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明細書 :窒化ケイ素(Si3N4)親和性ペプチド、及びその利用

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6141205号 (P6141205)
登録日 平成29年5月12日(2017.5.12)
発行日 平成29年6月7日(2017.6.7)
発明の名称または考案の名称 窒化ケイ素(Si3N4)親和性ペプチド、及びその利用
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
C07K  19/00        (2006.01)
C07K  17/14        (2006.01)
C12N   1/19        (2006.01)
C12N   1/21        (2006.01)
C12N   1/15        (2006.01)
C12N   5/10        (2006.01)
C01B  21/068       (2006.01)
C07K  14/00        (2006.01)
C12N  11/14        (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAA
C07K 19/00
C07K 17/14
C12N 1/19
C12N 1/21
C12N 1/15
C12N 5/10
C01B 21/068 Z
C07K 14/00
C12N 11/14
請求項の数または発明の数 16
全頁数 26
出願番号 特願2013-558697 (P2013-558697)
出願日 平成25年2月12日(2013.2.12)
国際出願番号 PCT/JP2013/053290
国際公開番号 WO2013/122061
国際公開日 平成25年8月22日(2013.8.22)
優先権出願番号 2012028681
優先日 平成24年2月13日(2012.2.13)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成28年1月12日(2016.1.12)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504255685
【氏名又は名称】国立大学法人京都工芸繊維大学
発明者または考案者 【氏名】熊田 陽一
【氏名】岸本 通雅
【氏名】大塚 武
個別代理人の代理人 【識別番号】110000796、【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
審査官 【審査官】西村 亜希子
参考文献・文献 特開2007-127631(JP,A)
特開2009-136280(JP,A)
国際公開第2007/055288(WO,A1)
高分子,2011年10月 1日,Vol.60, No.10,pp.751-752
Proc. Natl. Acad. Sci. USA,2005年,Vol.102, No.22,pp.7817-7822
村田学術振興財団年報,2007年12月,No.21,pp.167-172
調査した分野 C12N 15/09
C07K 14/00
C07K 17/14
C07K 19/00
C12N 1/15
C12N 1/19
C12N 1/21
C12N 5/10
C12N 11/14
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
CA/MEDLINE/REGISTRY/BIOSIS/WPIDS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq

特許請求の範囲 【請求項1】
以下の(1-1)または(1-2)のペプチドからなる窒化ケイ素親和性ペプチドが結合されてなる、窒化ケイ素基材;
(1-1)配列番号1~11のいずれかで表されるアミノ酸配列からなるペプチド、
(1-2)配列番号1、2、6及び8のいずれかで表されるアミノ酸配列において1、2または3個のアミノ酸が欠失、置換及び/または付加されたアミノ酸配列からなり、且つ、窒化ケイ素親和性を有するペプチド。
【請求項2】
前記窒化ケイ素親和性ペプチドを介して目的タンパク質が窒化ケイ素基材に固定化されてなる、請求項1に記載の窒化ケイ素基材。
【請求項3】
目的タンパク質に導入された以下の(1-1)または(1-2)のペプチドからなる窒化ケイ素親和性ペプチドと窒化ケイ素基材とを接触させる工程を含有する、目的タンパク質の窒化ケイ素基材への固定化方法;
(1-1)配列番号1~11のいずれかで表されるアミノ酸配列からなるペプチド、
(1-2)配列番号1、2、6及び8のいずれかで表されるアミノ酸配列において1、2または3個のアミノ酸が欠失、置換及び/または付加されたアミノ酸配列からなり、且つ、窒化ケイ素親和性を有するペプチド。
【請求項4】
窒化ケイ素基材と接触される窒化ケイ素親和性ペプチドが、
前記(1-1)または(1-2)のペプチドからなる窒化ケイ素親和性ペプチドをコードするポリヌクレオチドと目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドとが連結されてなる、前記(1-1)または(1-2)のペプチドからなる窒化ケイ素親和性ペプチドと目的タンパク質とのペプチド融合タンパク質発現ベクターまたは
前記ベクターを宿主細胞に導入して形質転換させることにより得られる形質転換体
を用いて作製されたペプチド融合タンパク質を構成する窒化ケイ素親和性ペプチドである、請求項3に記載の固定化方法。
【請求項5】
請求項1に記載の窒化ケイ素基材に結合した窒化ケイ素親和性ペプチドと目的タンパク質とを結合させる工程を含有する、目的タンパク質の窒化ケイ素基材への固定化方法。
【請求項6】
以下の(1-1)または(1-2)のペプチドからなる窒化ケイ素親和性ペプチドを含有する、窒化ケイ素基材への目的タンパク質固定化用組成物;
(1-1)配列番号1~11のいずれかで表されるアミノ酸配列からなるペプチド、
(1-2)配列番号1、2、6及び8のいずれかで表されるアミノ酸配列において1、2または3個のアミノ酸が欠失、置換及び/または付加されたアミノ酸配列からなり、且つ、窒化ケイ素親和性を有するペプチド。
【請求項7】
目的タンパク質を窒化ケイ素基材へ固定させるための、以下の(1-1)または(1-2)のペプチドからなる窒化ケイ素親和性ペプチドの使用;
(1-1)配列番号1~11のいずれかで表されるアミノ酸配列からなるペプチド、
(1-2)配列番号1、2、6及び8のいずれかで表されるアミノ酸配列において1、2または3個のアミノ酸が欠失、置換及び/または付加されたアミノ酸配列からなり、且つ、窒化ケイ素親和性を有するペプチド。
【請求項8】
以下の(2-1)または(2-2)のペプチドからなる、窒化ケイ素親和性ペプチド;
(2-1)配列番号1~6及び8~11のいずれかで表されるアミノ酸配列からなるペプチド、
(2-2)配列番号1、2、6及び8のいずれかで表されるアミノ酸配列において1、2または3個のアミノ酸が欠失、置換及び/または付加されたアミノ酸配列からなり、且つ、窒化ケイ素親和性を有するペプチド。
【請求項9】
前記窒化ケイ素親和性ペプチドが配列番号3~6及び8~11のいずれかで表されるアミノ酸配列からなるペプチドである、請求項に記載の窒化ケイ素親和性ペプチド。
【請求項10】
請求項8または9に記載の窒化ケイ素親和性ペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【請求項11】
前記ポリヌクレオチドが配列番号12~17及び19~22のいずれかで表されるポリヌクレオチドである、請求項10に記載のポリヌクレオチド。
【請求項12】
請求項10または11に記載のポリヌクレオチドを含有する、窒化ケイ素親和性ペプチド発現ベクター。
【請求項13】
請求項10または11に記載のポリヌクレオチドと目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドとが連結されてなる、請求項8または9に記載の窒化ケイ素親和性ペプチドと目的タンパク質とのペプチド融合タンパク質発現ベクター。
【請求項14】
請求項13に記載のベクターを宿主細胞に導入して形質転換させることにより得られる形質転換体。
【請求項15】
請求項14に記載の形質転換体から得られる、請求項8または9に記載の窒化ケイ素親和性ペプチドと目的タンパク質とのペプチド融合タンパク質。
【請求項16】
請求項8または9に記載の窒化ケイ素親和性ペプチドからなる、窒化ケイ素基材への目的タンパク質の固定化用リンカー。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化ケイ素(Si)に親和性を有するペプチド、及び当該ペプチドの利用に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、臨床検査、創薬研究、環境モニタリング、生化学などのあらゆる分野において、タンパク質、核酸、糖鎖、細胞などを基材に固定化させ、これを用いて、所望の物質を検出、定量、分析等する手法が広く利用されている。当該手法については、より高精度且つ高効率な検出、定量、分析等を可能にすべく、今日においても盛んに研究されている。
【0003】
例えば、酵素や抗体などのタンパク質を基材に固定化し、当該固定化されたタンパク質との酵素反応や抗原抗体反応を利用して所望の物質を検出する場合、高精度且つ高効率な検出の観点から、当該タンパク質は、当該タンパク質が有する活性が十分に保持された状態で基材に固定化されることが重要である。このような固定化を目的として、これまでに、ポリスチレン製の基材にタンパク質を固定化できるポリスチレン親和性ペプチドが報告されている(特許文献1)。当該ペプチドによれば、酵素や抗体といったタンパク質の活性がポリスチレン製の基材に固定化された後も十分に保持されていたことが確認されている。
【0004】
また、別のペプチドとして、ポリカーボネート製の基材やポリメタクリル酸メチル製の基材にタンパク質を特異的且つ強固に固定化できる親和性ペプチドが報告されている(特許文献2)。
【0005】
一方、このような基材の一つとして利用されている窒化ケイ素(Si)は半導体材料としても有用であり、従って、窒化ケイ素にタンパク質を望ましく固定化できれば、窒化ケイ素製の基材を用いた手法の更なる発展が期待できる。しかしながら、これまでに無機物質の表面と生体分子との相互作用を検討するにあたって、窒化ケイ素の表面にヒスチジンまたはアルギニンなどの個々のアミノ酸を接着させたことが報告されているものの(非特許文献1)、窒化ケイ素製の基材に対する親和性ペプチドについては開示されていない。
【先行技術文献】
【0006】

