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明細書 :分子擬態粘膜エイズワクチン

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6023928号 (P6023928)
登録日 平成28年10月21日(2016.10.21)
発行日 平成28年11月9日(2016.11.9)
発明の名称または考案の名称 分子擬態粘膜エイズワクチン
国際特許分類 A61K  39/00        (2006.01)
A61P  31/18        (2006.01)
A61K  39/21        (2006.01)
FI A61K 39/00 ZNAH
A61P 31/18
A61K 39/21
請求項の数または発明の数 2
全頁数 11
出願番号 特願2013-529021 (P2013-529021)
出願日 平成24年8月15日(2012.8.15)
国際出願番号 PCT/JP2012/070724
国際公開番号 WO2013/024859
国際公開日 平成25年2月21日(2013.2.21)
優先権出願番号 2011177385
優先日 平成23年8月15日(2011.8.15)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成27年7月3日(2015.7.3)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
発明者または考案者 【氏名】三隅 将吾
【氏名】庄司 省三
【氏名】高宗 暢暁
個別代理人の代理人 【識別番号】100140109、【弁理士】、【氏名又は名称】小野 新次郎
【識別番号】100075270、【弁理士】、【氏名又は名称】小林 泰
【識別番号】100101373、【弁理士】、【氏名又は名称】竹内 茂雄
【識別番号】100118902、【弁理士】、【氏名又は名称】山本 修
【識別番号】100117813、【弁理士】、【氏名又は名称】深澤 憲広
審査官 【審査官】佐々木 大輔
参考文献・文献 特開2008-231343(JP,A)
特開2001-233773(JP,A)
国際公開第2007/052641(WO,A1)
米国特許出願公開第2003/0044400(US,A1)
J.Immunol., 2009, Vol.182, pp.6061-6070
生化学, 抄録CD, 2009, p.ROMBUNNO.4T9p-17,文献全体
Glycobiology, 1997, Vol.7, No.8, pp.1229-1236
金尾義治,タンパク質医薬品のドラッグデリバリーシステム,新・ドラッグデリバリーシステム, 株式会社シーエムシー, 2000, pp.190-203
調査した分野 A61K 39/00-39/44
A61K 49/00-49/22
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
UniProt/GeneSeq
特許請求の範囲 【請求項1】
Hub抗原とN2, N6-ビス[ N2, N6-ビス(3,4,5-トリヒドロキシベンゾイル)-L-リシル]- N-(2-アミノエチル)-L-リジンアミド(TGDK)とフェツインとの共有結合体からなるエイズワクチン。
【請求項2】
皮下投与及び/又は経口並びに経鼻投与される、請求項1に記載のエイズワクチン。

発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、粘膜免疫のための分子擬態粘膜エイズワクチンに関する。
【背景技術】
【0002】
ワクチンは1796年のジェンナーの種痘から始まり、パスツールによってワクチンの概念が作られ、ワクチンは生体防御にとって必須のものとなっている。ワクチンによる生体防御の分子機構の一部は解明されてはいるものの、不明な点も多い。ワクチンの副反応については誤解されている点もあり、過去においては不適切な投与方法(例えば、注射針の使い回し等)により、新たな感染症(例えば、C型肝炎など)を増大させるという問題もある。また、HIV/AIDSワクチンの開発はアメリカの主導で行われてきたが、未だ開発の成功には至っていない。
【0003】
一方、特許文献1には、式1:TGDK-CH2-CH2-NH-R(式中、TGDK-CH2-CH2-NH-は、2-[N-α, N-ε-bis(N-α, N-ε-digalloyllysinyl)lysinyl]aminoethylamino基を示し、Rは、水素原子;ペプチド結合を介して活性エステル基を有する基;ペプチド結合を介してSH基と結合する基;ペプチド結合を介して結合しているペプチド、タンパク質、脂質又は糖:あるいはシッフベースを介して結合しているペプチド、タンパク質、脂質又は糖を示す。)で示される化合物からなる腸管免疫賦活剤が記載されている。特許文献1には、上記のTGDKがM細胞を識別することが記載されている。
【先行技術文献】
【0004】

