の組成物。
【0019】
(6)免疫応答の回避が、樹状細胞に対する免疫刺激の回避およびマクロファージによる貪食の回避である、(1)から(5)のいずれかに記載の組成物。
【発明の効果】
【0020】
医療用ナノ粒子では、ヒトや動物への投入時の免疫システムによる捕捉が大きな課題となっている。これまでにアスペルギルス・フミガタス(Aspergillus fumigates)由来のRodAタンパク質が、樹状細胞を刺激しないことは知られているが(非特許文献23)、マクロファージによる貪食を回避する機能を有するか否かは知られていない。また、アスペルギルス・フミガタス(Aspergillus fumigates)は、アスペルギルス症の原因菌であり、それに由来する分子を用いることは安全性の面で問題が生じうる。
【0021】
本発明の組成物は、生体中で安定な金属単体または金属化合物をRolAタンパク質で被覆したナノ粒子であり、樹状細胞を刺激せず、かつ、マクロファージの貪食をも回避しており、優れた免疫応答回避機能(ステルス機能)を有する。また、本発明の組成物は、麹菌などに由来するRolAタンパク質を用いているため、安全性が高い。しかも、本発明の組成物に用いられるRolAタンパク質は、直径が200nmのナノ粒子に対しても免疫応答回避機能を付与することができる。さらに、RolAタンパク質は、50μg/mlの高濃度においても、免疫応答回避機能を有している。従って、本発明により、優れた免疫応答回避機能と高い安全性を兼ね備えたナノ粒子が提供された。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】LPSを除去した精製RolAをSDS-PAGE(SDS-polyacrylamide gel electrophoresis)解析した結果を示す電気泳動写真である。写真のレーン1は分子量マーカーを、レーン2は精製RolAを、それぞれ電気泳動したものである。
【図2】骨髄樹状細胞によるIL-12(interleukin-12)産生を定量した結果を示すグラフである。骨髄樹状細胞には、LPS(Lipopolysaccharide)を除去しRolAとLPSを除去しないRolAをそれぞれ導入した。また、対照としてLPSとCpGを用いた。
【図3】カテコール修飾Fe3O4ナノクラスターに吸着したRolAを定量した結果を示すグラフである。
【図4】骨髄樹状細胞によるIL-12産生を定量した結果を示すグラフである。骨髄樹状細胞には、RolA、RolAで被覆されていないFe3O4ナノクラスター、RolA被覆Fe3O4ナノクラスターをそれぞれ導入した。対照として、LPSとCpGを用いた。
【図5】RolA被覆Fe3O4ナノクラスターを導入した骨髄樹状細胞によるTNF-α(tumor necrosis factor-α)産生を定量した結果を示すグラフである。また、RolA、RolAで被覆されていないFe3O4ナノクラスターでも同様に定量を行った。対照として、LPSおよびCpGを用いた。
【図6】マクロファージとFe3O4ナノクラスターの共局在を共焦点蛍光顕微鏡を用いて観察した結果を示す顕微鏡写真である。Aは、RAW264.7細胞によるRolAで被覆されていないFe3O4ナノクラスターの貪食の観察結果を、Bは、RAW264.7細胞によるRolA被覆Fe3O4ナノクラスターの貪食の観察結果を示す。
【図7】RAW264.7細胞とFe3O4ナノクラスターの共局在を大気圧走査電子顕微鏡を用いて観察した結果を示す顕微鏡写真である。左の写真は、RAW264.7細胞によるRolAで被覆されていないFe3O4ナノクラスターの貪食の観察結果を、右の写真は、RAW264.7細胞によるRolA被覆Fe3O4ナノクラスターの貪食の観察結果を示す。左の写真の矢印は、RAW264.7細胞による貪食が生じていることを示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は、RolAタンパク質を含んでなる免疫応答を回避するための組成物を提供する。

【0024】
本発明において「免疫応答を回避する」とは、ヒトや動物の体内へ投入した場合において、免疫システムによる捕捉を回避するようにする働きを示すことを意味する。ここで「回避」には、捕捉の完全な回避および捕捉の有意な低下をも含む意味である。免疫応答の回避とは、具体的には、樹状細胞(例えば、骨髄樹状細胞)、マクロファージ、ヘルパーT細胞、キラーT細胞、レギュラトリーT細胞、ナチュラルキラーT細胞などのTリンパ球、Bリンパ球、ナチュラルキラー細胞、単球、クッパー細胞、マイクログリア細胞、ランゲルハンス細胞、好中球、好酸球、好塩基球、肥満(マスト)細胞、などの免疫系に関与する細胞に対する刺激を回避することを意味する。