【特許文献1】WO2009/101807 A1
【特許文献2】特開2011-168505号公報
【0007】

【非特許文献1】R. L. Willwtt, et al. “Differential adhesion of amino acids to inorganic surfaces”, Proc NatlAcad Sci USA., Vol. 102, no. 22,p.7817-7822.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このことから、本発明は、窒化ケイ素(Si)に親和性を有するペプチドを提供することを目的とする。また、本発明は、窒化ケイ素に親和性を有するペプチドをコードするポリヌクレオチドを提供することを目的とする。また、本発明は、当該ポリヌクレオチドを含有する窒化ケイ素親和性ペプチド発現ベクターを提供することを目的とする。また、本発明は、前記ベクターに更に目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドが連結されてなる、窒化ケイ素親和性ペプチドと目的タンパク質とのペプチド融合タンパク質発現ベクターを提供することを目的とする。また、本発明は、当該ペプチド融合タンパク質発現ベクターを宿主細胞に導入して形質転換させることにより得られる形質転換体、また、当該形質転換体から得られるペプチド融合タンパク質を提供することを目的とする。更に、本発明は、前記窒化ケイ素親和性ペプチドが結合されてなる窒化ケイ素基材、また、目的タンパク質の窒化ケイ素基材への固定化方法を提供することを目的とする。更に、本発明は、前記窒化ケイ素親和性ペプチドを含有する窒化ケイ素基材への目的タンパク質固定化用組成物、前記窒化ケイ素親和性ペプチドからなる窒化ケイ素基材への目的タンパク質の固定化用リンカー、目的タンパク質を窒化ケイ素基材へ固定させるための前記窒化ケイ素親和性ペプチドの使用を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、窒化ケイ素(Si)に親和性を有するペプチドを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて、更に検討を重ねることにより完成されたものである。
【0010】
すなわち、本発明は、下記に掲げる発明を提供する。
項1.以下の(1-1)もしくは(1-2)のペプチドまたはその断片からなる、窒化ケイ素親和性ペプチド;
(1-1)配列番号1、2及び23~27のいずれかで表されるアミノ酸配列からなるペプチド、
(1-2)前記(1-1)のアミノ酸配列において1または複数のアミノ酸が欠失、置換及び/または付加されたアミノ酸配列からなり、且つ、窒化ケイ素親和性を有するペプチド。
項2.前記断片が6~77のアミノ酸残基からなるペプチドである、項1に記載の窒化ケイ素親和性ペプチド。
項3.前記断片が配列番号3~11及び28~35のいずれかで表されるアミノ酸配列からなるペプチドである、項1または2に記載の窒化ケイ素親和性ペプチド。
項4.項1~3のいずれかに記載の窒化ケイ素親和性ペプチドをコードするポリヌクレオチド。
項5.前記ポリヌクレオチドが配列番号12~22及び36~48のいずれかで表されるポリヌクレオチドである、項4に記載のポリヌクレオチド。
項6.項4または5に記載のポリヌクレオチドを含有する、窒化ケイ素親和性ペプチド発現ベクター。
項7.項6に記載のポリヌクレオチドと目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドとが連結されてなる、項1~3のいずれかに記載の窒化ケイ素親和性ペプチドと目的タンパク質とのペプチド融合タンパク質発現ベクター。
項8.項7に記載のベクターを宿主細胞に導入して形質転換させることにより得られる形質転換体。
項9.項8に記載の形質転換体から得られる、項1~3のいずれかに記載の窒化ケイ素親和性ペプチドと目的タンパク質とのペプチド融合タンパク質。
項10.項1~3のいずれかに記載の窒化ケイ素親和性ペプチドが結合されてなる、窒化ケイ素基材。
項11.前記窒化ケイ素親和性ペプチドを介して目的タンパク質が窒化ケイ素基材に固定化されてなる、項10に記載の窒化ケイ素基材。
項12.目的タンパク質に導入された項1~3のいずれかに記載の窒化ケイ素親和性ペプチドと窒化ケイ素基材とを接触させる工程を含有する、目的タンパク質の窒化ケイ素基材への固定化方法。
項13.窒化ケイ素基材と接触される窒化ケイ素親和性ペプチドが、項7に記載のベクターまたは項8に記載の形質転換体を用いて作製されたペプチド融合タンパク質を構成する窒化ケイ素親和性ペプチドである、項12に記載の固定化方法。
項14.項10に記載の窒化ケイ素基材に結合した窒化ケイ素親和性ペプチドと目的タンパク質とを結合させる工程を含有する、目的タンパク質の窒化ケイ素基材への固定化方法。
項15.項1~3のいずれかに記載の窒化ケイ素親和性ペプチドを含有する、窒化ケイ素基材への目的タンパク質固定化用組成物。
項16.項1~3のいずれかに記載の窒化ケイ素親和性ペプチドからなる、窒化ケイ素基材への目的タンパク質の固定化用リンカー。
項17.目的タンパク質を窒化ケイ素基材へ固定させるための、項1~3のいずれかに記載の窒化ケイ素親和性ペプチドの使用。
【発明の効果】
【0011】
本発明のペプチドは、窒化ケイ素に親和性を有する。このため、本発明の窒化ケイ素親和性ペプチドによれば、窒化ケイ素親和性ペプチドを介して目的タンパク質を窒化ケイ素基材に容易に固定化することができる。特に、本発明の窒化ケイ素親和性ペプチドによれば、窒化ケイ素親和性ペプチドを介して目的タンパク質を高密度に固定化することができる。また、本発明の窒化ケイ素親和性ペプチドによれば、窒化ケイ素基材に、目的タンパク質を、その活性が保持された状態で固定化することができる。また、本発明の窒化ケイ素親和性ペプチドによれば、窒化ケイ素基材に、目的タンパク質を、その配向が均一になるよう制御して固定化することができる。
【0012】
このように、本発明によれば、窒化ケイ素基材における目的タンパク質の高密度化、高活性化、高配向制御が可能である。このことから、本発明によれば、目的タンパク質を、前記窒化ケイ素親和性ペプチドを介して窒化ケイ素基材に高精度且つ高効率で固定化させることができる。また、本発明によれば、当該目的タンパク質と相互作用を有する所望の物質を、前記窒化ケイ素親和性ペプチドを介して窒化ケイ素基材に高精度且つ高効率で結合させることができる。このことから、本発明のペプチドは、窒化ケイ素基材への目的タンパク質の固定化用リンカーに有用である。
【0013】
また、本発明のポリヌクレオチド、ベクター、形質転換体を用いることによって、本発明の窒化ケイ素親和性ペプチドと目的タンパク質とのペプチド融合タンパク質を容易に作製することができる。
【0014】
また、本発明の窒化ケイ素親和性ペプチドが結合されてなる窒化ケイ素基材や目的タンパク質の窒化ケイ素基材への固定化方法、窒化ケイ素基材への目的タンパク質固定化用組成物によれば、目的タンパク質を高密度で、その活性を十分に保持させたまま、更に配向を均一に制御して、窒化ケイ素基材に固定化させることが可能である。このため、目的タンパク質を窒化ケイ素基材に高精度且つ高効率で固定化させることができ、また、当該目的タンパク質と相互作用を有する所望の物質も高精度且つ高効率で結合させることができる。
【0015】
従って、本発明によれば、所望の物質の一層高精度且つ高効率な検出、定量、分析等が可能となり、バイオチップをはじめとする種々の分析手段における技術の向上をもたらす。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、配列番号1及び2で表されるペプチドが窒化ケイ素基材に対して親和性を有することを示す。
【図2】図2は、配列番号4、5、7及び11で表されるペプチドが窒化ケイ素基材に対して親和性を有することを示す。
【図3】図3は、本発明のペプチドが窒化ケイ素基材に対して親和性を有することを示す。
【図4】図4は、本発明のペプチドが窒化ケイ素基材に対して親和性を有することを示す。
【図5】図5は、GSTを融合させたペプチドが窒化ケイ素基材に対して親和性を有しており、且つ、基材に固定化されたGSTが本来の活性を良好に発揮できたことを示す。
【図6】図6は、本発明のペプチドが窒化ケイ素基材に対して親和性を有することを示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について説明する。
1.窒化ケイ素親和性ペプチド
本発明は窒化ケイ素親和性ペプチドを提供する。本発明の窒化ケイ素親和性ペプチドは、以下の(1-1)もしくは(1-2)のペプチドまたはその断片からなる;
(1-1)配列番号1、2及び23~27のいずれかで表されるアミノ酸配列からなるペプチド、
(1-2)前記(1-1)のアミノ酸配列において1または複数のアミノ酸が欠失、置換及び/または付加されたアミノ酸配列からなり、且つ、窒化ケイ素親和性を有するペプチド。

【0018】
本発明においてペプチドとは、ペプチド結合によって結合している2以上のアミノ酸残基を含有するものを指し、アミノ酸残基の数によってはオリゴペプチド、ポリペプチド、タンパク質と称されるものも含む。

【0019】
前記(1-2)のペプチドにおいて、「1または複数」の範囲は、当該ペプチドが窒化ケイ素親和性を有することを限度として特に制限されないが、例えば1~15個、好ましくは1~10個、より好ましくは1~5個、さらに好ましくは1~4個、特に好ましくは1~3個、さらに特に好ましくは1又は2個が挙げられる。特定のアミノ酸配列において、1または複数のアミノ酸を欠失、置換及び/または付加させる技術は公知である。

【0020】
なお、このように欠失、置換及び/または付加されたペプチドとして、配列番号1、2及び23~27のいずれかで表されるアミノ酸配列に対して50%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つ、窒化ケイ素親和性を有するペプチドが例示される。また、当該ぺプチドとして、アミノ酸の同一性は通常70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは97%以上、さらに特に好ましくは98%以上である。

【0021】
また、本発明を何ら制限するものではないが、例えば前記(1-2)のペプチドとして、配列番号1、2及び23~27のいずれかにおいて、配列番号3~11及び28~35で表される少なくとも1つのアミノ酸配列以外のアミノ酸において前記欠失、置換及び/または付加がなされ、且つ、窒化ケイ素親和性を有するペプチドが例示される。更に、例えば、前記(1-2)のペプチドとして、配列番号1において、配列番号3~5で表される少なくとも1つのアミノ酸配列以外のアミノ酸において前記欠失、置換及び/または付加がなされ、且つ、窒化ケイ素親和性を有するペプチドが例示される。また、例えば、前記(1-2)のペプチドとして、配列番号2において、配列番号6~11で表される少なくとも1つのアミノ酸配列以外のアミノ酸において前記欠失、置換及び/または付加がなされ、且つ、窒化ケイ素親和性を有するペプチドが例示される。また、例えば、前記(1-2)のペプチドとして、配列番号23において、配列番号28~30で表される少なくとも1つのアミノ酸配列以外のアミノ酸において前記欠失、置換及び/または付加がなされ、且つ、窒化ケイ素親和性を有するペプチドや、配列番号24において、配列番号31~35で表される少なくとも1つのアミノ酸配列以外のアミノ酸において前記欠失、置換及び/または付加がなされ、且つ、窒化ケイ素親和性を有するペプチドが例示される。

【0022】
また、前記(1-1)または(1-2)のペプチドの断片も、前記(1-1)または(1-2)のペプチドの断片であって、当該断片が窒化ケイ素親和性を有することを限度として特に制限されない。例えば、当該断片として、アミノ酸残基数6~77、好ましくは6~30、より好ましくは6~15であり、且つ、窒化ケイ素親和性を有する断片が挙げられる。

【0023】
また、当該断片を制限するものではないが、断片として例えば配列番号3~11及び28~35のいずれかで表されるアミノ酸配列からなる窒化ケイ素親和性ペプチドが挙げられる。また、本発明を何ら制限するものではないが、当該断片は、配列番号3~11及び25~35のいずれかで表されるアミノ酸配列を2以上繰り返して有しており、且つ、窒化ケイ素親和性を有するペプチドであってもよい。