【特許文献1】国際公開WO2007/052641号公報(国際出願番号PCT/JP2006/321720)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、粘膜免疫を誘導でき、HIV感染による免疫系の破綻を防御でき、HIVの易変異原性による免疫系からの逃避を防止でき、HIVの迅速な感染を防止できるエイズワクチンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意検討した結果、先ず、HIV Env gp120外被糖タンパク質と構造分子生物学的に相同なヒトタンパク質(フェツイン;Fetuin (シグマ社製)を見出した。HIVがヒトへの侵入にあたって、ヒトの免疫系の網の目をくぐりぬけるためのヒトへの分子擬態タンパク質Molecular Mimicry Proteinと考えられた。本発明者らがこのタンパク質を利用し、Hub抗原とN2, N6-ビス[ N2, N6-ビス(3,4,5-トリヒドロキシベンゾイル)-L-リシル]- N-(2-アミノエチル)-L-リジンアミド(TGDK)とフェツイン(Fetuin)との共有結合体を合成することによって、HIV/AIDSの分子擬態粘膜ワクチンを開発することに成功した。
【0007】
即ち、本発明によれば、Hub抗原とN2, N6-ビス[ N2, N6-ビス(3,4,5-トリヒドロキシベンゾイル)-L-リシル]- N-(2-アミノエチル)-L-リジンアミド(TGDK)とフェツイン(Fetuin)との共有結合体からなるエイズワクチンが提供される。
好ましくは、本発明のエイズワクチンは、皮下投与及び/又は経口、並びに経鼻投与される。
【発明の効果】
【0008】
本発明のエイズワクチンは、粘膜免疫を誘導でき、HIV感染による免疫系の破綻を防御でき、HIVの易変異原性による免疫系からの逃避を防止でき、HIVの迅速な感染を防止できるという効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1(図1A及び図1B)はX-Protein(フェツイン:Fetuin)の同定を示す。
【図2】図2は、X-protein(フェツイン:Fetuin)の配列を示す。
【図3】図3は、SIVgp120とX-protein(フェツイン:Fetuin)のアミノ酸配列のアライメントを示す。
【図4】図4は、X-protein(フェツイン:Fetuin)とHIV Env 3量体構造との比較を示す、gp120の立体構造上でX-protein(フェツイン:Fetuin)に相同なmoietyを黄色で示す。
【図5】図5は、X-protein(フェツイン:Fetuin) 配列のUPA類似構造を示す。
【図6】図6は、抗gp140抗体価の測定結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、Hub抗原とN2, N6-ビス[ N2, N6-ビス(3,4,5-トリヒドロキシベンゾイル)-L-リシル]- N-(2-アミノエチル)-L-リジンアミド(TGDK)とフェツイン(Fetuin)との共有結合体からなるエイズワクチンに関する。

【0011】
本発明で使用するHub抗原とは、HGEO-200NP(油化産業社製)の活性エステル骨格を核にHGEO-200PA(油化産業社製)を小過剰に反応させ、HGEO-200PA分子がHub(放射状、車輪)を形成し、分子の表面に多くの1級アミンをもつグリセロールポリエチレングリコールポリマーである。

【0012】
N2, N6-ビス[ N2, N6-ビス(3,4,5-トリヒドロキシベンゾイル)-L-リシル]- N-(2-アミノエチル)-L-リジンアミド(TGDK)は公知化合物であり、その合成方法は例えば、上記の特許文献1(国際公開WO2007/052641号公報)などに記載されている。

【0013】
フェツイン(Fetuin)は、肝臓で合成され、血液中に分泌されるタンパク質である。フェツイン(Fetuin)は、血流中の広範囲の輸送タンパク質の輸送と利用を仲介する結合タンパク質の一種である。ヒトフェツイン(Fetuin)とは、α2-HS-グリコプロテイン(AHSG), α2-HS, A2HS, AHS, HSGA, 及びフェツイン(Fetuin)-Aと同義である。

【0014】
Hub抗原とN2, N6-ビス[ N2, N6-ビス(3,4,5-トリヒドロキシベンゾイル)-L-リシル]- N-(2-アミノエチル)-L-リジンアミド(TGDK)とフェツイン(Fetuin)との共有結合体の合成方法は特に異限定されない。一例としては、後記の実施例中に記載する手順で合成することができるが特にこの方法に限定されるわけではない。後記の実施例の方法によれば、先ず、活性化ポリエチレングリコール(PNP4(10))にTGDKを反応させて、TGDKの活性エステル(PNP-TGDK)を合成する。次いで、Hub-antigenにこのPNP-TGDKを反応させてHub-TGDK-PNPを得る。最後に、このHub-TGDK-PNPにFetuin を反応させることによって、Hub-TGDK-Fetuinの共有結合体を合成することができる。