【0025】
免疫系に関与する細胞に対する刺激は、これら免疫系に関与する細胞に発現するパターン認識受容体を介する細胞内刺激伝達経路の刺激作用、サイトカイン・ケモカイン類産生作用および/またはサイトカイン・ケモカイン類産生系刺激作用、コスティミュラトリー分子類発現作用および/またはコスティミュラトリー分子類発現刺激作用、接着分子類発現作用および/または接着分子類発現刺激作用であり得る。サイトカイン・ケモカイン類としては、例えば、IL-12、TNF-αが挙げられる。

【0026】
また、免疫システムによる捕捉には、網内系を介しての異物排除作用、例えば、マクロファージの関与する貪食作用が含まれる。

【0027】
本発明の組成物に用いる「RolAタンパク質」としては、その由来に特に制限はない。好ましくは、食品分野などに応用されている安全性の高い微生物に由来するRolAタンパク質である。好ましい微生物としては、アスペルギル(Aspergillus)属糸状菌が挙げられ、特に好ましくは麹菌である。麹菌としては、例えば、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)やアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)が挙げられる。

【0028】
本発明における「RolAタンパク質」には、RolA遺伝子から発現させた組換えタンパク質、精製したRolAタンパク質、およびこれらタンパク質の天然の若しくは人工的な変異体が含まれる。

【0029】
アスペルギルスオリゼ由来のRolAタンパク質の典型的なアミノ酸配列を配列番号:2に、該タンパク質をコードするDNAの典型的な塩基配列を配列番号:1に示す(GenBankアクセッション番号:AB094496.1を参照のこと)。配列番号:1において1から16位のアミノ酸配列はシグナル配列である。本発明においては、シグナル配列が除去されたタンパク質を用いることができる。また、本発明においては、アスペルギルスオリゼ由来のRolAタンパク質の他、その天然の若しくは人工的な変異体を用いることもできる。また、他の生物由来のRolAタンパク質やその天然の若しくは人工的な変異体を用いることもできる。

【0030】
アスペルギルスオリゼ由来のRolAタンパク質以外のタンパク質の一つの態様は、配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/または挿入されたアミノ酸配列からなり、上記免疫応答を回避する機能を有するタンパク質である。ここで複数とは、免疫回避機能を保持する範囲のアミノ酸の数であり、一般的には、部位特異的突然変異誘発法などの周知の方法により、または天然に生じ得る程度のアミノ酸の変異数である。具体的には、通常、1~30個、好ましくは1~10個、より好ましくは1~5個、最も好ましくは1~2個である。

【0031】
アスペルギルスオリゼ由来のRolAタンパク質以外のタンパク質の他の態様は、配列番号:1に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAがコードするタンパク質であって、上記免疫応答を回避する機能を有するタンパク質である。ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件としては、6M尿素、0.4%SDS、0.5xSSCの条件またはこれと同等のストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件を例示できる。よりストリンジェンシーの高い条件、例えば、6M尿素、0.4%SDS、0.1xSSCの条件を用いれば、より相同性の高いDNAの単離を期待することができる。

【0032】
アスペルギルスオリゼ由来のRolAタンパク質以外のタンパク質の他の態様は、配列番号:2に記載のアミノ酸配列と80%以上(例えば、85%、90%、95%、97%、99%以上)の相同性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質であって、上記免疫応答を回避する機能を有するタンパク質である。配列の相同性は、BLASTX(アミノ酸レベル)のプログラム(Altschul et al. Mol. Biol., 1990, 215, 403-410)を利用して決定することができる。該プログラムは、KarlinおよびAltschulによるアルゴリズムBLAST(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 1990, 87, 2264-2268、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 1993, 90, 5873-5877)に基づいている。BLASTXによってアミノ酸配列を解析する場合には、パラメーターは、例えば、score=50、wordlength=3とする。また、Gapped BLASTプログラムを用いて、アミノ酸配列を解析する場合は、Altschulら(Nucleic Acids Res. 1997, 25, 3389-3402)に記載されているように行うことができる。BLASTとGapped BLASTプログラムを用いる場合には、各プログラムのデフォルトパラメーターを用いる。これらの解析方法の具体的な手法は公知である。