【0024】
ここで、「窒化ケイ素親和性を有する」とは前記ペプチドと表面が修飾されていない窒化ケイ素基材が直接結合できる限り制限されず、その結合条件は、使用するペプチドの種類に応じて、あるいは、窒化ケイ素基材に前記ペプチドを介して固定化させたい目的タンパク質、または、当該目的タンパク質と相互作用を有する所望の物質の特性に応じて、適宜決定すればよい。一例として、後述の実施例に示される結合(インキュベート)条件を採用してもよく、当該実施例に示される条件を参考にして、当業者が適宜決定すればよい。例えば、前記ペプチドを含有する緩衝液といった任意の溶液、例えばPBS溶液を、窒化ケイ素基材と一定時間接触させることによって、前記ペプチドと窒化ケイ素基材とを結合させることができる。なお、後述の実施例で使用されたPBSは、10×PBS(NaCl 1.38M(80.8g)、KCl 27mM(2g)、NaHPO・12HO 80mM(29g)、KHPO 15mM(2g))をイオン交換水で1Lにメスアップし、HClでpHを7.4に調整したものであり、また、後述の実施例から明らかなように、当該PBSを適宜希釈したりpH等を変更した場合にも前記ペプチドと窒化ケイ素基材とを結合させることができる。

【0025】
また、「窒化ケイ素基材」とは、表面が修飾されていない窒化ケイ素を基材表面の一部及び/または全面に有し、且つ、前記窒化ケイ素親和性ペプチドが窒化ケイ素表面に結合できる限り制限されない。例えば、窒化ケイ素基材とは、窒化ケイ素からなる基材、他の成分で構成されたものの一部または全面に窒化ケイ素が積層及び/または被覆されてなる基材などが挙げられる。

【0026】
本発明の窒化ケイ素親和性ペプチドは、従来公知の遺伝子工学的手法や化学合成法などによって作製できる。例えば、配列番号1~11及び23~35のいずれかで表されるペプチドをコードするポリヌクレオチドをベクター等に挿入し、次いで、当該ベクターが組み込まれた形質転換体を培養したのち、所望のペプチドを取得すればよい。また、本発明の窒化ケイ素親和性ペプチドは、当該ペプチドの産生能を有する微生物から単離・精製することによって取得してもよい。また、配列番号1~11及び23~35のいずれかで表されるアミノ酸配列またはこれをコードするヌクレオチド配列の情報に従って、本発明の窒化ケイ素親和性ペプチドを従来公知の化学合成法により合成して取得してもよい。なお、化学合成法には、液相法や固相法によるペプチド合成法が包含される。取得したペプチドが窒化ケイ素に親和性を有するかどうかについては、前述と同様に、取得したペプチドと表面が修飾されていない窒化ケイ素基材が直接結合できるかどうかに基づき判断すればよく、直接結合すれば親和性を有するといえる。結合条件は、使用するペプチドの種類に応じて、あるいは、窒化ケイ素基材に前記ペプチドを介して固定化させたい目的タンパク質、または、当該目的タンパク質と相互作用を有する所望の物質の特性に応じて、前述と同様に適宜決定すればよい。

【0027】
本発明の窒化ケイ素親和性ペプチドは窒化ケイ素に親和性を有することから、当該窒化ケイ素親和性ペプチドを介して目的タンパク質を窒化ケイ素基材に容易且つ高密度に固定化することができる。また、本発明の窒化ケイ素親和性ペプチドによれば、窒化ケイ素基材に、目的タンパク質を、その活性が保持された状態で固定化することができ、更に、その配向が均一になるよう制御して固定化することができる。従って、本発明の窒化ケイ素親和性ペプチドによれば、目的タンパク質を、前記窒化ケイ素親和性ペプチドを介して窒化ケイ素基材に高精度且つ高効率で固定化させることができ、また、当該目的タンパク質と相互作用を有する所望の物質を、前記窒化ケイ素親和性ペプチドを介して窒化ケイ素基材に高精度且つ高効率で結合させることができる。

【0028】
このため、本発明の窒化ケイ素親和性ペプチドは、プロテインチップをはじめとするバイオチップ、カラムの充填剤、ELISA法におけるマイクロプレート、固定化酵素などの作製において好適に使用され得る。

【0029】
また、このように本発明の窒化ケイ素親和性ペプチドは目的タンパク質の窒化ケイ素基材への固定化に非常に有用である。

【0030】
このことから、本発明は、前記窒化ケイ素親和性ペプチドからなる、窒化ケイ素基材への目的タンパク質の固定化用リンカー、前記窒化ケイ素親和性ペプチドを含有する窒化ケイ素基材への目的タンパク質固定化用組成物、また、目的タンパク質を窒化ケイ素基材へ固定させるための、窒化ケイ素親和性ペプチドの使用を提供しているといえる。当該リンカー、組成物及び使用において、窒化ケイ素親和性ペプチド、窒化ケイ素基材、目的タンパク質、固定化(結合)条件等、また、これらによって得られる効果は前述と同様に説明される。当該リンカーは、前述するように窒化ケイ素親和性ペプチドを介して窒化ケイ素基材に目的タンパク質を固定化できるものである。前記窒化ケイ素親和性ペプチドを含有する窒化ケイ素基材への目的タンパク質固定化用組成物は、少なくとも前記窒化ケイ素親和性ペプチドを含有していればよく、前記窒化ケイ素親和性ペプチドが窒化ケイ素基材に結合可能なPBSといった緩衝液などの任意の溶液、目的タンパク質、及び/または窒化ケイ素基材など、窒化ケイ素親和性ペプチドを介して目的タンパク質が窒化ケイ素基材へ固定されるために必要なものを含んでいてもよい。このような組成物を用いれば前記窒化ケイ素親和性ペプチドを窒化ケイ素基材に簡便に結合させることができ、従って、窒化ケイ素親和性ペプチドを介して、目的タンパク質を窒化ケイ素基材に簡便に固定できる。

【0031】
なお、本明細書において「含む」とは「実質的にからなる」という意味と、「からなる」という意味の両方をも包含する。

【0032】
2.ポリヌクレオチド
本発明は、更に、前記窒化ケイ素親和性ペプチドをコードするポリヌクレオチドを提供する。本発明においてポリヌクレオチドは、前記窒化ケイ素親和性ペプチドをコードするポリヌクレオチドである限り制限されず、以下のポリヌクレオチドが例示される;
(2-1)前記窒化ケイ素親和性ペプチドをコードするポリヌクレオチド、
(2-2)配列番号12~22及び36~48のいずれかで表されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド、
(2-3)前記(2-1)及び(2-2)のいずれかのポリヌクレオチドの相補鎖に対して、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つ、窒化ケイ素親和性ペプチドをコードするポリヌクレオチド。

【0033】
ここで、前記(2-1)のポリヌクレオチドは、当業者であれば前記窒化ケイ素親和性ペプチドのアミノ酸配列に基づいて、従来公知の手法に基づき容易に解析、入手することができる。

【0034】
前記(2-2)のポリヌクレオチドがコードするアミノ酸配列は、それぞれ前記配列番号1~11及び23~35で表されるアミノ酸配列に相当する。

【0035】
前記(2-3)において「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズ」するとは、標準的なハイブリダイゼーション条件下に、2つのポリヌクレオチド断片が互いにハイブリダイズできることを意味し、本条件は、Sambrook et al., Molecular Cloning : A laboratory manual (1989) Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York, USAに記載されている。より具体的には、「ストリンジェントな条件」とは、6.0xSSC中で、約45℃にてハイブリダイゼーションを行い、そして2.0xSSCによって50℃にて洗浄することを意味する。

【0036】
前記相補鎖に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドは、通常、前記(2-1)及び(2-2)のいずれかのヌクレオチド配列と一定以上の同一性を有し、その同一性は、例えば70%以上が例示され、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは98%以上、さらに特に好ましくは99%以上である。ヌクレオチド配列の同一性は、市販のまたはインターネット等の電気通信回線を通じて利用可能な解析ツールを用いて知ることができ、例えば、FASTA、BLAST、PSI-BLAST、SSEARCH等のソフトウェアを用いて計算できる。

【0037】
「窒化ケイ素親和性を有する」とは前述と同様であり、前記ポリヌクレオチドを用いて作製されるペプチドと表面が修飾されていない窒化ケイ素基材とが直接結合できる限り制限されず、その結合条件も前述のように当業者が適宜決定すればよい。前記ポリヌクレオチドからのペプチドの作製は、当該分野において従来公知の遺伝子工学的手法や化学合成法などを用いて行えばよく、これは当業者にとって容易である。例えば、後述する発現ベクターを用いてペプチドを作製することができる。

【0038】
また、本発明のポリヌクレオチドも、従来公知の遺伝子工学的手法や化学合成法などを用いて作製できる(Proc. Natl. Acad. Sci., USA., 78, 6613 (1981);Science, 222, 778 (1983);Molecular Cloning 2d Ed, Cold Spring Harbor Lab. Press(1989);続生化学実験講座「遺伝子研究法I、II、III」、日本生化学会編(1986)等参照)。例えば、所望のポリヌクレオチドを有する微生物をはじめ適当な起源から定法に従ってcDNAライブラリーを作製し、当該ライブラリーから、適切なプローブ等を用いて、所望のポリヌクレオチドを取得すればよい。また、例えば、配列番号1~11及び23~35のいずれかで表されるアミノ酸の配列情報や、配列番号12~22及び36~48のいずれかで表されるヌクレオチドの配列情報に基づいて、従来公知の化学的DNA合成法により容易に作製、取得すればよい。

【0039】
3.発現ベクター
本発明は、前記ポリヌクレオチドを含有する窒化ケイ素親和性ペプチド発現ベクターを提供する。本発明の窒化ケイ素親和性ペプチド発現ベクターは、前記ポリヌクレオチドを含んでおり、且つ、その宿主細胞において当該ポリヌクレオチドの塩基配列に基づき前記窒化ケイ素親和性ペプチド、あるいは、前述の窒化ケイ素親和性ペプチドを含有する窒化ケイ素基材への目的タンパク質の固定化用リンカーを発現できるものであれば特に制限されない。ベクターは、従来公知のように一般に宿主細胞との関係から適宜選択される。