【0015】
本発明のエイズワクチンにおいては、Hub-TGDK-Fetuinで示される複合体はそのまま使用してもよいし、あるいは薬学的に許容される担体と一緒に適当な製剤にすることもできる。担体として、賦形剤、結合剤、崩壊剤、潤沢剤などを用いることができる。製剤の形態は特に限定されず、液剤、錠剤、丸剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、シロップ剤等の任意の形態とすることができる。

【0016】
賦形剤としては、例えば、乳糖、ショ糖又はブドウ糖等の糖類;バレイショデンプン又はコムギデンプン等のデンプン類、;結晶セルロース等のセルロース類;無水リン酸水素カルシウム又は炭酸カルシウム等の無機塩類等、ポリエチレングリコール類等を使用することができる。結合剤としては、例えば、結晶セルロース、プルラン、アラビアゴム、アルギン酸ナトリウム、又はポリビニルピロリドン等、多機能性ポリエチレングリコール類等を使用することができる。崩壊剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、又はアルギン酸ナトリウム等、ポリエチレングリコール類等を使用することができる。潤沢剤としては、例えば、ステアリン酸マグネシウム、タルク、硬化油などを使用することができる。ナノ粒子化剤としてはコレステロールプルラン、多機能性ポリエチレングリコール類等(日本油脂KK)を使用することができる。

【0017】
本発明のエイズワクチンの投与経路は特に限定されず、経口投与でも非経口投与(例えば、皮下投与、直腸投与、筋肉内投与、鼻腔投与および静脈内投与など)でもよいが、好ましくは、皮下投与及び/又は経口並びに経鼻投与である。

【0018】
本発明のエイズワクチンの製剤中に含まれる有効成分(Hub-TGDK-Fetuinで示される共有結合体)の量は、投与対象又は患者の年齢、体重、症状等に応じて適宜設定することができるが、例えば、1μg~1000 mg/kg/回、好ましくは10 μg~100 mg/kg/回とすることができる。

【0019】
本発明のエイズワクチンは、アジュバントと一緒に投与してもよい。アジュバントとしては、ワクチン(抗原)の投与に先立って投与しておくことにより免疫応答を増強できる物質であれば、任意の物質を使用することができる。殺菌微生物のように抗原性をもつもののほか,alum(水酸化アルミニウム・カリウムなど)や鉱物油のように非抗原性のものでもよい。Freundは1947年抗原水溶液を等量の油(鉱物油85 %,界面活性剤15 %)と混ぜ、乳剤の状態で注射すると抗体の産生量が増大することを見出した。これは不完全フロインドアジュバントincomplete Freund's adjuvant(IFA)と呼ばれ、これに結核菌の菌体成分を加えたものが完全アジュバントcomplete F's. a.(CFA)である。このほか、水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウムなどの鉱酸塩はアジュバント効果を示す。また、細菌内毒素、特にグラム陰性菌のリポ多糖類は抗体産生を著明に促進することができ、有効成分はlipid Aにある。本発明では、上記したものをアジュバントとして使用することができる。アジュバントの投与経路は特に限定されず、経口投与でも非経口投与でもよい。

【0020】
次に、本発明のエイズワクチンの特徴を説明する。
(1)粘膜免疫の誘導
TGDK(Tetragalloyl D-Lysine)誘導体は、UAE-1(C-type lectin)の競合阻害剤として見出され、本発明者らはTGDKの固相合成、液相合成に成功し、TGDKを粘膜ワクチンに必須なM細胞targeting分子として創製した(Misumi et al., J. Immunol. 182, 6061-6070 (2009))。即ち、TGDKはM細胞にtargetingし、粘膜固有層にトランスサイトーシスされ、CD161が発現しているNK-細胞(natural killer細胞)および自然免疫系と獲得免疫系の橋渡しするNKT(natural killer-T細胞)に結合して免疫系を活性化する。また、TGDKと共有結合したワクチンは抗原の種類にかかわらず、皮下注射しても全身免疫および少し遅れて粘膜免疫を誘導できる。