【0033】
本発明の組成物は、さらに、ナノメーターサイズ(1nm以上で1μm未満)の金属単体または金属化合物を含むことができる。この場合、金属単体または金属化合物の表面にRolAタンパク質が修飾されていることが好ましい。これにより生体に投与した場合に、金属単体または金属化合物による免疫応答を効果的に回避することが可能となる。RolAタンパク質で修飾すれば、200nm以上の金属単体または金属化合物であっても、免疫応答を回避することが可能である。

【0034】
金属化合物としては、ナノ粒子を形成可能なものであれば特に制限はないが、例えば、金属酸化物や半導体微粒子が挙げられる。金属酸化物としては、例えば、Fe、Co、Ni、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Hg、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Ti、Zr、Mn、Eu、Y、Nb、Ce、Baなどの酸化物が挙げられる。金属酸化物の例としては、Fe3O4、Fe2O3、Co3O4、ZrO2、CeO2、BaO・6Fe2O3、SiO2、TiO2、ZnO2、SnO2、Al2O3、MnO2、NiO、Eu2O3、Y2O3、Nb2O3、InO、ZnO、Al5(Y+Tb)3O12、BaTiO3、LiCoO2、LiMn2O4、K2O・6TiO2、AlOOHなどが挙げられる。

【0035】
これら金属酸化物のうち、例えば、γ-Fe2O3、Fe3O4、MgFe2O3は、強磁性的性質のためMRIや磁気温熱療法に有用であり、例えば、GdVO4、:Re、BaSnO3は、発光特性を有するため蛍光イメージングに有用であり、例えば、Gd(OH)3、GdVO4、:Reは、中性子補足断面積が高いためため、中性子補足療法に有用である。半導体微粒子としては、例えば、CdS、CdSeなどが挙げられる。CdS、CdSeは蛍光イメージングに有用である。

【0036】
金属単体としては、ナノ粒子を形成可能なものであれば特に制限はないが、例えば、Fe、Co、Auが挙げられる。Fe、Coは、MRIや磁気マニピュレーターに有用であり、Auは、X線イメージング用プローブとして有用である。

【0037】
金属単体または金属化合物に対するRolAタンパク質による修飾は、本実施例に記載の通り、金属単体または金属化合物に対し、RolAタンパク質を吸着させることにより行うことができる。

【0038】
これら金属単体または金属化合物には、免疫応答回避機能を供与する配位子が結合していてもよい。このような配位子としては、当該分野で候補化合物として知られているものから選択できるし、ヒトを含めた動物、植物、微生物から得られているもので、かつ、上記免疫応答回避機能を有することが知られているものまたは上記免疫応答回避機能を有することが期待されているものから選択できる。代表的な配位子用分子としては、水溶性のあるものが使用でき、例えば、フェノール類またはその誘導体が挙げられる。より具体的には、カテコールまたはその誘導体などが挙げられ、例えば、一般式(1):

【0039】
【化1】
JP0006067564B2_000002t.gif

【0040】
〔上式中、Rは、一個または同一あるいは異なるものが複数個存在していてもよく、水素、アルキル基、ヒドロキシ基、ニトロ基、カルボキシアルキル基、カルボアルコキシアルキル基、ヒドロキシアルキル基、シアノアルキル基、およびアシルアミノアルキル基からなる群から選択された基を表す〕
を有している化合物が挙げられる。