【0040】
より具体的には、本発明において使用されるベクターは、遺伝子工学分野において一般的に使用されている発現ベクターであれば制限されず、pBR、pUC、pCD、pET、pGEX、pCMV、pMSG、pSVLをはじめとする、大腸菌等の細菌や酵母由来のプラスミドベクターや、レトロウイルス、アデノウイルス、ワクチニアウイルス、バキュロウイルス、更にファージ等由来のウイルスベクターが例示される。これらのベクターは、前述するように宿主細胞との関係から適宜選択される。

【0041】
これらのベクターには、必要に応じてプロモーターが接続されており、プロモーターは宿主細胞に適したプロモーターであれば制限されず、従来公知のプロモーターを使用できる。例えば、プロモーターとしてlacプロモーター、trpプロモーター、tacプロモーター、trcプロモーター、racAプロモーター、λPLプロモーター、lppプロモーター、T7プロモーター等が挙げられ、これは例えば宿主細胞として大腸菌を用いる場合に使用される。また、例えば、プロモーターとしてSV40プロモーター、CMVプロモーター、RSVプロモーター、HSV-TKプロモーター、LTRプロモーター、SRαプロモーター、EF-1αプロモーター等が挙げられ、これは例えば宿主細胞として動物細胞を用いる場合に使用される。プロモーターとして、宿主細胞との関係等を考慮して、他に酵母細胞用プロモーター、昆虫細胞用プロモーター、ウイルスプロモーター等も使用することができる。プロモーターが内在しているベクターにおいては、内在のプロモーターを使用してもよい。

【0042】
本発明の窒化ケイ素親和性ペプチド発現ベクターにおけるプロモーターの接続位置は、その宿主細胞において、前記窒化ケイ素親和性ペプチドが発現される限り制限されない。一般に、プロモーターは、前記窒化ケイ素親和性ペプチドをコードするポリヌクレオチドの塩基配列の上流に接続される。すなわち、本発明の窒化ケイ素親和性ペプチド発現ベクターにおいて、前記窒化ケイ素親和性ペプチドをコードするポリヌクレオチドは当該プロモーターの制御下にある。

【0043】
宿主細胞としては、従来公知の原核細胞や真核細胞の各種細胞が使用でき、大腸菌、枯草菌、ストレプトコッカス、スタフィロコッカス、放線菌、糸状菌等の細菌、酵母、アスペルギルス、ドロソフィラS2、スポドプテラSf9等の昆虫などの細胞、また、L細胞、CHO細胞、COS細胞、Art-20細胞、HeLa細胞、C127細胞、ミエローマ細胞、GH3細胞、FL細胞、VERO細胞、CV-1細胞、Bowesメラノーマ細胞、アフリカツメガエルなどの卵母細胞等の動植物などの細胞が例示される。

【0044】
これらのベクター、プロモーター及び宿主細胞は、本分野の技術常識に基づき適宜組み合わせて使用すればよい。一例であるが組み合わせとしては、pET(T7プロモーター)/大腸菌BL21(DE3)、pGEX(Tacプロモーター)/大腸菌BL21が例示される。

【0045】
このほか、本発明の窒化ケイ素親和性ペプチド発現ベクターには、更に、エンハンサー、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、薬剤耐性遺伝子、Green Fluorescent Protein(GFP)等のマーカー遺伝等の塩基配列が接続されていてもよい。これらの塩基配列は、目的に応じて前記発現ベクターの任意の位置に接続される。

【0046】
また、本発明の窒化ケイ素親和性ペプチド発現ベクターには、後述する目的タンパク質に窒化ケイ素親和性ペプチド導入するためのリンカーを構成する塩基配列が更に接続されていてもよい。例えば、当該リンカーを構成する塩基配列は、窒化ケイ素親和性ペプチドをコードするポリヌクレオチドの5’末端部及び/または3’末端部に接続させることができる。当該リンカーを構成する塩基配列は、本発明の効果が得られる限り制限されず、従来公知の技術を用いて当業者が通常の検討範囲内で適宜決定すればよい。このようなリンカーとして、一般にフレキシブルリンカーと称されるリンカーが例示され、広く用いられているフレキシブルリンカーのアミノ酸配列としては(G4S)n(例えばn=1~4)が例示される。当該リンカーを使用する場合には、当該リンカーを好適に発現可能なヌクレオチド配列を、当該リンカーに適宜接続すればよい。

【0047】
更に、本発明の窒化ケイ素親和性ペプチド発現ベクターには、前記窒化ケイ素親和性ペプチドをコードするポリヌクレオチドに目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドが連結されていてもよい。前記窒化ケイ素親和性ペプチドをコードするポリヌクレオチドに目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドを連結させることによって、窒化ケイ素親和性ペプチドが導入された目的タンパク質を発現させることが可能となり、また、前記窒化ケイ素基材への目的タンパク質の固定化用リンカーが導入された目的タンパク質を発現させることが可能となる。前記発現ベクターに、目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドまたは当該固定化用リンカーが更に連結された発現ベクターは、窒化ケイ素親和性ペプチドと目的タンパク質とのペプチド融合タンパク質発現ベクターと称することができる。

【0048】
ここで、目的タンパク質とは任意のタンパク質をいい、特に制限されないが、例えば、抗原、抗体、酵素、基質、受容体タンパク質、レクチン等のタンパク質が挙げられる。より具体的には、これらに制限されないが、グルタチオン転移酵素(GST:Glutathione S-Transferase)、GFP(green fluorescent protein)、アルカリホスファターゼ、ペルオキシダーゼ、ルシフェラーゼ、β-ガラクトシダーゼ、トリプシン、キモトリプシン、トロンビン、Factor Xa、アンジオテンシン変換酵素、チロシンキナーゼ、インスリンレセプター、EGFレセプター、マルトース結合タンパク質、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、1本鎖抗体、多価性1本鎖抗体(例えば2価性1本鎖抗体)、定常部融合1本鎖抗体、Fab断片及びF(ab’)2断片(抗原結合部位を含む抗体の断片)、補体系タンパク質C1q、コンカナバリンA、レンチルレクチン、抗体結合タンパク質(Protein A、ZZ、Protein G、Protein L等)、ビオチン、ストレプトアビジン(アビジン)等が例示される。

【0049】
これらの目的タンパク質をコードするヌクレオチドの塩基配列が公知である場合には、既に公知の目的タンパク質をコードするヌクレオチドの配列情報に基づいて、従来公知の方法に従って、前記発現ベクターに所望のヌクレオチド配列を配置すればよい。また、目的タンパク質をコードするヌクレオチドの塩基配列が知られていない場合には、当該目的タンパク質のアミノ酸配列に基づき、従来公知の遺伝子工学的手法や化学合成法などを用いて、目的タンパク質をコードするヌクレオチドを解析、作製して前記発現ベクターに配置すればよい。

【0050】
前記ペプチド融合タンパク質を発現させる観点から、目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドも、窒化ケイ素親和性ペプチドをコードするポリヌクレオチドと同様に、前記プロモーターの制御下に配置される。この限りにおいて、目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドが、前記窒化ケイ素親和性ペプチドをコードするポリヌクレオチドの上流に連結されるか下流に連結されるか、また、目的タンパク質の分子内部に窒化ケイ素親和性ペプチドをコードするポリヌクレオチドが連結されるかについては、当業者が適宜決定すればよい。いずれにおいても、目的タンパク質の生理活性や立体構造を損なわない位置に連結することが好ましい。例えば、目的タンパク質が抗原である場合には抗原決定を阻害しない部位、抗体である場合には抗原結合を阻害しない部位、酵素である場合には酵素活性を阻害しない部位など、抗原、抗体、酵素、基質、受容体タンパク質、レクチン等の目的タンパク質の特性や構造に応じて当業者が適宜決定すればよい。また、いずれにおいても、窒化ケイ素親和性ペプチドまたは前記固定用リンカーは、窒化ケイ素親和性ペプチドの基材に対する親和性などの特性に影響を与えず、発明の効果を妨げない部位に連結することが好ましい。

【0051】
また、本発明のペプチド融合タンパク質発現ベクターでは前記窒化ケイ素親和性ペプチドをコードするポリヌクレオチドと前記目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドとが連結されてなり、宿主細胞において所望のペプチド融合タンパク質が発現される限り、その連結態様も制限されない。例えば、本発明のペプチド融合タンパク質発現ベクターにおいて、前記窒化ケイ素親和性ペプチドをコードするポリヌクレオチドと前記目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドとが連続した塩基配列で存在していてもよく、すなわち、前記目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドがリンカーを介することなく直接連結されていてもよく、あるいは、目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドは、窒化ケイ素親和性ペプチドをコードするポリヌクレオチドと何らかの配列、例えば、これらを連結可能なリンカーを構成する塩基配列を介して連結されていてもよい。

【0052】
前記窒化ケイ素親和性ペプチドをコードするポリヌクレオチドと前記目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドとを連結させるリンカーは、前記ペプチド融合タンパク質が発現され、且つ、本発明の効果が得られる限り制限されず、当業者であれば、従来公知の技術を用いて通常の範囲内で決定すればよく、前述のフレキシブルリンカーが例示される。

【0053】
本発明のこれらの発現ベクターは、当該分野で従来公知の方法を用いて作製すればよく、制限酵素等を用いて前記窒化ケイ素親和性ペプチドをコードするポリヌクレオチドや前記目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドをはじめとする必要な塩基配列を、前記ベクター上の適切な位置に配置して作製すればよい。

【0054】
4.形質転換体
本発明は、前記ペプチド融合タンパク質発現ベクターを宿主細胞に導入して形質転換させることにより得られる形質転換体を提供する。

【0055】
本発明において宿主細胞は、前述の宿主細胞が例示される。

【0056】
ペプチド融合タンパク質発現ベクターを宿主細胞に導入して形質転換体を得る方法は特に制限されず、従来公知の一般的な方法に従い行えばよい。例えば、多くの標準的な実験室マニュアルに記載される方法に従って行うことができ、その具体的手法としては、塩化カルシウム法、塩化ルビジウム法、DEAE-デキストラン媒介トランスフェクション、マイクロインジェクション、リポソーム等のカチオン性脂質媒介トランスフェクション、エレクトロポレーション、形質導入、ファージ等による感染等が挙げられる。

【0057】
5.ペプチド融合タンパク質
本発明は、前記形質転換体から得られる、前記窒化ケイ素親和性ペプチドと前記目的タンパク質とのペプチド融合タンパク質を提供する。

【0058】
ここで、形質転換体、窒化ケイ素親和性ペプチド、及び目的タンパク質については前述の通りである。本発明においてペプチド融合タンパク質は、前記窒化ケイ素親和性ペプチドと前記目的タンパク質とを前述のように連結することによって一体化させた融合タンパク質である。

