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明細書 :セラミド誘導体およびこれを用いたゴルジ体標識化蛍光プローブ

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 平成27年3月5日(2015.3.5)
発明の名称または考案の名称 セラミド誘導体およびこれを用いたゴルジ体標識化蛍光プローブ
国際特許分類 C07D 271/12        (2006.01)
C12Q   1/02        (2006.01)
G01N  33/48        (2006.01)
G01N  33/58        (2006.01)
G01N  21/64        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
FI C07D 271/12 CSP
C12Q 1/02
G01N 33/48 M
G01N 33/48 P
G01N 33/58 Z
G01N 21/64 F
G01N 21/64 E
C12N 15/00 A
国際予備審査の請求 未請求
全頁数 28
出願番号 特願2013-529018 (P2013-529018)
国際出願番号 PCT/JP2012/070631
国際公開番号 WO2013/024843
国際出願日 平成24年8月13日(2012.8.13)
国際公開日 平成25年2月21日(2013.2.21)
優先権出願番号 2011177720
優先日 平成23年8月15日(2011.8.15)
優先権主張国 日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IS , JP , KE , KG , KM , KN , KP , KR , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LT , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT , TZ , UA , UG , US , UZ , VC , VN
発明者または考案者 【氏名】西田 篤司
【氏名】中村 浩之
【氏名】牧山 智彦
【氏名】村山 俊彦
出願人 【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人 千葉大学
個別代理人の代理人 【識別番号】110000671、【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
審査請求 未請求
テーマコード 2G043
2G045
4B024
4B063
4C056
Fターム 2G043AA01
2G043AA03
2G043BA16
2G043DA01
2G043EA01
2G043FA01
2G043FA02
2G043FA03
2G043KA01
2G043KA02
2G043KA05
2G043KA09
2G043LA02
2G043NA11
2G045AA24
2G045BB20
2G045BB24
2G045CB01
2G045FA16
2G045FB12
4B024AA11
4B024DA02
4B024GA27
4B024HA11
4B063QA05
4B063QQ08
4B063QQ79
4B063QR56
4B063QS03
4B063QX02
4C056AA01
4C056AB02
4C056AC06
4C056AD03
4C056AE03
4C056AF01
4C056FA01
4C056FB01
4C056FC01
要約 【課題】ゴルジ体を選択的に蛍光標識するための、細胞障害性が低く細胞内安定性に優れた手段を提供する。
【解決手段】本発明によれば、下記化学式1:
JP2013024843A1_000029t.gif
式中、Rは、炭素原子数1~12のアルキル基であり、Rは、炭素原子数1~20のアルキル基であり、nは、1~20の整数である、
で表されるセラミド誘導体、およびこれを用いたゴルジ体標識化蛍光プローブが提供される。
【選択図】図4
特許請求の範囲 【請求項1】
下記化学式1:
【化1】
JP2013024843A1_000026t.gif
式中、Rは、炭素原子数1~12のアルキル基であり、Rは、炭素原子数1~20のアルキル基であり、nは、1~20の整数である、
で表される、セラミド誘導体。
【請求項2】
下記化学式2:
【化2】
JP2013024843A1_000027t.gif
式中、R、R、およびnは、上記と同様の定義である、
で表される、請求項1に記載のセラミド誘導体。
【請求項3】
が炭素原子数1~4のアルキル基である、請求項1または2に記載のセラミド誘導体。
【請求項4】
が炭素原子数5~15のアルキル基である、請求項1~3のいずれか1項に記載のセラミド誘導体。
【請求項5】
nが7~11の整数である、請求項1~4のいずれか1項に記載のセラミド誘導体。
【請求項6】
下記化学式3:
【化3】
JP2013024843A1_000028t.gif
で表される、セラミド誘導体。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載のセラミド誘導体を含む、ゴルジ体標識化蛍光プローブ。
【請求項8】
請求項7に記載のゴルジ体標識化蛍光プローブを、被検細胞に接触させる工程と、
前記蛍光プローブの発する蛍光信号を測定する工程と、
を含む、被検細胞におけるゴルジ体の存在部位を特定する方法。
【請求項9】
請求項7に記載のゴルジ体標識化蛍光プローブを、被検細胞に接触させる工程と、
前記蛍光プローブの発する蛍光信号を測定する工程と、
蛍光標識された被検化合物を、前記被検細胞に接触させる工程と、
前記被検化合物の発する蛍光信号を測定する工程と、
を含む、被検細胞における被検化合物のゴルジ体への局在化の有無またはその程度を測定する方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミド誘導体およびこれを用いたゴルジ体標識化蛍光プローブに関する。
【背景技術】
【0002】
ゴルジ体は小胞輸送経路の中心に位置する細胞内小器官で、ほとんどの真核生物の細胞に存在する。ゴルジ体の主な機能は、タンパク質の修飾と選別輸送であるが、一部の脂質や糖脂質の合成をも行う重要な細胞内小器官である。タンパク質が正常に機能するためにはゴルジ体の働きが非常に重要であり、また生体内の重要な脂質であるスフィンゴ脂質はその9割以上がゴルジ体で合成される。このように、ゴルジ体の機能およびゴルジ体で機能するタンパク質を研究することは生命現象を理解する上で非常に重要である。
【0003】
ところで、タンパク質や脂質の細胞内輸送や、ゴルジ体で機能するタンパク質を解析する研究では、しばしばその細胞内局在を蛍光顕微鏡にて観察することが行われる。この際、ゴルジマーカー(ゴルジ体標識化プローブ)と目的タンパク質とを共染色することで、目的タンパク質がゴルジ体に局在していることを証明することもよく行われる。したがって、ゴルジ体を選択的に染色しうるゴルジ体標識化プローブを開発することは、これらの研究の発展にとって非常に有用である。
【0004】
ここで、例えば非特許文献1には、従来のゴルジ体標識化蛍光プローブとして、NBD-C6-セラミドと称されるセラミド誘導体が記載されている。このNBD-C6-セラミドは、内在性セラミド(N-アシルスフィンゴシン)が蛍光標識されてなるものであり、下記の化学構造で示されるように、セラミドのN-アシル部位に蛍光発色団が導入されている。NBD-C6-セラミドは、かような化学構造に起因して、細胞に添加されると細胞内に取り込まれ、ゴルジ体を選択的に染色することができる。
【0005】
【化1】
JP2013024843A1_000003t.gif

