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明細書 :化合物、化合物の製造方法、及び当該化合物を用いたポリマーの架橋剤

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6201173号 (P6201173)
公開番号 特開2015-086163 (P2015-086163A)
登録日 平成29年9月8日(2017.9.8)
発行日 平成29年9月27日(2017.9.27)
公開日 平成27年5月7日(2015.5.7)
発明の名称または考案の名称 化合物、化合物の製造方法、及び当該化合物を用いたポリマーの架橋剤
国際特許分類 C07D 493/16        (2006.01)
C08K   5/159       (2006.01)
FI C07D 493/16 CSP
C08K 5/159
請求項の数または発明の数 3
全頁数 15
出願番号 特願2013-225420 (P2013-225420)
出願日 平成25年10月30日(2013.10.30)
審査請求日 平成28年9月19日(2016.9.19)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】592218300
【氏名又は名称】学校法人神奈川大学
発明者または考案者 【氏名】赤井 昭二
【氏名】岩倉 いずみ
【氏名】織作 恵子
個別代理人の代理人 【識別番号】100151183、【弁理士】、【氏名又は名称】前田 伸哉
審査官 【審査官】早川 裕之
参考文献・文献 国際公開第2010/050592(WO,A1)
米国特許出願公開第2004/0147747(US,A1)
特開2008-158020(JP,A)
Synthesis,1988年,8,641-644
調査した分野 C07D 493/16
C08K 5/159
CAplus/REGISTRY(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
下記化学式(2)で表される化合物。
【化1】
JP0006201173B2_000016t.gif

【請求項2】
下記化学式(6)で表される糖化合物と、メタノールと、を含む溶液に、400nm~600nmのいずれかに中心波長を有するパルスレーザーを照射することを特徴とする、下記化学式(2)で表される化合物の製造方法。
【化2】
JP0006201173B2_000017t.gif
【化3】
JP0006201173B2_000018t.gif
(上記化学式(6)中、Phはフェニル基であり、Bnはベンジル基である。)
【請求項3】
請求項記載の化合物を含むことを特徴とする、アルデヒド化合物によって架橋されるポリマーのための架橋剤。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な化合物、その製造方法、並びに当該化合物を用いたポリマーの架橋剤及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、アルデヒド化合物は各種化学品の合成に広く用いられている。このような例として、特にポリマーの合成を挙げることができる。例えばホルムアルデヒドは、メラミン樹脂の構成単位であるメラミンやフェノール樹脂の構成単位であるフェノール等のように求核性を有するモノマー単位と縮合して化学結合を形成できるので、これらのモノマーを縮合反応によってポリマーとする際は勿論のこと、ポリマーとなった後であっても、ポリマー鎖に含まれるモノマー単位同士を架橋して熱硬化させる際にも用いられる。これらのポリマーにアルデヒド化合物を作用させて得られる熱硬化性は、メラミン樹脂においては焼き付けにより自動車等の表面に強固な保護皮膜を形成させるのに用いられているし、フェノール樹脂においては所望とする形状とされた丈夫な硬化物を得るために用いられている。
【0003】
近年では、半導体デバイスにおける回路のパターニングのために用いられるポジ型レジストの皮膜形成成分として、比較的分子量の小さなフェノール樹脂であるノボラックが用いられており、こうしたノボラックに所望とする皮膜形成性や残膜特性を付与するためにアルデヒド化合物を用いた架橋が行われている。これらのポジ型レジストでは、より高精細化するパターンの形成に対応するために極めてシビアな特性が要求されており、こうした要求に応えるための手段の一つとして、分子内に二つのホルミル基を有するジアルデヒド類をノボラックの架橋のために用いることが提案されている(例えば、特許文献1を参照)。このように、1分子中に複数の架橋部位(ホルミル基)を有する化合物を架橋剤として用いることも特性付与のための一つの方法といえる。
【0004】
また、フェノール化合物をアルデヒド化合物で縮合させてオリゴマー化したものが、エポキシ樹脂の分野でも用いられている。この場合、数個のフェノール分子をアルデヒド化合物で縮合させてオリゴマーとし、そこに含まれるフェノール性の水酸基にエピクロルヒドリンを作用させてエポキシ基を導入する。こうして得られたエポキシ樹脂は、周知のように、電子部品における封止材料や、炭素繊維と複合化させて航空機や自動車等の構造材料等として用いられている。これらのエポキシ樹脂においても、様々な要求特性に応えるために、枝分かれ構造等を持つものが種々市販されており、こうした枝分かれ構造を形成させるためにも分子内に複数のホルミル基を有する化合物が必要となる。
【0005】
ところで、アルデヒド化合物に含まれるホルミル基は比較的高い反応性を有するので、架橋剤等といった低分子の化合物に対して複数のホルミル基を持たせるのは、化学的な安定性という観点から難しい面もある。こうした化合物は、化学合成によって得るのが難しいばかりでなく、安定性に乏しいためにハンドリングが困難な場合も多い。
【先行技術文献】
【0006】