【0059】
本発明においてペプチド融合タンパク質は、前記形質転換体を適切な培地で培養し、当該形質転換体及び/又は培養物から所望のペプチド融合タンパク質を回収することにより製造することができる。

【0060】
培養、回収する方法は特に制限されず、従来公知の一般的な方法に従い行えばよい。例えば、培養は、宿主細胞に適した任意の培地を用いて継代培養またはバッチ培養を行えばよく、形質転換体の内外に産生されたタンパク質量を指標にして、ペプチド融合タンパク質が適当量得られるまで行えばよい。当該培養に用いられる培地としては、宿主細胞に応じて慣用される各種の培地を適宜選択すればよく、温度、時間等の培養条件も宿主細胞に適した従来公知の条件で実施すればよい。

【0061】
このようにして得られるペプチド融合タンパク質は、更に、必要に応じて、その物理的性質、化学的性質等を利用した各種の分離操作、例えば溶媒抽出、蒸留、各種クロマトグラフィー等の操作によって分離、精製してもよい(「生化学データーブックII」、1175-1259 頁、第1版第1刷、1980年、株式会社東京化学同人発行;Biochemistry, 25(25), 8274 (1986); Eur. J. Biochem., 163, 313 (1987)等参照)。また、本発明のペプチド融合タンパク質は窒化ケイ素に対して親和性を備えていることから、得られた培養液や形質転換体からの産物等を、窒化ケイ素基材と接触させることによって、窒化ケイ素親和性ペプチドを窒化ケイ素基材と結合させて分離、精製してもよい。また、形質転換体を用いてタンパク質を発現させる場合には、ペプチド融合タンパク質が封入体として存在していることがあるが、この場合には、封入体を適宜可溶化させて、これを窒化ケイ素基材と接触させることによって窒化ケイ素親和性ペプチドを窒化ケイ素基材と結合させて、本発明のペプチド融合タンパク質を分離、精製してもよい。また、本発明のペプチド融合タンパク質の立体構造が変化している場合、立体構造が変化した状態で窒化ケイ素基材と結合させることも可能であり、必要に応じて結合させた状態で立体構造のリフォールディグを行って、本発明のペプチド融合タンパク質を分離、精製してもよい。

【0062】
6.窒化ケイ素親和性ペプチドが結合されてなる窒化ケイ素基材
本発明は、前記窒化ケイ素親和性ペプチドが結合されてなる窒化ケイ素基材を提供する。これは、前記窒化ケイ素親和性ペプチドが窒化ケイ素基材に結合されてなるものである。窒化ケイ素親和性ペプチドは前述の通りである。

【0063】
本発明において窒化ケイ素基材は、前述と同様であり、表面が修飾されていない窒化ケイ素を基材表面の一部及び/または全面に有し、且つ、前記窒化ケイ素親和性ペプチドが窒化ケイ素表面に結合できる限り制限されない。例えば、窒化ケイ素基材とは、窒化ケイ素からなる基材、他の成分で構成されたものの一部または全面に窒化ケイ素が積層及び/または被覆されてなる基材などが挙げられる。

【0064】
窒化ケイ素基材の形状も、前記窒化ケイ素親和性ペプチドを結合できる限り制限されず、例えば、板状、フィルム状(シート状)、球状、粒状(ビーズ状)、繊維状、マイクロプレート状、筒状など任意の形状が挙げられる。本発明の窒化ケイ素基材をプロテインチップなどのバイオチップとして使用する場合には、窒化ケイ素基材は板状、フィルム状(シート状)等の形状が好ましく例示される。

【0065】
前記窒化ケイ素親和性ペプチドが結合されてなる窒化ケイ素基材は、前記窒化ケイ素親和性ペプチド、あるいは、前述の窒化ケイ素親和性ペプチドを含有する窒化ケイ素基材への目的タンパク質の固定化用リンカーを窒化ケイ素基材と接触させて、窒化ケイ素親和性ペプチドを窒化ケイ素基材に結合させることによって製造できる。その接触条件は、前述するように使用する窒化ケイ素親和性ペプチドの種類に応じて、また、窒化ケイ素基材に前記窒化ケイ素親和性ペプチドを介して固定化させたい目的タンパク質や当該目的タンパク質と相互作用を有する所望の物質の特性に応じて適宜決定すればよい。例えば、窒化ケイ素親和性ペプチドを任意の溶媒と混合して得られた溶液を、あるいは、前述の窒化ケイ素親和性ペプチドを含有する窒化ケイ素基材への目的タンパク質固定化用組成物を窒化ケイ素基材に滴下等して、あるいは、当該溶液に窒化ケイ素基材を浸漬等して、一定時間放置すればよい。窒化ケイ素基材に結合されていない不要な成分を除去するためには、例えば緩衝液や水などの任意の溶媒で窒化ケイ素基材上の不要な成分を洗い流すなどすればよい。一例として、後述の実施例に示される結合条件を採用してもよく、当該実施例に示される結合条件を参考にして、当業者が適宜決定すればよい。

【0066】
前記窒化ケイ素親和性ペプチドは窒化ケイ素に親和性を有していることから、本発明において窒化ケイ素親和性ペプチドは窒化ケイ素基材に直接結合できる。

【0067】
また、本発明の窒化ケイ素親和性ペプチドが結合されてなる窒化ケイ素基材には、更に、当該窒化ケイ素親和性ペプチドを介して目的タンパク質が窒化ケイ素基材に固定化されていてもよい。目的タンパク質については前述の通りである。

【0068】
当該固定化は、窒化ケイ素親和性ペプチドを介して、窒化ケイ素基材に目的タンパク質が固定されている限り制限されない。目的タンパク質に窒化ケイ素親和性ペプチを導入した後に、これを窒化ケイ素基材と接触させることによって、窒化ケイ素親和性ペプチドを介して目的タンパク質を窒化ケイ素基材に固定させてもよく、窒化ケイ素基材に結合した窒化ケイ素親和性ペプチを目的タンパク質に導入することによって、窒化ケイ素親和性ペプチドを介して目的タンパク質を窒化ケイ素基材に固定させてもよい。このように接触させることによって、窒化ケイ素親和性ペプチドを介して目的タンパク質が固定化された窒化ケイ素基材を製造できる。なお、窒化ケイ素基材との接触条件は前述と同様である。

【0069】
目的タンパク質への窒化ケイ素親和性ペプチドの導入は、本発明の効果を妨げない限り、また、窒化ケイ素親和性ペプチドが導入される限り制限されないが、直接またはリンカーを介して、目的タンパク質に窒化ケイ素親和性ペプチドが導入されていればよい。前述と同様に、リンカーは本発明の効果を妨げない範囲において、従来公知の技術常識に従い当業者が適宜決定すればよい。

【0070】
目的タンパク質への窒化ケイ素親和性ペプチドの導入部位は、目的タンパク質の活性や配向、窒化ケイ素親和性ペプチドの基材に対する親和性などの特性に影響を与えず、発明の効果を妨げない限り制限されず、任意の部位に導入できる。例えば、目的タンパク質が抗原である場合には抗原決定を阻害しない部位、抗体である場合には抗原結合を阻害しない部位、酵素である場合には酵素活性を阻害しない部位など、抗原、抗体、酵素、基質、受容体タンパク質、レクチン等の目的タンパク質の特性や構造に応じて当業者が適宜決定すればよい。特に、本発明においてはこのように窒化ケイ素親和性ペプチドの導入部位を適宜決定できることから、その活性が保持された状態で、また、その配向が均一になるよう制御して、目的タンパク質を窒化ケイ素基材に固定化することが可能となる。

【0071】
また、目的タンパク質への窒化ケイ素親和性ペプチドの導入方法も特に制限されず、従来公知の遺伝子工学的手法や化学合成法を用いて適宜導入させてもよく、例えば、前述するような発現ベクターを利用して適宜導入すればよい。また、例えば、グルタルアルデヒドや、NHS/EDC(N-ヒドロキシスクシンイミド/1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩)をはじめとする架橋剤を使用して窒化ケイ素親和性ペプチドを目的タンパク質に導入してもよく、ビオチン化した窒化ケイ素親和性ペプチドとストレプトアビジン(アビジン)標識した目的タンパク質とのビオチン-ストレプトアビジン(アビジン)を介した特異的結合によって窒化ケイ素親和性ペプチドを目的タンパク質に導入してもよく、更に、ビオチン化した窒化ケイ素親和性ペプチドとビオチン化した目的タンパク質とのストレプトアビジン(アビジン)を介した特異的結合によって窒化ケイ素親和性ペプチドを目的タンパク質に導入してもよく、このように従来公知の手法を用いて導入すればよい。

【0072】
目的タンパク質に窒化ケイ素親和性ペプチが導入される好適な例としては、前記ペプチド融合タンパク質が挙げられ、これを前述するように窒化ケイ素基材と接触させることによって、窒化ケイ素親和性ペプチドを介して目的タンパク質を窒化ケイ素基材に固定化することができる。また、前記架橋剤や特異的結合を利用して目的タンパク質に窒化ケイ素親和性ペプチドを導入し、これを前述するように窒化ケイ素基材と接触させることによって、窒化ケイ素親和性ペプチドを介して目的タンパク質を窒化ケイ素基材に固定化することができる。このことから、本発明は、更に、前記窒化ケイ素親和性ペプチドを目的タンパク質に導入させる工程を含有する、窒化ケイ素基材に結合する目的タンパク質の製造方法、また、前記窒化ケイ素親和性ペプチドが導入された目的タンパク質を提供するといえる。

【0073】
また、前記架橋剤や特異的結合等を同様に利用して、窒化ケイ素基材に結合している窒化ケイ素親和性ペプチドを目的タンパク質に導入することによって、窒化ケイ素親和性ペプチドを介して目的タンパク質を窒化ケイ素基材に固定化することができる。

【0074】
このような本発明の窒化ケイ素親和性ペプチドが結合されてなる窒化ケイ素基材によれば、目的タンパク質を、高い密度で、その活性を十分に保持させたまま、また、その配向が均一になるよう制御して固定化させることができる。このことから、本発明の窒化ケイ素親和性ペプチドが結合されてなる窒化ケイ素基材によれば、高精度且つ高効率に、目的タンパク質や、当該目的タンパク質と相互作用を有する所望の物質を検出、測定、分析等することができる。