【先行技術文献】
【0006】

【非特許文献1】NG Lipsky et al., Science, 228, 745-747, 1985
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、本発明者らの検討によれば、上述した従来のセラミド誘導体(NBD-C6-セラミド)を蛍光プローブとして用いたゴルジ体の染色では、長時間にわたって染色を継続することができないという問題があることが判明した。すなわち、NBD-C6-セラミドは細胞障害作用を有することから、細胞内に取り込まれてから24時間以内には細胞自身を死に至らしめ、それ以上継続した細胞観察は不可能となってしまう。また、内在性セラミドはゴルジ体においてオリゴ糖が付加されてグルコシルセラミドへと代謝されるか、ホスファチジルコリンからのホスホコリンの転移を受けてスフィンゴミエリンへと代謝され、細胞膜へと送られてその構成成分となる。NBD-C6-セラミドも内在性セラミドと同様に、ゴルジ体においてグルコシルセラミドやスフィンゴミエリンへと代謝され、数時間後にはゴルジ体から細胞膜へと輸送されてしまうことから、この点でも継続的な染色は困難である。
【0008】
そこで本発明は、ゴルジ体を選択的に蛍光標識するための、細胞障害性が低く細胞内安定性に優れた手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上述した従来技術における課題に鑑み、鋭意研究を行った。その過程で、NBD-C6-セラミドでは内在性セラミド(N-アシルスフィンゴシン)のN-アシル部位に導入されていた蛍光発色団を、N-アシル部位ではなく脂肪酸のアルキル基の末端に導入し、かつ、内在性セラミドのヒドロキシメチル基の末端にアシル基を導入することを試みた。そして、得られた化合物をゴルジ体染色のための蛍光プローブとして用いると、細胞障害性をほとんど示さず、しかも細胞内安定性にも優れることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明の第1の形態によれば、下記化学式1:
【0011】
【化2】
JP2013024843A1_000004t.gif

【0012】
式中、Rは、炭素原子数1~12のアルキル基であり、Rは、炭素原子数1~20のアルキル基であり、nは、1~20の整数である、
で表される、セラミド誘導体が提供される。当該セラミド誘導体は、好ましくは、下記化学式2:
【0013】
【化3】
JP2013024843A1_000005t.gif

【0014】
式中、R、R、およびnは、上記と同様の定義である、
で表される。
【0015】
また、他の好ましい形態において、Rは、炭素原子数1~4のアルキル基であり、Rは、炭素原子数5~15のアルキル基であり、nは、7~11の整数である。
【0016】
そして、最も好ましい形態において、当該セラミド誘導体は、下記化学式3:
【0017】
【化4】
JP2013024843A1_000006t.gif

【0018】
で表される。
【0019】
本発明の第2の形態によれば、上述したセラミド誘導体を含む、ゴルジ体標識化蛍光プローブが提供される。
【0020】
本発明の第3の形態によれば、被検細胞におけるゴルジ体の存在部位を特定する方法が提供される。当該方法は、上述したゴルジ体標識化蛍光プローブを、被検細胞に接触させる工程と、蛍光プローブの発する蛍光信号を測定する工程とを含む。
【0021】
本発明の第4の形態によれば、被検細胞における被検化合物のゴルジ体への局在化の有無またはその程度を測定する方法もまた、提供される。当該方法は、上述したゴルジ体標識化蛍光プローブを、被検細胞に接触させる工程と、蛍光プローブの発する蛍光信号を測定する工程と、蛍光標識された被検化合物を、前記被検細胞に接触させる工程と、被検化合物の発する蛍光信号を測定する工程とを含む。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、ゴルジ体を選択的に蛍光標識するための、細胞障害性が低く細胞内安定性に優れた手段として、新規なセラミド誘導体とこれを用いたゴルジ体標識化蛍光プローブが提供されうる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施例において、合成例で合成した化合物9について、その細胞障害性を評価した結果を示す写真である。
【図2A】実施例において、合成例で合成した化合物9について、その細胞内取り込みを評価した結果を、NBD-C6-セラミド(陰性対照)と対比して示す写真である。
【図2B】実施例において、合成例で合成した化合物9について、その細胞内取り込みを評価した結果を、NBD-C6-セラミド(陰性対照)と対比して示すグラフである。
【図2C】実施例において、NBD-C6-セラミド(陰性対照)について、その代謝をTLCにより評価した結果を示す写真である。
【図2D】実施例において、合成例で合成した化合物9について、その代謝をTLCにより評価した結果を示す写真である。
【図2E】実施例において、NBD-C6-セラミド(陰性対照)について、その代謝をTLCにより評価した結果を数値化したグラフである。
【図2F】実施例において、合成例で合成した化合物9について、その代謝をTLCにより評価した結果を数値化したグラフである。
【図3】実施例において、合成例で合成した化合物9について、そのゴルジ体への局在化能を評価した結果を、NBD-C6-セラミド(陰性対照)と対比して示す写真である。
【図4】実施例において、合成例で合成した化合物9について、そのゴルジ体への局在化能の経時的な変化を評価した結果を、NBD-C6-セラミド(陰性対照)と対比して示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
≪セラミド誘導体≫
本発明の第1の形態は、下記化学式1:

【0025】
【化5】
JP2013024843A1_000007t.gif

【0026】
で表されるセラミド誘導体である。化学式1の構造からも明らかなように、本形態に係るセラミド誘導体は、内在性セラミド(N-アシルスフィンゴシン)のN-アシル部位ではなく脂肪酸のアルキル基の末端に蛍光発色団が導入されてなり、かつ、内在性セラミドのヒドロキシメチル基の末端にアシル基(R-C(=O)-)が導入されてなるものである。

【0027】
化学式1において、Rは、炭素原子数1~12のアルキル基である。Rは、好ましくは炭素原子数1~8のアルキル基であり、より好ましくは炭素原子数1~4のアルキル基であり、さらに好ましくはメチル基またはエチル基であり、特に好ましくはメチル基である。ここで、炭素原子数1~12のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基などが挙げられる。

【0028】
また、化学式1において、Rは、炭素原子数1~20のアルキル基である。Rは、好ましくは炭素原子数2~18のアルキル基であり、より好ましくは炭素原子数3~17のアルキル基であり、さらに好ましくは炭素原子数4~16のアルキル基であり、特に好ましくは炭素原子数5~15のアルキル基である。

【0029】
さらに、化学式1において、nは、1~20の整数である。nは、好ましくは2~18であり、より好ましくは3~16であり、さらに好ましくは4~14であり、いっそう好ましくは5~13であり、特に好ましくは6~12であり、最も好ましくは7~11である。

【0030】
化学式1で表されるセラミド誘導体は、2つの不斉炭素原子を有するものである。具体的には、アミド結合を構成する窒素原子が結合した炭素原子(C)、および、当該炭素原子に隣接する、ヒドロキシ基が結合した炭素原子(C)、の2つが不斉炭素原子である。これらの不斉炭素原子の立体配置について特に制限はない。言い換えれば、CおよびCの立体配置は、(C,C)として、(R,R)、(R,S)、(S,R)、(S,S)のいずれであってもよい。ただし、内在性セラミドにおける(C,C)の立体配置は(S,R)であることから、本形態に係るセラミド誘導体においても、(C,C)の立体配置は(S,R)であることが特に好ましい。化学式1で表されるセラミド誘導体のうち、(C,C)の立体配置が(S,R)であるものは、下記化学式2:

【0031】
【化6】
JP2013024843A1_000008t.gif

【0032】
で表される。なお、化学式2において、R、R、およびnは、上記と同様の定義である。

【0033】
そして、最も好ましい形態において、本形態に係るセラミド誘導体は、下記化学式3:

【0034】
【化7】
JP2013024843A1_000009t.gif

【0035】
で表される。

【0036】
上述したセラミド誘導体の入手経路について特に制限はない。ここで、当該セラミド誘導体を製造するための手法の一例について、後述する実施例の欄に記載の合成スキームおよび合成例に沿って、簡単に説明する。

【0037】
まず、合成例1を参照すると、出発物質として、(S)-(-)-3-Boc-2,2-ジメチルオキサゾリジン-4-カルボキシアルデヒド(以下の化合物1;Aldrich社より市販されている)を準備する。なお、化合物1における「-Boc」はアミンの保護基である「tert-ブトキシカルボニル基」である。

【0038】
【化8】
JP2013024843A1_000010t.gif

【0039】
化合物1の入手経路について特に制限はない。市販品を購入して用いてもよいし、公知の出発物質から公知の反応によって自ら合成したものを用いてもよい。

【0040】
続いて、n-BuLiなどの強塩基の存在下、末端アルキンを化合物1と反応させると、強塩基の作用によって末端アルキルから生成したアセチリドが、化合物1のアルデヒドのカルボニル炭素に求核付加する(参考文献:Renaud Villard, Djilali Hammache, Guillaume Delapierre, Frederic Fotiadu, Gerard Buono, JacquesFantini, ChemBioChem 2002, 3, 517-525)。合成例1では、末端アルキンとして1-ヘキシンを用いており、以下の化合物2を得ている。

【0041】
【化9】
JP2013024843A1_000011t.gif

【0042】
次に、合成例2を参照すると、メタノール、エタノール等の求核性溶媒の存在下、上記で得られた化合物2に弱酸性陽イオン交換樹脂(例えば、アンバーリスト(登録商標)15)を作用させることで、オキサゾリジン環が開環し、以下の化合物3のようなカルバメート誘導体が得られる。

【0043】
【化10】
JP2013024843A1_000012t.gif

【0044】
次に、合成例3を参照すると、上記で得られた化合物3に、還元剤(例えば、水素化ビス(2-メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウム(Red-Al))を作用させることで、三重結合が二重結合へと還元され、以下の化合物4のようなカルバメート誘導体が得られる。

【0045】
【化11】
JP2013024843A1_000013t.gif

【0046】
次に、合成例4を参照すると、上記で得られた化合物4を、塩酸やトリフルオロ酢酸等の強酸の存在下で加熱還流することで、Boc保護基がアミノ基から脱離し(脱保護)、第1級アミノ基を含む以下の化合物5のようなジオール化合物が得られる。