【特許文献1】国際公開第2010/050592号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上の状況に鑑みてなされたものであり、化学的に安定なことからハンドリングが容易であって、かつ1分子中に複数個のホルミル基(又はケト基)を有する化合物と等価な反応性を備えた化合物、及びそのような化合物を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、高いエネルギー密度を有するパルスレーザーを用いた化学反応について研究を重ねていたところ、水酸基をアラルキル基やアリール基で置換した特殊な糖化合物の1級アルコール溶液に対してパルスレーザーを照射したときに、当該溶液中に結晶を生じることを見出した。そして、その結晶を調べた結果、驚くべきことに、溶媒として用いた1級アルコールが4分子で縮合して、下記一般式(1)で表されるようなアセタールが生成していることを知見した。アセタールは、反応性の高いホルミル基やケト基から可逆的に転換して得ることが可能な化学種であり、これらの基を保護する手段として用いられることからもわかるように、ホルミル基やケト基をもつ化合物と等価な化合物として振る舞うことができる。特に、メタノールが4分子で縮合して得られる下記化学式(2)の化合物は、メタン分子に含まれる3つの水素原子がホルミル基に置換されたメタントリカルバルデヒド(下記化学式(7))と化学的に等価なものである。このようなアセタールはこれまで知られておらず、本発明者らによって、溶液へのパルスレーザーの照射という極めて簡便な手法で得られることが初めて明らかにされた。
【化1】
JP0006201173B2_000002t.gif
(上記一般式(1)中、R、R、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子又はアルキル基である。)
【0009】
本発明は、以上の知見によってなされたものであり、より具体的には以下のようなものを提供する。
【0011】
)下記化学式(2)で表され化合物。
【化3】
JP0006201173B2_000003t.gif

【0012】
下記化学式(6)で表される糖化合物と、メタノールと、を含む溶液に、400nm~600nmのいずれかに中心波長を有するパルスレーザーを照射することを特徴とする、下記化学式(2)で表される化合物の製造方法。
【化4】
JP0006201173B2_000004t.gif
【化5】
JP0006201173B2_000005t.gif
(上記化学式(6)中、Phはフェニル基であり、Bnはベンジル基である。)
【0018】
)上記(1)項記載の化合物を含むことを特徴とする、アルデヒド化合物によって架橋されるポリマーのための架橋剤。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、化学的に安定なことからハンドリングが容易であって、かつ1分子中に複数個のホルミル基(又はケト基)を有する化合物と等価な反応性を備えた化合物、及びそのような化合物を製造する方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、実施例1の反応前における糖化合物(6)のH-NMRスペクトルである。
【図2】図2は、実施例1の反応前における糖化合物(6)のH-NMRスペクトルを部分拡大したものである。
【図3】図3は、実施例1における生成物である化合物(2)の結晶を溶液にしたときのH-NMRスペクトルである。
【図4】図4は、実施例1における生成物である化合物(2)の結晶を溶液にしたときのH-NMRスペクトルを部分拡大したものである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の化合物の一実施形態、本発明の化合物の一実施態様、上記本発明の化合物を含む架橋剤の一実施形態、及び上記本発明の化合物の使用の一実施態様について順次説明する。なお、下記の実施形態及び実施態様は本発明の一例であり、本発明は下記の実施形態及び実施態様に何ら限定されるものではない。