【0075】
従って、本発明の窒化ケイ素親和性ペプチドが結合されてなる窒化ケイ素基材は、例えば前述するように板状、フィルム状(シート状)等の形状である場合にはバイオチップ、特にプロテインチップとして利用できる。また、本発明の窒化ケイ素親和性ペプチドが結合されてなる窒化ケイ素基材は、このほか、抗原抗体反応や酵素反応等を利用するカラムの充填剤、ELISA法などにおけるマイクロプレート、また、固定化酵素などとしても好適に使用され、臨床検査、創薬研究、環境モニタリング、生化学などのあらゆる分野において利用できる。

【0076】
7.目的タンパク質の窒化ケイ素基材への固定化方法
本発明は、目的タンパク質に導入された前記窒化ケイ素親和性ペプチドと窒化ケイ素基材とを接触させる工程を含有する、目的タンパク質の窒化ケイ素基材への固定化方法を提供する。

【0077】
ここで、目的タンパク質、窒化ケイ素親和性ペプチド、窒化ケイ素基材、また、目的タンパク質への窒化ケイ素親和性ペプチドへの導入、また、目的タンパク質に導入された前記窒化ケイ素親和性ペプチドと窒化ケイ素基材との接触については、前述の通りである。

【0078】
本発明の固定化方法によれば、前記窒化ケイ素親和性ペプチドが窒化ケイ素基材に対する親和性を備えていることから、目的タンパク質に導入された窒化ケイ素親和性ペプチドを窒化ケイ素基材に接触させるだけで、窒化ケイ素親和性ペプチドを窒化ケイ素基材に結合させることができる。このため、本発明の固定化方法によれば、窒化ケイ素親和性ペプチドを介して前記目的タンパク質を窒化ケイ素基材に容易に固定することができる。

【0079】
本発明の固定化方法は、更に、目的タンパク質に前記窒化ケイ素親和性ペプチドを導入させる工程を組み合わせて実施してもよく、すなわち、目的タンパク質に前記窒化ケイ素親和性ペプチドを導入させる工程を経た後に実施してもよい。

【0080】
目的タンパク質に窒化ケイ素親和性ペプチドを導入する工程は、前述と同様に、本発明の効果を妨げない限り、また、窒化ケイ素親和性ペプチドが導入される限り制限されず、従来公知の遺伝子工学的手法や化学合成法を用いて導入させればよく、例えば発現ベクターを利用して適宜導入すればよい。一例としては、前述のペプチド融合タンパク質を発現させる手順に従い実施できる。このことから、目的タンパク質に窒化ケイ素親和性ペプチドを導入するにあたっては、前述の発現ベクターや形質転換体を使用して導入させることが好ましく例示できる。また、前述と同様に、架橋剤、ビオチン・ストレプトアビジン(アビジン)の特異的結合などを利用して、目的タンパク質に窒化ケイ素親和性ペプチドを導入することも好適に例示される。また、前述と同様に、当該導入は直接またはリンカーを介して目的タンパク質に窒化ケイ素親和性ペプチドが導入されていればよく、また、その導入部位も発明の効果を妨げない限り制限されず、目的タンパク質の特性や構造に応じて当業者が適宜決定すればよい。

【0081】
このような本発明の固定化方法によれば、簡便に目的タンパク質が固定化された窒化ケイ素基材を製造することができる。また、本発明の固定化方法によれば、窒化ケイ素親和性ペプチドを介して目的タンパク質が窒化ケイ素基材に固定化されていることから、目的タンパク質を、高密度で、その活性を十分に維持させたまま、また、その配向が均一になるよう制御して、固定化することができる。また、このように本発明の固定化方法によれば、窒化ケイ素親和性ペプチドを介して目的タンパク質が固定化された窒化ケイ素基材を容易に製造できることから、すなわち、プロテインチップ等のバイオチップをはじめ、抗原抗体反応や酵素反応等を利用するカラムの充填剤、ELISA法などにおけるマイクロプレート、また、固定化酵素などの製造も容易にする。このことから、本発明の固定化方法は、臨床検査、創薬研究、環境モニタリング、生化学などのあらゆる分野において有用である。

【0082】
また、更に、本発明は、前記窒化ケイ素親和性ペプチドが結合されてなる窒化ケイ素基材に結合している窒化ケイ素親和性ペプチドと目的タンパク質とを結合させる工程を含有する、目的タンパク質の窒化ケイ素基材への固定化方法を提供する。

【0083】
ここで、目的タンパク質、窒化ケイ素親和性ペプチド、窒化ケイ素基材については前述の通りである。また、窒化ケイ素親和性ペプチドの窒化ケイ素基材への結合についても前述の通りである。

【0084】
本発明において窒化ケイ素基材に結合している窒化ケイ素親和性ペプチドと目的タンパク質との結合は、本発明の効果を妨げない限り、また、これらが結合できる限り制限されず、従来公知の技術常識に基づいて当業者が適宜実施すればよい。例えば前述のように、架橋剤や特異的結合を利用して、窒化ケイ素基材に結合している窒化ケイ素親和性ペプチドを目的タンパク質に導入することによって、窒化ケイ素親和性ペプチドを介して目的タンパク質を窒化ケイ素基材に固定化すればよい。また、当該窒化ケイ素親和性ペプチドと目的タンパク質は、前述と同様に、直接またはリンカーを介して結合されていればよく、前述と同様にリンカーは本発明の効果を妨げない範囲において従来公知の技術常識に基づいて当業者が適宜決定すればよい。目的タンパク質に対する窒化ケイ素親和性ペプチドの結合部位も発明の効果を妨げない限り制限されず、前述と同様に、目的タンパク質の特性や構造に応じて当業者が適宜決定すればよい。

【0085】
また、本発明の固定化方法は、更に、前記窒化ケイ素親和性ペプチドを窒化ケイ素基材に接触させる工程と組み合わせて実施してもよく、すなわち、前記窒化ケイ素親和性ペプチドを窒化ケイ素基材に接触させて結合させる工程を経た後に実施してもよい。前記窒化ケイ素親和性ペプチドの窒化ケイ素基材への接触は、前述と同様に実施すればよい。