【0041】
上記式(1)において、Rにおけるアルキル基とは、直鎖または分岐鎖の炭素数1~5の低級アルキル基あるいはそれ以上の炭素数を有する高級アルキル基であってよいが、炭素数1~5の低級アルキル基が好ましい。当該低級アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、neo-ペンチル基などが挙げられ、例えば、メチル基、エチル基などが好ましい。当該高級アルキル基としては、n-ヘキシル基、2-メチル-1-ブチル基、3-メチル-1-ブチル基、2-メチル-2-ブチル基、3-メチル-2-ブチル基、2,2-ジメチル-1-プロピル基、4-メチル-1-ペンチル基、3-エチル-3-ペンチル基などが挙げられる。Rにおけるカルボアルコキシアルキル基におけるカルボアルコキシ部のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、i-プロポキシ基、n-ブトキシ基、sec-ブトキシ基、イソブトキシ基、tert-ブトキシ基などが挙げられ、さらに、それらのアルキル部に、ハロゲン基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、カルボアルコキシ基、フェニル基、p-ニトロフェニル基などからなる群から選択されたものがさらに一個または複数個置換されているものなどが含まれてよい。Rにおけるアシル基とは、カルボン酸から誘導されるものが挙げられ、当該カルボン酸としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、シュウ酸、コハク酸、マロン酸、安息香酸、フタル酸、テレフタル酸、乳酸、リンゴ酸、フマル酸、マレイン酸、アミノ酸、アミノ酸(例えば、天然アミノ酸)などが挙げられる。

【0042】
典型的な配位子用分子としては、3-(3,4-ジヒドロキシフェニル)プロピオン酸(3,4-dihydroxyhydrocinnamic acid;DHCA)

【0043】
【化2】
JP0006067564B2_000003t.gif

【0044】
を使用できる。DHCAは、ある種の果実や野菜から抽出されるものであり、毒性のない分子と考えられるものである(S.Kim,S.Bok,S.Lee,H.Kim,M.Lee,Y.B.Park,M.Choi,Toxycol.Appl.Pharmacol.2005,208,29-36)。

【0045】
免疫応答回避機能を供与する配位子が結合した金属単体または金属化合物のナノ粒子は、ナノ粒子源となる金属イオンなどを含む金属塩などを含有するナノ粒子前駆体溶液を、免疫応答回避機能を供与する配位子分子の存在下に、高温高圧水環境下、例えば、亜臨界水または超臨界水中で反応処理に付して合成することができる。

【0046】
本発明の組成物は、生物医学的な用途、例えば、生物学分野および医療分野における利用に特に適している。当該組成物は、動物の免疫系に捕捉されずに効率よく標的組織や標的細胞へそれを送達できると期待できる。さらに、表面を修飾しているRolAタンパク質には、例えば、特定の腫瘍細胞や特定の標的細胞を特異的に認識する抗体などを結合させたり、さらには、特定の生理活性物質(サイトカイン、ケモカイン、細胞傷害性因子、抗ガン因子、細胞毒性因子、抗生物質など)や、アポトーシス細胞を認識するアネキシンVなどを結合させることができる。

【0047】
RolAタンパク質と特定の抗体や生理活性物質との結合は、遺伝子的な融合法により行うことができ、また、蛋白質-蛋白質相互作用で吸着させることにより行うことも可能である(Takahashi T. et al., Mol. Microbiol. 2005, 57, 1780-1798)。

【0048】
こうして得られた組成物は、標的指向性ナノ粒子として有用であり、ヒトや動物などで、標的組織のイメージング、磁気温熱療法、中性子捕捉療法、蛍光イメージングなどにおける研究開発用試薬、診断剤、治療剤などとして有用である。また、当該組成物は、少投与量(マイクロドーズ)で高性能なイメージングプローブを達成可能であり、標的指向性因子を結合することで、ガン、動脈硬化の新しい診断・治療法開発に資するものとなり、創薬に応用できる。

【0049】
また、本発明の組成物は、高標的送達性を達成することが期待でき、好ましくは、生物学分野および医療分野、例えば、細胞分離、細胞標識剤、ドラッグデリバリーシステム(Drug Delivery System: DDS)などを含む医療用ナノ粒子、腫瘍の温熱療法剤、鉄補給剤、X線造影剤、MRI造影剤、血管造影剤、リンパ節造影剤、血流の測定、さらには磁場を利用する局所への薬物の集中的投与および/または生物由来物質の回収または除去の際の担体などとして有用である。