【0023】
[化合物]
まずは本発明の化合物の一実施形態について説明する。本発明の化合物は、下記一般式(1)で表される化合物である。この化合物は、1個の酸素原子を含む4員環が3個縮合した構造となっており、最も外側の環(分子中で最も大きな環)に含まれる3個の炭素原子がそれぞれ2個の酸素原子と結合したアセタール化合物である。アセタールは、ホルミル基やケト基の保護基として知られており、酸触媒の存在下にて求核剤と反応する点でホルミル基やケト基と等価な化学種であるということができる。下記一般式(1)で表される化合物は、3個のアセタール部位を備えているので、酸触媒の存在下で3個のホルミル基又はケト基と等価な置換基を備えた化合物と同様に振る舞うことができる。

【0024】
【化8】
JP0006201173B2_000006t.gif

【0025】
上記一般式(1)中、R、R、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子又はアルキル基である。アルキル基としては、炭素数1~10個程度のものを挙げることができ、これらの中でもメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基が好ましく例示される。R、R、R又はRが水素原子である場合、その水素原子が結合している炭素(アセタール部位)は酸触媒の存在下でホルミル基と等価な反応部位となり、R、R、R又はRがアルキル基である場合、そのアルキル基が結合している炭素(アセタール部位)は酸触媒の存在下でケト基と等価な反応部位となる。

【0026】
上記一般式(1)で表される本発明の化合物の中でも、R、R、R及びRの全てが水素原子となる下記化学式(2)の化合物は、これらの水素原子が結合する3個の炭素原子のそれぞれがホルミル基と等価なアセタール部位となるので、酸触媒等といった触媒の存在下で、下記化学式(7)で示されるメタントリカルバルデヒドと等価な化合物として振る舞うことができる。下記化学式(7)で示されるメタントリカルバルデヒドは、分子内にホルミル基を3個有するホルミル3量体であり、求核性を有する化合物と反応する。したがって、例えば、求核性を有する化合物としてフェノール化合物を選択すれば、これらを架橋してノボラックやオリゴマーを合成することが可能である。このとき、化学式(7)の化合物における中心の炭素原子に結合した3つのホルミル基がそれぞれ2分子のフェノール化合物を架橋することができるので、この反応で得られるノボラックやオリゴマーは複雑に架橋された、従来存在しなかったような構造を備えたものになる。したがって、下記化学式(2)で表される化合物を用いてフェノール化合物を架橋すれば、上記と同様に、複雑に架橋されたノボラックやオリゴマーを得ることができる。

【0027】
【化9】
JP0006201173B2_000007t.gif

【0028】
上記一般式(1)や化学式(2)で表される化合物をケト基やホルミル基を備えた化合物と等価な化合物として用いるには、酸触媒を共存させることが望ましい。このような触媒としては、四塩化チタン、塩化アルミニウム、塩化亜鉛、三フッ化ホウ素、トリフルオロメタンスルホン酸トリメチルシリルエステル、トリフルオロメタンスルホン酸スカンジウム等のルイス酸や、硫酸、塩酸、リン酸、硝酸等のプロトン酸を好ましく例示することができる。

【0029】
以下に、化学式(2)で表される化合物を例にとり、この化合物が、酸触媒の存在下で、求核性を有する化学種と反応する場合の反応機構の一例を示す。この反応機構に示すように、化学式(2)で表される化合物は、3つのホルミル基を有する化合物と同じように振る舞うことが理解される。なお、下記反応機構において、Aはルイス酸又はプロトン酸を表し、Xは酸素原子、硫黄原子、窒素原子、炭素原子等の求核性を有する原子を表し、Rは一価の置換基を表す。つまり、RXHは求核性を有する化学種であり、この化合物に含まれるX原子が求核攻撃を行うことになる。
【化10】
JP0006201173B2_000008t.gif

【0030】
以上のように、上記一般式(1)又は化学式(2)で表される化合物は、ケト基を有する化合物やホルミル基を有する化合物と等価に振る舞うことができるので、そうした置換基を必要とする化学反応における試薬として有用である。そして、これらの化合物のさらに特筆すべき点として、化学的に安定であることを挙げることができる。ホルミル基を複数有するような低分子化合物は、高い活性を有するホルミル基の影響により、安定性に乏しくハンドリングが悪いことが多々ある。しかしながら、例えば、上記化学式(2)で表される化合物は、室温にて安定な結晶として得られるので、通常の条件にて保管をしたり計量を行ったりすることが可能である。このように、本発明の化合物は、安定でハンドリング性に優れるものでありながら、ホルミル基やケト基を複数有する多価化合物として用いることができ、試薬として極めて有用なものであるということができる。