【0086】
このような本発明の固定化方法によれば、前述同様、目的タンパク質が固定化された窒化ケイ素基材を製造することができる。また、本発明の固定化方法によれば、窒化ケイ素親和性ペプチドを介して目的タンパク質が窒化ケイ素基材に固定化されていることから、目的タンパク質を、高密度で、その活性を十分に維持させたまま、また、その配向が均一になるよう制御して、固定化することができる。従って、本発明によれれば、プロテインチップ等のバイオチップをはじめ、抗原抗体反応や酵素反応等を利用するカラムの充填剤、ELISA法などにおけるマイクロプレート、また、固定化酵素などの製造も容易にする。このことから、本発明の固定化方法は、臨床検査、創薬研究、環境モニタリング、生化学などのあらゆる分野において有用である。
【実施例】
【0087】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
実施例1
以下の手順に従い、配列番号1で表されるポリペプチド(SIN1ペプチド)、及び、配列番号2で表されるポリペプチド(SIN2ペプチド)の窒化ケイ素(Si3N4)基材に対する親和性について検討した。
【実施例】
【0088】
1.手順
Elongation factor Tu(ELN)発現ベクターの構築
1)DNA Purification Kit (プロメガ株式会社製)を用いて大腸菌BL21(DE3)(Novagen製)の染色体DNAの抽出を行った。
2)染色体DNAを鋳型とし、KOD plus ver.2 PCR kit(東洋紡績株式会社製)を用いてPCRを行い、ELNの遺伝子を増幅した。
3)増幅したELNの遺伝子をpET-22(b)ベクター(Novagen製)のNdeIサイトとNotIサイトの間にIn-Fusion(登録商標)Advantage PCR Cloning Kit(クロンテック社製)を用いて挿入し、クローニングした。
4)上記のベクターで大腸菌HST08 Premium(タカラバイオ株式会社製)を形質転換し、LB-Amp寒天培地中で一晩静置培養をした。
5)Amp.含有プラスグロウ(ナカライテスク株式会社製)を1.5mlチューブに1mlとり、寒天プレートからコロニー植菌し、37℃、200rpmで約7時間培養した。
6)培養後、アルカリSDS法によってベクターを回収・精製した。
7)アガロース電気泳動によって遺伝子の挿入を確認し、さらに、DNAシーケンス解析によって挿入されたELN遺伝子のヌクレオチド配列を確認した。
8)上記工程6)で得られたベクターで大腸菌JM109(タカラバイオ株式会社製)を形質転換し、培養後、ELN発現ベクターを回収、精製した。
【実施例】
【0089】
GST発現ベクターpGEX-3Xの構築
1)大腸菌JM109のコンピテントセル500μlに、GST発現ベクター(pGEX-3X)(GEヘルスケア株式会社製)を1μl加え、氷上で10分間インキュベートした。
2)42℃で45秒間インキュベートし、氷上で冷却した。
3)Amp.含有プラスグロウを15mlチューブに10mlとり、形質転換した上記大腸菌を500μl加え、37℃、200rpmで一晩培養した。
4)4500rpmで15分間遠心分離し、上清を除去した。
5)アルカリ溶解法によってpGEX-3Xを回収した。
6)回収したベクター溶液215μlに、NEBuffer(New England Biolabs製)25μl、×100 BSA(New England Biolabs製)2.5μl、CIAP(Calf intestine Alkaline Phosphatase、東洋紡績株式会社製)2.5μl、Eco RI-HF(New England Biolabs製)2.5μl、Bam HI-HF(New England Biolabs製)2.5μlを加え、37℃で一晩インキュベートし、ベクターの切断・脱リン酸化処理を行った。pGEX-3Xの切断状況はアガロース電気泳動により確認した。
7)酵素処理を行ったベクターをPCR Clean-Up System (プロメガ株式会社製)を用いて精製した。
【実施例】
【0090】
SIN1ペプチドまたはSIN2ペプチドとの融合GTS(グルタチオン-S-トランスフェラーゼ)の調製
1)前述のELN発現ベクターを鋳型として、SIN1ペプチド及びSIN2ペプチドをコードするヌクレオチド配列をそれぞれ増幅した。SIN1ペプチドをコードするヌクレオチド配列は配列番号12で表され、SIN2ペプチドをコードするヌクレオチド配列は配列番号13で表される。
2)前記1)で得られたヌクレオチド配列を、前述のように構築したGST発現ベクターpGEX-3XのBam HIサイトとEco RIサイトの間にクローニングし、DNAシーケンス解析によってベクター中に挿入されたSIN1ペプチド及びSIN2ペプチドをコードするヌクレオチド配列をそれぞれ確認した。
3)構築した発現ベクターで大腸菌BL21(DE3)を形質転換し、アンピシリン(Amp.、ナカライテスク株式会社製)含有2×YT培地(Novagen製)10ml中で一晩前培養した。
4)前記3)と同様の培地50mlに、前培養液をOD600=0.1になるように加え、37℃、200rpmでOD600=1.0になるまで(約2時間)培養した。
5)1M IPTG(Isopropyl-β-D(-)-thiogalactopyranoside、和光純薬株式会社製)を5μl加え、30℃、200rpmでさらに7時間培養した。
6)培養後、4500rpmで20分間遠心分離し、上清を除去した。
7)菌体にBug buster(BugButer Protein Extraction Reagent、Novagen製) 3ml、Benzonase Nuclease(Novagen製)1.5μl、Lysozyme(生化学工業株式会社製)3mgを加えよく撹拌し、37℃で1時間インキュベートすることにより、菌体を溶菌した。
8)10000rpmで20分間遠心分離し、上清を可溶性画分として回収した。
9)可溶性画分をGSTrap HPカラム(GEヘルスケア株式会社製)中にアプライし、1mM DTT(Dithiothreitol、ナカライテスク株式会社製)を含むPBSでカラム内を洗浄した。
10)20mM 還元型グルタチオンを含む100mM Tris-HCl(pH 8.0)のグラジェント溶出によって野生型GST、SIN1ペプチド融合GST、及びSIN2ペプチド融合GSTを回収した。
11)溶離液をPBSで一晩透析し、DC Protein Assay Kit(バイオラッドラボラトリーズ株式会社製)によって濃度を定量した。
【実施例】
【0091】
なお、実施例1において使用したPBSは、あらかじめ作製した10×PBS(NaCl(80.8g) 1.38M、KCl(2g) 27mM、Na2HPO4・12H2O(29g) 80mM、KH2PO4(2g) 15mM)を、使用時にイオン交換水で1Lにメスアップし、HClでそのpHを7.4に調整したものである。
【実施例】
【0092】
野生型GST(wt-GST)、SIN1ペプチド融合GST、及びSIN2ペプチド融合GSTのSi3N4基材への吸着
1)wt-GST、SIN1ペプチド融合GSTまたはSIN2ペプチド融合GSTが50μg/ml(1cm3)となるようPBSを用いてGST溶液を作製し、このGST溶液1mlとSi3N4基材2g(表面積31.2cm2、面積/体積:31.2cm-1)とを接触させ、25℃で3時間インキュベートした。
2)上清を回収し、DC Protein Assay(バイオラッドラボラトリーズ株式会社製)によって上清中のGST濃度をそれぞれ定量した。
3)吸着前後のGSTの濃度差より吸着量を算出し、接触面積(31.2cm2)で除することで吸着密度を計算した。
【実施例】
【0093】
なお、ここで使用したSi3N4基材は、二酸化ケイ素(SiO2)の基板上にSi3N4膜を熱蒸着によって積層したものである。当該Si3N4膜の積層は、従来公知の一般的な化学気相成長法を用いて、ジクロロシラン(SiH2Cl2)とアンモニア(NH3)を用いてSiO2の基板上にSi3N4膜を堆積させることによって製造されたものである。また、ここで調製したSIN1ペプチド融合GST、SIN2ペプチド融合GSTはいずれも、GSTのC末端部にSIN1ペプチドまたはSIN2ペプチドを融合させたものである。
【実施例】
【0094】
2.結果
結果を図1に示す。
【実施例】
【0095】
図1は、Si3N4基材に対する吸着密度を示す。図1から明らかなように、wt-GSTに対して、SIN1ペプチド融合GST(GST-SIN1)及びSIN2ペプチド融合GST(GST-SIN2)においてSi3N4基材に対する吸着密度の顕著な向上が認められた。これは、配列番号1または2で表されるペプチドを導入することによって、GTSをSi3N4基材に容易且つ高密度に固定化できたことを示す。従って、配列番号1または2で表されるペプチドはSi3N4基材に対して良好な親和性を有し、目的タンパク質のSi3N4基材への固定化に有用であることが分かった。また、このように当該ペプチドはGSTの所望の位置に導入することができ、これにより得られたペプチド融合GSTにおいて吸着密度の向上が認められたことから、当該ペプチドによれば目的タンパク質の活性の維持や配向制御も可能であることが分かった。
【実施例】
【0096】
実施例2
以下の手順に従い、配列番号4、5、7及び11で表されるペプチドのSi3N4基材に対する親和性について検討した。なお、以下においてTP24は配列番号4で表されるペプチド、TP25は配列番号5で表されるペプチド、TP14は配列番号7で表されるペプチド、TP19は配列番号11で表されるペプチドを指す。
【実施例】
【0097】
1.手順
1)N末端部にビオチンを標識した前記4種類のペプチド(TP24、TP25、TP14、TP19)を委託合成した。これらの各ビオチン化ペプチドは、1mg/mlとなるようにDMFで溶解し、-20℃で保存した。
2)Alexa-Fluor 633標識ストレプトアビジン(SA)10μl(10μg(190pmol))と1.5等量(284pmol)に相当する前記ビオチン化ペプチドを混合し、PBSを加えて1mlとした。
3)得られた混合液1mlをSi3N4基材1g(15.6cm2)と接触させ、25℃で2時間インキュベートした。コントロールとして、SAにPBSを加えて同様にSi3N4基材と接触させ、インキュベートした。
4)インキュベート後、各Si3N4基材をPBSで5回洗浄し、PBS 5ml中に浸した。
5)Si3N4基材をマイクロプレート(Nunc #267061)上に移し、マイクロプレートリーダーにて基材表面の蛍光強度を測定した(励起波長:620nm、蛍光波長:666nm)。なお、シグナル強度のばらつきを考慮して各サンプルとも測定を合計98回行い、平均値と標準偏差を求めた。
【実施例】
【0098】
Si3N4基材及びPBSは実施例1と同じものを使用した。
【実施例】
【0099】
2.結果
結果を図2に示す。
【実施例】
【0100】
図2から明らかなように、ペプチドを使用しないコントロール(SA)と比較して、配列番号4、5、7及び11で表されるペプチドを使用した場合には(SA-TP24、SA-TP25、SA-TP14、SA-TP19)、蛍光強度が高くなる傾向を示した。これは、前記ペプチドを介在させることによって、目的タンパク質をSi3N4基材に容易且つ高密度に固定化できたことを示す。従って、実施例1と同様に、配列番号4、5、7及び11で表されるペプチドもSi3N4基材に対して良好な親和性を有し、目的タンパク質のSi3N4基材への固定化に有用であることが分かった。
【実施例】
【0101】
実施例3
以下の手順に従い、配列番号1~11で表されるペプチドについて、Si3N4基材に対する親和性の有無を調べた。
1.手順
1)配列番号1~11で表されるペプチド含むPBS溶液に、実施例1と同じSi3N4基材12g(概算表面積187.4cm2)を混合し、25℃、200rpmで2時間振盪した。
2)当該溶液の上清の一部をHPLCで分析し、残りの溶液を更にSi3N4基材と混合した。その際、1ml当たりの基材量を1.5gとなるように設定した。
3)2)を合計5回繰り返した。
4)吸着後のピーク面積の減少が著しいペプチドがSi3N4基材に対して親和性を有すると判断できることから、吸着前後のクロマトグラムを比較した。
【実施例】
【0102】
なお、前記工程2)においてHPLCでの分析は次のように行った。まず、HPLCシステムを起動後、Line A、BをHPLC用A液、B液で置換した。その後、当該A液を流速1ml/minでカラムに供給し、カラム内を平衡化した。次いで、実験に供する前の前記PBS溶液と、前記工程2)で回収した上清の一部をそれぞれ前処理フィルターでろ過し、100μlをカラムに供給した。以下の表1に示すプログラムでB液の濃度を直線的に増加させ、カラムからペプチドを溶出した。その後、吸着前後のクロマトグラムを比較した。
【実施例】
【0103】
前記HPLCシステム、A液、B液、前処理フィルター、プログラムは以下の通りである。
【実施例】
【0104】
HPLCシステム
PU-2089 Quaternary Gradient Pump(ジャスコインターナショナル株式会社製)
LC-NetII/ADC(ジャスコインターナショナル株式会社製)
MD-2018Plus Photodiode Array Detector(ジャスコインターナショナル株式会社製)
UV-1575 Intelligent UV/VIS Detector(ジャスコインターナショナル株式会社製)