【0021】
(2)HIV感染による免疫系の破綻からの防御
HIVが免疫中枢細胞に感染する際に、免疫中枢細胞の受容体(ケモカイン受容体)CCR5およびCXCR4を第2受容体として利用する。本発明ではこの第2受容体の特異立体構造部位に着目した。第2受容体の細胞外第2ループECL-2とECL-1とのS-S結合形成により、11アミノ酸残基から構築されるアーチ状構造が特異的な立体構造を示し、UPA構造と称している。このUPA構造を形成しているS-S結合が還元・開裂され、アーチ状構造が崩壊すると、もはやHIVは感染することができない。HIVの利用する第2受容体の分子の中で、このUPA構造は最も重要なMoietyである。このUPA構造に対する特異抗体を誘導するために、UPA構造をミミックした環状ペプチドを合成し、環状抗原ワクチンを創製した。このワクチンで免疫したサルの粘膜免疫組織はSHIV感染に伴う免疫組織の破壊による免疫系の破綻を防止し、ウイルスの感染を有意に抑制した(Misumi et al., J. Virol. 75, 11614-11620 (2001), J. Biol. Chem. 278, 32335-32343 (2003))。本発明では、HIVの第2受容体の特殊立体構造に対する特異抗体の誘導によって免疫系破綻を防御することができる。

【0022】
(3)HIVの易変異原性による免疫系からの逃避の防止
HIVは自己の外被糖タンパク質(スパイクタンパク質)の3量体を形成して、細胞に吸着・侵入する。HIVの易変異原性による免疫系からの逃避は、ウイルス遺伝子の1塩基変異が1アミノ酸残基変異につながり、アミノ酸変異に基づく、ウイルス外被糖タンパク質の水素結合減成による立体構造の「ゆらぎ」に反映され、特異的に適合するように生体内で進化誘導された高親和性中和抗体がその「ゆらぎ」構造を認識できなくなるため、抗体は変異抗原と反応せず、無毒化できないと考えられる。このウイルスの免疫系からの逃避を防止するために、3量体形成が容易になる手段を遺伝子化学的に次のように講じた。HIV Envタンパク質のEcto-domainの遺伝子に2アミノ酸残基変異(K514E, K524E)を入れ、酵素によるprocessingを受けられないようにし、3量体形成を容易にした。さらに、ニッケルを介してnativeタンパク質が結合できるサイトを挿入した。なお、糖鎖修飾サイトはそのままにした。ウイルスの変異による構造分子の「ゆらぎ」を反映する構造分子の構築を次のように行った。ウイルスの変異による構造分子の「ゆらぎ」を極性溶媒ジメチルホルムアミド水溶液中での水素結合減成に起因する分子構造の「ゆらぎ」としてとらえ、ウイルスの外被糖タンパク質を極性溶媒ジメチルホルムアミド水溶液中で、濃度(水濃度0%~50%)依存的に、処理すると同時に生じる「ゆらぎ」構造を活性化Hub(放射状glycerol-polyethylene glycol)-TGDK抗原に共有結合させ、調製した。この抗原で誘導される抗体はウイルスの株に関係なく、種々様々なウイルスを中和した。

【0023】
(4)HIVの迅速な感染の防止
一般的に、ワクチン(偽病原性抗原)でヒトを免疫すると、2~3週間でヒトは免疫を獲得する(1次免疫反応)。免疫反応が静まり、記憶免疫が形成され、本物の病原性抗原が侵入すると、直ちに反応して、12~24時間の極めて速い速度で免疫が再活性化(2次免疫反応)し、病原性抗原と免疫系が戦って排除し、健康を回復する。しかし、HIVの場合、この2次免疫反応の時間、12~24時間の間にHIVは免疫中枢細胞の遺伝子の中に潜り込み、遺伝子の中に組み込まれ、感染が成立する。遺伝子の中に組み込まれたHIVの遺伝子を取り出し、排除することはできない。HIVは免疫中枢細胞に感染しているが故に、HIVは免疫中枢細胞を破壊しながら増殖していき、最終的に免疫系が敗北し、ヒトはエイズを発症する。それ故、HIVの侵入を決して許してはならない。このHIVのスピーディな感染を防ぐには初感染の場である粘膜に、交叉免疫誘導現象を喚起させ、常時、中和活性抗体あるいは抗原に結合する抗体が準備できていれば、自然免疫系、補体系の手助けで、排除でき、また、キラーT細胞を維持する工夫も必要である。これを成し遂げるには、交叉免疫現象を喚起する方法が必要である。本発明においては、Hub-TGDK抗原に本来のHIV Env糖タンパク質抗原を結合させ、さらに、交叉免疫誘導を喚起するエスコート抗原を共有結合させ、多価共有結合抗原を調製した。この多価共有結合抗原で基礎免疫を行い、その後、記憶免疫下にワクチンの本来のHIV Env糖タンパク質抗原以外の多価抗原と構造生物学的に相同なMoietyのある抗原で、HIV Env糖タンパク質と反応する抗体を誘導できる交叉免疫体制が粘膜に構築させた。本発明においては、交叉免疫誘導現象を喚起する免疫体制をサルに構築でき、交叉免疫誘導抗原として、生体成分フェツイン(Fetuin)を見出した。ウイルスタンパク質抗原で基礎免疫をおこない、ウイルス糖タンパク質抗原にかわり、フェツイン(Fetuin)で抗HIV Env抗体を産生させることができる交叉免疫誘導ワクチンを開発に成功した。HIVの粘膜局所における侵入を完全に退ける画期的なワクチン法を確立した。