【0031】
[化合物の製造方法]
次に、上記化合物の製造方法の一実施態様について説明する。この製造方法もまた本発明の一つである。本発明の製造方法は、少なくとも1つの水酸基がOR(Rはアラルキル基又はアリール基である。)で置換された糖化合物と、一級アルコールと、を含む溶液に、400nm~600nmのいずれかに中心波長を有するパルスレーザーを照射することを特徴とする、下記一般式(1)で表される化合物の製造方法である。

【0032】
【化11】
JP0006201173B2_000009t.gif

【0033】
上記一般式(1)で表される化合物は、既に説明した上記本発明の化合物と同じであり、上記一般式(1)におけるR、R、R及びRも上記で説明したものと同じである。

【0034】
本発明の製造方法では、少なくとも1つの水酸基がOR(Rはアラルキル基又はアリール基である。)で置換された糖化合物と、一級アルコールと、を含む溶液に、400~600nmのいずれかに中心波長を有するパルスレーザーを照射する。これにより、上記一般式(1)で表される化合物が溶液中に生成する。このとき、溶媒として上記一級アルコールを選択し、この溶媒に上記糖化合物を溶解させて溶液とすれば、パルスレーザーの照射に伴って上記一般式(1)で表される化合物が結晶として析出するので、これを濾別すればよい。後述するが、この化学反応に際して、上記糖化合物は消費されずに触媒として振る舞うため、反応によって消費されるのは溶媒である一級アルコールのみである。したがって、化学反応によって消費された溶媒(一級アルコール)を補充しながら、反応溶液を循環させつつパルスレーザーを照射するとともに生成した結晶を濾別することで、連続的に目的物である上記一般式(1)で表される化合物を得ることができる。

【0035】
上記化学反応を進行させるに際しては、溶液中に酸触媒を添加することが好ましい。酸触媒としては、硝酸、硫酸、塩酸等の無機酸を好ましく挙げることができる。酸触媒の添加量は、極めて微量で足り、例えば、15mLの溶液に対して0.1μL程度を挙げることができるが特に限定されない。

【0036】
糖化合物としては、1分子の糖からなる単糖、2分子の糖が縮合した二糖、20分子程度までの糖が縮合したオリゴ糖、又はそれ以上の分子の糖が縮合した多糖を挙げることができるが、いずれの場合であっても、糖化合物に含まれる少なくとも1つの水酸基がOR(Rはアラルキル基又はアリール基である。)で置換されていることが必要である。糖化合物としては、単糖又は二糖がより好ましく、単糖がさらに好ましい。単糖としては、β-D-グルコース誘導体、α-D-グルコース誘導体、β-L-グルコース誘導体、D-ガラクトース誘導体、D-フルクトース誘導体等を挙げることができる。これらの誘導体は、上記のように、糖化合物において少なくとも1つの水酸基がORで置換されているものであるが、さらに他の置換基を有するものであってもよい。

【0037】
Rとしては、ベンジル基、フェニル基等を挙げることができる。これらの基の芳香環には、さらに置換基が結合されていてもよい。このような置換基としては、炭素数1~5のアルキル基、アラルキル基、アリール基、水酸基、ニトロ基、チオール基、アミノ基、アルキルシリル基、スルホニル基等を挙げることができる。Rとしてはベンジル基を好ましく挙げることができる。

【0038】
このような糖化合物として、下記一般式(3)~(5)のいずれかで表される化合物を好ましく例示できる。
【化12】
JP0006201173B2_000010t.gif

【0039】
上記一般式(3)中、R~Rは、それぞれ独立に、OH、OR、SR、OR、COR、CONHR、NHCOOR、NHR又はNRであり、Rは上記の通りであり、R及びRは、それぞれ独立に、アルキル基、アリール基又はアラルキル基であって、R及びRは互いに連結して環構造を形成してもよく、R~Rの少なくとも1つはORである。上記一般式(4)中、R~Rは、それぞれ独立に、OH、OR、SR、OR、COR、CONHR、NHCOOR、NHR又はNRであり、Rは上記の通りであり、R及びRは、それぞれ独立に、アルキル基、アリール基又はアラルキル基であって、R及びRは互いに連結して環構造を形成してもよく、R~Rの少なくとも1つはORである。上記一般式(5)中、R~Rは、それぞれ独立に、OH、OR、SR、OR、COR、CONHR、NHCOOR、NHR又はNRであり、Rは上記の通りであり、R及びRは、それぞれ独立に、アルキル基、アリール基又はアラルキル基であって、R及びRは互いに連結して環構造を形成してもよく、R~Rの少なくとも1つはORである。