【0050】
さらに、本発明の組成物は、体内埋め込み器具などの被覆剤として利用することができ、これにより体内埋め込み器具などの生体親和性を高めることもできる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0052】
[実施例1]RolAに対する骨髄樹状細胞の応答
RolAに免疫回避機能が備わっていることを検証するために、精製RolAを用いて骨髄樹状細胞への免疫刺激活性を検討した。RolAに免疫応答回避機能が備わっていれば、RolAを骨髄樹状細胞に導入してもサイトカインは分泌されないはずである。そこで、RolAを骨髄樹状細胞に導入し、サイトカイン生産量を定量した。
【実施例】
【0053】
(1)RolA高発現麹菌からのRolAの精製
A. oryzae高発現用ベクターであるpNEN142ベクター(Tsuboi, H. et al. Biosci.Biotechnol.Biochem. 2005, 69(1), 206-208)にRolAのORF(配列番号:1を参照のこと)を組み込んでpNEN142-AorolAを構築した。このベクターをA. oryzae NSlD-tApEnBdIVdV株(Yoon J. et al. Appl Microbiol Biotechnol. 2009, 82, 691-701)に導入して得られたA. oryzae RolA高発現株(以下、「enoA142-RolA」と称する)を本実施例に使用した。
【実施例】
【0054】
RolAの精製は高橋らが報告した方法(Takahashi T. et al., Mol. Microbiol., 2005, 57, 1780-1798)を以下のように改良して行った。
【実施例】
【0055】
YPM液体培地400mlを入れた1L容バッフルつき三角フラスコ3本に、RolA高発現株の胞子を1×106個胞子/mlになるように接種し、30℃で24時間振盪培養した。培養液をミラクロス(CALBIOCHEM)にてろ過し、菌体を除去して培養上清を得た。培養上清に、40%飽和になるように硫酸アンモニウムを加えた後、8,000×g、4℃で30分間遠心分離して上清画分を得た。この上清画分を40%飽和になるように硫酸アンモニウムを溶解させた10mM Tris-HCl緩衝液(pH8.0)で平衡化したPhenyl-Sepharose CL-4B(GE Healthcare)に供し、吸着画分を40-0%飽和硫酸アンモニウムの直線濃度勾配で溶出させた。全溶出画分についてSDS-PAGEを行い、RolAの推定分子量である13.6kDaの位置に確認されたバンドの画分を回収した。回収した画分を5mM Tris-HCl緩衝液(pH9.0)を用いて透析し、同緩衝液で平衡化したCellulofine Q-500(生化学工業)に供した。吸着画分をNaCl 0-0.4Mの直線濃度勾配で溶出させ、全溶出画分についてSDS-PAGEを行い、RolAの推定分子量である13.6kDaの位置に確認されたバンドの画分を回収した。次いで、回収した画分を10mMクエン酸-NaOH緩衝液(pH4.0)を用いて透析し、同緩衝液で平衡化したSP-Sepharose FF(GE Healthcare)に供した。吸着画分をNaCl 0-0.3Mの直線濃度勾配で溶出させ、全溶出画分についてSDS-PAGEを行い、RolAの推定分子量である13.6kDaの位置に確認されたバンドの画分を回収した。回収した画分を精製水に対して透析した後、凍結乾燥した。凍結乾燥精製RolAを適宜、緩衝液に再溶解して利用した。
【実施例】
【0056】
(2)精製RolA溶液からのLPSの除去
細胞実験にタンパク質を導入する際、LPSの混入は細胞毒性の出現やタンパク質の導入効率の低下を招く可能性がある。そこで、精製RolA溶液からLPSの除去を行った。
【実施例】
【0057】
LPSの除去にはポリミキシン固定化カラム(Detoxi-Gel Endotoxin Removing Gel, Thermo SCIENTIFIC)を用いた。また、緩衝液は日本薬局方大塚注射用蒸留水(大塚製薬)を使用し、使用するガラス器具は250℃で2時間乾熱滅菌したものを用いた。
【実施例】
【0058】