【0024】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0025】
実施例1:生体防御のための分子擬態粘膜ワクチン-HIVの外被糖タンパク質(HIV Envgp120)に対する構造生物学的分子擬態生体成分(Molecular Mimicry Moiety)の同定
実施例1-1:分子擬態生体成分(Molecular Mimicry Moiety)の同定
本発明者らは以前に、粘膜M細胞にtargetingするTGDK(Misumi et al., J. Immunol. 182, 6061-6070 (2009))を作出し、さらにHIV co-receptor、CCR5およびCXCR4の特殊立体構造(UPA)に対する抗体を誘導する環状ペプチド抗原を創出した(Misumi et al., J. Virol. 75, 11614-11620 (2001), J. Biol. Chem. 278, 32335-32343 (2003))。この誘導された抗体により、免疫系のHIVによる破綻を防止できた。更に本発明者らは、HIVの変わりやすさに対処するために、HIVが変異しても、すなわち、抗原が少々変つても反応する結合特異性の広い抗体を得るために、用いる抗原の単量体および3量体を作出し、HIV変異による構造の「ゆらぎ」を水素結合減成により予測し、HIV変異による免疫系からの逃避に対応した。SIVmac239 Envタンパク質の3量体を形成しやすくするための方策として、gp130タンパク質のC末端側のEcto-domainのアミノ酸2残基を変え、生体のタンパク質分解酵素の作用を受けにくくした。また、C末端にNi結合ペプチドを産生する遺伝子を挿入し、他の部分はnativeなEnvタンパク質同様糖鎖修飾を受ける構造を維持した。
【実施例】
【0026】
このSIVmac239のEnv改変遺伝子をサルVero細胞に導入して、SIVmac239 Env gp140の単量体・3量体を生成する系を構築した。HIV/AIDSの粘膜免疫ワクチン創製の研究(Misumi et al., J. Immunol. 182, 6061-6070 (2009))の際に、サルを用いる免疫実験で交叉免疫誘導現象を次のように見出した。サルにHub抗原(glycerol-polyethylene glycol)にTGDK(粘膜M細胞targeting剤)、UPA(Undecapeptidylarch of CCR5 、免疫破壊防止抗体誘導抗原)、CpGODN(B細胞活性化剤)およびSIVmac239Env(gp140タンパク質)抗原並びにX-Protein(フェツイン:Fetuin)を共有結合したワクチンを作出して用い、基礎免疫後免疫応答がおこり、その後免疫の応答が静まり抗gp140抗体価が低下した時点(約1.5年後)に、gp140抗原の無いワクチンで免疫すると、gp140抗原が無いにもかかわらず、抗gp140抗体が誘導され、この抗血清はSIV・HIVおよびその亜種群を中和した。この交叉免疫誘導現象を引き起こす抗原分子を見出し、この抗原を電気泳動解析およびMALDI-TOF/MS/MS分析の結果、Fetuinと同定した(図1A及び図1B)。
【実施例】
【0027】
また、Fetuin単独を皮下注射し、抗gp140抗体の産生を同じサルで確認した。このタンパク質はubiquitous proteinでSIVmac239 Env gp140の単量体・3量体と構造生物学的にidentical part、homologous part、相同的moietyをもつ、極めてユニークな糖タンパク質分子で、SIVEnvだけに限らず、HIV Envにも同様な特徴をもつ抗原であつた。この分子をHIV分子擬態タンパク質(HIV Molecular Mimicry Protein)と名づけた。
【実施例】
【0028】
実施例1-2:HIV Molecular Mimicry Proteinの特徴
(1)アミノ酸の配列と化学修飾部位
HIV Molecular Mimicry Proteinのアミノ酸配列を図2に示す。HIV Molecular Mimicry Proteinは、N-,O-glycosylation site、phosphorylation siteが存在し、6つのS-S橋、2個のfreeのSH基をもつタンパク質である。
【実施例】
【0029】