【0040】
より具体的には、上記の糖化合物として下記化学式(6)の化合物を好ましく例示できる。
【化13】
JP0006201173B2_000011t.gif
(上記化学式(6)中、Phはフェニル基であり、Bnはベンジル基である。)

【0041】
上記化学式(6)の化合物を得るには、例えば、Angew.Chem.,Int.Ed.,2012,51(36),9152-9155や、Carbohydr.Res.,1972,23(2),195-206に記載された合成手順をもとに、6位の炭素原子に水酸基が結合した、上記化学式(6)に示す化合物の前駆体を得て、その後、当該化合物をピリジン中でイソシアン酸フェニル(フェニルイソシアネートとも呼ばれる。)と反応させればよい。

【0042】
一級アルコールは、R’OHで表される化合物であればよく、R’としては、炭素数1~20のアルキル基、アラルキル基又はアリール基を好ましく挙げられる。これらの中でも、R’として炭素数1~20のアルキル基を有する一級アルコールが好ましく挙げられ、メタノールがさらに好ましく挙げられる。一級アルコールとしてメタノールを用いた場合、下記一般式(1)におけるR、R、R及びRがいずれも水素原子である、下記化学式(2)の化合物が得られる。既に述べたように、下記化学式(2)の化合物は、3つのホルミル基を備えた下記化学式(7)に示すメタントリカルバルデヒドの等価化合物となる。

【0043】
【化14】
JP0006201173B2_000012t.gif

【0044】
上記の糖化合物及び一級アルコールは、上述の酸触媒とともに溶媒と混合されて溶液とされる。このときに用いる溶媒としては、糖化合物及び一級アルコールを溶解できるものであれば特に限定されない。このような溶媒としては、アルコール、酢酸エチル、アセトン等を挙げることができる。なお、溶媒は、それ自身が上記一級アルコールであってもよい。この場合には、その一級アルコールに上記の糖化合物が溶解されて反応に供されることになる。そして、反応の結果生成する化合物は、一級アルコールに対する溶解性が小さいので、反応の進行とともに溶媒である一級アルコール中に析出する。その結果、生成した化合物を容易に分離することができるので好ましい。

【0045】
溶液中における糖化合物の濃度としては、0.1~1質量%程度を挙げることができるが、反応の進み具合を観察しながら適宜調節すればよい。溶媒の種類によっては、上記に例示した濃度よりも高い濃度で糖化合物を溶解させることも可能だが、糖化合物の濃度をあまりに高くした場合には、溶解していた糖化合物がパルスレーザーの照射によって析出する場合があったり、副反応により目的外化合物が生成してしまったりする可能性がある。その一方で、上記のように糖化合物は触媒として作用するので、糖化合物の濃度が1質量%以下という極端に低い濃度であったとしても、所望とする反応を進行させることが可能である。なお、上記のように糖化合物の濃度として0.1~1質量%を例示したが、条件により上記のような析出や副反応といった弊害を生じないのであれば、糖化合物の濃度をより高くしてもよい。また、上記のように一級アルコールそのものを溶媒として用いる場合には、その一級アルコールに飽和するまで糖化合物を溶解させることもできる。また、溶媒を上記一級アルコールと異なるものとする場合には、溶液中における一級アルコールの濃度としては特に制限は無く、これも上記糖化合物の場合と同様に、反応の進み具合を観察しながら適宜調節すればよい。

【0046】
上記の各成分を溶解させた溶液は、パルスレーザーの照射に付される。これにより、溶液中の1級アルコールが4分子で縮合し、上記一般式(1)の化合物が得られる。そのメカニズムは必ずしも明らかでないが、溶液がこのパルスレーザーの照射を受けることにより、糖化合物による光エネルギーの吸収が起こり、次いでそのエネルギーによって4分子の一級アルコールが互いに縮合し、上記一般式(1)で表される化合物が得られると考えられる。