全ての操作はクリーンベンチ内で行った。ポリミキシン固定化カラム(ベッド容積1ml)を5mlの1%デオキシコール酸ナトリウムで洗浄した。次に、10mlの日本薬局方大塚注射用蒸留水でデオキシコール酸ナトリウムを除去し、5mlのダルベッコPBS(-)(ニッスイ)で平衡化した。そのカラムに精製RolA溶液を供し、室温で1時間インキュベートした。その後、ダルベッコPBS(-)で溶出を行い、溶出後の精製RolA溶液に含まれるLPS量をLAL(Limulus Amebocyte Lysate)試薬(生化学バイオビジネス)を用いた比色法により定量した。
【実施例】
【0059】
(3)精製RolA溶液中のLPSの定量
LAL試薬はエンドスペシーES-24S(生化学バイオビジネス)を、ジアゾカップリング溶液はトキシカラーDIAセット(生化学バイオビジネス)を用いた。また、エンドトキシン標準品はE. coli O113:H10株由来のもの(生化学バイオビジネス)を用いた。
【実施例】
【0060】
LAL試薬を用いた比色法によりLPSの定量を行った。LAL試薬のバイアルに緩衝液を200μl加え、2秒間攪拌した。次に、精製RolA溶液、LPS標準溶液(希釈系列)および、ブランク溶液をそれぞれ200μlずつ加えて1秒間攪拌し、37℃で30分間インキュベートした。インキュベート後、バイアルを氷上に移し、0.04%になるように亜硝酸ナトリウムを溶解させたHCl溶液、0.3%スルファミン酸アンモニウム溶液、0.07% N-(1-ナフチル)エチレンジアミン二塩酸塩溶液の順にそれぞれの溶液を500μlずつ加えた(添加ごとに2秒間攪拌した)。その後、波長545nmで吸光度を測定し、吸光度から精製RolA溶液中に含まれるLPS量を算出した。
【実施例】
【0061】
その結果、ポリミキシン固定化カラム処理前の精製RolA溶液中(タンパク質濃度;526.3μg/ml)のLPS濃度は26.7ng/mlであったのに対し、カラム処理後の精製RolA溶液中(タンパク質濃度;333.0μg/ml)のLPS濃度は0.210ng/mlであった(図1)。50μg/mlのRolAを用いて樹状細胞を刺激する場合、LPSは32pg/ml混入するが、この濃度であれば細胞毒性、タンパク質の導入効率に影響を及ぼすことはないと考えられる。このことから、精製RolA溶液をポリミキシン固定化カラムで処理することで細胞実験に使用できるLPS濃度に減少させることができた。
【実施例】
【0062】
(4)骨髄樹状細胞によって生産されるIL-12の定量
サイトカインの一種であるIL-12の生産量を定量することで、RolAの免疫応答回避機能を検討した。
【実施例】
【0063】
まず、C57BL/6マウスの骨髄細胞をGM-CSF(20ng/ml)を添加した10%FCS/RPMI1640培地で8~9日間培養し、骨髄樹状細胞を作製した。次いで、得られた細胞をRolAとともに24時間培養し、培養上清中のIL-12の濃度をELISA法にて測定した。
【実施例】
【0064】
その結果、RolAを骨髄樹状細胞に導入することによりIL-12は検出されなかった(図2)。このことから、RolAは骨髄樹状細胞に対して免疫応答回避機能を有することが示された。
【実施例】
【0065】
[実施例2]RolA被覆Fe3O4ナノクラスターの作製
RolAに免疫応答回避機能が備わっていることが確認できたので、RolAを微粒子に被覆したステルス粒子を作製することにした。RolAを被覆する微粒子には、医療用機能性ナノ粒子である直径200nmのカテコール修飾Fe3O4ナノクラスターを使用した。
【実施例】
【0066】
(1)Fe3O4ナノクラスターの作製
800mM DHCA水溶液と400mM FeSO4水溶液を同体積混合した後、5N KOHを滴下し、pH9.5に調整した。次いで、DHCAとFeSO4の濃度がそれぞれ200mMと100mMになるよう精製水を加えた。調整した溶液を金属製バッチ式反応器(SUS316:内容積5.0mL)に4.35mL封入し、電気炉を用いて250℃まで昇温させた。60分後、反応器を取り出し、水冷して反応を止めた。生成物を遠心分離により回収後、0.01M KOH水溶液への再分散と遠心分離を3回繰り返すことにより洗浄した。洗浄後、生成物を精製水中に分散させた。
【実施例】
【0067】
調製した直径200nmのカテコール修飾Fe3O4ナノクラスター(以下、「Fe3O4ナノクラスター」と称する)は、マクロファージによる貪食を回避することができない。
【実施例】
【0068】
以下、この粒子にRolAを被覆して、樹状細胞に対する免疫刺激およびマクロファージによる貪食に対する効果を検証することとした。