【0047】
【化12】
JP2013024843A1_000014t.gif

【0048】
次に、合成例5を参照すると、上記で得られた化合物5をカルボン酸塩化物と反応させることで、化合物5における第1級アミノ基の部位にアミド結合が形成されてなるジオール化合物が得られる。この際、反応に用いるカルボン酸塩化物のアルキル基の長さを選択することで、化合物1におけるRを制御することができる。合成例5では、カルボン酸塩化物として塩化パルミトイルを用いており、これにより、化学式1におけるRがペンタデシル基である場合に相当する以下の化合物6が得られている。

【0049】
【化13】
JP2013024843A1_000015t.gif

【0050】
次に、合成例6を参照すると、上記で得られた化合物6のアルケニル基部位に、蛍光発色団を導入する。具体的には、蛍光発色化合物である7-ニトロ-2,1,3-ベンゾオキサジアゾール-4-アミンの第1級アミノ基の水素原子の1つが末端アルケニル基で置換されてなる化合物(合成例6では、以下の化合物7)と、化合物6とを、カルベン錯体触媒である第2世代Grubbs触媒の存在下で反応させることにより、2種のオレフィンの結合の組換えが起こり、化合物6のアルケニル基部位に、蛍光発色団が導入されるのである。この際、上記末端アルケニル基の長さを選択することで、化合物1におけるnを制御することができる。合成例6では、上記末端アルケニル基として10-ウンデセニル基を採用しており、これにより、化学式1におけるnが9である場合に相当する以下の化合物8が得られている。

【0051】
【化14】
JP2013024843A1_000016t.gif

【0052】
最後に、合成例7を参照すると、上記で得られた化合物8を、-15℃程度の低温条件下でカルボン酸塩化物と反応させることで、化合物8における第1級ヒドロキシ基にアシル基が結合し、本発明に係るセラミド誘導体の合成が完了する。この際、反応に用いるカルボン酸塩化物のアルキル基の長さを選択することで、化合物1におけるRを制御することができる。合成例7では、カルボン酸塩化物として塩化アセチルを用いており、これにより、化学式1におけるRがメチル基である場合に相当する以下の化合物9が得られている。

【0053】
【化15】
JP2013024843A1_000017t.gif

【0054】
以上、第1の形態に係るセラミド誘導体を製造するための手法について、一例として化合物9を例に挙げて説明したが、もちろん他の手法によって製造することも可能であるし、製造方法によって本発明の化合物やその用途の技術的範囲が影響を受けることはない。

【0055】
≪ゴルジ体標識化蛍光プローブ≫
本発明の第2の形態は、上述した第1の形態に係るセラミド誘導体を含む、ゴルジ体標識化蛍光プローブである。

【0056】
従来、例えば非特許文献1などに記載されているセラミド誘導体からなるゴルジ体標識化蛍光プローブ(NBD-C6-セラミド)は、ゴルジ体を染色するための蛍光プローブとして用いられた場合に、長時間にわたって染色を継続することができないという問題があった。これに対し、第1の形態に係るセラミド誘導体は、後述する実施例の欄において実証されているように、ゴルジ体標識化蛍光プローブとして用いられると、細胞障害性が低く細胞内安定性に優れる(数日間にわたって染色を継続することができる)というきわめて顕著な効果を奏するのである。したがって、第2の形態に係るゴルジ体標識化蛍光プローブは、細胞内における脂質代謝機構の解明や、脂質代謝異常に起因する疾患の治療薬開発に寄与する有効なプローブとなりうる。

【0057】
ここで、本発明により提供されるセラミド誘導体がゴルジ体標識化蛍光プローブとしてかような優れた効果を奏するメカニズムについては完全には明らかではないが、細胞内安定性に優れることについては、化学式1に示すように蛍光発色団をN-アシル部位ではなく脂肪酸のアルキル基の末端に有していることで、代謝による切断(分解)を受けた場合であっても蛍光の発色は影響を受けないことが推測される。また、同じく化学式1に示すように内在性セラミドのヒドロキシメチル基の末端にアシル基(R-C(=O)-)が導入されていることで、加水分解酵素による代謝基質として認識されなくなることで、細胞内安定性のより一層の向上に寄与し、さらには細胞毒性の低下にもつながっているのではないかと考えられる。

【0058】
本発明に係る蛍光プローブの使用方法は特に限定されず、従来公知の蛍光プローブと同様に用いることが可能である。通常は、生理食塩水や緩衝液などの水性媒体、またはエタノール、アセトン、エチレングリコール、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドなどの水混合性の有機溶媒と水性媒体との混合物などに上述したセラミド誘導体を溶解し、細胞や組織などの被検対象物を含む適切な緩衝液中にこの溶液を添加して、適宜選択された490nm付近の近赤外領域の波長により励起して、蛍光強度を測定すればよい。

【0059】
なお、本発明に係る蛍光プローブは、適切な添加物と組み合わせて組成物の形態で用いてもよい。例えば、緩衝剤、溶解補助剤などの添加物と適宜組み合わせることができる。

【0060】
ここで、本発明の第3の形態としては、被検細胞におけるゴルジ体の存在部位を特定する方法が提供される。当該方法は、上述したゴルジ体標識化蛍光プローブを、被検細胞に接触させる工程と、蛍光プローブの発する蛍光信号を測定する工程とを含む。当該方法において、被検細胞の種類や培養方法などについて特に制限はなく、従来公知の知見が適宜参照されうる。また、被検細胞に蛍光プローブを接触させる際の具体的な形態についても特に制限はない。なお、本明細書において用いられる「測定」という用語については、定量および定性を含めて最も広義に解釈すべきものである。