【0047】
パルスレーザーは、400nm~600nmのいずれかに発振の中心波長を有するものが用いられる。フェムト秒パルスレーザーのようにパルスの間隔が極めて短時間である場合、得られるレーザー光の波長分布がブロードとなり、実際のレーザー発振の波長を中心として短波長側及び長波長側に拡がることになる。このような場合であっても、400nm~600nmの範囲に中心波長があればよい。なお、赤外発光レーザー等の第二高調波を用いる場合、得られるレーザー光の波長は実際のレーザーの発振波長の半分になるが、本明細書では、この第二高調波の波長をレーザー発振の波長として扱う。

【0048】
ところで、本発明では、上記のように、400nm~600nmのいずれかに中心波長を有するパルスレーザーを用いるが、上記糖化合物の光吸収は主としてR基(アラルキル基又はフェニル基)によるものでこれは紫外域にあるため、一見上記の波長範囲における光を吸収することができないようにも見える。しかしながら、本発明者らの調査によれば、紫外域に発光を有するレーザーを用いて溶液に照射を行うと、上記糖化合物が分解してしまうのに対して、400nm~600nmのいずれかに中心波長を有するパルスレーザーを用いると、上記糖化合物の分解を抑えながら目的とする反応を進行させられることが明らかになった。その理由は必ずしも明らかでないが、エネルギー密度の高いパルスレーザーを光源として用いることによって、可視光領域の光であっても多光子プロセスによる光吸収が生じ、糖化合物を短波長のレーザーで直接励起させた場合に生じるような分解を抑制できているためと推察される。

【0049】
パルスレーザーとしては、フェムト秒レーザー又はナノ秒レーザーを挙げることができる。レーザーの種類としては、400nm~600nmのいずれかに中心波長を有する光を発振することができるものであればよいが、ナノ秒レーザーであれば、Nd:YAGレーザーの第二高調波(波長532nm)を好ましく例示でき、フェムト秒レーザーであれば500nm~700nmにブロードした可視フェムト秒パルスレーザーを好ましく例示できる。このようなフェムト秒レーザー光を得るには、公知の方法を適宜用いればよいが、一例として以下の方法を挙げることができる。まず、チタンサファイヤ再生増幅器(例えば、スペクトラ・フィジックス株式会社製の製品名Spitfire Pro等)からの出力光をビームスプリッターにより2分し、一方を2次の非線形結晶(例えば、β-BaB(BBO))に入射して得られる第2高調波を励起光とし、他方をサファイア板に入射して3次の非線形光学効果である自己位相変調により周波数帯域を拡げ、発生するフェムト秒白色光(500~750nm)を種光とする。そして、これらの励起光と種光とを非共直線角θ=3.7°で非線形結晶(BBO)に入射し、広いスペクトル領域で位相整合条件を満たすことにより(非共直線光パラメトリック増幅器)、広い帯域において種光のエネルギーを増幅し、その後、プリズム対とチャープ鏡対、回折格子と可変形鏡を用いて時間的な媒質分散を補償し、5フェムト秒パルスに圧縮することを挙げることができる。なお、上記励起光及び種光を非線形結晶へ入射させるタイミングを変えることにより、白色光だったスペクトル形状を変化させて他の色のフェムト秒レーザー光を得ることができる。

【0050】
溶液に上記パルスレーザーを照射すると、溶液中の1級アルコールが4分子で縮合し、次第に溶液中に上記一般式(1)の化合物が生成する。このとき、溶媒として被反応物である1級アルコールを用いると溶液中に上記一般式(1)の結晶が析出する。パルスレーザーの照射時間としては、数時間~半日程度を挙げることができる。なお、既に述べたが、1級アルコールを溶媒として用いると、パルスレーザーの照射を続けながら溶液を循環させて生成物の結晶を濾別することで、連続的に反応させることも可能である。