【実施例】
【0069】
(2)Fe3O4ナノクラスターに対するRolAの飽和結合量
微粒子としてはFe3O4ナノクラスターを、RolAとしては精製RolAを用いた。本測定は、Teflon微粒子にRolAを吸着させる方法を参考に行った。精製RolA 2~5μgをFe3O4ナノクラスター(表面積として685.125mm2)を含む5mM MES-NaOH緩衝液pH5.0に溶解(総量100μl)させ、30℃で10分間吸着反応させた後、4℃、17,300×gで10分間遠心分離し、Fe3O4ナノクラスターを回収した。5mM MES-NaOH緩衝液pH5.0を加えて沈殿したFe3O4ナノクラスターを洗浄した後、再び4℃、17,300×gで10分間遠心分離しFe3O4ナノクラスターを回収した。そこにSDS-sample bufferを加えてFe3O4ナノクラスターに吸着したRolAをSDS化した後、Fe3O4ナノクラスターごとSDS-PAGEに供した。その際、定量用にRolAを1-4μg同時にSDS-PAGEに供した。CBB(coomassie brilliant blue)染色の試薬はBEXCEL社のものを使用し、バンド強度をImage Jにて数値化し、定量した。
【実施例】
【0070】
その結果、Fe3O4ナノクラスターに吸着したRolA量は、RolAを2μg添加したときは0.6μg、3μg添加したときは1.6μg、4μg添加したときは2.4μg、5μg添加したときは4.3μgであった(図3)。表面積685.125mm2のFe3O4ナノクラスターを完全に被覆するには、計算上、1.6μgのRolAを吸着させる必要があることが判明している。従って、3μgのRolAを添加することで、このFe3O4ナノクラスターを完全被覆できることが判明した。
【実施例】
【0071】
(3)RolA被覆Fe3O4ナノクラスターの作製
微粒子としてはFe3O4ナノクラスターを、RolAとしてはLPSを除去した精製RolAを用いた。また、ガラス製強化硬質サンプルチューブとしては250℃で2時間乾熱滅菌したものを、緩衝液としては全て日本薬局方大塚注射用蒸留水(大塚製薬)を用いて作製したものを使用した。
【実施例】
【0072】
LPSを除去した精製RolA 3μgをFe3O4ナノクラスター(表面積として685.125mm2)を含む5mM MES-NaOH緩衝液pH5.0に溶解(全量100μl)させ、30℃で10分間吸着反応させたのち、4℃、6,300×gで10分間遠心分離しFe3O4ナノクラスターを回収した。5mM MES-NaOH緩衝液pH5.0を加えて沈殿したFe3O4ナノクラスターを洗浄した後、再び4℃、6,300×gで10分間遠心分離しFe3O4ナノクラスターを回収した。この沈殿物にダルベッコPBS(-)を62.5μl加えて懸濁し、RolA被覆Fe3O4ナノクラスターとした。
【実施例】
【0073】
[実施例3]RolA被覆Fe3O4ナノクラスターに対する骨髄樹状細胞の応答
作製したRolA被覆Fe3O4ナノクラスターを用いて骨髄樹状細胞への免疫刺激活性を検討した。RolAがFe3O4ナノクラスターに吸着した状態でも免疫応答回避機能を有していれば、RolA被覆Fe3O4ナノクラスターを骨髄樹状細胞に導入してもサイトカインは分泌されないはずである。そこで、RolA被覆Fe3O4ナノクラスターを骨髄樹状細胞に導入し、サイトカインの生産量を定量した。
【実施例】
【0074】
(1)骨髄樹状細胞によって生産されるIL-12の定量
サイトカイン一種であるIL-12の生産量を定量することで、RolA被覆Fe3O4ナノクラスターの免疫応答回避機能を検討した。
【実施例】
【0075】
まず、C57BL/6マウスの骨髄細胞を、GM-CSF(20ng/ml)を添加した10%FCS/RPMI1640培地で8~9日間培養し、骨髄樹状細胞を作製した。得られた細胞をRolA被覆Fe3O4ナノクラスターとともに24時間培養し、培養上清中のIL-12の濃度をELISA法にて測定した。
【実施例】
【0076】
その結果、RolA被覆Fe3O4ナノクラスターを骨髄樹状細胞に導入することによりIL-12は検出されなかった(図4)。RolAで被覆されていないFe3O4ナノクラスターを導入した場合でもIL-12は検出されなかった。このことから、Fe3O4ナノクラスターに吸着した状態でもRolAの免疫応答回避活性が機能していることが示された。