【0061】
また、本発明の第4の形態としては、被検細胞における被検化合物のゴルジ体への局在化の有無またはその程度を測定する方法もまた、提供される。当該方法は、上述したゴルジ体標識化蛍光プローブを、被検細胞に接触させる工程と、蛍光プローブの発する蛍光信号を測定する工程と、蛍光標識された被検化合物を、前記被検細胞に接触させる工程と、被検化合物の発する蛍光信号を測定する工程とを含む。この際、例えば、上述したゴルジ体標識化蛍光プローブおよび被検化合物のそれぞれは異なる波長で励起され、および/または異なる波長で発光し、それぞれから発せられる蛍光の局在部位が一致するか否かを観測することで、被検細胞における被検化合物のゴルジ体への局在化の有無またはその程度を測定することが可能である。

【0062】
本発明の第3の形態や第4の形態における蛍光信号を測定する工程には、例えば、後述する実施例の欄において用いられているような、共焦点レーザー顕微鏡を用いた測定が採用されうる。
【実施例】
【0063】
以下、実施例等により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらに限定されない。
【実施例】
【0064】
<合成例>
以下の合成スキームに従って、本発明に係るセラミド誘導体である化合物9を合成した。
【実施例】
【0065】
【化16】
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【実施例】
【0066】
[合成例1:tert-ブチル(S)-4-((R)-1-ヒドロキシヘプト-2-イン-1-イル)-2,2-ジメチルオキサゾリジン-3-カルボキシレート(化合物2)の合成]
アルゴン雰囲気下、1-ヘキシン(1.10g,13.08mmol)の無水テトラヒドロフラン(THF)(50mL)溶液に、n-BuLi溶液(7.7mL,12.21mmol,1.59M(ヘキサン溶液))を-20℃にて滴下した。-20℃にて2時間撹拌し、-78℃に冷却した後、ヘキサメチルリン酸トリアミド(HMPA;3mL,17.44mmol)を加え、さらに(S)-(-)-3-Boc-2,2-ジメチルオキサゾリジン-4-カルボキシアルデヒド(化合物1;Aldrich社より市販されている)(2.0g,8.72mmol)のTHF(37mL)溶液を加えた。-78℃にて1時間撹拌後、2時間かけて反応液を室温まで温めた。飽和NHCl水溶液を加えて反応を停止した後、反応液を減圧下で濃縮し、残渣にエーテルおよび水を加えて分液した。さらに水層をエーテルにて抽出し、有機層を合わせて無水硫酸ナトリウムにて乾燥した。有機層を減圧下で濃縮し、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出液;n-ヘキサン/酢酸エチル(9/1))にて精製し、化合物2(2.36g,87%)を無色油状物として得た。
(参考文献:Renaud Villard, Djilali Hammache, Guillaume Delapierre, Frederic Fotiadu, Gerard Buono, JacquesFantini, ChemBioChem 2002, 3, 517-525)
[合成例2:tert-ブチル((2S,3R)-1,3-ジヒドロキシノン-4-イン-2-イル)カルバメート(化合物3)の合成]
上記の合成例1の手法により合成した化合物2(2.08g,6.7mmol)のメタノール(67mL)溶液に、弱酸性イオン交換樹脂アンバーリスト(登録商標)15(2.5g)を加え、室温にて20時間撹拌した。反応液をセライトを用いて濾過し、濾液を減圧下で濃縮して、粗生成物を得た。粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出液;n-ヘキサン/酢酸エチル(2/1))にて精製し、化合物3(1.5g,81%)を無色油状物として得た。
【実施例】
【0067】
【化17】
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【実施例】
【0068】
[合成例3:tert-ブチル((2S,3R)-(E)-1,3-ジヒドロキシノン-4-エン-2-イル)カルバメート(化合物4)の合成]
上記の合成例2の手法により合成した化合物3(100mg,0.37mmol)のエーテル(1.3mL)溶液にRed-Al(登録商標)(0.56mL,1.84mmol,65%トルエン溶液)を0℃にて滴下し、その後室温にて10時間撹拌した。0℃にてメタノールを加えて反応を停止した後、エーテル(10mL)および飽和酒石酸ナトリウムカリウム水溶液を加えて室温にて12時間激しく撹拌した。生成物をエーテルにて抽出し、抽出液をさらに飽和酒石酸ナトリウムカリウム水溶液、続いて飽和食塩水にて洗浄した。抽出液を無水硫酸マグネシウムにて乾燥後、減圧下で濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出液;n-ヘキサン/酢酸エチル(1/1))にて精製し、化合物4(82mg,82%)を白色固体として得た。
【実施例】
【0069】
【化18】
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【実施例】
【0070】
[合成例4:(2S,3R)-(E)-2-アミノノン-4-エン-1,3-ジオール(化合物5)の合成]
上記の合成例3の手法により合成した化合物4(200mg,0.73mmol)のTHF(7.2mL)溶液に、1N塩酸(2.4mL)を加えて反応液を23時間加熱還流し、原料消失を確認後、室温まで冷却した。反応液に1N水酸化ナトリウム水溶液(2.6mL)および飽和食塩水を加えた後、酢酸エチルにて抽出した。有機層を無水硫酸マグネシウムにて乾燥後、減圧下で濃縮して粗生成物を得た。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出液;CHCl/メタノール/NHOH(135/25/4))にて精製し、化合物5(120mg,94%)を無色油状物として得た。