TSKgel ODS-100Z 3μm (カラムサイズ4.6mmI.D.x15cm)(東ソー株式会社製)
【実施例】
【0105】
A液
超純水(1L)
TFA(Trifluoroacetic acid、高速液体グラフ用、和光純薬株式会社製)(1ml) 0.1v/v%
【実施例】
【0106】
B液
Acetonitrile [Chromasolv, for HPLC, gradient grade, ≧99.9%](シグマアルドリッチ ジャパン株式会社製)(1L)
TFA(高速液体グラフ用)(1ml) 0.1v/v%
【実施例】
【0107】
前処理フィルター
Non-Sterile 4mm Millex(登録商標)HV syringe Driven Filter Unit (450nm)(ミリポア株式会社製)
プログラム
【実施例】
【0108】
【表1】
JP0006141205B2_000002t.gif
【実施例】
【0109】
2.結果
その結果、吸着前後のクロマトグラムを比較することによって、これらのいずれの溶液を用いた場合であっても、吸着後のピーク面積が減少しており、このことから、配列番号1~11で表されるペプチドはいずれもSi3N4基材に対する親和性を有することが確認された。従って、これらのアミノ酸配列を有するペプチドによれば、これらのタンパク質を介した、窒化ケイ素基材における目的タンパク質の高密度化、高活性化、高配向制御が可能であることが分かった。更に、そのピーク面積の減少率は50%以上であることが確認された。クロマトグラムの比較によって吸着前後のピーク面積の減少率も把握することができ、減少率が高いほど、そのペプチドの窒化ケイ素に対する親和性が高いと判断できる。窒化ケイ素に対する親和力が一層高い点から、ピーク面積の減少率は50%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上が例示されると考えられた。
【実施例】
【0110】
実施例4
以下の手順に従い、各ペプチドの窒化ケイ素基材に対する親和性について検討した。
1.手順
配列番号1及び2で表されるペプチドに代えて、配列番号6~8及び10で表されるポリペプチド(配列番号17~19及び21で表されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド)を用いる以外は実施例1と同様の手順にて、各ペプチドとの融合GTSを調製した。以下においてV821は配列番号6で表されるペプチド、TP14は配列番号7で表されるペプチド、V829は配列番号8で表されるペプチド、CT22は配列番号10で表されるペプチドを指す。また、調製された各ペプチドとの融合GTSは、それぞれGST-V821、GST-TP14、GST-V829、GST-CT22と示す。これらも、GSTのC末端部にペプチドを融合させたものである。
【実施例】
【0111】
調製された各ペプチドとの融合GTSのSi3N4基材への吸着について、以下の手順で評価した。なお、コンとロールとして、ペプチドを融合させていない野生型GST(wt-GST)を用いた。
【実施例】
【0112】
まず、前記実施例1と同様に、wt-GSTまたは各ペプチドとの融合GSTが100μg/ml(1cm3)となるよう実施例1と同じPBSを用いてGST溶液を作製した。この際、イオン強度の異なる3種類のGST溶液(イオン強度0.075、0.15、0.3)を作製した。RIfSセンサ(コニカミノルタ製MI-Affinity)にSi3N4基材(センサチップ)を装着し、流速100μl/minでPBSを供給して流路内を平衡化した。GST溶液を100μLずつセンサチップ上に供給し、検出される波長シフト量(Δλ(nm))の値をモニタリングした。2~3回のインジェクションによって吸着平衡に達した際の波長シフト量の値を吸着量の指標として評価した。
【実施例】
【0113】
2.結果
結果を図3に示す。図3は、Si3N4基材に対する吸着密度を示す。図3から明らかなように、wt-GSTに対して、GST-V821、GST-CT22、GST-TP14、GST-V829のいずれにおいてもSi3N4基材に対する吸着密度の顕著な向上が認められた。これは、配列番号6~8及び10で表されるペプチドを導入することによって、GTSをSi3N4基材に容易且つ高密度に固定化できたことを示す。従って、配列番号6~8及び10のいずれかで表されるペプチドはSi3N4基材に対して良好な親和性を有し、目的タンパク質のSi3N4基材への固定化に有用であることが分かった。また、当該ペプチドはGSTの所望の位置に導入することができ、得られたペプチド融合GSTにおいて吸着密度の向上が認められたことから、当該ペプチドによれば目的タンパク質の活性の維持や配向制御も可能であることが分かった。また、ここには示さないが、配列番号3~5、9及び11で表されるペプチドをそれぞれGTSに導入した場合も、同様の傾向が認められた。また、図3はpH7における結果であるが、pH9において行った場合も同様の傾向が認められた。
【実施例】
【0114】
実施例5
実施例4とは異なる機器を用いて、以下の手順に従い、前述のようにして構築したGST-TP14、GST-V821、GST-V829及びGST-CT22のSi3N4基材に対する親和性について検討した。
1.手順
wt-GSTまたは各ペプチドとの融合GSTが0.1μg/ml、1μg/ml、10μg/ml、100μg/ml(1cm3)となるように、実施例4と同様にしてPBSを用いてGST溶液を作製した。また、本実施例においても各濃度のGST溶液において、更にイオン強度の異なる溶液(イオン強度0.075、0.15、0.3)を作製した。RIfSセンサ(日本写真印刷製Wacaris)にSi3N4基材(センサチップ)を装着し、流速100μl/min でPBSを供給して流路内を平衡化した。GST溶液を100μLずつセンサチップ上に供給し、検出される波長シフト量(Δλ(nm))の値をモニタリングした。2~3回のインジェクションによって吸着平衡に達した際の波長シフト量の値を吸着量の指標として評価した。
【実施例】
【0115】
2.結果
結果を図4に示す。図4から明らかなように、本実施例においても、いずれもペプチド融合GSTを用いた場合であっても、wt-GSTと比較して、吸着量の顕著な向上が認められた。また、ここには示さないが、配列番号3~5、9及び11で表されるペプチドをそれぞれGTSに導入した場合も、同様の傾向が認められた。
【実施例】
【0116】
実施例6
ペプチド融合GSTの吸着密度について検討するとともに、Si3N4基材に固定化させたペプチド融合GSTを構成するGTSが、GTS本来の活性を維持しているかどうかについて検討した。
1.手順
1)wt-GST、GST-TP14またはGST-V821が100μg/ml(1cm3)となるようPBSを用いてGST溶液を作製し、このGST溶液2mlとSi3N4基材2g(表面積31.2cm2、面積/体積:31.2cm-1)とを接触させ、25℃で2時間インキュベートした。
2)上清を回収し、DC Protein Assayによって上清中のGST濃度をそれぞれ定量した。
3)吸着前後のGSTの濃度差より吸着量を算出し、接触面積(31.2cm2)で除することで吸着密度を計算した。
4)次いで、Si3N4基材をPBSで3回、0.1Mリン酸カリウム水溶液(pH6.5)で1回洗浄し、アスピレーターで溶液を完全に除去した。
5)CDNB 1mM、GSH 1mMをそれぞれ含む0.1Mリン酸カリウム水溶液を3ml添加し、25℃、300rpmで撹拌しながら30秒ごとに340nmの吸光度変化を微量分光光度計nano drop (Thermo製)で計測し、吸光度変化(min-1・cm-1)を算出した。生成物CDNB-GSHのモル吸光係数ε=9.6 mM-1・cm-1を基に1分間に生じた生成物量を算出し、酵素活性とした。ただし、1Uとは、1分間に1μmolのCDNB-GSHを生じるのに必要な酵素量である。
6)検出された酵素活性をSi3N4基材の面積で除して単位面積あたりの酵素活性mU/cm-2を計算した。
【実施例】
【0117】
2.結果
結果を図5に示す。当該結果から明らかなようにGSTはSi3N4基材に高密度で固定化されており、また、ペプチド融合GSTを構成するGTSは、Si3N4基材に固定化させた後であってもGTS本来の活性を維持していた。このことから、Si3N4親和性ペプチドを目的タンパク質に連結させることによって、目的タンパク質をSi3N4基材上に高密度に固定化でき、固定化された状態であっても目的タンパク質は高い活性を発揮できることが確認できた。また、ここには示さないが、配列番号3~5及び9~11で表されるペプチドをそれぞれGSTに導入した場合も、同様の傾向が認められた。
【実施例】
【0118】
実施例7
以下の手順に従い、配列番号23~35で表される各ペプチドについて、Si3N4基材に対する親和性の有無を調べた。
1.手順
1)配列番号23~35で表されるペプチド含むPBS溶液に、実施例1と同じSi3N4基材10.5g(概算表面積164.02cm2)を混合し、25℃、200rpmで2時間振盪した。
2)当該溶液の上清の一部をHPLCで分析し、残りの溶液を更にSi3N4基材と混合した。その際、1ml当たりの基材量を1.5gとなるように設定した。
3)2)を合計6回繰り返した。
4)吸着後のピーク面積の減少が著しいペプチドがSi3N4基材に対して親和性を有すると判断できることから、吸着前後のクロマトグラムを比較した。
【実施例】
【0119】
なお、前記工程2)においてHPLCでの分析は実施例3と同様にして行い、カラムからペプチドを溶出した。その後、吸着前後のクロマトグラムを比較した。
【実施例】
【0120】
2.結果
その結果、吸着前後のクロマトグラムを比較することによって、これらのいずれの溶液を用いた場合であっても、吸着後のピーク面積が減少しており、このことから、配列番号23~35で表される各ペプチドはいずれもSi3N4基材に対する親和性を有することが確認された。従って、これらのアミノ酸配列を有するペプチドによっても、これらのタンパク質を介した、Si3N4基材における目的タンパク質の高密度化、高活性化、高配向制御が可能であることが分かった。更に、そのピーク面積の減少率は50%以上であることが確認された。
【実施例】
【0121】
実施例8
以下の手順に従い、配列番号23、24及び26で表される各ペプチドのSi3N4基材に対する親和性について検討した。
1.手順
Isocitrate dehydrogenase (ISD)発現ベクターの構築
ELN遺伝子に代えて、Isocitrate dehydrogenase(ISD)遺伝子を用いた以外は実施例1と同様にしてISD発現ベクターを回収、精製した。
【実施例】
【0122】
GST発現ベクターpGEX-3Xの構築
本実施例では、実施例1において精製したものと同一のベクターを用いて、以下の実験を行った。
【実施例】
【0123】
ペプチドとの融合GTSの調製及びペプチド融合GSTのSi3N4基材への吸着
配列番号6~8及び10で表されるペプチドに代えて、配列番号23、24及び26で表されるペプチドを用いる以外は実施例5と同様の手順にて、各ペプチドとの融合GTSを調製した。以下においてSIN3は配列番号23で表されるペプチド、SIN4は配列番号24で表されるペプチド、TP4は配列番号26で表されるペプチドを指す。また、調製された各ペプチドとの融合GTSは、それぞれGST-SIN3、GST-SIN4、GST-TP4と示す。調製された各ペプチドとの融合GTSのSi3N4基材への吸着量について、RIfSセンサ(日本写真印刷製Wacaris)にSi3N4基材(センサチップ)を装着したものを用いて、実施例5と同様の手順で評価した。コントロールとして、ペプチドを融合させていない野生型GST(wt-GST)を用いた。なお、GST濃度は、wt-GSTでは100ug/ml、ペプチド融合GTSでは50ug/mlとした。
【実施例】
【0124】
2.結果
結果を図6に示す。図6から明らかなように、wt-GSTと比較してGST-SIN3、GST-SIN4、GST-TP4のいずれのペプチド融合GSTでも、Si3N4基材に対する吸着量の向上が認められた。特に、wt-GSTの濃度はGST-SIN3、GST-SIN4、GST-TP4よりも2倍高いにもかかわらず、GST-SIN3、GST-SIN4、GST-TP4において吸着量の有意な向上が認められた。この結果は配列番号23、24及び26のいずれかで表されるペプチドを導入することによっても、GTSをSi3N4基材に容易且つ高密度に固定化できたことを示す。従って、配列番号23、24及び26で表されるペプチドもSi3N4基材に対して良好な親和性を有し、目的タンパク質のSi3N4基材への固定化に有用であることが分かった。また、このように、これらのペプチドもGSTの所望の位置に導入することができ、得られたペプチド融合GSTにおいても吸着密度の向上が認められたことから、当該ペプチドによれば目的タンパク質の活性の維持や配向制御も可能であることが分かった。また、このほか配列番号25及び27~35で表される各ペプチドとの融合GSTにおいても同様の傾向が認められる。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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