【実施例】
【0077】
(2)骨髄樹状細胞によって産生されるTNF-αの定量
サイトカイン一種であるTNF-αの生産量を定量することで、RolA被覆Fe3O4ナノクラスターの免疫応答回避活性を検討した。
【実施例】
【0078】
まず、C57BL/6マウスの骨髄細胞をGM-CSF(20ng/ml)を添加した10%FCS/RPMI1640培地で8~9日間培養し、骨髄樹状細胞を作製した。得られた細胞をRolA被覆Fe3O4ナノクラスターとともに24時間培養し、培養上清中のTNF-αの濃度をELISA法にて測定した。
【実施例】
【0079】
その結果、RolA、Fe3O4ナノクラスター、RolA被覆Fe3O4ナノクラスターを骨髄樹状細胞に導入することにより、TNF-αは検出されなかった(図5)。このことから、Fe3O4ナノクラスターに吸着した状態でもRolAの免疫応答回避活性が機能していることが示された。
【実施例】
【0080】
[実施例4]RolA被覆Fe3O4ナノクラスターに対するマクロファージの応答
(1)共焦点顕微鏡を用いたマクロファージの貪食実験
実施例3によりIL-12生産とTNF-α生産の両方の観点からRolAの免疫応答回避活性が証明できたため、次に、マクロファージに対するRolAの免疫応答回避活性を検討した。RolAの免疫応答回避活性がFe3O4ナノクラスターに吸着した状態でも機能していれば、RolA被覆Fe3O4ナノクラスターはマクロファージによる貪食も減少するはずである。そこで、マクロファージのリソソーム関連膜タンパク質であるLAMP1(lysosome-associated membrane protein type 1)を免疫染色し、共焦点顕微鏡を用いてFe3O4ナノクラスターとの共局在を観察することで、Fe3O4ナノクラスターに対するマクロファージの貪食を検討した。
【実施例】
【0081】
RAW264.7細胞を2x105個/mlに調整し、その500μlを8ウェルのチャンバースライドに撒き、24時間インキュベートした。1mlの10%FCS/RPMIに1.8mg/mlのFe3O4ナノクラスターエマルジョンを9.2μl添加し、その268μlを、上清を除去したチャンバースライドに添加し、1時間インキュベートした。Cytofix/Cytopermを用いて、Alexa Fluor 488結合抗マウスLAMP-1抗体で細胞を染色した。また、DAPI染色も行った。
【実施例】
【0082】
その結果、Fe3O4ナノクラスターに比べRolA被覆Fe3O4ナノクラスターでは、マクロファージは形態変化に乏しく、貪食も減少傾向にあった(図6)。
【実施例】
【0083】
(2)大気圧走査電子顕微鏡を用いたマクロファージの貪食実験
大気圧走査電子顕微鏡(日本電子株式会社)を用いて、Fe3O4ナノクラスターに対するマクロファージの貪食を高分解能で観察した。
【実施例】
【0084】
大気圧走査電子顕微鏡用ディッシュに、RAW264.7細胞を2x105個/ディッシュで撒き、24時間インキュベートした。1980μlの10%FCS/RPMIに5.5mg/mlのFe3O4ナノクラスターエマルジョンを20μl添加し、その2mlを、上清を除去したディッシュに添加し、1時間インキュベートした。グルタールアルデヒドまたは4%PFAで細胞を15分間固定し、大気圧走査電子顕微鏡で観察を行った。
【実施例】
【0085】
その結果、Fe3O4ナノクラスターに比べRolA被覆Fe3O4ナノクラスターでは、マクロファージは形態変化に乏しく、貪食能も減少傾向にあった(図7)。
【実施例】
【0086】
以上より、RolA被覆Fe3O4ナノクラスターは、樹状細胞を免疫刺激せず、かつ、マクロファージによる貪食を回避できることが証明された。
【産業上の利用可能性】
【0087】
以上説明したように、RolAタンパク質で被覆したナノ粒子である本発明の組成物は、優れた免疫応答回避機能(ステルス機能)を有するとともに、生体に対し高い安全性を有している。従って、本発明の組成物は、例えば、治療法開発における小動物イメージングのためのステルスナノ粒子として、また、ヒトの診断や治療のためのステルスナノ粒子として、さらには、体内埋め込み器具の被覆剤として、非常に有用である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6