【0051】
なお、1級アルコールとしてメタノールを用い、糖化合物として上記化学式(6)の化合物を用いたときに、本発明者らが、反応(すなわちパルスレーザー照射)の前後で溶液中に存在する化合物の変化をH-NMRにより解析した結果、反応後に目的物である上記化学式(2)の化合物が生成する一方で、糖化合物である上記一般式(6)の化合物は反応の前後で変わることなく溶液中に存在し続け、当該化合物の分解に伴う化合物が一切検出されないことがわかった。このことから、溶液中に存在する糖化合物は触媒的な役割を果たすものと考えられ、それ故、上述のような連続反応が可能になると考えられる。上記H-NMRによる解析結果については、後述の実施例にて説明する。

【0052】
[架橋剤]
上記一般式(1)又は化学式(2)で表される化合物を含むことを特徴とする、アルデヒド化合物によって架橋されるポリマーのための架橋剤もまた本発明の一つである。既に述べたように、上記一般式(1)又は化学式(2)で表される化合物は、ホルミル基と等価な振る舞いをするアセタール部位を備えるので、酸触媒等といった触媒の存在下で、アルデヒド化合物によって架橋されるポリマーを架橋させる。このようなポリマーとしては、ノボラックやメラミン樹脂等を挙げることができるが、特に限定されない。

【0053】
[メタントリカルバルデヒドの等価化合物としての本発明の化合物の使用]
既に述べたように、一級アルコールとしてメタノールを用いた場合に得られる下記化学式(2)の化合物は、化学的に安定でハンドリングに優れながら、酸触媒等といった触媒の存在下で、下記化学式(7)で表されるメタントリカルバルデヒドと等価な化合物として振る舞うことができる。そのため、下記化学式(2)で表される化合物は、化学品の合成に用いられる合成試薬としても有用である。このような、下記化学式(7)に示すメタントリカルバルデヒドの等価化合物としての下記化学式(2)で表される化合物の使用もまた、本発明の一つである。