【実施例】
【0071】
【化19】
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【実施例】
【0072】
[合成例5:N-((2S,3R)-(E)-1,3-ジヒドロキシノン-4-エン-2-イル)パルミタミド(化合物6)の合成]
上記の合成例4の手法により合成した化合物5(86.9mg,0.50mmol)のTHF(10mL)溶液に酢酸ナトリウム50%水溶液5mLを加え、0℃に冷却した中に塩化パルミトイル(330μL,1.08mmol,2.2eq)を加えた。混合液を室温にて30分間撹拌した後、水を加えて酢酸エチルにて抽出した。有機層を無水硫酸マグネシウムにて乾燥後、減圧下で濃縮して粗生成物を得た。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出液;CHCl/メタノール(40/1))にて精製し、化合物6(204.8mg,99%)を無色油状物として得た。
【実施例】
【0073】
【化20】
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【実施例】
【0074】
[合成例6:N-((2S,3R)-(E)-1,3-ジヒドロキシ-14-(7-ニトロベンゾ[c][1,2,5]オキサジアゾール-4-イルアミノ)テトラデセ-4-エン-2-イル)パルミタミド(化合物8)の合成]
上記の合成例5の手法により合成した化合物6(100mg,0.24mmol)と7-ニトロベンゾ[c][1,2,5]オキサジアゾール-4-(10-ウンデセニル)アミン(化合物7)(81mg,0.243mmol)(P. Nussbaumer, P. Ettmayer, C. Peters, D. Rosenbeiger and K. Hogenauer, Chem. Commun., 2005, 5086-5087)のCHCl(24mL)溶液にアルゴンガスを1時間バブリングした後、第2世代Grubbs触媒(5mol%)を加えて4時間加熱還流した。溶媒を減圧下で留去した後、残渣をカラムクロマトグラフィー(フジシリシアNHシリカ、溶出液;n-ヘキサン/酢酸エチル(1/2))にて精製して化合物8(60mg,37%)を得て、原料である化合物6 33mg(33%)を回収した。
【実施例】
【0075】
【化21】
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【実施例】
【0076】
[合成例7:(2S,3R)-(E)-3-ヒドロキシ-14-((7-ニトロベンゾ[c][1,2,5]オキサジアゾール-4-イル)アミノ)-2-パルミタミドテトラデセ-4-エン-1-イルアセテート(化合物9)の合成]
上記の合成例6の手法により合成した化合物8(20mg,0.03mmol)のピリジン(600μL)溶液に、-15℃にて塩化アセチル(10μL,0.15mmol)を加えて1時間撹拌した。反応液に飽和炭酸ナトリウム水溶液を加え、生成物をジクロロメタンにて抽出した。有機層を1N塩酸および飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸ナトリウムにて乾燥した。溶媒を減圧下で留去した後、残渣を薄層クロマトグラフィー(展開液;CHCl/メタノール(10/1))にて精製し、化合物9(17.5mg,83%)をオレンジ色固体として得た。
【実施例】
【0077】
【化22】
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【実施例】
【0078】
<セラミド誘導体の細胞障害性の評価(細胞の形態変化)>
上記で合成した化合物9について、その細胞障害性を、細胞の形態変化に及ぼす影響として評価した。
【実施例】
【0079】
培養細胞としては、ハムスターの卵巣由来の細胞株であるCHO細胞をHam's F12培地で培養したものを用いた。
【実施例】
【0080】
まず、CHO細胞を24ウェルプレートの各ウェルに2×10細胞/ウェルで播種し、Ham's F12(+)培地中、37℃にて1日間培養した。その後、セラミドやスフィンゴシン等の影響を排除する目的で無血清培地であるHam's F12(-)培地に0.1%BSAおよび10mM HEPESを添加した培地へと培地交換を行い、化合物9(10μM)の存在下でさらに1日間培養した。なお、陰性対照として、非特許文献1に記載のNBD-C6-セラミドを用いて同様の実験を行った。
【実施例】
【0081】
結果を図1に示す。図1に示すように、化合物を添加しなかった場合(A)の結果と比較すると、細胞障害を引き起こすことが知られているNBD-C6-セラミドを添加した場合(B)では、細胞の形態変化(球状化: roundation)が確認された。ここで、CHO細胞は図1(A)に示すように細長い扁平状の形をした繊維芽様細胞であるが、NBD-C6-セラミドを投与すると、球状化によって、細胞から足が伸びない形をするのである。これに対し、本発明に係るセラミド誘導体である化合物9を投与した場合(C)には球状化は確認されず、扁平状の繊維芽様細胞のままであった。
【実施例】
【0082】
<セラミド誘導体の細胞障害性の評価(細胞数の変化)>
続いて、上記で合成した化合物9について、その細胞障害性を、細胞数の変化に及ぼす影響として評価した。
【実施例】
【0083】