(2)HIV Molecular Mimicry ProteinおよびHIV Envのアミノ酸配列の比較
HIV Molecular Mimicry ProteinおよびHIV Envのアミノ酸配列を図3に示す。糖鎖付加を受ける可能性があるmoietyを四角枠で示した。
【実施例】
【0030】
(3)HIV Molecular Mimicry Proteinの立体構造とHIV Env 3量体構造との比較
HIV Molecular Mimicry Proteinの立体構造とHIV Env 3量体構造との比較の結果を図4に示す。立体構造的に相同なmoietyを黄色で示す。図4に示すように、HIV Molecular Mimicry Proteinの立体構造とHIV Env 3量体構造との間には相同なmoietyが存在することが判明した。
【実施例】
【0031】
(4) HIV Molecular Mimicry ProteinのS-S橋による立体構造の特徴
HIV Molecular Mimicry ProteinのS-S橋の部位を図5に示す。6カ所のS-S橋のうち、2カ所が10~11アミノ酸残基を挟むarchを形成している、これらの2カ所のarch構造はHIV-1の第2受容体(co-receptor)CCR5およびCXCR4の第2細胞外ループ(ECL-2)のUndecapeptidyl arch(UPA構造、Misumi et al., J. Virol. 75, 11614-11620 (2001), J. Biol. Chem. 278, 32335-32343 (2003))と相同であることがわかる。
【実施例】
【0032】
(5) HIV Molecular Mimicry Proteinの特徴のまとめ
HIV Molecular Mimicry Proteinの立体構造はHIV Env3量体構造と極めて相同な構造をしており、かつHIV-1のco-receptor CCR5およびCXCR4のUPA構造を合わせもつ、極めてユニークな構造をもつ生体成分であることが分った。
【実施例】
【0033】
実施例2: HIV/AIDSの分子擬態粘膜ワクチン(Molecular Mimicry Mucosal Vaccine, MMMV)の調製法
実施例2-1:TGDKの化学構造式
TGDKの化学名:N2, N6-bis[ N2, N6-bis(3,4,5-trihydroxybenzoyl)-L-lysyl]- N-(2-aminoethyl)-L-lysine amide(TGDK)
Gal:Galloyl group(Trihydroxybenzoyl group)
【実施例】
【0034】
【化1】
JP0006023928B2_000002t.gif
【実施例】
【0035】
実施例2-2:TGDKの精製(MSチャート上は均質、この操作で塩を除去する。)
12 μmoleの TGDKを取り、これにDMF(脱水)(500 μl)を添加し、エーテル(脱水)(1500μl)を添加し、15000 rpmで1分間遠心する。沈殿に、100 % NMM(脱水) (600 μl)を添加し、1-2秒超音波処理し、15000 rpmで1分間遠心する。沈殿に、100 % TFA(100 μl)を添加し、その上清にエーテル(脱水)(900 μl)を添加し、15000 rpmで1分間遠心する。沈殿に、DMF (脱水) (600 μl)を添加し、100 % NMM(脱水)(100~300μl)を加えた。この溶液のpHを次のように確認した。この溶液の1μlをとり、これに水4 μlを加え、pHを測定した(pH 8~9)。これにより、精製TGDK DMF solution (TGDK 12 μmole,弱アルカリ)を得た。
【実施例】
【0036】
実施例2-3:Hub-TGDK-Fetuinの合成の概要
活性化polyethylene glycol(活性化PEG, PTE-100NP, 油化産業社製)をPNP4(10)と略記し、PNPは活性エステルを意味する。
(1)PNP-TGDKの合成
PNP4(10)(PTE-100NP,18 μmole,180 mg (総PNP 18 x 4 x 0.9 = 64.8 μmole)(180 mg)にDMF(脱水)(900 μl)を添加し、精製TGDK(12 μmole)(300~600 μl)を添加し、室温で3時間反応させ、反応液中のpHは上記のように測定した。すなわち、反応液1 μlをとり、これに水4 μlを加え、pHを確認する(pH 8~9)。これにより、PNP-TGDK溶液(1.5 ml, 残存PNP:18 x 3.6= 64.8-12=52.8 μmole)(193 mg)を得た。