【0054】
【化15】
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【実施例】
【0055】
以下に実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0056】
・フェニル-2,3,4-トリ-O-ベンジル-6-O-(N-フェニルカルバモイル)-1-チオ-β-D-グルコピラノシド(6)の合成
【化16】
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【実施例】
【0057】
Angew.Chem.,Int.Ed.,2012,51(36),9152-9155や、Carbohydr.Res.,1972,23(2),195-206に記載された合成手順をもとに得られた、フェニル-2,3,4-トリ-O-ベンジル-1-チオ-β-D-グルコピラノシド(8)501mg(0.924mmol)をピリジン(20mL)に溶解させ、溶液の温度を0℃にした状態で、イソシアン酸フェニル121μL(1.1mmol)を添加し、その後1時間撹拌した。薄層クロマトグラフィー(TLC、展開溶媒;ヘキサン:酢酸エチル=2:1(v/v))にて反応溶液から原料化合物が消失したことを確認し、反応溶液を減圧留去した。得られた固体をヘキサン-酢酸エチルで再結晶して精製することで、無色針状結晶の糖化合物(6)を得た(収量501mg、収率82%)。
得られた糖化合物(6)の各物性値は下記の通りである。
IR(KBr):ν 3369cm-1(NH),1703cm-1(C=O)
H-NMR(600MHz,CDCl):δ(ppm) 7.55-7.06(25H,m),6.55(1H,br,s),4.94,4.87(2H,each d,J=10.8Hz),4.93,4.75(2H,each d,J=10.2Hz),4.85,4.62(2H,each d,J=10.2Hz),4.67(1H,d,J=10.2Hz),4.44(1H,d,J=12.0Hz),4.34(1H,m),3.74(1H,dd,J=9.0Hz,J=9.0Hz),3.57-3.53(2H,m),3.50(1H,dd,J=10.2Hz,J=9.0Hz)
13C-NMR(150MHz,CDCl):δ(ppm) 138.2,137.8,137.5,133.3,132.4,129.1,128.8,128.5,128.5,128.5,128.4,128.3,128.2,127.8,123.5,118.5,87.6,86.7,81.0,77.2,77.1,75.8,75.5,75.0
元素分析:計算値(C4039NOS);C 72.59,H 5.94,N 2.12,実測値;C 72.21,H 5.60,N 1.99
高分解能質量分析(ESI-TOF):計算値(C4039NOS) m/z[M+Na];684.2396,実測値;684.2376
【実施例】
【0058】
[実施例1]
15mLのメタノールに0.1μLの硝酸を加え、その溶液に上記糖化合物(6)を飽和するまで室温にて溶解させた。得られた溶液にNd:YAGの第二高調波(532nm)ナノ秒パルスレーザー光(出力1.5mW)を12時間にわたって照射したところ、溶液中に結晶が析出した。この結晶を濾別し、極少量の例エーテルで洗浄して乾燥させることで、下記化学式(2)で表される2,4,7-トリオキサトリシクロ[3.1.1.03,6]ヘプタン(化合物(2))を得た。
【化17】
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得られた化合物(2)の構造は、H-NMR及び13C-NMR(下記)により確認した。
H-NMR(600MHz,CDCl):δ(ppm) 3.47(3H,d,J=5.4Hz),0.90(1H,q,J=5.4Hz,J=5.4Hz)
13C-NMR(150MHz,CDCl):δ(ppm) 132.4,50.9
【実施例】
【0059】
パルスレーザーの照射による反応前の糖化合物(6)、及び反応後に得られた化合物(2)を含む結晶のH-NMRスペクトル(600MHz,CDCl)のスペクトルを図1~図4に示す。図1は、反応前における糖化合物(6)のH-NMRスペクトルである。図2は、反応前における糖化合物(6)のH-NMRスペクトルを部分拡大したものである。図3は、生成物である化合物(2)の結晶を溶液にしたときのH-NMRスペクトルである。図4は、生成物である化合物(2)の結晶を溶液にしたときのH-NMRスペクトルを部分拡大したものである。
【実施例】
【0060】
生成した化合物(2)の結晶のスペクトルである図3を見ると、反応に用いた糖化合物(6)が極微量含まれていることがわかる。そして、この極微量含まれる糖化合物(6)のスペクトル部分を拡大した図4は、反応前における糖化合物(6)のスペクトルである図1及び図2ときれいに一致した。また、H-NMR測定の結果、濾液中にも糖化合物(6)以外は含まれていなかった。このことから、パルスレーザーの照射による反応の前後において糖化合物(6)は分解をされておらず、この化合物が触媒的な作用をしていることがわかった。
【実施例】
【0061】
[実施例2]
用いるレーザーを青色の可視光領域にブロードしたフェムト秒レーザー(出力30μW)に変更し、照射時間を7時間としたこと以外は実施例1と同様の手順にて実験を行った。その結果、実施例1の場合と同様に、溶液中に化合物(2)の結晶が得られた。照射したレーザーは次の方法で得たものである。まず、チタンサファイヤ再生増幅器(スペクトラ・フィジックス株式会社製、製品名:Spitfire pro)からの出力光(100フェムト秒、800nm、繰り返し周波数1kHz)をビームスプリッターにより2分し、一方を2次の非線形結晶(β-BaB(BBO)、0.4mm、θ=29°)に入射し、得られた第2高調波を励起光とした。他方はサファイア板(2mm)に入射し、3次の非線形光学効果である自己位相変調により周波数帯域を拡げ、発生するフェムト秒白色光(500~750nm)を種光とした。これらの励起光と種光とを非共直線角θ=3.7°で非線形結晶(Type I、BBO、1mm、θ=31.5°)に入射し、広いスペクトル領域で位相整合条件を満たすことにより(非共直線光パラメトリック増幅器)、広い帯域において種光のエネルギーを増幅した。その後、プリズム対とチャープ鏡対、回折格子と可変形鏡を用いて時間的な媒質分散を補償し、5フェムト秒パルスに圧縮した。なお、得られるフェムト秒レーザー光が青色の可視光領域にブロードされたものとなるように、励起光と種光とを非線形結晶に入射させるタイミングを適宜調節した。
【実施例】
【0062】
[実施例3]
励起光と種光とを非線形結晶に入射させるタイミングを調節することにより、用いるレーザーを黄色の可視光領域にブロードさせたフェムト秒レーザー(出力30mW)に変更し、照射時間を15時間としたこと以外は実施例2と同様の手順にて実験を行った。その結果、実施例1の場合と同様に、溶液中に化合物(2)の結晶が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明によれば、安価な1級アルコールを原料として、パルスレーザーの照射という簡便な手法により、安定で化学合成における価値の高い、1分子中に3個のホルミル基(又はケト基)を有する化合物と等価な化合物を得ることができる。このような化合物は、各種の合成用途に用いることができ、試薬として極めて価値の高いものである。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3