まず、CHO細胞を24ウエルプレートの各ウエルに1×10細胞/ウェルで播種し、Ham’s F12(+)培地中、37℃にて1日間培養した。1日後の細胞数は、1.26×10細胞/ウェルであった。その後、無血清培地であるHam’s F12(-)培地に0.1%BSAおよび10mM HEPESを添加した培地へと培地交換を行い、化合物9(10μM)の存在下でさらに1日間培養した。なお、陰性対照として、非特許文献1に記載のNBD-C6-セラミドを用いて同様の実験を行った。また、無添加の場合についても同様の実験を行った。
【実施例】
【0084】
結果を下記の表1に示す。
【実施例】
【0085】
【表1】
JP2013024843A1_000025t.gif
【実施例】
【0086】
表1に示すように、無添加の場合には細胞が増殖したことから、24時間後の細胞数は、ばらつきはあるものの平均で添加前の170%に増加していた。また、化合物9(10μM)が存在する場合でも、無添加の場合と同様に細胞数は159%に増加し、細胞の損失は見られずに無添加の場合と同等の細胞増殖が確認された。一方、NBD-C6-セラミドの存在下では、細胞数は77%へと顕著に減少した。
【実施例】
【0087】
この結果から、本発明に係るセラミド誘導体は、きわめて細胞障害性の小さい化合物であることが示される。
【実施例】
【0088】
<セラミド誘導体の細胞内取り込みと代謝の評価>
上記で合成した化合物9について、その細胞内取り込みと代謝を評価した。
【実施例】
【0089】
まず、CHO細胞を24ウェルプレートの各ウェルに2×10細胞/ウェルで播種し、Ham's F12(+)培地中、37℃にて1日間培養した。その後、無血清培地であるHam's F12(-)培地に0.1%BSAおよび10mM HEPESを添加した培地へと培地交換を行い、さらに37℃にて18時間培養を行った後、化合物9(10μM)を添加した。添加後、37℃にて1、2、6、24、または48時間培養を行い、アッセイに供した。なお、陰性対照として、NBD-C6-セラミドを用いて同様の実験を行った。ここで、血清中にはセラミドやスフィンゴシン等が含まれており、これら物質の取り込みや代謝が恒常的に進行している。よってこの実験では、まず無血清培地中で細胞を18時間培養し、血清由来の化合物の取り込みや代謝を低下させ、その後に被検化合物を添加することで、被検化合物自身の純粋な取り込みや代謝を測定するように実験系を構築した。
【実施例】
【0090】
アッセイとしては、まず、セラミド誘導体(化合物9)の細胞内への取り込みを評価した。具体的には、化合物の存在下で所定時間培養した細胞を、0.1%BSAおよび10mM HEPESを含むHBSS(Hank’s Balanced Salt Solution: pH7.4)で2回洗浄した後に、セルスクライパーと上述したHBSS 250μLを用いて細胞をウェルから剥離させた。こうして得られた細胞抽出液にクロロホルム500μL、メタノール500μL、および水250μLを添加して、細胞抽出液を有機層と水層との二層状態とした。そして、セラミド誘導体やその他の主要なスフィンゴ脂質は有機層に移行する化合物であることから、二層状態の細胞抽出液を4℃にて3000rpmの条件下で10分間遠心することで、有機層のみを分離した。
【実施例】
【0091】
続いて、得られた有機層サンプルを96ウェルプレートに添加し、イメージアナライザー(LAS1000, 富士フイルム株式会社製)によりセラミド誘導体の蛍光発光を検出した。
【実施例】
【0092】
結果を図2のA)およびB)に示す。図2におけるA)は、イメージアナライザーにより撮影された写真であり、蛍光発光している部位は黒色に表示されている。また、図2におけるB)は、NBD-C6-セラミドを標準物質として用いた検量線法により求められた化合物の取り込み量[nmol/ウェル]を縦軸とし、培養時間を横軸としてプロットしたグラフである。なお、1ウェルあたりには8×10個の細胞が存在していた。図2のA)およびB)に示す結果からわかるように、陰性対照であるNBD-C6-セラミドは時間の経過とともに細胞内への取り込み量が減少していくのに対し、本発明に係るセラミド誘導体である化合物9は、時間の経過とともに細胞内取り込みが上昇していることが証明された。
【実施例】
【0093】
一方、他のアッセイとして、セラミド誘導体(化合物9)の代謝を評価した。具体的には、上記で得られた有機層サンプル20μLをTLCプレートにスポットし、展開溶媒(1-ブタノール:酢酸:水=3:1:1)で展開を行った後にイメージアナライザー(LAS1000)によりサンプルの細胞内代謝を評価した。
【実施例】
【0094】
結果を図2のC)(NBD-C6-セラミド(陰性対照))およびD)(化合物9)に示す。図2のC)に示すように、NBD-C6-セラミドは時間の経過とともに代謝を受け、24時間ではその量は半減し、48時間では大半が有機層画分以外(水層画分)に移動する分解産物になったと推測される。また、NBD-C6-セラミドの消失に伴って、代謝物であるグルコシルセラミドやスフィンゴミエリンといった他のスフィンゴ脂質の存在が確認された。例えば、6時間では、NBD-C6-セラミドの30%が代謝物となっていた。これに対し、図2のD)に示すように、化合物9では6時間における代謝物は全体の10%程度であった。48時間でも、NBD-C6-セラミドはその90%近くが代謝されたが、化合物9は70%以上が代謝されずにそのまま存在していた。言い換えれば、NBD-C6-セラミドは長時間細胞と接触していると細胞内で代謝(分解)を受け、長時間セラミドとして存在することはできないのである。一方、化合物9のような本発明に係るセラミド誘導体は、短時間では取り込まれる化合物の量が少ないものの、48時間後にもそのままセラミドの形態として存在しうる化合物であることが確認された。
【実施例】
【0095】