【実施例】
【0037】
(2) Hub-TGDK-Fetuinの合成
Hub-antigen(A8-49, 1 μmole 168 mg, NH2 49 μmole) にDMF(脱水)(22 ml)を添加し、PNP-TGDK(12 μmole)(1.5 ml)を添加した(残存PNP 52.8-49 = 3.8 μmole)。pHは反応液1μlをとり、水4μlを加えて、上記のとおり確認した(pH 7.6~8.4)(193 mg)。これを室温で12時間放置して反応させ、反応終了後のpHを上記記載のとおり、測定し確認した(pH 7.3~8)。これによりHub-TGDK-PNP(残存量3.8 μmole)(23 ml)を得た。
これに、Fetuin 50 mg(0.9 μmole)/23 mlPBS(-),pH 7.4~7.8を速やかに滴下した(数分)。室温で1夜撹拌し、透析(Mw cut 3500)を以下の通り行った。
1: PBS(-)に対して、2リットルx 3 回、24 時間
2: 精製水に対して、2リットルx 3回、24時間
3: 2次水に対して、2リットルx 1回、12時間
これを凍結乾燥して、凍結乾燥粉末(約130 mg、Hub-TGDK-Fetuin粉末)を得た。
【実施例】
【0038】
実施例2-4:滅菌の方法
70 % EtOH滅菌、ゲル化が認められるので、常法に従い、ゲルをスタレットで撹拌しながら滅菌下に、均質にする。
【実施例】
【0039】
実施例3:HIV/AIDS分子擬態粘膜ワクチンのサルへの投与
(1)実験材料および方法:
カニクイザル6頭(コントロール3頭、免疫群3頭), ♀、体重:約3.5~4.5 kgを用い、ワクチン5 mg(Hub-TGDK-Fetuin、実質Fetuin量約1 mg)/サル1頭/1 ml PBS(-)を両鼠経部に皮下注射し、2週毎に血清を調製した。
(2)抗体価の測定
抗gp140抗体価は従来の方法に従って、ELISA法によった。
【実施例】
【0040】
(3)結果および考察
抗体価の測定の結果を図6に示した。
ワクチン投与群3頭において、皮下注射後、2週後から、抗gp140抗体価の上昇が認められ、4週で、最大になり、8週では最大の約40~50 %に低下し、現在までその抗体価を維持している、8週における抗血清はHIV-1およびSIVmac239の感染を防止した。なお、サル#5においては、抗UPA抗体活性も認められた。
【実施例】
【0041】
(実施例のまとめ)
(1)Hub-TGDK-Fetuinワクチンの1度の皮下注射免疫により、HIV-1 EnvおよびSIVmac239 Envタンパク質と反応する抗体を誘導できた。
(2)サル#5の抗血清中にはHIV-1の第2受容体CCR5の特殊立体構造(UPA)と反応する抗体の誘導を認め、FetuinのS-S結合で形成されるMoietyがCCR5のUPAと非常によくマッチし、FetuinがCCR5の特殊立体構造に対する抗体を誘導できるという画期的な結果を見出した。
(3)これらのことから、交叉免疫現象を粘膜に誘導することにより、HIVの粘膜における感染を防止できる。
(4)Hub-TGDK-UPA-CpGODN-gp140-Fetuinのワクチンで免疫を行い、抗gp140抗体が血中から消失した後に、gp140のないHub-TGDK-UPA-CpGODN-Fetuinの皮下注射ブーストにより、抗gp140抗体を産出できた。同じ結果がFetuin単独皮下注射ブーストにより確認できた。
(5)Hub-TGDK-Fetuinワクチンをサルに免疫し、gp140抗原と反応する抗体、すなわち抗gp140抗体の産生を確認した。
(6)HIV Env外被糖タンパク質と構造分子生物学的にMolecular Mimicry Moietyをもつ抗原により、交叉免疫誘導現象を初感染の場に構築すれば、感染を未然に完全に防止できる。ジェンナーの種痘を超えるワクチンが完成する。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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