さらに、フリーソフト(Image J)を用いて、各々の代謝物の存在量を数値化した。結果を図2のE)(NBD-C6-セラミド(陰性対照))およびF)(化合物9)に示す。ただし、C16-グルコシルセラミド-NBD様分子およびC16-スフィンゴミエリン-NBD様分子の量の数値化については、TLCにおける移動度から判断した。
【実施例】
【0096】
<セラミド誘導体のゴルジ体への局在化能の評価>
化合物9の細胞内への局在が本当にゴルジ体への局在化によるものであるか否かを評価した。具体的には、代謝されにくいことが知られている別のゴルジマーカーであるBODIPY-TR-Ceramide(Molecular Probes社 Cat D-7540 赤色)を用い、化合物9をこれと同時に細胞に添加して、共焦点レーザー顕微鏡により観察した。
【実施例】
【0097】
まず、CHO細胞を24ウェルプレートの各ウェルに0.5×10細胞/ウェルで播種し、Ham's F12(+)培地中、37℃にて2日間培養した。その後、0.1%BSAおよび10mM HEPESを含むHBSS(Hank’s Balanced Salt Solution: pH7.4)(-)へと培地交換を行い、さらに化合物9(1μM)を添加して、37℃にて1.5時間培養した。次いで、0.1%BSAおよび10mM HEPESを含むHBSSで細胞を2回洗浄し、BODIPY-TR-Ceramide(5μM)を添加して、同様の培地中でさらに30分間培養を行った。培養終了後、上記と同様に細胞を2回洗浄して、細胞からの蛍光発光を観察した。観察前に細胞を洗浄しているのは、培地中に残存している化合物からの発光を検出することによるノイズを排除するためである。なお、陰性対照として、NBD-C6-セラミドを用いて同様の実験を行った。また、細胞培養および化合物添加のタイムコースは、BODIPY-TR-Ceramideをより感度よく検出できるものとしてデータシートや既報により推奨されているものである。観察は共焦点レーザー顕微鏡を用いて行ったが、BODIPY-TR-Ceramideからの蛍光発光の測定については、最大励起波長598nm、最大蛍光波長617nmで、「赤色」を測定した。また、化合物9またはNBD-C6-セラミド(陰性対照)からの蛍光発光の測定については、最大励起波長489nm、最大蛍光波長508nmで、「緑色」を測定した。
【実施例】
【0098】
結果を図3に示す。図3に示す写真のうち、左のものはNBD-C6-セラミドまたは化合物9に由来する蛍光(緑色)の発光を観察した写真であり、中央のものはBODIPY-TR-Ceramideに由来する蛍光(赤色)の発光を観察した写真であり、右のものはこれらを重ね合せた(Merge)ものである。この実験でも、従来のゴルジマーカーであるNBD-C6-セラミドは、同じくゴルジマーカーであるBODIPY-TR-Ceramideと共局在することが確認された(図3の右上の写真)。NBD-C6-セラミドについては、細胞への添加から30分後であっても、2時間後にスフィンゴミエリンやグルコシルセラミドへと代謝された場合であっても、ゴルジ体に局在したままであることが報告されている(J Cell Biol. 1985 Jan;100(1):27-34)。発明者らの検討によっても、同様の結果が確認されている。一方、本発明に係るセラミド誘導体(化合物9)についても、BODIPY-TR-Ceramideと共局在することが確認された(図3の右下の写真)。このことから、化合物9はゴルジ体標識化蛍光プローブとして用いられうることが確認された。
【実施例】
【0099】
続いて、化合物9のゴルジ体の局在が長時間にわたって維持されうるか否かを評価した。具体的には、上述したのと同様の手法により化合物9またはNBD-C6-セラミド(陰性対照)(いずれも1μM)を添加した後、37℃にて1、2、6、24、または48時間培養を行い、化合物由来の蛍光(緑色)を観察した。
【実施例】
【0100】
結果を図4に示す。図4の上段は、NBD-C6-セラミド(陰性対照)についての観察結果を示す写真であり、光電子増倍管PMT:430を用いて撮影したものである。図4の中段は、化合物9についての観察結果を示す写真であり、光電子増倍管PMT:430を用いて撮影したものである。図4の下段は、化合物9についての観察結果を示す写真であり、光電子増倍管PMT:500を用いて撮影したものである。なお、「430」や「500」とあるのは検出感度(化合物由来の発光を検出するのに要するエネルギーの大きさ)を意味し、この値が小さいほど感度は高いことになる。よって、この値を大きくしないと検出ができない場合には、発光の絶対量は少ない(つまり、蛍光性化合物の細胞内の存在量も少ない)ことを意味する。
【実施例】
【0101】
図4の上段に示す結果から、陰性対照であるNBD-C6-セラミドは時間の経過とともに蛍光強度が減弱しており、ゴルジ体への局在が経時的に低下していることがわかる。この結果は、図2A~図2C、および図2Eに示した細胞内代謝の結果を裏付けるものであると言える。
【実施例】
【0102】
一方、化合物9については、図4の中段および下段に示すように、添加初期の段階では検出機器の感度を上げないと蛍光の発光が検出できないものの、時間の経過とともに発光強度は徐々に強まっていき、添加から24時間後には検出感度を下げても充分に蛍光の発光を確認することができた。この結果もまた、図2A~図2B、図2D、および図2Fに示した細胞内代謝の結果を裏付けるものである。
【実施例】
【0103】
以上のことから、本発明に係るセラミド誘導体は、例えばゴルジ体標識化蛍光プローブとして用いられた場合に、細胞障害性が低く細胞内安定性に優れるというきわめて顕著な効果を奏するものであることが示された。
図面
【図1】
0
【図2A】
1
【図2B】
2
【図2C】
3
【図2D】
4
【図2E】
5
【図2F】
6
【図3】
7
【図4】
8